【クロス注意】 グリッドマンVSメフィラス星人Part3

  • 1二次元好きの匿名さん23/07/09(日) 20:56:06
  • 2二次元好きの匿名さん23/07/09(日) 20:57:49

    小さなリビングの中に月の光が差し込んでいる。
    太陽のそれとは違う冷たい優しさを孕むそれは夜の世界において人の慰めとなるものだ。
    けれども、黒いアカネはその光さえ避けて暗闇の中にその身を置いていた。
    何も見たくないし何も聞きたくないと言わんばかりに目を伏せ膝を抱え、微動だにせず閉じこもるばかり。
    彼女の心情を察すれば、触れえぬ方が良いのかもしれない。だがそれでも、南夢芽はあえてその殻に指を伸ばす。
    「アカネさん」
    肩に触れ、声をかけるも反応はない。ただ、その一方で拒絶もない。
    夢芽は黒いアカネが完全に閉じているわけではない事を、手にしている青いダイナソルジャーで察していた。
    本当に何もかもどうでもよくなったのなら、きっと人はその手に何も持たない。
    怪獣優生思想がそうだ、夢芽はシズム以外の怪獣優生思想を深くは知らないが、それでも彼らが何か他と繋がるものを手にしていた記憶はない。
    ガウマ隊がダイナゼノンのパーツを手にしていたのとは真逆の、そういう存在だった。
    黒いアカネにとって青いダイナソルジャーは初めて世界の外からやってきたもので、きっと彼女の「人生」の中で一番長く一緒に居た存在だ。
    夢芽が香乃を求めてあの知恵の輪を手放すことが出来なかったように、黒いアカネはまだ外の存在を求め青いダイナソルジャーを手放すことが出来ずにいる。
    或いはそう思いたいだけなのかもしれない、出会って一日しか経っていない少女の事を理解できる程、夢芽は出来た人間ではない。
    それでも、と改めて声を掛けようとした時、月明かりの中に誰かが立っていることに気が付く。
    「新条さん」
    光を背にしてもなお薄い紫の髪と赤い瞳がはっきりとわかる。
    その瞳に冷たいものを宿し、新条アカネは黒いアカネを見下ろしてている。
    「なんでいるの」
    気配に気が付いたのだろう、顔を伏せたまま黒いアカネは突如として現れた自身のオリジナルに問いかけた。
    「幻影を送り込む、ぐらいの干渉は出来るみたい」
    そう言って、新条アカネの手は椅子に触れようとするも、その手は触れるどころか椅子をすり抜けてしまい、そこに実体がない事を解りやすく示す。
    幻である自分の存在を確かめるように、手を眺めていた新条アカネが自身を包む月光のような冷たい声で問いかけてきた。

  • 3二次元好きの匿名さん23/07/09(日) 21:03:10

    「なんであの時、響くんに寄らなかったの」
    優しさはない。純粋に黒いアカネの失敗を問い詰めるだけの声だ。
    黒いアカネは応えない。ただ、自分の殻の中に引きこもるばかり。
    「もっと響くんに寄っていれば、私の声を届けることが出来たかもしれないのに、なんでやらなかったの」
    「……」
    「六花の姿になったのもそう。あの姿になった時、六花には全然届かないって感覚で判ったじゃない」
    「……」
    「無駄なことしたせいで、麻中君まで消耗させちゃったし」
    視線がかつて響裕太のものであった部屋に向けられる。
    消耗と言っても幸いにも倒れるとかナイトがいうような発熱まではいかない。それでも、事を終えた後に眩暈とふら付きを起こし、レックスの肩を借りる程であったのは確かだ。
    それでも裕太達を助けなければと逸る蓬をなんとか宥め、次の機会の為に眠らせている。
    尤も、気持ちだけで言うのであれば夢芽とて同じだ。今この時、彼らがどうなっているのかを考えるだけで落ち着かない。
    いや、グリッドマン同盟を知った上であの惨状を見て落ち着いていられるものがいるだろうか。
    レックスとグリッドナイト同盟は裕太の反応を追い、ちせは暦を引っ張ってゴルドバーンと共に街の様子を見回っている。
    どちらも、無為な行為なのかもしれないが、それでも何か動かずにはいられなかった。
    「時間を掛ければ状況は悪化していくだけじゃん、何回チャンスがあるか解らないのに、それを棒に振ったの解ってる?」
    新条アカネの一方的な責めが続く。
    何の反応もない黒いアカネのそれに、だんだんと苛立ちと怒りが募るのがはっきりわかる。
    そうしてそれが、新条アカネのさほどに大きくはないであろう許容範囲を超えようとした時である。
    「ねぇ、聞いてるの!?」
    「あなたにとって響くんって何?」
    唐突に問い返され、新条アカネの眉間に皺が寄る。
    「なにそれ」
    「いいから答えて」
    責めていたはずの新条アカネの方が圧される。それだけの尋常ならざる情念が黒いアカネからは発せられていた。
    しばし流れる沈黙が意味することは戸惑いなのだろう、だがその戸惑いそのものはいかなる意味であろうか。
    眉間の皺を先程とは全く違うものに変え、新条アカネは小さく呟く。

  • 4二次元好きの匿名さん23/07/09(日) 21:08:17

    「友達……」
    「嘘だよ、碌に話もした事ない癖に」
    ばっさりと、新条アカネの言葉を斬り捨てる。
    「この前の事件の時に話しした」
    「少しでしょ、それで友達とか言えるの」
    「なにが言いたい訳?」
    ただでさえ澱んだ雰囲気の中、意図の読めない話を振られて新条アカネの苛立ちに再び火が灯る。
    もはやただ不毛な言い争にしかならないそれに、夢芽はたまらず声を上げた。
    「待ってください」
    夢芽は新条アカネをじっと見据える。
    元々彼女は他人と話すことが得意ではない。色々な事を経験し、以前よりは改善されてきたがそれでもまだ話しやすい相手とならという場面は非常に多い。
    それでもここでは臆することは無かった。
    南夢芽という少女の月明かりにも負けない星の輝きの様な意思の強さを垣間見ることが出来る。
    「アカネさんが裕太さんに近づかなかったのは……!」
    「やめて!!」
    悲鳴と共に、黒いアカネを覆う殻は更に分厚くなる。
    縋る様にダイナソジャーを握りしめ、自分の全てを押し込めてただ一言、拒絶だけを絞り出した。
    「お願い……やめて、言わないで……」
    心は深く沈んで月も星も届かない。
    何もかもが停滞する。成し得ねばならぬことがあるのは誰もが解っているはずなのに、それを執る事ができずにいる。
    嘆きだけが詰みあがるその時間を変えたのは、残酷な事に更なる苦悩だった。

  • 5二次元好きの匿名さん23/07/09(日) 21:08:42

    帰って来てくれたのか…!

  • 6二次元好きの匿名さん23/07/09(日) 21:13:25

    「やめろ!!」

    夢芽と新条アカネの視線が一点に向く。
    それは間違いなく、眠っていたはずの麻中蓬の声だった。
    何事かと思うよりも早く、乱暴に開かれる扉。暗い中でも判るほどに真っ青な顔と脂汗を滴らせ、蓬は震えながらも口を開いた。
    「裕太が、裕太がヤバい……!」
    「蓬!?」
    「響くんが、どうしたの!?」
    新条アカネの幻影を気に掛ける余裕もなく、断片的にでも必死に言葉を紡ぐ。
    「あの、水門で……裕太が……殺される……!」
    剣呑なるそれに、新条アカネと夢芽のみならず黒いアカネですら顔を上げる。
    涙で腫れた目を見開いて、小さくなっていた体を弾くように夢芽の腕をつかみダイナソルジャーと蓬の手を重ねた。
    その瞬間、三人の姿は消え失せ、一呼吸遅れて新条アカネの幻影も消滅する。
    後には、ただ月光に照らされた空虚な部屋だけが残されていた。

  • 7二次元好きの匿名さん23/07/09(日) 21:13:30

    このレスは削除されています

  • 8二次元好きの匿名さん23/07/09(日) 21:15:28

    一瞬の空を切る感覚と共に、三人の景色は一変した。
    星と月と街を望む小さく高い水門。そして三人に気が付き、目を見開くレックスとナイトと二代目。
    新条アカネの幻影も姿を現し、役者は全てそろう。
    「お前ら、なんで」
    「話は後です!」
    黒いアカネから渡されたダイナソルジャーを手に、蓬は吠えた。
    「頼む、ダイナソルジャー!!」
    「待て、蓬!」
    まだふらつく蓬の体を案じレックスが叫ぶが、それで止まることは無い。
    ダイナソルジャーの目が再び輝き、またしても世界の壁がこじ開けられようとして行く。
    そして目にしたのは、夕刻のそれとはまた違う苦境。
    「隊長! 一体何が……って裕太さん!?」
    「おいおい、なんだよこりゃあ」
    上空に居たのだろう、ゴルドバーンと共にちせと暦が降りてくる。
    結果として全ての者がその惨劇を目になるのは、喜ばしくない幸運なのだろうか。
    『がっ……はっ……』
    『いけませんよ響裕太君。暴力などという短絡的な手段は好まないと言ったではありませんか』
    黒い異形が太い脚で響裕太を踏み潰さんとしている。
    銀の中に妖しい光の蒼い目を歪ませて、悪意に満ち満ちた汚らわしい声で嗤うのだ。
    「こいつがメフィラス星人か……!」
    レックスが唸る様に敵の姿を認める。
    『ふぅむ』
    藻掻く裕太を見下しながら、メフィラス星人が何かを思案する。
    いや、これは思案しているように見せかけているだけだろう、今この場で初めてメフィラス星人を目にした彼らですらそれが判るほどに白々しい態度だ。
    『暴力は好みません……が、力による解決というのも確かに一つの手段かもしれません』
    『な……に……を……』
    『繰り返しますが、君の強情さは大したものです、流石はグリッドマンに選ばれるだけはある』
    まるで石ころを蹴る様にメフィラスは裕太を蹴り飛ばす。
    いくら小柄とはいえ、人ひとりの体がそれだけで浮き上がり再びコンクリートの上を跳ねる。

  • 9二次元好きの匿名さん23/07/09(日) 21:16:30

    「裕太!」
    「響くん!!」
    今日、何度こんな声を上げただろう。もう考えるのも嫌になるぐらいの悲痛な叫び。
    咽ながらも、なんとか起き上がろうとした裕太に、メフィラス星人は何かを差し出した。
    「嘘……これ、まさか……」
    それを最も見慣れているであろう新条アカネが大きく動揺する。
    黒いアカネもまた同じように……いや、在る意味では新条アカネよりも酷いかもしれない。
    何故ならばそれこそは黒いアカネの生まれる前の形。新条アカネの手によって埋め込まれ、アレクシス・ケリヴの手によって芽吹いた情動の器、あるいは不安の種。
    白く小さくそしてその本質を表すように歪んだ石、怪獣発生源であった。
    『怪獣を、作り出すつもりなのか』
    裕太の目に正しい光が宿る。
    グリッドマンと一体化するに足るヒーローの輝き。ただ一人の少年が何もかもを変えるだけの強さの証だった。
    『いいえ、私は怪獣を作りません』
    正しい光を嘲るメフィラス星人。
    いや、この存在は根本的に光を愛することは無いのだ。
    全ての存在をただ己の為に利用する事しか考えていない、純然たる悪意の執行者。
    故にこそ、光ある者には想像もつかぬ事をやってのける。

    『怪獣となるのは、君です』

    誰もがその言葉の意味を理解することが出来なかった。
    人が怪獣となる事を目の当たりにした経験を持つ蓬と夢芽ですら……いや、だからこそ理解と想像を拒んだのかもしれない。
    怪獣とはいくつかの例外を除けば破壊と混沌の為の存在だ。
    護るべきものの在る響裕太にとって、そんな力など本来は相反するものでる。
    だが今は、裕太もそれを取り巻く状況も本来のそれとは程遠い。
    誰も裕太に手が届かない。いや、届かないのならまだマシだ、誰も裕太に手を差し出そうとはしない。
    一人でも走り出す事と、一人だけで走る事はまるで意味が違う。人の心は孤独に耐えられるように出来てはいない、一時強がることは出来たとしてもずっとは無理だ。
    なればこそ、その隙に悪魔の誘惑は容易く滑り込んでくる。
    『君には、力が必要でしょう?』

  • 10二次元好きの匿名さん23/07/09(日) 21:19:20

    仲間達を救いたければ己を倒せと嘯いて、メフィラスは裕太に災いを手にするように迫る。
    『ふざけるな!』
    裕太は災いを振り払うも、それは誘惑に対する抵抗というよりも逃避に近い。
    だからこそメフィラスは一切動じていない、裕太の心の内を見透かすように更なる堕落に誘わんとする。
    『よくよく考えるのです、今この世界で私と戦えるのは誰です?』
    『……』
    『君は、このまま永遠に彼らに呼びかけ続けますか? その結果、彼らに何が出来ました?』
    『それは……!』
    『このクリア条件はいたってシンプルです、私が倒れるか君が倒れるか……他の誰も傷つけることも傷つくこともない、いわば決闘ですよ』
    『だれも、傷つかない……』
    「よせ、裕太!!」
    蓬が届かぬ声をそれでも張り上げる。
    裕太の疲弊した心に付け込むだけではない、その最も柔らかな所に刃を差し込もうとする悪辣さを目にすれば無理らしからぬことだ。
    目に見えぬ血が流れ、足元を濡らすような感覚がガウマ隊に広がる中、裕太の手に怪獣発生源が渡る。
    『無論、どのような手段を用いるかは君の自由です。怪獣となるか、それとも二人の記憶を呼び覚ますかはね』
    自由、それは人にとってかけがえのない宝だ。
    常に自分の意思で何かを決めてきた者であるほどに、その重さと素晴らしさを知るのだろう。
    だが自分の意思が自分の意図しない所に追いやられた時、自由とはむしろ人を縛る鎖となる。
    『俺……』
    「裕太!」
    「裕太さん!!」
    「ダメっすよ、裕太さん!」
    「裕太君、止まれ!!」
    「なにやってんだ、裕太ァ!!」
    「やめろ、響裕太!」
    「いけません、このままじゃ……!」
    与えられた最悪の選択肢に裕太は手を伸ばそうとする。
    蓬も、夢芽も、ちせも、暦も、レックスも。そしてナイトと二代目も、その最悪を食い止めようと叫び続ける。
    だがこの場にて、響裕太に届き得るのはただ二人のみ。

  • 11二次元好きの匿名さん23/07/09(日) 21:22:42

    「響くんを助けないと!」
    「え……」
    新条アカネの視線と意思に黒いアカネは戸惑いを返す。
    いや、黒いアカネとて何をするべきかそれは理解しているはずだ。なのに、それを拒むように彼女は震えるのだ。
    「だ、ダメだよ、私……それは……」
    「響くんが怪獣になっちゃうじゃん!」
    煮え切らない態度に新条アカネの怒りが叩きつけられる。
    「いい加減にしてよ!! なんなのさっきから!!」
    彼女に実体があって何か蹴っ飛ばせる物があったら容赦なくそれに当たり散らしていただろう。
    以前と同じ、しかして自分自身の為だけではない癇癪に黒いアカネは怯え竦む。
    『俺、は……』
    裕太の視線がその手の中の怪獣発生源に注がれる。
    何を思い、何に惹かれているのか一目で判る光景だった。
    「人間が怪獣になるって、どういうことかわかる!? 暗くて冷たくて自分が闇の中に溶けていくようで……響くんがそうなってもいいの!?」
    それはアレクシスの手によって怪獣に堕とされた新条アカネだからこそ理解できる恐怖だ。
    あの時、アンチが助けてくれなかったらどうなっていたか解らない。
    今の裕太に、助けてくれる存在など何処にもいない、手を差し伸べられるのは新条アカネと黒いアカネだけ。
    「やりたくはなかったけど……!」
    苦渋と共に、新条アカネは右手の平を黒いアカネに向ける。
    中指と薬指を開き、その間からまるで照準を合わせるように右目が黒いアカネを貫いた。
    「インスタンス――」
    それは怪獣を支配する権能。
    「新条さん!?」
    「ダメ!」
    かけがえのない不自由の為に力を否定した少年と、かけがえのない不自由そのものたる少女が止める間もなく権能は執行された。
    「やめて」
    「――ドミネーション!」
    小さな余りにも脆い抵抗を打ち砕いて、神の手は怪獣を掴み己の下僕と為す。
    黒いアカネの目が大きく開かれる、作り物であっても確かに存在する心が他者に従わされる苦痛を顕すかのように。

  • 12二次元好きの匿名さん23/07/09(日) 21:26:37

    「うぅあ……あああああああああああ!! やめ、て、よぉ!!」
    小さな体で精一杯にもがき、支配を脱しようとする。だが神とてそれを解くわけにはいかない道理がある。
    「落ち着いて、はやく響くんに……!」
    「無理、だよ、私、響くんにはなれない……だって、私……!」
    否定し逃げようとしても、一度掴まれば黒いアカネに逃れる術はなく、新条アカネの意に従い、持ち得る能力をただ行使するだけ。
    レンズに隔てられた赤い目が青く変わり、黒い髪が赤く変わる。
    そして……
    「なっ……」
    短く深く、まさに絶句と呼ぶ以外になかった。
    誰が上げた声なのかもわからない、あるいはその場に居る全員だったのかもしれない。
    だが誰がそれを咎められようか、彼らの眼前で起こるもう一つの狂乱を前に平静を保てるものなどそうはいまい。
    「な、な……なん、で……」
    新条アカネが思わず後ずさる。
    施していた支配を思わず解いて、それに気が付かない程に在り得ないものがそこにはあった。
    「あ……あ……」
    そこにいたのは怪獣だ。
    左目は青く右目は白い。半分は黒い髪で半分は赤い髪。
    そして、腕は人間のそれではない……グリッドマンだ。
    黒いアカネに響裕太とグリッドマンが半端に入り交じったただ只管にグロテスクな怪獣。
    「ちがう!! ちがうよ!! 私、あの時、ちゃんと響くんを観ていて……助けてほしくて、止めてほしくて…けど、あの時の響くんがグリッドマンで……私は、いったい誰を……!!」
    慟哭は怪獣の心を暴き立てる。彼女自身が認めたくなかったことをつまびらかにし、さらなる狂乱に駆り立てるのだ。
    そうして響裕太の部分が小さくなりグリッドマンが占める割合は大きくなってゆく。
    『皆……』
    「裕太ァ!!」
    ダイナソルジャーに更なる光が宿る。
    蓬がより強くダイナソルジャーに力を注いでいる証拠であるが、現実はあまりにも無慈悲でその力と願いはメフィラスの悪意を超えられない。
    壁一つを隔て、双方で希望が失墜してゆく。届くはずの手は異形に成り果て、重なるべき声は不協和音を奏でるばかり。
    『……ごめん』
    「だめえぇぇええぇ!!」
    アカネの絶叫が絶望の終焉を飾ろうとしたその瞬間であった。

