【SS・閲覧注意・CP】「おーい!ライブが始まるぞ、ルフィ!」PART5

  • 1スレ主23/04/04(火) 22:15:32

    ルフィの幼馴染設定をなくしたらラスボス街道を突っ走ることになったウタちゃんです
    話の性質上REDのネタバレを含みます キャラ崩壊注意 CPはルウタ

    前回のあらすじ:赤髪海賊団がログインしました

  • 2スレ主23/04/04(火) 22:17:07

    PART4

    【SS・閲覧注意・CP】「おーい!ライブが始まるぞ、ルフィ!」PART4|あにまん掲示板ルフィの幼馴染設定をなくしたらラスボス街道を突っ走ることになったウタちゃんです話の性質上REDのネタバレを含みます キャラ崩壊注意 CPはルウタ(予定)前回のあらすじ:トットムジカ増えました前スレht…bbs.animanch.com

    PART3

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    PART2

    【SS・閲覧注意・CP】「おーい!ライブが始まるぞ、ルフィ!」PART2|あにまん掲示板ルフィの幼馴染設定をなくしたらラスボス街道を突っ走ることになったウタちゃんです話の性質上REDのネタバレを含みます キャラ崩壊注意 CPはルウタ(予定)前スレhttps://bbs.animanch.…bbs.animanch.com

    PART1

    【SS・閲覧注意・CP】「おーい!ライブが始まるぞ、ルフィ!」|あにまん掲示板ウソップ(うひょー!照明が落ちてもうすぐ始まるぞ……ああ心臓がドキドキする!)ウソップ(こんな目の前の席でライブが見られるの、この先一生ないかもな)ウソップ(それも憧れのプリンセス・ウタのライブで!)…bbs.animanch.com

    元ネタになったスレ

    【閲覧注意】ここだけ赤髪海賊団がフーシャ村に|あにまん掲示板bbs.animanch.com
  • 3二次元好きの匿名さん23/04/04(火) 22:17:51

    たておつ!

  • 4二次元好きの匿名さん23/04/04(火) 22:22:42

    このレスは削除されています

  • 5スレ主23/04/04(火) 22:23:41

    現在の状況

    赤髪海賊団
    ・待たせたな!

    ボルサリーノ、イッショウ、モモンガ、ガープほか inエレジア
    ・何しに来とんじゃワレェ!

    一般海兵
    ・へんじがない

    ウタ、観客
    ・なにこれェ

    麦わらの一味と海賊たち
    ・ステータス:筋肉痛(我慢すれば動ける)

    カタクリ、オーブン、ブリュレ
    ・嫌な予感がしたので撤退

    カリファ
    ・船の中で気絶

    五老星
    ・報告はどうしたァ!(まだ知らない)

  • 6二次元好きの匿名さん23/04/04(火) 22:41:38

    >>5

    赤髪海賊団「待たせたな!」

    かっこつけてる場合か貴様ァ!

  • 7二次元好きの匿名さん23/04/04(火) 22:43:11

    立て乙

  • 8二次元好きの匿名さん23/04/04(火) 23:04:15

    >>5

  • 9二次元好きの匿名さん23/04/04(火) 23:35:19


    洋上に浮かぶ一隻の船。


    夕日を背にして進むその姿を目にした観客たちの口から次々と驚愕の声が漏れた。


    『海賊船?』『海賊?どこ??』『おい押すなよ!』『ねえ、あの帆の印…!』



    『ドクロの左目に……三本傷!』


    『よ……"四皇”赤髪の旗だ!!』


    『赤髪のシャンクス!?』


    大海賊に対する怯えと動揺のざわめきが船上に広がっていく。

  • 10二次元好きの匿名さん23/04/05(水) 00:51:49

    10まで埋め

  • 11二次元好きの匿名さん23/04/05(水) 02:04:49

    遂にPart5か
    ルウタ期待

  • 12二次元好きの匿名さん23/04/05(水) 07:05:20

    Part1から4まで一気に読んじゃったよ
    期待

  • 13二次元好きの匿名さん23/04/05(水) 07:11:11

    ヨルエカ「そんな……四皇の海賊がどうしてここに」


    青年「まさかウタを攫いに来たのか!?」


    ロミィ「ウタ……!」


    ウタ「……」


    突然のことに頭が真っ白になっていたウタは、観客たちの心配そうな声にハッと我に返った。


    みんな、みんなが怯えている。


    安心させなきゃ。


    ウタ「みんな――」


    口を開いて、ウタは驚愕した。


    言葉が出てこない。


    ファンを落ち着かせるための安心材料が何もないのだ。


  • 14二次元好きの匿名さん23/04/05(水) 07:20:34

    ……私ががやっつける? 無理だ。海楼石の手錠で能力を奪われてる。


    ……海兵さんに任せる? 何もできずに倒れていくのを今見たじゃないか。


    じゃあ、じゃあどうすれば……!


    ぐっと歯を噛みしめながらウタは思考を巡らせた。だがパニックになった頭では何も思いつかない。


    昔の事ばかり思い浮かんで怒りや悲しみ、恨み事に感情が支配されてしまう。


    どうすれば、どうすれば……どうして……!


    ウタ(どうして来たの……!)


    嘘。


    本当は来てほしかった、はずなのに。


  • 15保守だ23/04/05(水) 09:08:08

    ルウタ期待

  • 16二次元好きの匿名さん23/04/05(水) 19:03:55

  • 17二次元好きの匿名さん23/04/05(水) 19:48:34

    手錠掛けられた状態で親と久しぶりに対面って気まず過ぎだろ

  • 18二次元好きの匿名さん23/04/06(木) 04:03:15

    「浸水箇所を調べろ!」


    「荷は無事か?」


    「帆を畳むのは後だ、急げ!」


    赤髪海賊団の海賊船レッドフォース号の甲板では、船員たちが忙しく走り回っていた。


    威風堂々たる船だが、大嵐と雹の中を無理に突っ切ってきたため船体の損傷が激しく、もはや浮いているのがやっとの状態だ。


    本来なら手近な港に寄っての修理が最善のはず。だが……。


    ロック・スター「……大頭ァ!これ以上近づくのは危険です! 海軍の船が!」


    ビルディング・スネイク「砲門はこっち向かねェよ。大方の海兵はお頭の"覇気”で倒れてんだ、ちゃんと確認しろ!」


    "ハウリング”ガブ「アァ……見える範囲で倒れてないのは一般人か。たくさん乗ってるな」



    赤髪海賊団の幹部たちは、ずぶ濡れのまま目と鼻の先の島を睨んでいた。


    音楽の島エレジア。


    かつて自分たちが滅ぼし、大切な娘を置き去りにした島だ。

  • 19二次元好きの匿名さん23/04/06(木) 07:22:03


    ヤソップ「ありゃ、避難船だな。『トットムジカ』からライブの観客を逃がすために乗せたか」


    ホンゴウ「相当な騒ぎだったようだが……おい、映像電伝虫は沈黙したままか?」


    ライムジュース「ダメだな、ウンともスンともしねェ」


    ボンク・パンチ「ウタの能力が解除されて、中継も切れちまったんだろうな」


    ラッキー・ルウ「まあどっちにしろ、おれたちの目的は一つだ。なあお頭!」


    モンスター「ウキキ……ウキッ!」



    今すぐ乗り込もうと沸き立つ幹部たちを他所に、副船長は冷静な視線を向けた。


    ベン・ベックマン「どうする?お頭」



    シャンクス「……」

  • 20二次元好きの匿名さん23/04/06(木) 18:49:52

    ワクワク

  • 21二次元好きの匿名さん23/04/06(木) 23:00:33

    ドキドキ

  • 22二次元好きの匿名さん23/04/07(金) 06:22:05


    ボルサリーノ「中将の一部までもっていくとはねェ……。これが“四皇”シャンクスの覇気か……」


    船着き場に現れ、倒れた海兵たちの群れを見たボルサリーノは嘆息した。こうも一方的だと話にならない。


    避難船の観客と歌姫は無傷。


    コビー大佐、ヘルメッポ少佐が腰を抜かしただけで済んだのは、観客の格好だったからなのだろう。


    つまり、赤髪のシャンクスはこちらの状況を“ほぼ目視”可能と推測できる。


    海賊船はまだ遠い距離にあるとはいえ、一瞬でこちらに飛び込んでくるような……そんな、ぞっとする恐ろしさが“赤髪海賊団”にはあった。


    ボルサリーノ「こちらで動けるのは」


    イッショウ「中将3名と大将2名。……モモンガ中将も無事のようで」


    モモンガ「……不覚を取りました」


    立ち上がって襟を正すモモンガ中将は、背中に冷や汗をびっしょりかいている。


  • 23二次元好きの匿名さん23/04/07(金) 06:44:59

    このレスは削除されています

  • 24二次元好きの匿名さん23/04/07(金) 06:55:01


    ウタ「……!まさか、戦うの?!」


    海軍の大将たちが身構えるのを目にして、ウタは思わず叫んだ。身体がふらつくが構わない。


    ボルサリーノ「相手は海賊、追い払うのが当たり前でしょォ~?それとも今さら向こうにつこうってのかい、歌姫さんよォ」


    ウタ「……っ」


    イッショウ「市民の皆さんと、気絶したままの部下を置いて逃げるわけにはいきやせん。すまねェがこれも海軍の“矜持”ってモンでしてね」



    モモンガ「ガープ中将も構いませんね?」


    ガープ「そうじゃのう、久しぶりに灸を据えてやるとするか」


  • 25二次元好きの匿名さん23/04/07(金) 08:11:04

    このレスは削除されています

  • 26二次元好きの匿名さん23/04/07(金) 15:54:08

    どうなるのか…

  • 27二次元好きの匿名さん23/04/08(土) 00:12:18

    ガープがいるのがシャンクス達にはきついな

  • 28二次元好きの匿名さん23/04/08(土) 00:16:36

    ガープは無理です。拳骨一発でどうなるか
    後々分かると思うけど。

  • 29二次元好きの匿名さん23/04/08(土) 06:36:39

    ウタ「そんな……」


    手錠を掛けられた両手に無意識に力が籠る。


    今の赤髪海賊団がどれほどの脅威かはウタには分からない。


    けれど、実際に戦った大将たちやガープ中将の実力は分かる。同程度かそれ以上の力同士がぶつかれば、間違いなくエレジアや観客たちに被害が及ぶだろう。


    自分のせいで銃に撃たれ血を流した観客を思い出す。


    彼は応急処置と海軍の治療で辛うじて一命をとりとめたが、次も同じとは限らない。


    衛生兵だってさっきので気絶して倒れている。



    ……止めなきゃ。

  • 30二次元好きの匿名さん23/04/08(土) 15:15:50

    このレスは削除されています

  • 31二次元好きの匿名さん23/04/08(土) 19:11:29

    『海賊がこっちに来るぞ!』『おかあさんこわい…!』『逃げろ!』『逃げるってどこへだよ!』


    『おい押すなって!小さな子供がいるんだぞこっちには!』『ウワァァァン!!』『うるせぇよ黙らせろ!』『大丈夫、大丈夫だからね!』


    『子供になんてこと言うの!』『こっちだって命がかかってんだ、どけ!』『邪魔なのはテメーだおっさん!』『やめて、やめてよぉ…』



    目の前の人たちを救うために、できることをしなきゃ。


    ……ううん、違う。私が止めるんだ!!




    ゴードン「……ウタ?」

  • 32二次元好きの匿名さん23/04/08(土) 19:35:05


    ガープ中将の後ろからウタの様子を覗いていたゴードンは、顔を上げたウタの、決意に満ちた表情に誰よりも早く気づいた。


    きょろきょろと周囲を見回し、ゴードンの姿に気づくと。


    戸惑いと懇願の混ざった微笑みを浮かべ、口を大きく動かした。



    う、た、い、た、い



    ウタ「ゴードン、わたし……唄いたい!」


    ゴードン「……! わかった、少し待っていてくれ!」


    モモンガ「お、おい!?」


    ゴードンはその場からくるりと背を向け、モモンガ中将が呼び止めるのにも構わずライブ会場へ走った。

  • 33二次元好きの匿名さん23/04/08(土) 20:49:13

    息せき切ってライブ会場のステージに戻ってきたゴードンは、いまだ鳴りを潜めている海賊たちに向かって声を張り上げた。


    ゴードン「ハァ……ハァ、す、すまない誰か……!私を城まで運んでくれないだろうか……!」



    ゾロ「は?」


    ウソップ「どういうことだ?」


    ようやく筋肉痛が落ち着いてきたウソップが枡席からひょっこり顔を覗かせると、ゴードンは更に言い募った。


    ゴードン「頼む!事は一刻を争うんだ! 虫のいいことを言っているのは分かっている、だが、それでも私は……!」



    “ROOM”

  • 34二次元好きの匿名さん23/04/08(土) 21:13:15

    ゴードン「私は、ウタの力になりたいんだ!」


    ウソップ「うおッ!?」


    サンジ「びっくりした……イテッ」


    いきなり枡席に現れたゴードンに一同驚く。


    ロビンは視界の端にちらりと映った人影に気が付いた。


    ロビン「トラ男君……?」



    “シャンブルズ”でゴードンを移動させたトラファルガー・ローは、ベポと共に観客席の端で様子を伺っている。


    ロー「お前らなら行けるだろう。なあ――麦わら屋」

  • 35二次元好きの匿名さん23/04/08(土) 23:21:27

    ルフィ「あの城まで行けばいいんだな」


    ゴードンの腹にシュルシュルとゴムの腕が巻き付く。


    麦わら帽子をしっかり被りなおしたルフィは、ライブ会場の古びた天蓋に向かって片腕をぐいーんと伸ばして掴むと、仲間の方を振り向いた。


    ナミ「ルフィ?!」


    ルフィ「じゃあちょっと行ってくる。飛ばすぞ!」


    ゴードン「うおォッ!!?」



    ビュン!と猛スピードで空へ飛んでいくルフィとゴードン。


    そのままルフィはターザンのように橋や建物を伝って市街地へ向かっていった。

  • 36二次元好きの匿名さん23/04/08(土) 23:57:24

    海軍が赤髪海賊団に気をとられてて良かったな

  • 37二次元好きの匿名さん23/04/09(日) 09:14:28

    取り残された仲間たちはしばらくぽかんと見上げていたが、やがてくすくすと笑いが起こり始める。


    ナミ「まったくあいつは……いつも唐突なんだから」



    ジンベエ「それがうちの船長じゃからな、ワハハハ」



    フランキー「ス~~パ~~同意だぜ!」


    チョッパー「ルフィとゴードンさん、お城に行って何するんだろ」


    ロビン「さあ、分からないわ。でもきっと何かが変わる予感がするの」

  • 38二次元好きの匿名さん23/04/09(日) 16:53:06

  • 39二次元好きの匿名さん23/04/09(日) 23:38:32

    ルフィはそういうやつだよな
    そこが魅力でもある

  • 40二次元好きの匿名さん23/04/10(月) 07:25:44

    このレスは削除されています

  • 41スパイダーマンとか立体機動とか23/04/10(月) 07:51:07


    市街地から高台、そして城へ。


    街中に生えている柱や建物を伝って、徒歩移動なら数十分かかる距離をものの5分で飛び越えた二人は、エレジア城の前に勢いよく到着した。


    激しい揺れと回転にゴードンの顔は真っ青になり、必死で酔いを堪えている。


    ルフィ「おっさん、着いたぞ。……イチチ、やっぱ腕伸ばすとまだイテェなァ」


    ゴードン「ヴ……っ、すまない……運んでくれてありがとう」


    ここで吐いている場合ではない。ゴードンはルフィに腕を外されるとふらつきながら城の中に入っていった。


    1階は巨大な廊下が奥まで延びており、右手側に音楽院への扉がある。


    ゴードン「いつか……いつか来るこの日のために、整備しておいてよかった……」


    懐から取り出した鍵を震える手で鍵穴に差し込むとと、ゴトン、と音がして扉が開いた。


    そこにあったのは、巨大なパイプオルガンのような機械だ。


    ゴードンは軽くホコリを払って回ると、鍵盤の横から伸びている伝声管の蓋を開けて呼びかけた。


    ゴードン「ウタ、ウタ! 聞こえるかね!」


  • 42二次元好きの匿名さん23/04/10(月) 08:04:53

    [ウタ、ウタ! 聞こえるかね、準備ができたぞ]


    モモンガ「なんだ、どこから声が!?」


    モモンガ中将が驚いて周囲を見回すと、生い茂った木々に隠れるように置かれたスピーカーが見えた。


    モモンガ「こんなところに……」


    ウタが近づいて雑草をかき分けると、電伝虫がひょっこり顔を覗かせる。


    スピーカー用のマイクと繋がっていることをを確認すると、ウタは電伝虫の殻をそっと撫でて、受話器を取り上げた。


    ウタ「……聞こえるよゴードン、ありがとう」


  • 43二次元好きの匿名さん23/04/10(月) 19:01:17

    🌟

  • 44二次元好きの匿名さん23/04/10(月) 22:56:23

    ゴードンさん頑張ったな

  • 45二次元好きの匿名さん23/04/11(火) 06:03:09


    ゴードン「こちらも聞こえたぞ。繋がったな、良かった……さて、ウタ、音楽の時間だ」


    [はい。よろしくお願いします、先生]


    ゴードン「何にしようか?」


    [あの曲がいい。いつも私、ひとりで唄ってたでしょ]


    ゴードン「あの曲だな。たくさん練習したんだ、良い機会だから彼らにも聴かせるといい。始めるぞ」


    電伝虫を使った会話を終えたゴードンは、大きく深呼吸して機械の鍵盤に指を乗せると、軽やかに動かし始めた。

  • 46二次元好きの匿名さん23/04/11(火) 06:20:39


    どこからともなく、優しい旋律が流れ始める。


    受話器を持って立ち上がったウタは、前奏に合わせて短く呼吸しながら前を向いた。


    ……うまく唄えるだろうか。体力も心許ない。“ウタウタの能力”も使えない。


    ……ううん、うまく唄おうとしなくていい。伝えるんだ。


    この胸の思いを。みんなの想いを。歌に乗せて。


    私の声で伝えたい。


    ――いま私は“ここにいるよ”って。



    《どうして あの日遊んだ海のにおいは》


    《どうして すぎる季節に消えてしまうの》


  • 47二次元好きの匿名さん23/04/11(火) 07:05:42

    《またおんなじ歌を歌うたび あなたを誘うでしょう》



    海賊の脅威に怯えていた観客たちは、聞き覚えのある歌が耳に届くと次第に落ち着きを取り戻していった。


    『この歌……』『おい、ウタが歌ってるぞ』



    《信じられる? 信じられる?》


    《あの星あかりを 海の広さを》



    『海賊に……?』『いや、きっとわしらのためじゃ』『ウタ……』



    《信じられる? 信じられるかい?》


    《朝を待つ この羽に吹く 追い風の いざなう空を》


  • 48二次元好きの匿名さん23/04/11(火) 07:17:45


    ルフィ「すっげー、これ自分で動いてんのか」


    目の前で鍵盤がひとりでに演奏する様子を見て、ルフィは感嘆の声を洩らした。


    ゴードン「元々楽曲を覚えさせていたんだ。最初のフレーズさえ弾いてしまえば、あとは勝手にやってくれる」


    二人がいる音楽院にもウタの歌声は届いていた。


    電伝虫を通して伝わる歌声が機械の中で反響し、増幅して、城の外へ流れていく。


    伴奏つきのそれは一つの完成された音楽として、エレジア中に響き渡っていた。


    ゴードン「この楽器の名は『エレジア』という」


    ゴードン「13年前、私はウタの歌声を国民にも聞かせようと、これを使って国中に聞こえるようにしたんだ」


    それがいけなかったのだろう。歌声は、城の地下に封じ込めていた楽譜を招き寄せてしまった。


    その楽譜『トットムジカ』は“ウタウタの実”の能力で封印を解き自由になると、小さな少女を飲み込み猛威を振るい始めた。


    すべては、それがきっかけだったのだ。

  • 49二次元好きの匿名さん23/04/11(火) 07:43:31

    《どうして かわることなく見えた笑顔は》


    《どうして よせる波に隠れてしまうの》



    ウタ(……ずっと子供だった。私は、あの頃から何も変わっていない)


    唄いながらウタはずっと、自分の中の記憶を掘り起こしていた。



    《またおんなじ歌を歌うたび あなたを想うでしょう》



    赤髪海賊団の音楽家の、小さなウタでいたかった。


    だから幻のシャンクス達を作って甘え、叱って欲しいと駄々をこねて。


    結局初対面の男に叱られるまでそれが分かってなかった。


    ウタ(でもそんな子供の私をゴードンが、世界中のファンが、今まで支えてくれていたんだね)


    ウタ(ガープさんも、海軍の人も。……赤髪海賊団も)


    ウタ(こんなにたくさんの人たちに守られた私に、一体何が返せるだろう?)


  • 50二次元好きの匿名さん23/04/11(火) 08:05:35

    《信じてみる 信じてみる》


    《この道の果てで 手を振る君を》



    ボルサリーノ「ほォ……」


    モモンガ「これは……」


    ウタの周りから、地面から、光の粒が次々と生まれて宙に浮かんでいく。


    イッショウ「まさか『トットムジカ』の残りかす、ですかい……?」


    一瞬警戒したが、しかし敵意は微塵も感じられず。


    目の見えないイッショウにはそれが不思議と優しい温もりをもった何かに思えた。


    ガープ「“悪魔の実”に頼らず、歌声だけで奇跡を呼び起こすか……」


    ガープ「立派な生徒を育てたのう、ゴードン」


  • 51二次元好きの匿名さん23/04/11(火) 08:12:36

    《信じてみる 信じてみるんだ》


    《この歌は 私の歌と やがて会う 君の呼ぶ声と》



    島のあちこちに聳え立つ柱とそれを支えるロープが、まるで竪琴のように弦を鳴らし音楽を奏でている。


    波の飛沫が、滝の落ちる音が、風のざわめきが、木々の揺れる音が。


    すべてがひとつの音楽となって海へ流れていく様子を、コビーとヘルメッポが抱えた映像電伝虫が撮影していた。


    ヘルメッポ「すげェ……」


    コビー「まるで、島が歌ってるみたいだ……!」


  • 52二次元好きの匿名さん23/04/11(火) 13:25:01

    このレスは削除されています

  • 53二次元好きの匿名さん23/04/11(火) 20:02:33

    歌声だけで奇跡か…
    さすが

  • 54二次元好きの匿名さん23/04/12(水) 01:00:01

    《信じられる? 信じられる?》


    《あの星あかりを 海の広さを》


    音楽の島から流れる歌声と光の粒子は、風に乗ってレッド・フォース号に届いていた。


    赤髪海賊団の古参幹部たちは、久しぶりに聞くウタの歌声に聞き惚れている。


    「上手くなったなぁ……」


    「ああ、綺麗だ……」


    しばし聴き入っていた海賊たちは、船が大きく揺れたのに気づいてハッと我に返った。


    「おい、船が……」


    「止まってるぞ!?」


    船首楼から下を覗くと、無数の光の粒が手のひらのような形を作り、船体を優しく包み込んでいる。


  • 55二次元好きの匿名さん23/04/12(水) 05:56:28

    ベン・ベックマン「……攻撃の意志はねェ。だが、これ以上近づかせちゃくれないようだな」


    慌てる船員たちを他所に、副船長は煙草を咥えながら傍らの船長を見た。


    赤髪海賊団の大頭は、エレジアに真っ直ぐ身体を向けて微動だにせずにいる。


    船着き場の縁に立ち、手錠をかけられたまま歌う少女の様子をシャンクスは“見聞色の覇気”ではっきり捉えていた。


    歌い続ける彼女と視線が交わることはない。


    それでもこちらへ向けて祈りを届けようとする娘の心を感じ取り、シャンクスの口元は自然と綻んでいた。


    シャンクス「……大きくなったな、ウタ」


  • 56二次元好きの匿名さん23/04/12(水) 06:53:27

    オーブン「……ん? 何だ、どこからだ?」


    ブリュレ「どうしたの、オーブンお兄ちゃん」


    カタクリの船に乗せられ、疲労からうとうとしていた眼に周囲をきょろきょろと見回す兄の姿が映った。


    やがて、透明感のある音色がブリュレの耳にも届く。


    カタクリ「エレジアの方角からだ」



    オーブン「なら、あの歌姫の歌だな。ここまで届くとは大したもんだ」



    もう島影も見えないほど遠く離れているのに、伸びやかな歌声を乗せた風が頬をするりと撫でていく。


    ブリュレ「……私この歌、嫌いじゃないわ。優しい感じがするもの」



    カタクリ「……そうだな」


    妹の言葉にカタクリも頷いた。穏やかな旋律が家族のやさしい思い出を呼び起こす歌だ。


    あと少しで“偉大なる航路(グランドライン)”の悪天候が歌声を遮るだろう。


    だがそれまでの、もう少しだけ。束の間の平和なひとときを兄妹たちは楽しんだ。

  • 57二次元好きの匿名さん23/04/12(水) 07:49:34

    《信じてみる 信じられる》

    《夢のつづきで また会いましょう 暁の輝く今日に》


    ヨルエカ「し、信じられる! 信じられる……」

    歌声を聴く観客の少年の口から思わず声が飛び出していた。

    映像電伝虫越しでは分からなかった、彼女自身の本当の願い。

    ウタは救世主ではなく、自分と同じ弱い人間だったのだと今になって気づかされた。

    ヨルエカ(夢の中で怖い思いはしたけど、ウタは今ぼくたちを守ろうとしてくれてる……)

    ヨルエカ(応援したい……弱い自分でも誰かの力になれるって、信じたいんだ)

    ――おれたちファンだって、プリンセス・ウタを扶けられるはずさ。

    ――頼りきりじゃなくて、一緒に頑張ろうじゃねェか!

    夢の中で聴いた誰かの言葉が、ヨルエカを突き動かす。

    少年の小さな歌声はやがて複数の声と重なり、いつしか大きな合唱となっていった。

    ヨルエカ(ねえウタ、もし新しい時代が来るなら、ぼくはウタを信じていられる世界がいいよ!)

  • 58二次元好きの匿名さん23/04/12(水) 08:08:32


    ウソップ・チョッパー「「信じられる~~! 信じられるゥ……!」」


    枡席の中では号泣する男たちの大合唱が響いていた。


    後ろの観客席からはバルトロメオとクラゲ団らしき野太い涙声も聞こえてくる。


    ゾロ「泣くか唄うかどっちかにしろよ……」


    サンジ「あのほじあがりを~~! う゛み゛の゛ひ゛ろ゛さ゛を゛~~!!」



    ゾロ「オメーもか!!」


    ロビン「ナミは歌わないの?」


    ナミ「いや私は……ちょっと」


    ナミはちょっと引き気味に首を横に振った。


    歌いたい気持ちはあるが、どうしても恥ずかしさが混ざってしまう。


    ブルック「ヨホッ、音楽は聴いているだけで楽しいものですよ。……ああでも私、演奏したくなってきました!」


    ロビン「フフッ、いいわね」


    ロビンは微笑むと音楽に合わせて体を揺ら始めた。フランキーやジンベエも思い思いに歌を楽しんでいる。

  • 59二次元好きの匿名さん23/04/12(水) 17:11:18

    ひ"ろ"さ"を"~~""

  • 60二次元好きの匿名さん23/04/12(水) 20:58:13

    みんな歌でまとまるのいいな

  • 61二次元好きの匿名さん23/04/13(木) 06:50:10

  • 62二次元好きの匿名さん23/04/13(木) 06:55:06

    《信じられる 信じられる》

    《夢のつづきで 共に生きよう》

    ウタ(シャンクス、ベック、ルウ、ライム、ホンゴウさん、ガブ、パンチ、スネイク、モンスター……みんな)

    両手を前に向かって伸ばせば、レッド・フォース号の影がこの手の中に入る。

    近いけど、遠い。

    今はまだ、あそこへは行けない。だから……

    ウタはそっと手のひらを広げ、船を解放した。

    ウタ(いつか、また会おうね)



    《暁の輝く 今日に》

  • 63二次元好きの匿名さん23/04/13(木) 08:03:30

    歌声と『エレジア』の音楽が島全体を包む様子を、高台の上でルフィとゴードンも眺めていた。

    ゴードン「……“赤髪海賊団の船が島の近くを通りかかったら、絶対に聴こえるようにするんだ”と」

    ゴードン「長年、ウタと一緒に整備していてよかったよ」

    ルフィ「にっしっし、じゃあ今その通りの状況なんだな」

    これだけの大音量で聞こえないはずがないだろう。

    なんか光るゴマ粒みたいなのも船に向かって伸びてるし。

    ルフィは遠くに見えるレッド・フォース号に視線を向けた。

  • 64二次元好きの匿名さん23/04/13(木) 08:12:21

    ……かつて酒場で見た、寂しそうなシャンクスの背中を思い出す。


    宴で笑っている海賊たちを思い出す。


    あの宴の中にいつか彼女が混ざることがあるだろうか。


    その時彼らは一体、どんな顔をするのだろうか……。


    想像すると少し楽しくなるような気がして。ルフィはニカッと笑った。



    ルフィ「娘が生きてて、よかったな! シャンクス」


  • 65二次元好きの匿名さん23/04/13(木) 10:03:09

    このまま連行されるのかな・・・

  • 66二次元好きの匿名さん23/04/13(木) 11:25:12

    インペルダウンにぶち込まれるのかな
    まぁ政府海軍視点ではぶち込んで然るべき所業だけどさぁ…

  • 67二次元好きの匿名さん23/04/13(木) 21:12:34

    ワクワク

  • 68二次元好きの匿名さん23/04/13(木) 22:44:03

    シャンクスがどう動くか

  • 69二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 06:03:57


    歌声が消えて、音楽が止むと。


    船を覆っていた光の粒も静かに消えていった。


    穏やかな波に浮かぶレッド・フォース号の上で、余韻に浸る者たちの元にウタの声が再び届く。



    [聞いてくれてありがとう! 色々あったけど、今日のライブはこれでおしまい]


    [みんな、気を付けておうちに帰ってね!]



    ベン・ベックマン「……だとさ。どうする?お頭」


  • 70二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 06:31:13

    このレスは削除されています

  • 71二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 06:36:08


    水を向けられたシャンクスは眉間にしわを寄せて考え込んだ後、大きく溜息を吐いた。


    シャンクス「……あーあー、ライブが終わっちまったな」


    ロック・スター「お頭?」


    シャンクス「まあ元々チケットもねェのに来たんだ、1曲聴けただけでも儲けモンだろ」


    シャンクス「よし、野郎ども! “気を付けておうちに帰る”か」



    『ええーっ!!』

  • 72二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 06:46:05

    不満の声が上がる中をスタスタと横断してシャンクスは船尾へと戻っていった。

    ラッキー・ルウ「お頭!ウタに会わなくていいのかよ?」

    ビルディング・スネイク「馬鹿、野暮なこと言うな」

    ライムジュース「お頭だって会いたい気持ちは十分あるさ」

    赤髪海賊団の幹部たちは船長の意を汲んでそれぞれの持ち場に戻った。

    船の上では船長が絶対。

    それに娘の言いたいことが分からぬほど野暮な男たちではない。機会は去ったのだ。

    ベン・ベックマン「取り舵いっぱいだ野郎ども! 船の修理に向かうぞ!」

    『おーっ!』

  • 73最後の()はルビです23/04/14(金) 07:04:10

    軋む音を立てて回頭する船の中で、慌ただしく動く船員たちの声がシャンクスの耳に飛び込んでくる。


    「あーあ、せっかく嵐を乗り越えてきたってのになァ」


    「でも歌姫のあの歌、凄かったな……」


    「だろ? 俺も好きなんだよな~歌姫ウタ!」


    幹部以外の者に事情は話していないが、突然の進路変更にも付き合ってくれたいいやつらだ。


    港に着いたら酒の一つでも奢ってやろう。それで……


    気が乗ったら、昔話の一つでも話そうか。



    シャンクス(ウタ。離れていてもお前は一生、おれの娘だ。だから……)


    笑って、別れよう(また会おう)。


  • 74二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 07:27:12


    ……ああ、船が小さくなっていく。遠ざかっていく。


    戦いは避けられたんだ。


    シャンクス……みんな、ごめん……。


    やっぱり会いたかったな……。



    最後の言葉を音声の乗せたウタの身体が、ふらっと後ろに倒れる。


    『ウタ!』


    見ていた誰もが手を差し伸べようとする中で――


    ずかずかと接近したガープが片腕一本で受け止めた。

  • 75二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 07:40:43


    ガープ「気を失ったか……。おっと、こりゃいかん。全身が冷え切っとるわい」


    ひょいとウタの身体を抱え上げると、ガープは振り返り大声で呼びかけた。


    ガープ「コビー、ヘルメッポ! 聞いとるじゃろう、さっさと医療班を叩き起こせい!」


    コビー・ヘルメッポ「「はっ、はい!」」


    返事より先に身体が動いた二人は海兵たちが倒れている桟橋へと走っていく。


    ガープは自分の船にウタを運び込むと、拡声器を持ち出して再び顔を出した。


    ガープ「あー、あー、こちらじいちゃん、こちらじいちゃん。おいルフィ~~!!聞こえとるじゃろ!!」


  • 76二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 07:56:41


    ルフィ「げっ、じいちゃん……!」


    ゴードン「じいちゃん?」


    聴こえた言葉にゴードンが振り向くと、船着き場から更に大声が飛んできた。


    ガープ「いるのは分かっとる!帰ったらとっ捕まえるから大人しく首を洗って待っとれい!!」


    キーン!とハウリングの音が響いて警告が終わる。


    海軍の捕縛宣言を聞いた大海賊“麦わらのルフィ”はというと――


  • 77二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 08:06:56


    ニッと笑って城の中へと駆け込んだ。


    音楽院の扉をバン!と開け『エレジア』の伝声管を引っ掴むと深く息を吸って、叫ぶ。


    [そんなの聞いたら待たねェよ!!]


    [おい野郎ども! ずらかるぞ!!!]


    再び島中に大音量が響いた。

  • 78二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 09:15:37

    連れていかれるのか・・・

  • 79二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 09:41:49

    俺はまだ希望を捨ててないぞ…

  • 80二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 12:09:50

    ルフィの腕はどこまでも伸びる事を教える...!!!

  • 81二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 21:16:39

  • 82二次元好きの匿名さん23/04/15(土) 07:19:49

    最悪ガープならまだ預けられるけど...

  • 83二次元好きの匿名さん23/04/15(土) 13:06:51

    その声を聞いた“麦わらの一味”は、というと。


    ウソップ「やっぱそうなるよなァ……ったく、準備しといてよかったぜ!」



    船長の大号令に、待ってましたとばかりに一目散にライブ会場から駆け出した。


    フランキー「アウ!サニー号まで一直線だ!」



    ロビン「まだ走るとちょっと痛いわね……」


    ブルック「お手をどうぞ、ロビンさん」



    ロビン「あら、助かるわ。ありがとうブルック」


  • 84二次元好きの匿名さん23/04/15(土) 20:12:00

  • 85二次元好きの匿名さん23/04/16(日) 00:29:01

    ほしゅ

  • 86二次元好きの匿名さん23/04/16(日) 07:48:19


    サンジ「ナミさん!さあ、おれの背中に!」


    ナミ「ごめん、もうジンベエに乗せてもらってるから!」



    ジンベエ「わしが乗っていいんかのう」



    チョッパー「ゾロ、道を間違えたらちゃんと教えるからな!」


    ゾロ「ハッ、こんな短い距離で間違えるかよ」


  • 87二次元好きの匿名さん23/04/16(日) 11:06:26


    ロー「チッ……ベポ、脱出するぞ! 麦わら屋が海軍の注意を引いてる今しかチャンスはねェ!」


    ベポ「アイアイ、キャプテン!」


    他の海賊たちもこの機を逃さず動き始める。


    カギノテ「おいバルトロメオ、帰りの足が無ェならおれたちの船に乗ってけ!」


    エボシ「途中まで送ってやるよ」



    バルトロメオ「助かったべ~!」


    ウソップ「え~っ!お前らもついて来んの?」


    ハナガサ「あんだよ水くせェ、一緒に『トットムジカ』を倒した仲じゃねぇか。なあ兄弟?」


    ウソップ「だれが兄弟だ!!」


    フランキー「うははは!肝の座った連中だな!」

  • 88二次元好きの匿名さん23/04/16(日) 18:30:34

    ライブ会場の方角が俄かに騒がしくなる気配を感じて、ボルサリーノはやれやれと肩を竦めた。


    ボルサリーノ「ガープ中将ォ……あんたわざと言いましたね?」



    ガープ「ぶわっはっはっは!!人手が足らんのはお互い様じゃろ。厄介事は追っ払うに限る」



    気絶した海兵の回収や観客の保護を優先するには、海賊の存在が邪魔だ。


    彼らも今回は被害者に近い。だからこそイッショウやモモンガも反論できなかった。


    ただ、逃げた海賊が他所で悪さをしないとも限らないのだが……。


    その辺りもこの英雄には織り込み済みなのだろう。


    ガープ「それに孫のことじゃ、わしが何を考えとるかきちんと理解しとるわい」


    ガープ「なあ、“麦わらのルフィ”……?」


  • 89二次元好きの匿名さん23/04/17(月) 03:28:43

    クラゲ海賊団なんだかんだ人いいな

  • 90二次元好きの匿名さん23/04/17(月) 07:44:02


    ルフィ「よし! みんな逃げたな」


    再び高台の上からライブ会場の方角を眺めて、ルフィは満足そうに頷いた。


    そして振り返って、ゴードンを見る。


    ルフィ「じゃ、おれもう行くよ」


    ゴードン「ああ。……きみがまさか彼の孫だったとは。言われてみるとどこか面影を感じるな」


    ルフィ「にっしっし、そうか?」



    似ているとは思わないが、そう言われると悪い気はしない。


    ふと、彼の“家族”であるウタのことを思い出す。


    ガープに保護されたように見えたが、これからのことはどうなるかルフィにも分からない。


    もしかしたら、彼や彼女にとって望まぬ結果が待っていることもあるだろう。

  • 91二次元好きの匿名さん23/04/17(月) 08:09:14


    曇る表情から何か察したゴードンは、心配ないと大きく胸を張った。


    ゴードン「ウタの事は私が何とかしよう。これでも“家族”の一員だからな」


    ルフィ「そっか。……あいつ、ずっとシャンクスに会いたそうだったからなァ。だから……」


    ゴードン「ああ」



    「「シャンクスたちに会わせる」」



    二人の声が揃うと、自然と笑いが零れた。


    ゴードン「そのために頑張るよ。私の友人もきっと協力してくれるだろう」


    ルフィ「ししし、じいちゃんつえーからな。頼りになるぞ」


    今までは後悔から国に閉じこもっていたゴードン国王に、新しい目標が出来た。


    それはウタとゴードンの二人で叶える夢だ。

  • 92二次元好きの匿名さん23/04/17(月) 18:55:33

    会わせるのか

  • 93二次元好きの匿名さん23/04/17(月) 23:40:43

    ゴードンの決意を見たルフィは、両足に力を籠めると高台から大きくジャンプした。


    空中でくるりと一回転すると、ぶんぶんと両手を振る。


    ルフィ「じゃあなー!じいちゃんによろしく!」


    そしてそのまま、市街地へ降りて海の方へと移動していった。


    ゴードンも手を振り見送っていたが、ハッと気づいて崖ギリギリまで走り身を乗り出す。


    私としたことが。まだお礼を言っていないではないか!


    彼にも、彼の仲間たちにも!


    ゴードン「ル、ルフィくーん! エレジアの国王として、ウタの家族として、きみたちに心から感謝する!!」



    ゴードン「ありがとうーー!!!」

  • 94二次元好きの匿名さん23/04/18(火) 00:09:18

    ゴードンのさまざまな思いの籠った言葉はルフィの耳に届いた。

    どこかくすぐったい思いをしながら、ルフィは仲間たちの元に戻る。

    港から離れた場所に停泊していたサニー号の甲板に降り立つと、既に到着していた仲間たちがわっとルフィを取り囲んだ。

    ゾロ「おう、おかえり」

    ウソップ「おせーぞ、船長!」

    ルフィ「悪ィ悪ィ。すぐ出発できるか」

    ナミ「いつでも、船長」

    ルフィ「よし、野郎ども、出航だー!!」

    『おーっ!』

    大きく広げた帆に風を受けて、サニー号はエレジアを出発した。

  • 95スレ主23/04/18(火) 00:24:44

    長かった…エレジア編はひとまずここまで。もうちっとだけ続くんじゃ
    次からエピローグに入ります。ライブの顛末やウタの状況など回収できるところは回収するつもりです
    最後にほんの少しだけCP要素あり

  • 96二次元好きの匿名さん23/04/18(火) 08:01:06

  • 97二次元好きの匿名さん23/04/18(火) 08:35:42

    どうなるんだろう
    オロオロ

  • 98二次元好きの匿名さん23/04/18(火) 18:47:43

    期待

  • 99二次元好きの匿名さん23/04/19(水) 05:46:54

    楽しみにしてます

  • 100二次元好きの匿名さん23/04/19(水) 07:16:06

    このレスは削除されています

  • 101再投稿23/04/19(水) 07:19:12


    ――1週間後。


    サニー号は偉大なる航路(グランドライン)の洋上にいた。


    珍しく穏やかな晴天の中で“麦わらの一味”たちは思い思いの行動をとっている。


    ニュース・クーが運んできた新聞をナミから受け取ったウソップは、紙面をばっと広げるとつぶさに記事を見ていった。


    ウソップ「……うーん、やっぱどこにも載ってねェなァ」

  • 102二次元好きの匿名さん23/04/19(水) 07:51:41


    ルフィ「あいつのことか?」


    ウソップ「ああ、プリンセス・ウタな。せめて無事かどうか分かりゃいいんだが……」


    新聞を広げたまま甲板をうろうろするウソップに、仲間たちはそれぞれ考えを口にする。


    ゾロ「そんな簡単にくたばるタマじゃねェだろ」


    ウソップ「オメーみたいな体力バカと違ってプリンセス・ウタは繊細なんだよ! 一緒にすんな!」


    サンジ「確かにウタちゃんはそこの筋肉の塊と違って細っこいしな……ちゃんとメシ食ってりゃいいんだが」


    ゾロ「おう、褒めてくれてどーもクソコック」


    サンジ「褒めてねーよ筋肉ダルマ!」


    ナミ「はいはい」


    いつものやり取りをナミが諫め、けれども神妙な表情で新聞を覗き込んだ。

  • 103二次元好きの匿名さん23/04/19(水) 08:14:42

    ナミ「でも確かにおかしいのよね。ウタのライブは世間を騒がせたビックニュースだってのに、ずっとだんまりを決め込んでる感じで……」


    ロビン「世界政府の横槍が入ったのかもしれないわね。最初に出た記事だって、ウタと赤髪海賊団のことが中心だったじゃない」




    ――エレジアを包む天使の歌声、奇跡を起こす!!――


    去るXXXX年X月X日、音楽の島エレジアにて歌姫ウタの単独ライブ「NEW GENESIS」が幕を開けた。


    類まれな天賦の歌声を持ち、新時代を牽引する若き歌姫ウタの初ライブとあってチケットは即完売、


    僅かに抽選も行われたがそれでも足りず、涙を呑んだファンのために全世界同時配信を行う発表があったことは記憶に新しい。


    そして迎えたライブ当日の同時視聴者数は数億人規模を超え、世界の八割に届くと推察された(当社調べ)。


    まさに全世界の人間が彼女の歌の世界――ウタワールドに引き込まれたと言えよう。


    筆者も映像電伝虫越しに視聴したが、まさに”夢のような”体験を得たライブだった。


  • 104二次元好きの匿名さん23/04/19(水) 19:26:06

    楽しみ

  • 105二次元好きの匿名さん23/04/20(木) 06:11:35

    事件が起こったのはライブ終盤。夕暮れに染まる海に突如現れた船影が会場の空気を一変させた。


    その船はなんと、レッド・フォース号! かの悪名高き“四皇”シャンクスが配下を従え、歌姫のライブを蹂躙しにやって来たのだ。


    会場を護衛する海軍とあわや衝突か!となったとき、奇跡は起こった。


    歌姫ウタがたった一人で海賊の前に立ち、静かに名曲『世界のつづき』を唄い上げたのだ。するとどうだろう、


    エレジア中の電伝虫が互いに同調し合い、歌声を会場だけでなくエレジア全土に響かせる巨大な一つの楽器となったのだ。


    優しくも強いバラードを歌い上げた歌姫は、響く歌声で四皇“赤髪のシャンクス”を鎮静化させ、海賊船を追い返した。


    まさに夢のような光景だったと、同じ映像を見ていた者たちは口を揃えて筆者のインタビューに答えてくれた。


    彼女はまさに――“救世主”だったと。


  • 106二次元好きの匿名さん23/04/20(木) 07:36:46

    その後、ライブは終了し観客は無事に帰路に就いた。

    海軍の発表では歌姫ウタが疲労から倒れ病院に搬送されたとの情報があったため、今後の続報を待ちたい。

    世界経済新聞社としては今後も歌姫ウタの動向を追いかけ、情報を幅広く募集している。

    ライブ参加者の諸君はこの記事を読んだら、是非ともわが社のインタビューに応じていただきたい。

    連絡先はこちら ………



    この記事はライブの翌日に出たものだが、その後いくら探してもウタの近況は掲載されていなかった。

    ライブ参加者のインタビューなどは小さく載ったが、

    「少し怖かったけど楽しかった(8歳・女)」「夢みたいじゃった(73歳・男)」

    などと、好意的な意見ばかりなのが逆に怪しい。

  • 107二次元好きの匿名さん23/04/20(木) 08:13:16


    ブルック「『トットムジカ』の件を世界政府が隠したいのは分かりますが、こうもあからさまだと不自然ですね」


    ジンベエ「歌姫が倒れたっちゅう話は初耳じゃったが……大丈夫かのう」


    フランキー「まさか死んでねェよな??」


    ウソップ「!?」


    とんでもない予想にウソップがあんぐり口を開けた――その時。



    プルプルプルプル



    電伝虫のコール音が船に響いた。と同時に、船室の扉が開いて勢いよくチョッパーが顔を出す。


    チョッパー「オイみんな! プリンセス・ウタの配信が始まるぞ!」


  • 108二次元好きの匿名さん23/04/20(木) 19:06:03

    放送できる状態なんだな、安心

  • 109二次元好きの匿名さん23/04/21(金) 05:53:11

    海軍から配信するのかな

  • 110二次元好きの匿名さん23/04/21(金) 06:02:07

    ウソップ「なんだと!?」


    チョッパー「さっき予告があったんだ。この後5分後に始まるって!」


    その言葉を聞いたウソップたちは急いでダイニングキッチンに移動した。


    照明を落として室内を暗くすると、フランキーが男子部屋から持ってきたシーツを壁に吊るし簡易スクリーンを作る。


    チョッパーが連れてきた映像電伝虫を真正面にセットすると、ぱっと白い長方形が投影されて数分後にカウントダウンが始まった。


    みんな固唾を飲んでスクリーンを見守っている。周りの緊張につられてルフィまでそわそわし始めた。


    流石に見張りがいなくなるのはまずいとゾロとジンベエは外に残ったが、それでも音が聞こえる距離には陣取っている。


    カウントダウンが終わり、映し出されたのは……海軍の旗だった。


    チョッパー「……あれ?」


  • 111二次元好きの匿名さん23/04/21(金) 06:29:51


    チョッパーが首をかしげると、すぐに映像が切り替わりウタのロゴマークが映った。


    数秒の後、ログマークが消えると今度は白い壁が映し出される。どこかの室内のようだ。


    ナミ「……誰もいない?」


    フランキー「いや待て、何か置いてあるぞ」


    部屋に置かれた机の上には、音貝(トーンダイアル)がひとつ、ぽつんと転がっていた。


    映像電伝虫の映像がじわじわと音貝に接近し……正面に大写しになると、音貝から少しくぐもった音声が流れ始めた。


    [みんなー、元気? ウタだよ!]


    [大丈夫? 聞こえてる? 音、変だったりしない?]

  • 112二次元好きの匿名さん23/04/21(金) 06:55:59

    ウソップ「聞こえてるぞー」

    ウソップが遠慮がちに返事をする。映像の受信中は声は向こうに届かないが、いつものクセでついやってしまった。

    [うーん、収録だと状況がわからないな……あっ、そうそう! 今回はこうやって音貝から発信するよ。直接じゃなくてゴメンね!]

    [いやー、海軍のえらい人に私の“ウタウタの能力”が危険だからって、直接声を届けることを禁止されちゃったんだよね]

    [まあ、ライブでああいうことやっちゃったから……気持ちは分かる。うん!私もそう思う]

    [で、色々と試して、音貝越しなら私の能力がうっかり漏れちゃっても、みんなを夢の世界に連れて行かないって分かったから]

    [今日は声を事前に収録して発信してます。実験に協力してくれた海兵のみんな、ありがとう!]

  • 113二次元好きの匿名さん23/04/21(金) 07:28:13

    [そうだ、ちゃんと説明しないと。今、私は海軍の病院にいます]


    [ライブの後、私、倒れちゃったんだよね……思いっきり歌ったら、もうすーっごく眠くて!]


    [気が付いたら病院のベッドの上で。お医者さんから“ウタさん、あなた5日も眠ってましたよ”って言われて、びっくりしちゃった!]


    [自分でも最長記録だよ……。本当はもう少し横になってないといけないんだけど、みんなに私の声を届けたかったから。無理言って出てきちゃった]


    ロビン「どうやら無事みたいね。安心したわ」



    ブルック「ウタさん、今は海軍の元にいるんですね。ゴードンさんもご一緒なんでしょうか」


    映像中では協力してくれた海兵へのお礼と、ファンへのお礼の話が続いていた。


    [私が入院したことを新聞で知った人たちから、たっくさん心配のお手紙が届いています。送ってくれたみんな、本当にありがとう!]


    [まだ全部は読み切れていないけど、ちゃんと読むから安心してね]


    [それから……ライブに来てくれたみんなと、映像電伝虫でライブを観てくれたみんなに、お話があります]


    [私のライブに来てくれてありがとう。それから、ごめんなさい。ちゃんと謝っておきたくて]

  • 114二次元好きの匿名さん23/04/21(金) 17:40:54

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  • 115二次元好きの匿名さん23/04/22(土) 04:16:42

    期待

  • 116二次元好きの匿名さん23/04/22(土) 07:58:05


    私ね、あの時は本当に、夢の世界でみんなを幸せにすることが一番いいと思ってたんだ。


    そうすれば、悲しいことも、つらいこともなくなる。本当にそう思ってて……。


    だけどあの時、みんなのたくさんの声を聞いて、そうじゃないんだなって分かったの。


    自分が思ってることと、みんなが思ってること、やりたいことが違うとは思わなくて……。


    混乱してぬいぐるみに変えたり、ひどいことしちゃったと思う!


    本当にごめんなさい。


    それから、私はもっと、もっともっとみんなの話をよく聞いて、どういう新時代がいいか考える!


    海軍のサカズキさんが言ってたの。自分にとって都合のいいことばかり聞いていても、世の中は変わらないって。


    自分の声を届けたくても届けられない人が、いっぱいいるって。


    だから私は……みんなの声を聞きに行きたい。そのために、いろんな場所へ行きたい!


    エレジアを出て色々な土地へ行って私の歌を届けて、みんなの声をいっぱい聞きたいの!


    今までは、私がト(ぐわっしゃん!)のせいで……えっ、ダメ? 言っちゃいけない??



    サンジ「おい今、雑な検閲が入ったぞ」

  • 117二次元好きの匿名さん23/04/22(土) 14:26:41


    [……えっと、今までは私がま(ピピーッ!)……もう、これもダメ? 続き言えないじゃん!]


    音貝からはウタが少し離れて誰かと話している様子が聞こえてきた。


    [分かってる、分かってるよ。そのボードに書いてある4つを言っちゃダメなことは。今までも言ってなかったもん]


    [でもさ……シャ(ぐわぐわ~~ん!)と、あか(パフパフパフ!)に一言くらいは……ええーっ?]


    [ウタさん!ちゃんと台本通りに喋らないとダメですよ!]


    [コビー、声、声入ってる]


    ウソップ「……一緒にいるんだな、コビー」


    ナミ「ヘルメッポもいるわね……」


    ゾロ「なんだ、ウタの配信ってやつはいつもこんな感じなのか」


    ウソップ・チョッパー「「いつもはこんなんじゃねーよ!!」」

  • 118二次元好きの匿名さん23/04/23(日) 00:56:20

    一応、元気そう?

  • 119二次元好きの匿名さん23/04/23(日) 03:47:04

    ウソップとチョッパーが騒いでいると、音貝のウタの声の大きさが戻った。


    [んもう……後でカットになっちゃうかな。ま、いいや。ここからは告知! みんなにお知らせです]


    [前々から言っていた私の歌のTDがなんと!発売されることになりましたー! はい拍手!(パチパチパチパチ)(ドンドンパフパフ)]



    [今まで出したいってずーっと言ってたけど、全世界に流通させるには生産数の問題もあって難しそう……ってのは、ウタ日記を始める前の発信で話したよね]


    [それが今回、TDを扱っている会社がなんと2社名乗り出てくれまして、販売できる数がどーんと増えました! やった!]


    [発売は最初に手を挙げてくれたテゾーロレコードさんと、ソウルキングのTDも出してるレイベックスさん、てん(ピピピーッ!!)……じゃなくて、ゴードンの友達の友達の、そのまた知り合いが社長をやってるウニバーサルさん、この3社で行われます]


    ブルック「おや、私と同じレーベルからも発売されるんですね」


    ジンベエ「3社合同とは、太っ腹じゃのう!」

  • 120二次元好きの匿名さん23/04/23(日) 04:07:03

    [あっ、ゴードンっていうのは、私のお父さんみたいな人。ライブで顔を見た人もいるよね?]


    [今回TDが出せたのもゴードンがたくさん頑張ってくれたからなんだ。何かお礼したいな……]


    [はい、ということで! 私の話はこれでおしまい。最後にこの映像を見てくれている人だけに特別に、今度発売されるTDの中から1曲、流しちゃいます!]


    [曲名は「風のゆくえ」! 私が子供の時によく歌ってて、ライブ前に発表したばかりの最新の曲をお送りするよ]


    [今と昔とじゃもう……全っ然違うから! ほら、声の伸びとか音程とか、技術とか]


    [子供の頃の私を知ってる人だったら、成長したなってきっと驚くと思うよ]


    ロビン「あら、これって……」


    ウタの話を聞いていたロビンは、何かピンときたようだ。ルフィも頷く。


    ルフィ「シャンクスたちへのメッセージだな」


  • 121二次元好きの匿名さん23/04/23(日) 14:05:59

    ある程度は自由にやれてるっぽいな

  • 122二次元好きの匿名さん23/04/23(日) 16:27:04


    [TDを手に入れた人は、私の歌を何度も聞いてくれると嬉しいな。……もしかすると、こうやって発信するのは最後になるかもしれないから]


    「えっ?」


    とある田舎町で。


    ウタの発信を聞いていた少女ロミィは不安そうな声を上げた。


    [私が使ってる映像電伝虫、ちょっと調子が悪くて。ライブの映像をずっと流してたから疲れちゃったのかな]


    [しばらく休ませてあげないといけないし、機械の修理も必要なんだって。だから、次の発信の予定は未定かな……]


    ロミィ「そんなあ……」


    仕事用の鍬の柄をぎゅっと握る。


    過酷な労働の日々の中で、ウタの発信だけがロミィの唯一の楽しみだったのだ。


    これから何にすがれば救われるのだろう――


    [でも心配しないで! 今度は映像電伝虫越しじゃなくて直接、歌を届けに行くから! 曲もこれからもっともーっと作る!]

  • 123二次元好きの匿名さん23/04/23(日) 17:43:25


    [私の姿が見えなくても、声が聞けなくても、TDがあれば歌をみんなの元へ届けられる。それってすごく素敵だと思う]


    [たとえこの先私の身体がなくなっても、歌は響き続ける……なんてね!]


    [あっ、良かったらみんなの歌も聴かせて? 会いに行った時に、練習してたか聞いちゃうよ!]


    [お手紙も、エレジアに送ってくれたらちゃんと読むから。歌やTDの感想を書いてくれると嬉しいな]


    [さてと。前置きが長くなりすぎちゃった……。それでは聴いてください。『風のゆくえ』]



    音貝の再生が終わると画面内に海兵の手が映り、TDの再生機がゴトンと置かれる。


    スイッチを入れると、ゆっくりと音楽が再生機から流れ始めた。


    【Ado】風のゆくえ(ウタ from ONE PIECE FILM RED)


  • 124二次元好きの匿名さん23/04/24(月) 01:40:13

    私の身体がなくなっても
    おいおい不安なこと言うなよ…

  • 125エンドロール入ります23/04/24(月) 07:10:03


    ――どこかの海上


    管弦楽の壮大な伴奏に合わせて、歌姫の伸びやかな歌声が聞こえてくる。


    トラファルガー・ロー率いる「ハートの海賊団」の船員たちは作業の手を止めてしばらく曲に聴き入っていた。


    シャチ「いい曲だなー、俺この歌好きだわ」


    ベポ「でしょー? おれこの曲2番目に好きなんだ」


    ペンギン「1番は?」


    ベポ「ふふ、ナイショー!」


    和気藹々と雑談する船員たちを止める気にもならず、ローは手すりに肘を預けながら海を見た。


    カモメの群れが潮風に乗って通り過ぎていく。


    ロー「……いい風だ」

  • 126二次元好きの匿名さん23/04/24(月) 07:56:30


    ――ホールケーキアイランド


    ビッグ・マムへの報告を済ませたオーブン、ブリュレ、カタクリは、広場で下の兄弟たちが集まっているのを見かけた。


    カタクリ「何をしている」


    「あっ、カタクリおにー様!」


    「歌姫の歌を聴いてるのよ」


    映像電伝虫の映像にはTDの再生機だけが映っているが、流れる歌声はあのエレジアで聴いたウタの声そのものだった。


    穏やかな曲調に三人はしばし耳を傾ける。


    ブリュレ「……やっぱり攫ってくれば良かったかしら」


    オーブン「馬鹿言え。あの状況じゃ動こうにも動けなかっただろ」


    ブリュレ「そりゃそうだけどォ」


  • 127二次元好きの匿名さん23/04/24(月) 08:06:42

    拗ねる妹を諫める兄。


    仲の良いやり取りにカタクリはすっと目を細めた。


    ……ママには『トットムジカ』が既に失われたことと、ウタの能力の効果は“夢の中限定”であることを伝えた。


    酷い癇癪を起こされたが長男ペロスペローと長女コンポートの取りなしもあり、ママの口から「いらない」と聞けたのは僥倖だ。


    幻のケーキで腹は膨れまい。


    カタクリ「……あの力は過ぎたるものだ。万国(トットランド)には必要ない」



    だからこうして、たまに歌を聴くくらいの距離でいいのだ。

  • 128二次元好きの匿名さん23/04/24(月) 19:16:38

  • 129二次元好きの匿名さん23/04/25(火) 06:06:45

    響き渡ってるんだな

  • 130二次元好きの匿名さん23/04/25(火) 06:47:07

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  • 131二次元好きの匿名さん23/04/25(火) 06:49:10


    ――とある海


    バルトロメオ「……っか~~!やっぱウタさまの歌はいいべ~!心が洗われるべ~~!!」


    ゴーイングルフィセンパイ号の上でバルトロメオは感動に全身を震わせていた。


    彼もウタを心配し新聞を毎日つぶさにチェックしていた一人だ。今回の配信もやると分かった途端、歓喜に咽び泣いていた。


    ちなみにTDは聞く用・観賞用・布教用・田舎のばーちゃんの分も含めて大量に事前予約してある。


    カギノテ「おうバルトロメオ、針路は本当にこっちでいいのか?」


    ハナガサ「このまま行くと“新世界”の海に突っ込むぞ」


    隣に並走する海賊船から、「クラゲ海賊団」の海賊たちが呼びかけている。


    彼らは故郷に戻るだけだがお前らは違うだろうと言う彼らにバルトロメオは両手をぶんぶんと振って答えた。


    バルトロメオ「かまわねェべ!おらたち元々“麦わらの一味”のみなさんを応援して旅してんだ!」

  • 132二次元好きの匿名さん23/04/25(火) 07:09:14


    バルトロメオ「“新世界”の海でまた“麦わらの一味”のみなさんとウタさまの素晴らしさを布教するべ~~!!」


    ハナガサ「そうか、なら途中でお別れだな!」


    バルトロメオ「なんならルフィ先輩の話も聞いてくか? 船のお宝コレクションもぜひ見てってけろ! 今ならステッカー半額でプレゼントするべ!」


    カギノテ「いらねェよ! お前の話聞いてるとおれたちまであの“麦わら”を好きになっちまう」


    エボシ「おれたちァプリンセス・ウタ単推しでいさせてくれ!」


    バルトロメオ「えっ、“良い”って?!」


    エボシ「ちがーう!!」


    怒号が飛び交う中を船はまっすぐ進む。


    彼らに「海賊やめなよ」と言っても、聞く気など毛頭ないだろう。


    それでも彼らは『海賊嫌いの歌姫』の歌を愛し、これからも歌い続ける。


    好きなものが同じなら、人は価値観の違いを乗り越えられるのだ。きっと。

  • 133二次元好きの匿名さん23/04/25(火) 07:28:52


    ――とある城下


    ブルーノ「ふう……」


    任務を終えて帰投したサイファーポールのブルーノは、流水で洗った顔をぼんやりと正面の鏡に向けた。


    ふと、ポケットから無造作に取り出したのは髪ゴムだ。


    以前の任務で酒場の店主として潜入していた時、街の子供に貰ったもの。


    「お顔がこわいからこれつけて」と言われたが、あまりつける機会がなかった――


    カリファ「あら、いたのブルーノ」


    シャワー室の扉が開いて出てきたのは裸でバスタオルに身を包んだカリファだ。


    手に持っている小型の映像電伝虫は歌姫ウタの曲を口ずさんでいる。先程までの発信を聞いていたようだ。

  • 134二次元好きの匿名さん23/04/25(火) 07:40:18

    カリファは部屋の反対側の壁へ歩いていくと、バスタオルを取り着替えを始めた。

    そちらに視線を向けぬまま、ブルーノはカリファに呼びかける。

    ブルーノ「おい」

    カリファ「なに」

    そういえば、あの“ウタウタの世界”の中で身体を小さくされたな……と、ブルーノは思い出していた。

    誰にも何も言われなかったが。

    ブルーノ「……可愛さって、何だかわかるか?」

    カリファ「は?」

  • 135二次元好きの匿名さん23/04/25(火) 07:53:12


    ――聖地マリージョア


    五老星「歌姫の話は終わったか」


    映像電伝虫からはTDの曲が流れ続けている。今は音声ありで五老星たちも視聴していた。


    五老星「ならば次の過程に移るとしよう」


    五老星「この映像の収録は3日ほど前だったな」


    ルッチ「はい、歌姫は収録の後一時昏睡状態に陥り、先程再び目覚めたとの報告が」


    ルッチの報告に五老星の一人が眉をしかめて顔を上げる。


    五老星「……ネズキノコの後遺症が」


    ルッチ「担当の医師によると、体内の毒素は既に消えたとの診断ですが。検査結果の資料はこちらに」


    五老星「うむ……」

  • 136二次元好きの匿名さん23/04/25(火) 08:02:46


    資料の紙束に視線を滑らせながら顎に手をやる姿を、ルッチは壁に控えながら静かに見ていた。


    五老星「あの歌姫を生かすか殺すか……判断が分かれるな」


    五老星「あのライブを経て民衆に対する求心力はさらに高まったと言えよう。革命の芽は早急に摘んでおかねばならぬ」


    五老星「しかし、こちらの手中にあればいくらでも操れるのも事実」


    五老星「『トットムジカ』……かの現象は“ウタウタの実”の能力者と密接に関わるものだ。いずれまた復活せんとも限らん」


    五老星「“消えてしまった”という彼女の言葉をどこまで信じるかだな」


    五老星「いずれにせよ、手は回しておくか」

  • 137二次元好きの匿名さん23/04/25(火) 14:41:30

    >>134

    可愛さを求めるブルーノ!

    花を着けてたこと思い出して笑った

  • 138二次元好きの匿名さん23/04/26(水) 02:10:54

    期待

  • 139二次元好きの匿名さん23/04/26(水) 07:39:29

    ――とある新聞社


    「クワハハハハ! さすがは世間知らずの歌姫! 綺麗ごとしか言わねェな!」



    編集室のデスクで高笑いしているのは、世界経済新聞社社長の“新聞王(ビッグ・ニュース)”モルガンズだ。


    ライブ終了後、即座に第一報の記事を出し『トットムジカ』出現をなかったことにしたのも彼の手腕だ。


    もちろんその裏には多額の賄賂があったことは否めない。


    『軍艦三十隻が出撃した歌姫討伐命令』も胸躍るスクープだが、その後を考えると選択は誤りではなかったとモルガンズは確信している。


    なぜなら――


    モルガンズ「あの歌姫はいい“カモ”だ! 発言一つで世界を揺るがすトップ・インフルエンサー、かの黄金帝ギルド・テゾーロに勝るとも劣らねェ影響力を持っている!」


    モルガンズ「本人まったく自覚がねェようだがな! 『新時代』計画はお偉方の恰好の的だぜ!」


    今後、彼女の行動は全世界が注目するだろう。


    どこへ行っても注目され、プライベートが暴かれ、根も葉もない噂を立てられる。


    その筆頭たるマス・コミュニケーションの首魁は高笑いで歌姫の世界進出を歓迎した。

  • 140二次元好きの匿名さん23/04/26(水) 08:06:26


    モルガンズ「不特定多数に発信するSSG製映像電伝虫は厄介だったが、休止するってんならこっちのモンだ!」


    モルガンズ「バシバシ捏造記事出してやるよ。誇張!こじつけ!お手の物だ」


    紙面に印刷する手間の分、速報性では映像電伝虫に一歩譲っていた新聞だが……逆にこちらから映像を発信して市場占有率(シェア)を確保する計画を既に立てている。


    技術革新(イノベーション)は始まっている。“映像の時代”は目の前だ。


    人の印象や記憶を捏造(メディア・コントロール)し、活字として残ったものを真実とする。


    そんな時代がすぐそこまで来ていた。


    モルガンズ「さあ、歌姫の特集記事を組むぜ!“両A面”だ!裏一面も大きく写真を使え!」


    社員「社長!このネタはどうしますか?」


    モルガンズ「ああん?ビッグ・マムが万国を出た? すみっこに乗せとけ!」


    モルガンズ「今はTDを世界中に売るのがうちの仕事だ。出資金は回収しねェとな! クワハハハハ!!」


    高笑いするモルガンズは、頭の中でもう次の計画を立てている。


    先の先まで見据えて情報発信するのが真の“ジャーナリスト”だ。


    モルガンズ(民衆にTDが行き渡ったら、特集第二弾を打つか……。タイトルは『歌姫ウタ、“四皇”の娘疑惑!』こんな美味いネタ逃すわけにはいかねーよ!)


  • 141二次元好きの匿名さん23/04/26(水) 10:02:05

    このアホウドリは本当に楽しそうだな

  • 142二次元好きの匿名さん23/04/26(水) 19:49:14

    こいつやっぱり自由だな
    まあそれでこそモルガンズだが

  • 143二次元好きの匿名さん23/04/27(木) 06:20:28

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  • 144二次元好きの匿名さん23/04/27(木) 06:56:26

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  • 145二次元好きの匿名さん23/04/27(木) 06:58:55

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  • 146二次元好きの匿名さん23/04/27(木) 07:00:02

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  • 147二次元好きの匿名さん23/04/27(木) 07:00:15

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  • 148二次元好きの匿名さん23/04/27(木) 07:00:34

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  • 149二次元好きの匿名さん23/04/27(木) 07:01:00

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  • 150二次元好きの匿名さん23/04/27(木) 07:01:37

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  • 151再投稿。IP被ってたらごめんよ23/04/27(木) 07:22:38

    ――聖地マリージョアのどこか


    天竜人「だえ~!今すぐその歌を止めるんだえ!」



    貴賓室では頭に髻を結った男が癇癪を起こしていた。世界貴族の一人、チャルロス聖だ。


    ライブで歌姫ウタを奴隷にしようとステージに乗り込んだかの人である。


    チャルロス聖「歌姫め……許さないえ! 天竜人のわちしを殴ったんだから重罪だえ!」


    側近「ですが、あれはあくまで夢の中でのことですから」


    側近は必死で暴れる天竜人を取りなしていた。実際に夢の中で起こった出来事は不問。


    歌姫はお咎めなしと正式に通達があったのだから、世界貴族といえどどうすることもできないのだが。


    チャルロス聖「関係ないえ! わちしに無礼を働いたものは死刑だえ!」


    「あら兄上様、いらないのなら歌姫は私がもらっていいアマス?」

  • 152二次元好きの匿名さん23/04/27(木) 07:24:24


    そこへ朗らかな声と共に現れたのは妹のシャルリア宮だ。


    彼女も別室で歌姫の発信を聞いていたようである。


    シャルリア宮「私の奴隷にして子守唄を歌わせるアマス」


    チャルロス聖「それはダメだえ~!わちしが先に唄ってもらうんだえ!!」


    途端にくるりと掌を返すチャルロス聖。他人のものになると途端に欲しくなるのが性分だ。


    結局そこから兄妹の喧嘩が始まり、歌姫の話題が消えたことに側近は胸を撫で下ろした。

  • 153二次元好きの匿名さん23/04/27(木) 07:25:50

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  • 154二次元好きの匿名さん23/04/27(木) 07:45:54

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  • 155二次元好きの匿名さん23/04/27(木) 07:58:10

    ――とある船上


    ガープ「――まあ、色々と動くじゃろうな」



    映像電伝虫の傍らでモンキー・D・ガープは腕を組みつつマリージョアの方角を眺めた。


    歌姫ウタの治療と処遇。全世界に向けての映像発信許可、TDの流通確保、SSG製映像電伝虫の回収、etc……


    それらの幾つかに口出しはしたが、最終的にはウタとゴードンの努力が結果をもたらしたのだ。


    ガープ「既に時代は大きくうねりつつある。ウタ嬢ちゃんはこれからが肝心じゃ」


    ガープ「世界に声を届けるのは容易くとも……変わるのはそう簡単ではないぞ」


    誰もが先を目指して動いている。海軍も、世界政府も、海賊も、革命軍も。


    “黄猿”や“藤虎”、コビーたちも既に新たな任務に就いていた。そこで何が起こるか。


    あらゆる人々の思惑を乗せて時代は流動する。


    その流れを誰が制するかは――ガープにも分からなかった。

  • 156二次元好きの匿名さん23/04/27(木) 19:24:35

    どうなるんだろう

  • 157二次元好きの匿名さん23/04/27(木) 19:26:09

    ワクワク

  • 158二次元好きの匿名さん23/04/28(金) 05:43:24

    各々の思惑が交錯してどうなることやら
    そして相変わらず自由な天竜人と鳥

  • 159二次元好きの匿名さん23/04/28(金) 06:23:58


    ――エレジア


    桟橋に一隻の軍艦が停泊している。ガープが手を回して用意してくれたものだ。


    荷物の入った鞄を持ったゴードンは船に乗り込もうとする前に、一度振り返った。


    故郷を離れるのは実に20年ぶり。いつ頃帰ってこられるだろうかと頭の中で試算する。


    ……当分かかりそうだ。


    だが、彼は自らの行動を止めようとは思わなかった。


    エレジアは今まで通り海軍が定期的に見回りに来てくれる。だから大丈夫だ。


    例えもし荒らされ奪われたとしても、また一からやり直そう。


    今まではウタも自分も、『トットムジカ』の災禍を広げてはいけない、守らなくてはいけないという強迫観念に囚われていた。


    本当は手を差し伸べてくれる人がいたのに、その手が見えておらず引きこもっていた。


    だが、やりたいことができたからには進まねばならない。

  • 160二次元好きの匿名さん23/04/28(金) 07:04:41

    一歩踏み出すのに13年もかかったが、遅いとは今更思わない。機が熟したと言おう。

    ゴードンにはやりたいことが2つできた。

    エレジアの復興と、ウタの世界進出。

    己が愛したエレジアの音楽を、ウタの歌声を――世界中に届けたい。

    ゴードン「……私の償いはこれから始まる。見ていてくれ、我が国民たちよ」

    国王の呟きにエレジアの海は穏やかに波打ち、陽の光をきらきらと反射していた。

  • 161二次元好きの匿名さん23/04/28(金) 07:46:49


    ――フーシャ村


    マキノ「村長さん! ねえこの歌」


    東の海にある、とある村の酒場で村長ウープ・スラップは店主のマキノから詰め寄られていた。


    村長「なんじゃマキノ、嬉しそうな顔をして」


    マキノ「だって、私この歌知ってるんですよ。昔聴いたことがあるの」



    村長「……そうなのか?」


    小さな港一つしかないこの村に、大した娯楽などあったものではない。


    音貝や映像電伝虫といった便利なものが手に入るようになって、ようやく音楽に慣れ親しむようになったというのに。


    マキノ「フフ……この歌ね、シャンクスさんが歌ってたんですよ」


    村長「なんじゃと!?」

  • 162二次元好きの匿名さん23/04/28(金) 08:06:57

    マキノ「“海賊は歌う”って言ってたでしょ? 陽気な歌と違って本当にたまにしか聴かなかったけど……素敵な曲だなあって思ってたの、今思い出しちゃった」


    村長「あの“赤髪”がのう……」


    村長は顎を撫でながら何年も前の記憶を掘り起こそうとした。


    昔……12年ほど前だったか、赤髪海賊団の船がフーシャ村を訪れたことがある。


    当時のシャンクスはまだ若造で、仲間たちも荒くれ者揃いだったが、村にいる間は悪さをしないと約束を交わして受け入れたのだったか。


    陽気な連中で、いつもこの酒場で乱痴気騒ぎを繰り返していた。


    村一番の聞かん坊だったルフィがよく懐いていたのを覚えている。


    そのルフィも、2年前に海賊王を目指して海へ出たが。



    村長「さっき歌姫が“子供の頃によく歌ってた”と言うとったから、その頃にでも聞いたか」


    マキノ「案外、知り合いかもしれませんよ。ひょっとすると親子とか!」


    村長「わっはっは!! そりゃないじゃろう。あの“赤髪”だぞ?」


    村長は大笑いした。例えそうだったとしても、海賊と歌姫とでは難儀な道を歩んだことだろう。


    ……あの赤髪でも赤ん坊の夜泣きには苦労したのだろうか。


    そんなことを思いながら村長は、マキノの腕の中であやされる子供を見守りつつ、グラスの水を一飲みした。

  • 163二次元好きの匿名さん23/04/28(金) 18:25:42

    ここではマキノさんとウタであってないんだっけか

  • 164二次元好きの匿名さん23/04/29(土) 05:31:05

    >>122

    一応監視付きで外にも出られるって感じかな

  • 165二次元好きの匿名さん23/04/29(土) 14:43:24

    >>140

    すみっこに載せたやつ結構大ごとでは?

  • 166二次元好きの匿名さん23/04/29(土) 17:30:38

    ――とある港


    「たーった、ひとつーのー、ゆーめー♪ 決してゆーずっれェ~、なァ~ァ~い♪」



    ライムジュース「お頭ーまた歌詞間違えてるぞー」


    シャンクス「えっ、そうなのか?」


    酒場で飲み交わす海賊たちから囃し立てられ、船長シャンクスは困ったように頭をかいた。


    シャンクス「昔はこれで合ってたんだけどなァ……」


    ベン・ベックマン「いや、昔から『ただひとつの夢』だったぞ」


    ラッキー・ルウ「お頭の勘違いだな」


    シャンクス「そんなァ……なんでウタも誰も言ってくれなかったんだよ」


    不貞腐れてがっくり項垂れる船長を、幹部たちは温かい目で見守っている。


    理由は分かっている。歌詞の違いなど気にならないほど、娘は彼らと一緒に唄うのが楽しかったのだ。

  • 167二次元好きの匿名さん23/04/29(土) 17:40:42

    ヤソップ「次に会うまでには完璧に歌えるようにしとかねェとな、お頭!」

    ホンゴウ「お前も息子に会う心の準備はさっさとしとけ」

    ヤソップ「エッ!? そ、それはだな……」

    途端に目を逸らすヤソップにワハハハと笑い声が上がる。

    すべては風の吹くまま気の向くまま。無事に会える保証などどこにもないのが海賊稼業だ。

    だからこそ、笑える時にはいつでも笑って、やりたいことを好きにやるのだ。

    何をくよくよ、明日も月夜。果て無し、あてなし、笑い話。

  • 168二次元好きの匿名さん23/04/30(日) 01:32:27

    風のゆくえをシャンクスが口ずさんでるのいいな
    微妙に間違ってるのも愛嬌

  • 169二次元好きの匿名さん23/04/30(日) 10:56:23


    ――とある田舎町


    映像電伝虫から流れる歌に聴き惚れていたロミィは、我に返ると両手に力を籠めてぐっと握り締めた。


    ロミィ「……決めた!」


    ウタにお手紙を書こう。歌の感想と、この発信を見たこと、それから――


    ロミィ「お金を貯めて、いつかウタのTDを買おう!」


    いますぐは無理でも、ロミィが貰っている手間賃を少しずつ切り詰めればTDの価格に届くだろう。


    生活は今より苦しくなるかもしれない。けれど、ずっとじゃない。ロミィの表情は明るかった。


    ライブの無料観覧チケットが当たった時、ロミィは今までの人生の中で一番勇気を振り絞って雇い主にお願いをした。


    雇い主はロミィのあまりに必死な目にに驚き、休みを承諾してくれたのだ。


    好きなもののためなら頑張れる自分――それに気づかせてくれたウタに、少しでも恩返しがしたい。


    ロミィの決意を町の人たちも見守っている。


    目の前の空をまっすぐに見上げて、ロミィは手を伸ばした。


    ロミィ(……いつか、ウタに会ってお礼が言えるといいな)

  • 170二次元好きの匿名さん23/04/30(日) 12:06:47


    ――そして。


    サウザンド・サニー号のダイニングキッチンには、ウソップとチョッパーを含む数人が残って歌を聴いていた。


    サンジはキッチンで料理の仕込みをしながら聴いている。


    ブルックは椅子に座って紅茶を飲みながら。ロビンは扉の外で海を眺めながら。


    映像電伝虫から流れる歌声は船の上ならどこでも届くので、ナミは海図を広げながら、ゾロは刀の手入れをしながら。


    ジンベエは舵を握りながら、フランキーは芝生の上で柔軟体操をしながら……それぞれ思い思いの行動をとりつつ楽しんでいた。


    ルフィもお気に入りのサニー号の船首の上で潮風を真正面から受けている。



    だから彼は知らない。


    曲が終わった後、細い女性の手が現れてTD再生機のスイッチを切ったのを。


    そして、画面の端からひょっこりと姿を現し、視聴者に向けて手を振った彼女のことを。


    何も知らないのだ。


  • 171スレ主23/04/30(日) 12:13:31

    エンドロールはここまで。やっと終わりが見えてきた…

    >>1にありますが、最後の最後にちょっとだけルウタが入ります

  • 172二次元好きの匿名さん23/04/30(日) 12:17:52

    ウソップとチョッパーは見てたのかな

  • 173二次元好きの匿名さん23/04/30(日) 21:22:46

    ついにくるか

  • 174二次元好きの匿名さん23/05/01(月) 07:07:24

    どういう形になるかわからないけど再会するのかな

  • 175二次元好きの匿名さん23/05/01(月) 07:23:37

    このレスは削除されています

  • 176二次元好きの匿名さん23/05/01(月) 17:55:13

  • 177二次元好きの匿名さん23/05/02(火) 04:53:28

    ルフィは歌は聴いてたんだろうか

  • 178二次元好きの匿名さん23/05/02(火) 07:10:24

    保守                   

  • 179二次元好きの匿名さん23/05/02(火) 07:48:22


    数日後。


    サウザンド・サニー号は比較的穏やかな海を進んでいた。


    船縁に腰掛けて釣り糸を垂れるルフィは片手で頬杖をつきながら、ウソップの話を聞いている。


    ウソップ「……あった!!プリンセス・ウタの写真! な? おれが言ったこと本当だったろ?」


    ウソップが大きく広げているのは、先日届いた『プリンセス・ウタ特集』の新聞だ。


    表と裏にライブ中の写真が大きくレイアウトされ、中身もすべてウタに関する記事という充実っぷり。


    その紙面の片隅には先日の発信の要約と、こちらに向けて手を振るウタの写真が小さく掲載されていた。


    ルフィ「……」


    ルフィは横目でちらりと写真だけ見て、釣り糸に視線を戻す。


    今日はまだ一匹も釣れていない。夕飯に間に合うだろうか。

  • 180二次元好きの匿名さん23/05/02(火) 11:20:00

    各グループの後日談丁寧で好き

  • 181保守だ23/05/02(火) 20:16:03

    保守だ

  • 182二次元好きの匿名さん23/05/03(水) 06:17:04

    ちらりと見たルフィはどういう感情なんやろ

  • 183二次元好きの匿名さん23/05/03(水) 06:27:14

    このレスは削除されています

  • 184二次元好きの匿名さん23/05/03(水) 06:27:51


    ウソップ「やっぱさ~発信ってのは最初から最後まで通して見るモンだよな。途中で席を立つなんてありえねェよ!」


    ウソップ「そりゃ用事があるときは別だけどよォ、なんかこう、全部じっくり見たからこそ最後の最後のおまけに喜べるとかさァ~~」


    新聞を握り締めて熱弁を垂れるウソップの声が右耳から左耳へと抜けていく。


    なぜ人はこうも熱くなれるのか。ルフィはどこか他人事のように感じていた。


    釣り糸はぴくりとも揺れていない。


    ウソップ「大体、おれとチョッパーだけじゃなくてサンジやブルックも“見た”って言ったのに、なんで冗談だと思ったんだよ」


    ウソップ「ははーん、さては自分だけプリンセス・ウタを見れなくて拗ねてるな?」


    なに言ってんだこいつは。ルフィの眉間にぎゅっと皺が寄った。

  • 185二次元好きの匿名さん23/05/03(水) 09:28:23

    直接目で見たものを信じるルフィにとって伝聞は嘘や噂話と変わらない。

    冗談だと思ったのは本当だが……拗ねてる? なんで。

    今感じているのは例えるなら欲しかった肉が市場で売り切れてたり、冒険中に綺麗な虹を見逃したときのがっかりに似た気持ちであって、

    断じて不公平に思う気持ちではないはずだ。……なのに。

    何故胸の真ん中辺りがぐるぐるモヤモヤして落ち着かないのか。

    ルフィにはわからない。

    わからないからモヤモヤする。

    ウソップ「は~っ、それにしてもプリンセス・ウタが無事で良かったぜ。ちょっと痩せてたか? マスクつけてても可愛いかったなァ~」

    かわいい? あれが?

  • 186二次元好きの匿名さん23/05/03(水) 09:40:42


    あいつはこちらが海賊と見るや攻撃的になる女だぞ?


    意地っ張りのくせにちょっとビビらせたらすぐ泣く泣き虫で。


    そりゃ確かにサニー号ごとぐるぐる巻きにした時は軽かったし、帽子を取り戻したときに触れた指先も折れそうなくらい細くて、


    そうだ、あの指が、おれの目の下の傷跡をなぞって―――



    『あんたは私に勝てないよ』



    ルフィ「!!!」


  • 187二次元好きの匿名さん23/05/03(水) 09:56:11

    ぼすん、と隣で聞こえた音にウソップが振り向くと。


    ルフィが片手で帽子ごと自分の頭をぐりぐりと押さえつけていた。


    ウソップ「ど、どしたルフィ、具合でも悪いのか? 耳真っ赤だぞ」



    ルフィ「知らん!」


    ナミ「あんたたち何大声出してんの。ケンカ?」


    無下な返事にウソップが面食らっていると、今日の新聞を片手に持ったナミがやってきた。


    もう読み終わったのか軽く丸めて自分の肩をポンポンと叩いている。

  • 188二次元好きの匿名さん23/05/03(水) 10:35:30

    ウソップ「知らねェよ! こいつが突然大声出して……」


    ルフィ「なんでもねェ! 考え事してただけだ」


    ナミ「ふーん。ま、いいわ。ルフィ、多分あんたに伝言よ」



    ナミは丸めていた新聞を広げると、広告欄を表に向けるように折り畳んで差し出してきた。


    世界経済新聞には記事の一番下に小さな広告を掲載する欄がある。


    多少の審査はあるが金を払えば誰でも求人や尋ね人などの私信を載せられることから、遠方への連絡手段として古くから利用されてきた。


    立場上、名を明かせない人物が宛先をぼかしてメッセージを載せることもある。


    今までもそういったことは何度かあり、ナミの対応も慣れたものだった。大抵は文章に“麦わら”と入っているので見つけやすい。

  • 189二次元好きの匿名さん23/05/03(水) 10:48:17

    ルフィ「ん~~~?」


    表にされたページをルフィは渋い顔で睨み、新聞の小さな文字に目を走らせると……その中の一つに目を留めた。


    四角い枠で囲まれた広告スペース。


    新聞特有の活字でなく丸みのある手書き文字で、こう記されていた。



    《元海賊の音楽家から麦わら帽子を返した君へ》


    《 56 戦 55 勝 1 引き分け 》


    《 私の勝ち! 》


  • 190二次元好きの匿名さん23/05/03(水) 12:07:26

    それを読んだとき、頭の中で何かがプツンと音を立てて切れたような気がした。


    気付けば釣竿を甲板に投げ捨て、手すりに身を乗り出して大きく息を吸い込む自分がいる。そして――





    穏やかな海にルフィの大声が響き渡った。


    ルフィ「最後のはおれの勝ちだーーーー!!!!!」





    おわり

  • 191二次元好きの匿名さん23/05/03(水) 12:18:26

    お疲れ様でした!楽しかった!
    また最初から読み返してきます

  • 192スレ主23/05/03(水) 12:18:37

    終わった!これにて完結です!このあとルフィはナミとウソップに叱られました

    2月から始めて約3か月間、思った以上に長く続いた本作ですが無事に完結できて感無量です
    感想や保守の投稿をしてくださった方々、ハートを押してくれた皆様本当にありがとうございました

    このあとウタはルフィと再会してもそうでなくてもどちらでも良いと思ってます
    個人的にはTVスペシャルでゲスト登場してほしい

  • 193二次元好きの匿名さん23/05/03(水) 12:22:14

    お疲れさまでした
    楽しませてもらったぜ

    ルフィ再会して勝負つけようぜ!

  • 194二次元好きの匿名さん23/05/03(水) 13:01:44

    長いこと乙

  • 195二次元好きの匿名さん23/05/03(水) 13:02:04

    完結乙です

  • 196二次元好きの匿名さん23/05/03(水) 16:54:47

    完結お疲れ様です
    楽しかった

  • 197二次元好きの匿名さん23/05/03(水) 23:45:59

    おーんほんのりルウタ

  • 198スレ主23/05/04(木) 00:34:57

    ほんのりになったのは第一印象最悪から始まるボーイミーツガール物がスレ主の性癖だからです

    映画でルフィがあそこまで真剣になったのはやはり幼馴染の間柄があってこそなので、そこが抜けるとこの程度かな、と

    難点は最後までCPなしとほぼ変わらないこと。(予定)が取れるのにスレ5つかかるとは思わんかったぜ!



    おまけ書けたので置いときます

    エレジア国王 ゴードンの手記私は、私の愚かさのためにこの記録を残そうと思う。


    かつて、私の国エレジアは、音楽に満ち溢れていた。

    生まれた日からリュートが歓喜を奏で、言葉を話せるようになった赤子はすぐ歌を口ずさむ。

    それを人々は喜び、また己も音楽に親しむ。そんな日々が繰り返されてきた。


    我が王家は古くから音楽の文化を伝え慈しみ、守ることを使命としてきた。

    中には駄作と疎まれたり、政治に左右されて歴史から姿を消した音楽もある。

    そういったものをかき集めて、表には出ずとも後世に伝えようと保管する書庫も随分と古くからあった。

    私は子供の頃からそこに入り浸っていた。


    音楽は、人の考え方は生まれにより、国により、育ちにより、多岐に渡る。

    まるで人生そのものだ。

    私はすべての音楽を愛していた。愛そうとしていた。

    だが、それはすべて独りよがりだった。


    愛することと、本質を見ることは異なる。

    それを分かっていなかった己が恥ずかしい。


    私は、代々の国王が封印し守ってきた楽譜を紐解いてしまった。

    トットムジカ……すべての音楽とも、死の楽曲とも読み取れる題名。

    最初に見た時は、ただの五線譜かと思った。何も記されていなかったのだ。

    だが手に取って…
    telegra.ph
    おまけONE PIECE FILM RED はいいぞ!

    円盤

    https://www.toei-video.co.jp/special/op_filmred/

    アマプラ

    https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B0B66HR7LD/ref=atv_dp_share_cu_r


    今後書く予定のもの

    ゴードンの手記 →書いた

    赤髪海賊団の裏話

    13年後 ルフィとウタ再会の話


    以下、本編に関する裏話

    Q:幼馴染じゃない理由

    ・学パロとかホビウタとか逃亡海兵があるのにnot幼馴染はないのか?ないなら自分で書くか。結果めちゃくちゃ苦労した

    Q:序盤ウソップ視点だった理由

    ・初対面なので会話するきっかけがない→そうだウソップ動かそう

    Q:ラスボスウタちゃんになった理由

    ・そのつもりは無かったがPART1の頃に「こわい」って言われた

    Q:トットムジカが増えた理由

    ・わからん。プロットの中で急に増えた(本当)

    Q:赤髪海賊団大遅刻の理由

    ・会うと映画の通りにウタが満足してしまうため。外に出る理由を残したかった

    ・でも赤髪海賊団は出したい→12年前の姿で登場

    Q:ネズキノコ弱体化の理由

    telegra.ph
  • 199二次元好きの匿名さん23/05/04(木) 02:09:50

    完結おめでとうございます!
    素敵なお話をありがとう!最高でした!!

  • 200二次元好きの匿名さん23/05/04(木) 03:10:27

    200なら王道ハッピーエンド

オススメ

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