【シリウストレ】問題児達の参謀Season2.1【SS】

  • 1二次元好きの匿名さん22/02/03(木) 17:39:56
  • 2二次元好きの匿名さん22/02/03(木) 17:40:48

    待ってました!

  • 3二次元好きの匿名さん22/02/03(木) 17:41:04



     ごめん、思ったより詰められた。トロピカルエアはそう言った。

     頑張ってください。アクアスワンプはそう言った。

     息も絶え絶えのジュエルビスマスは何も言わなかった。しかし、タスキは繋がれた。

     クライネキッスは地面を蹴る。特別体が軽いとは感じない。いつも通り、いつもの調子。それは別に問題ない。必要なのはいつも以上の結果。シリウスシンボリから逃げ切る。キラキラと輝いている皆に、自分だって負けていないんだぞと、声を大にして叫ぶ。それは彼女だけの為ではない。

     自分が歩き出すのを優しく、厳しく見守ってくれたトロピカルエア。自分を慕ってくれる後輩達。リーダーを任せてくれたトレーナー。何より、トレセン学園を去る筈だった自分を掬い上げてくれたシリウスシンボリ。

     Aチームは本気だろう。しかし全身全霊ではない。あくまで模擬レース。負けるつもりは毛頭ないが死にものぐるいにはきっとならない。

     それでも構わない。クライネキッスはめいっぱいに酸素を取り込む。まだ先は長い。ここは、ゴールではなくスタート。クライネキッスが、誰かの陰に隠れて生きるのではなく、後輩達に押し出されて日の目を見る為の出発点。心の何処かで油断していたスター達の頬っつらをひっぱたいてやろう。

     だが、どれだけ思いが強くとも、地力は簡単には上がらない。背後に迫る存在感は、じわりじわりとその強さを増していた。

  • 4二次元好きの匿名さん22/02/03(木) 17:59:45

    「珍しいな」

     気付けばそんな言葉が漏れていた。クライネキッスではない。確かに彼女の鬼気迫る走りは初めて見たものだが、想像できないものではない。結局のところ、彼女も問題を抱えながらトレセン学園に残り続けた生粋の負けず嫌いなのだ。何かきっかけがあれば化けてもおかしくはないのだろう。

     珍しかったのはシリウスだ。レース本番ですら、ダービーを除いて余裕の笑みを崩さなかったシリウスが、必死な様子でクライネキッスを追っている。レースとはいえ、あくまでトレーニングだ。一生に一度のダービーと同じようなプレッシャーがあるとは思えない。別に、何か彼女を奮い立たせるものがあるというのだろうか。

    「珍しいって何がですかぁ?」

     横に居るコンテストアバターは不思議そうな顔をしていた。彼女には、シリウスの変化が分からないようだった。

    「いや……」

     言いかけて、すんでのところで思い留まる。コンテストアバターはけして察しの悪いウマ娘ではない。その彼女が気付かないのだから、俺しか気が付いていないか、もしくは勘違いのどちらかだ。

     だったらいたずらに言いふらすべきではない。

    「クライネキッスの走り、あんなに凄まじいのは見ないと思ってな」
    「Bチームの子達、このレースに勝つんだ、って意気込んでましたからねぇ」

     コンテストアバターは頑張れとクライネキッスを応援する。

     お茶を濁したものの、シリウスのひりつきが、胸の奥を詰まらせて仕方がなかった。

  • 5二次元好きの匿名さん22/02/03(木) 18:05:23

     クライネキッスはペースを落とさず逃げ続ける。シリウスは射程圏内に収めてはいたが、迂闊に抜けず、しばらくは普通の併走のような展開が続いた。勝負は最終コーナー。誰もがそれを分かっていた。

     動く。

     声には出さず呟いたのと同時にシリウスが仕掛ける。コーナーの内ラチギリギリを攻めて一気にクライネキッスに追い付いた。これで決まりだ。競り合いはシリウスの方が強い。というよりも、クライネキッスは絶望的に競り合いが弱い。

    「離れ……ない?」

     そんな予測はてんで的外れだった。クライネキッスは不格好な走りで、しかしシリウスにちぎられないよう食らいついている。逃げは一度捕まったら終わりと言われるが、クライネキッスはまだ終わっていない。

     逃げて、差す。強い逃げウマに時折使われるフレーズを思い出した。最前列で自由なコース取りをしながら、さながら差しウマのような末脚で最後に突き放していく。クライネキッスの走りは、まるでそれを体現しようとしているかのようだった。

    「いけー! 逃げ切れー!」

     アクアスワンプが叫ぶ。ゴールまであと200m。両者は横並び、どちらが勝ってもおかしくない。判官贔屓という奴で、その場にいる殆どが、言葉にせずともクライネキッスを応援していた。

     それでも、容赦無く叩き潰すのが王だ。

     最後の一瞬、クライネキッスをかわしきり先にゴール板を通り抜けたのは、シリウスだった。

  • 6二次元好きの匿名さん22/02/03(木) 19:19:52

    待ってた

  • 7二次元好きの匿名さん22/02/03(木) 19:41:55

    「……お疲れさん」

     走り終わって息の上がったシリウスにスポドリを差し入れる。クライネキッスの方には後輩達が群がっていた。あっちは、俺の出る幕は無いだろう。トロピカルエアはシンセダイナとばちばちに火花を飛ばしている。他のメンバーは集まって感想会の途中だ。この場で俺達のことを気に掛けているのは居ない。
     その姿は、王と呼ぶにはあまりに孤独に見えた。

    「クライネキッスの奴。いつの間にあんな走りを覚えてるなんてな。アンタの仕込みか?」

     シリウスの問いに首を横に振る。俺にそんなことが出来るだけの経験は無い。クライネキッスは自分で壁を乗り越えて、手にした強さだ。それを自分の手柄と誇ることは出来ない。

    「今日のクライネキッスは会心の走りだった。よく差し切ったな」
    「当たり前だろ。あれに勝てなくちゃ、シニア級で勝つなんざ夢のまた夢だ」
    「シニアでもあれだけの逃げが出来る奴は殆ど居ないだろう」
    「だけどG1には出てくるだろ?」
    「それは」

     その通りだ。言葉を詰まらせる。強いウマ娘が少数だとしても、G1レースにはその少ない例外ばかりが出て来る。秋の天皇賞への試金石だと捉えたのか。それなら、あの必死さも納得が。

     いや、出来ない。それは間違いなく本心なのだろうが、それだけじゃない筈だ。

     しかし、シリウス本人にそれを聞く訳にもいかず。もやもやとした気持ちを抱えたまま、チームレグルスの夏合宿は終わりを迎えた。

  • 8二次元好きの匿名さん22/02/03(木) 20:23:32

     合宿が終わり、始まるのはビューティモアの挑戦だ。スプリント路線に進むと決めた彼女はスプリンターズステークスを目標に定めた。その為に先ず挑むのは、セントウルステークス。同じ1200mを走るにも北九州記念やキーンランドカップがあったのだが、どうせ走るのならグレードが高い方が良いとビューティモアが希望した。

    「自信をつける、って意味ならG3の方が良かったんだけどな」

     懐かしさすら覚えるトレーナー室でため息を吐く。眠気覚ましのコーヒーを口にして、セントウルステークスの出走予想のリストを書き出す。
     チームレグルスで重賞レースを取ったのはシリウスシンボリだけだ。もちろん重賞は取りたいからと言って取れるような、レベルの低いレースではない。難関のデビュー、未勝利を抜け、オープン戦を勝ち抜いた猛者だけが残る。本来チーム単位でも一つ取れたらお祭りだ。それでも、勝つだけの力があると信じているからこそ、まだタイトルが無いのは歯がゆかった。

    「それに、セントウルステークスにはアレが出る」
    「アレってなんだ?」

     背後から声がする。シリウスだ。いつものように肩に顎を乗せて、パソコンのディスプレイを覗き込む。その様子は、疑うべくもなく普段通りで。合宿のレースの時にあった違和感は勘違いだったのではないかと思ってしまう。きっとそんなことはないのだが。

    「オイ、何ボケっとしてんだ。夏休みで頭が鈍ったか?」
    「そんなわけあるか。出るってのはこいつだ」

     俺はリストの一番上を指差す。

    「サクラバクシンオー。短距離の絶対王者だ」

     サクラバクシンオーのレースを表現するには、傲慢という言葉が一番適切だろう。他者のことなど気にもせず、ただ最初から最後まで、走者が自分一人であるかのように走り切る。それで誰も敵わないのだ。皇帝のお手本のような走りとも、シリウスの全てと競り合って上に立つようなレースとも違う。たった一人孤独な王の走り。それがビューティモアの前に立ちふさがっていた。

  • 9二次元好きの匿名さん22/02/03(木) 21:53:43

    「あー、学級委員長だかなんだかでうるさい奴か」
    「変人としても有名らしいな」
    「ああ、だが一度走りを見たことがある。良い走りだったな。そいつがビューティモアと当たるのか」
    「ああ、それもおそらく二回な」

     セントウルステークスと、スプリンターズステークス。サクラバクシンオーはその両方に出走するだろう。ビューティモアがセントウルでサクラバクシンオーへの戦い方を自分で見つけられたなら価値はある。だが、もし彼女の強さに心を折られたら、スプリンターズを取ることは不可能になる。そんなことはない、と言い切れないのがサクラバクシンオーの恐ろしさだ。

    「俺が昔担当したウマ娘の一人に、デビュー戦一回で心を折られたウマ娘がいる。そのウマ娘と同じレースに居たのがサクラバクシンオーだ」
    「因縁の相手ってわけだ」
    「そういうのじゃないさ」

     実際、トレーナーとしては気力を失った彼女を止める力は無かった。だが、今となってはそれも正しい選択だったのだろうと思う。苦しみながら走るのはたくさんだ。

    「それにビューティモアだけに構ってもられないさ」

     走るのはビューティモアだけじゃない。後輩三人のメイクデビューも控えているし、ザッツコーリングのダート初挑戦もある。クライネキッスも重賞の新潟記念への出走権を手に入れた。トロピカルエアは菊花賞トライアルレースの神戸新聞杯に出る予定だ。

    「それが終わったら、今度はお前の毎日王冠だ」

     秋の天皇賞へのステップレース。シリウスはダービーを勝ったとはいえ、シニア級のG1に出走するにはまだ実績が足りない。毎日王冠でシニアの雰囲気を肌で感じてもらう必要がある。

    「任せておきな。ロートル相手だ。勝ってやるさ」
    「……頼もしいな」

     頼もしい。自分で言った言葉とは裏腹に、ずっと感じていたおかしさが、腑に落ちた。

  • 10二次元好きの匿名さん22/02/03(木) 22:37:30

     自身のトレーナー室を離れ、トレーナー棟を一人歩く。向かう先は、恩人の部屋。ノックをすると空いてるよ、と返事が来た。

    「失礼します、コレエダさん」
    「やあ、急に連絡が来たときは何事かと思ったよ」

     コレエダトレーナーは、相変わらず細くて折れそうな指で菓子を摘んでいた。その傍らには彼が担当するウマ娘であるマンハッタンカフェの姿も見える。

    「すいません、こういう時に頼れるのがあなたしか思いつかなくて」
    「良いよ良いよ、後輩が困ってたら助けるのが先輩の役目だからね」

     促されるままに椅子に腰掛ける。

    「お口に合うか分かりませんがどうぞ」
    「カフェのコーヒーは美味しいよ。香りから楽しむと良い」
    「どうも」

     言われるがままに口をつける。少し苦くて、でも苦にならない。インスタントコーヒーとは比べ物にならない代物だ。

    「それで、どんなアドバイスが必要かな」
    「……ええと、アドバイスというよりも、思考をまとめるのを手伝ってほしいんです」

     自分で言っておきながら分かりにくい注文だが、コレエダトレーナーはすぐにその意図を察してくれた。

    「なるほど、それじゃあ聞き手に徹しようか」
    「ありがとうございます」

     ずっと燻っていた感情と疑惑を、言葉に出して人に説明して、整理する。レグルスのメンバーには出来ない、シリウス本人に聞かせるわけにもいかない。
     先ず、結論から。

    「俺のところのウマ娘が、壊れそうになってます」

  • 11二次元好きの匿名さん22/02/03(木) 22:38:56

    ごめんなさい…保守に失敗してしまいました…

  • 12二次元好きの匿名さん22/02/04(金) 01:01:14

    「レースに勝つのは、もちろんトレーナーの夢でもありますけれど、実際に走るウマ娘達の夢の筈なんです。でも、そいつは他人の為とばかり考えて、自分で気付かないうちに、義務にしてる」
    「どうしてそんなことに?」
    「たぶん、ですけど。最初からそうだったんです。問題を抱えた奴らを拾って、引っ張って、お山の大将になる。誰かに頼られることが、そいつにとって、きっととても大切なことなんです」

     チームレグルスは、シリウスシンボリを中心としたチームだ。彼女のカリスマだけで成立させたといっても、過言ではない。

    「これまでは、他のメンバーもそいつに頼っていました。信頼するっていうよりも、寄りかかっていたんです」

     俺自身もそうだ。シリウスに引っ張られて、脳みそが焼き焦げるくらいにあいつに魅入られた。

    「だけど、少しずつ変わってきた」
    「はい、皆が自分の足で歩き出そうとしてます。悪い意味じゃないんです。庇護されていた関係から、対等なパートナーになろうとしている」

     何をするにもシリウスの言葉に従っていた。それが自分で考え新しく動こうとしている。スプリントに挑むビューティモアも、ダートに転向したザッツコーリングも、リーダーとしての才覚を見せ始めたクライネキッスも。その理由の一つには、シリウスの負担にならないように、というのは間違いなくある。シリウスだって、トゥインクルシリーズを走る選手なのだから。

  • 13二次元好きの匿名さん22/02/04(金) 07:42:15

    「特に、最近入ってきた後輩達はそいつとの信頼関係が長いわけじゃありません」

     シリウスのダービーを見て入った三人は、ふるいにかけられた所をシリウスにすくい上げられたわけではない。良くも悪くも、初期のメンバーとはシリウスに向ける感情の重さは全く違うだろう。

    「だから、そいつにかかる重圧は軽くなっている」
    「それがその子には辛いと」
    「はい」

     はっきりと、そう言い切ることが出来た。

    「弱みを見せてもらえなくなったことが、人望を失ったのだと勘違いしているんです」

     信頼を失った狼の王程、みすぼらしいものはない。そうならない為に、シリウスは群れで一番強いのだと証明する必要があった。合宿最後のレース、彼女があれだけ本気だったのは、クライネキッスに負けるわけにはいかなかったから。もし負けたら、彼女が上に立つ理由を失ってしまうから。

     それは自信家であると同時に、自信のない人間の思考だ。この強さというものを金銭に置き換えれば分かりやすい。金持ちだから人がすり寄ってくるだけで、ばらまくお金がなくなれば人が寄り付かなくなる。横に自分より金持ちが現れたら? どうにかして自分の存在をアピールするしかない。

    「なるほど、その子の状況はよく分かった。それで、君はどうしたいんだい?」
    「それは……まだ答えを出せていません」
    「でも考えはある」
    「……はい」

     思い出されるのは、ハイバラトレーナーの残した忠告。

     支えるつもりで寄りかかるな

  • 14二次元好きの匿名さん22/02/04(金) 15:35:20

    「彼女に寄りかかったままでいるのが、間違いだとは思いません」

     信頼が彼女の力になるのなら、それはトレーナーとして正しい行動だろう。甘えや共依存ではないか、と問われれば胸を張って否定するのは難しいが、やめないと言うだけの自信はある。

    「彼女達は、どれだけ大人びていて、強くあってもまだ子供です。むりやり今のあり方から自立させるのが良いとも思いません」
    「でも、それだと良くないとも思っている」
    「……トレーナーとウマ娘、一対一の関係ならそれで問題無かったと思います」

     だけど、相手はシリウスシンボリだけではない。チームレグルスという存在にも関わってくる。

    「自立しようとしている子達の邪魔になるようなことはしたくない。俺が、そいつに寄りかかり続ければ、結局は他の子達が離れられない。或いは、離れた後でそいつには俺しか残らなくなってしまう」

     臣下が離れていく中、最後の一人に執着する。そう思うのはシリウスシンボリという存在をバカにしているだろうか。そうかもしれない。だけど、可能性がゼロじゃないということはケアしなければならないということだ。彼女に必要なのは、臣下ではなく、対等な友人なのだ。それがどれだけ難しいことか。彼女自身が、それを恐れているのだから。

  • 15二次元好きの匿名さん22/02/04(金) 23:58:29

    保守です
    二度と過ちは繰り返さない

  • 16二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 00:46:21

    「対等な友人か。覚えのある言葉だねえ、カフェ」

     コレエダトレーナーは懐かしむようにカップを傾けた。隣のマンハッタンカフェが少しだけ表情を歪めたような気がしたのは気のせいだろうか。

    「確かに、タキオンさんには助けられたことも多いですが……なんだか違う気がします」
    「違うのは当たり前さ、友情のあり方は一つじゃない。腐れ縁だって立派な友情だし、親愛や恋愛だって同じようになり得る。今回の場合は、"互いに弱さをさらけ出せる相手"と定義するのが分かりやすいかもしれないね。なんだっていい、互いにというのが重要なんだ」

     互いに切磋琢磨し合う関係。互いに頼り合う関係。互いに嫌い合う、は少し違うか。それでも嫌よ嫌よも好きのうちと言ったりする。向ける感情が同じなら、それは強い結びつきになり得る。

    「君ではなれない。チームのメンバーでもなれない。いつかはなれるかもしれないけれど、少なくとも今はまだ。だったら、今そうなれる相手は誰か。その様子だと、当たりはついている。でも上手く行く保証はない」
    「……凄いですね、本当に」
    「伊達に一線級と言われてはいないさ。そして俺のことに来たってことは、俺からコンタクトが取れるのかな?」
    「そうなんじゃないかと、思っているところはあります」
    「なるほど。誰に繋げば良い? できる限りは応えよう」

     吉と出るか凶と出るか。無茶苦茶なのは間違いない。それでも、それが俺にできる最善だと思った。

    「……シンボリルドルフと、走らせてください」

  • 17二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 07:51:41

     コレエダトレーナーと話してから数日。俺は、シンボリルドルフのトレーナーが使っている部屋の前に立っていた。ハイバラトレーナーと対面した時よりも緊張で手が震えている。なんと言ったって、あの七冠の皇帝を育て上げたトレーナーだ。そして、シリウスシンボリがあんなにも毛嫌いしているシンボリルドルフのトレーナーだ。

     ノックする。扉が開くと、人の良さそうな顔の青年が迎え入れてくれた。拍子抜けするほどに存在感が無い。路傍の石のようだ。

    「やあ、噂はかねがね。この間はダービーおめでとう」
    「ありがとう、ございます」
    「さ、立ち話で終わることでもないだろう? 入って入って」

     言われるがままに入る。質素な部屋だと思ったが、自分のトレーナー室もそう変わらないな。コレエダトレーナーの部屋がやけにアンティーク趣味で特徴的なだけだ。

    「それで、どういう要件だっけ」
    「……うちのシリウスシンボリと走ってほしいんです」
    「なんで?」

     なんで、と子供のように聞かれて一瞬言葉に詰まる。

    「うちのシリウスにはそれが必要だから、です」
    「うん、それで? こちらには何かメリットある?」

     メリット。全てのウマ娘の幸福を掲げるシンボリルドルフのトレーナーから出たとは思えないような言葉だった。

  • 18二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 15:46:08

    「知ってるだろうけど、ルドルフは現在無期限の休養中だ」

     無期限休養。それは実質的な引退だ。トゥインクルシリーズから引退し、ドリームトロフィーにも進まないウマ娘はトレセン学園への在学資格を失う。だが、例えばうちのコンテストアバターのように、走るのはやめたがトレセン学園には残りたい、という者も居る。そういうウマ娘が選ぶのは二つ、転科か休養だ。前者はスタッフ科に転科願いを出し、受理されればスタッフ候補生として学園に残ることができる。コンテストアバターはこちらのタイプで、彼女の肩書はスタッフ科であり、チームレグルスへの実習生になる。

     もう一つが無期限の休養。文字通り、トゥインクルシリーズを引退したわけではないが、次走は未定という扱いだ。誰しもがこの休養を認可されるわけではない。十分な実績、或いは怪我からのリハビリなど、相応の理由がなければならない。チームの最年長が引退はしたものの、後進の育成で残るパターンが最も多いだろうか。シンボリルドルフも、最初の三年間を走り切り、生徒会長としての仕事に専念する為に無期限休養になっていた。

    「それを模擬だろうとレースの場に引っ張り出す、ってトレーナーとしては認められないよ。怪我したらどうするのさ」

     基礎トレーニングはずっと続けているだろうが、レースを走り抜く為のハードプログラムは組んでいない。現役のウマ娘と走らせれば無理が起きても仕方がない、というのがルドルフのトレーナーによる主張だった。

    「お山の大将に付き合って復帰が不可能になった、なんて話になったら笑いものだ」

     カチン、ときた。

  • 19二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 22:53:06

    保守
    面白いです

  • 20二次元好きの匿名さん22/02/06(日) 07:47:17

     こちらが頼む立場だとか、相手がシンボリルドルフのトレーナーだとか、そういうことは頭から一気に落ちていった。

    「怖いんですか?」
    「なに?」
    「自分が育て上げた皇帝サマが、あっさり負けるのが怖いんでしょう。七冠を達成してすぐに休みましたからね。負けてメッキが剥がれるのが怖いんだ」

     昔もこんなことした時があった。あれはそうだ、シリウスシンボリと初めて会話した時だ。だが、あの時とは違って思考は明瞭だ。相手を怒らせて、望む言葉を得る為に挑発する。ジャーナリズムのやり方。

    「随分失礼なことを言うね君は」
    「だってそうでしょう? 戦わなければ玉座は揺らがない。挑戦者を迎え撃たないチャンピオンなんてお飾りと何も変わらない。上から見下ろしてるつもりで、蚊帳の外になってるだけだ」
    「キャンキャン吠えてもみすぼらしいだけだよ」
    「みすぼらしくて結構。野良犬の王は、玩具の王冠よりずっとマシだ。アンタ達は、そこで一生裸の王様になってれば良い」

     もはや敬語すら崩れて煽り倒す。キレて乗ってくれればそれで良し。つまみ出されても問題こそ解決しないものの、彼らの心には楔を打てる。

    「自信げだけど、シリウスシンボリがルドルフに勝てると、本気で思っているのかい」

     馬鹿にするような顔に胸を張って答える。

    「当たり前だ。シリウスシンボリは、皇帝よりずっと強い」
    「へぇ……だってさ、ルドルフ」

     ニヤリと笑うその後ろで、扉が開く音がした。

  • 21二次元好きの匿名さん22/02/06(日) 16:13:35

    保守

  • 22二次元好きの匿名さん22/02/06(日) 23:41:27

    「君が心配せずとも、シリウスシンボリのトレーナーはちゃんとしてるみたいだ。ちょっと噛み付き癖があるけどね」
    「狂言綺語。本音を引き出す為とはいえ、酷い言い草だったぞ、トレーナーくん」

     シンボリルドルフのトレーナーは、全く怒っていなかった。そして、罵詈雑言を聞いていた筈のシンボリルドルフも、むしろ彼女のトレーナーを非難するような口調だ。

    「……つまり、良いようにノセられたってことですか」
    「ごめんね。それでも知りたかったんだ。君がシリウスシンボリという光をどう思っているのか。虎の威を借る狐なのか、共に歩む狼なのか」
    「あの子は、優し過ぎるからな。その優しさにつけこむような下郎なら私も放っておくことはできない」

     シンボリルドルフがシリウスの話をする顔は、なんというか、保護者の顔だった。母親、というのは失礼か。妹を心配する姉というのが一番近いかもしれない。彼女達の間にある確執は分からないが、きっとそれはただ反目し合うものではないのだろう。

    「それで、ルドルフと併走したいんだっけ?」
    「あ、ああ……はい」

     さっきまでの独裁者のような雰囲気からは一転、最初に感じたのと同じ人の良さに困惑。どっちが本性なのか、後者なのだろうが、勘繰ってしまう。

    「どう? ルドルフ」
    「ああ。少し先になってしまうが予定の調整は可能だ。彼女と走るのは久々だから胸が高鳴るな」
    「そういうわけだから、予定を合わせてくれれば問題ないよ。でも、それだけじゃないんだろう?」

     見透かされている。一流のトレーナーというのは誰も彼も、一つの言葉から百の思惑を読み取るようだった。

  • 23二次元好きの匿名さん22/02/07(月) 09:09:24

    保守

  • 24二次元好きの匿名さん22/02/07(月) 14:26:13



     シリウスシンボリは、どうしようもない焦燥感に怯えていた。彼女自身、その感情に名前はつけられない。私を見てほしい。私が王だ。私から離れないで。そんな自己中心的な気持ちはある。皆が勝てて良かった。自分の道に進む仲間を応援したい。そんな気持ちも確かにある。自分が本当に求めているものが何なのか。他者からは答えが出せてしまうそれも、彼女には何も分からない。

    「ドンマイだってモア。リベンジのチャンスはまだあんだろ? 私の仲間なら、こんなところで折れたりしないな?」

     セントウルステークス。五着で辛うじて掲示板に入ったビューティモアを労う。前から選考レースなんかで仲間が負けた時はいつもやっていた。一着は当然というべきかサクラバクシンオー。二着に一馬身つけた、短距離としては圧勝だ。

    「おう」

     生返事のビューティモアは、シリウスシンボリの言葉など聞いていない。意気消沈しているのではない。彼女の目に映るのは、自分より前に居た者達の背中だけ。頭を過るのは、レース中の細かなミス。決定的に足りない部分、そして勝利者だけが持っている強み。今のビューティモアにとって、シリウスシンボリはレース外の雑音でしかなかった。

    「……他の奴ら待ってるぞ。ウイニングライブだってあるだろ」
    「え? ああ、そうだな」

     背中を軽く叩き、ビューティモアを現実に引き戻す。いつまでも感傷に浸っている暇がないのも確かだが、言葉にならない嫉妬心がそうさせた。

     ああ、苛々する。シリウスシンボリは知らずのうちに舌打ちをしていた。

  • 25二次元好きの匿名さん22/02/07(月) 22:49:47

    保守をします

  • 26二次元好きの匿名さん22/02/08(火) 08:19:53

    保守

  • 27二次元好きの匿名さん22/02/08(火) 09:34:34



    「コーちゃんおめでとう!」
    「頑張ったねー」

     ザッツコーリングの周りに皆が集まっている。ダートに転向した第一戦で、彼女は見事に一着を取ってみせた。

    「コーちゃんの次は私も……」
    「クライネ先輩なら行けますよ!」

     クライネキッスは自分もと意気込んでいる。彼女も来週には新潟記念だ。後輩三人が一緒になって励ましている。彼女達は、誰一人メイクデビューでは勝てなかった。しかし、まだチャンスはあるとクライネキッスに励まされ、闘志を燃やしている。

     それを、シリウスシンボリは少し離れたところから見ていた。

    「お前は混ざらないのか?」
    「水差すのも野暮だろ」

     声を掛けて来たトレーナーに振り向きもせず返す。本当は、そこに居る自分が違う気がして、歩み出せなかっただけなのに。チームレグルスのボスは私だと叫びたいのに、彼女自身が疑いを持ってしまう。疑ってしまうから、距離を取ってしまう。

    「そうか」

     トレーナーはそれ以上何も言わなかった。それがどうにも腹立たしかった。何か言葉を掛けてもらいたかったのかすら分からない。トレーナーをチームに引き入れたのは彼女なのに、頼るのを嫌がっている彼女が居た。

  • 28二次元好きの匿名さん22/02/08(火) 20:24:55



    「……よしっ」

     トロピカルエアが小さくガッツポーズを作った。神戸記念。菊花賞トライアルレースで彼女は一着を取った。チームレグルスで、ようやく二人目の重賞ウマ娘だ。そして何より、彼女にとってはこの一勝は大きな意味を持つ。

    「菊花賞は、負けないから」

     バチバチと火花が散りそうな視線をぶつけ合う相手はシンセダイナ。怪我からの復帰戦。皐月賞で悔しい敗北を喫したライバルに、トロピカルエアは今日初めて勝利した。

    「分かってる。私だって、クラシックを取りたい」

     互いに本番は菊花賞。一勝一敗、彼女達の決着をつける為にはまだ終わりではない。

     クラシックはトゥインクルシリーズの花形だ。毎年違うメンバーが、一生に一度のタイトルを奪い合う。

     シリウスシンボリは、自分からその舞台を降りてしまった。もう、クラシックを走る彼女達に自分の姿は映らないだろう。

    「私が、勝ち続ければ良いだけの話だ」

     シニア級のレースで勝てば、自分の強さは証明出来る。シリウスシンボリがレグルスで一番強いのだと、彼女がボスだと。

     その為には秋の天皇賞を勝つ。毎日王冠なんていう前座で足踏みするわけには行かない。

     そんな彼女の心を嘲笑うかのように、前のウマ娘がゴール板を駆け抜けていった。

  • 29二次元好きの匿名さん22/02/09(水) 02:05:57

    保守をします

  • 30二次元好きの匿名さん22/02/09(水) 10:18:21

     毎日王冠。シリウスは二着だった。クラシックのウマ娘がシニア級レースで二着を取るのは、凄いことだ。当然だが同年代しか居ないクラシックよりも、上の年代が群雄割拠しているシニア級の方が険しい道のりで、秋の天皇賞への切符を手に入れるに十分な成績を収めた筈だ。それでも、シリウスの顔は晴れない。流石にチームメイトも気が付いたのだろう、困ったように俺の方を見ていた。

    「コンテストアバター。先に皆を連れて行っててくれ」
    「……分かりましたー」

     コンテストアバターが皆を連れ出して、控室には俺とシリウスだけになる。さて、どう言葉を掛けたものか。よくやった? それだけはない。それじゃあまるでシリウスの勝ちを信じていなかったみたいだ。俺だってシリウスが勝てると思ってこのレースに臨んだ。だからよくやったとは言えない。言葉が思いつかず、沈黙が流れる。

    「……今は、俺しか居ない」

     結局。そんなことしか言えなかった。他のメンバーは居ない。だから弱音を吐いても良い。直接は言えないが、そんなつもりだった。俺がシリウスのはけ口になれるならそれでも良いと思った。

     それは、彼女の最後の砦を崩すには鋭すぎて。俺は、壁に叩きつけられた。

  • 31二次元好きの匿名さん22/02/09(水) 21:49:30

    「よくもまあ、そんなことが言えるな」

     胸元を掴みあげられる。息ができない。前にもこんなことがあった。コンテストアバターと腹を割って話そうとしたときだ。あの時は味方になってくれたシリウスが、今は殺したいと言わんばかりの目で睨みつけている。

    「誰も居ないのは当たり前だ。アンタが人払いしたんだからな。あいつらは皆裏切り者だ。私よりも、アンタなんかの言う事を聞く」

     そんなことはない、と否定するべきだったかもしれない。これが八つ当たりで、ふざけたことを言っているのは彼女自身が一番分かっていて、指摘されればすぐに冷静になってしまうだろう。だから、俺は何も言わなかった。

    「嬉しいか。お山の大将は。私に拾われたのに、私からそれを奪うのは」

     そこにあるのは、彼女が普段飄々とした態度に隠していた嫉妬や怨み。自覚すらしていなかっただろう感情が、沸々と湧き上がっているようだった。

    「コーも、クライネも私に相談すらしなくなった。私はもう要らないんだろうな。コンだって居るし、アンタも居る。コーのダートメニュー、アンタが組んだんだって? 立派なトレーナーじゃないか。問題児とは大違いだ」

     絞り出すような怨嗟。それを聞いている俺も、自身の感情がないまぜになっているのを感じていた。

  • 32二次元好きの匿名さん22/02/10(木) 01:35:35

     一つは、安心だった。俺にとってシリウスシンボリというのは、学生とは思えないくらいに強くて、曇ることのない星だった。そんな彼女でも、悩んでもがいて、揺るいであたり散らすことがあるのだと。普通の人なのだと分かったことに安心していた。その安心は、高尚な人の俗な面を見たかのような失望と鏡合わせだ。

     そして、崩れ落ちてしまいそうな彼女に対する庇護欲。幼い姿を見たときの恍惚とした感情。俺は、シリウスに対してこんなにも重い感情を持っていたのかと驚きさえ覚える。

    「おい、何か言えよ」

     首がぐっと絞まった。笑みがこぼれそうにすらなるのを我慢する。傍から見ればただのマゾヒズムかもな。だけど、こんなにも素の感情をぶつけられていることが嬉しくて仕方がない。

    「なあ、何か言ってくれよ」

     それは一つの懇願だった。冷水を浴びせられたように、自分の心がクリアになっていった。

     彼女は、否定されたいのだろうか。俺は、なんと答えれば良いのだろう。定まらない思考とは裏腹に、本当に言いたい言葉はすっと出て来た。

    「皆、お前が必要なくなったんじゃない。お前が大切だから。今こうなっているんだ」

  • 33二次元好きの匿名さん22/02/10(木) 10:27:25

    保守

  • 34二次元好きの匿名さん22/02/10(木) 19:28:53

    支援砲撃

  • 35二次元好きの匿名さん22/02/10(木) 21:13:04

    リアルタイムで名作を読める喜びを噛み締める

  • 36二次元好きの匿名さん22/02/11(金) 01:21:40

    保守をします

  • 37二次元好きの匿名さん22/02/11(金) 07:29:07

    「お前。走るのは好きか」
    「いきなり何を言っているんだ。そんなの」

     シリウスの言葉が詰まる。当たり前だ、と言おうとして出来なかった。そんな感じだ。コンテストアバターの辛さにちゃんと気が付けた奴だ。自分の矛盾に気が付けない筈がない。

     走るのが呪いになってはいけない。そういう本人が呪いに身を蝕まれていたとは。彼女が走ることを苦しむようになったのは、王としての権威を走りに求めたからだ。それはずっと昔からで、しかしつい最近のことだ。今までの彼女にとって、走ることは証明でしかなかった。

    「俺の言葉が届くかは分からない。だが、一つだけ忘れないでほしい。お前が王じゃなくなったって、ただのシリウスシンボリになったって、誰もお前のことを嫌いになんかならない」
    「…………」

     手を離す。ズルズルと床に崩れ落ちた。シリウスの険しい顔つきは変わらない。俺では、シリウスの心を溶かすことなんて出来ない。

    「シリウス」
    「なんだ」
    「天皇賞に向けて、あるウマ娘に併走をお願いしている。俺のことを信じてくれるなら、受けてくれ」
    「……相手は誰だ」
    「それは……言えない。相手から、当日まで伏せてほしいと言われている」

     それは本当だ。万が一にもシリウスが断ることのないよう、シンボリルドルフの名前は伏せるように言われている。

    「……分かった。乗ってやるよ」

     シリウスだって、今の苦しみを乗り越えたい気持ちは同じな筈だ。彼女が首を縦に振ったことに俺は安堵した。

  • 38二次元好きの匿名さん22/02/11(金) 13:17:37

    すごく良い………

  • 39二次元好きの匿名さん22/02/11(金) 20:53:29

     シンボリルドルフとの併走は、トレセン学園ではなく、別のレース場を使うことになった。学園内でシンボリルドルフが走るという噂が広まれば、事態はむしろ悪化すると思ったからだ。だめもとで頼んでみたのだが、シンボリルドルフのトレーナーはあっさりと場所を確保してしまった。どれだけの費用が掛かったのか、カードローンなんかを調べながら聞いてみたのだが、気にしなくて良いと軽く返されてしまった。シンセダイナと言い、お金持ちは考えることが違う。シンボリルドルフのトレーナーが名家とはあまり聞いたことはないが。

     このレース場に居るのは、俺とシリウス。シンボリルドルフとそのトレーナー。そして繋いだのだからと顔を見せたコレエダトレーナーとマンハッタンカフェ。それだけだ。チームレグルスのメンバーには伝えてすら居ない。正確に言えばコンテストアバターにだけは内容をぼかして連絡はしているが、まさか彼女もこんな状況になっているとは露にも思わないだろう。

    「アンタがもったいぶるから予想はついてたが。皇帝サマが相手とはな。書類仕事ばかりでその足錆びついているんじゃないか?」
    「常在戦場。シリウス、心配してくれるのは嬉しいが私はそれ程なまくらではないよ」
    「チッ、そうだと良いな」

     シリウスの挑発も、皇帝には効果が無い。実際、今のシンボリルドルフがどれだけの強さなのか、全く分からない。シリウスも負けないとは思っているが相手は七冠だ。それでも、価値はある。

    「さて、シリウスのトレーナーくん。覚悟は出来たかな」
    「覚悟?」

     シリウスが疑問符を浮かべる前で、俺は静かに頷く。そして──

     トレーナーバッジを差し出した。

  • 40二次元好きの匿名さん22/02/12(土) 00:23:47

    保守をします

  • 41二次元好きの匿名さん22/02/12(土) 01:46:57

    「おい、何してんだアンタ」

     シリウスの声が震えているのが分かる。トレーナーバッジは、俺がトレセンに居ることを証明する唯一の手段だ。それを手放すということは、トレーナーを辞めるということ。

    「これが最善だと判断した。シンボリルドルフとのレースにはそれだけの価値がある」
    「アンタが居なくなったら、レグルスはどうなる」
    「名目上はシンボリルドルフのトレーナーが引き継いでくれる。元々俺が居なくてもお前が引っ張っていたチームだ。支障は無いだろう」
    「そういうことを言ってるんじゃねえ!」

     掴みかかられそうになるところを、間にシンボリルドルフが割って入った。

    「……ルドルフ」
    「彼の決断に君が口を挟む資格は無い。少なくとも今は。それに、私を相手に心あらずで走るつもりか?」

     威圧。シリウスですら気圧される存在感は、一線から退いたウマ娘とは思えなかった。

    「喧嘩なら、レースの後にしてくれ」
    「……クソッ」

     余裕の無いままにシリウスが唾を吐く。これで良いのだと、自分の決意を信じる俺の手も震えていた。コレエダトレーナーに迎えられ、シリウスとシンボリルドルフがゲートに入るのを遠くから眺める。

     ゲートが開く、好調なスタートを切ったシンボリルドルフとは裏腹に、シリウスは大きく出遅れた。

  • 42二次元好きの匿名さん22/02/12(土) 09:23:28

    「ひと芝居打ったのかい?」

     シンボリルドルフに大きく離されるシリウスを眺めてコレエダトレーナーが言った。

    「さっきのやり取りのことさ」
    「あれは、まあ言葉通りですよ」
    「そうかもね」

     おおよそ見抜かれているんだろうとは思いつつ、一応は煙に巻いてみる。コレエダトレーナーはにやにやと笑うだけだ。それなら、俺が話す必要もない。根比べに負けたのは相手の方だった。

    「バッジを捨てたにしてはやけにそわそわしてるよ。まるで戻ってくる算段があるみたいにね」
    「…………」
    「それに、わざわざ彼女の前で渡す必要はない。取り返しがつかないなら後で伝えるだけだ」
    「…………」
    「何より、俺は彼とはまあまあ長い付き合いだからね。意味もなく理不尽な要求はしないよ」
    「やっぱりだいたい分かってるじゃないですか」
    「だいたいはね。詳細は分からない。不自然な点もいくつかあるし」

     何故、そんな芝居を打つ必要があったのか。打つにしては、シリウスに何も求めないのは何故か。聞きたいのはそんなところだろう。

    「先ず訂正を。別に善意で返してもらうつもりのわけじゃありません。あれは賭けの代金です。俺が賭けに負けたら失う。勝ったら戻ってくる」
    「賭けの条件は?」
    「この模擬レースの勝敗」

     簡単な賭けだ。

    「シリウスシンボリが、シンボリルドルフに勝てば戻ってきます」

     賭けの内容は本当にそれだけだ。俺は、シリウスが勝つと思って持ちかけた。この出遅れを見てもそれは変わらない。
     手が震えているのは、待つということに慣れていないからに違いない。

  • 43二次元好きの匿名さん22/02/12(土) 14:30:22

    「なら、どうしてそれを彼女に伝えなかったのかな。彼女なら、そうした方が力を発揮しただろうに」
    「それは分かってるでしょう」

     確かに、シリウスに、お前が勝てばバッジは戻ってくる。だから勝ってくれと頼んだなら、彼女は心置きなく全力で走れただろう。今よりも、その方が絶対に速い。

     だけど、それじゃ意味が無い。それは、王が臣下の願いを叶えているだけだ。彼女の為の勝利にはならない。

    「迷ってほしいんです」
    「迷う?」
    「彼女には、このレースを全力で走る理由はありません」

     観客が居るわけでもない。毎日王冠で負けた今、メンバーも居ないのにシンボリルドルフに勝たなければならないというプレッシャーはもう無いだろう。勝ったところで何か得られるわけでもない。それどころか、このレースが終われば自分は問題児達の王に舞い戻ることができる。

    「だから、出てくるのはきっと本当の彼女の気持ち」

     義務ではない、勝利への渇望。

    「なるほどなあ」

     コレエダトレーナーは納得がいったようにうんうんと頷いた。しかし、隣のマンハッタンカフェはいまいち理解できていないようだ。

    「その為に、無謀な賭けを……?」
    「分の悪い賭けなんてしませんよ。俺はシリウスが勝つって確信してますから」
    「信頼……してるんですね」
    「カフェ、こういうのは信頼よりもっといい言葉がある」

     ああ、まさしく本当に。

    「こういうのは、"脳を灼かれた"って言うのさ」

  • 44二次元好きの匿名さん22/02/12(土) 16:35:38



     体が重い。シリウスシンボリは自分の体が、自分のものではないような気さえしていた。足は沼にハマったように重く、腕には砂の詰められた袋が幾つも垂れ下がっているようだ。視界は狭く、前を走るシンボリルドルフすらもボヤケて見える。

     どうしてこんなことになった。シリウスシンボリは考える。原因は単純だ。トレーナーが、バッジを捨てた。レグルスから去ると言った。理由は分からない。拾い上げてきたものが自分の元を離れていくことなど、珍しくもなかったはずだ。

     彼女が率いる問題児の群れは、レグルスの前にも何人も居た。そもそも、目についたものを拾い集めて、去るのも自由にしていたのが彼女だ。自分の才能に見切りをつけ、失意の中学園から消えていった者も居れば、熱心なトレーナーに見留められ、問題児から卒業した者も居る。

     風が一際強く吹いて目を瞑った。その間に、シンボリルドルフはさらに前を行っていた。

     追い掛ける気力も沸かない。この勝負、勝っても負けても、シリウスシンボリには何の関係も無い。せめて、勝てばバッジが取り戻せるというのなら、気合も入っただろうに。

    ──待て、今。私は何を考えた?

     トレーナーに居なくなって欲しくないと思ったのか。違う。その気持ちがゼロとは言わないが、トレーナーが居なくなることにはむしろ、安堵の気持ちさえあったのだ。それも違う。考える程に思考はまとまらなくなり、シンボリルドルフには離されていく。

     もう、走るのをやめてしまおうか。沼が一層深くなった気がした。

  • 45二次元好きの匿名さん22/02/12(土) 19:56:53

     シリウスはどんどんと離されていく。このままでは、取り返すことの不可能な差に広がるだろう。何をしているんだ、と拳を握る力が入る。お前は、こんなとこで燻っているようなタマじゃない筈だ。

     走っている最中、シリウスの顔が見えた。ダービーの時に見せた不敵な笑みとは似ても似つかない、幼い少女の泣きそうな顔だ。

     俺は、また独りよがりなことをしてしまったのか?

     この併走が。シンボリルドルフと走り、競り合うことが彼女の為になると思った。バッジを賭けたことも、彼女の益になる。彼女が本当の熱を取り戻す助けになると思った。その全てが、空回りだったのか。

     俺は、お前に夢を見ていたのか。

    「……一度決めたら。揺れちゃ駄目だよ」

     いつの間にか近くまで来ていたシンボリルドルフのトレーナーが誰に言うでもなく呟いた。いや、それは俺に対して向けられたものなのは間違いないのだが、直接言うわけでもなく、ただ聞き逃しそうな声量で、確かに伝わってきた。

     支えるつもりで、寄りかかるな。俺はまた、寄りかかり過ぎていたのかもしれない。支えも無しで、立ち上がれるものか。

    「シリウス──!」

     気付けば立ち上がって叫んでいた。こんなところで、恥も外聞もなく。

    「お前は何者だ、シリウスシンボリ──!」

  • 46二次元好きの匿名さん22/02/13(日) 00:41:18



     トレーナーの声が聞こえた。はっきりと、走っている彼女の耳にも。

    ──私は何者だ?

     チームレグルスのリーダー、違う。問題児達の王、もう違う。ただのウマ娘、そんなわけあってたまるか。私は私だ。シリウスシンボリだ。この場で、最も明るく輝く一等星だ。そうでなきゃ、私が私を許せない。

     シリウスシンボリの視界がすっと開けた気がした。曇り空に日が差したようだ。当たり前のことを、当たり前に受け入れられていなかった自分を嘲笑する。言葉でなら、トレーナーにも、他の仲間にも散々言われていただろうに。シンボリルドルフのように言うなら五里霧中になっていたとでも言うべきだろうか。

    「私が勝ちたいのは、王である為でも、願いに応える為でもない」

     ギアが変わる。離され続けるようだったシンボリルドルフとの距離が、逆に縮まり始めた。それに気が付いたシンボリルドルフも、後ろをちらりと確認して、口角を吊り上げる。

    「私が勝ちたいのは、私がシリウスシンボリだからだ!」

     名分などない、ウマ娘として誰もが持っている、勝利への欲求。久しく見失いかけていたそれが、シリウスシンボリの両手足を押さえていた氷を溶かした。

     ゴールまでは残り僅か200m。その差は、5バ身。

  • 47二次元好きの匿名さん22/02/13(日) 07:31:34



     シリウスシンボリの走りは、無謀も良いところだった。まるで超短距離を走るかのような乱暴な走りだ。残り200mだとしても、最高速度は維持できる筈もない。シンボリルドルフは、追い付かれると思いながらも冷静にそう判断した。併走だろうと、全力で。その全力は、勝つ為の全力だ。けしてこの場でレコードを出す為でも、大差をつけるためでもない。シリウスシンボリより、僅か数コンマでも先にゴール板を通り過ぎれば良い。

     先んじて言うと、シンボリルドルフのこの判断は悪手だった。彼女の判断は、長い間ひりつくような戦場で走っていなかったが故の鈍りであり、この場においては明確な間違いだったと言える。

    「ああああ──!」

     らしくもない叫びをあげて、シリウスシンボリは走る。ただ前に、誰よりも前に、皇帝よりも、見知らぬ誰かよりも、叶うなら自分自身すら置いていけるように。ただ速く、速く走れ。

     シリウスシンボリとシンボリルドルフの距離は瞬く間に縮まり、ラスト数十メートルで完全に横に並んだ。

    「なっ!?」

     逃げ切れると判断していたシンボリルドルフは、慌ててスパートを強くする。だが、体はそれに追いつかない。第一線で走り続けることをやめていた体は、急な加速についていくことが出来なかった。

     皇帝を叩き潰せ。

     ほんの少し、ハナ差で先にゴール板を駆け抜けたのは、シリウスシンボリだった。

  • 48二次元好きの匿名さん22/02/13(日) 15:42:18

    「シリウス!」

     走り切った彼女は力尽きるように倒れ伏した。怪我でもしたのか、慌てて駆け寄る。

     瞳孔が開いて、息が荒い。過呼吸だ。息を吸う間も惜しんで全力で走り続けたせいで、意識が混濁している。

    「シリウス、落ち着け。ゆっくりと息を吐くんだ」

     うつ伏せの彼女の体を横向きにして、気道を確保する。過呼吸に必要なのは息を吸うことより吐くことだ。足りない酸素を取り込もうと無理し過ぎて、逆効果になっている体を落ち着かせてやらなければならない。

    「さあ、吐いて。一、二、三……そして吸って。良いぞ、焦る必要なんて無い」

     苦しそうな顔も表情が和らぎ、混濁していた意識も、少しずつ戻ってきた。それでもまだ焦点の合わない目で、か細い声でシリウスが尋ねる。

    「どっちが、勝った……?」
    「……お前の勝ちだよ、シリウス。誰が見ても、文句のつけようが無い程に」
    「そうか……」

     うわ言のように、勝ちという言葉を繰り返す。

    「ああ、シリウスシンボリの勝ちだ」

     呼吸が落ち着いてくる。見た限りでは体に腫れは無い。怪我なんかはしていなさそうだ。病院へ運ぶこともなく、もうしばらくすれば自分で立ち上がれるだろう。

    「なあ、トレーナー」
    「なんだ」
    「アンタ、トレーナー続けろよ」

  • 49二次元好きの匿名さん22/02/13(日) 17:07:40

    「それは、命令か?」

     意地悪な質問だった。言うようになった、とシリウスもニヤリと笑う。

    「ただの願望だよ。別に王を気取るつもりもない。ただ、アンタが居なくなるのは勿体ないって、そう思っただけだ」
    「……そうか」

     向かいからシンボリルドルフが歩いてくる。死力を尽くしたシリウスと違って余裕のある姿だ。ようやく体を起こしたシリウスが、敗北した皇帝を前に不敵に笑う。

    「よう、皇帝サマ。ネズミと思ってた奴に喉元咬み千切られた気分はどうだ?」
    「……乾坤一擲。君の力を測り間違えていたよ、シリウス。慢心していたと恥じるしかない」
    「フン、腹の中煮えたぎってるくせにスカした顔してるな。まあ良い」

     シリウスが手を差し出す。それはけして友情の握手なんかではない。

    「トレーナーバッジ、返してもらおうか。それは私のだ」
    「フッ、変わらないな君は、どこまでも乱暴で、暴力的なまでに輝く星の光だ」
    「どうだか。少なくとも今の私はアンタのハナ先の景色を見れて私自身記憶にないくらいに気分が良い。変わらないと思ってるなら節穴だ」
    「そうかもしれんな」

     シンボリルドルフが言葉にしなかった思いは、俺にも痛い程に分かった。

     それは今までのシリウスが厚い雲に閉ざされて暗く隠れていたのだと。それがようやく、元の光を取り戻したのだと。

  • 50二次元好きの匿名さん22/02/13(日) 19:57:28

    保守です

  • 51二次元好きの匿名さん22/02/13(日) 22:09:00



    「いやー、完敗だねルドルフ。いつぶりだろう、こんな負け方」

     併走が終わり、シンボリルドルフとそのトレーナーは自らのトレーナー室に戻ってきていた。部屋の鍵をかけて、トレーナーはゆったりと自分の椅子に腰掛ける。

    「ああ、欣喜雀躍。シリウスがあれだけの力をつけていたことは素直に喜ばしいな」
    「またまた。本当の君は、そんな殊勝なタイプじゃないでしょ?」

     トレーナーの一言で、シンボリルドルフの表情が変わる。笑っているようで、歯を食いしばり、目は血走りそうに見開いている。それは、プライドを傷つけられた獅子の顔だ。

    「彼は、慧眼だね。きっとルドルフのそんな一面も察した上で、あんな賭けを持ち掛けたんだ」
    「トレーナーくん。まさか反故にするとは言わないだろう?」

     言うことを聞かなければ食い殺しそうな、静かなる剣幕も、トレーナーは柳のように受け流す。三年以上、この眠れる獅子を手懐けてきた猛獣使いは、この程度の威圧には怯まない。

    「まあまあ、逸るのも良いけど落ち着きなよ。もちろん約束は履行するけど、その前に済ませなきゃいけないものも多いだろう?」
    「それはそうだが」
    「だから宣言だけにしておこう。そうだな、年末なんてどうだろう」

     それにしても面白い子だと、シンボリルドルフのトレーナーは自分のバッジを握る。

    「自分の魂を差し出して求めることが、"シンボリルドルフの現役復帰"だなんて」

  • 52二次元好きの匿名さん22/02/14(月) 00:00:59

     シンボリルドルフの現役復帰のニュースはまたたく間にトレセン学園中、いや日本中を流れた。各所からのマスコミがトレセン学園に押しかけ、ちょっとした祭りになっている。いつも対応してくださっている職員の方々も若干疲れ顔だろう。そんなことを思いつつトレーナー室で仕事をしていると、定位置にいつもの顔が乗ってきた。

    「流石は皇帝サマ、復帰して最初の目標が有馬記念と来たもんだ」
    「それでも、票は集まるだろうからな。出走には問題無いだろうさ」

     実績とは別にファン投票によっても出走者が選ばれる有馬記念は、ある意味では皇帝の再スタートにふさわしいのかもしれない。彼女が出たいといえば、断る人間は居ないだろう。

    「シンセダイナの奴は出るんだっけか、有馬記念」
    「ああ、その予定で調整してるって言っていたな」

     菊花賞、トロピカルエアを接戦の末打ち破ったシンセダイナは二冠ウマ娘、クラシック世代の代表として有馬記念に名乗りを上げた。トロピカルエアは実績が足りず、ファン投票でなんとか入れればというところだが、インパクトは完全に皇帝復活に持っていかれてしまった。最大限努力するが、出走は正直難しい。

    「お前も出たいのか?」
    「んー? あんまり、っていうか。今年は興味無いな。天皇賞がまだ残ってんだ。先ばかり見て、そっちに身が入らないのも嫌だからな」

     今週末の天皇賞。毎日王冠では勝てなかったシリウスが雪辱を晴らす為の舞台。

    「私は、勝つぞ」

     見なくても分かる、勝利を渇望するその目に、俺はおう、と小さく答えた。



    『問題児達の参謀Season2』 Fin

  • 53二次元好きの匿名さん22/02/14(月) 00:04:03

    ■後書き
    無事Season2も書き終わりまして、長い間応援してくださった皆様には心からの感謝申し上げます。今回も、前回程ではないにしろかなり長い作品になってしまったので、pixivにまとめてあげる予定です。
    蛇足にはなりますが、前回と同じように設定やキャラクターの解説を僅かながらしていこうと思います。

    ■作品について
    前作が「トレーナーがシリウスシンボリに救われる話」だとするならば、今作は「シリウスシンボリがトレーナーに救われる話」がコンセプトでした。そして、シリウスシンボリから問題児達の王、という冠を外す為の物語でした。
    その構成を通す為に、前半は殆どシリウスの出番が無いという結構な暴挙に出てたりします。シリウストレSSと書いておきながらとんだ詐欺です。前作でメンバーのオリウマ娘を掘り下げていたので、なんとかなるかな?と思いながら書いていましたが、どうだったんでしょう。
    そして後半では打って変わってシリウスシンボリを主軸に据えています。トレーナー達の出番の方が多かったような気もしますが、全部シリウスシンボリの話に繋ぐためのものでした。
    なんでシリウスは問題児を集めていたの?という疑問にも一つの解釈は出せたのかなと思います。

  • 54二次元好きの匿名さん22/02/14(月) 00:06:22

    ■シリウスシンボリ
    前作では正の側面ばかりフォーカスしたデウスエクスマキナ的な存在でもありましたが、今作ではストーリーの本流に乗れず苦しんでいる姿をメインに据えました。問題児達の王なら、問題児達が卒業してしまえばただのお飾りですし、参謀が力を持てば王がすべき仕事などありません。そうやって、孤独になってしまった王はどうすれば良いのか。そこを悩み、考え抜いてもらいたかったのです。シンボリルドルフとのラストレースは、彼女が問題児達の王として皇帝に挑むのではなく、シリウスシンボリとしてシンボリルドルフに勝利する。そういう構図を描けていたらと思っています。

    ■トレーナー
    前作に比べるとずっと有能になりました。経験を積んだことで、才能が無いなりに向き合い方や学び方を覚えたことが大きいでしょう。それが皮肉にもシリウスの歯車を狂わせてしまったことになるのですが。
    トレーナーにとってシリウスは特別な存在で、恩人でありながら守るべき対象でもあるという、支えるべきか頼るべきが難しい立ち位置に居ました。だから彼も判断を間違えたり、悩んで苦しんだりしています。お揃いだね。
    それでも、シリウスに出会う前の弱さからは一歩先に進み、問題に立ち向かう強さを見せています。
    ちなみに、作中では語られませんでしたが、他トレーナーからのシリウスと彼の評価は「狂犬2匹」です。

  • 55二次元好きの匿名さん22/02/14(月) 00:11:46

    ■ハイバラ
    前作のハイエナトレーナーです。無愛想で合理的な人間である為、人当たりはすこぶる悪い人ですが、その本質はウマ娘の為、なので悪人ではありません。トレーナーに様々な助言をしてくれるのも、彼が倒れればチームレグルスが瓦解する可能性があると考えたからでした。
    支えるつもりで寄りかかるな、という彼の忠告が後々までトレーナーの心に残っていることからも今回のMVP候補の一人です。
    余談ですが、シンセダイナの2冠は彼にとっても嬉しい出来事だったようで、静かに涙している姿が報告されています。

    ■コレエダ
    拙作の世界観におけるマンハッタンカフェのトレーナー。ゲスト出演というには今回が出番が多すぎましたね。当初のプロットではこんなに出張る予定はなかったんですが、トレーナーが相談出来る信頼に足る年長者が彼かハイバラしか居なかったこと。そして今回のようなケースではハイバラは力になってくれないであろうことから出番が増えてしまいました。

    ■シンボリルドルフとそのトレーナー
    今回のラスボス枠である皇帝とそのトレーナーです。ハイバラ、コレエダと違って名前が出ないのはトレーナーの視点から見て雲の上の人だからという側面があったりします。心の距離があるというか。
    シリウスとルドルフの関係性はぼかしたままですが、少なくともルドルフはシリウスのことは嫌いではないんじゃないかなと思います。そもそも跳ねっ返りの強いウマ娘は会長好きそうですし。シリウス側は気に食わなさそうですが。
    ネタバレするとこの後ルドルフは有馬記念で見事シンセダイナを破って優勝しています。(モチーフは85年の有馬記念)

  • 56二次元好きの匿名さん22/02/14(月) 00:16:09

    ■ザッツコーリング
    後述のクライネキッスと共に、前回目立たなかった子達にフォーカスを当てようというのが前半のシナリオにはありました。そのうちの一人であるザッツコーリングは、ダートへの転向という大きな決断を、シリウスに頼らずに決めています。それはザッツコーリングに自身の身の振り方を決める強さがあったからでもありますが、トレーナーがチームレグルスで信頼されるポジションにいること、そしてシリウス頼りのチームから脱却しようとしていることを示すエピソードでもあります。

    ■クライネキッス
    前作の影の薄さからは一転、前半の主役とでも言うべき見せ場をもらったのがクライネキッスです。これは、シリウスの後ろに隠れていたような子でも、前に進もうと頑張っている。いつまでも守られる存在ではないと示す為のエピソードでした。懐いてくれる後輩が出来て、人見知りもかなり改善したでしょう。皆を救い上げて引っ張っていくシリウス。的確な指導で鍛え上げるコンテストアバターと違い、寄り添って辛いときに一緒に立ち止まってくれる、そんなリーダーとしての才覚を持っていました。
    そして、それを目覚めさせたのはシリウスなのですが、悲しいことにそれも歯車を狂わせる原因の一つでした。

  • 57二次元好きの匿名さん22/02/14(月) 00:17:19

    ■ツヴァイスヴェル
    新しくチームレグルスに入った後輩三人組の一人です。本人の目標はグランプリなのに、芝適性Fくらいの子です。
    とはいえ、彼女を含めた後輩組はシリウスのダービーやチームレグルスの活躍を見て加入したので、作中でも言うとおり問題に悩まされていたわけではありません。だから、トレーナーも適性を薄々分かっていても、彼女の夢を応援しています。
    つまり、シリウスを王としてまとまっていたレグルスにとっては、新しい風であり、異物だったのが彼女達です。

    ■ジュエルビスマス
    後輩組の中で最もシリウスから遠いであろう子で、一番クライネキッスを慕っている子です。あがり症で、本番で能力を発揮できないタイプの子でしたが、その問題は既に解決の方向に向かっています。その解決に、直接的にはシリウスは関わっていません。クライネキッスのお陰で自分と向き合ったことによる克服です。
    彼女については、クラシック期の挑戦も見てみたい気はしますね。後輩組の中では一番のお気に入りかもしれません。

    ■アクアスワンプ
    実はこの子は最初予定が無かったというか、最初は新しく加入するのはツヴァイスヴェルとジュエルビスマスの二人だけの予定でした。ところが自分の作品読み直していたら、少なくとも後輩3人居ない?となって急遽呼び出されたのが彼女です。影が薄いキャラもそういう経緯からついたものでした。
    実は走り方においては、ストライドの異様に広い、面白い走り方をします。そこに焦点を当てたいなとも思ったのですが、今回そちらに向けると脱線してしまうので泣く泣くカットに。後輩編を楽しみに(存在しない)

  • 58二次元好きの匿名さん22/02/14(月) 10:52:49

    ほしゅ

  • 59二次元好きの匿名さん22/02/14(月) 17:33:51

    保守 素晴らしかったです 

  • 60二次元好きの匿名さん22/02/15(火) 00:58:51

    最高でした。前作に偶然出会い感動し、続きを探し彷徨い、ここを見つけた喜びは言葉にできません。
    前作で描かれなかった部分を中心に据え、さらにキャラクターが深められていて最高です。またいつか是非に狂犬達の続きを読ませてください。

オススメ

このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています