- 1読み手24/03/12(火) 21:59:21
〜あらすじ〜
竹から産まれたかぐや姫(ヤマニンゼファー)は、月のお姫様でした。
別れの日、かぐや姫はお爺さん(サウンズオブアース)とお婆さん(タニノギムレット)との束の間の楽しいひと時を過ごし、そして満月の夜になりました。
月からかぐや姫を連れ戻しにやって来た月の使者(ネオユニヴァース)が、3人の前に現れます…。
前スレ
ウマ娘昔ばなし『かぐや姫』|あにまん掲示板昔々、竹林の多い山の中で、竹を切ってはそれを加工して生計を立てていたお爺さんとお婆さんが2人で暮らしておりました。お爺さんがいつものように竹を切りに向かうと、一つだけ金色に光る不思議な竹を発見し、お爺…bbs.animanch.com - 2二次元好きの匿名さん24/03/12(火) 22:01:32
エミュ難四天王がそろってるのマジで草。すげーよスレ主
- 3二次元好きの匿名さん24/03/12(火) 22:04:13
エミュ難でもちゃんと話を成立できてるのマジですごいよ読み手氏
- 4読み手24/03/12(火) 22:05:54
登場人物おさらい
かぐや姫→ヤマニンゼファー
お爺さん→サウンズオブアース
お婆さん→タニノギムレット
帝→ヒシアマゾン
お坊さん→ヒシアケボノ
月の使者→ネオユニヴァース
月の民→シンコウウインディ
月の学者→スペシャルウィーク
1人目の貴族→ヤエノムテキ
2人目の貴族→ロイスアンドロイス
3人目の貴族→ミスターシービー
4人目の貴族→ヴィルシーナ
5人目の貴族→ファインモーション
職人A→タマモクロス
職人B→セイウンスカイ
兵士A→ホッコータルマエ
兵士B→ダイイチルビー
最後までよろしくお願い致します。 - 5二次元好きの匿名さん24/03/12(火) 22:06:28
何言ってるか分からないのに分かるこのエミュ力
すげえ - 6二次元好きの匿名さん24/03/12(火) 22:07:50
なんでそこまでダイス振ったんだって登場人物が多すぎる
- 7二次元好きの匿名さん24/03/12(火) 22:08:41
安価でネオユニを召喚するところ漢だと思った
- 8二次元好きの匿名さん24/03/12(火) 22:11:10
初手で四天王4人の内3人を引き当てるってダイス神はどんだけ1に試練を与えたかったのか
- 9二次元好きの匿名さん24/03/12(火) 22:15:50
読み手さんの言語野どうなってるの…?
- 10読み手24/03/12(火) 22:24:46
- 11二次元好きの匿名さん24/03/12(火) 22:27:34
お 前 が 言 う な
- 12二次元好きの匿名さん24/03/12(火) 22:27:42
日本語喋れ定期
- 13二次元好きの匿名さん24/03/12(火) 22:40:32
(日本語で話して欲しいと思う私)
- 14読み手24/03/12(火) 22:46:26
パン!
「きゃっ…!」
かぐや姫が一歩一歩、力強く月の使者の元へ向かっていると、突如として発砲音が聞こえました。
帝の兵士の1人が、月の使者に向かって発砲したようです。
「……『敵対』はABSS。ネオユニヴァースは"それ"を『望む』はしていないよ。"旗を突き刺す"のはイコールでMOSM。」
「効いてませんよ…!何ですかあの生き物…。というか、生き物なんですか…!?」
「構いません!帝様の命です!くれぐれも姫様には注意し、対象へ一斉射!」
そのまま帝の兵士による狙撃は続けられましたが、月の使者に当たっている様子はありません。
狙撃を受け続けている月の使者は、少し焦った様子で言葉を紡ぎます。
「RXIL… RXIL…。『ライカ』が"来る"…。」
月の使者がそう呟くと、満月から何かが走って来たと思えば、兵士たちに向かって飛びかかりました。
「ガオーッ!ウサギを虐めるのはやめるのだーっ!」
「オオカミが襲撃してきました!退避!退避しなさい…!」
「わわわっ!痛いべ痛いべ!」
兵士たちを襲ったオオカミは、あの時にお坊さんの話に出て来たあのオオカミでした。オオカミは抵抗する兵士たちに向かって噛みつきを大喜びで行いました。
兵士たちは…
dice1d2=2 (2)
1 全員逃げ帰ってしまいました
2 数人は残って抵抗を続けています
- 15二次元好きの匿名さん24/03/12(火) 22:48:58
ホントにネオユニ来たんかいw
- 16二次元好きの匿名さん24/03/12(火) 22:50:22
帝の兵士チャカ持っとるんかい......そしてギムレットよ。お前が言うな
- 17二次元好きの匿名さん24/03/12(火) 22:59:23
ギムもアースも情が深いタイプだし別れのシーン本当に切なかった(遅い感想)
- 18読み手24/03/12(火) 23:02:25
「噛まれたぐらいで何ですか…!動ける者はあのオオカミの対応を!」
「がおーっ!!!」
「……話の腰が"折れる"をしたね。"ごめんなさい"。『ライカ』は『わたし』の言う事を聞かないんだ。SRIV…。コントロールは難しいかもしれないけど、"噛みつく"は甘めの設定で。」
家の外の喧騒に呆れているのか、月の使者も少し困った様子でした。
「『覚悟』は"出来た"?SMLAをもう一度するね。この前の"交信"の通り、この"宇宙服"を『着る』をしてもらうよ。でも、これを着るとREVEは"無くなる"。ネオユニヴァースもその事はKICS出来ないけど、それか『ミッション』。命令違反は"デブリ"だから、仕方が無い。」
