- 1121/10/29(金) 23:10:28
題名通りエイシンフラッシュと♂トレーナーさんが卒業後に同棲しながらイチャイチャするお話しと彼女たちを取り巻く方々のお話しです。
希にルドルフ×トレーナー、マルゼンスキー×トレーナーなどもあったりします。
以下過去スレです。
part1
お久しぶりです、トレーナーさん|あにまん掲示板「ああ、久しぶり、フラッシュ。…そんな風に君に呼ばれるのも、本当、懐かしいな」 トレーナーと呼ばれた男は眩しそうに目の前の妙齢のウマ娘をみる。フラッシュと呼ばれた女性は、懐かしむように目の前の男と視線…bbs.animanch.compart2
[SS]卒業後フラッシュとトレーナーさん|あにまん掲示板気がついたら完走してしまったようなので前作https://bbs.animanch.com/board/75583/同じかんじでフラッシュとトレーナーのイチャイチャ話を思いつき次第投下予定。ただ前回ほ…bbs.animanch.compart3
【SS】卒業後の再会を経てイチャイチャするエイシンフラッシュとトレーナーさんand more 【part3】|あにまん掲示板ありがとう。皆さんと駄弁りながらだけどパート2も完走できたみたいです。このスレは引退の時に思いを伝え損ねたけど、再会後に同棲することでトレーナーさんと燃え上がってしまったエイシンフラッシュさんアンドモ…bbs.animanch.com - 2二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 23:12:20
新スレじゃねーか!?
やったぜ!!! - 3121/10/29(金) 23:23:41
主な登場人物
・エイシンフラッシュ
メインヒロイン。別離の一年半の反動でトレーナーさんとの蜜月をたっぷり味わっている。一時期へたれていたが関係を確固たるものにしてからは押しがち。
・トレーナーさん
エイシンフラッシュのトレーナーさん。一番の果報者。エイシンフラッシュとの時間を今は一番大事にしている。現役時代に比べるとかなり弱い。
・チーフ
ルドルフのトレーナー。フラッシュのトレーナーさんの上長みたいなかんじ。世話焼きな一面もあったりなかったり。
・シンボリルドルフ
カイチョー。カリスマっぷりは健在。こっちもちょっと二人に気を回していたりする。元生徒会のメンバーとかフラッシュとかのパートナーとの蜜月っぷりを羨ましく思っている。
・マルゼンスキー
チャンネー。グンバツのスタイルを誇る、ルドルフとは別の意味でカリスマを誇るが引退済み。水着欲しい。 - 4二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 23:35:28
part4助かる
- 5121/10/29(金) 23:40:10
というわけで新スレ1発目はタイトルに偽りありなかんじですが、フラッシュのトレーナーさんのお話。
時間軸としては同棲前の話になります。これもタイトルに偽りありやんけ!
フラッシュ引退後、かつまだトレセン在籍時のお話となります。 - 6別離の前の猶予の話(フラトレ)21/10/30(土) 00:08:06
暇というわけではない。やるべきことはいくらでもある。が、一つの習慣が消し飛ぶというのはどうしても手持無沙汰に感じてしまうものである。エイシンフラッシュのトレーナー…いや、引退式を経ている以上、元トレーナーと呼ぶのが相応しいのかもしれない彼のここ最近一か月の休日は解放されている。
ここトレセン学園で初めて専属担当トレーナーとしてエイシンフラッシュとともにあった時は、休日を彼女の為にあわせたりしたものである。存外多趣味な彼女に付き合うのは苦痛ではなかった。そもそも担当バとのコミュニケーションを厭うようではトレーナー、特に専属トレーナーという立場が辛いものになってしまうのはあるのだが。ただ、他のトレーナーからマメとか仲が良いとか言われるということは、他トレーナーに比べてもそういう機会が多いにも関わらず彼女とのお出かけは楽しめるものだったということが言えるのだろう。
思い返してみればあの引退式の後、トレーナー室で4年間の思い出を語りあかして彼女に4年の感謝を告げてから、彼女と学園で顔を合わせることもなかった。一か月前までは毎日のように顔を合わせていたというのが今では少し不思議に感じられてしまう。瞼を閉じれば彼女との鮮烈な数々の思い出が浮かんでは消えるが、来月には彼女はドイツに帰るのである。新たな門出に向かう担当バに対してトレーナーとして未練ったらしいところは見せられないな、などと思う。
どこかへ出かけるか、と思うものの、この場合も思い浮かぶのがエイシンフラッシュと回ったケーキ店や洋菓子店、古書肆や遊園地、旅館などが思い浮かんでしまう。頭を振って思い浮かんだものを選択肢から外す。ふと押し入れに目をやったとき、一つのバッグが目に入る。
「そういえばずっと足を運んでいなかったかな」
バッグのファスナーを下して木製の蛇腹のついた楽器を外に出す。持ち運びはしていないが、ちょくちょく調子を確認する為に弾いてはいたので音が出ないとかそういう心配はなさそうである。時計に目をやりつつ久方ぶりの誰の計画にもないお出かけの算段を巡らせるトレーナーなのであった。 - 7別離の前の猶予の話221/10/30(土) 00:27:04
ちょっと繁華街から外れたビルの地下に足を運ぶと、フィドルの音が耳をくすぐる。その音に導かれるように、彼はドアを開ける。カフェとパブの中間のような雰囲気の店。ケルトにまつわるインテリアで飾られたちょっと古風なその店で、恰幅のいい紳士がカウンターからいらっしゃい、と声をかけてくる。顔をほころばせた彼はお久りぶりです、と軽く挨拶した後、思い思いの楽器をかかえた人たちが囲むテーブルから1つ離れたテーブルの椅子に腰かける。蝶を題名とした軽快かつ味わい深い曲に聞き耳を立てる。メニューに目を通せば以前のようにダージリンを頼もうかと悩むが、気分をかえにきたという面もある。
「ギネスを1つ」
彼があまり酒を頼まないという認識のあったマスターは驚いたが、パブの定番ともいえる黒ビールをすぐに提供してくれた。楽器を弾くテーブルの常連たちと乾杯をすませても、一気にあおることはなく、ちびちびとギネスの味を堪能する。酒の種類にかかわらず、彼はこうしてしまう癖ではある。バウロンの音にリズムをとりながら手持ちの本に目を通す。無為といえば無為だが、贅沢な時間を過ごすつもりでいた彼に一つの誤算があった。
「ありゃ、先輩じゃん。久しぶり」
さっぱりした若い女の声に、フラッシュのトレーナーは眉を少しひそめる。
「全然久しぶりじゃないよ。そもそも職場一緒だろう」
そうだけどさ、なんていいつつ断りもなく彼の対面に腰かけるジーンズのショートの栗色の髪が印象的な女性は、背負っていたギターケースを置いてこちらもギネスで、とマスターに声をかける。彼女はフラッシュのトレーナーの後輩にあたる女性である。 - 8別離の前の猶予の話321/10/30(土) 00:58:24
「いやぁ、でもそんな声かけることもなかったから先輩に。先輩はフラッシュちゃんから解放されたからあれだけど、私はまだ彼女と一緒だからね」
専属トレーナーとなると、他職員やトレーナー相手よりは担当バとの時間が長くなるため交流が深いとはいいがたいところはある。
「っていうか前に声かけたのいつだっけ。フラッシュちゃんの引退式の翌日?」
「やっぱりついこの間のことじゃないか」
「いや、もう結構経ってるって。一か月くらい?」
そういわれると結構経っているかもしれない。
「っていうかトレセンのことはおいておいて、ここで会うのがってこと」
「まぁそりゃほとんど来てないからね」
「フラッシュちゃんと仲良かったもんね。ホント。休日しょっちゅう彼女と一緒だったからそりゃそっか」
こちらにもギネスが運ばれるとグラスを高くかかげられる。
「乾杯!」
こちらも乾杯をすると、彼女のほうはぐいっと一気に黒ビールをあおる。実に美味そうに飲む点については見習いたい半分というところである。これほどではないにしろ、ドイツでのフラッシュも意外に豪胆だったな、と思い返す。フラッシュ離れのつもりなのに思い返してしまうのに苦笑するが、多少はやむを得ないとは思う。
「そういえばフラッシュちゃんは連れて来たことないんだっけ」
「いや未成年だし」
「別に昼ならカフェみたいなもんだし問題なくない?…っていうかあれか、どっちかっていうと先輩は結構尽くすタイプみたいだったね。フラッシュちゃんに付き合っていろんなとこいってるってかんじだったね」 - 9別離の前の猶予の話421/10/30(土) 00:58:46
「まぁね。っていうか君のとこも連れまわされてるって言ってたじゃないか」
ナッツをつまみながらそれはそうだけど、なんて言う彼女はどこか嬉しそうだ。それが少しだけ羨ましく見える。
「あの子、食べ歩きが大好きだからね。お友達とも一緒によく言ってるみたいだけど、私の場合ちょっと冒険的なのに付き合わされることも多くって」
「そうか。なんかそういうの懐かしいな」
思い出にふけってしまうのが止められないのはよくないが、やむからぬことである。
「でもさ、ちょっと意外かな。先輩」
「ん?何が?」
「久々に来たってことは、手持無沙汰かなんかでしょ」
はっきりとそう後輩に言われると妙にむっときてしまうが、事実なので言い返せない。肘を立てて行儀悪くナッツをつまむ彼女は、少し酔いの回った目で告げた。
「いやだってさ、引退したあと、もっと先輩とフラッシュちゃんベタベタすんのかな、なんて思ってたし」
「……何故?」
「いや、何故も何もないと思うんだけど…まぁいっか」
あきらめたような口調で言いかけたことをやめる彼女。ギターケースをあけると、また後でねと勝手に告げて、ギターを抱えて楽器を奏でる輪に入っていった。ちょっと苦手な後輩だが、彼女の奏でる音は若干激しいきらいもあるが好きである。テンションを増したその曲のリズムを足でとりつつ、トレーナーはグラスをわずかに傾けた。 - 10121/10/30(土) 00:59:53
というわけで本日はここまで!
一気にかきあげれなかったですが、過去スレともどもよろしくお願いいたします。 - 11二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 01:28:58
このレスは削除されています
- 12二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 01:30:57
疲れた体に沁みる沁みる
ギネス飲んでみるか… - 13二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 01:31:44
このレスは削除されています
- 14二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 05:53:39
あぁ、いいな…
- 15二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 08:44:05
ギネスと同じドライな話いいゾォ
ケルト音楽聴きながら酒あおりてぇなー俺もなぁ - 16二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 17:10:35
まだクソボケモードなフラトレだ…
- 17二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 20:33:28
part4助かる
- 18121/10/30(土) 20:41:51
- 19別離の前の猶予の話521/10/30(土) 21:06:17
ダンサブルなジグとリールに耳を傾けているうち、グラスを数度空にしてしまった。この自堕落さを見れば彼女は自分を叱るだろうなと思う。指を立てて眉を顰め、いけませんとこちらに忠告する彼女の姿がありありと浮かぶのは、四年の関係の厚さ故だろう。
「珍しい、結構飲んでるみたいだね」
「ん……」
水を差しだす後輩にありがとう、と言葉を返す。にかっとはにかむ彼女の笑顔がなんとなく直視しづらい。冷たい水が喉を刺激するとふわっとした心地が少し落ち着いたものになる。
「ま、先輩のことだから酒に溺れるってとこまではいかなさそうだけど」
「当たり前だろ。トレーナーがそんなことになってちゃ示しつかないし」
つまみのソーセージを分け合いながら、空間に身を委ねる。胡椒が強めだが今の自分にはこれくらいのほうがいい。
「ちょっとお別れの準備入ってる?ひょっとして」
「……まぁね」
「そっか。私は先輩みたいに長い付き合いの担当バいないからあれだけど。あ、でも今の彼女とはちょっと長くなりそうかな、なんて思ってる。こればっかりはわかんないけどね」
「直感もたまには当てになるようなこともあるよ」
ふっと後輩の浮かべた笑みが意地の悪いものになる。
「先輩以前言っていたものね、フラッシュちゃんとは一目惚れだったって」
「ああ、あの走りに惚れて、彼女の将来がふと見えた気がして…。本当に運命だったんだなって今でも思ってる」
そう、あの時、彼女の未来を見た気がして、秋天でそれに追いついた気がして、有馬でその先を見て、決心した四年目でついにあの時見たものの完成形に至ったと確信して、彼女の引退を見届けることができた。
「……すごいこと言うよね先輩。私だったら引いてたかも」
「五月蠅い」
そう言われると気恥ずかしいことを口にしていた気もする。あらためて指摘されたことがないから今まで気にもしていなかったが。
「まぁでも、本当に運命だったんだろうね。引退式で二人とも悔いがないって言ってるの聞いて、心からの本音だと見ているこっちも思えたくらいなんだもん。うらやましい」
「じゃあファインさんをそう思えるくらいに導けばいいさ」
「簡単に言ってくれるんだから。ホント」
そういう彼女の瞳に、ほんのすこしだけ闘志の炎が垣間見えた気がした。 - 20別離の前の猶予の話621/10/30(土) 21:17:22
「そういえばさ、引退してからどれくらい顔を合わせてるの?フラッシュちゃんと」
「いや、一度も」
「え?一度も?なんで?」
声を少し張り上げる後輩。身を乗り出してくるのに合わせてフラッシュのトレーナーは少し後ろに席を下げる。
「引退式前に一通りの準備は済ませているからね。引退後に慌ててお互いやりとりしないといけないことは何もないよ」
「しっかりしてるんだ。二人とも」
「ああ、フラッシュのしっかりしているところには本当に助けられていたからね。トレーナーとして最後も面倒はかけないようにしないとって気が引き締まったよ」
「……ふぅん?でも、一度も、ね」
それはちょっと寂しいね、などと呟く彼女。フラッシュのトレーナー自体にもまったくそういう気分がないわけではないが、その言葉を彼は否定する。
「トレセン学園に居るのも、というか、日本に居るのもあと僅かなんだ。一緒にずっと走ってきたようなものだとは思っているけど、引退後くらいは俺に縛られず友人たちとの時間や、自分の楽しみに使ってほしいと思っているよ」
フラッシュは多少気難しい面もあるが、生来の素直さから多くの友人たちに愛されている。異国の地で友に恵まれるということがいかに彼女にとって救いになったかは言葉では言い尽くせないほどであろう。トゥインクルシリーズを駆け抜ける面でも、特にルームメイトのスマートファルコンには助けられたという思いがある。彼女と彼女のトレーナーには礼をいくらいっても言い足りないくらいである。 - 21別離の前の猶予の話721/10/30(土) 21:32:53
「引退してさ、彼女が何かをため込んでいるってことはない?そうだったら、先輩がちゃんとケアしてあげないといけないよ?」
「いや、それはないよ」
断言する彼の言葉をソーセージを咀嚼しながら伺う彼女。なんで?と口にはしないけど問いかけてくる。
「彼女は、エイシンフラッシュは楚々として淑女として控えめに見える面もあるけれど、強い子だ。凛としたところがあって女性人気も高いだろ?」
「ん、まぁね。私もちょっと惚れちゃいそうになるところもあるもん」
さらりとした言葉にむせそうになるが、それを抑えてフラッシュのトレーナーは咳払いする。
「……ともかく、思いはしっかりと口にするタイプの子だ。もちろん迷うことは幾度もあったけど、そういうのはしっかり態度にも出してくる。抱え込んでるなら抱え込んでるっていうのがわかりやすい子なんだよ。フラッシュの方から俺に言いたいことがあるなら、なんなら俺の首根っこ引っこ抜いてでも聞いてくれって言いにくるレベルだよ」
「なるほど?」
少々誇張気味に言ってしまったかとも思う。目の前の後輩は首をかしげている。
「サプライズとかそういう意図的に隠したいことがある場合だったら別だけれど。ああ、でもただ一つあれだけは……」
有馬の前、予定のスケジュールを遂行するか、走ることを続けるか。そこに揺れているということは見抜けなかったか。あの時は自分の我欲──もっとフラッシュが走る姿をみたいという我儘な気持ちに自分が振り回されて、彼女のその部分を見逃してしまっていたのかもしれない。
でも、今回は間違いなく自分もフラッシュも納得してのピリオドだったことには間違いがない。これでもし本当は彼女が少しでも走りたい、悔いがあると思っていたのなら自分はとんでもない何も見えていない男になるが、そうではないというのは自惚れてもいい点だと思っている。 - 22別離の前の猶予の話821/10/30(土) 21:53:05
でもさぁ、と空になったグラスを少しふりつつ、酒に酔ったのか後輩はくだを巻く。
「そういうさ、レースとか離れたところで色々あるかもしれないじゃない?」
少し遠くを見る彼女に首をかしげるフラッシュのトレーナー。
「……例えば?」
「例えば、ほれ、今後とも永くお付き合いをっていうヤツ?」
真面目に聞き返されたので後輩も少々照れ臭そうにする。
「ああ、成程。そういうケースもあるとは聞くけれど」
有名どころでもマルゼンスキーは引退式でトレーナーが告白して結ばれたなんていうケースは知ってはいる。そうでなくても、元トレーナーと担当バで結ばれるというケースもそこそこはあるらしい、というのは聞いたことはある。
「そういうのはないと思う」
「…本当?傍目から見ると随分親密に見えたよ?」
「知ってる。というか、たまに茶化されたりはしたしね」
愛情ははっきりあるし、それは彼女からも感じた、とその点ははっきり前置きした。担当トレーナーへの親愛の情を注いでもらったし、精一杯それに応えようと努めてきたのもまた確かである。
「確か前にドイツの帰省に同伴したっていってたよね」
「ああ、トレーナーとして挨拶をさせていただいたよ。改めて。二回ほど日本でもお会いしていたけど、素敵なご両親だった。申し訳ないくらいに歓迎してもらったよ」
URAファイナルズを終えた後にドイツに向かったことも、今や懐かしい。フラッシュの両親の歓待とフラッシュの案内により、充実した海外旅行を経験させてもらった。確かにレース以外の面でも彼女から与えられたものは大小関わらず多彩である。その点にこちらが応えられたかはわからないが、彼女の笑顔が答えだということにしておきたい。彼女が楽しいと思ってくれるから誘ってくれたのだろう。 - 23別離の前の猶予の話921/10/30(土) 22:26:22
バラードが耳をくすぐる。ダンサブルな音楽が好まれるセッションでは珍しい分、つい聞き耳を立てる。しっとりとした竪琴の弦を指で弾く音が心地よい。
納得がいっていないのがぐちぐちと続ける後輩。フラッシュのトレーナーは少し呆れる。
「いや、でも俺らだって学生時代にゼミから離れて疎遠になるとかはあったろ?そんなかんじだよ」
「わからんでもないけど、なんかムカつく」
「なんで!?」
じゃあ万が一、とフラッシュのトレーナーの鼻先を指で押さえて、座った目で尋ねる。
「もし、万が一だよ?フラッシュちゃんがそういう意味で先輩のこと好きっていったら、どうするの?」
あり得ない仮定だ、と思いつつも、存外真剣そうな顔もするのでifに想いを馳せてみる。
「……宥めると思う。どうしても専任トレーナーっていう関係で、距離が近いことで自分の想いを勘違いしてしまうこともあるだろうし」
「オトナな返答」
「いや、俺たち大人だろう」
至極詰まらなそうな顔をする彼女に思わず突っ込む。それじゃあ、ともう一つ仮定を挟む彼女。
「トレセン学園を出てからそう言われたら?」
少し間があったが、フラッシュのトレーナーの回答は同じである。更にもう一つ仮定を挟む。
「じゃ、そこからしっかりフラッシュちゃんが考え直して彼女の考えが変わらなかったら?」
酔いが回った後輩に対してはぁ、と大きくため息をつく。
「無理にそういう風に持っていきすぎだろ。そういうパターンがないとは言わないけど、俺とフラッシュはそうじゃないっていうだけのことだよ」 - 24別離の前の猶予の話1021/10/30(土) 22:37:16
「知ったような顔しちゃって。恋愛したことないのに?」
どこか挑発的なその顔に対して思わず言い返す。
「あるよ。恋愛なら」
この答えにも後輩は鼻で笑って返す。
「ホント?フラッシュちゃんの走りに、禁止ね」
ちっと舌打ちしつつも、しぶしぶ一言付け加える。
「……それ以外にもあるよ。昔のことだけど」
信じられないような目をして後輩が彼をにらみつける。
「聞かせて」
「断る」
「聞かせて」
無限ループに陥りかけた時、朗らかな声がそれを打ち破る。
「トレーナー、お待たせ!」
ぎゅっと後輩を後ろから抱きしめるのは、彼女の担当バであるファインモーションである。アイルランドの貴顕と聞いたことがあるが、何故か町娘風の装束を身にまとっている。ふわっとしたスカートは確かに彼女の雰囲気にはあっているが。
「っと、ファイン、もうこんな時間なんだ」
酔いがさめたように愛バに向き合う彼女。ファインモーションにじゃれつかれる彼女を見て、どうしても自分のちょっと昔が懐かしくなる。ファインが来るとセッションをしていたメンバーも彼女を歓迎する。
「って、おい、なんで担当バを連れてきてるんだ?」
「いや、別にまだこの時間なら悪くないでしょ」
「酔態を担当に見せるのはいけないだろ」
細かい細かい、とギターを抱えた彼女は弦をかき鳴らす。
「やっぱり先輩も色々言葉にできないもの溜まってるんじゃない?弾いていきなよ」
「お前なぁ……」
ギターをかき鳴らしはじめると、そのフレーズに合わせて皆が曲を察してリズムを合わせはじめる。やりとりを聞いていたせいか、皆が自分を待っているようであった。ため息をつきつつも、彼女の提案に乗って小ぶりな蛇腹楽器を手に取る。コンサーティナの音色を重ね始めると、後輩の担当バはリズムを刻みながら高らかに歌い上げる。流民をうたった歌、raggle taggle gypsy――異郷のウマ娘の柔らかな声に、藹々とした人々の歌がつながれていく。蛇腹を開きながら、彼も同じように声を重ねた。 - 25121/10/30(土) 22:45:05
了!
っていうか思ったより長くなってしまいました。
フラッシュ分補給はちょっとまってください。
一応メモ
・フラッシュの勝負下着まで着ていったけど特にイベント起きなかった映画回
・後輩に誘われてまた行かない?と言われたのでフラッシュと一緒に行くことになる回
・ルドトレの家にお邪魔する回(フラッシュとトレーナーさんがイチャイチャすることでルドルフに火をつけてしまう回)
・昔、恋心がイマイチなんなのかわかんなかったけど自覚してこれが恋心かーってワクワクしたときを回想するルドルフ回 - 26二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 22:54:02
なるほどアイルランド繋がりでインモー出演かー
シャカールもこの先出てくるかな? - 27121/10/30(土) 23:45:34
- 28二次元好きの匿名さん21/10/31(日) 02:49:56
ビール苦手だけどギネスは丁度いい苦さで飲みやすかった
ファル子がいなかったらフラッシュの担当になれてたかな...
少なくともあんなにスムーズにはいかなかっただろうなって - 29121/10/31(日) 08:04:32
- 30二次元好きの匿名さん21/10/31(日) 08:11:20
相変わらずいい…しかしメモの勝負下着はどういうことだ気になって仕方ないぞ
- 31二次元好きの匿名さん21/10/31(日) 08:20:45
もしかして洗濯物回の時の?
- 32121/10/31(日) 10:14:04
- 33二次元好きの匿名さん21/10/31(日) 10:23:33
かーっ!かーっ!たまんない!
- 34二次元好きの匿名さん21/10/31(日) 11:26:27
- 35121/10/31(日) 13:10:27
- 36別離の前の閃光121/10/31(日) 13:30:12
窓を開けて外の少し冷たい空気を部屋の中に入れる。この学園にいる間、寮の自室と教室を除けばこのトレーナー室にいた時間がもっとも長くなるだろう。4年間を駆け抜けたエイシンフラッシュは休日を除き、ほぼ毎日のようにこのトレーナー室に足を運び、この部屋の主とともに研鑽をつんだり、親交を深めたりした。いつも彼が出迎えてくれたこの部屋で、フラッシュは一人、彼がいつも腰かけている位置の対面の椅子に腰かける。そこで何をするでもなくじっとしている。
自分の私物は引退式前にとうに寮の部屋にまとめてしまってある。彼とともにいろんなことを書き連ねたホワイトボードも新品同様真っ白になっている。目標や分析を示した印刷物も仕舞われており、自分の居た痕跡というものがなくなってしまっている。それをどうしようもなく寂しく思う自分がいることに自重する。窓から吹き込む風にわずかに黒い前髪がなびく。
「トレーナーさん……」
か細い声で、ここには居ない彼を呼ぶ。その声を聴く者はただ自分ひとりだけである。天井を仰ぎ、少し流れる涙をこらえる。彼を待っているわけではない。引退式の日から一か月、彼女はトレーナーと顔をあわせることを避け続けていたのだから。 - 37別離の前の閃光221/10/31(日) 13:52:11
なのに彼女は、引退式の後の休日のスケジュールにトレーナーの居ないトレーナー室で何もしない時間を書き加えていた。それ以外、彼女のスケジュールにこの部屋に関わるスケジュール、いや、彼女のトレーナーに関わるスケジュールは一つも存在しない。引退した自分には彼に会う理由が何もないのである。ほんの一年間なら自分の故郷を知ってもらいたいなんて我儘な理由で彼を遠いドイツまで連れて行ったりしたのに、今はただほんのちょっと顔を見たいなんていう思いを抱くことにも辛さを感じてしまう。
レースに関しては自分の全てを出し尽くしたという確信を彼は得させてくれた。これ以上はない、と誇りを持って言える。だからこそ、引退という二人で下した決断には悔い一つ無い。でも、引退の翌日、トレーナー室に自然と足を運ぼうとして、スケジュールにその記載がないことを確認してから実感してしまった。もう彼は私の専属トレーナーではなく、私は彼の担当ウマ娘ではないのだと。なのに自然とこの足を運びなれた部屋の前まできて、ドアを前にして引き返すという日々が続いてしまった。幸いまだトレーナー室の合鍵は自分の手元にあった。だからこうして友人とともに過ごす日以外の休日、トレーナーが絶対に居ない時間を狙ってこの部屋に足を踏み入れている。そうして何もしない時間を過ごして、目の前の椅子に彼が座っている幻を時折見て、それから痕跡一つ残さぬようにこの部屋を去る、ということを繰り返して4回目になる。まめに掃除がなされたトレーナー室は心地よい。今のここには自分の痕跡もないが、他のウマ娘の痕跡もない。自分が故国に帰るころには、また彼の担当の痕跡が刻まれるのだろうか。 - 38別離の前の閃光321/10/31(日) 14:09:14
彼を待ってここに居るわけではない。が、彼を待っていないといえば恐らく嘘になるのだろう。卑怯な自分はあの時のように待っているのだ。有馬の時のように、トレーナーさんが声を上げて心の底から私を求めてくれることを。スケジュールを破るに値するような、強い願いを自分にぶつけてくれることを。でもそれはあり得ない。彼が一目惚れしてくれたのは私の走る姿なのだから。それ以上の強い願いをきっとトレーナーさんは私に向けてはくれない。嫌われいるか好かれているかの2つでいうことができるのならば、おそらくレース以外の面でも自分は彼に好かれているということは出来るのだろう。だが、自分を引き留めたり、あるいはこれからもずっと、なんていうような強い想いを抱いてくれているかといえば否なのだと思う。引退式の週に、いつものようにケーキ店を巡る約束ができなかった。私から誘えばきっと彼はついてきてくれる。けれども、自分から手を伸ばすのをやめたとき、彼から声がかかることはなかった。ウマホを何度も確認したけれども、メッセージの一つもない。やり取りは引退式の日で止まっている。
友人たちからは真剣に自分を思いやる声をたくさんもらったけれども、その忠告に従う勇気は自分にはなかった。どこかで冷めた私の声がする。きっとこの思いは、専属トレーナーという密な関係が、まだそういった面で幼い自分を舞い上がらせていただけだという声が。冷静で大人に見えるその声に抑えられて、もう一つの声はすっかり消えかけてしまっている。でも、消えかけた声におされて、今でもこんな無為なスケジュールに従ってこの部屋に足を運んでいるのである。
日が傾いて夕暮れ時となる。自分が僅かにこの部屋にいたことの痕跡を消して、エイシンフラッシュはまたこの自分の痕跡が消えて彼だけの為の部屋となったトレーナー室から離れるのであった。 - 39121/10/31(日) 14:10:04
了!
甘くないけどちょっと書きたくなっちゃったんだ。ごめん。 - 40二次元好きの匿名さん21/10/31(日) 14:11:22
こういう苦い時間があればこそ、今の二人があるんだな…いい…
- 41二次元好きの匿名さん21/10/31(日) 14:11:36
せつない
- 42121/10/31(日) 20:19:02
- 43二次元好きの匿名さん21/10/31(日) 20:19:27
こんなに後ろ髪を引かれているのに卒業後には帰国してしまうのか…辛すぎんか
- 44二次元好きの匿名さん21/10/31(日) 20:35:27
まあだからこそ再開した時に全力で家に連れ込んだとも言える
- 45121/10/31(日) 22:08:03
- 46ハロウィンプチフラトレ21/10/31(日) 22:46:45
ハロウィンプチフラトレ。
久々にフラッシュとトレーナーさんイチャイチャ期の話になります。
ちょいまいっちんぐです。
エイシンフラッシュがハロウィーンの食後に用意してくれたのは、かぼちゃのケーキ。祭りの夜だからとて出かけるわけでもなく、部屋を飾り付けするわけでもないが、これだけでちょっとしたお祭りの気分になる。ケルトを起源にする祝祭だがこういうこじんまりとした味わい方もいい。
「トリックオアトリート、なんて言わせません。私のトリートに不服は?」
人差し指をぴんと立てて胸を張るフラッシュ。
「ありません!」
元気に返してしまうと、お互いくすくすっと声がこぼれてしまう。お互いの皿に切り分けられたかぼちゃのクリームの盛られたケーキにフォークを入れようとすると、フラッシュから待ったがかかる。
一口大に切られたケーキをフォークごと差し出されると、ちょっと羞恥心が襲ってくる。
「トレーナーさん、あーんって」
「……う、うん」
悪戯っぽい笑みを少しだけ浮かべるフラッシュに餌付けされるように口をあけて、フォークにのったケーキを口に含む。ほどよい甘さが口の中にとける。濃厚なかぼちゃの甘味にうっとりとするトレーナー。
「美味しい」
「ふふ、ありがとうございます」
フラッシュの手作りならなんでも美味しいといってしまいそうな自分の褒詞を、目の前の彼女は本当にうれしそうに受け止めてくれる。お返しとしてこちらからもケーキを差し出せば、ついばむように食べてくれる。が、少し唇の端と頬にクリームがついてしまった。
「フラッシュ、ごめん」
「もう、イタズラはダメですよ?」
「そ、そういうつもりじゃなかったんだが」 - 47ハロウィンプチフラトレ221/10/31(日) 22:47:39
「わかってます」
そうして頬を差し出すフラッシュ。意図は明白であるが、ティッシュを手に取ったら少しむっとした顔をされてしまった。困惑していると、自らその頬の前で指をスライドさせる。自分の人差し指を少し前に出すとうん、とうなずいてくれた。ひょっとしてフラッシュの策略だったのだろうか、なんていう思いが頭をよぎるが、彼女のリクエストに応えないわけにはいかない。人差し指をやわらかな頬にあてる。ふにゅっとした感触から、張りのある唇にゆっくりスライドさせると、指の腹にクリームがつく。拭うようにして指を離そうとした瞬間。
「ん……」
わずかに開いたフラッシュの唇に、人差し指のたっぷりクリームがついた部分がひょいっと含まれてしまう。
「ん、ん…」
ちょっとだけ唇をすぼめて指にすいつきながら、舌先がしっとりと指の腹に触れて、自分がさっき拭ったよりゆっくり、丁寧にクリームが拭われる。それと同時に、指がとろけてしまいそうになる感覚に襲われる。
「ふ、ふ、フラッシュ……!」
「ん…!」
慌てて指を引き抜くと眉を寄せてフラッシュは少し物足りなさそうな顔でこちらを見る。が、気を取り直したようである。
「私からのtrick、いかがでしたか?」
その笑顔を見ると、何もいえなくなってしまう。ちょっとしたり顔の彼女も愛らしい、などと思いつつ、フラッシュは席を立ちあがると動けないでいるこちらの横に腰かけて、身を寄せる。
「今夜はハロウィンですよね」
「う、うん」
「……私も今夜だけは、幽霊を信じてしまうかもしれません」
普段は幽霊は恐ろしくない、ゾンビだけが苦手と言ってのける彼女の言葉に少しだけ首をかしげる。
「幽霊を信じていても怖くなくなる方法は、何も仮装だけではありませんから」
なんとなく彼女の意図を察した。先ほどフラッシュの唇に吸い込まれたその指先に瑞々しい唇が一瞬だけあたる。
「私が一番頼りにしている男性に、朝まで守ってもらえれば、こんな日でも全然怖くなくなるのですけど」
頬をほんのり上気させたフラッシュ。お酒も入っていないのにこれということは、絶対に否という答えを許さないということだろう。こくりと頷くと、ぎゅっと横から抱きしめられる。柔らかい感触におぼれながら、もう幾度も繰り返された言葉に心をほころばせる。トレーナーさん、愛しています。毎度のように彼の心は完全に陥落した。 - 48121/10/31(日) 22:48:22
了
すまん。甘いのかきたくなっちゃったんだ… - 49二次元好きの匿名さん21/10/31(日) 22:49:16
昼だけかと思ってたら夜も!?
おかわりだーッ!!! - 50二次元好きの匿名さん21/10/31(日) 22:49:26
……読了5秒も経たずに魂が天まで昇っていったわ……甘い……
- 51二次元好きの匿名さん21/10/31(日) 23:02:35
トリートは勿論ある
トリックもする
無敵モードなフラッシュ…強すぎる… - 52二次元好きの匿名さん21/11/01(月) 02:13:51
甘さの落差が
激しい(褒め言葉です) - 53二次元好きの匿名さん21/11/01(月) 02:17:44
わたしは日本語、私はあなたを愛しています。
応援しています。
続き早く見たい。
あなたに最大級の感謝を。 - 54二次元好きの匿名さん21/11/01(月) 10:56:54
念のため保守
いつもありがとう - 55二次元好きの匿名さん21/11/01(月) 14:57:54
なんだこのSSは…時間を忘れて一気見してしまったぞ…
- 56121/11/01(月) 22:36:32
感想ありがとう!表題に偽りありだったのもあるし、なんというか糖分なかったから…。
感想ありがとう!糖分とりたいですよね。うん。
甘くなるとどうしてもフラッシュが攻め気味になる…
感想ありがとう!本編だとフラトレが攻め攻めなんですが、ここだとフラッシュが強めになっちゃってますわ!
感想ありがとう!やっぱりフラッシュに辛い思いさせるの辛かったので…。
感想ありがとう。喜んでもらえると嬉しいです。
保守してくれてありがとう!保守でも読みたいと思ってくれるっていうことなんでめちゃうれしいですまじで。
感想ありがとう!一気見…一気見?
うれしいです。この話好きみたいな話も聞かせてくれると嬉しいです。
- 57121/11/01(月) 22:37:18
というわけで、本日はプチ更新です。
昨日の続き。
フラッシュとトレーナーさんです。 - 58ランタンに少し照らされて21/11/01(月) 23:05:34
照度を落とした灯がくり抜いたかぼちゃを浮き上がらせる。とはいえ、その灯は自分たちを照らすほどのものではなく、眠りを妨げるものではない。今、私は彼の部屋、彼の腕の中で、タオルケットにくるまれている。ほんの少し、彼を誘う意図もあった言葉だったけれども、彼はそれを真面目にとらえてくれて、自分の部屋でこうして私のことを傷つけないように優しく抱き留めてくれる。ちょっと遠慮がちなその腕の袖を指先で引っ張ると、私の願いを察してちょっと強く抱きしめてくれる。この人がこうしてくれるだけで、幽霊なんかではない私が恐れている本当のものが遠ざかる。信じていないものをだしにしてしまったことは申し訳ない。信じてはいなくても謝らなければ。
こうして肌を触れ合っていても、お互い顔を見ることはない。この状態でお互いが顔を見合わせた場合、我慢ができなくなってしまう確率なんて計算するまでもないのだから。だからこうして背中ごと抱えてくれる彼の腕の中で瞼を閉じる。タオルケットに頭が隠れるくらいにぎゅっと密着する。彼の胸板に耳をぴとっとあてる。鼓動が明らかに高鳴っている。でも、そんな高鳴った音がどんな子守歌よりも私を安堵させる。彼がこんなに傍にいる。自分からも彼を抱き寄せるようにする。少し寝にくいかもしれないけれど、それでも深い眠りに誘ってくれそうだった。私が恐れているのは、こうした時間を失ってしまうこと。また故郷で気が付かないうちに泣きはらしてしまうようなことになること。
彼の鼓動と私の鼓動が溶け合うような感覚に陥る。愛しているという陳腐に過ぎる言葉。まどろみに落ちながら愛の言葉を交わすことに幸福を覚える。その腕に貴方の私を離さないという意思に導かれる。彼の寝息が聞こえる頃に、彼女の寝息も彼の部屋の中で静かに空気を震わせた。 - 59121/11/01(月) 23:06:11
了!
今回は短めですが摂取していただけたら。 - 60二次元好きの匿名さん21/11/01(月) 23:08:36
これで今日も安心して熟睡できる…
- 61二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 00:10:39
安 眠 不 可 避
- 62二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 02:10:04
「昨日の続き」の文言を見て一瞬どっちだ!?と身構えちゃった
- 63二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 12:09:26
甘い……お昼食べる前にホールケーキ食べちゃった気分だ……いい……
- 64121/11/02(火) 20:45:45
- 65121/11/02(火) 20:59:15
ネタ整理
・フラッシュの勝負下着まで着ていったけど特にイベント起きなかった映画回
告白を寝たふりスルーしてしまったフラッシュが、ちょうど映画観にいくのに合わせて思わず気合をいれてしまう。映画館では手を握れたしちょっと艶っぽいシーンもまじまじと見れたが帰りたくないアピールには失敗したお話。
・後輩に誘われてまた行かない?と言われたのでフラッシュと一緒に行くことになる回
フラッシュとの別離前、別離中にアイリッシュパブでお話した後輩に、フラッシュとイチャイチャ期に誘われるパターン。フラッシュを置いていくのは禍根が残ると判断して一緒に連れていくお話。
・ルドトレの家にお邪魔する回(フラッシュとトレーナーさんがイチャイチャすることでルドルフに火をつけてしまう回)
聖蹄祭のことで話をしたい、ということでルドルフにルドトレの家に招待されるパターン。割と遠慮なくイチャつく二人が羨ましくてルドトレにちょっとだけ迫る話。
・昔、恋心がイマイチなんなのかわかんなかったけど自覚してこれが恋心かーってワクワクしたときを回想するルドルフ回
まだトゥインクル走っている間、トレーナー君が所用で一日休暇を取っていた時のお話。マルゼンさんがトレーナー君に自分の写真を送りつけようとしているのを見て嫉妬心を少しだけ学ぶお話。
・トレーナー君大ピンチ
フラッシュと同棲して間もないころ、うっかり朝の生理現象でフラッシュの待つリビングにいけなくなってしまうお話。 - 66二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 22:56:27
- 67二次元好きの匿名さん21/11/03(水) 01:03:01
このレスは削除されています
- 68二次元好きの匿名さん21/11/03(水) 09:03:27
マジでネタのストックが楽しみすぎる
- 69二次元好きの匿名さん21/11/03(水) 16:18:44
保守
- 70二次元好きの匿名さん21/11/03(水) 19:14:21
あー良い…
保守 - 71121/11/03(水) 20:25:27
- 72121/11/03(水) 20:35:49
本日はトレーナーさんの小ネタです。微下ネタ?なので注意
フラッシュと同棲を初めてそんなに間もないころの話。家財をやや強引にフラッシュ宅に移動させられてからの話です。 - 73トレーナーさんのピンチ(朝)121/11/03(水) 20:53:15
スマートフォンの規則正しい音に導かれて、エイシンフラッシュのトレーナーは寝ぼけ眼をこすりつつ瞼をあける。ア慣れたベッドに身を置いているが、天井はまだ慣れぬ風景である。アラームを止めてから眠気眼を擦りつつ上半身を起こす。伸びを思いきり行って深呼吸をする。いまだに実感がないが、今起居しているここはエイシンフラッシュのマンションである。なんやかんやで押し切られてルームメイトということになってしまった。ドイツに帰った彼女の再会できるというのでも夢のような形なのに、この状況が更に現実感を喪失させる。が、現実は現実である。まだ重い体を起こそうとすると、あてがわれた部屋の外から朗らかな声が聞こえる。
「トレーナーさん、おはようございます」
声を張り上げるわけではなく、かつ凛とした朝の空気が似合うかつての担当ウマ娘。エイシンフラッシュの声である。
「おはよう、フラッシュ」
こちらもよく通る声で返事をする。情けないところを見せられない、と気合をいれてべっどから飛び出ようとする。
「あ……」
パジャマ姿のトレーナーが硬直する。顔を青くしたトレーナー。朝の生理現象で一部が硬直してしまっている。さすがにこのままこの家の主の前に出ていくわけにはいかない。彼女のトレーナーをしていた時にはそんな醜態は彼女の前で晒したことはもちろんない。もしこのまま彼女の前に出ていけばどうなるか。潔癖なところもある彼女に蔑んだ目で見られて即行追い出されて、二度と口を聞いてもらえないかもしれない。
「トレーナーさん、不潔です。……こんな人だったなら、会わなければよかった」
侮蔑の目を向けてぷいっと横を向くフラッシュを幻視して身悶えする。が、そんな煩悶はすぐに打ち破られた。
「トレーナーさん!大丈夫ですか?」 - 74トレーナーさんのピンチ(朝)221/11/03(水) 21:03:34
「……大丈夫だよ。フラッシュ、何の問題もない」
間一髪のセーフ。タオルケットを下半身にかぶせごまかすことに成功した。だが冷や汗まじりのその姿はフラッシュの目には奇妙に映る。
「何の問題もないように見えません。ひょっとして、お加減がよくないとか……」
心配そうに彼の顔を覗き込むフラッシュ。フラッシュからしてみれば、強引にこちらに連れてきてしまったという思いはある。それに元々少々元気のなかった彼をみていたのもあって、体調がよろしくないように彼女の目には映ってしまっていた。
「大丈夫!大丈夫だから!」
少し突き放したような強い語調で彼女にそうではないことを伝えると、フラッシュの耳がぺたっと前に倒れる。しょんぼりとする彼女を慌ててフォローする。
「い、いや、心配してくれて嬉しいよフラッシュ。ただ本当に心配するようなことじゃないから」
「……本当ですか?」
パジャマ姿の彼女がトレーナーに身を寄せる。彼の前髪をかきあげて、掌を優しく当てる。
「……熱はないようですね。でも…」
そのまま彼の額に自分の額を触れさせるフラッシュ。こんなに密着したことは互いにないので、意識をした瞬間にトレーナーも彼女も一気に顔を赤くする。
「ふ、フラッシュ、近いって」
「ご、ごめんなさい」
少し距離をとった彼女は自分の胸に手をあてて深呼吸する。
「ふぅ、では、大丈夫なようでしたらリビングにお越しください」
再び顔を青くするトレーナー。ベッドから飛び起きることができない理由はまだ解決していないのである。 - 75トレーナーさんのピンチ(朝)321/11/03(水) 21:16:02
「トレーナーさん?」
「い、いや、ちょっと待ってくれ。先にご飯も済ませちゃってくれていいから」
「……それはだめです、朝食、夕食は出来る限り一緒に取りましょう。ルームメイトなのですから」
「今日だけは許してくれないかな?」
首をかしげるフラッシュ。何をそんなに渋ることがあるのか。まだ眠くて仕方がないという風でもない。
「理由をおっしゃっていただければ対処します」
理由など言えるはずがない。口をもごもごとさせるトレーナーにため息をついたフラッシュは、少々強引な手に出る。
彼のつかんでいるタオルケットをぐいっと引っ張って彼をベッドから飛び出させようと試みる。
「もう、行きますよ?……あ」
「あ…」
軽く引っ張るとウマ娘の力にかなうわけもなく、タオルケットははがされる。あえなく朝の生理現象がエイシンフラッシュの目に入ってしまう。顔を赤くしたフラッシュはじっとトレーナーの目を見る。そこに責める意図はなさそうだったが、フラッシュに反射的に謝ってしまう。
「ふ、フラッシュ、ごめん」
「い、いえ、こちらこそ少々デリカシーが足りませんでした。その、知ってはいます。男性が朝にそういう現象に見舞われるというお話は」
勘違いだけはされなかったことに安堵しながら、再び腰から下を隠しつつ、トレーナーは言い訳を続ける。
「そ、そう。これはこういう現象だから。君でそういうことを考えたわけではないから」
余計な一言を無意識に付け足してしまったトレーナー。
「……ほんの僅かでもですか?」
「そう、ほんの僅かでも!」
トレーナーが断言すると、若干フラッシュの目が険しいものになる。ちょっとだけ耳を立てたフラッシュはトレーナーに背を向ける。そんなに魅力ないですか、という彼女のつぶやきは、彼に聞こえないほどの小ささでしか放たれなかった。 - 76121/11/03(水) 21:16:34
了!
たまにはこういうのも…ネ!! - 77二次元好きの匿名さん21/11/03(水) 21:18:44
乙女心は複雑なのだ…
- 78二次元好きの匿名さん21/11/03(水) 21:38:31
是非もなし…断言するしかない…
- 79二次元好きの匿名さん21/11/03(水) 21:39:43
あるって言った方が気まずいからな
仕方なかったってやつだ - 80二次元好きの匿名さん21/11/03(水) 21:45:02
事故みたいなものなんだ。
収まってくれって思うと収まってくれないんだ。
それはそれとしてフラッシュと同棲してると考えるとトレーナーさんがやばくなるのもしょうがないんだ。 - 81二次元好きの匿名さん21/11/04(木) 07:23:56
(ただの保守……)
- 82二次元好きの匿名さん21/11/04(木) 07:56:50
フラッシュさんかわいいな…
- 83二次元好きの匿名さん21/11/04(木) 14:13:14
- 84二次元好きの匿名さん21/11/04(木) 14:59:59
- 85二次元好きの匿名さん21/11/04(木) 18:23:15
- 86二次元好きの匿名さん21/11/04(木) 18:31:03
- 87二次元好きの匿名さん21/11/04(木) 19:03:03
やっぱり赤面フラッシュは良い
- 88121/11/04(木) 21:16:19
- 89121/11/04(木) 21:17:44
今日もプチフラトレ。昨日と同じく同棲してまだ間もないころのお話です。
やっぱりこう意識はしちゃうよねっていう…。 - 90トレーナーさんの邪念(朝)121/11/04(木) 21:32:44
「「いただきます」」
二人で手を合わせて食事の前の一礼をする。目玉焼きとフラッシュのおすすめのソーセージをメインディッシュにスープにご飯といった朝食のメニューがテーブルに並ぶ。パリッと焼き上げられたソーセージに口をつけると、トレーナーは一言美味しい!と声をあげる。
「良かった。地元でも人気のあるソーセージなんです。」
指を立てて流れるように滔々とその口からソーセージの背景を語る。ちょっと自慢気に知識を語る彼女はケーキショップではよく見たものである。頷きつつ質問を交えたりする時間がトレーナーは好きだったし、フラッシュも勿論その時間を愛していた。今、こうしてそういう時間を家で朝食というプライベートな空間で過ごすことが出来ていることにフラッシュは心からの喜びを覚える。ほころぶ彼女の笑顔を見るという幸せをトレーナーも吸収している。半ば強引に連れてこられた形ではあるけれど、流れに任せてしまったのは間違いではなかったのかな、とトレーナーも感じた。彼女を連れ合いにできる男性というのは幸せなんだろうな、というのが頭をよぎれば、将来のフラッシュのパートナーに羨望を覚える。
トレーナーとしてみれば、彼女をパートナーにすることはまだ露ほども考えなくても、彼女のパートナーになることが羨ましいと感じる程度には、この時点でも彼女に好意というか女性としての魅力を感じていた頃の話である。 - 91トレーナーさんの邪念(朝)221/11/04(木) 21:53:56
「いけない、トレーナーさん。大事なものを忘れていました」
真剣な表情をした彼女が立ち上がり、しっぽを少し振って冷蔵庫から取り出してきたのは、2つのパックである。ぱかっとパックを開ければ、その中には日本の朝の名物ともいえる発酵食品の姿があった。
「あ、そうか。フラッシュは納豆好きだったね」
「はい、日本の朝といえば納豆です。本日は洋食メインでしたが、やっぱり朝にこれは欠かせません」
ねばついた納豆に少々の醤油を垂らして、静かにかき回す。他のフラッシュの好みからすると意外にも見える組み合わせだが、こぼれる鼻歌が彼女がいかにその発酵食品が好きかを表しているだろう。ご飯に粘り気の増した納豆を乗せた後、箸でほかほかのご飯と一緒に一口分掬う。そういえば日本育ちじゃないにも関わらず器用に使うな、なんて思ったこともあったかと少しだけ昔を懐かしむ。小さく開けた口に上品に納豆ご飯を運ぶフラッシュに、自分の雑な面は見直さないとな、なんてトレーナーも幾分か背筋が伸びる思いである。 - 92トレーナーさんの邪念(朝)321/11/04(木) 22:16:25
頬をもぐもぐとさせてゆっくり咀嚼する彼女の姿をぼんやりと見てしまう。どうしても自然と納豆が運ばれる小さな唇に目線がいってしまって、なんとも気まずい気持ちになる。ごまかすようにして自分もスープを口に運ぶが、どうしてもフラッシュの食事に目がいってしまう。
「ん……」
つややかな濡れた唇に納豆が糸を引いてしまうと、いけないと思いつつもまじまじと見てしまう。お箸でそれを切ると、糸がぷつんと切れて頬につく。しっとりとした唇からつたうその糸が口元を少し汚す様子が艶めかしく映ってしまって困惑する。そんなのに反応するほど色々溜まっているのか、といえば、急に元愛バとルームシェアなんていうことになって、とても発散の機会がないのは確かにしても、そんなものに色気を感じてしまう自分を責める。
「失礼します…」
付近で口の周りをぬぐいつつ、少々恥ずかしいのか頬を赤くするフラッシュの姿が、朝のトレーナーには完全に目の毒だった。
「……みっともないところは、あまり見ないでいただけると助かります。トレーナーさん」
フラッシュのこほんという咳払いに我に返るトレーナー。一言謝れば照れながらも許してもらえたものの、こんなことで一年半ほど前は導いてあげる立場だった彼女をちょっとでもそういう目で見てしまっていることに、申し訳なさとここで暮らしていけるのかという不安を感じてしまうのであった。 - 93121/11/04(木) 22:18:27
了!
フラッシュ側悶々編とかも書きたい。
あと彼(になる予定の人の)シャツフラッシュなシチュも書きたいけどうっかりフラッシュが誘い込む側だったせいで書けない!
転がり込むフラッシュだったらよかったのに…! - 94二次元好きの匿名さん21/11/04(木) 22:21:01
艶かしくて大変よかった…
それはそれとして、お洗濯物がにわか雨で全部濡れちゃって彼シャツしか着るものがない!ってしちゃうのは…ちょっと無理があるか
フラッシュのシャツ姿とか鼻血ものなんで是非見てみたい - 95二次元好きの匿名さん21/11/04(木) 22:47:55
フラッシュが風邪引いて汗びっしょりのパジャマ洗濯してる間代わりにトレーナーの服を着る概念?
- 96121/11/04(木) 23:09:26
汗びっしょりだとドイツ帰国後のサウナコースとか…
- 97二次元好きの匿名さん21/11/05(金) 00:29:50
ドイツサウナは男女混浴だから、トレーナーさんのうまだっちがすきだっちしてしまう!
- 98二次元好きの匿名さん21/11/05(金) 00:46:10
- 99二次元好きの匿名さん21/11/05(金) 00:46:35
- 100二次元好きの匿名さん21/11/05(金) 11:11:50
周回遅れの青春のようなこの絶妙な距離感もまた良きです
- 101二次元好きの匿名さん21/11/05(金) 19:03:51
- 102121/11/05(金) 23:12:47
- 103旅行計画その1_0121/11/06(土) 00:02:13
今日はちょっと小ネタ。イチャイチャ期のフラトレの一幕です。
「トレーナーさん、来夏の帰省では以前づいてきていただいた時には行けなかった場所にいきましょう」
「ああ。フラッシュの案内楽しみにしているよ」
人差し指を立てて提案してきたフラッシュに、にこやかに答える。トレーナーにとってフラッシュのドイツへの帰省に付き添って旅行したことは本当にいい思い出である。再度あの地を踏めることには喜びしかない。強いて言えばフラッシュの両親に微妙に顔を合わせづらいのはあったが、電話越しにではあるがフラッシュと付き合うことについては既に報告を済ませている。悪感情を持つでもなく、そのことを喜んでくれた二人には感謝しかない。
「はい、父と母も一緒に回る予定も考えていれば、貴方と二人で回るところも考えています。例えば……」
タブレットを操作し差し出されたのは湖畔の写真である。
「ああ、そういえばドイツでは湖水浴が一般的なんだっけ」
「はい。海水浴とはまた違った趣があると思います。トレーナーさんにもぜひ一度は楽しんでいただきたくて」
「そんなにフラッシュがお勧めするなら間違いはなさそうだ」
湖畔に佇み黒い髪が風に少し煽られる彼女。羽織っていたものを脱いでスタイルを惜しげもなく晒してかつ引き立たせる純白のビキニの彼女が湖水で沐浴する姿を思い浮かべる。直近の彼女の水着姿があの際どく大胆にアピールされた水着だったせいで、トレーナーはどうしても色々思い返して顔を赤くする。白い肌と黒い髪にベストマッチした、少しだけ面積が控えめなビキニ姿は思い出すたびに悶絶しそうになる。
「……フラッシュ、その前に新しい水着を買いに行こう」
「え?…トレーナーさんのお気に召しませんでしたか?」
「そんなことはない。無茶苦茶似合ってる。というか、気に召した召さないは君がよくわかっているだろう?」
「ええ、それはもう身をもって」
フラッシュも思わず一緒のことを思い出して身をよじる。 - 104旅行計画その1_0221/11/06(土) 00:03:23
「でも、似合っていると思われるのならば何故?」
いじましく上目遣いに尋ねる彼女に韜晦するわけにもいかない。
「ほ、他の男に見せたくないから、アレ……」
いい年して情けないかもしれないが、彼なりの独占欲の発露ではある。
「……!トレーナーさんったら、もう」
トレーナーのいじらしい姿を見て胸を高鳴らせるフラッシュ。が、その上で、くいっとトレーナーの袖をつかむ。
「でも、その上で敢えて見せつけるというのはどうですか?」
「……え?」
黒い瞳を潤ませるフラッシュ。
「誰にも見せたくないくらいの貴方の大事な宝を見せつけてやるんです。俺のものだって、堂々と…」
熱っぽいフラッシュの言葉に身動きがとれなくなるトレーナー。フラッシュはトレーナーの手の甲に細い指をからませる。唇からそっと温かい息を吐くフラッシュ。
「俺のパートナーはこんなにいい女だって、私のことを見せつけて欲しいです」
そういう扱いはしたくない、なんていう正論が口をつこうとするけれども、しなだれかかり柔らかさを伝えてくるフラッシュに対して段々と頭が回らなくなってしまうのであった。
了! - 105二次元好きの匿名さん21/11/06(土) 00:10:17
これは…バカップルじゃな?
- 106二次元好きの匿名さん21/11/06(土) 00:32:01
イチャイチャ期はやはり健康に良いな!
フラッシュ以上の良い女はそうそう居ないぜ...? - 107二次元好きの匿名さん21/11/06(土) 01:42:29
このバカップル共め!いいぞもっとやれ
- 108二次元好きの匿名さん21/11/06(土) 10:05:54
見せつけたい気持ちもあるけど4:6くらいで独占欲が多い…
独り占めしてぇ〜!!! - 109二次元好きの匿名さん21/11/06(土) 10:19:27
あああああああああ
まいっちんぐ!!!!
いつからフラッシュはそんな子になったの!!!好きな人ができてよかったね!!! - 110121/11/06(土) 17:20:10
- 111121/11/06(土) 18:12:41
今日はプチルドトレです。
ネタに残したのはなかなか進まなくてすみません。
ちょっとづつでも書ければいいかなと思いつつ、今日はプチで。 - 112彼の居ない部屋で_0121/11/06(土) 19:19:17
「いけないな。自然と足が向いてしまうとは」
自身のトレーナーの休暇日であることは一月前から聞いていて、昨日も本人の口からきいたばかりである。癖というのは中々治らないものだ。部屋の主こそ居ないし、十分に整頓されてこそいるが、長年の二人の生活感というものが本棚や調度品、或いは皇帝の栄光の証の数々が飾られた棚に沁みついている。ルドルフは暇なわけではない。本来であれば執務に戻るべきであるが、なんとはなしにそのまま部屋に足を踏み入れる。いつもの彼の前の席ではなく、彼が腰かけるその椅子に掌をあてると、ゆるりと腰をかける。背もたれに背を預けて天井を仰ぐ。やはり落ち着く。耳を少し倒すルドルフは肘掛けに指を少し這わす。どこか懐かしい気がして、記憶を思い起こす。
「そうか、あれ以来か」
彼のいない日をここで過ごすのは。あの日もこうして少しぼんやりしていたかもしれない。なんとなくこの部屋の空気が落ち着くと思い始めた頃のこと。まだ栄光の証が今ほどには並べ立てていなかった頃のこと。自分の心の正体の一端を、かのスーパーカーに言い当てられた時のこと。大して時が経っていないような、そうでもないような。ほんの少しだけ彼との関係の形が変わる前触れでもあった。
関係といえば、トレーナーとウマ娘の関係というのは様々である。シービー、マルゼンスキー、エアグルーヴ、ブライアン、テイオー、それぞれの顔と、トレーナーに対する態度を思い浮かべる。例えばマルゼンスキーとそのトレーナーを見れば、マルゼンスキー自身がトレーナーを引っ張りつつ、トレーナーは素の彼女を見守っているように見えた。エアグルーヴは尻に敷くような関係にも見える一方、トレーナーはそれを支えるだけの強さを持っていた。テイオーに関しては親子というか兄妹というか、そういう微笑ましさがある。最近親交を深めたエイシンフラッシュとそのトレーナーは少々甘さを漂わせているところをのぞけば、エイシンフラッシュの理想を引き出すトレーナーといった風だった。 - 113彼の居ない部屋で_0221/11/06(土) 19:19:33
翻ってトゥインクルシリーズの自分とトレーナー君はどうだったかと問えば、これに答えるのは難しい。一言で言えば彼に伝えた同じ視座に立つものという答えになるのだろう。が、私とトレーナー君の関係性がどう見えるかというのを余人に聞いてもわからないという答えか、曖昧なふんわりとした言葉しか返ってきたことがない。今でも思う。トレーナー君は不思議な男だと。出会いからして少し変わっていたのもあるかもしれない。他のトレーナーに比するとぐっと自分の腕を掴んで引っ張るような強さを感じることはないが、トレーニングの指導に関しては見事である。ウマ娘を見る目も私くらいにはある。初めてのDWT後に彼に告げたことがある。君がこれぞと思うウマ娘を専任し導けば、私の栄光に届くウマ娘も生まれるかもしれない、と。それに関しては過大評価というものだと一蹴されてしまった。次いでもう一つ告げた、君が私のライバルを育ててくれるというシナリオにもいささか興味がある、という言葉に関しては、こう返された。
「冗談を言わないでくれ。君一人で手一杯なんだ。世間が言うほど皇帝のトレーナーは楽ではないよ」
それとも私はクビかな?なんていう彼の冗談が、冗談にしてはあまりに承服し難いものだったから臍をほんの少しだけ曲げたら、これだから楽ではないんだよ、と珍しく愚痴をついていたことも覚えている。そうして次々に頭に浮かぶ彼との思い出に、しばしの間浸って頬を綻ばせる皇帝であった。 - 114121/11/06(土) 19:20:28
了!
だけどルドルフの過去話の前振りでもあるかなと。
ここのSSはフラッシュさんだけでなくたまにルドルフとかもでてくるけどよろしくね! - 115二次元好きの匿名さん21/11/06(土) 20:55:21
これは、いい物だ…!!
- 116二次元好きの匿名さん21/11/06(土) 21:03:10
ウマ娘もトレーナーも親御さんも、登場人物がみんな魅力的なのがいい…
- 117二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 06:50:55
ルドトレは、そのうちルナって呼んでくれるのかな?
- 118二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 10:39:23
曲げた臍はほんとにほんの少しなのかな?w
- 119121/11/07(日) 20:45:24
- 120121/11/07(日) 20:46:23
というわけで本日の投稿はフラッシュトレーナーさん。短い話になる予定です。
思い出話のコースです。 - 121あの時の思い出0121/11/07(日) 21:19:48
シンボリルドルフのトレーナーにあてがわれたトレーナー室で、夕日が落ちて空が黒く染まり始める頃、小さな宴が行われていた。エイシンフラッシュの元トレーナーが教官、サブトレーナーとして担当しているメンバーの有志に対してのねぎらいの宴である。彼が教官として担当する数名のウマ娘に加えてチーフかつこの部屋の主であるシンボリルドルフのトレーナーがこの場にいて、エイシンフラッシュが勤める洋菓子店に注文したチョコレートケーキに舌鼓を打っている。二人の教官陣は和気藹々としたウマ娘たちを少し離れて見ながら微笑ましそうに見守りつつ今後の話をしていたが、ウマ娘たちに誘われる。
「教官たち、そんなところで話していないでこっちに来てくださいよ」
「抹茶のケーキもいただきましょう」
「私たちもカロリー気にせず食べるんですから教官たちも」
「わ、わかった。チーフも一緒に」
「君だけじゃ駄目なのかな。いい男の方が盛り上がるだろう?」
「一人だけ逃げようっていうのはダメですよ。なんですかいい男って」
及び腰のチーフもサブトレーナーの彼の言うことだけでなく他のウマの言葉もあっては巻き込まれることを厭うわけにはいかなくなった。ロールケーキを手慣れた調子で切り分けるとウマ娘たち、チーフ、自分の皿にとりわける。
「手慣れてるんですね。教官」
「……元担当バの影響かな。これは」
ケーキを持ち帰りで食べる時に切り分けることが多かったのでここらへんは妙に手馴れてしまった。率先して彼女がやるのであるが、それが申し訳なくて自分からやるようになったのがはじめである。
「そうなんですか?どなたなんです?元担当って」
その問いに他のウマ娘が目を丸くする。
「君、知らなかったんだ」
「え?貴方は知ってたの?」
「まぁ、彼女は憧れだったから、そのトレーナーさんのことも知っていたよ」
「そ、そうだったんだ。で、誰なの?」
「エイシンフラッシュさん」
「エイシンフラッシュさん……え?あの?そうだったんですか」
こちらを振り向いて目を丸くする彼女に苦笑しつつ教官の彼は頷く。特に説明する機会もなかったから話したことがなかったのである。近い年代で活躍しただけあって、やはり彼女の名前は教官として担当している彼女たちにも刺激になるらしい。 - 122あの時の思い出0221/11/07(日) 21:43:09
担当トレーナーに対する意識はウマ娘の中でも濃淡があり、ある程度興味があってどんなトレーナーがいいかとか、あのウマ娘を担当していた人にあたりたい、なんていう希望を強くもったウマ娘も多数いるが、そうでないものも相当数居る。担当トレーナー決めは大事ではある一方、声をかけられるまでは気にしないという風潮も割と強い。たまたま自分が担当したウマ娘たちは希望を強く持ったわけではないグループに属する者たちのようであった。
「私たちって結構すごい人に担当してもらっていたのかも?」
「それを言ったらチーフはあの会長のトレーナーだろう?」
「そ、それもそっか」
流石にチーフが会長のトレーナーであることは周知の事実である。シンボリルドルフは兎も角目立つ。このトレセン学園の象徴ともいえるウマ娘なわけで、目立たないようにしているとはいえ彼女がかなりの割合で伴っている男性ともなるとどうしても目に入る。引き合いにだされたチーフは憮然としているようだが、気にしないでおくことにした。
少し注視が外れてほっとしていたら、別のウマ娘が爆弾を投げ込んできた。
「ちょっと気になるんですけど、どんな風に教官はエイシンフラッシュさんの担当になったんですか?」
「え?」
「あ、それ気になる。すごく気になる」
「確かに、私たちはそういう形で声かけられたことないから聞いてみたいかも……」
「え?ええ?」
「私も気になるね。仲睦まじい君たちの出会いってヤツ。しっかり聞いたことなかったし」
味方だと思ってたチーフに背後から撃たれた。撃った方は無茶苦茶涼しい顔をしている。
「いやそんな大したことないよ。ありふれた話さ」
目をそらしながらの一言は逆に年ごろの少女たちの好奇心を煽ることになる。
「いいから話してみてくださいよ」
「ありふれてるかは私たちがジャッジします」
食いついている二人を横目に最初に煽ったウマ娘はくっくっと笑いをこらえている。後で覚えていろなんて担当しているウマ娘に言えるわけもなく、大きくため息をついて、爛々と目を輝かせる彼女たちにちょっとした昔話を披露した。思えばもう5年以上前の話になるのか、と時の流れを不思議に感じながら。 - 123あの時の思い出0321/11/07(日) 22:07:11
「……という形で、俺はフラッシュの担当になることが出来たんだ」
長々と語った後、彼女たちの目には感嘆の色と驚きがあった。彼女たち同士が目を見合わせる。一歩引いてみているウマ娘もどこか眩しそうにこちらを見ている。
「……え?こ、これありふれてるんですか?そんなわけないですよね」
「そんなわけないさ。こんなドラマチックな話、そうそうあるわけがないよ」
チーフがその問いに返答すると、ですよね、という力強い相槌がウマ娘たちから聞こえる。
確かにこうしてまとめてみると契約のところはちょっとドラマチックだったかもしれない。彼女たちも黄色い声を上げていた。特にフラッシュの両親に宣言するところと、彼女に一目ぼれだった、こうなる運命だったと伝えたときにはちょっと耳が痛くなりそうなくらいであった。
「こうなる運命だったなんて言えちゃうなんて、凄い……」
「そ、それで、フラッシュさんとは今はどうなんです?」
「そうそう、契約の時にこんなことを言ってしまってるんですよね。責任とってるんですか?」
押しが強い、彼女たちの迫力についチーフの助けを求めるが、思ったより無情の男だったようである。
「いや、私も驚いたよ。そんな情熱的な告白をしていたなんてね」
「ですよね。どう聞いても告白ですよね。で、今はフラッシュさんとどうなんですか?」
「責任とってるんですよね?ね?」
「え、えっと……健全なお付き合いをしているよ」
「お付き合い?健全?どこまでですか?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。これ以上はプライベートだから…」
「お付き合い?なんで?そんなこと言っておいて、引退してすぐに結婚しなかったんですか?」
「い、いや、その時は付き合うとかそういう話でもなかったし、フラッシュはドイツに帰っていたし」
「え?まさか放っておいたんですか?そんな情熱的な告白した相手を?」
「だ、だからあれは愛の告白じゃないんだって」
結局ウマ娘たちの姦しい声におされて、部屋の隅まで追い詰められた教官は、エイシンフラッシュとの思い出を色々と聞き出されてしまうのだった。 - 124あの時の思い出0421/11/07(日) 22:25:46
全てを、とはいえプライベートに関わる細かいことまで話すわけがないので大枠の話をだが聞き終えた彼女たちは、険のある目を向けた。
「……一年半も放っておくなんて、ひどいんじゃないですか?」
「フラッシュさんかわいそう……。健気に想い続けてたなんて」
そう言われると返す言葉はない。フラッシュの真意を見抜けなかったことで、傷をつけたことには確かに変わりはない。
「それでも今の彼女を幸せにすることは出来ているとは思っているよ。勿論、未来の彼女もね」
湿り気交じりではあるがそう告げるフラッシュのトレーナーに、なんとなくこういうところなんだなと察する彼の担当ウマ娘たち。一人が身を乗り出して、教官に詰め寄る。
「ちゃんと早く結婚して、フラッシュさんを安心させてください」
「あ、ああ」
「私たちも呼んでくださいなんていいませんから、披露宴の写真ください」
完全に彼女たちに押されている自分を見て、ニコニコとしているチーフを目にとめると、この状況を抜け出す起死回生の一手を放つ。
「い、いやまぁ、その話はおいておいて…」
「おいておけません!」
「いや、でもさ、俺ばっかりの話じゃあれだろ?ほら、どうやって担当になったかっていう話、俺だけじゃもったいないと思わないか?」
チラっと視線をチーフに向けると、露骨に嫌な顔をした彼の顔がそこにあった。詰め寄っていたウマ娘たちの視線もそちらに注がれる。
「え?私?……いや、本当に面白くないよ。君とフラッシュさんみたいに恋愛めいた面白い話じゃないし。君の後ってハードル高くないか」
「いや、でも皇帝とそのパートナーのはじまりってあまり聞かないですし。確かチーフって、専任を務めたのは会長が最初で最後ですよね?」
仕返しも半分あるが、正直純粋に興味があってチーフに話を振ったところもある。
「私たちも聞きたいです。ルドルフ会長の武勇伝ならいくらでも聞いたことはありますけど、そういう話ってあまり聞かないですし……」
「チーフと会長って普段から特別って雰囲気だしてますよね?」
チーフの助けを求める視線に流石に答える義理はない。
「付き合いが長いからかな」
照れ隠しのような一言が、またも少女たちの好奇心を煽る。「運が良かった」の一言で逃げ切ることを試みた彼も、散々に追い込まれて皇帝とのはじまりを彼女たちの前で話してしまうことになるのだった。 - 125121/11/07(日) 22:26:41
了!
たまにはこういうお話もどうでしょうか。
それではまた明日、といいたいけど、ワクチン接種2回目だから無理かもしれないのですみません! - 126二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 22:36:34
- 127二次元好きの匿名さん21/11/08(月) 00:07:25
教官達仲良いなぁw
休みの日は前スレを読み直すに限るぜ! - 128二次元好きの匿名さん21/11/08(月) 00:10:14
- 129二次元好きの匿名さん21/11/08(月) 09:28:48
おつです!今回もよかった
しかしもう外堀は埋まってますね… - 130二次元好きの匿名さん21/11/08(月) 13:23:54
(昼の保守……)
- 131二次元好きの匿名さん21/11/08(月) 13:42:05
何度見直してもドイツ人にあんな事やって付き合って無い認識のフラトレは刺されても文句言えないと思うわ
ここのフラッシュはちゃんと日本の恋人に関して知ってるから良かったけど - 132二次元好きの匿名さん21/11/08(月) 19:03:51
流鏑馬会長のおかげでキャラスト見れたけどルドトレも凄い…ヤバいっすね
- 133二次元好きの匿名さん21/11/08(月) 19:13:15
強いなぁ…ハァーーッ…強いなこのSS…
- 134121/11/08(月) 19:34:25
感想ありがとう!書き方があれでしたw
まぁちょっとしたお祝いごとってことで
感想ありがとう!意外に性格悪いのかもしれないルドトレ…
感想ありがとう。当時はたぶんその気はなかったかもしれないけど改めてみてこっぱずかしい台詞すぎる…!
ちゃんと女性の心を惑わした責任は取ろう
ありがとう!もうフラッシュに寄り添うことは決めているにしろ、周りも裏切りは絶対許しませんよねこれ
保守ありがとう!助かる…
ありがとう!ドイツだとここまでいったらご一緒コースなのかな。
フラッシュは引退時付近にかけて臆病さがでてきてしまってというつもりですね。
あとファルコンさんから告白はちゃんとしないとダメって言われたりとか。
キャラストのルドルフとトレーナー、ちょっと面白い関係ですよね。ルドルフが単純に気を許す関係に近くなっていくというか。ルドルフが滅茶苦茶自立してる分、他と違って強く彼女を矯正するというか、導くという形ではないというか。
ありがとう!どれを強いと思ってくれたかわかんないけどめちゃ嬉しいです。これ好きというのがあったらじゃんじゃんいってくれ!
- 135121/11/08(月) 19:53:40
- 136二次元好きの匿名さん21/11/08(月) 19:59:28
- 137二次元好きの匿名さん21/11/08(月) 22:11:13
お大事に〜
- 138二次元好きの匿名さん21/11/09(火) 05:37:11
- 139二次元好きの匿名さん21/11/09(火) 07:32:08
- 140二次元好きの匿名さん21/11/09(火) 16:23:07
保守です
甘々になりながら拝見させていただいてます。 - 141121/11/09(火) 21:44:38
- 142121/11/09(火) 22:59:06
本日はルドトレ宅へお誘いを受けたフラッシュとトレーナーさんの一幕を切り取った話となります。
ちょいちょい出していく形になるのである程度形がまとまったら整理するかもしれません。 - 143詩伎のうた0121/11/09(火) 23:40:59
トレセン学園でトレーナーに就任してから、他家の門をくぐるということはフラッシュのトレーナーにとってはあまりなかった。数少ないその例はフラッシュのドイツの実家と、今は半ば自分の家ともなってしまっているフラッシュのマンションである。同僚に誘われてというのはほとんどなかったことなので、閑静な住宅街にあるこのルドルフのトレーナーの家の門をくぐるのに幾ばくかの緊張があったのは確かである。いつもよりリラックスした様子で甚平を纏って出てきたルドルフのトレーナーが出迎えてくれた時にはすっかり緊張もほぐれてしまったのだが。こういう服も似合うのは意外といえば意外かもしれない。
「やぁ、よく来てくれましたね。何もない家で恐縮ですが」
「ええ、お邪魔します……あ、そうか。フラッシュは顔合わせたことがないんだっけ」
「はい、お顔を拝見したことはありますが」
専属のトレーナーを持つウマ娘が、他のトレーナーと顔を偶然合わせることはあっても、知己となることは稀である。彼女自身仲の非常に良かった同室のスマートファルコンのトレーナーとは二人とも知己ではあるが、他の友人のトレーナー達との親交が深いかといえばそういうわけではない。まして現役時代は見上げる立場だったルドルフのトレーナーともなれば猶更である。
初めましての挨拶を互いに済ませれば、ルドルフのトレーナーは彼から貴方の話はよく伺っています、と一言添えた。フラッシュの耳が少し立ったので、機嫌がよくなったようである。 - 144詩伎のうた0221/11/09(火) 23:44:09
電子ピアノの置かれた広々としたリビングでは、トレセン学園で最も耳目を集めたであろうかの皇帝が待っていた。こちらは同じく甚平というわけではないが、緊張感を持たせるスーツ姿というわけでもなく彼女のイメージカラーより淡い緑のブラウスと黒のパンツで優しい雰囲気を醸し出していた。
「久しぶりだね、エイシンフラッシュ。直接顔を合わせるのはドイツ振りか」
「はい、お久しぶりです。お招きいただきありがとうございます」
「いや、来てくれて嬉しいよ。良人とともにね」
こちらにも目くばせすると、フラッシュの顔が少し赤くなる。改めてそのことを指摘されるようなことが最近無い為でもあるが。フラッシュがお土産代わりに用意したケーキを渡すと彼女も顔をほころばせる。
「ご両親にも引けを取らぬ君のケーキの味、楽しみにするよ」
「いえ、私なんかはまだまだ半人前です」
謙遜ではなく本心からそう言い放つフラッシュに皇帝は感心する。
「私の目には十二分に立派に見えるが、その道のものだけにしかわからぬものはあるのだろうね。一人前になったら帰国する算段かね?」
フラッシュの実家はパティシエで、昨年の様子からしてもいずれその家業を引き継ぐのだろうという予測は立つ。
「そこは、その……。時間をかけて、じっくり答えを導きだそうとしています。二人のスケジュールを、二人の最も良い形に」
「フラッシュ……」
顔を見合わせる初々しいカップルを見つめる皇帝。
「ふふ、本当に羨ましいことだね」
少し困った顔をしたルドルフにはっと我に返る二人。立ち話もなんだから、とテーブルに案内される。ティーポットに湯が注がれると、ルドルフのトレーナーの手で手早くお茶が用意された。 - 145121/11/09(火) 23:48:51
続!
ちょっと書き始めるのおそかったので、また続きは明日…!
メモ:春望詞と十離詩と秋泉 - 146二次元好きの匿名さん21/11/10(水) 07:37:59
初々しいなぁ…いい…
- 147二次元好きの匿名さん21/11/10(水) 15:11:44
趣味?の範囲広いっすね
お酒に洋楽に漢文に…俺が知らないだけなのかもしれないけど - 148二次元好きの匿名さん21/11/10(水) 20:11:35
規約でたけどこのスレには関係ないからセーフ!
- 149121/11/10(水) 21:18:42
- 150二次元好きの匿名さん21/11/10(水) 22:59:35
はぁ〜〜〜イイ女とイイ男しかいねぇ〜〜
- 151詩伎のうた0321/11/10(水) 23:06:04
の続きというより一場面という形で。今日は保守替わりで明日以降つづきます…!
皇帝が直接選んだお茶を堪能した二人。しばらく歓談の時が続いたが、家主であるルドルフのトレーナーより一つ提案があった。書斎があるというので彼に従って壁面を本棚とした一室に足を踏み入れる。本の匂いが微かにするその部屋で歓談する。書物を手に取って話に花を咲かせる両トレーナー。親し気に言葉を交わす二人を見て意外そうな顔をするフラッシュを見てルドルフが声をかける。
「珍しく気が合うみたいでね。あの二人。喜ばしいことだ」
「珍しい、ですか?」
「ああ、ちょっとトレーナー君は気難しいところあるからね。いや、人付き合いが下手というわけではないし、私と違って周囲に威圧感を与えてしまうというわけでもないのだが、知己朋友といえる間柄はそうはいない。君の良人には感謝するよ」
「そ、そんなことは……。あの、トレーナーさんがいつもお世話になっています」
新妻のような言葉を口にするフラッシュを微笑ましく見るルドルフ。
「いや、助けられているのはトレーナー君の方さ。指導力に優れた人材が教官を務めてくれたことには感謝している。君らの境遇に付けこむ形に結果的にはなってしまったのだし」
「いえ、そんな」
彼から聞いた話だと、むしろ手を差し伸べてくれたといった方が正しそうである。自身とそのトレーナーがつかんだ栄光は大きい。当然、次も専任担当を期待される。だが当時の彼は過去の栄光と、自分でも気が付かなかった傷心にそんな彼を浮いた形にさせるのではなく、サブトレーナーとしての立場を早々に与えたことによる安定は大きいように思う。もう一つ個人的な都合を言えばその選択肢を与えられたお陰でトレーナーが新たな専任対象を持つことが無く、想定より一緒の時間をたくさん作ることが出来たおかげで今の関係があるとも言えるので、感謝したいのは自分たちの方かもしれない。
「それと、君にも感謝していると思うよ。エイシンフラッシュ」
「私にですか?」
「ああ、やっぱり君がこちらに来てからの彼はやはり溌剌としているからね。私から見ていてもわかるくらいだ。チーフとして顔を合わせていた我がトレーナー君から見れば猶更だろう」
確かに自分と再会したときの彼の貌はとても放ってはおけないものだったが、学園でもその兆しをみせていたのだろうか。
続!
- 152二次元好きの匿名さん21/11/11(木) 07:32:28
関係が成熟している‥
- 153二次元好きの匿名さん21/11/11(木) 11:45:15
いかんいかん
油断すると感想が気ぶりジジィになってしまう - 154二次元好きの匿名さん21/11/11(木) 20:54:29
完成された関係性…
- 155二次元好きの匿名さん21/11/11(木) 21:11:49
このレスは削除されています
- 156121/11/12(金) 00:00:28
- 157詩伎のうた0421/11/12(金) 00:01:00
「おや、気になるかな。君もドイツで彼のことを引きずっていた時期の彼のことが」
「え?それは……」
気にならないといえば嘘になるが、かといってあまり詮索するのも申し訳ない気持ちになる。フラッシュは耳を少し前に倒したり立てたりしていたが、ちらりと愛しい彼の横顔に視線を向ける。視線に気が付いてこちらに笑みを向けてくれるだけで嬉しくなってしまう自らの単純さにフラッシュは驚く。フラッシュの青い瞳の眼差しが、トレーナーの黒い瞳と重なる。言葉を交わさずとも、音ひとつすら立てずに周囲に伝播しそうな甘い雰囲気に、流石にルドルフも目を丸くしてから自らのトレーナーに目配せする。その意味を察した彼女のトレーナーは目線を合わせないようにするのであった。ルドルフはわかってはいたが、それでも少々不満げである。
「後輩相手に少しくらい意地を張るのもいいのでは?」
「張り合うのかい?これに?」
はっと我に返ったフラッシュとトレーナーは自分たちのしていたことに気が付いて思わず恐縮する。慌ててルドルフのトレーナーはフォローに入る。
「いや、言葉選びが悪かった。君たちを悪く言うつもりはないです。そうしてお互い思い通わせていることを伝えあえるというのは本当に素晴らしいことなのだから。ただ、私とルドルフがそういうのをというのは、ね」
口の端を強張らせる彼に対して、ふっとルドルフは鼻で笑う。
「私としては君とそういう雰囲気になるのも吝かではないつもりだが?」
「……人前では少々ね」
「では、人前でないところには期待してもいいのかな?」
憮然とする彼に対して存外明け透けな態度を取るルドルフが、フラッシュやそのトレーナーには新鮮に見えた。ふっと軽く微笑むルドルフ。
「……私もいささか君たちに当てられたようだ。いや、新鮮でね。仲睦まじい二人という意味では、あの生徒会の面々もそうだったが、エアグルーヴにしろブライアンにしろ、君たちみたいな甘い関係というよりは一足先に所帯じみた雰囲気を出していてね。あまり当てられることがなかった。敢えて私の周囲で言えばマルゼンスキーのところかな」
大恋愛劇を引退の場でみせつけた彼女と比せられるというと、自分たちのことを客体視できていなかったフラッシュのトレーナーにとっては意外なところであった。フラッシュも彼と目を合わせれば、目線を少しだけ下げて尻尾を小さく振る。 - 158詩伎のうた0521/11/12(金) 00:04:42
「ん?心外かね?いや、君たちの顛末も相当なものだとは思うのだが。いや、盈盈一水たる一年と半年が余計に燃え上がらせたからこそかな?どう思う?トレーナー君」
話を振られてルドルフのトレーナーは困り顔である。仲の睦まじさというのなら、今ほどではないにしろ現役時代もエイシンフラッシュとそのトレーナーは傍目にも明らかであった。
見方によっては恋人同士のそれに見えてしまう場合もあっただろう。この場に居る二人はどこからどうみても恋人同士なので比較にはならないのだが。
ともあれ、一応当時の彼としては、自覚としてはそういう想いではなかったとは彼からは聞いている。すると盈盈一水というのも少し違う気はするが、傷心の類には違わないか。彼と共に眺めていた詩集に目を落とす。ルドルフが少し覗き込もうとしたので開いたまま見せる。
「ふむ」
一言だけで済ませたルドルフに、フラッシュは興味を惹かれたのか表紙に目をやるが、タイトルが見えなかった。その様子に気が付いたフラッシュのトレーナーが彼女に声をかける。
「詩集だよ。解説のついたものになるね」
「詩集、ですか」
「そうだね。ここに収められているのは女性たちの漢詩になるかな。恋愛に関する詩も多い」
「成程…漢詩は余り存じ上げませんが」
勤勉なフラッシュとはいえ、流石に遠い存在となるが、恋愛詩と聞いて耳を少し立てていた。元々童話等の文学も好むフラッシュであるので興味は惹かれる。その様子を見てフラッシュのトレーナーはざっくりと説明する。
「漢詩というと、唐代が盛んで人気も高い。女性で文人として名を成した人物はそうは多くないけれど、唐代にも著名な女性詩人に類する人物も居る」
頷いたルドルフのトレーナーは、二名の名を挙げる。
「薛濤に魚玄機ですね。二人とも詩伎と呼ばれている」
「詩伎?」
首を傾げるフラッシュに捕捉するルドルフ。
「ああ、詩に優れた遊女くらいに思ってもらえればいいかもしれない」
端的な説明だが、なんとなくイメージはついたフラッシュは成程、と相槌を打つ。芸事の一つとしての詩ということなのだろう。
「日本だと、森鴎外が魚玄機を取り上げているから彼女の方が有名かもしれない」
森鴎外なら「舞姫」に目を通したのでフラッシュも知っている。とはいえその代表作自体はフラッシュとしては手元に置きたくなる類の小説ではなかったが。 - 159121/11/12(金) 00:05:22
続!
甘さもへったくれもなくてスマヌ…!
また明日! - 160二次元好きの匿名さん21/11/12(金) 00:06:30
(せやろか)
- 161二次元好きの匿名さん21/11/12(金) 00:09:51
(甘さもへったくれもない姿か?これが…)
- 162二次元好きの匿名さん21/11/12(金) 00:10:33
いつもありがとう😭
- 163二次元好きの匿名さん21/11/12(金) 00:10:49
(いつもよりは)甘くない
(甘くないとはいってない) - 164二次元好きの匿名さん21/11/12(金) 00:12:51
マックスコーヒーがシュガースティック2本入れたカップコーヒーになったくらいの感覚(わかりづらい)
要は充分甘いよ!好き! - 165二次元好きの匿名さん21/11/12(金) 03:07:19
生徒会組は全員恋仲すっとばして夫婦みたいなイメージ容易だからな。その点フラッシュってすげえよな、最後までラブロマンスたっぷりだもん。
- 166二次元好きの匿名さん21/11/12(金) 10:45:58
空気が良い
- 167二次元好きの匿名さん21/11/12(金) 20:38:54
- 168121/11/12(金) 22:42:43
- 169121/11/12(金) 22:44:18
- 170詩伎のうた0621/11/12(金) 22:47:44
フラッシュのトレーナーは彼女の表情を見てなんとなくどんな感想を抱いたか想像はついたが、明治の文豪ではなく唐代の女詩人二人の概要をフラッシュに伝える。フラッシュはそれに聞き耳を立てる。
「魚玄機は遊女から始まって、愛妾として迎え入れられるも男に捨てられてその後、女道士に。新たに男を愛するも、侍女にその男を取られたとして侍女をその手にかけてその罪で刑場の露と消えた。痴情の縺れで最期は身を滅ぼしてしまった人だ。若くして亡くなり才を惜しまれた」
意中の人がその手から離れていくときの苦しみは、同じものではないが少しだけ理解ができる。同時に自分の愛した人が、女性を軽佻に扱う人ではなくよかったと思う。女道士ということは修道院に入ったものなのだろうか。とすると、俗世から身を置こうとして猶、また愛を求めてしまうものなのだろうか。
「もう一人の薛濤は当時一流の詩人たちとも広く交わっていて、詩を親しくしたと伝えられている。その中には白楽天や元稹といった特に著名な詩人の名もある。彼らから贈られた詩もあるんだよ。特に元稹とは非常に親しくした時期もあった。生涯を供にする仲にはならなかったようだけど」
「それでも、恋人のようなものではあったと」
「そういってしまっていいものかどうかはわからないけれど」
フラッシュのトレーナーはそうしてその男が詩伎に送った詩を示した。
贈薛濤、と贈る相手の記された詩。詩伎の美貌と詩才と人気を褒めそやす言葉、美辞麗句が並ぶその詩は最後に想いを一つつづる。
――別後相思隔煙水 菖蒲花發五雲高 - 171詩伎のうた0721/11/12(金) 23:04:43
「……つまり?」
真剣な顔でトレーナーの顔を覗くフラッシュ。青い瞳に吸い込まれそうになりながらも、端的に告げる。
「遠く離れていても貴女を思っています。貴女と見た景色を思い出す、といったところかな」
非常にざっくりとしてしまうが、意図はこういうことになる。
「なるほど、愛の言葉ですね」
「そうかもしれない」
深く納得したフラッシュに、トレーナーも頷く。月並みかもしれないが、だからこそ良いのかもしれない。横から二人を見ていたルドルフが悪戯心を表情から隠して、フラッシュのトレーナーに一言添える。
「君に置き換えたら、どうなるかな」
「俺に……」
逡巡するフラッシュのトレーナーから言葉がついてでる。自分と重ねたときに浮かぶ光景、それは草の上を駆ける黒髪の少女の姿。
「国を隔てていても、時が経っても君のターフでの姿を思い出す、かな……」
口にしてから急に恥ずかしくなったフラッシュのトレーナーは口をつむいでしまう。フラッシュと離れていた間のことがどうしても思い出される。時折眠れない夜を過ごしては、このような彼女の姿を幾度も思い返したのだから。その間にフラッシュに送った言葉は、息災であることを告げたそっけない文のみである。彼女とは恋仲ではないにしろ、彼女に向ける愛を素直に認めることができていたのなら、このような言葉も贈れたのであろうか。逡巡は腕にあてられた柔らかさに断ち切られる。
「愛の言葉、ですね」
「フラッシュ……」
腕を絡める彼女は、トレーナーのわずかな煩悶を見透かしたように告げる。
「あの間に欲しかった気持ちはありますけど……。今、沢山貰っていますから贅沢はいいません」
すまし顔の彼女を見て、愛バにとことん勝てない事を察した彼は、いつものようにすっかり降参してしまうのだった。一方、皇帝の優しい眼差しに隠れた羨望を、書斎の主はそ知らぬふりをした。 - 172121/11/12(金) 23:06:10
続!
更新量とスピードはそんなにないですがちまちま進めていきます。
違うネタに寄り道したらその時はその時でよろしくです。 - 173二次元好きの匿名さん21/11/12(金) 23:25:54
誰のSSが来ても美味いからな…問題無いぜ!
ほぼ毎日供給がしてもらえるんだ
感謝はすれど文句なんか欠片も無いんだ - 174二次元好きの匿名さん21/11/13(土) 07:12:36
ところ構わずいちゃつきやがって素晴らしい
- 175二次元好きの匿名さん21/11/13(土) 09:39:31
素晴らしい甘さ好きだよ
- 176二次元好きの匿名さん21/11/13(土) 17:46:31
魚玄機の男運の無さよ…
- 177二次元好きの匿名さん21/11/13(土) 18:13:41
柔らかさ……何が当たってるんでしょうかねぇ……
- 178121/11/13(土) 20:59:36
- 179二次元好きの匿名さん21/11/13(土) 21:35:34
part1から一気読みして追いついたぜ
推しカプのイチャイチャはいいもんだな…応援してます! - 180121/11/13(土) 22:02:56
- 181詩伎のうた0821/11/13(土) 22:05:52
ルドルフは二人の甘い雰囲気が解れたのを見計らって、確か、と言葉を向ける。
「彼女の代表的な詩は、友を送る詩だったかな」
言葉を向けられたフラッシュのトレーナーは我に返り、ええ、と続ける。
「送友人ですね。男性を送る詩と言われていますが」
ルドルフのトレーナーが、彼に差し出していた書の頁をぱらぱらと捲り、指を止める。
――水国兼葭夜霜有 月寒山色共蒼蒼 誰言千里自今夕 離夢杳如関塞長
詩を口ずさむと、その頁を開いたままフラッシュのトレーナーに渡して、フラッシュに詩の大意を話す。
「誰か、他人なのか目の前の男なのかは解釈次第だけれども、今宵より千里の別れですね、なんて言うけれど。私にはもっと遠い距離に感じられて、別離の夢に貴方を見るでしょう、といったところかな」
彼を送り、その彼の夢を見る。フラッシュ自身は送られる側だったけれども、同じように夢は見た。
「……これも愛の言葉、ですね」
ルドルフのトレーナーは、ふむ、と一呼吸置く。
「かもしれないし、彼女は詩伎なのだからいわゆるリップサービスの類かもしれない。けれどもこうして詩に親しむ分には自由に受け取ればよいと思います。私たちのような素人に」
「……トレーナーさんは、どう思いますか?」
真剣な表情で再度自らのトレーナーを見つめるフラッシュ。トレーナーは頬をぽりぽり掻いて、フラッシュから何故か感じる圧を受け流そうとしながら答える。
「俺?俺はそうだね。フラッシュの言う通り、愛から出た言葉だと思う」
「本当にそう思っていらっしゃいますか?」
ぐいっと身を寄せながらもう一度尋ねるフラッシュは、まるで不実を訴える妻のようにも見える。フラッシュも先ほどの彼と同じように別離の時を思い出していた。彼女の場合は別れていた間ではなくて、詩にあらわれた別離の時の方ではあるが。悔いがないなんて綺麗ごとだけではなく、貴方と離れれば、きっと貴方を毎夜夢にみてしまうでしょう、なんて、辛いという気持ちをこの人に一言でも伝えられていたら、貴方は受け取ってくれたのでしょうか。ふわっと優しく少し逞しい腕を背中に回されるのを感じると、無意識に出ていた震えが収まる。
「少なくとも今の俺は、そう受け取る」
あの頃から変わらない真摯な表情に、心臓が高鳴る。 - 182詩伎のうた0921/11/13(土) 22:51:54
「ん……」
不意打ちで唇が重なる。どんな言葉より私の不安を止めてくれる彼の唇。合わせて彼の掌に指を這わせる。
が、こほんという咳払いが二人が重なるのを止める。
「その、君たちを邪魔するつもりはないのだけれど、一応私たちもいるのだけはお忘れなく」
慌てて居住まいをただすが、繋がれた手は離れないままだ。ルドルフはそれを目にした後、自分のパートナーに悪戯っぽく微笑む。
「何、私としては珍しいものが見れるので構わないところだが。流石に学園の往来でのことならば注意の一つもするがね」
「君なぁ……」
肩を落とした書斎の主。が、瞳が爛々としはじめている自身のパートナーの姿を見て、少し慌てる。
「ルドルフ、まさか君……」
「?何かな?トレーナー君」
腕を上げて手を振るルドルフに、先ほどのような熱の強さは引いていたことに、彼はほっと胸を撫でおろす。
「……何か言いたげな我がトレーナー君は良しとして。かの詩伎にはもう少し直情的なうたもあるのだったか」
「ああ、春望詞」
フラッシュのトレーナーにとっても印象深い詩であった。
「そちらの方が、エイシンフラッシュには似合って見えるかもしれないな。そちらから一首となれば、こちらになるか」
――花開不同賞 花落不同悲 欲問相思處 花開花落時
ルドルフの滑らかな詩吟に、フラッシュのトレーナーが文字に指を這わせてフラッシュに見せる。
「花開く時の楽しみ、花散る時の悲しみを同じくできないですが、離れている貴方も同じ思いでいるのでしょうか、といったところか」
この詩にふさわしいのは、別離の間ではなく、彼の出張の時の方かもしれない。仕事を終えるとついつい彼は何をしているんだろうか、なんて頭に浮かべてしまっていた日々。この詩はもの悲し気にも聞こえるけれど、あの時は寂しい思いもきっちり伝え合えていたから悲しみは無かった。あの時このような問いを出したら、彼はこう答えるだろう。同じ気持ちだと。握られた手がその想像が正しいことを証明している。
そんな幾度も甘い空間を作り出す二人に呆れていた書斎の主は、二人を焚きつけて心底楽しそうな皇帝に耳元で囁かれる。反論を試みようとしたが、爛々とした熱を秘めたその皇帝の瞳に見据えられた上に肩を寄せられると、熱いカップルに恨み言を述べたくなるのを抑えて、今晩起こりうることを色々と観念するのであった。 - 183121/11/13(土) 22:53:34
いったん了!
またルドトレさんの家に遊びに来た話はまだやりますが、区切りとしては一区切りです。
サウナin四人とかもやりたい… - 184二次元好きの匿名さん21/11/14(日) 01:12:02
- 185二次元好きの匿名さん21/11/14(日) 09:12:48
チーフことルドトレが巻き込まれ事故みたいになってる…!
- 186二次元好きの匿名さん21/11/14(日) 17:43:31
抵抗は諦めてイチャイチャするがよい…!
- 187二次元好きの匿名さん21/11/14(日) 22:12:20
一応保守
- 188121/11/14(日) 22:32:28
- 189121/11/14(日) 22:33:58
- 190詩伎おまけ0121/11/14(日) 22:35:14
――さて、薛濤と元稹はこうした愛の交歓以外の詩もあってね。諸説はあるのだがそれはさて置き、彼女が失態を犯し、元稹に距離を置かれそうになったことがあった。
この時に元稹に送られたとされるのが十離詩だ。その名の通り十の詩からなる。
犬、筆、馬、鸚鵡、燕、珠、魚、鷹、竹、鏡。
この十があるべきところに戻れない身の上を嘆く詩となっている。ある種物凄く直接的にも映るね。最初の犬の一つをとってみても、主に元に戻れないことが惨めであることをうたっている。
さて、男性にはこれはどう見えるのだろうな。トレーナー君?君ならどう思うかね。可愛らしい、いじらしいと思うかな?ふむ、では君はどうかな?エイシンフラッシュにこう引き留められたならどう思う?ふふ、そんな困った顔をすることはないさ。いや、君の大事な彼をいじめているつもりはないよ、エイシンフラッシュ。
ただね、ふと夏炉冬扇とされたことのことを思ってしまったのさ。いや、君のトレーナーや、我がトレーナー君が我々にそういう扱いをするとは考えていないよ。だがトレーナーという立場の者はよく言うじゃないか。走りに惚れた、と。いや、それを責めるつもりはない。ウマ娘とその専属トレーナーという関係は、結果が伴わなかったり相性がよくなかったりすれば一年たりとも持たない場合も少なくはないし、引退で関係は一区切りとなる。それは正しい在り方だろう。
それでも、走りに惚れたと言われていたなら別離の時にウマ娘側がまだ傍にいたいとしたとき、立つ瀬がないなと感じてね。トレーナー側から求められたものが、引退の時には既に失われているのだから。トレーナー君、君だって最初はそうやって声をかけてくれただろう?試験の時には別の答えを用意してくれたがね。
詩伎は過失からの別離の危機を、自らの詩才で回避したわけだが、我々ウマ娘は別離の時が訪れた場合、どうやってトレーナーの心を掴めばよいのだろうね。その時には、彼を魅了した走りは失われているのだから。
ふむ、君のトレーナーは反論があるみたいだな。エイシンフラッシュ。――成程。走りに惚れるというのはあり方に惚れるということ。だから引退して衰えたから、という問題ではないと。走りにはウマ娘の在り方が顕れると。彼女がパティシエの道を歩んでも同じように輝かしさに惚れるだろうということだね。 - 191詩伎おまけ0221/11/14(日) 23:03:50
エイシンフラッシュ、君にもそれは伝わっていたのか。捨てられた、などと考えたわけではないということだな。だからこそ辛かったと。彼が確かに自分を想ってくれていても、それ以上に踏み込むことはないのではないかと思えて。確かにあの様子では彼から踏み込むことはなかったろうからね。君が本当に彼に求めていたものを得る為には待っているだけではいけなかったということか。
ん?トレーナー君、どうしたのだね?いや、だから彼をいじめているわけではないよ。ほんの少しばかり、同じウマ娘として、パートナーに思慕の情を向けたものとして、当時の彼女に同情しただけさ。君と道を歩む前の私ならば到底考えられぬことだろう?恋愛映画に感情移入できなかったことを君に珍しがられていたころの私ならばね。何故そこで溜息をつく?
――失礼、私はまだ恋路については未熟のようだ。情けないことだがね。他人事のように捉えていたから、マルゼンスキーにはじめて指摘されたときには驚いたよ。
先ほども言ったが、エアグルーヴやブライアンも今は伴侶となっている彼らに各々恋をしたのだろうが、あり方が既に家族に近く見えてね。マルゼンスキーや君らのような形より、家族に対する愛に近いものだと思い込んでいた。ああ、我がトレーナー君に色々思い出させてしまったな。そう苦い顔はしなくていいのだが。
いや何、これが恋というものか、と自覚したのが嬉しくて、当時のトレーナー君のことを振り回してしまったことがあって。愚かしい勘違いを彼に強いたのだが、我がトレーナー君はこのような男だからね。佳い男だというのは保証するが、それはそれとして素直さが足りないものだから一悶着あったのだよ。レースに影響のあるようなことではないし、エアグルーヴ達によって既に生徒会長が栄誉職に近くなってしまった頃のことだから、表だって問題になるようなことは何一つなかったのだが。
いや、これ以上のことはまたいずれとしよう。本題を忘れていた。来年の聖蹄祭の資料と今後についての話をしなくてはいけなかった。トレーナー君が一通りまとめてくれているから、お茶にしようか。君の技術の精髄の込められたケーキをいただきつつ、聖蹄祭を彩るステージについて、第一歩を大いに語らうとしよう。トレーナー君が仕込んでくれた夕餉まではまだ時間があるのだしね。 - 192121/11/14(日) 23:04:38
了!
というわけでまた明日…!といっても更新できるかがイマイチ確約できませぬが - 193二次元好きの匿名さん21/11/14(日) 23:11:31
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- 194二次元好きの匿名さん21/11/14(日) 23:11:59
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- 195121/11/14(日) 23:21:04
- 196二次元好きの匿名さん21/11/14(日) 23:23:25
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- 197二次元好きの匿名さん21/11/14(日) 23:23:46
ありがとうございます、今日もよかった
いやはやしかし5スレ目突入かぁ、早いもんだねぇ - 198121/11/14(日) 23:37:00
- 199二次元好きの匿名さん21/11/14(日) 23:43:49
ありがてえありがてえ
読んでるだけで元気出るわ - 200二次元好きの匿名さん21/11/15(月) 00:05:33
200なら夫婦円満