最高だな!光あれ!なトレーナー

  • 1■■■書22/02/04(金) 06:24:14

     
    ではないんですが、
    信じられる友と出会い気付く、罪と約束の物語【クロスSS注意!】
     
    ※『深罪の三重奏』までの全セイバー映像作品ネタバレ注意
     
     


     
    ──“最初の3年間”から����年。
     
     

  • 2Episode122/02/04(金) 06:25:12

    ──そこにはただ、闇があった。
     

    もはや何の変哲も無い、星が溶けきった黒塗りの空。
    ふと目を凝らす足元さえ、そよいでいた緑は見る影なく暗がる。
    彼方まで広がる孤独の光景に、一片の栞が突き刺さった。
     
    最後に残る無心のままに、引き寄せられて辿り着く。
    黒く錯覚したその栞は、静寂に侵す剣となった。
     
    幾星霜にも渡り駆けてきた、悲壮と怨嗟の物語。
    沈黙の中、虚ろに明滅し続けた想いが辿り着くには相応しい結末なのだろうか。
     
    そんな得心か、逡巡か。
    ちょうど、ぜんぶわからなくなったところで。
     
    「…………!」
     
    ──剣はその手に収められた。
     
    ……本当は闇夜に灯す光が居ることに、終ぞ彼女は気が付かなかったが。
    『星』はそれでも虚空に輝き、いつも彼女を見守っていた。
     
     
     
     
     
    ●●●
     

  • 3二次元好きの匿名さん22/02/04(金) 06:25:52

     


    ○○○

  • 4二次元好きの匿名さん22/02/04(金) 06:26:58

    「え? ────? ああ、凄いよね!あの走りは!」
    「うんうん。ただでさえ圧倒的で逆に夢見てるんじゃないかって錯覚しちゃったり────」
     
     
     
    「────? ──It's incredible! No one else can run at high speed!!」
    「It's not only that. ──"Keep run away forever". She play that world as a toy from A to Z──────」
     
     
    「机上の空論だとされていた走りを気ままに乗りこなしてしまう……私のようなアプローチを試みる者としては複雑であると同時に、夢見がちになって仕方がないんだよ。
    ……諦めなければ。どうか限界の先を、もう一度見せてく──────」
     
     
     
    「────か。フッ、無論全ウマ娘の夢だな。……私がここまでハッキリ言うとは驚きだと言う顔だな。
    あの走りは強さだけじゃない。何よりもヒトに夢と希望を見せつけ、そして超えるべき理想としていつでも皆を待ち構える。燃えるのは私とて例外ではない。
    きっと今この瞬間も、どこかで誰か──────」
     
     
     
    「────んですか? これまでもこれからも変わりません。私はいつか超えてみせます!
    同じ舞台に立ったその時は──あれ?」
     
    「あなたは……あのっ────? あっ、練習……もうこんな時間だーー!?」
     
     
     
    ──また一つ、静寂に近づいた。
    ●●●

  • 5二次元好きの匿名さん22/02/04(金) 06:27:22

    ──12月23日。
     
     
     
    「……何だアレは」
     
    通算二度目の困惑の発露。かつて世界を救った光の剣士は、目覚めた世界で目に入った光景に疑問を呈すほかなかった。
    正確には『救った』と信じているのだが。さらに、別に混乱しているわけではなく好奇心に満ち溢れているのだが。
     
    異文化に理解を示そうと、信念はそのままに真面目に想いを吸収していく様に、仲間たちは親しみと頼もしさを覚えていただろう。
    それを当の本人が思い出せない事が、一度目の困惑の原因だった。
     
    『……お? なんだこの世界は。さっきまで賢神と戦った者を治療していたはずだが……ここは空気も魂の流れも違うじゃないか。
    ここは明らかに知らない世界。よく見れば耳と尻尾の生えた人間が大勢居るな。
    さて。興味を示すことも兼ねて練り歩き、早く──の世界に戻らなければ……何?』
     
    まるで分厚い本のページを抜き取られたかのように、記憶の中で共に戦った者達の名前だけが思い出せなかったのだ。

  • 6二次元好きの匿名さん22/02/04(金) 06:27:58

    「──ふっ……!!」
     
    そして今、目の前を駆け抜けた者の情報の圧に完全に固まってしまっていた。
    否、それも一瞬で彼──ユーリは口を開く。
    目の前の者に一言物申すために。
     
     
    「なぜ……なぜカリバーが凄い体勢で全力疾走してるんだ!?」
     
    「…………え?」
     
    ……そこには山道を前傾姿勢で、人間とはかけ離れた速さで駆ける、仮面ライダーカリバーが居たのだ。何の意味も分からんけど居たのだ。
     
    「……うん、アメコミらしいナイスリアクションが出来たな。これでまた一歩正義の剣士として精進したことだ。
    さて、この意味不明な状況を説明してもらえないだろうか?」
     
    「ええ……いきなり叫んだと思ったら急に静かに……?? うそでしょ……」
     
    彼女からすれば、やけにメリハリのある躁鬱を浴びせられて困惑したことだろう。
    しかしそれを重苦しい紫の甲冑姿で言うのだから、結局どっちも素っ頓狂なことに変わりなかった。
     
    つまりツッコミ役がいない地獄のような空気感なのだ!
     
     
    「コラ~~ッ! 大事なレースの日くらい、朝から飛ばすのは、やめなさい! 主に、私が、歳で、ついてけないから、ね……誰だアンタ!?」
     
    そこに『トレーナー』が現れて、お話は漸く進むのだった。

  • 7二次元好きの匿名さん22/02/04(金) 06:28:26

    「ほぉ……とても興味深い話を聞かせてもらった。ここは『ウマ娘』が人間と共に繁栄し、魂を受け継いで日々レースに励んでいる世界なのか……。まるで……そう、ヴァルハラみたいだ」
     
    「魂?ヴァルハラ? ……このご時世でこんな浮世離れした日本人……でもないのか? 
    ……ま、まあ面白い人がいるもんだな。私も彼女と剣のことで耐性ついたのかこれじゃ驚けないな……私大丈夫かな?」
     
    「そうそれだ。何故アイツが“闇黒剣月闇”を持ってるんだ? あの様子、だいぶ聖剣と相性も良いみたいだ」
     
    「あの子が聖剣?を手に入れたのは結構最近よ。その力で凄い走りが出来るなんて抜かしたもんだからさ。
    最初は遂にこの子までドーピングしちゃったの!?なんて震えたけど、もっとファンタジーな事情で良かったのか悪かったのか……haha」
     
     
    もう少し走ってきますと、話し込んでいるユーリたちの背に声をかけ、斬った聖剣を滞納した彼女は走り去ってしまった。
     
    トレーナーは好奇心のままにガンガン質問を投げかけるユーリに辟易しながらも、なんとか上手くやり取りしていた。
    目の前のやたらデカい傾奇者に彼女と同じくらいマイペースぶりを感じたからかもしれない。この手の扱い方は慣れてきてしまっていた。

  • 8二次元好きの匿名さん22/02/04(金) 06:29:01

    「確かに剣使って変身してるけどね。別に厄介ごとに巻き込まれてるわけじゃないし、私も邪魔だから引き離そうとしたけど剣は闇に消えるしで、現状放棄してんのよ……。
    で、あの子何のために使ってると思う? あの姿なら速く走れるとか言って私に剣背負わせて勝手に走りだしたんだよ! もう私の脳で耐えれる情報量じゃねえんだわ!!」
     
    「落ち着け落ち着け。ウマ娘とトレーナー……彼女と二人三脚なお前がへこんでどうする。聞く限り危険もないし、お前の胆力なら受け入れられるはずだ」
     
    「そこにアンタなんて爆弾がぶち込まれたんだから私の脳はもうボロボロなんだよ!!」
     
     
    数日前、初めてゴツイ姿になって勝負服みたいなものですと言われたときのこの感情を説明してみろください。そんな念を込めた睨みもスルーされたトレーナーの記憶はさらに鮮明になる。
    放心したままタイムを計ると時速122kmなんて数値がたたき上げられたのだからもうどうしようもなかった……

  • 9二次元好きの匿名さん22/02/04(金) 06:29:49

    結局彼女から、その鎧を纏って走るときは普段と違う『景色』が見られるから、レースで使う気はないし練習以外で使いたいと押し切られてしまったのだ。

    トレーナー同伴の下、人気のない場所ならOKということで落ち着いた。その場所に行くのになんかワープまで使っちゃうんだからもうナニモワカラナイ……
     
     
    「まあ、空気抵抗をスリップストリームも無しに無視出来る力に興味は沸いたけどさ……ああいうのは深く触れないのが丁度いいってもんよ。アンタの話を聞く限り、あの子と完全に適応してるみたいだし、飽きたらこっそり捨てちゃえばいいもんね……大丈夫よね?」
     
    「世界を守る力を考え無しに捨てようとは、判断力に欠けているな「あァん!?」……どうどう。
     心配するな。どう考えても災いの前兆だが、世話になったお礼にアイツの護衛役になろう。…………こんな役目は千年ぶりだな」
     
    「え──やっぱじゃん!いやそうだよね!?ふっつうに危ないよねこんなの!え、え、ど、どうすん……まも、まもるとか、え~……あーもう分かんないやよろしくお願いね不審者さん!!」
     
     
    「ユーリだ。まあ俺に任せろ。俺は“闇の剣士”だからな。
    それで、今日はどこに付き添えばいい?」
     
    「あー……そうね、今日はアンタに見せてあげる。ウマ娘たちが夢を駆けて競い合う、レースの世界の迫力を。
    そして、その中でトップに君臨する彼女──サイレンススズカの走りを」

  • 10二次元好きの匿名さん22/02/04(金) 06:30:20

    第一話はここまで
    書き溜めの進捗的に全七話ぐらいですが、人がいれば続きます
     
    全然概念とか投げてくれてどうぞ
    一応今回はウマ娘とライダーキャラがトレーナー関係以外で関わる概念がテーマの1つです

  • 11二次元好きの匿名さん22/02/04(金) 06:35:29

    うわぁ〜〜〜!?概念かと思ったらSSじゃん!
    まだ路線分からんけどとりあえずユーリの順応がやたら早いの芝

  • 12二次元好きの匿名さん22/02/04(金) 06:59:39

    俺は遂にユーリまで来たかと思って覗いた一般人
    急に連載が始まってVシネみたいな演出が襲ってきてこんわく

    スズカさんカリバー概念…?
    それともVシネみたいな重いヤツ…?

  • 13二次元好きの匿名さん22/02/04(金) 07:51:19

    今回はって何だ・・・?と思ったけどこの概念どっかで見たことあるな・・・特定したろ

  • 14二次元好きの匿名さん22/02/04(金) 15:38:57

    >>13

    特定豪語兄貴消えちゃったけどそれっぽいの見つけたゾ


    強さの果てを追い求めるトレーナー|あにまん掲示板はぁっ⁉︎バ場最悪なうえに、雨が強くなってきた⁉︎マジないわ‼︎bbs.animanch.com

    これの最後の方でユーリスズカ概念が出てるから同じ人かな?(こんな提唱者早々おらんやろ)

  • 15二次元好きの匿名さん22/02/04(金) 16:01:22

    太り気味?光あれ!
    風邪を引いた?光あれ!
    骨折?光あれ!
    膝が悪い?光あれ!

  • 16二次元好きの匿名さん22/02/04(金) 17:17:20

    このレスは削除されています

  • 17二次元好きの匿名さん22/02/04(金) 17:28:23

    最強の回復キャラ来たな…

  • 18■■■書22/02/04(金) 17:35:02

    トレーナーにしても保険女医にしても万能すぎてヤバいキャラだから早々にその記憶は忘れてもらったというね

  • 19■■■書22/02/04(金) 17:40:57

    >>18

    しまった保健所医だろ!?キャラは出てすぐに女装してたけどさぁ!!

  • 20Episode222/02/04(金) 19:15:46

    >>9 >>10


    レース関係者には特別席が与えられていた。

    ユーリは備え付けのハンバーガーを食しながら、ウマ娘たちがパドックでお披露目する様子を堪能している。

     

    トレーナーにとっては見慣れた光景だが、BGMや照明などの演出が日本よりポップだったりヒロイックだったりする。

    今回はまるでアメコミ映画のような盛り上がり方だったのだが、ユーリは食べるのに夢中で"反応が鈍い"。

     

     

    「これが“アメリカ”のレースの雰囲気か。確かに日本とは違った大きな盛り上がりを見せているようだ。

    俺も騎士団にいた時、これより一回り小さな会場でしのぎを削った事がある。だが、それを上回る人の想いに溢れていると見た」

     

    「騎士……もう触れんとこ……てか初めてレース見るくせにいっちょ前に批評はナイナイ。

    今回のレースはスズカにとっては復帰戦みたいなものだし、大きな舞台ってわけじゃないから」

  • 21Episode222/02/04(金) 19:16:06

    「それに想いとか言うけど、アメリカのレースはカジノとの共栄が進んでるとこも多いから何処にでもノリが伝播してるしなぁ。欲望とかの間違いじゃないの」
     
    「欲望が始まりでも、全力を尽くして挑む者の姿を見れば影響され、いつしか想いは向上心に繋がる。
    そうやって人は前に進み、今度は自分の物語に挑むことが出来る」
     
    かつて、友が欲に溺れて力を欲し、その結果バハトの愛人が亡くなった。
    さらにそこから新たな渇望──絶望したから世界を無に帰すと、力に魅入られたバハトが暴走する連鎖が発生した。
     
    二人の友としては想いが砕け散ったことに心を痛めたが、もうその時点で世界を守る騎士として生き方を決めた後だった。
    どちらかというと、彼らが個人の事情で世界に危害を及ぼす様への失望の方が勝っていた。そして、話し合いの余地は無く、世界を守る務めを黙々と果たしたのだ。
     
    その後も人の欲望から戦争や二次被害が起こり続ける様を見てきた。特に感じ入るものも無く、ただ世界を守る剣として役目を待つだけだった。

  • 22Episode222/02/04(金) 19:16:29

    「あー……真面目なだけじゃなくて綺麗な答えね。やっぱりスズカと似て皮肉効かないパターンじゃん。気つけとこ。
    ……でも。ヒトが皆そんなに綺麗な心で娯楽に臨めたらそりゃ面白いか…………誰もが未来を想えるわけじゃないのに」
     
    「……? なんか言った──おっと。始まってたみたいだな」
     
    しかし、今は違う。
    人の清濁併せ吞んだ想いがフィクションを越えて世界を形作り、確かに未来へと繋がっていく。
    自分も考えを改め、大切な人々を守ることで世界を守り続けると決めた。
     
    だからこそ、今になって1000年前の悲劇について思う所が生まれた。自分は情勢に柔軟に対応し(当者比)、世界を守ってきたが、何もその度に生まれ変わったわけではない。
     
    あの頃の鉄面皮な機構としての自分にも、友を断罪する際に悲しみがあった。しかし失望から赦しの余地を自分で失くし、封印という判断へ急いでしまったのではないのか。
    ───と───の、絶望を乗り越え友を信じたことで新たな未来が切り開かれた瞬間を目の当たりにした時から、そんな疑問を片隅に抱いている。
     
    もし、もしも。
    次に友人が、信じられる友が出来てその中で決断を迫られたときは、正しい答えを見つけてみせる。
    そうやって今のユーリは目標、あるいは“夢”を持っているのだ。

  • 23Episode222/02/04(金) 19:16:46

    レースは圧巻の展開だった。スズカは終始先頭を駆け、他のウマ娘を寄せ付けることも無く、圧倒的な勝利を何喰わない顔で収めてしまった。
    大歓声と疾走の熱気が広がり続ける。観客たちと同様、ユーリもまた、感じた事のない高揚感を得ていた。
     
    スズカは息が切れる様子も無く、トレーナーに軽いマッサージとアイシングを施された後、ウイニングライブに向かって行く。
    ユーリはトレーナーと共に関係者特権で良い席を取っていた。
    トレーナーがせわしなくチラチラ見てくるのが気になる以外は文句の付け所のない環境である。
     
    挙動が忙しなく、今度は自分が不審者と化したトレーナー。
    なんだかんだ言っても一トレーナーとして、初めてウマ娘のレースを見た者の脳の焼かれ具合を間近で見たい。どんな言葉が飛び出すのかと首を長くして待っていたのだ。
    遂にユーリの口が開く───!
     
    「うん、凄かったな」
     
    「──ってそれだけかよ?! 初めて見たレースの感想がそれって……なんかこう、もっとグイグイ来いよさっきみたいにさあ!」

  • 24Episode222/02/04(金) 19:17:05

    「俺は何度も分かりやすい直球は投げないぞ。いや、本当に心身が揺るがされたんだが彼女と後……何か違和感を覚えてな」
     
    「はあああ~~? 私が単純バカって言いたいんですかぁ?! 
    ……フッ仕方ないな。私が彼女の凄さをみっちり叩き込んであげますよ~~だ!」
     
    何故か自爆したトレーナーが語り始めたのは、スズカがいかにアメリカに相応しい才覚と実力を持っているかという事だった。
     
    アメリカのレースにはスズカと相性がいいとされる特徴が幾つかある。
    例えばバ場は彼女が得意とする左回りしかない。
    さらに、ダートレースをメインで扱っている唯一の強豪国として栄えていることも重要な要素だ。

  • 25Episode222/02/04(金) 19:17:59

    トレーナーがスズカへの熱意を発射!

    「ダートが日本のと違うんだよ。
    芝コースから芝全部引っこ抜いてぐりぐり整備しまくった感じなんだよね。時計は早くなるから慣れるのは流石のスズカでも大変だった……。
    歯鉄っていうスパイク蹄鉄もてこずった原因かな。ひっかかりとか滑らないためとか、いろいろあるけど脚に負担がかかるから文化のない日本の子には難しかったな……でも!
    スズカが一番凄いのはね、絶対に自分の走りを崩さないこと! もっと言うと、絶対に自分の世界に入り込むから常にブレない最適な走りをするし、癖が全然つかない。
    日本とアメリカの環境の違いに直ぐ適応したんだよ強みを更に押し上げて! 彼女の目的が静かな光景を見ることだからなんだよね凄いウマ娘だよね。
    それと、彼女は日本以外でよくあるブーイングすら気にも留めない。いえ、走り出すまでは気にしてる様子はあるけど、ここ最近で走り出してから自分の世界に没頭するまでの間隔が格段に早まった。
     
    その挙動がいつも変わらなくて恐ろしさも覚えたりするってのが正直な感想かな~(早口)……ってお~い。聞いてますかね~~?」
     
    「どうした急に。
    お前こそライブちゃんと見てるのか。しかしこれは──最高だな!」
     
    「おまっ、アンタまたスルーし──あっ終わっちゃった……
    っておいおいおいおい……わたしもみたかったんだが?!」

  • 26Episode222/02/04(金) 19:18:24

    今度は皮肉どころか発言までスルーされ、ぷんぷん涙目で発狂するトレーナーを尻目に、ライブの幕が下りてしまった。
    レースだけじゃなく、舞にまで全力を尽くし、夢を抱いて最後まで駆ける姿にユーリは深く感銘を受けていた。スルースキル高いのはしかたないね。
     
    さっきから思っていたがトレーナーは、───とはまた違った、基本卑屈であるが面白くて騒がしいヤツだ。
    それはそれとして、ユーリは本当に彼女がトレーナーの言うように走っているのかという疑問を持った。
     
    「…………」
     
    なんせサイレンススズカの表情はレース中──ずっと静かに固まったままだったのだから。

  • 27Episode222/02/04(金) 19:18:45

    退場の手続きなどの厄介ごとはトレーナーに任せ、ユーリはレース場の外の景色を眺めるスズカの下に向かった。
     
    「……あっ。貴方は──」
    「ユーリだ。これから少しの間、お前に危険が及ばないよう護衛を務めることになった。よろしく頼む」
     
    「は、はい。……えっと、よろしくお願いします。あと、初めまして」
    「ああ。……突然ですまないが、俺はただの護衛に甘んじるつもりはない。お前のことをもっと深く知り、その上でお前と共に歩もうと思う」
     
    「はい……ってええ!? 共に、とか──えっと。えっと…………???」
     
    先程本人は否定していたが、大事な部分をはしょった彼の会話スキルはやっぱり健在。スズカはこんらんしている!
     
    ただし今回は意図があっての事。
    闇黒剣は彼のいた世界では数百年継承者が居なかった危険な代物だ。それ故スズカに対しても警戒を怠るわけにはいかない。
     
    しかし、今のユーリは人を信じることで切り開ける可能性を望む。
    スズカのことをたくさん知って、その先にどんなものが待ち受けていようと、確かに信じられる関係を築きたいのだ。

  • 28Episode222/02/04(金) 19:19:03

    「やはりファストコンタクトというのは難しいな。勿論これから慣れていくが。
    さあ、聞かせてくれ。お前は最近、走りに関して何の懸念を持ってるんだ?」
     
    「…………!」
     
    困惑していたスズカだったが、我が道を行く似た者同士シンパシーを感じたのか、ユーリの強い想いを疑う気にはならない。
    何となく張りつめていたスズカは、直ぐに彼のブレない雰囲気になごんでいった。
     
    「じゃあ……少し長くなるんですけど、聞いてくれますか?」
     
    「もちろんだ」
     
    言葉を交わすごとに、親近感が沸いてくる。気付けば自然と、悩みをつぶやき始めていた。

  • 29Episode222/02/04(金) 19:19:22

    「最近……というより、さっき自分がどういうことに悩んでるか自覚できたんです。
    私は日本からこっちに来て、レースの出方はかなり選ぶようになりました。
    今日も久々のレースだったんですが、直前に蹄鉄の最終チェックをした時……自分に異変が起こっていることに気が付いたんです」
     
     
    日本では2mmまで許されているスパイク蹄鉄。ここに来てからは当たり前になったが、その存在を初めて知ったのはいつだったか。
    脳裏に浮かんだ記憶の中のスズカは、図書室でレース理論を読み漁っていた。
     
    デビューしたての頃、自分が夢に向かって走っているのかストイックになって分からなくなっていた自分。慣れない知識を身に付けているとき、アメリカのレース形式を取り扱った参考書も何となく目に通したことがある。
    しかし、その時に注意してきた声の主が、どうしても思い出せないのだ。

  • 30Episode222/02/04(金) 19:19:45

    「そこからどんどん記憶に不鮮明な部分がある事に気が付いたんです。でも、どうやっても日本で私が関わったヒトたちのことが、分からない……!
    私はあの頃、決して一人ではなかった。
    誰かが居たから、想いがあったから、今の私があるはずなのに…………誰も、思い出せないんです」
     
    震え出したスズカ。落ち着くまで、ユーリはじっと時を待った。
    断片的な記憶喪失に似て非なる症状。ユーリは何故今まで思い出せなかったのかより、自覚したきっかけをに焦点を当てるべきだと諭した。
    恐らくその方が、手掛かりは掴めるはずだ。
     
     
    「きっかけというより、最近は他にも気にしてることがあったから……。
    私は走るのが好きなんです。聞こえるのは静かな風の音と、心臓の鼓動だけ。その先に開けた光景を見るのが、私のレースでの目標なんです」
     
    ただただ速く走ることが手段であるウマ娘。人々に夢と希望を与えつつも、その根幹はアメリカですらブレなかった。
    気ままにレースを選ぶように見える姿勢から、人々から非難を受けることもあった。その時はトレーナーが肩代わりしてくれていた。
     
    今では幾分マシになり、彼女の純粋に走り続ける姿に惹かれる者も多くなっていた。 

  • 31Episode222/02/04(金) 19:20:05

    「でも、最近は確かに綺麗な光景を見られるんですが……いつも同じものしか見えなくて。
    日本ではより強い相手と競うことで、どんどん望む景色が大きく鮮明になっていったのに」
     
    ここに来てからもたくさんの強敵と競い合ってきた。今回のレースメンバーは競ってきた相手が大半を占めていた。
    彼女たちはまた一段と強くなり、それでもスズカは乗り越え、そのまま先頭を駆け抜けていった。
     
    しかし、それでも見える世界は変わらない。
    レースや相手の違いという要素に加え、同じだが成長した相手と競うという例までコンプリートした今、何一つ打開策が見つからないのだ。
     
    そこまで話し終えたところで、スズカは意気消沈としてしまった。

    ユーリは実際に走る時の感覚など理解出来ないが、自分のアイデンティティに関わるモノを忘れてしまう辛さは身に染みて分かる。

  • 32Episode222/02/04(金) 19:20:56

    つまり、彼女の症状が自分のものと同じであることを察している。
    2人を繋ぐ物が性格以外にあるとすればそれは……
     
    〈闇黒剣月闇!〉
     

    「ただこれを使って走る時だけは、多少違うけど、綺麗な景色が見えるんです。
    でもどの光景も最後には"真っ黒か真っ白"になって終わってしまうんです」
     
    「ふむ……闇黒剣が顕れる前から出てる兆しだからな。済まないが今の俺には判断がつかない。これからお前の軌跡を、二人で共に探しに行こう」
     
    「あ……。──はい。よろしくお願いします」
     
    現状を確認したところで、どちらからともなく手を差し出し、強く握った。
     
    説明のつかない自分の症状に不安を覚えていたスズカだが、ユーリと話してある程度気持ちに整理がついた。
    再び闇黒剣を闇に保管し、改めて前を向く。

    確信などないが、この人といれば何か手がかりが見つけられる。そう思わずにはいられない頼もしさを感じているのだ。

  • 33Episode222/02/04(金) 19:22:13

    そしてユーリも、上手く話せたことに充実感を覚えていた。
    やはり相手がよく似た同士だからなのだろうか。自然と口角も上がっている。
     
    ただ、その裏にもやはり冷静な視座がある。
    今の所作や未来予知の症状から、彼女が闇黒剣の力をほぼ100%引き出していることを確信した。
     
    だとすれば、今は害がないとはいえ、自陣営からでも危険は付き纏う。
    闇黒剣は他に、剣の力を吸収する能力、聖剣を封印する能力、対象を闇の中にエスケープさせる能力があるのだが、
    おそらくスズカはやろうと思えば全て扱えるのだ。
     
    だがそれでも。
    この場では願望が勝っていた。


    「ここまで話してくれたんだ。俺たちは守り守られるだけの関係では無くなってしまったな。
    そこで、提案なんだが……俺と『友人』になってくれないか?」
     
    「……!」
     
    それをどうにかするのが自分の役目。彼女が間違った道に進まないよう、導く役目こそ自分に相応しい。
     
    「ふふっ……違いますよ。友達はなろうとするものじゃ無いんです。
    いつの間にかなっているものなんですよ」
     
    「よろしくな」
     
    もう一度、今度は明るい表情で、さらに温かい手を交わす。
    導くなんて大層なことを言ったが、最初から自分は彼女と友達になりたかったのかもしれないな、と思うユーリだった。

  • 34Episode222/02/04(金) 19:22:42

    「さて、俺もレースに関してはあらかた知識を得た。例えばスズカは今日と明日は休日になるんだろう? 安静にするんだぞ」
     
    「ええ、そうだけど……あっ。
    何か、話を聞いてくれたお礼に明日どこか案内するわ」
     
    「案内……ハッ!
    ……俺は今になって大変な見落としをしていることに気が付いてしまった……!
    ここは、ここは──!」
     
    「えっ──?」
     
     
     



     
     
    「──アメリカは愛すべきアメコミの本場じゃないか!
    何でもっと早く気が付かなかったんだ! 地理まで頭には入れてないぞ! ソードXマンはどこだ!?
    あ、そうだスズカ。明日はアメコミに関連する場所を案内してくれこの通りだ!」
     
    「えぇぇ! いきなりそんな、頭まで下げて……ウソでしょ……」
     
     
     

  • 35Episode2?22/02/04(金) 19:23:35

    ●●●
     
     

     
    今日もまた大盛況で幕を閉じたレース。否、その情動は負の方向に膨れ上がっていた。
    観客は特に、マークしていなかったサイレンススズカの圧倒的なレース運びに沸き立っていた。
    まるで彼女だけが悠々と走っているかのような錯覚を、最初から最後まで覚えさせられた。
     
    何よりも“誰一人としてサイレンススズカの一着”に賭けていなかったというのが異常事態だ。
    ありえない。あんな怪物になぜ今まで目をつけていなかったのか。
    今頃記者団に覆われている事だろうと、望み潰えた観客たちは嘯いていた。
     
    霧散したオッズ。響く怒号。暴動まで起こり、誰も会場から抜け出せない。
    そんな、欲望を未だ持て余した者共に。
     
    制裁を下すことこそが──正義だ。
     
     
    《──神獣無双斬り!》
     

     
    憎しみの衝撃。モニターの奥行きまで届いた怨嗟。
    煤と化しゆく紙吹雪。虚無に帰った醜悪心。
     
     
    ──また一つ、静寂に近づいた。
     

  • 36■■■書22/02/04(金) 19:24:47

    というわけで第二話はここまで

    今さらですがアメリカの事情とか独自設定になります
    後普通にトレーナーも出てきてます
    作中ではVシネを踏襲してクリスマスまでの3日間のお話になりそう
     

  • 37■■■書22/02/04(金) 19:25:36

    >>1

    遅ばせながら。



    登場人物

    ・ユーリ/仮面ライダーカリバー(!?)

    本編最終回~一年後の間に転移してる設定

    何故か仲間のことを思い出せない

    ちなみに忘れてること自体忘れてるが、『光の剣士』であることも思い出せない

     

    1000年前には叶わなかったが、現代で波長が似ているスズカと『信じられる友』になろうとしていく。

     

     

    ・サイレンススズカ

    少し前に闇黒剣をゲット。しかも完全適合

    しかし戦いとは縁が無く、なんといつもより速く走れるからなんて理由で使っていた……

    (ジャアクドラゴン 100ⅿ3.9秒)(前話の時速換算はここから)

     

    記憶に不明瞭な部分があり、解決したい。似たもの同士で久しぶりに友達が出来た。

     

     

    ・トレーナー

    アメリカでのスズカのトレーナー。

    しかし彼女の走りは日本でほぼ完成してたので基本雑用と健康面を見ている

     

    卑屈なのに騒がしい。

  • 38二次元好きの匿名さん22/02/04(金) 19:28:14

    このレスは削除されています

  • 39二次元好きの匿名さん22/02/04(金) 19:34:01

    質問です!これもしかしてほんわかな感じじゃなくて謎要素もある感じですか!?(今気づいた)

  • 40二次元好きの匿名さん22/02/04(金) 19:37:06

    >>39

    安心してください。次回は2人で仲良くお出かけ回ですよ


    なお既に不穏な布石は巻かれている模様

  • 41二次元好きの匿名さん22/02/04(金) 21:58:52

    こんな題目からアメリカのレースのこと妄想出来るとは思わんかった・・・
    アニメとは違うけどアメリカに来たスズカってことは・・・不穏〜

  • 42二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 00:43:41

    ユーリいいな

  • 43Episode322/02/05(土) 07:28:54

    >>35 >>36 >>37


    ──12月24日。

     

     

     

    「──素晴らしかった……!」

     

    「ひゃっ!? きゅ、急に大声……」

     

     

    レースの翌日、ユーリたっての願いでアメリカ本場のアメコミ文化に触れることになった。

    とはいえスズカにそういう趣味はなかったので、ちょうど近場で上映中だった『劇場版ソードXマン エターナル・ウォー』を観に行ったのだ。

     

    元々勧善懲悪モノだったソードXマンだが、今作では頼れる味方だった『ブレードマンY』の二面性や苛酷な過去が明かされた。

    ブレードマンの不死故の罪と哀しみを前にXマンもまた苦悩する。


    スワンマンや新しい仲間の後押しを受けて、終わらない無の円環に囚われた友と一対一で語り合うシーンは原作に拙いスズカですら惹き付けられた。

  • 44Episode322/02/05(土) 07:29:23

    鑑賞してから「そういえばユーリが好きなのはコミックの方だったような……だ、大丈夫だったかしら……」と不安になっていたが心配は要らなかった。
    元々大ファンであるユーリは上映が終わって尚興奮し続けている。入場特典の限定短編コミックも嬉しい誤算だった。
     
    最初の実直でマイペースで天然な面影はどこに行ったんだろうと思うスズカだったが、その熱意を自分の走りや景色に置き換えて考えてみると、ヒトの事は言えなかった。
    やはり自分たちは通じるものがあると思いながらも、今は自分だけ、景色を堪能出来ていない現実に少し気落ちしてしまう。
     
     
    「……。やはりソードXマンが選び取った結末は、どんなものでも心にグッとくるな。
    さあ、次はスズカの番だ。俺がどこに行ってもお前を守ってやる」
     
    「……じゃあ、よろしくね?」
     

  • 45Episode322/02/05(土) 07:29:55

    「ここは……ゲームセンターというやつか」
     
    「ええ。昨日、覚えていなくても軌跡からきっかけを掴めると言ってくれたでしょう。
    それで、一晩考えたんだけど……何となくここなんじゃないかと思って」
     
    「つまり、スズカの大切な思い出に近い雰囲気の場所がここになるという事か」
     
    「ほとんど感覚というか直感だけど、間違いないと思うの。
    案内するわね」

  • 46Episode322/02/05(土) 07:30:28

    日本のアーケードゲームの大元に近いものは元々アメリカから輸入されたものだ。しかし、近年ではアーケードなどそこまで展開しておらず、日本と比べてアミューズメントとしては暗いものとなっている。
    それでも日本にいた頃の名残で数か月に一回出かけることがある。
     
    「日本と違って筐体に直接現金を入れるんじゃなくて、チップにチャージしてから遊べるんだけど……ユーリにはこっちの方がいいわよね……」
     
    「おっ。あれは日本の雑誌で見たことあるな。名前は確か……」
     

    現金や筐体というワードに疑問符を浮かべるユーリには一纏めにしたチップの方が分かりやすくていいだろう。スズカは慣れた手つきでチップを用意する。
    準備が整って合流すると、ユーリはクレーンゲーム機に関心があるのか釘付けになっていた。
    アメリカでは筐体から直接景品を取る形式はあまり採用されていないはずなので、スズカにとっては不思議な光景だった。
     
     
    「あれ? 前まではクレーンなんて無かった気がするけど……こっちではあまり見ないから逆に新鮮ね」
     
    「よし。俺に任せろ!」

  • 47Episode322/02/05(土) 07:31:44

     
     
     
    「……すまない。俺はここまでのようだ……それでも!
    俺には頼れる仲間がいる。例え俺が倒れても、Xソウルが潰えることは無い……!
    ──任せたぞ!」
     
    「それさっきの映画のセリフそのまま……。
    でも、分かったわ。私がやってみるわね」
     

    初めてのクレーンゲームだったが、残念なことにユーリに適正は無かったようだ。
    しかし、一般的にジョイスティックより難しいとされるボタン操作を、なんとスズカは難なくこなして見せた。
    瞬く間にぬいぐるみやキャンディ、ミニチュアがポロポロ落ちてきた。
     
    「お、おお! すごいなスズカ。何がどうなったのか全く分からんぞ!」
     
    「あ、れ? 私……クレーンゲームを、やり込んだことが……?」

     
    正直、ユーリの必死さを微笑ましく思いながらも自分もアレは出来ないだろうな。
    なんて思っていたところに飛んできたキラーパスだったので、半ば困惑しながらプレイしていた。

    しかし、実際にやってみると身体が動かし方を覚えていたのか思うままに操作出来た。そう形容するほかに、この成果を示す根拠がない。

  • 48Episode322/02/05(土) 07:32:09

    「にしても、スズカのぬいぐるみは無いんだな。あれほどの走りを魅せれば、それこそ日本に馴染み深い文化と合流してもおかしくないはずだが」
     
    「あ……これ、スノードームだ……」
     

    景品を取り出して並べると、目を引く物が一つ。
    スノーグローブ、日本ではスノードーム。クリスマスの時期にはミニチュアとして飾りに使われることもある。
     
    これを目の当たりにして、そういえば明日クリスマスだな、などというのんきな考えも浮かんだが、同時に言いようのない喪失感に襲われてしまった。

  • 49Episode322/02/05(土) 07:32:34

    「どうした。何か掴んだのか?」
     
    「……ううん。やっぱり、断片的というか、その記憶だけ滲んでるというか……」
     
    一つ一つ丁重に配置するように、スズカは言語化しようと試みた。
    昔、自分は誰かにこれと似たスノードームを取ってもらったことがある。
    そのお返しとして自分も、回数を重ねてクレーンに慣れ、ついにお揃いのものを手に入れた。
    今度は自分がプレゼントしたのだが……
     
    「やっぱりおかしいわ。大切なヒトのことだけが、思い出から消えてる……。
    ううん、それだけじゃない。日本だけじゃなくて……アメリカに来てからのことも……」
     
    「スズカの中で人の……記憶や想いだけがそのまま無かったことになっているのか
    でも、今回はほとんど覚えていた。きっと、いつか思い出せる。
    それで、ここに来てみてどうだった」
     
    「え?」

  • 50Episode322/02/05(土) 07:33:00

    「なんだ、そんなに驚くことじゃないだろ。
    記憶を探るのも大事だが、一番は気負ったお前がリラックスするためにここに来たんだ」
     
    「あ……そう、か。
    …………うん。私、久々に友達と出かけられて……楽しかったわ」
     

    考えてみれば、印象深い思い出が薄れているのは外的要因だけじゃない。
    アメリカに来てから走ること、ひいてはレースに出場すること以外に関心がまるでなかった。
     
    体内時計以外の時刻は全く気にしなくなったし、日本でほとんど完成した自分のトレーニングプランに沿って特訓する日を過ごすだけだった。
     
    さっきまで“あんなに印象深かったクリスマス”さえも忘れていたのだから、急に自分が恥ずかしくなってしまう。
    赤くなったスズカを気にせず、ユーリは言葉を続ける。

  • 51Episode322/02/05(土) 07:33:37

    「望む世界が見えない今、お前にとって今の生活は不自由で、もしかしたら偽りだとすら思っているかもしれない。
    それでも今紡げる想いは、今だけのものだ。お前が感じた嬉しさや悲しさ、恥ずかしさなんかは全部本物なんだ。
    だからそう気落ちするな」
     
    「ユーリ……」
     
    どんな想いでも、明日へ、未来へ進むためのきっかけになる。
    そんなユーリの励ましによって、スズカの表情もだんだんと晴れていった。
     

    「よし、『軌跡を辿って思い出そう作戦』は中断にしよう。
    お前が今行きたい場所を言ってみてくれ。友人として、どこへでも付いて行くぞ」
     
    「私が今行きたい場所……」
     
    どうしてなのだろのか、ここに来てから自分でも気づかないうちにふさぎ込んでいたスズカ。
    まずはその閉塞を解かしていくことで、未来に向かって励むのがユーリの魂胆だった。

  • 52Episode322/02/05(土) 07:34:04

    「──雪。……ホワイトクリスマスが、見たい。
    今の私が見たい景色は、きっとそこにあるわ。私が……誰かと……」
     
    「了解した。遠征中らしいし、この後はトレーナーの家にお邪魔させてもらうか」
     
    「そうね……いきなりだけど許してくれるわよね?」
     
    何はともあれ、目的地は定められた。
    久しぶりの交友に心弾んだ二人は帰路につく。
     
    「あ……ごめんなさい、少しお花を摘みに……」
     
    「……? ああ、存分に摘んで来い」
     
     
     
     
     


     
     
    「……はぁ。楽しかったな……」

  • 53Episode322/02/05(土) 07:35:02

     
    「なんでこういう、何でもない休日を忘れてたんだろう」
     
     
     
     
     
     
    「走るのが一番楽しいけど……誰かと過ごすのも、大切な時間で」
     
     
     
     
     


    「きっと、私は多くの出会いに恵まれてたから…………あっ、すいません道を───」
     
     
     

     
     
     
    肩を捉えた手。

  • 54Episode322/02/05(土) 07:36:00

    「──え?」
     
     
     
     
     
     



     
    ──そこに、怨嗟があった。
     
     
     
     
     
     
     




    剣士が、居た。
     

  • 55Episode322/02/05(土) 07:36:35

    「──スズカ!」
    「……あ」
     
     
    振り上げられた剣。気配に駆け付けたユーリ。
    その光景に充てられ、スズカは漸く事態を認識出来た。
     
     
    「きゃあ!」
     
    衝撃が耳朶を襲う。遅れて恐怖が肌を伝う。
    間一髪、ユーリの体当たりによって軌道がズレていた。
     
    間合いは取れたが、剣士──ファルシオンに怯む様子はない。
    再び機械的に、スズカに狙いを定めているとユーリは気付いた。

  • 56Episode322/02/05(土) 07:37:38

    「何故スズカを狙う! 俺はもう、一連の不可解な事象はお前が黒幕だと睨んでいるが、何故今ここで襲うんだ!」
     
    『…………邪魔だ!』
    「──スズカ逃げろ! あと闇黒剣を俺に!」
     
    「はい──あ」
     
     
    ファルシオンの像が揺らめいている。
    その像は──無に消えた。
     
    一瞬響いた摩する雑音。
    スズカの背後を暗い存在が、音も無く侵していた。
     
     
    《アメイジングセイレーン!》
     
    「なっ──」
     
    斬り裂くと思っていたファルシオンだが、スズカにライドブックを翳している。
     
    彼女の中から現れた本。
    その1ページが引き裂かれ、消滅した。
     
     
    「大丈夫かスズカ!」
    「え、ええ……これを!」
     
    〈闇黒剣月闇!〉

  • 57Episode322/02/05(土) 07:38:03

    「──変身!」
     
    《Get go ! under conquer ! than get keen!》
     
    《ジャアク──ドラゴン!》
     
     
    姿顕すのは“闇の剣士”。
    邪悪乗りこなし、紫炎を纏う。
    存在釘付ける装甲を背負い、闇の中で光を求める。
     
    仮面ライダーカリバーがここに復活した。
     

    「俺は世界を──ヒトを守る剣士だ!」
     
    『……待っていた』

  • 58■■■書22/02/05(土) 07:41:25

    第三話はここまで
    ホラー演出ってムズい…ムズくない?
    アメイジングセイレーンが出てきたところで再度ネタバレ注意報を出しときます

    あと次回が少し遅れるので、落ちないために折角なんで、ここまでの疑問点や考察、アドバイスなど下さい(乞食)

  • 59二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 07:56:51

    本格的にVシネみたいになってきたな・・・

    ダブルクォート以外にも伏線みたいなのはあるんですかね?
    自分はVシネ見た時初見は全てを疑ってかかってたので気になって・・・

  • 60■■■書22/02/05(土) 08:03:54

    >>59

    まあ露骨ですしね…なんならそれで他の不穏要素を目立たなくしてます


    でもギミックに剣や本が絡んでるので推測で解けるものでも無くて…

    だからミステリーとは言えないんですよね〜

  • 61二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 09:40:30

    なるほどユーリとスズカさんが友人概念か…
    あんま関係ないけどいつかアプリでもアメリカレース実装されたらいいのにね

  • 62二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 15:15:37

    トレーナーはトップクラスだって言ってるのにグッズ1つないのはやっぱりアメイジングセイレーンのせいか…

  • 63二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 17:59:06

    ユーリカリバー見たいと思ってたからこんな形で見れて嬉しい

  • 64■■■書22/02/05(土) 21:05:47

    >>62

    その通り既に術中に嵌っているというね…


    >>63

    作中でカリバーになれるか明言されてませんが、未来予知や封印等能力を実感したかのような語り口、何よりあのユーリならノリで使えるだろうということで今作では変身しちゃいました

  • 65二次元好きの匿名さん22/02/06(日) 01:41:50

    ウマ娘とセイバー、クロスオーバー概念大好き……

    あと「ヒトを守る」って習った現代の価値観を失ってなくてにっこりする

  • 66■■■書22/02/06(日) 04:49:32

    >>65

    剣士に関する記憶を失っても、新しく抱いた信念や想いの欠片は失われないんやなって…


    今作ではそれにプラスして、千年前には果たせなかった「信じられる友を信じ抜いて辿り着く未来」をユーリが目指すお話でもあります(そんな壮大でもないけど…)

  • 67二次元好きの匿名さん22/02/06(日) 12:54:37

    最光だな!

  • 68二次元好きの匿名さん22/02/06(日) 19:47:13

    ユーリ好きだから嬉しい

  • 69Episode422/02/07(月) 00:46:44

    >>57>>58


    《習得一閃!》  《神獣無双斬り!》

     

     

    漆黒と純白の炎が虚空に爆ぜる。

    無銘剣の特徴か衝撃は殺され、しかしカリバーは踏み込んだ。

     

     

    「やるな……だが動きは甘い!」

    『ギッ──!?』

     

    奇襲はともかく立ち回りは百戦錬磨のカリバーが勝る。

    月闇の生む闇に浸かりながら進むことで像を揺らめかせ、全く捉えられなくする。


    ファルシオンは反応が追いつかない。

    見事に体躯へと滑り込み、腕の辺りを斬り付けた。

     


    「一体何が狙いだ? 返答によってはお前の聖剣を封印する!」

    『……まずは剣、オマエ……そして、女は独りになる』

    「何……?」

  • 70Episode422/02/07(月) 00:47:22

    『既に手遅れ。ヒトを捨てたヤツが関わるな。
    オマエがヒトの悪辣さ、ましてや友を語るなんて罪が許されるとでも?』
    《アメイジングセイレーン!》
     
    「……、…………!」
     
    押されたブックから飛び出た衝撃がカリバーを襲った。
    まるで何かに視界を奪われたかのようにふらついてしまっている。
     
    それによる怖気はスズカにまで伝わっている。
    前方に目をやると、狙い通りと鼻を鳴らしたファルシオンが抜刀していた。
     
    「……危ない!」
    『……Die』
     
    《黙読一閃!》
     
    旋律にも似た衝撃がカリバーに命中し、爆発した。
    かけた声は虚しくも無に消え──後にはユーリだけが転がっていた。

  • 71Episode422/02/07(月) 00:49:31

    「──ここは。俺は……」
     
    「……! やっと目が覚めた! でも安静にしてなよ。
    普段からスズカのバイタリティ専門みたいになってる私だけど、ヒトじゃないヤツの応急処置の仕方とか分かんないんだからさ」

    知らない部屋の天井。
    どうやらここはトレーナーの自宅で、看病までしてもらっていたらしい。
    礼をしたユーリは、珍しく落ち込んでしまう。

    「不覚だ……。まさか戦いで無防備を晒すなんて……」
     
    「だあから起き上がらないでって! 傷無かったけど万一が怖いんだよトレーナーとしては!」
     
    「静かにしろ。スズカが寝てるじゃないか」
     
    「あっ……あ~あ~ぁぁあ…………そうだけど!アンタの!せいなの!!(小声)」
     
     
    どうやらファルシオンはあれきり現れず、トレーナーに連絡を取ったスズカが気絶したユーリを助けてくれたらしい。
    事情を聴いたトレーナーは今夜は全員で囲い、何が起こっても対応できるようにすべきだと決定した。

  • 72Episode422/02/07(月) 00:50:24

    「そうだ……俺は……本当にすまなかった!」
     
    「うわあ! いきなり頭擦り付けないでよ!仕方ないってあんなの!ね?大丈夫だからね?
    後ここ一応私の家だからね? ねえ!?」
     
    守ると言いながら不甲斐ない醜態を晒したと全力で土下座するユーリを向き直らせたところで、漸くお話は進む。
     

    「……まあ、明日もスズカと出かけるんでしょ? 彼女のためにも今は休んどきなって。
    いつの間にか仲良くなっちゃってさあ。私もまだ一緒に遊びに行ったことないのにズルいんだよなあ……」
     
    「そうなのか。……そもそもスズカは何故アメリカに来たんだ?
    アイツの話を聞く限り、思い入れの比重は日本に偏っていると思ったんだが。
    後ついでにお前のこととか」
     
    「……そこまで察してるなら、言ってもいいのかな……って待てよオイ。
    なんかずっと私の扱いヒドくない?ひどいよな?ねえ、ついでって何よねえ!?」
     
    「だから静かにしろって」
     
    「はいそうですねっ!!(小声)(ヤケクソ)」

  • 73Episode422/02/07(月) 00:51:34

    そのウマ娘の物語の軌跡は数年前、日本のトゥインクルシリーズまで遡る。


    「……スズカは日本にいた頃から、アメリカのトゥインクルシリーズと相性良いんじゃないかって話題でね。日本で『最初の三年間』を終えたらアメリカに遠征することは、外堀埋められてて決定事項みたいなもんだったのよ」
     
    「しかし、本来引っ張りだこだったはずのアイツに何かがあったから、今はお前が担当についている、とか」
     
    「……すごいな。その通りだよ、本来私はスズカを担当できるような器じゃない。
    それでも、実際は私が面倒を見てる」
     
    先日は華麗にスルーされたが、サイレンススズカはアメリカのレースと相性がいい。
    誰もが勝手に注目し、誰もが勝手に目を離していったのには、理由がある。
     
     
    「──天皇賞秋。数年前、スズカはレース中に故障してしまった。
    本当に、悲しくて…………ゴメンちょっとまって」

  • 74Episode422/02/07(月) 00:52:07

    「……映像でしか見たことないし、本人に聞くわけにもいかないから、詳細は分からないし分かりたくもないけど。
    その後世間には生死すら伏せられて、安否も所在も分からなくなった。
    もう誰も気にしなかったし、日本では“何も無かったかのように”時代は変遷し続けた」
     
     
    しかしトレーナーは違った。彼女のその後を一目確認する為、所属チームを抜けてまで、必死に探し続けた。
     
    自分もまた、かつてサイレンススズカをアメリカにスカウトしようと目論んでいた者の一人だった。
    敏腕ではないが、情熱だけは人並以上に持っているつもりだった。まあ路傍の石にも過ぎなかったが。
     
    それでも、彼女の走りを初めて見たとき、脳全体に電流が走る感覚を覚えた。レースでの存在感すべてが、トレーナーの悉くを虜にした。
    いつか、彼女とレースで関わってみたい。日本とアメリカのハーフだったトレーナーに、その機会は何れ訪れるはずだった。
     
    あの日の悲劇を、トレーナーは信じなかった。
    初めて見た時から、脳が焼き切れてしまったのだろうか。悲劇の先にゴールで微笑む彼女を夢想しながら、無我夢中で彼女を探し続けた。
    そして、ついに出会ったのだ。

  • 75Episode422/02/07(月) 00:53:03

    「私が不謹慎にも興奮しまくってたせいか、その時のことほとんど思い出せないんだけどね。
    気付いたら話が進んで、私がアメリカで彼女の……スズカの面倒を見ることになった」
     
    「…………」
     
    「スズカのトレーナ―さんから認められちゃって……どう繕っても私単純バカだし、いいとこなんもないんだけどさ。
    ……私が見つけるまでも色々無茶苦茶あったらしいけど、結論としてはまだレースに出たいなら、もう日本に居られないってなってた」
     

    出会ってからサイレンススズカの印象はクールから180度変わった。マイペースでどこか天然なところがあり、どこまでもストイックで、でもそれは勝ちよりも景色を見るためというちょっと変わったウマ娘。

    そして、彼女とトレーナーの想いこそ一番に伝わってきた。
    彼女のトレーナーは事情があって日本を離れられない。ならば、と覚悟を決めたのだ。
     

    当初の自分勝手な俗っぽい欲望は消えうせた。心から未来に挑もうとする彼らの力になりたいと思ってしまった。
    いつの間にか当事者になったトレーナーは協力者たちと奮闘し、遂に願いは成就した。
     
    「私は健康面、医療技術、バイタリティ面のサポートだけは出来るように躍起になった。
    それで私はスズカを託されて、共にアメリカでレースに挑むようになったんだ」

  • 76Episode422/02/07(月) 00:54:14

    「なるほど……。アイツの前トレーナーか……」
     
    「でも私とスズカは孤軍奮闘もいいとこ。最初は全然望むレースにすら出られなくて自分が情けなかったけど……今はどうにか、ね」
     
     
    協力者の助けもあり、トレーナーはレース選択と健康面に細心の注意を払い、スズカをサポートしている。
    日頃から取材は極力拒否してるし、スズカとの会話も情報が漏れないようほぼすべて日本語を使っている。
    逆に言うと自分に出来るのはそれだけだった。
     
    幸い、スズカの走りは既に完成されたもの。
    一トレーナーとしては癪だが、彼女が自分で組み立てる練習プランにはほとんど口出し出来ない。
    それは偏に前トレーナーと組み上げた2人にとってベストなものだからという理由もある。

  • 77Episode422/02/07(月) 00:54:41

    「彼女はアメリカに来てから無敗のウマ娘。このままいけば、アメリカでも、故郷の日本でも、ドリームトロフィ―で、走り、続け…………」
     
    「おい、大丈夫か?
    話してくれて感謝する。お前こそもう休んでくれ」
     
    「…………うん。ちょっと見せられないかもだから、別の部屋行くわ。
    提案しといて悪いけど、彼女のことお願いね。騎士さん」
     
    「ああ。今度こそ任せてくれ」

  • 78Episode422/02/07(月) 00:56:13

    スズカの軌跡とそこにあったはずの想いを馳せていた、その数分後。

    「あ……ユーリ! 目を覚ましてたのね!体調も……良かった……!」
     
    「スズカ。悪いな、起こしてしまったか」
     
    「ううん、たまたまよ。トレーナーさんは……」
     
    「今日は別の部屋で休むらしい。今度こそ、不甲斐ない姿は見せない。俺に守護の務めを果たさせてくれ」
     
    「もう……大丈夫だから。そんなに気負わないで。貴方のお陰で私もしがらみばかりに囚われないで、未来に臨みたいって思ったんだから。
    だって今日……あれ?」
     
    「……やはりか」
     
    「え?」

  • 79Episode422/02/07(月) 00:56:45

    状況確認と考察を兼ねて、ユーリが推測を語っていく。
     
    スズカは今日の“ゲームセンターに行ってからトレーナーの自宅に着くまで”の記憶が曖昧になっていた。
    これは明らかにあの妙なブック、『アメイジングセイレーン』が原因で間違いない。今までの自分たちの症状にも説明がつく。
     
    おそらくあのブックの能力は『ヒトの人生の物語を閲覧し、焼却、あるいは改竄すること』。
     
    『ヒトを捨てたヤツが関わるな。
    オマエがヒトの悪辣さ、ましてや友を語るなんて罪が許されるとでも?』
     
    あの発言は、人生を閲覧してバックグラウンドを知ったからこそ言えたのだろう。
    ならば、その上で犯人の狙いは何か。
     
     
    「今まで俺はともかくスズカに関しては、日本とアメリカで関わってきた人物に関する事だけを改竄してきたのだと思っていた。
    しかし、今日の例を見ると話が変わってくる。ヤツはお前の思い出……それを思い出すきっかけにも干渉しているんだ」
     
    「思い出の場所に似た場所の記憶を、関心ごと消して………
    じゃあ、犯人の狙いは……」
     
    「『お前を独りにする』……そう言っていた」

  • 80Episode422/02/07(月) 00:57:43

    何はともあれ、目的ははっきりした。少なくとも二人が互いを忘れなければ消えることはないと諭すとスズカも安心してくれた。
     
    「そっか。私には友達がいてくれるから安心ね……ユーリ?」
     
    「いや、ヤツの言っていたことを気にしていてな。俺はあの発言を受け止め、考えなければいけない。
    この1000年で人は変わった。戦いが終わった今、俺たち剣士も古きに縛られず、変わる必要がある。
    しかし、俺の場合、その資格がそもそもないのかもしれない」
     
     
    『ヒトを捨てたヤツが関わるな。
    オマエがヒトの悪辣さ、ましてや友を語るなんて罪が許されるとでも?』
     
    こちらの人生を閲覧した上で動揺させるために、一般人の視点から出したハッタリだと理解している。
    裏を返せば、人々からすれば自分は忌むべき存在になることも十分にありえる。

    さらにあの時、アメイジングセイレーンにより見せられた光景。
    あれは──救えなかった人々の怨嗟。そして、ユーリの在り方を戒める影だった。

  • 81Episode422/02/07(月) 00:59:02

    矛先は突然この世界に現れたことではない。人を捨て世を離れ、だのに今になってズカズカと現世に関わっていること。
     
    『剣と化したなら、現世で人を守り続ければ良かった。本気で見守るつもりなら、そのまま機構になって戻ってこないでほしい』
    『ヒトは変わったというが、その時代に即して新たな悲しみや憎しみが生まれる。過去どころか人を捨てたお前が、すべてを理解しているなんて言えるのか?』
     

    その通り、やはり自分は丸々生まれ変わるなど出来ない。
    どこまでいっても過去の存在である自分は、時に時代に理解が及ばず、今の世を正しく守護しているのかわからなくなるかもしれない。
     

    ……要するに。

    醜い争いの過去の象徴になった自分が、これ以上ヒトと関わろうとする。
    広大な物語とは縁の無い、ちっぽけだが尊い関係の代表である『友』をつくろうとする。

    それこそがユーリにとって逃れられない運命、許されない罪なのかもしれないと感じたのだ。

  • 82Episode422/02/07(月) 01:00:21

    「……俺は世界を守る剣士としての務めを全うする。それはこれからも変わらない。しかし、これ以上ヒトの世に関わっていていいのか。何かを求めていいのか。
    ……バハトたちだけではない。俺も昔、人々の業に失望──絶望し、人という生から目を背けた。
    世界を守ることが動機だったが、紛れもない事実で、裏切りと言えるものだった」

  • 83Episode422/02/07(月) 01:00:50

    「……少しわかる気がするわ。私も、日本で挫折して、それでも走りたかったからここに来て……」
     
    世界や争い。スズカには壮大すぎるテーマであったが、少しずつ飲み込もうと胸に手を当ててゆっくり考えていた。
     
    スズカはユーリの考えに共感する。思い出せないが、きっと自分は友人や仲間、大切な人がいた。
    それを放り出したから今、アメリカにいるのではないか。しかしそれは皆が肯定してくれた結果だともわかる。
    ならばすべてを捨ててまで選んだ道だけを全うすべきではないのか。それ以上求めるのは許されないのではないか。
     
    勿論まだ自分の過去が確定したわけではないが、ユーリという友が出来てから、そう思わずにはいられない。いつの間にかその手は、"背かれた"左脚をさすっていた。

  • 84Episode422/02/07(月) 01:01:40

    「……過去には戻れないのに、逃れることも出来ない。絶望も孤独も、自分が選んだ結果だから……。
    でも想いを重ねてきたから、誰かが応援してくれたから、私は今までやってこれた。過去があるから今日まで走って、きっと未来にも繋げられる。
    私は貴方に、それを……思い出させてもらったわ」
     
    「スズカ……ああ、その通りだな」

  • 85Episode422/02/07(月) 01:02:07

    スズカの脳裏に浮かぶおぼろげな景色。そこでは誰もが泣いたり、笑ったりしていて。とても、眩しくて。
    何一つ像を結ばないのに、優しい『星』は光の中にいた。
     
    背中に温度を感じる。
    自分のために進んでほしいと見えない闇から背を押されてる。
     
    いつだって見守ってくれていたと、ユーリが思い出させてくれたのだ。

  • 86Episode422/02/07(月) 01:02:33

    顔を上げる。決意を固めた、自分と同じ表情があった。
    どちらからともなく、言葉が紡がれる。
     
     
    「資格があるかは分からない。俺は人の罪を理解できない、背負えない。
    それでも、立ち留まるわけにはいかない」
     
    「朧気な自分と皆を信じ続けることが不安で、また裏切られるかもしれないけど、諦めるのは違う」
     
    「前を見て進む。そこに『友』が居た。身近で小さな、かけがえのない存在。
    許されないかもしれない。偽りになるかもしれない。それでも守ってみせる」
     
    「今の想いは本物で、すべてが嘘なはずがない。
    だからきっと、過去も今も大切に、未来に繋げてみせる」
     
    「「──最後まで、信じ抜くことで」」

  • 87Episode422/02/07(月) 01:02:56

    「……って息ぴったりね、私たち……ふふっ、ふふふっ」
     
    「そうだな! ……なんだ、そんなに面白い事か?」
     
    「ふふ……ええ、そうよ……!
    ……ありがとう、友達になってくれて。私はもう大丈夫」
     
    「ああ。俺も信じられる友を守ることで、世界を守る。
    今日はもう寝るか」
     
    「うんっ。おやすみなさい」

  • 88Episode422/02/07(月) 01:03:19

    明日はホワイトクリスマス。
    そして、おそらく決戦の日。真実が明かされる時は満ちていた。
     
    どんな事があろうと静かな雪景色が、きっと彼女の世界を彩る。ユーリはそう信じて、“睡眠を取る”のだった。
     
     
     
     
     
     
     
    (…………そう。たとえ偽りだとしても、すべてが嘘なはずがないわ)
     
    そしてスズカもまた、信じた先の輝く景色を願って───

  • 89■■■書22/02/07(月) 01:05:45

    第四話はここまで
    記憶を失った倫太郎と賢人の会話を参照にしましたが、微妙に自己主張が激しいような気も…マイペースだから仕方ないね

    ちなみにスズカ本人は否定してましたが彼女が目を覚ましてしまったのは普通に2人がうるさかったせいです()

  • 90二次元好きの匿名さん22/02/07(月) 06:29:29

    やっぱり折れた後のスズカさんだったか…

    自分は結構ユーリのこと好き勢なつもりなんですけど坂回前後に明かされたなせいで埋もれがちなユーリの心情、
    とくに人の世に失望したから光の剣になってアヴァロンに自身を封印したことや、公式が言っていたバハトとの関係はとーまと賢人の「絶望のもしも」であることをちゃんと踏まえててその上での思考を展開してるのが凄いと思いました(早口)

    ここからクライマックスだと思いますが最後まで楽しみにしています!

  • 91■■■書22/02/07(月) 09:53:45

    >>90

    ぅゎっょぃ

    そんなあなたなら分かると思うんですけど「お前"は"友を救うんだ」って台詞が悲しかったですよね…


    拙作は賢人も主人公候補に上がっていたのですが、彼にはいつの間にか大事な相手が2人も出来てしまったので、妄想出来なくなりました…


    結局深罪の3人のテーマを全部背負えるユーリが(無茶ぶり)果たせなかった友を信じ抜いて未来に繋ぐ物語に収まりました

  • 92二次元好きの匿名さん22/02/07(月) 17:02:44

    ファルシオン自体ユーリと関わりがあるから敵として違和感がない。
    アメイジングセイレーンの能力やっぱとんでもないよなぁ。

  • 93███書22/02/07(月) 17:55:32

    >>92

    そういえばこの際ですし断っておかないといけないことが…


    今作は初日に示唆してた記憶改竄描写の通り、セイレーンに関してはかなりヤベー拡大解釈をしちゃったので楽しみにお気をつけくだせ(多分今夜解説付きで更新します)

  • 94二次元好きの匿名さん22/02/07(月) 23:58:18

    ユーリのマイペースな感じ本当に好き

  • 95Episode522/02/08(火) 06:37:09

    >>88>>89


    ──12月25日。

     

     

    早朝、アメリカのトレセン学園にて。

     

    この時期はさすがに朝練に励む生徒はいない。

    何よりアメリカではレースが無い限り、クリスマス、あるいはハッピーホリデーのために休暇をとって実家に戻るので、留学生の自分が景色を独り占めである。

     

    しんしんと、雪が降り積もっている。絶えず降りてくる柔らかな新雪は、音を吸い、静かな世界を彩っている。

    率直に、懐かしいと思った。

     

     

     

    「……そうだ。走るきっかけになったのも、こんな雪の日だった。

    そして、『一緒に』走り続けると、約束、したのも──

     

     

     

    『──起源はそれか』

     

     

     

    ──っっ!」

     


    降り積もる音すらも無に帰し、ファルシオンが佇んでいた。

    ブックを手に取り、その像はまた揺らめいている。

  • 96Episode522/02/08(火) 06:39:11

    『……ようやくここまで来た。これで漸く、お前を解放する』
    「……えっ?」
    『今こそ欲望を無にか──っ!?』
     
    「言わせるかーっ!」
    《月闇必殺撃──習得三閃!》
     
     
    同じ轍は踏まない。
    あらかじめ変身して闇に潜んでいたユーリは、見事に最大火力を叩き込んだ。
    結果的におとり作戦になったが、互いを信じていたから実行出来たことだ。
     
    「よし、作戦成功だな!」
    「守ってくれてありがとう。……あなたは」
     
    ページがめくれ、紙吹雪のように散らばり、ファルシオンの武装が解けている。
     
     


     

     
     
    「……“そっち”が犯人だったか」
    「やっぱり──トレーナーさん」
     
    「~~〜っ………」
     
    露になったのはアメリカでスズカを支え続けたトレーナーの姿だった。

  • 97Episode522/02/08(火) 06:39:44

    「あー、あー、……はあ。
    …………ねえスズカ? あなた何でかわかってたみたいだし、一旦離れててくれないかな?」
     
    「えっ……」
    「いや、その方がいい。今のアイツにまともな会話が出来るとは思えない。
    スズカ。お前はアイツが冷静になって、そのあとで話し合うんだ」
    「…………わかったわ」
     
     
    会話の余地がないなんて物言いになったが、まずは話を聞くのが先決。ユーリも武装を解き、トレーナーと二人きりになった。
     

    「これで一つわかった。お前が最初スズカを襲うフリをしたのは、俺を排除する為。
    それも、お前が邪魔だと漏らしていた闇黒剣と一緒にな」
     
    「スズカと似て真面目なくせに察しはいいよな、その通りだよ」
     
    スズカが危険に晒されれば、守ると約束したユーリが月闇を振るうことになる。
    そうすればシームレスにユーリのみを狙える。自身の目的も正体も悟られない算段だった。
     
    そもそも最初にユーリの記憶を改竄した時、自分の障壁になりそうなものはすべて排したはずなのに。
    何故か“闇の剣を振るえる事だけ”は改竄できなかったのだが。

  • 98Episode522/02/08(火) 06:40:16

    「……順調だったのに、あの剣が現れてから、彼女に変な近づき方は出来なくなった。
    だから先にこの本の力を極めて、アメリカ全土の人間からスズカの記憶を改竄したんだよ」
     
    「アメイジングセイレーン。その本の力にお前は……」
     
    ユーリは犯人の目星がついていた。おそらくスズカも。
    トレーナーの発言には齟齬があった。
     

    スズカはアメリカに来て無敗で、大活躍のウマ娘だと言った。
    しかし、初日にレースを見せてくれた時、ユーリが訝しんだのはスズカの様子だけではなかった。
     
    観客席は歓喜や祝福に満ちていたのではない。怒号や非難で溢れかえっていたのだ。
    あれは、誰も今までのスズカの圧倒的な走りを覚えていなかったからだ。
     
    ここからユーリは知らないが、暴動にまで発展しかけた番狂わせの発狂を、ファルシオンが一閃で黙らせた。
    スズカに関する記憶を改竄して。今までと、同じように。

  • 99Episode522/02/08(火) 06:40:56

     


    「アメリカにスズカと来てから数年。今ではモニターごしに奥にまで、ページを焼き切る剣を振るえるようになったから良かったけどさ。
    本当に……長かったんだよね」
     
    「スズカを孤立させる……本当の狙いはなんだ」
     
    「……狙い? ──お前みたいなスズカの命を脅かす欲望に塗れた奴らを!一人残らず沈黙させるために決まってるだろ!?
    あの光景を見てまだ罪を犯す気か!不死の化け物め!!」
     
    「…………」



     

  • 100Episode522/02/08(火) 06:41:34

     

    「気絶してたお前の物語を閲覧したとき、心底驚いたよ。
    1000年前から永らえて醜く……いや、自覚してる癖にそれだからどうでもいいや」
     
    「やはり昨夜の会話を聞いていたか。斬った傷も浅くないだろうに、よく耐えていたな」
     
    「……ほんっとまじでお前のこと無理だと思ってたけどやっぱり無理だったわ。
    自分の立場を無視して人間に関わって、醜悪さも理解出来ないくせに、一人で勝手に納得して邪魔ばっかしやがって」
     
    「話の流れを無視してるのはどっちだ。
    アメリカに来てから……ここに来るまで、決して楽な道のりではなく、そしてかなりの“ズル”もしてきたんだな」
     
    「──ッ」
     
    「だが、それなら分かっているはずだ。スズカは過去を背負って未来に進む覚悟が出来てる。
    お前の──彼女を救いたいという願いは叶わない」
     
    「なっ──!!?」

     
    一連の流れで動機は読み取れた。
    トレーナーはスズカと日本を出た時からずっと、彼女をレースの世界から解放しようとしていたのだ。
    アメイジングセイレーンによる改竄で、スズカと周りの人間からレースに関する記憶を消し、二度と彼女が壊れない為に。

  • 101Episode522/02/08(火) 06:42:09

     

    元々は、アメリカに連れ出してから説得し、どうにか彼女をレースから退かせるつもりだった。
     
    「……でも、数回レースに出ただけで、今まで目もくれなかった奴らが押し寄せるようになって、
    私一人で対応なんかこなせるはずなかった。
    話し合いどころか顔を合わせる機会も削られて、あんな逸材を今までどこで、何故お前なんかがって詰めてくる毎日でさ。
    ほんと笑わせるよね。でも、一番失笑ものなのは、この業界のそういう側面を考慮できずにスズカを連れてきてしまった自分…………」
     

    ただでさえ一度挫折した彼女を守り切れるか分からない。
    健康面以外でも、特にレース中になると守れない。
     
    例えば海外では有力ウマ娘を勝たせるため、同チーム……ひどければ独立した勢力を飼いならして勝敗を捨てさせ、ペースメーカーやファーストペンギン、特攻役にさせることもある。これに巻き込まれればどうなる事か。
    早々ありえないことだが、実際に見たことある以上、もしそんなことをされれば孤立無援の自分には防ぎようがない。
     
     
    そんなときに。
    かつて日本で共にスズカが復帰する為に活動していた協力者から、一冊の本──アメイジングセイレーンが届いた。

  • 102Episode522/02/08(火) 06:43:44

  • 103Episode522/02/08(火) 06:44:06

    その力を使って、スズカをレースに駆り立てる者たちの記憶を片っ端から改竄した。
    窮状をしのぐために利用していたにすぎなかったが、最近になって思い至ったのだ。
     
    「この本を彼女にも使えば、いずれレースや走りに関する記憶そのものを失くせる!
    死ぬかもしれない危機に二度と見舞われないで済む!
    彼女の意志を顧みず、尊厳を乱すことだってわかってるっ、でも!
    私はスズカにっ──もっと永く生きてほしいのよ!!」
     
     
    「……本の力に飲まれかけているな」
     
    「承知の上よ! 全部終わったら、あの子が何か新しい『星』を見つけられるまで共に居てみせる。
    こんな本を送り付けてきたヤツも問い質す!
    最後に私が無に帰って、すべてが終わるんだ!!」
     

    おそらくトレーナーは自分に関わる者の記憶も消している。最後に覚えているのはおそらくスズカだ。
    そして、スズカが走り続けたいと望むことを知る最後の一人は。

  • 104Episode522/02/08(火) 06:44:47

    「……あとはお前を消せば。スズカを脅かす、欲望の消去は完了。
    お前、彼女の友だちになったんだろ?そんな資格もないくせに。
    ……だったら今すぐ彼女のために消えろよ!」
     
    「お前のやり方ではアイツの未来は切り開けない!
    たった一人で全てを背負い、絶望し、判断を決め込むのは違う。周りに目を向ければそれが分かる。
    つまり逃げるな!」
     
    「っ──!」
     
     
    ユーリは決めた。信じられる友を、その想いを守ることで未来に繋げると。彼女だって、それは変わらないはずだ。

     
    「アイツは裏切られても、お前を信じ抜くと決めた。過去を背負って、皆の願いを胸に進むことを諦めない」
     
    「過去を背負って未来に? ……ガタついてギリギリの明日も保障できない今日はどうするんだよ!
    今がどれだけ脆いかわかんないだろ!?
    味方なんてできない、今日しか考えられない奴はどうすればいいんだよ!?」
     
    「何にどう自分を脅かされようと、諦める選択をしたのはお前だ。……俺にお前の悲しみは分からない、だからこそ!
    誰かと今日から分かち合えるように、俺が導いてやる!」

  • 105Episode522/02/08(火) 06:45:27

     
     
     
    「……もう、失せろよ。
    今こそ、欲望を無にかえす……!」
    〈アメイジングセイレーン!〉
     
    「そのお前の想いも無駄じゃない。お前の想いを待っているヤツがいる。俺がその時まで守ってやる」
    〈──ジャオウドラゴン!〉
     
     
    《かつてから伝わる美しい歌声が、今こだまする──!》
    《邪道を極めた暗闇を纏い、数多の竜が秘めた力を開放する…!》
     
     
     
     
     
     
     
    〈■■抜刀……!〉「変身……!」
     
     ──エターナルワンダー!
     
     
    「変身」
     
     ──ジャオウドラゴン! 誰も逃れられない……!

  • 106Episode522/02/08(火) 06:46:08

    朝日が雲間に揺らめく頃。
    未だ、戦況は動いていない。
    否、“動かせなかった”。
     
    尽くの剣戟は音も変わらずに響き続けた。
    つまり、一歩も後退させられなかったのだ。

     
    「うッ、くっ──ぁああ!」
    《アメイジングセイレーン!》《アメイジングセイレーン!》《アメイジングセイレーン!》
     
    「……もうよせ。頭は冷えただろ」
     
     
    「……なんで、なんで止まらないのよ!お前の罪の証なんだぞ!?」
     
    「それを背負って、大切な人を守り、今を未来に繋げるのが剣士だ!」
     
    アメイジングセイレーンによる怨嗟と咎め。貫く信念と新たな友情を抱いたカリバーには、もう通じない。

  • 107Episode522/02/08(火) 06:46:42

    「こんなんじゃ、スズカは……! 彼女が幸せになれないなら、こんな……」
     
    「誰も信用出来なくなった。今の信念しか、自らを至らしめるものがなかった」
     
    「──っ、それは……」
     
    悲しみから始まって、いつの間にか視野が狭窄していた。かつての自分がそうだった。
     
     
    「それで二度と戻らないヤツもいる。でも、お前はそうじゃない。一番近くに、お前の言葉を信じて待っているヤツがいる!」
     
    かつての友は最期の時まで希望に気付けなかった。
    自分も、新たな仲間が出来なければ犠牲を黙認し、諦めていただろう。
     
    でも、本当はすぐ近くに。
    救いの光は、暖かに微笑んでいる。

  • 108Episode522/02/08(火) 06:47:10

     
     「俺とお前は、やり方やゴールが違えど、スズカの未来を想う気持ちは同じだ。
    ならお前は何故──自分の幸福も望まない?」
     
    「…………え?」
     
    「アイツの未来だけじゃない。自分も変わろうと、未来で共に幸せになろうと望む。
    それは俺ではなく、人間なら誰でも許される想いだ。お前には、出来ることだ」
     
    ユーリがこの世界に現れたのは、きっと本や聖剣による悲劇を終わらせるため。新たな友との時間は、そう長くない。
     
    しかし、彼女は違う。自分の行き過ぎた信念を、正義を。
    罪として背負い許してもらえば、人は前に進むことができる。
     
     
    「今を保つなんて、悲しいことを言うな。一人で全部背負うなんて言うな。
    スズカのためにも、ずっと彼女を想ってきたお前に、幸せになってほしいんだ」
     
    「───っ!」

  • 109Episode522/02/08(火) 06:48:25

    ──眩しい。
     
    これが人ならざる、人を見守り続けると決めた者の想いの強さなのか。
    感銘すら受けてしまう……それでも。
    やはり、引き下がることは、出来ない。
     
    「私が、今すらおぼつかなくなった私が。
    ……許されるなんて、有り得ない! あの子の、未来だけが!」
    《■■抜刀! ──神獣無双斬り!》
     
    「絶対に解放する!」
    《習得一閃! ──ジャオウ必殺読破!》
     
    敵意を無に帰す虚無の力は未だ健在。4体の金竜、1体の邪竜が虚空へと溶けていく。
    しかしその閉塞を、全く同じ5体が打ち破った。
     
    「───あ」

  • 110Episode522/02/08(火) 06:49:25

     
    ギミック上、手数が違う。連続して放たれた合計10体もの幻想竜。半数が消えようが、その勢いは止まらなかった。
    紫炎が辺りに充満する。恨みつらみは在るべき場所に、多少強引に還ってもらう。
    漂う怨嗟の悉くが闇に溶け落ちた頃、カリバーは間合いに踏み込んでいた。
     
    「そう、これは──光あれ!」
     
     ──ジャオウ必殺撃!
     
     
     
    「あっ、ぁぁぁ………光が──」
     
    闇の中に燦然と輝く刃が、ファルシオンの腰を斬り抜いた。瞬く間にライドブックが砕けていく。
    孤独に囚われた剣士は、ついに呪縛から解き放たれた。
     
    《……You are over. 》





    「……大丈夫か」
    「……、……ぅ……うぅ──」
     
    消えるような慟哭が収まるまで、カリバーは解け、ユーリは待っていた。
    遠くから駆けつける跫音が響く。いつの間にか、スズカもこちらに向かってきていた。
     
    「──トレーナーさん! 大丈夫ですか!?」
    「…………ゴメンね。ごめんね……っ、スズカぁ……!」

  • 111Episode522/02/08(火) 06:49:54

    ある程度聞こえていたのだろうか、スズカは言葉を受け入れ、傍に駆け寄った。
    ぽつりぽつりと、トレーナーは思いの丈を漏らしていった。
     
    「……わかっています。わかってますから。
    私の望みは変わらないけど、あなたのことをもっと知られて……きっと、これで良かったんです。
    私は、あなたを信じられてよかった」
     
    「これから二人で話してみるんだ。もう、悪いようにはならないだろ?」
     
    「……この罪は、絶対忘れない。でも、貴方たちの言う通りなら。
    私は……今を償っていくわ」
     
     
    それぞれが心に決められる幸せな未来のために。
    救いの光が、白い世界で降っていた。
     
    幾年の想いは、今ここに果たされた。
     
     
     
     
    「……ありがとう。私はもう、大丈夫だから」

  • 112Episode522/02/08(火) 06:50:28

     
     
     
     
     
     
     
     
     
    「うん……」
     
     
     
     
     
     
    「あとは……」
     
     
     
     
     
    それぞれの想いがぶつかり、それぞれが求める未来へ。
    ──結末に、至ったのだ。
     
    時計の針がネジを巻いて動き出す。ざわめき出した世界に歩みを進めていく。
     
     
    「物語を」
     

  • 113Episode522/02/08(火) 06:51:00

     
     
     
    新たな日々が始まる。
     
     

     
     
     
     
    「想いを抱いて」
     
     
     
     



     
     
    新たな日々が始まる。



     
     
     

  • 114Episode522/02/08(火) 06:51:33

     
     
     
     
     
    「紡ぐ」
     
     
     
     
     
     
     
     
    新たな日々が始まる。
     
     
     
     
     
     
     


     
     
    新たな日々が始まる新たな日々が始まる新たな日々が始まるな日々が始まる新たな日々新たな日々が始まるが新たな日々が始まるな日々が始まる新たな日々新たな日々が始まるが始まる新たが始まる新たな日々が始まる新たな日々が始まがが始ま始まる新た新たな日々がが始まる新たたな日々がが始ま始まる新た新たな日々が始まるな日々が始ま始まる新たな日々が始まる新た新たな日々が始ま始まるな日々が始ま始まる新たな日る新たな日々が始まる新たな日々が始まる新たたな日々がが始ま始まる新た新たな日々が始まるな日々が始ま始まる新たな日々が始まる新た新たな日々が始まるな日々な日々が始まる新た新たな日々が始まるな日々が始まる新たな日々新たな日々が始まるが始まる新たな新たな日々が始まる日々が始まる新たたな日々がな日々が始ま新たな日々が始まるる新たな日々が始まる新たな日々新たな日々が始まるが始まる新が始まる新た始まる新たな日々が始まるな─────
     
     
     

  • 115Episode522/02/08(火) 06:52:03

     
     








     
     
     
     
     
     ───アメイジングセイレーン!
     
     
     
     
    ──そして、静寂は果たされた。
     

  • 116■■■書22/02/08(火) 06:53:16

    第五話はここまで
    さすがに一枚岩では終われません
    もう多くも語れません
    プロフは次回更新かな…?
    次回は直ぐに出ますが、最終回が難産です……
     
    前話の最後のスズカさんの発言はファルシオンの正体がトレーナーだとわかっているけど、そうでなければいいなと思っていた感じです
    そんなトレーナーは大分ぶっ飛んだことをしていました↓
     
     

  • 117■■■書22/02/08(火) 06:53:37

    ・神獣無双斬り(アメイジングセイレーン)
     
    この斬撃波を受けた者すべてから、ある一人に関する記憶をすべて辻褄が合うように改竄するトンデモ技。
    さらに射程距離が次元越えという尋常じゃない様で、例えばレースを観戦しているモニターの向こう側にまで届かせて改竄出来る。
     
    こんなやべえわざと化したのはVシネの剣士たちと違ってスズカが大スター、しかも日本の25倍でかいアメリカが舞台だったからです()
    ……正直これでも無茶がありますがノリだと思って見逃してくだせえ(作中ではこの必殺技をめっちゃ頑張って極めたって言ってたけどそれでも無理あるだろ!)

  • 1189022/02/08(火) 07:15:20

    うわぁ・・・
    正直トレーナーしか怪しい奴居ないだろと思ってたけど過去が過去だし・・・と思ったらもっと辛い実情だった・・・

    やっぱりアメリカで味方がいなかったのが一人で思い詰めた原因ですよねコレ・・・
    でもここからやり直せればいいなって希望ある感じだと思ったらまだ終わりじゃなかった!?

    あ、まさかのユーリジャオウはカッコよかったです!

  • 119■■■書22/02/08(火) 09:03:19

    これもしかしなくても見にくいですよね…?

    ここらで各話に飛べる安価を付けときますね

    見てね!


    >>2 Episode1

    >>20 Episode2

    >>43 Episode3

    >>69 Episode4

    >>95 Episode5

  • 120■■■書22/02/08(火) 09:07:55

    >>118

    ジャオウドラゴンユーリはやりたかったことの一つなんでやれて良かったでふ


    周りに頼ろうにも頼れない…でも一番身近な子と話し合えたら、閉塞を破って一緒に進めたかもしれない…

    ……まあ距離感が近づかなかった理由は他にもあるんですけどね(次回の解説まで待って)

  • 121二次元好きの匿名さん22/02/08(火) 19:00:49

    スクロール演出天丼なのに普通に怖かった…
    まだトレーナーにブック渡したのが誰かわかってないのも怖いぃ…

    次の更新はいつ頃ですか!?モウマチキレナイヨー!

  • 122二次元好きの匿名さん22/02/09(水) 01:03:02

    光りある保守!

  • 123二次元好きの匿名さん22/02/09(水) 07:16:16

    最光発光!

  • 124■■■書22/02/09(水) 10:35:42

    体調が死んでたという言い訳代わりの保守…
    今日は絶対更新します……

  • 125二次元好きの匿名さん22/02/09(水) 11:15:25

    普通にセイバーのユーリスピンオフとしても面白くて読み入ってしまった

  • 126二次元好きの匿名さん22/02/09(水) 19:21:50

    保守あれ!

  • 127Episode622/02/09(水) 20:05:06

    それは誰もが未来に向けて、新たなスタートを切れると確信した直後だった。
     
    「………ゔっ」

    「──え?」
     
    確かにユーリも警戒はしていた。
    あれほどの強大で妖しい力を使うのに、代償がない可能性など無に等しいと。
     
    「なっ──!?」
     
     
    だから、万が一のために"消えずに残っている無銘剣"からは一瞬足りとも目を離さなかったのに。
    これ以上害を成すなら、封印する選択も視野に入れていたというのに。
     
    ……結論から言うと。
     
     







    「……ッ!? ──スズカぁっ!!」
     
    「───あ」
     
    無銘剣は明滅し──次の瞬間にサイレンススズカを貫いていた。

  • 128Episode622/02/09(水) 20:05:51

    「なっ!? ──トレーナースズカを頼む!
    俺は無銘剣を! ……こんな力はこの剣には無いはずだ」
     
    「う、ゔんっ…………あれ?」
     
    一瞬ですべてを台無しにした無銘剣虚無を今度こそユーリは捕えることが出来た。
    しかし手に取ろうとした直後、泡のように火の粉を散らし、完全に消滅してしまった。
     
    疑問は尽きないが、一方で即座に動いてくれたトレーナーの方へと向き直る。
     
     
    「…………な、に?」
     
     
     
     

     

  • 129Episode622/02/09(水) 20:06:19

     
     
     
     
     
     
     アメイジングセイレーン──!
     
     
    「────え?」
     
     
    未来に繋がる過去からの、人生という物語。
    許しと償いの架け橋だった、かけがえのない思い出。
     
     
    その1ページが、あっけなく虚空に散っていた。
     
     
     
    「──どうして!? どうし────あ」
     
     
     
    一つ、また一つと、無感動に引きちぎられるページ。
    梯子を外され、対象を持たない想いが次々と無に溶けていく。
     
     
     

  • 130Episode622/02/09(水) 20:07:24

    「──やめろ! お前は──」

     
    そして。
     
     
    「……何故だ」
     
     
    また一つ。
     

    「何故なんだ……──ッ!?」
     

    ──静寂は果たされた。
     
     





     
     
     
     
    〈無銘剣虚無!〉
     
    「──サイレンススズカ!」

  • 131Episode622/02/09(水) 20:07:53

    ユーリはこの状況を冷静に受け止めることが出来なかった。
     
    自分に、漆黒の剣が向けられていること。
    傍に、“トレーナーの方”が倒れていること。
     
    そして、友人に敵意を突き刺されていること。
     
     
    「…………、…………トレーナーは、お前の記憶を失くしたのか?」
     
    「ええ、その通りですよ」
     
    それでも、目を背けるといった選択肢は元より持ち合わせていない。
    彼の生き方が、彼自身が、揺れる自分を追い詰める。
    どこまでも合理的に真実を追求してしまうからこそ、常に心を痛めなければならない。
     
    飲み込めない自分の心を置き去りに、冷静な思考は口を開いていた。
    動機、目的に関わらず、このタイミングで『サイレンススズカがトレーナーの記憶を改竄するとしたら誰のものを消去するか』、推測を打ち出してしまったから。
     
    そんな分かり切った、認め難い現実に、『すっかり他人行儀になった』返答を重ねられてしまったユーリは、目に見えて意気消沈してしまう。

  • 132Episode622/02/09(水) 20:08:14

    「……貴方にはいろいろよくしてもらいましたし。
    真実を知りたければ、あちらの芝のコースにでも来てください。
    クリスマスですからね。絶対に誰も入ってこないので」
     
     
    まるで初日に見たレースに挑む際の怜悧な雰囲気を、さらに研ぎ澄ましたかのような冷たい言葉、表情。
     
     
    「──ああ。待っていてくれ」
     
    「…………では」
     
     
    しかし、それは彼女のとっくに決まっていた固い信念を示唆するものでもあるということだ。
    彼女がどんな目標を、悲愴を抱いていようとも。
     
    「………信じられる友がいる」
     
     
    最後まで信じ抜いた先に、希望はある。
    ユーリはただそれだけを信じて、覚悟を決め、決戦の地に赴くのみなのだ。

  • 133Episode622/02/09(水) 20:08:34

    風にそよぐ穏やかさを現すはずの芝一面も、この季節では尖鋭ばかりを思わせる。
    二人の心音が聞こえそうな静けさの中、真実の照合が無感動に行われていた。
     
    「……では、俺がこの世界に降りた日、最初に遭遇していたのはトレーナーではなく……お前だったんだな」
     
    「はい。トレーナーさんがいつの間にか日本にいる『私の協力者』からブックを受け取っていたのを知っていました。
    目的は違えど、道程は互いに同じだったのでしばらく静観していたのですが……やっぱりあの人に辛い思いはしてほしくなかった」
     
    スズカの望みはトレーナーにこの件から身を引いてもらうこと。トレーナーがユーリの記憶を改竄する前に手を打っていた。
     
    セイレーンと闇黒剣の力を応用し、ユーリの『闇の聖剣を振るっていた』という記憶のみを保管する。
    トレーナーがユーリを排しようとすれば、必然的に持ち主の一人であるユーリが剣に触れることになる。そうすれば相応しい担い手である彼ならば、自動的に記憶が戻っていく。
    そのまま進めば、トレーナーを止めてくれると考え、実際にそうなっている。

  • 134Episode622/02/09(水) 20:08:53

    「本当にありがとうございます。これであの人は、私のことを気にせず、これから新しい人生を送れるでしょうから」
     
    「……お前もあの時、自分で自分を闇黒剣で斬っていたんだ。
    トレーナーに閲覧されれば、自分の目的がバレるかもしれない。自分の記憶を闇に保管し、ボロも出さなくなっていた」
     
    「お見事です。これで、タネは全部なくなっちゃいましたね」
     
     
    先程スズカを貫いた無銘剣虚無、あれはアメイジングセイレーン発祥の──本の力を発揮する為の媒介装置に近い──エネルギー体だった。
    剣が本当の担い手であるスズカの下に帰着し、その力のみを己にぶつけ、闇黒剣の力を無効化して記憶を、自分を取り戻していたのだ。
     
    永い月日をかけて目指していた、本当の目的を持った自分を。
     
     
    「お前は一体、何を目指しているんだ?」
     
    「私は自分を───サイレンススズカを無にかえすんですよ」

  • 135Episode622/02/09(水) 20:09:20

    「……闇黒剣によって見せられる“破滅の”未来。
    お前はそれが『真っ黒か真っ白』で何も見えてないと言っていた。
    ……そうじゃない。お前にとっての世界の終わりの光景が、本当に何も見えなくなった──虚無だったんだ」
     
    彼女は本当は、月闇を通して見ていた。
    白く染まった空で、『星』が黒く溶けていく世界を。
    静かだった景色がざわめいて、気付けば何も無くなった世界を。
     
     
    「なるほど。じゃあ、私はもうすぐそこに辿り着けるんですね。
    誰もいない、静かな……独りきりの世界へ」
     
    「違う。何もない世界など、心を震わせるものこそ何もない。
    お前が見たいと言っていたのは、誰かと想いをぶつけあう真剣勝負の末に辿り着く、透徹した心と彩られた地をもって広がる景色だったはずだ。
    しかも、多くの人の想いを受けていた」
     
    「……そうですね。私は確かにそれを望んで、それを夢として走ってきました。想いを向けてくれる、たくさんの人にも恵まれていたんでしょう」

  • 136Episode622/02/09(水) 20:09:45

    トレーナーによって、今のスズカにはかつての学園生活での記憶がほとんど無くなった。
    しかしユーリと同じようにその断片は、かけがえのない想いがあったことは確かに覚えている。
    そしてその残滓を抱いたから、スズカは孤独な決断を下したのだ。
     

    「──だからこそ。私はもう、誰にも悲しんでほしくない。二度と苦しんでほしくない。
    運命に裏切られて、想いを裏切った、私のために涙を流してほしくない……!」
     
    「お前の……まさか」
     
    「私にはわかるんです。
    たくさんの人が、勇気をもらったと言ってくれて……
    たくさんの友達が、幸せを共有してくれて……
    大切な人は……ずっと、無理に、笑っているの」

  • 137Episode622/02/09(水) 20:10:05

    ある一つの『星』が墜ちた、盾を廻る秋の一幕。
    誰もが沈黙し切った、あの瞬間からずっと、ずっと。
    裏切られ、裏切った少女は……孤独の中で、堕罪意識を募らせた。
     
    「私には、夢がありました。
    走って、走って、走り抜いた先の誰もいない場所。そこで、見たい“景色”を追い続けること。
    先頭を駆け続けて周りの音は消えて、風の音と、心臓の鼓動だけが聞こえる……まっさらな、私だけの景色。
    静かで綺麗な、美しい世界」
     
    一つのゴールだけでは飽き足らない。
    こんなものじゃない、もっと静かで美しい世界。
    誰にも譲らない、すべてを投げ捨ててでも。
    もっと、もっと、先へ。

  • 138Episode622/02/09(水) 20:10:46

    「そんな、自分のためだけの夢なのに……いつの間にか、たくさんの人が応援してくれて。
    私の逃げで……夢と可能性を感じて、希望すら抱いてくれる。
    私の走る姿を受けて……追いたい、越えたいって言ってくれる。
    私の見る景色……それを掴み取る所を見たいと言ってくれる」
     
    「みんなが信じてくれたから、私はずっと走ってこれた。
    景色は譲りたくないくせに、みんなにも、見てほしくなった。
    一緒に景色を見たいって、想うようになっていたの」
     

    逃げて、逃げて、最後に差す。
    彼女だけが終始駆けゆく、前古未曽有の無双劇。
    その夢と理想に溢れた、少女の織り成す世界こそが、多くの人に笑顔と興奮を届けた。
     

    「……私一人のために、私一人を追って、信じてくれた人たちがいたから。
    背中を押してくれたから、限界を超えた先の景色を見ることが出来たから」
     

    「一つ一つ進んでるって。夢に向かって走ってるって。
    思うままに駆けて良いって。もっともっと、向こう側を望んで良いって。
    私も信じて、走ることが出来た。」
     

  • 139Episode622/02/09(水) 20:11:17

    「そしてあの日……私は、遂に見ることが出来たんです。
    どこまでも、飛んでいってしまいそうな感覚で……絶対限界を越えられるって、確信していました。
    全部の鼓動をかき分けて、風の音すら抜き去って、走り抜いたそのさらに向こうに──」
     
    「──今までで1番静かで綺麗な場所に辿り着いたんです……!
    たくさんの人が夢見てくれた、私だけの、私たちの景色を見られたんです……!
    本当に、気持ち良かった──!」
     
    夢を叶える走りをしただけではない。
    多くの人の想い、信じる心があったから、彼女の見る煌めく景色は、誰にも等しく微笑んだ。
     

    こうして、一人の少女が夢を駆けた、物語は幕を閉じた。
    少女の万感の想い、大切な人々と共に築いた信念によって『星』が生まれた──そんな物語。
     
     
     

    「──なのに。……みんなは。
    あんなに優しい人たちは……みんな、みんな、悲しんでいたの」
     
    「……、…………」
     
    「わからない。なんでそんなに、悲しんでいるのか。
    ずっと……ずっと心は縛り付けられてて。
    私は一人で、こんなにも静かで、晴れやかなのに……
    私を信じてくれたみんなは…………!」

  • 140Episode622/02/09(水) 20:11:40

    『星』が煌めく静かな世界。少女は独りで想い続けた。
    どうして、そんなにも悲しいのか。そして、思い至ったのだ。
     

    「私がこんなにも満ち満ちているのは……みんなの想いがあったのに、私だけが望んでいたから。
    きっと、私は、私自身しか見ていなかったから……!
    受けた想いを、私が裏切ってしまったから!
    …………ずっと、ずっと、みんなが悲しんでいるんです」
     
    「それは……」
     
    「わかるんです。みんな、誰一人として私を恨んだりしていない。
    今もずっと、想い続けてる……想わせてしまっている……!」

  • 141Episode622/02/09(水) 20:11:59

    「私は漸く分かりました。私一人が静かな世界に自分だけ安らぎを求めてしまった……。
    ……それこそが私の犯した……決して償えない、背負わなければならない、『罪』なのだということを」
     
    「……罪」
     
    「このままじゃ、優しい人たちが、永遠に苦しみ続けてしまう……そんなの、いや──だから求めたんです。
    裏切って想いを無駄にした……私自身を消すことで、みんなが心のまま自由に、未来に進んでほしい。それをかなえる力を。
    もう二度と、私が生んだ絶望に囚われないよう──サイレンススズカを無にかえす力を!」
     
    大切な人がいたから、想いがあったから。
    育んだ信念が裏切り、悲しみを生んだ。
    決して許されない、過去からは逃れられない。
    全部自分の選択で──罪だったのだ。
     

  • 142Episode622/02/09(水) 20:12:21

    「独りになった私は、闇そのものでした。
    何も出来なかった私の前に、突如この剣と本が現れた。それからの事は、もうおわかりでしょう? そして、私はここまでやって来たんです。
     
    ……ユーリさん、貴方は教えてくれましたよね?『想いは本物で、すべてが嘘なはずがない』って。
    本当に、その通りなんです……だからっ!
    かけがえのない想いだからこそ彼らの心のためにっ、とっておいてほしいの──っ!」
     
    そうして彼女は、多くの想いを向けられた一人の少女の存在そのものを無にかえすため、剣を手に取った。
    皆に植え付けてしまった絶望と悲しみ。その悉くで迫る影に、これ以上耐えさせないために。
     
    開いた本の中にあったのは───
     

  • 143Episode622/02/09(水) 20:12:49

    「でも……私は貴方に、ほとんど話していたようですね。
    …………なんて、心地いい人だったんですか、あなたは」
     
    「……今思えば俺たちは、互いに自らの決して変えられない運命と信念を持っているから、ひかれ合っていたんだろうな。
    だから、俺にはお前の悲しみが理解る。
    今のお前も、記憶がなかったお前も、俺にとっては同じだ。何も変わらない」
     
     
    「……言いましたよね? あれはボロを出さない為に用意した、いわば偽りの私なんです」
     
    「俺はこうも言ったぞ。『今紡げる想いは、今だけのもの』と。
    何もその瞬間のみ意味を持つなんて理由で言ったんじゃない。その時その時、重ねた想いはすべてが本物だ。
    真偽も清濁も関係ない。今だけの想いは、未来に繋げられるということだ」
     
    彼女の告白は、確かに悲しいものだった。自分たちが似た者同士である心髄も垣間見たからこそ、理解だけじゃなく、本気で共感もしている。
     

    だからユーリは、絶望して罪過を背負った彼女も、空漠の中未来に進もうと前を向いた彼女も。
    例え相反する想いであっても、両方本当の彼女だと確信している。

  • 144Episode622/02/09(水) 20:13:12

    「俺はお前に教えただけじゃない。むしろお前に、もっと多くの事を教えてもらった。
    絶望しながらでも想いを受けて、前に進める強さを。
    裏切ってしまっても、人々が信じてくれた自分を胸に進む信念を」
     
    今のヒトは、アンビバレントな想いを持ちながらも、きっと未来に進んでいける。
    そう思えたのは、彼女の強い在り方を知ったからだ。

     
    「だから俺も、罪と信念を背負いながら、大切な友を守り抜くと決められた!
    ……罪悪感だけじゃない。無駄にもしない。
    お前は全部を背負って走り続けるから、誰もがお前を想い続ける!」
     
    「──っ、だからっ!
    それがダメだから、そんな自分にしかなれないから、みんなを悲しませたから……消えなきゃダメなんだって言ってるでしょう!?」

  • 145Episode622/02/09(水) 20:14:09

     
     
     
    「想いや、絆が……どれほどヒトに力を与えてくれるか、私は知っている。
    ……痛いほど分かるから、無駄にしてほしくないだけなのよ……」
     
    「ずっと、信念をねじ曲げたりしなかったからこそ……その中で絶望を、諦める選択をした……それは!
    お前が独りで、勝手に無駄だと思い込んだからだ!」
     
    「…………っ」
     

    自分自身しか見ていなかったなんて、自分につくにしても拙いウソだ。
    でも今は、孤独をかき立て、本当に独りになろうとしている。
     
    「周りを見て知ったから、独りで背負って、今度は本当に裏切りそうになっている。
    でも運命に立ち向かって、ずっと逃げずに走り続けたお前だから、もうわかっているんだ。
    ──みんなと一緒に夢を見たから、想いが無駄になるなんてありえないと!」
     
    「それ、は」

     
    悲しいのは、当然の事だ。なんでそんなに悲しいのか、気付かないふりをしていた。
    彼らは、彼らの心の中で、決して譲れない自分だけの悲しみを持つ。
    それは、どんな関わりがあろうと、彼女がどうこうするものではない。
     
    生きていれば、絶望することはある。
    ただ、あんなに想ってくれたのにその想いが報われないのではないかと、スズカは独り思っていたのだ。

  • 146Episode622/02/09(水) 20:14:31

    「もし結果が違おうと、想いが報われるかどうかは結局わからない。ヒトは前を向いて進む時、誰もみな独りになるからだ。
    それが苦しい事だとはわかる。でも、お前がそれ自体を憐れむのは違う。
    お前が今、皆に悲しんでほしくないと思うのは、みんなを信じていないからだ」
     
    「私が……思い、込んでいる、と──っ!」
     
    「お前と駆けたみんなを信じろ。やがて前を向けると信じろ。
    最後まで信じられる、大切な仲間で友だったはずだ!」
     
     
    孤独に耐えること。絶望を乗り越えること。
    それはすべて、ヒトがそれぞれ、自分自身で乗り越えなければならないものだ。
     
    どんな苦難に直面しようと、自分の心に従って、涙を流しながらでも前に進む。
    一歩踏み出すのはいつでも自分だ。そして、多くのヒトも同様にそこにいる。
    前を向くと独りで決断出来たからこそ、そこからまた、みんなで共に想い、進むことが出来る。

  • 147Episode622/02/09(水) 20:15:22

    「──っ、でも!
    信じたからこそ、こんなことに……私はいなければ、そもそも、苦しんで──」
     
    「すべてを罪過の、自分ひとりのせいにするな!
    この数年、お前は優しさから勝手に絶望していたんだ。想われるのが申し訳ないなど、皆を信じないのと同じだ。
    一人でもいい。まずは一度耳を澄ませて周りを見てみろ。それが本当に無駄かどうか、確信出来るはずだ」
     

    ユーリもまた、自分の務めを……否。自分の想いを果たそうとしている。

    大切な友はきっと、自分の力で前を向いて、未来に想いを繋げることが出来る。
    最後まで、友を信じ抜くのみだ。
     
     
    「今、一番近くに俺がいる。お前には、友がいる。
    学び、笑い、時にはぶつかる。無駄なものなど一つもない。
    何でもない想いを投げ合える、小さくてちっぽけな関係だからこそ!
    ……世界は生まれ、未来に繋がる」
     
    「……ダメよ、あなたは。……あなたは」
     
    「お前の孤独、信念、想い。全部を俺が受け止める。
    信じられる友として、お前の絶望を照らしてみせる」
     
     
    自分自身が道しるべ──彼女の越えるべき“光”となることで。

  • 148Episode622/02/09(水) 20:16:18

    結局、どちらの信念も何一つ譲れないものだから。
    そんなお堅い者同士だから、ここに辿り着いたわけで。
    間違いだと否定するのではなく、包み込むような決意を胸に。
     
    最後に雌雄を決することが出来るのは、培った想いをぶつけることだけだった。
     
     



    「もう、良いですから。もう……放っておいてって、言ってるのに──!」
    〈エターナルフェニックス!〉
     
    「俺がお前も、未来に想いを繋げられると示してみせる!」
    〈ジャオウドラゴン!〉
     
     

  • 149Episode622/02/09(水) 20:16:36

     
     
     
    《抜刀……!》《──闇黒剣月闇!》
     
    「「ハアアァァァ───変身っ!!」」
     
     
     
     ──ジャオウドラゴン……!
     
     エターナルフェニックス──! 
     
     
     
     
     
    これは、怒りでも、憎しみでもない。
    いたずらに傷つける、虚しいだけの暴力でもない。
     
    閉塞した世界を突き破り未来に進む──そのための、ありふれた一幕だ。
     
     
    「「……ハアぁぁーーっ!!」」
     
    ──剣が、その想いを乗せてぶつかった。

  • 150■■■書22/02/09(水) 20:17:13

    第6話は終わり、次回は最終回
    二人の想いがどこに向かうのか、果たされるのか
    このスズカさんが本当はどういう状態なのか。解釈は次回も合わせて自由にしていただきたいです
     
    一つ言えるのは彼女のテーマソングを聞いてこのお話を思い付いたということ
    今一番を終えて、二番に入っているような感じで、バリバリ影響受けてます
     

    Episode1の冒頭で無銘剣を手に取ったのはスズカさんでした(あれが月闇なのか誰が取ったのかがミスリードだったり)

    それと一つ明かしておかなければいけないことが…
    七千文字超の今話ですが、さらに最初のギミックだけは説明せねば…

  • 151■■■書22/02/09(水) 20:17:39

    ・必殺リード ジャアクモンスター(アメイジングセイレーン) 月闇必殺撃
     
    今作の最初にスズカがユーリに向けて斬り放っていた(実はEpisode1に一瞬描写アリ)必殺技。
    これは、セイレーンの改竄能力と月闇の「対象を闇に至らせる力」を組み合わせたモノ。
    賢人が闇に物理的に保管されていたのとは違う、精神的な作用が発生する。
     
    つまり、「対象の正しい記憶の一部を月闇の生む闇の中に保管する」技と成った。
     
    後は作中で言っていた通り(本編みたいに闇の聖剣の担い手となった賢人が自力で脱出出来た例を参考)にユーリが触れると自動的に記憶が戻った。
     
    スズカはセイレーンの付録扱いだった複製無銘剣の「聖剣の力を無効化する力」のみを己にぶつけて、技そのものを無効化して記憶を取り戻した(スズカの持ってたのは本物だからエタフェニが付いてる)
     
     
    スズカがこの技を自分に向けて使ったのは、Episode1より前。
    彼女自身が孤独に絶望して闇そのものにすら思えたとき、無銘剣に次いで闇黒剣に出会った頃に使用。
     
    これでデスノートみたいに一時的に自分が黒幕だということを忘れていた(動機は全然違うが)
    記憶を改竄しても想いが残っていたように、聖剣に関連する者が現れたときに改竄して記憶を保管するという方針だけは彼女の中に残っており、ほぼ無意識にユーリを斬っていた。
     
     
    トレーナーが多くのヒトの記憶からスズカを消していたのは(『日本の協力者』経由で)知っていたので、自分の物語が覗かれないように常に警戒しなくてはならなかった。
    だからトレーナーは「一緒に遊びに行ったことはない」と言っていて、スズカも自分によくしてくれるトレーナーにお返しをしたいとは思うけど出来ないジレンマに陥っていた。
     
    しかし、月闇を手に入れてからは記憶を保管出来たので覗かれてもバレなくなったから、距離感が近づいた。
    もう互いに多くの記憶を失くした頃、数年の時を経て、どんな過程であれ、二人はようやく和やかなひと時を共に過ごすことが出来たのだ。
     
    その今までの分のお返しをしようと取ったコミュニケーションが「カリバーに変身して走るので付き合ってください」なのは流石スズカさんですが…(頭先頭民族)(トレーナーも走ってほしくないけどスズカの走る姿は好きなため結果WINWINになってるけど)

  • 152■■■書22/02/09(水) 20:18:42

    今から物語を見届けてくれるあなたに

    各話に飛べる安価をどうぞ!見てね!


    >>2 Episode1

    >>20 Episode2

    >>43 Episode3

    >>69 Episode4

    >>95 Episode5

    >>127 Episode6

  • 153二次元好きの匿名さん22/02/10(木) 02:37:47

    完走して欲しいので保守

  • 154二次元好きの匿名さん22/02/10(木) 07:54:01

    サイコーカラフル

  • 155二次元好きの匿名さん22/02/10(木) 17:47:13

    保守

  • 156Final Episode22/02/10(木) 19:14:53

    「「ハァァ───!」」
     

    本来は斬って捨てるだけのハズの戦い。
    それは想いの円舞と成りて、まるで炎と闇が織り成す儀式に至っていた。
     
    《エターナルフェニックス!》
     
    栗色の毛並みを思わせる不死鳥が飛び出し、業火を纏いてカリバーに激突した。
     
    「……っ!」
     
    腰から腰の高さで不意に飛び出してきたことで、ベルトのブックの操作も叶わない。
    さらに、捉えられたカリバーは、不死鳥が変化した炎の渦に囚われてしまった。
     
     
    《必殺黙読──》
     
    あの秋の日と同じ感覚──浮遊感。
    翼を広げ、空に向かって駆けたファルシオンはカリバーを視線の斜交いに定め、突貫した。
     
    「やあぁあ!」《──不死鳥無双撃!》
     
    直下に突き翳す、想いが燃え盛るしなやかな脚が、カリバーの鎧に直撃した。
    ただでやられるわけにもいかず、カリバーは咄嗟に呪縛で絡め取ろうとする。
    しかし、雪のように散りばむ火の粉の軌跡に、カリバーの生む闇は溶けて無くなってしまった。
     
    そして、ついに拮抗も叶わず。
    紫のページを撒き散らしながら、芝の外に吹っ飛んでしまった。

  • 157Final Episode22/02/10(木) 19:15:44

    「ぐ、ううぅぅ───ぅわああ……」
    「……あっ……だ、大丈夫かしら──」
     
    その原因となった張本人だが、まず口をついてでたのは心配の念だった。
     
    ……正直なことを言うと。
    成り行きで想いをぶつけることになって、とっくに決めていた筈の答えが、想いが、自分の中で揺らいでいることを自覚してしまった。
     
    ならば、咄嗟に紡がれたこの言葉こそが、自分の本当の──
     
     
    「──っ!? 変身が……ブックを盗られてる……!」
     
    その要因の一つと思われる謀略。
    虚無を促進するエターナルフェニックスがいつの間にか抜き取られていた。
    抵抗の選択肢をかなぐり捨て、スズカを覆ってしまう本の魔力一点を狙い定め、カリバーは攻撃を受け入れたのだ。
     
     
    「……それでもまだ。この本が……あるから」
    《アメイジングセイレーン───エターナルワンダー!》
     
     
    しかし、本は一冊ではない。
    ファルシオンは最後まで、想いをぶつけることを決めた。
     
    目の前に置き去りにされた『闇黒剣』を引き抜く。
    何があろうと、もう自分は引かないと決めた。
     
    偽りだったはずなのに、いつの間にかかけがえのない存在になっていた──友人の覚悟に充てられたから。

  • 158Finish Episode22/02/10(木) 19:16:19

    「う、うぅ………流石に真正面から、受け止めるのは、きつかったな」
     
    闇夜の鎧は弾け飛び、ユーリの姿は露になっていた。
    このままでは、ダメージを受けてしまった自分が不利である。どうなるのか、実に明白で──
    冷静な思考は、この先の結論を生き急いでいた。
     
    「それでも、俺は。あいつの……いっときの道標に──“光”になると決めたんだ……!」
     
     
    「────光、ですか?」
    「──ん? ……誰だ」
     
     
     
    思い切り学園の敷地内にまで飛ばされてしまった。これでは誰かに見つかっても可笑しくないだろうと、声の方向に目を凝らす。
    ……そこに居たのは。
     
     
    「……お前は」
     
    「……すいません、どうしても、きっとあなただから言わなければならない事が……!」
     
     
    さっきまでスズカのトレーナー“だった”人物だ。

  • 159Finish Episode22/02/10(木) 19:16:44

    「私には、大切な人がいたんです。でも、いた筈なのに……想いがあったのに……なにも……!」
     
    「…………」
     
    これが、アメイジングセイレーンの力。
    実際に効果を目の当たりにした今、その恐ろしさをより感じられた。絶対に解放して見せると、さらに息巻く。
     
    「……どうしても、謝らなければならないことが、あったんです……でも、でも……!
    ……そこに、あなたがいて。私は、あなたにも、きっと……。
    誰だか知らないのに、あなただからこそ、“光”を感じてしまって……」
     
    「…………!」
     
     
    「どうか、蔑まれても構わないから、願いを、聞いて下さい……。
    あなたの、その光で、照らしてほしい人が、いるんです。
    そして──“ゆるすように”言ってあげてくれませんか?」
     
    「ゆるすよう……ああ、俺に任せろ」
     
    今思えば、彼女が自分からスズカの記憶を消さなかったのは。
    いつかスズカにとって、ユーリが必要になる時が来ると思っていたからなのかもしれない。
     
    自分たちのことは、もう何一つ覚えていないはずなのに。
    彼女もまた、大きな想いを抱いた一人だった。
     
    「……行ってくる」
     
    「……! あ、ありがとうございますっ、知らない人……!
    なんて、優しい──あ」

  • 160Finish Episode22/02/10(木) 19:17:01

    「待って、知らない人!
    ──あなたはきっと、まるで!
    誰かの心に刺さって、それでも、大切に守れる『剣』です───」
     
     
    「──ああ、約束しよう!
    …………そうか、そうだったのか」
     
     
    確信は、今まで持てなかった。
    でも誰かを、ヒトを守ってほしいという願いを託されたから。
     
    ──己は目覚めることが出来る。
     
     
     
     
     
    「……おかえりなさい。でも、もう降参してくれませんか?」
    《闇黒剣月闇!》
     
    月闇が見当たらないと思ったら、運悪く飛ばされたときに残ってしまっていたようだ。
    無銘剣と闇黒剣を携え、冷厳な視線をファルシオンが向けてくる。
     
    しかし、もう一歩も引かない。
    そう、思い出したのだ。
    私は、この身は、俺は。

  • 161Finish Episode22/02/10(木) 19:17:22

    「俺は引かない。信じられる友のため、そして世界を守るため!」
     
    「……、………──っ!」
     
    ファルシオンが、迫りくる。
    ──そこに、光が降り注いだ。
     
     
    「──! え、なに?」
     
    「俺はお前の友だ。お前が前を向けるまで、俺がお前の想いを守る!」
     
     
     
    《──光剛剣最光!》
     
    光は御身に注がれ、更なる光を呼び覚ます。
    物語を未来に繋ぐ、聖剣はここに顕れた。
    バラバラだったページは、燦然とした信念にあぶられ、惑わしから浮上する。
     
    真なる姿は、彩とりどりに想いを叫ぶ──!

  • 162Finish Episode22/02/10(木) 19:17:46

    「……それは……その、眩しい力は」
     
     
    《エックスソードマン!》
    『エピソード1──すべての色で戦え!』
     
     
     
    「……変身!」《──最光発光!》
     
     
     
     ──Get All Colors! エックスソードマン!
     
     
    『エピソード1! フルカラーで参上! ババババァーン!』
     
     
     
     
     
     
    「そう、俺は……大切なヒトと世界を守る──剣士だ!」
     
     
    剣士は──仮面ライダーは、再びその手に剣を取る。
    誰かの幸せを守り、希望の微笑みを、未来に繋ぐために。

  • 163Finish Episode22/02/10(木) 19:18:18

    「ハアア!」《移動最光──腕、最光!〉
     
    バネのような挙動でファルシオンの眼前に転移、二本の聖剣と一歩の遅れも無く鍔ぜり合う。
    その剣の重さに、ファルシオンは思わずたじろいだ。
     
    「……どうして、そこまで、こんな」
     
    「俺はどうやら言葉足らずらしくてな! まだ伝えきれてない事があったんだ!」
     
     
    自分で決めた生き方、信念を駆け続けることでしか示せない自分たちだから、友人だから。
    コミックのセリフを丸々叫ぶのとは違う、自分の心で彼女に伝えたいことが山ほどある。
     
    その後押しを、驚くことに“自分と全く同じ考え”を持っていたトレーナーにまでされてしまった。
     
     
    「聞け! お前はみなの想いを裏切った罪を悔やみ、償おうとしているがそれは違う。
    そもそも優しいお前が罪を背負っていこうとすること自体が相応しくなかったんだ!
    お前が真に抱くべき想いは──『ゆるし』と『感謝』だ」
     
    「え──」
     
    「独り心の中で罪悪感を募るのはお前だけじゃない。何か、もっと、もしも。他人には拭えない後悔や悲しみを誰もみな背負っている。
    だからスズカが、スズカこそが、皆に伝えるんだ」

    「………!」

  • 164Finish Episode22/02/10(木) 19:19:08

    「離れてっ!」
     
    たまらず、力押しで斬り上げ、最光を引き離す。
    取り上げた本はこちらにもあり、即座に叡智を読み取らせた。
     
    《ジャアクドラゴン──月闇必殺撃!》《脚、最光──Finish Reading!》
     
    月闇を刺した積雪から広がる闇の呪縛。一瞬捕らわれた最光だが、全てを脚に往かせ、緊縛を斬り払い、空に飛び出した。
     

    《サイコーワンダフル!》
     
    導きの光は目前に至る。
    瞬く間にファルシオンに向けて、想いを守る剣と化した最光が突貫した。
    月闇と虚無で眩きを拒む。
    ファルシオンは何とか剣を翳して対抗を試みた。
     
     
    「ううっ……! 私が、伝えたいこと──」
     
    「──罪を背負う必要なんかない。お前の結末は、悪でも犠牲でもない!
    他でもないお前が、無理せず生きていいと“ゆるし”、未来に皆の想いを繋げられると“感謝”する。
    それが、スズカの教えてくれた、スズカの望む新しい物語だ!」
     
     
    強い光の中に、深い影は生まれる。
    それはもう、彼女たちが生きる世界では仕方のない宿命で、誰も悪だなんて言えない。罪には成り得ない。
    彼女は孤独の英雄じゃない。その信念は呪いじゃない。人々と共に在ることが出来る。
     

  • 165Finish Episode22/02/10(木) 19:19:32

    誰よりも人々の想いを受け、誰よりもそれを大切に力に出来る。
    そんな彼女だから、誰より自分と皆を信じられる彼女だから。
     
    誰かが悲しんでいるなら、キミが教えてあげてほしい。
     
     
    「──“自分が未来に想いを持っていくから、安心してくれ”ってな」
     
    「───っ!」

  • 166Finish Episode22/02/10(木) 19:20:05

    均衡が光にぶち破られた今、決着の刻が来た。
     
     
    《必殺リード──ジャオウドラゴン!》《永遠の邪王! ……無限一突!》
     
    紫焔の大竜、金色の群竜に加え、栗毛を思わせる赤き邪竜、翡翠に輝く群竜も放たれた。
    10体の竜波が、蹴撃の最中である最光に横手から襲い掛かる。
     
     
    「俺は信じられる友を照らし、背中を後押しする“光”だ!」
    《最光発光!》
     
    光剛剣から光が広がる。
    その淡く優しい温度は、世界を重ねる雪と交わり、抱きとめるように竜を包んでいった。
     
     
    「──光あれ!」
    《最光カラフル!》
     
    敵意と無心の竜が光と成りて、最光の御身に吸収された。
    光は新たな装甲を纏わせ、更なる彩りを蹴撃にもたらす。
     
     
    「───あ」
     
    「エックスソードブレイク!!」
     
    二つの顔と想いを背負い、翳し、最光は──遂に呪縛を貫いた。
    少女はその導きの光に当てられ、ついに道筋を見出したのだ。

  • 167Finish Episode22/02/10(木) 19:20:25

    しんしんと、変わらず静かな世界を彩ってくれる雪模様の中、思う。
     
    ……本当は。罪悪感に押しつぶされる前に、もっと伝えたいことがあった。
    私が裏切ったなんて言ったら、私自身しか見てないなんて言ったら……そうさせてしまった自分自身を、皆は一生咎め続けてしまう。
     
    だから、私はかわりに伝えたかった。
     
     
    「“運命に裏切られて”それに何度も屈してしまって、ごめんなさい。
    でも、私はみんなが過去からずっと想いをくれたから、未来でずっと駆けていける。
    これからもまた、何度も何度も、裏切って裏切られるかもしれないけど。
    私はみんながくれたものを、ぜんぶ未来に繋いでみせるから
    あなたたちは、自分の速さで、前を向いてね……って」
     
    後押ししてくれる光に充てられ、決心がついた。
    それは目の前の友だけじゃない、灯台もと暗しで。
    かつてから共にいてくれた輝きがあると、自分で気付くことが出来た。
     
    「でも、どうすればいいのか……
    この感謝を伝える術が、わからなかった……!」
     
     
    「お前はここで、自分で気付いたじゃないか。
    ──行ってこい。俺は、お前の友は、離れていてもずっと見守っている!」
     
    「……ユーリ!? あなた、身体が──!」

  • 168Finish Episode22/02/10(木) 19:20:45

    この世界の聖剣騒動を収める、おそらくそんな役目は終わってしまった。
    でも、それよりもっと大きな繋がりを得ることが出来た。
     
    本当なら彼女は、運命に裏切られたと怒っていい。
    ただ離れ離れになってしまったことを悲しんでいい。
    でも彼女は強いから、自分だけじゃない、自分のことを悲しんで苛まれてる人がいるのを見過ごせない。
    ならばその人たちに、お前が“ゆるし”を告げるんだ。
     
    それを口は出さないが、もう彼女は分かっているから。
    気が付けば、その左脚を支えに、力強く立ち上がっていた。
     

    「……ううん、違うわね。
    ──ありがとう。私はもう大丈夫。
    信じられる友達に思い出させてもらったこの想いを伝えて、私も前に進んでみせる。約束ね」
     
    「フッ───最高だな!」

  • 169Finish Episode22/02/10(木) 19:21:01

    導きの光、されどこんなに身近で親しい光が、在るべき場所へ帰っていく。
    おそらく“この物語の性質上覚えてることはないけれど”。
     
    離れていても、こんなに温かい想いが無駄なハズがない。きっと、何も無いなんてことは無く、影響されてくれる。だって、あんなに好奇心旺盛なんだから。
     
     
    残された『光剛剣最光』を手に取る。
    無銘剣は空の向こうに飛んで行ってしまった。
    行き先は──『日本の協力者』だろう。
     
    最後にまだ、確かめないといけない事がある。
     
     
    「……今、いくから」《──最光発光!》
     
    光剛剣による、往くと決めた道を展開する力。目の前に、目的地まで一直線になっているコースが広がっている。
    闇に2本の聖剣を保管し、一目散に駆け出した。

  • 170Finish Episode22/02/10(木) 19:21:48

    ──12月25日。日本時間22時過ぎ──
     
     
    ここは──懐かしの日本中央トレセン学園。
    日本とアメリカ、スズカが居た場所に限っては14時間も時差があった。もうすぐ、クリスマスが終わる。
    さすがにみんな寮に帰っているだろう……トレーナーを除いて。
     
    いや、本当に残っていたらブラック極まりないが、今日はなぜか居るという確信がある。
    だが、最重要目的はそこではなかった。
     
     
    「……私と、考えていたことが同じなら、今日ここで決着をつけるつもりだわ」
     
    アメリカの人々の記憶は、アメリカのトレーナーが消していた。
    自分に近づいてくる人の記憶は、自分自身で消していた。
     
    では、日本の人々や友達の記憶は?
     
     
    「決着を着けるのは、私の方になっちゃったわね」
     
    かつてのトレーナー室に、急ぐ。

  • 171Finish Episode22/02/10(木) 19:22:06

    夜更けなのに、やはり何人かのウマ娘は残っていたようだ。
    特別な日に大切な想いを紡ぎ、またいつもの日々で当たり前を噛みしめる。
    こんな子たちなんだから、やっぱり自分の心配など不要だった。
     
    「だからこそ、今から自分も、想いの限りを尽くすから……!」
     
    駆けて、駆けて、もう、そこにいる。
     
     
    途中、かつて見知ったかけがえのない、友達やライバルも居た。
    私が音を立てて走っている姿を訝しむことはすれど。
     
    誰一人、私に目を向けることは無かった。
     

  • 172Finish Episode22/02/10(木) 19:22:22

    その『ウマ娘』とは、目的地に到着する前に鉢合わせた。
     
    「……あれ? どうして、あなたがここに?」
    「───そう、だったのね」
     
    ──最後に消すのは、一番自分の側に居てくれた、一番大事なトレーナーさんの記憶。
     
    罪深い自分にとって、一番の罰で、償いになるから。
    さっきまで、自分もそう思っていた。
     
     
    「貴女にも、伝えないといけないから。さあ、こっちに来て。
    私たちが本当に果たすべき想いを、果たしましょう」
     
    「……今更何を言っているの? 私がどれだけの時間をかけて、日本中の『私』の記憶を消して、アメリカにまで手引きしたのか、知ってるわよね?
    これでやっと──私たちは無にかえるのよ」
     
     
    知っている。
    でも、まさか、貴女が。
     
    「貴女は──サイレンススズカだったんだ」
     
    まったく同じ存在だとは、知らなかった。

  • 173Finish Episode22/02/10(木) 19:22:54

    始まりの刻。私がアメイジングセイレーンワンダーライドブックを開いた、あの時。
    もう一人の、物語を進める、怨嗟と罪を果たす役目を請け負ってしまった『私』が生まれた。
     
    おそらくその改竄能力は記憶を消すに留まらない。
    過去や、悲しみや、自分の名前や存在さえも。
    上手く書き換えて、日本で活動していたに違いない。
     
     
    「……私たちは、みんなが悲しみを乗り越えることを確信して、自分たちもまた想いを抱いて前に進まなければならないわ」
     
    「何を言うかと思えば。自分の罪を放り出すだけじゃなく、みんなに悲しみを背負わせようだなん──えぇ……
    どうして笑ってるのよ……ウソでしょ……」
     
    「ふふ……ああ、ゴメンね。本当に私って頑固で、そのくせ単純で分かりやすいんだなって。
    あなたこそ──そんなに悲しそうな顔してちゃ、説得力はないわよ」
     
    「…………」

  • 174Finish Episode22/02/10(木) 19:23:17

    自分はいなくなり、新しく名も無きウマ娘として学園で過ごしていた。
    その中で新しい関係も築き、かつての友達と接する機会は数多くあっただろう。
     
    目的を果たすために仮面を被った、偽りの時間だったとしても。
    そこで生まれた想いは本物で。
    そして、みんな私の時代が終わっても、独りで前を向き、みんなで共にまた進んでいる様を目の当たりにしてるはず。
     
    きっと目の前の自分も、とっくに気付いてるからこんなにも──
     
     
    「……邪魔をするなら、あなたから消えてね。何をどうしようと、私の罪は決して消えない……」
    《アメイジングセイレーン!》
     
     
    「うん、そうよね。私も言葉で説明するのって、割と苦手な方だったわ。
    だから──今から私の想いを受けてね」
     
    《──エックスソードマン!》
     

  • 175Finish Episode22/02/10(木) 19:23:39

    かつての、今はもう顔も思い出せないのに、誰かに何気なく言われた言葉が浮かんでいた。
     
     
    『お前は彼女らにとって超えなければその先へはいけないような壁───』
    『目指すべき道しるべであり、ひた走る道の先にある、超えるべき輝きだ』
     
    今ならわかる。私はただ運命なんて気にせず、走り続ければいい。
    多くのヒトは希望を感じ、たくさんの娘が道しるべにしてくれる。
    その想いに感謝してずっと忘れずに、されど自分のため進むから。
     
    想いを繋げて未来で待ってる──“光”になってみせるわ。
     
     
     
     最光!発光! 
     ──エピソード1!

  • 176Finish Episode22/02/10(木) 19:24:06

    『みんながくれたものを、ぜんぶ未来に繋いでみせるから
    あなたたちは、自分の速さで、前を向いてね』
    『──“自分が未来に想いを持っていくから、安心してくれ”ってな』
     
     
    「──っ、またっ! 何なの、さっきから……。
    剣がぶつかる度に、何かが……想いが、流れ込んでくる!」
     
    「私も、感じるわ。
    やっぱり貴女が過ごした日々も無駄じゃなかったのね」
     
    剣戟と聞こえは物騒だが、聖剣のぶつかり合いにおいてはそんな範疇にない。
    想いを交わし、共に前を向いて進むためのコミュニケーションだ。
    この数年、決して偽りに収まらなかった鮮やかな想いが、互いの中に染み渡っていく。
    否応にも、伝えたいことは分かってしまっただろう。
     

    「……わかってく──いや、思い出してくれた?
    私たちの、果たすべき想いを」
     
    「……、……──」《──神獣無双斬り!》

  • 177Finish Episode22/02/10(木) 19:24:53

    幾年に渡り積み上げた想いは嘘ではないが、自責自罰の念もまた真実。
    目を逸らすことなく、真正面から、包み込むように。
     
    《月闇居合……!》《Finish Reading!》
     
     
    「私たちはここまで背中を押してくれたみんなが前を向けるよう、今度は光となって背中を押すの。
    ──ゆるして、あげるのよ」
     
    「はあぁ───え?」
     
    悲しみ絶望しても、そこまでの道のりと思い出は無駄じゃなかった。
    きっとこれから互いに、夢はカタチを変えるけど。
    みんながくれたものを持って、今度は私が、きっと未来で待っているから。
     
     
     読後一閃! サイコーカラフル!
     
     
    「あなたも自分と、みんなが、今は悲しみを抱くことをゆるしてあげて」
     
    「──っ!」
     
    「いつか、自分の速さで、前を見て進めるから。
    育んできた色んなものは、ぜんぶ無駄じゃないから、ね?」
     
     
    光に至った少女は、誰もが想う美しい世界を、今ここに証明した。

  • 178Finish Episode22/02/10(木) 19:26:03

    いつの間にか二人は、はじまりの、星が揺蕩う静かな世界を見ていた。
    エックスソードマンの想像力を攻勢に昇華する力が、景色をより彩らせる。
    純白の本が、結末を迎えて煌めいていた。
     
    覆う仮面もなくなって、目指す場所もおんなじなのだろう。
    どちらからともなく、差し出された手を合わせてみた。
     
     
     
    「あなたたちばかりが、悲しんで、苦しむ必要はない」
     
    「でも、その孤独は慰めで消えるものじゃない」
     
    「運命で宿命だったかもしれない、だからこそ“もしも”と、罪を感じてしまう」
     
     
    「あなたたちは優しいから、笑ってごまかすけれど」
     
    「無理に笑う必要なんてない」
     
    「心のまま生きてほしい」
     
     
    「誰も、絶望してでも、ゆっくり歩いていくから」
     
    「私も、みんながくれたもの全部、未来に繋ぐから」
     
    「いつか、新しい光を見つけられる」

  • 179Finish Episode22/02/10(木) 19:26:20

    「だから」
     
     
    離れていて、だからこそ、静かな輝きは鮮明になる。
     
     
    「きっと」
     
     
    孤独に耐えるとき、いつでも背中を押してくれた光が。
     
     
     
    「未来で きっと 待ってるから」
     
     
    想いを繋ぐ『星』となって───
     

  • 180Finish Episode22/02/10(木) 19:26:38

     
     
     
     
     
    ──そこにはただ、闇があった。
     
     
    「…………あ──」
     
     
    否、闇“だった”だけだ。
     
    そもそも優しい光と安らぎの闇が、恐ろしいなんてことはない。
    だから、孤独や虚無も、未来への布石なんだよ。
     
    そんな声を、伸ばした手を握ってきた、誰かから聞いた。
     
     
    「…………?」
     
     
    いつの間にか漆黒の剣は消え、幻聴にも思えた音は消え。
    弾け飛んだ歯車を寄せ集め、ネジを巻き続ける日々は終わり。
     
    新しい星の息吹だけが、静かに産声を上げていた。
     

  • 181Finish Episode22/02/10(木) 19:27:07

    ──2022年。
     
     
    「ユーリもしかして飛羽真が帰ってくるまでずっとそれ読んでたの!? なんか復活した時ものんきに持ってたし……
    よく飽きないねぇアンタも……あれっ?」
     
    「どうしたの芽依ちゃん指さして……ん?
    ユーリ、このコミックどこで手に入れたの!?
    色々あって未公開になった、『ソードXマン劇場版』に付くはずだった限定短編じゃん!」
     
     
    本業は小説家だが、本屋も経営してる飛羽真にとって、子供たちに紹介したい本はたくさんある。
    その中の1つだった限定コミックを、なぜかユーリが我が物顔で読みふけっているのだから詰め寄りたくもなる。
     
     
    「どこでって……どこだろうな? まったくわからん」
     
    「ええ~……。……流通経路がわかったら、翻訳家を目指したいって言いだした賢人にも紹介したかったけど。ユーリのものらしいし仕方ないな」
     
    「飛羽真も謙虚だね~。……やっぱり、新しいワンダーワールドが生まれた影響なのかな?」
     
     
    2人の会話を聞き流し、なおもユーリはコミックを読んでいる。
    この本に触れていると、何だか静かなのに、力強い輝きを感じることが出来るのだ。
     
    まるで、何でもないけど、親しみやすい、身近だけど、かけがえのない、大切な関係。
    それを、思い起こしてくれる気がするから。
     
    「───やっぱり最高だな!」

  • 182Finish Episode22/02/10(木) 19:27:29

    ──████年、12月25日。
     
     
    「───え?」
     
     
    今年は実家に戻る余裕も無く、年末の物理的に重なった仕事を片付けていた。
    チームを結成して以来、取材対応も多くなり、本来なら既に済ませているはずのデータ分析や資料作成などが押し寄せている。
     
    今は忙殺寸前だった状態から脱するため、外の空気を吸いに出ていた。
    ついでに切らしてしまった栄養ドリンクと、“ケーキ”に合いそうなコーヒーを自販機で購入して戻ってきたところだった。
     
     
    「これって……」
     
    どれだけ忙しくても、毎年手作りしている2人分のブッシュ=ド=ノエル。
    ちょうど、休憩も兼ねてこれから食べようと用意していて。
    今年も独りで、全部いただくつもりだったのだが。
     
     

  • 183Finish Episode22/02/10(木) 19:30:13

    「……こんな、ことが──いや。
    切り株、上手く出来るになっただろ───」
     
    イチゴがたくさんのった1切れは、綺麗に食べられてしまっていた。
     
     
    「じゃあ、俺もいただきます…………なんか、いつもより
    甘くて……ほろ苦いや───あっ」
     
    その代わりの、クリスマスプレゼントなのだろうか。
    包装された純白のミニチュアブックとスノードームが、ちょこんと置かれていたのに気付いた。
     
     
    「……ありがとう。メリークリスマス……───。」
     
    ふと、窓から夜空を見上げてみる。
    さっき夜風に当たった時は、何も感じなかったのに。
     
    今は1つの小さな『星』が、静かに微笑んでいるような気がした。
     
     
    "誘罪のサイレント・ワールド"──






        
    ──"友愛のサイレント・スター"   fin.

  • 184■■■書22/02/10(木) 19:31:20

    ユーリ×スズカ友達+サイレンススズカが変身するならこの3ライダー!概念はこれにて完結。
    スズカさんにはカリバーやファルシオン、最光が似合うことを片隅に置いていただければ幸いです。
     
    以下、完走した感想など。
     
     

    ……長すぎましたね時間と文字数が!
    でも初めて連載みたいなの書いたんでちゃんと完結出来て良かった!
    でもタイトルは早く決めたかった…
     
    このお話はスズカさんのキャラソンを聞いて思い付いたのですが、肝心のストーリーが固まっていませんでした。
    そこにセイバーVシネのもの凄い幻想的な世界観をぶち込まれてどんどん沸いてきた感じです。
     
    書いたのはキャラソンの歌詞とVシネの解釈を自分の中で整理するためでもあります。
    次はキャラソンを聴きながら見てみてください!

  • 185■■■書22/02/10(木) 19:31:46


    今作ではユーリ以外普通にウマ娘世界に聖剣があったわけですが、これは自分の中にあるウマ娘世界に■■■書が持ち込まれた場合の世界観にのっとっております
     
    つまり、続きものになる可能性が1ミクロンくらいあるんですが、

    ・マチタン、デザストの弟子になる概念
    ・イクノ、マックイーンとの逃走劇の最中雷鳴剣拾う概念
    ・倫太郎、マスターロゴスになったBADENDの末ウマ娘世界に流れ着く概念

    などまったく像を結ばないものが散乱してますね…

  • 186■■■書22/02/10(木) 19:32:42

    登場人物
     
    ・ユーリ/仮面ライダー最光、カリバー
    ウマ娘の世界に呼ばれた剣士にして仮面ライダー。そして、スズカの信じられる友の1人になった。
     
    過去から生き続ける存在で、信念と根は変わらない自分が世界に触れ続けていいのか考えたりもしたが、
    みんなの想いを未来に繋ぐ剛柔な自分でいいのだと肯定され、友を守ることで世界に繋ぐ戦いを果たした。
    復活した時から、何で持っているのか自分でも分からないが、ソードXマン劇場限定短編を大事に読んでいる。
     
     
    ・サイレンススズカ/仮面ライダーファルシオン、最光、カリバー
    今作の主人公にして黒幕。
     
    自分のせいで続く悲しみを断ち切るため、自分が存在したこと自体を無にかえそうとした。
    しかし、たった3日間だが、新しい友人と過ごして大切なことを思い出した。
    記憶を取り戻した後にユーリと敵対するも、正負の想いはすべて無駄にならないと悟り、未来に繋いでいくことを決める。
     
    今作はVシネを踏襲した、アメイジングセイレーンの中で織り成された物語ですが(最後ら辺の場面は違う)、彼女の駆ける未来がどこなのか、自由に解釈してもらいたいです。
     
     
     
    ・アメリカのトレーナー/仮面ライダーファルシオン
    卑屈なくせに騒がしい。
     
    元々はスズカの熱狂的なファン兼新人トレーナーだったが、(セイレーンの物語の中の)日本でスズカと出会ってから、彼女が二度と壊れないように、レースの世界から退かせようと画策した。
     
    最終的に彼女のアイデンティティを奪うことに苦悩していたが、ユーリに諭されて改心。
    というより、元々周りに味方がいなくて追い詰められていたので荒んでいたが、持ち直した。
     
    アメイジングセイレーンが終わった後、彼女はアメリカで栗毛の少女のトレーナーと、今度は共に絆を育んで歩んでいるのか、はたまた。

  • 187■■■書22/02/10(木) 19:33:08

    つづき
     
    ・『協力者』/仮面ライダーファルシオン
    アメイジングセイレーンを開いて誕生した、もう1人のスズカ。
    自分の存在を書き換えて、日本のトレセンで活動を続けていた(Episode1で日本のファンやタキオン、女帝やスペの記憶を改竄したのはこの人)。
     
    また、アメリカのスズカのトレーナーに複製ブックを送った(実はLINE再現画面のアイコンが思い出のスノードーム、送信時間を変換すると『アイム スズカ』など、誰得な伏線があった)
     
    だが、この人はVシネの間宮みたいなポジションで、
    偽りの関係を元トレーナーや友達と育んでいく中、いつの間にか本当の想いをたくさん重ねてしまったことで逡巡(アメリカより比較的楽そうな記憶改竄に同程度の時間がかかっていたのはこのため)
     
    結局、残りはトレーナーだけという所でスズカに諭されて、在るべき場所に収まった。
     
     
    ・日本のトレーナー
    きっと未来でもサイレンススズカと共にいるトレーナー。

  • 188■■■書22/02/10(木) 19:35:24

    各話へ飛べる安価

    完結したから!見て!ください!

    あと語り継いで!(強欲)


    >>2 Episode1

    >>20 Episode2

    >>43 Episode3

    >>69 Episode4

    >>95 Episode5

    >>127 Episode6

    >>156 Finish Episode

  • 1899022/02/10(木) 19:57:43

    完結しとる…!
    Vシネみたいに最後にかけてだんだん不思議な世界観になっていくのがすごかったです(精一杯の語彙)
    どっかでユーリがVシネの3人のテーマ全部背負えるって書いてた気がするけどマジで滅茶苦茶動いてたな…

    二刀流しまくったスズカさんとか戦闘場面も映像で観たくなりましたね
    壮大な作品をありがとうございます!

  • 190二次元好きの匿名さん22/02/10(木) 21:25:49

    Silent Starをベースにしてるってことはこのスズカさんは・・・
    でも救いがない訳じゃなくて今度こそアメリカに行った可能性もちゃんと残されててよかった・・・

  • 191二次元好きの匿名さん22/02/10(木) 21:36:07

    >>190

    あそっか…最終話見たのにこれ見てやっと気付いた…


    知らない必殺技がいっぱいだ!とか虚無と月闇の二刀流でキャッキャしてたのが恥ずかしいぜ…

  • 192二次元好きの匿名さん22/02/10(木) 21:42:01

    >>191

    あと多分最後の場面クリスマスイベのケーキ2人分何年も作ってるんだよ・・・

    何ならスノードームってお出かけイベで手に入れるやつだし・・・


    ユーリスズカ熱い!スズカ最光と月闇似合ってる!してたらトレスズで追加の殴り入れられたんだよ私たち・・・

  • 193二次元好きの匿名さん22/02/10(木) 23:32:04

    とても良かった 他のウマ娘とユーリのも見たいなぁ〜て思った

  • 194二次元好きの匿名さん22/02/11(金) 07:05:45

    なんで7話なんだろと思ったらちょうどレス使い切るぐらいびっしりですご
    カリバーもファルシオンも女性が使ってたからスズカにも合ってたしすこ

  • 195■■■書22/02/11(金) 07:14:54
  • 1969022/02/11(金) 07:36:25

    >>195

    あなただったのか…

    育成ストーリーで言われたスズカは光になれる→最光に変身の文脈がえもかったです…(感涙)


    たった3日間の物語もセイレーンをトレーナーが持ってるから無駄じゃなかったんですよね…

  • 197二次元好きの匿名さん22/02/11(金) 14:45:01

    仮面ライダーセイバー×ウマ娘好き

  • 198二次元好きの匿名さん22/02/11(金) 17:36:29

    ユーリとススズが似た者だけどあくまで剣士とウマ娘だからそれぞれの未来に進んでいける
    2人が友だちになったから自分の信念をより強く持てたって落とし所がクロスオーバーものとして100点満点だった

    あと日常シーンのソードXマンとアメリカのレースが見たくなっちゃった
    片方は超全集かなんかに乗ってるらしいけどな〜

  • 199二次元好きの匿名さん22/02/11(金) 17:39:45

    セイバーは魂を救う者の物語だから、救われない運命の物語と相性がいい。

  • 200二次元好きの匿名さん22/02/11(金) 17:40:30

    ユーリのキャラは難しいけど結構何でもこなせるよね

オススメ

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