♀モブトレーナーの慰め

  • 1二次元好きの匿名さん21/08/27(金) 08:43:35

    あたしは今、ちょっと困っている。

    「ユーニー! ユーニーちゃーん!」

    練習場で声を張り上げていると、後ろ声をかけられる。

    「あの、どうしたんですか……?」
    「あ、葵ちゃん! うちのアンペールユニット見なかった?」

    それは、同期のトレーナー桐生院葵だった。傍らには彼女の担当、ハッピーミークの姿もある。

    「すみません、見てないです。ミーク、何か知りませんか?」
    「……プールの方で見た」

    少し考えた後、ミークは言った。

    「プール? プールの方で間違いないのね?」
    「はい……」

    念を押すようにあたしが聞いた後、ミークはハッキリ頷いた。
    葵がすかさず聞いてくる。

    「あの、ユニになにかあったんですか?」
    「えーと……、それなんだけどさ……」

    少し躊躇って、でもあたしは事情を話すことにした。

  • 2二次元好きの匿名さん21/08/27(金) 08:44:49

    あたしがトレーナーを務めるアンペールユニットは、地方からトレセン学園に出てきたウマ娘だ。
    故郷ではあまりレースをしたことがなく、レース運びに難がある子なのだが、素晴らしいスピードと資質のあるウマ娘でもある。
    しかし、

    「……ホームシック、ですか」
    「そうなのよ……」

    思わずため息が漏れる。寮制のトレセン学園においてホームシック自体は珍しくない。
    問題なのは、

    「ずーっと、飼ってた犬が死んじゃったらしくてね。それで一度帰ろうしたんだけど、親御さんに止められちゃったのよ」
    「なるほど、それで……」

    親御さんの気持ちもわからなくはない。前を向いて欲しくて、厳しくしているのだろう。
    でも、思春期の女の子には酷な仕打ちだ。
    もしかしたら、親御さん自身の心の傷も癒えていないのかもしれない。
    それはそれとして、ここ数日明らかにトレーニングに身が入っていなかったし、今日に至ってはトレーナー室にも顔を出していない。
    真面目な子ゆえに余計、心配に駈られるのだ。

    「あぁ、つい話込んじゃった。ごめんね、葵ちゃん。今度、何か奢るから」
    「いえいえ、お気になさらず。早く行ってあげてください」
    「うん、ありがと!」

    そう言って、あたしはプールの方へ駆け出した。

  • 3二次元好きの匿名さん21/08/27(金) 08:46:04

    と、プールの正面入口に来たのはいいが、

    「気分転換で泳ぐ、て子じゃないわよねぇ……」

    しばし考えて、裏手に回る。
    案の定、雑草が生え放題の日陰に彼女はうずくまっていた。
    一息、深呼吸をしてから話かける。

    「ユニちゃん、探したわよ」
    「あ……」

    顔を上げた彼女は、それはひどい顔をしていた。きっと泣いていたのだろう。
    ゆっくり近づいて、あたしはユニの隣に腰を下ろす。
    結構な値段がしたスーツだが、まぁ洗えばいい。

    「ト、トレーナー……怒ってます、よね?」

    少し枯れた声でユニは言った。その声からも、怯えている様子がわかる。

    「んー、怒ってるとはちょっと違うかな?」
    「え?」
    「心配したからさ……、今は見つかって嬉しい気分かも?」
    「あの、すみませんでした……」

    おどけて笑って見せると、彼女はホッとした様子で謝ってきた。

  • 4二次元好きの匿名さん21/08/27(金) 08:47:25

    「ん、許す。でさ、なにがあったか聞いてもいい?」

    少しの沈黙の後、ユニは答えた。

    「…………あの子の写真見てたら、堪らなくなっちゃったんです。私は何をしてるんだろうって。……勿論、トゥインクルシリーズも大切です。でも……」
    「割りきれない?」
    「……はい」

    うつむく彼女にあたしは少し考えて、その肩を抱き寄せた。

    「ひゃっ!?」

    驚くユニを無視して、抱き寄せた手で頭を撫でる。

    「ユニ。あたしはさ、真面目で優しいあんたが好きだよ」
    「え……」
    「だから、力になれなくて申し訳なく思ってる」
    「そ、そんな事は──」
    「でさ、提案があるんだ」

    否定する彼女を遮って、あたしは言った。

  • 5二次元好きの匿名さん21/08/27(金) 08:48:26

    「てい、案…?」
    「うん、今度の朝日杯が終わったらさ。かなり時間が空くんだよね? そしたら、一度帰ってみない?」
    「……、でも」
    「大丈夫大丈夫! 私も一緒に行って説得するし、これはユニのこれからの為に必要なことですって!」

    彼女は言葉を失い、こっちを見る。あたしはその額に額を合わせて、続ける。

    「だからさ、ちゃんと戦って、胸を張って帰ろう? そんでちゃんとお別れしてさ……また、2人で頑張ろ?」

    額を外して、ユニの反応を伺うと、彼女は目に涙を溜めていた。
    帰りにジュース買ってあげないとな、そう思いながら、あたしはユニに胸を貸すのだった。

  • 6二次元好きの匿名さん21/08/27(金) 08:50:21

    クレイジーインラヴ編もお願いします!

  • 7二次元好きの匿名さん21/08/27(金) 09:22:23

    やっぱり♀トレの近しい雰囲気いいな…
    イケウマとの恋愛もいいけど、普通の少女とちょっと人生の先輩とのカラッとした関係もいい…

  • 8二次元好きの匿名さん21/08/27(金) 10:08:52

    イケメン女子、めっちゃええやん。

  • 9二次元好きの匿名さん21/08/27(金) 10:42:11
  • 10二次元好きの匿名さん21/08/27(金) 11:59:27

    そういや、ホームシックになる子はいなかったな。

  • 11二次元好きの匿名さん21/08/27(金) 12:40:14

    いい…

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