- 1名無しの生き残り23/10/12(木) 00:12:57
- 2二次元好きの匿名さん23/10/12(木) 00:30:14
続けて
- 3二次元好きの匿名さん23/10/12(木) 00:31:09
スレGIFかわいい
- 4名無しの生き残り23/10/12(木) 00:43:57
あまりにも暇なので話しかけてもいいが、シロクマともなると凶暴かもしれないので、高所からそいつを観察することにした。これだけの興味深い退屈しのぎが次いつ得られるかなんてわからぬので、いつでも反芻できるよう日記帳に記録する準備をする。
さて。海から来たシロクマは一体何をするだろうか。
そいつは何かを引きずっていた。
…僥倖!今日の私はついている!あれは人間じゃないか!なんて久しぶりだろう!
シロクマの獲物か?しかし運が良ければ、あの人間はまだ生きているかもしれん。会話ができるかもしれん。
こうなってはもうシロクマが凶暴とかなんだとか関係ない。奪ってでもあの人間と会話してやる。
私はひょいと飛んで、シロクマが人間を引きずっている浜辺へ一気に駆けた。 - 5名無しの生き残り23/10/12(木) 00:55:25
遭難者を救助するだなんて、この永遠に退屈な生活の中では刺激が強すぎて興奮が収まらん。
シロクマは猛獣でも着ぐるみでもなかった。ミンクと言って、そういう種族らしい。本人がそういうのだからそうなのだろう。ベポと名乗った。名乗って、キャプテンを助けてほしいと泣いて縋ってきた。かわいいがかさばる種族だ。
ベポがキャプテンと呼んだ件の要救助者はミンクでもなんでもなく普通の人間みたいな感じの何かだ。少なくとも見た目は普通の人間だが、まぁ「普通」ではないのだろう。何をしたらそんなことになるのかというほどの大怪我をしていて虫の息、その負傷具合への驚きに慣れたら今度は顔がいい。顔はいいがどこかで見た顔だ。あれだ、ニュース・クーがごくまれに運んできてくれる最高の暇つぶし、世界経済新聞で見たことのある顔だ。 - 6二次元好きの匿名さん23/10/12(木) 00:55:53
主人公は漂流して無人島生活でもしてんのかな
- 7名無しの生き残り23/10/12(木) 01:05:49
聞きたいことが山ほどある。
しかし命に関わる状況なので、委細を聞く前に応急処置をして、峠は越した。今は私の部屋で安静にさせてある。客間を貸してやれと?私もそう思ったんだが、さっき客間を開けたときに盛大にむせながら思い出したのだ。客間を最後に掃除したのは300年ほど前のことだった。あれだけ弱り切った人間を収容したら肺に埃が詰まって死ぬかもしれん。 - 8名無しの生き残り23/10/12(木) 01:06:23
さて、さてさて?ベポは既に恩人を見る目で私を見ている。何から聞き出そうか。あと数年は思い出して退屈しのぎができるくらいの情報を絞らにゃ割に合わん。
「ベポとやら」
「ぐすっ。なに?」
「命は取り返しがつかん。故、救命はした。だが相手が何者であっても無償で助けるほどのお人好しではない。ひとまず君たちの素性と、ここへ来た経緯…ログポースの指し示さぬ島に船すらなくたどり着いた経緯でも聞かせてもらおう」 - 9二次元好きの匿名さん23/10/12(木) 01:09:38
巨人以上の長生きなんだな
- 10名無しの生き残り23/10/12(木) 01:13:35
多少刺激の強すぎる話であった。鼻血と知恵熱に浮かれながら聞いたところを整理する。
そう、見渡す限りの水平線に船影はなかったし、見聞色の探知の限り停泊する船もなかったのだ。船もなしに突然ここにふっと湧いたように現れた二人。ベポはべらぼうに泳ぎが上手いらしい。本人がそういうのだからそうなのだろう。勝者島沖で沈んだ船からここまで泳いできたんだとさ。勝者島なんてどこにあったっけか?少なくともちょっと航路をそれたくらいではここにはたどり着かない。それでもまぁクマ公は泳ぎ切ったそうだ。そう聞くとまぁ、空腹と暇つぶしと腹いせでここらの海王類の数を減らしてしまったことだって、巡り巡って誰かの役には立ったわけだ。 - 11名無しの生き残り23/10/12(木) 01:45:12
で、潜水艦(知らんさ?海中を航行する船だって。)は何故沈没したか?真っ二つにされたって。敵に。
重傷者はやはり新聞で見た顔だ。それも一番最近手に入れた新聞で見た。
ハートの海賊団船長、トラファルガー・ロー。気鋭のルーキーにして四皇麦わらと同盟を組んだとか、世界の騒がしさの最前線にいるような男。
ベポが言うには、四皇黒ひげと海戦したっていう。(この辺で興奮がキャパシティを超えたので、聞き間違いなどあるかもしれない)その結果の大破、轟沈だってよ!すごいな、この静穏と退屈の海のすぐ向こうでは、そんな、この世の凶悪と物騒と革新のぶつかり合いみたいなことしてたのか。 - 12名無しの生き残り23/10/12(木) 02:06:16
「海賊というのは会えば争う法でもあるのか?なぜ四皇ムギワラーと手を組んだハートが別の四皇と単独決戦をした」
「…麦わらと同盟続けてたらもしかしたら勝てたかな。黒ひげに目を付けられてた。ワノ国でカイドウと戦った直後だったから、絶対ポーネグリフを手に入れてるはずだって」
すまない、この後「ワノ国」「カイドウ」辺りで興奮しながら根掘り葉掘り聞いたんだが途中で完全に知恵熱を出してダメになった。この辺の記述はまた今度落ちついてからするどうしてこうもわけわからん、世界の騒がしさの最前線みたいなのが向こうから流れてきてくれた?数十年分の興奮をいっぺんに味わったもんで鼻血も止まらん。 - 13名無しの生き残り23/10/12(木) 02:06:41
ニュース・クーはこの島を通り過ぎがちだ。だから私が持っている外界の情報は、古くて、とぎれとぎれで、時系列が乱れて、断片的。
ムギワラーは海軍と全面戦争をしたことがあるが結構いい奴で九蛇の女帝と仲がいいだとか、キャプテンは放浪癖をなんとかしてくれないと本当に困るし放浪してる間にムギワラーと手を組んで七武海ドフラミンゴをブチのめしたし、そのドレスローザは二度の革命を経てこのたび元の王統に戻っただとか、その後四皇を潰しに行ってなぜか成功してしまっただとか…たまの世経の合間の、私に届いていなかったニュースが面白すぎて洒落にならん。 - 14名無しの生き残り23/10/12(木) 02:07:22
「黒ひげは穏健派だと思っていた。わからんものだな」
「多分白ひげと混同してるよ」
「しかし革命を企てて海賊同盟を組むならなぜロジャー海賊団とかロックス海賊団にしなかった?ロジャーは気が合えば結構つきあいのいい男だ」
「どっちの海賊団ももうないよ?何十年前の話?」
「…先刻、モンキーと言ったな?海兵ガープが無軌道をこじらせて海賊になったのかとばかり…。そんなに強いモンキーがガープの他にいたのか?兄弟か?」
「本部のガープ中将の話してる?今言ってるモンキー・D・ルフィはガープ中将の孫だよ」
「孫ォ!?」
「なんならさっき言った、ワノ国で倒した四皇は元ロックスの船員だよ」
僥倖、感謝。あと数十年は今日のことを思い出すだけで退屈を忘れられるだろう。トラファルガー・ローとかいう瀕死の海賊の面倒を見ている間だけでもこのクマの手を借りて、ここ数十年の歴史の時系列を整理したい。
貰えるものは貰っておかねば損だ。あの人間とだって喋りたいが、あいつはどうせ長くは生きない。この先の退屈しのぎ、今のところはクマ公だけが望みだ。 - 15名無しの生き残り23/10/12(木) 02:07:41
ベポに海王類は食えるか聞いた。大丈夫と答えたのでウミグリフォンを浜で焼いてやった。一匹で足りるか聞いたら青ざめて十分だと言う。遭難して保護されている身だから無理もないが遠慮深い奴だ。
そんなに恐縮するなら城を掃除していてくれと頼もうかと思った。何せ海賊に自分の寝室を奪われたので、城の主でありながら私の方が客間で寝るしかない。しかしあの客間の惨状を初対面のクマに押し付けるというのも人の道に背いているだろう。
どこかほどほどスペースの取れそうな場所を掃除して私の寝床として毛布を敷いておいてくれと頼んだ。君はあの海賊の側がいいのだろう、どこか好きに毛布を敷いて寝てくれ。廃城だが探せばどこかに簡易ベッドもある。見つけたら好きに使ってくれて構わない。 - 16名無しの生き残り23/10/12(木) 02:08:43
海賊トラファルガー・ローは深夜何度もうなされた。看病がてら観察していたが、コラサンと消え入るようにつぶやいたり、ドフラミンゴと叫んだり、俺はパンが嫌いだとぼそっとこぼしたり、見ていて飽きなかった。寝息で上下するベポの腹の上に座ってのんびりと観察していたが、海賊というのは寝ている最中も騒がしいようだ。熱も下がらない。熱を出し続ける体力はあとどのくらい残っているだろう。
明日この男は目を覚ますだろうか。少なくともベポの飯は作ってやらねばならないが、小麦があったらパンを焼いてみると面白かったのかもしれない。 - 17名無しの生き残り23/10/12(木) 02:10:15
気が向いたら客間以外の部屋を整えてくれると助かる、とベポに伝えた。
食事と仕事、忙しくさせていさえすればベポは気がまぎれるが、その実常にキャプテンのことで頭がいっぱいだ。ベポはクマの姿をしているが医療の知識があるらしい。というかハート海賊団が医療船団だったらしい。意味がわからないが本人がそういうならそうなのだろう。清掃の合間合間で勝手にクランケを抱き起して褥瘡予防しておいてくれるし、砕けた骨が危うくなるような扱いもしない。医療の知識があるということは、トラファルガー・ローの状況を的確に把握できてしまうということだ。容態は安定しているが緩やかな下り坂。
「窓拭いておいたよ。あと…キャプテンがちょっと脱水気味」
ベポは元気がない。ウミグリフォンでは飽きるだろうからテチスオオウミヘビでも獲ってこようか。陸のものがいいなら食べられる木の実でも探すか。…たまにとんでもない事故を起こすから陸の木の実は最終手段にしたいところだが。 - 18名無しの生き残り23/10/12(木) 02:13:14
ベポが泣く。寝ながら泣いている。最初の夜はトラファルガーだけうるさくてベポは静かだったが、この数日のうちに逆転した。トラファルガーは呼吸困難を起こした時以外は静まり返り、ベポはたまにすすり泣く。
静けさは恐ろしいものだ。
トラファルガーが何も言わなくなったらこのクマはどれほどの絶望を味わうことになるだろう。
悩みはしたのだが、この城には今のトラファルガーを救える医療設備などない。合意が取れない状況でやることか。しかし悩む前にまず命が最優先という摂理が変わらぬものなら、今はこれ以外に方法はない。
縫合した傷口をぶちぶちと開く。膿の底からまた血がじわじわとせりあがってきた。化膿するということはこいつの体もなんとか生きようとしている証だろう。
トラファルガーの佩刀に手をかけた。一瞬拒絶を感じたが心の中で頼み込み、鞘から少しばかり抜く。はばきに近いところの刃に腕を押し付ければ、いともたやすく皮膚がはじけるようにさっくり切れた。腕を下げて浅い傷に集めた血滴をクランケの膿んだ傷口に落とした。 - 19二次元好きの匿名さん23/10/12(木) 02:32:03
すげえワクワクする 種族は何なんだろう
- 20二次元好きの匿名さん23/10/12(木) 02:46:08
シンプルに吸血鬼かなぁ……
- 21名無しのナレーション23/10/12(木) 07:05:21
(学校から帰ってきてまだこのスレッドがあったら続きを書きたいです)
- 22二次元好きの匿名さん23/10/12(木) 09:29:34
(釜を煮込んでお待ちしております)
- 23二次元好きの匿名さん23/10/12(木) 09:37:59
クソ面白そうなスレ見つけたー!!!
絶対残しとくから安心してくれ - 24二次元好きの匿名さん23/10/12(木) 14:59:16
めっちゃ面白いじゃん
待機するわ - 25二次元好きの匿名さん23/10/12(木) 16:38:44
- 26名無しの生き残り23/10/12(木) 18:14:52
血を投与したのだから当然と言えば当然なのだが、夜が明ける前にトラファルガーは一度目を明けた。孤高の獣のような美しく険しい眼をしていた。少し兄上の眼差しに似ていた。
「寝ていていい。むしろ寝ておくがいい」
そう言うと、海賊とは思えないほどの素直さで頷き目を閉じた。自分の命に対して何をされたかも知らずにまたトラファルガーは眠りに落ちた。
しばらく悩み、私はまたトラファルガーの顔の上に腕を突き出して、ぼたぼたと血を落としてやった。 - 27名無しの生き残り23/10/12(木) 18:15:24
己の血だとわかっていても暗い中では黒々と流れる闇のように見えて、トラファルガーの頬をひとすじふたすじ流れ落ちていった。
- 28名無しの生き残り23/10/12(木) 18:20:20
「キャプテン!」寝室からベポの歓喜の声がした。ベポが喜んでいる。面白い。これは見逃しては損だ。
朝食の焼きテチスオオウミヘビの串を持ったまま、私は寝室へ向かった。シロクマが寝たきり患者に抱きついて嬉し泣きしていた。見たことのない光景がたくさん見られていい気分だ。
「信じてたよ、信じてたけど!キャプテンどんどん悪くなっていくんだもん…」
「喋れるようならシロクマに礼を言っておけ。君をずっと看病していた」
「あ、キャプテンこの人は敵じゃないよ。キャプテンを助けてくれて、ここ、この家…家?に泊めてくれてるの…名前なんだっけ」
抱き起されなければ起きあがれもしないくせに眼光で威圧しようとしていたトラファルガーは、シロクマのことばに少し警戒を緩めた。生き延びるかどうか知らないが、安静にしておくにこしたことはないのだ。
「食事は摂れるか」
否、という意思表示を僅かに見せた。ベポ以外の人間とも会話した!とはいえものを食えぬのは困る。ずっと昔にドラム王国に帰ったお美しい先生に教わった点滴などという高等な設備はないので、しばらくはこの血を与えるしかないだろう。ベポには見せたくないものだ。 - 29名無しの生き残り23/10/12(木) 18:27:24
トラファルガーの傷口の治癒の観察は面白い。何せ自分では怪我をしないので。
蓋し私は失血死することもあるまいが、毎夜毎夜トラファルガーの就寝中に血を垂らしてやっているので、意識して多めに肉を食うよう心がける。運よく死滅回遊魚のエレファントホンマグロを捕まえた。ベポに脂肉のステーキでもしてやろう。私は赤身と髄を多めに摂った方がいい。どうせ何が欠乏したとて私は死なんのだろうが、トラファルガーに投与する血が濃くなる気がする。 - 30二次元好きの匿名さん23/10/12(木) 18:32:43
>ずっと昔にドラム王国に帰ったお美しい先生
若さの秘訣かい!?!?
- 31名無しの生き残り23/10/12(木) 18:42:15
喋れる程度に回復してきたトラファルガーは、まず誠実な感謝のことばを述べた上で、私は何者なのかと尋ねてきた。
ベポから聞いていたが、確かにハートは医療船団で、その長たるトラファルガーは名医なのだろう。死にかけながら自分の負傷を診断し、身動き取れない自分には手の施しようもない致命傷だと理解してしまったくらいには。目に付く限りまともな医療設備もないこの部屋でどうして自分が生還できたのか、納得できないらしい。
「骨が刺さった内臓も、大量失血も栄養失調も、到底素人の手に負えるものじゃなかったはずだ。お前は何者だ」
そんなことよりトラファルガーの掠れて不気味な声が面白かったのでもっと長く喋ってほしいのだが、質問されるという滅多にできない体験ができたし隠したところで意味もない。正直に答えた。
「万能薬だ」
ついでに言えば素人でもない。活用の機がほぼないとはいえ、王家至宝『万能薬』の役目はもう800年ほど務めている。 - 32名無しのナレーション23/10/12(木) 20:29:21
(サーバーがダウンしてびっくりしました。このスレッドってこのまま続けても大丈夫なんでしょうか)
- 33二次元好きの匿名さん23/10/12(木) 20:32:52
保守時に落ちてるとそのまま落ちちゃうから、無理のないペースで、かつ落ちるギリギリにはならないように投下していけばいいと思う
続きをとても楽しみにしてる - 34二次元好きの匿名さん23/10/12(木) 20:37:17
とても楽しみにしてる…
- 35名無しのナレーション23/10/12(木) 20:46:05
(ありがとうございます!自分以外の人の書き込みがあるのって、こんなに嬉しいんですね!)
- 36名無しの生き残り23/10/12(木) 21:21:52
トラファルガーは少し抜けているのかもしれない。
私が万能薬だと言う大して面白くもない事実を伝えただけなのに、どういうことだとか、具体的にどう治療したのかだとか、知り合いに万能薬になりたがっている奴がいるんだがなれるものなのかだとか、800年とは文字通りの意味で言っているのかなど矢継ぎ早に質問してきて、咳込んで血を吐いて気絶した。こちとらエレファントホンマグロのあまり美味ではないところまで食べてお前の治療に心血を注いでいるのだから、もう少し真面目に養生してほしい。 - 37名無しの生き残り23/10/12(木) 21:25:17
朗報。
ローはゆでた挽き肉を食えるようになった。ビタミン類の欠乏を懸念。ベポに森で人間にも食べられる植物を集めてもらった。可能な限り葉や根だけに限定する。あいつ口が利けるようになったらオニギリを所望してきた。コメなんかこの島にあるわけないだろう。
ベポだけでなくローとも会話ができるようになった。聡明だし、目つきの険しさに比してどこか人の好い、育ちの上品な気配もある。でも何を言っているのかよくわからない。特に仲間としてクマとシャチとペンギンとイッカクを挙げるあたり、少し気の毒な人なのかもしれない。 - 38名無しの生き残り23/10/12(木) 21:26:45
ローは起き上がり、歩く練習を始めた。客間には近寄らないことと、浜辺の焚き火や島内の超常現象の類に気をつけることだけ伝えた。成人なのに幼子のように一生懸命歩く練習をするので、ずっと見ていても飽きない。私が治療に借りた刀は従順に杖となり、シロクマの支えも借りて一歩一歩苦行のように歩く。
…歩くと言えば、あの子は今どこでどうしているだろう。まだ罪を背負って歩き続けているのだろうか。
刺激の多い日々ももうすぐまた終わってしまうかもしれない。てっきり墓作りで終わるものとばかり思っていたし、まぁ、生きて出て行くならそれはそれでいいのだ。船のない島とはいえ、彼らは泳いで来たのだから泳いで出ていくことだってできる。去ってしまうのならそれはそういうさだめだっただけのこと。ニュース・クーを覇気で撃ち落として新聞を奪いながら再会を夢見るのが生きがいの日々に戻るだけ。 - 39名無しの生き残り23/10/12(木) 21:27:28
少し動けるようになっただけで加速度的に治癒が早まっていくな、と気づきはしたが。
トラファルガーは自分で自分の体を掻っ捌いて治療をしているらしい。
…。
まさかとは思うが。
『万能を癒す力』の継承者か?…そんな都合のいい巡りあわせがあるだろうか。
兄上。そこにいるのはあなたか?
どこかそのあたりでキャパシティを超えて気絶したらしく、ベポに泣きながら起こされた。今日の興奮には少し郷愁が入り混じっていたので、目覚めた時にそこにいた白くてふわふわの巨大な毛玉で顔を拭きながらしばらく泣いた。 - 40二次元好きの匿名さん23/10/12(木) 21:33:44
>ニュース・クーを覇気で撃ち落として
まぁまぁ畜生なことやってるの笑うわコイツ
こんな生活やってりゃベリーもないだろうから当然っちゃ当然だが
- 41二次元好きの匿名さん23/10/12(木) 21:40:53
罪を背負って歩き続けるってそれ…🐘…
- 42名無しの生き残り23/10/12(木) 21:50:55
お礼がしたいとローに言われた。海賊だというのに存外義理堅い奴だ。兄上に似ているような気もしてきたことだし、これではどんどん気に入ってしまう。去る者のくせに。
曰く、刺激に飢えているようだし孤島の廃城の一人暮らしは不便だろう。
どこかの島まで脱出するまでだけでも手伝わせてくれないか。海は確かに危険だが、人のいる島まで送り届けてやれる程度には腕に覚えもあるという。
「キャプテン、この人、素潜りで捕った海王類を焼いて塩で食べるタイプだから、たぶん安全面の心配はしてないよ」
ベポの言うとおりだ。
好き好んでこの凪の海の真ん中に暮らしているわけではない。
「気持ちはありがたいが私はここで待たねばならない」
「待つ?何を」
「…王子が象に乗ってやってくるのを」
あるいは『探す、さまよう』の意味を持つ忌み名を隠し持つ者がついにこの地を訪れ、置き去りの万能薬、そしてレガリアを見つけて、決戦の旅路に導くのを。 - 43名無しの生き残り23/10/12(木) 21:51:34
ローは怪訝を通り越して困惑したような顔をした。ベポがつぶらな瞳をキラキラさせて「白馬の王子様に憧れるタイプだなんて意外だよ!キャプテン、今度キャベンディッシュでも連れてきてあげようよ?」と言う。かわいい。
「白馬の王子様は人違いだ。…象を見つけきれなかったとしても船で来るし、それなら一緒に象を探す」
「象好きなの?」
「…なぁ、…」
ローは首をひねり、言葉を慎重に選んでいるらしい沈黙を挟みつつ問うてきた。
「お前の話をすべて聞けたわけではないから本当にわからないんだが…、お前は本当に何者で、何を待っているんだ?」 - 44名無しの生き残り23/10/12(木) 22:05:04
それは800年前。
私は一国の王子であった。なお、数百人いる兄姉の末の王子である。
一国といったがそもそもこの星には一国しかなかったようなものだ。万民は一人の王のもとに繁栄を極めていた。
王統は神と崇められて敬愛を集めていた。
人間の可能性の開拓、超常の力。例えば自らの体を燃え尽きぬ炎に変え、あるいは全ての穢れを流し落とし、または荒れ地を緑の野に変え、または怪力を得て無双の戦士となる。
王が「かくのごとき力、人にあれかし」と望み「人に能はぬことにあるまじ」と信じることでその力はこの世に顕現した。その能力を己が人間の肉体に封じ、継承し、民のために行使するのが王家の役目である。
そして王家が保持するそれらの能力および能力を保持する身体そのものを指して『王家至宝(ドーン)』と呼んだ。
当然年長の兄姉が負う至宝ほど重大なものとなる。
健康な中では最も早く生まれた三つ子の兄姉が担った至宝は「鏡」「玉」「剣」。全球を統治する王の王権を証すこれらの至宝は特別に「レガリア」と呼ばれた。
鏡。それは王の魂、太陽の光そのもの。自由と公正のもとに万物を照らす力。
玉。それは王の心臓、生命そのもの。無差別の慈愛によって万物を癒す力。
剣。それは王の剣腕、秩序そのもの。一切の武装を奪い万物を支配する力。
これらに比べれば、母上が末の幼子の私に託したのは随分と肩の荷の軽い至宝だったと言えよう。「民をいかなる傷病からも救う力」だった。私の血肉は心身傷付き病む人間の生命力を奮い立たせ快癒を早める。とはいえ幼い私の血を求めるほど追い詰められた民も早々いない、満ち足りて平和な王国だった。地上には豊かな繁栄があった。 - 45名無しの生き残り23/10/12(木) 22:06:10
…月が我々を襲い来た。
月には別の文明、見知らぬ国々があった。
しかしレガリアをはじめとする王家至宝の力があれば、月の軍勢を退け青い星を守るになんら不足はなかった。
裏切りさえなければ、だ。 - 46二次元好きの匿名さん23/10/12(木) 22:33:12
浜辺の焚火が気になる
超常現象なのか灯台みたいなものなのか - 47名無しの生き残り23/10/12(木) 22:56:21
民を守らねばならなかった。しかし、侵略者に屈して降伏するなどあってはならない。
私たちは、砦(ポーネ)を作った。
それは…城塞とは少し違う。
もはや地上にいても虐殺されるさだめの我が民の魂を乗せて久遠の時を超える箱舟であり、なおかつ機を待ち立て籠もる翼と炎の兵士の砦。その内に在る無数の人間の魂が放つ覇気を纏って何物にも脅かされぬ鉄壁の強度を持つ石碑のごときもの。
民を永遠の砦に匿い、王家は生存を最優先し逃亡、青い星の各地へ身を顰め力を高めてからまた集い、王国再興の狼煙をあげる誓いをした。 - 48名無しの生き残り23/10/12(木) 23:17:25
計画通りであれば3D2Y…30と2年後に私たちはまた巡り合うはずだった。
番狂わせは私の身に起きた。
闇を持つ兄上は私を奇襲した。予言の兄上が言うには…闇は
万能薬の力は民のためにあり、瀕死の重傷を負った私自身には何の救済にもならない。
私は死ぬはずであった。
私たちの善き友、巨象ズニーシャの哀願もあり、レガリアの身でありながら末の弟を見捨てられなかった「玉」の兄上が、私に不老手術を施してしまうことさえなかったならば。
悩んでいる暇があったら命を救ってから考えるべきなのだ、私にそう教え続けた兄上は、自らの命を投げうって教えを実践してしまった。 - 49名無しの生き残り23/10/12(木) 23:29:47
私を不死にして「玉」の兄上は身罷られた。「玉」の兄上の『万物を癒す力』は失われた。この世のどこかへ散逸し、兄上の無私の愛を象る木の実に姿を変えて再臨するとしかわからない。
王権を証すレガリア「玉」の称号は私が受け継ぐこととなったが、レガリアの力そのものはこの世のどこにあるかわからない。私が兄上の残した『万物を癒す力』の実を食べるか、実を食べて継承者となった者に「玉」の称号を与えるかして、いずれかが真のレガリアにならねば、全球を統治する王の三種の神器が揃わない。
反旗32年計画は頓挫した。ズニーシャは自らの懇願を罪として負い、『万物を癒す力』の実、もしくはその継承者を探し求め、砦を一つ背負ってあてどない旅に出た。到底、一世代の寿命の内に王家の者と『万物を癒す力』が再会することは叶うまい。不老不死となった私…『万能薬』以外皆、何度も生まれ変わり、次の世代の人間の肉体に顕現して潜伏し、レガリアの再会を待つしかなくなった。
我が民の中より王家の再会を助ける誓いをした戦士が立ちあがった。砦(ポーネ)の外の、月の支配下のこの世界で「D」を名乗る。幾世代を越えても、Descendant、子々孫々に語り継いでいつか必ず王家至宝を一所に、ひとつなぎに集め、この屈辱的停戦の膠着を破る。真の自由と繁栄と青き星に奪還し、砦の内の民の魂を解放する戦士がきっと現れる。 - 50名無しの生き残り23/10/12(木) 23:31:56
皆に先立たれて無限の時を待つことになる私を哀れんで、兄姉たちは私の島に様々な贈り物を残してくれた。「鏡」の兄上のおかげでこの島は決して、太陽の当たらぬ海底に沈むことはない。「剣」の姉上は島の磁気を操って、他の島から磁力探知によってこの島にたどりつけぬようにしてくれた。静穏の兄上は私が嵐を恐れなくていいようにと辺り一帯の海に永遠の凪をもたらした。成熟の姉上は不老のままに一人残される末の幼子が生きていくのに支障のない年頃にまで体を育て上げてくれた。予言の兄上は闇はいつもまず万能薬を狙うだろうと警告をくれた。炎の兄上は私が暗がりや寒さに怯えぬようにと不滅の炎を浜辺に残してくれた。海王類をバーベキューできる火力はまことにありがたい。そしてこの日はいつか水平線の彼方からDがやってくる約束の日には、灯台の光となるはずだ。
- 51名無しの生き残り23/10/12(木) 23:32:44
800年の時が過ぎ、もうDの戦士たちも、王家至宝たちも記憶を失くしているだろう。
それでもいつかきっとDは嵐を呼ぶ。私は信じて待つ。兄上に救われたこの命の限りに信じ、望み、奇跡が運命を捻じ曲げ連れてくる日を待つ。
この凪の海の向こうから、「探し、放浪する(ワーテル)」をその名に秘めたDが、レガリアを統合し全球奪還決戦の旅へと持ち出す約束の日を。 - 52名無しの生き残り23/10/12(木) 23:35:41
ローはしばらく無言だった。顔色が悪くなり始めたので仕方なく私が手首を切ろうとしたら慌てて我に返り、「言いたいことが山ほどあるが」と呟いた。「本人がそういうのだからそうなのだろう…」
「まず聞きたいんだが。…ワーテルというのは、…800年前の言葉なのか?」
「あぁそうだ。なんだ、私の祖国の動詞に興味があるのか?教えてやろう、ワーテルは『探し、彷徨う』ネフェルは『防ぎ、守り抜く』、ゴールは『駆り立て、号砲する』、マーシャルは『奪い、飲み込む』、ラフテルは…」
「待て、待て待て待て頼むから待て。…それもあとで全部聞く!」
「ちなみにシルトンドルはな、」
「それも今はいい!」
ローはどんどん青ざめて、ベッドに崩れ落ちた。ベポが慌てて走り寄る。「キャプテン、キャプテンしっかり!気分悪いの?」ローはベッドに横になって頭を抱えて呻いていたかと思うと、突然笑い出した。心配なのでやはり手首を切ろうかと思ったら、「なぁ」と笑いながら言う。「念のために聞いておきたい…鏡と玉と剣はどれが格下なんだ」 - 53二次元好きの匿名さん23/10/12(木) 23:39:21
ワーテル!!?
- 54二次元好きの匿名さん23/10/12(木) 23:44:44
上手いこと要素拾ってファンタジー戦記風の過去編に仕上げてるとこ好きだな~
- 55二次元好きの匿名さん23/10/12(木) 23:49:49
なんでそんなこと聞くの? と思ったけど三船長か
いや張り合うなや!!! - 56名無しの生き残り23/10/12(木) 23:55:52
「キャプテン何聞いてんの?!」
「兄上姉上に格の上下があるものか、この素っ頓狂が」
「ならいい。…ならいい」
何がそんなにおかしかったか知らないが、ローはそりゃぁもう、頭を開けて脳に直に血を入れてあげるべきか悩むほど笑い転げた。ロジャー、お前も爆笑したな。 - 57名無しの生き残り23/10/13(金) 00:34:52
「大丈夫?血肉食う?」
「要らねぇ。…確信した。半分はお前への恩義、もう半分は数奇な宿命の答えとして、やはり俺はお前をこの島から連れ出す義務があるらしい」
「話を聞いていたのか?」
「聞いたうえで、…次はお前が俺の話を聞け。話すと長いが道中いくらでも話せる。旅支度しろ。レガリアとしてのお前を会わせたいバカがあと2人、万能薬としてのお前を会わせたい知り合いが1人、俺の恩人としてのお前を会わせたい部下が19人、歴史を語り継ぐ義務のある女が1人、…今日がお前の船出の日だ。王家至宝を名乗るなら大人しく持ち出されろ、海賊は宝を奪うもんだ」
「ベポ、お前のキャプテンが話を聞かん」
「大丈夫、知恵熱出しても鼻血出しても、今度はキャプテンが治療してくれるよ。よく知恵熱出すなぁと思ったら、ほんとは子どもなんだね?俺二人くらい簡単に背負って泳げる。というか海王類を追いかける速力で泳げるよね」
「大人しく腹をくくれ。…兄の言うことは聞くもんだろ」 - 58名無しの生き残り23/10/13(金) 01:16:44
医療船団などと申せど海賊である以上そもそも悪党、説明は後だの一点張りで私を島から持ち出そうとするのだからこの男も例に漏れぬのだろう。私の血肉を刻み売りさばく腹積もりだな?と推理を披露してやったら一発頭をスパンと叩かれた。痛い痛いと悶え転がっている間に浜辺まで運ばれてきてしまった。
「期待しろ、ここから先に退屈はねぇ」
「そりゃぁもうないだろうな」
「ベポ、進路は」
「定まったよ!黒ひげを回避するため勝者島とその次の島を迂回、麦わらの航路への突入には突発海流を利用できた場合で七晩泳ぐ距離!」
「末っ子を七晩も泳がせるな。ぐずって泣いたら厄介だ。海賊船を奪える海域を経由してくれ。できれば島を出た直後で物資が潤沢な船を狙いたい」
「アイアイキャプテン!」
「800年よく頑張った。あとは任せろ」
…待ち望んでいた、と言うのが本音だ。
だが今なのか?今なのだろうか?…私はまた天命を狂わす失敗に差し掛かっているのではないか?
兄上の灯した焚き火の浜辺、兄上の安らかな守りの凪の海。
その彼方に夜明けが来ている。
「信じろ」
俺の名はトラファルガー・D・ワーテル・ロー。
まずはお前の兄の『万物を癒す力』がどんな見た目のどのくらいクソまずい果物に宿っていたのかというところから話してやる。 - 59名無しの旅立った至宝23/10/13(金) 01:17:44
(完)
- 60二次元好きの匿名さん23/10/13(金) 01:58:53
完!?完なの!!
第二部があるんですよね!そう言って!!!
2人のバカや万能薬たちにあった時の話聞きたい!!! - 61二次元好きの匿名さん23/10/13(金) 02:13:43
めちゃくちゃ面白かった……すごい文才だ
ちゃんと短いスレ内にまとまっていたけれど内容がすごく濃い
最高 - 62二次元好きの匿名さん23/10/13(金) 02:14:04
最後の文章が格好いい
- 63二次元好きの匿名さん23/10/13(金) 06:31:25
なんか上手く言語化出来ないけど…壮大なファンタジーのはじまりっぽくていいな…
お気に入り保存した、ありがとうございました - 64二次元好きの匿名さん23/10/13(金) 06:57:31
すっごい面白かった!
「私」がこれからいっぱい楽しくなれますように
「私」って末っ子だからそこもロー特攻なんだね…
1、これを書いてくれてありがとう - 651です23/10/13(金) 07:23:07
- 66二次元好きの匿名さん23/10/13(金) 08:45:14
- 67二次元好きの匿名さん23/10/13(金) 09:37:05
- 68二次元好きの匿名さん23/10/13(金) 13:41:16
中盤でちょっとワンピらしからぬ話だな?と思ったけど
名字内の◯◯ルを全部動詞だったとするとことか
オペオペジキジキゴムゴムを玉剣鏡に当てはめるとことか
何故ティーチ(ヤミヤミ)がドラム王国を狙ったのかの理由づけとかでめっちゃ面白いな!と感心した - 69二次元好きの匿名さん23/10/13(金) 16:04:28
- 70二次元好きの匿名さん23/10/13(金) 17:46:04
あなたさまは前にもSS?書いたことがありますか?
- 711です23/10/13(金) 17:57:03
みんな優しくて好きになってしまう!!!
あのー、これ初めて自分で立てたスレッドなので、「安価で決める」をやってみたいです!
良かったら遊んでってください! - 721です23/10/13(金) 17:59:05
- 731です23/10/13(金) 21:07:47
(有識者教えて…自分YoutubeのONEPIECEまとめ系の動画からここのサイトにたどりつきまして、あんまりよそのスレッド詳しくないんです。パクリの意図は決してなかったのですが、このスレッドはどっかよそとネタがかぶってるんでしょうか?これこのまま凪の海脱出後の話を続けたらどこかに迷惑かけてしまう感じですか…?)
- 74二次元好きの匿名さん23/10/13(金) 21:13:03
ここの住人はよっぽどじゃ無ければネタ被りなんて気にしない海のクズ共だから無問題
自分のペースでSS書いてみるよろし - 75二次元好きの匿名さん23/10/13(金) 21:15:39
「初めて書いたの?」はだいたい「えっ上手いじゃん」だと思うといいよ
- 761です23/10/13(金) 21:20:34
ほめてくれてたのだとしたら照れてしまう…!
あの、作法がなってないとかどこかにご迷惑をおかけするような内容になってたりしたら、皆さん遠慮なくどうか教えてくださいね。 - 77二次元好きの匿名さん23/10/13(金) 21:35:18
じゃあ見とくといいかもしれないスレ張っとくわ
最近の新規の為の情報スレ|あにまん掲示板最近あまりに新規が的はずれな言動、スレ立てetcが多いので細かく、ROMれの意味を解説したり、閲覧注意の範囲の説明書いた方がいいんじゃ……と思って建てた、荒らしの対処とか語録とかも含めてレスして言って…bbs.animanch.comワンピカテは新参って人他にもいる?|あにまん掲示板時々ROMれとかああするなとか新参に向けたスレが立つこととかあるじゃん?何でそういうのがあるか理由が気になって実際に過去スレ漁りまくったから分かったことを共有したい出来るだけ同じ新参の人とたくさん共有…bbs.animanch.comこのスレ内だけでもコテハン付けとくと荒らし防止になるかも
- 781です23/10/13(金) 21:44:29
めっちゃ助かります。感謝です。
ええと、そしたらスレ主のこのスレ内での固定ハンドルネーム、安価でお願いします!>>80
その間に最愛の兄上が自分を救命して死んじゃったことを知った末っ子でも描いてます!
- 791です23/10/13(金) 22:16:23
- 80名無しのナレーション23/10/13(金) 23:39:26
安価失敗したけど続きを書きたいので、なかったことにしてそのまま書きます!
ちょっとダイスを振る練習をします。
dice1d6=
dice2d6=3 2 (5)
- 81二次元好きの匿名さん23/10/14(土) 00:32:58
書き込み欄の上の水色のとこも読んでみるといいよ
あとは固定ハンドルネームより1とトリップがいいかもしれない - 821◆S2.s7bZ6MUQQ23/10/14(土) 01:18:25
ベポはやりとげた。乾いた板の上に寝ころべる喜びを嚙みしめる。
本当に…本当に大変だった。水濡れ厳禁のキャプテンを背負って乗せ、好奇心の爆発で挙動不審を繰り返す泳ぎの上手いお子様(800歳超)を連れて泳ぎ続けること三日、キャプテンの命じた「海賊船を強奪できそうな海域」に到着した。
「いい?!キャプテンが船を奪うまで大人しくしてるんだよ?!」
「わかった。海底見てくる」
「俺としりとりしとこうね!!!」
海面で立ち泳ぎをするだけなら問題ない。キャプテンが合図をするまでいくらでも波に揺られて待っていよう。
しかし突然あらゆるものに気を取られて「ベポ、ニュース・クーだ!落とそう!」などと騒ぎ出し、「ねぇ、今世界に人間は何人くらい残ってる?」と突拍子もない質問をするお子様をがっちり抱きかかえ、しかもキャプテンに「戦闘を絶対に見せるな」と厳命された縛り付きで3時間…ともなると話は別だ。 - 831◆S2.s7bZ6MUQQ23/10/14(土) 01:18:51
最初に襲った船を誤って沈めてしまい標的を変更したキャプテンが、航行可能な状態で満足いくだけの物資を積んだ船を奪ったらしい。シャンブルズで波間から甲板に飛ばされたその瞬間、この赤の他人から分捕った船はどんな豪華客船よりも素晴らしいものに思えた。乗船体験に興奮したお子様が駆けだす足音が板から直にベポの体に響いてきたが、恵まれた足場を手に入れた喜びにしばし浸った。
「ゼェ…キャプテン、傷開いたりしてない?」
「問題ない。気の毒だがあいつの血は本物の万能薬だ。…おい!マストに登るな降りろ!ROOM!シャンブルズ!」
「…隠しとおしてあげないとね。この船の乗組員は?」
「七時の方向の小舟だ」
「ちゃんとパーツ全部くっつけてから流した?」
「急いだから本人のものかどうか確認していないがひとまず全員五体満足にはしてある。怪我人を出したと悟られたら、あいつが泳いで追いかけて治療しに行く可能性が…だから、おいはしゃぐなまた鼻血出すだろお前!!」
甲板にあった樽の中身に興味津々のお子様を取り押さえるためにキャプテンは走っていった。「開けるな転がすな割ろうとするな何が入ってるかわからねぇものに一人で触るな!」
あっちはキャプテンに任せよう。なんだかドタバタ騒がしいしキャプテンの怒声も聞こえるが子どもの声は笑っているし。
好き勝手されたら困るのに(本当に困るのに)、バラバラにして大人しくさせないあたりキャプテンもあの子に対して抱く思いがあるのだろう。 - 84二次元好きの匿名さん23/10/14(土) 06:28:53
- 85二次元好きの匿名さん23/10/14(土) 12:37:01
- 86二次元好きの匿名さん23/10/14(土) 14:26:16
- 87二次元好きの匿名さん23/10/14(土) 14:30:25
- 88二次元好きの匿名さん23/10/14(土) 14:30:39
- 89二次元好きの匿名さん23/10/14(土) 14:45:04
- 90二次元好きの匿名さん23/10/14(土) 15:10:40
嬉しいです!
過去の作品はないのですが、このスレッドのあとに別のスレッドとして「問5.任意の悪魔の実について、「お湯を沸かしてタービンを回す」のに使う方法を考案せよ。」を立てました!もしよかったらそちらもどうぞ!
- 911◆S2.s7bZ6MUQQ23/10/14(土) 15:13:59
ベポは甲板に寝ころんだまま空を見上げた。
激動…本当に、激動。ワノ国を出て間もなく黒ひげとの戦闘、船を失い仲間とはぐれ瀕死の船長を抱え、必死でログポース頼りの船には追跡できない方角へと逃げた。陸地がある保証なんてなかったが、ほんのひととき身を引きずり上げて休める岩礁でもあればと願ってひたすら泳いだ。その島で宝を…おそらくはあらゆる海賊が欲し、しかしキャプテン以上にそれを獲得するに値する海賊はいないだろう宝を…見つけた。ここまでで充分に激動の日々なのに、この後にはこれらすら平穏に見えてくるほどの嵐の到来が確約されている。
…とんでもない男のクルーになったらしい、と思う。まぁ、どうあれキャプテンについていくのは変わらない。何よりただ、キャプテンが好きだ。そして、始まった物語ならばその結末をこの目で見たい。
不意に静かになった。ごろりと寝返りしてキャプテン達のいる方向を見ると、立て続けに刺激を味わって許容限界を超えたお子様がショートしてぽてんと倒れたところだった。キャプテンが安堵だが困憊だかの息を吐いてお子様を抱き上げる。
あの子を子どもに戻した判断は、合理的だったと言えるのだろうか。
「海王類を食い殺せる亜神でも、ガキに戻ればいくらか人間の手に負えるだろ」とおざなりに言ったキャプテンは、心底そう思っていたとするのなら、おそらくそもそも子どもが手に負えない生き物だという事実を失念していたかもしれない。 - 921◆S2.s7bZ6MUQQ23/10/14(土) 15:18:30
大人の姿の『万能薬』は、確かに退屈を拗らせてかなり挙動不審だったが、それでも大人の器に見合うだけの思慮深さや落ち着きがあった。幼子に戻された『万能薬』は時間が経つにつれ言動が肉体年齢相応に近づいていき、今や「800年退屈と孤独を味わった経験を背負っている」というまずありえない条件の付いた「好奇心真っ盛りで身体能力がずば抜けている幼子」である。この世で最も手に負えん、些細な刺激で極度に興奮するお子様を爆誕させてしまった。
「早くも想定外だ」
気絶するがごとくお昼寝に落ちた『万能薬』を抱え、その背中をぽん、ぽんと叩きながらキャプテンが歩いてくる。「麦わら屋の二十倍希釈くらいはある…」かつての同盟相手を劇物扱いしながら船室の壁にもたれてずるずる座り込んだ。
「その子なんて呼ぶ?」
「人前で『万能薬』なんて叫べねぇからな。…万能屋…くん…?」
「ぼう屋の方がマシまであるよ」
二人でそのまま、ぼうっと放心した。どうせこの後加速度的に激しさを増していく嵐のど真ん中に突っ込んでいくことになる。今は少しだけ、少しだけ波と風の平和を享受していたかった。 - 93二次元好きの匿名さん23/10/14(土) 15:38:44
覚醒ジュクジュクは熟したり戻したりが自由に出来るのか…
それともボニーの能力の方かな - 94二次元好きの匿名さん23/10/14(土) 16:59:42
- 95二次元好きの匿名さん23/10/14(土) 17:00:58
- 96二次元好きの匿名さん23/10/14(土) 19:27:04
お子様に振り回されてるローとベポいい……頑張れ……
- 97二次元好きの匿名さん23/10/15(日) 01:14:48
このSSの設定に沿うなら、さながらイム様は天から降りてきたかぐや姫というわけか?
- 98二次元好きの匿名さん23/10/15(日) 13:09:43
保守
- 99二次元好きの匿名さん23/10/15(日) 20:15:38
麦わら屋濃すぎで笑うわ
タービンの方も好きです。返信大変だと思うけどがんばって - 1001です◆S2.s7bZ6MUQQ23/10/15(日) 21:19:10
「それで、この船はどこへ向かうのだ」
鼻にティッシュを詰めた『万能薬』は尊大な態度でそう問うた。樽に座らせてもらってご機嫌そうだ。
「まずは海ではぐれた君たちの仲間の回収か?」
「そうしたいところだがどこにいるかがわからねぇ」
「そうだな、それに、回収となると網を調達せねばなるまい。買い物!買い物をすることになるな?!」
「待て。お前どうして俺の仲間を回収する運びでその発想になる」
「回収するのだろう?」
「回収はするけどよ」
「?」
ベポは思案した。実際…考えたくはないが、そもそも仲間の安否がわからない。そう簡単には死なないと信じているが、…グランドラインは弱者に施す慈悲を持たない。自分とキャプテンが今生きていることさえ、残り少ない選択肢から奇跡にも等しい幸運を引き当ててのことなのだ。 - 1011です◆S2.s7bZ6MUQQ23/10/15(日) 21:19:39
「まずはみんなにキャプテンが生きているって知らせて…どこにいつ集合するか、連絡できるといいんだけど」
「解散からの集合か…麦わら屋がやってたな」
「ムギワラーヤか、話には聞いているぞ」
「お前もそのうち会う相手だ。楽しみにしとけ」
「ムギワラーヤに会いに行くのか?」
「それが手っ取り早いかもしれんな…」
麦わら屋はシャボンディで離散した後、メディアが注目せざるを得ないような事件を起こして仲間に再集合の合図を送った。自分とベポだけで同じようなことをやれないこともないが、現在たった二人でいると知らしめるのは黒ひげその他敵対勢力を誘き寄せるようなものだ。『万能薬』を抱えている以上危険な賭けはできない。
実に腹立たしいがまず麦わら屋のところに転がり込むのが安牌だ。さらに腹立たしいことにあいつらがそれを拒否するイメージが湧かないし、なんならその先の計画にまで簡単に乗ってくれそうなところがある。 - 1021です◆S2.s7bZ6MUQQ23/10/15(日) 21:20:10
「ムギワラーヤも海賊だそうだな」
「あぁ。懸賞金30億の四皇だ。言っとくが俺も懸賞金は30億だ」
「張り合わないでキャプテン。『万能薬』は、懸賞金って意味わかる?」
「わからぬ。30億が大きな数字だということはわかる。億は祖国で人口を数えるときに使った単位だ。ローが今継承している兄上の力の価値が30億ベリーと見なされているということか?」
「いや、俺の首に懸賞金をかけた奴らはその価値を知らないはずだ。今世界でお前の兄のことを知ってるのは俺たちだけだろう。要するに俺はとんでもない悪党だから、俺を倒した奴は世界政府から30億ベリーの賞金を頂戴できるということだ」
「困る」
「何がだ?」
「ローを倒されては困る。次に私が『玉』の兄上の能力に再会するのが何百年後になるかわからぬではないか。レガリアが揃わぬ」
「俺はそう簡単にはくたばらないから安心しろ。…もう敗けねぇよ、敗けられなくなった」
「それに、私はローがいい」 - 103二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 06:40:39
早めの保守
トラ男に懐いてるの可愛い - 104二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 14:57:56
保守
- 105二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 20:55:39
保守
- 1061◆S2.s7bZ6MUQQ23/10/16(月) 22:34:15
「?」
「『玉』の兄上の能力を継承する者、またはワーテルを名乗るDをもう一度待つのが面倒だと言うのもあるが…、今、兄上の能力を継承しているのがローで良かった。ローを見ていると兄上を思い出す。…兄上でないのはわかっているぞ?それにローが兄上の能力を継承しているからとて、我らの宿願を果たす戦いに巻き込まれる義務はないのだが…、でも、すまない、レガリアを負って島に来てくれたのがローで、生き延びてくれて、そして一緒に海に連れ出してくれたのが…、嬉しいのだ」
800年前に王子だった子どもは、指先をもぞもぞ合わせ、率直な好意と躊躇いを見せてはにかんだ。つられたようにベポはふふっと笑った。わかるよ、誰だってキャプテンのこと好きになっちゃうよね。
ローは少しの間沈黙していたが、帽子のつばを掴んでぐいと下げると「…ガキがあれこれ面倒なことを考えるな」と言った。「…お前の血が俺を生かしたんだ、俺とお前は実質血を分けたようなもんだろ」 - 1071◆S2.s7bZ6MUQQ23/10/16(月) 22:46:26
「必要となればこれからもいくらでも血肉を捧げてやる。…しかしあくまで君は私の話を聞いてしまう前と変わらず自由なのだぞ、ロー」
「ああ。俺は好きなようにやる」
ベポは水平線に雷雲を発見した。それをキャプテンに伝える。キャプテンはお子様に向かって両腕を広げた。お子様はお子様らしい笑顔で両腕を広げて迎え、樽の上から抱き上げられた。「船室に入るぞ、食糧を確認するから手伝え」「楽しみ!」大きなシロクマが大のお気に入りだったくせに、今ではすっかり人相の悪い外科医の抱っこをお気に召したと見える。これが一番『万能薬』を大人しくさせておく手段なので仕方ない。凪の海で長年暮らしていたお子様に嵐は刺激が強すぎる。暴風雨の中で甲板を走り回って大はしゃぎされては始末に負えない。
目配せを受け、ベポは頷いて帆を調整すべくマストによじ登り始めた。
キャプテンは船体を傷つけずに船を奪ってくれた。うまくやればあの嵐を捉えて船足を早められるだろう。 - 1081◆S2.s7bZ6MUQQ23/10/16(月) 23:10:01
- 1091◆S2.s7bZ6MUQQ23/10/16(月) 23:13:12
- 1101◆S2.s7bZ6MUQQ23/10/16(月) 23:16:53
2は「敵船に包囲される」です、すみません
- 111二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 23:49:39
船内が気になるから1で
- 112二次元好きの匿名さん23/10/17(火) 06:41:56
4
めちゃくちゃ設定が気になるぞ - 113二次元好きの匿名さん23/10/17(火) 11:39:01
4かな
- 114二次元好きの匿名さん23/10/17(火) 16:03:32
1かな
- 115二次元好きの匿名さん23/10/17(火) 17:16:28
- 116二次元好きの匿名さん23/10/17(火) 22:54:11
保守
- 117二次元好きの匿名さん23/10/18(水) 07:17:42
「船が揺れているな?」
「波があるからな」
「何かぶつかったような音がしたな?」
「嵐だからな。大人しくしてろ」
船室の中でもこの部屋は居住性の高い空間だ。船長室というよりは集会にでも使っていた部屋なのだろう。良い厚手の絨毯が敷かれており、床にそのまま座っていても居心地が良い。室内の調度も、全体的にどこの島の文化のものともわからぬがそこはかとなく贅沢な雰囲気だ。とはいえさすがに新世界の海を渡る船だけあって、波に揺さぶられて危うくなるような吊り照明や繊細な飾り物の類はない。だからお子様を座らせておくにも安全な部屋だと言えるだろう。
さてお子様は…『万能薬』は、落ち着きなくローの周囲を高速で匍匐前進している。この場にベポはいない。今は操舵室にいる。心配はない。見聞色で探知できている。心配はないが、それはつまり子守を一人で引き受けるということだ。 - 118二次元好きの匿名さん23/10/18(水) 07:18:06
「ベポが心配だな?」
「あのな。そりゃ嵐なんて800年ぶりかもしれないが、変な気起こすなよ。甲板ではしゃぎまわって海に落ちたら死ぬぞ」
「安心しろ、私は不老不死だ」
俺が死ぬんだよ。ローは腹の中でだけそう返した。ベポならいざ知らず、海に落ちた子どもを追って飛び込めば自分はただ溺れるだけなのだ。
…ここでローはひとつ訝しく思った。
『万能薬』の話では、悪魔の実は『王家至宝』に由来するように思われたが…、それなら『王家至宝』当事者のこいつはなぜ泳げるのだ。こいつは確かに悪魔の実の能力者だと説明された方が納得できる血液を持っている。しかし自分で泳いで海産物(海王類を含む)を獲って800年生活してきたのだ。
『万能薬』はそわそわしながら波風に打たれる船の呻きを聞いているし、絨毯の上とはいえ横波に船体が傾くとぽてんぽてんと転がる。大人しくさせるにも長話はいい手段のはずだ。
「おい」
「む?」
「お前、…いいか、泳げと言ってるわけじゃないから冷静に質問に答えろ、…何故泳げる?お前も要は俺と同じで悪魔の実の能力者なんだろう?お前は泳げる。お前の兄の能力を持った俺は海に入れば力が入らない。海楼石でも同じだ。お前と俺たち能力者では何が違うんだ?」 - 119二次元好きの匿名さん23/10/18(水) 07:19:45
「えっ」
『万能薬』はカサカサと向きを変えローを見上げた。「何の冗談だ?…すまない、ロー、多分面白いことを言っているのだろうがわからぬ」
「俺がスベったみたいに言うんじゃねぇ。…冗談でもなんでもない、わからないから聞いているんだ」
「何故って…ローは兄上の能力を継承しているが、兄上の身体ではないのだぞ」
「…それがどう関係してくるんだ?」
「どこから語れば良いだろう。そもそも『悪魔の実』と呼んでいるところから訂正すべきだろうか」
叩きつけた波に傾いた床をごろごろ転がりかけた『万能薬』を素早く右手で押さえ「そうしてくれ」と答えた。「何もわかってないと思って話してくれた方がいい」
「ロー。兄上の能力を悪魔の実と呼んでいるのは何故だ?」
「…何故も何も…いや、世間じゃそう呼んでいるんだ」
「誰がそう呼ばせた?」
「…。…誰なんだ…?」
「おそらくだが、ローに最初に悪魔の実という言葉を教えた者は別に悪意はない。800年の間にそういうものと認識されたのだろう。だが、その認識の起りは、誰こそが我が『王家至宝』の能力を悪魔の能力と呼びたがったか、に遡るだろう。我らは悪魔を自称したことはただの一度もない」
「…」 - 120二次元好きの匿名さん23/10/18(水) 16:27:05
まぁ自分らで悪魔なんて言わないわな
- 121二次元好きの匿名さん23/10/18(水) 19:41:31
確かに王家側から悪魔なんて言うはず無いわ…
目からウロコ - 122二次元好きの匿名さん23/10/18(水) 22:27:26
まあプロパガンダの産物よね…
- 1231◆S2.s7bZ6MUQQ23/10/18(水) 22:52:08
「ローよ。人の子、我が臣民の末裔よ。今この世にある常識のほとんどは現在世界を統べる者、800年前にこの星に侵攻した月の軍勢、その系譜を継ぐ者が作ったものと思って以降の話を聞いてほしい」
君はまだ見たことがあるまいが、この青き星の海と地と天をつなぐほどの巨樹がある。それこそが我らの母であり父であり全球を統べる王樹イグドラシル。私たちはその木に実り、生まれ落ちたのだ。
これより話す「生命の王国」は、この王樹が、青き星に芽吹く全ての生命に恩恵と秩序を与えてきた統治の営みのことと思え。
そもそもこの木は何であるかを語るには、この青き星を満たす生命の奇跡について話さねばならない。ローよ、この青き星になぜ生命体が生まれたか考えたことはあってか。この奇跡は、大気に、海に、土にパイロブラインが満ちていることによる。 - 1241◆S2.s7bZ6MUQQ23/10/18(水) 22:59:22
パイロブライン。物質の一種だ。私たちは『青き星の意志伝達物質』と呼んできた。
この青き星を構成する成分だ。
火山活動で何度も何度も吹き上げられ大気や土壌、特に海水中に拡散し満ちたこの物質こそ、原初の海の中で合成された有機物を生命体に変えたもの。生命はパイロブラインに満ちた海で生まれた。そしてパイロブラインは、生命の生存の意志に呼応し生命体に革命を引き起こす。進化、と呼ぶとわかりやすいか。星の海を満たすパイロブラインのスープの中で生命体は爆発的に進化して今に至る。巨大化し、多様化し、複雑化し、超越する。
王樹もかくして生まれた。この世の巨樹は皆、海に根を至らしめパイロブラインに恵まれしものと思ってよい。
王樹はパイロブラインを吸い上げ豊富に蓄え、やがて一個の生命体でありながら、青き星の意志の代行者、この星をより多くより多様な生命で満ち溢れさせんとする意志を遂行する主体として振舞うようになった。
これが全球の王樹イグドラシルだ。 - 1251◆S2.s7bZ6MUQQ23/10/18(水) 23:01:42
王樹は生命を繁栄せしめる力を蓄え、やがてその枝に『生命を革命する至宝』を実らせた。あらゆる生命進化の無限性の手本だと思えばいい。このときに大きく、環境を革命する力、己の形質を革命する力、他の種族の形質を借用する力の3つの方向性を示した。
『王家至宝』は、能力と、その能力を行使する主体としての魂、そしてそれらを容れる器としての肉体から成る生物だ。当然その能力を負うに足る肉体を授かって生まれる。それは私の兄姉も皆同じことだ。 - 1261◆S2.s7bZ6MUQQ23/10/18(水) 23:43:53
全部間違えました。パイロブ「ロ」インでした。すみません!!
- 127二次元好きの匿名さん23/10/18(水) 23:51:50
- 1281◆S2.s7bZ6MUQQ23/10/19(木) 00:06:32
ありがとう、ここの人優しくて好き!
- 1291◆S2.s7bZ6MUQQ23/10/19(木) 00:08:22
だが私たち以外の生物は皆、そう簡単に体を進化の最果てに追いつかせられるわけではない。何世代もかけてゆっくりと身体を作り変えて進化する。自然淘汰を繰り返しながら欲する能力を負えるだけの肉体を作り上げていくのだ。時間さえかければどのような進化も可能なのだよ、他の生き物に擬態することも、透明になることも、八つ裂きにされても死なない体になることも。生き物はなんにでもなれる。
青き星とその代行者たる王樹は、生命体の進化の段階に応じてパイロブロイン干渉を行い、血統因子の変化を促していく。
太古の昔、君たちの祖先は知性を欲する方向へ進化の道を歩み始めた。…君たちの祖先は知的生命体として進化し、やがて王樹と私たち『王家至宝』を神格化し、自らを私たちに支配され恵みを受けるものと位置付けて文明を築いた。
後から話すが、私たちにとっても君たちヒトという種と特別深く関わるのは有意義なことだった。故に私たちの多くは、形質を変化させ君たちヒトと似た姿を取った。見るがいいこの姿を。親しみやすい人間の姿をしているだろう?なに、翼?ヒトも翼くらい生やすだろうが。 - 1301◆S2.s7bZ6MUQQ23/10/19(木) 00:09:59
さて、「悪魔の実」だ。
進化とはパイロブロインの干渉を受けながら世代を重ねて種族の形質を変容させていく営みだが、これを一個体で一足飛びに超える方法が、君たちの言い方を借りるなら、「悪魔の実を食べる」ことだ。
この「実」だが…、そうだな。
『王家至宝』は進化の最果ての能力、それを行使する主体としての魂、それを容れる器からなる生物だ。器たる肉体には寿命もありうる。だが能力と魂は、また新たな器を生成して何度も生物として復活する。
私たち『王家至宝』が取る器の形のひとつが、「木の実」だ。これは私たちがある特定の生物個体に食われ、その生物の一世代限り、肉体を共有するための形態だ。
そもそも木の実というのは、植物が動物に栄養分をくれてやる代わりに遠くに運んでもらって自らの繁栄に貢献してもらう、取引の形だろう。私たちは、木の実を食う生き物に『王家至宝』としての能力を貸してやる代わりに、生物の進化の可能性、能力の活用の可能性を模索させるのだ。こと人間は、知恵の実を少しずつ与えてきた効果か、能力活用の模索に長けた生物であった。そのため私たちは人間と特に深い共生関係を結んできた。 - 1311◆S2.s7bZ6MUQQ23/10/19(木) 00:11:07
しかし、だ。
『王家至宝』の実を口にするのは生き物にとって諸刃の剣だ。
確かに『王家至宝』の実を食した生物は、一世代の内にパイロブロイン干渉を受けて血統因子を書き換えられ、不可逆的に種族の軛を打ち壊し、超越的能力を手に入れる。しかし、その生物の肉体は本来『王家至宝』の能力を背負い使いこなせるほど強靭なものではない。能力の全てを引き出せるわけでもなく、先取りしすぎた進化の代償に、『王家至宝』の能力はその生物の命と魂に負荷をかける。
言うなれば、生物としての可能性のために生命を危機にさらす行為。
青き星は慈悲なる父母だ。
超越的能力と安定的生存のギリギリの均衡を保っている生き物が、更にパイロブロインを浴びるとどうなるか。青き星はその生物に「休め」と命じる。本来のその生物の限界を遙かに超えた突然変異と成り果てている生物に対し、「元の生物の範疇に戻る」方向へ、一時的な脱力の休息を与える。 - 1321◆S2.s7bZ6MUQQ23/10/19(木) 00:12:26
パイロブロインの海はお前たち能力者を憎んでなどいない。
ただその逸脱し困憊している生命と魂を養生しようと抱擁するだけなのだ。
君たちのように水中で呼吸できない生物は脱力の結果として溺死するが、その生命と魂は『王家至宝』の能力から分離し、種族としてあるべき範疇に戻される。水中で呼吸できる生物が『王家至宝』を口にしたまま海に潜ったとて、動けはしないが死にはしない。
青き星は生み出した何物をも決して憎まぬ。海が本当に能力者を憎むなら、溺死を待たず触れただけで死に至らしめただろう。 - 1331◆S2.s7bZ6MUQQ23/10/19(木) 00:13:52
- 134二次元好きの匿名さん23/10/19(木) 10:42:19
一旦保守
- 135二次元好きの匿名さん23/10/19(木) 16:17:03
- 136二次元好きの匿名さん23/10/19(木) 19:13:44
- 137二次元好きの匿名さん23/10/19(木) 19:18:09
大丈夫、作者は一貫して無茶苦茶
- 138二次元好きの匿名さん23/10/20(金) 05:57:26
ほ
- 139二次元好きの匿名さん23/10/20(金) 17:33:38
保守
- 140二次元好きの匿名さん23/10/21(土) 05:15:08
続き楽しみ
- 141二次元好きの匿名さん23/10/21(土) 15:17:33
保守保守
- 142二次元好きの匿名さん23/10/21(土) 16:10:15
GIFがかわいい
- 143二次元好きの匿名さん23/10/22(日) 03:24:11
保守
- 1441◆S2.s7bZ6MUQQ23/10/22(日) 09:53:37
「というわけで私は海に落ちても別に死なん。君は『王家至宝』の能力に肉体と魂が追い付かない限りは海に強制的に休まされる。それだけだ」
「…俺は何か相当邪悪なものを食った気でいたんだが」
「私の兄上を食ろうて邪悪呼ばわりはやめてもらおうか」
「兄上を食ったって…まぁ…そうなんだろうけどよ…」
ローは頭を抱えたくなったが、船の揺れで『万能薬』が転がるのでそちらを押さえるのが優先だった。手が足りない。ニコ屋が少し羨ましい。
「別に君は悪魔の手先になったわけではない。言うなれば進化の加速実験に参加したに過ぎん。…それはそうと、船がだいぶ揺れているな?」
「そりゃまぁ…嵐だからな。慣れろ。グランドラインじゃ気候も海流も政治も安定しないのが当たり前だ」
「ちょっと外の様子を確認した方がいいな?」
「ダメだ」
「ローはお部屋にいていいぞ?」
「アホか」 - 1451◆S2.s7bZ6MUQQ23/10/22(日) 09:54:11
『万能薬』をひっつかんで引きずり寄せる。波は確かに荒くなり、船は上下に落ちては持ち上げられ右に左に傾いての有様だ。寝た方がいい。『万能薬』を捕まえたまま絨毯の上でごろんと横になる。「お前は大体、海賊に攫われたって自覚がねぇのか?はしゃいでんじゃねぇ。次に外出たいとか言ったらROOMで浮かすぞ。…?」
ローは自分の腹の上に寝かせた『万能薬』の様子を不審に思った。急に静かになった。ひとまず無言で『万能薬』の脈拍を数えた。溜息をついた。
「…お前、怖かったならそう言え」
「海賊は臆病者を嫌うだろうが」
「臆病な方が生き物としては賢いんだよ。…ほら、寝ちまえ」
恩人ならこうしたはずだ…とROOMを展開して室内に小さな凪を作ってやろうかと思ったが、それを察知したらしい『万能薬』が「このままで良い」と言った。
「言っただろう、『王家至宝』はそれを宿す生命体に負荷をかけると」
「多分この程度なら大した負荷じゃないが」
「節制しろ、無駄遣いは困る。少しでも長く生きてくれ。こちらは不老不死なんだ」
『万能薬』はローの腹の上で目を閉じた。ローの鼓動を聞いているのだろう。お前はその音に兄とやらを感じられるか。聞いてみたくはあったが、野暮な気がした。無言で『万能薬』の頭を撫で、嵐の海に身を任せた。騒音は、それはそれで静かな気がした。 - 146二次元好きの匿名さん23/10/22(日) 18:20:58
「覚醒」は王家至宝の能力にちょっとだけ肉体が追いついたみたいな感じなのかな
- 147二次元好きの匿名さん23/10/22(日) 23:56:45
まあ何百年も不老不死やってたら、せっかく会えた人に早死にされるの寂しいよね
- 148二次元好きの匿名さん23/10/23(月) 00:05:27
- 149二次元好きの匿名さん23/10/23(月) 10:51:53
一旦保守
- 1501◆S2.s7bZ6MUQQ23/10/23(月) 20:13:05
しばらくして、ベポが「無事に抜けたよー、潜水できない船の操縦なんて久しぶりだから大変だった!」と達成感に満ちた顔で部屋にやってきた。キャプテンからお褒めの言葉をもらおうと思ってきたのだが、当のキャプテンはお子様を腹に乗せたまま眠っていた。ベポは思わず破顔した。
「痛そうじゃない寝顔、安心するよ…キャプテン」
ベポは『万能薬』を抱き上げた。とりあえずベッドに寝かせてあげよう。船員用の寝室だったと思しき部屋に運んで毛布を掛けてやった。続いてキャプテンも回収し、船長私室だったであろう部屋のベッドに寝かせる。
「しばらくは航行も安泰だろうから、今のうちにご飯の支度でもしとこうかな」
ベポはフンフンと鼻歌を歌いながら厨房に向かった。この船の本来の持ち主たちを追い出すにあたりキャプテンはいくらか水と食料を持っていかせたようだが、たった三人で航行するには十分すぎるほどの備蓄がある。…早く、二十二人分の食材のやりくりに悩みたい。ベポは静かに船長室の扉を閉めて、キャプテンを一人で寝かせてあげることにした。
なおこのときの気遣いが原因で、三十分後にローが「『万能薬』がいねぇ!!」と血相を変えて寝起きの鈍った判断力で船室の壁を斬ることになる。 - 1511◆S2.s7bZ6MUQQ23/10/23(月) 20:14:17
- 152二次元好きの匿名さん23/10/23(月) 20:26:00
乙です
万能薬くんがいないとテンパるのもうお兄ちゃんじゃん、トラ男… - 153二次元好きの匿名さん23/10/23(月) 23:03:23
神SSだ……
というか動詞説明の所で何気にシルトンドルヤナイカちゃんの「シルトンドル」についても書いてるやん - 154二次元好きの匿名さん23/10/24(火) 09:57:12
万能薬くんもキャプテンもベポも仲良くてよきよき
- 155二次元好きの匿名さん23/10/24(火) 16:34:50
- 156二次元好きの匿名さん23/10/25(水) 00:29:12
- 1571◆S2.s7bZ6MUQQ23/10/25(水) 00:41:06
- 158二次元好きの匿名さん23/10/25(水) 10:13:22
あれのお方でしたか!
- 1591◆S2.s7bZ6MUQQ23/10/25(水) 14:20:28
あっちのスレッドに載せようと思ってイラスト作ってたけどよく見たらあっちのスレッド落ちてました。悲しいのでこっちに音貝屋の兄貴載せます。
- 1601◆S2.s7bZ6MUQQ23/10/25(水) 14:24:23
- 1611◆S2.s7bZ6MUQQ23/10/25(水) 14:57:37
- 1621◆S2.s7bZ6MUQQ23/10/25(水) 16:00:17
いわれのない難癖を買うのも面倒なので、マストの海賊旗はひとまず外してみた。狐狩りのモローニ、懸賞金8000万ベリー。船団で商船や島々を襲撃するごくごくありふれた海賊団で、本来ならば30億級海賊団船長と争うことなどまずなかったはずの不運な連中である。
「海図や日誌からして、ラフテルを目指す航路は取ってない。ずっとこのあたりの海域で活動してたみたいだ」
残された資料を検めつつベポが推測を述べる。「置いてってもらった三針ログポースでとりあえず近くの島には行ける。エターナルポースは別の方角を指してる…海図からするに、多分モローニ海賊団が拠点にしている島なんだろな」
「いつでも帰れるようにってか、周到なことだ」
信念も覚悟もなしに掲げられた海賊旗を奪っても何の後ろめたさも感じない。どうせまたこれといって重みも何もないマークをなんてことない布に描いて掲げて弱者を襲いに行くだろう。
厄介なのは覚悟が決まっている連中の方なのだ。
ローとベポは思案した。あまり長く悩んでいられない。今『万能薬』には缶詰の打音検査を命じてあるが、飽きたらまたニュース・クーを狙ってマストによじ登るかもしれない。リズミカルに金属缶を叩く音が聞こえている間に航路を決定しないといけない。
1 とにかく仲間の安否確認と回収(仲間生存数:未定)
2 ひとまず麦わらとの合流を目指す
3 なによりも黒ひげの回避、逃走
4 とりあえずニュース・クー
5 一応三針ログポース(一番針が安定)
6 一応三針ログポース(ちょっと針が揺れてる)
7 一応三針ログポース(針がギャンギャン揺れてる)
- 163二次元好きの匿名さん23/10/25(水) 19:15:09
モローニさんかわうそ…
1!
書くの大変かもだがせめてイッチの小説の中で合流してるの見たい - 164二次元好きの匿名さん23/10/25(水) 19:37:41
4
積極的にニュースクーを落として行こうぜ! - 165二次元好きの匿名さん23/10/25(水) 19:46:31
7かな
ギャンギャンいいのう - 1661◆S2.s7bZ6MUQQ23/10/25(水) 20:01:20
(なお、この先本編の展開でこのSSの内容とズレる展開があっても…例えば仮にペンギンが本編で戦死したと判明しても、このSSはダイスと安価の展開に従い、帳尻を合わせない方向性で行きます。ここはパラレルワールドです。)
- 167二次元好きの匿名さん23/10/25(水) 20:03:25
dice1d7=3 (3)
- 168二次元好きの匿名さん23/10/25(水) 20:32:54
針ギャンの島へ行く(危険)、黒ひげを回避する(安全策)、このキャプテンおもしれー男だ…
- 169二次元好きの匿名さん23/10/25(水) 22:26:09
4で
情報収集は必要でしょう - 170二次元好きの匿名さん23/10/25(水) 23:24:39
安価なら1で!ハートの皆と合流して安心させて欲しい~
- 171二次元好きの匿名さん23/10/26(木) 08:12:44
楽しみに待つぜwktk
- 172二次元好きの匿名さん23/10/26(木) 09:15:45
ポーラータング大破は史実のままなんだよね?
みんな生きてるのかな… - 173二次元好きの匿名さん23/10/26(木) 13:22:25
- 174二次元好きの匿名さん23/10/26(木) 20:36:44
どれだけクルーに関心があるかじゃないかな
悪魔の実食べてるのばっかって記載だったから海に潜ることは無いでしょ
浮かんでくるまでじっと待ってるかどうか
あと、島の下部に洞窟があったりなんだかんだで黒ひげの認識範囲外にいければ全員生存ありじゃね? - 175二次元好きの匿名さん23/10/26(木) 23:38:23
- 1761◆S2.s7bZ6MUQQ23/10/27(金) 00:02:42
全部取り込んだ航路にしますね~
- 1771◆S2.s7bZ6MUQQ23/10/27(金) 07:16:54
「どうする?麦わらに会いに行く?」
「現状あいつらと対等に海賊同盟を締結できるだけの旨味が俺にねぇ」
前回は「四皇を引きずり下ろす策」を手土産に同盟を結んだ。「次に会うときは敵だ」と宣言して別れた以上、利害の一致を持ちかけることなしに「元同盟のよしみ」で会いに行くのもなんだか癪だ。ケジメがない。
「あいつら手土産なくてもキャプテンのこと歓迎してくれそうだけど?」
「…やりかねないからこそ、こっちだけでも正気保たねぇと」
「ちょっと恋しくなってるじゃん」
「なってねぇ。…どのみち今すぐ麦わら屋を追うのは現実的じゃない。俺たちが『万能薬』の島にいた間に外界で何が起こったか全くつかめていない。麦わら屋やユースタス屋がどのくらい航路を進んで今どこで何をしているかもわからない。麦わら屋ならどこかでまた事件を起こしていてもおかしくないし」
「なるほどね。じゃぁどうする?」
「ひとまずはこの島に向かってくれ」
ローは三針ログポースのうち一つを指し示した。三つの中で最も激しく針が暴れている。
「キャプテン、念のために聞くけれど…」
ベポは少し思案気に言った。「針が激しく動いていることの意味はわかってる、よね?」
「大まかに」
ローは答えた。「針の揺れはその島の危険度を指す、と説明を受けた。何故そうなるのか、具体的にどういう状態なのかはさっぱりわからないが」
「磁気に異常を来すほどの『王家至宝』の使用があった、と見なしてよい」
部屋の入口から、会話に横入りする声があった。缶詰を持った『万能薬』が立っていた。「ロー、この缶だけ音がおかしいぞ」打音検査で見つけた不良品を提出しに来たらしい。
「ありがとう。ならそいつは別にしとこう。…『万能薬』、三針ログポースの針の揺れについて何か知っているのか?」 - 178二次元好きの匿名さん23/10/27(金) 16:36:57
- 1791◆S2.s7bZ6MUQQ23/10/27(金) 21:59:40
「理屈を知っているだけだ。私はあまり外の世界を知らぬゆえ」
『万能薬』はローに缶詰を手渡して、ローとベポがログポースや海図を並べているテーブルを覗きこもうと背伸びし、飛び跳ね、諦めてベポによじ登り始めた。抱き上げてやろうとしていたのを気付いてもらえなかったローは手をそっとひっこめた。「理屈だけでも助かるよ。俺たちは『危険度を表す』としか聞いてない。この針の揺れを参考に、情報を集めて次の島では何が起こっているか可能な限り推測して航路を選ぶのが航海士の仕事。実際、この針の揺れって何を指してるのさ?」ベポが『万能薬』の登攀を手伝ってやりながら尋ねた。
ベポの頭に登頂を果たした『万能薬』は文字通り頭上からテーブルを覗き込み、話題になってい三針ログポースを見て「ほう…これはまた随分と暴れているな。ごく最近何かあったな」と言った。
「そもそもだが、グランドラインのそれぞれの島が帯びている磁気というのは『剣』の姉上の能力の名残だ」
ローは、知りたい気持ちと絶妙に知りたくない気持ちとに一瞬板挟みになった。一応ここは大人になることにした。遮らず、『万能薬』の説明を待つ。
「姉上がなんとか人間に環星道を航行していく術を残してやろうと尽力なさった結果だ。これなしには到底人間には航海できないような海洋環境にされてしまったからな」
「気になるところはあるが続けてくれ」
「姉上の能力は秩序と支配、破壊と創造だ。姉上は島と島の位置関係を示す磁力線の秩序を想像なされた。島で『王家至宝』や覇気を過剰に使用すれば、島の磁気環境を支配する姉上の能力の効力に乱れが生じる。島を支配する能力の変動は、不安定になった磁気として三針ログポースに検知される…要は、その三針ログポースが真に検知しているのは、島の危険度と言うよりは『その島の環境を変化させるほどの能力使用があった』事実だ。その島に能力者が残した天災があったり、能力者が暴れた結果治安が悪化したりしている可能性がある。おそらく経験則的に『危険度が高いほどログポースの針が暴れる』ことが知られてきたのだろう。危険の全てを探知するわけではないから、姉上の能力の効力に影響を及ぼさない要素ならばどれだけ危険であってもログポースには表れぬぞ。ケスチアが大量発生しようが連続殺人鬼が出ようが関係ない」 - 180二次元好きの匿名さん23/10/27(金) 22:03:11
大暴れしてる能力者がいると針がブレるけど、そいつが居なくなれば針が収まるってことか〜
- 1811◆S2.s7bZ6MUQQ23/10/27(金) 22:19:09
「なるほど。『検知できる危険がある』というのが本来のところで、実際に『最も危険』かどうかはわからねぇってとこだな」
ローはベポの頭から『万能薬』を剥がしにかかった。ベポは「OK、それも踏まえた上で…キャプテン、依然針路はこの一番針が揺れている島でいいわけ?」と尋ねた。
「ああ。構わねぇ。そのまま進んでくれ」
「キャプテンはこの先の島について何か情報を持ってる?」
「いや、皆無だ」
「この島を選ぶ理由は?少なくとも何らかの問題があるのは確かな島だよ」
「推測だが、上陸する意義が特にないのに何らかの危険は確実にある島…なら、黒ひげが一番針路に選ばない島だと期待していいはずだ」
ローは『万能薬』を肩車して三針ログポースを引き寄せた。
「黒ひげが『オペオペ』をどの程度本気で奪いたがっているのかが読めないが…あいつの本来の目的はポーネグリフ、そしてその先の大秘宝だろう。偶然行き会うことがあれば俺を殺しにかかるだろうが、『オペオペ』捜索のためだけに旅路を遅らせるとは思えない。敗戦はしたが、あいつらは充分やってくれた。黒ひげも消耗してる。避けても損をしないリスクなら避けるはずだ」
ベポは頷いてキャプテンの見解を聞いていた。安心したのは、黒ひげを回避しようとするキャプテンの横顔にこれと言って暗い怯みがないことだ。敗戦はローに瀕死の重傷を負わせたが、精神は全く折られていない。ただ合理的に最適解を出そうとすれば、今は黒ひげを避けるに越したことはないというだけだ。
「私は海賊には詳しくないが」
ローの頭を鷲掴みして、肩車の『万能薬』が言った。「黒ひげとやらは必ずしも航路を進むのか?」 - 182二次元好きの匿名さん23/10/27(金) 23:28:19
黒ひげブッキングフラグに見えて怖い
- 183二次元好きの匿名さん23/10/28(土) 11:21:37
ほしゅ
- 184二次元好きの匿名さん23/10/28(土) 17:17:00
ルフィたちいない状態で黒ひげにあっては欲しくないな…………万能薬が1番危険だからね……
- 1851◆S2.s7bZ6MUQQ23/10/28(土) 19:38:34
「どういうこと?」
「黒ひげとやらがローを狙ったのはワノ国のポーネグリフの写しが目当てだったのだろう?そしてローの船は海底にある。なら、まずはその場に留まり海中のポーネグリフを捜索するのではないか?ワノ国に取りに行くよりは労が少なかろう」
「あぁ、確かに!」
「黒ひげの主要幹部は全員能力者だ。サルベージ作業はできねぇ。…船員や傘下には泳げるやつもいるだろうが泳げることと潜水作業ができることは別だ。…だが戦わずに取れるポーネグリフを素通りする性質でもねぇだろう。傘下にサルベージ技能を持ってるやつがいたら呼び出すだろうし、いないならいないでサルベージ業者の入る島に幹部を向かわせるくらいはするだろう」
「何を言う。黒ひげからしてみれば、もっと近くに惜しげなく使える潜水技能者がいるだろう」
頭上後方から聞こえる『万能薬』の声はお告げのように聞こえた。
君を背負って海を泳ぎ切ってきたベポから聞いたぞ。
君の仲間には潜水戦特化の技能者がいると。
ローは全身総毛立つのを感じた。心が揺らがぬよう今はなるべく考えないようにしていたクルーの安否。
黒ひげには、今、俺の部下を生かしておく理由がある。
それはある意味憤怒で、安堵で、懸念で、希望だった。急に全身を流れる血液がわずかに熱くなったように思えた。
海面に浮いてきた敵を捕縛して捕虜にし、手っ取り早く使役できる労働力としてサルベージ作業に当たらせる。ポーネグリフが手に入るなら儲け物、手に入らないならそれはそれでまぁ笑い話。やるかやらないかで言えば、多分やる。
「キャプテン」
ベポの声が上ずっている。わかっている。何を言いたいのか誰よりも俺がわかっている。だが今じゃない。「早まるなベポ。…この船であいつらを救助しに行っても勝算はない」モローニ海賊団・旗艦ジャスフォイルド号、潜水できないのは当然として艦砲戦に強い構造でもない。所詮は非武装市民と商船狙いの小者海賊の船である。
「うちはドライで合理主義だ、あいつらだって交渉のやり方くらい弁えてる。なんなら自分たちから言い出して当面の身の安全を確保するくらいの機転は利く。…俺らがやるべきことは拙速な合流じゃなくて備えを万全にしてから向かうことだ」 - 1861◆S2.s7bZ6MUQQ23/10/28(土) 22:02:12
ほとんど自分に言い聞かせるように言った。
「ペンギンとシャチが負傷していなければサルベージにあたる。そうなりゃ真っ先にポーネグリフの写しを確保して船から離れた海底にでも隠すだろう」
「多分最初にキャプテンのビブルカード取りに行くよ」
「…」
「というか潜っていいってなったらみんなまずビブルカード取りに行くよ」
「…」
「ビブルカードならとりあえずパンツとかに隠しとけばいいし」
『万能薬』は、「ドライ」というのは蓋し今様の若者言葉で「愛でいっぱい」のような意味なのだろうな…と推測し、ひとりローの頭の後ろで頷いた。なおドライな海賊団の船は今、肩車する『万能薬』の脚をきゅうっと握り、苦虫をかみつぶしたような、少し泣きそうな、怒りを抑えているような、縋れるものを見つけたような、そんな極めてごちゃついた表情をしている。
「ベポの読みが当たっているのなら、ローの仲間はローの生存を知ることができよう」
『万能薬』は言う。「君を愛する者にとっては何よりの朗報として虜囚生活の心の支えになるであろうな」
「…うるせぇ」 - 1871◆S2.s7bZ6MUQQ23/10/28(土) 22:02:28
「黒ひげの意図なんてわからないけど、ポーネグリフの写しはやっぱり大きいと思うんだ。…キャプテン、これに賭けよう。ポーラータングの沈んでる辺りで、今ハートのみんなは船漁りさせられてるにしてもきっとちゃんと生きてるしパンツにキャプテンのビブルカード入れてる」
「最後だけ訂正しろ」
「パンツにキャプテンのビブルカードを入れています!」
「張っ倒すぞてめぇ」
ベポは「すみません…」と三秒ほど意気消沈した後に「黒ひげは部隊を分けるかもね。航路を進める部隊と、ポーネグリフサルベージ部隊と、あと場合によってはキャプテン捜索部隊も。他にはどんな動きをするかな」と述べた。
黒ひげも今はあまり幹部を分散させる余裕はないだろう。重要度の低い、信頼の要らない任務なら傘下にさせておく手もある。大秘宝争奪戦に後れを取りたくなければビブルカードを持たせて航路を進む部隊は必須だ。ティーチ本人が進撃部隊の指揮を執って航路を先に進むのか、ポーネグリフのサルベージ部隊に残るかはわからないが…。
「ひとまずは島へ。一旦潜伏する」
ローは決定を告げた。
「あいつらの悪運と悪賢さを信じよう」
「アイアイキャプテン!」
「あいあいキャプテンっ!」
ジャスフォイルド号の帆は風を捉えて大きく膨らんだ。白波を切って船は海面を走り出す。三針ログポースの針を大きく揺らして誘う島はまだ水平線より先に遠い。
三人の誰も、その島に待ち受けるものを知らない。 - 188二次元好きの匿名さん23/10/28(土) 22:53:16
「ドライ=愛がいっぱい」は草
ハートクルー皆生きててくれ〜! - 189二次元好きの匿名さん23/10/29(日) 09:57:19
どっかのスレでめっちゃ元気に黒ひげ達にブーイングしてるのあったよね
全員元気でいろ!!! - 190二次元好きの匿名さん23/10/29(日) 10:10:41
パンツに入れられる(確定)なビブルカードにアラマキ生える
せめてこう…帽子とかあるだろう…! - 1911◆S2.s7bZ6MUQQ23/10/29(日) 12:21:36
人影に見えるものを数えてみたらベポ以外の19人のうち15人は船外に投げ出されてるみたいです。
4人は船内か、船体の向こう側に投げ出されたかもしれません。(赤丸以外のとこに人影を見つけたら教えてください)ハクガンさんはポジション的に多分最後まで操舵室に残っているかも。
船体は前後で分断されて後部は天地逆転。
単純に考えると船尾側半分に打撃を受けて真ん中からへし折れ、船尾側が打撃の残りエネルギーで回転したとかかなと思うんですが、潜水艦なので「断裂した位置が構造上特に脆い」とかあると困ります。
シンプルに真ん中に船体両断するようなダメージを受けて大破、船尾側は浮力の関係で(船底の方が軽かった?)反転した…と勝手に考えています。ポーラータングの船尾側半分は空気袋となる船室が船底側に集まっている構造ですし。
大破時の状況も気になります。
①「海面にいるときに攻撃を受ける→大破・沈没」②「潜水しているときに攻撃を受ける→大破」のどっちなのか。
海水の抵抗で攻撃が緩和されない①の方が有望ですが、ワンピース世界には海中に攻撃を通す物理がいくらでもあるのでよくわからんです。
絵の状況からすると分断された船首・船尾があまり離れていないこと、クルーが船の側に浮遊しているけれど沈没の巻き込みを受けている様子がないこと、樽など浮上しやすいものがまだ船体の側にあることなどから、まだ被弾してからあまり時間が経っていない、②の可能性が高いかなと思います。(それにしてはジャンバールさんが船体から離れすぎているのが気になるのと、海水による減衰があっても船体破壊できる攻撃を黒ひげが持ってるということになってしまうのですが。)
一応②の状況だと仮定しようかなと思います。
- 192二次元好きの匿名さん23/10/29(日) 12:37:01
だって帽子は脱げるし…ジャンバールみたいに帽子がないクルーもいるし…
- 1931◆S2.s7bZ6MUQQ23/10/29(日) 12:37:17
現実世界では船外でも船内でもどうあれ高確率で死ぬのですが、ワンピース物理・ワンピースフィジカルならば、非能力者で船外に投げ出されていればまだワンチャンあると思います。
沈没時にスクリュー(あるのか?)など推進力を生む機構が動いてる感じもしないので、駆動部への巻き込み事故もなさそうかな。
むしろ危ないのが船内に残っている方でしょうか。被弾時にその衝撃で船室内で体を叩きつけられて負傷・失神などしていると初動の避難が遅れます。また、密閉できる部屋にいた場合、沈没すると水圧でドアが開かなくなって閉じ込められてしまいます。このパターンで一番可能性が高いのは操舵室にいそうなハクガンさんです。
とはいえポーラータング船体の海賊団マークは全体が残っているので、アトリビュート解釈的には誰も欠けないかもしれません。
どう思われます?>>195
- 194二次元好きの匿名さん23/10/29(日) 13:20:49
メリー号にいたんだから10年近く我が家のように乗り回してたポーラータング号にクラバウターマン絶対いるでしょ
となれば壊れた瞬間最後の力で船員全員外に放り出してても可笑しくないよね!? - 195二次元好きの匿名さん23/10/29(日) 13:50:31
- 1961◆S2.s7bZ6MUQQ23/10/29(日) 19:05:08
船足は順調だった。辺りが白んで来た頃、『万能薬』が走り回る足音でローは目を覚ました。360度広がる大海原の真ん中で迎えた朝も、ベポと保存食を食べて見張りをしながら見た日の出も、800歳児には十分刺激的だったようだ。ローが仮眠に入っていた船長室のドアを開けてベッドのそばまで駆け込んできた。
「…なんだ、見張り飽きたのか?…寝るなら入っていいけど静かに…」
「ロー!起きろ!朝を見逃すぞ!全方位波がきらきらしてるぞ!」
「…別に珍しくはないから…また今度な」
「海鳥も飛んでる!」
「そうか…うん…ニュース・クーは、撃ち落とさずにちゃんとベリー払ってやれ…」
「あと島が見えたぞ!」
「それを最初に言え!」
数分後、『万能薬』を脇に抱えたローが甲板に出てきた。
「おはよう、キャプテン。目的地の島はアレだよ」
「…」
ローは眉根を顰めた。
ベポが指さす舳先の前方には確かに島が見える。双眼鏡越しに見れば金色の朝霧に霞んでいるが、今のところ特段の異常はない。多少の山があるようで、緑が豊かな島…という程度。雷が降り注ぎ続けている様子もなければ、島全体が燃え続けたり凍り付いたりしている様子もない。つまり島の外観からは、磁気を狂わす程の異常事態の原因は見受けられない。
どちらかと言うと…。
ローは船縁に歩み寄って海面に視線を落とした。
丸太が浮いている。霧の水面に揺れながら、一本、二本、いや、数えきれる量でもない。島に近づくほどに浮かぶ丸太が多くなっているように見える。
「ぶつかると船は沈むか?」
「よっぽど大きいのでもない限り大丈夫だよ」
『万能薬』とベポもローの隣で海面を覗き込んだ。「散らかった海だな」「散らかってるねー」
ローは浮遊物を観察した。丸太にばかり気を取られていたが、枝葉やツタの類も浮いている。丸太と呼ぶほどもない細い幹や枝も。…しかし、問題はそこではない。樹木の断面には明らかに刃物を使った痕跡がある。斧で打ち削ったものもあれば、チェーンソーか何かですっぱり切ったように真っ平らなものも。
「この丸太があの島から流れてきているとなると…あの島には人がいるな」
「それも多分結構な人数だろうね。潮の流れがあるのにこれだけの量の丸太を海に放り込めるのなら」 - 1971◆S2.s7bZ6MUQQ23/10/29(日) 19:06:19
「あぁ、伐採の手法も何通りかあるようだし複数…相当の人数がいると思ってよさそうだ。しかし…人がいるにしても、なんのために海に丸太を?」
「ロー、何故さっきから視覚頼りの推理ばかりしている?その見聞色は飾りか?」
「この距離から島を探るのはさすがにきつい。『万能薬』、何か察知できているのか?」
「投棄されている樹木の影に魚がたくさん集まっているぞ。朝ご飯は焼き魚でいいか?厨房にいろいろな調味料があったのだ」
「素潜り漁しようとするな」
手すりをよじ登ろうとした『万能薬』を捕まえてローは思案した。
少なくともなんらかの異常の存在する島。その島から大量に流れてきているらしい、人の手によって伐採されたと思しき丸太。海に投棄してある意図はわからない。意図がわからないのを不気味に感じるほどの量。
…。
迷っていても何も始まらない。人が生存できる環境であるのは確かだ。
「上陸する。ベポ、停泊地点を決めて投錨の用意。船尾のボートを下ろす」
「アイアイキャプテン!」
「私は何をすればいい?」
「そうだな、重要な任務を任せるから手抜かりなく行え。厨房行って調味料全部数えてこい」
「あいあいキャプテンっ!」
二人は自分の配置へ走っていった。
ローは水平線の島影を見つめた。朝霧は少しずつ晴れてくる。波の音は静かで、海鳥の声が心地よい。時折船体に丸太がどん、どん、とぶつかる振動を足裏に感じる。
もう敗けられない。
何がある島だかわからないが、今二人を守れる力が己にはあると信じたい。 - 1981◆S2.s7bZ6MUQQ23/10/30(月) 02:35:35
ローが接敵を察知したのは、ベポと二人で上陸用のボートを海面に下ろそうとしていたときだった。見聞色を用いるまでもない。島から手漕ぎのボートがいくつも近寄ってきた。歓迎ではなく敵であるのも一目瞭然、武装している。既に火矢をつがえた弓を構えている射手もいる。
「『万能薬』、隠れろ」
「苦しゅうない。ここで良い」
「俺が良くない」
能力で船内に飛ばそうかと思ったが、ベポが『万能薬』をひょいと抱えて後ろに飛びのいた。間合いに入らないよう配慮してもらえば遠慮なく鬼哭を振るえる。
「モローニィィィィィ!!!!」
丸太などの浮遊物が浮かぶ海面を掻き分けて接近してくる手漕ぎ船団、その先頭のボートに乗っているのがリーダー格なのだろうか。両手に大ぶりな拳銃を握った女が怒気を露わに吼える。「もう我慢ならん…刺し違えても沈めてやる!総員続け!!」ボートの船首辺りで足元の木板に叩きつけた途端、女の身体は宙に飛んだ。ボートには大型船に飛び移るための射出装置を積んでいるらしい。一斉に周囲のボートから放物線を描いて突撃要員が飛び上がってくる。高度を確保したリーダーが空中で銃口をこちらに構え、その瞬間はっと息を呑んだ。
「ROOM」
造作もないことだった。船を中心に海面の小舟まで巻き込んで展開したROOMの中で襲撃者たちは宙吊りになる。そのまま四肢切断して海面に残る連中への牽制にしても良かったが、背後の『万能薬』が見ていることだけ少し気になった。ひとまずスキャンし武器を全て没収する。
「なんだこれ!」
「う…浮いてる、動けない!」
「ネゴシエイターが!」
殺気だっているわりに戦闘経験は少ないのだろう武装集団が宙吊りのままで騒いでいる。凪にしてやってもいいがそれでは話し合えない。
「頭領はお前か」
ローは両拳銃(没収済み)の持ち主だった女に歩み寄った。女は威嚇の表情のまま青ざめた。
「しっ…七武海…トラファルガー・ロー…!!!」
その声に宙吊りの配下がどよめく。「手配書の顔だ!」「コルガナさん!」「…今助けっ…動けねぇ!」「顔が凶悪!!」「逃げて!!!お願いコルガナさん逃げて!!トラファルガーっつったら心臓をぶち抜くイカレ野郎だ!」
ローは不愉快気にふんと鼻を鳴らした。悪評結構、こちとら海賊稼業だ。 - 1991◆S2.s7bZ6MUQQ23/10/30(月) 02:46:28
その声に宙吊りの配下がどよめく。「手配書の顔だ!」「コルガナ!」「…今助けっ…動けねぇ!」「顔が凶悪!」「逃げて!お願いコルガナさん逃げて!トラファルガーっつったら心臓をぶち抜くイカレ野郎だ!」
ローは不愉快気にふんと鼻を鳴らした。悪評結構、こちとら海賊稼業だ。
「お見知り置いてもらえてるようで話が早ぇ。お前らモローニの船だと思って襲ったようだが人違いだ。俺はトラファルガー・ロー、“元”七武海だ」
「どうして…どうして30億首の海賊がこんなところにいる!」
「話せば長いし話す必要もねぇ」
「何をしに来た!我々の村にはもう何もないぞ!」
「殺気立つな。俺は略奪しに来たわけじゃぁないし戦り合う気もねぇ。ひとまず話し合いの席につけ」
「…」
女はローを睨みつけたまま、両手を挙げて攻撃しない意思表示をした。周囲に浮いている宙吊り襲撃部隊も戸惑いながらそれに倣う。
「タクト」
悲鳴は上がったが、とりあえず襲撃者を整列させて甲板に下ろした。
親指で船縁の方をぐいと指さして見せると、リーダーらしき女は立ち上がり、敵意に満ち満ちた目をローから外すことなく後歩きに船縁へと歩く。「コルガナ!」甲板に座らされた襲撃者が慌てて膝立ちになるが、コルガナと呼ばれた女は「安心しろ、飛び込むわけじゃない」と押しとどめ、海面の仲間に背を向けたま合図する。海面の火矢部隊が弓を下ろした。
「…七武海ならまだしも“元”七武海」
コルガナがその場にどさりと座り込む。「頼む。島には手を出さないでくれ。もう限界なんだ。本当に何もない。命で足りるなら我々の命はくれてやる」
「さっきからお前は人の話を聞かねぇな。略奪の意思はねぇ。二度も言わすな」
「何をしに来た…」
「ログが溜まるまで滞在させてもらえりゃ充分だ。それ以上の意図はねぇ。買い物ができる島なら物資の補給をさせてもらおうかと思ったが」
「…無理だ」
「お前の島で何が起こってる。情報をくれたら襲撃はなかったことにしてやる。…『万』ッ…おいこら武器を触ろうとするなつつくなベポ何してる!!抱えとけ!…三針ログポースの揺れからすると何か能力者絡みの騒ぎでも起きていそうだが。…違うお客さんじゃねぇから茶は出さなくていい!ROOM!シャンブルズ!…構うな、尋問に答えろ」
コルガナは困惑していた。どういう感情でこのあまりにも有名な悪党と向き合えばいいのかわからない。 - 2001◆S2.s7bZ6MUQQ23/10/30(月) 02:55:22
完走ありがとうございました。
たくさんコメント書き込んでいただけてとても楽しかったです。このサイトのこのカテゴリーそしてこのキャラ周辺はバチクソ荒らされやすいと知った今、初スレ立てを温かな方々に恵まれて完走できた幸運に改めて感謝いたします。ここまでの分、読みやすいようにPixivかどこか安全な場所を見つけたらまとめておこうと思います。どこかでまた会えたら嬉しいです。
物語が中途半端なところで終わってすみません。1000字制限から逆算しておけばよかった。島のマッチョな二丁拳銃、コルガナはローともベポとも『万能薬』ともなんのフラグも立ちません。血の気の多いモブです。この島で普通に生活したいモブです。旅立つ日には普通に元気よくお別れします。
おつきあいいただいた皆様が楽しい日々を送られますように。