- 1122/08/07(日) 21:10:26
「違うんだよなあ、展開が無理やりすぎんだろコレ。読者からの抗議のメールでかまくら作れんぞ」
「読者って誰ですの!? 私も無理にとは申しません、ただ……」
「ただ?」
「友人としての関係では、一度学園を離れてしまうとぱたりと疎遠になってしまう場合がある……と、私のトレーナーさんが仰っていましたわ。たとえ毎日遊ぶような関係でも」
「今のは効いたぜマックイーン、ゴルシちゃんのギザギザハートにジャストフィットだ……。じゃあどうすればいいのか教えてくれよー」
「デートの手段といえばいくつかパターンはありますが……やめておきましょう。ゴールドシップさん。貴女は貴女らしく想いを伝えるべきです。きっとその方が、想い人も喜んでくれるのではないでしょうか」 - 2122/08/07(日) 21:10:58
間違いない。ゴールドシップはご機嫌斜めだ。
トゥインクルシリーズを駆け抜ける慌ただしい日々の、束の間の休息。トレーナーを務める私は担当ウマ娘のゴールドシップを誘って海に出かけていた。
海をチョイスした理由は、彼女は海が好きだろうと思っていたからだ。海ではいつも高い彼女のテンションがうなぎ登りになる。宝探しにはしゃいだり、バレンタインに鯛の刺身を振舞われたり。気分転換には最適だろうと、思っていた。
「ん、おお、何だ? マボロシじま見えたか?」
私の視線に気づいてこちらをのぞき込むゴールドシップ。一見平常運転のように見えるが耳をわずかに絞り、しっぽを激しく動かしている。
「何しよっか、ゴルシちゃん」
「実はアタシも悩んでたんだよな、お宝さがしも漁も海底遺跡探索も、目ぼしいことは全部やっちまったんだよな。このまま浜辺でぐっすり……あ、ぐっすりはグッドスリープの略じゃねえから気を付けろよ、そんなこと言うやつはハガキを沼に沈めてやっからな」
長い付き合いで分かったことだが、彼女は以外と気配りができるタイプのようだ。冗談を真に受けがちなライスシャワーにはジョークは控えるし、所謂「ダル絡み」も相手を選んでいる。そんな彼女が隠し切れないほどの苛立ちをおぼえているのは一大事かもしれない。
「焼きそばでも買ってこよっか。ゴルシちゃん焼きそばの参考になるか――」
「いや、今日はダメなんだトレーナー。アタシの守り神である空飛ぶ焼きそばパン・モンスターに祈りを捧げる日なんだ。腹減ったならコレでも食っとけ」
勢いよく突き出されたそれは、トルコ名物、サバサンド。お言葉に甘えてかぶりつく。炎天下対策でクーラーボックスから出したばかりのそれは、一切の生臭さがなく、しっかり下ごしらえをしたサバのほのかな酸味と硬いバゲット、野菜の水分が高水準のバランスを形成していた。何度も驚かされるが、本当に器用な子だ。そして、合点がいった。 - 3122/08/07(日) 21:11:28
「美味しいよ、ありがとう。」
「おう、感謝しとけよ、銀河系を生み出したビッグバンに」
「それと、ごめんね。せっかく用意してくれたのに海に連れ出して、手間かけさせたね」
少し機嫌の直ったゴールドシップ。得意げな笑みが、もっと「いい」笑顔に変わっていく。その表情は、レースに勝利した後に繰り出される、アレだ。
「食ったら動けよー! 健康診断引っ掛かるギリギリだったんだろー?」
投げ飛ばされ、一面の海目掛けて宙を舞う。何だ。何がマズかったんだ。そもそもマズかったかどうかすらわからない。
口にのこったご馳走を飲み込んだ直後、遠泳ソロが始まった。 - 4122/08/07(日) 21:12:12
ほうほうの身体で岸にたどり着いた――最後は見かねたゴールドシップに背負われて――頃には、日が傾いていた。
「いやワリーワリー、唐突にエキサイトしちまってな。でも海行きたいって言うんなら泳がないとだろ?」
「……まあ、いい運動になったのは確かかも。じゃあそろそろ帰ろうか」
「おう。さーて、これからどうすっかな」
「どうするって、帰って休んで――」
「いや、アタシは未来を見ているからな。なんつーか、その、アレだ。スーパーゴルシちゃんでいられるのも、あと少しなんだろ? スポーツドクターも言ってたぜ、正常に衰えているってな」
「……ゴルシ」
「おう、でもアタシは走るぜ、もう追い込めないくらいヘロヘロになるまでな。けどなー、どうすっか……前も言ったろ、今まで本気でアツくなれたのはレースだけだって。ひよこ鑑定士やってもきのこ鑑定士やってもきっと飽きちまう。」
ゴルシならどこでも大丈夫。と言いかけて口をつぐんだ。その信頼は、突き放しと表裏一体だったのではないか。踏み出すことを恐れて言い出さなかったことを、今伝えるべきかもしれない。
「……じゃあ一緒にやろう。二人でやると飽きないと思うよ、宇宙大将軍でも宇宙海賊でも。今度はきみを退屈させないから」
夕暮れの海は寂寥を引き起こすのか。そんな彼女の横顔を見ていると、いつか聞いた冗談ではなく、本当にどこかに消え去ってしまうような不安を掻き立てられた。
反射的に彼女のもとに手を伸ばし、彼女の両手に絡めとられた。慈しむように見下ろし、両手で愛撫を始める。夏の魔物のせいか、心臓が早鐘を打ちだした。
両手をすり抜けると、左手の薬指にワカメが巻き付いていた。
「やべえぞトレーナー! ポセイドンの怒りに触れちまった!そのワカメをアタシの脚に戻さないと呪いは解けねえぞ! 早く捕まえろアタシを!」
「じゃあなんで逃げるの!? しかも海の中!?」
「今のゴルシちゃんは魂だけレッドホットだぜ! つめたい水が欲しかったところなんだよ! 世の果てまで追いかけて来い!」
浜辺の鬼ごっこは、日が沈みビーチが冷えるまで続いた。 - 5122/08/07(日) 21:12:36
「それで、上手くいきましたの?」
「ぼちぼちってとこかな」
「貴女の距離感なら、はっきり伝えるべきだと思いますが……まあいいでしょう。貴女は貴女のペースが一番ですから」
「ああ、それと一番の目標は達成したからな、ほれ」
「……その小箱は……まさか」
「ああ、さっき話したワカメを結んだくだりで、ワカメの下に隠してサイズをな」
「貴女は本当に器用というか……数段飛ばしで凄いことをしますのね」
「最後のミッションは本当の持ち主に返すことだけどな……まあじっくりやるわ。ありがとなマックイーン。お礼に美味いパンケーキの店を……あっトレーナー! あの追いかけっこまだ続いてんだ! 悪いまたな!」
「待って! せめて店の場所を! ゴールドシップ!」 - 6122/08/07(日) 21:14:15
- 7二次元好きの匿名さん22/08/07(日) 21:30:10
あにまんまん
- 8二次元好きの匿名さん22/08/07(日) 21:35:20
よかった。
- 9二次元好きの匿名さん22/08/07(日) 21:50:55
あにまんまん
- 10二次元好きの匿名さん22/08/07(日) 22:47:34
あにまんまん