あれが、あの子のラストラン

  • 1二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 00:05:50

    ―― もし、叶うのなら


    『並んだ並んだ! 永世三強が横一線!』


    ―― 瞳を閉じれば、今でも


    『いや!? フィルムロールが差し返す!』


    ―― 鮮やかに思い出せる光景がある


    『フィルムはまだ終わらない! フィルムはまだ終わらない!』


    ―― だから


    『タマモクロス食らいつく!』

    『オグリ! フィルム! イナリ! クリーク!』


    だから、どうか――


    『大接戦だあああああああああああああああ!』


    もうすぐ、私のラストラン|あにまん掲示板夢をいっぱい抱えて、トレセン学園に入学した小さな頃に憧れた勝負服のお姉ちゃんたちキラキラ輝くウイニングライブそして、割れんばかりの拍手と大歓声それを目指して私は、走って来た……次のレースでそれも、最後…bbs.animanch.com
  • 2二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 00:06:36

    続き、だと…?

  • 3二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 00:07:27

    あるいは別視点のSS化か?

  • 4二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 00:16:20

    今でもふと、思い出したように両手を伸ばすことがある。
    親指と人差し指で切り取ったそのフレームの中には、あの光景がくっきりと浮かび上がる。

    フィルムロール

    最高の景色を、最高の思い出を残してくれた同期のウマ娘。
    みんなの記憶に焼き付いたお友だち。

    彼女の生み出した光景は、両手の主もしっかりと焼いていた。
    あれはまさしく、その主のしたかったことだから。

    視界が失われ、色褪せて行く中でも『今』を、その瞬間を光り輝かせた。

    二度と走れないターフを真っすぐ駆け抜けて見せた――あれはまさに、追い求めた『永遠』だった。

  • 5二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 00:25:49

    「は……は……!」

    メジロアルダンはあの光景を見てから、トレーニングを倍増させた
    ……等と言えたら、どんなに良かったことだろう。

    彼女のガラスの脚は、そんな無茶など許してくれはしない。
    ただ彼女の心は、その程度で諦めるほど脆いものでもない。

    幼い頃から体が弱かった。
    両親からは、レースに出ること自体を反対されたこともある。
    至宝と呼ばれる姉に遠く及びそうもないと思われてきた。

    それでも、走りたいという願いが消えることはなかった。
    その憧れている姉に、ばあやに、あるいはトレーナーに。
    多くの人に支えられて己の覚悟を貫いてきた。

    何よりも。

  • 6二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 00:31:20

    あんなレース見せられたら知ってる人は脳焼かれちゃうよね

  • 7二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 00:33:28

    アルダン…なるほどな……

  • 8二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 00:34:52

    『スパートは全然怖くなかったです』

    何よりも。
    失明するという未来が確定しながら、残された時間でトレーニングに打ち込んで。
    その先に自分だけの世界を見た、友人の生き様を知っているのだから。

    フィルムロールの目は、もう光を映さない。
    よりにもよってラストランの最中に、その現実を突きつけられた。

    『最後に、私の景色だけが見えていたから』

    そんな中でも彼女は走りきった。
    光を失ってなお、己の世界に浮かんだ翠のターフを駆け抜けてみせた。

    足が脆くて、トレーニングが制限される?
    それくらいで音を上げようものなら、あの永遠に憧れる資格すらない。

  • 9二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 00:36:52

    これいいな…

  • 10二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 00:40:06

    あの子はG1未勝利と言う結果で終わってしまったけどそこで駆け抜けた想いは誰かに継がれていくんだ…

  • 11二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 00:41:34

    「は……ぁっ はあっ」
    「よーしインターバル!」

    信頼を寄せているトレーナーの声に頷き、メジロアルダンは器具を置く。
    無尽蔵に鍛えられるような体は、未だに手に入らない。
    これからもきっと手に入らないだろう。

    それでも、彼女はフィルムロールのラストランからもらったのだ。
    "今まで通り"歩み続けるという勇気を。

    入院が続き出遅れたレース生活、いつ終わるともわからない本格化。
    『自分の体が許す範囲で』頑張ることがどれだけ辛い状況にあるか
    ……メジロアルダンに近しい者ほど、それをよく知っている。

    その歩みに、勇気を。迷いなき前進を。
    それが、アルダンがフィルムロールからもらったものだった。

  • 12二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 00:54:54

    メジロアルダンに近しい者ほど、彼女がどれだけの想いを込めているかを知っている。
    彼女を実の姉のように慕うメジロライアンもまた、その一人だ。
    休みながらも絶え間なく鍛える"姉"はきっと、今よりさらに強くなるだろう。
    秋の天皇賞2着で満足し尽くすような人ではないとわかっているからこそ、トレーニングにも熱が入る。

    「もう一本いける?」
    「はい!!」

    バーベルを上げる。プールを泳ぐ。坂路を駆ける。
    太腿直筋が、内側広筋が、想いに応えてくれる。
    メジロライアンの筋肉は鋼のように仕上がっている。

    ……そして、今ではそれに相応しい心を備えている。

  • 13二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 01:04:33

    『タマさんにもう一度勝ちたかったから、ここまで頑張ることができました』

    メジロアルダンの同期……フィルムロールのインタビューの一節を、今でも思い出す。
    彼女はG1ウマ娘4人から追われるあのレースでも、物怖じなんてしなかった。
    そのライバルたちを押しのけて1番人気に推されても、堂々と走ってみせた。

    タマモクロスだよ?
    スーパークリークだよ?
    イナリワンだよ?
    オグリキャップだよ?

    もし自分があの立場に立たされて、こう自問自答せずにいられただろうか。
    1年前の自分なら、間違いなく無理だっただろう。

    『あわわわっ、あたしマックイーン相手に生意気なことを~』

    トレーナーさんの前で宣言しておきながら、こんな弱気を見せたこともある。
    そう、絶対に無理だった……あの時の自分なら。

  • 14二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 01:11:47

    「追い込んでいますわね、ライアン」

    もう、あの時の自分じゃない。
    今のメジロライアンは、胸を張ってそう言い切ることができる。

    「負けていられないからね。アルダンさんにも……マックイーンにだって」

    だから、ずっと憧れるだけに留まっていたメジロマックイーンにもそう宣言することができた。
    その四肢に震えは一切ない。筋肉を使った直後だからと言い訳する必要もない。

    「次の一つを、勝ちに行くよ。何回も戦えるわけじゃないんだから」
    「……楽しみにしています。とても、とても」

    その様子を見守ってマックイーンもまた目を細め、頷く。
    一粒も混じり物のない幼馴染の覚悟が、眩く思えた。

  • 15二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 01:25:48

    わかっていたはずだ、メジロアルダンに近しい存在なら。
    五体満足でレースを走れるというのが、どれだけ恵まれていることなのか。

    なまじ自分が鍛えていたからか。メジロアルダンのターフもまだ続いていたからか。
    わかっていたはずなのに、メジロライアンは今一つ弱気を克服できないでいた。
    でも、『終わり』をこの目で見てしまった。
    そして終わりに恐れ戦くことなく、駆け抜けたウマ娘の姿を見たのだ。あの日。

    『今この瞬間が! この景色が! 私だけの世界なんだ……!』

    坂路を駆ければ、両足がそれに答えてくれる。息を深く吸い込める。心臓が全身に血液を送ってくれる。
    そして……駆け抜ける先の景色が両目に映る。
    それはいつ終わるとも知れない奇跡なんだともう知ってしまった。
    この奇跡の時間を、弱気に囚われたまま終わらせたくない!

    「よーしもう一本!」
    「はい!!!」

    それが、ライアンがフィルムロールに思い出させてもらった覚悟だった。

  • 16二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 01:26:37

    と、いうSSを書いて行こうと思います
    よろしければまたお付き合いください

    今夜の分はここまで

  • 17二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 01:33:36

    お疲れ様です
    楽しみにしています

  • 18二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 01:34:17

    .

  • 19二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 01:36:35

    🎞ちゃんが残した奇跡、もとい軌跡ということか
    めっちゃ楽しみにして待ってるわ

  • 20二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 02:24:39

    光を失ったウマ娘の輝きが、現役ウマ娘たちの道標になって行く…

  • 21二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 02:29:52

    既に泣いてるワイがいる

  • 22二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 04:34:32

    スピンオフ!?
    ありがてえ…

  • 23二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 07:50:49

    続き…だと?

  • 24二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 07:51:14

    >『フィルムはまだ終わらない! フィルムはまだ終わらない!』


    この子がアプリに来てこの特殊実況が流れたら、冷静に聞く自信はない

  • 25二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 12:43:38

    「永世三強が横一線」と「大接戦だ」を生み出した元スレのダイスは何か憑いてるわ

  • 26二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 12:44:50

    フィルムロールが史実にいた気がしてる
    いたよね?

  • 27二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 12:57:50

    G1未勝利馬だけど世代が違ったらって思わせてくれる隠れ名馬か…やはりカノープス……

  • 28二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 19:01:13

    >>25

    これがダイスと安価でできたって、今読んできたのにまだ信じられない

  • 29二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 19:02:17

    もう泣いた

  • 30二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 22:00:57

    感想をありがとうございます
    続けますね

  • 31二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 22:30:07

    『今』を歩むメジロアルダンに、覚悟を決めたメジロライアン。
    あの有マ記念は、多くの者の生き方に影響を与えた。

    そしてそれは、必ずしもレースへの後押しだけとは限らない。
    真逆の方向へ吹っ切れ、外の世界に待つ現実と向き合ったウマ娘もいる。

    「ほれおチビ、花はこっちや」

    目に入れても痛くない"おチビ"たちを連れ、墓参りに来ているタマモクロスだ。
    丁寧に丁寧に磨いている墓石の主は、言葉で表し切れないほどお世話になった恩人。
    引退して、彼の最期の時に寄り添う……それが、彼女の選んだ道だった。

  • 32二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 22:40:52

    貧しい家庭で苦労の多かったタマモクロスを何かと支えてくれたのが、彼だった。
    芦毛のウマ娘は走らないという偏見の残っていた当時から、支援してくれた。
    「オーナーさんて呼ばなアカン」と笑ったが、本当にそう名乗れるくらい学費を払ってくれたと後から知った。

    そんな大恩ある人に遺された時間が少ないと聞いた時、タマモクロスの心は揺れた。
    しかし一度は、当の本人からレース場へと追い返された。
    若い子が未練を残したまま、こんな老人に付き合って夢を捨てちゃいけない。
    そう言われれば、"未練"がいかに巨大化を思い知らざるを得なかった。

    怪物と呼ばれるオグリキャップに負けたくない。
    自分を負かしたフィルムロールにやり返したい。
    尽きぬ闘志。グランプリウマ娘に、天皇賞ウマ娘になる原動力となった負けん気とド根性。
    まだまだそれは満たされていない……幼い頃から自分を知る老人には、お見通しだったのだ。

  • 33二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 22:51:23

    あのまま走って、ちゃんと引き際を考えられていただろうか。
    自問自答するまでもなく、首を横に振らざるを得ない。
    例え致命的に衰えようとも、ターフに噛り付こうとする姿が容易に想像できる。
    そんなタマにとってあの有マ記念は、運命が用意したかのような転機だった。

    終生のライバルと決めていたオグリキャップに、優勝を攫われた。
    日経賞で土を付けられたフィルムロールにも、先着された。

    周囲もよく知る元々の己なら、決して悔しさを隠せなかっただろう。
    雷鳴を轟かせるように、再戦を誓ったことだろう……それなのに。

    「綺麗やなて、思てしもたんや」

    ライブの後におチビたちへ語ったあの時の気持ちに、嘘はない。
    あの光景を最も近くで、真後ろで見た唯一無二のウマ娘の抱いた感想だ。

  • 34二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 23:07:36

    『タマさんにもう一度勝ちたかったから、ここまで頑張ることができたんです』

    もう二度とターフを駆けられないライバルの言葉に頬と、それだけでない何かを水洗された。
    気づけば足はグランドでもジムでもなく、あの老人の家に向いていた。

    「そうか……やりきったんだね」

    そして今度は追い返されることもなく……最期の時間を、共有できた。
    最後の最後まで、彼はオーナーさんだった勝利を積み増せなかったことなど、気にしていなかった。
    ただ、応援したウマ娘が満足するまで走れたことを喜んでくれた。
    そんな恩人だからこそ、タマモクロスは最期の一日まで献身的に彼を介護し続けた――

    「さ、行こか。これから忙しなるで?」

    ――ひとしきり祈りを捧げると、タマモクロスは立ち上がる。
    いつまでも未練がましく残っていたら、また若い子が~と追い出されてしまうだろう。

    悔いのない時間。タマモクロスが、あのラストランで受け取ったものだった。

  • 35二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 23:15:00

    すみません、短いのですが今夜の分はここまでです
    どうか続きもよろしくお願いします

  • 36二次元好きの匿名さん23/10/16(月) 23:21:11

    ありがとう…続けてくれて本当にありがとうございます

  • 37二次元好きの匿名さん23/10/17(火) 00:02:49

    走ると決めた子
    走らないと決めた子

    どちらの目にもフィルムロールが焼き付いている……

  • 38二次元好きの匿名さん23/10/17(火) 01:02:27

    フィルムちゃん自身はどうしてるんだろう

  • 39二次元好きの匿名さん23/10/17(火) 04:07:27

    フィルムちゃん前スレで○○の閃光とか呼ばれてたのかなって言われてたから「ターフの閃光」とか呼ばれてたのかもしれない

  • 40二次元好きの匿名さん23/10/17(火) 12:34:10

    引退の理由が史実準拠とはいえお辛い……

  • 41二次元好きの匿名さん23/10/17(火) 15:25:36

    >>40

    フィルムロール実装されてたんだ、実装ずっと待ってたから嬉しいなぁ()

  • 42二次元好きの匿名さん23/10/17(火) 19:52:14

    タマの引退の理由という意味では?
    史実では老齢のオーナーに産駒を見せてあげたかった(が間に合わなかった)のが理由の一つだったはず

    それはそれとしてフィルムロールを実装するなら視力をどうするかでギャンギャンに揉めそう

  • 43二次元好きの匿名さん23/10/17(火) 20:24:16

    見えなくてもやれる走法とか身に付けてたから
    ライブとかはともかく日常生活は見えないなりにそこそこ器用に暮らしてそうなイメージがある
    レース場だと領域入りしたウマ娘のオーラだけ見えてたりするのかな

  • 44二次元好きの匿名さん23/10/18(水) 00:34:29

    保守

  • 45二次元好きの匿名さん23/10/18(水) 07:58:01

    フィルムはまだ終わらない

  • 46二次元好きの匿名さん23/10/18(水) 12:22:34

    続け!

  • 47二次元好きの匿名さん23/10/18(水) 22:02:40

    引退後にクリークにあって、泣きながら抱きしめられるんだよね

  • 48二次元好きの匿名さん23/10/19(木) 01:48:24

    保守保守
    フィルムケースにちゃんと閉まっておかないと見れなくなっちゃうからね

  • 49二次元好きの匿名さん23/10/19(木) 07:51:45

    続きが遅れてしまっていてすみません
    今夜書きに来られそうなのでもう少しだけお待ちください
    感想や保守をありがとう!

  • 50二次元好きの匿名さん23/10/19(木) 12:57:11

    アルダン
    ライアン
    タマ
    さあ次は

  • 51二次元好きの匿名さん23/10/19(木) 20:55:32

    映画化待ったナシ

  • 52二次元好きの匿名さん23/10/20(金) 02:07:13

    前言撤回で、今日は帰宅すらできそうにありません
    待っていた方がいたらごめんなさい
    もし可能であれば、土曜日まで残していただけたら……すみません

  • 53二次元好きの匿名さん23/10/20(金) 06:57:01

    >>52

    了解ですわ!

    保守ですわ!

  • 54二次元好きの匿名さん23/10/20(金) 15:56:05

    ほしゅこしゅ

  • 55二次元好きの匿名さん23/10/20(金) 15:58:04

    続き来てるのに今気づいた、フィルムロール採用されてて嬉しい

  • 56二次元好きの匿名さん23/10/20(金) 16:01:16

    ゴーグルをして走るウマ娘っていうのもなんか良いなあって思った、普段も特別な眼鏡とかしてるのかな

  • 57二次元好きの匿名さん23/10/21(土) 00:37:22

    同期だけじゃなくて後輩にも影響与えてそうだよね

  • 58二次元好きの匿名さん23/10/21(土) 09:58:50

    とりあえず保守するか

  • 59二次元好きの匿名さん23/10/21(土) 17:35:53

    >>56

    眼関係で普段の着用許可されてそう

    信頼している人にゴーグル外すんだよね

  • 60二次元好きの匿名さん23/10/21(土) 21:23:00

    ターフの色にも負けない鮮やかな緑色が多くの人の心を駆け巡っている…
    🎞️から光が消えても、他にとってはそうではないのがグッとくる。

  • 61二次元好きの匿名さん23/10/22(日) 01:31:07

    忙しそうだけれど大丈夫かな
    なんとか続きますように

  • 62二次元好きの匿名さん23/10/22(日) 07:14:03

    保守

  • 63二次元好きの匿名さん23/10/22(日) 18:02:12

    待ってまーす

  • 64二次元好きの匿名さん23/10/22(日) 18:46:21

    遅れに遅れてすみませんでした
    保守やさらなる感想をありがとう!
    続けますね

  • 65二次元好きの匿名さん23/10/22(日) 19:16:28

    「なんでやねん!」

    本職の芸能人に稲妻のごとく鋭いツッコミを入れるウマ娘のVTRに、どっと笑いが起きる。
    彼女と共に走ったライバルの実家が運営する、託児所での一幕だ。
    悔いのない時間を過ごしたタマモクロスはレース場を振り返らずセカンドキャリアを積み始めていた。

    「あーあ、もう終わりかー」
    「じゃあ次は、お姉ちゃんとお歌うたう?」
    「「「うたうー!」」」

    レースの外の世界へ飛び込んだのは、あの白い稲妻だけではない。
    預けられている中でも年長の子たちがピアノを囲む中、その真ん中に座る別のウマ娘。
    彼女は瞼を閉じたままカバーを開けてみせると、鍵盤に手を乗せ弾き始めた。

    盲目となった日経賞ウマ娘――フィルムロールだ。

  • 66二次元好きの匿名さん23/10/22(日) 19:32:25

    うおおおお供給だあああああ

  • 67二次元好きの匿名さん23/10/22(日) 19:37:01

    託児所かな?穏やかな空気が流れてそうだ…

  • 68二次元好きの匿名さん23/10/22(日) 19:38:29

    このレスは削除されています

  • 69二次元好きの匿名さん23/10/22(日) 19:39:31

    その旋律と同じくらい優しい眼差しで、もう一人のウマ娘が合唱を見守っている。
    現役時代のフィルムロールと共同でトレーニングをして、ラストランを共に駆けたイナリワンだ。

    彼女もまた、既にレースから身を引いている。
    あの大接戦の翌年の有マ記念。その優勝レイを手土産に。

    『スーパークリーク先頭だ! イナリワンが突っ込んでくる!』
    『オグリキャップはいま二番手争いの一角』
    『スーパークリーク、イナリワン、イナリワン! 並んでゴールイン!』

    2年連続で僅差の決着となった年末のグランプリに巻き起こった大歓声は、多くの者の記憶に残っている。
    そしてそれが目の前で音を奏でる友人にも届いたと知って、これ以上なく誇らしくなった。

    だからこそ、翌年に待っていた運命を受け入れられた。

  • 70二次元好きの匿名さん23/10/22(日) 19:57:15

    フィルムロールのラストランと涙のWINnin' 5。翌年の同じグランプリでのハナ差決着。
    そしてさらに翌年、その両方を共にしたスーパークリークとの春天での激闘。
    数々のドラマを生み出し、これからもと期待されていたイナリワンは……足に怪我を負った。
    中手指節関節の故障。トップアスリートにとって非常に重い診断だった。

    だがこのいなせなウマ娘は、暗い顔など見せなかった。だって、知っていたのだ。
    今こうしてピアノを弾いている友人が、どれほど練習を重ねてそれを可能にしたか。
    託児所を手伝えるようになるまで、現役生活とまるで違う訓練に耐えたか。

    そんな友の前で情けない姿なんて見せちゃいられねえ、とイナリワンは口を真一文字に結んでリハビリに励んだ。
    ……そして復帰が困難であるという診断が下ると、その日々すらスッパリと割り切って引退を決めた。

    「てやんでい、今さらケチなんざつけるもんか。ダンナでだめなら、お天道様がそう言ってんだよ」

    頭を下げる自らのトレーナーに向けた笑顔は、自分でも驚くくらいからりとしていた。
    それだけ全力で取り組んで、やりきったからだと……今ではそう思える。

  • 71二次元好きの匿名さん23/10/22(日) 20:04:58

    人間の部位で言うと足首の関節あたりになるのかな
    アニメのマックやドゥラもだけど人間と身体構造がほぼ変わらんけど馬の部位が俗称?として使われてるんだよね

  • 72二次元好きの匿名さん23/10/22(日) 20:07:08

    テッペンを取った。どでけえ華を咲かせた。
    それを受け取ってくれた、多くの人がいる。

    自分を快く追い出してくれた親方、大井の仲間たち、見出してくれたダンナことトレーナー。
    そして、先にレース場を去っていた友もまた……その表情をこの目で見られることがどれだけ恵まれているか。
    それをよく知るイナリワンは、運命を嘆かない。スッパリと新たな歩みを始め、次の生き方を探し始めた。

    こうして託児所に付き添っているのも、その一つだ。
    現役を続行するスーパークリークが心配しないで済むように、手伝いたいとフィルムロールが申し出るのを聞いた。

    「かえって邪魔にならなければだけど……あはは」

    頬を掻きつつ提案する健気な友人を、放っておけるイナリ様ではなかった。

  • 73二次元好きの匿名さん23/10/22(日) 20:18:00

    「「「「「さよならー!」」」」」

    ピアノのカバーをかけ直し、立ち上がる。耳を立てて、年少の子どもたちの寝息を数える。
    迎えに来た保護者たちに手を引かれ、一人また一人と帰宅して行く子どもたちへ手を振る。
    フィルムロールは、見えないながらもそれらを起用にこなしていた。

    イナリワンが、必要以上にそれらへ干渉することはない。
    自分も手を動かし、片耳だけ立てておく。友もそれを望んでいると、よく知っている。

    「いつもありがとう、イナリさん」
    「なに言ってんだ、お互い様だろ」

    見えなくとも、フィルムロールは知っている。
    自分のシフトに合わせて、イナリワンがわざわざ大井から出て来てくれていることを。
    戸締りをしてきた彼女が持ってきてくれた白杖を突くと、いつものようにお礼を言った。

    そして、その一言以上は繰り返さない。友もそれを望んでいると、よく知っている。

  • 74二次元好きの匿名さん23/10/22(日) 20:32:47

    「こういう時間がねえと、肩が凝っちまう。お前さんもそうだろう?」
    「本当に。この前も講演に呼ばれてガッチガチで」

    お互い様、とイナリワンが言ったのには訳がある。
    二人ともこの託児所が本業というわけでなく、それぞれ別の世界へ既に入っている。
    そして、レースを始める前とはまるで違うその世界に面喰ってばかりなのだ。

    飾らない育ちと気質のイナリワンにとって、咲かせた華への反響は想定以上のものだった。
    取材やインタビューには引っ張りだこだし、友人知人から顔を貸して欲しいと頼まれることも多い。
    義理堅い彼女は世話になった人々の頼みに頷いてあちこちを飛び回り、その度に感謝されている。

    フィルムロールもまた多くの人々、特に障がい者スポーツの団体からは英雄視される身だ。
    不自由に苦しむ人々に勇気を分けて欲しいと依頼されれば、一もにもなく引き受けた。
    おかげで広告塔にされるわ、講演を依頼されるわ、本を出すことになるわと忙しい。

    「普通の仕事もしてないと、調子が狂っちゃいそう」
    「はは、違いねえ」

    栄光を求めて駆けてきたのに、いざ持ち上げられるとむず痒くなってしまう。
    そんな二人にとって、共通の友人の実家を手伝うこの時間は癒しでもあった。
    だからこそ、彼女たちにとっては「お互い様」なのだ。穏やかな時間を過ごさせてくれてありがとう、と。

  • 75二次元好きの匿名さん23/10/22(日) 20:37:24

    長らくお待たせしたにも関わらず、反応をありがとうございました
    今夜中にもう少し続けたいのですが帰宅してからあれこれ放り出して書きにきたので、少し片づけをさせてもらえたら
    1時間ほどで戻ります

  • 76二次元好きの匿名さん23/10/22(日) 21:34:10

    お待たせしました、続けます

  • 77二次元好きの匿名さん23/10/22(日) 22:01:09

    「は……! は……!」

    スターウマ娘たちが新たな生活を始める中で、現役生活へ噛り付いている者もいる。
    競争ウマ娘の癌とも呼ばれる繋靭帯炎と闘っているのは、友人が回想したばかりのスーパークリークだ。

    永世三強が揃い踏みした春のレースで達成した、史上初の天皇賞秋春連覇。
    グレードが確定してからは初めてとなる京都大賞典の連覇。
    ライバルたちに決して負けない伝説を作った彼女もまた、一度は引退を考えた。

    「次はビート板を抱えて」
    「はいー……!」

    ただ、迷う中で浮かんできたのは自分以外の顔ばかりだった。
    寂しがる託児所の子どもたち。心配そうな家族。やきもきとするファンたち。
    次々とライバルが去って耳を垂らすオグリちゃん。歯を食い縛る自らのトレーナー。

    スーパークリークは首を振り、一度その思考に待ったをかけた。
    それだけを理由にしてはいけないと。

  • 78二次元好きの匿名さん23/10/22(日) 22:29:15

    誰かの為に。スーパークリークの心には、ずっとその一念があった。

    着用者のためだけに作られる勝負服にすら、手当のための道具を入れたポーチを付けるくらいには。
    自らのトレーナーへの非難を気に病み、当のトレーナーから諭されたこともある。
    そんな彼と再出発した後にオグリキャップのライバルと目されると、喜んで魔王を名乗った。
    かけがえのないトレーナーや対等なライバルとの出会いで、誰かの為にという想いは健全に昇華された。

    ただ。ただ、引き際に関しては別なのだ。自分のためだけに決めなければいけないのだ。
    スーパークリークは、それを背中で語ってくれる友人たちに恵まれた。

    タマモクロスは、恩人の最期の時に寄り添うために現役を退いた。
    だが、それは未練がなくなるまで走りきってからのことだ。
    若者が老人を理由に未練を残さないで欲しいという相手の頼みに、彼女は嘘偽りなく応えた。

    イナリワンは、引退した仲間のラストランと同じレースで優勝レイを掲げた。
    翌年の怪我には正面から立ち向かい、誰もが認める努力の末に蹄鉄を置いた。
    そして今は、ライバルである自分が余計な心配事をしないようにと親を手伝ってくれている。

    そしてもう一人……言うまでもない。フィルムロールだ。

  • 79二次元好きの匿名さん23/10/22(日) 22:48:00

    同じく託児所を手伝ってくれている友達のラストランは、今でも目に焼き付いている。
    そして、その日に至るまでの経緯もよく覚えている。

    フィルムロールは、自分だけには目のことを隠そうとしていた。
    彼女のトレーナーのみならず学園のスタッフがあちこち奔走していても、だ。
    あの子に待ち受ける残酷な運命とその真意を知った時の胸の痛みは、忘れられない。
    嫌われてしまった、というわけではないから余計にだ。

    それとなく察したタマモクロス、イナリワン、あるいはオグリキャップは何も言わなかった。
    ただ、来る有マ記念に向けて猛練習を積む姿でスーパークリークへ問いかけてくれた。
    お前はどうなんだと……おかげで、皆の気持ちに応えられた。

    皆に負けないくらいの練習を積み、あの大接戦の中へ食い込んだ。
    誰にも恥じることのないライバルを名乗り、それからも勝負を続けることができた。

  • 80二次元好きの匿名さん23/10/22(日) 22:56:59

    『大丈夫、全部わかっていますから』

    あの日、地下バ道で声をかけた。悔いなく走って欲しいし、自分もまたそのつもりだと。
    その想いを込めたハナ差の勝負が終わると、フィルムロールはインタビューで言ってくれた。

    『クリークちゃんの大丈夫だって言葉に、スタートからゴールまで支えられました』

    ゴール後にぎゅっと抱きしめて、肩を組んでライブをして、その後も涙を流しながら語り合った。
    黙っていたことへの謝罪は念入りに否定した。全力の勝負を望んでくれてありがとう、と。

    託児所が心配だからやめる。オグリちゃんが寂しそうだから続ける。
    そんな答えは、あの日々の先に在って良いものではない。
    競争ウマ娘の癌とも呼ばれる繋靭帯炎。ハードな練習をすれば再発する魔の病気。

    もう何度も全力疾走はできないだろう……だから、全てを。
    これから走れる、限りあるレースに全てを捧げる。
    あの光景を焼きつけれたスーパークリークが、出した答えだった。

  • 81二次元好きの匿名さん23/10/22(日) 23:32:41

    そのスーパークリークとトレーナーとの二人三脚に、最近は意外な助けが入るようになった。

    「さあ、タイムオーバーしたらドリンクはウインディちゃんが飲み尽くしてやるのだ!」
    「あらあら、それは頑張らないと~」

    晴れてG1となったフェブラリーステークスの初代王者に君臨した、シンコウウインディだ。
    「ダートにやべーヤツがいた!」という評価を不動のものにした彼女は、思わぬ形で天職に触れた。

    サブトレーナー。
    企画力と思考力は高いものの、悪戯大好きで構われたがりな社長令嬢が真っすぐ目指す道ではない。
    そんな彼女が入り口に立てたのは、友だちの手伝いをしたのがきっかけだった。

  • 82二次元好きの匿名さん23/10/22(日) 23:49:18

    その友達は、もうすぐ目が見えなくなるという時に自分のレースを見に来てくれた。
    砂埃の舞うダートでわざわざゴーグルをつけてまで、走りを目に焼き付けに来たのだ。

    フィルムロール。悪戯されて喜ぶ趣味はないと言いつつ、笑って一緒に過ごしてきた仲間。
    そんな彼女に勝利を見てもらうことができなかったあの日の夜は、枕に顔を押し付けて泣いた。
    それでも、あの子は言ってくれた。光を失ったラストランで、他の誰よりも先に。

    『ウインディちゃんの声が観客席から聞こえたから、大丈夫だって思えました』

    永世三強たるスーパークリークを差し置いて、魔王を名乗るウインディちゃん。
    お行儀の良い子になんてなってやるつもりはこれからもない。
    が、そこまで言ってくれた相手を放っておくようでは"王"とは言えない。

    自らの引退後に駆け付けてみると、あの子は光のない生活のために色々練習しているではないか。
    親分肌を発揮すると言い張り、ウインディちゃんはあれこれ手を出し……そして、ピタリとハマった。

  • 83二次元好きの匿名さん23/10/23(月) 00:06:55

    視覚障碍者となったフィルムロールは、周囲からあれこれと気遣われていた。
    当のシンコウウインディだってそのつもりで来た……が、聡い彼女は察した。

    噛みつかれて喜ぶような趣味はない。落とし穴に落とされることが好きってわけでもない。
    そう言っていた彼女は今、悪戯を恋しがっている。周りと同じ気遣いなど欲していない。
    ならば話は早かった。元からみんなと同じことをするのはつまんないという性分である。
    そして……ウインディちゃんは魔王なのだ。目が見えなかろうと悪戯をする悪いヤツなのだ。

    「う、ウインディちゃん……この点字はずるい……!」
    「しししっ! ちゃんと読むのだー」

    ある時は点字の教材をすり替え、フィルムロールの腹筋を攻撃した。
    笑い転げるような点字の本を見つけられなかったので、自力で翻訳した会心の点字漫才だった。

    「ちょっ もう、ウインディちゃんー!」
    「へへへー!」

    歩行訓練でも、単調になった時を見計らって音の出るクッションを足元に仕掛けた。
    ちゃんと白杖でそれを察知する余地が残るよう、それでいて彼女を転ばさないないよう高さを調整した一品だ。
    暗がりの中にいる彼女を、退屈なんてさせてやらない。
    彼女が一人で歩き、ピアノを弾けるようになるまで、悪戯のアイディアは尽きなかった。

  • 84二次元好きの匿名さん23/10/23(月) 00:21:15

    託児所を手伝えるまでになったフィルムロールからは、今でも感謝されている。
    が、悪戯をしてお礼を言われるのは名折れだと言っておいた。
    ……そして、恥ずかしくて中々言えないのだが、この時間は自分のためにもなった。
    「相手をその気にさせる天才だ」と、サブトレーナーの話が舞い込んで来たのだ。

    頭脳に比して情緒の幼い彼女が指導者になると聞いて、首を傾げられたこともある。
    当然の反応だろう、悪戯大好きな彼女自身がそうだったのだから。

    「さあ、描く模様を見せてやるからタイヤを引くのだっ」
    「いつの間にドローンが!?」

    全身全霊を捧げて走るウマ娘たちのトレーニングに、ただのおふざけは必要とされない。
    そこで真面目になります、とならないのがシンコウウインディらしさだ。
    必要とするトレーニングを担当トレーナーから聞き取り、単調にならないようにアレンジする。

    ウインディちゃんの悪戯は終わらない。
    ともすれば悲壮なほど入れ込み過ぎるウマ娘がいる限り、ずっと。

  • 85二次元好きの匿名さん23/10/23(月) 00:25:02

    この人のSSオリウマ娘だけじゃなくて既存の子達の新たな概念生まれるのも良いな

  • 86二次元好きの匿名さん23/10/23(月) 00:27:26

    今夜の分はここまでで
    本当に、保守と感想をありがとうございました

    次回かもしくは、その次で完結できると思います
    どうかよろしく

  • 87二次元好きの匿名さん23/10/23(月) 00:33:52

    お疲れ様でした、フィルムロールとその周りの子達の話が楽しみです

  • 88二次元好きの匿名さん23/10/23(月) 00:59:21

    現役:アルダン、ライアン、クリーク、オグリ
    引退:フィルム、タマ、イナリ、ウインディ

    年代の違うウインディちゃんを置いとくと、クリークを除けば史実通りの進退か
    残ったクリークとサブトレウインディちゃんは、何かを変えるんだろうか

  • 89二次元好きの匿名さん23/10/23(月) 01:48:47

    上手く言えないんだけれど、みんな生きているって感じがいい

  • 90二次元好きの匿名さん23/10/23(月) 07:41:46

    保守

  • 91二次元好きの匿名さん23/10/23(月) 17:49:22

    保守

  • 92二次元好きの匿名さん23/10/24(火) 00:56:18

    フィルムはまだ終わらない

  • 93二次元好きの匿名さん23/10/24(火) 07:48:04

    フィルムロール
    障がい者スポーツ団体の広告塔、託児所の手伝い

    タマ
    芸能界入り

    イナリ
    大井の顔役(?)、託児所の手伝い

    ウインディちゃん
    サブトレーナー

    イナリはふわっとしているけれど、それぞれ新しい人生を見つけたんだな
    ターフに残った組は何をその先に見つけるんだろう

  • 94二次元好きの匿名さん23/10/24(火) 11:59:50

    保守

  • 95二次元好きの匿名さん23/10/24(火) 20:16:30

    保守

  • 96二次元好きの匿名さん23/10/25(水) 00:29:48

    保守

  • 97二次元好きの匿名さん23/10/25(水) 06:49:19

    保守

  • 98二次元好きの匿名さん23/10/25(水) 16:56:36

    待ってます

  • 99二次元好きの匿名さん23/10/25(水) 21:42:01

    また間が空いてしまってすみません
    今回も感想と保守をありがとうございました
    続けます

  • 100二次元好きの匿名さん23/10/25(水) 22:21:24

    『100を切った! 先頭はヤエノムテキ! そしてメジロアルダン追った!』

    『並んだ並んだ、オグリキャップは6番手! ゴールイン!!』

    それは、ヤエノムテキにとって忘れられないレースとなった。
    秋の天皇賞の大舞台。そして、アタマ差で競り勝った相手は居場所を守ると決めた友。

    2度の長期休養を乗り越え、ターフへと戻って来たメジロアルダン。
    彼女と全力の勝負を制した上で、自身も皐月賞からずっと遠ざかっていたG1タイトルを得た。
    一生ものの思い出と言っても、過言ではないだろう。

    「それでは、勝利したヤエノムテキさんにインタビューです!」

    白手袋をしたもう一人の師が受け取った盾を掲げる横で、勝者として称えられる。
    彼女は達成感に満ちていた。

    「ところで、オグリキャップさんは6着となってしまいましたが……」

    そんな中で、周囲の記者たちが眉を顰めるような無粋な質問が飛んでくる。
    勝利の余韻に浸る主役に投げかける問いではないだろうと――だが、受け手は落ち着き払っていた。

  • 101二次元好きの匿名さん23/10/25(水) 22:37:00

    「オグリさんが調子を落としているのは気がかりです。限界説が囁かれていることも存じております」

    静かに瞑目してから数拍置いて、カッと瞼が開かれる。
    武人の瞳には炎が燃えていた――が、それは暴を伴うものではなかった。
    確かな熱気を宿しながら、何かを焼くのではなく……暗闇を照らす篝火のように。

    「ですが、私は振り返りません。そのような事をして勝てる相手ではないと、知っているつもりです」
    「必ずオグリさんは復活してきます。私は全力で戦うのみです」

    武人たる堂々とした回答には、拍手が沸き起こった。
    かつて、世代の中心は己等ではないという風潮への憤りを覚えていた少女はそこにはいない。
    だってその少女は、知ってしまったのだ。
    持て囃されているという結果ばかりを目にしていたアイドルウマ娘の心を。

    己と同じ誓いを立て、走り続けていることを。

  • 102二次元好きの匿名さん23/10/25(水) 23:04:09

    『……誰も、私のことなんて待ってないかもしれませんけど』

    今日の勝利に至る大きな転換点となった、あの日の会話を思い出す。
    アルダンと同じく2度目の大怪我を負い、そして未だターフへ戻ってこられないもう一人の友。
    サクラチヨノオーの言の葉を。

    『時間が経てば経つほど、私は忘れられていくのに……』

    打ち捨てられた子犬のように零す友へ向けて、ヤエノムテキは吠えた。
    私がいると。私が走り続けていれば、そのたびに、観衆は二人の走りを思い返すだろうと。

    その想いは、オグリキャップとタマモクロスの人気を通して「執着」へと変わり、己の走りを支えた。
    自分のためだけでも、彼女たちのためだけでもなかったからこそ、その激情が消えることはなかった。
    だからこそ、あの誓いがどれだけ重いものかをヤエノムテキをよく知っている。
    ……その誓いを、二度とターフに戻れないと定められた友に対して立てることの意味も、よく知っている。

    はじめは内なる暴と闘いながら聞いていた、かのスターのインタビュー。
    そこで繰り返し同じ名が呼ばれていることに気づいてからは、同じように狂うことはなくなった。

    『フィルムはまだ終わらない! フィルムはまだ終わらない!』

    彼女が本当に永久に世へ焼き付けたいものが何なのか、ヤエノムテキはよく知っている。

  • 103二次元好きの匿名さん23/10/25(水) 23:16:03

    故に。インタビューで語った言の葉は、忠実に実行された。
    師をはじめとしてお世話になった人々へのお礼の連絡を一通りすると、ヤエノムテキは鍛錬に戻る。
    そこには驕りも、妬みも、あるいは自虐なども一切ない。

    「たぁっ はああ……!」

    オグリキャップは終わらない。必ず、必ずや自ら立てた誓いと共に立ち上がって来る。
    メジロアルダンも負けたままでいるはずがない。彼女の刻みたい永遠はまだ先に在る。
    そして、そしてサクラチヨノオーも戻って来るのだ。絶対に、ターフへ帰ってくる!

    皆に負けない力を。覚悟を。気高き彼女らと競い合い、そして打ち勝つ走りを!
    過去を恥じ、内なる激情を恐れていた彼女は今、真に己を信じられていた。
    一度はそれを成し遂げた自らを疑っては、友に対する侮辱となろう。

    金剛のように磨き上げられた魂は、今日も蹄跡をグランドへと刻んでいる――

  • 104二次元好きの匿名さん23/10/25(水) 23:28:45

    恵みの秋は過ぎ、また一つの年が暮れて行く。
    ウマ娘たちにとって日本一有名な大舞台が、やってくる。

    有マ記念。トゥインクルシリーズに捧げられた数多の願いが集う場所。
    自らも心身を磨き上げたヤエノムテキが信じ抜いた通り……否。
    それ以上に多くのウマ娘たちが、このグランプリへと集った。

    オグリキャップが、このレースを最後と決めてエントリーした。
    スーパークリークも、盟友と共にラストランをするとこの一戦に臨む。
    メジロアルダンは、永遠を刻むためにベストコンディションを整えた。
    メジロライアンは、この錚々たる顔ぶれにも気後れしていない。

    そして……そして、世代のダービーウマ娘もこの頂上決戦に加わった。
    サクラチヨノオーの名が、最後の一枠へと刻まれた。

  • 105二次元好きの匿名さん23/10/25(水) 23:50:39

    走ることが、大好きだった。
    ヴィクトリー倶楽部での教えと仲間たちに支えられて、頑張れた。

    国内最高峰である、中央トレセン学園に入学できた。
    そこでも、素晴らしい友達に恵まれた。

    そしてウマ娘なら誰もが憧れる、ダービーウマ娘になることができた。
    憧れの人が熱望しても出られなかったレースを、勝つことができた。
    誰もが認める直向きな少女の勝利を、たくさんの人が祝ってくれた。

    ……その後には、まるでそれで満足しなさいと諭すような運命が待っていた。
    まず、屈腱炎という重い怪我を負った。それだけなら諦めることはなかった。

    「私が!! 私がおります!」

    クラシックを共に戦った、ヤエノムテキの言葉にも助けられた。
    彼女が守ってくれるという戻る場所へ、必ず辿り着こうとする。

    ……本格化が終わりかけていると告げられたのは、その最中だった。
    青春の全てを捧げているウマ娘たちが、己の全盛期にのみ走れるトゥインクルシリーズ。
    そんな頂へ戻ろうとしている少女にとって、あまりに残酷な診断だった。

  • 106二次元好きの匿名さん23/10/26(木) 00:10:29

    奇跡でも起きなければ、終わり行く全盛期は復帰よりも前に過ぎ去ってしまうと宣告された。
    例えば、とうに引退した憧れのマルゼンスキーが復活して自分を待っているというような、夢物語が。
    しかし……長く永く語られるであろう真紅のスーパーカーも、本格化まで永遠とすることはできない。

    サクラチヨノオーは、昔から聞き分けのいい子だった。
    ダービーウマ娘になれたのに、不幸だなんて言っちゃいけないと自分を納得させようとしていた。
    ――あの日までは。

    『大接戦だあああああああああああああああ!』


    「あ、ああ……!」

    学園でできたお友達の中に、いずれ目が見えなくなるという病に侵された子がいた。
    そして、その運命はよりにもよってラストランの最中に訪れた。
    二度と光を、走っているターフを見ることができない。
    どれだけの恐怖があったか、想像もつかない。

    それでも……その子は、止まらなかった。
    あのタマモクロスに先着し、永世三共と最後の最後まで競り合った。
    その光景は多くの人々と同じように、チヨノオーのフィルムにも焼き付いた。
    そしてその日から、大好きな友だちもまた変わって行ったのだ。

  • 107二次元好きの匿名さん23/10/26(木) 00:20:52

    ダービーで競り合ったメジロアルダンは、あれこそが永遠だと奮起した。
    自分と同じように大怪我をして、さらには元から病弱で、トレーニングすら制限される。
    そんな逆境の中でも弱音一つ吐かずに、ガラスの脚を磨き上げる。

    同じクラシックで戦い、居場所を守ると誓ってくれたヤエノムテキもだ。
    想いを背負った時代の牽引役の本当の強さを知り、その上で戦いを挑む。
    フィルムロールの名を呼ぶライバルのように、自分名を口にしてくれる。

    そこに憧れのスーパーカーはいない。
    しかし、隣に行きたいというあの日の想いが、願いが、散りゆく桜を再び咲かせる。

    「わた……わた、し、もう一度……もう一度、あの中へ……!」

    ボロボロと泣きながら願いを口にすれば、トレーナーは何も言わずにプランを組んでくれた。
    終わりゆく本格化に抗い、永世三強に挑むという無理難題へ挑んでくれた。
    もう一つの三強と名乗りターフで戦う、その日のために!


    そして。今日という日がやってきた。

    奇跡の桜が再び咲く、たった一度の有マ記念が。

  • 108二次元好きの匿名さん23/10/26(木) 00:34:27

    国民的アイドルウマ娘であるオグリキャップが、ラストランで世代のクラシック三冠を分け合った全員と激突する。

    そのニュースは日本全土を駆け巡り、中山レース場には20万に迫る観客が詰めかけた。
    これ以上の入場は認められないと人の流れが締め切られる中、スタンドにも有名人が現れる。
    そのうちの一人は白杖も突けないでいたが、両脇の二人に助けられて席を確保できた。

    芸能界に現れた超新星、障がい者スポーツの希望の星、大井に輝く大輪の花。
    それぞれの今の肩書きだけでも、知名度は十分ではある。
    だがこの場においては、そうした呼び方は不適切だろう。

    白い稲妻が。大井から来た天下人が。
    ……そして終わらないフィルムが、この大一番を見届けにきたのだ。

  • 109二次元好きの匿名さん23/10/26(木) 00:51:09

    「みんな、凄い気合い」
    「おうよ」
    「えらいことになるで」

    暗闇に閉ざされた瞼が閉じきっているというのに、真ん中の少女はそう呟いた。
    "見届ける"にはあまりに辛いハンデを背負っているというのに、全くそれを感じさせない。
    近くの観客は思わず二度見するが、両隣の二人はさも当然とばかりに相槌を打つ。
    彼女たちにとっては、2年も前からわかっていたことなのだから。

    光を失おうとも、フィルムロールは自分たちの本気を"視て"くれるのだと。

    「クリークの足は、どうなんや?」
    「痛みはいつ出るかわからねえ。それでも走るってよ」
    「うん、クリークちゃんが決めたことだから」

    あちこちのテレビ局に引っ張られていたタマモクロスの問いに、託児所を手伝う二人が答える。

    「そうか」

    そして、情報を共有した後は誰もそれに口を挟まなかった。

    2年も前からわかっていたことだ。走ると決めたライバルの覚悟を踏み躙るような者は、この場にいない。
    だからこそ彼女たちは、特等席のオファーを丁重に断ってここに立っているのだ。
    1メートルでも、1センチでも近くで。ターフの傍でこの戦いを見せて欲しいと。

  • 110二次元好きの匿名さん23/10/26(木) 00:58:00

    「オグリちゃんも、大丈夫そうだね」

    ジャパンカップの大敗で限界説が強まり、引退を懇願されるまでになったもう一人のライバルに対しても。
    フィルムロールは余計な心配などせず、ただ真っすぐに鼓動のする方へ耳を立てている。

    「おう。すれ違う時に一発入れてやろうかとも思ったけどよ、やめた。ありゃいらねえわ」

    この世紀の一戦に先立って引退式をしてきたイナリワンも、確信をもって腕を組んでいた。
    堂々たる笑みを見るや、何かと口喧嘩をする仲のタマモクロスも同調して口元を釣り上げる。

    「それでええねん。自分が誰だかよくわかっとるんやろ」

  • 111二次元好きの匿名さん23/10/26(木) 01:00:13

    「お前は」

    「お前さんは」

    「あなたは」

    『各ウマ娘、ゲートイン完了。気合が乗ります――』


                       オグリキャップなんだから。


    『スタートしました!』

  • 112二次元好きの匿名さん23/10/26(木) 01:27:15

    トゥインクルシリーズにおける第35回有マ記念は、今なお名レースとして語り継がれている。

    前年の鳴尾記念を制した逃げウマ娘が切った抜群のスタートは、教科書に載せられると評判だ。
    2年前のあの子のスタートが目に焼き付いていたからと、後に彼女は同じG2ウマ娘の名を挙げた。

    先頭が確立したことで、夏のグランプリウマ娘は得意の好位追走を始めた。
    同じく先行の得意な良きライバルたちと共に、年末の大一番に相応しいペースを形作る。


    鍛えることが許されないという苦境を乗り越え、身体を絞ってきたメジロアルダンの走りは冴えていた。
    G1ウマ娘がこれほど集った中にあっても、見劣りしない先行力を見せつける。
    家族から出走すら難色を示された病弱なウマ娘は確かに、この大舞台で対等に戦っていた。

    好位を奪い合っているのは、奇跡の復活を果たしたオグリ世代のダービーウマ娘・サクラチヨノオー。
    安田記念でも宝塚記念でも大敗したはずの脚は、まるで世代の頂点を獲ったあの日のように力強い。
    この走りを見て、本格化が終わろうとしている可哀想なウマ娘などと哀れむ者はいないだろう。

    中団にかけて位置取るウマ娘たちも負けてはいない。ヤエノムテキはペースと完全に折り合っていた。
    ターフをもう一周してしまいそうな激情を恐れることなく、2500メートルへ己の持つ全てを注いでいる。
    暴走する気配など欠片もない……必殺の一撃を狙う達人のような鋭さが、皐月賞ウマ娘の脚に宿る。

  • 113二次元好きの匿名さん23/10/26(木) 01:38:07

    彼女たちを超えんとする、新世代のウマ娘たちの気迫も十分だ。
    1番人気に推されたクラシックウマ娘は、その人気に恥じないキレを見せる。
    冠にこそ手は届かなかったものの、観客たちの目は決して節穴ではない。

    そしてこれだけの強者が戦う中にあっても、メジロライアンの心は揺らがなかった。
    マックイーンが、メジロ家が、といった悩みは頭の片隅にすら浮かばない。

    感じるのだ。皆の覚悟を。その中で一人弱気の虫に囚われてなんかいたくない。
    この壮大なレースに送り出してくれた家族に、全身で示したい。
    堂々と戦っているんだって。勝ちに行くんだって!

    互いが全身全霊をぶつけ合う名レース。
    誰もが死力を尽くす有マ記念。

    ……異変が起きたのは、中盤だった。

  • 114二次元好きの匿名さん23/10/26(木) 01:39:57

    当時の有マも領域入りした子のエネルギーは失明後も見えていたが、
    ひょっとして……?

  • 115二次元好きの匿名さん23/10/26(木) 01:41:12

    好位を奪い合っていた一角が、崩れた。



    どうして今なんだ。
    2年前に発せられた問いが、嘆きが、またもターフへ投げかけられる。



    スーパークリークの繋靭帯炎は、ラストランの終わりまで待ってくれなかったのだ。

  • 116二次元好きの匿名さん23/10/26(木) 01:43:31

    うわーこれかあ
    物事とはいつも間が悪いものとはいえ……

  • 117二次元好きの匿名さん23/10/26(木) 01:48:37

    前めにつけていたからこそ、観客だけでなく参加するウマ娘たちの大半も察知した。
    クリークの脚に、耐えがたい激痛が走っていることを。

    オグリキャップのラストランに、世代の三冠を分け合った全員がやってきた。
    ダービーウマ娘と共に奇跡の復活を果たした菊花賞ウマ娘
    オグリキャップと長く渡り合ってきた天皇賞ウマ娘が共に走る。
    そんな素晴らしい光景が広がるはずだったのに。

    どうして、どうして今なんだ。

    20万人の観客は嘆きかけ……


    そして、息を呑む。


    ズルズルと後退しているはずの彼女の気迫が、消えていない。
    レースなど走ったこともない、種族すら異なる人間の観客たちすらそう感じ取った。

  • 118二次元好きの匿名さん23/10/26(木) 01:52:16

    精神が肉体を凌駕しつつある……これがフィルムの衝撃……

  • 119二次元好きの匿名さん23/10/26(木) 01:55:44

    耐え難い苦痛の筈だ。
    競争を中止しても咎める者などいないほどの、激痛の筈だ。
    そうでなければ、繋靭帯炎は競争ウマ娘の癌などとは呼ばれない。

    それでも、スーパークリークは止まらない。
    共にリハビリをしたサクラチヨノオーが、涙を残して走り去ろうとも。
    誰よりも痛みを知るだけに、唇を噛んでいるメジロアルダンに置き去りにされても。
    目を見開いたヤエノムテキやメジロライアンに追い抜かされようとも――

    ――終わったと言われるオグリキャップにすら、並ぶことができなくなっても。

    その訳を、覚悟を知らない者はこのターフにはいない。
    必死の形相で彼女が何を見つめているか、トゥインクルシリーズを走る者が知らない筈はない。

  • 120二次元好きの匿名さん23/10/26(木) 02:00:54

    2年前。スタンドから声を張り上げる、もう一人の同期の誰よりも近くでゴールした。
    光を失ったあの子に本気をぶつけ、そしてあの子の本気を全身で受け止めた。


    あの時確かに、今日に負けない大観衆のフィルムに焼き付いたあの光景の一員だったのだ。



    そんな自分が。スーパークリークが、ここで止まるわけにはいかない。



    最後の一完歩まで本気でいられなかったら、あの輝きを覚えていてなんて言えないのだから!

  • 121二次元好きの匿名さん23/10/26(木) 02:10:23

    好位を占めていた一角が崩れてもなお……いや。
    崩れてから、さらにレースは白熱する。

    これだけの想いを見て燃えないウマ娘が、有マ記念に出られるはずがない。

    夏のグランプリウマ娘が。
    1番人気のクラシックウマ娘が。
    メジロライアンが。
    メジロアルダンが。
    ヤエノムテキが。
    サクラチヨノオーが。

    その想いを背負い、暮れの中山を駆け抜ける。

    ……オグリキャップにとって、何一つ有利に働く材料はなかった筈だ。
    本質的にマイラーである彼女ならスローペースになればあるいは、とレース前に予想されていた。
    今の展開はそれとは程遠く、2500メートルの全てが、終わったとされる彼女を苦しめただろう。

  • 122二次元好きの匿名さん23/10/26(木) 02:15:22

    そういえば本来のオグリのラストランは周囲やレース展開のチャンスを最高のコンディションでものにしたんだっけか

  • 123二次元好きの匿名さん23/10/26(木) 02:15:28

    トゥインクルシリーズにおける第35回有マ記念は、今なお名レースとして語り継がれている。
    数多くの有識者が時代を超えてこの一戦を語ってきた。研究してきた。分析してきた。

    そしてなおも、その後に起きた出来事を解説できないでいる。

    G1ウマ娘の集ったグランプリ。
    各々が得意な位置で存分に力を発揮した展開。
    マイル戦とは程遠い、長きに渡る激闘。
    もう負ける姿は見たくないと言われるほど衰えた身体。

    オグリキャップには逆風しか吹いていなかったはずだ。
    それでもその背を押すものがあったとすれば、それは。

  • 124二次元好きの匿名さん23/10/26(木) 02:16:04

    それは――










                                         ――

  • 125二次元好きの匿名さん23/10/26(木) 02:19:39

    ――





    『オグリちゃんと最後に大勝負ができて』


    『私は、幸せなウマ娘です』





    ――

  • 126二次元好きの匿名さん23/10/26(木) 02:20:35

    .









    「……あ゛あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

    .

  • 127二次元好きの匿名さん23/10/26(木) 02:26:20

    ―― もし、叶うのなら


    『オグリキャップ先頭か!? オグリキャップ先頭に立つか!?』


    ―― どうか、覚えていてほしい


    『ジョージ! ストーン! ライアンか!?』


    ―― 空けない夜に瞳が覆われても


    『アルダン! ヤエノ! チヨノオー!』


    ―― 暗がりの中に温かさはあると教えてくれた貴方に


    『ライアン来た! ライアン来た! しかしオグリ先頭!』


    私という光を――

  • 128二次元好きの匿名さん23/10/26(木) 02:28:05

    『オグリ1着!』



    『オグリ1着! オグリ1着! オグリ1着!』



    『見事に引退レース……引退の花道を飾りましたっ』



    『スーパーウマ娘です……オグリキャップです!!』

  • 129二次元好きの匿名さん23/10/26(木) 02:36:14

    掲げられた左腕に、万雷のオグリコールが降り注ぐ。
    勝利が確信し、そこで初めて奇跡の体現者は振り返る。

    そして自分と闘いに来てくれた皐月賞ウマ娘、ダービーウマ娘と共に、菊花賞ウマ娘を迎えに行った。

    誰もが、泣いていた。抱き合ったまま、涙を止められないでいた。


    それが、彼女のラストラン。
    2年前の光景に重ね合わせるようにして、トゥインクルシリーズへ焼き付けられた奇跡。

    生涯の闇すら貫いて、もう一つの奇跡の持ち主へと届けられた輝きが、永遠の熱をその胸に――……

  • 130二次元好きの匿名さん23/10/26(木) 02:40:53

    ”これが、私のラストラン”


    "もし、叶うのなら"


    "奇跡の様な結末を魅せてくれた君に"


    "どうか、覚えていて欲しい"


    "空けない夜を迎えても走り抜いた"


    "暗がりすら温かいと言ってくれた君に"



    "私たちという、光を"

  • 131二次元好きの匿名さん23/10/26(木) 02:41:57

    まさにミラクルラン
    全てに焼き付けて時計の針のように最後の勝利が一周してきた

  • 132二次元好きの匿名さん23/10/26(木) 02:44:38

    この物語は、ここまでとなります

    保守してくれた方々
    感想をくれた方々
    名馬の肖像やイラストを贈ってくれた方

    皆さんのおかげで、完結できました
    ありがとうございました……それでは

  • 133二次元好きの匿名さん23/10/26(木) 02:52:51

    いけない、最後にもう一言だけ……

    彼女にフィルムロールという名を贈ってくれた方に、厚く御礼を申し上げます
    この名前がなければ、そもそもこの続きを書こうと思い立たなかったと思います
    本当にありがとうございました

    今度こそ、おやすみなさい

  • 134二次元好きの匿名さん23/10/26(木) 02:54:21

    いつも拝見してました
    2スレに渡っての執筆お疲れ様でした

    ダイス神の気まぐれでタマちゃんが選ばれてからここまで話が広がるとは…
    史実も絡めて拾っていく手腕、お見事でした

  • 135二次元好きの匿名さん23/10/26(木) 02:54:25

    お疲れ様でした
    良い後日談をありがとう
    また読み返そう……

  • 136二次元好きの匿名さん23/10/26(木) 06:29:06

    Q:どうしてこの条件で勝てるの?
    A:彼女が誰だかわかってるのか? オグリキャップやぞ

  • 137二次元好きの匿名さん23/10/26(木) 08:08:30

    ネバーギブアップ
    恐れぬ心
    内的体験
    昂る鼓動
    無我夢中
    ふり絞り
    聖夜のミラクルラン!
    ノンストップガール
    キミと勝ちたい
    限界の先へ
    想いを背負って
    トップギア
    全身全霊
    勝利の鼓動

  • 138二次元好きの匿名さん23/10/26(木) 08:53:47

    Q.神を信じますか?
    A.中山で見た

  • 139二次元好きの匿名さん23/10/26(木) 10:15:16

    「六強じゃん……」

    「いや……八強だったんだ」

  • 140二次元好きの匿名さん23/10/26(木) 12:53:14

    この世界線の人たちはフィルムロールの奇跡→彼女と競ったイナリのテッペン→オグリキャップの奇跡で3年がかりのドラマを見てるのか
    大丈夫? 脳みそ焼けてない?

  • 141二次元好きの匿名さん23/10/26(木) 13:15:17

    改めて良い名前だなフィルムロールって、病気で厳しいってわかっていても誰かの記憶に残るようにって想いでつけられてそう

  • 142二次元好きの匿名さん23/10/26(木) 14:44:26

    誰か(十数万人)

  • 143二次元好きの匿名さん23/10/26(木) 17:01:16

    あの世界観だとテレビ中継も大々的にされてるだろうから、桁が上がることも十分あり得るんじゃ?
    現実の競馬よりファミリー層にも浸透してるし

  • 144二次元好きの匿名さん23/10/26(木) 17:36:20

    改めて見てみて閃光と言うより残光って感じの子だったな、先へ進んでいく人達を包む優しい光

  • 145二次元好きの匿名さん23/10/26(木) 20:16:07

    どうしよう
    フィルムロールがいる世界のこの子たちの育成シナリオをやりたくてしょうがない

  • 146二次元好きの匿名さん23/10/26(木) 20:25:53

    >>133

    名前を喜んでくれたなら嬉しいです。後からになりますが、実を言うとフィルムロールの名前には「みんなの思い出に焼き付く景色」の他にも少しばかり込めた願いがありまして……近代、技術の発展と共に写真は誰もが手軽に、その手に持つ携帯機で撮影が可能になりました。

    それでも、未だに少し古いカメラを使って風景をフィルムに焼き付ける人がいるように、彼女が永く愛される様にという名前なんですよね。

  • 147二次元好きの匿名さん23/10/26(木) 20:33:42

    >>145

    トレーナーの脳はマジでコゲコゲ

  • 148二次元好きの匿名さん23/10/26(木) 22:18:46

    >>51

    作中のウマ娘レースの人気を考えると、ワンチャン本当に映画化されそう

  • 149二次元好きの匿名さん23/10/26(木) 22:41:06

    主人公のオグリと光を失いながら最後の最後まで競り合って
    肩を組んでライブして、その姿を瞼の裏に焼き付けて引退
    そして奇跡のラストランを呼ぶカギとなる……

    すごくすごい美味しいポジションだな!?

  • 150二次元好きの匿名さん23/10/26(木) 23:06:21

    ※イカ焼きの定義をめぐって喧嘩するギャグシーンが先です

  • 151二次元好きの匿名さん23/10/26(木) 23:30:48

    ラストランの後にみんなで食事に行って、大人げなくイカ焼きについてまた揉めて欲しい
    お前ら感動を返せって突っ込まれて、賑やかに笑ってて欲しい

オススメ

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