  • 13二次元好きの匿名さん23/07/09(日) 21:28:07

    『こんなところで、何をしているんだ?』
    それは、知らない男の声だった。
    その場に居る誰もが、声の主に視線を向ける。
    長身瘦躯の白いコートを纏った男。整った顔立ちに強い理性と知性を湛え、じっと裕太を見つめている。
    「え……だ、だれ?」
    新条アカネの戸惑いは全員の総意である。
    彼女は男の事を知らない、おそらくメフィラスとて全くの予想外の展開だろう。
    「誰かは解らないが……一先ず、響裕太は止まった」
    ナイトの告げた通りだ、あまりにも意表を突かれたせいか裕太もまた呆けた顔で男を見つめ怪獣発生源は反応を止めている。
    先程とはまるで意味合いが異なる混乱をよそに、謎の男はゆっくりを口を開き始めた。
    『こんな危険な場所が施錠もされていないとは……後で役所に苦情を入れなくてはいけないな』
    何気ない常識の一言に夢芽は思わず首をすくめる。
    彼女も自分の世界の水門に出入りしたことがあるのでそういうことを言われると痛い。
    『全く、君はどこの学校の生徒だ? すくなくとも、ウチの中学ではないようだが』
    『あ……いや…俺、ツツジ台高校の……』
    『あ……そうか、すまない』
    『いえ……』
    今度は気の抜けたやり取りでたまらずツッ込みを入れたのは当然の事ながらちせである。
    「いやちょっと待ってください、なんすかこの流れ、さっきと全然違うんすけど」
    「いや、でもほら、大人ならこういう時に子供に注意するの普通でしょ」
    「そうですけど、そういう話じゃないですよね先輩!?」
    向こうに負けず劣らず、気の抜けた漫才になるのはこれまでの反動であろうか。
    少なくとも、空気は急速に弛緩してゆくし体の力も抜けてゆくのは間違いなかった。
    『なら、僕の家に来るか?』
    男の問いに、裕太は目を丸くしているようだ。
    それはそうだろう、どこにも居場所が無かったのに見ず知らずの人間から誘われれば躊躇するのは当たり前だ。
    むしろ、普通は即決で断る場面である。
    『あう……』
    顔を赤くして、腹を抑えて崩れる裕太。
    まず間違いなく、空腹が限界に達している。

  • 14二次元好きの匿名さん23/07/09(日) 21:30:13

    だからこそ男は苦笑を浮かべ、肩をすくめて裕太に決断を促す。
    『さて、では警察に保護してもらうのがいいかな』
    『それは! それは、やめてください……』
    『うん、じゃあうちに来るの決まりだな』
    半ばというかほぼ脅迫だ。しかし、これは優しさからくる脅迫である。
    それが判るほど、男の顔は穏やかだった。
    「悪い奴、じゃないのか……?」
    なんというかレックスももう一杯一杯という顔で人物を評するしかない。
    「……えぇ、大丈夫です。彼なら裕太さんを任せても」
    そしてその評を肯定したのは二代目であった。
    「二代目、この男を知っているのですか?」
    「直接は知りません。けど、この世界にもいたんですね、彼は」
    誰かとは告げぬまま、それでも二代目は男に対して全幅の信頼を置いているようで、ナイトもそれならばと深く頷く。
    裕太もまた男を信用したのだろうか? もしかしたら、もういろいろと耐えられなかったのかもしれない。
    『はい、お邪魔します……』
    その一言に、男は微笑み裕太を連れてその場を後にして行く。
    嵐のように唐突に始まり、また唐突に収束した事態に困惑を色濃く残しながらもレックス達は安堵のため息を吐くのだ。
    「マジでどうなるかと思ったぜ」
    「心臓に悪すぎますよコレ!!」
    「うん、確かに。これは早くしないとヤバいね」
    吹き荒れていた情動は今や完全に凪いでおり、事態が解決していない事を理解しつつも生まれた猶予を噛締める。
    まだ次があるのだ、甘い事を考えるつもりは一切ないが予想だにしていなかった幸運と見知らぬ誰かの善意にはただ只管に感謝するしかない
    誰もがそれは同じであるが、故にこそ己の傷の痛みを思い出す者もいる。
    「……っ!!」
    「アカネさん!!」
    体をビクリと震わせ、怪獣が黒いアカネがその場から逃げ出す。
    彼女から視線を外していなかった夢芽はその背を追わんとするが、同時に蓬が崩れ落ちるのもまた目撃してしまった。
    「蓬!?」
    気を取られた瞬間に、黒いアカネは水門から飛び降りる。
    「あいつ、なにやって……!」

  • 15二次元好きの匿名さん23/07/09(日) 21:33:39

    悪態を吐ききる前に、新条アカネの幻影もまた回線を遮断されたように消失する。
    おそらく、蓬が倒れたのと無関係ではあるまい。ダイナソルジャーの世界を超えるが弱くなったために新条アカネの干渉が制限されたのだ。
    夢芽の意識が一瞬の空白の後に恋人の安否に傾きかけたのを、しかして蓬が圧しとどめた。
    「夢芽……アカネさんを……!」
    ただそれだけで、夢芽は自分のやるべき事を定める。
    「ちせちゃん、暦さん、蓬の事お願い!」
    「え? あ、はい!」
    「わ、判った」
    「ガウマさんとナイトさんと二代目さんは裕太さんを追いかけて!」
    「おう!」
    「任せろ」
    「はい、夢芽さんお気をつけて!」
    有無を言わさぬ夢芽の指示に、誰もが従いそれぞれの役目に向かう。
    何故ともどうしてとも問わない、こうなった時の夢芽の判断力と意思の強さを知っているからだ。
    「蓬、行ってくる」
    「頼んだ」
    互いに頷き合い、そして夢芽は走り出す。
    少女の苦しみと悩みをほんの少しでも理解できるから。
    決して全てを照らし救うことは出来ないけれど、せめて話をするだけはできるはずだと信じて。

    その姿は夜の空にか細くとも確かに人に届く星の様でもあった。

  • 16二次元好きの匿名さん23/07/09(日) 21:34:07

    今回はここまでになります
    ありがとうございました

  • 17二次元好きの匿名さん23/07/09(日) 21:37:40

    そうか、姿を取り戻したんだな! >>1 !!

  • 18二次元好きの匿名さん23/07/09(日) 21:40:51

    うおー待ってた!前スレ保守ミスってごめん!

  • 19二次元好きの匿名さん23/07/09(日) 21:42:40

    復活!スレ主復活!!

  • 20二次元好きの匿名さん23/07/09(日) 22:05:05

    >>18

    自分もうっかり昼まで寝坊してたんで申し訳なかったです

    こんなことが無いよう、なんとかこのスレで完結させたいなぁ!

    とりあえず、SIDE:DYNAZENONは次から逆転フェーズに入っていきます

  • 21二次元好きの匿名さん23/07/09(日) 23:04:10

    うおお!お帰り!

  • 22二次元好きの匿名さん23/07/10(月) 00:58:50

    信じてたぜ

  • 23二次元好きの匿名さん23/07/10(月) 06:15:48

    この文章力でレッドマンオチにも期待(2回目)

  • 24二次元好きの匿名さん23/07/10(月) 15:02:13

    保守

  • 25二次元好きの匿名さん23/07/10(月) 22:14:21

    このレスは削除されています

  • 26二次元好きの匿名さん23/07/11(火) 01:41:14

    念の為保守

  • 27二次元好きの匿名さん23/07/11(火) 02:09:30

    >>26 グッドジョブ👍

  • 28二次元好きの匿名さん23/07/11(火) 09:04:05

    出勤前に保守

  • 29二次元好きの匿名さん23/07/11(火) 15:24:22

    保守

  • 30二次元好きの匿名さん23/07/11(火) 22:47:48

    保守

  • 31二次元好きの匿名さん23/07/12(水) 06:34:07

  • 32二次元好きの匿名さん23/07/12(水) 14:32:18

    保守

  • 33二次元好きの匿名さん23/07/12(水) 22:59:36

    更新待機

  • 34二次元好きの匿名さん23/07/13(木) 02:13:01

    保守

  • 35二次元好きの匿名さん23/07/13(木) 06:39:34

    このレスは削除されています

  • 36二次元好きの匿名さん23/07/13(木) 14:19:06

    保守

  • 37二次元好きの匿名さん23/07/13(木) 22:04:37

    保守

  • 38二次元好きの匿名さん23/07/14(金) 06:59:40

    保守

  • 39二次元好きの匿名さん23/07/14(金) 13:01:12

    >>23 完結後のおまけ+でしぶとく生き残ったメフィラスが運悪くレッドファイされるオチ

    ありだと思います

  • 40二次元好きの匿名さん23/07/14(金) 21:39:09

    保守します

  • 41二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 00:30:01

    保守

  • 42二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 06:41:46

    このレスは削除されています

  • 43二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 15:08:09

    保守

  • 44二次元好きの匿名さん23/07/15(土) 22:13:13

    実はウルトラマンご本人のチラ見せを少し期待している

  • 45二次元好きの匿名さん23/07/16(日) 00:41:32

    何の役にも立たなくなった街にある何の役にも立たないファミリーレストランに一人の少女がいた。
    誰も利用することもないのに、ただ街の在り方に従い人工の灯に照らされた店内。
    内の光と外の闇の落差は透明な窓ガラスに映る虚像を明確にし、故にこそ少女の痛みを自身へと突き付ける。
    ガラスと変わらぬ景色を映せどそこに意味を見出すことは無い虚空の様な赤い瞳と、生気を失ったように動かない体。
    澱んだ静寂が悪戯に時を削り、その残骸だけがうず高く積もって少女を押しつぶしてしまいそうだ。
    あるいは、彼女は本当に潰されてしまう事を望んでいるのかもしれない。そう思わせるほどに、少女の……黒いアカネの苦悩は深かった。
    時が人を殺す事は常なれど、今すぐにその時を引き寄せることは誰にもできない。
    そのような超常を持ち得る存在もマルチバースの何処かにいるのかもしれないが、この世界には存在していなかった。
    代わりにやってきたのは死でも超越者でもない、ただ普通の少女。
    「アカネさん」
    欠けられた声に、黒いアカネが壊れた玩具のように振り向くと其処には息を切らせた南夢芽の姿があった
    「よくここがわかったね」
    「朝、ここ観てましたから」
    「そっか、我ながら単純」
    空っぽな笑みを浮かべる黒いアカネの向かい側に夢芽は腰を降ろす。
    向き合う二人の少女はそれだけを観るならば夜中に無意味に時間を潰す女子高生だ。
    世界の向こう側で起こっている事態の深刻さに対して、冗談の様に日常的なシチュエーションに何か思う事があるのか黒いアカネはゆっくりと口を開く。
    「ここはね、私と六花と内海くんと響くんが揃って過ごした最後の場所なんだ」
    語るのは思い出。つい先日までアカネの胸の中で希望として息づいていたはずの優しい記憶。
    「六花と一緒にメニューみたり、私の眼鏡を六花に掛けさせたり、4人で冗談言い合ってさ」
    変わらず空虚な眼に夢芽を映ししつつも観ているのは過去の光景だ。
    これは、誰かに向けて語っているというより自分自身に改めて突き付けている行為に等しい。
    だからこそ、夢芽は口を放むことなくただ黙って話を聞く。
    「私に本来のツツジ台に来くればいい、オリジナルはグリッドマンが止めてくれるからって、私を助けてくれる事も考えてくれた」

  • 46二次元好きの匿名さん23/07/16(日) 00:44:34

    グリッドマンという名を口にして、黒いアカネの瞳は濁る。
    アレクシス・ケリヴを捕らえ、新条アカネを救うためにやってきた夢のヒーロー。
    誰かの想いに応え、助けを求める声に駆け付けるグリッドマンがいたからこそ、黒いアカネもまた同じように救われ今ここにいる。
    そして救われたからこそ、グリッドマンという存在は黒いアカネを苛むのだ。
    「私……私、どうして……」
    「裕太さんの事を、観てあげられなかったのか?」
    夢芽の一言に、黒いアカネの体がビクリと震える。
    事実に耐えるように顔を伏せ、それでも開かれた心の傷を直視しようと足掻くのだ。
    「やっぱり、解ってたんだね」
    「……私もそうでした、実の姉なのに香乃の事を何一つとして観てなくて解ってなくて。今でも時々、もしちゃんと解っていたらって思う事があります」
    過去とは捨てるものではなく乗り越えるものだ。
    夢芽は麻中蓬の助けを得て過去を乗り越えた。だからこそ過去は常に夢芽の傍にあり、心をそこに誘う時がある。
    囚われる事はなけれど、生き続ける限り永劫に向き合う。それが今の南夢芽を形作り強さを齎しているのだろう。
    黒いアカネもまた同じだ、向き合わねばならぬ過去が目の前にやってきている。
    「私が最初に話をしたのは響くんだった」
    再び言葉を紡ぎ、過去を語る。今度は終わりではなく、その始まりを。
    「起動して色々と解ってきて、一人でいるのってつまんないって感じ始めて。それで響くんと話をした、最初のやり直しの後全部覚えていたのは響くんだけだったから」
    最初はただ同類を求めてだったのだろう。
    他に何も頼る物も導もない、か細く眩い星を追いかける様なそんな行為。
    「響くんはね、その時にこう言ったんだ『進むべき方向がわからなくても、俺は前に進むよ』って……だから、私はそれが出来るのかどうか知りたくて響くんの事を見てるよってそう返した」
    その宣言のとおり、黒いアカネは響裕太を観察し続けた。
    ある時は校舎の屋上から、ある時は裕太の家の外から、その行いと意思と戦いを。
    そうして得られたのは怪獣の視点が齎す死と敗北とは違う、ヒーローの勝利と強さ。
    どれほどの苦境に立たされようと、どんな怪獣が現れようと諦めず臆せず立ち向かっていた響裕太-グリッドマン-の姿。

  • 47二次元好きの匿名さん23/07/16(日) 00:48:18

    黒いアカネとは対極的な、自分の意思で自分のやるべき事を成し遂げてゆく姿を知ったからこそ、怪獣から逃げ出す先に選んだのだろう。
    『新条さんが怪獣を創るのをやめたら、仲良くできる……と思う』
    『やるべき事を自分で選んでできるって、幸せだよね。響くん』
    逃げ出した先で交わされた言葉、一時の決別。
    黒いアカネを観ていた響裕太-グリッドマン-だからこそ口にした拒絶。欲しくはなかった、けれども必要だった警句だった。
    「なのに、私は……響くんの事、ちゃんと見ていなかった……!」
    黒いアカネにとって響裕太はグリッドマンだった双方が全く違うものだと想像すらしていなかった。
    「けど、それは」
    夢芽は黒いアカネの罪を否定しようとする。
    あの時、響裕太-グリッドマン-の存在を明確に理解できたものなど存在していない。唯一、宝多六花だけが違うと感じていた。
    最初から響裕太-グリッドマン-と邂逅していた黒いアカネに彼が響裕太ではないと認識できるはずがない。不可能な事を罪とするのは間違いのはずだ。
    間違った罪は償う事も正すこともできない、人を傷つけるだけの無意味な茨だ囚われる必要はない。
    だが黒いアカネは首を振って、自分の罪の所在を告げる。
    「違う、私が必要として求めていたのはグリッドマンだった。グリッドマンだけを必要としていた」
    宝多六花への執着は、黒いアカネが新条アカネとの違いを欲しての事だった。
    散々に迷って苦しんで、それでも黒いアカネは宝多六花そのものを必要としていた。切欠は新条アカネの記憶と気持でも、六花の優しさに触れたことが黒いアカネの執着の始まり。
    一方であの繰り返しの中で黒いアカネは内海将に殆ど興味を持たなかった。それは彼がごく普通のウルトラシリーズが好きなだけの少年だったからだ。
    黒いアカネにとって何も特別ではない、ただ怪獣を創るための参考として話をしただけ。
    けれども、もし彼がグリッドマンだったらどうだっただろう?
    自分の目的のための重要なピースとして利用し、一方で自分を止めてくれる存在として注目していたのではないか?
    そして、響裕太を何の意味も価値もない少年として見向きもしなかったのではないだろうか。
    それがどれだけ残酷なのかを黒いアカネは身をもって知っている。

  • 48二次元好きの匿名さん23/07/16(日) 00:55:57

    「ずっと見ていてよ、私の事」

    それはあの時の黒いアカネの渇望そのものだ。
    新条アカネのバックアップなどではない、ただ一人の存在として自分を見てほしい。
    響裕太にだけ明かしたSOS。
    なのに、その自分が響裕太の事を何も見ていなかった、グリッドマンの事しか見ていなかった。
    グリッドマンだったら誰でもよかったのだ、内海将でも宝多六花でも、あるいはもっと別の名前も知らない誰かであっても。
    その事実を、グリッドマンと響裕太が別の存在だと知った時に思い至ってしまった。
    だから、黒いアカネは響裕太がどんな少年だったのかまるで知らない。
    どんな音楽を聴くのだろう?好きな番組は何なのだろう?嫌いは食べ物は何だろう?
    何に歓び何を嘆き、どのように怒りどんな風に笑うのか。
    なんて滑稽な話なのだろう。自分の身勝手や狡さばかりで形作られた過去を、グリッドマン同盟との友情の物語という虚飾で飾り立てそれを後生大事に抱きかかえていたのだ。
    それを悟り、弾かれた様にアカネは夢芽の肩を掴み、情動を爆発させる。
    「響くん……響くんってなに!?」
    「アカネさん」
    「私は全然解らないよ。夢芽さん、響くんってどんな人なの!?」
    「落ち着いてアカネさん」
    「知りたくなかった、夢を見ていたかった。私が知ってるのは響くんの赤い髪と蒼い目、それから……それから……」
    叫びは嗚咽に塗れ、ただ嘆きだけが残る。
    人は虚構を信じることが出来る。目に見えない触れる事すらできない繋がりを胸に未来を目指せるだろう。
    だが怪獣にあるのは虚構ですらない、ただの虚で何もない。
    何処も目指せない、何も得られない、何も決められない。
    なんにでもなれる怪獣であっても響裕太という虚ろを形作る事は不可能だ。
    少なくとも、今の黒いアカネにとっては。

  • 49二次元好きの匿名さん23/07/16(日) 00:59:36

    「私は、何もできない……友達があんな事になってるのに……」
    過ちと無力感が黒いアカネを苛む。
    時は過ぎ去りもう取り戻せない、手の中から砂の如く零れた思い出は一粒たりとも残っていないのだ。
    世界の壁よりもはるかに遠く分厚く、黒いアカネと響裕太は断絶されていた。
    「それでも……」
    何をするべきなのか夢芽には解らない、ただどこかに希望が残っていると信じていたいだけ。
    夢芽は黒いアカネの手を取る。昨日会ったばかりの、もう他人じゃない彼女のほんの僅かでも力になりたくて。
    かつて、麻中蓬が南夢芽にそうしたように黒いアカネの心に触れられたらとそう願った時であった。

    ことっ…と小さな音がする。
    視線を向けた先にあったのは青いダイナソルジャー。

    「え、なんでここに」
    困惑する夢芽の声に誘われ、黒いアカネもまたその存在に気が付く。
    まるで黒いアカネをじっと見つめる様なダイナソルジャーに誘われるように細い指先が伸びる。
    「君、は……」
    そして、黒いアカネが青いダイナソルジャーに触れた時、その瞳は輝き世界は三度近づこうとしていた。

  • 50二次元好きの匿名さん23/07/16(日) 01:01:02

    短いですか今回はここまで
    毎回遅くなってごめんなさい
    残業だらけでまともに書く時間とれない……次はなるべく早くします

  • 51二次元好きの匿名さん23/07/16(日) 01:10:22

    続きが読めて嬉しい

  • 52二次元好きの匿名さん23/07/16(日) 08:28:31

    保守

  • 53二次元好きの匿名さん23/07/16(日) 17:32:38

    保守

  • 54二次元好きの匿名さん23/07/16(日) 22:58:11

    保守

  • 55二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 06:16:59

    保守

  • 56二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 12:31:12

    保守

  • 57二次元好きの匿名さん23/07/17(月) 20:17:26

    保守

  • 58二次元好きの匿名さん23/07/18(火) 05:04:10

    保守

  • 59二次元好きの匿名さん23/07/18(火) 12:36:43

    保守

  • 60二次元好きの匿名さん23/07/18(火) 20:11:47

    ちょっと前回のスレを落としちゃったせいか保守コメのペースが速い気がする
    まあ、それでもスレが落ちるより全然マシだけど

  • 61二次元好きの匿名さん23/07/19(水) 05:11:58

    保守

  • 62二次元好きの匿名さん23/07/19(水) 14:39:33

    保守

  • 63二次元好きの匿名さん23/07/19(水) 23:02:52

    保守

  • 64二次元好きの匿名さん23/07/20(木) 05:40:32

    最後のコメントから7〜8時間ぐらいで「保守」しちゃう

  • 65二次元好きの匿名さん23/07/20(木) 09:00:45

    ほしゅ

  • 66二次元好きの匿名さん23/07/20(木) 17:50:44

    保守

  • 67二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 00:43:07

    2人の少女の眼前から安っぽいファミリーレストランが消え失せ、に小さなそれでも整理され清潔感のある部屋が現れる。
    そこにいるのは部屋の主であろう眼鏡を掛けた青年と、傷つき疲れ果てた赤い髪の少年。
    料理の並んだテーブルを挟んで、彼らは向かい合っている。
    『……さっきよりは、マシな顔になったな』
    青年の良く通る優しい声、聴く者の心を落ち着かせほんの少し緩める様な。
    言葉の力だろうか、あるいは暖かな食事のによるものなのか、響裕太の顔からは柔和には程遠いものの幾ばくか険が取れていた。
    『さっきって』
    『水門の上さ、あの時は酷い顔をしていた』
    『そんなに、ですか?』
    『あぁ、随分と見覚えのある顔だったよ』
    互いに見知らぬ者同士の筈なのに、そんな事は関係ないと言わんばかりに言葉を交わす。
    喩えるのであれば兄と弟、あるいは師と教え子のように。
    そうして昔話をしようか、と前置きをして青年は語り始める。
    『昔、あるところに一人の中学生がいてね、そいつがまた捻くれて歪んでジメジメした蛞蝓みたいな性格をしていた』
    自嘲気味なのはこの物語が彼自身の過去だからだろう。
    黒いアカネも南夢芽も知らない所と知らない時代から始まって知らないままに終わった物語。
    『まぁ、そんな性格をしていて質の悪い事にプログラムが得意なんで、そいつでいろんな所にクラッキングを仕掛けて憂さを晴らす毎日さ』
    『どうして、そんな』
    『どうしてかって? まぁ、色々原因はあるんだろうが……そうだな、やっぱり独りぼっちだったからが大きいだろう』
    一人って、つまんないね――
    それは黒いアカネが最初に覚えた感情、響裕太-グリッドマン-を求めたその根源。
    ずっと独りぼっちで、それを自覚した瞬間に何かを手にしたくて藻掻いていた。
    世界終焉の怪獣を作りツツジ台を滅ぼそうとしたのも、六花の姿になろうともその為。
    この青年は、どこか似ているのかもしれない。親に愛されずこの世に生まれてきた黒いアカネと。
    『やがてその腕を悪い奴に見込まれてね、言葉巧みに取り込まれて悪事を働く始末だ』
    「アレクシス……」
    黒いアカネにとっての悪い奴。
    新条アカネの共犯者で……黒いアカネにとってもやはり共犯者。

  • 68二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 00:48:39

    『本当はやってる事が怖くてたまらない癖に、自分じゃそれを止められない。毎日毎日鏡を見るのも嫌になるぐらい酷い顔をしていたよ……さっきの君のようにね』
    「……っ」
    己の過去をそのまま暴き立てられたようで黒いアカネは息を呑む。
    そうだ、怪獣は嫌いで怖い、だから怪獣作りを止めたかった。けれども、自分の意思でそれを止めることは出来ずにいて、毎日毎日暗鬱な時間ばかりが黒いアカネを苛んでいた。
    『……友達が、今大変なことになってるんです』
    響裕太が現在を語る。
    青年の過去を受けて、今の苦悩を曝け出してゆく。
    『見てて辛くて、悲しくて、けど、俺じゃあ何にもできなくて』
    怪獣になろうとする少年と、少年になることができない怪獣。
    力なく紡ぐ気持ちは、形は違えど黒いアカネに重なる。
    『俺にしか、できない事を……』
    『それは君がやりたいことなのか』
    『けど、俺がやらないと、二人は……!』
    『君は今、友達の為と言っただろう。けど、それを為して、友達はいったいどう思う』
    雷に撃たれた様に、裕太は固まってしまう。
    友のために自らの存在を投げ捨てようとする行為、その矛盾を青年は淡々としかして熱く指摘してゆく。
    『君にとって、その友達は大切なんだろう?』
    『はい』
    『なら、友人たちにとっても君は大切なはずだ』
    想いを巡らせる裕太の瞳に、黒いアカネは胸が締め付けられる。
    きっと、今まで出会って力を合わせてきた人々の姿が彼の心に浮かんでいるに違いない。
    そこに自分はいない、出会ったことすらないのだから当たり前で。解っていても、それはあまりにも悲しい。
    『ずっと、助けられてました。前の時も、沢山』
    『その時、君がどんな決断をしたのか僕は知らない、けどそれは君にとって、やるべき事と、出来る事と、やりたい事が君自身の意思で正しく重なったんだ、だからこそ多くの人が君を助けてくれた』
    けれども、と青年は一つ区切る。
    『人生の中でその三つがそろう事なんて滅多にない。大抵は一つか二つが欠けている、だからこそ人間は生きて努力する限り迷う』
    それはかつての黒いアカネの事だ。
    やりたい事を偽り、やるべき事を見失い、出来る事を疎んでいた。
    迷って迷って迷い続けて、本当に欲しかったものに気が付いたのは大切な人との別れの直前。

  • 69二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 00:50:24

    『君の、やりたい事はなんだ』
    「やりたい事……」
    何故、今、自分は悲しい。
    自分が響裕太の事を知らないから? あるいは響裕太の中に自分が残っていないから?
    違う、それは確かに悲しみの一因だけれども、本当に黒いアカネを苛むのは、友達を助けられないというその苦しみだ。
    それは裏を返せば、友達を六花達を助けたい事こそ、黒いアカネのやりたい事ではないか。
    『出来る事や与えられた事に固執してはいけない、さっきの中学生も自分の得意な事ばかりにのめり込んで周囲が見えなくなっていった。本当は成りたい自分がいたはずなのに、それから目をそらしていた』
    黒いアカネは響裕太になることが出来ない。
    本当に、そうだろうか?
    眼前にいる赤い髪の少年。どこにでも居そうな優しくて友達想いで時に危うい強い意志。
    それは黒いアカネの知る響裕太と同じだ。グリッドマンと響裕太が同一であると信じ込んでいた時と。
    『大丈夫』
    青年が、裕太の肩に手を置く。いつかの希望を伝え教えるように。
    『君は独りじゃない』
    優しさと強さを兼ね備えた一言だった。
    何もかもを無くした少年に再び与えられる光の様だ。
    光は裕太の心の中で闇を焼き、涙に変えて追い払ってゆくようで黒いアカネは指先でその涙を拭う。
    勿論、触れえるはずがない届くはずがない。けれども、どうしてだろう熱い何かを確かに感じるのだ。
    『さぁ、早く食べてしまおう冷めてしまうと料理はおいしくないからな』
    『はい!』
    世界の向こうで笑顔が咲く。
    見ず知らずの誰かの大きな優しさが希望を取り戻していた。
    それは奇跡なのだろうか? だとするならば、なんて素晴らしい事なのだろう。
    誰かを救い護るために超人である必要はない、きっと誰もがヒーローになれる。
    「響くん」
    もう二度と一緒に居ることは叶わない人の名を呼ぶ。
    けれども、今この瞬間、彼の事を一つ知った。ほんの僅かな一筋の涙だけれど。
    手の中には何も残らずとも、確かに得たそれを黒いアカネは抱きしめて、世界は再び元の姿を取り戻してゆく。

  • 70二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 00:53:32

    黒いアカネが振り向けばそこは元のファミリーレストラン。
    そして、翠の優しい目をした夢芽と青い竜人。
    些かに怠い体で黒いアカネはその青を手にする。
    「蓬くんでもないのに、力を貸してくれたの?」
    竜人はダイナソルジャーは何も言わない。けれども、どこか感情を感じるようで黒いアカネは瞳を閉じて感謝を述べた。
    「ありがとう、優しいんだね」
    夢芽はそれを見てある種当然と胸を張ると同時に、いささかに複雑な顔もする。
    ダイナソルジャーは言ってしまえば蓬の化身のようなものだ、それが讃えられるのは悪い気はしない。
    しかしてもう一方として蓬の化身たるダイナソルジャーが誰かに深い優しさを示すのにはちょっとなぁという気持ちもある。
    更に言うのであれば色合いが本当のダイナソルジャーよりも蓬に近い。これはもうある種、彼氏の浮気現場を目撃した心持にも近かろうがそれを言いがかりと自覚して飲み込む程度の度量が今の夢芽にはあった。
    おそらく、蓬本人がここに居たら夢芽の成長に涙すると同時に、自分に対してもそういう寛容さ持ってほしいなあと零していたに違いない。
    そんな頃合いを見計らったという訳でもなかろうが、夢芽の携帯がその恋人からの着信を告げる。
    「蓬? 大丈夫?」
    真っ先に出るのは、彼の体を案じる声。
    電話の向こうで、嬉しそうな気配と心配はいらないと言いたげな色が混ざり合う。
    『うん、大丈夫。ちょっとフラつくけど、ナイトさんが言うような熱出てないし、暦さんが世話してくれてるから』
    「え、暦さん?」
    意外な方がでて、少なからず動揺が走る。
    『いや、長らく無職だったせいか家事はそこそこできるみたいでさ……ちせちゃんが微妙な顔してたよ』
    それはそうだろう、なんだったら夢芽も複雑な顔をしている。
    やれば出来る人なんだろうに、なんでそれを活かせないのかなぁというのは暦を知る人々の凡そ一致した考えではないだろうか。
    ちせ辺りはもうちょい「そんな事できなくてもいいのに」とか思っていそうでもあるが。
    前置きはその程度にして、蓬は本題に切り込む。
    『ダイナソルジャー、そっちにいるんだろ?』
    「うん」
    まるでダイナソルジャーが意思を持つ一つの命かのように語る蓬。
    対する夢芽も、それに対して一切の疑念も否定も抱かない。

  • 71二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 00:55:00

    「今、アカネさんと一緒に向こう側を見てた」
    『……どうだった?』
    「大丈夫、裕太さんもアカネさんも」
    『そっか』
    時に強がりで使われる大丈夫という言葉が今この時はとても安心できる。
    そうだとも、ここには独りぼっちは何処にもいない。
    いつでも誰かが大丈夫だと言ってくれる。それがどれほどに心強い事か。
    「ねぇ蓬」
    『いいよ』
    「まだ何も言ってないんだけど?」
    『アカネさんと話したいんだろ?』
    言いたい事を先に言われ、夢芽はちょっと面食らう。
    解ってもらえていたという喜びと、それはそれとして少しばかりの悔しさ。
    人の心に十全は無い、何処か欠けて陰って歪んでいる。だからこそ、それを他の誰かで補う事は嬉しい。
    「うん」
    嬉しさをちゃんと言葉にして伝える。
    言わなくても伝わるけれど、こうした方がやっぱり良い。
    『こっちはさっき言った通り、暦さんが何とかしてくれてるから』
    『あ、ほらちせダメだって、ちゃんと掻き混ぜないと』
    『わかってますって! 先輩が出来るんだから私にもできます!』
    『えぇ……?』
    後ろで騒がしくする従妹達に蓬と夢芽は苦笑を浮かべる。
    これなら、確かに大丈夫だろう。不安になる要素は何処にもない。
    『それじゃあ』
    「うん、ゆっくり休んで」
    おやすみなさいと最後の一言に時と心を重ねて、互いを繋ぐ電話はひとまず幕を下ろす。

  • 72二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 00:56:57

    「蓬くんから?」
    「はい、なんか色々心配ないみたいです」
    「それでいいの? 彼女なのに?」
    「まぁーいっつもベタベタしてるわけではないので?」
    間違っている訳は無いが事情を知る物からしたらとんでもない欺瞞であろう。
    しょっちゅう喧嘩をしてるからそういう意味ではいつもベタベタはしていない、だが喧嘩をしてない時は……言わない方が良いのだろうか。
    いずれにせよ、夢芽の優先順位は今現在は黒いアカネであった。
    「いいなぁそういうの」
    「そうですか?」
    「うん、私も普通の出会いが欲しかった」
    「私も蓬も、普通の出会いじゃありませんでしたけどね」
    「けど私よりは普通だよ。私なんて周囲にいた男性ってアレクシスなんだよ、流石にないでしょ」
    「アレクシス……あー、あの頭燃えてる」
    「そうそう、頭燃えてる」
    「いやぁ、流石に頭燃えてるのは無いですね」
    「だよね? しかもこっちの話全部聞き流して自分の言いたい事ばっか言うんだよ」
    「最悪ですねそれ。蓬も時々私の話聞き流す事ありますけど」
    「え、そうなの?」
    「そうです、前なんか女子がいるグループでスプラやってたりするんですよ、そういう時は事前に連絡してくれって言ってたのにシレっと無視して電話でも話半分に聞いてましたし」
    「へぇ……」
    「勿論、大切にしてくれてない訳じゃないんです。むしろ大切にはしてくれてるんです、けどなんていうかな昔ほどじゃないっていうか、ちょっと軽くなったっていうか」
    「ほぅほぅ」
    「まぁ、蓬は元々が他人とは距離を取りたがる所あるんで、他人との付き合いは良いんだけど自分のスペースの中には入れたがらないんですよね。私は入ってますけど」
    話をするというより、夢芽が一方的に語って黒いアカネが相槌を入れるだけになる。
    そもそもとして、夢芽のスピードが速すぎて黒いアカネの方が若干ついて行けていない。
    「あ、でも、蓬のスペース内に入ったの私以外に2人います」
    「え、誰?」
    「一人はガウマさんです、まぁあの人の場合は結構強引に入っていった感じですけど」
    「もう一人は?」
    「裕太さん」

  • 73二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 01:01:33

    そこで、一つ呼吸を入いれる。
    大事な事を伝えるために。
    「私、蓬の中にあんなにも簡単に入り込めた人、他に知りません。私でも無理だったかもしれなくて、時々、裕太さんに対してはちょっとライバル視したりします」
    恋愛感情の話ではない、ただ単純に麻中蓬の中でどちらのウェイトが大きくなるかと言う話であろう。
    どっちにしても南夢芽よりも大きな存在が現れることは無いと言っていいが、それでも危機感を抱かせるだけの魅力と言うか何とも言えない引力のようなものが響裕太にはある。
    「グリッドマンも同じだったと思います」
    「……」
    「アカネさんはグリッドマンならだれでもよかったって言ってましたけど、グリッドマンにとっては裕太さんじゃなきゃダメだったんだと思います」
    夢芽はユニバース事件を知っている。
    途中で一時離脱していたけれども、あの白い巨神をグリッドマンと響裕太の強い繋がりの姿を目の当たりにした。
    グリッドマンと響裕太が互いを必要としていたからこそ得られた力と結末。
    きっとそれは全ての始まりである最初の事件からずっと変わっていない。
    「だから、アカネさんはグリッドマンだけを求めてたんじゃなくて裕太さんの事も求めてたんです」
    響裕太にはグリッドマンが必要で、グリッドマンには響裕太が必要だ。
    だとするなら、結び付いたるその両者を区別することも真実から遠ざかるのではないだろうか。
    「そうかな……」
    誰かの手を握ろうとして掴んだのは結局はアレクシスだった。
    一人で居た彼女がグリッドマン同盟と出会ったのは、新条アカネ以外のワケがきっとあったはずなのにそれすら考えないで。
    それでもなお、彼らはこの憂鬱な世界をひっくり返した。
    悲しみも弱さも黒いアカネから零れた全てに手を伸ばして。
    グリッドマン同盟が戦ったのはきっと世界の為とかじゃない、勿論それもあるのだろうけど本質的には新条アカネを救うために戦ったのだ。
    大切な人を想って、それぞれが出来る事を成し遂げていった。
    黒いアカネもそれで救われたのだ。満たされる事の無い足りない穴の開いてしまったような自分を宝多六花の優しさで満たされて。
    けれども、黒いアカネが未来が欲しくて必要とした人を見落としたままここまで来てしまった。

  • 74二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 01:05:37

    「響くんと話がしたかったな」
    宝多六花とも内海将とももっとちゃんと話がしたかった。いや、するべきだった。
    そうすれば、もっと違う未来があったはずだ。
    「もし、響くんともっと違う出会い方をしていたらどうなってただろう」
    「……もしかしたら、裕太さんの事を好きになっていたかもしれませんよ」
    「なってたかなぁ」
    「どうでしょう」
    「何それ」
    段々と口調が軽くなる。
    お互いにお互いの事を笑い飛ばしながら少女同士の会話は弾む。
    「あくまでもしかしたら、ですから。もし、裕太さんの事好きだったらどうします?」
    「えー……うーん、一緒におはぎ買い食いしたり?」
    「ほうほう」
    「朝は一緒に登校したり」
    「定番ですね」
    「キスを迫って見たり?」
    「……裕太さんできますかね」
    「あ、無理かも」
    「無理でしょうね多分」
    「酷くない?」
    「いやいや。ほら続き、続きお願いします」
    「後は……やっぱりデートかな、よくわからないけど好きな所とか二人で出かけるんでしょ?」
    そこまで言って、黒いアカネは押し黙る。
    どの想像もどんなシチュエーションもどうもしっくりこない、なにか違和感がある、そんな感じだ。
    「うん、やっぱ違う」
    柔らかく微笑んで、彼女は一番綺麗でぴたりと組み合う二人を思い描く。

  • 75二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 01:10:00

    「響くんの隣には、六花が居ないと」

    新条アカネの記憶と、黒いアカネ自身が観てきた思い出。
    そこから導き出されるのは、どうやっても響裕太と宝多六花の寄り添う姿だ、自分ではない。
    2人がちゃんと勇気を出せるなんて想像してなかったから、付き合い始めたと聞いた時は意外に思ったけれど、今はこうして二人を想像することが出来る。
    「大丈夫です、アカネさん、そこさえ解ってればもう裕太さんの事は7割理解してるも同然です」
    「えぇ? 本当に?」
    「本当です、信じてください」
    夢芽の本気なんだか茶化してるんだかわからないそれに、黒いアカネは思わず吹き出してしまう。
    笑い声は笑い声を呼ぶ。夜中のファミレスでただ時間を潰してるだけの女子高校生のようなそんな心持で南夢芽と黒いアカネの距離は縮まってゆく。
    「ねぇ、もっと話してよ」
    「……どんな話が良いですか?」
    「なんでも、夢芽さんの事でもいいし、蓬くんの事でもいいし」
    「それなら止まりませんよ? いくらでも話せますよ?」
    「いいよぉ、私寝る必要ないもん。一晩中いけちゃうよ」
    「なら決まりです、今夜一晩中ぶっとおしで行きましょう」
    「じゃあまずは飲み物……って、ここドリンクバーないんだった」
    しょうがないから裏から持ってこようと、黒いアカネは席を立つ。
    「いいんですか、それ」
    「いいのいいの、私、神様だよ?」
    どうせ他に誰もいない忘れられた世界だ、もとより法が無いのだから無法な行いだって通用する。
    唯一の例外たる神が良いというのだから、ますます遠慮をする必要はない。

  • 76二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 01:14:11

    「食べる物も持ってきましょうか」
    「食べ物だと温める手間かかるんだけど大丈夫?」
    「あーファミレスも一応は調理してるんでしたっけ。面倒くさいな……神様どうにかなりません?」
    「さすがに料理は私の範囲外だなー、そもそも私食べる必要ないし」
    「仕方ないから、アイスか何かすぐ食べられる奴にしますか」
    「いいの? 夜中にそれは太るよぉ?」
    「大丈夫です、私太らないんで」

    他愛のない会話を交わして、二人で並ぶ。
    昨日会ったばかりの、それでも確かに友達なのだと言える絆を結ぶ。
    「夢芽さん、ありがとう」
    来てくれたのが貴女たちで本当に良かったと心からの感謝を込めて黒いアカネは微笑む。
    紅玉のようなその瞳にもう涙はない。
    もっと友達の事を知って今よりも強くなれる、そんな優しく確かな予感だけがそこにはあった。

  • 77二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 01:15:35

    今回はここまでになります
    SIDE:DYNAZENONもそろそろ終盤ですが、うーん、もっと早く書かないとマズかなこれは……
    なんとか頑張ります。それでは

  • 78二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 01:30:08

    キタキタキタキタ

  • 79二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 06:44:44

    このレスは削除されています

  • 80二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 15:32:46

    保守

  • 81二次元好きの匿名さん23/07/21(金) 23:38:19

    なんか2クールアニメ追っている気分

  • 82二次元好きの匿名さん23/07/22(土) 08:28:03

    保守

  • 83二次元好きの匿名さん23/07/22(土) 15:54:02

    保守

  • 84二次元好きの匿名さん23/07/22(土) 20:16:14

    保守

  • 85二次元好きの匿名さん23/07/23(日) 00:46:20

    一応保守

  • 86二次元好きの匿名さん23/07/23(日) 09:19:22

    保守

  • 87二次元好きの匿名さん23/07/23(日) 19:35:15

    完結したらpixvにまとめて置いて欲しいです

  • 88二次元好きの匿名さん23/07/24(月) 00:17:33

    ほしゅ

  • 89二次元好きの匿名さん23/07/24(月) 05:59:50

    「メフィラス星人〇〇がグリッドマンとかいうヒーローが守ってる世界に侵略を始めたらしい」
    「宇宙を創造できるヒーローだと?そいつの力を使えば莫大なエネルギーを我が手にできるじゃないか!」
    「情動から怪獣を生み出すパール?野生種捕まえるより楽に怪獣量産できるじゃん!」
    「神と呼ばれる怪獣使いの少女?そいつの力を奪い取れば俺が最強のレイオニクスだ!」

    メフィラスが介入したことで、数多のマルチバースから侵略者たちがグリッドマンユニバースに押し寄せようとしていた…みたいな展開にはならんか

  • 90二次元好きの匿名さん23/07/24(月) 13:38:36

    保守

  • 91二次元好きの匿名さん23/07/24(月) 20:26:17

    ほしゅ

  • 92二次元好きの匿名さん23/07/25(火) 04:43:10

    「絆を破壊し、世界に混沌を招くゲーム…良い趣味をしているじゃないか、メフィラス」

  • 93二次元好きの匿名さん23/07/25(火) 13:06:17

    保守

  • 94二次元好きの匿名さん23/07/25(火) 22:42:11

    保守

  • 95二次元好きの匿名さん23/07/26(水) 05:53:26

    保守

  • 96二次元好きの匿名さん23/07/26(水) 13:11:32

    保守(頑張れ)

  • 97二次元好きの匿名さん23/07/26(水) 21:41:12

    応援保守

  • 98二次元好きの匿名さん23/07/26(水) 23:03:59

    朝が訪れ昼が過ぎ夜が再びやってくる。
    空にある月と星が夜を彩る一方で、地にある街の光は夜から人を護るかのようだ。
    太陽のそれとは違い全てを照らすほどの力を持つことは無く、所によっては夜が勝り或いは拮抗している。
    ガウマ隊とグリッドナイト同盟、そして黒いアカネはそうした街と夜の狭間とも言うべき場所にいた。
    眼前にあるのはブランコをはじめとしたいくつかの遊具。アパートが見守る様に照らしながらも無人の公園はどこか寂寥たる雰囲気が漂う。
    彼らは誰一人として夜暗くなったら出歩かないなんてお行儀のよい生活をしておらず、夜の街など見慣れたものだろうが、それでもどこかで似たような感覚があるのか誰一人として否定することはしなかった。
    あるいはこれから始まるラストチャンスに緊張して、上手いことが言えなかったのかもしれない。
    「蓬、お前体大丈夫か」
    それでもレックスは蓬の体を気遣う。
    蓬がこの作戦の重要なファクターであることもそうであるが、力の消耗を蓬とは真逆の方向で経験したレックスとしては心配なのであろう。
    ましてやこの二人は兄弟分と言っていい間柄を考えればレックスの胸中は如何程であろうか。
    「大丈夫です、一日休ませてもらったんで」
    対する蓬は全く問題ないと言わんばかりに明るく振舞う。
    それが本当に回復しているのか、ある程度無理をしてるのかは他の者からは判らない、むしろ蓬自身とて曖昧であろう。
    やるべき事を前にしている以上、どちらでもいいのだ。今の麻中蓬は動くことが出来る、だったら動くだけの話。
    「そうか」
    レックスもその意を汲む。
    後ろで控えていた黒いアカネはそれを受けて手にしていた青いダイナソルジャーを蓬へと渡す。
    その力を最も発揮できる少年の手にダイナソルジャーが戻ると、どこからともなく新条アカネの幻影が現れる。
    役者は再び揃った。救出劇の幕を開く前に、黒いアカネは全員に向き合う。
    「昨日は、ごめんなさい」
    深く頭を下げる。
    事情はどうであれ、黒いアカネは失敗を犯した。
    響裕太の命を危機に晒し、救出の試みを挫いたのだ、ならばその責任が彼女にはある。
    「私は、響くんの事何にも知らないんだって認めるのが嫌だった。グリッドマンなら誰でもよかった自分を認めるのが怖かった」

  • 99二次元好きの匿名さん23/07/26(水) 23:05:59

    過ちの形を恐れることなく告白する。
    その真摯な姿に、誰も口を挟むような真似はしない。
    「思い出が壊れる事ばかりを恐れて、私がやらなきゃいけない事を見失ってた」
    ゆっくりと顔を上げれば、そこに恐怖と戸惑いはない。
    代わりにあるのは、真直ぐに綺麗で勇敢な少女の姿。
    「……今度は大丈夫だよね?」
    新条アカネが問う。
    「うん、今度は逃げない。私は響くんとちゃんと向き合う」
    黒いアカネは返す。
    双方ともに視線を外すことなく、何かを測りあうような対決の直前の様な様子を見せるが、ややあって新条アカネが大きくため息を吐いた。
    「いいよ、やろう」
    新条アカネがこれ以上咎めないというのであれば、もはやこの場にいる誰もが黒いアカネを咎めない。
    むしろ誰もが黒いアカネの告白を肯定するように力づく首肯し、それは彼らの団結を顕す。
    特に南夢芽は黒いアカネと一瞬なれど視線を絡ませ互いに笑みを浮かべる。
    「……なんか、あの二人一晩で仲良くなってない?」
    「南さんはやる気になれば出来る人なんすよ……やる気になればですけど」
    そんな暦とちせの会話を余所に、黒いアカネは新条アカネの手を取る。
    吸い込まれるように幻影は黒いアカネに溶けてゆき、両者は一つとなるのだ。
    「蓬くん、こっちはいけるよ」
    状況は整った、後は幕を開くだけ。
    その役目を持つ少年は、大きく深呼吸をして高らかに再戦を宣言する。
    「判った……頼む、ダイナソルジャー!!」
    青いダイナソルジャーの瞳に再びの光が宿り、二つの世界は急速に接近してゆく。
    やがて現れたのは、向こう側に存在する響裕太と宝多六花の姿。
    六花はあからさまに警戒し、裕太はそれを寂しげに見つめていた。
    そうして、裕太はある言葉を口にする。

  • 100二次元好きの匿名さん23/07/26(水) 23:09:17

    『俺! 響裕太っていいます!』

    大きくはっきりと誰にでも聞き間違いの無いように行われる自己紹介。
    余りにも場違いで、誰もが面食らってしまう。
    「なにやってんだ裕太の奴……」
    些かに気の抜けたレックスの呟きに、裕太さんらしいとか悪くない手なんじゃとか各々が感想を述べる。
    唯一の例外は、黒いアカネだけ。
    驚いたように目を見開き、息を呑む。
    「はじめまして、響裕太くん」
    名前も声も知っている。
    だけれど、こうして面と向かって相対するのは初めてでそれは黒いアカネの心を震わせるのだ。
    『いや……なんか今まで、ちゃんと話をしようって感じじゃなかったなって』
    「そうだね。私、ずっと一方的だった」
    言葉を交わしているようで、常に黒いアカネが裕太になにかを突き付けてばかりだった。
    観ているようで、ただ見定めようとしているだけだった。
    理解し合う努力なんか一つもしてこなかった。
    今もまた言葉は交わせないけれど、出来る事が黒いアカネにはある。
    『うん、六花にとって新条さんの事大事なの知ってたのに変な事言った俺が悪いよ』
    『……名前』
    『え?』
    『呼び捨ては嫌なんだけど』
    『あー……じゃあ、六花…さん』
    『それならいい』
    記憶から消されてしまった少年がもう一度自分自身を積み上げてゆく姿をじっと見つめる。
    響裕太という存在を、黒いアカネの中に刻み付けるように。
    『いや、私も、響君の事……』
    『名前』
    『え?』
    『久しぶりに呼んでもらった』

  • 101二次元好きの匿名さん23/07/26(水) 23:11:03

    あの時の涙も、今この時のほっとしたような顔も、響裕太のほんの小さな断片にしか過ぎない。
    どれだけ集め重ねても黒いアカネは響裕太という少年を完全に理解するには至らないのだろう。
    それでもこれは嘘偽りのないそして見誤る事の無い、とてもとても大事な愛しき砂粒。
    もう二度と零さない、ずっと胸の中で抱きしめながら生きてゆく。
    「だからさ、六花……」
    思い出してほしい、響裕太は宝多六花の事が好きなのだ。
    大変な事が重なって、それで変わらなかった気持ちと確かめた気持ちが通じ合った二人だから。
    黒いアカネの想い出の中で二人は結び付いていてほしい。誰よりも幸せなんだって笑顔で居てほしい。
    『俺、やっぱり六花の事を取り戻したい』
    響裕太は黒いアカネの願いを口にする。
    いや、黒いアカネだけではない。きっと二人を知る全ての人がそう願うだろう。
    あのファミリーレストランで南夢芽が語ってくれた響裕太と宝多六花の物語。
    玩具にして揶揄ってるようでその実、二人に対する思い遣りや憂慮にちょっとばかりの羨望が詰まっていた。
    南夢芽自身だって麻中蓬の事をこの上なく誇らしく愛おしく語っていたのに、それに負けないぐらいの大輪の花がそこにあったのだ。
    ならば、その花を決して散らしてはいけない。
    『響君が知ってる二ヶ月と、私たちの二ヶ月は違う』
    『それは……解ってる。解ってるっていうか、元々、俺はその二ヶ月を本当の意味で知ってるわけじゃない』
    響裕太の手が左腕のアクセプターを掴み一つ二つ捻ると、それは存外あっけなく彼の腕から外れた。

    『グリッドマンがいた二ヶ月、俺がいなかった二ヶ月、気が付いた時には全部終わってて。ずっと蚊帳の外だった』
    知っている。黒いアカネもだからこそ響裕太という少年を見落としてしまっていた。
    『六花や内海から話を聞かされて、二人にとっては大事な事でも俺は全然実感なんかなくって』
    君を見ていなかった罪の痛みはずっと消えない。君はこんなにも優しく強い人だから、それを今感じているから。
    『一瞬でも疑ったら、もう二人は俺に何も話してくれない気がして、ただひたすら信じ続けた』
    それでも決して目を離さない。友達になりたい、友達でいたい。
    胸を張って私は君たちと繋がっているんだって叫びたいから。

  • 102二次元好きの匿名さん23/07/26(水) 23:12:15

    『だから、俺も六花に信じてもらう所から始めなきゃいけない』
    「だから、私は響くんの進もうとする意志を信じる」

    彼とグリッドマンの大切な繋がりを宝多六花に信じてもらうために手放そうとしている。一時、六花から迫られても断ったのだ決して軽く無い覚悟と決断のはずだ。
    黒いアカネはその覚悟を受け取る様に瞳を閉じる。どこまでも深くその心の内に執るべき姿を形作って。
    『嫌われても憎まれても気持ち悪がられても無視されてもいい、ただ一つだけ信じてほしい』
    開いた瞳にガラス玉の様な青を湛え、アカネの双眸は六花を捕える。
    彼方にいる新条アカネから彼方へといる響裕太へ。
    心を繋いで一つにする、それこそが黒いアカネの使命。
    「『六花』」
    声が重なる。
    強く優しい声と、疎ましくもなお優しい声。
    『「おねがい」』
    この声はきっと六花に届く。
    だってこれは、六花がこの世界に生まれてきた意味を与えた人の声。
    六花が世界で一番大好きな人の声。
    その全てを余さず伝えるために、アカネは更に踏み込む。
    神の闇から生まれたこの黒髪を、ヒーローの光を象徴する様な赤へと塗り替えて。
    『「思い出して」』
    二つの声と思いが、宝多六花の意識を貫く。
    まるで幾重にも重ねられた錠を一瞬で解いたような、今まで繋がらなかった回線をかちりと嚙合わせる様な感覚。
    驚いたように戸惑うように、それでも解き放たれた六花が言葉を口にしようとしたその瞬間。

    黒い魔の手が全てを遮った。

  • 103二次元好きの匿名さん23/07/26(水) 23:16:44

    「ぅあっ!!」
    「アカネさん!」
    文字通り弾き飛ばされたアカネに夢芽が駆け寄る。
    友の手で支えられ、黒いアカネが目にしたのは彼女の願いを踏みにじる醜悪な光景。
    そこにいたのは黒い響裕太だ。
    黒いスーツ・黒いシャツ・黒いネクタイをし、髪もまた鮮やかな赤ではなく濡れ鴉の如き黒である。
    黒い裕太は宝多六花の視界を塞ぐように顔をその手で覆い、そこからは邪な力が見えるのだ。
    『あ……あぁぁあああああああああああああぁぁぁ!!』
    悲鳴が上がる。
    どれほどの恐怖と嘆きがあればこのような叫びになるのだろう。
    思わず身の竦むような声に真っ先に響裕太が動こうとするが、それを闇から這い出た異形が阻んだ。
    『ぐあっ!?』
    「裕太!?」
    機械の基盤と配線、そしてよくわからない様々な機材が入り交じった怪物が響裕太に牙を剥く。
    抵抗しようとした腕に食らいつき鮮血が流れる。
    一瞬のうちに起きる二つの惨劇。理解が追い付かず、思考が千切れ欠ける中でそれを推しとどめる咆哮が上がる。
    『りっかああぁああ!!』
    裕太の呼び声に応じるように、六花は手を伸ばす。
    助けを求めている、黒い手に堕ち閉じられようとしている意識の中でそれでも六花は裕太を求めているのだ。
    その事実を目にして、黒いアカネは己のやるべき事をはっきりと見定める。

  • 104二次元好きの匿名さん23/07/26(水) 23:17:34

    「……私の、友達に!」
    黒いアカネの心に怒りが宿る。
    恐怖でも諦観でも身勝手な苛立ちでもない、生まれて初めて誰かのための正しい怒りを燃やすときが今やってきたのだ。
    『汚い手で!!』
    異なる世界、遥かなるリアルワールドから同じ怒りが流れ込む。
    神を僭称したちっぽけな少女と、神の役目を背負わされた哀れな怪獣の心が一つに結び付く。

    「『触らないでよ!!』」

    姿が変わる。
    黒と紫入り交じり、パーカーが白くなる、指先が眼差しが変化してゆく。
    瞳だけが人外を示す赤のままに、黒いアカネは全く違う存在へと変化した。
    それは新条アカネと宝多六花の双方を綺麗に混ぜ合わせた、嘗ては黒いアカネが理想としていた形。
    そして今は、友達を救うための2人のアカネの至高-SupremeVersion-の形
    「『六花!!』」
    心が見える、一度開いた記憶と心が悪しき闇に再び飲み込まれようとしているその有様が。
    2人は手を伸ばす。六花の必死の抵抗に応えるために。
    もう闇の中で苦しまないよう、光を届けるために。
    そして六花の手を取った時、彼女の蒼い瞳を確かに二人は観たのだった。

  • 105二次元好きの匿名さん23/07/26(水) 23:19:17

    今回はここまでです
    なんか段々遅くなってる……できればまた今週中最悪日曜までになんとか次を……

  • 106二次元好きの匿名さん23/07/26(水) 23:37:38

    このレスは削除されています

  • 107二次元好きの匿名さん23/07/26(水) 23:40:33

    乙です
    アカネちゃんがゼロのワイルドバーストのように己の原点を解放したということか…

  • 108二次元好きの匿名さん23/07/27(木) 08:06:10

    保守

  • 109二次元好きの匿名さん23/07/27(木) 08:52:46

    このレスは削除されています

  • 110二次元好きの匿名さん23/07/27(木) 18:38:01

    保守

  • 111二次元好きの匿名さん23/07/27(木) 22:31:51

    保守

  • 112二次元好きの匿名さん23/07/28(金) 08:45:54

    保守

  • 113二次元好きの匿名さん23/07/28(金) 15:31:49

    保守

  • 114二次元好きの匿名さん23/07/28(金) 23:32:30

    グリッド保守

  • 115二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 06:48:48

    保守ッドビーム

  • 116二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 14:03:44

    ゆっくりしていいよ

  • 117二次元好きの匿名さん23/07/29(土) 21:04:48

    保守

  • 118二次元好きの匿名さん23/07/30(日) 05:13:34

    ほしゅ

  • 119二次元好きの匿名さん23/07/30(日) 14:06:08

    保守

  • 120二次元好きの匿名さん23/07/30(日) 22:36:24

    保守

  • 121二次元好きの匿名さん23/07/31(月) 00:17:50

    「うぅぐぅぅぅぅ……!」
    麻中蓬の唸り声が夜の公園に轟く。
    青いダイナソルジャーもそれに呼応するかのように激しく目を瞬かせる。
    世界を隔てる壁の性質が変化した。これまでは押し込み近づけるのが精一杯だったのに、今ではなんというか開くことが出来そうな感覚だ。
    だがあくまで「開くことが出来そう」でしかない。
    これは言ってしまえば巨大な石壁に指がかかっているだけだ、どれほどに力を籠めようと純然たる質量の差を覆せないように蓬では世界を開ききる事などできない。
    このまま続けてもどうにもならない事を理性では理解している。
    「くっそぉ……!」
    それでも止めることは出来ない、蓬の前で繰り広げられる苦難を目にすれば止まるという選択肢は彼には在り得ない。
    仮面の如き笑みを張り付け、腕に少女を抱く黒。
    異形の顎にかかり地に伏せてそれを睨みつける事しかできない赤。
    余りにも悪意と敵意に満ちた、質の悪い冗談だとしか思えない光景。けれども、これは紛れもない事実と現実で、故にこそ蓬の怒りは深くなる。
    『……レイオニクスでもない怪獣使い、などと侮っていた事を認めざるをえません』
    響裕太の声で彼が絶対に出さないであろう、うんざりした声色で嘆息する。
    「『こいつ……!』」
    アカネが顔を顰めた。
    蓬が世界を開こうとしているのであれば、彼女はその為の楔を打ち込んでいる。
    だが足りていない、アカネの力が十全に届いていれば既にガウマ隊は裕太達を助けに行けたはずだ。
    一つとなったアカネの力は決して弱くはない、むしろ嘗てないほどに強大だろう。しかしてメフィラス星人とて名だたる侵略宇宙人だ、その恐ろしさは計り知れずアカネの力を以てしても拮抗するのが精一杯だった。
    『こいつ……離せッ……!』
    『邪険にするものではありませんよ響裕太君、それは君の情動から生まれた怪獣ではありませんか』
    怪獣に組み伏せれる裕太を、黒い裕太すなわちメフィラス星人が悠然と見下す。
    メフィラスは懐から赤い錠剤を二つ取り出すと、それを六花の口元へと運ぶのだ。
    『ほら、六花。薬だよ、口を開けて』

  • 122二次元好きの匿名さん23/07/31(月) 00:29:53

    甘い毒が滴るような囁き。
    普通ならそれを裕太と聞き間違えるはずがないだろう、彼は間違っても暗く誘うような言葉を発することは無い。
    だが今の意識がはっきりとしない六花には裕太の声と言うだけで惑わすに足りるのか、彼女は僅かに唇を開きメフィラスはその隙間に錠剤をねじ込んだ。
    「『うぐぅ!?』」
    アカネが悲鳴を上げる。
    それは目の前の吐き気を催すような行いのせいだけではない。
    「繋がりが、絶たれた!? あいつ、何を飲ませて」
    『赤い薬って……まさか、メトロンの……』
    黒いアカネは頭を振りかぶって六花から弾き飛ばされた事実に臍を噛む
    新条アカネの方は今しがたの赤い錠剤に何か心当たりがあるのか、声だけでも顔が青ざめているのが判る。
    何が起きているのかという疑問は、しかして裕太が上げた咆哮にかき消されてしまう。
    一人の心優しい少年が発したとは思えない、まさに怪獣の様な聞いたものを慄かせる敵意だけに満ち満ちた咆哮だった。
    だがそれを向けられたただ唯一の存在たるメフィラスは意に介さぬどころか、むしろそれを面白がるように嘲笑うばかり。
    『はははは、いけませんよ響裕太君、そんなにも素敵な情動を生み出しては』
    『ぐがっ……な、ん……あぁああぁぁ』
    咆哮の中に苦悶が混ざり、力を失ってゆく。
    何という事だろうか、裕太に食らいついていたジャンクの姿をした怪獣が、その形を崩しながら裕太の体と一体化しようとしているのだ。
    「これ、は……」
    「……!」
    誰もが絶句する中、特に嫌悪感と忌避を示したのは二代目とナイトだった。
    怪獣という存在を誰よりもよく知る二人だからこそ、このような形で人を害する怪獣を彼らとしては否定するのだろう。
    そしてそんな怪獣を容易く使役するメフィラス星人という存在も。
    『言ったでしょう? それは君の情動から生まれた怪獣なのです。可哀そうに生まれる直前に君に踏みつぶされたから不完全な形になってしまった』
    もだえ苦しむ裕太を見下しメフィラスはさもそれが裕太の罪過であるように嘯く。
    『ふふふ、力を捨てたつもりでも、君の心の奥底の情動が消え去ったわけではない。それを失念していたようですね』

  • 123二次元好きの匿名さん23/07/31(月) 00:33:33

    ここまでの事をされて心にドス黒い邪心を抱かぬものなどいるはずがない。
    だがそれでも、裕太は孤独の重圧と力と闇への誘惑を跳ねのけたのだ。名も知らぬ誰かの助けがあったとしても、最後に間違えなかったのは裕太の高潔さ故にこそだ。
    その証、信じる心を示すアクセプターにメフィラスは無遠慮に手を伸ばす。
    『挙句、アクセプターまで手放してしまうとは、まったく君というにんげ……?』
    「!?」
    メフィラスが訝しむと同時に、蓬もまた驚きの表情を表す。
    アクセプターが六花の手から離れない。メフィラスが奪おうとしても、彼女の手は確と握りしめ抵抗していた。
    『六花、薬はどうしたの? まだあるだろう?』
    裕太を模しながらも困惑の色を見せる声に、六花は首を横に振る。
    メフィラスが六花の服のポケットを弄り、小さく白いタブレットケースを見つけると中身が無い事を悟ったのか顔を顰めた。
    『……想定よりもはるかに』
    メフィラスの苛立ちと共に、向こう側が近づいてくる感覚が広がってゆく。
    2人のアカネが撃ち込んだ楔と同時に、それより以前から始まっていた六花の反抗が結実しようとしているのだ。
    綻びを見せ始めるメフィラスの思惑に、さらなる亀裂が現れる。
    『六花! それに……メフィラス!!』
    息を切らせながら、内海将が現れる。
    黒い響裕太の姿を一目でメフィラスと判別がつくのは、メフィラスの精神操作のなせる業か。
    『メフィラス、六花は無事なのか!?』
    『……えぇ、ただ意識が混濁しているだけです。それより、何故ここに?』
    『それよりって……六花がLINEでここにいるって送ってきて』
    どうやら、六花は裕太と遭遇した時、秘かに内海に向かって連絡を送っていたようだ。
    六花がそれだけ裕太を警戒していたという事実に蓬達は曇るが、同時にメフィラスにとっても都合が悪いのだろう苦虫をかみつぶしたような顔をますます深くする。
    『……致し方ありません。内海君、宝多さんを連れて逃げてください』
    『あぁ、わかっ……』
    内海が六花を背負った時、必然的に内海の視界にもだえ苦しむ響裕太の姿が映る。
    『あいつ、どうしたんだ……?』
    『気にすることはありません、私が対処します』
    『いや、けど……あいつ、人間じゃ』
    『……あれは我々の敵です』

  • 124二次元好きの匿名さん23/07/31(月) 00:35:01

    メフィラスは遠ざけようとするも、内海は譲らない。
    『でも、あんな苦しんで、なにかおかしくないか!? それこそ、グリッドマンに抵抗してるとか!』
    裕太には高潔さが、六花には想いが、そして内海には人の良さがある。
    彼自身はグリッドマン同盟としての戦いを所詮がヒーローショー程度にしか捉えていなかったと自嘲していた。
    けれども、そこで味わった無力感と身勝手さを痛感してもなお裕太を親友として支え続けようと決めたのは紛れもなく誇るべき事だ。
    内海将という少年がいて、響裕太にとってどれほど救われたのか。
    記憶を封じられてもなお残るその善性が世界の距離をさらに近づける。
    『それはありません、早くゆきなさい』
    『けど、助けられるなら助けなきゃ!』
    『いいから、さっさと行けと言っているだろう!!』
    響裕太の声で放たれる怒声。
    誰も聞いたことが無い故に、それは聞く者の心を締め付ける。
    喩えメフィラスだと判っていても、感覚と感情は常に正しい認識を働かせてくれるとは限らない。
    ましてや内海からすれば偽りなれど以前からずっと一緒に戦ってきた仲間も初めての怒りだ、動揺は如何程のものだろう。
    「内海さん、騙されちゃダメっすよ!!」
    「内海くん、戻れ!」
    ちせと暦が呼びかけるも、内海は迷いをみせつつ六花を背負ってその場を後にする。
    残るは黒と赤そして悪と善の裕太達のみ。
    『……全く、君たちの強情さはここまでくるとあきれるばかりだ。あんなにも強力な記憶処置を施したのにこれなのですからね』
    髪を掻き揚げ、黒い裕太・メフィラスは心底うんざりした様子で吐き捨てる。
    『特に彼女は薬まで処方したというのに』
    『くす…り……? なん、の……』
    息も絶え絶えに、それでも聞き捨てならぬ言葉を響裕太は逃さない。
    『ケシの一種ですよ。とはいってもこの星のケシではありません、別の星のケシの実を精製した薬を与えたのです』
    メフィラスが小ばかにしたように吐き捨てた言葉に、新条アカネは戦慄を表す。
    『やっぱり! メトロン星人の宇宙ケシ!!』
    「宇宙ケシ!?」
    『人間を狂わせて、狂暴化させる薬。ウルトラセブンでメトロン星人が人間社会分断の実験で使ってた……!』
    「そんなモンを!」
    レックスの怒りの視線がメフィラスを貫く。

  • 125二次元好きの匿名さん23/07/31(月) 00:38:29

    人を射殺せそうなそれを、しかしてなお超える激情が上がる。
    『そんな、もの、を……六花、に……!』
    既に完全に怪獣が溶け込んだ体を、裕太は気力だけで動かそうとする。
    それを目にして、メフィラスは大きくため息を吐いた。
    『強情さと言えば、君の強情さが一番面倒だ。そこまで怒りを覚えながらいまだに怪獣になっていない』
    「俺、は……まけな、い……!」
    裕太の抵抗を、しかしてメフィラスは鼻で笑う。
    希望はある、裕太と六花と内海のそれぞれの中に確かに存在しているのだ。
    けれども、それはバラバラではあまりにもか細い。三人が一つになってこそグリッドマン同盟なのだ、束ねれば何もにも負けぬ絆の筈なのに、今の三人はあまりにも遠い。
    そうして生まれる隙間にメフィラス星人が居座り、大切なものを奪おうとしていた。
    『ところで、君はこの姿をどう思いますか?』
    スーツの襟を正し、メフィラスは問う。
    響裕太の姿をした、響裕太ではない存在。ガウマ隊とグリッドナイト同盟からすればそのいけ好かない横っ面を思いっきり殴ってやりたいとしか思えない。
    『人間の姿というのは窮屈なものですが、人間の社会に溶け込むには人間である事が一番だ。郷に入っては郷に従えというではありませんか』
    『お前、なんか、に……』
    『ふふふふ、君の立場君の居場所は私が有効活用してあげますよ……もちろん、彼女の事もね』
    裕太と蓬と夢芽の目が驚愕と恐怖で大きく見開く。
    それはまさに、メフィラスの想定通りの反応であった。
    『君たちは学生らしく清いおつきあいをされていたようで。今時感心な事です』
    メフィラスはブランコに腰かけ、裕太に対して侮蔑的な視線を投げかける。
    『しかし、何も触れえぬままというのももったいない話だ』
    『やめ、ろ……!』
    『あの細い指』
    『やめろッ!』
    『あの白い項』
    『やめろ、やめろっ!!』
    『あの見事な肢体』
    『メフィ…ラス……!!』
    『あぁ、先ほど触れたあの唇は柔らかでしたねぇ』

  • 126二次元好きの匿名さん23/07/31(月) 00:41:13

    気持ち悪い。
    それは蓬と夢芽が抱いた率直な感情だ。
    自分たちでも信じられないぐらいの嫌悪と敵意と憎悪が混ぜこぜになって、もう正確に言葉にすることもできないぐらいの真っ黒な何かが渦巻いている。
    凄まじい不快感だ。メフィラスそのものに対してだけではない、内から生まれた悪意が自分たちを塗りつぶしてゆきそうな感覚が本当に気持ち悪い。
    怪獣が情動を利用した兵器だと言うのであれば、今の蓬と夢芽の中に形になってないだけで確かに怪獣が生まれている。
    だからこそ夜を震わせる裕太の咆哮が二人には痛いほどに理解できた。どれほどまでに、危険な事かも。
    『ははははははは!! 人間が理性など碌に扱えたためしがない、特にヒーローでありながら身勝手に恋などするからそのように心の隙を晒すことになる!』
    メフィラスの手には、いつの間にか大型のナックルダスターのような機器が握られていた。
    『さて、では君の情動を解き放ちなさい』
    言葉の意味に新条アカネと黒いアカネは身を震わせる。
    何故ならば、それはきっと新条アカネにとってはかつて楽しんだ罪で黒いアカネにとっては何の感慨も抱かなかった罪。
    2人を誘惑し悪へと誘ったアレクシス・ケリヴのそれと全く同じ物。
    2人の恐怖を肯定するかの如く、冷たく無機質にメフィラスは手にした凶器/狂気の引き金を引く

    『インスタンス――』

    『ダメ――』
    「やめてえええええええ!!」
    2人のアカネの悲鳴を一蹴し、悲劇はここに完成する。

    『――アブリアクション』

  • 127二次元好きの匿名さん23/07/31(月) 00:42:04

    赤黒い光が裕太の内側から沸き上がる。
    裕太の全てを引き裂き辱め踏みにじる様に。
    『がっががっがががっが……あああああああああ!!』
    裕太であって裕太でないものが生まれる。
    在ってはならない存在が、目の前で膨れ上がる。
    「あ、ああ……あ………」
    アカネが声を震わせる。
    もう止めれらない、今度こそ彼女の知らない裕太がそこには居た。

    そう、美しいものを貶めて作られた最も醜悪で許されざる存在。
    悍ましい一匹の怪獣が産声を上げるのであった。

  • 128二次元好きの匿名さん23/07/31(月) 00:43:03

    今回はここまでです
    ギリギリ月曜になってしまった……

  • 129二次元好きの匿名さん23/07/31(月) 00:53:58

    >ヒーローでありながら身勝手に恋などするから


    「…何だと?」

  • 130二次元好きの匿名さん23/07/31(月) 11:03:25

    保守

  • 131二次元好きの匿名さん23/07/31(月) 22:26:40

    保守

  • 132二次元好きの匿名さん23/08/01(火) 08:01:57

    グリッド保守

  • 133二次元好きの匿名さん23/08/01(火) 17:21:26

    保守

  • 134二次元好きの匿名さん23/08/01(火) 23:48:46

    ハイパーグリッド保守ビーム

  • 135二次元好きの匿名さん23/08/02(水) 06:25:27

    アクセスコード!保守!

  • 136二次元好きの匿名さん23/08/02(水) 17:00:33

    保守

  • 137二次元好きの匿名さん23/08/02(水) 22:38:44

    保証

  • 138二次元好きの匿名さん23/08/03(木) 07:36:51

    ほしゅッドサーキュラーム!!

  • 139二次元好きの匿名さん23/08/03(木) 14:03:47

    保守トレーター・ガン

  • 140二次元好きの匿名さん23/08/03(木) 23:40:59

    保守

  • 141二次元好きの匿名さん23/08/04(金) 07:30:13

    保守ッドマンキャリバー

  • 142二次元好きの匿名さん23/08/04(金) 16:11:51

    保守

  • 143二次元好きの匿名さん23/08/04(金) 20:47:48

    ここのメフィラス星人って、初代とか3代目とかの策士気取ってるけど本質は2代目が一番近いよね?

  • 144二次元好きの匿名さん23/08/04(金) 23:33:53

    なんとか保守

  • 145二次元好きの匿名さん23/08/05(土) 02:57:17

    それはまるで慟哭のようでもあった。
    大地を揺らし空を震わせ、一匹の怪獣が己の存在を示すために上げた声。
    けれどもそれは人間を恐れさせるものでもなく威圧するものでもない、ただ聞く者の胸を締め付けるようなそんな響を伴っていた。
    「裕太!!」
    蓬は友の名を叫ぶ。
    足元からでは全容は判らない。だがそれでも、グリッドマンの姿を模した巨人である事だけは判別できる。
    あくまで模しただけの、雄々しさも勇敢さもない悪趣味な粘土細工のような姿。
    それがよりにもよって響裕太の情動から生まれたのだ、その事実は蓬の意思を挫くには十分すぎる程の衝撃であった。
    「なんで……こんな!!」
    己の無力さを呪う。
    あと少し、もう少しだったのだ。
    裕太が立花が内海が二人のアカネが、バラバラで小さな抵抗ながらもメフィラスの計略を狂わせ、それは世界が繋がる可能性を引き寄せていた。
    ならばそこから世界を開くのは自分の役目だったはずなのに、間に合わなかった。ここまで重ねたすべてを無駄にしてしまったのだ。
    「ぐぅ……!」
    軋みを上げる心で、尚も世界に挑む。
    手遅れなのだとしても、まだどこかに望みがあるかもしれない。
    あるいは、蓬の持つ怪獣を支配する力で、助けることが出来るのかもしれない。
    殆ど根拠のない願望でしかない。けれども友達を見捨てるなんてできなかった。
    諦めたくないというその一念に、か細いしかして確かな蜘蛛の糸の如き希望が齎される。
    「……おかしい」
    ナイトの呟きに、視線が集まる。
    彼はじっと響裕太を見上げ、さらなる疑念を口にした。
    「響裕太が起動していない」
    茫然とうなだれていた黒いアカネがその指摘にはっとなって裕太を見上げる。
    歪な赤い巨体はまるで何かに戸惑うように震えるばかりで、一向に動こうとしていない。
    「本当だ、起動していない……」
    「え、まって。どういう事なんです!?」
    夢芽の問いに、今度は二代目が答える。
    「怪獣は情動を利用した兵器なんです。兵器であるならば生み出されたからにはその目的に沿った行動を取るはずなのに裕太さんはさっきから一切行動していない!」

  • 146二次元好きの匿名さん23/08/05(土) 03:00:42

    黒いアカネが一つの例だ。
    己の意思にかかわらず、新条アカネのバックアップという製造目的を遂行するために新条アカネを理解しそこに近づいて行った。
    ゴルドバーンは最良の例だ。
    飛鳥川ちせの情動を受けて生まれ、その情動故にちせの友人であろうし皆を護る力として成長して行った。
    造られた目的あるいは込められた情動に従うのが怪獣と言う存在だ。
    ならば、あの裕太は何故動こうとしないのか。
    「可能性は二つ、一つはメフィラス星人の意図した仕様という事です。裕太さんを怪獣に変え回収して後で改造を施す気ならば今起動していなくても問題はありません」
    曰く、外宇宙の侵略宇宙人は怪獣に更に手を加える技術を持つ者が少なくないという。
    裕太を素体にすることが目的であるならば、この時点でメフィラス星人の計画はほぼ達成されているだろう。
    「もう一つの可能性は、裕太さんの情動が一つではないという事です」
    「一つじゃないって、どういう事っすか?」
    「メフィラスは明らかに裕太さんの憎悪を煽り、それをアブリアクションしました。だとするなら、裕太さんは憎悪に従っているはずです」
    裕太の憎しみが向かう先は当然の事ながらメフィラス星人だろう。
    新条アカネの怪獣が特定個人を殺す為に街を破壊していたように、メフィラス星人を求めて見境なく破壊活動に走るのはおかしくない。むしろ憎しみで動くのならばそれが自然だ。
    「なのに動いていないという事は、憎悪だけじゃない別の情動が大きく作用した事によるビジー状態だと考えることが出来ます。複数の情動が衝突しあうせいで怪獣として機能不全に陥っているんです」
    兵器に余計なものはいらない。
    与えられた或いは生まれてきた意味を全うする為のシステムさえあればいい。
    だからこそ、その目的の為だけのシステムに複数のプログラムが載せられれば容易く処理落ちを起こしてしまう。
    「それなら……もしかしたら……」
    示されたのは希望と絶望の二つだ。
    あくまで可能性、もうここで終わってしまっていることだって十分あり得る。

    ぶら下がった蜘蛛の糸、その証明を果たしたのはほかならぬ絶望を生み出さんとする悪魔だった。

  • 147二次元好きの匿名さん23/08/05(土) 03:03:16

    ゴォンという爆音と共に叫びをあげながら裕太は吹き飛ばされる。
    巨体が倒れる衝撃が蓬達を襲う。それは向こう側が物理的な影響力をこちら側に与える程に近づいている証拠だ。
    揺れる大地に必死にしがみつきながら、彼らは裕太の前に立つ黒い悪意の存在を目にする。
    「メフィラス星人!!」
    蓬の怒声と共に、裕太が跳ね起きる。
    先ほどまでの様子と打って変わり、吠え声を上げながらメフィラスに飛びかかるのだ。
    しかし、メフィラスは慌てる様子もなく逆に裕太の頭を掴むとそれを再度地面に叩きつける。
    そのまま怪獣が立ち直るのを待たず、全力で蹴り上げて距離を取る。
    裕太の方とて蹴り飛ばされながらも、なんとか立ち上がり再びメフィラスに駆け寄って拳を振るう。
    だがそれは空を切るばかりで、メフィラスの体を捉えることができない。逆にメフィラスはがら空きになった怪獣の腹に2・3発重い拳を叩き込む。
    たまらずたたらを踏んだ怪獣に対し、メフィラスの拳からは電撃放射に似た光線・グリップビームが放たれ激しい火花を散らしながら怪獣の肉体を焼き焦がしてゆく。
    裕太は悲鳴を上げ、よろめきながら後退するしかない。
    「『響くん!!』」
    「裕太さん!」
    2人のアカネと夢芽が悲痛な声を上げる。
    裕太の動きが稚拙で鈍いのはすぐに解った。怪獣の恐ろしさも強大さも其処には欠片もない。
    皮肉にも遠ざけられた事で判るその姿。赤い肉体に鋼のようなアーマー、誰もがグリッドマンだと判り、しかしてその隅々まで歪み捻じ曲がり罅割れた形を観れば信じたくなくなる異形の巨人。
    だがどれほどまでに姿かたちが変わろうとも、彼が響裕太である事は変わらない。
    戦いなんか本来であれば全く知らないはずなのに、誰かが助けを求めるのであれば真っ先に戦いの場に駆け出してゆく只の少年。
    左腕で輝くアクセプターだけが彼に残された最後の誇りを示しているようで、それが逆に悲痛さを増している。
    ≪全く、君は本当に私をいらだたせることに関しては天才だ!≫
    グリップビームで響裕太を灼きながら、メフィラスは苛立ちを吐き捨てる。
    可能性によって成り立つこの世界においてその邪悪な意思は余すことなく蓬達の耳に届く。
    ≪ここまでお膳立てをしておきながら、この程度の力しかないとは!≫
    その言葉はメフィラスの計画が半ば失敗しかけていることを伺わせる。
    暴虐の轟音と振動が強くなるのがその証明だった。

  • 148二次元好きの匿名さん23/08/05(土) 03:05:42

    ≪これではグリッドマンと戦わせるにはまるで役に立たないではないか!≫
    「まさか、その為にこんなことを仕込んだのか!?」
    レックスが唸る。
    グリッドマンを倒すのであればこんな回りくどい手段はいならない。嫌な想像ではあるが、裕太を直接抹殺してしまえばグリッドマンは半身を喪い実体化が不可能になる。
    他の誰かが新しい半身になる事も可能だろうが、裕太を喪ったグリッドマンは力を発揮しきれないだろう。
    メフィラス星人がそれを思い至らない筈がない、だからこそより悪辣で残酷な手段を考え付いたのだ。
    「こいつ……最悪じゃねぇか!」
    暦の弁はこの場にいる者の総意だ。
    いや、最悪と言う言葉ですら片付けられない。世界ばかりではなく心と尊厳を踏みにじるまさに侵略の権化がそこにはいた。
    ≪もうよい、貴様などここで処分してくれる≫
    メフィラスが裕太の首を締め上げる。
    苦しみ悶える裕太に対しどす黒い喜悦の笑みを浮かべ更なる蹂躙を始めるのだ。
    戦いなどと呼べるものではない。ただ只管に、黒い巨人が赤い少年を嬲りものにしているだけ。
    「このままじゃ、裕太さん死んじゃいますよ!」
    ちせの悲鳴は正しく、そしてある意味で間違っている。
    とどめを刺す事なんて簡単なはずだ、現にメフィラスの必殺光線は幾度も裕太に直撃してるのだ。
    なのに、裕太は生きている。明らかにメフィラスは裕太を痛めつけることを目的としていた。
    だがいつまでも保つわけがない、どれほど手加減していようと暴力は暴力だいずれ命を奪う時がやってくる。
    「あと少しなんだ、あと少しで向こう側に繋がる!!」
    蓬の叫びが事実であるのは誰の目から見ても明らかだ。
    事態が一つ進むごとに、向こう側の現象がこちら側に強く顕現化しているのはその証拠だろう。
    メフィラスの計略は現在限りなく失敗に近い形で推移している、だが完全ではない。六花と内海の記憶の封印と裕太の生殺与奪の権がメフィラスの手にある限りそれは思惑の範疇だ。
    なんとかして、最後の一手を打たねばならない
    「……カオスブリンガーです」
    「二代目?」
    「今の裕太さんは怪獣です。なら世界に混沌を引き起こすことが出来る、あの時と形は違えどツツジ台は閉じた世界でエントロピーが増大しています。そこに裕太さんが後押しをすれば制御不能という因果が生まれる!」

  • 149二次元好きの匿名さん23/08/05(土) 03:11:29

    それはメフィラスにとって完全に計画外の出来事だろう。
    或いは、ここまで薄くなった世界の壁をそれだけで打ち壊すことも可能かもしれない。
    だが裕太が怪獣としての力の振舞い方を理解できていないのは明らかだ。
    「もう一度、響くんに繋げる!」
    黒いアカネが叫びながら、己を異形へと変えてゆく。
    『ちょっと!?』
    「私を介して、響くんにドミネーションを仕掛けて!」
    力の振るい方を知らないのであれば、知っているものが手助けをすればいい、怪獣使いにはそれが可能だ。
    それが裕太の心を縛る、ある意味でメフィラスと同類の行為であったとしても躊躇う理由はここにはなかった。
    新条アカネは真直ぐに手を伸ばし指の間に標的を捕らえる様な特徴的な印を開く。だが、即座に否定の言葉が上がる。
    『ダメ、遠すぎる。つかめない!』
    「なら、私がもっと響くんに寄れば!」
    『ちがうよ! 世界一つを挟んでいるせいで純粋に距離が遠すぎるの。響くんを捉えることが出来ない!』
    新条アカネの力を以てすれば彼女の世界から裕太を掴むことは容易だろう。
    しかし、今は裕太のいる世界に干渉できず、黒いアカネの世界を中継している。そのせいで相手がぼやけてしまっているのだ。
    黒いアカネは言ってしまえば覗き窓の様なものだ、対象者に形態が近づくほどに窓は大きくなるものの一つの世界を挟んでいるという事実まで消せるわけでは無い。
    ましてやこの世界は黒いアカネを真のツツジ台から追放するための流刑地、本来ならば容易く干渉することは出来ない。この距離そのものをどうにかしない限りドミネーションは不可能だった。
    「そんな……!」
    絶望と希望が目まぐるしく立場を変える事に夢芽が臍を噛む。
    手にしようとするその瞬間にするりと指の間をすり抜けてゆく。
    何故、どうして、こんなことって。様々なネガティブな思いと言葉が幾つも巡りながらも誰も諦めると言う選択肢は取らない。
    傷ついて躓いて、それでも……いや、だからこそ一人じゃない事を知って強くなった彼らだ。
    最後の瞬間まで決して諦めない。
    そしてその熱い想いは求めていた最後のピースを引き寄せる。

  • 150二次元好きの匿名さん23/08/05(土) 03:13:49

    「これは、Gコール?」

    ナイトの腕にあるアクセプターが誰かを求め呼びかけるように瞬き音を立てる。
    誰を呼んでいる? ナイトか? いや違う。
    「グリッドマンが、裕太を探している」
    レックスが胸元を掴み、虚空の彼方より聞こえる呼び声を代弁した。
    「グリッドマンが?」
    2人の言葉に、蓬は空を仰ぐ。
    そうだ、この事態にグリッドマンが何もしていない訳がない。
    何処かで必死に裕太を探し助け出そうとしている、当たり前の事じゃないか。
    「裕太ァ!!」
    蓬の叫びが夜を震わせる。
    何にもならないなんて言わせない、この沸き起こる衝動に価値が無いなんてありえない。
    「負けるな、裕太!! グリッドマンがお前を待ってる!!」
    それは一つでは小さな火だ。けれども、他の誰かの心に灯り勢いを少しづつ増してゆく。

    『響くん!君は私の世界を壊したんだから!メフィラス星人なんかの計画だって壊せるに決まってるよ!!』
    新条アカネに
    「裕太さん!!立ってくださいよ!!裕太さんはヒーローじゃないっすか!!」
    飛鳥川ちせに
    「裕太君、負けるな!君にはまだ未来があるだろ!!」
    山中暦に
    「響裕太!!お前はここで終わるような奴じゃない!」
    アンチ/ナイトに
    「裕太さん!!貴方にならあの時と同じように奇跡を起こせます!!」
    二代目アノシラスに
    「裕太ァ!!お前の賞味期限はまだ切れちゃいねぇんだ!!目ぇ覚ませ!!」
    ガウマ/レックスに
    「裕太さん!六花さんを置いていくなんてそんな事絶対に許しませんから!!」
    南夢芽に

  • 151二次元好きの匿名さん23/08/05(土) 03:16:45

    そして、最後に残された黒いアカネにも確かな火が宿る。
    何と言うべきか、何をぶつけるべきなのかアカネには解らない。
    けれども、伝えたい何かがあるのだけははっきりと理解できた。
    夢芽が、そんな彼女を肯定するように首を振る。それだけで勇気がもらえる。
    凛として顔を上げ、何もかもを剥き出しにして心を解き放つ。
    それはある意味で初めて出会った時の自分が何者なのか解っていなかった頃の自分に似ている。
    あくまで似ているだけ、あの時とは違う。
    自分を変えてくれた大切な友達、沢山の勇気をくれた人たちの為に、名もなき怪獣は叫ぶのだ。

    「裕太くん!!!!」

    その瞬間、裕太のアクセプターが眩く輝きアカネを飲み込んだ。

  • 152二次元好きの匿名さん23/08/05(土) 03:20:40

    今回はここまでになります

    次は、なんとかまた近日中に


    >>143

    大体そんな感じです

    手段を択ばない二代目ベースに初代の短気な所と三代目の性格の悪さを混ぜたのをイメージして書いてます

  • 153二次元好きの匿名さん23/08/05(土) 11:32:12

    保守

  • 154二次元好きの匿名さん23/08/05(土) 19:04:31

    >>152

    更新ありがとうございます。

  • 155二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 04:27:29

    保守

  • 156二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 09:55:02

    生きる糧に感謝

  • 157二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 15:04:23

    保守

  • 158二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 22:32:47

    光に焼かれ体が粉みじんに砕けたような感覚がアカネの中で通り過ぎてゆく。
    余りの衝撃に眩んで閉じていた瞳を薄っすらと開くと、そこにいたのは一人の少女。
    『あ、起きた』
    「六花……?」
    おそらくここはジャンクショップ絢なのだろう。
    だがどのような状況なのだろうか、店内は商品がそこかしこに墜ちてその原因であろう断続的な振動が襲う。
    そんな中、宝多六花はカウンターに手をおいて揺れる体を支えながら語りかけてくる。
    『三十分くらい寝てて、起きなかったよ』
    『そっか。ごめん、心配かけて』
    後ろから聞こえた声に、思わず振り返る。
    「響くん!?」
    ソファから今しがた体を起こしたように少しばかり気まずそうな響裕太。
    『ホントだよ』
    困惑するアカネを余所に六花は遠慮の無い、いっそすがすがしいまでの言葉を放つ。
    そして再び大きな振動を感じて、六花は顔を曇らせるのだ。
    『ねえ響くん、どうして怪獣が出るの……アカネはもう、怪獣は創らないって……』
    アカネは息を呑む。
    これはもう一つのツツジ台における過去の記憶。
    アカネの罪と過ちの集大成が世界を滅ぼさんとするその時の、響裕太と宝多六花の再演であった。
    『わからない。けど……あれはきっと、新条さんの意思じゃない』
    「響、くん……」
    嗚呼、貴方は信じてくれていたのか。
    疑ってもおかしくない、疑われてしかるべき事ばかりをしていた自分をあの渡り廊下での約束だけで信じてくれていた。
    アレクシスはアカネを憎みながら彼らは戦うだろうと嘲笑した。けれども、そんな悪意など簡単に蹴っ飛ばすように、裕太は優しさ故に立ち上がったのだ。
    『行かなくちゃ……』
    『無茶だって。あんなにたくさんいるのに……』
    裕太を止めようとする六花の肩が震えている。
    怖いのだ、裕太を喪う事が。それは15の少女として当たり前の感情で、きっとこれ以前にも幾度も思ったに違いない。
    『無茶じゃないよ。こっちだって、仲間がたくさんいるじゃない』
    裕太は六花を真直ぐ見つめる。その揺るぎない意志は六花の不安を溶かし、彼女は「うん」と小さく頷く。

  • 159二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 22:36:28

    『ごめんね、まだ開店前だとおもうけど』
    『くああああぁ……』
    『だから寝とけっつったんだキャリバーあ俺も眠ィ……』
    『……』
    次々とやってくるヴィット・キャリバー・ボラー・マックス。
    マックスがちらと裕太と六花に視線を送るも、それを気にも留めず最後の一人がやってくる。
    『やべーよ、雪降ってきた。寒ィ寒ィ、早く入れて』
    内海が震える体を抱えながらやってくる。その言葉の通り、外には控えめに落ちてゆく雪が見える。
    彼らはどれほどこうしていたのだろう。
    六花は裕太が三十分程と眠っていた言っていたが、本当にそうなのだろうか?
    もしかしたらもっとずっと眠っていて、六花も内海も新世紀中学生も裕太が目を覚ますを待っていた可能性だってある。
    いずれにしろ、ここにいる全員が最後の戦いの為に集ったのは間違いない。
    ≪全員揃ったな≫
    ジャンクの中からグリッドマンが呼びかけてくる。
    ≪かつてない戦になりそうだが……この街を救う事は、本当のツツジ台を救う事になる。これがこの街での、最後の戦いになるだろう≫
    誰もが力強く頷く中、裕太は決意の言葉を告げる。
    『俺にしかできない……俺のやるべきこと……』
    ≪――それを、私たちと共にしよう≫
    『ありがとう……!行こう!グリッドマン!!』
    裕太は左腕を構え、あらん限りの力を込めて握りしめた右腕をクロスさせる。

    『アクセスッ! フラアアアアッッシュ!!』

    全てを込め全てを振り絞るような叫びと共に光が溢れ、アカネは再び目をくらませた。

  • 160二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 22:38:58

    「なんで、どうして!?」
    友達が最後まで自分を信じてくれていた事実が引き起こす洪水の様な歓喜と共にアカネの困惑は膨れ上がる。
    今の光景は響裕太に宿ったグリッドマンの記憶の筈だ。
    そのグリッドマンの記憶が何故こんな形で自分の前に現れる。
    グリッドマンが到着したのか? それだとしても、記憶を見ることがあまりのも不可解だ。
    そんな疑問が頭の中を駆け巡るうちにアカネは幾何学模様が刻まれた神殿の様な場所にいる事に気が付く。
    周囲にはいくつもの光が漂い、そこが神聖な場所であることを更に強調しているようだった。
    「これは……?」
    アカネは光の一つに触れる。そうすると、光の中からヴィジョンが流れ込む。
    燃え盛る街で気炎万丈怪獣グールギラスが暴れている。
    茫然とする裕太、六花、内海。しかし、裕太はグリッドマンの声を受け彼の下へと走り出す。
    戸惑いだらけの中でのアクセスフラッシュと不完全なるイニシャルファイターでの戦い。
    追い詰められながらも、内海と六花の声を受け勝利を果たすグリッドマン。
    そう、これはグリッドマンのツツジ台における最初の戦いの記憶だ。
    「じゃあ、まさかこれ全部」
    アカネは確かめるように、いくつもの光に手を伸ばす。
    そうすれば見えるのは先と同じ過去のヴィジョン。

    新世紀中学生の一人サムライキャリバーとの邂逅と、世界の悲劇に触れる記憶。
    怪獣が人間かもしれないという不安から、手痛い敗北を喫してしまう記憶。
    六花が大学生と遊びに行くと言うので不安でこっそり後をつけてゆく記憶。
    学校行事の川下りの最中に巨大怪獣と遭遇し、必死になってジャンクの元へ走ってゆく記憶。
    怪獣少女アノシラスから新条アカネの真実を教えられる記憶。
    新条アカネとの対峙とアレクシスとの初遭遇の記憶。
    新条アカネを巡り内海と六花の対立と、それを経ての和解の記憶。
    夢の中に閉じ込められ、惑わされつつも三人ともそれを脱出する記憶。
    新条アカネの失意の化身たる怪獣による敗北と、グリッドナイト誕生の記憶。
    そして……追い詰められた新条アカネに刺され倒れる記憶。

    そこにあったのはグリッドマンが響裕太として過ごしていた2ヶ月間。

  • 161二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 22:40:26

    これらは一つ一つに違う想いで形作られた記憶の光。
    数えきれないほどの喜びと苦悩と戸惑いで彩られた超人の過去。
    アカネはふとそれらが薄い線で結ばれていることに気が付く。
    線を辿り、思考を巡らせる。
    幾度も繰り返す後、その光と線がある物の形をしていることに気が付いた。
    「これは……プライマルアクセプター?」
    グリッドマンと裕太の絆の証。怪獣に堕しようとも裕太が決して譲らなかった、繋がる力。
    記憶の光が、その絆を形作っている。
    その由来を探ろうとする前に答えがアカネの前に差し出された。

    『謝る事じゃないよ』
    どこからともなく、慈愛に満ちた裕太の声が響く。
    『俺は一時期の記憶が無い事なんて気にてしない。グリッドマンが居なかったら新条さんを救えなかったかもしれない。むしろ感謝しかないんだ』
    『裕太……』
    響裕太に宿る意思、それは彼を超人へと押し上げる。
    グリッドマンに並び立つ、もしかしたらある意味で越えているかもしれない存在に。
    『俺たちの世界を守ってくれて、ありがとう。俺と一緒に戦ってくれて、本当にありがとう……!!』
    親友への感謝を述べるのが本当に嬉しいのだろう。弾む裕太の様子に、アカネは思わず笑みを浮かべる。
    『今度は俺たちが、グリッドマンを助ける番だ!!』
    姿が見え始める。
    力強く左腕をかざす裕太と躊躇いがちに左腕をかざすグリッドマン。
    その戸惑いを、裕太が打ち砕く。
    『それに、グリッドマンが俺の代わりに過ごした二ヶ月間。楽しかったんでしょ?』
    『―――ああ! とても楽しかった!!』
    2人とも、これ以上に無いぐらいの満面の笑みで、これが本当に心を通わせるという事なのだろう。
    そして時間さえ超えて、今2人が交わろうとしている。
    『だったら、それでいいじゃん!!』
    裕太のアクセプターとグリッドマンのアクセプターが互いに打ち合う。
    カシャンと軽い音を立てて、それでも強く硬く互いの手を握りしめ合うように。
    そして、光と共にグリッドマンの「とても楽しかった事」が裕太に手渡されるのをアカネは確かに見た。

  • 162二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 22:43:36

    まさに奇跡としか言いようのない瞬間、全ての想いに応える姿にアカネは思わず苦笑を浮かべる。
    「そっか、私はまた回り道をしてたんだ」
    自分が出会っていたのが響裕太だったのかグリッドマンだったのかなんて悩む必要はなかったのだ。
    だって二人はあんなに強く結びつき合っていて、互いに想いと記憶を共有していて、どちらか一方だけでその存在を語るなんてありえない。
    彼が未だにプライマルアクセプターを身に着けているその意味を、もっとちゃんと考えればよかった。そうすればもっと簡単に事は運んでいただろうに。
    「ホントに、成長してないな私」
    どうしようもない自分にけれどもどこか清々しい気持ちがあって、アカネは遥か彼方を見つめる。
    未来を築く希望の光が指し示す先、或いは宇宙を照らす過去からの光の根源。
    雄々しく立ち上がり、戦いに赴かんとする響裕太。
    全てを受け入れ、常に自分の意思で道を選んできた勇者の背中がそこにはある。

    —俺の、俺にしかできない……俺のやるべき事……—
    彼を突き動かしてきたのはその信念なのだろう。
    響裕太であってもグリッドマンであって変わらない、だからこそ結び付く力。
    「自分のやるべきことを自分で選んでできるって幸せだよね。響君」
    あの時投げかけた苛立ちと決別の言葉を、今は精一杯の声援と称賛に変えアカネはその背に手を伸ばす。
    人差し指と中指を真直ぐに伸ばし、まるで狙い定めるように。
    —俺は……独りじゃない!! 俺には、皆が付いている!!—
    そうだ、彼には宝多六花が内海将がいる。
    マックスが、キャリバーが、ボラーが、ヴィットがいる。
    麻中蓬も、南夢芽も、レックスも、飛鳥川ちせも、山中暦も。
    ナイトに二代目、もちろんグリッドマンも!
    沢山の仲間に支えられて幾つもの危機を超えるその引き金となった人。

    「うん、だから今度は私が助けてあげる」

    彼の為に、アカネは今在り得ざる権能を振るう。
    彼女の怪獣としての力を目一杯に拡大した無茶苦茶な能力。
    無限の想像の中から生まれる確かなるユニバース。

  • 163二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 22:45:47

    「インスタンス――」

    それは、解放でもなければ支配でもない。
    繋ぎ物語る権能を今ここに行使する。

    「――リレイション!!」

    その力で響裕太の中にある記憶を想いを強く強く結び付ける。
    記憶とは一種の虚構だ、世界が五分前に今の形に生まれたとしたのなら記憶はその証明できないぐらいに実体のない正体不明の物語。
    けれども、人はそれを胸に生きる。虚構を信じることが出来るただ唯一の生命体であるがゆえに。
    だからこそ、響裕太に記憶と思いを基にしたグリッドマンを上乗せすることが出来る。
    難しい事じゃない、元々が彼のモノなのだほんの少しだけ後押し知れやればいいだけの事。
    裕太が育んできた絆、グリッドマンが育んできた絆。
    受け継がれたもの、分かち合ったモノ、裕太だけの大切にしたい思い出。
    その全てを一つに束ね響裕太の力へと変身させる。

    これは闇の中から生まれた少女から、誰よりも強く輝く-Glitter-少年への最初で最後の恩返し。

    怪獣と言う器に響裕太/グリッドマンが満たされてゆく。
    それは灰に火をつけ、濁った青を焼き尽くし、光の化身ともいうべき金を顕す。
    確かな意思と命をその巨体に灯し、ゆっくりとされど雄々しく彼は立ち上がってゆく。
    どんな苦境でもどんな強敵にも立ち向かってきた、彼女が常に傍で見てきた勇姿。
    信頼と憧憬、安堵と確信、期待と信頼を背負い、赤き超人は黒き異星人の前に立ちふさがる。

  • 164二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 22:49:55

    ≪死にぞこないふぜ……ッ!?≫
    赤い拳が振るわれ、見下していた言葉が遮られる。
    溜めていたエネルギーが霧散し、メフィラスは大きくよろめく。
    ≪メフィラス……≫
    赤い巨人からあがる裕太の声に、メフィラスは明らかな動揺を見せる。
    ≪馬鹿なッ!! 怪獣に飲み込まれながらも意思を取り戻したのか!? ただの人間が!!≫
    ≪声が聞こえた、六花の、内海の、皆の声がこのアクセプターから!≫
    裕太は何もかもが歪んだ自分の体の中でただ唯一燦然と輝くアクセプターを翳す。
    傷だらけの体で、それでもなお揺るがないファイティングポーズ。
    ついに始まった反撃にアカネは胸を躍らせる。失敗と苦渋を吹き飛ばす高揚感、まさにヒーローを目にした子供の様であった。
    「やっちゃえ! 響くん!!」
    その声援を皮切りに超人と異星人がぶつかり合う。
    大気を震わせる拳が飛び交い、組み合えば大地を揺らす。
    超人の殴打の嵐が異星人の防御を揺るがし、異星人の拳が超人の肉体を叩く。
    繰り出された黒い蹴撃を、赤い蹴撃が迎え撃ち、その勢いを回転に活かして超人が異星人を蹴り飛ばす。
    先ほどとはまるで違う、互角の格闘戦であった。
    ≪なんだこの戦い方は! これほどの技の切れ、ただの少年に出来るはずがない!!≫
    「そういう事が出来ちゃうんだよ……ちょっと変な人だから!」
    メフィラスが驚嘆の声を上げ、アカネはそんなメフィラスを鼻で笑う。そうだとも、響裕太はただの少年じゃない。
    強い勇気と優しさを持った、手を貸すだけでグリッドマンを再現できる男の子だ甘く見てもらっては困る。
    もちろん、ちょっと変な男の子でも自分の今の状態が可笑しい事には当然気が付く。
    ≪なんで、こんなに体が軽く……≫
    戸惑いがちに裕太は自分の体を見つめる。
    憎悪から生まれた醜い模倣の肉体、けれどもそれと裕太の心を繋ぐのはグリッドマンの力。
    その後押しをしたアカネは、いささか不謹慎かもしれないがなんだか悪戯が成功したようにクスクスと笑う。
    ≪誰かが、助けてくれている……?≫

  • 165二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 22:52:42

    裕太がその事に至った時、アクセプターを通じて彼の視線が自分に向いていることにアカネは気が付いた。
    よもや向こうが自分を認識するとは思っていなかったのでちょっと驚いたが、考えてみれば別に再会に関して後ろめたいことなど何もない。
    「また会えるとは思ってなかったけど……ま、オリジナルと違ってもう会わないなんて約束はしてなかったし」
    その新条アカネだって、裕太とは直接話をしたのだ自分がやって何が悪いと開き直る。
    「君の中から生まれたアクセプターが私をここに導いてくれた」
    そうして生まれた余裕で謎めいた少女っぽく語り始める。
    グリッドマンから引き継いだとは言え、結局は小さな欠片だ。
    だったら向こうが自分が誰かなんて正確には判らないだろうから、ある意味で一番自分らしい在り方を魅せる。
    「私の力で、君を今この一時ほんの少しだけグリッドマンに変身させてるの」
    ≪俺を、グリッドマンに!?≫
    「そう、君の中にあるグリッドマンの思い出、君に届いているグリッドマンの意思、そして君の六花たちを護りたいという気持ち。それがあればあの時の全ての始まった日の再現ができる」
    グリッドマンは記憶の中で裕太に宿ったのをやむを得ずのように認識していた。
    けれども本当にそうだろうか?
    グリッドマンは救う使命を背負ってきた、響裕太は護りたいと言う願いがあった。
    だからこそ裕太がグリッドマンを呼び寄せたのだ。
    偶然なんかじゃない、二人の出会いは必然で……それを成し遂げた大きい想いを向けられる宝多六花が少しだけ羨ましくもなる。
    ≪……ありがとう≫
    本当ならアカネが伝えなければならない言葉を逆に裕太から送られる。
    作り物の心でも……いや、こんな風に言うのは止めよう、どんな道を辿ろうとアカネの心が感じたことは本物なのだから。
    「これ以上、六花を泣かせちゃダメだよ?」
    別れの刻を笑顔で送る。
    それは彼の中に刻まれ力の一端となるだろう。
    出来る事は全てやった、名残惜しいけれどアカネは自分の在るべき場所に帰らねばならない。
    本当は内海と六花も含めてあのファミレスの時の様に4人揃ってもちゃんと話がしたかったけど、それはまぁこの状況では贅沢だ。

    光の中から、アカネは飛び立つ。
    切り離されたる可能性の世界へと。
    そしてそこで、世界を壊し繋ぐ巨大な咆哮を聞いた。

  • 166二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 22:53:32

    今回はここまでになります
    なんとかSIDE:DYNAZENONだけでもこのスレで終わらせろ俺!

  • 167二次元好きの匿名さん23/08/06(日) 23:07:23

    ファイトー!

  • 168二次元好きの匿名さん23/08/07(月) 07:51:16

    ほーしゅ

  • 169二次元好きの匿名さん23/08/07(月) 14:44:57

    保守

  • 170二次元好きの匿名さん23/08/07(月) 23:35:52

    保守

  • 171二次元好きの匿名さん23/08/08(火) 10:08:24

    保守

  • 172二次元好きの匿名さん23/08/08(火) 19:41:42

    保守(気付けばこのスレももうすぐ埋まりそう)

  • 173二次元好きの匿名さん23/08/08(火) 23:38:39

    保守

  • 174二次元好きの匿名さん23/08/09(水) 08:59:23

    保守

  • 175二次元好きの匿名さん23/08/09(水) 17:36:50

    保守

  • 176二次元好きの匿名さん23/08/09(水) 23:43:15

    楽しみにしながら保守

  • 177二次元好きの匿名さん23/08/10(木) 08:32:05

    保守

  • 178二次元好きの匿名さん23/08/10(木) 16:07:07

    保守

  • 179二次元好きの匿名さん23/08/10(木) 22:29:17

    インスタンス保守

  • 180二次元好きの匿名さん23/08/11(金) 02:08:47

    星空を打ち砕き大地を蹂躙するような轟音が全てを威圧する。
    今までのものとは比べ物にならない程の衝撃と振動がそこにいる者達の命を脅かさんとしていた。
    「なんだ、あいつ!?」
    夢芽を庇いながら蓬は唐突に現れた怪獣に瞠目する。
    全員の声援を受けるように裕太のアクセプターが輝いた後、裕太の姿が掻き消え残されたメフィラス星人の姿が瞬く間に変貌して怪獣となった。
    その姿を、どの様に形容するべきであろうか。
    神話や伝説に詳しいものであるならば日本神話の八岐大蛇、あるいはギリシャ神話のヒドラに喩えていたかもしれない。
    しかし、それらの怪物が多頭であろうと蛇という生物として統一された姿をしているのに対して、この怪獣はあまりにも乱雑であった。
    まるで複数の怪獣のパーツをもぎ取って無理矢理一つに繋ぎ合わせたようにも、一つの種から数多の怪獣の怨念が芽吹いたかのようにも見える。
    生物としても兵器としても破綻した禍々しき威容をほこる獣。
    数々の怪獣と戦ってきた蓬達をして戦慄を禁じ得ない狂獣であった。
    「あれは……デイワルダス!」
    「デイワルダス? それって、アカネさんが創った」
    怪獣の正体を看過した二代目に夢芽が友人から聞かされた話を思い出す。
    一蓮托生怪獣デイワルダス。
    黒いアカネが本当のツツジ台を破壊する為に作った世界終焉の怪獣の名前。
    それがなぜか今、彼らの目の前に出現していた。
    「一体、どうして」
    「世界が繋がったんです!」
    戸惑いの声を、二代目が両断する。
    想いもよらぬそして待ち望んでいたキーワードにその場に居た全員の視線が二代目に注がれた。
    「二代目、それは」
    「デイワルダスは黒のアカネさんが創った、この世界の連続性を維持するプログラムです。それが出現したという事は向こう側とこちら側が接続されたことに他なりません!」
    「じゃあ!?」
    「はい、後はデイワルダスさえ倒せば、あの時の……裕太さん達が本来のツツジ台へ帰還した因果の再現となり向こう側に渡ることが出来るはずです!」
    ついぞその時がやってきた。
    あの怪獣はおそらく途轍もない力を持っているだろう、なにせ世界を滅ぼすために生まれたのだ。
    だがそれでもアレを倒しさえすれば、友を助ける道を拓くことが出来る。
    蓬達の胸に正真正銘の光明が差す。

  • 181二次元好きの匿名さん23/08/11(金) 02:10:57

    「―――――!!」
    その光明を掻き消す勢いでデイワルダスは咆哮を上げると先にも増した衝撃波が生まれ、蓬達ごと周囲を薙ぎ払わんとする。
    その瞬間、天空から金色が降り立ちデイワルダスの暴威を遮った。
    「ゴルドバーン!」
    ちせの声と共に、ゴルドバーン翼を広げその身を挺して守らんとする。
    「きゃあ!!」
    襲い来る衝撃と砂埃に夢芽は叫びをあげる。
    ゴルドバーンとて全ての衝撃波を遮る事は出来なかった。
    そもそも根本的に彼の構造は同サイズの存在を守ることは出来ても人間サイズの存在を守り切るにはどうしても隙が出来てしまう。
    それを考えれば大多数を何とか庇えただけでもゴルドバーンは十分に役目をはたしているのだ、責めるのは酷だ。
    だからこそ、蓬は手を伸ばして夢芽を守る。
    それは蓬自身の役目だからだ、ゴルバーンがおらずとも蓬は身を挺して夢芽を守り切ったであろう。
    しかして、夢芽を掴むために蓬の手からは青いダイナソルジャーが零れる。
    「しまっ……」
    人間を簡単に吹き飛ばす力を前に青いダイナソルジャーなど塵にも等しく、砂塵と共に何処かへと飛ばされてゆく。
    ここまで力を貸してくれた存在が失われたことに、蓬は焦りを見せるがそれを助ける者がいた。
    「私がダイナソルジャーを探してくるから、皆はデイワルダスを!!」
    それは先ほどまで心ここにあらずと言う様子であった黒いアカネだ。
    いつの間にか正気を取り戻し、青いダイナソルジャーを取り戻すべく走り出そうとしていた。
    「アカネさん!」
    夢芽が声をかける。
    当然だ、怪獣がいるこの場はあまりにも危険すぎる。
    喩え彼女自身が怪獣とは言え、無事であると言う保証はどこにもない。
    「大丈夫だよ夢芽さん」
    黒いアカネは本当に何でもないように微笑む。
    「私にしかできない、私のやるべき事。それを果たしに行くだけ」
    それは、裕太だけではない夢芽がいつか蓬に告げた言葉でもある。
    為すべき事を理解する者は幸福であろう、己の生の道を知る事にも等しいのだから。
    そして今、黒いアカネはそれを知っている。

  • 182二次元好きの匿名さん23/08/11(金) 02:13:20

    「だから、夢芽さんも、夢芽さんにしかできない、夢芽さんのやるべき事を」
    真直ぐな紅玉の瞳を受けて、夢芽は頷く。
    もう言葉はいらない、黒いアカネは小さな仲間を助ける為に走り出し、夢芽と蓬は世界終焉の怪獣に挑むべく立ち上がる。
    ちせも暦も同じだ、あの恐るべき敵に決意と闘志を燃やして立ち向かうのだ。
    そしてその炎を体現するべく、レックスはその力を解き放つ。

    「アクセスコードッ! ダイナレックス!!」

    裂帛の気合いと共に放たれるアクセスコード。
    それは閃光と共にレックスの存在を紅い機械竜ダイナレックスへと変換させ、レックスの意思はその前身たるガウマへと立ち返る。
    己の内側、セミインナースペースに蓬・夢芽・ちせ・暦を乗せダイナレックスは開戦の雄たけびを上げた。
    「二代目」
    「はい、私たちも行きましょう」
    皆まで言わずとも通じ合う。
    ナイトはその事に深く感謝しながら、赤黒い光を放つ。
    現れたるは五体を紫光に輝かせたる戦士。グリッドマンを守護し怪獣の脅威から世界を守る騎士、グリッドナイト。
    そして上空に現れる空中戦艦サウンドラス。
    世界を守るアンチボディ達はここに集い、世界終焉の怪獣の前に挑む!

  • 183二次元好きの匿名さん23/08/11(金) 02:16:16

    ≪くらいやがれ!!≫
    ダイナレックスの背部に備えられたペネトレイターガンから高出力のビームを発射する。
    今まで数多くの怪獣達に痛撃を与えてきた一撃、それは鋭く正確にデイワルダスを捉えてた……が、予想だにしない事が起こってしまう。
    ≪な、なんだ!?≫
    ≪ビームがすり抜けた!?≫
    そう、ダイナレックスの主力武器の一つともいえるなんとかビームが、デイワルダスの体をすり抜けてしまったのだ。
    そのまま夜空を切裂くだけの光を追うように今度はグリッドナイトの力が解き放たれる。
    ≪グリッドナイトサーキュラー!!≫
    グリッドナイトの代名詞と言っても良い光の円刃。
    敵を八つ裂きにするほどの威力を持ったその光輪を投げつけるも、やはり結果は同じである。
    ≪やはりだめか……!≫
    先のビームと同じくデイワルダスの体をすり抜け後ろにあったビルを切裂くだけに終わってしまう。
    ならば、と言わんばかりに今度は二人同時に飛びかかる。
    エネルギー攻撃がダメならば実体攻撃ならどうだという試みだ。
    ≪こいつなら、どうだぁ!!≫
    ダイナレックスの牙がデイワルダスの首の一つを食いちぎり、グリッドナイトの鋭い飛び蹴りが巨体を揺るがす。
    そうなる、はずであった。
    ≪んなっ……!≫
    ガチィンという金属同士がぶつかり合う音と衝撃だけが周囲に鳴り響く。
    デイワルダスの首は其処にあるのに食らいついた感触など全く無い。
    いや、ダイナレックスはまだいい方だ、余計に訳の分からない事になっているのがグリッドナイトである。
    蹴りがデイワルダスの体をすり抜ける、そうするとそのままグリッドナイトがデイワルダスの中にすっぽり入ってしまった。
    ≪なんだこれは!?≫
    戸惑うように自分の周囲を見渡すグリッドナイト。
    デイワルダスはそんな二人をあざ笑うかのように体を大きくうならせる。
    ≪ぐおあぁ!!?≫
    ≪ぐぅ!≫
    それだけでグリッドナイトもダイナレックスも弾き飛ばされてしまう。
    この怪獣は一体どのような力を持っているのだ。あまりにも不可解な性質と攻撃に、その疑問だけが加速してゆく。

  • 184二次元好きの匿名さん23/08/11(金) 02:20:12

    ≪スパークバルカン!≫
    攻撃を続けるも、やはりどれも相手をすり抜けるばかり。
    有効打どころか一切の攻撃が通用していない。
    デイワルダスは火線を浴びながらも猛然とダイナレックスに迫る。
    グリッドナイトがそれを阻止せんとデイワルダスの尾を掴もうとするが、その手は空をきり逆に尾撃を受けてまたも吹き飛ばされるだけに終わる。
    ≪くそっ! 一時解散!!≫
    ガウマの号令と共にダイナレックスは四つのマシンへと分離する。
    今までにも何回も怪獣の攻撃を凌いだダイナレックスの十八番の戦術、これによりデイワルダスの突進を回避することに成功するのだが……
    ≪うわああ!?≫
    ≪きゃあ!≫
    ≪いったぁ……!≫
    ≪うぅ、くそ!!≫
    ≪なんで、こんなっ≫
    5人の悲鳴がそれぞれに上がる。
    躱しきった筈だ、なのにダイナソルジャーもダイナウィングもダイナストライカーもダイナダイバーも全てが弾かれた。
    ≪くそっ!?この野郎!≫
    ガウマが毒づきながら苦し紛れにバーストミサイルを発射する。
    期待してはいなかったが、やはりその通りである意味いつも通り怪獣に通用しない。
    一方で盾に変形したゴルドバーンがグリッドナイトを守り、ナイトはそこからなんとか反撃を試みる。
    ≪ぐ、ぬぅ……!≫
    だがナイト爆裂光破弾もグリッドナイトストームもナイトサーキュラーエンドも全てが無駄に終わった。
    此方の攻撃は効かないのに、向こうの攻撃は理不尽なまでに当たる。
    これでは戦いにならない、一方的になぶり殺しにされるだけだ。
    ≪ナイトくん!!≫
    空中戦艦サウンドラスから地上に向けて砲撃が行われると、デイワルダスは視線を其方に向ける。
    次の瞬間、サウンドラスは轟音を立てて激しく揺さぶられた。
    ≪二代目!!≫
    ≪何とか、大丈夫です……!≫
    グリッドナイトの焦りを二代目の苦しげなれど冷静な声が制する。
    その通りにサウンドラスはすぐさま態勢を立て直し、重大な事実を仲間達に伝えるのだ。

  • 185二次元好きの匿名さん23/08/11(金) 02:22:08

    ≪それよりも、今の攻撃を観測して確信しました。あのデイワルダスの正体は攻撃性を持った空間そのものです!≫
    ≪攻撃性を持った空間……?≫
    それだけでは意味が解らない言葉に、誰もが困惑する。
    疑問の答えを二代目が示すが、それは途轍もない絶望的な代物であった。
    ≪あのデイワルダスには実体が在りません、そこに見えているのはあくまで存在の起点となるヴィジョン! そこに攻撃を加えても文字通り空を切るだけです!≫
    ≪実体がないなら向こうの攻撃も当たらない筈だろ!?≫
    ≪いいえ、デイワルダスは空間を自由自在に歪めてそこで発生する衝撃波やエネルギーで我々を攻撃しているんです! それこそ完全不可視の攻撃を無制限に!≫
    ≪そんな……!≫
    ガウマ隊の誰もが顔を青ざめる。
    このような怪獣は初めてだ、今までの怪獣も難敵揃いであったが少なくとも攻撃は通用した。だがこの怪獣はそれすら儘ならぬ。
    戦いにならないと言ったが、それが何も間違ってはいない。そもそもとして戦いの土俵に昇ってすらいない。
    そんなガウマ隊にデイワルダスが複数ある視線を向ける。
    ゾワリと背中に嫌なものを感じ、咄嗟にその場を離れると刹那の差で空間が爆発したのだ。
    ≪ぐうぅおおおお…!≫
    唯一人、ガウマだけはそうはいかない。
    彼が宿っているダイナダイバーは水中戦用のマシンなのだ、地上では文字通り陸に上がった魚である。
    ≪ガウマさん! もう一度合体を!≫
    ≪クソっ、わかった!≫
    4つのマシンが一つとなり、再びダイナレックスの形を取る。
    ガウマ一人がなぶり殺しになる状況だけは避けられたものの状況はさほどに好転はしていない。
    不可視なれど回避可能というのは朗報であるが、これではジリ貧だ。いずれ掴まって叩きのめされるのは目に見えている。
    ≪推測になりますが、あのデイワルダスは世界を阻むメフィラスの障壁とこの世界における終焉プログラムの因果が結合した新たなる怪獣!≫

    そう、これは一蓮托生怪獣ではない。
    現在の異星人の悪意と過去に存在した退屈の置き土産が生み出したる物。
    譎詭変幻怪獣デイワルダス・ミラージュ、それが世界を阻む最後の怪獣であった。

  • 186二次元好きの匿名さん23/08/11(金) 02:25:30

    ≪空間に干渉する手段があればなんとかなるんじゃ≫
    逃げ惑うダイナレックスの中から暦が叫ぶ。
    それは道理だ、何も存在しない「無」を相手にしろという訳ではない。空間という一応は世界に存在するものが敵なのだから空間を何とか出来るモノがあればデイワルダス・ミラージュを相手取る事は可能であろう。
    ≪けど、そんなのどこにあるっていうんすか!≫
    ≪いや……ある!≫
    ちせの否定を、蓬が更に否定する。ただし、正確には「あった」ではあるが。
    ≪あの、青いダイナソルジャー!!≫
    蓬と夢芽をこの世界に誘い、幾度も向こう側への道を拓かんとしたあの竜人。
    可能性の世界を突破する因果を持った青いダイナソルジャーであれば、デイワルダス・ミラージュを倒せる可能性は十分にある。
    だがそれは今は蓬の手には無い。
    ≪くそっ……≫
    夢芽を助けた判断に微塵も間違いはない。一方で重大なミスを犯したのも事実だ、切り札を無くすなど言い訳のしようがない。
    後悔が蓬の胸に重くのしかかる、暗い感情は価値もない焦燥感を産みそれはやがて別の過ちを産むだろう。
    それはこの状況下ではどんなに小さなものでも致命的だ。だからこそ、そうなる前に後悔を断ち切らんとする者がいる。
    ≪蓬≫
    恋人に名を呼ばれ、蓬は其方に視線を向ける。
    ダイナレックスの牙の様なモニターの向こうで、こちらを見つめる翠の瞳。
    乱れる蓬の心を一つに纏め平静をもたらそうとする光がそこにはあった。
    ≪アカネさんはきっと来る≫
    夢芽は青いダイナソルジャーを取り戻すために走り出した少女を信じている。
    友達を助けたい、その気持ちは同じで本物であることを何度も観てきた。
    ≪だからそれまで、私たちは負けない!≫
    逃げるか凌ぐかしかできない、忍耐の戦い。だが勝算がない訳じゃない、黒いアカネが間に合えばそれだけでもう勝ちだ。
    夢芽のその意気が、蓬に伝わってゆく。
    胸が熱くなるのを感じる、この状況でも誰かを信じその為に戦う姿を本当に美しいと思える。
    ≪ああ! 行こう夢芽! 皆!!≫
    ≪へっ……言うじゃねぇか二人とも!!≫
    ≪そういう事なら≫
    ≪とことん付き合うのがガウマ隊っすよ!!≫
    ダイナレックスは吠える。勝利を諦めぬ、強き意思を表す咆哮であった。

  • 187二次元好きの匿名さん23/08/11(金) 02:29:51

    今回はというか、残りが足らなくなってきたのでキリの良いところまで
    続きは書きあがりしだい次スレ建てます
    4パート目まで行くと流石に心苦しいな……

  • 188二次元好きの匿名さん23/08/11(金) 04:52:43

    パートが多いのはそれだけ話の内容が濃いってことだと思うので、寧ろ誇りに思ってください

  • 189二次元好きの匿名さん23/08/11(金) 10:06:07

    気長に待ってます!

  • 190二次元好きの匿名さん23/08/11(金) 19:56:24

    多分保守してもスレ完走するまで更新こないかもだけど、一様他が見る為にスレは残す

  • 191二次元好きの匿名さん23/08/12(土) 06:12:17

    保守

  • 192二次元好きの匿名さん23/08/12(土) 06:14:58

    一様じゃなくて一応保守

  • 193二次元好きの匿名さん23/08/12(土) 13:37:08

    もう始まってからどれぐらいの時間が経つのだろう

  • 194二次元好きの匿名さん23/08/12(土) 21:14:09
  • 195二次元好きの匿名さん23/08/12(土) 21:14:50

    >>194

    ありがとうございます!

  • 196二次元好きの匿名さん23/08/12(土) 21:22:30

    >>194

    お疲れ様です!

  • 197二次元好きの匿名さん23/08/13(日) 07:21:28

    次スレ感謝

  • 198二次元好きの匿名さん23/08/13(日) 18:01:17

    完走に向けて、プライマルアクセプターのボタンを押して叫ぶんだ

  • 199二次元好きの匿名さん23/08/13(日) 19:53:22

    ???「説明はあとだ!」

  • 200二次元好きの匿名さん23/08/13(日) 19:59:26

    スレ埋めに卑怯もラッキョウもありませんよ

オススメ

このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています