(クロス注意) グリッドマンVSメフィラス星人

  • 1二次元好きの匿名さん23/04/30(日) 00:44:31
    気にしなくていいよ内海|あにまん掲示板https://bbs.animanch.com/img/1750494/749ほら全部あの宇宙人が悪かったんだからさグリッドマンや蓬たちが来てくれてなんとかなったしむしろ宇宙人の仕業で良かったよ。俺…bbs.animanch.com

    このスレは上記のスレで投下させてもらったSSのリメイクになります

    捏造設定モリモリ・これメフィラスというよりトレギアのやり口だよね?・投下遅くない?

    等々の問題はありますがお付き合いいただければ幸いです

  • 2二次元好きの匿名さん23/04/30(日) 00:49:27

    誰かの声を聴いた気がする。
    なにかの、悲鳴のような、助けを求めているような声。
    どこから聞こえているのかわからなくて、ただ声のする方に向かう。
    必死になって走って走って走って。
    もうすぐ、もうすぐ誰かのもとにたどり着く、助けることができる

    そうして伸ばした手が、虚しくすり抜けたその瞬間に意識がぷっつりと途切れた。

  • 3二次元好きの匿名さん23/04/30(日) 00:51:52

    「……ッ!!」
    そんな夢を見た響裕太は思わず飛び起きる。
    自分の体に掛けられていた水色の毛布がずり落ち、視界に飛び込んでくるのは最近見慣れたリビングの光景。
    テーブルのに座り、PCを弄っていた少女・宝多六花が怪訝そうに裕太を見つめていた。
    「あ、起きた」
    聞きなれた、けれどもいまだに胸が優しくなれる声。
    ざわついていた気持ちがそれだけで静まり、だんだんと自分の状況に気が付くようになる。
    「あれ、俺……」
    六花の家のリビング、そのソファの上。
    おそらく、ここで寝ていたのだと思うが、何故そんな事になっているのだろう。
    気持は落ち着いたが、どうにも頭が働かない。寝起きがよくない自覚はあるのだが、こうも頭が働かないのは久々だ。
    「30分ぐらい寝ちゃって起きなかったよ、具合悪いの?」
    「いや、特に痛い所とかは……」
    「急に倒れて寝ちゃうから、ホントびっくりした」
    「え……」
    「顔洗う? 洗面所あっちだから」
    「うん……ありがとう……」

  • 4二次元好きの匿名さん23/04/30(日) 00:52:53

    一言礼を述べると、裕太はいささかに重い足取りで洗面所に向かう。
    洗濯機と、洗濯籠、洗剤に歯磨き粉に化粧品が色々……ごちゃごちゃしているようでキチンと整理されているのは、やはり母親が店を経営しているセンスなのだろうか。
    思えば表のジャンクショップも雑多なようでどこに何があるのかきちんと解るようになっている。
    こういうの、見習わないといけないよなぁと、そんな事を考えつつ冷たい水でまずは自分の記憶を整理するところから始めた。
    「うぅん、確か」
    いつも通り、だったはずだ。
    学校が終わって六花と一緒に下校して、ジャンクショップ絢でコーヒーを一杯もらってから帰る。
    その予定のつもりでここまで来て、なんか、変な感じがしたから空を見上げたら変な円盤のようなものが見えて……
    そこから先の記憶が無い。
    また記憶喪失? と一瞬焦るが、あくまで記憶が無いのは其処から先目覚めるまでの間、それ以前の事はちゃんと覚えている。
    その事実に安堵し、大きく息を吐く。そう何度も記憶喪失など洒落にならない。
    「そういえば」
    先ほどの、奇妙な……なんとも後味の悪い夢はなんなのだろう。
    あと少しでつかめたはずなのに、誰かのもとに間に合ったはずなのに。
    「疲れてるのかな俺」
    左腕のプライマルアクセプターに目をやる。
    今もどこかで誰かのために戦っているであろう親友、その繋がりと絆の証。
    グリッドマンが自分を必要とするときに必ず応えるという気負いがああいう夢を見せたのではなかろうか。
    ……いや、なにか違う気もする。
    どうにも答えの出ないモヤモヤ感を水で無理矢理抑え込み、裕太はリビングへと戻る。

  • 5二次元好きの匿名さん23/04/30(日) 00:56:23

    そこには黒く艶やかな髪が揺れる、裕太にとって一番大切な人がいる。
    自然と裕太の声は優しく穏やかに、いつもの……あるいは何時まで経ってもな甘酸っぱい心で呼びかけるのだ。
    「ありがとう、六花」
    六花が振り替える。
    すこし、驚いたように目を見開いて、そこに困惑の色がある事に裕太は気が付いた。
    どうしたの? と問う前に、六花は裕太にとって想像もつかない言葉を紡ぐ
    「えっと……私の事、知ってる?」

  • 6二次元好きの匿名さん23/04/30(日) 00:57:29

    ジャンクショップ絢は店名のとおり、様々なジャンク品やリサイクル品を扱う店であるが奥は喫茶店があるという一風変わった場所だ。
    全く嚙み合わないのではないかと思うし、確かに商売繁盛という訳でもないが不思議と客足は一定程にはある。
    この絶妙なラインが仲間内で集まって駄弁っていても店に邪魔にならないといういい塩梅であった。
    「……大丈夫だよな」
    カウンター席に座り、コーヒーを口にしていた少年・内海将はそう嘆息する。
    「心配ですか?」
    「そりゃあ、目の前で倒れられたら誰だって心配するだろ」
    「ふふふ……」
    「な、なんだよ」
    「いえ、【見知らぬ少年】の事をそこまで案じられるとは、やはり君たちは素晴らしい心の持ち主だ」
    「別にそこまで……」
    「世の中には他人の事などどうでもよいと見過ごす者も多いのですよ。なのに君たちは彼を助け彼の事を気に掛けることができる、素晴らしい事です」
    「……」
    「博愛、と言いましたか。私の好きな言葉ですよ内海君」
    「あんたに其処まで言われると、なんかこそばゆいっつーか」
    こそばゆいどころの話ではない。内海にとって、それはまさに天にも昇るかのような一言だ。
    ずっと子供のころからあこがれていた存在が今目の前にいて、自分を評価してくれる、そんな状況に心躍らないものなどいないに決まっている。
    「しかして……美点と欠点は表裏一体。決してそれを忘れてはいけません」
    「表裏一体……」
    「えぇ、特に強い意志を以て突き進むものほど危ういものです。ほんの少し道筋をそらしてやるだけで簡単に破滅する」
    それは警句なのだろう。
    内海達よりもはるかに年上で想像もつかないであろう様々な物事を見聞きし、数多の戦いを潜り抜けてきた。
    はっきり言って、地球の存在など彼に比べればあまりにも矮小だ。それでも自分たちを友と呼んでくれる、そんなあまりにも得難い存在からの警句。
    ともなれば、思わず姿勢を正してしまうのも無理はない。
    「おや……ははは、内海君、そう畏まらなくても良いのですよ」
    「いや、だってさ」
    「ふふふふふ、内海君がそのような事にならないのはよくわかっているつもりです。あくまでそういう事もあるというだけのはな……?」
    「どうした?」
    「いえ、奥が何やら騒がしいような」

  • 7二次元好きの匿名さん23/04/30(日) 00:58:21

    2人が店の奥を覗き込む。
    聞こえてくるのは内海がよく知る少女の声と知らないはずの少年の声。
    「だから、私はあんたの事なんて知らないってば!」
    「そんなはずないよ六花!」
    「あぁもうっ、気安く呼ばないで!!」
    内海が知る限り、宝多六花がここまで声を荒げるなんて事は滅多にない。
    よもやあの少年が何かしでかしたのではないかと、奥へ踏み込もうとした時、件の2人と丁度鉢合わせてしまう。
    「うおっ」
    「きゃっ」
    「わっ」
    三者三様の悲鳴を上げ、内海と六花はなんとか衝突を避けるが、最後の少年・響裕太は思わずしりもちをついてしまった。
    「ご、ごめん、内海君」
    「いや、いんだけどさ。なに、どしたの六花さん」
    「うん、実は」
    「いつつつ……う、内海!」
    「ん? え? 誰?」
    見知らぬ少年に名前を呼ばれ、内海将もまた目を丸くする。
    宝多六花は、それを受けてただでさえ不機嫌な顔をますます歪めていた。
    「この子、さっきからずっと私の事知ってるってその一点張りで」
    「え? 知り合い?」
    「ちがう、内海君こそしらない?」
    「いや、俺もこんな目立つ赤い髪の知り合いいたら覚えてるよ」
    「だよね」
    「まってよ、二人とも!!」
    響裕太は、内海将と宝多六花の言葉を受けて殊更に大きく悲痛な声を出す。
    「六花も、内海も一体どうしちゃったのさ!?」
    「どうって、なに?」
    「いや、お前何言ってんだよ」
    三人の間に、異様な空気が流れだす。
    響裕太には恐怖が、宝多六花には苛立ちが、内海将には困惑が。その三つが交じり合い、見えない壁が少しづつ分厚くなってゆく。

  • 8二次元好きの匿名さん23/04/30(日) 00:59:15

    それは響裕太には全く看過できない事なのであろう、声を振り絞り二人に訴えかける。
    「二人とも、俺の事を覚えてないの!? 俺たちの事、グリッドマン同盟の事も!!」
    「グリッドマン……」
    「……同盟?」
    内海将と宝多六花は互いに顔を見合わせる。
    知らない人間から知らない言葉を知っていて当然の様に吐かれ、それが当然の反応だと言わんばかりに。
    「なに、そのグリッドマンって」
    「空想特撮シリーズのなんかか?」
    「ちがう、俺たちの友達だよ! このジャンクから俺がアクセスフラッシュして一緒に戦った」
    裕太が指さしたのは、店の片隅に鎮座するボロボロの古いPC。たしかに【ジャンク】と称するしかないようなそんな代物。
    「アクセスフラッシュって」
    内海将は乾いた笑いを上げ。
    「何、倒れた時に頭打ったの?」
    宝多六花は冷ややかな視線を向ける。
    「失礼、話に割り込ませていただけますかな?」
    そして、闇が彼らの間に滑り込んでくる。
    「!? な、あ……!?」
    裕太の前に現れたのは、まさに闇の異形だった。
    姿かたちこそ人間のそれに近い。しかし、その全身は漆黒で顔に当たる部分だけが銀に覆われている。
    目は青い結晶体で構成され、口に相当するであろう部位は橙の結晶。
    一目見て、地球の生物でないことが判る。
    「メフィラス」
    「メフィ……ラス……?」
    内海の弾んだ声に、裕太は絞り出すような声で問う。
    「そう、メフィラス星人。すっげぇだろ空想特撮シリーズの主人公種族だぜ」
    「私も最初観た時はびっくりしたけど、内海君から良い宇宙人だって聞かされて」
    「はははは、お恥ずかしい。この広いマルチバース、ある宇宙の出来事が別の宇宙では創作として扱われているなど珍しくもありませんが、よもや私が主人公の物語があるとは思いもよりませんでしたよ」

  • 9二次元好きの匿名さん23/04/30(日) 01:00:26

    「ふたり、とも……なにを、言って……」
    裕太の脳裏に浮かぶのは、宇宙のカオス化だった。
    もしやマッドオリジンのような存在が再び出現し、この宇宙がかつての事件と同じようにカオスに飲み込まれてしまったのではないのか。
    そこに思い至り、即座にジャンクに向かって呼びかけようとする。
    「グリッドマン、ですか」
    その機先を制したのはメフィラスと呼ばれた異形であった。
    裕太が思わずそれに反応して目を向けると、メフィラスは顎に手をやり、何かを思いだそうとするそぶりを見せる。
    そしていかにも今しがた思い出したかのようにこう語るのだ。
    「思い出しましたよ、たしか二十数年前ある宇宙を襲ったハイパーワールドの尖兵の名前でしたね」
    「ハイパーワールド?」
    「えぇ、私も全容は把握していないのですが、コンピューターネットワークのように情報やエネルギーが行き交う世界だとか」
    「メフィラスでも知らない事があるの?」
    「勿論、私たちは神ではありません。知らないことなど山ほどあるのですよ」
    メフィラスは嗤う。
    裕太にはそれが何かとてつもなく不快な嘲笑の様に聞こえる。
    だというのに、眼前の2人はそれをむしろ好ましいもののように捉えている。
    「お、でたなメフィラス星人の十八番の科白」
    「あんなに色々知ってていろいろできるのに、そう言えるのって素直にすごいよ」
    三人の笑い声が店の中に響く。
    「グリッドマン! そう、グリッドマン! かつてある宇宙にやってきて言葉巧みに三人の少年少女を騙し操り、彼らを利用して世界に混乱をもたらしたハイパーエージェント!」
    「ちがう!グリッドマンはそんな事をしない!」
    「じゃあ、そのグリッドマンがやって来たって事か!?」
    「内海!!」
    「可能性は否定しきれません、そも私が再びここに戻ってきたのは、何か異変の予兆を捉えたからこそ!!」
    「じゃあ、やっぱりまた戦いが起きるんだね」
    「六花!! やめて、そいつの言葉を聞かないで!!」
    裕太の言葉が二人に何一つとして届かない。
    まるで自分がその場に居ないように話が進んでいくその光景は、裕太にとって質の悪い冗談が大真面目に行われているようにしか見えない。
    現実味が失われ、頭がくらくらしてくる。

  • 10二次元好きの匿名さん23/04/30(日) 01:01:21

    光が傾き、視界が歪む。
    闇が深まり、影が差す。
    親友の顔も、愛する人の顔も見えず、ただ、メフィラス星人の青い目だけがそこで妖しく輝く。
    「ま、何が来ても俺たちは負けないけどな!」
    「内海君、またそれ?」
    「なんだよ、六花さんだってそのつもりでしょ」
    「まぁ、善処はするけど……」
    「ご安心ください、何が来ようとまた我々三人が力を合わせればきっと勝てますとも……そう、この【メフィラス同盟】ならば!」
    メフィラス同盟? なんだ、それは。
    ちがう、知らない、響裕太と宝多六花と内海将はグリッドマン同盟だ。
    裕太にグリッドマン同盟として戦った記憶はない。けれども、その想いをグリッドマンから教えてもらった。
    決意と勇気があり、使命と意思があった。迷いと苦悩、対立と嘆きがあった。
    絆と友情があり、驚きと発見があり、覚醒と覚悟があり、出会いと別れがあった。
    たった二ヶ月、けれどもとてもとても眩く羨ましいほど素晴らしい日々。
    グリッドマンと六花と内海の三人で過ごした時間、裕太が受け継いだ絆。それがこの上なく汚らわしいもので塗りつぶされようとしていた。
    それを自覚した途端、裕太の心にジワリと何かが広がる。
    戸惑いが反転する、穏やかな少年の心に怒りが灯る。
    故にこそ、悪魔はそれを見逃さない。
    『なんという、顔をしているのですか響裕太君』
    心の中に直接響くような、いや実際にこれは心に直接話しかけているのだろう。六花と内海はメフィラスの声に何の反応も示していない。
    だがそれ故にこそ嘲りの色は益々以て強く、耳にするだけで吐き気を催しそうだ。
    「おれの、名前……!」
    『無論、知っていますとも。グリッドマンの相棒・響裕太、君の勇名は聞き及んでおりました』
    「お前は……一体、何が目的で、こんな……!」
    『目的? 目的ですか? ふふふふ、私の目的はただ一つグリッドマンの抹殺!』
    「グリッドマンの……!!」
    友の名を出され、裕太は反射的に身構える。
    アレクシス・ケリヴ、マッドオリジンに続く第三の敵、それを前にしていつまでも怯んでいるほど裕太は惰弱ではない。
    相対し、にらみ合う裕太とメフィラス。
    裕太の瞳に激しい炎が宿るのと対照的に、メフィラスのそれにはぞっとする様な冷徹な光が宿る。

  • 11二次元好きの匿名さん23/04/30(日) 01:02:56

    『響裕太君、グリッドマンの強さとは何だと思いますか?』
    「グリッドマンの強さ?」
    『グリッドマンは物質宇宙では意思を持つエネルギー体にしかすぎない。誰かを器としなければ形を保つことすら困難で、なおかつそれを成しても強靭とは言い難い』
    「……グリッドマンは独りじゃない」
    そう、裕太はグリッドマンの強さを知っている。
    グリッドマンは常にだれかと一緒だった、数多垣間見たユニバースの中でもグリッドマンのみで戦った記憶は一つもない。
    グリッドマンは、多くの仲間に恵まれたからこそ戦ってこれた。そして自分もその一人だとその程度には裕太もうぬぼれている。
    『そう! その通りですよ! それこそグリッドマンの力の源! カーンデジファーもネオカーンデジファーもアレクシス・ケリヴもマッドオリジンも皆それに敗れた!』
    仰々しく芝居がかった物言いで、メフィラスはグリッドマンを嘲る。
    『特に君は興味深い。今までグリッドマンと一体化を果たした人間は何人かいましたが、あれほどまでにグリッドマンに影響を及ぼした人間は君をおいてほかにない』
    「……なにが、言いたいんだ」
    『ふふふふふ、響裕太君、私とゲームをしようではないか』
    唐突な話に、裕太は面食らう。
    ゲームなどしている暇どない、六花と内海を早く元に戻さなければならない。
    メフィラスの人を食ったような物言いも重なり、裕太の苛立ちと焦燥が高まったその時であった。
    『宝多六花君と内海将君の記憶は改変させてもらいました』
    「!!??」
    事も無げに放たれた一言に、裕太は息を呑む。
    その反応が面白かったのであろう、メフィラスの目がさらに愉悦で歪んでゆくのが判った。
    「な、なんで、なんでそんな……」
    『言ったではありませんか、これはゲームです』
    「ゲーム? 一体、なんのゲーム……」
    『私にとって君を殺すことなど造作もない事です。が、私は暴力などという短絡的な手段を好みません』
    「……」
    『なればこそ、君たちの心に挑もうではありませんか』
    「心に?」
    『そう、他者との繋がりがグリッドマンの力ならば、それを打ち壊すことはグリッドマンへの完全勝利に等しい!』
    「その為に、六花と内海の記憶を……!」

  • 12二次元好きの匿名さん23/04/30(日) 01:03:39

    おおよそ考えられる限り最低の発想だった。
    暴力を短絡的などと嘯く一方で悪趣味極まりない策略を仕掛ける。
    物腰が柔らかいように見えて、どこまでも高圧的。
    メフィラス星人と名乗る異形の本質を裕太は今まさに垣間見ていた。
    『ゲームのルールはいたってシンプル、君がジャンクにたどり着きアクセスフラッシュを成功させれば君の勝ち、できなければ私の勝ちです』
    「そんなゲーム、俺は乗らない!」
    『まだ状況がわかっていないようだ。君の意志など関係ない、既にゲームは始まっているのですよ!』
    メフィラスの言は何一つとして間違っていない。
    裕太も六花も内海も、既にメフィラスの用意したゲームの盤上に配置されてしまっている。
    2人の記憶を封じられた時点で、裕太にゲームを拒否する権利は失われたのだ。
    『これより君は独りでここにたどり着くことは決してできません。かならず宝多六花と内海将の2人の力を借りねばならぬのです……二人を説き伏せここにおいでなさい』
    一方的に宣言し、メフィラスは片手を揚げる。
    そうして指を鳴らそうとした直前で思い出したようにつぶやいた。
    『そうそう、言い忘れてました。記憶を変えたのは二人だけではありません、この街の住民全てです』
    「な……!?」
    『プライマルアクセプターを通じてグリッドマンに助けを呼ぶのも無駄です。この近辺のパサルートは全て封じ障壁を張らせてもらいました、君の声はグリッドマンには届きませんよ』
    それはとどのつまり、響裕太はこの街においては孤立無援であることを示す。
    そんな絶望的な事実を告げ、メフィラスはニヤリと笑った。
    『では、ゲーム開始です』
    パチンと鳴る音が聞こえ、裕太の視界が一変する。
    そこは見慣れたジャンクショップ絢ではなく、見慣れたツツジ台の街の中。
    行き交う人々、鳴り響く雑踏、いくつもの声が混じる喧騒。
    いつもならば気にしない、気にも留めないそれが、何か異様なモノに見える。
    背中にじっとりと嫌な感触が広がり、注がれる視線に敵意がある。
    「グリッドマン!」
    友の名を呼べど、プライマルアクセプターは何も応えない。
    「グリッドマン……!」
    重ねれども、只管に重い沈黙だけがあるのみ。

  • 13二次元好きの匿名さん23/04/30(日) 01:05:47

    現実が裕太にのしかかる。
    自分たちの世界に侵略者が現れ、気づかぬままに違う記憶を植え付けられている。
    あの日の誓いも、教室で語った日々も、約束もこのままでは何もかもが消えてしまう。
    だからこそ、裕太は走り出す。仲間を友を愛する人を取り戻すために。
    されど、闇に沈む町はいつか見た悪夢にも似て。
    ただ、その深みの中に足を踏み込むだけであった。

  • 14二次元好きの匿名さん23/04/30(日) 01:07:30

    SIDE:GRIDMAN・OPはここまでになります
    Aパートはまた後で投下させていただきます

  • 15二次元好きの匿名さん23/04/30(日) 06:48:24

    すごい、前よりもっと面白くなって帰って来てる…!
    続き楽しみ!

  • 16二次元好きの匿名さん23/04/30(日) 07:50:48

    面白すぎるので期待

  • 17二次元好きの匿名さん23/04/30(日) 08:39:07

    序盤からもう展開が違う。楽しみだ。

  • 18二次元好きの匿名さん23/04/30(日) 16:01:04

    期待の保守

  • 19二次元好きの匿名さん23/04/30(日) 17:36:54

    自分の中のユニバースを出力できる人本当凄い

  • 20二次元好きの匿名さん23/04/30(日) 21:34:59

    保守

  • 21二次元好きの匿名さん23/04/30(日) 22:34:56

    メフィラスの悪辣さが本編やな。どうやって逆転するのか・・・?

  • 22二次元好きの匿名さん23/04/30(日) 23:39:46

    SIDE:GRIDMAN・Aパートを投下します

  • 23二次元好きの匿名さん23/04/30(日) 23:42:54

    夢を見ている。
    おそらくは、そのはずだ。
    余りにも重く辛く悲しい夢。
    何を観ているのかわからないはずなのに、ただただその夢に押しつぶされてしまいそうになる。
    藻掻いて手を伸ばす、誰かがこの手をとってくれると信じて。
    けれども、何時まで経っても手を取る誰かは現れず。
    夢の向こうからただ、何かを呼ぶ声が……
    《六花!》
    《目を覚まして!!》
    それで、その言葉通りに宝多六花は目を覚ます。
    あまりにも鋭く急激な、思わず呼吸すら止まってしまうほどの苦痛極まる目覚めだった。
    「………また……あの夢?」
    頭の奥がずしりと重い。
    まるで脳髄そのものが締め上げられるような頭痛がして本当に参ってしまう。
    夢の中と同じように……いや、この場合は「誰か」の事など期待するまでもなく、手を伸ばす先は解っている。
    枕元にあった小さなプラスチックのタブレットケース、白地にシンプルにメーカーのイニシャルであろうか「EE」とだけ記された何の変哲もない代物だ。
    中に入っていた赤いタブレットを二粒ばかり取り出して、口の中でかみ砕く。
    タブレットが唾液に混ざり、溶けて広がり体に染みてゆく感覚。それと同時に、頭痛は静まっていく。
    「んぅ……」
    ため息とともに、頭を振りかぶる。
    ここ数日ずっとこうだ、眠ると奇妙な夢を見て酷い頭痛と共に目が覚める。
    おかげでこのタブレットが手放せない。
    「まだこんな時間じゃん」
    未だ不快感の残る頭で時計を確認すれば、朝の5時。
    なんという中途半端な時間、こういう目覚めが一番困る
    「あぁ~、もうどうしようぉ」
    不調を抱えたまま二度寝などすれば、寝過ごしてしまう自信がある。
    寝坊して遅刻しましたなんて、そんな小学生な事絶対にできない。
    そうなるとどうにも時間を持て余してしまう訳で……どうしようかと、ベットから抜け出てあてもなく家の中をうろつき始めた。

  • 24二次元好きの匿名さん23/04/30(日) 23:44:38

    自然と足は店の中へと向かう。
    六花には需要があるのかどうかよくわからない品々が並ぶ店内。
    けど、これらを求めてお客さんはやってくる。いらないかどうかなんて、結局は人それぞれだ。
    「にしたって……」
    カウンター横の、いかにもな古いパソコンに目が行く。
    パーツ単位、ならばともかくこのパソコンそのものを欲しがる人なんているのだろうか。
    「ホント、ママも変なモノ仕入れてくるんだから」
    このPCもいつ頃からあるのかさっぱり思い出せない、スペースばかりとって邪魔だから早く売れてほしいのだが。
    とはいえ、当のママはご近所さんのお付き合いで旅行中、あと数日は帰ってこない訳で……
    メフィラスに店番をしてもらっていて本当に助かっている。
    本当はメフィラスはそんな事をするためにここにいる訳ではないのに。
    「グリッドマン……か」
    私たちの新しい敵、メフィラスが再びこの世界にやってきた理由。
    それを考えるだけで、また頭が重くなってくる。怪獣なんて本当は出てこない方が良いに決まってるのだから。
    けれども、あの日あの丘で“私たち三人”はこれからもメフィラスと共に関わってゆくことを決めた。
    なら、自分も一緒に立ち向かう事に躊躇いはない。

    ほんの少し決意を固め、六花は奥へ戻ってゆく。
    ジャンクに映る、人影にはついぞ気が付かなかった。

  • 25二次元好きの匿名さん23/04/30(日) 23:46:48

    時間を持て余すと言えど、時間は人間の手ではどうしようもない。
    光陰矢の如しというが、べつに年月ばかりの話ではなく時間というのは浪費しようとすればあっという間に浪費できてしまうものだ。
    それに朝というのは妙に時間の流れが早い、一分の違いがその後に大きな違いを生み出すもので。
    そう考えると、学校もあるのだし早く起きるというのは別に悪い事ではない……気もする。
    「うーっす、おはよう……あれ、六花さん早いじゃん」
    「あ、内海君おはよう」
    未だ人がまばらな教室で突っ伏していた六花は、内海の声に反応してなにやら重たい様子で顔を上げる。
    「いやいやいやいや、なに、どしたの」
    「あぁ、うん、ちょっと寝不足」
    「えぇ、大丈夫かよ」
    「内海君のほうこそ、なんか顔色良くないよ」
    六花も今の自分があんまり人に見られたくない顔をしてるのは自覚しているが、内海の方も大分様子が悪い。
    指摘されて内海は少しばかり顔をしかめる。
    「実は、俺も最近夜あんま寝てないんだよ」
    「もしかして、なにか変な夢見たりしてる?」
    六花の問いに、内海は一呼吸……いや、相応な逡巡を見せて重く口を開く。
    「人が、刺される夢みる」
    「……なにそれ」
    「いや、わかんねぇんだけど、なんか誰か刺されてて血まみれでさ、俺何にもできなくて突っ立ってるだけなんだよ」
    それは、まさに悪夢だろう。
    いや、荒唐無稽な悪夢の方がまだましかもしれない、人が刺され血まみれなど現実味がありすぎて逆に夢とは思えなくなる。
    ただでさえ、新しい敵の出現があるというのに、夜も悩まされるのではたまったものではない。
    「やっぱりさ、この夢もグリッドマンに関係あるのかな」
    六花の呟きは決してこじつけという訳ではない。
    あの赤い髪の少年……グリッドマンの手先が現れてから、六花は悪夢に悩まされるようになっていた。
    何度も何度も、眠るたびに見るあの夢。いったい自分は何に助けを求めていたのだろう?
    いや、誰に助けを求めていたのだろう? 自分の手を取ってくれる誰かがきっと来てくれると、何故かそんな甘い期待とその期待を苛む閉塞感。
    夢は記憶の整理だというが、もしそうならばあの夢が一体自分の何の記憶を整理しているというのか。
    内海が語る「誰かが刺された夢」と合わせて、誰かの干渉を受けていると考えてしまうのも無理はなかった。

  • 26二次元好きの匿名さん23/04/30(日) 23:47:57

    「その、グリッドマンなんだけどさ」
    「うん」
    「昨日、俺ん家の近くにいた」
    「えぇ!?」
    正確には、グリッドマンの手先の少年……なのだが、それを一々言い直すのも大変なので二人はあの赤い髪の少年を便宜上グリッドマンと称している。
    メフィラスが言うにはグリッドマンは人間の体を利用して活動し、特にグリッドマンの器である人間は「アクセプター」なる機器を身に着けているらしい。
    あの少年の左腕にあるものがまさにアクセプターであり、彼をグリッドマンと同一視するのも強ち間違ってはいないと。
    「それで、どうしたの?」
    「どうしたのっていうか……毎度同じさ、本当の事を思い出して、メフィラスに騙されてるの一点張り」
    「やっぱり?」
    「あぁ、あんまりにもしつこいんで、最終的には警察呼ぶぞって言って追い払った」
    世界に対する侵略者に警察というのもなんだかシュールな話だが、それで退いたのならば良いのだろうか?
    「六花さん所にも来たんだろ? それ以降は大丈夫なの?」
    「あぁうん、なんか近くでウロウロしてたみたいなんだけど、お兄ちゃんが追い払ってくれて」
    「マジかぁ、自宅が割れてるって結構きついよなぁ」
    「まぁ、家はメフィラスがいてくれてるから割と平気?」
    「俺のところは誰もいねぇし!」
    内海の冗談めかした叫びに、おもわず六花も吹き出してしまう。
    この友人のこういう所には割と助けられる時が多い。昔はそれで呆れたり衝突ばかりだったが、良さが分かってくれば印象は逆転するものだ。
    「……なぁ」
    「なに?」
    「あいつの事、説得できねぇかな」
    「あいつって、グリッドマン?」
    「あぁ」
    ハイパーワールドからやってくる、意思を持ったエネルギー体。
    物質世界では何もできない存在故に、グリッドマンは人間を利用するのだという。
    これまでも様々な世界に現れ、ある時は三人の中学生をまたある時は弟を喪い傷心であった女性に取り入って混乱を巻き起こしてきた。
    だとするならば、あの赤い髪の少年もただグリッドマンに利用されているだけではないだろうか?
    もし、利用されているだけだとするならば、逆に説得して助けることはできるのではないかと、そう内海は考えているのだ。

  • 27二次元好きの匿名さん23/04/30(日) 23:51:04

    「それは……」
    六花としても戦いを避けられるなら避けた方が良いというのは当然の認識だ。
    彼を説得できるのならそうした方が良いのかもしれない。
    しかして、口にしたのは否定の言葉である。
    「どうだろう」
    「どうだろうって……やってみないとわかんねーじゃん」
    「そうだけどさ、グリッドマンは私たちの敵だよ?」
    「グリッドマンはそうかもしれないけど、アイツまで敵って決まったわけじゃ」
    「アクセプターつけてたし」
    「いや、あいつの意志でつけてるかどうかって話だろ」
    まるで一年前を思い出す言い争いだ。
    あの時の2人も新条アカネにどう対処するかで喧嘩になってしまっていた。
    違いといえば、今回は内海が懐柔策で六花が強硬策という点。
    「なあ、どうしたんだよ」
    「どう……って」
    「なんか、いつもの六花さんらしくないぞ」
    「そんな事ないよ」
    つい、イラついて声を荒げてしまう。
    これはダメだとため息を吐き、あの赤いタブレットを取り出して口に放り込む。
    心なしか、タブレットを噛む音も荒々しい。
    「もしかして、なんかあった?」
    「なんかって?」
    「いや、グリッドマンと」
    「別に」
    ただ、あの赤い髪の少年の事を考えるとどういう訳か心がささくれ立つのだ。
    碌な会話もしたことが無いのに、向こうがこっちを知っているのだとまくしたてるあの声。
    変に目立つ赤い髪、子供っぽくて考えてる事が丸わかりなあの顔、そして……あの……あの……
    ダメだ、一番肝心なところが思い出せずに余計に苛々する。

  • 28二次元好きの匿名さん23/04/30(日) 23:52:49

    「あぁもう」
    早くタブレットが効いてくれないかと心で祈る。
    メフィラスからは「薬に頼るのは本来好まない」と苦言を呈されているが、こうも荒れるとどうしても必要になってしまう。
    朝も今も、なんだか気が付くと四六時中これを噛んでいるような気がして、すでにケース内のタブレットは残り僅か。
    「朝からキッツい」
    「大丈夫かよ……」
    「帰りたい」
    偽らざる本音だ。
    どうにも気分が良くなく、あのまま不貞寝をして学校をサボればよかった。
    もうHR終わったら体調不良で帰ってしまおうか、とそんな事を本気で考えた時、机から何か一枚の紙が墜ちたことに気が付く。
    内海がそれを拾い上げ確かめると、途端に苦虫を嚙み潰したかのような顔をする。
    「え? 何? どうしたの?」
    「いや、どうしたっつーか……」
    「それ、見せてよ」
    「やめといた方が良いよ?」
    「なんで」
    「だって……」
    「いいから、見せて」
    六花が少し強く迫ると内海は致し方なしといった面持ちでその紙切を渡す。
    そこに記されていたのは短く簡潔なメッセージ。
    誰が何の意図で、などと問う事も考える必要もないだろう、大方の予想はつくしその予想も間違ってはいないと確信がある。
    とうとうここにも来たのかという嫌悪と、まぁ来るだろうなという諦観。
    その両方が混ざり合い、六花もまた苦虫を嚙み潰したような顔をせざるを得ない。
    だがそれも一瞬の事、六花と内海は互いに視線を合わせ強く頷き合う。
    2人はメフィラス同盟だ、敵から逃げるという真似はしない。

    放課後、2Fのピロティで待っている

    その一文を確かめると噛んでいたタブレットを飲み込み、六花の瞳に光が宿るのであった。

  • 29二次元好きの匿名さん23/04/30(日) 23:54:15

    茜色に染まる校舎から生徒たちの声がする。
    昼間は雑多な音であるのに、この時間に聞こえるのは遠くからなんだか不思議なぐらいに調和した声や音。
    ある者は運動にある者は音楽にある者は芸術に。真剣にも不真面目にも上手にも下手にも。
    そのすべてが渾然一体となるのが学校という場所であり、人生のほんの一時だけを過ごす空間だけに存在する他にはない時間だった。
    尤も、宝多六花と内海将が向かうのは、そんな和やかな日常ではない。
    その日常の中に忍び寄るインベーダーとの対決の場だ
    この時間ともなると帰宅部はさっさと帰ってしまうし、部活のある者は各々の部室や活動の場に集まる。
    このような事なのでピロティで時間を潰そうという輩は少なく、密会の場としては意外と盲点かもしれなかった。
    それでも、まばらにいた生徒たちが一人二人と立ち去ってゆき、茜色が薄紫に変わろうという頃に残るは六花と内海だけになる。
    聞こえてくる足音、それだけで二人は誰かを察しそちらに向き直った。
    「六花、内海」
    現れた赤い髪の少年。
    初めて見た時より、幾ばくかやつれた感じを受けるが、それでも二人を見てどこか安心したように微笑む。
    「よかった、来てくれたんだね」
    あるいは、二人が来ない事も考えていたのだろうか。ある意味では当然かもしれないが。
    「なあ」
    最初に口火を切るのは内海である。
    「お前、メフィラスが俺たちを騙してるって言ったよな」
    「うん、メフィラスはグリッドマンを倒すために俺たちを引き裂こうとしてる」
    「逆、なんじゃないか?」
    「……逆?」
    「お前がグリッドマンに利用されてるんじゃないかって事だよ」
    少年は一瞬何を言われたのか理解できなかったのだろう、本当にぽかんという擬音が聞こえてきそうな顔をする。
    しかし、次にはその幼い外見からは信じられないほどの強い勢いで吠える。
    「違う! グリッドマンは誰かを利用するなんて事しない!!」
    「その保証がどこにあるんだよ」
    「それは……!」
    「なぁ、聞いてくれ、俺たちはお前を助けたい、お前がグリッドマンに利用されているなら、それを止めなきゃいけないんだ」
    内海の声には嘘偽りの色は一切ない。
    本当に、心の底から赤い髪の少年を助けたいのだと誰もが解る真剣さがそこにはあった。

  • 30二次元好きの匿名さん23/04/30(日) 23:55:33

    赤い髪の少年にもそれは解ったのだろう。
    ある意味で、内海の意図することは全てが伝わっている。
    「違う……それは、違うよ……」
    少年の顔が悲しみに歪む。
    内海の肩を掴み、必死になって訴える。
    「内海、思い出して! 俺の事、グリッドマンの事! 俺たちがグリッドマン同盟だったことを!」
    少年の言葉にも内海に負けないほどの強さがあった。
    互いに言いたいことを理解できる。内海は少年を救いたい、少年も内海に思い出してほしい。
    理解し、通じ合うからこそ両者の溝はただ深くなるばかり。
    「目を覚ませ! お前はグリッドマンに騙されてるんだよ!」
    「違う!」
    「メフィラスが言っていたぞ、グリッドマンは人間の心を利用する存在なんだって!」
    「グリッドマンには、俺たちが必要なんだ! 俺たちだってグリッドマンとこれからも関わっていくって決めたじゃないか!」
    「お前がそう思い込んでいるだけだろう!」
    「そうじゃない! 俺たちはグリッドマンと一緒に戦ってきたんだ、本当なんだよ!信じて!!」
    それは説得とは程遠い、心による殴り合いだ。
    両者ともに譲る気は一切なく……いや、譲ってしまったら終わりになってしまうからこそ、どれほど痛みを感じようと止めるわけにはいかない。
    だからこそ、少女の一言が二人の間に軛を入れる。
    「だったら」
    宝多六花は一歩を踏み出し、手を差し出す。
    だがそれは少年に救いを差し伸べることを意味しない。
    「その、アクセプターを渡して」
    「六花」
    「信じてほしいなら、まずそうするべきだよ」
    六花の言う事は、ある意味で正しい。
    信じてほしいというのであれば、まずは少年がグリッドマンとの関わりを絶ち己独りでここに立つべきだ。
    内海将と宝多六花にとって、グリッドマンとは敵であり少年もまた敵にしか過ぎない、ならば信用の証が必要になる。
    「それは……」
    少年は右手でアクセプターに触れる。それは迷いなのか、あるいはアクセプターを護ろうとしているのか。
    答えはすぐに出た。

  • 31二次元好きの匿名さん23/04/30(日) 23:58:48

    「それは、ダメだ……六花の言う事でも、それだけは」
    「なら信用できない」
    「六花!!」
    「あなたの一方的な言い分なんて、どうやって信じられるの」
    六花の心に怒りが芽吹く。
    宝多六花とは情の深い少女だ。自分が大切だと思った存在をどこまでも愛することができる。
    だからこそ、メフィラス同盟という絆に立ち入ろうとする少年に対して怒りを隠すことができない。
    「あなたに私たちの事なんかわからないのに、信じてくれなんて言葉、通じるわけないよ」
    「わかる」
    「なにを……」
    「新条アカネさんの事」
    親友の名を出され、六花の心臓が跳ね上がる。
    本当に誰よりも大切だからこそ二度と会えない、会ってはいけない友達の名。
    「俺は、六花と内海が戦った二ヶ月間の事を何も覚えていない」
    そう、二ヶ月。たった二ヶ月の思い出。
    「けど、六花が誰よりも新条さんの事を大切に思っていることを教えてもらった」
    私たちを作った神様、私の生まれた意味をくれた人。
    「グリッドマンからも、六花がどれだけ新条さんの為に必死だったかを教えてもらった」
    神様を助けるためにどこからかやってきたヒーロー。
    「六花は、新条さんの事を皆に知ってほしくて、だからあんなに必死に台本を書いたじゃないか」
    もう私たち外に誰も覚えていなくて、けど虚構だと言われてもいい、一人でも多くの人に彼女の事を知ってほしい。
    「思い出して六花、本当の事を」
    「やめて」
    「六花が頑張ったから、新条さんは自分の世界に帰れたんだ」
    「やめて」
    「絶対に、メフィラスのお陰なんかじゃない」
    「やめて」
    「新条さんは、俺の事も友達だって言ってくれた、何にも覚えてない俺の事まで。なら、本当に親友である六花が本当の事を覚えてな————」
    その瞬間、乾いた音が響いた。
    六花の手が、少年の頬を打っていた。

  • 32二次元好きの匿名さん23/05/01(月) 00:04:04

    時が、止まったようだった。
    誰もが、六花ですら想像できなかった事に驚き固まり、ただ静寂だけが流れる。
    どれほど時がたったのか、六花が辛うじて一言を絞り出す。
    「あなたが、あなたがどんな嘘をついてもかまわない……けど、アカネを出してまで嘘を言うのはやめて」
    打った手が痛む。
    それは人を殴るという経験の無さからか、あるいはもっと別の意味があるのか。
    「……本当に、何も覚えてないの?」
    少年は呟く。
    疑問や疑念や怒りとは無縁の、純粋な痛みと苦悩を伴った一言だった。
    「内海」
    「あ、あぁ」
    「俺がまたグリッドマンに選ばれたとき、ずっと一緒にいてくれるって言った事を覚えてる?」
    内海将は答えない。いや、答えられない。
    そんな事を知らないのだ、答えられるはずがない。
    「六花」
    少年の呼びかけに宝多六花は答えない。
    「俺、二ヶ月間何にも覚えてなくて、知らないうちに六花と仲良くなってて」
    「ずっと、言いたいことあってけど、時期逃しまくって、だから学祭の終わりに伝えようって決めて」
    「そうしてるうちに、怪獣がまた出て蓬や夢芽さんや暦さんやちせちゃんやレックスさんが来て、皆で学祭の準備やって」
    少年が言葉を紡ぐ。
    そのたびに、六花の中で言いようのない不快感が沸き上がる。
    自分が知っていることを大切な事を、名前も解らないどこかの誰かが自分と同じぐらい大切に思っているように騙っている。
    再び脳髄が締め上げられるな頭痛が起こり、目の前の事がまともに見えなくなってゆく。
    「あり得ないことが沢山おきて、けど皆でそれを乗り越えて」
    頭の奥、意識の向こうから誰かの声が木霊する。
    「それで、俺、六花に、こくは————」
    「やめて!!!」
    信じられない程の大声で、六花は少年の言葉を遮る。

  • 33二次元好きの匿名さん23/05/01(月) 00:04:57

    「私、あなたの事なんか知らない!!」
    それはもはや悲鳴だ。
    目の前の少年を否定しようとする激情と、自分でもなぜここまで心かき乱されるのかわからない錯乱。
    そして、それを止めようとする呼び声が交じり合い、ただ制御できない言葉だけが押し寄せる。
    「なんなのあなた!!」
    言ってはいけない、本当はそのはずだ。
    自分の本心であるはずなのに、心のどこかで食い止めようとする自分と、どこかからの悲痛な声がある。

    「本当に……気持ち悪い!!!」

    その、致命的な一言を言い放った時の少年の顔をどう表現すればいいのだろう。
    全てを打ち砕かれたような、自分そのものを否定されたかのような。
    きっと、絶望というものを形にしたらこうなるのであろうと、それを自覚した瞬間、今までにない苦痛が六花を襲う。
    「うぅ……うあぁあぁぁぁ……」
    まともに立つことが出来ず、その場に崩れ落ちる。
    少年はそんな六花を見て、はじかれた様に駆け寄ろうとした。

  • 34二次元好きの匿名さん23/05/01(月) 00:05:44

    「六花!!」
    「触るな!!」
    しかして、その少年を内海将が突き飛ばす。
    「おまえ、いったい何をしたんだよ!!!」
    六花を抱きかかえ、内海はこれまでにないほどの怒声を上げていた。
    「ちがう、俺、俺……」
    「内海君、なにかあったの!?」
    「ちょちょちょちょ、六花どうしたの!?」
    うろたえる少年の後ろから、少女の声がする。
    視線を向ければ、そこには六花の友達である二人の姿。
    「はっす、なみこ、手ぇ貸してくれ!! 六花さん、保健室に運ばないと!!」
    「お、おう」
    「わかった!」
    三人が、六花を支えその場を去ろうとする。
    少年もそれを追おうとするが、それを止めたのは内海の明確な拒絶と敵意の視線だった。
    それを受けて少年は動けなくなる。いつも、誰かのために走り出していた足が、誰の為でもなくなったことを突き付けられて。
    夜に沈む校舎に、彼はただ一人取り残される。
    その足元に、小さく赤いタブレットが一つ転がっていた。

  • 35二次元好きの匿名さん23/05/01(月) 00:06:43

    これにてSIDE:GRIDMAN・Aパート終了です
    明日明後日が仕事なので、次の投下は遅れるかもしれません
    スレが生き残っていたら、なんとかGW中の完結を目指したいと思います

  • 36二次元好きの匿名さん23/05/01(月) 00:07:41

    保守

  • 37二次元好きの匿名さん23/05/01(月) 00:22:32

    しんどい・・・

  • 38二次元好きの匿名さん23/05/01(月) 03:55:11

    楽しみに待ってます!

  • 39二次元好きの匿名さん23/05/01(月) 08:58:25

    うーんとってもシリアス

  • 40二次元好きの匿名さん23/05/01(月) 09:04:48

    これ元スレだとオチにこの人来るけどそれも書くのかな
    何にせよ期待

  • 41二次元好きの匿名さん23/05/01(月) 14:52:26

    メフィラスが成り代わってること以外は、内海と六花のままなのが余計辛いな…

  • 42二次元好きの匿名さん23/05/01(月) 20:07:45

    保守

  • 43二次元好きの匿名さん23/05/01(月) 21:27:47

    保守

  • 44二次元好きの匿名さん23/05/02(火) 01:03:54

  • 45二次元好きの匿名さん23/05/02(火) 06:05:16

    はしゆは

  • 46二次元好きの匿名さん23/05/02(火) 11:41:08

    ほしゅ

  • 47二次元好きの匿名さん23/05/02(火) 14:19:00

    保守

  • 48二次元好きの匿名さん23/05/02(火) 17:07:56

    保守

  • 49二次元好きの匿名さん23/05/02(火) 18:22:32

    ほほ

  • 50二次元好きの匿名さん23/05/02(火) 22:17:08

    保守

  • 51裕六・よもゆめ優生思想23/05/02(火) 22:24:58

    外星人メフィラス「マルチバース。私の好きな言葉です。」

  • 52裕六・よもゆめ優生思想23/05/02(火) 22:25:30

    外星人メフィラス「純愛。私の好きな言葉です。」

  • 53裕六・よもゆめ優生思想23/05/02(火) 22:26:09

    外星人メフィラス「相思相愛。私の好きな言葉です。」

  • 54二次元好きの匿名さん23/05/02(火) 23:19:11

  • 55二次元好きの匿名さん23/05/03(水) 00:07:54

    これよりSIDE:GRIDMAN・Bパート前半投下します

  • 56二次元好きの匿名さん23/05/03(水) 00:11:42

    夜の街に風が吹く。
    激しい訳でもない、むしろ穏やかな部類であるが肌に当たれば熱を奪うには十分だ。
    時間と共に凍えてゆく体を打ちっぱなしのコンクリートの上に放り出して、響裕太はぼんやりと生まれ育った街を眺める。
    あそこには今、どんな営みが行われているだろう。
    暖かな家庭があるのだろうか? 仲の良い友人同士でどこかへ遊びに出ているのだろうか? 愛する者同士の一時があるのだろうか?
    そのすべてから切り離されて、裕太はここにいる。
    あの日、メフィラスが現れた日から、帰る場所は失われた。
    父も母も自分を知らないと告げ慣れしたんだ家から追い出された。
    誰も自分の言葉を信じてくれず、携帯は何処にも繋がらない。
    それでも自分を知ってくれる人を、話を聞いてくれる人を捜し求めて彷徨う内に、とうとう警察まで呼ばれる始末。
    人目に付かない暗がりを行き、車の音がするたびに心臓が跳ね上がる逃避行を重ね、街のはずれにある水門に流れ着く。
    ここの管理が極めて杜撰であることに気が付いたのは僥倖と言うしかない、とりあえずの隠れ家を確保することは出来たのだから。
    今やすっかり(あまり認めたくないし良い事でもないが)自分のテリトリーと化した水門の屋上で無為な時間を過ごしていれば、腹からぐぅ…という間の抜けた音がする。
    「こんな時でも、腹減るんだ」
    空腹になるのは生理現象で当たり前の事なのだが、何故だか笑いが込み上げてくる。
    「俺、何やってるんだろう……」
    内海の怒りに満ちた目を思い出す。
    あんな風に怒る内海を裕太は初めて見た。
    裕太の知る内海は気が良くて、ウルトラマンが大好きで、結構いろんなところに気が付いてくれる本当に頼りになる一番の親友だ。
    そう、一番の親友。だからこそ、内海の怒りが裕太には解る。
    「本当に、何やってるんだろう……」
    裕太は二人を助けたい。
    本当の記憶を取り戻し、メフィラスの魔手から救い出したい。
    なのに、結果はこの様。
    「六花」
    世界で一番好きな少女の名を呟く。
    ずっとずっと好きで、ついに想いを伝えて確かめ合って。
    何があっても護り抜こうと、そう決めたのに、もだえ苦しむ六花を前に裕太はなにもできなかった。
    それがあまりにも惨めで情けなくて、悔しさで息苦しくなる。

  • 57二次元好きの匿名さん23/05/03(水) 00:12:58

    「……ッ」
    それでも涙をぬぐい、体を起こす。
    疲れ切っていう事を聞かなくなりつつある自分の体を、まだ動いてくれるのだからと奮い立たせる。
    響裕太はいつだって、考えるよりも体が動いてきた。
    誰かを護れるなら、大切な人たちを助けられるなら、どんな選択であろうと迷わず恐れず選ぶことができた。
    ただ独りであろうと、それが自分にしかできない自分のやるべき事なら駆け出す事できる。
    その魂は確かに強靭なのだろう、だが無敵であることを意味しない。
    いや、この世に傷つかないモノなど存在しない。
    肉体も心も行使すれば疲弊し傷が増えていく、それが当たり前すべての人々がそうなのだ。
    「それでも」
    ……尚、立ち上がる。
    ガラス玉のような瞳の中に涙に濡れようとも変わらぬ意思がある。
    どれほどまでに傷が増えようと深くなろうと、己のやるべきことがある限りこの少年は止まろうとしないだろう。
    それは、まさに美点であり、また欠点であり……悪魔が好むものであった。

    「ふふふふふ」

    闇が嗤う。
    裕太が振り返れば、そこには全ての元凶が佇んでいた。
    「メフィラス!!」
    「はははは、がんばっているようですね響裕太君」
    相も変わらず、他者を見下した物言いでメフィラスは拍手をする。
    称賛に見せかけ容易い挑発だった。
    「正直な話、君の事を侮っておりました。所詮が人間の子供、折れるまでに時間はかからないだろうと。いやはや、君の強情さには感心するばかりだ」
    まくしたてるメフィラスの言葉を無視して、裕太は問い詰めねばならぬことがあった。
    「……六花に、何をしたんだ」
    「はて? 何とは?」
    メフィラスはわざとらしく首を傾げる。
    だがそれに騙されるわけにはいかない、他の記憶を変えられた人々は内海を含めて皆身体に異常を来したものはいなかった。
    六花だけなのだ、あんな反応をしたのは。

  • 58二次元好きの匿名さん23/05/03(水) 00:14:51

    「とぼけるな! あんなに苦しんで、いったい何を……!」
    「何をと申されましても、最初に言った通り記憶の改変をしたまでの事……」
    本気なのか惚けているのか。
    ひょっとかしたら、などと軽い感じでこう述べるのだ。
    「その処置が、彼女にとってはあまりにも重すぎたのかもしれません。なにせ、繊細な方のようですから」
    人を、人間を本当に軽く玩具か何かとしか捉えていないと出ない一言。
    それを聞いた瞬間、裕太の中で何かがブツリとちぎれ雄たけびを上げてメフィラスに飛びかかっていた。
    虫も殺せぬほどに優しい少年がその面影もなく、獣のようにメフィラスにつかみかかる。
    しかし、その拳が届く直前に、メフィラスは忽然と姿を消した。
    裕太の体が宙に浮く、しまったと気が付いた時には既に手遅れ。
    間抜けにも、水門の縁を飛び越えてその体は地面への落下を————
    「う、わ……!」
    そうなる直前、裕太の服の襟を何かがつかみ強引に引き戻す。
    一瞬首が締まる感覚と、またもや宙を浮く感覚。
    そして、コンクリートに叩きつけられる痛みで、裕太は正気に戻る。
    「ぐ、あぁ……」
    背中が打ち付けられ、苦悶の声を上げる。
    その痛みを堪えようとする前に、今度は腹部に衝撃を叩きつけれた。
    「がっ……はっ……」
    メフィラスの右足が、裕太を踏みつけにしてる。
    その苦しさで呼吸もままならない。
    「いけませんよ響裕太君。暴力などという短絡的な手段は好まないと言ったではありませんか」
    好まないと言いつつ、足にかかる力は強くなってゆく。
    せめて悲鳴はあげまいと裕太はただ耐えるしかない。
    「ふぅむ」
    そんな裕太をしり目に、再びメフィラスは何かを考えるそぶりを見せた。
    どこまでも芝居がかかって癇の触るその様に、裕太は苦痛に悶えながらも怒りを覚える。
    その視線に合わせ、メフィラスは何かを思いついたように言った。
    「暴力は好みません……が、力による解決というのも確かに一つの手段かもしれません」
    「な……に……を……」

  • 59二次元好きの匿名さん23/05/03(水) 00:19:28

    「繰り返しますが、君の強情さは大したものです、流石はグリッドマンに選ばれるだけはある」
    まるで石ころを蹴る様にメフィラスは裕太を蹴り飛ばす。
    いくら小柄とはいえ、人ひとりの体がそれだけで浮き上がり再びコンクリートの上を跳ねる。
    「げほっ……ごほっ……」
    口の中に酸っぱいものが込み上げてきて咽る。
    腹の中に何も入っていなかったのは幸いだったかもしれない。そうでなかったら、今頃吐瀉物を吐き散らしていたかもしれないのだから。
    口の周りを手の甲で乱暴にぬぐい、辛うじて上半身を起こすと、そこには何かを手にしたメフィラスの姿。
    「君とこのままゲームを続けていても、延々と同じことの繰り返し、いつまでも決着がつかないと思いませんか」
    「なら……皆を、元に戻して……さっさと、かえ…れ……ば、いいだろ……」
    「いえいえ、それでは折角のゲームを楽しみ切れないというもの……ですから、一部ルールを変更しましょう」
    そういって、メフィラスは裕太に手にしていたものを差し出した。
    眼前に現れたのは小さな乳白色の塊、形は歪んでいてともすればただの小石にしか見えない。
    しかし、裕太はそれを以前に目にしたことがあった。
    「これ……あの怪獣の……」
    そう、かつてユニバース事件を引き起こした黒幕マッドオリジンの体内にあった石。
    「少々手を加えておりますが、これは怪獣発生源と呼ばれるもの。君たちが戦ってきた怪獣は全てこれより生まれたのです」
    「これから……!?」
    ならば裕太にとってこの石は災厄の源以外の何物でもない。
    裕太の瞳と言葉に、再び力が宿る。
    「怪獣を、作り出すつもりなのか」
    「いいえ、私は怪獣を作りません」
    ならば、何故この石を取り出したのか。
    メフィラスはその不気味な目をゆがめてその答えを述べる。

    「怪獣となるのは、君です」

    理解が出来なかった。
    メフィラスが現れてからずっと混乱と困惑の真っただ中であったが、これほどまでに訳の分からない事は未だに無い。
    意図が全く読めない裕太にメフィラスは問いかける。

