【SS】タキオン「ああああああっ!」

  • 1投稿主21/12/21(火) 02:01:19

    突然、アグネスタキオンのらしくない絶叫が…空を焦がした。


    タキオンのSS書いたんだが|あにまん掲示板既にpixiv投稿済みなのだけれど、ここに流しても大丈夫だろうか?bbs.animanch.com
    【ウマ娘SS】「…というわけで、プランB開始だ。」|あにまん掲示板いつの間にかアドバイザーが増えていた。https://bbs.animanch.com/board/187994/↑の続きです。pixivには投稿済みですが、そんなに見てくれる方がいないので供養として…bbs.animanch.com

    ↑の続きです。

    カフェシナリオにおけるタキオンと女トレーナーのお話。シリアス。

    上の二つ読まないと何じゃこりゃ状態なので、読むのを推奨。…滅茶苦茶長文なので覚悟を持ってお読みください。

  • 2投稿主21/12/21(火) 02:01:52

    幼い頃から、速さの『果て』を追求していた。

    この脚で、あの芝の上を駆けて行くことを夢見ていた。

    だが、自分の脚は理想に耐えられる強靭さを持ち合わせていなかった。

    だからこそ、可能性のある誰かに託すことにしたのだ。

    そのことに後悔はない。

    後悔は、ない。

  • 3投稿主21/12/21(火) 02:02:29

    「うぅ…。」
    「トレーナーさん、大丈夫ですか?」
    「ははは…。昨日飲みすぎたわ。」

    昨日久々にかつての同期と会った。ずっと連絡が取れなかったので心配していたが、何とかやっていけているようだった。

    「1人でそんなに飲むなんて…。」
    「あー、いや?1人じゃなくてあいつと…あ。」
    「…あいつ?」

    何故だろう。途端にトレーナー室の気温が下がったような気がする。

    「あいつって誰ですか?まさか、かの」
    「おはよう、諸君!今日も朝から頑張ろうじゃない…か…。失礼、取り込み中だったかな?」

    何かヤバめな雰囲気になりかけた時、救世主が現れた。丁度良い、タキオンには用があったのだ。

    「いや、大丈夫だ。昨日、ある奴と飲みに行ってな。そいつからお前宛てにいくつか預かったんだ。どうするかはお前に任せる。」
    「?……成程。とりあえず受け取っておこう。」

    俺が手渡した紙袋の中身を見た彼女は、それが誰からの物か一瞬で悟ったらしい。

    「トレーナーさん、それってまさか…。」

    カフェからの誤解も解けたようだ。

  • 4投稿主21/12/21(火) 02:02:59

    「ま、そういうことだ。彼女じゃないよ。」
    「そうですね。…今のところは。」
    「んん?」
    「…何でもありません。早くトレーニングしましょう。」
    「え、ちょっまっ!カフェ、置いてくなぁッ!」
    「…。」

    いきなり飛び出して行くカフェを追いかけ、俺は部屋を出た。

    「…今更これを返されてもね。」

    その時のタキオンの表情を、俺は知らない。

  • 5投稿主21/12/21(火) 02:03:29

    「それじゃあ今日はここまでにしよう。」 「はい。」

    次の目標である天皇賞・春。長距離が得意なカフェにはうってつけのレースだ。出会った時と比べて体つきもかなり良くなった。この調子でいけば、勝利は確実だろう。過ぎたるは及ばざるが如し。キリの良いところでトレーニングを終了する。

    「タキオン、頼む。」
    「任せたまえ。」

    いつものようにタキオンが指示した栄養剤をカフェに投与する。半年も経つと腕が上がってきたのか、5分もかからなくなっていた。

    「タキオンさん?」

    処置を終えると、カフェが不思議そうな顔でタキオンの名を呼んだ。

    「…ああ、すまないね。プランBについて再検討していたところだ。かなり改善されたとはいえ、万全ではないんだ。私の目的の為にも怪我だけはしないでくれ。」

    一見利己的に見える台詞だが、その言葉の重さが今なら分かる。何だかんだタキオンはカフェの身を案じているのだ。

    「…言われずとも。」

    それはカフェも同様で、力強い返事で答えたのだった。

  • 6投稿主21/12/21(火) 02:05:16

    「…という訳で、カフェの天皇賞・春制覇を祝して〜、カンパーイ!」

    馴染みの居酒屋で、俺は高らかに宣言した。そんな俺を、かつての同期は呆れた目で見つめている。

    「乾杯。…ちょっと、テンション高くない?」
    「ん、そうか?まあ、めでたいから良いだろう。」
    「羽目を外し過ぎないでよ。」

    有マ記念の後に彼女と飲みに行って以来、こうして定期的に会うようになった。あの時はこの世の終わりのような顔をしていた彼女だが、自分自身に折り合いをつけられたのか以前より笑顔を見せることが多くなった気がする。

