SS煮詰まってるから練習に>>10のSS書くわ

  • 1二次元好きの匿名さん22/04/20(水) 22:41:09

    時間かかると思うけどカプでもなんでも

    >>10

  • 2二次元好きの匿名さん22/04/20(水) 22:41:24

    ksk

  • 3二次元好きの匿名さん22/04/20(水) 22:41:34

    スレ主の推し

  • 4二次元好きの匿名さん22/04/20(水) 22:41:51

    アヤベ

  • 5二次元好きの匿名さん22/04/20(水) 22:42:03

    エルとカレンチャン

  • 6二次元好きの匿名さん22/04/20(水) 22:42:06

    キラーアビリティ

  • 7二次元好きの匿名さん22/04/20(水) 22:42:10

    オグリ

  • 8二次元好きの匿名さん22/04/20(水) 22:42:16

    キング

  • 9二次元好きの匿名さん22/04/20(水) 22:42:17

    ゴルシ

  • 10二次元好きの匿名さん22/04/20(水) 22:42:18

    匂いの嗅ぎ合い

  • 11二次元好きの匿名さん22/04/20(水) 22:42:19

    オペラオー

  • 12二次元好きの匿名さん22/04/20(水) 22:42:21

    どて煮になったオグリキャップ

  • 13二次元好きの匿名さん22/04/20(水) 22:42:21

    タイシン

  • 14二次元好きの匿名さん22/04/20(水) 22:42:23

    キングとデジたん

  • 15二次元好きの匿名さん22/04/20(水) 22:42:23

    カレンチャン

  • 16二次元好きの匿名さん22/04/20(水) 22:42:52

    シチュ指定できたか

  • 17スレ主22/04/20(水) 22:43:35

    おもろい奴がきたやんけ…

  • 18二次元好きの匿名さん22/04/20(水) 22:44:41

    煮詰まってるは十分に議論が出来てる結論が出せる状態定期

  • 19二次元好きの匿名さん22/04/20(水) 22:44:46

    匂いの嗅ぎ合いとなるとスレ主の推しカプと技量が分かるいい題材だな…

  • 20二次元好きの匿名さん22/04/20(水) 22:48:38

    キタ吸い…

  • 21スレ主22/04/21(木) 00:15:35

    カツン、と気持ちの良い音をたてながら手球がショットされる。
    キレよく回転がかかった手球は緩やかな弧を描いて的球を弾き飛ばし、ポケットへと吸い込まれるように落ちていった。
    シリウスシンボリはそれを確認するとつまらなそうにビリヤード台に腰かける。

    「つまらねぇな…。」
    「あははは…すんません先輩…相手にならなくて…。」

    キューを持った取り巻きの一人が申し訳なさそうにひきつった笑みを浮かべる。
    その顔を見てシリウスは眉をひそめた。

    「下手なら下手なりに刺激を演出してみろよ、それとも何だ、ご褒美でもないとやる気がでないか?」
    「い、いやいやいやいや!!私が先輩に褒美だなんてそんな、畏れ多いっていうか…。」
    「ふん…まぁいい、私はもう帰る、あとは好きにしろ。」

    そう言いながらシリウスは取り巻きに持っていたキューを渡す。
    その時、ふわりと柑橘系の香りがシリウスの鼻をついた。

    「この匂い…お前か?」
    「えっ…あ、ああ~ちょっと香水つけてみよっかなぁ~なんて思って…チャレンジしてみたんですけど。」

    取り巻きが恥ずかしそうに顔を赤らめ、目を泳がせながら言う。
    そして自身なさげに首を伏せた。

  • 22スレ主22/04/21(木) 00:15:46

    「に、似合ってないですよね!なんか急に…ごめんなさい!」
    「謝るなよ、ちょっとこっちに来い。」
    「えっ、えっ!?先輩!!?」

    シリウスはキューを両手で抱えている取り巻きの襟を無造作に掴むと自身の傍に引き寄せ、取り巻きの首筋に顔を寄せた。
    ふわりと揺れるシリウスの髪が取り巻きの頬に触れ、吐息が微かに首を撫でる。
    あまりに出来事に取り巻きは固まってしまった。
    今起こっている出来事の現実感の無さに、脳の処理が追い付いていないのだ。

    「…悪くない匂いだ、私は嫌いじゃない。」

    すっとシリウスが掴んでいた襟を離し、そう言い残してから顔を離す。
    ほんの数秒の出来事だったが、取り巻きは目の前からシリウスがいなくなっても固まったままその場に立ち尽くし。
    一分ほど経ってからへにゃへにゃとその場にへたり込んだ。
    顔は熟れたイチゴの様に真っ赤に染まり、シリウスの吐息が触れた首筋にそっと触れる。

    「…私…今日死ぬかも…。」

  • 23スレ主22/04/21(木) 00:16:16

    寮に帰ったシリウスはシャワーを浴び、一人参考書を手にデスクに座っていた。
    取り巻きに教えるために要点をノートに纏めておく。
    そうしていると部屋の扉が開いた。
    同室のナカヤマフェスタが帰って来たようだ。
    シリウスは特に挨拶もせず、振り向くこともなくノートにペンを走らせる。
    フェスタの帰宅が遅いことなど今日に限ったことではない。
    フェスタもそれを気にしていないどころか、むしろ気楽だといった様子で着ていたスカジャンをベッドに投げ捨てる。
    そして無遠慮にシリウスの手元を覗き込んだ。

    「よぉ、相変わらず真面目だな…シリウス。」
    「帰って早々嫌味とは…いい趣味してるじゃねえか、ナカヤマ。」
    「ククッ、まぁそう言うなよ。」

    互いに皮肉めいた笑みを浮かべる。
    そのとき、シリウスはふとフェスタから香ってくる香りに気づいた。

    「…この香り…あんたか、ナカヤマ?」
    「香り?今日は別に臭いのキツイもんなんか食った記憶はねえが。」
    「…スミレ、だな。」

    シリウスの言葉にフェスタの耳が微かに反応した。
    それに気づいたシリウスが笑みを強める。

    「…なんだ、あんたにも可愛いところがあるんだな、ナカヤマ。」
    「別に…ちょっとした手慰み程度に土を弄る程度さ。」
    「ちょっとした…ねぇ。」

    笑みを浮かべたまま、シリウスが椅子から立ち上がる。
    そして取り巻きにしたように無造作に襟を引き、首筋に顔を近づけた。
    首筋からも、甘さを感じるスミレの香りがハッキリと鼻をくすぐる。

  • 24スレ主22/04/21(木) 00:16:36

    「その割には、随分と香りが染みついてるみたいだが?」
    「…。」

    シリウスが耳元でそっと囁く。
    ふわりと揺れる髪がそっとフェスタの頬を撫でた。

    「安心しろ別にどうこうする気じゃない、ルームメイトの可愛い趣味を知って悦に浸りたいだけだ。」
    「…いい趣味してるな、シリウス。」
    「そうかい?」
    「ああ、アンタの髪も、随分い匂いがする。」
    「…なに?」

    ククク、とフェスタの笑い声が静かに響き、シリウスの顔から笑みが消えた。
    そしてフェスタもまた無造作にシリウスの長い髪を一房つまむと、そっと鼻先へ運ぶ。

    「いい匂いだな…しかもこれは…傑作だな、アカシアの香りだ。」
    「…それがどうした?」
    「教えてやろうか、アカシアの花言葉。」

    フェスタが悪戯っぽい笑みを浮かべ、シリウスの返答も待たずに答えを述べる。
    答えを聞いたシリウスの顔は微かに歪み、掴んでいた襟を離して軽く押しやった。

    「何が言いたいんだ、ナカヤマ?」
    「いや、花言葉も含めて、アンタに似合ってるなと思っただけさ。」
    「偶然だ、こんなもん…。」
    「ククク…分かってるよ、いや…だからこそアンタに似合いだとおもったのさ。」

  • 25スレ主22/04/21(木) 00:16:52

    シリウスの顔が険しくなる。
    一方フェスタはおどけたように肩をすくめて笑ってみせると、サッと背を向けた。

    「今は勝負の時間じゃない…怒らせる前にシャワーでも浴びてくるとするよ。」
    「ああ、ゆっくりと浴びてきな…その間に花言葉の勉強でもしといてやる。」
    「そいつは重畳。」

    そう言い残してフェスタは風呂場へと入っていった。
    それを確認すると、シリウスの顔に微かに笑みが浮かぶ。
    してやられた、そう思いながらも嫌な気分ばかりではないらしい。

    「…悪い刺激じゃあなかったぜ、ナカヤマ。」



    アカシアの花言葉は『優雅』『友情』。



    『ククク、アンタの身近な誰かさんを思いださないか?』



    「優雅ね…そんなもんじゃないさ、あの皇帝サマは…いや、アイツを連想した時点で私の負けか…。」


    「今度ジュースくらい奢ってやるか…炭酸入りのな。」

  • 26スレ主22/04/21(木) 00:17:33

    終わり!1時間半もかけて正直すまんかった!
    人いそうならもう一本くらい書く!!

  • 27二次元好きの匿名さん22/04/21(木) 00:18:43

    思ってたよりも凄いのがきた…

  • 28スレ主22/04/21(木) 00:26:20

    (あかん…時間かけすぎたな…)

  • 29スレ主22/04/21(木) 00:27:08

    とりあえず>>35に安価置いておきます

  • 30二次元好きの匿名さん22/04/21(木) 00:27:14

    これリクエストトレウマとかでもいいのん?

  • 31二次元好きの匿名さん22/04/21(木) 00:27:53

    ksk

  • 32二次元好きの匿名さん22/04/21(木) 00:28:11

    夜更かしした甲斐があるな

  • 33スレ主22/04/21(木) 00:28:39

    >>30

    持ってないウマ娘の場合トレのエミュが上手くできないかもしれんけど…

  • 34二次元好きの匿名さん22/04/21(木) 00:29:01

    トレーナー×ウオッカ

  • 35二次元好きの匿名さん22/04/21(木) 00:29:08

    サトノマックイーン

  • 36スレ主22/04/21(木) 00:29:31

    安価ありがとう、把握した

  • 37二次元好きの匿名さん22/04/21(木) 00:31:04

    こういう長文書く時ってどんな感じで書いてるの?なんかアプリとかあるの?

  • 38スレ主22/04/21(木) 00:32:47

    >>37

    伝家の宝刀メモ帳

    もっと多く書くときはPCのサクラエディタかな

  • 39二次元好きの匿名さん22/04/21(木) 00:36:10

    1時間半でこれ書けるのすごいわ
    めっちゃ良かったです

  • 40二次元好きの匿名さん22/04/21(木) 00:38:43

    >>38

    ありがとう!!!

    直書きしかせんから一回全消えして泣いた

  • 41スレ主22/04/21(木) 03:36:25

    緑の文字が描かれた、レトロな雰囲気が漂うとある飲食店。
    その前にメジロマックイーンとサトノダイヤモンドはいた。
    時刻は放課後。
    マックイーンは少し緊張した面持ちで、一方ダイヤはわくわくしたように顔を綻ばせている。
    その横顔を見たマックイーンは胸に手をやり、小さく深呼吸した。

    (大丈夫…ここには一度来たことがありますもの…。)

    そんなことを思いながら、ここまでに至る経緯をマックイーン思い出していた。
    ステイヤーとしての素質があるダイヤをマックイーンは気にかけており、今日も付きっ切りで練習に付き合いくたくたになっていた。
    そんなこともあり、今日はロッカーで二人きり。
    着替えをしてる最中にダイヤがふと思い出したかのように言った。

    「そうだ、マックイーンさんに聞きたいことがあったんですけど。」
    「あら、どうしましたの。」
    「マックイーンさんはハンバーガー屋さんに行ったことがありますか?」
    「ハンバーガー屋さん、ですか?」

    マックイーンが首を傾げると、ダイヤは大きくうなずいた。

    「そうです!私お恥ずかしい話なんですけど…一度も行ったことがなくて…。」
    「恥ずかしいだなんて、そんなことありませんわ、私だって行くようになったのは最近ですし──」

    マックイーンもハンバーガーショップや牛丼屋に時折足を運ぶようになったのはトレセンに入学してからだ。
    それは友人たちのおかげであったり、いつもちょっかいをかけてくる自身と同じ葦毛の誰かさんのせいでもある。
    しかしマックイーンの言葉を聞いてダイヤは目を輝かせた。

  • 42スレ主22/04/21(木) 03:36:43

    「やっぱり、マックイーンさんは行ったことがあるんですね!」
    「え、ええ…と言ってもたまにですが…。」
    「だったらマックイーンさん!私を一度連れて行ってくれませんか!」
    「え…えぇ!?私がですか!?」
    「はい!マックイーンさんにお願いしたいんです!」

    澄んだ瞳でそう言われ、マックイーンは断ることができなかった。
    そうしてマックイーンとダイヤはハンバーガーショップにやって来たのである。
    そしてマックイーンがチョイスした店は──

    (どのハンバーガーショップにしようか迷いましたわ…しかしここは少しばかり高級志向の…!)

    「サトノさん、こちらが私のおススメするハンバーガーショップ…"フレッシュネスバーガー"ですわ!」
    「わぁ~なんだかレトロな雰囲気があって…可愛いお店ですね。」

    フレッシュネスバーガー。
    街中でよく見かけるマクドナルドやモスバーガーに比べてやや高級志向な面も相まって店舗数は少ない。
    しかし値段相応にメニューは美味しく、店も綺麗に整えられている。
    さらに最近は禁煙化が進んだことで、非喫煙者が入りやすくなっている。
    得意げにそう語っていたゴールドシップのことを思いだしつつ、二人は店内に入った。

  • 43スレ主22/04/21(木) 03:37:06

    「サトノさん、まずはカウンターで注文をしますの、席に座るのはそれからですわ。」
    「そ、そうなんですね…てっきり店員さんが来てくださるのかと」
    「ふふ、最初はそうなりますわよね、では行きましょうか。」

    二人でカウンターへと向かう。
    そしてメニューを二人で覗き見ていたが、ダイヤはメニューの豊富さにどれを選べばよいか分からないらしく、首を傾げていた。
    それに気づいたメジロマックイーンが微かに顔をしかめる。

    (ま、マズいですわ…私がここに来たのは一度…しかもその時に頼んだものはあろうことかガトーショコラとチャイティー…!)

    ハンバーガーショップに来たというのに、頼んだのはデザートセットのみであったことを思い出したのだ。

    (どのハンバーガーを薦めればよいか…ぜんっぜん分かりませんわ!!)

    そんなことを思うマックイーンの雰囲気から何かを読み取ったのだろうか、ダイヤが少し不安そうな顔を向ける。

    「あの…マックイーンさん、どうかされたのでしょうか…?」
    「だ、大丈夫ですわ!注文するものは…その…」

    マックイーンの顔が微かに青ざめる。
    しかし脳裏に前回来店した時の記憶が浮かび上がった。

  • 44スレ主22/04/21(木) 03:37:39

    『おいおいマックちゃんよぉ~いつまでメニューとにらめっこしてんだい?』
    『し、仕方ないじゃありませんか!ここに来たのは初めてですのよ!』
    『んなもん関係ねぇ!フィーリングだフィーリング!ほらほらマックちゃん…メニューの声を聞くんだ…。』
    『め、メニューの声?』
    『ああ…耳を澄ませるんだ…メニューの声を…マックイーン…俺は美味いぜって声が聞こえてくるだろう?』
    『そ、そんなことあるわけ──はっ……これは…ガトーショコラ…!?聞こえましたわ!!メニューの声が!!』
    『(え、マジで聞こえたの…やっぱマックちゃんはおもしれーなぁ。)』

    「……ふふ。」

    ついついマックイーンは笑ってしまった。
    突如笑い出したマックイーンにダイヤが不思議そうな表情を浮かべる。

    「あの…マックイーンさん?」
    「すみません、以前来た時のことを思いだしてしまって。」

    柔らかい笑みを浮かべ、マックイーンはダイヤの方を見た。

    「実は私、以前ここに来た時に食べたのはガトーショコラだけだったんですの。」
    「えっ、ハンバーガー屋さんに来たのに…ですか?」
    「ええ、ですから自分の気になったものをご自由に選んでください、そう、フィーリングですわ。」

    マックイーンは少しばかり得意げに胸を張りながら言うと、改めてメニューを見てサッと注文を告げる。

    「チーズドックとベイクドチーズケーキのセット…飲み物はチャイティーのホットでお願いしますわ。」

    今日は練習後、ケーキのみではなく小腹を見たしたい気分だった。
    そこでチーズがたっぷりかかったホットドッグの写真を見て食べたくなった、シンプルにそう思い注文した。
    だがその姿を見てダイヤも気が晴れたのか、メニューを一瞥しただけで注文を決める。

  • 45スレ主22/04/21(木) 03:37:59

    「私は…クラシックチーズバーガーとイチゴとラズベリーのケーキのセットで、飲み物はジンジャーエールでお願いします。」

    店員が注文を聞き、会計を始める。
    もちろんこの店は先払いだ、マックイーンはともかくダイヤはそのことに改めて気づき、慌てて財布を取り出そうとするがマックイーンがそれを制する。

    「サトノさん、お会計は私が。」
    「えっ、そんな…こうしてご案内してくださってる立場ですのに…」
    「ここは先輩の顔を立ててくださいまし、それに、こういう先輩らしいことやってみたかったんですの。」

    顔を綻ばせながらそう言うマックイーンを見て、ダイヤはそれ以上遠慮はしなかった。
    あまりにもその顔が楽し気であったからだ。

    「ありがとうございます、マックイーンさん…いや、マックイーン先輩っ!」
    「ふふ…どういたしまして。」

    そう言って普段ならカードで会計を済ませるところだが、あえて現金で手早く会計を済ませる。
    キャッシュレス化が進んでる昨今、フレッシュネスバーガーも勿論カード払いに対応しているがあえて普通に現金払いですませたい気分になったのだ。
    二人は店員から番号札を受け取り、空いているテーブル席に着いた。
    店内はアーリーアメリカン──数世紀程前のアメリカの雰囲気を基にした、木材のインテリアが特徴的な内装になっている。
    壁にはコミカルな雰囲気がある絵画のコピーが飾られており、暖かな雰囲気を演出している。

    「すごくお洒落な雰囲気なんですね…あの絵も可愛らしくて素敵です。」
    「ノーマン・ロックウェルですわね、とても可愛らしい絵画を描くお方なんですわよ。」
    「マックイーンさん…物知りなんですね、流石です。」

    尊敬の目を向けるダイヤに対し、マックイーンは内心でゴールドシップさんの受け売りですけど、と付け加える。
    そうこう会話しているうちに注文したメニューが届いた。

  • 46スレ主22/04/21(木) 03:38:33

    マックイーンの前には写真の通りたっぷりのチーズが乗っかっているチーズドッグ。
    甘い香りを漂わせるガトーショコラに、スパイシーな香りが放つチャイティー。
    ダイヤの前にはバンズから少しはみ出る程大きなパティ、輪切りになった玉ねぎとトマト、タップリのレタスにチーズが挟まったクラシックチーズバーガー。
    そして甘酸っぱい香り漂うベリーのケーキに、ジンジャーの風味が香りだけで伝わるジンジャーエール。

    「それではいただきましょう…と、その前に、これを使いますわ!」
    「それは…ケチャップとマスタード?」
    「ええ、自由に使って構わないものですから、自分好みに味付けすることができるんですの。」

    得意満面にマックイーンが言う。
    これも勿論ゴールドシッ(ry
    ちなみにゴールドシップは大量のマスタードをハンバーガーに挟んでいた。
    マックイーンはそんなことまで真似するはずもなく、ほどほどにケチャップをかけるだけに留める。
    ダイヤもケチャップとマスタードを軽く挟む程度に留めた。

    「では、いただきます。」
    「いただきます…!」

    少しばかり緊張した様子でダイヤが手を合わせながら言った。
    そしてチーズバーガーを小口で頬張る。

    「………うん、美味しいです!」

    朗らかに笑みを浮かべながらダイヤが言う。
    それを見てマックイーンは内心胸を撫でおろした。

  • 47スレ主22/04/21(木) 03:39:19

    「すごくシンプルだからでしょうか、口の中でそれぞれの素材が喧嘩しないというか…邪魔する味がいなくて…!」
    「ふむ、そうなんですの…私も一口いただいてよろしいでしょうか?」
    「えっ…?」
    「ふふ、ここはそういった固いマナーとは無縁の場所ですから、強いて言えば楽しく食べることがマナーですわね。ですのでサトノさんがよろしければ、ですが。」
    「い、嫌じゃないです!じゃあマックイーンさん…その…どうぞ…!」

    そっとダイヤが差し出して来たチーズバーガーを一口、マックイーンが口にする。
    そしてマックイーンはダイヤの言葉に納得した。
    成程。
    たしかに味付けはほぼケチャップとマスタードのみ、しかしその分こだわっているのであろう素材の味が感じられる。
    レタスと玉ねぎはシャキッとしていて、大きなパティからはしっかりとお肉を食べているという旨味と実感があった。
    そして酸味のあるトマトが口の中を程よく刺激し、濃厚なチーズが挟まれているというのに口の中をもったりとさせずに引き立てている。

    「美味しいですわね…今度来た時は頼んでみましょう。」

    満足げな表情を浮かべるマックイーンに対し、ダイヤはマックイーンが口をつけたチーズバーガーを見ながら僅かに頬を赤面させている。

    「…サトノさん?」
    「あ、いえ、その、なんでもないです…美味しいですよね!」

    なにやら少し慌てた様子でそう言うと何か吹っ切れたように先ほどより大口でチーズバーガーを頬張った。
    やや首を傾げながらも、マックイーンも頼んだチーズドッグを口に運ぶ。
    たっぷりとチーズがのっているがはたして──

    「これは…!」

    口にしてまず感じたのは皮を破った瞬間に肉汁があふれたソーセージの味。
    香ばしい旨味が一気に舌を支配した後、追い討ちの様にチーズの味が合わさってくる。
    異なる二つの濃厚な味わい、しかし肉とチーズ…この鉄板の組み合わせは決して喧嘩をしない。

  • 48スレ主22/04/21(木) 03:39:37

    互いに溶け合う様に混ざり合い、口の中を支配する。
    ほんのりと香辛料の利いたソーセージ。
    肉汁の旨味をより複雑に、深みを与えるチーズ。
    これだけでもなんと協力なタッグ技か。
    しかもそれだけではない──

    (これは…大量の玉ねぎと…ピクルス!?)

    チーズとソーセージの隙間にみじん切りにされた大量の玉ねぎとピクルスが閉じ込められていた。
    先ほどハンバーガーを食べたときに感じたことだが、どうしても濃厚な味だけでは口の中がもったりとしてしまう。
    しかしこのチーズドッグは玉ねぎのシャキシャキした食感とさっぱりした味わい…そしてそれを完璧に引き立てるピクルス。
    玉ねぎが元来持ち合わせている微かな酸味をピクルスが補強し、引き出している。
    そのおかげで口の中が濃厚さで支配されることはなく、絶妙な均衡を保っている。
    嗚呼…。
    マックイーンの脳内に何かが──この味わいを表現するフィーリングが舞い降りて来た。
    口の中で、チーズ&ソーセージのヒールレスラータッグが暴れている。
    そこに颯爽と現れる玉ねぎ&ピクルスのベイビィフェイスタッグ。
    激しく打ち合い、投げ合い、時にはみっちりと寝技の攻防を──。
    私はそんな試合を熱狂しながら見守るたった一人の観客。

    あの…。

    玉ねぎさんが綺麗なジャーマンを…それをチーズさんがカットにはいって、すかさずソーセージさんが──

    「あの、マックイーンさん…大丈夫ですか?」
    「はッ!!?す、すみません、チーズドッグが美味しかったものですから…サトノさんも一口いかがです?」
    「じゃ、じゃあいただきます…!」

    ダイヤが頬を赤らめながら、チーズドッグを頬張る。
    ゆっくりと咀嚼し、目を見張った。

  • 49スレ主22/04/21(木) 03:39:55

    「……美味しいですね!たっぷりの玉ねぎがさっぱりしていて…!」
    「私もそう思いましたわ…これはもうまるでプロレ…ん、んんッ!いや、その…そうですわね、まるで──」
    「まるで…?」
    「そ、そう見事なタッグと言いたかったのですわ!サトノさんとキタさんのような!」

    そう慌てて言いなおすと、ダイヤが納得と言ったように頷いた。

    「成程…私がキタちゃんがいるから全力で走れるみたいに…引き立てあってるんですね!」
    「そ、そういうことですわ。」
    「ふふふ、でもそうだとしたら、きっとそこにマックイーンさんも入ることになりますね。」
    「私が…ですか?」

    少し驚いたような顔をするマックイーンに、ダイヤは続ける。

    「はい、こうして私が美味しくなるとしたら、そこにはマックイーンさんの存在は欠かせません。」
    「ふふ、そう言ってくれるなら嬉しいですわね。」
    「レースの練習だけじゃなくて、こういった楽しい気持ちもきっと力になるんです、キタちゃんのおかげで私はそれを知りました。」

    ダイヤは優しく、穏やかな笑みを浮かべる。
    釣られるように、マックイーンの顔にも穏やかなものが浮かんでいた。

    「では、今日は先輩である私も貴女に一つ学ばされましたわ。」
    「マックイーンさんも…?」
    「先輩である楽しさを、レース以外でもこうやって知ることができるなんて、それが分かったのは貴女のおかげですわよ、サトノさん。」

    そう言うとマックイーンの穏やかな顔に、少し張り詰めた空気が漂った。
    思わずダイヤが背筋を少し正す。

  • 50スレ主22/04/21(木) 03:40:36

    「おかげで私はまだまだ強くなれそうです、いつか貴女が私と同じターフへと駆け上がってきた時が楽しみになってきました…!」
    「マックイーンさん…!」
    「その時までは先輩としてお待ちしていますわ、それからはライバルとして…貴女に接することができるように。」
    「はいッ…きっとたどり着いてみせます、マックイーンさん!」
    「ふふふ、食事の最中だというのに少し話過ぎてしまいましたね。」

    再び柔らかな表情を浮かべ、マックイーンがチーズドッグを頬張ると、ダイヤもまたチーズバーガーを頬張る。
    そんな可愛らしい後輩を見ながら、マックイーンは心の中で小さく、一つの願いを託した。

    (そして願わくば貴女が私を超える程になれることを…)


    (トゥインクルシリーズで私が届かなかった栄冠を手にすることができますように──)





    2016年有馬記念。

    そのウマ娘は、憧れを超えて栄冠を手にした。

    立ちはだるのは、親友であり宿敵。

    もう言葉はいらなかった。

    運命られたかのように二人が競り合う最後の直線。

    運命を制した、そのウマ娘の名は──

  • 51スレ主22/04/21(木) 03:41:01

    終わり!三時間もかけてマジでごめんなさい

  • 52二次元好きの匿名さん22/04/21(木) 03:49:43

    スレを開いた後の俺「あれ、随分話のレベルが高いな?(画像略)」

  • 53二次元好きの匿名さん22/04/21(木) 04:00:54

    こんな時間に力作を投下しちゃっていいんですか……
    もっと他の人にも見てほしいんですけど

  • 54スレ主22/04/21(木) 04:17:07

    >>52

    >>53

    こんな時間にやたら長くなったSS見てくれてありがとう!

    毎回こんな感じの作風だから無理に宣伝しなきゃとか気負わないでね、応援スレの方には貼っておきます

  • 55二次元好きの匿名さん22/04/21(木) 04:23:24

    変な時間に起きちゃって掲示板開いたら良SSスレに出会えるとは
    ありがとうございます.......!

  • 56スレ主22/04/21(木) 04:54:00

    流石にもう寝るつもりですが安価だけ置いておきます

    ちょい遠目に>>70

  • 57二次元好きの匿名さん22/04/21(木) 08:20:28

    こんな良作をもっと書いてくれるのか…?

  • 58二次元好きの匿名さん22/04/21(木) 08:26:23

    ksk

  • 59二次元好きの匿名さん22/04/21(木) 08:30:02

    ksk

  • 60二次元好きの匿名さん22/04/21(木) 08:37:15

    ksk

  • 61二次元好きの匿名さん22/04/21(木) 08:39:41

    踏み台じゃーい

  • 62二次元好きの匿名さん22/04/21(木) 08:46:45

    ヤエノ師範代とか

  • 63二次元好きの匿名さん22/04/21(木) 08:50:06

    加速

  • 64二次元好きの匿名さん22/04/21(木) 08:50:16

    ksk

  • 65二次元好きの匿名さん22/04/21(木) 08:50:32

    クロックアップ

  • 66二次元好きの匿名さん22/04/21(木) 08:50:51

    先駆け

  • 67二次元好きの匿名さん22/04/21(木) 08:51:10

    ksk

  • 68二次元好きの匿名さん22/04/21(木) 08:51:44

    加速だ!

  • 69二次元好きの匿名さん22/04/21(木) 08:51:56

    ハナルド

  • 70二次元好きの匿名さん22/04/21(木) 08:52:04

    ヤエノ師範代

  • 71二次元好きの匿名さん22/04/21(木) 12:00:01

    保守

  • 72スレ主22/04/21(木) 13:20:44

    安価&保守ありがとう

    >>57のせいで実家に置いて来た課長バカ一代が読みたくて仕方がない

  • 73スレ主22/04/21(木) 14:49:12

    打つ。
    打つ。
    虚空をただひたすらに、打つ。
    力まず。
    弛まず。
    拳を──いや、手を振るう。
    足運びは風帆の如く。
    帆船が波間を滑るように海を行くかのように。
    手は拳、指、掌、あらゆる部位を使う。
    時には槌に、時には槍に、時には盾に──
    打つ。
    打つ。
    幼子の手をとるように優しく掌が空を撫で、次の瞬間には貫手が空を裂く。
    終焉の無い円舞曲を踊り続けるかのように、舞う。
    その空間には着ぬ擦れの音と足が床板を擦る音、そして空気を打つ音だけが淡々と鳴り響いていた。

    もう何時間こうしているのか──

    武道場で無心で舞い続けていたヤエノムテキの脳裏に、そんな言葉がよぎる。
    燦燦と窓から差し込んでいたはずの日差しも色を変え、朱色に染まろうとしている。
    それでもヤエノムテキは舞を止めることができなかった。
    その頭に浮かんでいるのは、宿敵たる存在オグリキャップの姿だ。
    葦毛の怪物という異名に相応しき走り。
    クラシック戦線を共に走ることはできなかったが、幾度も同じレースを駆け抜けたヤエノムテキにとって戦友に等しい存在。
    しかしレースにおいて戦友とはすなわち宿敵であることと同義だ。
    頭からその存在が消えない。

  • 74スレ主22/04/21(木) 14:49:42

    ヤエノムテキは己の感情が分からなかった。
    これは力に対する嫉妬か、羨望か、あるいは怒りか。
    分からない。
    分からないからこうして舞う。
    火水合一。
    心を焼くこの感情を沈めるべく、止水の心得を求め、ひたすらに舞った。
    消えない。
    心を焼く見えない感情がいくら舞っても消えない。
    もう心をなくしてしまいたい。
    絡繰り仕掛けの人形のように。
    ヤエノムテキは舞い続ける。


    打つ。


    打つ。



    打つ──




    「渇ッッ!!!!!!」



    「ッ!?」

  • 75スレ主22/04/21(木) 14:50:07

    道場に突如轟音が鳴り響く。
    反射的にヤエノムテキが声のした方向に掌を向けて構えた。
    そこに立っていたのは豊かな髭に彫りの深い顔立ち、還暦が近いと歳とは思えない逞しい身体つきの男がいた。
    手にはなにやら紙袋を一つ持ち歩いている。
    師範代は紙袋を道場の隅に一旦置くと、ヤエノムテキに歩み寄る。

    「…師範代。」
    「なにをしておる…?」
    「押忍、分かりません。」

    静かに問いかける師範代に、ヤエノムテキは正直にそう答えた。

    「分からないので、舞っています。」
    「ふむ…。」
    「己が、分かりません…!」

    そう言って再びヤエノムテキが舞おうとするが、その前に師範代が不意にぐるぐると肩を回し始めた。
    軽く首を曲げ、身体を前に折って足裏を伸ばす。

    「師範代…?」
    「拳禅一如…心は拳にみゆるものよ、ヤエノムテキ。」

    そう言いながら師範代は柔軟体操を続ける。
    その姿を見て少しばかりヤエノムテキは毒気を抜かれた。
    しかし師範代の言葉の意味を理解すると、大きく息を吐き、吸った。
    そして吐く。
    息吹。
    主に空手で使用される呼吸法だ。

  • 76スレ主22/04/21(木) 14:50:23

    幾度か繰り返すと荒いこ呼吸が整い、全身に酸素がいきわたって身体の疲労が和らぐ。
    そして師範代が柔軟を終えることには、ヤエノムテキの息は整っていた。
    師範代がその姿を見て小さく頷くと一歩下がり、右拳を左掌で包み、礼を行う。
    ヤエノムテキもその場で礼を返した。
    両者が構える。
    ヤエノムテキは左掌を緩く肘を曲げて前に出し、胸元に右拳を添える。
    師範代は自然体のまま軽く腰を落とし、両手を開いて腰のあたりの高さに上げるのみ。
    通常の格闘技ではまずみられない構え。
    がら空きの顔面と胴。
    どこにでも打ち込めるはずなのに、そこまでの距離が恐ろしく遠く感じた。
    ヤエノムテキの道着は汗でずぶ濡れになっている。
    しかし本来ならそのせいで冷えるはずのヤエノムテキの身体に、新たに汗が浮かんだ。
    じわり。
    師範代がわずかに距離を詰める。
    ヤエノムテキは下がらない。
    人のものとは思えない強大な圧力にその場で耐えた。
    その圧力を受け、脳裏に浮かぶはオグリキャップ。
    あの怪物が背後から迫り来たときに放たれる強烈な力。
    耐えねば。
    歯を食いしばって耐える。
    身体が固まった。
    その瞬間──

    「なッ──!?」

    師範代の身体が拳足の届く距離まで迫っていた。
    思わず身体が力んだその刹那の出来事だった。

  • 77スレ主22/04/21(木) 14:50:37

    反射的に右の正拳を師範代の顔面に向かって放つ。
    その拳が弾かれた──否、流された。
    ウマ娘の膂力は人間のものを遥かに上回る、弾けるものではない。
    円を描くように師範代の右掌が小さな弧を描き、ヤエノムテキの力の流れを利用しながら受け流した。
    それと同時にヤエノムテキは右拳に不意に巨大な鉄球が吊り下げられたかの様な負荷を感じた。
    師範代が受け流すと身体の力を抜き、自身の体重の重さを掌を通じてヤエノムテキの右拳に載せたのである。
    ヤエノムテキの身体が前につんのめるように崩れる。

    「くぅッッ──!!」
    「墳ッッ!!!」

    ヤエノムテキの耳の付け根、喉元、腎臓、後頭部。
    瞬時に四つの急所に師範代の手が触れた。
    師範代がヤエノムテキの背後に回り込みながら拳を引く。
    残心。
    事実を把握したヤエノムテキは静かに拳を降ろし、背後に振り向くと礼を行なった。

    「押忍…一本、いや四本いただきました。」
    「うむ、今日はこれまでにしなさい。」

    師範代が礼を返しながらそう言うと、ヤエノムテキは大人しくその言葉に従った。

  • 78スレ主22/04/21(木) 14:51:02

    「ヤエノムテキ…。」
    「押忍、どうしました師範代。」

    師範代のトレーナー室、小さく肩を弾ませながら茶を淹れる師範代の横にヤエノムテキは立っていた。
    新しい良い茶葉を手に入れたらしい。
    故にヤエノムテキを茶に誘おうとしたところ、昼から道場に籠っていると聞いてやって来たというのが先ほどの流れだ。
    師範代は心なしか穏やかな表情で急須に湯を注ぐ。

    「お主の心、教えてしんぜようか…?」
    「お、押忍!是非ご教授を!」

    師範代がゆっくりと湯を入れる手を止め、急須の蓋を締める。
    青々とした良い香りがふわりと漂った。
    既に加工され袋詰めにされているはずだが、新芽を思わせる生きた香りが心を和らげる。
    その匂いを師範代は楽しむように一息吸って、ヤエノムテキに答えを告げた。

    「恐怖…。」
    「恐怖、ですか?」
    「うむ。」

    師範代はヤエノムテキの方を向き、頷いた。

    「今までお主が向き合ってきた恐怖は己自身。」
    「押忍…。」
    「胸の内で絶えぬことなき鮮烈な炎、しかし、今感じている恐怖は違う。」

    師範代の言葉を聞いたヤエノムテキは目線を下げ、己の胸に手を置く。
    そして十秒程、心の内に耳を澄まし、頷いた。

  • 79スレ主22/04/21(木) 14:51:17

    「そうですか、これが恐怖…なのですね。」
    「左様。」
    「己ではなく、宿敵という存在を恐れる心…。」

    初めての気持ちだった。
    ヤエノムテキが今まで恐れていたもの、金剛八重垣流を通じて向かい合ってきたものは己自身への恐怖。
    それだけでよかった。
    己以外のものに恐怖を感じることなどなかった。
    しかし今は違う。
    肩を並べて走る同期達が、そしてあの葦毛の怪物の存在があった。

    「師範代…私はどうすれば──」
    「受け入れなさい。」

    柔らかく、しかしはっきりとした声色だった。

    「心は消せぬもの、なれば受け入れるしかない。」
    「押忍…しかし師範代、それでは…」
    「先ほど打ち合ったお主は、無理に恐怖に抗い、結果ワシに負けた。」

    師範代の言葉に、ヤエノムテキは冷や汗を一つ流しながら喉を鳴らした。
    その通りだ。
    師範代の圧力に抗おうと気を張り詰めた結果身体が力んで固まってしまい、その隙を突かれた。
    ヤエノムテキが顔を歪める。
    一方師範代はと言うと、柔らかい表情のまま言葉を続けた。

  • 80スレ主22/04/21(木) 14:51:31

    「恐怖に打ち勝つ、それはただ抗うだけではない。」
    「押忍…。」
    「受け入れ、己の糧としなさいヤエノムテキ…恐怖を自然と受け入れられた時、お主は一歩また成長する。」
    「押忍…!」

    師範代の言葉にヤエノムテキが礼を返す。
    そうしているうちに茶葉が蒸れる時間になった。
    師範代が二人分の湯飲みに茶を注ぎ、二人して座りながら湯飲みを手にする。

    「押忍、いただきます。」
    「うむ。」

    ゆっくりと茶をすする音がトレーナー室に響いた。
    優しく心地よい茶の味わいがヤエノムテキの喉をすり抜けていく。
    そうして茶を味わっていると、まるで心の中も同じように優しく柔らかいものに包まれていくようだった。
    張り詰めていた心がゆっくりと溶けていく。
    己の中で生まれた新たな恐怖心。
    それも今ではまるで飲んでいる茶の苦みのように味わい深く感じた。
    この茶を飲むように苦みを美味とし、深く味わう。
    そうすればまた武人として、競技者としても成長できる。
    そんな実感があった。

  • 81スレ主22/04/21(木) 14:51:44

    「押忍、師範代。」
    「む?」
    「茶を飲み終えたら、またお手合わせ願えないでしょうか。」
    「渇…と言いたいところじゃが。」

    微かに師範代の口元に笑みが浮かんだ。
    茶を飲むヤエノムテキの表情がまるで先ほどとは別人のように美しく、そして仏を思わせる柔らかさに満ちていたからだ。
    子供というものはなんでもないことで大人になってしまう。
    師範代は静かに頷いた。

    「受けてたとう、その代わり明日は休みなさい。」
    「押忍、ありがとうございます。」




    その翌日、師範代は頬に一つの大きなかすり傷を負ったまま学園へと出勤した。
    しかしその顔には不思議と柔らかな笑みが浮かんでいたという。

  • 82スレ主22/04/21(木) 14:52:23

    終わり!

    次安価>>95

  • 83二次元好きの匿名さん22/04/21(木) 15:08:17

    良い……❤️

  • 84二次元好きの匿名さん22/04/21(木) 16:33:15

    age

  • 85二次元好きの匿名さん22/04/21(木) 16:35:44

    今更だけど上質なシリナカ見れてうれしい

  • 86二次元好きの匿名さん22/04/21(木) 17:41:36

    age

  • 87二次元好きの匿名さん22/04/21(木) 19:21:11

    ksk

  • 88二次元好きの匿名さん22/04/21(木) 19:35:27

    アンスキ

  • 89二次元好きの匿名さん22/04/21(木) 19:54:14

    ksk

  • 90二次元好きの匿名さん22/04/21(木) 19:54:25

    ksk

  • 91二次元好きの匿名さん22/04/21(木) 19:54:46

    うおおおお!加速!

  • 92二次元好きの匿名さん22/04/21(木) 19:54:56

    黒沼ブルボンで

  • 93二次元好きの匿名さん22/04/21(木) 19:55:27

    ゴルシ宇宙旅行

  • 94二次元好きの匿名さん22/04/21(木) 19:55:40

    ksk

  • 95二次元好きの匿名さん22/04/21(木) 19:55:41

    ブライアンとトレーナー

  • 96二次元好きの匿名さん22/04/21(木) 19:55:41

    おハナさん×ブライアン

  • 97スレ主22/04/21(木) 20:19:04

    安価把握

  • 98スレ主22/04/21(木) 23:28:40

    「はぁ…はぁ…ッはぁ…!!!」
    「タイムは悪くない…あんたの決めたメニューだと、後二本やる予定だが?」
    「あ、ああ…やる…よ…!」

    練習場で息を切らしているのはナリタブライアン──のトレーナー。
    そしてその隣でストップウォッチを片手にタイムをとっているのがナリタブライアンだ
    立場が逆である。
    本来ならトレーナーがトレーニングを行い、その担当がタイムを計るという逆転現象。
    勿論こんなことをやっているのには理由がある。

    「ふん…ファン感謝祭でトレーナーによる運動会とは、妙なものを…。」
    「ははっ…ウマ娘だけじゃなくて、そのトレーナーにも案外ファンが多いらしくて、その一環でだと。」
    「まあ、それに参加するだなんて言いだすあんたも大概だがな。」
    「たしかにそうなんだけど…。」

    トレーナーが息を整えながら気恥ずかしそうに笑う。
    ただでさえトレーニングで赤くなっている顔に赤みが増した。

    「やっぱトレーナーだから…担当の前で少しくらいカッコいいところ見せたいなって。」
    「…。」
    「なんて、な…すまない、トレーニングを再開するよ。」
    「ああ、行って来い。」

    表情を変えないままブライアンがトレーナーを送り出す。
    そうしてストップウォッチでタイムを計測しながら、微かに笑った。

  • 99スレ主22/04/21(木) 23:28:52

    「ま、あんたらしいがな。」

    普段険しい顔でいることが多いブライアンにしては、優しい表情だった。
    トレーナーが張り切る原因、その一つが自分にあることをブライアンは理解していた。
    ブライアンを襲った股関節周りの故障。
    不撓不屈ともいえる精神で故障を乗り越えたブライアンだが、世間では全盛期には程遠いという声が絶えない。
    嫌でも耳に入ってくる。
    実際にまだかつての走りを取り戻せたとはブライアン自身も思ってはいなかった。
    それはトレーナーとしても苦しいのだろう、そうブライアンは理解している。
    トレーナーとしてブライアンのためになれそうなことは全てやる。
    自身が世間の評価を受けることが何かブライアンの力になれるかもしれない。
    きっとそう思っているのだろう。
    今の様にブライアンの練習の隙間時間でさえ利用してトレーニングに励んでいた。

    「…お人好しだな、本当に。」

    トレーナーが目の前を通り過ぎた瞬間、ストップウォッチを止める。
    息を荒くしながらトレーナーがブライアンの方を向いた。

    「はぁ…はぁ…ゴールした時、なんか言った、ブライアン?」
    「別に…何も。」

    普段通りのぶすっとした表情を浮かべ、ブライアンはそう答えた。

  • 100スレ主22/04/21(木) 23:29:27

    ファン感謝祭当日。
    特別レース、トレーナーの部グラウンド八百メートル。
    ウマ娘の所属するトレセン学園のイベントだというのに、そこには結構な数の観客が詰めかけていた。
    客層も老若男女関係なく、多様な人々が集まっている。
    ブライアンのトレーナーは待機スペースで入念に身体を解しながら、改めて自分と出走するメンバーを見て渋い顔をしていた。
    八人で出走するメンバーのうちに桐生院トレーナー、そしてゴールドシチーのトレーナーの名前があった。
    トレーナーの中でも特にフィジカルが強いことで有名な二人だ。
    こわばる身体をどうにかして解そうと荒い深呼吸を繰り返す。

    「おい、どうしたんだ?」
    「あっ…ブライアン。」

    待機スペースにやって来た自らの担当に、ぎこちない笑みを返す。
    ブライアンはそんなトレーナーをみて眉をひそめ、溜息を吐くと柔軟をしているトレーナーの傍らにしゃがみこんだ。

    「手伝ってやる…。」
    「……ごめん、ありがとう。」

    両足を広げ、身体を前に折るトレーナーの身体を後ろからブライアンが優しく押す。
    ブライアンの温もりと、しなやかで柔らかい身体が背中を包んだ。
    幾ばくか沈みかけていた気持ちが落ち着く。
    ブライアンが少し力を籠めトレーナーの身体を押し、静かに耳元で囁いた。

  • 101スレ主22/04/21(木) 23:29:40

    「楽しんで来い。」
    「ブライアン…?」
    「これはあんたのレースだ…それだけだ。」

    ブライアンの身体がトレーナーの背からそっと離れる。
    それでも、温もりが与えてくれた熱は消えることなく、胸に微かな火を灯してくれた。
    深呼吸を一つ。
    不思議なほどに心が落ち着いていた。
    ゆっくりと柔軟を終えて立ち上がる。

    「ありがとう、ブライアン。」

    これ以上のことはしない、とばかりに背を向けて足早に待機スペースを去る担当の背に、そっと礼を述べた。

  • 102スレ主22/04/21(木) 23:30:00

    『さぁ始まりました、グラウンド八百メートルトレーナー限定戦!』

    『注目のトレーナーは桐生院トレーナーですが…さぁどうなるでしょうか!?』

    一周四百メートルあるグラウンド。
    実況の声が響く中、ブライアンのトレーナー…ブラトレは位置に着いた。
    八枠あるレーンのうち、大外ながらスタート位置が一番前になる八番枠に選ばれた。
    マークすべき桐生院は二番枠、ゴールドシチーのトレーナー…シチトレは六番枠。
    胸の中で戦術を思い描きながら、スタートの合図を待った。

    パァン!

    レースが始まった。
    案の定鋭いスタートを見せたのは桐生院とシチトレ。
    ブラトレは少し無理に足を使いながらも六番枠のシチトレからリードをとる。
    八百メートル走は百メートルを超えるまではレーンに沿って走る必要があるが、それ以降は自由に走ることができる。
    そして百メートルを超えようとした頃、桐生院が先頭に踊り出た。
    流石というほかない、しかし、桐生院は無理に追わない。
    二番手の位置をキープしながら走る。
    これまでは想定通り。
    そうして百メートルのラインを超えたとき──

    (ここだッ!!)

    大きく斜めに動きながら内へと走る。
    シチトレの前を行き、強引に足を使ってでも最内についた桐生院の背後にブラトレは陣取った。

  • 103スレ主22/04/21(木) 23:30:27

    桐生院とシチトレを競り合わせない。
    フィジカルお化けのこの二人を競り合わせるとペース自体がかなり早くなる可能性がある。
    それを利用して消耗させるということも考えたが、単に二人のペースで淡々と進行し、逆転の目さえなくなる可能性の方が高いとみた。
    あくまでマイペースに桐生院を走らせ、シチトレを牽制しながらリードを保ち、最後の直線ゴール前で差し切るというのが理想だ。
    それに前を独りで走るということは背後からのプレッシャーに耐え続ける必要があり、前の背をずっと見ていられる二番手の方が幾分か気が楽になる。
    淡々と桐生院のペースに身を任せながら走る。
    トレーニングの甲斐あって問題なく着いていくことができた。
    ひたすらにその背を見ながら六百メートル、走り抜けた。
    まだ足は残っている、ここからじわじわとスピードを上げて最後の直線にトップスピードを──
    そう思った瞬間だった。

    「あっ……!」

    先頭を走る桐生院の背が、遠くなる。
    桐生院もまたスパートを駆け始めたのだった。
    ブラトレが懸命にその背を追うが、追うだけで精いっぱいだ。
    強引にでも前に出るか、そう思った時に隣を見たその時。

    「ぐぅ…ッ!?」

    シチトレがブラトレの横に並び、蓋をするように位置取りながら加速していた。

    最終直線。

    それは、もう誰もが予想していたような光景になった。
    シチトレが桐生院の背に迫り、桐生院もさせじと加速する。
    熱いデッドヒート。
    ただ一つ、予想しなかった要素としては。
    ブラトレが二人の後ろに食らいついていたことだった。

  • 104スレ主22/04/21(木) 23:30:48

    競り合う二人が車のギアチェンジをしてくように鋭く加速するなか、もがくように、あがくように走る。
    怪物染みた二人を前に、諦めずに走る。
    視界から徐々に色が褪せていき、酸素を失った脳から思考する力が消えていく。
    それでも。
    それでもブラトレは諦めなかった。
    最早本能だった。
    ブライアンという怪物の担当になったことで、幾多ものウマ娘の絶望、そして絶望から這い上がる景色を見て来た。
    ブライアン自身もそうだ。
    故障によって走る力を失うという絶望。
    それでもブライアンは──ウマ娘は立ち上がるのだ。
    瞳の先にあるゴールだけを見つめて。

    諦めてたまるか!

    走る。
    ひたすらに前だけを見て走る。
    走る。
    走って。
    走ってた。
    はずなのに──

    地面が傾く。
    水平だったはずの景色が斜めに。
    同時にふわりと身体が浮き上がるような心地よさに包まれて。


    「ぐぁッッ!!!?」


    ブラトレの鼻っ柱に強烈な衝撃と共に痛みが走った。

  • 105スレ主22/04/21(木) 23:31:01

    限界を超えて稼働させた足がもつれ、転倒してしまったのである。
    どうやら頭から地面につっこんでしまったらしい。
    痛い。
    顔が痛いが、もうどう痛いか分からない。
    酸素を失った脳が正常に機能していない。
    それでもブラトレは走った。
    鼻から血を噴き出させ、いうことを効かない足を無理やり持ち上げ、とにかく真っすぐに。
    朦朧とする意識の中、この先にゴールがあるはずだと走った。

    しかし、その身体が不意に何かに衝突した。

    衝突した、というより、止められていた。

    柔らかい何かに、力強く、それでいて優しく──



    「ふっ…あんたってのは…筋金入りだな。」

    「はれ……ブライ…アン?」

  • 106スレ主22/04/21(木) 23:31:35

    「ったく…転倒による競争中止にくわえて逸走…レースだと大事故だぞ?」
    「面目ない…。」

    二人きりのトレーナー室、ブライアンから顔の怪我を治療されながらブラトレは肩を落としていた。
    ブライアンとおそろいのように鼻に絆創膏を貼られながら、ことの顛末を聞く。
    ブラトレは転倒した直後、立ち上がりはしたものの意識が朦朧としたせいかゴールとは違う明後日の方向に走り出したのだという。
    それを見たブライアンがすぐさま止めに向い、助けられたのだという。
    顔は傷だらけで来ていたジャージは鼻血まみれ。
    お化け屋敷に行けばお化け側が驚いてしまいそうな様相になっていた。

  • 107スレ主22/04/21(木) 23:31:52

    「ま、あんたらしいよ…本当にな。」
    「はぁ…。」
    「…あんたは全力でやった、それでいいだろう。」
    「いや…やっぱ…ほら…。」

    大きく座っているソファに背を預けながら、悔しそうに天井を見上げる。

    「勝ちたかったなぁ…。」
    「…おい。」
    「どうしたブライア──おわッ!?」

    不意に、ブライアンに服を掴まれ、ソファに横たわるように引き倒された。
    そして耳と頬がソファ──ではなくより柔らかいものに触れた。
    ブラトレはブライアンの膝に頭を預ける形、すなわち膝枕をされていた。

    「……ブライアン。」
    「今日はいつもと立ち場が逆なんだ、なら、これくらいしてやるのが筋だろう。」
    「ふっ…ありがとう。」

    レースが終わってからブラトレの顔に、ようやく笑みは浮かんだ。
    その笑みを見て、ブライアンの顔にも微かな笑みが浮かぶ。
    そうして二人はそのままジッと、静かな時間を過ごした。
    疲れ果てたブラトレは眠りにつき、ブライアンもそれを受け入れ、傷だらけの頬を撫でながらソファに身を預け目を閉じた。

  • 108スレ主22/04/21(木) 23:33:09

    終わり

    ブライアン持ってないから文章量のわりに時間かかった…

    次安価>>120

  • 109二次元好きの匿名さん22/04/21(木) 23:33:35

    ええもん読ませてもらいました
    ありがとう

  • 110二次元好きの匿名さん22/04/21(木) 23:33:40

    文豪じゃ、文豪がここにおる…

  • 111二次元好きの匿名さん22/04/21(木) 23:38:59

    これはええトレブラじゃ…
    ksk

  • 112スレ主22/04/21(木) 23:50:29

    トレの性別は男女はどっちともつかないように書いたつもりなので、そこはお好きに受け取ってくだされ

  • 113二次元好きの匿名さん22/04/22(金) 00:17:02

    ksk

  • 114二次元好きの匿名さん22/04/22(金) 00:58:48

    ksk

  • 115二次元好きの匿名さん22/04/22(金) 06:25:49

    ksk

  • 116二次元好きの匿名さん22/04/22(金) 06:25:59

    ksk

  • 117二次元好きの匿名さん22/04/22(金) 06:26:04

    ksk

  • 118二次元好きの匿名さん22/04/22(金) 06:26:13

    ksk

  • 119二次元好きの匿名さん22/04/22(金) 06:29:37

    ハナルド

  • 120二次元好きの匿名さん22/04/22(金) 06:29:40

    タマコミ

  • 121スレ主22/04/22(金) 09:25:09

    安価把握

  • 122スレ主22/04/22(金) 14:59:53

    放課後、もう日が沈みそうな時刻のトレセン学園。
    タマモクロスはトレーナー室へと足を進めていた。
    その手にはご機嫌な様子でドーナッツが入った紙箱を持っている。
    今日は練習の無いオフの日だ。
    そういうこともあり友人らと遊びに出かけその帰りにトレーナーである小宮山へ差し入れを買って来たのだ。
    トレーナー室に辿り着くと形ばかりのノックを行い、遠慮なしに扉を開く。

    「コミちゃ~ん、差し入れもってきたで~、ってあれ…コミちゃんどこ行ったんや?」

    トレーナー室に小宮山の姿はなかった。
    仕事用のデスクの上には大量のファイルや束になった資料と、充電器が挿されたタブレット。
    仕事がひと段落着いたので飲み物でも買いに行ったのだろうか、そう思いながらタマモクロスが机の上にドーナッツを置く。
    そのとき、タマモクロスは小宮山の姿を見つけた。

    「…なんや、寝とったんかいな。」

    クスっとタマモクロスが笑う。
    机に隣接されたソファの上、そこで小宮山は眠っていた。
    穏やかな寝息を──という感じではない、よほど疲れているのかその呼吸は少し大きかった。
    タマモクロスは傍らにしゃがみ込みながら、そんな小宮山の寝顔をじっと見つめる。
    そしてやや苦し気なその呼吸が少しでも和らいでくれないかと、小さな手のひらでそっと頭を撫でた。
    髪も少しガサついている。
    タマモクロスの前ではそんな雰囲気を少しも見せなかったが、相当疲れているようだ。

    「ほんまいつもおおきになぁ…。」

    優しく頭を撫で続ける。
    しかし小宮山の顔は険しいままだった。
    悪夢でも見ているのか時折、うなされるように苦し気な声を漏らし、表情を歪める。

  • 123スレ主22/04/22(金) 15:00:19

    「…。」

    これがタマモクロスという、日本一と呼ばれるウマ娘の担当になったトレーナーの裏の顔でなのであろうか。
    普段は努めて明るく振舞っているが、その仕事は激務と言って差し支えない。
    練習だけでなく小食なタマモクロスは食事まで世話になっている。
    今日もタマモクロスは身体を休めているが、小宮山は仕事詰めだった様子だ。
    アスリートは休むことも大切な仕事の内だ。
    しかしそれでもこうして苦しんでいるトレーナーの姿を見ると、心苦しいものがある。

    「大丈夫、大丈夫やで…コミちゃん…ウチがここにいるんもコミちゃんのおかげや…。」

    声が届いているか分からない、それでもタマモクロスは声を掛け続ける。

    「あんま怖い顔せんといてな…大事なトレーナーのそんな顔…ウチは見たないで。」

    そう声を掛けているうちに、幾分か小宮山の表情が和らいでいく。
    タマモクロスがそのことに安堵していると、小宮山の目がそっと開いた。

    「……あれ…タマ…ちゃん?」
    「おう、タマちゃんやで~、おはよコミちゃん。」
    「今日…オフ、だよね…じゃあこれ…夢の…続きぃ…?」

    半目になりながら、寝ぼけた様子の小宮山を見てタマモクロスは可笑しそうに笑う。
    そして小宮山の言葉を聞いて、悪戯っぽく笑みを浮かべた

  • 124スレ主22/04/22(金) 15:02:37

    「ん、どんな夢やったん?」
    「タマちゃんがね…優しく頭…撫でてくれてて…。」
    「そっかぁ……じゃあその通り、これは夢やでコミちゃん。」
    「やっぱりぃ…。」
    「ほら、夢やさかい、どうして欲しいんやコミちゃんは?」

    小宮山の言葉に乗るようにタマモクロスが言う。
    夢だという名分で欲しがったものややりたいことを聞き出し、サプライズで実現させられたらいいなと思ったからだ。
    すると小宮山は少し考えた後、寝ころんだまま両手を広げ、タマモクロスの方を見た。

    「ん…。」
    「…えーっと、コミちゃん、どないしたん?」
    「抱き枕ぁ…タマちゃんの…。」

    答えを聞いたタマモクロスは思わず苦笑した。
    てっきりもっと俗物的な答えが返ってくるかと思いきや、意外なものがきたからだ。
    気恥ずかし気に頬を指でこすり、手を広げている小宮山を見る。
    寝ぼけ眼に浮かぶ、何かにすがるような目つき。
    それを見てタマモクロスは覚悟を決めた。

    「はいはい、ごっつ高級な抱き枕やさかいに優しく扱こうてや?」
    「うん…分かったぁ…。」

    タマモクロスがすっぽりと小宮山の両手に収まった。
    優しく抱きしめられ、小宮山の身体がタマモクロスの小さな身体に密着する。

    「タマちゃん…本当ちっちゃいねぇ…。」
    「おっきなお世話や、コミちゃんこそふにふにやないかい。」
    「えへへへ…最近痩せたんだよぉ…。」

  • 125スレ主22/04/22(金) 15:02:50

    やつれてる、の間違いではないかとタマモクロスは思う。
    流石に痩せ細っているわけではないが、肉が薄くなっているようには感じた。
    そっとタマモクロスが腰に手を回す。
    綺麗にくびれたその腰が、今日だけはどこか脆そうに感じた。
    壊さないように、優しく小宮山の身体を抱き返す。
    すると小宮山もより強くタマモクロスを抱きしめた。
    グッとタマモクロスの頬が小宮山の豊かな胸に埋まる。
    その感触に心地よさと嫉妬が入り混じった複雑な感情を抱いていると、やがて優しい心臓の鼓動が聞こえてきた。
    トクン。
    トクン。
    トクン。
    その鼓動を聞いてタマモクロスは安心する。
    自分が抱き枕になることで小宮山の気持ちが落ち着いたことを察したからだ。
    洗剤と女性特有の甘い香り、そして微かに漂う汗の匂い。
    不思議とそれがタマモクロスに落ち着きを与える。

    「タマちゃん…こんなにちっちゃいのに…あんなに強いんだねぇ…。」
    「はん…頼れるトレーナーがおるさかいにな。」
    「そっかぁ…タマちゃんは優しいねえ…。」
    「優しいんはどっちやねんコミちゃん、ずーーっとウチのことばっか考えてるんとちゃうんか?」
    「そうだよぉ…だってタマちゃんのことを世界で一番知ってるのは…私だから…。」
    「そっか…。」
    「うん…。」
    「抱き枕くらい、いつでもなったるさかいに…言うんやで、コミちゃん。」
    「うん…。」

    「大好きやで、コミちゃん。」

  • 126スレ主22/04/22(金) 15:03:14

    ジリリリリリリリ。

    「ふぁ…あ。」

    日が沈む頃、小宮山はタブレットが鳴らすアラームの音で目を覚ました
    仕事が一段落ついていたので仮眠をとっていたのだ。
    このところろくに睡眠をとっていなかったせいで、身体にガタがきそうになっていた。
    やむなくソファで眠ることにしたのだが、思った以上によく眠れた気がする。
    それにととても良い夢を見たような、すっきりとした心地よさがあった。
    そうして右手で目をこすろうとしたが──右手が動かない。

    「はれ…?」

    何故か右手が動かない。
    そして視線を下げると、思わず飛び跳ねそうになった。

    「タ…タマちゃん!!?」
    「ああ~…おはよ、ウチも寝てもうてたわ…。」
    「え!?え!?今日はオフなんじゃ…!?」
    「ああ~それに関してはまた話したげるわ…。」

    タマモクロスは小宮山から少し名残惜しそうに身体を離し、ソファから立ち上がるとアラームを止めた。
    そして大きく伸びをしながら唖然としている小宮山を見た。

    「んん~~っ、コミちゃん相手なら抱き枕になるんも悪ないなぁ。」
    「だ、抱き枕って…あ…なんかそんな夢見た…気が…え、ちょっと…タマちゃん!?」
    「夢やで、せやかて、夢が現実になるくらいあってもえんちゃうか?」

  • 127スレ主22/04/22(金) 15:03:27

    タマモクロスはソファの背もたれに肘を載せながら、顔を真っ赤に染める小宮山にグイ、と顔を寄せた。
    小宮山の顔が更に赤くなる。
    その反応を見てタマモクロスは楽しそうに笑った。

    「世界一ウチのことを分かってくれてるトレーナーなんや、夢くらい現実になるん、分かってるやろ?」
    「…へ?」
    「ウチの夢、叶えてくれてありがとな…コミちゃん。」

    ツン、と小宮山のデコを指先で突きながらタマモクロスはそう言った。
    そして未だ夢から醒めやらない様子の小宮山に背を向け、トレーナー室を後にする。
    一人取り残された小宮山はしばらく呆然としていたが、やがて真っ赤になった顔を両手で覆い、ソファに腰かけながら項垂れた。

    「はぁ~~…もう…あの子はもう…本当に……。」

    夢であったはずの曖昧な記憶が、タマモクロスの言葉によって徐々に色づき、鮮明になっていく。
    両手で感じた小柄ながらもとても力強くて、優しい感触。
    思い出しただけで体温が上がる気がした。

    「………。」


    「カッコいいなぁ…。」

  • 128スレ主22/04/22(金) 15:04:04

    終わり!

    次安価>>135

  • 129二次元好きの匿名さん22/04/22(金) 15:52:15

    めっちゃ良かった…

  • 130二次元好きの匿名さん22/04/22(金) 16:00:38

    これもうpixivに上げて良いレベルだゾ

  • 131二次元好きの匿名さん22/04/22(金) 16:23:35

    安価でこのクオリティってなんだよ…すげぇ…

  • 132二次元好きの匿名さん22/04/22(金) 18:12:06

    age

  • 133二次元好きの匿名さん22/04/22(金) 19:01:24

    マジでpixivに上げてくれ

  • 134二次元好きの匿名さん22/04/22(金) 19:02:03

    沖マクが見て〜

  • 135二次元好きの匿名さん22/04/22(金) 19:02:50

    じゃあ>>134にしてやる

  • 136スレ主22/04/22(金) 19:07:50

    安価把握
    みんな感想ありがとうね!

  • 137スレ主22/04/22(金) 22:02:27

    ある休日、メジロマックイーンは制服姿でトレセン学園に来ていた。
    その左足は軽く引きずっており、厚くテーピングが巻かれている。
    訪れた場所はトレーナー室だ。
    軽くノックをして声を掛ける。

    「トレーナーさん、メジロマックイーンです。入ってもよろしいですか?」

    そうして数秒待つが、返事は無い。
    やむなくドアノブに手をかけるが、カギはかかったままだった。
    眉をひそめたマックイーンがスマホを手にしたとき、ドタバタと廊下を走る音が聞こえてくる。

    「すまんすまんマックイーン!危うく寝坊しちまうとこで…!」
    「はぁ…まだ約束の時間五分前ですし、許しますわ。もうお昼ですのに、寝坊とはどういうことですの?」

    現れたのはマックイーンが所属するチームスピカのトレーナー。
    もう時間は昼になるというのに寝坊とはどういうことかとマックイーンは顔をしかめる。
    トレーナーは扉の鍵を開けながら申し訳なさそうに肩を落とす。

    「いや…南坂と黒沼の三人で飲みに行ってたらレースの話になっちまってよぉ…。」
    「はぁ~それで明け方近くまで起きてらした、ということですの?」
    「面目ねえ…。」

    マックイーンは呆れながらもそれ以上は追及しないことにした。
    馴染みあるトレーナー室は今日はそこそこ片付いている。
    一時期は医学書や生物学、果ては怪しげな民間療法の本までが床を覆うのではないかというほどに散らばり、飴の包み紙や空き瓶が転がっていた。
    今は本棚からあふれた本は一部をトレーナーの自宅に、一部を図書室に寄付したおかげで片付いている。
    もちろんスピカのメンバーがそれを手伝わされたのは言うまでもない。
    もっとも、謝礼に奢らされたファミレスのレシートを見てトレーナーは白目を剥いていたが。

  • 138スレ主22/04/22(金) 22:02:59

    「さて、じゃあマックイーン、約束通り始めるぞ。」
    「ええ、よろしくお願いいたしますわ。」

    トレーナーが本棚から分厚い本を何冊もまとめて持ってくる。
    表紙に書かれた題名は"中央トレセン学園トレーナー教本"。
    今日マックイーンが休日にもかかわらずトレーナー室を訪れたのはトレーナーとしての知識を得る為だった。

    「ったく、マックイーンがトレーナーとしての勉強をやりたい、なんて言った時は気絶するとこだったんだぜ。」
    「ふふ、それは申し訳ありません、しかし私はターフに戻ることを諦める気はありませんわ。」

    眉をひそめるトレーナーに対し、マックイーンが微笑む。
    マックイーンを襲った経靭帯炎という悲劇。
    未だマックイーンはその怪我から完全に復調はしていなかった。

    「怪我は治します、ですがまた療養するだけでは勿体ないですもの。私がトレーナーとしての知識を見につければトレーナーさんもありがたいのではなくって?」
    「ああ、マックイーンとテイオーのおかげでスピカの評判は上々、新メンバーが入っても俺一人で面倒見切れるか分かんねえし、手伝ってくれるのはありがてえ。」

    そこでマックイーンが思いついたのが、療養期間中にトレーナーとしての知識を身に着けること。
    これからは後輩の数も増えることになる。
    それ以前にトレーナーの観点からの知識を持っていることはレースを走るうえでの利点にもなるはずだ。

    「よしっ、じゃあまずは中央レース場の基本知識からだ。マックイーンは何度も走ってるから理解もしやすいだろう。」
    「はい、分かりましたわ。」

  • 139スレ主22/04/22(金) 22:03:12

    そう言って教本をトレーナーが開いた。
    トレーナーの知識量は当然だが並ではなかった。
    細かい文字がびっしりと書かれた教本。
    レース場一つでも距離、季節、馬場状態、あらゆる観点と過去のデータから特質が書かれている。
    勝率が高い走法から、一部例外的な展開で勝ったレース。
    低人気ウマ娘が上位に食い込んだパターンや逆に人気ウマ娘が沈んだデータまで。
    恐ろしいほど緻密なデータで満たされている。
    それをほとんど暗記しているかのようにトレーナーは解説し、マックイーンが質問すればすぐさま答えて来る。
    時折メジロ所縁のウマ娘の話も交えながら、テキパキと話を進めていった。
    マックイーンが得意としている京都レース場の長距離。
    その基本知識を学ぶだけでも1時間以上の時間がかかった。
    そこで一息つく。

    「どうだマックイーン、改めて得意なレース場でもここまでデータがあると思うと面白いだろ?」
    「ええ…まさか、ここまでとは。」

    流石のマックイーンも少し疲れた様子だった。
    しかし有用な知識の数々に満足もしている様子だ。

    「しかし、改めて貴方の知識には驚かされましたわ。」
    「おいおいおい、これでも中央トレーナーなんだぜ?」
    「ええ、威厳はありませんが、貴方の実力はよく存じていますもの。」
    「余計な一言付け足すんじゃねえよ…まぁ自覚してっけどさぁ。」

    苦々しく顔を歪めるトレーナーにマックイーンが肩をすくめて笑う。
    しかしふと、小さく首を傾げた。

  • 140スレ主22/04/22(金) 22:04:05

    「…そうですわよね、貴方は立派な中央トレーナーです。」
    「お、おう…どうしたんだよ。」
    「いえ、貴方の教え方はその…独特ではないですか?急にツイスターゲームをやらせたり。」
    「ああ~…そりゃあ、そうだな…。」
    「何故かと思いまして。ゴールドシップさんからも聞きましたが、そのせいでチームが無くなるところだったんでしょう?」
    「…その通りだ、冗談抜きでアイツがいなけりゃ、俺はここにはいなかった…その点は感謝してる。」
    「それ以外は?」
    「もうちょ~~~っとだけでも真面目に走ってくれりゃあなぁ…。」

    本気で肩を落とすトレーナーにマックイーンが苦笑する。
    そして溜息を吐きながら、顔を上げた。

    「ま、あれはあれで俺なりに考えはあってのことだ…でも、まぁそれだけでもねえか…。」
    「というと?」
    「…おハナさんだよ。」
    「リギルの、東条トレーナーさんですね。」
    「ああ。」

    マックイーンの言葉にトレーナーが頷く。
    そして神妙な面持ちでマックイーンを一目見ると、覚悟したかのよう目を閉じてに語りだした。

    「勝ちたかったんだ、あの人に。」
    「それで…何故?」
    「あの人の実績見てりゃわかるだろ…あの人数の管理しながら、あの成績だぞ?」
    「…。」
    「普通にやってちゃ勝てない…勝つとしたら、あの人が育てられないようなやり方でウマ娘の素質を引き出す…それしかないと思った。」
    「そういうことでしたの…。」
    「それになにより、俺はお前らが自由に走る姿が好きだからな。結果的にああいうやり方になった…ま、上手くいかなかったけどなぁ~。」

    椅子に大きくもたれかかりながら、過去に想いを馳せるように天井を仰ぐ。

  • 141スレ主22/04/22(金) 22:04:24

    「もうだめだって時にウオッカとスカーレットが来てくれて、スズカにスぺ、そしてテイオーと…マックイーンお前が来てくれた。」
    「…。」
    「本当にみんなに助けられてばっかだよ、俺は…威厳がないのも当然か。」
    「はぁ~~~~~っ。」

    トレーナーが自嘲すると、マックイーンが特大のため息を吐いた。
    それを聞いたトレーナーが目を丸くしながらマックイーンに目を向ける。

    「自嘲するのも結構ですが、貴方は胸を張りなさいな。威厳がないと揶揄ったのは謝りますわ。」
    「マックイーン…。」
    「私がここまで走れたのは間違いなく貴方のお力添えがあったからです。そして、また走ろうと思えるのも。」
    「そっか、ありがとな。」
    「それに、私はこのスピカというチームが気に入っています…それに、まぁ、その……」

    マックイーンが微かに頬を赤らめ、こほんと一つ咳ばらいをする。
    そしてちらりとトレーナーの方を向き、その目を見ながら言った。

    「貴方もことも、気に入っていますわよ。」
    「マ…マックイーン…ちっくしょー、お前ってやつは……グズッ…。」
    「泣くことはないじゃないですの!まったくもう…ふふっ。」
    「な、泣いてねえよ…バカ!」

  • 142スレ主22/04/22(金) 22:04:36

    目頭から薄く涙をにじませながらそっぽを向くトレーナーを見て、思わずマックイーンが笑みをこぼす。
    そんなやりとりをしていると、扉の外からなにやらドタバタと足音が聞こえてきた。
    少し耳をすませば、聞き覚えのある声が聞こえてくる。


    ゴールドシップさん!マックイーンさんがトレーナーの勉強にしてるって、ほ、本当なんですか!?

    おいおいスぺ~あたしがマックイーンのことで嘘つくわけねえじゃねえか!さ、トレーナーの奴とっちめて吐かせるぞ!

    よっしゃあ!スカーレット、ズタ袋の準備はできてっか?

    あったりまえじゃない!絶対にとっ捕まえてやるんだから!

    んも~!マックイーンったら、ボクにもなんの話もしてないんだよ!絶対にまた一緒に走るんだから!


    賑やかな声を聞いてトレーナーは溜息と共に頭を抱え、マックイーンが楽し気に笑う。
    そんなマックイーンの笑顔を見て、トレーナーも諦めたかのように苦笑いを浮かべた。


    「これが俺のチームか…ったく、みんないい性格してるよ。」

  • 143スレ主22/04/22(金) 22:05:21

    終わり!

    ここまで来たら完走目指して頑張りたい

    次安価>>150

  • 144二次元好きの匿名さん22/04/22(金) 22:18:09

    ksk

  • 145二次元好きの匿名さん22/04/23(土) 09:52:17

    デジタル

  • 146二次元好きの匿名さん22/04/23(土) 19:43:46

    age

  • 147二次元好きの匿名さん22/04/24(日) 07:22:11

    ksk

  • 148二次元好きの匿名さん22/04/24(日) 18:26:31

    hosyu

  • 149二次元好きの匿名さん22/04/24(日) 18:31:52

    保守

  • 150二次元好きの匿名さん22/04/24(日) 18:32:04

    北オグ

  • 151スレ主22/04/24(日) 21:00:09

    うおっ!?安価来てた把握!

  • 152スレ主22/04/25(月) 00:53:11

    ちょっと今夜はSS書く時間ないので保守入れときます

  • 153二次元好きの匿名さん22/04/25(月) 10:59:32

    保守

  • 154二次元好きの匿名さん22/04/25(月) 19:13:35

    保守

  • 155スレ主22/04/25(月) 21:50:33

    カサマツトレセン学園、北原はチーム用の部屋で一人パソコンを叩き、大量の書類を確認していた。
    パソコンにひたすら入力しているデータはオグリキャップものだ。
    その内容はカサマツでの詳細な戦績から、体質、性格、そして彼女を支えるベルノライトのことに至るまで幅広い。
    北原は何度も何度も自身の書いた文章を読み返し、もうこれ以上書くことはないと確認すると大きく息をついた。

    「こんなもん、かな。いてててて…昼から座りっぱなしだったから腰が痛え…。」

    他に誰もいない部屋で一人呟き、腰をさすりつつ大きく伸びをした。
    今彼が担当するオグリは走りこみに出ている。
    今日は休んだ方が良いといったものの、半ば強引に行ってしまった。

    「ったく…、明日には中央に行くってのによ。」

    苦笑しながら北原はデスクの上に置かれた一枚の写真に目をやる。
    ゴールドジュニア後に撮られた集合写真だ。
    皆に囲われながら中央に照れた表情で写真の中央に収まるオグリを見ると、北原は寂しさを含んだ笑みを浮かべる
    彼の担当であるオグリはゴールドジュニアでの勝利を最後にここカサマツを去り、明日から中央トレセン学園に所属することになる。
    同じく担当していたベルノもサポートのために中央へ行くことになった。
    誰もいない部屋を一目見渡すと、一層寂しさがこみあげて来た。
    少し前まで散らかっていた部屋はベルノによって片付けられた代わりに蹄鉄やバ具に関する資料がズラリと並んでおり、隅にはオグリの記事が書かれた雑誌が積まれている。
    他にもゴミ箱にはオグリが食べた大量のおにぎりの包みが捨てられていて、その傍らにはすり減って使えなくなった蹄鉄が袋に纏められている。
    そこかしこにオグリとベルノがいた痕跡があった。
    もうこの痕跡もしばらくすれば薄れていき、やがて消えていくだろう。
    そんな風に感傷に浸っていると、扉の外から聞き慣れたリズムの足音が聞こえて来た。

    「ただいま、北原。」
    「おう、おかえり、オグリ。」

    すっかり泥が染みついたジャージの袖で汗を拭いながら、走り込みを終えたオグリが帰って来た。

  • 156スレ主22/04/25(月) 21:51:00

    「もう準備はいいのか?」
    「ああ、特に大きな持ち物もないからな、ベルノの方が大変そうだった。」

    シャワーを浴び、汗を流してきたオグリに北原が問いかける。
    オグリはまだ雫が垂れている髪を乱雑にタオルで拭いながらそう答えた。

    「あいつ、今日の今日までどの本を持っていくか迷ってたからなぁ…中央に行けば資料なんていくらでもあるっつってんのに。」

    スーツケースと数個の段ボール箱に必死に本を詰め込んでいるベルノを思い出し、北原は苦笑する
    そうして痛めた腰をさすっていると、それを見たオグリは首を傾げた。

    「…北原、どうしたんだ?」
    「ん?ああ、昼から中央に送るデータを打ち込んでたら痛くなっちまってな、歳だなぁこりゃ。」
    「そうか…お爺ちゃんなのか北原は…。」
    「お爺ちゃんって歳ではねえよ!」

    気の毒な目を向けて来るオグリに北原がツッコミを入れる。
    こんなやり取りもしばらくお預けかと思うと、また北原は寂しさを覚えた。
    眉をハの字に曲げて悲し気に笑う北原を見ると、オグリは首を傾げる。

    「どうした北原、そんなに腰が痛いのか?」
    「いやそういう訳じゃ──」
    「ふむ…よし、私にまかせろ北原。」

    オグリは北原の言葉を聞かずになにやら一人で頷くと、部屋の隅に置かれた長椅子を動かしポンと叩いた。

  • 157スレ主22/04/25(月) 21:51:19

    「私がマッサージする。」
    「は…オグリが…?」
    「ああ、ずっと母さんからマッサージを受けていたからできるはずだ、まかせろ。」

    突然のオグリの申し出に北原は目を丸くする。
    そして自信満々にそう言うオグリに不安を覚え、ひきつった笑みを浮かべた。
    正直な話オグリにそんな器用な真似ができるイメージはなかった。
    しかし目をキラキラさせながらマッサージを申し出るオグリを見ると、北原はそれを断ることができなかった。

    「あ~、分かった、じゃあお言葉に甘えることにする。」
    「よし。」

    観念したかのように長椅子にうつぶせで横たわる北原の腰に、オグリが触れる。
    北原は痛みがくることを覚悟したが、予想外に柔らかく指先が腰に触れた。
    服越しながらオグリの体温が指先からじんわりと北原の腰に伝わり、固まった筋肉をゆっくりと解していく。
    思わぬ心地よさに北原は驚いてしまった。

    「お、おお~…結構いい感じだ。」
    「ふふ、母さんの真似だが、すごいだろう。」

    腰からずっと固い椅子に触れていた尻まわりを押された時に北原は少し気恥ずかしさを感じたが、オグリは気にしない様子でマッサージを続ける。
    そのまま太ももの裏、膝裏、ふくらはぎ、足首まで。
    丹念に下半身の筋肉を解していく。
    その心地よさに安心した北原はすっかりオグリに身を任せていた。

  • 158スレ主22/04/25(月) 21:51:31

    「そうか、ずっとお母さんにマッサージしてもらってたって言ってたもんなぁ。」
    「ああ、小さい頃は立つのも大変だったんだ。」
    「今のオグリ見てると信じらんねえけどなぁ…小さい頃のオグリか…想像つかねえな。」
    「む、そうなのか?」
    「ああ、俺はオグリは走ってる姿ばっか見てたからなぁ…じっとしてるオグリなんか想像できねえよ。」

    ぐい、と膝を曲げて足裏を伸ばされながら、しみじみと北原が言った。
    同時に微かな後悔も。
    そんなオグリから走るということを、危うく北原は奪いとってしまうところだった。
    ゴールドジュニアの時、北原は自身の決心がつかなかったせいでオグリを追い込んでしまった。
    あの時のオグリの表情。
    思い出すだけでも、背筋に寒気が走る。

    「む、どうしたんだ北原?」
    「いや…なんでもねえよ。それで、小さい頃のオグリはどんなんだったんだ?」
    「そう…だな…これは母さんから聞いたんだが…どて煮になりたいと言っていたらしい。」
    「どて煮?くくくくく…そ、そいつぁオグリらしいな。」
    「し、仕方ないだろう、美味しいんだぞどて煮は。」
    「それは分かってるけどよぉ、そうかそうか、どて煮になりたかったのか。」
    「むぅ~…。」
    「いだ!?いだだだだだ!?や、やめろオグリ笑って悪かったって!!」

    不意に力を籠めて足裏を圧するオグリに北原が情けない悲鳴を上げる。
    悶える北原を見てオグリは満足したのか足裏から手を離し、マッサージに戻る。
    北原はほっと一息ついた。

  • 159スレ主22/04/25(月) 21:51:45

    「…そういや、オグリとはレースの話ばっかであんまりこういう話しなかったな。」
    「言われてみれば、そうだな。」
    「ずーーっとレースの話してたもんなぁ、俺もオグリがどこまで走って行けるか楽しみで仕方なかったからよ。」
    「北原…。」
    「まさか中央まで走っていっちまうとは思わなかったけどな。」

    一瞬マッサージをしていたオグリの手が止まった。
    そうしてしばし、互いに無言の時間が流れる。

    「オグリ。」
    「北原。」

    不意に発した二人の声が重なった。
    北原とオグリは驚いて互いの顔を見る。
    オグリは何か言いたげに口をもぞもぞと動かすが、北原が軽く手を挙げてそれを制する。

    「オグリ、先に言わせてもらってもらうぞ。」
    「ああ…。」
    「ありがとう。」

    スッキリとした、子供のように無邪気な笑みを浮かべ、北原は言った。

    「腰が痛えだなんてぼやくこの歳になってよ、またでっけえ夢を見れたのはオグリのおかげだ。」
    「北原、私こそ──」
    「いいんだよ、オグリ。その先は俺が中央に行った時までとっといてくれ。」
    「……そうか、分かった。」
    「よっし、マッサージもありがとなオグリ、おかげでだいぶマシになった!」

  • 160スレ主22/04/25(月) 21:51:58

    もう大丈夫だと長椅子から北原が身体を起こす。
    軽く伸びをすると、重く感じていたすっかり腰が軽くなっている。
    同時に少し沈んでいた気持ちにも、熱が入った。

    「北原…。」
    「ん?」
    「中央で待ってる、だから、約束だぞ。」
    「おう、待ってろよ!すぐに追いついてやっからな!」

    少し不安そうな面持ちのオグリキャップの頭をわしゃわしゃと撫でながら北原が言う。
    オグリもおとなしく、そして少し乱暴に頭が撫でられる感触を慈しむように、身を任せていた。

    「よし、そろそろ寮に戻った方がいいな。」
    「分かった、いくよ北原。」

    北原の手が頭から離れると、少しばかり寂しそうな表情を浮かべたが、素直に部屋を後にした。
    北原はその後ろ姿ともしばらくお別れだと思うと、ついいつもより長い時間見送ってしまう。
    そして姿が見えなくなったところで扉を閉め、デスクに座る前に本棚の前にいくと、古ぼけた教本を一冊取り出した。
    中央トレーナーを受験する者のための教本だ。
    遥か昔に買うだけ買ってついぞほとんど開くことのなかった教本。
    少し懐かしむように手を取り、デスクへと持って行った。
    大分古い本だが、基本は変わっていないだろう。
    そう思いながら真新しいノートと難解な文字の並ぶ教本をデスクの上に置く。
    しかし、勉強を始める前に北原は閉じていたパソコンを開くと、オグリのデータに一文を付け加えた。

    子供のころの夢はどて煮になること。

  • 161スレ主22/04/25(月) 21:52:19

    終わり!

    >>165で!

  • 162二次元好きの匿名さん22/04/25(月) 23:45:03

    age

  • 163二次元好きの匿名さん22/04/26(火) 04:29:29

    保守

  • 164二次元好きの匿名さん22/04/26(火) 04:52:50

    保守

  • 165二次元好きの匿名さん22/04/26(火) 12:49:51

    アヤベさんとアヤベトレのバレンタイン、オペラオーやドトウがなんだかんだ渡せてるのに自分が渡せてなくて少し焦るアヤベさん的な

  • 166スレ主22/04/26(火) 14:52:23

    安価把握
    21時頃には投下できるように頑張ります〜

  • 167スレ主22/04/26(火) 21:31:44

    「どうしようかしら…。」

    周囲がすっかりバレンタインデー一色となっている二月半ばに差し掛かる頃、アドマイヤベガは一人カフェテリアでココアを飲みながら悩んでいた。
    年に一度のバレンタイン、トレーナーには何か贈り物をしたい気持ちはある。
    しかし今までそう言ったイベントに関して無頓着であったアドマイヤベガにとって、何を贈ればよいのか分からなかった。
    シニア期のバレンタインは同室のカレンチャンに恩を返すべく一日付き合ったこともあり、トレーナーに何かを贈るということもなく、思い出と言えば一杯のココアのみ。
    そんな思い出の飲み物を飲んでいれば何か思いつくかも、そう考えていたが残念ながらそう上手くいかなかった。
    すっかり冷めてしまったココアを一口飲み、溜息まじりの息をつく。
    聞いた話では同期のテイエムオペラオー、メイショウドトウ、ナリタトップロードはチョコレートの準備をしているということだ。
    オペラオーは等身大のチョコレート像をどうにか作れないか考えているらしく、ドトウは昨年失敗したからと手作りチョコの材料を大量に買い込んでいた。
    トップロードがどうしているかは聞かないが優しく要領のいい彼女のことだ、きっと素敵な贈り物を考えていることだろう。
    それに対し、自分はどうだろうかとアドマイヤベガは思う。
    別にただ少し良いチョコレートを買ってきて、トレーナーに贈って、お終い。
    普通はそれでいい。
    普通はそれでいいのだが、普通にしたくないという気持ちがあった。
    不器用な自分がそんなことを考えても無駄であろうというのに。
    冷めたココアを一息に飲み干す。
    しかし席から立つ気も起らず、俯いたまま冷めた目でただその場に座っていた。
    そうして浮かない顔をしていたからだろうか、聞き馴染んだ声で聞こえて来た。

    「アヤベさん?どうしたんですか、何かあったんですか…!?」
    「あら…トップロードさん。」

    声を聞いて顔を上げると、そこにナリタトップロードがいた。
    心配そうな表情を浮かべるトップロードに、アドマイヤベガは申し訳なさそうに眉を落とす。

  • 168スレ主22/04/26(火) 21:31:58

    「大丈夫よ、ちょっとバレンタインのことで悩んでて。」
    「ああ~、もしかしてトレーナーさんに何かお渡しするつもりなんですか?」
    「その通りよ。ただ、何をどう渡せばいいか分からなくって。」

    そう言いながら肩を落とすアドマイヤベガを見て、合点がいったようにトップロードは頷き、対面の席に座った。

    「う~~ん、バレンタインですか。悩んでいるってことは、何も思いついてないんですよね。
    「ええ、今まで精々父に形ばかりのチョコレートを贈るくらいだったもの、手作りっていうのも難しいし。」
    「ふむふむ…そうですね、私が一つアドバイスできるとすれば──」
    「できるとすれば…?」
    「アヤベさん、貴女がトレーナーさんとどう過ごしたいか、をもう少し考えてみてはどうでしょうか。」

    トップロードの答えに、アドマイヤベガは困ったように目を逸らし、そして理解ができないとばかりに首を振った。

    「私がどうしたいか…だなんていっても、贈り物をするのは私なのに、そんな…。」
    「そう言う気持ちは大事だと思います、でも、バレンタインっていうのはお互いの行事なんです、きっと。」

    目を逸らすアドマイヤベガに対し、まっすぐに彼女を見つめながらトップロードは言った。
    純粋で、まっすぐな瞳。
    その瞳に捕らえらえては、アドマイヤベガもただ目を逸らしているわけにはいかなかった。

    「…私が、どうしたいか。」
    「はい、アヤベさんがどうしたいか、です。」
    「……普通に終わらせたくない、かしら。」

    自分自身に言い聞かせるようにアドマイヤベガは言った。

  • 169スレ主22/04/26(火) 21:32:13

    「大切な、トレーナーだから…少しでも特別な思い出にしたいわ、私は。」
    「いいじゃないですかアヤベさん、すごく、すっごく素敵なことだと思います!」
    「ありがとう、トップロードさん。そうね私は勝手に諦めていたと思うわ。」
    「それだけアヤベさんがトレーナーさんのことを大切に思っているからですよ、きっと。」

    アドマイヤベガの言葉を聞いてにっこりと大きな笑みをトップロードは浮かべた。
    少しは力になれたことに安心したのか、トップロードは席を立つ。

    「じゃあ、私は行きますね。いいアイデアが浮かぶように祈ってます。」
    「ええ…ところでトップロードさん、貴女はどうするの、バレンタイン?」

    背を向けようとするトップロードにアドマイヤベガが問いかける。
    するとトップロードは少し頬を赤くさせながら振り向き、そっと人差し指を唇に当てた。

    「ヒミツ、です。」
    「えっ…?」
    「だって、これはトレーナーさんと私だけの思い出にしたいので、ごめんなさいアヤベさん。」

    トップロードは照れくさそうに、悪戯っぽい笑みを浮かべる。
    その笑顔につられるようにアドマイヤベガも微笑みを浮かべた。

    「そう、それが貴女の想いなのね。」
    「はい!」

    互いに笑みを向け、笑いあう。
    二人だけの思い出。
    ナリタトップロードのその言葉を聞いて、アドマイヤベガの心に一つの願いが生まれた。

  • 170スレ主22/04/26(火) 21:32:25

    バレンタイン当日。
    アドマイヤベガは星がよく見える山道で空を見上げていた。
    山道の半ばにある、休憩用にぽつんとベンチが置かれた場所。
    天体観測を好む彼女にとってお気に入りの場所の一つであった。
    ただ、普段は一人でそこに座っている彼女であったが、今日は違う。

    「ふぅ…流石に冷えるねぇ。」
    「ええ、付き合ってくれてありがとう、トレーナー。」

    アドマイヤベガはトレーナーと二人、小さなベンチに座っていた。
    互いの肩には一枚の大きなふわふわのブランケットがかかっており、自然と寄り添う形になる。
    冷たくも綺麗な空気を吸い、微かに白く凍る息を吐きながら、ただ空を眺めていた。
    次第に冷えていた空気も、互いの暖かさによって熱を帯び、身体に温もりを感じるようになっていた。
    いや、きっと体温のせいだけではないだろう。
    互いに大切に想う人が傍にいる。
    そんな気持ちには真冬の冷気でさえも敵わないのかもしれない。
    空には運よく雲一つない。
    オリオン座。
    おうし座。
    おおいぬ座。
    そして彼女にとって一際輝いて見える、ふたご座。
    星々を眺めながら、ただ二人で寄り添う。
    一人ではないことを感じる。
    それが彼女、アドマイヤベガが望んだ、バレンタインだった。

  • 171スレ主22/04/26(火) 21:32:48

    「ねぇ、トレーナー、少し冷えるわよね。」
    「ん?ああ…今はアヤベがいるから大丈夫だけど。」
    「…冷えるわよね?」

    トレーナーの言葉に対し、彼女が視線をきつくしながらもう一度問いかける。
    トレーナーは不思議そうに首を傾げるが、一拍置いて頷いた。

    「…う、うん…冷えるね、たしかに。」
    「そう、なら良かったわ。」

    彼女は満足げに顔を緩ませ、ブランケットを入れていたカバンから一本の筒と紙コップを取り出す。
    一本の筒、それは保温がきく水筒だった。

    「ハッピーバレンタイン、トレーナー。」

    そう言いながら水筒の中身を紙コップに注ぐ。
    冷たい空気に湯気と共に甘いカカオの香りがふわりと漂った。
    手製のホットココア──といっても少し高い粉末を丁寧に溶かしただけのものだが──を差し出す。
    トレーナーは彼女の言葉に少し驚いた様子であったが、すぐに顔を綻ばせると喜んでそれを受け取った。

    「ありがとう、アヤベ…!嬉しいよ!」
    「そう、なら良かったわ。」

    彼女も顔を同じように綻ばせる。
    そして自身も紙コップにココアを注ぐと、軽く互いの紙コップを打ち合わせて乾杯した。
    甘いココアを口にすると、まるで周囲の空気が甘くなったかのような錯覚を覚える。
    その空気に身を任せるようにアドマイヤベガはトレーナーの肩に身をまかせながら、空を見た。

  • 172スレ主22/04/26(火) 21:33:09

    トレーナーもただ、その身でアドマイヤベガを支えてやる。
    また、無言の時間が流れた。
    時折ココアをすする音だけが響く。
    静かだった。
    静かだがたしかにその空間には幸せが満ちていた。

    「…ねえ、トレーナー。」
    「ん?」
    「今日は私のわがままに付き合ってくれて、ありがとう。」
    「いいんだよ、わがまま言ってくれてむしろ嬉しいから。」

    トレーナーが慈しむようにココアを一口飲みながら言った。

    「ずっと、アヤベさんと一緒にいるのに一緒にいない…そんな気持ちがあったから。」
    「…。」
    「ああ、今はもう一緒にいれるんだなって…そう思うよ。」
    「そう…。」
    「うん。」
    「ねぇ。」
    「ん?」

    「貴方がトレーナーで、本当に良かった。」





    二月十四日
    拝啓、あなたへ。
    今日はまた一つあなたに話したい大切な思い出ができたので筆をとりました──

  • 173スレ主22/04/26(火) 21:34:21

    終わり!

    三十分近く遅刻してすみませんでした!

    次の安価でもう終わりそうかな、>>180

  • 174二次元好きの匿名さん22/04/26(火) 21:41:18

    ksk

  • 175二次元好きの匿名さん22/04/26(火) 22:13:55

    age

  • 176二次元好きの匿名さん22/04/26(火) 23:26:50

    ksk

  • 177二次元好きの匿名さん22/04/26(火) 23:32:38

    ksk

  • 178二次元好きの匿名さん22/04/27(水) 04:22:04

    保守

  • 179二次元好きの匿名さん22/04/27(水) 04:27:15

    ksk

  • 180二次元好きの匿名さん22/04/27(水) 04:28:03

    おハナさんとルドルフが見たいなぁ……
    ルドルフがトレセンを卒業するのが近くなって、史実での怪我やら何やら多かったルドルフ達を支えてくれたおハナさんに感謝する……的な

  • 181スレ主22/04/27(水) 10:35:26

    安価把握
    また21時頃に投下できるようにします〜

  • 182二次元好きの匿名さん22/04/27(水) 21:38:11

    夜の生徒会室。
    そこでシンボリルドルフは一人、座りなれたはずのデスクには座らず傍らに立ちながら、愛おし気にその表面を撫でていた。
    もうこのデスクに座ることもないからだ。
    彼女はとある出来事を機に引退を決意していた。
    その左足にはテーピングが厚く巻かれてる。
    繋靭帯炎。
    長い競争生活の中で幾多もの故障を乗り越えていた彼女であったが、ついにここで道を降りることになった。
    自分の選んだ道に後悔はない。
    しかしそれでも、名残惜しい思いが心の中で燻っている。
    そうしてどれくらいの時間が経っただろうか。
    不意に生徒会室の扉を叩く音が響いた。

    「む、どうぞ。」

    扉の向こうへ向かってそう答える。
    そうして姿を表したのは、チームスピカのトレーナーであった。

    「どうも、夜分にすみません。明かりが見えたものですからもしかしたら、と。」
    「いえ、しかしいったいどうされたのですか?」

    互いに礼を交わす。
    急遽現れたチームスピカのトレーナー、その表情は明るいものではなかった。
    彼はなにやら物憂げな表情で口を開く。

    「おハナさんのことなんですが。」
    「トレーナーが?」
    「はい、まだトレーナー室で仕事を続けているようで…その、貴方のために。」

  • 183スレ主22/04/27(水) 21:38:27

    彼の言葉を聞いて、ルドルフは眉をひそめた。
    彼女の怪我、そして引退騒動。
    そんな出来事が起こってタダで済むはずもない。
    毎日押し掛ける記者たちに憶測交じりに書かれる記事。
    その矢面に立つのはルドルフではなく、トレーナーであるおハナさんになってしまった。
    おそらく今日も諸々の対応に追われた結果、夜遅くまで仕事をしているのだろう。

    「そこでお願いが一つあるんです。」
    「私に…?」
    「会いに行ってあげてくれませんか、おハナさんに…あれで結構しんどい思いしてるみたいなんで。」
    「トレーナーが…。」
    「お願いします。」

    頭を下げようとするトレーナーに対し、ルドルフが手でそれを制する。

    「報恩謝得──貴方にはテイオーに関する恩義がある、それに、おハナさんは私にとっても大切なトレーナーです。」

    そうして逆に、ルドルフからスッと頭を下げた。

    「こうして伝えに来てくださったこと、感謝します。」

  • 184スレ主22/04/27(水) 21:38:44

    もう人影もまばらとなったトレセン学園。
    未だ明かりの灯っているトレーナー室に、ルドルフは缶コーヒーを二つ持ちながら足を踏み入れた。
    中に残っていたのはおハナさんただ一人。
    ドアの開く音におハナさんが反応し、ルドルフの姿を見ると小さく目を見開いた。

    「ルドルフ…どうしたの、こんな時間に?」
    「いえ、一人で感傷に浸るのも飽きたので、一杯お付き合い願いたく思ったんです。」

    ルドルフは小さな笑みを浮かべながらおハナさんのデスクに缶コーヒーを置く。
    おハナさんは彼女の急な申し出に少し驚いた様子であったが、時計を一目見ると大きく息をついた。

    「…一杯だけよ、ルドルフ。」
    「はい、トレーナー…いや、もう今はおハナさんと呼んでもよろしいですか?」
    「好きにしなさい。」

    二人そろって、缶コーヒーを開ける。
    そうしてゆっくりと一口目を飲み、ルドルフが口を開いた。

    「おハナさん──こう呼んだのは、貴女をトレーナーにすると決めて以来ですね。」
    「そうね…本当に長かったわ。」
    「昔はいろいろと迷惑をおかけしました。」
    「まったく…スズカもそうだけど、トレーナーの指示を無視して勝つウマ娘がどこにいるというのよ。」

  • 185スレ主22/04/27(水) 21:38:56

    思わず眉間にしわを寄せるおハナさんに、ルドルフが苦笑する。
    彼女が指示を無視したというのは日本ダービーでのことだ。
    事前に綿密に計画を立て、向こう正面からスパートをかけながら四コーナーで前に抜き出す予定のはずが、一向に彼女はスパートをかけない。
    結局四コーナー手前からスパートをかけ、蓋をされる前に先行集団を抜き去ると悠々とゴール板を駆け抜けた。
    しかしそんなもの、指示を出していたおハナさんの立場からすればたまったものではない。
    おハナさんは苦い顔のままコーヒーを一口飲む。
    コーヒーよりもよっぽど過去の方が苦い様子だ。

    「他にも菊花賞明けにジャパンカップに出るだなんて、無茶言ってきたときも頭を抱えたわ。」
    「日本のウマ娘が世界に通用することを証明する、それが皆の夢でしたから。」
    「嘘おっしゃい、ただ貴女が走りたかった──いえ、勝ちたかっただけでしょう?」
    「ふふっ、その通りです。貴女には敵わないな。」

    楽し気にルドルフが笑みを浮かべる。
    そんな彼女を見て、おハナさんもつい小さな笑みを浮かべてしまう。

    「おハナさん、ここまで歩んできた道は、私が選んだ道です。」
    「…その通りよルドルフ。トレーナーとして手は尽くしてきたつもりだったけど、むしろ私の方が教えられたことは多かった気がするわ。」
    「ですが、貴女がいなければきっと、ここまで道を歩んでこられなかった。」
    「ルドルフ…。」
    「私は走って、勝って、貴女に報いた気でいた。しかし厚顔無恥──今になってその傲慢さに気づきました。」
    「いいのよ、ウマ娘が見るものはただ一つ、ゴールだけを見据えていればそれだけで。」
    「そう思わせてくれたのはきっと、貴女がトレーナーだったからです、おハナさん。」

    ルドルフがいつの間にか空になっていた缶コーヒーを机に置く。
    そして彼女が深々と頭を下げた。

  • 186スレ主22/04/27(水) 21:39:11

    「ルドルフ…。」
    「貴女は私の理想を叶えてくれた、この恩は返せるものではありません。」
    「…。」
    「故にどうか、せめて誇ってください。私──シンボリルドルフの道を切り開いたのはおハナさんだと。」
    「それは私もよ…ルドルフ。」

    気が付けばおハナさんは椅子から立ち上がると、ルドルフの傍らに跪くようにしゃがみ込んでいた。
    座っていては見えなくなっていたルドルフの顔を見ながら、おハナさんが笑みを浮かべる。

    「貴女がいなければ今の私はないわ。東条ハナというトレーナーを作り上げたのは間違いなく貴女よ、ルドルフ。」

    そう言いながらそっと、おハナさんはルドルフのことを抱きしめた。

    「ありがとうルドルフ。貴女と走れたことをずっと、誇りに思うわ。」
    「私も、貴女と走れたことを誇りに思います──」

    ゆっくりとルドルフがおハナさんの背に手を回し、抱きしめ返した。

    「今までありがとう、おハナさん。」

  • 187スレ主22/04/27(水) 21:40:26

    終わり!
    今日も遅れてすみませんでした!
    ここまで安価に付き合ってくださって皆さん本当にありがとうございました!!

  • 188二次元好きの匿名さん22/04/28(木) 07:03:14

    全部良いssって凄い(KONAMI感)

  • 189二次元好きの匿名さん22/04/28(木) 18:30:26

    お疲れ様でした!

  • 190二次元好きの匿名さん22/04/28(木) 21:45:04

    保守

  • 191二次元好きの匿名さん22/04/28(木) 21:54:26

    最後のssで泣きました…

  • 192二次元好きの匿名さん22/04/29(金) 09:38:58

    まじで良かったです!

  • 193二次元好きの匿名さん22/04/29(金) 21:21:05

    ありがとう...またなんか書いてね...

  • 194二次元好きの匿名さん22/04/30(土) 09:10:26

    完走までは感想かくね!

  • 195二次元好きの匿名さん22/04/30(土) 20:19:55

    >>194

    良いスレだった...それと会長。

  • 196二次元好きの匿名さん22/05/01(日) 08:08:59

    おつかれさまでした!

  • 197二次元好きの匿名さん22/05/01(日) 19:39:16

    ありがとうございました!

  • 198二次元好きの匿名さん22/05/02(月) 06:43:21

    ほんとによかった

  • 199二次元好きの匿名さん22/05/02(月) 18:32:21

    ありがとうスレ主!

  • 200スレ主22/05/02(月) 18:39:48

    こちらこそ!
    みんな読んでくれてありがとう!!!

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