  • 60二次元好きの匿名さん23/05/03(水) 00:21:31

    「君は、いつまでこのゲームを続けるつもりですか?」
    「お前が、勝手に始めた事じゃないか……!」
    「えぇ、ですのでいささか反省しております。考えてみればアクセスフラッシュ以外でのゲーム終了条件を設定していなかった」
    なんという落ち度でしょう、とメフィラスは肩を落とす。
    だが、次の瞬間にはきりっと姿勢を正しこう続けるのだ。
    「ですので、君にもう一つの勝利条件を提示いたしましょう」
    「もう、一つ……?」
    「私自身を倒す事です」
    裕太の目が大きく見開く。
    メフィラスを倒す、それは今の裕太にとってこの上なく魅力的な提示であった。
    「しかし悲しいかな、君では私に勝つことなど決してできない。グリッドマンのいない君は、無力な少年に過ぎないのですからね」
    視線が左腕のプライマルアクセプターに向かう。
    未だに何の反応も示さないそれは、裕太とグリッドマンが断絶していることを無情にも表している。
    「君には、力が必要でしょう?」
    メフィラスは怪獣発生源を裕太の目の前に突き付ける。
    自分から力が必要な状況を作りそれを差し出すのはあまりにもあからさまで悪質な誘惑以外の何物でもない。
    「ふざけるな!!」
    無論、裕太は怪獣発生源を振り払う。
    一方のメフィラスは「おや」と呟くと指を鳴らす。
    すると、再びメフィラスの手に怪獣発生源が現れた。

  • 61二次元好きの匿名さん23/05/03(水) 00:24:41

    「よくよく考えるのです、今この世界で私と戦えるのは誰です?」
    「……」
    「君は、このまま永遠に彼らに呼びかけ続けますか? その結果、彼らに何が出来ました?」
    「それは……!」
    脳裏に浮かぶ、二人の姿。
    怒りに満ちた内海の目と、苦痛に沈む六花の顔。
    それを思い、裕太の意志に陰りが差す。
    「このクリア条件はいたってシンプルです、私が倒れるか君が倒れるか……他の誰も傷つけることも傷つくこともない、いわば決闘ですよ」
    「だれも、傷つかない……」
    「そう、誰もです」
    裕太の手に、怪獣発生源が渡される。
    今度は、それを振り払う事が出来ない。
    「無論、どのような手段を用いるかは君の自由です。怪獣となるか、それとも二人の記憶を呼び覚ますかはね」
    それでは御機嫌よう、と言い残しメフィラスは夜のかなたへ溶けて消える。
    残された裕太は、ただ茫然とその手の中に在るものを見つめていた。

  • 62二次元好きの匿名さん23/05/03(水) 00:25:47

    「俺……」
    響裕太は優しく強い少年だ。
    自分にしかできない自分がやるべきことを為してきた。
    死を恐れず太陽のごとき強さで前に進み、闇を照らす奇跡の月のように大切な人々を守り抜こうとしてきた。
    だからこそ、グリッドマンユニバースをも乗り越えて最高の結末をつかみ取ってきたのだ。
    「俺、は……」
    そして強く優しいからこそ、響裕太は弱い。
    自分が傷つくことにはいくらでも耐えられるが、他者が傷つく事には耐えられない。
    それは、響裕太を突き動かす原動力であり、だれにもどうすることもできない彼の本質。
    「俺にしか、できない事」
    仲間を友を愛する人を助けたい。
    「俺のするべきこと」
    これ以上、誰にも傷ついてほしくない。
    ならば、例えこの身が砕け朽ち果てようとも、せめてあの敵を打倒し、皆の心を解き放たなくてはならない。
    これがそのただ唯一の手段だというのであれば、それは裕太にとってあまりにも致命的な毒になりうる。

    「皆……」
    震える手で、災厄を握りしめる。
    赤黒い光が指の間から漏れ出す。
    「……ごめん」
    この世に残す最後の言葉と共に、裕太がその光を飲み込もうとした時だった。

    「こんなところで、何をしているんだ?」

    唐突な男の声に、裕太は弾かれた様にそちらを向く。
    そこにいたのは白いコートに身を包んだ男。
    整った顔立ちに大きな眼鏡、その奥に理知的な瞳が輝く。
    その瞳が訝し気に裕太を見つめ、手の中にあった赤黒い光は機を喪って収束してゆき……
    あとには、夜風のすさぶ水門で二人の男が向かい合うだけであった。

  • 63二次元好きの匿名さん23/05/03(水) 00:27:02

    これにてSIDE:GRIDMAN・Bパート前半終了です
    本当ならBパート全部書きあがってからとしていましたが、諸事情でこんな形になりました申し訳ありません

  • 64二次元好きの匿名さん23/05/03(水) 00:41:18

    始まりが来たか

  • 65二次元好きの匿名さん23/05/03(水) 00:44:52

    そっ……
    そうきたかぁ〜〜〜!!!

  • 66二次元好きの匿名さん23/05/03(水) 00:49:13

    直人、一平、ゆかも来そう

  • 67二次元好きの匿名さん23/05/03(水) 01:37:48

    まさかの!?明確にリメイク前とは違う展開になってきましたね!!

  • 68二次元好きの匿名さん23/05/03(水) 02:54:23

    うおおマジか。このままダイナゼノンサイドに行くと思ったら油断した。これは良いサプライズだ。すげー興奮した

  • 69二次元好きの匿名さん23/05/03(水) 02:56:11

    今追いついた。「SIDE:GRIDMAN・Aパート」が読んでてマジで辛かったです。

  • 70二次元好きの匿名さん23/05/03(水) 06:09:22

    これからどうなるんだろ…今アカネは見てるのかな?

  • 71二次元好きの匿名さん23/05/03(水) 07:33:53

    読んでて変な声出た

  • 72二次元好きの匿名さん23/05/03(水) 15:55:25

    裕太が怪獣になろうとした時に、蓬達は必死で声かけてるんだろうなぁ

  • 73二次元好きの匿名さん23/05/03(水) 17:25:50

    保守

  • 74二次元好きの匿名さん23/05/03(水) 18:31:14

    保守

  • 75二次元好きの匿名さん23/05/03(水) 18:49:52

  • 76二次元好きの匿名さん23/05/03(水) 21:17:40

    ほほほしゅ

  • 77二次元好きの匿名さん23/05/03(水) 22:17:36

    保守

  • 78二次元好きの匿名さん23/05/03(水) 22:17:49

    ほし

  • 79二次元好きの匿名さん23/05/04(木) 00:16:49

  • 80二次元好きの匿名さん23/05/04(木) 00:58:13

    ほし

  • 81二次元好きの匿名さん23/05/04(木) 01:00:01

    なんか矢鱈保守するご新規さんがいるが基本的にあにまんは「最後の書き込みから12時間は落ちない」仕様になってるからこんな短いスパンで保守しなくても大丈夫だぞ?

  • 82二次元好きの匿名さん23/05/04(木) 08:15:37

    保守

  • 83二次元好きの匿名さん23/05/04(木) 08:20:41

  • 84二次元好きの匿名さん23/05/04(木) 08:34:34

    >>81

    落ちる時間は表示されてるからそれ見て保守すればいいだけなんですけどね……

  • 85二次元好きの匿名さん23/05/04(木) 10:31:57

    これよりSIDE:GRIDMAN・Bパート後編を投下します
    大筋はリメイク前から変えないので、シグマなどは登場しません。
    肩透かしになるかと思いますが、よろしくお願いします

  • 86二次元好きの匿名さん23/05/04(木) 10:34:45

    裕太にとってそれは晴天に霹靂を聞くような光景だ。
    普通に考えれば、宇宙人がいるよりははるかに現実的なはずなのに、なぜか目の前に普通の男性がいることの方が混乱する。
    或いはあまりにも非日常的な出来事の直後に当たり前の事が出てきたせいで頭がおかしくなっているのかもしれない。
    そんなこんなで、思考が固まって微動だに出来ない裕太に対し、男性はその【青い瞳】を歪めた。
    「こんな危険な場所が施錠もされていないとは……後で役所に苦情を入れなくてはいけないな」
    危険……そうか危険か、と今更ながらに裕太は気が付いた。
    危険だから本来は厳重に管理されてなきゃいけないはずで、なのにそれが出来てないから隠れ家としてうってつけだったのだと、白い頭の中で再確認する。
    すると、何故この男性がここにいるのだろうとそういう疑問も浮かんでくるのだが。
    「最近、この近辺で学生がウロウロしていると聞いて気になってみればコレだ」
    どうも、隠れられてると思っていたのは裕太だけだったらしい。
    「全く、君はどこの学校の生徒だ? すくなくとも、ウチの中学ではないようだが」
    「あ……いや…俺、ツツジ台高校の……」
    中学というワードに反射して出てしまった言葉。
    同学年の男子に比べ小柄で童顔な裕太はよく中学生に間違われる。
    秘かなコンプレックスの一つで、それを聞いた男性は驚いたように目を見開いた。
    「あ……そうか、すまない」
    「いえ……」
    素直に謝られ、逆に裕太の方が小さくなる。
    「それで、君、家はどこだ?」
    「あの……今、ちょっと帰れなくて」
    「家出か?」
    「そういう、訳でも……」
    「……親と何かあったのか」
    「違います、ただ……」
    はた目から見たら、家出少年とそれを保護しに来た大人の構図だ。
    そんな現実的な出来事が、裕太の思考を覚ましてくれる。
    無論、手の中の怪獣は未だそのままで、話せない事が沢山ある。ましてや見ず知らずの相手に「宇宙人のせいで帰る所がありません」なんて言えるわけがない。
    そんな裕太に対して男性は「ふむ」と独り言ちると、こう切り返してきた。
    「なら、僕の家に来るか?」

  • 87二次元好きの匿名さん23/05/04(木) 10:35:30

    今度は裕太の目が大きく開かれる。
    当然だ、先にも述べた通り、裕太はこの男性とは全くの初対面なのにそんな誘いが来るとは夢にも思わない。
    困惑と遠慮が入り交じり、今までとは違う意味で何も言えなくなってしまう。
    ただ、情けないことに思考はそれでも体の方は色々と限界を迎えているはどうしようもない現実で……
    「あう……」
    ぐぅ、と空腹を訴える体に、裕太は気の抜けた声を出す。
    男性は苦笑を浮かべ、肩をすくめて裕太に決断を促すのだ。
    「さて、では警察に保護してもらうのがいいかな」
    「それは! それは、やめてください……」
    「うん、じゃあうちに来るの決まりだな」
    決断を促すというより、完璧な脅迫だ。
    しばし悩み、結局ここは見つかってしまったのだから本当に自分が行くところなどどこにもないことに気が付く。
    あるいは、色々ありすぎて気が迷ったのかもしれないし、自暴自棄であったのかもしれない。
    「はい、お邪魔します……」
    ある意味での降伏宣言に、男性は優しく笑うのだった。

  • 88二次元好きの匿名さん23/05/04(木) 10:39:22

    そうして裕太が案内されたのは郊外にあるアパートの一室である。
    左程に広くない間取りのはずなのだが整理整頓が行き届いているのか狭いという印象は全く受けない。
    家具の一つ一つにもちゃんと手入れがされていて、同じ男性なのにこうも違うのかと裕太は驚くばかりである。
    「どうした、食べないのか」
    部屋の主……どうも中学校の教師をしているらしい男性は、テーブルの上に並べられた料理を裕太に勧めていた。
    白粥に梅干し、豆腐の味噌汁と蒸した鶏肉、あとは大根がメインのサラダ。
    出来立ての湯気が漂ってたまらない香りが鼻をくすぐる。
    既に風呂を使わせてもらい、怪我の手当てまでしてもらっている、ここまでされると余りの親切さに遠慮が勝る。
    遠慮が勝るのだが、高校生ともなればそれはもう食欲の化身のような年頃だ、ましてやここ数日ろくに食事もとれていないのでは飢えを遠慮で抑え込むなど不可能に近い。
    「いただきます」
    渡されたレンゲで粥を掬い、口に入れる。
    湯の熱さで最初は苦戦するものの、それが慣れてくれば胃に物が落ちる感覚はなんとも言えず染みわたるのだ。
    「ゆっくり食べた方が良いぞ」
    堰を切ったように白粥を掻き込む裕太に、教師はやんわりと忠告する。
    言われて自分が随分はしたない事をしていた事に気づいた裕太は少々恥ずかしい思いをしながら、食べる速度を緩めた。
    「……さっきよりは、マシな顔になったな」
    教師が呟いた一言に、裕太は食事の手を止める。
    「さっきって」
    「水門の上さ、あの時は酷い顔をしていた」
    「そんなに、ですか?」
    「あぁ、随分と見覚えのある顔だったよ」
    教師は味噌汁を一つ口にすると、「昔話をしようか」と語りかけた。
    「昔、あるところに一人の中学生がいてね、そいつがまた捻くれて歪んでたジメジメした蛞蝓みたいな性格をしていた」
    仮にも教師が随分とズタボロな物言いだがそれでいいのだろうか、と裕太は目を丸くする。
    だが、どこか自嘲気味に語る教師の様子を見て、その意味が違う事を何と無しに察し始めてもいた。
    「まぁ、そんな性格をしていて質の悪い事にプログラムが得意なんで、そいつでいろんな所にクラッキングを仕掛けて憂さを晴らす毎日さ」

  • 89二次元好きの匿名さん23/05/04(木) 10:41:25

    「どうして、そんな」
    「どうしてかって? まぁ、色々原因はあるんだろうが……そうだな、やっぱり独りぼっちだったからが大きいだろう」
    独り。
    経緯は大きく違うだろう、だが独りであるという事は今の裕太もその少年と何も変わらない。
    「やがてその腕を悪い奴に見込まれてね、言葉巧みに取り込まれて悪事を働く始末だ」
    「……」
    「本当はやってる事が怖くてたまらない癖に、自分じゃそれを止められない。毎日毎日鏡を見るのも嫌になるぐらい酷い顔をしていたよ……さっきの君のようにね」
    教師の言葉で静寂が落ちる。
    先ほどの自分は、そんな顔をしていただろうかと裕太は自分に問う。
    解らない、解るはずがない。
    「……友達が、今大変なことになってるんです」
    解らないから、裕太は語る。
    真実は話せない、けれど偽りのない自分の気持を吐き出すことは出来た。
    「見てて辛くて、悲しくて、けど、俺じゃあ何にもできなくて」
    「碌でもない奴に、碌でもない事を吹き込まれたって所かな」
    深く静かに頷く。
    あの時、あまりにも惨めで悔しくてどうしようもなかった。危険だと判っていても、それが自分に出来る事ならば六花を内海を助けられるのならばと力に手を伸ばした。
    「俺にしか、できない事を……」
    「それは君がやりたいことなのか」

  • 90二次元好きの匿名さん23/05/04(木) 10:46:37

    視線が教師に向く。
    教師もまた、裕太を正面から見据える。
    「けど、俺がやらないと、二人は……!」
    「君は今、友達の為と言っただろう。けど、それを為して、友達はいったいどう思う」
    雷に撃たれた様に、裕太は固まってしまう。
    じっと自分を見つめるその瞳に、全てを見透かされているようで。
    「君にとって、その友達は大切なんだろう?」
    「はい」
    「なら、友人たちにとっても君は大切なはずだ」
    それは、もう疑いようはない。
    六花、内海、グリッドマン、そして自分のグリッドマン同盟。
    いや、それだけではないマックス・ボラー・キャリバー・ヴィット・レックスの新世紀中学生。
    蓬・夢芽・暦・ちせのガウマ隊。
    ナイトに二代目、そしてどこかで自分たちを見守ってくれている新条アカネ。

  • 91二次元好きの匿名さん23/05/04(木) 10:52:21

    皆が、大切な本当に大切な友人たちだ。
    誰一人として欠けてもきっとダメだった。すべての心と力が結集したからこそ響裕太は今ここにいる。
    「ずっと、助けられてました。前の時も、沢山」
    「その時、君がどんな決断をしたのか僕は知らない、けどそれは君にとって、やるべき事と、出来る事と、やりたい事が君自身の意思で正しく重なったんだ、だからこそ多くの人が君を助けてくれた」
    けれども、と一つ区切る。
    「人生の中でその三つがそろう事なんて滅多にない。大抵は一つか二つが欠けている、だからこそ人間は生きて努力する限り迷う」
    あるいは、人によってはそれは生きている内に巡ってこないかもしれない。
    やるべき事、決断の瞬間は否応にもやってくる。ならば、何を頼りに決断するべきか。
    「君の、やりたい事はなんだ」
    「やりたい事……」
    「出来る事や与えられた事に固執してはいけない、さっきの中学生も自分の得意な事ばかりにのめり込んで周囲が見えなくなっていった。本当は成りたい自分がいたはずなのに、それから目をそらしていた」
    心を閉ざしてヒーローになんかなれやしないと知らぬ間に諦め、いつか見た理想にすら敵意を向けた。
    本当は目を見開くべきだったのだ、目の前の世界を自分にとって何ものにも代えられない世界だという現実を受け入れるべきだった。
    それが出来なかったから、都合のいい甘言を繰り返す侵略者の騙されてしまったのだ。
    けれども、最後にはその悪意に反旗を翻し、自分だけの革命を起こせた。
    本当に心から願っていたことを、夜の星に掛けていた願いを叶えたものはなにか。
    それに気づかせてくれた人達、手を差し伸べてくれた友達。触れ合って強さをくれた、掴んだ勇気を離さない事を教えてくれた。
    「大丈夫」
    先生が、裕太の肩に手を置く。いつかの希望を伝え教えるように。
    「君は独りじゃない」

  • 92二次元好きの匿名さん23/05/04(木) 10:53:06

    嗚呼、それはかつて六花が内海がグリッドマンが新条アカネに伝えた言葉ではないか。
    沢山迷って傷ついて、自分の作ったちっぽけな世界に逃げ込んでしまった神様への何よりも切なる祈りではないか。
    きっと、先生も誰かにかけてもらった言葉が今まさに響裕太へと巡ってくる。
    響裕太を惑わせて闇へ落そうとする悪魔から救い出す為に。
    見失いそうになったものが裕太の胸を満たす。さっきの悲しみではない、優しさと嬉しさが涙がとなって頬を伝う。
    そうして先生は笑いながらこう言うのだ。
    「さぁ、早く食べてしまおう冷めてしまうと料理はおいしくないからな」
    「はい!」
    当たり前の言葉がこんなにも胸を打つ。
    だれかと一緒であることの有難さを、裕太は噛み締めていた。

  • 93二次元好きの匿名さん23/05/04(木) 10:54:11

    やがて夜があける。
    いつもと同じ、けれども昨日とは違う朝日。
    それに照らされて、響裕太は一歩を踏み出す。
    「先生、ありがとうございました」
    恩師に深く頭を下げる。
    きっとこの人がいなかったら自分は大きな間違いを犯していたに違いないのだろうから。
    この幸運と縁にも最大限の感謝をしたい。
    「負けるなよ」
    そういって、先生は右腕を掲げる。
    裕太は左腕を掲げる。
    そうして、二人は腕を打ち合わせるのだ。
    アクセプターがカシャリと鳴って、二人は笑う。

    そして裕太は走り出す。
    ふと思い出してポケットをまさぐり、怪獣発生源を取り出した。
    相も変わらず歪な、おそらく裕太の情動に反応したのだろう手足のようなものが生えかけたそれを、裕太は地面において力強く踏みつける。
    思いのほかあっさりと、これが本当に怪獣の素なのかと疑いたくなるぐらい簡単に砕けてしまう。
    現実をみるのであれば、勝算なんか何一つとしてない、今まで失敗してきたことを繰り返すしかない。
    それでも、裕太は怪獣の力を手放す。
    本当に自分がやりたい事の為に、やるべき事の為に。
    ガラス玉のようなその瞳にもう涙はない。ただ、虹のかかる朝日を目指して大切なものを取り戻す決意だけがあった。

  • 94二次元好きの匿名さん23/05/04(木) 10:57:44

    これにてSIDE:GRIDMAN・Bパート後編お終いです
    保守に関しては非常にありがたいのですが、このペースだとスレ内に話が治まり切らなくなってしまうので申し訳ありませんが少し控えていただけると助かります
    ならさっさと投下しろ? いや、まぁ、はい、ごめんなさい

  • 95二次元好きの匿名さん23/05/04(木) 11:10:17

    待ってました
    他のスレで言ってた裕太が解釈違いは裕太が怪獣になることかな?

  • 96二次元好きの匿名さん23/05/04(木) 20:22:21

    ほし

  • 97二次元好きの匿名さん23/05/04(木) 22:36:00

    もしも涙が邪魔をしても
    虹の朝が今君に見えるはずさ

  • 98二次元好きの匿名さん23/05/04(木) 22:55:39

    おつ
    山寺ボイスが脳内で染み渡る・・・

  • 99二次元好きの匿名さん23/05/05(金) 07:31:54

    保守

  • 100二次元好きの匿名さん23/05/05(金) 15:35:56

    保守

  • 101二次元好きの匿名さん23/05/05(金) 22:21:19

    これは元スレと大分展開変わりそうだね。ここからダイナゼノン組も絡むとしたらかなりのお祭りSSになりそう

  • 102二次元好きの匿名さん23/05/06(土) 01:13:35

    あんまして欲しくないらしいけど怖いから保守。
    作者、すまない…

  • 103二次元好きの匿名さん23/05/06(土) 08:51:24

    >>102 気持ちは分かる。せめて出勤前に保守しないと不安よな

  • 104二次元好きの匿名さん23/05/06(土) 16:40:24

    保守る

  • 105二次元好きの匿名さん23/05/06(土) 23:02:44

    保守

  • 106二次元好きの匿名さん23/05/07(日) 02:10:31

    お待たせしましたSIDE:GRIDMAN・Cパート前半投下します

  • 107二次元好きの匿名さん23/05/07(日) 02:12:51

    好きな言葉嫌いな言葉というのは人によって色々あるだろうが、最悪という言葉を好む人はあまりいないだろう。
    最も悪いと書いて最悪。むしろ好きになれる要素がどこにもない。
    宝多六花も当然嫌いな言葉だが、否応なくそれに付き合わされるのがまさに最悪だった。
    「はぁ……」
    この数日、もう何回目かもわからないため息を吐いて、六花は夜の公園でブランコに腰かけていた。
    昨日、学校で倒れて気が付いたら保健室のベットの上で、周囲には心配そうにのぞき込む内海とはっすとなみこの姿。
    ぼやけた頭で前後の事を思い出し、その時から憂鬱が止まらない。
    「なんで、あんな事しちゃったんだろう」
    少年を叩いた右手を見つめ、六花は呟く。
    普段の六花ならば相手に対して暴力を振るうなんて事は絶対にしない、新条アカネの事を持ち出されたからと言ってもアレはやっぱりやりすぎだ。
    未だに嫌な感覚が残っているような気がして、どうしてという疑問と嫌悪がコールタールのようにべったりと思考にへばりつく。
    そのせいか何処にいても居心地が悪くて、丸一日こうしてあちらこちらをフラフラするばかり。
    家に帰ろうと思っても何故か踏ん切りがつかない、気分を変えようとタブレットを取り出そうとするがすでに全部使ってしまっていたことに気が付く。
    「ホント、最悪」
    言いたくもない言葉を吐く。
    なんなのだろう、この何もかもが崩れて無くなってしまったような感覚。
    いつものツツジ台のはずなのに、自分だけまるで違う場所に投げ捨てられたようで、あの時の夢芽ちゃんもこういう感じだったのかなとぼんやりと考える。
    いや、それは無いか、夢芽ちゃんには蓬君いたし、なんか滅茶苦茶楽しんでたし。
    今もフジヨキ台で仲睦まじく過ごしているであろう友達を思い苦笑がこぼれる。
    空のタブレットケースをポケットにねじ込み、いい加減家に帰るのを観念しようかとした時だった。
    「ここにいたんだ」
    弾かれた様に声のする方を振り向く。
    そこにいたのは、あの赤い髪の少年。
    六花は思わずブランコから立ち上がり、一歩下がりながらも見えないようにポケットの中のスマホを起動させていた。
    「何の用?」

  • 108二次元好きの匿名さん23/05/07(日) 02:14:05

    六花の声には致し方ないとはいえ隠しようもない警戒と敵意があった。
    少年はそんな様に少しばかり寂しげな顔をするも、一つ深呼吸をする。
    「俺! 響裕太っていいます!」
    そうして飛び出したのは、まごう事なき自己紹介。
    六花はたっぷり10秒ほど固まって、「え?」と声を上げる。
    「え、ちょ、え? 何?」
    「いや、自己紹介」
    「あ、うん、え? 今更?」
    「あー……うん、今更」
    「え、なんで」
    「いや……なんか今まで、ちゃんと話をしようって感じじゃなかったなって」
    確かに。
    今までと言えば、赤い髪の少年が一方的に「思い出して」と言ってくるばかりで碌なコミュニケーションを取れてた記憶がない。
    「いや、でも私たち敵同士でしょ」
    「俺は……そのつもりはない」
    「いや、アナタのせいで私酷い目にあったんだけど」
    「それは、ごめん」
    「謝るんだ」
    丁寧に頭を下げる少年に六花はなんだか毒気を抜かれてしまう。
    「うん、六花にとって新条さんの事大事なの知ってたのに変な事言った俺が悪いよ」
    「……名前」
    「え?」
    「呼び捨ては嫌なんだけど」
    「あー……じゃあ、六花…さん」
    「それならいい」
    苗字で呼ばれるのは好きじゃない。
    慣れ合う気もないが、ここが六花としての妥協点だった。

  • 109二次元好きの匿名さん23/05/07(日) 02:15:25

    「んで、話って?」
    「調子はどうかなって」
    「何、心配してる?」
    「そりゃ、あんな事あったら」
    「平気、薬効いてるし」
    「そっか、よかった……」
    心底、本当にほっとしたような顔をする少年。
    それを見て、六花の抜けた毒気に今度は罪悪感が湧き出してくる。
    「いや、私も、響君の事……」
    「名前」
    「え?」
    「久しぶりに呼んでもらった」
    今度は嬉しそうな顔をする。
    本当にころころ変わって、子供っぽい。
    「響君はさ、グリッドマンの仲間……なんだよね」
    「うん」
    「グリッドマンって、どんな人?」
    「どんなっていうと、うーん」
    彼は少し考え、一つ頷いて語りだす。
    「すっごい真面目で、結構繊細」
    「そうなの?」
    「うん、けど、繊細な分いろんなことを感じて楽しいって言える。そんな俺の友達」
    「なんか、想像と違う」
    「六花、さんはどういうの考えてた?」

  • 110二次元好きの匿名さん23/05/07(日) 02:16:55

    「なんか、よくわからない侵略者って聞いてたから、てっきりアンバランスゾーンに出てくる変な宇宙人とか怪獣みたいなの想像してた」
    「アンバランスゾーンって……どっちかっていうとホラー小説じゃん、六花…さんそういうの読むんだ」
    「いや、私も興味はなかったんだけどさ、学祭の脚本書くときになんか参考になるかなって」
    「なんでまたホラー小説なんか」
    「だって、アカネの事書こうとしたら、普通の小説とかだとイマイチ参考にならないし」
    「……勧めたの内海でしょ」
    「うん、まぁ」
    それでも、以前の様に雑誌を押し付けられるなんてことは無く、何か参考になりそうなの知らない? と六花から聞いての選出である。
    全く好みではなかったが、参考になったのは確かなのでそこは友人に感謝してた。
    「そういう響君こそ、知ってるなら読んだことあるの?」
    「いや、俺ホラー系全然だめで」
    「あー、確かにそんな感じ」
    気が付くと、自然と会話が続いている。
    昨日とは全然違う雰囲気……いや、やはり昨日がどこかおかしかったのかもしれない。

  • 111二次元好きの匿名さん23/05/07(日) 02:18:09

    そうやって、ちがうからこそ響裕太からの優しい視線に気が付くことができる。
    穏やかで本当に侵略者の仲間なのかと疑うほどに澄んだ目。
    「少し、安心した」
    「何が?」
    「六花…さんは六花さんのままだなって」
    さっきからちょくちょく名前を言い直している。
    響裕太にとって、宝多六花の名を呼び捨てにしないというは本当に慣れていないのだろう。
    彼の記憶の中で、自分は一体どのような存在なのだろうか。
    「六花」
    強く、名を呼ばれる。
    瞳に宿るものがまた変わる。最初は寂しさ、次に罪悪、そこから安堵になって、優しさに。
    今、その透き通るような瞳の中にあるのは六花でも理解できるほどの強い決意。
    「俺、やっぱり六花の事を取り戻したい」
    「…やっぱり、そうなるんだ」
    「うん」
    六花と響裕太は改めて向き合う。
    互いの目を真直ぐに見て、決して逸らそうとしない。
    「響君が知ってる二ヶ月と、私たちの二ヶ月は違う」
    「それは……解ってる。解ってるっていうか、元々、俺はその二ヶ月を本当の意味で知ってるわけじゃない」
    響裕太の手が、左腕のアクセプターを掴み一つ二つ捻ると、それは存外あっけなく彼の腕から外れた。
    「グリッドマンがいた二ヶ月、俺がいなかった二ヶ月、気が付いた時には全部終わってて。ずっと蚊帳の外だった」
    「六花や内海から話を聞かされて、二人にとっては大事な事でも俺は全然実感なんかなくって」
    「一瞬でも疑ったら、もう二人は俺に何も話してくれない気がして、ただひたすら信じ続けた」
    言葉を紡ぎながら、響裕太は六花の前に歩を進める。
    「だから、俺も六花に信じてもらう所から始めなきゃいけない」
    そうして六花の手に渡されたのは、月に照らされ白く輝くアクセプター。
    六花は目を見開き、手の中のそれを見つめる。
    「嫌われても憎まれても気持ち悪がられても無視されてもいい、ただ一つだけ信じてほしい」
    青く澄んだ、まるでガラス玉のような瞳が六花を捕える。
    彼は、こんな瞳をしていただろうか? だとするなら、なぜ自分はこの輝きを見ていなかったのだろう。

  • 112二次元好きの匿名さん23/05/07(日) 02:20:08

    思い出せないのに、いつか見はずの光。
    気が付いたらそれはいつもあったはずなのに、なぜ忘れてしまったのか。
    「六花」
    声が重なる。
    強く優しい声と、懐かしく優しい声。
    「おねがい」
    その声を六花は知っている、知っているはずだ。
    だってそれは、自分がこの世界に生まれてきた意味をくれた人の声。
    自分が世界で一番大好きな人の声。
    「思い出して」
    二つの声と思いが、六花の意識を貫く。
    まるで幾重にも重ねられた錠が一瞬で解けるような、今まで繋がらなかった回線がかちりと噛みあうような感覚。
    解放される心が、六花に目の前にいる人の名の本当の形を教えてくれる。
    その名を呼ぼうとして……

    その瞬間、世界は暗転した。

    「あ……あぁぁあああああああああああああぁぁぁ!!」
    心が再び閉ざされていく。
    思い出した名前がどこかへと沈んでゆく。
    それがあまりにも辛くて悲しくて、六花は必死にもがく。
    けれども、自分を押しつぶそうとする力はただ強くなる一方。
    「りっかああぁああ!!」
    どこからか、自分を呼ぶ声が聞こえ、それに向かって手を伸ばす。
    【彼】ならこの手を取ってくれるはずだとそう信じて。
    「……!……!!……!!!」
    名前を呼んだはずだ、けれど声にならない。
    いいや、ちがう、叫びを上げれどそれは意味を成していない。誰を呼んだのかすら六花は認識できない。
    何もかもが闇の中に引きずり込まれて一条の光しか見えなくなった時、六花は誰かが自分の手を取ったことに気が付く。
    そうして、六花は自分を見つめる赤い瞳を見つけるのであった。

  • 113二次元好きの匿名さん23/05/07(日) 02:21:54

    夜の街に、響裕太の絶叫が上がる。
    しかして無理もない、その眼前には力なくうなだれる六花とそれを抱きかかえる響裕太がいた。
    いや、正確には響裕太の姿をした何ものかだ。
    それは黒いスーツ・黒いシャツ・黒いネクタイをし、髪もまた鮮やかな赤ではなく濡れ鴉の如き黒である。
    瞳は赤く、笑みを張り付けてあれど感情が読めない。
    「……レイオニクスでもない怪獣使い、などと侮っていた事を認めざるをえません」
    声もまた、響裕太のそれだ。
    しかし、裕太のような幼さを残してはいない。まるで腐った果実の如き甘い香りと毒々しさが入り交じっている。
    「それに……」
    黒い裕太が、裕太に対して視線を向ける。
    今の裕太は身動きが取れない。基盤と配線と訳の分からない様々な機材が入り交じったような化け物が裕太を組み伏してその左腕に噛り付いていた。
    肉が裂け血が流れるのも構わず、裕太は六花の基へ這い寄ろうとするも、力の差はどうしようもない。
    「こいつ……離せッ……!」
    「邪険にするものではありませんよ響裕太君、それは君の情動から生まれた怪獣ではありませんか」
    黒い裕太の物言いと見下すような視線。裕太にとってそれは覚えがあるモノだった。
    「メフィラス!」
    「ご明察」
    黒い裕太の姿をしたメフィラスはにやりと嗤う。
    そしてその厭らしい笑みを浮かべたまま懐から赤い錠剤を二粒取り出すと、それを六花の口元に運ぶ。
    「ほら、六花。薬だよ、口を開けて」
    まるで恋人にそうするように、メフィラスは六花の耳元で囁く。
    意識があるのかどうかすら判らない六花は、その言葉に反応したのか辛うじて口を開き、メフィラスはその隙間に錠剤をねじ込んでゆく。
    「六花に触るな!」
    裕太の叫びを嘲るように親指で六花の艶やかな唇を撫でる。
    咆哮が上がる。おおよおそ人の出せる最も恐ろしい、ともすれば怪獣のそれではないかとまごうほどの。
    しかし、それを受けてメフィラスは益々面白そうにするばかり。
    「はははは、いけませんよ響裕太君、そんなにも素敵な情動を生み出しては」
    「ぐがっ……な、ん……あぁああぁぁ」
    咆哮の中に苦悶が混ざり、力を失ってゆく。
    何という事だろうか、裕太に食らいついていたジャンクの姿をした怪獣が、その形を崩しながら裕太の体と一体化しようとしているのだ。

  • 114二次元好きの匿名さん23/05/07(日) 02:23:46

    「言ったでしょう? それは君の情動から生まれた怪獣なのです。可哀そうに生まれる直前に君に踏みつぶされたから不完全な形になってしまった」
    怪獣が自分に侵食してゆく感覚を堪えるのが精一杯の裕太にメフィラスは肩をすくませる。
    全身に脂汗が噴き出す、明らかな異物が自分の体を食い込んでくるのに、怪獣が浸食するごとに自分の中の衝動が解放されるような暗い歓びを覚える。
    それがまたたまらなく不愉快で、吐き気を催すほどに悍ましい。
    「ふふふ、力を捨てたつもりでも、君の心の奥底の情動が消え去ったわけではない。それを失念していたようですね」
    言いながら、メフィラスの手は六花が握るアクセプターへと延びる。
    「挙句、アクセプターまで手放してしまうとは、まったく君というにんげ……?」
    そこで初めて、メフィラスの声から嘲りが消える。
    六花からアクセプターを取り上げることができないのだ。朦朧としているはずの彼女の指がしっかりとアクセプターを握りしめ放そうとしない。
    無論、メフィラスの力ならば無理やりにでも奪うことができるはずだが、この事態は想定外であることを伺わせる。
    「六花、薬はどうしたの? まだあるだろう?」
    メフィラスの問いに、六花は首を横に振る。
    ポケットの中をまさぐり、白いプラスチックのケースを取り出すとその中には確かに何も入っていない。
    「……想定よりもはるかに」
    声に苛立ちを感じさせながら、力づくでアクセプターを取り上げようとした時である。
    「六花! それに……メフィラス!!」
    息を切らせながら、内海将が現れる。
    黒い響裕太の姿を一目でメフィラスと判別がつくのは、メフィラスの精神操作のなせる業か。
    「メフィラス、六花は無事なのか!?」
    「……えぇ、ただ意識が混濁しているだけです。それより、何故ここに?」
    「それよりって……六花がLINEでここにいるって送ってきて」
    どうやら、六花は響裕太と遭遇した時、秘かに内海に向かって連絡を送っていたようだ。
    昨日の事態を想定して助けを求めたのだろうが、それがまたメフィラスにとっては都合が悪い。
    「……致し方ありません。内海君、宝多さんを連れて逃げてください」

  • 115二次元好きの匿名さん23/05/07(日) 02:26:48

    「あぁ、わかっ……」
    内海が六花を背負った時、必然的に内海の視界にもだえ苦しむ響裕太の姿が映る。
    「あいつ、どうしたんだ……?」
    「気にすることはありません、私が対処します」
    「いや、けど……あいつ、人間じゃ」
    「……あれは我々の敵です」
    「でも、あんな苦しんで、なにかおかしくないか!? それこそ、グリッドマンに抵抗してるとか!」
    「それはありません、早くゆきなさい」
    「けど、助けられるなら助けなきゃ!」
    「いいから、さっさと行けと言っているだろう!!」
    メフィラスは普段の余裕からは考えられない程の怒声を上げる。
    その気勢に内海は呑まれ、しばし迷いながらも六花を背負ったままその場を立ち去って行った。
    「……全く、君たちの強情さはここまでくるとあきれるばかりだ。あんなにも強力な記憶処置を施したのにこれなのですからね」
    髪を掻き揚げ、メフィラスは心底うんざりした様子で吐き捨てる。
    「特に彼女は薬まで処方したというのに」
    「くす…り……? なん、の……」
    息も絶え絶えに、それでも聞き捨てならぬ言葉を響裕太は逃さない。

  • 116二次元好きの匿名さん23/05/07(日) 02:28:42

    「ケシの一種ですよ。とはいってもこの星のケシではありません、別の星のケシの実を精製した薬を与えたのです」
    口にしたものの平常心を奪い、攻撃的にさせる薬。
    かつてはメトロン星人が侵略に利用したそれをメフィラスの手で改良したものが六花が口にしていた赤いタブレットの正体であった。
    「そんな、もの、を……六花、に……!」
    既に完全に怪獣が溶け込んだ体を、裕太は気力だけで動かそうとする。
    それを目にして、メフィラスは大きくため息を吐いた。
    「強情さと言えば、君の強情さが一番面倒だ。そこまで怒りを覚えながらいまだに怪獣になっていない」
    「俺、は……まけな、い……!」
    裕太の抵抗を、しかしてメフィラスは鼻で笑う。
    ここまでくれば、メフィラスの目的達成まであとわずかだと言わんばかりに。
    「ところで、君はこの姿をどう思いますか?」
    スーツの襟を正し、メフィラスは問う。
    響裕太の姿をした、響裕太ではない存在。
    「人間の姿というのは窮屈なものですが、人間の社会に溶け込むには人間である事が一番だ。郷に入っては郷に従えというではありませんか」
    「お前、なんか、に……」
    「ふふふふ、君の立場君の居場所は私が有効活用してあげますよ……もちろん、彼女の事もね」
    裕太の目が驚愕と恐怖で大きく見開く。
    それはまさに、メフィラスの想定通りの反応であった。
    「君たちは学生らしく清いおつきあいをされていたようで。今時感心な事です」

  • 117二次元好きの匿名さん23/05/07(日) 02:30:17

    メフィラスはブランコに腰かけ、裕太に対して侮蔑的な視線を投げかける。
    「しかし、何も触れえぬままというのももったいない話だ」
    「やめ、ろ……!」
    「あの細い指」
    「やめろッ!」
    「あの白い項」
    「やめろ、やめろっ!!」
    「あの見事な肢体」
    「メフィ…ラス……!!」
    「あぁ、先ほど触れたあの唇は柔らかでしたねぇ」
    再び、裕太が吼える。
    もうそれは人間ではない、怪獣そのものだ。
    メフィラスを射殺さんばかりの視線。
    かつて宝多六花が愛したその瞳は、左が赤く染まってしまっている。
    「ははははははは!! 人間が理性など碌に扱えたためしがない、特にヒーローでありながら身勝手に恋などするからそのように心の隙を晒すことになる!」
    メフィラスの手には、いつの間にか大型のナックルダスターのような機器が握られていた。
    「さて、では君の情動を解き放ちなさい」
    その機械は、宇宙のある特殊鉱石を利用して作られた代物だ。
    鉱石にはある種の生物、特に人間の脳波に感応し人間が望んだものを実体化させるという極めて奇怪な特性を有している。
    ある宇宙では地球に流れ着いたその石が悪人の手に渡ったことにより、脳波怪獣ギャンゴを生み出して大混乱を引き起こした。
    半径2M以内の脳波ならば無差別に拾って願望を実体化させるその性質に指向性と制御機構を組み込んだ機械。
    もはや語る必要はあるまい、この機械はかつてツツジ台を襲った【退屈】の能力を再現できる代物。
    「———インスタンス・アブリアクション」
    その引き金が、響裕太に向かった。

  • 118二次元好きの匿名さん23/05/07(日) 02:32:26

    「がっががっがががっが……あああああああああ!!」
    体が全く別のものに変質してゆくのが解る。
    内側から湧き出す衝動と情動が響裕太という形を突き破って際限なく膨れ上がろうとしてゆく。
    抑えようとしても抑えられない。
    力が湧き出す、視界が変わる、感覚が増大してゆく。
    しかし、強大になる代わりに心が怪獣の一部として組み込まれてゆくのが判る。
    怪獣とは情動を利用した兵器なのだという。ならば、響裕太は今まさに怪獣の力の源として単なるパーツに成り下がろうとしていた。

    -心配なんてしてやらねぇ-
    -けど、一緒にいてやるよ-
    内海!

    —そうだな、何時でも頼ってくれ。私も君たちに頼ることがあるだろう—
    —ありがとう、私の友たち—
    グリッドマン!

    —でも、時間かかってよかったよ—
    —私も、裕太を好きになれたから—
    —……はい、お願いします—
    六花!!

    響裕太の人生が、その中で培った思い出と感情がまるで物の様に扱われていく。
    その全てが破壊と混沌に費やされようとする。
    これが、怪獣なのかとその恐ろしさが裕太を襲う。
    薄れゆく意識の中で、わずかに聞こえる声。

    —大丈夫—
    —君は独りじゃない—

    それを最後に、裕太の意思は怪獣へと溶けてゆく。

  • 119二次元好きの匿名さん23/05/07(日) 02:32:58

    そして、ツツジ台に新たなる怪獣が咆哮を上げた。

  • 120二次元好きの匿名さん23/05/07(日) 02:34:00

    これにてSIDE:GRIDMAN・Cパート前半お終いです
    うーんこれ絶対にGWには終わらないな!
    しかし、なんとかSIDE:GRIDMANだけは終わらせる気なのでよろしくお願いします

  • 121二次元好きの匿名さん23/05/07(日) 03:00:29

    素晴らしい!!見入ってしまったよ

  • 122二次元好きの匿名さん23/05/07(日) 03:05:56

    前回とは違う展開!!
    この後も楽しみだ!!

  • 123二次元好きの匿名さん23/05/07(日) 11:53:16

    今日中に見れたら良いなぁ〜無理かなぁ?
    保守

  • 124二次元好きの匿名さん23/05/07(日) 12:09:19

    改めて見るとメフィラスのゲームって「絆を愚弄する」行為だからこの人の怒りも買いそうだな

  • 125二次元好きの匿名さん23/05/07(日) 13:03:05

    >>124

    まあ怒らない方が少数派・・・

  • 126二次元好きの匿名さん23/05/07(日) 16:45:35

    「下衆が。これだからお利口ぶった奴らは嫌いなんだ」
    「私も苦手な輩です」

  • 127二次元好きの匿名さん23/05/07(日) 22:55:36

    保守

  • 128二次元好きの匿名さん23/05/08(月) 07:04:36

    保守

  • 129二次元好きの匿名さん23/05/08(月) 13:22:08

  • 130二次元好きの匿名さん23/05/08(月) 18:41:56

    続きを全裸待機

  • 131二次元好きの匿名さん23/05/08(月) 23:38:53

    保守

  • 132二次元好きの匿名さん23/05/09(火) 07:18:09

    保守

  • 133二次元好きの匿名さん23/05/09(火) 15:13:28

    保守

  • 134二次元好きの匿名さん23/05/09(火) 23:11:21

    保守

  • 135二次元好きの匿名さん23/05/10(水) 01:38:32

    すいません、GW中とか言いながら盛大に遅刻しました
    これよりSIDE:GRIDMAN・Cパート中編を投下します
    予想より長くなってしまい、また半端なところですがよろしくお願いします

  • 136二次元好きの匿名さん23/05/10(水) 01:39:41

    それはまるで慟哭のようでもあった。
    大地を揺らし空を震わせ、一匹の怪獣が己の存在を示すために上げた声。
    けれどもそれは人間を恐れさせるものでもなく威圧するものでもない、ただ聞く者の胸を締め付けるようなそんな響を伴っていた。
    「あれは……怪獣、なのか……?」
    六花を背負い、逃げていた内海はその声に振り返って街の中に佇む怪獣を目撃する。
    「ん……」
    「六花!? おい、大丈夫か!?」
    「内海、君……?」
    内海の背で我を喪っていた六花が目を覚ます。
    「今、彼の声が……」
    「六花、何言って……?」
    「わからない、けど、誰か私を呼んだような……」
    「とりあえず、今は逃げるぞ、ここだとまだ危険だ」
    「危険?……ッ! 怪獣!?」
    六花の意識が現実を目視して急速に覚醒する。
    それは赤い怪獣だった。すくなくとも一目見た時の印象はそうである。
    鋼鉄のような歪んだ装甲と仮面をつけたそれは見ようによっては怪獣というより鎧を纏った巨人にも近い。
    だが、仮面の中に青く濁った何の感情も宿らぬ瞳が禍々しい威容を持つ獣であることを否応なく表していた。
    「あれは……」
    内海の背から降りながら、六花の視線は怪獣の左腕を捉えていた。
    仮面も鎧も肉体も、全てが醜く歪んで捻じ曲がる中、ただ唯一正しい形をとるソレ。
    今もまだ六花の手の中に在るものと全く同じ姿をしている。
    「アクセプター……」
    グリッドマンの器たりえるものの証。
    それをあの怪獣が身に着けているという事は、それはすなわち……
    「って、なんで六花がそれ持ってるんだよ!?」
    「これは、あの人が渡してくれた」
    記憶が、おかしい。
    アクセプターを青い目の少年が渡してくれたのは解るのに、何故そうなったのかを思い出せない。
    つい今しがたの出来事のはずだ、なのにまるで分厚い壁に阻まれた様に記憶が途切れている。

  • 137二次元好きの匿名さん23/05/10(水) 01:42:12

    「あれは、グリッドマンなのか?」
    内海は当然の疑問を口にする。
    「わからない、けど……あの怪獣、何かおかしい」
    六花の言うとおり、眼前の怪獣は全く動こうとしない。
    2人にとって怪獣とは世界を街を破壊するものだ、少なくとも今までの怪獣は皆そうだった。
    だというのに、赤い怪獣は何かに惑うように震えながら動こうとしない。
    何かあるのではないかと六花が怪獣に一歩近づいた、その時であった。
    ≪RRRRRRIIIIIIIIIIIIII!!≫
    ゴォンという爆音と共に叫びをあげながら怪獣は吹き飛ばされる。
    巨体が倒れコンクリートが砕けてまるで小石のように跳ね、車がなぎ倒されてセキュリティアラームがけたたましく鳴り響いていた。
    そして、倒れた怪獣の前に立つのは黒い巨体。
    「メフィラス! 来てくれたのか!」
    ≪KKKKKKaaaaaaaa!!≫
    内海の感性と共に、怪獣が跳ね起きる。
    先ほどまでの様子と打って変わり、吠え声を上げながらメフィラスに飛びかかるのだ。
    しかし、メフィラスは慌てる様子もなく逆に怪獣の頭を掴むとそれを再度地面に叩きつける。
    そのまま怪獣が立ち直るのを待たず、全力で蹴り上げて距離を取る。
    怪獣の方とて蹴り飛ばされながらも、なんとか立ち上がり再びメフィラスに駆け寄って拳を振るう。
    だがそれは空を切るばかりで、メフィラスの体を捉えることができない。逆にメフィラスはがら空きになった怪獣の腹に2・3発重い拳を叩き込む。
    たまらずたたらを踏んだ怪獣に対し、メフィラスの拳からは電撃放射に似た光線・グリップビームが放たれ激しい火花を散らしながら怪獣の肉体を焼き焦がしてゆく。
    怪獣は悲鳴を上げ、よろめきながら後退するしかない。
    「よし! いいぞ、メフィラス、そのまま押し込め!」
    戦況はメフィラスが圧倒的に有利だ。このままいけば苦も無く怪獣を倒せることは間違いない。
    だからこそ、内海はいつも通りにメフィラスへの声援を送る。幾つもの戦いを重ねてきた戦友に。
    だが、六花は違う。わずかに光が漏れるアクセプターを抱きしめ、目の前の光景に震えている。
    「内海君、やっぱりなんか変だよ」
    「変て、何が変なんだよ」
    「だって……あの、怪獣」
    怪獣?
    そう、怪獣だ異形の怪物のはずなのに、何故か六花にはそれが人間に見えていた。

  • 138二次元好きの匿名さん23/05/10(水) 01:44:04

    ≪全く、君は本当に私をいらだたせることに関しては天才だ!≫
    グリップビームで響裕太だったものを灼きながら、メフィラスは苛立ちを吐き捨てる。
    この声は宝多六花にも内海将にも聞こえない。人間(レプリコンポイド)には捉えることのできない周波数での声だ。
    ≪ここまでお膳立てをしておきながら、この程度の力しかないとは!≫
    計画の凡そは完遂したものの、その完成品の出来栄えは失望の一言に尽きる。
    そもそも、何故メフィラスはグリッドマン抹殺の為にこのような手段を用いたのか?
    暴力という短絡な手段を好まない、これは嘘ではない。だがもっと悪辣で趣味の悪い目的があったのだ。
    ≪これではグリッドマンと戦わせるにはまるで役に立たないではないか!≫
    メフィラスはこのユニバース侵略の最大の障害たるグリッドマンに最も屈辱的で悲惨なる最期を与えるつもりだった。
    その為に、響裕太を怪獣に変え、グリッドマンと戦わせることを目論んだのだ。
    数多のマルチバースの中で、最もグリッドマンとつながりの深い少年を対グリッドマン用兵器とする。その時のグリッドマンの絶望と嘆きは如何程のものか。
    この街の人間の記憶を封じ、宝多六花と内海将を操ったのも響裕太の心に激しい憎悪を芽生えさせ、それを糧に怪獣にするためだ。
    メフィラスの経験上、こういうやり方が強い情動を産む。
    特に響裕太が宝多六花に恋をしているのは好都合だった、そこを突いてやればとてつもなく強力な情動が生まれ相応に強大な怪獣がになると予想していたのに。
    よもやここまで弱く、役に立たない……どころかまともに動こうともしない怪獣が出来上がるとは。
    攻撃すれば抵抗してくるが、これは本当に抵抗だ反撃ですらない。ただメフィラスの行動に対して反応しているだけだ。
    ≪もうよい、貴様などここで処分してくれる≫
    失敗作の首を締め上げる。
    兵器のくせに苦しそうに悶えるそれをみて多少なりとも留飲がさがる。
    このまま八つ裂きにし、その躯をグリッドマンに突き付けてやろう。

    その悪意のままに蹂躙劇が始まろうとしていた。

  • 139二次元好きの匿名さん23/05/10(水) 01:47:26

    轟音と爆音を響かせながら、二つの巨体が夜の街でぶつかり合う。
    アスファルトを踏み抜き、ビルを崩し、車を撥ね飛ばしながら。
    それは凡そ戦いなどと呼べるものではない。ただ只管に、黒い巨人が赤い獣を嬲りものにしているだけ。
    殴り蹴り投げ飛ばし、締め上げ痛めつける。
    とどめを刺す事なんて簡単なはずだ、現にメフィラスの必殺光線は幾度も怪獣に直撃してる。
    なのに、怪獣は生きている。明らかにメフィラスは怪獣を痛めつけることを目的としていた。
    「なに……やってるんだよ」
    内海は喉の奥で唸る。
    余りにも凄惨な戦いに、信じられずにいる。
    「メフィラス、なにやってるんだよ、そんなの、お前のいつもの戦い方じゃ!!」
    そこまで言いかけ、悲鳴が止まる。
    いつもの戦い方?
    メフィラスは、いつもどのように戦っていた? メフィラスは、どのように勝っていた?
    たしか、いつも苦戦していて、それでも最後に逆転して勝利を掴んでいたはずだ。
    どんな風に逆転していた? 誰かの力を借りていたはずだ、では誰の?
    自分? ちがう、自分は何時も何もできなかった、ただ見てるしか出来なくて、それでいつも一緒に戦ってるつもりだと自惚れて。
    それで、あんなことが起きて、誓ったはずじゃないか。
    迷わず走り出すあいつの為に、せめて友達として一緒にいるのだと。
    あいつとは誰だ? メフィラスか? 違う、もっと弱くてけど優しくて勇敢な。
    思い出せない、大事な約束のはずなのに、その相手を思い出すことができない。
    「なんだよ、俺、どうしちまったんだよ」
    現実と記憶が曖昧に崩れてゆく。
    混乱する中で、突如として宝多六花が走り出すのを目にする。
    「六花!」
    何もわからないまま、友の後を追う。
    ただ、自分が何かをしなければならないのだとその衝動に突き動かされるままであった。

  • 140二次元好きの匿名さん23/05/10(水) 01:48:43

    破壊される街を宝多六花はたただ走る。
    炎と瓦礫が吹きすさぶ中を、己の身など顧みることなく。
    「やめて」
    目の前で続く惨劇に六花は絞り出すように呟く。
    あれは怪獣じゃない。六花にはもうあれが怪獣とは見えていない。
    あそこにいるのは人間だ、しかも自分たちと同い年の少年なのだ。
    それが、それがあまりにも凄惨な暴力に曝されている。
    「おねがい、やめて」
    あの少年は、誰なのだろう。
    赤い髪、少し幼い顔立ち、ガラス玉の様にきれいな瞳。
    優しく笑う顔も、子供っぽく泣く顔も、嬉しそうな顔も、悲しそうな顔も知っている。
    そして、誰かのために自分がやるべき事の為に迷わず駆けだすあの眩く心悩ませる姿も知っている。
    知っているのに、誰なのかを思い出せない。
    「なんで、どうして!」
    ついさっき、それを知っていたはずだ。
    だってそうでなければおかしい、そうでなければ自分がアクセプターを持ってるなんてことあり得ない。
    これは、彼にとって大切なもので、いつも身に着けてて、私と彼と皆を繋ぐ……
    思考が千切れ飛ぶ。まともに頭が働かない。
    確信と不安が入り交じり、大事なものが浮かんでは消えてゆく。
    それでも足が決して止まることは無い、六花の心がただそれだけを命令している。
    一秒でも早く、彼の下に。何ができるかなんかわからない、けれどいつも一緒に居た、不安と戸惑いだらけでそれでも隣にいる事だけは辞めなかった。
    自分の知らない彼になっても、自分の知っている彼が戻ってきた時もいつもそうだった。
    だからこそ、今こそ傍にいなくてはいけない。彼に手を伸ばさくてはいけない。
    必死に走って走って走って、あと少し、そういう所で六花を嘲るように、赤い巨体が崩れ落ちようとしていた。

  • 141二次元好きの匿名さん23/05/10(水) 01:52:15

    黒煙を上げ崩れかけたビルに巨体が力なく倒れる。
    濁った青は次第に輝きを失い灰色に沈んでゆく。
    装甲はいたるところが砕け罅割れ、肉体に傷がついていない個所などどこにもない。
    もう戦えない、そんなのは見ればわかる決着はついたのだ。
    だが、黒い異星人はそんな事を気にもせず、掌にエネルギーを溜め始める。止めを刺すつもりであった。
    宝多六花と内海将は、その光景を目の当たりにし益々以て焦燥と恐怖を覚える。
    「やめろ!! やめてくれメフィラス!!」
    「メフィラス! お願い!!」
    その怪獣を何故庇おうとするのか内海将も宝多六花も理解できない。
    2人にメフィラス星人が施した記憶操作とはアドレナリンβ受容体の制御系に強く干渉するものだ。
    これにより、人間の情動を蓄える部位・扁桃核をコントロールし、情動に結び付く記憶の再生を阻害している。
    その処置は強力であり、生半に破れるものではない。むしろここまで抵抗できているだけ二人の精神力は驚嘆に値すると言っていい。
    だがそれはこの場においては何の慰めにもならない。
    ≪ふふふふふふ……≫
    メフィラスの掌に集まるエネルギーは通常放たれるそれをはるかに超えて強大だ。
    眼前の赤い怪獣を塵も残さず消し去ろうとしている。
    「立って!!」
    六花は眼前の赤い巨人にそう訴える。だが巨人は何も応えない。
    「立って!! 目を覚まして!!」
    「頼む、このままじゃやられちまうぞ!!」
    それでもなお、二人は諦めずに呼びかける。
    その呼びかけに応じるように、六花の手の中のアクセプターに小さく光が灯ろうとする。
    「お願い!! 負けないで!!」
    光は、次第に強くなり、そして……
    「ゆぅぅたあああぁぁぁ!!」
    名を叫ぶ、ただ情動に駆られるままに。
    六花は、何を叫んだのかわからない。記憶を封じられその名を正しく認識することができないからだ。
    ただ唯一解る事、それは巨人のアクセプターに強い光が宿った事であった。

  • 142二次元好きの匿名さん23/05/10(水) 01:57:04

    『裕太』
    虚空の果てか誰かの呼ぶ声がする。
    何時か聞いた自分を必要とする呼び声ではなく、むしろ自分を呼び覚ます声。
    『裕太』
    その声に導かれ響裕太の意識が暗闇から浮かび上がる。
    コンピューターの配線にも似た色とりどりの牢獄の中で、次第に裕太は自分の姿を取り戻そうとしていた。
    『裕太、目が覚めたのだな』
    「グリッドマン……?」
    声はすれど、グリッドマンの姿はどこにも見えない。
    それはそうだ、ここは裕太の憎しみから生まれた怪獣の内部、こんな所にグリッドマンがいるはずがない。
    ただ、左腕のアクセプターが静かにGコールを発し続けている。
    「……って、アクセプター!? なんで、確か俺、六花にアクセプターを」
    『裕太、そのアクセプターは君自身が生み出したものだ』
    「俺が、アクセプターを……?」
    それはメフィラスにとって全くの想定外であったに違いない。
    かつて裕太はグリッドマンから失われた二ヶ月の思い出を受け取った。それは裕太の心の中に裕太にとってのグリッドマンの物語/グリッドマンユニバースとして刻まれたのだ。
    人間は形のないものを信じることができる、裕太の中のグリッドマンユニバースは裕太が信じ続ける限り消えることは無い。
    だからこそ、インスタンス・アブリアクションを受けた時、裕太の中のグリッドマンユニバースもまたアクセプターという形で顕現化したのだ。
    『裕太が生み出したアクセプターと、六花が持つアクセプター、この二つがそろいようやく私の声を君に届ける事が出来た』
    グリッドマンはメフィラスがこの世界に現れて以降、異変を感じ取りずっと裕太に呼びかけていたのだ。
    しかし、メフィラスの張り巡らせた障壁はあまりにも強力であり、その声は阻まれていた。それを打ち破ったのが二つのアクセプター。
    そしてそのアクセプターを通じて、グリッドマンの声が届き裕太の意思を覚醒に導いた。
    グリッドマンの力、誰かを必要とし誰かと繋がる力を、裕太はその本質を誰よりも深く知っているからこそ成しえた奇跡と言っていい。

  • 143二次元好きの匿名さん23/05/10(水) 01:58:30

    「ありがとうグリッドマン。また俺を助けてくれて」
    『いいや、まだだ。メフィラス星人の障壁を取り除かない限り私は声と意思を届けるだけしかできない』
    「どうすればいい?」
    『……今の君は怪獣だ。その力を振るい、カオスブリンガーを引き起こす』
    かつてのユニバース事件の根幹ともいえる現象を引き起こす。それはあまりにも危険な手段だ。
    しかし、危険だからこそメフィラスの盲点でもある。
    『宇宙が混沌化すれば、障壁にも綻びが生じる。そこを突いてこの世界への通路を開く』
    「解った」
    『……君が怪獣の力を使うという事は、必然的にメフィラスと戦うという事になる』
    「それが、俺がやるべき事なら」
    迷いなど微塵もなく、裕太は答える。
    これが響裕太なのだ。どんな恐ろしい敵にもどんなに強大な存在にも誰かのために立ち向かう。
    誰かは言うだろう、響裕太は危ういと。誰かは恐れるだろう、響裕太は異常だと。
    けれども、裕太は自分のその有様をおかしいとも不幸だとも思わない。
    いつだって、自分のやるべきことを自分で決めてきた。それは誰もが同じことで、響裕太はその同じがちょっと変わってるだけにしか過ぎないのだ。
    きっと誰もがヒーローになれる。けれどどんなヒーローになるかは人それぞれで、裕太のヒーローとしての有様がそうであるというただそれだけ。
    「俺は、やるよ」
    『……』
    アクセプターの向こうでグリッドマンが息を呑む。
    響裕太を知っているからこそ、グリッドマンは彼を止められない事を知っている。
    そして、そんな時に助けることができない自分を悔いているのだ。
    『裕太───』
    「グリッドマン、俺を信じて」
    かつてグリッドマンが宇宙と化した時、グリッドマンは裕太が来てくれると信じて独りで耐え続けた。
    それと同じだ、グリッドマンが来てくれると裕太は信じている、だからこそ希望を抱くことができる。
    SOSに応じた裕太がグリッドマンの復活を信じたように、グリッドマンも裕太が負けない事を信じてほしい。
    『……出来る限り、早く助けに向かう。レックス達も君を助けるために懸命に頑張っている』
    「その言葉だけで、心強いよグリッドマン」
    裕太は笑い、光を目指す。
    自分を呼ぶ声に導かれるままに。

  • 144二次元好きの匿名さん23/05/10(水) 02:00:06

    「六花……内海……」
    愛する人と親友の声が聞こえる。
    直ぐそばから、自分に必死に呼びかける声が。
    「蓬……夢芽ちゃん……」
    戦友たちの声がする。
    遥か彼方から、自分を激励する声が。
    「暦さん……ちせちゃん……レックスさん……」
    仲間たちの声がする。
    別の場所から、自分を助けようとする声が。
    「新条さん……」
    友達の声がする。
    自分の為すべきことを示す、優しい声が。
    多くの声が、響裕太を呼び覚ます。
    多くの思いが、響裕太に力をくれる。
    「俺の、俺にしかできない……俺のやるべき事……」
    そして、響裕太自身が何を為したいのか。
    選び取るための力、その源泉は胸の中で決して枯れることは無い。
    ―自分のやるべきことを自分で選んでできるって幸せだよね。響君―

    「俺は……独りじゃない!! 俺には、皆が付いている!!」

    ―うん、だから今度は私が助けてあげる—

    忘却の彼方から幽かな声を受けて。
    そして今、金色の瞳の超人が目覚める。

  • 145二次元好きの匿名さん23/05/10(水) 02:00:55

    Cパート中編これにて終了です
    次回、Cパート後編でSIDE:GRIDMANは終わりになります
    ありがとうございました

  • 146二次元好きの匿名さん23/05/10(水) 02:27:18

    この展開は涙腺に効くって

  • 147二次元好きの匿名さん23/05/10(水) 02:29:20

    よかった…ちゃんと更新されてた…

  • 148二次元好きの匿名さん23/05/10(水) 05:39:37

    「こんな雑魚の小細工で揺らぐ程度の絆か」

  • 149二次元好きの匿名さん23/05/10(水) 13:21:45

    スレ主の更新。私の好きな言葉ですね

  • 150二次元好きの匿名さん23/05/11(木) 00:18:21

    あぶねーなんとか保守出来た

  • 151二次元好きの匿名さん23/05/11(木) 05:08:37

    保守

  • 152二次元好きの匿名さん23/05/11(木) 08:26:47

    出勤前に保守

  • 153二次元好きの匿名さん23/05/11(木) 08:58:06

    >>148

    だからこそ守らなきゃいけないんだろうが

  • 154二次元好きの匿名さん23/05/11(木) 18:43:25

    保守

  • 155二次元好きの匿名さん23/05/11(木) 23:24:14

    保守

  • 156二次元好きの匿名さん23/05/12(金) 02:26:54

    このレスは削除されています

  • 157二次元好きの匿名さん23/05/12(金) 02:29:43

    このレスは削除されています

  • 158二次元好きの匿名さん23/05/12(金) 02:32:12

    このレスは削除されています

  • 159二次元好きの匿名さん23/05/12(金) 02:32:51

    このレスは削除されています

  • 160二次元好きの匿名さん23/05/12(金) 02:35:13

    このレスは削除されています

  • 161二次元好きの匿名さん23/05/12(金) 02:35:51

    このレスは削除されています

  • 162二次元好きの匿名さん23/05/12(金) 02:41:33

    このレスは削除されています

  • 163二次元好きの匿名さん23/05/12(金) 02:43:04

    このレスは削除されています

  • 164二次元好きの匿名さん23/05/12(金) 02:47:40

    保守
    ちゃんと更新されて嬉しい

  • 165二次元好きの匿名さん23/05/12(金) 04:11:00

    くそ、なんて健康的な投稿時間なんだ!

  • 166二次元好きの匿名さん23/05/12(金) 07:39:15

    きゃ、キャリバーさん…

  • 167二次元好きの匿名さん23/05/12(金) 16:00:50

    保守

  • 168二次元好きの匿名さん23/05/12(金) 21:17:27

    これ見てて思ったけどザムシャーとかメガザムがナイトに挑みにくる話とか良いな……

  • 169二次元好きの匿名さん23/05/12(金) 22:01:50

    >>166

    キャリバーさん入れ忘れた上、黒アカネちゃん介入の切欠部分を丸っと抜かしていた事に気が付かなかった愚かなスレ主が私です

    なんちゅうミスを……

  • 170二次元好きの匿名さん23/05/13(土) 00:16:03

    保守

  • 171二次元好きの匿名さん23/05/13(土) 07:27:43

    保守

  • 172二次元好きの匿名さん23/05/13(土) 14:47:30

    保守

  • 173二次元好きの匿名さん23/05/13(土) 20:49:43

    保守

  • 174二次元好きの匿名さん23/05/14(日) 02:04:07

    怪獣化した裕太がグリッドマンと同調?した時の姿って画像通り電光超人?それとも裕太の面影がある新形態とか?

  • 175二次元好きの匿名さん23/05/14(日) 11:25:52

    ノベライズ要素も取り入れると本格的なオールスター感出てきたね

  • 176二次元好きの匿名さん23/05/14(日) 16:49:17

    現在SIDE:DYNAZENONを書いています……
    が、執筆速度とスレの残り具合を考えると中途半端な量で次スレに移行することになってしまう上、保守の手間ばかりをかけてしまう事になってしまうため
    許してもらえるならこのスレを落して書き溜めてから次スレで再開したいと思います。
    残りに関してはもしよろしければ、Cパート後編がキャリバーさん抜けてた上に黒アカネちゃんがどう介入したのかの部分がまるっきりすっぽ抜けていたため、改めて投下させてもらうのと
    事件の直前のグリッドマン視点のサイドストーリーで埋めたいと考えています

  • 177二次元好きの匿名さん23/05/14(日) 16:56:12

    ぜひぜひ読ませて頂きたいです。
    貴殿の良質なSSがエネルギーを回復してくれていますもので!

  • 178二次元好きの匿名さん23/05/14(日) 19:00:03

    ではCパート後編の修正版をまず投下します
    怪獣化した裕太はグリッドマンの画像を使ってますが、イメージ的にはゼルガノイドのグリッドマンVerみたいな感じを想像していただくと助かります

  • 179二次元好きの匿名さん23/05/14(日) 19:01:25

    その光景をなんと言えばいいのだろう。
    六花と内海の目の前で、力尽きていた筈の巨人の瞳に覚悟が宿る。
    それは灰に火をつけ、濁った青を焼き尽くし、光の化身ともいうべき金を顕す。
    確かな意思と命をその巨体に灯し、ゆっくりとされど雄々しく巨人は立ち上がってゆく。
    いつか見た、そしていつも見てきたはずの姿だ。
    何処でかはわからない、忘れてしまったとしてもきっと胸の中で生きてきた勇姿。
    驚愕と憧憬、安堵と不安、期待と信頼を背負い、赤き超人は黒き異星人の前に立ちふさがる。
    ≪死にぞこないふぜ……ッ!?≫
    赤い拳が振るわれ、見下していた言葉が遮られる。
    溜めていたエネルギーが霧散し、メフィラスは大きくよろめく。
    今までのような、単なる反射行動ではない、明確な闘志の籠った拳だ。
    ≪メフィラス……≫
    赤い巨人が、声を上げる。
    それは確かに響裕太の声だ。
    ≪馬鹿なッ!! 怪獣に飲み込まれながらも意思を取り戻したのか!? ただの人間が!!≫
    ≪声が聞こえた、六花の、内海の、皆の声がこのアクセプターから!≫
    裕太は何もかもが歪んだ自分の体の中でただ唯一燦然と輝くアクセプターを翳す。
    傷だらけの体で、それでもなお揺るがないファイティングポーズ。
    かつて、この街の人々を一人の少女を救った時を思い起こさせる。
    誰かの熱い思いによって呼ばれる、夢のヒーロー。
    姿かたちは怪獣であろうとも、この瞬間、響裕太は確かに電光超人であった。

  • 180二次元好きの匿名さん23/05/14(日) 19:02:44

    超人と異星人がぶつかり合う。
    大気を震わせる拳が飛び交い、組み合えば大地を揺らす。
    超人の殴打の嵐が異星人の防御を揺るがし、異星人の拳が超人の肉体を叩く。
    繰り出された黒い蹴撃を、赤い蹴撃が迎え撃ち、その勢いを回転に活かして超人が異星人を蹴り飛ばす。
    先ほどとはまるで違う、互角の格闘戦であった。
    ≪なんだこの戦い方は! これほどの技の切れ、ただの少年に出来るはずがない!!≫
    メフィラスが驚嘆の声を上げる。
    そうだ、肉体は超人/怪獣のもであったとしても、技巧が自動的に付与されるわけではない。
    響裕太はただの少年のはずだ、こんな戦い方が出来るはずがない。
    無論、その違和感を裕太自身も感じている。
    ≪なんで、こんなに体が軽く……≫
    それはまるでグリッドマンと一体化しているかのようだった。
    無論、そのままという訳ではない。この体は怪獣のもの、裕太の憎悪から生まれた捻じ曲がった醜い模倣にすぎない。
    グリッドビームもスパークビームもグリットライトセイバーも使えない、ましてやフィクサービームなど望むべくもない。
    一体感に関しても、グリッドマンとのような強さと繋がりを感じない。この体は何処まで行っても怪獣・響裕太のそれなのだ。
    だというのに、裕太はグリッドマンを感じている。自分の意思の中に確かにグリッドマンがいる。
    今の裕太は響裕太であると同時にグリッドマンでもある、その実感が体を突き動かしてゆく。
    ≪誰かが、助けてくれている……?≫
    それは明らかだった。どこから誰からなのかは解らない、けれども裕太を助けるべく力を貸してくれる人がいる。

  • 181二次元好きの匿名さん23/05/14(日) 19:04:42

    それを自覚した瞬間、アクセプターを通じ一人の少女の姿を裕太は垣間見た。
    はっきりとは見えない。けれども確かにそこにいるのは黒い髪の少女だ。
    —また会えるとは思ってなかったけど……ま、オリジナルと違ってもう会わないなんて約束はしてなかったし—
    裕太は覚えていないだろう。グリッドマンですら忘れてしまった戦いの記憶を。
    それは一人の少女のバックアップとして生み出されたがゆえに己の存在に藻掻き苦しむ少女。
    オリジナルと同じでいることが嫌で、違う自分になりたかった。怪獣を創りたくないのに、怪獣を創るしかなかった少女。
    消える記憶と繰り返される40日間の果てにグリッドマン同盟が救った、もう一つのユニバース。
    —君の中から生まれたアクセプターが私をここに導いてくれた—
    彼女の支配するツツジ台からの脱出の時に記憶は全てリセットされている。
    けれども、裕太たちが彼女と過ごした時間が消えたわけではない。傷つけあった事も、訪れる事の無かった未来の可能性を話し合っていたことも。
    裕太の中のユニバースから生じたアクセプターは、それ故にほんの僅かな痕跡から彼女を結び付けここに介入する縁を作ったのだ。

  • 182二次元好きの匿名さん23/05/14(日) 19:08:37

    —私の力で、君を今この一時ほんの少しだけグリッドマンに変身させてるの—
    ≪俺を、グリッドマンに!?≫
    —そう、君の中にあるグリッドマンの思い出、君に届いているグリッドマンの意思、そして君の六花たちを護りたいという気持ち。それがあればあの時の全ての始まった日の再現ができる—
    アレクシス・ケリヴに破れ分断されたグリッドマンが裕太に宿った日、もう一つのツツジ台の繰り返しの起点となった時。
    条件は全てが揃っている。いや、むしろこの条件が欠けた時など一度たりとも無い。
    それほどまでに裕太のグリッドマンとの繋がりや六花への想いも内海への友情は強いのだ。
    裕太が怪獣になり理外の存在となった今、黒髪の少女が持つ変身する力で後押しをするだけで良い。ただそれだけで、裕太とグリッドマンの一つとなったあの時を呼び覚ませる。
    それが、多くの思いを胸に独りで居ることを選んだ怪獣の少女から、多くの想いを胸に一人でも戦うことを決めた少年へのただ唯一の恩返しだった。
    ≪……ありがとう≫
    名前も思い出せない少女に、裕太は心の底からの感謝を捧げる。
    そして少女は、黒い髪を少し揺らしてこう笑うのだ。
    —これ以上、六花を泣かせちゃダメだよ?—
    それだけを言い残し、少女は再び意識の果てに手の届かない別の場所あるべき場所へと消えてゆく。
    大事な事が、裕太の胸に残る。
    刻まれる裕太自身のユニバース。それは戦いを切り開く新たなる引き金となった。

  • 183二次元好きの匿名さん23/05/14(日) 19:09:28

    ≪調子に乗るな、グリッドマン擬きめが!!≫
    ≪今の俺は、確かにグリッドマン擬きだ、だけど!!≫
    メフィラスと裕太は互いの腕をつかみ合い、力比べに入る。
    黒い力が、赤い力を押し込んでゆく。
    ≪俺には、支えてくれる人たちがいる。絶対に負けない!!≫
    ≪支えるだと? 愚か者め!! 今の君に誰がいるというのだね!? ダイナゼノンも新世紀中学生もグリッドマンも居ない! あの二人を見るがいい、記憶を封じられ惚けているばかりではないか!!≫
    ≪それでも……!≫
    響裕太は覚えている。
    グリッドマン同盟の事もガウマ隊も、新世紀中学生もグリッドナイト同盟も。
    響裕太は知っている。
    宝多六花の優しさを、内海将の勇気を、麻中蓬の愛を、南夢芽の恋を、飛鳥川ちせの自由さを、山中暦の正義感を
    レックスの人の良さを、マックスの世話好きを、キャリバーの信頼を、ボラーの兄貴肌を、ヴィットの緩さを
    ナイト/アンチの生真面目さを、二代目の義理難さを
    今まで出会った人々全てが響裕太を支えている。
    喩え記憶を奪われようと、その事実を変えられりゃしない。
    それを裕太自身が忘れ去ってしまい、それでも手を差し伸べてくれた少女が証明している。
    ≪うおおおおぉぉぉッ!!≫
    メフィラスの腕を力任せに弾き飛ばす。
    大きく態勢を崩し、隙を晒したその瞬間に裕太は力いっぱい拳を握りしめる。
    ≪六花と、内海を、かえせぇぇぇぇぇぇ!!≫
    固く握りしめた拳がまるで赤熱化したかのように見え、それがメフィラスの顔面を撃ち貫いた。
    その一撃は、まるで世界を砕くようであった。
    黒い悪魔は超人の一撃で倒れ、何かの戒めが解かれたようなそんな感覚が広がってゆく。
    超人は、響裕太は全ての力を絞りって大きく肩を揺らす。
    これ以上は、もはや望めない、まさに死力を尽くした一撃だった。

  • 184二次元好きの匿名さん23/05/14(日) 19:10:58

    「終わった……のか?」
    内海がそうつぶやく。
    戦いを見守っていた二人からは何と言っていいのか解らない。
    味方であるメフィラスが倒れ、謎の巨人が立っていた。
    けれど不思議と絶望も悔しさも感じない。むしろ、心のどこか安堵しているような、そんな気さえしてくる。
    「あっ……」
    目の前で崩れるように膝をつく巨人に、六花は思わず驚きの声を上げる。
    いや、無理もない。途中から奮起したとはいえ、その前に散々甚振られたのだ、体はとっくに限界を迎えていてもおかしくない。
    「裕太!」
    再び呼んだその名に、巨人は反応し六花の方に顔を向ける。
    ≪六花……記憶が……?≫
    期待を込めた巨人の声に、だが六花は首を横に振った。
    何故、この名を呼ぶのか六花自身も解っていない。ただ、心の何処かから自然と浮かび上がるのだ。
    知らない名前を知っているのを不安に思う自分と、そう呼ぶのが自然なのだと納得する自分。その両方がいて、今は後者が勝っていた。
    「無事で、良かった」
    その一言を受け、巨人の仮面をつけて表情など解らないはずのそれが何故がほころんだように見える。
    「……もう、何が何だかわからねーよ」
    「実は、私も」
    「いや、六花さん、こいつの事名前で呼んだじゃん」
    「だから、本当にわかんないんだってば。ただ何となく名前解るだけで」
    「なんだよそれ」
    気が抜けたせいか唐突に始まる、いつものグリッドマン同盟の会話。
    それを見ていた巨人は思わず吹き出してしまい、ふたりは顔を見合わせて真面目に戻る。
    「とりあえず、状況確認しねーと。なんかメフィラスの様子もおかしいし」
    「確かに、判んないことだらけ」
    ≪とりあえず、グリッドマンが来てくれれば元に戻せるか……≫
    そこまで言いかけて、言葉が途切れる。
    放たれたる稲妻。それが巨人の体を貫いていた。

  • 185二次元好きの匿名さん23/05/14(日) 19:12:30

    ≪少々驚きました。まさかここまでやってのけるとは≫
    両の手からグリップビームを放ちながら、メフィラスは憮然とした口調で言い放つ。
    いつもの慇懃無礼を装うとはしているものの、言葉の端々に怒りが見え隠れしている。
    ≪うぅ、ぐあああああああああああ!!≫
    今までとは出力がまるで違うグリップビームを受けて、裕太はたまらず吹き飛ばされる。
    一瞬状況が呑み込めなかった内海と六花から上がるのは、紛れもない悲鳴だ。
    「メフィラス!?」
    「そんな!!」
    メフィラスはビームを放つ手を緩めることなく、そんな二人を一瞥する。
    ≪記憶処理が緩んでいる……全く、新条アカネにしてやられました。が、もはやどうでもよい事です≫
    一歩ずつ裕太に歩みながら放たれるビームの力は増してゆく。
    即座に最大出力を放てば裕太を灰燼に帰すことが出来るだろうに、メフィラスはそれを選ばない。
    ≪うああああああああっ!!≫
    苦悶の声が強くなるほど、メフィラスの痛みは和らいでゆく。
    完全に油断していたとはいえ、この程度の怪獣に痛撃を食らうのはメフィラスにとってこの上ない屈辱だ。できうる限り苦しめなければ割に合わない。
    見せつけるように、勝ち誇る様に、メフィラスは裕太にとっての死の歩みを続けてゆく。
    ≪っぐぐぐぐ、うあああああああああ……≫
    ≪ふふふふふ、もう一度言ってみなさい。支えてくれる人たちがいる? 絶対に負けない? そんなもので私に勝てると本気で思っていたのか愚か者めッ!!≫
    「メフィラス!! やめろ、やめてくれ!!」
    「メフィラス!!」
    六花と内海の声を受けても、メフィラスは意に介さない。もとよりあの二人は響裕太を堕とす為の道具に過ぎない、使えないのであれば価値等ありはしない。
    先ほどはまだ使えるかと変な考えを起こし、アクセプターを奪わず逃がしたのが失敗であった。同じ轍は二度と踏まない。
    ≪君を始末した後はあの二人です。グリッドマンに関わるものすべてこの宇宙から抹殺しましょう≫
    ≪そんな……事、させる……もん、か……≫
    ≪口先だけは結構。しかし君はここでお終いなのですよ!!≫
    ビームの出力がさらに上がる。最大出力まであとわずか。

    「裕太、にげてえええええぇぇ!!」

    宝多六花の悲鳴と共に、ツツジ台に紅蓮の大華が咲いた。

  • 186二次元好きの匿名さん23/05/14(日) 19:13:41

    修正版ここで終了です
    修正以前のは評価していただいた方には申し訳ありませんが削除させていただきます
    お騒がせいたしました

  • 187二次元好きの匿名さん23/05/15(月) 04:39:24

    小説版のグリッドマンは未履修だったからこれを気に小説に興味湧いてきた

  • 188二次元好きの匿名さん23/05/15(月) 05:06:10

    次スレ立ったらうまく余ればこのスレからのリンクも貼って欲しいなと思いつつ一応の保守

  • 189二次元好きの匿名さん23/05/15(月) 07:39:45

    アナタは宇宙の姿を想像したことがあるだろうか?
    宇宙を構成する物質の内、最小の単位は素粒子であるがこの素粒子は一次元の広がりを持つ「開いたひも」「閉じたひも」の姿をしている。
    宇宙には4つの力の力が存在するが、その内で電磁力・強い力・弱い力は「開いたひも」の振動から、重力は「閉じたひも」の振動から生まれ様々な現象の源となるのだ。
    しかし、この「ひも」を人類は観測できない。それは「ひも」が11次元という高次元に存在するゆえである。
    すなわち、宇宙とは11次元という多次元構造で成り立っているが、その内我々が住む三次元を高次元(五次元)から観測した場合それは薄い膜(ブレーン)のような姿となっている。
    先に述べた素粒子の内、「開いたひも」は端が必ずブレーンに接続されている必要があるが、「閉じたひも」はブレーンに捕らわれることなくブレーン上を動き回ることも別の次元方向に動くこともできてしまう。
    自由な「閉じたひも」すなわち重力は、他のブレーンの重力と引き合い、ブレーン同士の衝突を引き起こす。
    それこそがビッグバンと呼ばれる現象だ。
    これにより、五次元宇宙とは三次元のブレーンが無数に積み重なった姿……俗にマルチバースと呼ばれる形を形成している。

    各ブレーンは非常に多彩で多様な姿をしている。
    我々のブレーンと極めて似通った物理法則を持ったブレーンもあれば、その法則がまるで違うブレーンも存在している。
    M78星雲の戦士たちが宇宙を護るブレーン、二次元世界からのインベーダーを二次元人と三次元人のハーフが迎え撃つブレーン。
    アバン大陸の末裔が作り出したマグマパワーを用いる戦士のいるブレーン、エメラルド星人が開発した二つのスーパーロボットが悪と戦うブレーン。
    万能戦艦を駆り悪の野望を打ち砕かんとする秘密組織がいるブレーン、怪奇なる事件に科学捜査研究所が挑むブレーン。
    不可思議な事件と戦い続けるSF作家がいるブレーン。
    一攫千金を狙いプラズマ怪獣を狩る星人ハンター達のいるブレーン、生身の人間が様々な武器を手に怪獣達をハントするブレーン。
    果ては怪獣達が可憐な少女の姿をしているブレーンもあれば、ウルトラマン達が忍者をやってるブレーンまである。

    数と形は違えど、そこには善があり悪があり戦いがあり平和がある。
    なればこそ、ブレーン/宇宙を跨ぐ悪意と脅威もまた存在するのであった……

  • 190二次元好きの匿名さん23/05/15(月) 07:42:29

    ≪超電導キィィィィィクッ!!≫
    何処までも荒廃した大地と息の詰まるような赤黒い空でグリッドマン・プライマルファイターの裂帛の気合いと共に鋭い飛び蹴りが放たれた。
    その一撃は白い結晶に覆われた怪獣ギラルスの顔面を正確にとらえ、ひときわ大きな結晶角を叩き折る威力を見せる。
    ギラルスは怒りの咆哮を上げ、その口から結晶化ガスを放つ。
    グリッドマンの着地点を狙ったそれは、しかして狙いを察したグリッドマンがヘ着弾するよりも早く再び跳躍したことでただ地面をえぐるだけの結果に終わってしまう。
    悔し気に地団太を踏むギラルスであるが、グリッドマンはその隙を見逃さない!
    ≪グリッドォォォ…ビィィィィィムッ!!≫
    左腕のプライマルアクセプターから放たれる必殺光線は敵の体を貫き、青い怪獣は断末魔を上げて爆炎の中へと消えていった。
    だがグリッドマンは戦闘態勢を解かず、すかさず次の敵に備える。
    その意気に挑むように、炎の向こうから火山怪獣ボルカドンが突撃し、グリッドマンに掴みかかってきた。
    ≪ぬおおおおお!!≫
    グリッドマンも負けじと踏みとどまり、ボルカドンのパワーを徐々にではあるが押し返してゆく。
    後わずかでボルカドンを弾き返せる、その瞬間にグリッドマンの背で爆発が起きる。
    ≪ぐわぁ!!≫
    一瞬の怯みが致命的となり、ボルカドンがグリッドマンを逆に押し込む。
    踏ん張ろうとするが、元より怪力を誇るボルカドンである、生半にそれを許してはくれない。
    ボルカドンの向かう先、すなわちグリッドマンの背後で待ち構えるのは全身に数多くの角を備えた電気怪獣ジェネレドンである。
    得意の電撃を放ち、グリッドマンを妨害したジェネレドンは今度は大きく口を開いて食らいつこうと迫ってくる。
    ジェネレドンは口から相手のエネルギーを吸収することができる、ただ食いつかれるのとはわけが違う。
    ボルガドンが押し込み、ジェネレドンが吸収する。グリッドマンにとって絶体絶命の危機。
    しかし、グリッドマンは常に一人ではない事を忘れてはならない。

  • 191二次元好きの匿名さん23/05/15(月) 07:44:17

    ≪ジャンボセイバースラァァァッシュ!!≫
    4つの声が重なった叫びと共に、ジェネレドンの首が刎ねられ両腕が斬り飛ばされる!
    いかな電気怪獣と言えど、これではひとたまりもなく先のギラルスと同じく爆発炎上を起こしてして消え去ってゆく。
    心強い仲間、パワードゼノンの救援に奮起したグリッドマンは大きく足を大地に叩きつけると、再びボルガドンのパワーを押しとどめる。
    ≪うおおおおおおお!≫
    雄叫びと共にボルガドンを投げ飛ばし、プライマルアクセプターから光の刃が伸びた。
    ≪グリットライトセイバースラッシュ!!≫
    刃はボルガドンの体をやすやすと切り裂き、火山怪獣もまた断末魔と怨嗟の声を上げながら爆炎と化していった。
    ≪すまない、皆助かった≫
    あと一歩というとこでジェネレドンに食われかけたグリッドマンは助けてくれた仲間達に礼を述べる。
    巨大マシンの表情など解らないはずのパワードゼノンもどこか安堵した様子だ。
    ≪危ない所だったなグリッドマン≫
    ≪はっ、俺たちにかかりゃこんなもんだけどな≫
    ≪しっかし、なんなんだろうねぇこの歓迎ぶり。こういうの好きじゃないんだけど≫
    ≪さ、先ほどので2度目の襲撃だ。つ、次もあると考えた方が良い≫
    パワードゼノンを構成する4つのアシストウェポン、バトルトラウトマックス・バスターボラー・スカイヴィッター・グリッドマンキャリバーはそれぞれにこの状況に対する考えを口にする。
    そう、彼らを襲った怪獣は三体だけではない。この場所に到達してより、既に七体の怪獣と戦っていたのだ。
    一体の強さはそう大したものではない……それがまた不自然で不気味でもある。
    ギラルスもボルガドンもジェネレドンも、かつてグリッドマンが戦った事のある怪獣でその力は良く知っている。本来なら一体一体がグリッドマンとアシストウェポンが全力で挑まねば勝てない程の力を持つ。
    だというのに、複数相手取って勝ててしまう程度の強さなのは何故なのか。
    ≪んー、個体差とか?≫
    ≪あいつら一体しか存在しねぇだろ≫
    ≪あぁ、あの怪獣達はかつてグリッドマンが倒したのと同一個体だろう。その魂……と呼べるものがこの怪獣墓場にやってきていたのだ≫
    マックスの言葉には深い警戒と疑念が渦巻いている。

  • 192二次元好きの匿名さん23/05/15(月) 07:46:07

    怪獣墓場、それはマルチバースの多くの宇宙にまたがって存在する空間であり死した怪獣達の魂が流れ着く安息の地。
    流れ着くのは魂ばかりではなく、いずこかの宇宙で作られたであろう建造物や巨大な大地なども存在しており、その混沌とした様は何とも言えない底知れなさを感じさせる。
    なにせ物理的な意味を持つ空間でありながら、グリッドマンが誰かとのアクセスフラッシュを必要とせずに形を取れるのだから、それ一つとっても尋常な世界ではない。
    ≪ここ怪獣墓場ならば、アレクシスが流れ着いていてもおかしくはないと思い来たみたが、まさかこうなるとは……≫
    グリッドマンが呟くように、彼らがこの怪獣墓場を訪れたのはアレクシス・ケリヴ探索の一環である。
    無限の命を持つアレクシスが死ぬことは無い、だが先の事件であれほどまでの痛手を負い消耗した状態であれば、ひょっとしたら怪獣墓場に流れ着いているのではないか? という淡い希望を抱いての事だ。
    ここには死んでいないにもかかわらず怪獣の魂や概念が流れ着く事もあるらしく、アレクシスが居ないとは完全には言い切れるものではない。
    だからこそ怪獣墓場の探索にやってきたグリッドマンと新世紀中学生だったのだが、アレクシスを見つける代わりに謎の怪獣軍団が襲い掛かってきたのである。
    ≪怪獣墓場って、こんなに物騒な場所だったっけ? 名前だけなら十分物騒だけど≫
    ≪い、いや、か、怪獣墓場は怪獣達の眠る神聖不可侵の領域。た、戦いとは縁遠い場所の筈だ≫
    ここに眠る怪獣達は皆、実態を持たない。
    空を見上げれば半透明のままでそこら中を漂う怪獣たちの姿を確認できる。
    なればこそ、怪獣達が実体を取り戻して襲い掛かってくるなど何かの異常事態を疑わねばならない。
    ≪グリッドマン、どうも先ほどから怪獣墓場で異常な重力振反応を確認している≫
    ≪重力振……それがこの異変の原因か≫
    ≪わっかんねぇけど、調べてみる価値はありそうだぜ≫
    ≪っていうか、他に手がかりもないしね≫
    ≪な、ならば、そ、その重力振の……≫
    場所に向かおう、そう決定しようとした時、グリッドマン達は空に妙な光がある事に気が付く。
    いや、それは光ではない。れっきとした物体だ、鋼の翼を持った物体が赤黒い空を切り裂くようにこちらに墜ちてくる。
    ≪!!? あれは!!≫
    グリッドマンの視力は、落ちてくる物体、そのマシンの姿を正確に捉えていた。

  • 193二次元好きの匿名さん23/05/15(月) 07:46:47

    「こぉんのおおおおおおおお!!」
    マシンから、勝気な女性の声が届く。
    間違いない、あのマシンはかつてグリッドマンが訪れた宇宙においてダイアクロンと称する戦士たちの用いていた航空機ダイアウイングではないか。
    そしてダイアウイングを駆る女性の声は……そう、ヒカリ・カイザキ!!
    ≪いかん!!≫
    ダイアウイングは火を噴いて明らかに制御を失いかけている、このままでは地面との衝突は避けられない。
    とっさに手を伸ばそうとするグリッドマンを、しかしてヒカリの声が遮る。
    「この程度、私と、BIG-AIならあああぁぁぁぁぁ!!」
    裂帛の気合いと共に、ダイアウイングはついぞ限界を迎え爆発を起こす。
    だがしかし、その炎の中から白銀と赤の装甲で固めたパワードスーツが飛び出してきたではないか。
    グリッドマンを模したそのパワードスーツ、懐かしきグリッドスーツはスラスターを吹かし、見事に死のダイブを回避して怪獣墓場の大地へと着陸を果たした。
    見事な惚れ惚れする様な機動だ。とてもマシンとは思えない、パワードスーツとはいえ正に人間そのものの動きと言っていい柔軟さと精密さである。
    「……はぁぁぁぁ、なんとかなったぁ」
    グリッドマンが感心していると、聞こえてくるのはヒカリの安堵だ。
    若干18歳で過酷なダイアクロン隊の試験に合格した才女とはいえ、こういう場面においては気が抜けるようで。以前出会ったときには戦士としてのヒカリしか知らなかったグリッドマンは、自分の知らない一面を知って思わず笑みがこぼれる。
    ≪ヒカリ、大丈夫か?≫
    「え、だれ……って」
    グリッドスーツ越しにグリッドマンとヒカリの視線が交じり合う。
    「シルバー……クラティオン……?」
    今のグリッドマン、プライマルファイターの基となった夢のヒーロー名をヒカリは呟く。
    それが、二人の再会であった。

  • 194二次元好きの匿名さん23/05/15(月) 07:47:29

    これにてサイドストーリー前編終了です
    後編はなんとか今日中に投下したいと思います

  • 195二次元好きの匿名さん23/05/15(月) 12:00:30

    いろんな人来てくれてうれしい

  • 196二次元好きの匿名さん23/05/15(月) 20:57:16

    保守

  • 197二次元好きの匿名さん23/05/15(月) 21:08:50

    すいません、残業で今日中の投下無理になりました。
    残りももう僅かなので、サイドストーリーも次スレで続けたいと思います
    次スレに関してはSIDE:DYNAZENONをある程度書き溜めてから立てるのでしばらくお待ちください。

  • 198二次元好きの匿名さん23/05/16(火) 08:28:13

    乙です。続き期待してます

  • 199二次元好きの匿名さん23/05/16(火) 08:32:13

    埋め

  • 200二次元好きの匿名さん23/05/16(火) 08:32:23

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