- 1121/10/13(水) 00:50:10
ありがとう。皆さんと駄弁りながらだけどパート2も完走できたみたいです。
このスレは引退の時に思いを伝え損ねたけど、再会後に同棲することでトレーナーさんと燃え上がってしまったエイシンフラッシュさんアンドモアのSSスレです。たまにルドルフとかチャンネーもでてきます。たまに。
基本的に社会人フラッシュとトレーナーさんがイチャイチャするだけです。歯止めがききづらくなってる二人をお楽しみください。興味があれば過去スレから読んでみてね。
第一弾
お久しぶりです、トレーナーさん|あにまん掲示板「ああ、久しぶり、フラッシュ。…そんな風に君に呼ばれるのも、本当、懐かしいな」 トレーナーと呼ばれた男は眩しそうに目の前の妙齢のウマ娘をみる。フラッシュと呼ばれた女性は、懐かしむように目の前の男と視線…bbs.animanch.com第二弾
[SS]卒業後フラッシュとトレーナーさん|あにまん掲示板気がついたら完走してしまったようなので前作https://bbs.animanch.com/board/75583/同じかんじでフラッシュとトレーナーのイチャイチャ話を思いつき次第投下予定。ただ前回ほ…bbs.animanch.com - 2121/10/13(水) 00:52:41
- 3二次元好きの匿名さん21/10/13(水) 00:52:51
なんだこの鉱脈!? 勝手に金が湧いてくるぞ!?
- 4121/10/13(水) 00:57:35
- 5二次元好きの匿名さん21/10/13(水) 01:00:42
10レスまでいけばとりあえず長時間保守できるぞ!
- 6二次元好きの匿名さん21/10/13(水) 01:02:05
トレーナーといちゃつくフラッシュは万病に効く
- 7二次元好きの匿名さん21/10/13(水) 01:02:36
いつもありがとうございます!
- 8二次元好きの匿名さん21/10/13(水) 01:02:40
前スレ完走おめでとう!
自分のスレでも勝手に祝ったけど、こっちにも保守ついでに - 9二次元好きの匿名さん21/10/13(水) 01:03:27
イチャイチャはいくら摂取しても摂取し過ぎるという事は無い
- 10121/10/13(水) 01:10:19
一応まとめ
・エイシンフラッシュ
主人公でヒロイン。トレーナーさんと四年を駆け抜けたものの、引退時に告白できなくて別れたままドイツに帰りマイスターへの道を歩むことに。日本で修行できる機会を与えられ、再度思い出の地を踏む。再会初日から同棲を持ちかけるという恐ろしい行動にでたものの、至って順調にトレーナーさんとの絆を育んでいる。歯止めはききづらくなっている。
・エイシンフラッシュのトレーナーさん
フラッシュのヒロイン。フラッシュと四年の栄光の道を歩むも、その思い出が大きすぎて新たな道を踏み出すことができなくなってしまっていたが、フラッシュとの再会を経て持ち直すと同時に、トレーナーとウマ娘という関係を抜きにしても彼女に惹かれていくことに気がつく。歯止めはききづらくなっている。 - 11121/10/13(水) 01:10:52
あ、ありがとう!
なんか結構みてくれてるのかひょっとして!? - 12二次元好きの匿名さん21/10/13(水) 01:10:55
あと97スレ分頑張ってくれよな!!!!!
- 13二次元好きの匿名さん21/10/13(水) 01:15:36
このスレを見に来るのが日課になってしまったぜ
体調に気をつけて毎秒イチャイチャしろ - 14121/10/13(水) 01:19:03
・ルドルフのトレーナー
教官の立ち位置になっているフラトレの上司的立ち位置の存在。塞ぎ気味だったフラトレの面倒をみていた関係もあり、フラッシュとトレーナーの関係を応援している。それはそれとしてフラトレとは相性がいいので手元に居てくれるとありがたいなとは思うものの、フラッシュと結ばれたらドイツにいくんではという懸念も持ってたりする。
・ルドルフ
ルドトレの関係で希にフラッシュとフラトレにかまう。まだ駄洒落でルドトレを崩すことは出来ていないが、それもまたよしとは思っている。
イチャイチャを憚る気があるように見えないフラッシュを少し羨ましく思っているが、そのことを旧生徒会メンバーに話したら絶句されてしまった。 - 15121/10/13(水) 01:25:05
・マルゼンスキーのトレーナー
エイシンフラッシュのドイツ帰省時にふとしたことで出会った人物。本人はマルおね一筋なのでフラッシュとプチデートみたいな形になったことは許して…いや、やっぱり許さなくていいよ。
・マルゼンスキーさん
強烈な人気を誇るレジェンドウマ娘。フラトレもグラビアを所持している。フラッシュからは現役時代は絡みがなかったこともあって凄い先輩くらいの印象だったが、上記のブックがフラトレの部屋にあったことで一躍ヤキモチの対象としてリストアップされることとなる。彼女についての話しはおいおいね! - 16121/10/13(水) 06:54:06
・フラッシュの勤める洋菓子店の見習い
フラッシュに叶わぬ願いと妄想を抱く見習いクン。今日も血の涙を流す。トレーナーを死ぬほど羨ましがってる。
・洋菓子店の先輩
フラッシュが技術等を教わる先輩。アドバイスを色々貰ってる。トレーナーさんがヤキモチをよくやく。フラッシュのことは可愛くて才気に満ちた女性として見る一方、トレーナーとの関係をみてあの重さに付き合えるのは凄いとトレーナーに感心している。
・エイシンフラッシュの両親
フラッシュのことを陰日向にドイツから支える両親。トレーナーさんのことは、ファーストインプレッション、秋天での再会、来独時にもてなしたことを通じて、彼が娘と一生をともにしてくれればと思っていた。母はトレーナーとウマ娘という関係の難しさに一抹の不安を持ってはいたよう。
フラッシュからの連絡で二人の関係が良好になったことは喜ばしいが、ちょっと彼に溺れすぎと釘を刺してもいる。 - 17121/10/13(水) 07:21:59
本日の投下も夜になる予定です。
内容的には今のところは昨日投下の内容の後日談的な形になるかなと。 - 18二次元好きの匿名さん21/10/13(水) 16:50:25
感
謝 - 19二次元好きの匿名さん21/10/13(水) 18:35:19
part3だと!?ありがとう…(成仏)
- 20121/10/13(水) 20:03:46
お待たせ。前スレラストのフラトレの続き。今回はフラッシュまわりです。
ピッと通話を切る音を立てた後、荒い息のエイシンフラッシュはベッドに寝そべり天井を見る。数秒の間の後、声にならない声をあげるフラッシュ。
「~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!」
ばたばたとベッドの上で水着姿で悶える姿は滑稽にも見える。顔を真っ赤にして掌で覆い隠す。
水着の自撮りにちょっときわどいポーズを愛しのトレーナーさんに送り付ける。下手をしたらトレーナーさんにいやらしい女に見られる可能性がある。いや、本当に下手をしたらか?やってしまった、と水着姿のまま肩を竦めるエイシンフラッシュ。とぼとぼとシャワールームにまで歩いて、汗をさっと流してパジャマに着替える。まずかった。色々まずかった。トレーナーさんの喉がカラカラになるのまで声で伝わっていたから、自身の昂ぶりがエスカレートしてしまっていた。そのくせ、彼に要らぬ一言を言ってしまった。
「我慢できますよね、帰ってくるまで」
他はともかく、この一言で彼を煽るのにとどめをさしてしまった感もある。精一杯余裕のある演技をしてしまったが、ひょっとしたら彼には露見しているかもしれない、なんていう考えがよぎる。実質はフラッシュに極限まで煽られた彼に判断能力などなく、耐えるために全神経を集中させるのに精いっぱいであったのだが。お気に入りのグレーのパジャマで枕をかかえてぽふっとベッドに体を沈ませる。まだフラッシュの顔は真っ赤である。エスカレートして煽るに煽った結果、自分のことを結果的に煽ってしまっているという最悪のパターンである。とはいえ、少しだけシャワーで冷ました体を、無理に眠りにつかせることとした。トレーナーさんが悪いんですよ、なんて、自分でもそうではないことを分かっている愚痴を呟きつつ、もじもじとしながら眠りについた。 - 21121/10/13(水) 20:03:59
「おはようございます!皆さん」
「おはよう、フラッシュちゃ…フラッシュちゃん?」
翌朝の洋菓子店。午前はいつも以上にテキパキとした動きでエイシンフラッシュはケーキつくりに勤しむ。ただいつもの余裕を持った微笑みはなく、無心で仕事をこなしていく。様相としてはルーチンワークの達人といった形にすら見える。
「なんか、今日のフラッシュちゃん鬼気迫っているよな……どうしたんだろ?」
微妙に話しかけづらい雰囲気だが、仕事上の問題は今のところない。
「さぁ、トレーナーさん関連かねぇ」
「そうかも。彼関連で態度に出易いのがフラッシュちゃん唯一の難点だよなぁ」
とはいえ、職人として有り余る貢献をしているフラッシュの難点は、店のメンバーから見れば可愛いものではあった。心地よいリズムで仕事を進めていくフラッシュに、他のメンバーもあわせていった。音が鳴りやむ頃に、開店準備は完了である。 - 22二次元好きの匿名さん21/10/13(水) 20:14:51
待ってたぜ
ベッドでバタバタ悶えるフラッシュかわいすぎか - 23121/10/13(水) 20:16:42
一仕事終えてふぅ、と額の汗を拭うフラッシュ。仕事というのは雑念が取り払えるものである。ありがたいことではある。が、こうして気を抜くと、どうしても変に昂ってしまった昨夜を思い浮かべてしまう。トレーナーさんも今頃大変だろう。いや、大変であってほしい。自分だけがこうだと、完全に卑しい女みたいになってしまう。
「フラッシュちゃん、お疲れ」
「ひゃい!?」
急に声をかけられると、店のメンバーの男性が目を丸くしていた。それはそうである。いつも通りの労いの言葉をかけたら甲高い裏がえった声がかえってきたのだから。
「だ、大丈夫かい?フラッシュちゃん」
「は、はい!大丈夫!です!」
すささ、と何故か距離を取り始めるフラッシュに若干傷つくが、表立ってそういうことはいいづらい。あまりの態度に何かやってしまったのかと冷や汗を流す。
「な、なんか失礼なことした?俺」
「い、いえ、そういうわけではないんです。今日は、ちょっと……」
白い肌を少し紅潮させているのが、どこか艶やかに見える。グッドルッキングを謳われたウマ娘の容色は更にしっとりとした輝きを増しているせいで、慣れていなければ劇物にすらなりうるものである。吐息が少し荒いが、苦しみ故というより違う風に聞こえて、思考がフリーズしそうになる。ヤバい。これはヤバい。が、フリーズしている間にフラッシュはその場を去ったようで、ほっとした半分、残念半分の気持ちに男はなるのであった。 - 24121/10/13(水) 20:38:04
すれ違い様に肩がぶつかった程度でもひゃ、なんて過敏な反応をするので、さすがに周囲に心配されるフラッシュ。大丈夫ですから、といいつつ心配半分、妙な色香をそこから感じて困ってしまう半分の周囲の職人たち。ともあれ、今日は店自体は早じまいである。試作の意見交換会が予定されている為である。今回は自分が試作を出す回でなかったことがフラッシュにとっては救いであった。
「…フラッシュちゃん、フラッシュちゃん?」
「…ひゃん!?」
声を掛けられると背中をぴん、として裏返った声を出す。気が付けば試作が前に並べられている。様子を見て心配そうにする先輩たち。
「本当に大丈夫かい?体調悪かったら無理しないように」
「は、はい。本当に大丈夫です。体調の問題ではありませんから。皆さんにご迷惑はおかけしません」
既にちょっとかけているが、そこを突っ込む真似はあえてしなかった。並べられたチョコレートケーキをフォークで一口分のせる。
「では、頂きます……」
肌を上気させたフラッシュが目を細めて、フォークを口に運ぶ。普段より仕草が緩慢なのにどこか色気を感じて、周囲も息をのむ。濡れた唇を小さく開けて、舌をちょっとだけ伸ばしてケーキを舌にのせる。そのまま閉じた唇からフォークをゆっくり抜くようにする。ゴクリ、と生唾を飲む音が聞こえる。
「ん……」
うっとりしたようにケーキを口に含み、咀嚼する。口に出たのは、単純な言葉。
「おいしい……」
陶然とした語調に周囲がさらに静まる。はっと我に返ったパティシエは、フラッシュちゃん、いつもの講評は?と言葉をせっつく。首をこてんと傾げるフラッシュ。やはり尋常のフラッシュでない。これ以上場がおかしな雰囲気にならないよう、皆で帰宅を促すこととなった。 - 25二次元好きの匿名さん21/10/13(水) 20:40:25
かーっ!かーっ!
- 26121/10/13(水) 20:45:08
着替えるよう促されて、私服に着替え始めて少しだけ頭が明瞭になってくる。醜態を晒したのも恥ずかしいが、私的な情けない事情によるものだということが流石にフラッシュには答えた。が、このまま仕事していても恐らくまた同じようになってしまう可能性がある。皆に深々と頭を下げつつ、こういうことはないようにします、と告げるフラッシュ。眼福だったから、とか余計なことを言う男には他のパティシエから肘鉄がくらわされつつ、急ぎ足で自宅に戻ることになる。それを見送る店員たち。
「フラッシュちゃん、今日はやばかったな……」
「ああ、色んな意味で……」
明日には治っていることを祈りつつも、先ほどのつややかな仕草を思い浮かべてしまって、正直眼福でした、ごめんなさいという気持ちも抑えがたい野郎どもであった。 - 27121/10/13(水) 20:54:36
「……何をやっているんでしょう。私」
自己嫌悪を深くして、パジャマ姿で枕にぎゅっと抱き着く。珍しく涙目である。明日、明後日はおそらくルーチンの仕込みのみで、専念すれば今日のような醜態はさらさないとは思うのだが、一抹の不安は過る。
「うう、トレーナーさん~~~~!!!」
いろんなものを発散したいが、発散できなくて腕をじたばたさせてタオルケットをくしゃくしゃにするだけである。ふぅ、と息をつけば、そろそろいつもの時間である。愛しいトレーナーさんとの会話の時間だ。このままだと色々危険なので、とりあえず昨日のあれはなかったことにならないだろうか。トレーナーさんも我慢の限界がきているはずだ。許してといってくれるかもしれない。うん。変な期待をしているフラッシュに、一通のメッセージが届く。もちろん彼からのメッセージだが、とびついたフラッシュは文面を目にして耳をふにゃっとしてしまう。
「ごめん、今日はお話できない。君とお話したら、君との昨日の約束破ってしまいそうだから」
その場にへたり込んだフラッシュは、目じりに涙を浮かべたまま、ベッドの上で膝たちで、独り言ちた。
「……トレーナーさんの、いじわる……」
あまりに理不尽なフラッシュの一言は、出張中のトレーナーの耳には届かなかった。 - 28121/10/13(水) 20:56:01
了!
…トレーナーさんを煽るのはほどほどにね!という話でした。
というわけで今回のスレでもSSを少しづつかいていくからよろしくお願いします。 - 29二次元好きの匿名さん21/10/13(水) 21:20:08
俺にも肘鉄頼む
- 30121/10/13(水) 22:32:07
- 31121/10/13(水) 23:26:07
明日も夜中更新予定です。少し穏やかなフラトレになるか、マルおね回想かどっちかになると思う
- 32二次元好きの匿名さん21/10/14(木) 08:31:18
更新楽しみ
保守 - 33二次元好きの匿名さん21/10/14(木) 14:43:27
保守
- 34二次元好きの匿名さん21/10/14(木) 19:03:58
- 35121/10/14(木) 20:21:22
- 36121/10/14(木) 20:24:07
今晩分を投下します。
フラトレですが、出張編ではなくてもうちょっと後のちょっとしたお話です。 - 37121/10/14(木) 20:32:29
エイシンフラッシュとトレーナーは当然、毎晩同じ食卓を囲む。トレーナーの用意した食事に舌鼓を打つ。健康に配慮したメニューになることが多く、味付けも少々薄味ではあるが、滋味が深く飽きがこない。舌鼓を打つ彼女だが、ちらりと目の前のパートナーに目線をやると、少しこちらをちらちらと見ながら何やら悩んでいるようでもある。
「どうしたんですか?トレーナーさん」
「いや、ちょっとね……」
「言いよどむなんて珍しいです。何か私に言いづらいことが?」
「そういうわけじゃないんだけどさ」
言い淀みながらも意を決したようにトレーナーはちょっと待ってて、と席を離れる。そして差し出してきたのは一冊のパンフレット。それを手に取るフラッシュはどこか懐かしそうだ。
「聖蹄祭のパンフレット…。懐かしいですね。あれ?でも、残念ながら今年に関してはとっくに終わっていますよね」
とうに聖蹄祭の季節は過ぎている。フラッシュも日本の地を再び踏むタイミングより前だったので、今年のには足を運べていない。
「ああ、そうなんだけど、実はさ、来年のことなんだけど」
「来年、ですか?」
「君に打診してほしいって依頼が来たんだよ。OBとしてステージに上がって欲しいって」
いいづらそうにする彼の意外な申し出に、目をぱちくりとさせるエイシンフラッシュ。私が?と自分を指さした。トレーナーはこくんと一つ首を振る。
- 38二次元好きの匿名さん21/10/14(木) 20:34:16
- 39二次元好きの匿名さん21/10/14(木) 20:36:22
- 40121/10/14(木) 20:58:25
「うん。チーフに打診してみてくれないかって言われてね」
「私が、ですか……」
当然レースのウィナーとして何度となくステージには上がってきたフラッシュではあるが、イマイチ実感がわかない。これが友人であるスマートファルコンに、ならわかる。勝者の凱歌としての、あるいは健闘の証としてのウィニングライヴならともかく、聖蹄祭に求められるのはスマートファルコンのような場を盛り上げ、皆を楽しませるようなステージに自信は無い。
「いや、もちろん君が嫌だったらすぐに断ることを伝えるよ」
「いえ、嫌というわけではないですが、何故私が?」
その問いにトレーナーは不思議そうに首を傾げた後、納得して苦笑した。
「ああ、そういうことか……。うん、君のステージは、君が思っている以上にずっと魅力的だったよ」
もちろんグッドルッキングを謳われる美貌のウマ娘である、という点も大きい。しかし、それを差し引いても彼女の実直さの溢れた、清廉さの極みともいえるパフォーマンスに、澄み渡るようなヴォーカルに一番惹かれていたのは自身であるのは間違いないが、多くのファンの心もわしづかみにしたであろう。その走りに秘められた精悍さが、ステージ上の美貌にも十二分に反映されていた。
真正面から言われて頬にさっと朱が差すエイシンフラッシュ。
「貴方にそう言われては、自信がない、とは言えませんね。しかし……」
懸念点はいくつもある。うん、とうなずいたトレーナーは彼女の逡巡を否定しない。
「そうだね。すぐに答えを出せっていう話ではないし、君が無理をおして、とかそういう形になるのはよくないし、そもそもそういう状況になるなら俺がすぐに断るつもりでいるよ」
「ありがとうございます。ちょっと考えてみますね」
「うん、それがいい。決まったら俺に教えてくれ。詳細をもうちょっと聞きたいっていうのであれば気軽に聞けるし聞いてくるよ。取り仕切りはルドルフ会長だし」
「会長が、ですか」
自身が在籍していた時もだが、それにしても精力的な会長である。
「ああ、なんなら直接連絡してきてもいいとは言っていたけど」
一応連絡先、と聞かされたルドルフのアカウントを設定して、とりあえずこの件については暫く頭の片隅においておくことにした。 - 41121/10/14(木) 21:33:44
「やぁ、エイシンフラッシュ、私に連絡ということは、君のトレーナー君から伝えた来年の聖蹄祭の件についてだろうか」
「はい、打診をいただきありがとうございます。光栄です」
涼やかでクールな声が電話越しに響く。よく通る声だが、聴いていると心地よさとほどよい緊張感がある。皇帝シンボリルドルフは威容をたたえられるウマ娘ではあるが、それ以上にいたわりの心溢れるウマ娘である。
「いくつもの栄光を得た君にとってみれば当然のことのように思うが。ふむ、まだ心を決めてくれたというわけではないようだね」
逡巡を声色に乗せたのを見抜かれたフラッシュは、そのまま思いを伝える。
「ええ。その、どちらかというと本心を言えば、お断りを考えています」
「ほう?それはどうして?」
「ええ、それは…やはり、私はターフもステージも離れて久しいですし、集まって皆さんを落胆させてしまうことになるのではないか、と」
日々の運動等を欠かしているわけではないが、ダンスもヴォーカルも磨かなければやはり錆びるものである。その状態でステージに上がるのは、かつて応援してくれた人々にも失礼というものである。
「ふむ、当然の心配だね。でも、一年先のことだ。君の場合、本業もあるからどうしても合間になってしまうのはわかるが、錆をとる為のバックアップは惜しまないつもりだよ」
もちろん、練習、リハーサルを経て少しでも輝きをとり戻すことは可能だろうが、それはそれで相応の負担となる。トレセン所属時と違い、走りと両立する必要はないにしても、洋菓子店勤務と二足の草鞋でやっていかねばならないので、時間をどうしてもとってしまうことになる。それはあまりフラッシュにとっては喜ばしいことではない。
「その……やはり、トレーナーさんとの二人の時間を大事にしたいので」
本音をぽろりと漏らすと、ふむ?とルドルフが意外そうな声を上げる。
「む、ひょっとして、君のトレーナー君は伝え損ねていたのかな?」
「え?」
「……いや、まだそこまで私から話していなかったか。迂闊というものだな。先にこちらの話も通しておく必要があったか。ふむ、時にエイシンフラッシュ、君は聖蹄祭のゲストに呼ばれるウマ娘は、幸せを掴みやすい、なんて巷間で囁かれているをの知っているかな?」
そう問いかけるルドルフの声の調子は軽かった。 - 42121/10/14(木) 21:51:44
フラッシュの耳がぴくっと立つ。いや、彼女自身は現在幸せの絶頂なので、飛びつくところではないのだが、気になりはする。
「いえ。どういうことでしょうか?」
「ふむ、だが、ああ、しまったな。このジンクスは特に今の君たちには有効に働きそうにないな。君を釣る餌にはなりえない」
苦笑を含む会長は持って回った言い方をする。本人はそのつもりはないのだろうが。
「いやね。幸せを掴みやすい、というのはね。仕掛けがあるのだよ」
「仕掛け、ですか?」
「うむ。聖蹄祭に呼ばれるウマ娘というのはね。どうしても一定以上の功績をあげ、巷間に名の知れたウマ娘ということにはなる。ほとんどの場合はそういったウマ娘は、現役時代に専任トレーナーを経たものが多い。更に言えば、引退までの最も長い時間をその専任トレーナーとの時間が占められていた、という場合がこれまたほとんどだ」
エイシンフラッシュがその例の一人であることは言を俟たない。
「引退というのはね。そのトレーナーとの関係に一つのケリをつけることになる。それがどのような形になるかはさておいて、だ」
このこともフラッシュには実感がある。あの時の選択は決して良いとはいえないもので、おかげで長く苦しみはしたが、だからこそ今があるとも言える。不思議なものだ。
「マルゼンスキーのように生涯を誓い合う仲のようになることもあれば、タマモクロスのように固い友誼という新たな関係を築くものもいる。逆に、それまでを過去の思い出としてしまうことになるウマ娘も多い…君もこれにあてはまるね。まぁ、今の様子は君のトレーナー君からも見てとれるから、真逆にはなるのだが。聖蹄祭にゲストに呼ばれたウマ娘が幸せをつかみやすい、とされるのはね。この最後のパターンにあてはまったものだ」 - 43121/10/14(木) 22:13:11
「つまり?」
「うむ、つまりだな。今の君と同じ状態…というのは憚られるか。流石に君と君のトレーナー君ほどには劇物のような環境に置くことはないのだが。まぁ、つまり今の君にはあまり美味しくもない話だということは承知しておいてくれ。その上でだね。まぁ、数年離れてしまった担当バとそのトレーナーを思い浮かべてくれないか」
「……はい」
自身の場合、告白できなかったことの…否、彼と添い遂げられなかったことへの無念が今にして思えばあったのだから、状況を重ねるのはふさわしくないように思うが情景を思い浮かべる」
「うむ、聖蹄祭のステージとなると、君も懸念したように、やはりそれなりに練習やリハを重ねてステージに立たねばならない。出演依頼をするこちらとしても、当然その為の場は設けることになる」
「……そうですね。学園の設備をお借りすることができれば、幾分かは感覚を取り戻すための助けになるかも」
「ああ、それは当然としてだね。こちらは諸事情を鑑みてのことにはなるのだが、練習やリハーサルの為にはトレーナーが必要になるだろう?」
「……ああ!なるほど」
ようやくルドルフの言いたいことに納得がいった。
「そう、つまり、最も招待されるウマ娘を熟知しているであろう、かつてのトレーナーに依頼することになるわけだね。もちろん、現在の担当ウマ娘を優先することになるし、制約はあるのだが、これが旧交を温めるきっかけになってね。加えて言えば、引退しているわけだからしがらみもない。まぁ、それこそ今の君たちみたいなものだよ」
「現役時代にあった気持ちへの縛りがなくなる、ということですものね」
ルドルフのいうように、それは実感としてある。遠慮をする必要と、言い訳の必要がないのだ。練習帰りに新たな関係を育むものもそれは少なくはないだろう。そういうことだね。とルドルフは電話越しに頷く。
「というわけで、まぁ君と君のトレーナー君にとってはとっくにそんなところ過ぎているわけだから、そういう幸せを掴むという点で美味しい面はないわけだが、君のトレーナー君は教官待遇だからね、自由が比較的ではあるがききやすい。というわけでだ、学園としてはターフでの走りの為の、ではないが…」
「ちょっとだけ、またトレーナーさんに教わる関係になれる、ということですね」
若干食い気味のフラッシュにルドルフは、あ、ああ、と面喰う。 - 44121/10/14(木) 22:27:35
「真っ先にその条件を提示してくだされば、悩む時間を使わずに済みました」
「ほう、そんなに魅力的な条件かね?」
「はい。十二分に」
フラッシュの迫力に皇帝は珍しく押される。優雅な外見に似合わず剛直である、とは誰の評だったかは思い出せないが、適切な評である。
「では、君のトレーナー君を君につける時間を十分に与えるという条件つきならば、受けてくれるということかな?」
「はい。私とトレーナーさんで、聖蹄祭を彩って見せますとも」
誇りに満ちた声色に、ルドルフは来年に期待を膨らませる。
「比翼連理。羨ましい限りだ。そうそう、ステージの内容についてだが、詳細は追ってとはなるのだが、ある程度自由がきいてね。君と、君のトレーナー君の意見も容れたステージにしたいと思っている。君が来るだけで十二分な目玉ではあるのだが、君には持ち歌がなかったからね。それに代わる大きな目玉も、君の良人ならば考えつくだろう。君の良さをもっとも知っているわけだからね。いや、そういった面は独り占めしようとするかな?」
「かもしれません。…一緒に住むようになってから、ヤキモチ妬いてくれることも多いですから」
「ほう、それは本当に羨ましいね。私のトレーナー君もそういうかわいらしいところをたっぷり見せて欲しいものなのだが……」
そうして夜は、お互いのトレーナーに対する愚痴という名の自慢を重ねることで過ぎていった。翌年の聖蹄祭に至るまでのお話は、またいずれ。 - 45121/10/14(木) 22:30:11
了。
今回は甘さなしの導入みたいなかんじでしたので物足りなかったらご容赦を。
続きがあれば甘い感じになるかもしれません。
それではまた明日! - 46二次元好きの匿名さん21/10/14(木) 22:36:14
WDTといい聖蹄祭といい…さては用語集読み込んでおるな?(知らなかった)
- 47二次元好きの匿名さん21/10/14(木) 22:45:12
推しのSSが毎日投下されることが私の人生にどれほどの彩りを与えていることか……
いつもありがとうございます - 48二次元好きの匿名さん21/10/14(木) 23:09:12
- 49二次元好きの匿名さん21/10/14(木) 23:17:59
今日もありがとうございます(五体投地
これはフラッシュとフラトレのイチャイチャを見た現役バが、掛かったり気ぶったりするヤツでは…?
後の甘々に備えよう - 50二次元好きの匿名さん21/10/14(木) 23:30:03
- 51二次元好きの匿名さん21/10/15(金) 01:36:37
この二人の惚気合戦とか凄まじい破壊力を感じるのですが
本日もありがとうございました〜 - 52二次元好きの匿名さん21/10/15(金) 10:33:47
保守
- 53121/10/15(金) 12:05:01
- 54121/10/15(金) 20:35:14
お待たせです。
予告通りプチですがフラトレ。
来年の聖蹄祭りへの出演をスケジュールに書き加えた後のある日の出来事です。 - 55121/10/15(金) 20:45:41
「つ、疲れた……」
久方ぶりにオーバーワークといった態である。同居人、という言葉よりは愛しい彼女といった方がいいであろう、エイシンフラッシュには帰宅時間を告げてはいた。食事の準備しなくていいし、先に寝ててね、とメッセージを送ったが、その言葉は聞き入れられなかった。夕食はご一緒します、との一言。彼女を待たせることの申し訳なさもあるが、それ以上に彼女がそう言ってくれることを嬉しく思っている自分に気が付く。予定時刻ぴったり、鍵を開けて玄関を開ける。
「おかえりなさい、トレーナーさん」
ただいま、というより先に彼女にそういわれるのも、ここでは珍しくない。いつも通り、優しく労いの言葉をかけてくれる彼女に、いつも通り、帰宅を告げる。
「おかえり、フラ……」
が、いつもお通りに待ち構える彼女に対して、言葉がつまるトレーナー。瞼をぱちくりとさせて、擦ってから再度、愛しい人を眺める。足先から、頭まで。そうして再び絶句する。
「お、お疲れ様です…」
愛するトレーナーの視線を感じて頬を少しだけ紅潮させる彼女。トレーナーが絶句したのは、見慣れない彼女のいで立ち。いや、それなりに見慣れてはいたはずだが、さすがに最近はお目にかかる機会などなかったものになっていたからである。そう、玄関前でトレーナーを待ち構えていた彼女。エイシンフラッシュは今、栄冠の勝負服に身を包んでいたのだから。 - 56121/10/15(金) 20:52:26
「え?ええ?」
声が裏返るトレーナー。いや、なんで。フラッシュもなぜか言葉少なだ。
「ええっとですね、その、来年の聖蹄祭に向けて、今でも、ちょっと着れるのかなって」
なぜだか妙に初々しく見えて、トレーナーの心臓は破裂しそうになる。どうですか?なんてその場でくるりと回れば、彼女の故郷の民族衣装をモチーフにしたそれのスカートがふわっと舞う。ほう、とみとれそうになるの半分、もう半分は高鳴りが抑えきれないでいる。
「い、いや、それは、着れるかもしれないけど……」
その衣装は純朴で清純な村の娘を彷彿とさせるような、そんな衣装。だが、ちょっとだけあの頃よりも肉付きのよくなった太ももや、やや量感が増す谷間に視線がいってしまう。いかん、これはいかん、とトレーナーは自制心を自分に促す。この衣装は彼女の故郷への想いがのった衣装なのである。
事実、一年半前まで、彼女がこの衣装でG1のレースを駆け抜け、そしてステージで舞い踊るときには、騎士のような凛とした美しさをそこに見ていたのは間違いない。だが、何故かこの場において、その衣装は別方向、トレーナーの自制心を崩すような方向に作用してしまっている。最低の自分を自覚して、目をそらそうとすると、フラッシュは眉を下げてさみしそうにする。
「やっぱり、もう似合ってないですかね、これ」 - 57121/10/15(金) 21:01:45
「い、いや、そんなことはないんだが……」
さみしそうにする彼女も可愛い、とあらぬ方向に思考をやってしまうトレーナー。
「その、似合っているのは確かなんだけど、こう、あの頃に比べるとなんというか……」
言葉に詰まるトレーナーに対して上目遣いで不安そうに見つめるフラッシュ。少しきつそうになった谷間にも視線が行く。下手したら小悪魔にすら見える彼女を一旦引き離す。
「と、ともかく、着替えてきてくれないか」
「え?」
「こ、これ以上はまずい、本当にまずい」
いつぞや出張で帰ってきた時に、フラッシュが純白の水着で迎えに来てくれたときは理性をかなぐり捨ててしまって本気で後悔したトレーナーである。トレーナーにしてみれば、フラッシュを愛する時にはそういう気持ちになりたくない面が確かにある。ここではフラッシュ側の意見はさておく。ともあれ、自壊寸前の理性をなんとか保たせているトレーナーに対して、フラッシュは不安を和らげたようだ。
「そういうつもりじゃなかったのですけど……」
「そ、それはわかってるけど……。うん。そうだな…」
ステージの上だと凛として見える、といっても、やはりフラッシュに別離の間の一年半、そしてトレーナーと再びまみえて育んだ生活が、色香としてのってしまって、現役時代にはない方向に見えてしまっているのは確かのようだ。
「ちょっと、ステージ衣装は考えよう、うん……」
他の男にこれは見せられない、と決意したトレーナーは、フラッシュと供に新たな衣装をどうするか検討することになるのであった。 - 58121/10/15(金) 21:02:19
了!
本日は短めで。
それではまた明日!! - 59二次元好きの匿名さん21/10/15(金) 21:50:02
ウワーッ!フラトレ羨まし過ぎる!(見習い並感)
- 60二次元好きの匿名さん21/10/15(金) 23:25:05
- 61二次元好きの匿名さん21/10/15(金) 23:28:06
- 62二次元好きの匿名さん21/10/16(土) 08:40:51
保守
- 63121/10/16(土) 09:21:17
朝のプチフラトレ
トレーナーに促されて、勝負服からパジャマに着替えるフラッシュ。鏡を見るとすこし自分の頬が紅潮してるのがわかる。トレーナーの瞳の中にあった熱情とは別の真摯な思い。現役時代にこの勝負服にかけた思いを今でもしっかり汲み取ってくれてることが一目で伝わった。この人を好きになってよかった、と、何度でも思ったことを、この時も思った。
「トレーナーさん、愛してます」
腕を胸のあたりに掲げて、彼のことを想う。それはそれとして、彼の瞳に他の色合いが灯ったのも確かで、それは不快では全然なかったのも確かである。
「ディアンドルかぁ…」
ひとりごちたフラッシュは、お気に入りのグレーのパジャマに着替えるとトレーナーの前に姿をあらわした。トレーナーはほっとした表情で迎えた。
「ん、フラッシュはそれも似合ってる」
「もう、こちらの方がもう見慣れているのでは?」
「だっていつ見ても可愛いし…」
「もう…」
などといいながら上機嫌のフラッシュは、トレーナーの耳元で愛らしくささやく。
「今度、勝負服でない故郷の伝統服も、ご用意しますね?」
「…え?」
声を裏返すトレーナーと余裕をみせるフラッシュ。
「伝統服で給仕というのも、トレーナーさんにみせたく思って」
その台詞を聞いてほっと肩を撫で下ろしたトレーナー。
「…あ、ああ!そうだよな。楽しみにしてるよ」
フラッシュはすこしだけいたずらっぽさを混ぜる。
「ひょっとしてですけど、変なこと、考えてませんでした?」
「か、考えてない!考えてないって!」
今日も今日とて仲睦まじい二人であった。
了 - 64二次元好きの匿名さん21/10/16(土) 10:57:08
助かる…これで今日も頑張れる…!
- 65二次元好きの匿名さん21/10/16(土) 11:23:08
こんなかわいい愛する人が何着てもかわいいのは火を見るよりも明らかなんだよなぁ…うらやましい…
- 66二次元好きの匿名さん21/10/16(土) 16:59:29
勝負服ぴょい…いけませんこれはいけません
してないけどいけませんよこれは - 67121/10/16(土) 20:51:38
- 68121/10/16(土) 21:22:34
夜のプチフラトレ。
今日は音楽ネタです。短めの予定。 - 69121/10/16(土) 21:34:01
ドライヤーの音が静かに響く。ここの主人であるエイシンフラッシュは、パジャマに着替えて少しだけ口を開けて目を閉じて、トレーナーがじっくりと髪を乾かしてくれるのを受け入れている。寝ぐせ直しを一度お願いして以来、こうしてドライヤーで手入れしてもらうのが癖になってしまっている。現役時代の自分が見たら自堕落、なんて思うかもしれないが、この心地よさには抗いがたい。ドライヤーの音が終わって、つくろうのが終わり、トレーナーが髪から指を離すと名残惜しそうな顔をする。それこそ現役時代より子供っぽく見えるその表情は、トレーナーにとっても一つのご褒美ともいえるものだった。
今日のこの時間のスケジュールは、ゆっくりと音楽を聴く時間。次はどんな曲を、なんて身を寄せながら聞くフラッシュ。
「そうだね。コーラス、好きみたいだったから、この間と同じ盤で」
再生ボタンを押すと、スピーカーからは女性のコーラス。淡々と拍子を刻む楽器に、甘い声に少し低いコーラスが絡む。前に増してコーラス以外はシンプルな曲である。教会で歌われるのが似合うような、そんな曲。 - 70121/10/16(土) 22:06:22
聞き耳を立てていたフラッシュが、音が終わると立てていた耳をぴくっとさせる。少し思案顔になるフラッシュの横顔を不思議そうに見るトレーナー。
「フラッシュ?」
「いえ、なんというか、どこかで耳にしたことがあるような。雰囲気は違いますけど、曲自体は」
フラッシュの感想にああ、とトレーナーは納得したようである。
「うん、そうだね。いわゆるフォークソングの古典みたいなものだから。アメリカのだからそんなに頻繁に聞くことはないかもしれないけど、まぁ耳にするっていうくらいならあるのかも」
「なるほど。フォークソング…すごいシンプルな詞でしたものね」
「うん、水を持ってきてくれっていう」
ざっくり言えばその通りで、農夫が妻の名前を呼んで水を持ってきてくれ、というだけの詞である。そこにほんの少し面白みを覚えてフラッシュは微笑むが、よくよく考えたら昔の歌というのはそういうものが多いのかもしれない。自国のあれやこれやの曲を思い浮かべるフラッシュであった。
「本来はフォークだしどっちかっていうとギターやバンジョーを抱えて歌うような曲なんだけど、こんな風にコーラスで歌われるアレンジもある」
「この方がちょっと民謡に近く感じるのかも」
「ああ、確かに。編曲者の癖はあるけど。同じようにコーラスアレンジされているものが広く受け入れられてるし、突飛な編曲というわけではないのかも」
そうして流されたのは、同じ曲で、先ほどより多くの声が重なる。声の厚みにリズムを刻むタン、タンタン、という手拍子や靴の音が心地よい。最後まで聞き終えると。フラッシュは一つ頷いた。
「私はこちらのほうが好きかもしれません。夜中に聞くには先ほどのほうがいいですけど」
こちらのほうが少し心が躍ります。という言葉に、聞いている間リズムをあわせるようにしていたフラッシュの姿をみていたトレーナーは納得した。 - 71121/10/16(土) 22:18:07
「ボディパーカッションだね。うん」
「ボディパーカッション?」
聞いてはみたものの、なんとなく言葉の感覚から理解はできる。
「うん、体を使って音を鳴らす。手拍子とか足踏みとかもだけど、体をこんな風にたたくとか」
軽く自分の太ももを叩いてみせるトレーナー。ぽん、と優しい音を立てる。なるほど、とフラッシュは頷いた。トレーナーはソファから立ち上がると、えっと、確か、と何かを思い出すようにする。
「ここで使われいるのは比較的シンプルで、こんなかんじだったかな」
フラッシュが見つめる前で、1つ1つのシーケンスを思い出す。
「1が手拍子」
ぽん、と自分の目の前で掌を叩く。
「2,3,で胸を軽く叩いて…」
胸の上部を順番に軽くたたく。4で足踏み、と順々に動作を思い出したり、誤ってしまったのを直したりしながら、だんだんと形にしていくトレーナーを、ぽう、っと見つめるフラッシュ。あえて声をかけることをしない。
「……と、これで16で、これを繰り返す、と」
1から8を2度繰り返すのと、トレーナーの立てる音にじっと聞き耳を澄ますフラッシュ。耳がぴくぴくしてるが、トレーナーは気が付いていない。
次第に波がのってきて、鼻歌を歌いだすトレーナー。 - 72121/10/16(土) 22:39:07
トレーナーの小さな鼻歌にフラッシュが無意識に声をあわせる。その瞬間ぴたっとトレーナーの動きが止まる。フラッシュと目が合うと、トレーナーの額から汗がたらりと流れて、顔が真っ赤になる。フラッシュは目線を外さず、ニコニコとほほ笑んでいる。冷や汗を流したトレーナーは、そのままソファに腰かけて顔を隠す。フラッシュにじっと見られていたことが今になって恥ずかしくなってくる。
「ふ、フラッシュ、忘れて……」
「?なぜですか?」
「は、恥ずかしい……」
軽くこんなかんじ、程度でみせるつもりが、無意識にのってしまったこと。その上、愛する彼女にじっくり見られていたことが今になって襲い掛かってきてぷるぷると震える。部屋に帰りたい。
そんなトレーナーに、少しこまったような顔ですり寄るフラッシュ。体を密着させて、小さく上目遣いで呟いた。
「そんな、恥ずかしがることないですよ。…もうちょっとみていたかったのに」
「……無理。忘れて」
むー、と頬を膨らませたフラッシュは、ぎゅっと腕を絡める。
「どうしても、ですか?」
「ど、どうしても!」
「そうですか……」
残念そうにするフラッシュに対して罪悪感を感じるトレーナー。そんなトレーナーの耳元で、フラッシュは唇を小さく動かして言葉をつむいだ。い、や、の二文字をトレーナーに吹きこんだ上、真っ赤になっているトレーナーの頬に唇を落とした。あえなくトレーナーは観念したのであった。 - 73121/10/16(土) 22:39:57
了!
小ネタみたいなかんじですが、皆さんの癒しになれば!
フラッシュ万歳!!
ではまた明日! - 74二次元好きの匿名さん21/10/16(土) 22:52:11
プチの量じゃねぇ!(歓喜)
これで落ちないヤツいないでしょ… - 75121/10/17(日) 00:06:07
ありがとうございます!魔性フラッシュになっちゃいましたね…可愛いからいっか!
- 76121/10/17(日) 00:10:36
- 77二次元好きの匿名さん21/10/17(日) 07:24:40
良い…小悪魔フラッシュも私性合
- 78二次元好きの匿名さん21/10/17(日) 14:22:35
- 79二次元好きの匿名さん21/10/17(日) 14:55:53
ありがとう。フォークの古い曲だしさくっと名前だしとこうかなと思って忘れちゃってたんだ。
ほんとは二人で仲良くコーラスしながらボディパーカッションみたいな図にしたかったのにトレーナーさんが恥ずかしがっちゃったから…
- 80121/10/17(日) 19:40:33
今日はフラッシュのトレーナーさんサイドのお話です。
昨日が割と甘めでしたが今日は特に甘さはなく。
トレセン学園での一幕となります。 - 81121/10/17(日) 20:00:33
日差しが落ちるのが早くなる中、日が落ちてもまだウマ娘やトレーナーたちの掛け声がトレセン学園には響く。教官として何人かのウマ娘のサポートをしている、かつてエイシンフラッシュのトレーナーだった彼もウマ娘を見守っていた。彼とその元担当バの関係を好ましく思っている人々が気を回してくれているのもあり、かつてエイシンフラッシュの担当だった頃のようなスケジュールになることはほとんどない。だが、それでもこうして教官たちのスケジュールが合わない時や、ウマ娘の要望により残って彼女らを見守る必要が出てくる場合はある。
「よし、次でラスト!」
その教官の声に後押しされた黒髪のウマ娘は、こくんと一つ頷いた。さらりと靡く髪が美しい。教官として担当している中では頭一つ抜けた才覚があり、G3で一位という快挙を成し遂げたこともある才媛である。ルドルフのトレーナーと自分が、彼女に選任トレーナーを探してみないか、と打診したが、これは断られている。彼女が才覚を表す前に選抜等でトレーナーを得ることができなかったのは確かだが、オープン戦で上々の成績を得た時点で打診した時、今なら要望者も集まるだろうということで一度掛け合ってみたのだが、その時、彼女にとってこの人、と思える担当と出会えなかったことが後を引いているのかもしれない。少し勿体ない、と思ってしまうのはトレーナーだからこそであろう。ぐん、とコーナーから加速する彼女の姿が見えた。そのままゴールまで減速することなく突っ切る。ストップウォッチを止めた彼女の教官は、よし、とその時間をみて満足気な姿をみせた。時間を告げると親指を立てる彼女に、同じしぐさで返す教官。専任ほどではなくても、確かに互いに絆はあった。 - 82121/10/17(日) 20:28:14
十分に整理運動を行ったのを見届けると、よし、帰るか、と一声かける。いつもより負荷が大きいトレーニングを続けたためか、少し体が重そうである。
「大丈夫か?」
「ん、平気。そこはちゃんと考慮して組んでくれているでしょ」
勿論、トレーニングに関しては無理がたたらないようなものを組んではいるが、万が一もある。念のため足を見たところは問題はないが、矢張り疲労がいつもより大きく出ているのは否めない。
「まぁ、寮までくらいは見届けるよ」
「……ありがと」
素直に気遣いを受け取った黒髪のウマ娘は微笑む。教官とともに連れだって寮へ足を運ぼうとするが、教官はあっと、時計を見て表情を変えた。
「…どうしたの?」
「いや、ちょっとスイーツをカフェで受け取るつもりだったけどさ」
「スイーツ…そういえば、教官好きだよね」
「夕方に受け取り損ねたままで。ま、まぁ後で考えるよ」
「……カフェに行けばいいじゃない」
「いや、君を寮に送ってからでいいよ」
「一口、頂戴」
「え?」
「甘いの食べたくなった。私を送るの後回しにする代わりに、一口」
「え、う、うん……」
常に見せない推しの強さにひるんで、結局二人でカフェに足を運ぶことになった。 - 83二次元好きの匿名さん21/10/17(日) 20:29:35
これは…
- 84二次元好きの匿名さん21/10/17(日) 20:34:23
おっと!?
- 85二次元好きの匿名さん21/10/17(日) 20:35:16
え、これ教官=フラトレなの?
- 86121/10/17(日) 20:40:09
カフェのテーブルには受け取ったお菓子と紅茶が並べられた。少し大きめなので持ち帰ろうと頼んだ時は考えていたが、彼女といただくことになったので、フォークと小皿を用意してもらった。
「ずいぶん立派なケーキだね、これ」
「ああ。本当は明日から出す予定みたいなんだけど、特別にね。一応秘密で頼むよ」
「ふぅん?…って、一口でいいって言ったのに」
「寄り道させておいて一口っていうのも、なんだか酷い教官みたいだろ?」
確かにトレーナーの更に一切れ、ウマ娘の更に一口というのは減量中でもなければ少し酷い絵面であることには間違いない。納得した彼女は教官と一緒にいただきます、と行儀よく手をあわせた後、上品なダークブラウンのチョコレートを口に運んだ。
「……これ、美味しい」
「うん、本当、流石だよな、これ」
納得したようにうん、と頷いて舌つづみを打つ教官。ウマ娘はふと思い当たることがあった。
「……ひょっとして、これ、例の『彼女』の?」
「……けほ、けほ」
むせそうになった教官を見て、くっくっと笑いをこらえる彼女。
「そう、これが教官の『彼女』のね」 - 87121/10/17(日) 20:56:10
「……その、そう、『元担当バ』のだよ。エイシンフラッシュが今勤めている店のだ」
これも一応内密に、と釘を刺した教官。そう、とニマニマしながらウマ娘はケーキを口に運ぶ。
「パティシエっていうのは本当だったんだね。……あれだけすごい走りを見せたウマ娘だっていうのに、自分の夢でも、か」
羨ましい、とつぶやく彼女に、教官は何も言えなかった。こうして他のウマ娘を見ると、改めていかにフラッシュが天賦の才というものに恵まれたウマ娘だったかがよくわかる。正直、この目の前にいる彼女でも、このトレセンでも上位の才を発揮しているといってよいだろう。だが、それでも、あの域に届くことは決してないというのは、どうしても実感としてわかってしまう。
「ああ、別にくさしているわけじゃないよ」
「うん、わかっている」
「エイシンフラッシュ、憧れだったからね。私にとっても」
特に彼女にとって鮮烈だったのは、秋の天皇賞――。あの走りにあこがれはしたけれども。
「君からそう聞いた時、意外だったよ。スタイルは全然違うし」
「憧れと適正は違うでしょ。だから、あの人を再現しようだなんて思わないよ」
「……それが最初から出来てるって時点で、君は凄いよ。あるべきと思った方向に縛られるっていうのは、フラッシュでさえあったんだから」
「…そうなんだ?」
「ああ」
昔を懐かしむ教官の姿を、じっと見つめる彼女。最初、教官として、あのエイシンフラッシュの元トレーナーが自分につくということに驚きはした。彼女の目から見て、目の前の教官には少し影はあったものの、誠実であった。他の教官もよくしてくれてはいるが、不思議なことに彼の態度は自分に落ち着きを持たせるようなものだったように思う。少しの影に、ほんのちょっとだけ苦しんでいた彼が、解放されたように見えたのは凡そ半年前のことである。 - 88121/10/17(日) 21:10:28
そこからの彼は、迷いが晴れたようになっていた。不思議に思ったが、彼をつついても曖昧な答えしか返ってこない。が、ある噂によって、なんとなくその原因に推測がついた。おそらくは、教官の元愛バが、この日本に来ているという噂と、直結するのだろう。
「ほんと、いい顔してる」
「え?」
半年前にはそんな顔をするとは思わないくらい、とそのウマ娘は内心でつぶやく。
「よかったね、『彼女』にあえて」
「え?い、いや……。その、フラッシュはだな」
「否定していいの?彼女だっていうこと」
「う、そ、それは……」
心底複雑そうな顔を見せる教官。否定は出来ない関係ということだろう。顔を百面相のようにかえる教官が心底おかしくて、ウマ娘は笑いをかみ殺した。が、ふと一つの懸念が頭をよぎると、表情を静かに硬くした。
「ねぇ、教官」
「ん、な、なんだい?」
「辞めるの?ここ」
「は、はぁ?何を突然」
突拍子もない言葉に聞こえて、ウマ娘の方に向き直る。
「だって、エイシンフラッシュって、ドイツでしょう?……ついていかなくちゃ、いけないんじゃない?」
なんとなく目をあわせづらくて、ウマ娘は視線を背ける。その哀愁を察することはないが、教官は納得したようだった。
「ああ、そういうことか…。それは心配ないよ」
「しばらくは教官、続けるってこと?」
「うん、あと二年はフラッシュもこっちに居るから。今後の身の振り方まで確定したわけじゃないけれど、二人のスケジュールは二人でじっくり話し合って決めるつもりだ」
「……そっか」
相変わらず目を背けたままだが、ウマ娘の声色は優しい。教官はそれ以上の言葉をかけることがなんとなくためらわれた。 - 89121/10/17(日) 21:32:31
静寂を破るように、教官のスマホが鳴る。勇壮な音にびくっとした教官の顔が若干青い。
「もしもし、フラッシュ、ご、ごめん。まだトレセン出ていない…。う、うん、次は早めにちゃんと連絡するから。いや、事故があったわけじゃないんだ」
目を丸くして大慌ての教官にクスクスと再び笑いをかみ殺す。
「え、なに?いや、その、誰の声って、教官として担当している子のだけど……。ち、違うって、そうじゃないって。え、そういう人じゃないのはわかっていますって?う、うん。それは嬉しいけど。ああ、なんでそんな機嫌が……う、うん、わかった。約束する、今度……」
暫く弁明に奔走される姿を、そのウマ娘は目じりに涙をためながら見ていた。
「…ふぅ」
くたっと肩を落とした教官。ニコニコとしてそのウマ娘は見つめる。
「エイシンフラッシュさんってさ、結構束縛する方?」
「い、いや、そういうことじゃないんだ。俺が連絡しそこねたのが悪かっただけで」
そうは言うが独占欲が相当に強そうなのは見て取れる。
「早く帰ってあげたほうがいいんじゃない?」
「それは間違いなくそう……でも、約束だし寮までは送るよ」
「そ、ありがと」
そっけない言い方だが、感謝の念は込められている。ゆっくり立ち上がると、少し前かがみで彼女は教官に一つお願いをしてみる。
「ねぇ、一度さ、あわせてよ。貴方の彼女」
「……フラッシュと?いや、それは」
「私のあこがれだしさ、ま、教官に世話になっているって、挨拶しときたいなって」
「い、いや、それはちょっと出来ないな」
「そっか、残念……それじゃあさ、私の出てるレース、見てもらうことは?」
「それなら伝えることはできるけど」
それで十分、と告げるウマ娘。あの人に比べれば、みっともない走りかもしれないけれど、なんて少し恥ずかしそうに前置きして。
「彼氏が面倒みてるウマ娘の走り、見せてあげたいじゃん」
その表情は、どこか不敵にすら見えた。教官は不思議と、彼女がより高いところまでいけるような気が、ほんの少しした。 - 90121/10/17(日) 21:35:50
- 91二次元好きの匿名さん21/10/17(日) 21:37:15
このウマ娘ちゃんなかなかやるな
- 92二次元好きの匿名さん21/10/17(日) 21:46:23
やっぱりこの娘も黒鹿毛なんでしょうかね…
嫉妬りフラッシュが見える見える… - 93121/10/18(月) 00:10:18
- 94二次元好きの匿名さん21/10/18(月) 02:05:58
フラッシュの嫉妬はやはり健康に良いな…
フラッシュサイドも見てえ〜! - 95二次元好きの匿名さん21/10/18(月) 04:56:40
まぁこの担当ウマ娘ちゃんは心配ないかもだけど、フラッシュもうかうかしてられませんねぇ…ちゃんと目に見える証をトレーナーに着けておいてもらうべきです
- 96二次元好きの匿名さん21/10/18(月) 11:05:52
保守
- 97121/10/18(月) 12:23:32
- 98二次元好きの匿名さん21/10/18(月) 16:26:52
保守
- 99二次元好きの匿名さん21/10/18(月) 20:12:42
湿度たかたかフラッシュもいい…
- 100121/10/18(月) 21:29:07
- 101121/10/18(月) 21:35:43
「ごめん。フラッシュ、本当に、ごめん!」
帰宅早々床に頭をこすりつけるトレーナー。フラッシュはいきなりのそれに目を丸くする。
「ちゃんと連絡すべきだった。遅れるって。君に心配かけて……!」
そんな彼にすっと手を伸ばしたエイシンフラッシュ。かがんで愛しいトレーナーが顔を上げるのを待つ。
「顔を上げて、トレーナーさん。そんなには怒っていませんから。そんなには」
ちゃんとちょっとは怒っていると釘を刺しつつも優しい笑顔を見せる愛バに安堵するトレーナー。
「ちゃんと何が悪かったかってわかってくれていますし、次はもうしないっていうのもわかりますから」
優しさが身に染みる。フラッシュのその細指をとったトレーナーは立ち上がる。
「…ただいま。フラッシュ」
「はい、おかえりなさい。トレーナーさん」
甘い唇を一瞬だけ重ねたフラッシュは、夕食にしましょうと先にリビングに戻った。遅れてトレーナーもその後をつける。 - 102121/10/18(月) 21:49:02
就寝前のひと時、肩を寄せ合う間のことである。
「でも、本当に良かったです」
「うん?」
「いえ、ひょっとして何かトレーナーさんの身にあったんじゃないかと思って」
フラッシュは心配性だ、なんていう軽口は沸いてこない。約束の時間より遅れることに連絡がなかったら、例えば自分の立場だったらものすごく不安になって、フラッシュと同じように、彼女に急いで連絡を取るだろう。
「……本当にごめん」
「そんな、責めてるつもりはちょっとだけしかないですから。でも、電話越しに女性の声が聞こえたときは少々どきっとしました」
ちょっと声色が湿度を帯びたものになるが、そんなにこちらを譴責するような形でもない。トレーナーにしても疚しいことは何もないのだが、それはそれとしてそう言われるとちょっとグサッとくる。
「ふふ、わかっています。教官としてお世話しているんですから、それはちょっとテーブルを囲むくらいはあります。私なんて、それこそ現役時代、何度そうしてもらったかわかりませんし」
フラッシュもほんの少し昔を懐かしむ。あの4年も、何故か遠い昔に思えるような気がしたが、それは彼との関係性の変化というものもあるのだろう。
「そうだね、やっぱり専属ってなるとそういうのが増えるっていうのはあったのかもしれない」
「お仕事の日だけじゃなくて、お休みの日も。よくよく考えたら、私ってトレーナーさんに本当にわがままを言っていたと思います。今になってみれば、ですけど」
「そう?俺は楽しかったから全然そんな風には思わなかったけれど。担当しているウマ娘に楽しんでもらえるなら、それが一番になるんじゃないかな。専属トレーナーにとっては特に」
「……そんなだから、トレーナーに入れ込んでしまうウマ娘が多いのかもしれませんね」
私みたいに、とはあえて口にせず、体を寄せ合うことだけで表現するフラッシュに、どうしても照れくささを感じるトレーナー。 - 103121/10/18(月) 22:00:00
「あの声の子って、以前おっしゃってた子ですか?」
「ああ、そうだね。うちの担当の中では一際成績のいい子になるのかな。うん、本当に専属トレーナーがついてもおかしくはないんだけど、今は彼女もこのままがいい、とは言っている」
「なるほど、このまま。このまま、ですか」
「フラッシュ?」
「……いえ。なんでもありません」
電話越しに聞こえた楽しそうな笑い声。決してそれは彼を嘲る類のものではなかった、とフラッシュの耳はとらえている。少なくとも彼は彼女に悪印象は抱かれていない。いや、むしろ――。
「フラッシュ?」
無意識にトレーナーの裾を引っ張っていたことに気が付き、その力を弱める。
「ごめんなさい。ちょっと妬いてしまって」
「え?ええ?そういうのじゃ…」
「わかってます。でも、わかってても妬いてしまうものでしょう?トレーナーさんだってそうじゃないですか」
軽やかな声につれられるが、確かに自分もわかっていてみっともないヤキモチをフラッシュの同僚や先輩に妬いてしまったことがある。こういう感情は往々に止められないものかもしれない。
「……その子、手のかかる子なんですか?」
「え?いや、そうだな……。うん、あえて言わせてもらうけど、全くかな」
少なくともやりにくさを感じたことは一度もない。指導に対しても素直だし、学業に関しても担任からとやかく言われたことはない。教官という立ち位置だから、専属トレーナーより一歩離れてみているところはある。が、他のメンバーと比較しても素直に導きがいのある良いウマ娘だと思う。 - 104121/10/18(月) 22:17:08
そうですか。では、と前置きをしてフラッシュは静かに問う。
「私はどうでしたか?」
「君?」
「ええ、私、エイシンフラッシュは、手のかかるウマ娘でしたか?」
トレーナーは少々その問いに困惑する。真面目に眉を寄せる。
「少なくとも、手のかかるなんて思ったことはなかったな。あ、でもそうだな。そういう風に他のトレーナーに言われたことならあるよ。そんなことはないって返したけれど」
「そうなんですか?」
「トレーナーとウマ娘の関係も色々だからね。どこも担当のウマ娘に全力を尽くすのは変わらないけれど、外から見るとプライベートも削られているように見えたらしい」
「……事実、削っていました。ケーキ店巡りだって、本当に何度もお誘いすることになりましたし。遊園地や温泉宿だって連れていっていただきましたし」
「だから、それは俺も楽しかったからさ。申し訳なさそうな顔はしないで欲しい」
「いえ、そういう気持ちが全くないわけでもないですけど、それよりはトレーナーさんにありがとうございますっていう気持ちの方が強いです。それに、申し訳ないならもう一つのほうですね」
顔を赤くして、いつものようにぴんと人差し指をたてるフラッシュ。もう片方の掌の指は、トレーナーの手の甲に重なっている。
「あの頃より、もっと手のかかる私になっているっていうことです」
満面の笑みに、思わず抱きしめたくなる衝動をぐっとこらえる。
「それを言うなら、俺が今、君にとって手のかかる男になっていると思うけれど?」
くすっと微笑む彼女。こちらは我慢がきかなかったようで、二人の影が重なってしまう。
「お互い様って、悪くないです」
これからずっと未来まで重ねていく、「お互い様」を思って、トレーナーは彼女を抱きとめた。 - 105121/10/18(月) 22:17:49
了!
あ、あれ、甘くなってしまったような気がする。
それではまた明日! - 106二次元好きの匿名さん21/10/18(月) 23:29:05
フラトレのDOGEZAが様になってきたな〜!
- 107二次元好きの匿名さん21/10/18(月) 23:48:50
どんどん甘くしてくれ
- 108二次元好きの匿名さん21/10/19(火) 08:01:11
フラッシュに煩わされてぇよ
- 109二次元好きの匿名さん21/10/19(火) 14:42:33
かーっ!甘い!甘い!!甘い!!!
- 110121/10/19(火) 20:35:02
- 111121/10/19(火) 20:37:09
今日はプチフラトレで。
量がっつりはやすみじゃないと厳しいかもしれないのですみません。
今日はフラッシュさんメインで。 - 112121/10/19(火) 21:12:13
「う~……」
自室のベッドで枕をぎゅっと抱きしめながら寝転がるフラッシュ。今日は自室で寝る日である。節度を持ったお付き合いがモットーの二人。ちゃんと我慢ができるのである。それはそれとして、フラッシュはじたばたと悶えていた。
「み、みっともなかったかも……」
彼にヤキモチをやいてしまいます、と堂々といってしまったけれども、教え子にヤキモチを妬くというのは少々みっともない気がする。彼が教え子に簡単にほだされることがないというのは、確かに四年の自分と彼の関係をもって痛いほどわかっている。わかっているのだが、それでも彼の電話越しに、女性の声が聞こえるというのはフラッシュの独占欲センサーにひっかかるには十分すぎるものがあった。元々、自分がどちらかというと他人を束縛する性質を持っているのは最近は自覚してきている。それに、彼が例の教え子のウマ娘のことを話すとき、ちょっと優し気なのも、なんだか昔の自分と彼の関係をほんの少し思い出して、やきもきとさせる。彼はトレセン学園のトレーナーである。トレーナーとしてウマ娘とコミュニケーションを密にするのはおかしいことではない。
先ほどのように、ふと昔の自分を思いだす。もし、今の状態でトレーナーさんについているウマ娘が私だったら……。
「トレーナーさん、来週の休日は一緒にケーキ巡りです」
「トレーナーさん、遊園地のチケットをいただいたので一緒にいっていただけませんか?」
「トレーナーさん、最近運動不足ではないですか?私とサッカーをしましょう」
「トレーナーさん、今日は私の故国の話をきいてくださいますか?」
「トレーナーさん、(ry」 - 113121/10/19(火) 21:12:22
……確実に嫉妬でこの身が焼かれる。悶絶して思わず問いかける。
「私と担当バ、どちらが大切なのですか?」
「いや、エイシンフラッシュに決まっているだろう?」
「だからどちらのですか!」
しょうもない自分との戦いの夢想を終えたフラッシュ。考えてみれば、休日は友人たちと過ごすか、トレーナーさんと過ごすか、大体半々くらいで出来ていたというのは本当に幸せだったことこの上ないが、意外に自分はさみしがりやだったのかもしれないと思う。同室の彼女には本当にいっぱいお世話になった。彼女の心からの忠告を聞かないふりをしたことで、トレーナーさんに思いを伝えられなかったなんていうこともあったけれど、ずっと友人でいてくれる。そういえばあの時ファルコンさんの勧めで買った水着が今になって役に立ったことを報告してなかった。効果が抜群だったことを伝えておこう。あんな剥き出しのトレーナーさんを見ることは、トレーナーとウマ娘の関係だった時には絶対無理だったであろう、と、つい過去の自分にマウントを取る。反省を無茶苦茶しているトレーナーさんには悪いけれども、何度だって引き出したいものである。…翌日が休日の場合に限りはしても。
「…トレーナーさん…」
例外規定をついて、彼の部屋に押し入りたい気持ちを抑え、フラッシュはなんとかスケジュール通りに眠りについた。
- 114121/10/19(火) 21:13:21
了!
今日はあっさり目ですがまた明日よろしくお願いします! - 115二次元好きの匿名さん21/10/19(火) 21:42:48
(そういえばまだ結婚してなかったな…)
- 116二次元好きの匿名さん21/10/19(火) 22:49:08
お値段給料3ヶ月ポッキリの指輪に興味はございませんか?
- 117二次元好きの匿名さん21/10/20(水) 05:53:21
元同室の友人からこんな顛末聞かされるファル子の心境や如何に
- 118二次元好きの匿名さん21/10/20(水) 12:38:00
我慢しなくていいんじゃないかな…
- 119二次元好きの匿名さん21/10/20(水) 13:22:29
- 120二次元好きの匿名さん21/10/20(水) 13:25:01
この時空のファル子はドバイでゴールインしてたのでは?
- 121二次元好きの匿名さん21/10/20(水) 13:25:18
- 122121/10/20(水) 19:33:15
- 123121/10/20(水) 19:47:49
- 124121/10/20(水) 20:05:09
本日投下分は同じくやきもちに関する話。トレーナーさんの思い出です。
甘さはあんまりないし短めになります。 - 125121/10/20(水) 20:18:01
「ヤキモチか……」
トレーナーはベッドで独り言ちる。フラッシュは担当バにやいてくれていたが、自分がこの前見せたヤキモチと比べると、ずいぶん可愛らしいものだと思う。彼女の同僚に妬いた上、あらぬ妄想までしてしまったことを見透かされたことを思い出すと赤面せずにいられない。また、ドイツであったという彼女の心をほんの少しだけ軽くしたあるトレーナーにも嫉妬を思いっきりしてしまった。よくよく聞けばあのマルゼンスキーのトレーナーだというのも、後になって火を注ぐことになるのだが。
しかし、こうしてヤキモチを妬くということも、こうして彼女と再会してから得るようになった感情だ。彼女と密に接していた時には、そういう感情を抱くことはなかった。もちろん夢に向かっていたからというのはあるにせよ、そういう目で見ていなかったのは確かだろう。今であれば、例えばあの時……。ドイツから遊びにきていた彼と会うっていった時にすら、嫉妬していただろう。 - 126121/10/20(水) 20:26:59
彼はフラッシュがドイツで親しかった年上の男性だった。といっても、フラッシュとは1つか2つ違いである。遊びに来たから顔を見せたい、という連絡を受けたという話をフラッシュから聞いて、時間を調整できるか考えていたらフラッシュから一緒に来てくれませんか?という不思議な提案をされたのを覚えている。俺がいても、故郷の話で盛り上がるのだし邪魔になるのではとフラッシュにいったものの、フラッシュはこちらの提案を受け入れることはなさそうだったので諦めてついていくことにした。思えば前から結構強引なところがあるのが、今の恋人である。貴方がいれば故郷の人に安心してもらえる、というのが彼女の弁である。彼女は寮暮らしだし、自分が担任の教師というわけではないが、確かに専属トレーナーともなればトレセン学園に通うウマ娘にとっては、こちらにいる間、もっとも長くの時間を共にする大人といえるのかもしれない。そういうことなら、と納得をすれば、彼女は俺の手をとったのであった。
- 127121/10/20(水) 20:52:48
待ち合わせ場所のカフェには、金色の髪のちょっと逞しい、自分より一回りくらい年下の男が席に座って時計を確認していた。時間ぴったりにあらわれることを知っているが故だろうか。フラッシュが優しく声をかける。「お兄さん」くらいの意味の言葉だろうか。彼は顔を上げると、じっとフラッシュの方を見つめて、言葉が発せないようであった。無理もない。見慣れていて、かつ恋心を彼女に抱く前、トレーナーとウマ娘という関係にあってすら、彼女に見蕩れることは珍しくなかった。走る姿がこの上なく凛として、美しいことは言うまでもないが、ただ佇むだけで周囲を魅了しうる力を持っているのが彼女、エイシンフラッシュである。見蕩れたままフラッシュ!とやや大きな声で彼女の名前を聞く。今、そんな態度の男が現れれば、きっと自分は馴れ馴れしい男だと嫉妬心を抱いていたことだろう。が、その時は彼女にそういう思いを抱く前だったので、地元で親しかったのだなと思うのみであった。ただ、フラッシュの隣にいた自分を見て少々顔がこわばっていた気がしないでもなかった。こちらも今思えば、美貌の幼馴染との再会を楽しみにしていたら、余計なお邪魔虫がくっついて来たみたいな感想を彼は抱いていたのかもしれない。もし自分が彼の立場だったら、もし、あの洋菓子店での再会の時に親しい仲の男性がついてきていたら……。
「う、うあああ、フラッシュ!」
想像するのもちょっと怖い。そもそもそんな仮定をフラッシュに話したらめちゃくちゃ怒られそうであるが。ともかく、ちょっとぎこちない笑顔を向けたフラッシュの昔馴染みと、フラッシュを隣においてテーブル越しに対面する形になってしまったことを思い出した。 - 128121/10/20(水) 20:53:48
ちょい今日は中断!
明日にまわさせてください。また明日もよろしく! - 129二次元好きの匿名さん21/10/21(木) 01:43:40
今のうちに保守しておくぞ……
そして相変わらずいいものを書きなさる…… - 130二次元好きの匿名さん21/10/21(木) 11:35:31
そろそろ保守タイム
- 131二次元好きの匿名さん21/10/21(木) 18:07:36
ゆっくりでいいんだぜ〜
無理だけはしないでくれよな〜 - 132121/10/21(木) 21:23:57
- 133121/10/21(木) 21:39:28
がっしりとした手の彼と握手を交わす。フラッシュを通じて、彼にフラッシュのトレーナーということを説明してもらった。そうすると顔のこわばりが解けて、笑顔を向けてくれた。誰かわからないがフラッシュが連れてきている年上の男から、彼女の指導者に彼の中でランクアップしたからなのだろうか。椅子に腰かけると、彼とフラッシュの間で言葉が交わされる。ドイツ語を理解するまではいかないが、中には聞き取れる単語もあった。どうも故郷の話をしているらしかった。今であれば疎外感を覚えたであろうけれど、その時はどちらかというと、単語からほんのりと浮かぶフラッシュの故郷、ドイツの風景をなんとはなしに浮かべていた。トゥインクルシリーズが落ち着けば海外旅行なんていうのもいいなぁ、なんてぼんやりと考えていた自分が、まさかフラッシュに連れられて実家と故郷を案内されることになろうとは、全然考えてもいなかったときのことである。フラッシュの懐かしがる顔を見ながら、彼女の定めた期限――故郷に帰り、新たな道を歩むための期限は守らねば、なんていう、破ってしまう誓いをその時は立てていたのは記憶にある。
- 134121/10/21(木) 21:51:38
時折、こちらを振り向くフラッシュと目があう。ケーキと紅茶が運ばれてくる。彼とフラッシュはチョコレートでコーティングされたビターなケーキで、自分はシンプルなホワイトクリームのケーキ。フォークで小さく一口分だけ切り分け、口に運ぶ。ちょっと固めなところが自分の好みである。彼とフラッシュもチョコレートケーキを口にして、大きくうなずく。フラッシュの口から紡がれるのは、ドイツ語ではあるが、いつものようなケーキに対する的確な感想であろう。音の美しさに聞きほれるのは、自分だけでなく故郷の彼もらしい。フラッシュの言葉に一々うなずいていた。
「トレーナーさん」
こちらを振り向いたフラッシュのお皿の上には、いつものように切り分けられたケーキ。ああ、といつもと同じように、自分もケーキをきりわけて、お互いのお皿の上のケーキを交換した。ありがとうございます、と笑顔を向けるフラッシュに対して、彼の顔が再びこわばってみえたのは、今思えば気のせいではなかったのかもしれない。改めてこうして振り返ってみると、見ようによってはトレーナーとウマ娘という関係をちょっと逸脱しているようにも見えるのは不思議なものである。 - 135121/10/21(木) 22:09:00
自分はつい癖でフラッシュと取り分ける前提で、無意識にフラッシュと違うものを選んでいたが、彼はフラッシュと気持ちを合わせたくて、同じものを頼んだのかもしれない。こほん、と咳払いした彼は、自分の方に視線をやりつつ、フラッシュに何かを聞いているようだった。フラッシュの答えの中にドイツ語のトレーナーが入っていたからシンプルな答えだったのだろう。もう一度何かを聞かれれば、肯定の答えを返すフラッシュ。こちらの表情をちらっと伺っていたのは、どういうことだったんだろうか。それを聞いて肩を落とした彼は、自分に対して問いを発した。内容がわからなかったのでフラッシュにたずねると、翻訳してきかせてくれた。
「トレーナーさんにとって、私はどういう人ですか、って聞いています」
少しだけ逡巡する自分。さすがに担当ウマ娘と答えるのは何か違う気がして、言葉に詰まる。いろんな言葉で言い表せるだろうが、一言でいうなら。
「大切な人、かな」
ぱぁ、と顔を明るくしたフラッシュは、少しだけこちらに肩をよせて、自分の言葉を故郷の言葉に翻訳して彼に伝えたようだった。さらにうなだれつつも、ちょっと用事ができた、といってお金を出してフラフラと出て行ってしまった彼。……これは今思えば完全に意図を誤解されたんだよな、とわかる。大切な人であることには間違いないが、おそらく彼の思っていたようなニュアンスは、その時はまだその言葉に自分はそういうニュアンスをのせていなかった。彼を二人で見送ると、フラッシュは少し困った顔でこう答えた。
「忙しかったみたいですね。お兄さん。日本に来た貴重な時間を使わせてしまったみたいです」
「君に会うためなら、貴重な時間は惜しくないんじゃないかな」
こうしてみれば的を射た言葉だったかもしれない。
「せっかくですし、もう少し私たちはゆっくりしていきませんか?」
いつものように人差し指を立てたフラッシュの提案を飲んだ自分。そうしてゆったりとお茶を楽しんでから、その場を後にしたのを覚えている。 - 136121/10/21(木) 22:15:24
「……やっぱり思い返すと、昔からフラッシュって距離近いよな」
いつ頃から彼女が自分のことを、純粋な自身のトレーナーとして以外の部分で思いを寄せてくれていたかはわからないが、もし逆にこちらが彼女にある種の邪な思いを抱いていたら勘違いしてしまっていたかもしれない。そういうみっともない姿を晒さなかったのはよかったかもしれないが、彼女がそう思ってくれたのが早かったのだとしたら、彼女の思いの幾分かを無視してしまっていたのかもしれないと思えて、少し申し訳なくなる。無論、当時の立場では想いに応えるわけにはいかなくても、受け止めた上で彼女を想って応えないのと、気が付かないままだったというのではだいぶ違ってくるのだろう。その分の埋め合わせをするのは自分の義務だよな、なんて思いつつ、彼もまた眠りにつくのであった。 - 137121/10/21(木) 22:16:41
了!
昨日のつづきですが短めです。
ペースは遅いですが今後もぼちぼち投げていくつもりですのでよろしくお願いします! - 138二次元好きの匿名さん21/10/21(木) 22:21:21
- 139二次元好きの匿名さん21/10/22(金) 03:08:38
チョコレートケーキのビターさが仄かに沁みる回想ですねぇ‥
- 140二次元好きの匿名さん21/10/22(金) 11:00:07
- 141二次元好きの匿名さん21/10/22(金) 17:31:51
俺も一目惚れしてた…つまりこのトレーナーは俺?
- 142121/10/22(金) 21:53:54
- 143121/10/22(金) 21:55:40
本日もプチフラトレ。ちょっとだけ甘めかも。
ではよろしくお願いします。 - 144121/10/22(金) 22:22:06
「フラッシュ、それは?」
お風呂で温まってから出てきたトレーナーは、フラッシュが手に取っているペーパーバックの本を見て尋ねる。洋書を手にしたままフラッシュは顔を上げる。
「これですか?グリム童話です。ご存じですか?」
「グリム童話?あ、そうか。グリム童話のグリム兄弟はドイツだったね」
グリム童話は、ドイツのグリム兄弟が編集、編纂したもので、昔話、民話を集めたものである。
「はい。その通りです。ファルコンさんもおっしゃっていましたが、皆さんご存じなのですね」
「そうだね。童話、民話。そういったものの中ではやっぱり日本でも有名な中の一つじゃないかな。ちょっと性質は違うけど、あとはイソップ寓話とかになるのかな。日本だと御伽草子?いや、これも少し違うか」
「ふふ、私の故郷の昔話がこの国でも親しまれているというのはうれしいものです」
そう語るフラッシュの隣にトレーナーは腰かける。すると自然とフラッシュは肩を寄せる。
ページに視線を戻しながら、唇をわずかに動かしながらゆっくり文字を指でなぞる。じっとその艶のある唇に目を奪われてしまうと、フラッシュははっと気が付いたようにして唇を抑える。
「声にでてました?私」
「い、いや、そういうわけじゃないんだ。ただ見とれてしまっただけで」
「そ、そうですか……」
ストレートな物言いに顔を少し上気させつつも綻ばせる。そうしてページを一枚、一枚めくっていく姿にみとれてしまった為、トレーナーの読書は一向に進まないことになる。
- 145121/10/22(金) 22:31:48
リズムよく、フラッシュの唇がすっと指でなぞる文字を読み上げる。はっと気が付いたようにして、トレーナーの方を見たフラッシュ。ちょっと照れが入っているようである。
「……昔から、読み上げるのが好きで」
「そ、そうなんだ」
「はい。母から読み聞かせてもらったのもあるのですが、途中から私が読み聞かせるようになった、とのことです。たまにこうして口に出してよんでしまいます」
今のような調子で、自らの国の民話を読み上げてきかせるフラッシュを想像する。やわらかな声色が耳を刺激するのがありありと想像できる。
「君の子供は、きっと幸せになるんだろうな」
素直な感想をぽんと口にしてしまうトレーナー。フラッシュは顔を更に赤くすると少しいじらしくトレーナーに対して言葉をかける。
「……そんな他人事のような調子でいわないでください」
「……え?」
「だって、私の子供っていうことは、貴方の子供なのですから……」
眉を八の字にするフラッシュに、トレーナーの顔も赤くなる。もちろん、トレーナーもここまで彼女と愛を重ねてて、その先を考えなかったわけではないが、こうして具体的な言葉としてお互いの会話ででてくることはなかったから不意をつかれた気持ちになった。
「その、いつかとは期待していのですが、トレーナーさんはそういうつもりがなかったとか…?」
フラッシュを不安を打ち消すように、ぐっと肩をつかんだトレーナーはそれを否定する。
「い、いや、君との子供っていうのは、もちろん考えているよ」
「と、トレーナーさん……」
真剣なトレーナーの表情に対して、潤んだ目になるフラッシュの顔色から不安は消えていた。 - 146121/10/22(金) 22:45:01
「あ、い、いや、もちろんすぐにというわけにはいかないけれども。君の気持ちもあるし」
恋人同士であることはもはや疑いようがないが、まだ結婚、婚約という段階には至っていない。が、トーンダウンしたトレーナーの口調に、フラッシュは少し意地悪な言い方をする。
「私の気持ちはとっくに決まっています」
「う……」
「わかっています。まだそちらのスケジュールは決まっていないのですものね」
あと二年ほどはこちらで過ごすことはきまっているが、その後どういう道を進むか、ということがお互いに決まっていない。まず大きな課題としても、フラッシュの故郷であるドイツに移るか、フラッシュに日本に住んでもらうかという課題がある。難しい選択にはなるが、お互いにしっかり話して後悔のない選択をしたいと考えている。無論、今になって別れて暮らすという選択肢だけは二人にはない。
「ただ、私としても恋人期間をもうしばらく続けていたい、という気持ちも確かにありますし……」
「フラッシュ……」
次の段階まで進むと、仕事以外の面の忙しさも増すし、どうしても今ほどには二人だけの蜜月といった関係は続けがたくなる。多少不健全なところもある、という思いはあれど、フラッシュとしてはトレーナーへの恋慕に自覚的になってからため込んでいた分がある。どうしても欲求に抗えない。こうして彼との二人だけの時間をあまり削りたくはないのである。
- 147121/10/22(金) 22:53:21
「トレーナーさん」
パジャマの太ももをぽんぽんと軽くたたく。トレーナーはうん?と首をかしげる。
「読み聞かせの予行演習、させてください」
「……うん」
意図を察すれば、そのままソファにねそべり、誘われるままに現役時代より少し柔らかさを増した太ももに頭を預ける。顔をあげればフラッシュが愛おしそうにこちらを見て頭をなでる。胸のふくらみに顔が少し隠れて見えるのが自制心を攻撃してくるので、あわてて顔を背けようとすると、こっちを見るように、という形でフラッシュに戻されてしまう。
「では、今日は「茨姫」にしますね。ご存じですか?」
「もちろん」
そうして紡がれる、彼女の母国の言葉。将来を見据えて少し言葉を学んでいるのと、元の話をおぼろげながらでも知っている為、なんとなく情景がわかる。彼女の美しい、ささやくような声色が頭に響くが、逆に頭を支える柔らかさは集中力を阻害する。ドイツ語の勉強にはならないな、なんていうことを思いながら、その柔らかさから逃れがたいのを感じて、結局彼女が語り終えるまでずっと膝枕を堪能することになってしまったのであった。 - 148121/10/22(金) 22:54:04
了!
ちょっと明日更新はできるかわかりませんが、それもあってちょい甘めにしてみました。
またよろしくお願いします。 - 149121/10/23(土) 10:47:30
ちょっとだけおまけ
の続き。ちょっとせくしー
文字を指でなぞり、言葉を紡ぐのを終えて本を閉じる。心地よさそうに私の太ももに身を預けている彼の額にそっと触れると、彼の枕になっている太ももをあげて背中に腕を滑らせて彼の体を起こす。そうしてそのまま少し開いた唇に吸い寄せられるようにして、唇を重ねる。眼を開いたトレーナーさん。数十秒、お互いの吐息だけが聞こえる。唇を離すと、お互いの唇が濡れているのがわかる。トレーナーさんは眼を丸くしながらも、少しだけ苦笑した。
「俺は茨姫ではないのだけれども」
体を起こしたトレーナーさんの目は爛々としている。
「…私が茨姫になってもいいですか?」
君はあんな姫ではないけれども、と前置きしたトレーナーさんは、優しく私に覆い被さる。
「君がしっかり目が冴えるくらいのキスをお望みなら」
「ん……」
熱を帯びた唇が重なると、私と彼の体も重なる。先程より艶の増した吐息と、舌を絡めあう水音が部屋に響き渡った。
了!
- 150二次元好きの匿名さん21/10/23(土) 10:48:09
恋人でのイチャイチャと夫婦でのイチャイチャは別物だからな…
- 151121/10/23(土) 21:02:39
- 152二次元好きの匿名さん21/10/23(土) 21:29:09
はー困る
良すぎます - 153121/10/23(土) 21:35:12
今日はお休みです。
一応いまんとこ予定してるのは
・いつものフラトレ
・ルドトレのアパートに二人でお邪魔するの巻
・マルゼンスキーがフラッシュに恋愛相談できなかったことの巻
くらいになりまする。 - 154121/10/23(土) 21:35:40
ありがとう!そういわれるのはめちゃうれしいです…ありがとう!
- 155121/10/23(土) 22:04:42
なんかBlack is the colourっていう歌を聞いてたらIfのパターンで別れてから比較的すぐにトレーナーさんが自分がフラッシュのことを愛していたことに気がつくもフラッシュはドイツに帰ってしまっているので時すでに遅しと思い込んじゃって塞いでるパターンが思い浮かんでしまった。この場合だとトレーナーさんからドイツに押し掛けるパターンになりそうだけど。
- 156二次元好きの匿名さん21/10/24(日) 03:35:48
- 157二次元好きの匿名さん21/10/24(日) 15:30:04
- 158121/10/24(日) 21:05:14
- 159121/10/24(日) 21:21:07
マルゼンスキーさんとトレーナーさんのお話です。
パート2の18~の一連の話と、148が関係してきます。
今日は途中までの予定です。 - 160121/10/24(日) 21:48:57
「っは~!楽しかった!」
すっきりした表情で声をあげる妙齢の美女。車高の低いスポーツカーの皮のシートの運転席に座る陽気を放つ美女は、朗らかに微笑んでも艶がある。それを健康的なものに見せているのは彼女の持つ天性というものだろう。一方、助手席に腰かける彼は少々ぐったりとしていた。
「そ、そう、よかった。流石にスッキリしたかい?」
アウトバーンを思う存分に飛ばす彼女の楽しそうな姿は眼福ではあったが、一方で同乗するものの負担も大きい。長年彼女に連れ添う彼もまだ慣れない。
「ええ、誰かさんがモヤモヤさせてくれた分はね」
ウィンクをする彼女が言葉でいうよりは不機嫌でないことは彼にとって救いだった。とはいえ彼女が居るのにデート紛いのことというのはマルゼンスキーにもエイシンフラッシュにも失礼ではあったと思う。
「ごめん」
「ん、いいの。ただちょっと色気づいちゃってなんて思うだけで。最初にキミに会った時に比べるとね」
「なんだか恥ずかしいよ。あの頃のことを言われるっていうのは」
最初にあった時、トレセン学園に入りレースを眺めていた時のことを思い出す。最高クラスの才を持つ隣のスーパーカーと謳われるウマ娘の走る姿は本当に鮮烈だった。だが、その時描いた感慨は、彼女がG1、あるいは世界でトップを駆ける姿などではなく、ただただその楽しそうに走る姿に魅了されたということだった。自分が担当したいとか、そういうことすらすっかり頭に抜けるほどに。
- 161121/10/24(日) 22:03:43
「そんな懐かしそうな顔しちゃって、おじいさんじゃあるまいし」
顔を覗き込まれると少し彼にも照れが生まれる。
「僕もそろそろいい歳じゃないかな?」
ぷー、と頬を膨らませるマルゼンスキー。トントンと彼の胸のあたりを叩く。
「何を言っているのよ、もう。それじゃあ私はもうおばあさん?」
全くの冗談に彼も苦笑する。
「そんなわけないでしょ。君は最高にイケてるネーチャンってとこだよ」
ぽっと頬を赤くするマルゼンスキー。
「やだもう。キミったら口まで上手くなっちゃって。っていっても、私のコトをノせることに関してはずっと超一流ですものね」
軽い調子で言うマルゼンスキーはシートベルトを外す。戻りましょうか、と言われれば、先ほどエイシンフラッシュの両親のケーキ店で買い付けたケーキを彼が運び、一緒にホテルの部屋に戻ることとなる。今から夕食というには微妙になるので、これが夜食替わりになるのだろう。しっかり固定していたのでケーキが崩れている心配はなさそうである。車での長距離の運転ということで配慮した梱包になっていたからというのもある。 - 162121/10/24(日) 22:17:40
さっとシャワーを浴びた彼は、バスローブ姿で軽くお茶とケーキの準備だけを済ます。マルゼンスキーは十分に時間をかけるタイプなので彼女が出てくるのには間に合う。夜景の見えるテーブルに、切り分けた甘いクリームのケーキをそれぞれのお皿に一切れづつ。酒も悪くはないが、やはりケーキには紅茶であろう。ティーポットに茶葉を入れて熱湯を注ぐ。
「お・ま・た・せ♪」
長い髪はまだ乾かしたばかりでしっとりしている。バスローブに包まれていても生来のスタイルの良さは隠しきれていない。マルゼンスキーファンがこの姿を見れば悩殺されてしまうだろう。ある意味彼女の最高のファンでもある彼にとってもくらっとはするものの、流石に慣れているだけあって毎度毎度態度に出すことはない。そんな彼に不満があるのか、マルゼンスキーは頬を膨らませて彼の近く寄る。
「ぶー。もっと見とれててくれなきゃ嫌なんだから」
ぐっと腕に抱き着いてくるマルゼンスキー。たわわな柔らかさがバスローブ越しに伝わると流石に慣れている彼でもくるものがある。というか違う方向にいってしまうので、あわてて彼はマルゼンスキーに対して軌道修正を試みる。
「大丈夫、君にはいつだって見とれているって。本当」
「え~!でも最初の時みたいに狼狽えてはくれないじゃない。飽きちゃった?」
「そんなわけないでしょ。本当」
このごね方からすると、やっぱりすっきりしたとはいったものの、ちょっとだけは妬いている部分が残っていたらしい。
「いいから食べようか。折角買ってきたんだしね」
「む~……。ん、わかりました」
不承不承離れるが、切り分けられたケーキを前にして期限を良くしたのか太陽のような笑顔を見せるマルゼンスキー。カップにティーポットから紅茶を二人分注いで、いただきますをした。 - 163121/10/24(日) 22:18:02
中断!
今日はここまで。また明日以降続きかきます。 - 164二次元好きの匿名さん21/10/24(日) 22:18:56
おつおつ!でもここでおあずけつらい!気になる!
- 165二次元好きの匿名さん21/10/24(日) 22:23:07
おつ
まだ糖度が上がるのか… - 166二次元好きの匿名さん21/10/25(月) 04:19:09
保守
- 167二次元好きの匿名さん21/10/25(月) 12:30:55
保守
- 168二次元好きの匿名さん21/10/25(月) 18:22:20
アウトバーンは速度制限無し
マルゼンスキーがゴキゲンになるスピード
絶対ヤバいって - 169121/10/25(月) 21:25:43
- 170121/10/25(月) 21:57:21
たっぷりのクリームにフォークを入れる。ほどよい甘さの口の中で溶けるようなケーキとクリームにんん!と感嘆の声を上げるマルゼンスキー。
「美味しい!私、これくらいのが好きなのよね。結構食べれちゃうかも」
トレーナーも相槌を打つ。
「ああ、本当に。日本でも食べれるようになんないかな」
「そうねぇ。流石に一家のお店って雰囲気だったものねぇ。そういうのは難しそうよね」
こちらに寄る度には買いに行こうと思いつつ、口元を拭ったマルゼンスキーはふと思いついたように言う。
「キミがデートしたあの子が日本に来れば、ひょっとしたら食べれるかもね?」
「と、刺のある言い方だなぁ。うん、まぁそうか。彼女が例えば日本で暮らしてケーキショップを、ということになれば……」
「浮気しちゃイヤだからね?」
「しない、しないって……。まぁ、確かに魅力の溢れる子ではあったよ。そこは認める」
刹那覚悟を決めた彼女の顔は確かに麗しかった。一種の魔性を感じたのは確かである。
「ほら~もう、そんなこと言って」
ぶーたれるマルゼンスキーを宥める彼。
「そこは事実だからね。彼女に想われているトレーナー君は幸せものなんじゃないかな。ちょっと受け止めるのは大変そうな子だけど」
頬杖をついたマルゼンスキーがきょとんとする。
「大変そうなの?」
「ちょっと接しただけだけど、あの子、無茶苦茶重いタイプだよ」
よく胡麻化そうと出来たなぁ、なんて感服する彼。
「重い想いを抱かれているのは彼女のトレーナー君の甲斐性じゃない?」
「それはなんとも言えないけれど」
結果としてそういう想いを抱えている担当のケアができていないということになるので、甲斐性はないということもできるかもしれないが、それも酷な気もする。担当ウマ娘が自分の道を歩んでいると知っている以上自分から言うことは何もないと思うかもしれない。 - 171121/10/25(月) 22:18:10
「ああ、でも」
マルゼンスキーがお茶を口に運びつつ、ほっと吐息をつく。
「確かに重いのとは別に、誰かさんを思い出すところがあるから、付き合う人は意外と選ぶところはあるのかな、なんていうのは感じたかも」
「誰かさん?」
こくんとうなずいたマルゼンスキー。ちょっと首を乗り出す彼に回答を返す。
「ルドルフ」
「ああ……」
頑迷とはいかないまでも、それに近い意思の力を感じるのは確かにあの生徒会長に近いか、と彼も納得した。
「ん、そういう面のこともあるけどね。それ以外も。あくまで感覚的なものだしルドルフのトレーナー君の方が納得はしてくれそうね」
シンボリルドルフを慕うものは多くいれど、ルドルフと対等の感覚でいれたものは少ない。マルゼンスキーはそういう意味で言うとルドルフにとって特別なウマ娘であった。逆に多くの後輩同輩に好かれたマルゼンスキーにとっても鎬を削った彼女は特別である。公に尽くすように見えるルドルフの別の貌は今は特にルドルフ自身のトレーナーに注がれている。
「どちらにせよ、彼女のトレーナー君はトゥインクルシリーズを駆け抜けることができたんだ。彼女の重さなんか百も承知なのかな」
「さぁねぇ。恋はまた別って考えのトレーナーも多いでしょうし。私もフラッシュちゃんには気休め程度の励まししかできなかったわ」
少々そこは心残りとしてあるようである。心配性というか、人を気にかけすぎるきらいのあるパートナーを彼はなだめる。とはいってもこちらも気休め程度の言葉にはなるのだが。
「適切な助言っていうのは難しいからね。僕も彼女に言った言葉が正解かはわからないし」
「あら、でも恋に関しては私より上手じゃない?」
「そうかな?」
「そうよ。だって私、君のおかげで恋愛では苦労しなかったわけだし」
- 172二次元好きの匿名さん21/10/25(月) 22:18:23
このレスは削除されています
- 173121/10/25(月) 22:19:24
中断!
本日はここまで!また明日以降よろしくです。
続きになるか、フラトレ挟むかはまた投下時に決めまする。 - 174二次元好きの匿名さん21/10/26(火) 00:23:44
スレが早く流れ過ぎてて気づかなかった……
ここのssはキャラクターを深く掘ってくれるから世界が生きてるって感じで素敵だ…… - 175二次元好きの匿名さん21/10/26(火) 08:18:24
チーフも苦労してんな…
- 176121/10/26(火) 08:53:46
ごめん修正
引退式、詰めかけたファンと同輩後輩たちに歌で全力で恩返しした後、彼からもらった送辞の言葉と品。そのあとに用意されたサプライズと宣言。彼の未来を縛ってしまうことを悪だと思い込んでしまっていた呪縛から解き放ってくれたこと。振り払うことを許さなかった彼の力強い腕につかまれて指輪をはめられて。歓声の中戸惑う私の唇を奪ってくれたことを。思い出に耽ると、彼は少し縮こまる。
「……あれはやりすぎだったかなってちょっと思ってるけど、退路を断つ覚悟をきっちり見せないと君がまた遠慮するかと思ってさ。たくさんバカって言われたけれども」
学園外からの祝福の声の凄さには逆に驚かされたが、一方でルドルフのトレーナーからは滅茶苦茶白い目を向けられた。マルゼンスキーと一緒に自分もトレセンを離れた為、担当バに妙に期待を寄せられるトレーナー達からの苦情が彼の元に集中した為である。ルドルフのトレーナー自身もルドルフにきらきらした目で「ああいうのもいいのではないかな、トレーナー君」なんて言われたことで頭を抱えたらしい。
- 177二次元好きの匿名さん21/10/26(火) 18:04:17
聖蹄祭のOBの件は認めてるし
くっつく事自体は良いけどクレームは勘弁!って感じかな - 178121/10/26(火) 21:27:46
- 179121/10/26(火) 21:29:28
- 180121/10/26(火) 21:56:14
「キミのアツアツな告白、本当に嬉しかったわ。色々悩んでいたの吹っ飛んじゃうくらいに」
「そのつもりで仕掛けたからね。君って押しが強そうに見えて、物凄く繊細で優しいウマ娘なんだから」
ただただその走りに惚れた自分が、彼女のそれ以外の面にもすっかり魅了されてしまって、こうして生涯を一緒に居ると誓うに至る。もっとも告白してからもいろいろ大変ではあったのだが。彼女の実家に認められる為のあれそれとか。
「キミとだったら駆け落ちもよかったんだけど」
「そう?僕は逃避行するつもりはなかったよ。完璧に認めて貰ったほうが君の悲しい顔を見ずにすむんだし」
確かに逃げて彼女との蜜月に浸るという選択肢はあったかもしれないが、彼女は何かを選んで何かを捨てるなんていうことを本来望まない性格だ。そこは欲張りなマルゼンスキーにあわせてあげたいというのが、彼が選んだ選択であった。
「うん、そう。キミはそういう男性だもんね」
そんなところが大好き、と一言告げて額に唇を落とす。僕も、とこちらも一言だけ告げて頬にキスする。
「……そんなワケで、キミにリードされちゃった私にはどうすればいいのか、なんていうアドバイスはとてもできなかったワケ」
「僕が君の経験を奪ったのかな?」
「もう、ちょっと意地悪な言い方ね。でも私の担当になる時は私の方に言わせたものね。キミ」
「その時はもし担当になれたら嬉しいなぁ、くらいには思ったけど。それでも君が望まないのに担当になりたいなんていう気はなかったよ」
この二人も渦中のエイシンフラッシュとトレーナーと同じく、ウマ娘側からこの人をトレーナーにと思われ、それにトレーナー側が応じた形にはなる。それまでのアプローチのかけ方はまるで異なるし、比較的積極的に関わったエイシンフラッシュのトレーナーとは違い、本気で楽しそうに走るウマ娘に見惚れてたらいつの間にか契約することになっていたという形なので他者から見ればより特異なパートナー契約であったとも言える。一目惚れであるという強い共通点もありはするが。 - 181121/10/26(火) 22:29:09
「それで、契約の時はイケズなところを見せて、そのくせ引退の時にはきっちりリードしてくれたプレイボーイクンから見てどう?私はなんかうまくいくんじゃない?なんて無責任なこといっちゃったけど。キミの眼から見てどう?」
「どうって?」
「フラッシュちゃん、上手くいくと思う?」
「……なんとも言えないよ。アドバイスはしたけど、僕は件の彼ともあったことないんだし。ああ、でもちょっと会ってみたいとは思ったかなぁ。彼女の様子見て」
「会ってみたい?」
「うん、元担当を惑わせるトレーナーっていうのをね、っていうのは冗談だけど。なかなかトレセンに足を運ぶことはないから難しいけど、帰ったらちょっと君の母校に寄ってみようか」
野次馬根性みたいなのを少し見せるが、マルゼンスキーの方も悪戯っぽく笑う。
「賛成、久しぶりにルドルフの顔も拝んどかないとね。あいもかわらずの皇帝サマだとは思うけれど」
ルドルフとの間では微妙に悪友っぽい顔を見せるマルゼンスキー。彼女のこういった顔を引き出せるウマ娘は本当に珍しい。
「まあ随分先にはなってしまうと思うから、その頃には彼女の恋のケリもついているかもしれないね」
「そう?じゃあトレセン学園でさっきのフラッシュちゃんと彼女のトレーナー君にあえるかもしれないわね」
彼女のトレーナーに他に思い人がいるかもしれないし、あるいは彼がどうしても元担当をそういう目でみれないということもあるかもしれないが、個人的にはエイシンフラッシュの願いが通じてくれた方が愉快である。この愉快な方の想像が当たることはともかく、件の彼に恨みがましい目を向けられることは流石に彼もこの時点では想像しようもなかった。
- 182121/10/26(火) 22:30:57
思索を破るようにバスローブ越しにぎゅっと腕に抱き着いてくるマルゼンスキー。ちょっと強めのハグがグラビア等諸々で数多の男を虜にしたという抜群のボディの感触が彼に襲い掛かる。アイドル顔負けといったレベルではないそれには流石に彼もイチコロであるが、すんででこらえる。
「でもロマンチックじゃない?諦めきれない想いの再燃って。ちょっと彼女には申し訳ないけれどもトレンディドラマ見ている気分。応援したくなっちゃうもの」
「う、うんそうだね」
ぎゅっと抱き着いたまま頬をすりすりするマルゼンスキー。いかん、これはなんか盛り上がってるぞと思ってなだめようとするが、遅きに失したようである。彼の胸の当たりに指先で「の」の字を描くマルゼンスキー。
「それじゃ、そんな若人を応援する私たちも燃え上がっちゃいましょうか♪ナイトフィーバーと洒落こみましょうよ♪」
押し切られた以上手は一つしかない。先頭をひた走られる前に、彼は不意打ちで唇を奪う。
「ん…きゃん♪」
「君から誘ったんだからね。ちょっと今のナシなんて言わないでくれよ」
「モチのロン♪」
これもすべてマルゼンスキーのお望み通りなのは察しつつ、彼女の顎に指を触れる。そして彼は夜のスーパーカーに勝負を挑むのであった。 - 183121/10/26(火) 22:37:58
了!
というわけでマルゼンスキーでした。やっぱりマルおね可愛いよね。うん。
ネタのメモ
・ルドトレの家にお邪魔するコース
・別離の間にアイリッシュパブで他トレーナー♀にちょっと慰められるトレーナーさん
(フラッシュ「はい?」)
・フラッシュの勝負下着まで着ていったけど特にイベント起きなかった映画回 - 184二次元好きの匿名さん21/10/26(火) 22:43:06
最近読めてなかったからまとめて読んだ
神だった
マルゼンスキー書いてくれて嬉しい - 185121/10/26(火) 22:46:14
- 186二次元好きの匿名さん21/10/27(水) 10:14:09
- 187二次元好きの匿名さん21/10/27(水) 18:58:00
マルゼンさんの所のコンビも皆素敵でまいっちんぐですわ
- 188121/10/27(水) 22:16:10
ちょっと今日はお休みで!すまぬ。
感想ありがとう!パブっていうかカフェっていうかそんなかんじですね。
楽器のセッションとか出来たりするような場所を想像したり。フラッシュさん連れてくなら禁煙なとこにはなるかなとも。最近ならそういう処置してるとこもそこそこあるだろうし。
まぁ話を聞くだけでもヤキモチですし、「悪い虫」扱いは避けられないよね……。
感想ありがとう!マルゼンさん独占めちゃ羨ましい…。
いや内外でめちゃ人気ありそうですよね彼女。すっごく優しくて思いやり深いし、ボンキュッボンにも程があるし。
この二人は結構ノリがいいからいろいろやってそう。
「トレーナーさん、マルゼンスキーさんに旅館ですべき伝統芸能というのがあると教えていただきました」
「え?マルゼンスキーさんが?何か意外だな」
とはいえマルゼンスキーが裕福な家の出であることは周知の事実である。習い事等で作法に通じていても冷静に考えたらおかしくはない。
「はい、何でもグラスワンダーさんがされるほうの達人であるとか」
「へぇ」
グラスワンダーといえばアメリカ生まれの帰国子女にしてトレセン屈指の大和撫子である。文化というのは外にあるものに惹かれるということが多いので、こういうケースも往々にしてある。それにしてもされるほう、とはどういうことなのだろうか。
「なんでも男女一組で取り組むものなのだそうです」
「……何か嫌な予感がしてきたんだけれど」
「参考資料としてこちらをいただきました。二人で見てみませんか?」
時代劇傑作選!と銘打たれたDVDボックス。大体想像がついたトレーナーだが、ちょっとウキウキしているフラッシュに水を差す気にはなれなかった。
参考資料を見終えたフラッシュはじっとトレーナーを上目遣いで見つめる。
「…勉強になりました。今度温泉に行くときは、トレーナーさんじゃなくて悪代官様ですね」
反論を試みるが、たぶん頼まれればやってしまいそうな自分にちょっと悲しくなるトレーナーであった。
- 189二次元好きの匿名さん21/10/27(水) 23:53:36
- 190二次元好きの匿名さん21/10/28(木) 09:12:58
甘~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!
- 191二次元好きの匿名さん21/10/28(木) 15:53:51
グラスがされる方の達人で小一時間ツボっちゃった
グラトレは下手そう(偏見) - 192121/10/28(木) 21:42:42
ルドルフがイベントきちゃったので今日はお休みですすみません…。
明日は更新できると思う!
あの、その…すごくいいよねあの衣装…。
チャンネーの水着もだけど、似合う衣装が来てくれてうれしい。財布は苦しい。
感想ありがとう!ちょっと思いついてしまったのでちょっと書いた。
感想ありがとう!なんか空気感が二人だと甘くなりますね。どれが一番甘いんだろ今までで。
感想ありがとう!まぁ十中八九グラスがリードするよね。
グラトレがへたっぴな帯の引っ張り方するんだけど、グラスちゃんの帯はなぜか器用にほどかれるんだ…。
「あ~れ~…♪お代官様、お許しを♪」
顔を真っ赤にしながらガチガチの姿勢で帯を引っ張ったグラスワンダーのトレーナー。するとグラスワンダーは栗色の毛をふわっと舞わせながらくるりくるりと回る。まるで独楽のように、はらりと帯が緩められ、華やいだ着物から純白の楚々とした襦袢。着物を敷物にするようにして天井を仰ぐ軽やかなグラスワンダーの肢体と白い衣。片膝をゆるりとあげて露になる脛にグラスワンダーのトレーナーは目を背けてしまうのであった。
- 193121/10/29(金) 00:17:45
っていうかそろそろ次スレか…うごご
どうしよう - 194二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 10:25:47
🎈
祝
p
a
r
t
4
到
達 - 195二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 21:15:44
3スレッドが埋まろうとしている‥凄い‥
- 196121/10/29(金) 23:25:53
ありがとうございます。まあ今回はスローペースでちょっとずつでしたが、皆さんがコメしてくれたおかげです。まじで。
残りが少ないので新スレをたてました。
まったり進行ですが遊びにきてくれると嬉しいです。
【SS】【フラッシュ×♂トレ】卒業後の別離を経て同棲するエイシンフラッシュとトレーナーさんand more 【part4】|あにまん掲示板題名通りエイシンフラッシュと♂トレーナーさんが卒業後に同棲しながらイチャイチャするお話しと彼女たちを取り巻く方々のお話しです。希にルドルフ×トレーナー、マルゼンスキー×トレーナーなどもあったりします。…bbs.animanch.com - 197二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 23:36:38
感謝しかねェんだわ
- 198二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 01:27:28
このレスは削除されています
- 199二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 02:44:30
SSとは?というレベルの長編シリーズと化しているな…
いつもありがとうございます - 200二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 03:45:02
トレフラはやはり健康にに良い...!