    「そういえば…カフェさん、身体は大丈夫だったの?」

    彼女にはカフェの問題について相談していたので、気にかけていてくれたらしい。

    「ああ。全力でケアしたのと、タキオンの科学的療法のおかげで何とかなったよ。」
    「それは良かった。…タキオンも頑張ってるんだね。」

    タキオンの活躍を聞いて、彼女はほっとしていた。連絡先は退職した際に消してしまったらしく、タキオンの動向は俺や他の同僚から聞くのみだ。一度直接会って話した方が良いのではと提案したのだが、

    『今更あの子に合わせる顔がないし、あの子も私なんかに会いたくないでしょうから。』

    そう言って俺に手渡したのがあの紙袋だ。中身はよく見てないが、タキオンがすぐに誰から送られたものか分かっていたので、2人にとって何か重要なものだったのだろう。

  • 7投稿主21/12/21(火) 02:05:52

    「お前こそ、クラブの子供たちと上手くやれてるか?」
    「顔馴染みも多いし、みんな素直だからね。教え甲斐があるよ。」
    「そうか。」

    仕事も上手くいっているらしい。トレーナー時代は何処か苦しそうに見えたので、のびのびと子供たちと触れ合う今の方が彼女の性には合っていたのかもしれない。

    「ただ…」
    「?」
    「最近、ちょっと思うところがあってね。君にこれを預けておこうと思って。」

    そう言って彼女が取り出したのは一通の手紙と分厚い封筒だった。

    「この手紙はクラブの子からタキオン宛てのファンレターなの。何処から漏れたのか分からないけれど、私がタキオンの元トレーナーだと知ってから届けてほしいって聞かなくて。」

    確かに手紙には『アグネスタキオンさんへ』とお世辞にも綺麗とはいえない字で書いてあった。書いてくれた本人には悪いが、念の為に内容を確認する。

    「これは…。」
    「この内容見たら、他人事とは思えなくて…。既に走るのをやめたあの子に渡すのはどうかと思ったのだけれど。」

  • 8投稿主21/12/21(火) 02:06:23

    確かに彼女ならそう思うのも無理はない。

    「タキオンのように走りたい、か。」
    「その子もタキオンの走りに魅了されちゃったみたい。本当に、惚れ惚れする走りっぷりだったもの。…無謀だと分かっても、憧れてしまうくらいに。」
    「…とりあえず渡しとく。お前経由だってことは黙っとくから。」
    「有難う。」

    彼女なりの配慮なのか、タキオンに何かを送る時には名前を伏せるのが常だった。まあ、今回のようなファンレターは誤魔化しやすいので特に問題ない。

    「それで、こっちの封筒は?」
    「ああ、こっちは…」

    テーブルの上に出された封筒は明らかに重そうだった。本でも入っているかのような分厚さのそれを手に取る。

    「彼女が『気付いた時』に渡してあげて。」
    「?どういうことだ。」
    「…プランBには、問題点がある。」
    「は?」
    「ああ、君たちが問題なんじゃない。タキオンが問題なの。」

    彼女の意図が分からず、続きの言葉を待つ。


    「ちょっと考えれば分かる問題だったんだけどね。だってあの子はー」

  • 9投稿主21/12/21(火) 02:06:54

    「あああああああぁぁぁああッ!」

    突然、アグネスタキオンのらしくない絶叫がー空を焦がした。

    「くそ、くそ、くそくそくそ…‼︎」

    「満ち足りろ…満ち足りろ…‼︎足りろ、足りろォォォ‼︎」

    海外遠征を諦めての宝塚記念。悔しさをバネに、カフェは素晴らしい結果を残した。

    「満足じゃないか‼︎ここから更に進み、目的を、目的を…‼︎」

    カフェが見せた可能性。それはタキオンにとって喜ばしいもののはずだった。

    「それでもー見られないのか⁉︎」

    「カフェでも誰でもよかったッ!私でもッ!がー」

    「『私だけはない』のか⁉︎…お、おおおおおおおッ‼︎」

    ただの衝動。何かの渇望。

    …ああ、そういうことか。今になって、漸く彼女が言ったことがわかった。

  • 10投稿主21/12/21(火) 02:07:21

    「タキオンさん、あの…。」
    「…失礼する。用事を…思い出した。」

    突然のタキオンの叫びに困惑したカフェが声をかけるが、その声は届かなかった。

    「こんな予定はなかった…。なかったんだ…。」

    そう言い残し、立ち去るアグネスタキオンの背は、見たことがないほどよろめいていた。


    『ちょっと考えれば分かる問題だったんだけどね。だってあの子はー』

    『私と同じだもの。速さに取り憑かれた彼女が、他人に夢を叶えてもらって満足できると思う?』

  • 11投稿主21/12/21(火) 02:07:57

    ウマ娘としては、恵まれた環境にいたと思う。

    私は、レース界での名声華々しい一家に生まれた。そんな環境で育てば、『走る』こと、更に突き詰めれば『速さの果て』に興味を持つのは必然だったと言えるだろう。両親が放任主義だったこともあり、私は幼い頃から速く走る為の研究に没頭していった。

    自分の脚の問題に気付いたのはその過程でのことだ。勿論、自分の脚で走ることを諦める気は無かった。だからより研究に打ち込んだ。

    しかし、その成果が出る前に私は本格化を迎えてしまった。ウマ娘の全盛期というのはそう長くはない。まして脚に爆弾を抱えた私では、全力で走ればすぐに限界を迎えるだろう。そうなれば、『果て』への到達は一生叶わない。

    プランBはその頃から考え始めた。幸いにも、トレセン学園には多くの才あるウマ娘がいる。その中でも、マンハッタンカフェ…彼女にはウマ娘の本能、いや自身に宿るウマソウルが何かを告げていた。彼女なら私が無理だとしても、その『果て』を見ることができるかもしれない。私の心はプランBに傾き始めていた。

    …彼女の目を見るまでは。

  • 12投稿主21/12/21(火) 02:08:24

    学園側から退学を言い渡された時、シンボリルドルフに併走を申し込まれた。どうせ此処を去るのだからと全力で走ったのだが、あの『皇帝』には届かなかった。

    悔しい思いはあったが、最後に貴重な経験ができたと満足した…はずだったのに

    「アグネスタキオン…。」

    ついこの間被験体になってくれた1人の観客の目に、吸い込まれてしまった。

    出会った時から何処か近寄り難い雰囲気を持っていた彼女だが、その原因は瞳だと思っていた。退屈しているような、感受性が欠如しているような、冷めきった暗い目をしていたからだ。

    それがどうだ。私の目に映った彼女の瞳は、まるで無邪気な少女のように、或いは狂気的な欲望に憑かれた悪魔のように輝いていた。

  • 13投稿主21/12/21(火) 02:08:52

    「…ふぅン?君、どうしたのかなその目は。」

    「随分とー狂った色をしているが?」

    この時、きっと私は期待してしまったのだ。
    もしかしたら、彼女なら…と。だが、今更トレーナーがついたところでどうするというのだ。だから適当にあしらうつもりだった。

    しかし私の思惑を見抜かれていたのか、何と彼女は私の開発した薬を3本全て飲み切って見せたのだ。

    その行動で、私の期待は確信へと変わった。

    「私も、一緒に『果て』が見たい。」

    「私に貴方を担当させて!」

    こうして彼女はモルモット君になった。

  • 14投稿主21/12/21(火) 02:09:46

    後に聞いたことだが、彼女は新人トレーナーの中ではかなり優秀だったらしい。確かに、彼女の指導はどれも的確で納得できるものだった。もし私をスカウトしていなくても、その実力があれば引く手数多だったろう。

    脚の問題については伝えなかった。彼女と出会ってからプランAについて検討し始めたが、まだ確定とは言い切れなかったからだ。それでも、脚を労っていた私を見て彼女は配慮してくれていたのかもしれない。トレーニング後のストレッチはかなり入念に行っていたし、身体のケアについてのアドバイスもしてくれた。お陰で研究が少し進んだのも事実だ。

    彼女の抱える心の問題に気付いたきっかけは、私のそぼくな疑問だった。

    「そういえば、モルモット君は陸上でもやっていたのかい?」

    それは、弥生賞前のトレーニング中のことだ。前々から、彼女の指導はアスリートの視点が入っていると感じていた。だから、軽い気持ちで話題を振ったのだが…

    「…ちょっとだけね。」

    と、彼女が発したのは一言だけ。その後に続く言葉は一切なかった。

  • 15投稿主21/12/21(火) 02:10:19

    今思えば、あの時から彼女の目に翳りが見え始めたと思う。表面上はいつも通り指導してくれていたが、私の走りを見る度に何とも言えない表情をしていた。彼女が陸上で何をやっていたかまでは知らない。だが、その心の問題が、彼女の『速さ』に対する異常な狂気に繋がっていることは察しがついた。

    そして、いつからかその目に『アグネスタキオン』ではない『誰か』を映していたことも。

    彼女となら、可能性を超えた遥か先に行けるかもしれない。そんな希望が徐々に崩れ去っていった気がした。

    だから私はプランBに舵を切った。
    皐月賞で、全てを出し尽くすと決めたのだ。

  • 16投稿主21/12/21(火) 02:10:58

    だというのに…。
    私は自室のベッドの上に寝転んだ。同室のデジタル君は、推しのライブがあるとかで居ない。正直、一人になりたかったのでタイミングとしては丁度良かった。

    今日の宝塚記念、遂にカフェは『果て』の一端に触れた。それは私にとって喜ばしいことのはずだった。

    しかしその瞬間、私に湧きあがったのは狂おしいほどの激情。自分でもらしくないとは思う。それでも抑えきれなかったのだ。

    体勢を変えてふと机の方を見ると、埃を被った紙袋が目に入った。それは、前の担当がカフェのトレーナーを通して私に送ってきたものだ。受け取ったは良いものの、扱いに困ってそのままにしていたのだ。

  • 17投稿主21/12/21(火) 02:11:25

    私は起き上がると紙袋の中からそれを取り出した。それを彼女に預けたのは2年前。少しスペックが古くなったVR装置だった。元々、自分の脚に負担を掛けないようにシュミレーションとして用意したものだったが、面白半分で彼女にも体感してもらったのだ。ウマ娘の身体能力に脳が追いつかなかったのか、彼女はすぐにバテてしまったようだが。

    その後、そのまま貸していたのをすっかり忘れていた。もう一台持っていたし特に問題はなかったのだが、走るのをやめてからは触ることすらしなくなっていた。

    …今思うと、きっと私は感傷にでも浸っていたのだろう。何となく、私はVRのゴーグルを装着し、装置を起動した。

  • 18投稿主21/12/21(火) 02:11:54

    あっという間に目の前には芝のレース場が広がった。操作画面が表示され、ウマ娘のカスタマイズや記録を見るといった選択肢が出てくる。その時、記録を見るという選択肢にNEWの文字がついていることに気が付いた。
    どうやらいつの間にかデータが更新されていたらしい。

    確か最後に記録を更新したのは、皐月賞直前だったはずだが…。そう思い、記録を確認すると、何度も確認した自分の記録の上にNEWと付いた新記録があった。

    「どういう、ことだ?」

    自分の記憶力には自信があるので、それが私のタイムではないことは分かっている。 

    では、誰が?

    いや、悩むまでもない。元々このデータを共有していたのは、私が持っていたものと彼女から返却されたこの2台のみなのだから。

    「…この記録数、どれだけやり込んだんだい。」

    自分の成長具合を確認する為に、上から100位までのタイムが見られるように設定していた。が、スクロールしてもなかなか自分のタイムが出てこない。

    「負けず嫌いだとは思っていたが、此処までとはね。」

    …と言いつつも、私にだってウマ娘としての意地がある。負けっぱなしというのも気分が悪い。という訳で、彼女の最高記録のデータを再現したレースで走ってみることにした。

  • 19投稿主21/12/21(火) 02:12:40

    VRの世界とは言え、こうしてゲートに入るのは心が躍る。認めざるを得ないだろう。私はどうしようもなくウマ娘なのだと。

    中山レース場・芝・2000メートル。
    私が制した皐月賞を再現したレースだ。

    すぐ隣には彼女の最高記録を再現した黒い髪と尻尾を持ったウマ娘がいる。これは初期設定で存在しているNPCの1人だ。一応設定でアバターの見た目は変えられたのだが、彼女は特に弄らなかったらしい。表情の読み取れないNPCを横目で見遣り、私は前を向いて呼吸を整えた。

    ファンファーレが高らかに鳴り響いた。

    残響が消えた一瞬の静寂を経て、ゲートが開く。

    「ッ!」

    出遅れることなく、私は好位置を取るべく走り出す。出だしは順調だった。このまま最終コーナーまでは体力を温存し、末脚で一気に駆け抜ければ良い。

    だがその刹那、黒い突風が吹いた。

  • 20投稿主21/12/21(火) 02:13:09

    「は?」

    目の前に突如として現れた黒は、みるみるうちに遠くなっていく。

    …彼女だ。

    後続を引き離し、どんどん差を広げて行く彼女につられたのか、他の先行ウマ娘たちが掛かり始める。…駄目だ。焦ってはいけない。あれだけのスピードを出していたら、どう頑張ろうと終盤の直線で減速する。今は待つ時だ。そう自分に言い聞かせるが、先頭の彼女は後ろを気にせず更に速く駆け抜けて行く。

    中盤に差し掛かったところで、私は予定を変更せざるを得なかった。流石にこれ以上引き離されると、逃げ切られる恐れがある。私はギアを上げ、他の先行ウマ娘の集団の先頭を走った。その間も彼女はまるで他者などいないように、我が物顔でレースを進める。

    そして迎えた最終コーナー。最後の競り合いに向け力を溜め、直線に入りながら加速する。現在先頭との差は5バ身。だが、それが何だというのだ。得意の末脚で一気に彼女に詰め寄り、追い越す…ただそれだけのはずだった。

    『この舞台の主役は私だ。』

    遂に彼女に追いつこうかという時、ふと聞こえた気がした。いや、そんな訳はない。隣にいるのはただのNPCだ。表情だってない。それだというのに…

    彼女は笑っていた。

    迫り来る私になど目もくれず、前へ前へと進む彼女の目は、あの狂気に染まった目と重なった。…ああ、そうか。

    彼女は別に私に勝ちたかった訳ではない。
    ただ、ただ…『果て』に辿り着くために走っていたのだと。

  • 21投稿主21/12/21(火) 02:13:41

    カフェだけじゃなかった。

    「(君もあの一端に触れたというのか?)」

    彼女についてはウマ娘ですらないというのに、私だけは到達できなかった領域に行こうとしているというのか?


    …違う。

    違う違う違う違う違う違う違う違う違うッ!

    私は本当に到達できなかったのか?
    確かに私の脚は、あの皐月賞で燃え尽きた筈だ。もうこれ以上ない走りをした!私はもう走れない。…いや、それは私が勝手に結論付けたことではないのか?

    『貴方なら三冠バだって夢じゃない!』

    横にいる彼女の言葉が蘇る。
    実に甘美な響きだ。一度だけではない。何度も夢を見た。それでも諦めた。現実は非情だ。だが、この仮想空間ですら、現実でないこの世界ですら私は到達できないというのか?

    「違うッ!」

    私は力強く駆け出した。
    脚のことなど忘れていた。

    「その『果て』に到達するのは、私だッ!」

  • 22投稿主21/12/21(火) 02:14:24

    その仮想レースで、私は自己新記録を更新した。記録は、一位タイ。彼女と同じタイムだった。

    「…ハハ、ハハハハハッ!」

    まさか走るのを辞めてから記録を更新するとは思わなかった。横にいる彼女に目をやると、いつも通りのNPCそのものだ。いつの間にか彼女の表情は分からなくなっていた。

    「君がウマ娘でないことが、実に残念だよ。まさか、こんなに熱い走りを見せてくれるとはね。」

    答えなんて返ってくる訳でもないのに話しかける。それでも今はただ、この抑えきれない思いを誰かにぶつけたかった。

    「…走りたい。」

    思わず溢れたその一言は、私がどうしようもなくウマ娘なのだと実感させた。

    「…可能性を追うのは、研究者の性ってやつか。」

    私はすぐにゲームを中断し、あの紙袋の中身を改めて確認した。よく見ると、小さな紙切れが入っていたことに気がつく。

    『貴方に八つ当たりしてごめんなさい。
    どうか貴方の夢が叶いますように。』

    几帳面な彼女らしい、丁寧な字で書かれた言葉。

    「こんなデータで喧嘩を売っておいて、何なんだい。全く。」

    何だか無性に彼女に会って文句の一つでも言ってやりたくなった。電話番号とメールアドレスは知っている。しかし、あのモルモット君が素直に応じるとは思えなかった。

    「…そうなると、彼に聞くしかないか。」

    思い立ったが吉日。私は即座に行動に移した。

  • 23投稿主21/12/21(火) 02:14:52

    「ここが、モルモット君の勤務先か…。」

    何もない休日、私はとある陸上施設に来ていた。そこに入っている陸上クラブはそれなりの歴史のあるのようで、入り口には数々の華々しい記録が飾られている。

    「あ。」

    その中の、大規模の大会で優勝トロフィーを手にした少女の写真が目に入った。記されているその名前には心当たりがある。

    「何が『ちょっとだけ』だ。相当やりこんでいるじゃないか。」

    どこかつまらなさそうな顔をした少女は、昔のモルモット君だった。よく見れば、他にも彼女の華々しい戦果が飾られている。

    「凄いだろう。色んなところからスカウトされて、アスリートになる道だってあった子だからねぇ。」

    突然声をかけられ振り返ると、白髪が目立ってきた穏やかそうな老人が目に入る。

    「初めまして、アグネスタキオンさん。私はここの名誉監督をやらせていただいている者です。」

    そう言って丁寧に挨拶した老紳士は微笑んだ。

    「ひょっとしてあの子に会いに来たのかな?」

  • 24投稿主21/12/21(火) 02:15:20

    「ほらほら、もっと腕を振る!」
    「うへぇ。」
    「うへぇ、じゃない。」

    久々に見たモルモット君は、熱心に指導していた。

    「あの子は、君にどんな指導をしていたんだい?」

    隣にいる老人は語りかける。私と彼は、施設の観客席で彼女たちを眺めていた。フェンスがあるので、向こうからこちらは分かりづらいだろう。

    「実に的確な指導だったと思う。優秀なトレーナーだったよ。」
    「そうかい。でも、あの子とは契約を解消したんだろう?…理由を聞いても?」
    「…彼女は、私でない『誰か』を見ていた気がした。それだけだよ。」

    私は簡潔に答えた。だが、この名誉監督はそれを聞いただけで事情は察したようだ。

    「やっぱりか…。」
    「やっぱり?」

    どうやら心当たりがあったらしい。
    彼は一瞬迷う様子を見せたが、話すことにしたようだ。

    「君は、彼女から家族の話を聞いたことがあるかい?」
    「…いいや?」
    「そうかい。…まあ、そうだろうね。特にウマ娘の君には言えないか。」
    「?」
    「…彼女の母親と妹はウマ娘なんだよ。」
    「血の繋がりがない…という訳ではなさそうだね、その言い方だと。」
    「ああ。何度かお会いしたけど、本当に瓜二つだよ。だからこそ、彼女は速さに執着してしまったのかもしれないね。」

  • 25投稿主21/12/21(火) 02:15:55

    老人は、フェンス越しの彼女を見遣りながら続けた。

    「彼女はね、うちの陸上クラブに入ってきた時に言ったんだ。『ウマ娘みたいに走れるようになりたい』って。」

    「ウマ娘の速さに追いつけずとも、少しでも追いつきたいと彼女は無我夢中で練習していたんだ。私もそれに応えたくて必死に指導したよ。」

    「…だけど、私はあの子の心の問題を解消してあげられなかったんだろうね。あの子は、アスリートとしての道を自ら閉ざしてしまった。」

    まるで、私とモルモット君の関係のようだった。

    「まさか、彼女がトレーナーになって、私と同じ過ちを繰り返すとは思わなかったけどね。」

    そう言って悲しげに笑った後、目の前の老人は改まってこちらに向き直った。

    「…あの子が君にしたことは決して許されないし、許さなくて良い。」

    「ここに来たということは、何か彼女に言ってやりたいことでもあるんだろう?大丈夫、今のあの子ならきっと受け止められるだろうから。」

    「そろそろ休憩時間だろうから、下に降りてゆっくり話すと良いよ。…私は、ここでお暇させてもらうから。」

    そう言って彼は席を立った。
    ただ1人残された私は、フェンス越しに彼女を眺めていた。

  • 26投稿主21/12/21(火) 02:16:32

    下に降りた私に最初に気がついたのは、先程まで彼女が指導していた少年だった。

    「ああああアグネスタキオンッ⁈」

    大声で名前を呼んだものだから他の子供たちも私に気付き、あっという間に囲まれてしまった。

    「わぁ!本物だ本物だ!」
    「どうして来たの?」
    「サインちょうだい!」
    「なんでレース出ないのー?」
    「ねえ尻尾触っても良い?」

    矢継ぎ早に投げかけられる問いに対応しきれない。というか誰だ、尻尾を触るんじゃない!そうこうしているうちに見知った顔が慌てて近づいて来た。

    「こらみんな何して…。ッ!…タキオン?」

    助け舟を出した彼女は、驚いた顔で私を見つめていた。
    皐月賞で別れてから、実に1年ぶりの再会だった。

  • 27投稿主21/12/21(火) 02:17:00

    「…。」
    「…。」

    沈黙が続く。あれから、周りのコーチやらが気を利かせて2人きりにしてもらえた。ベンチに2人腰掛けたは良いものの、2人の間にある1人分の隙間と長い沈黙はとても居心地が悪い。

    「あの。」

    先に口を開いたのは彼女だった。

    「どうしてここが分かったの?」
    「カフェのトレーナーに吐かせたよ。少々強引な手を使わせてもらったが。」

    なに、ちょっと縛り付けて薬を飲んでもらっただけのことだ。大したことではない。

    「ちょっと待って、彼は生きてるでしょうね?」
    「大丈夫、ちょっと発光してるだけで害はないよ。」
    「…ハァ。後で彼には謝っておかないとね。」

    久しぶりの再会だというのに、このようなやりとりをしたのが昨日のことのように感じられた。

  • 28投稿主21/12/21(火) 02:17:31

    「私の方こそ、君には尋ねたいことがあってね。」

    そうだ。私は感傷に浸りに来た訳ではない。今回ここに来た目的の一つである封筒を取り出す。

    「どういうつもりだい、これは?」

    この分厚い封筒は彼女の居場所を吐かせようとした際に、カフェのトレーナーから手渡されたものだ。中身は、ウマ娘の脚の怪我とその後の治療についての数多くの資料だった。中には最近公表されたばかりだった海外の研究もあり、丁寧に翻訳され、特に重要な部分にはマーカーを引くなどの徹底ぶり。

    「…まるで私が再び走りたくなることを分かっていたみたいじゃないか。」

    彼曰く、この封筒を渡されたのは天皇賞・春の後だそうだ。少なくとも、その前…プランB実行中の頃から、彼女は文献を集めていたことが分かる。

    「貴方みたいなタイプが、他人に夢を叶えてもらって満足できる訳ないでしょう。」
    「…よく分かっているじゃないか。」
    「そりゃあね。例え1年ちょっとでも貴方のトレーナーだったのは事実だし。性格なら嫌というほど知ってるから。」

    少々棘のある言い方は兎も角、彼女の言葉に嘘偽りはなかった。

  • 29投稿主21/12/21(火) 02:18:01

    「それと、VRのあれは喧嘩を売っているのかい?」
    「ああ、あれ。まああの頃は私も狂ってたから、半分はそうかも。最初にあれだけ大差で負けたら何がなんでも勝ちたくなるでしょう?」
    「…君、何だか性格が変わってないか。」

    何というか、以前と比べてストレートに言葉を告げるようになっている気がする。よく見れば彼女の目にあった狂気は消え、以前とは打って変わって生き生きとした表情をしていた。

    「そうだね。…変わったっていうより、吹っ切れたのかも。私の家族の話、ひょっとして聞いてる?」
    「…さっきここの名誉監督とやらに教えてもらったよ。」
    「そっか。…ずっとね、貴方たちウマ娘が羨ましかった。あんなスピード、私がどう頑張ったって届かないもの。」
    「…それで八つ当たりか。」
    「!…そうだね、その通り。全く関係のない貴方に妹を重ねて、暴言を吐いた。」

  • 30投稿主21/12/21(火) 02:18:30

    私の皮肉を自嘲しながら肯定した彼女は続けた。

    「私は貴方の可能性を閉ざしてしまった。貴方には謝っても謝りきれない。」

    「だから、貴方がもし再び走りたいというのなら、私の伝手で優秀なトレーナーを今からでも探す。足の治療の為の援助だってする。貴方が思うように私を利用してくれて構わない。」

    「勿論、決めるのは貴方。こんな人間と関わりたくなければそれでも良い。」

    彼女は真っ直ぐな目で私を見つめた。曇りひとつない、純粋な目。
    だが、違う。その目じゃない。私が知る君の目は…。

    「…もし、私に申し訳ないと思うなら。」

    私はVRで彼女と戦って以来、ずっとやってみたいと思っていたことを口にした。

    「私とここでレースをしてくれたまえ。」

    私は不敵に微笑んだ。

  • 31投稿主21/12/21(火) 02:19:20

    急遽行われることとなった私とモルモット君のレースに、陸上クラブの関係者が多く集まった。

    「レース…って直線の50メートル走で良いの?」

    私が提示した条件に、彼女は驚いた。

    「流石に私たちが普段やっているレースの距離では勝負にならないだろう?」
    「…それはそうだけれども。」

    ウマ娘の最高時速は70キロメートルと言われている。しかし、それは全速力で走った場合だ。それほど加速できる脚を持っていたとしても、そのスピードを出すまでにエンジンを温める必要がある。そして、50メートルでは到底最高速度には到達しない。

    だから、人間にもごく僅かであるが勝機はある。まして、私は久しく全力で走っていないし、そもそも脚に問題を抱えている状態で無理をする気はない。

  • 32投稿主21/12/21(火) 02:19:57

    「君にとっては有利な条件だと思うがね。」
    「私も久しく走ってないんだけど。」
    「まあそれはそれ、これはこれだよ。モルモット君。さあ、スタート位置につきたまえ!」
    「…はいはい。」

    距離も状況も何もかも異なるが、これはあの仮想レースのリベンジだ。

    私はあまり体験したことのないクラウチングスタートだが、流石に10年以上走っている彼女はとてもリラックスした様子でその姿勢に入る。

    勝負は一瞬。
    だが、その一瞬に全力をかけて走る。

  • 33投稿主21/12/21(火) 02:20:19

    位置に着いたのを確認してからピストルが鳴った。
    両者が勢いよく地を蹴り上げる。

    だが、先に飛び出たのは彼女だった。

    「(速い!)」

    あの仮想レースでもそうだったが、彼女は最高速度に到達するまでの時間が異様に短い。これで全盛期でないというのだから驚きだ。

    「(だが…ッ!)」

    私も脚の筋肉を覚醒させていく。いくら走らなくなったとはいえ、ウマ娘の身体能力は人間を遥かに凌駕する。地を蹴る度に、自身の脚は温まり、加速していった。

  • 34投稿主21/12/21(火) 02:20:46

    あっという間に私は彼女を抜き去り、そのままゴールした。
    後ろの方ではゼェゼェと呼吸を整えるのに必死な彼女がこちらを恨めしげな顔で見つめている。

    「ハァ…ハァ…。現役…ハァ…引退した人げ…に、勝って、ハァうれし…いか?」

    息も切れ切れ、あの仮想空間とあまりに乖離した姿に思わず笑ってしまった。

    「ハハハッ!やはり現実ではああもいかないか。」
    「…で、満足した?」
    「いいや、ちっとも。」

    そう返答した私に、彼女は呆れた様子だった。

  • 35投稿主21/12/21(火) 02:21:13

    「…君の方こそ、どうだった?ウマ娘との併走の感想は?」
    「最悪だよ。折角忘れてたのに、また悔しさでおかしくなりそう。」
    「!本当かい⁈」
    「な⁈」

    彼女の言葉を聞いて、私は目を輝かせた。

    「良かった。すっかり毒気が抜かれてたから心配だったんだが、これなら安心だ。」
    「一体何を…?」

    私は彼女に向き合い、高らかに宣言した。

    「アグネスタキオンは、有マ記念にて復活する!」

    周りのギャラリーからどよめきが起こる。だが、そんなことは関係ない。私は話を続けた。

  • 36投稿主21/12/21(火) 02:21:45

    「…君は、私がプランBでは我慢できなくなる、そう言ったそうだね。その通りだよ、モルモット君。カフェのあの走りを見て、私は自分がどうしようもなくウマ娘なのだと痛感した。今もそうだ!走りたくてたまらない!速さの『果て』を自ら追求したくてしょうがないッ!」

    「だが、君はどうだ?私と同類である君は、このまま『果て』を見ることを諦めるのか?まさか、VRのあれで満足したなんて言う気じゃないだろうね?言っておくが、私はあの記録より更に速くなるぞ!私は『果て』に到達してみせる!」

    「確かに今の環境は心地よいだろう。私もあんな楽しそうに指導する君を見たのは今日が初めてだ。」

    「だから今から言う問いに無理に答えなくても良い。これは君の人生だからねえ。私のことは気にしないでくれて構わない。」

    「以上のことを前提に、問いに答えてほしい。」


    「君は、本当に諦めたのか?」

  • 37投稿主21/12/21(火) 02:22:09

    私は目の前で真剣に見つめてくる彼女を眺めていた。

    いきなり現れたと思ったら、文句を言ってきて、挙句の果てに急にレースをしようと言い始めてボコボコにされた。とんだ厄日だ。

    暫くタキオンの問いについて考えたが、私の答えは決まっている。もう諦めたのだ。『果て』を目指すのなら他のトレーナーと組んでほしい。私なんかがトレーナーを、それも彼女の担当としてやる資格などある訳がない。

    「私はもう…」

    そう言いかけたところで声が出なくなった。
    諦めた、そう言えば良いだけなのに言葉にできない。

  • 38投稿主21/12/21(火) 02:22:37

    「どうした?モルモット君。はっきり言わないのなら諦めた…と言う意味だと受け取るが。」

    これは、最終通告だ。
    ここで諦めたら、2度とこんな機会はやってこない。

    「君の執念はその程度のものだったのか?」
    「ッ!」

    その瞬間、私の心の奥底に仕舞われた感情が溢れ出した。

    悔しい。
    何で。
    追いつきたい。
    もっと速く。
    辛い。

    「諦めたくない。」

    その中の一つが零れ落ちる。
    結局、皐月賞の頃と変わってないじゃないか。私は自分が情けなくてしょうがなかった。

    ああ、私は…

    どうしようもなく、『速さ』に飢えている。

  • 39投稿主21/12/21(火) 02:23:17

    「フッ…ハハハッ!そうそう、その目だよ!やはり君はそうでなければ!」

    タキオンの瞳に、あの日の狂気が宿る。

    「また、私と速さの『果て』に到達してくれないか?トレーナー君。」

    そう言って差し出された手を、私は躊躇いなくとった。

    「誰も辿り着き得なかった『果て』を、今度こそ私が見せてやる。」

    梅雨も終わりに近づくという頃、
    私は漸く彼女のトレーナーになった。





    「あの、感動の場面に水を刺すようで悪いけれども。」
    「「?」」

    急に話しかけてきた監督に首を傾げると、彼は目で先ほど走ったコースを見遣った。

    「あのコースの修理代、よろしくね。」

    流石ウマ娘。人間用のフィールドでは耐えきれなかったのだろう。タキオンの足跡がくっきりと残っている。


    結局、私とタキオンで折半して修理代を払ったのだった。

  • 40投稿主21/12/21(火) 02:24:47

    pixivに投稿した分は以上です。年末年始は滅茶苦茶忙しいので、次更新するのは年越えると思います。
    ここまで見てくださり、有難うございました。

  • 41二次元好きの匿名さん21/12/21(火) 02:52:30

    素晴らしいものを見せていただきました…。
    投稿お疲れ様です

  • 42投稿主21/12/21(火) 07:32:15

    >>41

    コメント有難うございます!

    次回で完結予定なので、上手くまとめられるよう頑張ります。

  • 43二次元好きの匿名さん21/12/21(火) 09:47:19

    保守

  • 44二次元好きの匿名さん21/12/21(火) 15:28:39

    とりあえず保守

  • 45二次元好きの匿名さん21/12/22(水) 00:24:55

    保守

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