【SS注意】スタンバイフェイズ3

  • 1124/05/22(水) 22:02:52

    「わぁっ…!」
    ピケルは格子窓のガラスに顔を押し付けながら感嘆の声を上げた。
    「マスター!あれあれ!おそと見るのです!」
    「はいはい」
    そのはしゃぎっぷりをやれやれと諭すはロッキングチェアに揺られながら赤の毛玉を針で弄ってる彼女の所有者。マフラーの完成まであと少し。

    ピケルがはしゃぐのも無理からぬこと。というのも『雪』は彼女の住む温暖な精霊界の地域では決して見られぬものであり、視覚的にわかりやすく、そして幻想的な景色はピケルの少女心をたちまち奪ったのだ。
    ……まあそれを知ったのが昨日のテレビの中継なわけだが。
    『マスター!ここにも雪って降るのですかぁ!?』
    『んー?まあ、祈ってたら降るんじゃないの』
    『あたしそしたらこの他の子達がやってるソリってやつ、やってみたいですの!!』
    『降ったらねー』
    昨日はそんな適当な応対をした主人であったが白魔導師は見事奇跡を起こしてみせたのだからたまらない。

    「でも家にソリなんてないしなぁ」
    「ええっ!?じゃああたしを騙したんですの?!」
    「騙したわけ」
    「ひどいのです!ひどいのです!」
    主人のユニークな肯定から返ってきたのは非常に素直で少し真っ当な駄々こね。主人は思ったことをそのまま口に出すピケルの事は好きだったがそれは必ずしもプラスに傾くわけではないのだ。
    「ソリ!あたしもテレビの子達みたいに雪を滑るのです!」
    「神の宣告」
    「あー!!禁止令なのですぅ!」
    「スペルスピードが違います」
    けれどもそれは我儘と紙一重。自分の約束を反故されたのをいいことにピケルの欲求はヒートアップしていく。
    「もうこんな狭いお家懲り懲りなのですぅ!外で滑りたいのですぅ!」
    「滑るのですぅ!遠くておっきい雪山でツルツルするのですぅ!」
    「そしておてて繋いでマスターと帰るのですぅ!」

    「そうは言っても…」
    主人は溜息と共に記憶を脳裏に吐き出す。

  • 2124/05/22(水) 22:03:17

    ピケルが彼の家に居候してるのは訳がある。ピケルは過去、彼にさんざお世話になってなんとか片道切符だったはずの精霊界へと帰ることが出来た。しかしそれも長くは続かず外の楽しさを知ったピケルは武者修行だと適当な出任せ並べてまた人間界に来てしまった経緯がある。

    『どうかうちのわがまま王女を更生させてください』とでも言いたげな疲労に満ちた使用人の瞳が未だに忘れられない。外だとか自分に会いたかったとは言っていたがその実、魔法の勉強から逃げ出したいところもあったに違いない。天真爛漫王女様(仮)、ここに極まれり。

    だからこそピケルにこれ以上良い気になってもらっては困る。彼女も我慢を覚えなければいけないお年頃。
    彼は仕方なく禁止カードを切った。

    「いいのかい、そんなに我儘だとクランって子に女王の座を奪われてしまうよ」
    「むっ…」
    ピケルには不仲で有名の姉がいる。彼自身そのクランという魔法少女との面識はないが少なくともピケルよりはしっかりしてることは把握していた。

    「お姉ちゃんなんでしょ?このまま行けばピケルは落ちぶれて…残飯を漁る日々になるよ」
    「あ、あんなやつ。お姉ちゃんなんかじゃないのです。魔法の実力もすぐあたしが追い越すのです」
    「あっ、いや実力とかじゃなくて権力勾配的なアレで」
    「けんりょくこーばい?」
    「クランはきっとそのうちお前を住民税の無駄だと追い出すぞ」
    「じゅ、じゅうみんぜー?」

    ピケルはたちまち頭を痛めた。二ターンしか持たぬへっぽこ読心術使うだけでも疲れ果てる彼女に漢字の並びたては弱点の一つだ。

  • 3124/05/22(水) 22:03:39

    「とにかくこんな我儘だとお城を追い出されるぞ。分かるね?」
    「そ、そうしたら…そうしたら……」
    そうして、追い詰められたピケルは──

    「ま、マスターとここに住むのです!」
    「……ピケル」
    告白にも近いことを少し涙混じりに宣言した。それに対して主人はとても悲しそうな瞳で彼女の肩に手をやり身長に合わせ屈んだ。

    「だ、だめなのですか…?」
    「残念だけどそれも住民税が……」
    「あー!!もうそれも禁止なのです!」

    ボケと冗談はここまでに。彼は彼女の身分の都合上ずっとは傍に居られないことを悟っていた。話題逸らしのはずが少し湿っぽくなった話の責任を取るべく、主人はピケルの小さな手を握る。結局のところ、彼も彼女に甘いのだ。

    「そっか、分かったよ」
    「あっ、マ、マスター。ダメなのです…」
    雰囲気からアプローチだと勘違いしたピケルの顔はたちまち赤くなった。──無論、彼女は自身が異性として全く見られてないのに気付いてない。

    「ソリ、買いに行こっか」
    彼は目を閉じながらキスを待ち、馬鹿みたいに唇をうんと前に突き出すピケルに編み終わった赤のマフラーを巻く。

    「それと、このちっちゃな手にあう手袋くらいは買ってあげよう」
    優しく、暖かな。物理的にも心的にも抱擁に溢れた笑顔にピケルは望んだものは得られなくとも泡まみれ、まともに呪文も唱えられなくなった。

    「じゃあ、行こっか」
    まともに言葉を出せず赤面で首だけをコクコクと動かすピケル。なすがまま手を引かれて向かうは

    ──プラスチックの玩具屋さん。

  • 4124/05/22(水) 22:04:47

    おしまい。
    お城が賃貸なものか。

    それとテレグラくんが知らずのうちにNGワードになってたので貼れませんでした。南無三

  • 5二次元好きの匿名さん24/05/22(水) 22:08:46

    二人がお城だと思えばそこがお城なのですよ
    可愛い

  • 6二次元好きの匿名さん24/05/22(水) 23:27:26

    可愛いなこれ
    いいね!

  • 7二次元好きの匿名さん24/05/23(木) 00:14:50

    短縮で乗り越えられるか検証

    前々作

    x.gd

    前作

    x.gd
  • 8二次元好きの匿名さん24/05/23(木) 00:17:21

    貼れたんで今回のも置いときます。居るかどうか知らんけどいつも見てくれてる人ありがとね

    x.gd

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