不思議の国のカレンチャン【怪文書】

  • 1 流石に詩の部分は無理だった21/09/06(月) 21:00:02

    カレンチャンはこのごろ微妙に迷走しています。公園の椅子にのんびりと座り、ぼーっとおそらを見つめていました。
    ちらちらカワイイが頭の中を掠めるも、最近カワイイを見失ってる気がします。「ならカレンのカワイイって何、」とカレンは思う。「お兄ちゃんをうまぴょいさせられないなんて。」

    カレンチャンは負けず嫌いです。
    カレンチャンはお兄ちゃんに耐えきれなくなって欲しいのですが、心のどこかでお兄ちゃんは耐えるだろうとも思っていますし、お兄ちゃんはカレンチャンがお兄ちゃんは耐えると思っているのですから耐えていますし、カレンチャンはお兄ちゃんがカレンチャンはお兄ちゃんが耐えると思っているために耐えているからこそ耐えきれなくなって欲しいのでした。
    難儀ですね。

    だからそんな風に物思いにふけるばかりです(といってもそれなり、なぜなら日ざしでぽかぽかだとぼんやりねむくなってくるのですから)。あ、枝毛…と髪をいじりながら、己のカワイイを見つめ直していました。
    そもそもうまぴょいさせるって言葉が既にカワイイからちょっと外れてるのではないでしょうか──そこへふと、いきなり赤い目のアドマイヤベガが一人、そばをかけ抜けました。

    それだけならまあたぶんおそらくそこまで目を引くことでもありませんでした。カレンチャンにしてもアヤベさんかあ…とぼけーっと見ていました。
    しかし、アドマイヤベガが「いっけなーい、ちこく、ちこく!」と言い出すと、カレンチャンは流石におかしいと思いました。マルゼンさんじゃあるまいし。

    そしてアドマイヤベガが懐中時計をとりだしてそれを眺め、また大慌てでかけ出した時、カレンチャンも立ち上がりました。アヤベさんから生えてる耳がウサ耳になってる、というのに気が付いたからです。

    カレンチャンはアドマイヤベガの後を追いかけて公園を横切り、それがしげみの下の、大きなうさぎの穴にぴょんと飛び込むのをなんとか見つけました。
    明らかにサイズ感がおかしかったので、カレンチャンはそのウサギの穴を慎重に覗き込みました。穴の中は真っ暗で、どこまで続いているのかさっぱりわかりません。

  • 2二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 21:00:28

    そうして穴を見つめていると、なぜか吸い込まれるような感覚がして、「マーベラス☆」という声が聞こえる中、カレンチャンは穴の中に飛び込んでしまいました。

    その深い深い穴をカレンチャンは転がり落ちていきます。
    いったいどこまで落ちるのか…「このまま地球を突き抜けて、香港あたりまでいってしまわないだろうか、そしたらカワイイを届けないと。」ちょっと思考が止まりそうになったあたりで、ようやくカレンチャンは穴から転がり出ました。

    頭上の穴は真っ暗で、日の光は見えません。それでも不思議と明るい空間には、また長い通路があって、アドマイヤベガがその通路をあわてて走っていくのが見えました。
    追いかけるカレンチャンでしたが、アドマイヤベガは通路の奥の扉に入り込むと、ばたんっと扉を閉めてしまいます。

    その通路には扉はいっぱいでしたが、どれも鍵がかかっています。カレンチャンは通路の片側を左から順に辿って、一つ一つ扉を確かめましたが、みんな開きませんでした。
    カレンチャンは途方にくれていると、いきなり、小さな5本足のテーブルにでくわしました。そのテーブルは全部かたいガラスで出来ていて、小さな金の鍵がのっていました。
    とりあえず金の鍵を試そうとするカレンチャンでしたが、扉はどれも大きかったり小さかったりで鍵が合いません。しかし注意深く探していると、ようやく小さな扉を見つけました。

    カレンチャンが鍵穴に鍵を差し込むと見事にぴったりあてはまり、扉が開いた景色は
    しかし、いかにカレンチャンがカワイイでも流石にこのサイズは通りません。

    どうしたものかと再び通路を見渡すと、テーブルの上に小瓶が置かれているのに気づきました。カレンチャンが瓶を持ち上げて観察すると、そこにはカワイイ字で「飲んで」と書かれています。
    そしてカレンチャンはそっと瓶を置き直しました。常識的に考えてこんなところに置いてある薬をいきなり飲んだりしません。

    どうしたものかとカレンチャンが周囲を再び見渡すと、そこには先ほどまでなかった表札に『薬を飲まないと出られない部屋』と妙にカワイらしい文字で書かれていました。
    カレンチャンは諦めて飲むことにしました。時には流れに身を任せることも大切です。

    カレンチャンが瓶の蓋を開け、一気に飲み干すと視界がぐらぐらと揺れました。

  • 3二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 21:00:41

    そして気が付いたら、カレンチャンは手のひらサイズに縮んでしまいました。カワイイ。
    言ってる場合ではありません。カレンチャンはちょっと焦りましたが、とりあえず体を確認し、どこも光ってないことを確かめました。ひどい風評被害です。

    まあとりあえずこれで扉は通れます。鍵は先ほど開けたままにしていました。
    ちいさなカレンチャンが扉をくぐると、その向こうには森が広がっていました。
    そして所々に、またカワイらしい字で、「まっすぐ」「みぎに」「ひだりに」といった感じの看板が置かれています。カレンチャンはとりあえず、その看板に従うことにしました。

    森をのそのそと進むカレンチャンはやがて少し広い空間に出ます。
    そこには一つ、いまのカレンチャンと同じくらいの大きさのキノコがあり、その上ではいもむしが紅茶を飲みながらいもむしと化していました。これにはタキトレも猛抗議…猛抗議?

    カレンチャンがそのいもむしに近づくと、いもむしは紅茶を置いて体を起き上げると、めんどうくさそうな、ねむたい声で呼びかけてきました。
    「君はいったい誰だい?」会話の出だしとしては、あんまり気乗りするものではありません。
    カレンチャンは、とりあえず現状を伝えようとしましたが、冷静に考えるとどういう状態なのかさっぱりわかりませんでした。
    「ふむ、黙ったままではわからないんだがねぇ」
    「ごめんなさい、自分でもよくわからないんです」
    「そういう時は、落ち着いて物事を整理するといい。大抵の問題はコーヒーを一杯飲む間に、解決するらしいからねぇ。」

    カレンチャンはそれを聞いて、とりあえず今の問題について考えました。
    いろいろと思い浮かびますが、まず、元の大きさへ戻らないといけません。

    「えっと、いもむしさん、もうちょっと大きくすることはできませんか?」
    「出来るとも」

    カレンチャンは驚いて言いました。
    「出来るんですか?」「もちろん。」
    そう言うと、いもむしはカレンチャンに毒々しい色の小瓶を渡しました。

  • 4二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 21:00:56

    カレンチャンは小瓶を受け取りましたが、流石に飲むのには躊躇しました。

    「これ、飲んだら体が光ったりしないですよね?」
    「しないよ。ちゃんと試したから安心したまえ」
    試したのか。カレンチャンはちょっと困惑しましたが、意を決して薬を飲み干しました。
    するとぐんぐんとカレンチャンは大きくなり、元の大きさへ戻りました。

    「ありがとう、いもむしさん!」
    カレンチャンは足元のいもむしにそう礼を述べました。
    それから、また森を進もうと考え、前を向きます。

    すると、そこには「次はこっち」と書かれた看板を立てている最中の、猫耳生やしたライ…チェシャ猫がいました。
    思いっきり目が合ってしまいました。

    「…に、にゃあ~」
    カレンチャンは、何も見なかったことにしてあげました。


    カレンチャンが大急ぎで設置された看板の誘導に従いながら森を進むと、またも少し広い空間に出ました。
    ぽつんと生えた木の上には、チェシャ猫がにゃあと鳴きながら、頑張ってニヤニヤと笑おうとしています。

    「チェシャ猫さん」と、カレンチャンは声をかけます。チェシャ猫は何か満足そうに笑うだけでした。「それでチェシャ猫さん、お願い、教えてちょうだい? 今度はどこへ行けばいいの?」

    「それは、あにゃたがどこへいきたいかによるにゃあ」と、チェシャ猫は噛みながら答えます。

    …言われてみればどこへいきたいのでしょう。
    カレンチャンが困っていると、チェシャ猫が助け船を出しました。

  • 5二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 21:01:17

    「帽子屋さんに会いにいけばいいよ。きっとあんたの悩みを聞いてくれる…にゃあ」
    「帽子屋さん?」「そう、帽子屋さん。」
    カレンチャンは聞きました。
    「その帽子屋さんはどこにいるの?」「すぐそばに」

    え、とカレンチャンが驚くと、いきなり目の前の木は消えて、後にはひとつのテーブルが、家の真ん前の木陰に置かれています。
    そこでは、アドマイヤベガといもむしに一流、それに帽子屋がお茶会の真っ最中です。その間にはマーベラスサンデーが寝ていて、ひじ掛けと化しています。ついでにチェシャ猫もひっそり参加していました。

    カレンチャンは帽子屋を見ます。フジキセキでした。フジハッタ―です。
    まあ帽子屋枠と言ったらこの人だろうな。カレンチャンは納得しました。

    「僕を呼んだかい? 子猫ちゃん」
    呼んだか呼んでいないかで言えば呼んだ気もします。
    カレンチャンが立ちすくんでいると、フジハッタ―は声をかけました。

    「どうしたんだい? 子猫ちゃん、早く言ってくれ。僕の時間も無限じゃないんだ!」
    「いやまあ、本当は…無限だ。夢だからね。ちょっとしたジョークだよ」
    「ほら、そこにかけて。これは君のためのお茶会だ。はやくはやく!」
    矢継ぎ早にそう喋るフジハッタ―の誘導に従い、カレンチャンは椅子に腰かけます。

    「君には悩みがあるんだろう? だからここに来たんだ。ほら、私に言ってごらん?」
    悩み…悩み。色々あります。この状況もそうです。
    しかしカレンチャンは、今聞かれている悩みは、そういうものではない気がしました。

    「実は最近、カワイイで悩んでいて…」
    カレンチャンが悩みを語り終えると、そうだねぇ…と、フジハッタ―は頬に手をあて、困ったように、それでいて全て見通しているかのように微笑みます。

    「発想を変えてみたらどうだい?」
    カレンチャンの頭に疑問が浮かびます。どういうことでしょう?

  • 6二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 21:01:45

    「君のカワイイは、きっと君だけのものじゃないはずだ。今までそうしてきたように、どこか別の、あるいは誰かの思うカワイイに目を向ければいい。例えば、トレーナー君とかね?」 
    フジハッターはそうやさしく、カレンチャンに言いました。
    なるほど、確かに最近焦りからか、少し視野狭窄になっていたのかもしれません。
    そう感じたカレンチャンは、素直にお礼を述べることにしました。

    「ありがとうございます、マルゼンさん。」
    「いいのよ、こういうのもお姉さんの役…ああ、えっと、迷える子猫を導くのも、寮長としての役目だからね」
    そしてフジハッタ―が指を鳴らすと、カレンチャンの前に大きなドアが現れました。
    フジハッタ―にカレンチャンは別れを告げると、ドアノブに手をかけました。

    「次はこのキングの出番ね!」「ごめんもう維持無理☆」「ふぇ?」

    そんな会話が聞こえたかと思うと、周囲の風景はひび割れたかのようにバラバラになり始め、カレンチャンは下へ下へと落ちていきます。

    「元気でね、子猫ちゃん。今度また会った時は、私の部屋を訪ねてくれ。イチゴのトルテをごちそうしよう。一期一会のトゥルットゥー!」
    「あなたの目覚めが、有意なものでありますように☆」
    「せっかく練習したのにぃ…」

    全ては長い夜の夢です。それでも、カレンチャンは、どこかすっきりとした気分でした。

    気づけば、カレンチャンは公園の椅子の上で目覚めました。あたりはすっかり真っ暗で、空は雲一つない満天の星空です。

  • 7※身長155㎝21/09/06(月) 21:02:17

    そして、ふと何かを感じて目線を上げれば、心配して探していたのかお兄ちゃんがかけよってきています。お兄ちゃんがカレンチャンの傍に立つと、カレンチャンはお兄ちゃんを引っ張り椅子に座らせ、その膝の上に座りました。

    カレンチャンは体をお兄ちゃんに預け、その耳は手招きするように揺れています。
    それから二人でしばらく綺麗な星空を眺めると、カレンチャンはお兄ちゃんに語りだしました。

    「あれがわし座のアルタイルでね、あれがはくちょう座のデネブ、それで、あの一番綺麗な星が……」
    アヤベさんから聞いたんだ~、そう楽しそうに語るカレンチャンの話を、お兄ちゃんはにこにこ微笑みながら、膝を中心に襲いかかる柔らかい感触に鋼の意志で耐えつつ聞いていました。

    やがて一通り語り終えると、カレンチャンは満足したようにほっと息を吐き、また星空をみつめました。
    しかし夢がそうであるように、幸せな時間はいつまでも続かないものです。流石に寮へ戻らなくてはなりません。
    お兄ちゃんもそろそろ限界でした。膝が。
    それでも、カレンチャンはゆっくりと体をお兄ちゃんに向けて、言います。

    「前にも言ったよね、お兄ちゃん」
    お互いの吐息が顔にかかるほど近くで、お兄ちゃんの目を真っ直ぐにみつめ、カレンチャンは宣言します。

    「いつか絶対、お兄ちゃんに『もう耐えきれない』って言わせて見せるからね♪」
    なぜなら、お兄ちゃんを思って自分を抑えるようなカレンチャンではなく──
    ワガママで努力家で負けず嫌いで、欲しいと思ったものは絶対に手に入れる。そんなカレンチャンこそが、お兄ちゃんが信じてくれたカレンチャンなのですから。
    カレンチャンはそのまま、じわじわと体重をかけながらお兄ちゃんを抱きしめ──

    そしてお兄ちゃんは────耐えた。

    カレンチャンは、今日のところはこれで満足だった。

    膝は死んだ。

    うまぴょいうまぴょい

  • 8二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 21:04:24

    知らない人の為の文豪カレンチャン欲張りセット

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  • 9二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 21:05:20

    フジハッターさんが突然マルゼンさんに変身した!

  • 10二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 21:07:54

    薬に関して不安を感じてて草だった
    まあ発光とカワイイが結びつくかと言うと

  • 11二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 21:07:57

    アリスだ!!!アリスはここにいた!!!!

  • 12二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 21:09:29

    困った時はマーベラス☆

  • 13二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 21:10:21

    イイハナシダナー

  • 14二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 21:11:18

    ライ・・・ライアン?

  • 15二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 21:12:04

    ライスシャワーでは?

  • 16二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 21:12:26

    >>15

    そうか

    そういえば前作も出てたね

  • 17二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 21:13:03

    >>16

    ライアンでもそれはそれで推せる

  • 18二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 21:14:16

    薬に対する深刻な風評被害

  • 19二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 21:14:27

    あれがデネブ、アルタイル、ベガ♪

  • 20二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 21:23:27

    マブキセキで草

  • 21二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 21:23:55

    うーん毎回面白い

  • 22二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 21:25:26

    不思議の国っていうかシヴァリング・アイルズに繋がってないこの扉?

  • 23二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 21:33:35

    マーベラス☆の暴れっぷりとキングの不憫さとカレンチャン視点の地の文の軽快さがたまらない

  • 24二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 21:42:15

    お兄ちゃんは──耐えた
    お兄ちゃんの膝は耐えきれなかった

    この後責任感じたカレンチャンがお姫様抱っこでお兄ちゃんを部屋まで送っていると俺は信じている

  • 25二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 21:43:19

    怪文書かと思ったらSSだった

  • 26二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 21:44:23

    >>25

    元の不思議の国のアリスが怪文書過ぎて今回は怪文書感薄れてる気がするな…

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