「あなたといると、月が綺麗ですね。トレーナーさん」

1◆GiMcqKsVbQ22/05/22(日) 09:11:22

「ロブロイ、月と鼈という諺がある。これは似たような物でも比較にすらならないほどの差がある、という意味だ」

「はい、そうですね。もちろん知っています」

「だが、月と鼈は一体どちらの方が良いと言っているんだろうか」

「月じゃないんですか？夜空に浮かぶ月は丸くて綺麗、対して鼈は泥の中にいる生き物ですから」

「俺はこう考える。古来より月というものは夜の象徴とされていた、陰陽で考えれば陰の存在だ。日本の妖怪たちは月の光で力を得るという。西洋でもウェアウルフのような月を見て変身する魔物がいたりする。つまり月は夜の闇の中に、手の届かない存在としての不気味の象徴でもあるわけだ」

「クトゥルフ神話では月にはクトゥルフの幼生がいるだの月の裏側にはニャルラトホッテプの奉仕種族ムーン・ビーストが住むとされます。夜という時間に一面しか見えないからこそ想像による恐怖や畏れが存在するわけですね」

「対して鼈は、まあ亀の甲羅もそうなんだが魔除けとされるものだ。鶴は千年亀は万年と言われるように長寿の縁起物として亀は知られている。鼈と亀は同一視されていたこともあって鼈の甲羅は縁起物、魔除けとされるわけだ。また、仏教では人の世は泥に例えられ、泥の中に住む亀、スッポンは人を悟りへ導くという。鼈鍋のように精がつく食べ物としても知られているし、身近で手が触れられる存在である鼈は良い物として扱われているんだ」

「つまり、トレーナーさん曰く月と鼈は鼈こそが良い物である、ということでしょうか？」

「そうだね。そして俺は手の届かない綺麗な月よりもすぐそばで君に吉兆を示す鼈でありたい、そう願っているよ。そうそう、さっきの返事だけど……俺も、君と2人でいると月が綺麗に感じるよ」

「…………もう、そんなのずるいですよ、トレーナーさん。ですが私も、鼈がいいです。泥に塗れようが強く生き続ける鼈はきっと、『英雄』の器でしょうから」

「なるほど。それじゃあ鼈同士月の裏側に何があるかでも考えてみようか」

「はい、トレーナーさん」