(SS注意)ネオユニヴァースがトレーナーを調査する話

  • 1二次元好きの匿名さん24/03/28(木) 01:16:33

     ネオユニヴァースは、『異変』を感じていた。

     いつもは基本的にトレーナー室にいるはずのトレーナーが、最近は良く他の場所にいること。
     そして、その場所については、自身に教えてくれないこと。
     聞いてみてもはぐらかされて、一目から隠れるようにこそこそとしていること。
     ────自分と一緒に居る時間が、僅かながらに減っていること。

    「これは……“MYS”、謎の解明には、“観測”が必要不可欠」

     ────というわけで、ネオユニヴァースはトレーナーの尾行を行うことにした。
     トレーナー室にいると、所用などの誤魔化されてしまうので、トレーナー室から少し離れた場所で待機。
     そして、トレーナーが部屋を出たのを見計らって、こっそりと距離をとりながら追跡を始める。

    「トレーナーの“視界”と“聴覚”を“解析”、この“パーセク”なら“NPB”」

     ネオユニヴァースに尾行の経験はない。
     しかし、トレーナーに対する観察眼と知識、そして抜きんでた聡明さは兼ね揃えている。
     故に計算によって導き出された安全マージンを保ち、苦も無く尾行を継続することが出来ていた。
     ……周囲から、かなり目立ってはいたが。
     やがてトレーナーは食堂へと辿りつき、担当の人と少しばかり会話を交わす。

    「んんっ……ネガティブ、“交信”の内容を“傍受”することは“EXDFF”かな」

  • 2二次元好きの匿名さん24/03/28(木) 01:16:48

     物陰から耳をぴょこぴょこ動かしながら、ネオユニヴァースは何とか会話の内容を探ろうとする。
     しかし、トレーナーから気づかれない距離を維持したままでは、聞き取ることは出来なかった。
     やがて、担当の人が調理室へと引っ込み、そして手に何かを持って戻ってくる。
     トレーナーは頭を下げながら、それを受け取った。
     遠目からではあったが、ネオユニヴァースには、それがなんであるかを理解することが出来た。
     それは彼女の、『好物』だったから。
     マメ科の一年草の種子を煮つめた汁を塩化マグネシウムや硫酸カルシウムで凝固させた加工物。
     上質なタンパク質を有する食用品。
     それは、いわゆる。

    「……『豆腐』?」

     ネオユニヴァースはぽそりと呟いて、首を傾げる。
     単純に食べたいから受け取ったとすれば、それを彼女に隠す理由はないだろう。
     豆腐を使って、隠れて、何かをしていると考えるのが妥当だ。
     その『何か』が具体的になんであるかは、頭脳明晰な彼女ですら読み解くことは出来なかった。

    「トレーナーの目的は“ダークマター”、“THRF”調査は“継続”だね」

     また別のところへ向かおうとするトレーナーを、ネオユニヴァースは追いかける。
     その口元には、小さな笑みが浮かんでいた。

  • 3二次元好きの匿名さん24/03/28(木) 01:17:14

    「ここは、『調理室』?」

     次いでトレーナーは、調理室へと入室した。
     ネオユニヴァースも何度か利用したことがあるが、トレーナーが使っているのは見たことがない。
     そもそも、彼が料理をしている姿すら、見たことがなかった。
     彼女の頭の中に、エプロンを付けたトレーナーの姿が浮かび上がる。
     いつものような優しげな笑顔で、毎朝、豆腐の味噌汁を作ってくれる、トレーナーの姿が。

    「……アファーマティブ、『悪くない』をしているね」

     口元を隠しながら、ネオユニヴァースはくすくすと笑う。
     楽しそうに尻尾を揺らめかせながら、中の様子を覗き見ようと、扉へと近づく。
     ────刹那、中から人の出て来る気配。
     彼女の耳がピンと立ち上がり、少し慌てた様子で、物陰へと隠れた。

    「借りといてアレだけど、何で調理室にこれがあるんだろうなあ」

     不思議そうな顔でぼやきながら、トレーナーは出て来た。
     何か、少し重そうな、円筒型の、炉のような器具を抱えて、いくらかの調味料と共に。
     それはネオユニヴァースにとって、未知の存在であった。

    「素材は“SiO2”、中にはいっているのは“木炭”? “燃料”に使う……?」

     予測の材料は増えているのに、ネオユニヴァースは、未だに答えを見いだせない。
     彼女の中では、この先の未来は、まさしく『未知数』であった。
     彼女の口元が、さらに深い笑みの形をとる。

    「これは“CETI”……この機会は『逃せない』、ふふっ、『ドキドキ』だね」

  • 4二次元好きの匿名さん24/03/28(木) 01:17:29

     それからしばらくして、トレーナーは人気のない裏庭へと辿り着いた。
     道すがらバケツを回収して、近くの蛇口で水を汲んでから、彼は器具の中の木炭に火をつけ始める。
     それと同時に何かをしているようだったが────ネオユニヴァースにはそれが視認できない。
     そこは物陰が少なく、ネオユニヴァースもかなりの距離を取らざるを得なかったのだ。
     彼女は少しだけ悩んで、判断する。

    「“LODI”の“観測”は“MIP”……だから“実地調査”に切り替え」

     そう言って、ネオユニヴァースは堂々と姿を現して、トレーナーへと近づいていく。
     作業に夢中でそれに気づかないトレーナーに、少しだけむっとしながらも、彼女は彼の背中をとんとんと叩いた。
     びくりと彼の身体が震えて、慌てた様子で振り向いた。

    「うわっ!? えっと、ちゃんとたづなさんからの許可は……!」
    「ハローハロー、トレーナー、ネオユニヴァースだよ」
    「……ネオ?」

     ぽかん、とした様子でネオユニヴァースを見つめるトレーナー。
     彼女はその表情に少しばかり溜飲を下げながら、彼の手もとを覗き見る。

     そこには────金串に刺さった角切りの豆腐があった。

     ネオユニヴァースのの視線の先に気づいて、トレーナーはしまった、という顔をした。

  • 5二次元好きの匿名さん24/03/28(木) 01:17:43

    「あちゃあ……バレちゃったか」
    「……それは?」
    「誕生日にご馳走しようと思って練習していたんだけど……まあ仕方ないな」

     トレーナーは苦笑しながら、ネタバラシをするように、手元の光景を晒す。
     串に刺さった豆腐、中に火のついた木炭の入った円筒型の器具、いくらかの調味料。
     彼の口振りからして、何か食べ物を作ろうとしているのは、ネオユニヴァースにも理解出来た。
     しかし、その料理の中身がわからない。
     謎が一つ解明されたと思えば、また新たな謎が生まれる。
     それはまるで宇宙の真理を求めているかの如く。
     その謎の繰り返しに────ネオユニヴァースの胸は、大きく高鳴った。

    「“マグネター”……! ネオユニヴァースは、とても『知りたい』をしている……!」
    「まあ、そうなるよな……わかった、ネオ、ちょっと味見をお願い出来るかな?」

     ネオユニヴァースは、目を満天の星空のように輝かせながら、何度も頷いてみせた。

  • 6二次元好きの匿名さん24/03/28(木) 01:18:00

    「……『七輪』?」
    「そっ、トレーナー寮で使うわけにもいかないからさ、ここでやらせてもらってるんだ」

     トレーナーは十分に温まった七輪に小さな鍋を乗せて、調味料を混ぜ合わせながら煮詰めていく。
     しばらくして、とろみのついた『たれ』の味を確認して、彼は満足気に頷いた。
     その光景を、ネオユニヴァースは、物欲しそうな顔で見つめている。

    「ネオユニヴァースも“味覚”を“共感”したい……!」
    「まだダーメ、この味噌の味は完成してからのお楽しみにってことで」
    「……『いじわる』」

     ネオユニヴァースは不満げに唇を尖らせる。
     そんな年相応な姿を見せる彼女に、トレーナーは目を細めながら、先ほどの串に刺さった豆腐を取り出した。
     それを見て、彼女は不思議そうな表情を浮かべる。

    「……“崩壊”していない、そんな“負荷”を与えれば“DSTY”しそうだけど」
    「事前に食堂の方で水を切ってもらっていたからね、こうすると結構固くなるんだ」

     そして、トレーナーは弱火に調節した七輪で、豆腐を焼き始めた。
     じっくりと焼き上げている間、二人は何故か言葉を発さずに、ただ豆腐を見つめ続けている。
     しばらくすると、香ばしい匂いが立ちこめはじめて、彼は串をくるりと回転させた。
     程良い焼き目のついた豆腐を見て、ネオユニヴァースは耳をぴこぴこと動かしてしまう。

  • 7二次元好きの匿名さん24/03/28(木) 01:18:13

    「この匂い、見た目、とっても“CONF”」
    「あはは、良い焼き加減だよね……でもね、ネオ、ここから本番なんだ」
    「“UNBL”……ここから更に“EVLT”を……?」
    「ああ、ここでさっき作った甘味噌を、と」

     トレーナーは、焼けた豆腐の表面に先ほど作っていたたれを塗りつけて、さらに焼いていく。
     するとどうだろう、炒った大豆の匂いに混じり、焼けた味噌の匂いが立ち上り始める。
     人によってはそれだけでご飯を食べられそうなほどに、食欲をそそる芳しい香り。
     ふと、くぅ、と小さな音が聞こえて来る。
     ちらりと彼が音の方向を見やれば、ネオユニヴァースが頬を染めて、恥ずかしそうにお腹を押さえていた。

    「あぅ……この“TRYK”に、ネオユニヴァースの『胃袋』は“チャンドラセカール限界”」
    「もうちょっとで出来上がるから、我慢してね、ネオ」
    「……うん」

     こくりと頷くネオユニヴァースの頭を軽く撫でて、トレーナーは七輪に集中する。
     そして、豆腐の表面が絶妙な塩梅で焼き上がったのを見て、彼は串ごと、彼女に差し出した。

    「はい、豆腐田楽の完成、火傷しないように気を付けて食べてね」
    「……!」

     出来上がったそれを見て、ネオユニヴァースは言葉を失ってしまった。
     今の彼女にとって、どんな宇宙の神秘よりも、神々しく見えていたから。
     彼女はそれを恐る恐る受け取って、しばらく、目で楽しむようにじっと見つめる。
     やがて、小さく口をすぼめて、ふーふーと冷ますように息を吹きかけると、かぷりとかじりついた。

  • 8二次元好きの匿名さん24/03/28(木) 01:18:30

    「────ビックバン」

     ネオユニヴァースは目を見開き、耳と尻尾をピンと逆立てて、ぶるりと身震いする。
     やがて、顔をふにゃりと緩ませ、耳をぴこぴこと動かし、尻尾をぶんぶん振り回しながら、彼女は感想を口にした。

    「スフィーラ……! とってもスフィーラだよ、トレーナー……!」
    「そっか、喜んでくれて良かった」
    「これが幸せの“FELT”、ネオユニヴァースは見つけたよ、“EVEU”、やっと、“真理”を……!」
    「そこまで……? まっ、まあ、気に入ってくれたのなら、それは全部食べて良いよ」
    「………………ネガティブ」

     トレーナーの言葉に、ネオユニヴァースはすんと落ち着いて、そっと首を横に振った。
     そして彼女は、食べかけの豆腐田楽を彼に向けて差し出して、柔らかな微笑みを浮かべる。

    「わたしは、あなたと“同期”したい」
    「……ネオ?」
    「『嬉しい』も『悲しい』も、『楽しい』も『つらい』も、『美味しい』も『美味しくない』も、ずっと一緒に」
    「……そっか、うん、そうだね」

     どこか遠くを見つめるように語るネオユニヴァースに、トレーナーは頷く。
     それはいつかどこかの宇宙で、二人が辿り着くことが出来なかった未来。
     そして、確かな愛によって、二人が辿りついた、新しい宇宙。
     気が付けば二人は見つめ合っていて、それが少し恥ずかしくなった彼女は、誤魔化すように照れ笑いをする。

    「えへへ……だからネオユニヴァースは、トレーナーと『はんぶんこ』を、したいな?」

     トレーナーに、断る理由はなかった。
     差し出された豆腐田楽を受け取り、そして思い出したように、彼は言葉を口にする。

  • 9二次元好きの匿名さん24/03/28(木) 01:18:45

    「それにしてもネオの口に合って本当に良かったよ、他の子にも食べてもらった甲斐があった」
    「……他の子?」
    「ああ、レシピとか協力してもらってさ、そのお礼がてら試食をしてもらったんだよ」
    「…………“MUTX”?」
    「まあ、そんなには多くないけどね、何人かに────ネオ?」

     ふと、トレーナーはネオユニヴァースの様子の変化に気づく。
     先ほどまでにこやかだった彼女の様子は、あからさまに不満げな、少し怒ってるような状態になった。
     突然の豹変に、彼は呆気に取られてしまう。
     すると彼女はその隙に、彼の手から豆腐田楽を取り返して、ジトっとした目つきで彼を見つめた。

    「ネオユニヴァースは今、『めっちゃムカつく』をしているよ」
    「えっ」
    「トレーナーが“CSNV”……『浮気者』だから」
    「ええっ!?」

     全く心当たりのないトレーナーは、ただただ驚愕の声を上げるしかなかった。
     そんな彼を尻目に、ネオユニヴァースは勢い良く、豆腐田楽を食べ進めて行く。
     時折、熱さで止まりながらも、あっという間に串は空っぽになってしまう。

    「……『ご馳走様でした』」
    「あっ、はい、お粗末様でした」
    「トレーナー、これからは誰かに『豆腐田楽』を作るのは“FOBN”」
    「へっ? いやまあ、それは構わないけど、何故……?」

     困惑するトレーナーに、ネオユニヴァースは微かに眉を顰める。
     やがて彼女は少し表情を引き締めると、彼に身体を寄せて、ぎゅっと腕を絡めた。
     そして、その耳元に顔を近づけると、囁くような声色で、そっと言葉を紡ぐ。

    「『ひとり占め』、したいから、『豆腐田楽』も────トレーナーも」

  • 10二次元好きの匿名さん24/03/28(木) 01:19:10

    お わ り
    とあるスレでアイディアを頂いて書いたSSです

  • 11二次元好きの匿名さん24/03/28(木) 01:20:43

    軽い気持ちで豆腐田楽のレスしたら良SSで帰ってきて草
    たまげたなあ

  • 12二次元好きの匿名さん24/03/28(木) 01:23:16

    ユニさんの感情表現がかわいらしい
    素晴らしいものを読めた
    とてもイエスだね

  • 13二次元好きの匿名さん24/03/28(木) 02:39:43

    深夜に素晴らしいものを見た

  • 14124/03/28(木) 08:49:33

    >>11

    その節はありがとうございます

    >>12

    三人称で苦労したのてそう言うてもらえると嬉しい😃

    >>13

    そう言っていただけると幸いです

  • 15二次元好きの匿名さん24/03/28(木) 14:14:20

    ネオユニってウマ娘の中でもトップクラスにエミュ難しいのにすごい。ほっこりした……良きお話でした。

  • 16124/03/28(木) 19:08:42

    >>15

    もっと増えるといいんですけどね……

    感想ありがとうございます

オススメ

このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています