- 1二次元好きの匿名さん21/10/17(日) 23:51:22
- 2121/10/17(日) 23:51:31
「サイレンススズカに故障発生!なんということでしょう、第4コーナーを迎える前に、レースを終えたサイレンススズカ!沈黙の日曜日です。」
意識が朦朧としてる中に、はっきりとこの言葉が聞こえていた。
実力をつけ始め、これからという時の私に無慈悲な判決が下された。
コンコン、ドアをノックする音が聞こえた。
時計を見ると朝の10時、いつもどうりの時間にあの人は来てくれている。
「スズカ、入ってもいいか?」
「どうぞ。別に毎日来なくてもいいんですよ」
「いや、スズカの足の具合を正確に判断できなかった俺の責任だ。だから、少しの罪滅ぼしをさせてくれ。」
“俺の責任”
私が入院してからこの言葉を聞かなかった日はなかった。
このケガは誰のせいでもない。そう伝えても、トレーナーさんは納得はしてくれなかった。少し壁を感じてきたのはこの頃だろう。
でもトレーナーさんが、こんなに気が病んでるのは私のせいだと思った。
もう一度走りたいという思いもあったが、リハビリを頑張る理由の大半がこれである。
年が明け、雪が溶け始めた頃に私は歩けるようになった。お医者さんも驚いていたし、トレーナーさんは泣いて喜んでくれた。
だけど、まだターフの上に立てるという確証は得られなかった。 - 3121/10/17(日) 23:52:09
春休みになり、学園の中が静かになり、練習場では、いつもより沢山の走る音が聞こえてきていた。
「トレーナーさん、温泉に行きましょう」
「え?」
トレーナーさんは、わかりやすく戸惑っているのが見える。急に担当している女子学生から言われたら、確かにこういう反応になるのだろう。
「私も退院してから、遠出する機会はありませんし、トレーナーさんもそろそろ心がということでバタバタしているので、どうかなって。」
「べ、別にいいけど、俺でいいのか?他にスペとかエアグルーヴとかいるだろ?」
「2人とも春のレースがあったりと忙しそうでしたし、私はトレーナーさんと行きたかったので」
レース、この言葉を発することは、少し心臓に悪かった。トレーナーさんも体が一瞬強ばっていたのが見えた。
「そうか…分かった、スズカの為なら仕方ないな!」
「じゃあ、来週の水曜日、31日の朝に学園の門の前にいて下さい。スケジュールは私が立てて起きますので。」
もちろん、理由は話したとうりだ。しかし、この旅行にはもう1つの目的があった。
「相変わらずスズカは早いな。待たせたか?」
「いいえ、待ってませんよ。私はじっとしていられなかったので」
実際は、待ちきれなくて1時間前からいて、テイオー達に何処に行くか聞かれてたなんて言えませんね。
「トレーナーさん、どうですか?」
「どうって何が?」
「出かける時はまず女の子の服を褒めるものですよ。この水色のスカートとかどうでしょう?」
「あー悪い悪い。もちろん似合ってるよ、スズカの瞳の色とそっくりだな。」
「……ふふ、ありがとうございます」
言うなら今日になってしまうのかしら。トレーナーさんのことと、私達の今後のこと。 - 4121/10/17(日) 23:52:34
「ここは…いちご農園か?」
「はい、前々から行って見たいなって思ってたんですけど、機会がなくて今日に行こうと」
「スズカはいちご大福が好きだったよな、前の感謝祭の練習の時も「その話はやめてください!」
トレーナーさんとゆっくり話せてるのは、退院してから始めてかしら。
学園に戻ってたから、トレーナーさんは私がまた走れるように、寝る間も惜しんでいることを知っている。
今日は少しでも、その疲れを癒して欲しい。
「凄いな、どのいちごも甘くて美味しいな。スペが来てたら全部食っちまいそうだ。」
トレーナーさんは、たまに子供っぽく無邪気になる時がある。今は、心から楽しんでくれてるのかしら。
「ここのいちごは『初恋の香り』というらしいですよ。色も綺麗で、香りもいいですね。」
「あ、ああ見事に綺麗に真っ赤だな。」
「少し食べ過ぎたくらい食べたな」
「トレーナーさん、籠いっぱいに入れてましたもんね」
「仕方ないだろ、美味しいものはいくら食べてもいいんだから」
トレーナーさんは分かりやすく拗ねている。
「次は、動物園に行きましょう。お昼もそこで食べることにしましょう」 - 5121/10/17(日) 23:52:52
「最初はレッサーパンダのお迎えですね。全身は長く柔らかい体毛に覆われていて、背中は赤褐色、尾に淡褐色の縞模様があるのが特徴です。耳介はやや大型で三角形。爪はやや引っ込めることができるようです。前肢の種子骨が指状の突起に変化し、指と向かい合っているため物をつかむことができ、頭から樹を降りることが出来るそうですよ。」
「へースズカは物知りなんだな」
「いえ、そんなことは///」
前もって予習しといたかいがありましたね。
「次はマレーバクですね。体長が2m程で、体重はだいたい200kgになります。最も大きい個体で500kgになるらしいです。泳ぎが得意で夜行性です。群れは作らず、単独で生活をします。食性は草食で、主に木の葉を食べますが果実も食べるそうですよ。」
「コイツも泳げるんだな。知らなかったよ」
「プロングホーンですね…別名はエダツノレイヨウ、背面は褐色から淡褐色の毛が生えていて、顎、耳、頚部から腹部、大腿部、臀部には白い毛が生えていますね。走るのが速く最高時速は88kmに達し、さらに時速70km以上の速度を維持しつつ長距離を走ることができるとされ、長距離走においては、チーター以上の速さを誇る動物とされています。あと個人的にあまり好きではありません。トレーナー!あまり近寄ったらダメですよ、狙われます」
「そ、そうなのか?早いんだな、コイツも…」
「はい、とても早かったです。」
「迫力が凄いな、やっぱりライオンはカッコイイな」
「これはインドライオンですね。通常のライオンの亜種で、通常よりも小柄で、体色が薄いのが違いです。オスのタテガミは荒く短いうえに、一つ一つが密着しています。食性は肉食のようですが昆虫類や爬虫類、草も食べることがあるそうです。」
「スズカ、この前のテストはいくつだったっか?」
「最低で50点、最高で65点でした」
「今度のテストは頑張れよ、スズカなら大丈夫だって今確信した。低かったら、ご褒美は無くなるからな。」
「ウソでしょ…」
「いやー動物園もいいものだな。こんなに長い時間楽しめるとは思わなかったよ。」
「トレーナーさん、子供みたいでしたね。」
「男はいつになっても少年の心を忘れないからな。
そんなことより、もうそろそろチェックアウトの時間になるだろ。」
「ふふ、そうですね、旅館へ向かいましょう」 - 61(タイトル酷いのは許して)21/10/17(日) 23:55:54
私達はしばらくして旅館に着いたあと、荷物も置き、豪華な夕食を食べた。
「今日は楽しかったな。」
「そうですね。2人でゆっくりできたのも久しぶりでしたし。」
「それとスズカ、1つ聞きたいことがあるんだ」
体がピクリと跳ねたのが自分でも分かった。
やはり、きずかれてしまったのでしょうか。
「なんで、部屋が1つだけなんだ?」
「ダメなんですか?」
「え?」
「え?」
「スズカ、俺たちは教師と生徒みたいなものだ。それに俺は男だし、スズカももう女性だ。男女の距離感ってものがあるんだ。今からでも変えてもらえるか聞いてくるよ」
「待ってください、トレーナーさん!!
あの、私、トレーナーさんと一緒にいたいです。その、最近あまり2人で入れなかっですし、私の我儘だと思って聞いてください!」
「それでもだな…」
「お願いしますトレーナーさん!」
私はトレーナーさんが、私に頼まれると弱くなることを知っている。今日だけは少し悪い娘でいさせてください。
「わかったよ、ただし、布団はこの部屋の端同士に敷くことな。」
「…!分かりました!ありがとうございす!」
「…」「…」
「温泉、今日の目的は温泉だったな!ほら、行こうか!」 - 71(タイトル酷いのは許して)21/10/17(日) 23:56:03
「とても心地よかったですね。温かくて、疲れが取れました。」
「ああ、俺も最近デスクワークとかで肩が痛かったんだが、楽になったよ。
少しのぼせたかもだがな」
「ホントですか…?じゃあ、外へ歩きに行きましょうか」
「風が気持ちいい…」
「ホントだな、空気もおいしいしいい所だな」
「そうですね。トレーナーさん見てください、満月ですよ金色に見えますよ」
「うぉぉ!星もはっきり見えるし、色も黄色く光ってるのがよく見えるよ」
「…トレーナーさん、今日は1つ伝えたいことがあります。」
「なんだ?」
「トレーナーさん…色、見えてませんよね」 - 81(タイトル酷いのは許して)21/10/17(日) 23:56:31
「き、急にどうしたんだスズカ。俺ははっきり見えてるって、ほら現に月の色だって分かっただろ!」
「トレーナーさんの事だから、ニュースは見てないと思ってました。トレーナーさん、今日、3月31日はブルームーンです」
「…!」
「他に答え合わせをしましょう。
私が今日はいていたスカートは水色ではなく。黄色です」
「…」
「そして、今日食べたいちご、トレーナーさんは真っ赤と言っていましたが、正確にはピンクを帯びた白いいちごです。」
少しの間、静寂が訪れた。
聞こえるのは、風と揺れる草の音。
「騙すような真似してすみませんでした。でも、どうしても確かめておきたくて…その、いつからなんですか…」
「あの日、天皇賞秋の日からだ。」
「君が手術室に入ったとき、俺は目の前から色が消えたんだ。スズカの故障を防げなかった罰だと思ったよ。」
「……誰か知っているんですか?」
「いいや、誰も知らないよ。ただでさえ周りに迷惑をかけていたのに、俺の都合で心配させるわけにはいかなったんだ。ほら、トレセンって優しい人多いだろ。それに、俺への罰なのに背負っていかないと____
バチン
静かな星空の下で、頬を叩く音が響いていた。 - 91(タイトル酷いのは許して)21/10/17(日) 23:57:00
「トレーナーさんのバカ!ポンコツ…!グスッ本当にバカ…」
「スズカ…」
「本当に大バカです。何度言えばわかるんですか、この怪我はあなたのせいじゃない…!仕方なかった、誰も防げなかった…誰も悪くないんです…」
「スズカ、君は何も分かっていない!あの日、どれほど期待されていたのか、これからの君へどれほど期待されていたのか!」
「そんなの知ったことじゃありません!私は走りたかったから、走ってるんです…!期待なんていりません、私は走って入れれば良かったんです!」
「でも、君の脚はもう…!」
「脚がなんですか!まだ完全に走れない時待っわけじゃありません!私を…信じてください」
「…」
「本当にすまなかった」
「いいんです。トレーナーさんが頑固で人の話を聞かないのは知ってましたから。」
「すまない」
「だから、謝らないでください」
「でも今回のことは…」
「やっぱり人の話聞来ませんね。次、謝ったら学園でトレーナーさんと同じ部屋に止まった事言いふらしちゃいますよ」
「ウッ…それはまずいな」
「冗談ですよ。でも、次ごめんなさいしたら、怒りますからね」
「分かったよ。すっかりスズカには頭が上がらないな」
「スズカ、俺からもひとつ聞きたいことがある。」
「なんですか?」
「どうして、俺の事をそんなに気にかけてくれるんだ。俺はトレーナーだが、元はと言えば他人だ、3年の付き合いでそこまで」
「トレーナーさん!月が綺麗ですね。」 - 101(タイトル酷いのは許して)21/10/17(日) 23:58:14
「ス、スズカ?いきなり何を…」
この旅行、私の最後の目的を達成する時がきたようですね。
「私がトレーナーさんのことが大好きだからです!」
「一生懸命に私の事を思ってくれるところ、たまに子供っぽくなるところ、レースの話になると止まらないところ、笑ってるところも、困ってるところも、全部、全部あなたが好きだからです」
「だから、その、私とお付き合い…してくれませんか…?」
遂に言えた。
あなたの担当になったあの日、私の気持ちを1番に考えてくれた。あなたに私は惹かれていました。
「…スズカ、悪いがその言葉には答えられない」
「……」
「だが、今はこれだけで許してくれ」
トレーナーさんは、私の髪も分けた時、私の額に温かい感触があった。
「……!///」
「悪いが今答えられるのは、ここまでだ。最後の答えはスズカが卒業してから伝えるよ」
空いた口が、塞がらなかった、それに顔が熱を帯びていく感覚もある。
「それと、スズカその前の答えだけれど、『死んでもいいわ』だったかな?」
「トレーナーさん、さっきまで私に怒られてたとは思いませんね。」
「はは、すまな…ッ!い、今のはセーフだろ!」
「ふふふ、ホントにずるい人」 - 111(タイトル酷いのは許して)21/10/17(日) 23:58:51
ひとまずはコレで終了です
好評だったら続きを書くかもしれません - 12二次元好きの匿名さん21/10/18(月) 00:00:38
よかったよー
続きあれば楽しみにしてます。👍️ - 13二次元好きの匿名さん21/10/18(月) 00:08:24
充実の動物園パートで全てを察した
- 14二次元好きの匿名さん21/10/18(月) 00:09:01
トレスズ好きだ…ごちそうさまでした
ところでこのスズカさんプロングホーンにやたら対抗心抱いてません? - 15二次元好きの匿名さん21/10/18(月) 00:16:55
マジで、沈黙の日曜日の後の3月31日がブルームーンなのはほへーってなった
- 16二次元好きの匿名さん21/10/18(月) 00:20:02
動物園パートであのシリーズかと身構えたよ……
良い作品だった - 17121/10/18(月) 00:25:08
いちごの白いやつがやりたくて、旅館までそれで終わらせる訳にはいかなかったので、博識スズカが出てきたので、やってみたかったですし…あはは
- 18二次元好きの匿名さん21/10/18(月) 00:32:49
普通にスタンディングオベーションもの
時間帯をもっと人がいる時間にしたい - 19二次元好きの匿名さん21/10/18(月) 00:43:27
このスズカさんは、あにまんスズカとアニメスズカを足して二で割った感じだな
- 20二次元好きの匿名さん21/10/18(月) 01:49:51
奴とは色々あったからな…
- 21二次元好きの匿名さん21/10/18(月) 02:39:10
このレスは削除されています
- 22二次元好きの匿名さん21/10/18(月) 03:31:11
美しいものを見た
- 23二次元好きの匿名さん21/10/18(月) 03:31:58
このレスは削除されています
- 24二次元好きの匿名さん21/10/18(月) 03:47:32
これは素晴らしい
こういうのでいいんだよ
いや、こういうのがいいんだ - 25二次元好きの匿名さん21/10/18(月) 08:11:51
いやー素晴らしい
所々荒はあるけれど、会話文多くて分かりやすかった - 26二次元好きの匿名さん21/10/18(月) 15:18:18
トレスズは癌にきく
- 27二次元好きの匿名さん21/10/18(月) 15:27:13
スゥ…(見ろ、これが癒しを求めていたものの末路だ。彼は尊みに耐えきれず消失した。
- 28二次元好きの匿名さん21/10/18(月) 15:39:29
スズカ動物園ネタにしてくれたのちょっと嬉しい
- 29二次元好きの匿名さん21/10/18(月) 20:01:00
同じ時期に出てたスズカのssで影に隠れちゃってて惜しい作品だ
- 30二次元好きの匿名さん21/10/19(火) 03:10:52
雰囲気がいいですね!