【SS】ハロウィン警備ウマ娘

  • 1二次元好きの匿名さん22/11/01(火) 01:38:43

    「ふあぁぁ……あふ……」
     目覚ましの音に合わせて、あくびを一つ。耳を2振り。
     ベッドから抜け出て尻尾を思いっきり5回ほど振るいつものルーチンを終えても、気持ちは晴れない。
     寝付きが悪かったし、眠りも浅かった。
     こんなんじゃ仕事に支障を来す……でも今日だけは絶対に気を抜いちゃいけない。
     いつもそうではあるけれど、今日は特に。

     カーテンを開けると快晴の秋空が広がっていた。
     こんな日は足が疼くしお腹も減る。
     天高くウマ娘肥ゆる秋とはよく言ったもので、私達ウマ娘にとっては体も胃腸も調子がいい時期なのだ。
     でも、そんな素敵な日なのに。私の気分は曇天のままで。

    「特別警備、行かなきゃなあ……」
     私は小さなつぶやきは、ちょうど炊きあがった炊飯器の軽快なメロディにかき消された。

  • 2二次元好きの匿名さん22/11/01(火) 01:38:59

    「えー、繁華街の方ですが今のところ目立ったトラブルは起きていないです。ただ学校帰りの学生が増えているのが目立ちますね。仮装して参加という積極的な子供も見られますが、何をするわけでもなくたむろしている、ということが多いようです。目を配っておいてください」
    「「「はい」」」
     引き継ぎの話を聞きながら、私を含め警備交代要員は返事をする。
    「ご存知の通り、一昨年は夜半頃に持ち込まれた車がひっくり返されるといった事件が起きました。バイクや改造車に乗った暴走族や彼ら周辺の人物には注意をしてください」
    「「「はい」」」

    「それから……例年来ている件のウマ娘バイク集団も来るかもしれません。彼女たちが来た場合は、ウマ娘が率先的に対応できるような配置換えをします。連絡を密に取ることを忘れないでください」
    「「はい」」「……はい」
     思わず返事が遅れた。
     ……ああ、また来るのか。来ないで欲しい。本当に。本気で。

    「ウォールキーパーさん、大丈夫ですか?」
     返事が遅れたのが目立ったのか、声を掛けられる。
    「はい。大丈夫です。ご存知かもしれませんが、知り合いがあの集団にいるので……それが心配で」
    「なにか連絡などはありましたか?」
    「特にありません」
     本当になかった。あっても困っただろう。

    「そうですか。何かありましたら共有をお願いします」
    「了解しました」
     私はなるべく背筋を貼って、ビシッと見えるように答える。

    「それではよろしくお願いします」
    「「「よろしくお願いします!!」」」
    そして私たち、ウマ娘警察官は敬礼をしてペアを組み、東京の繁華街へと繰り出していった。

  • 3二次元好きの匿名さん22/11/01(火) 01:39:39

    「うっす、キーパ姉さん。おひさっすー」
    「……バイクを肩の上に乗せて運ぶのは、危険です。道に下ろして手で押して運んでください」
     一番会いたくない集団とは、深夜0時になる直前に出会ってしまった。

     ウマ娘暴走族集団「重影(オモイカゲ)」のサブリーダーとされるウマ娘が、ニヤニヤと笑って私に声を掛けてきたのだ。
     暴走ウマ娘というと道交法を違反するような走り方をするウマ娘や集団のことだけど、この「重影」はバイクに乗る暴走族なウマ娘という、少し変わり者の集団だった。

    「ったく、つれないなあ姉さんは。なあ、これだからウマポリってのはよお」
     全く今風でない言い回しを無理に使ってるのを、周りの着飾った不良ウマ娘たちがニヤニヤと笑う。
     ……全員が改造バイクを、担ぎながら。

     ハロウィンの最中、暴走族ウマ娘が自慢の改造バイクを担いで繁華街を練り歩く。
     そんな珍妙奇天烈な行動が始まったのは確か4年ほど前のことだ。

     騒音を鳴らしながら道交法を無視した走行をするのはともかく、バイクを担いで歩くこと自体は犯罪じゃない。
     普通のヒトならできないけれど……ウマ娘なら可能だ。
     最初は「改造バイク担いでる仮装ウマ娘がいるwww」みたいな笑いものだったのに、今ではそれを見物しに来る人がいるくらいSNSなどで人気になっていた。
     私たち警察にとっては、頭の痛い問題だ。

    「いやー、このバイク見てくださいよ、ここ。チェーンにヒビが入っちゃってて。このまま押して歩くのも危ないですしー? 仕方なく持ってるんですって。なあ?」
     白々しいことを言いながら、面々はバイクを担いで歩く。
     中には高くかげたり、剛力を示さんばかりに片手で持って見せて周囲の群衆を沸かせた。
     ああ……同じウマ娘として恥ずかしくてしょうがない。

     バイクを担いで歩いているだけとはいえ、危険がないわけじゃない。
     去年は酔っ払ったウマ娘がバイクを振り回してみせたり、その挙げ句落としたり、危うく怪我人が出るところだったのだ。

     暴れるウマ娘を止められるのはウマ娘しかいない、というわけじゃないけれど。そのためには多くの警官が必要になる。
     ウマ娘が暴れそうなところにはウマ娘警官を、というのは当たり前の結論だろう。
     この恥さらしな連中を見るのが嫌でしょうがないのは、個人的な事情として飲み込むしかない。

  • 4二次元好きの匿名さん22/11/01(火) 01:40:00

    「なーにしけた面してるんスか? せっかくのハロウィンナイトだしもっとパーッとはしゃがなきゃ」
    「ウマポリもあのDJ警官みたいにやってくださいよー」
     ああ、煩わしい。こんな彼女たちの相手をするのが。

    「公共の場で、騒がないでください」
     感情を抑えて彼女たちと並んで歩く。
     歩くこと。それにフラストレーションが溜まる。

     ……昔みたいに、走りたい。
     学園にいた頃みたいに、頭を走ることだけにいっぱいにして。
     この子達だってその足で走ればいいのに。優劣はあれど、その快感はわかるはずなのに。

     少なくとも、あの子は。
     ……それがわかってたはずなのに。

    「はぁ、つまんねー」
     サブリーダーのウマ娘がい放つ。
     つまらないのは、私の方だ。
     そんな挑発することは言えないので私はその言葉をグッと飲み込んだ。

  • 5二次元好きの匿名さん22/11/01(火) 01:40:38

     渋谷のスクランブル交差点が近づく。
     喧騒が高まっていき、スマホを構える人たちが増えていく。

    「……あなた達のリーダーはどうしたの?」
     今にも何かが起こりそうな予感を覚えて、私はサブリーダーに声を掛けた。
    「オレがリーダーだよ」
     サブリーダーのウマ娘が答える。

    「ディスファイヤ……さんは?」
     かつての後輩の名前を恐る恐る口にした。
    「ファイヤ姐さんは引退したっすよ。バイクで転けて。ダサすぎるからもう辞めるって」「今何してんだろ」「さー?」
    「!……」
     知らなかった。あの子が怪我をしていたなんて。
     怪我で引退したあの子が、また怪我を……。
    「あー、別に大怪我じゃないっすよ。ただ立ちごけしてちょっとバイクの下敷きになっただけとか」
    「……そう」

     安心した瞬間、集団の誰かが警備員の隙間を縫って、スクランブル交差点の真ん中に歩みだそうとする。
     その前に駆け寄って立ちふさがった。
    「歩行者の方は、車道の中に入らないでください。横断歩道の上の歩行をお願いします」
    「へいへーい」
     まったく。油断も隙もない奴らだ。

  • 6二次元好きの匿名さん22/11/01(火) 01:41:08

     集団がスクランブル交差点周囲を律儀に信号待ちしながら練り歩いて行く。
     通行人がスマホを構える。マスコミがカメラを回しているのが見える。
     ああいった映像が呼び水になったりするのだ。辞めて欲しい。
     だけど今の時代、それを止めるのは難しい。

     1周、2周……周囲に気を配りながら彼女たちの隣を歩いてる途中。
     群衆の中に孤高に佇む、鮮烈な赤色が目に入った。

     目にした回数は数えるほどしかない。
     でもそれを着た彼女の恥ずかしそうな、嬉しそうな顔は忘れられるものじゃない。

     そしてその可愛かった顔が。
     ニヒルに歪んで……軌跡を描いて高速で流れていく。
     まだ車が走っているスクランブル交差点の真ん中を、車を縫うように。

    「!!……すみません! ここ、お願いします! 暴走ウマ娘が出ました!」
    「はい! 応援呼びます!」
     同僚に声を掛けて、私は彼女を追って走り出した。



    「止まりなさい!」
    「ハッ! 止めてみな!」
     赤いマフラーたなびいて、私の前を逃げていく。
     かつて彼女が着るはずだった勝負服。結局晴れ舞台で……重賞の舞台で着ることの出来なかった赤い燃えるような勝負服が炎のように揺らめいて。
     私の視界から遠ざかろうとする。

     ディスファイヤ。彼女は天性の逃げウマ娘だった。
     私の自慢の後輩で……スタート、そこからの加速力で私が勝てたことは一回もなかった。

  • 7二次元好きの匿名さん22/11/01(火) 01:41:29

    「バイクはどうしたの!」
    「やめだ! やめ! ダッセエ転け方したしよ! やっぱ走るなら自分の足でだよなあ!」
     追い抜かれた車がクラクションを鳴らす。
     信号待ちの車の壁を縫うように走る赤い姿を、決して視界から外さないように、走り続ける。
     胸元のスイッチを入れて、制服の背中に仕込まれた赤色灯が点滅を始める。
     同時にサイレンも鳴り始めた。うるさい。耳を塞ぎたくなるくらいうるさい。
     でもそれに集中力を削がれないように、目の前の赤を逃さないように全神経を集中させる。

     暴走ウマ娘を一人で安全に止めるのは難しい。やるなら複数人で追い込むしかない。
     あるいは、転ばせるか。その場合暴走ウマ娘は大きな怪我を負うことがあったけど……交通被害が拡大するようならそれが許可されていた。

    「止まりなさい!」
    「止めてみなよ! キーパ先輩!」
     真っ赤な勝負服が街を駆けるのを見て、無節操な歓声が上がるのが聞こえる。
     カッコイイ。それは認めざるをえない。
     この子はカッコよかった。ファンも多かった。
     重賞に出ることすら出来なかった私よりも遥かに速くて、強くて。一生勝てないと思ってた。
     可愛くて強いファイヤは……私にとっての最高のウマ娘で、ヒロインだった。

  • 8二次元好きの匿名さん22/11/01(火) 01:41:46

     でも……。
    「警官なめんな!」
     おそらく1600m、マイルも走ってないうちに私は彼女の勝負服を掴んだ。
     ビリビリと音を立てて、この世に数着しかないそれが引きちぎれていく。

    「クッ……!」
     ファイヤの足の勢いが緩む。その瞬間を逃さず彼女に抱きつく……タックルするように彼女をアスファルトに押し倒す。
     倒れる瞬間に背中を後ろに。走ってる最中の耐ショック体勢……何度も講習でやったことだ。

     ズリズリという音がして、プロテクター入りの丈夫な制服が傷ついていくのがわかる。当然だ。たぶん時速30kmは出てたはず。無事じゃ済まない。
     でも……時速30kmしか出てないのだ。
     私たちが現役の時は、その倍の速度は出してたのに。
     ……出せてたのに。

    「……警官、なめんな。あんたみたいな半端なウマ娘と違ってね、鍛えてんのよ。毎日。レースから引退した後も」
    「クソがっ!」
     汚い言葉を吐く後輩を、羽交い締めにする。
     気づけば体が勝手に動いて、彼女を完全に固定していた。
     そして衝撃で少し歪んでいた手錠を……掛ける。
     本気を出したウマ娘にはそれほど効果がないと言われているそれを。

    「走るなら、もっと真面目に走りなさい」
    「……クソが……クソがよ……」
     彼女の口からは、それしか出てこなかった。

  • 9二次元好きの匿名さん22/11/01(火) 01:42:50

    「酒気は検出されなかったよ」
    「そうですか」
     体のあちこちが痛い。
     最寄りの交番で手当を受けながら、私は報告を聞いて私は少しだけホッとした。
     ウマ娘の酒気帯びでの暴走は罪が重くなる。少なくともお酒を飲んで走るほど堕ちてはいなかった。それは良かったけれど……虚しさは消えない。

    「初犯だし大したことにはならないと思うけど。まあ、気を落とさずにね。今日はもう帰ってもいいって」
     同僚の言葉に私は頷く。
     といっても素直に帰るわけにもいかない。覚えている間に報告書を書かないと面倒なことになる。
     後で清書することにして、メモ書き程度に書き留めておく。

     それを書き終わって交番の外に出た時。
     ウマ娘専用の拘束具をはめられて、パトカーに乗せられるファイヤに出くわした。

    「……キーパ先輩。すみませんでした」
     まるで憑き物が落ちたかのような吹っ切れた顔をした後輩が声を掛けてくる。
     私はあっけに取られて、声が出なかった。
    「今度……真面目な走り方、教えてください」
     そう言って彼女はパトカーに乗せられて。
     私から遠ざかっていった。

  • 10二次元好きの匿名さん22/11/01(火) 01:43:06

     私はポケットに手を入れる。
     引きちぎったファイヤの赤い勝負服。彼女の夢の残滓を。
     暴走したファイヤを別の同僚に引き渡すまで握りしめていたジッと眺めて、再びポケットに仕舞う。

    「……返せる日、待ってるから」
     更生というのは楽な道ではない。何度も躓くかもしれない。
     でも、私の仕事は……それを信じて待つ以外ないのだ。

    「待ってるから」
     届かない声を、私はまだ喧騒の残る街に独り、こぼした。

  • 11二次元好きの匿名さん22/11/01(火) 01:43:46

    おしまい

    ハロウィンの渋谷ライブカメラを見てて思いついたので書きました

  • 12二次元好きの匿名さん22/11/01(火) 01:48:00

    誰かが見てくれるって良いなあ

  • 13二次元好きの匿名さん22/11/01(火) 01:50:57

    めちゃくちゃよかったっす…

  • 14二次元好きの匿名さん22/11/01(火) 07:48:37

    いいものを読めた
    警官ウマ娘いいよね…

  • 15二次元好きの匿名さん22/11/01(火) 11:25:41

    素敵なSSごちそうさまでした

  • 16二次元好きの匿名さん22/11/01(火) 11:36:25

    第X機動隊騎バ隊ルートも書いて欲しいです

  • 17二次元好きの匿名さん22/11/01(火) 12:47:23

    感想たくさんありがとうございます!
    読み直したらいくつか誤字脱字が……。

  • 18二次元好きの匿名さん22/11/02(水) 00:17:04

    公務員ウマ娘概念はもっと増えるべき

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