「………。」 - 19読み手24/03/12(火) 23:12:59
- 20二次元好きの匿名さん24/03/12(火) 23:23:06
なんでここまで違和感が一切無いんだ……いいぞスレ主、もっとやれ。
- 21読み手24/03/12(火) 23:33:18
「………かぐやは、あれを着たくはありません。お二人の記憶が無くなってしまうのは…。」
「確かにそれはスモルツァンド…しかしそれでは、ルーナが…。」
別れを惜しみ、泣きじゃくるかぐや姫でしたが、その時、お婆さんが口を開きました。
「…『我が娘(かぐや姫)』よ、『運命(さだめ)』は受け止めなければならない。」
「…!」
「『始まりの地(バンブーフォレスト)』でお前がワタシたちの前に現れたのも、こうして別れるのも全ては『運命(さだめ)』である。俺はもう、『運命の場所(ここ)』に立った時点で受け入れた。『記憶(メモリー)』のことも驚いたが、『運命(ルール)』ならば仕方が無いと受け入れた。『翁(おじいさん)』を見てみろ。『受け入れた(俺と同じ)』顔だ。」
「お婆さん…。」
「だが、お前は何だ『かぐや姫(小娘)』。その『涙(リュシテア)』を、自分で拭ってみせろ。『大人(一人前)』になったんだ。『巣立ち(1人)』になる時なんだ。だが、孤独では無い。『記憶(メモリー)』は無くなるかもしれないが、俺たちが育てたその『身体(己)』と『心(ハート)』は忘れないだろうよ。だから、泣くな。前を向け、『愛しき娘(かぐや姫)』よ。」
「お婆様…!」
かぐや姫は涙を自らの手で拭い、月の使者の方へもう一度向きました。 - 22二次元好きの匿名さん24/03/12(火) 23:34:52
あれ?なんとかなりそうかこれ
- 23読み手24/03/12(火) 23:40:48
- 24読み手24/03/12(火) 23:47:50
- 25読み手24/03/12(火) 23:51:45
- 26読み手24/03/12(火) 23:53:08
- 27二次元好きの匿名さん24/03/12(火) 23:54:40
ブラボー……おお、ブラボーー……!!
- 28読み手24/03/12(火) 23:57:19
お爺さんはすでに旅立った娘の方を見やりつつ、バイオリンを手にしました。
「アッチェレランドな生活だったよかぐや!スピリトーゾ!愛しい娘の門出に、この曲を送ろう…。」
- 29二次元好きの匿名さん24/03/13(水) 00:00:30
どんなトンチキ改変ストーリーになるかと思ったがキチンと纏まったな…いやまぁ言ってることが変なだけでやること成すことトンチキなメンツではないんだけども
- 30二次元好きの匿名さん24/03/13(水) 00:06:04
- 31二次元好きの匿名さん24/03/13(水) 00:08:18
自分のレスで徒に物語邪魔したくなかったからROMってました 本当にお疲れさまでした
ゼファーって確か育成ストーリー中でお姫様みたいって言及されてから、かなり役とマッチしてるね…って思いながら読んでた
スキルも「風光る」だしね - 32二次元好きの匿名さん24/03/13(水) 00:09:13
本当にお疲れ様です。
面白い物見させていただきました、ありがとうございます。 - 33二次元好きの匿名さん24/03/13(水) 00:10:19
本当にお疲れ様でした
良くここまでウマ娘のキャラを崩さずにエミュ出来ますね……尊敬します - 34二次元好きの匿名さん24/03/13(水) 00:10:38
本当に別れが寂しそうで切なかった
- 35二次元好きの匿名さん24/03/13(水) 00:12:39
バイオリン弾くのも風感じるのも柵壊すのもトンチキじゃないだろいい加減にしろ!
バイオリン型の音声再生機とか壊した柵の材料費のためにバイトしてるとかは知らない()
スレ主さん、ダイス神のいたずらにもめげずに二日に渡る大作、お疲れ様でした。いい物を見せていただきました
- 36二次元好きの匿名さん24/03/13(水) 00:14:40
いや本当に凄かった
まさかこの四天王相手に完走する猛者が現れるとは…
最後まで楽しませてもらいました - 37読み手24/03/13(水) 00:22:32
二日間に渡ったこのスレも、ついぞ完走することができました。本当に難しかったですが、皆さんの反応や感想、応援が力になってここまでやり切れました。ありがとうございました。
最初にサウンズオブアースがお爺さんになった時点でドビュッシーの『月の光』で締めようと思っていたので、これで物語はこれでおしまいです。
結局本当にかぐや姫は2人のことを全て忘れてしまっていたのでしょうか。かぐや姫が居なくなった後の2人はどうなるのでしょうか。
めでたしめでたしで終わらないのも、昔話の残酷なところでもあり、醍醐味でありますね。
最後に、まだSSをしたためるのは新米なものでして、ところどころお見苦しい点など多々あったとは思いますが、こうして2スレ目まで見ていただきありがとうございました。
また、どこかでお会いしましょう。お疲れ様でした。 - 38読み手24/03/13(水) 00:23:11
昔ばなしシリーズの過去作です。
ウマ娘昔ばなし『桃太郎』|あにまん掲示板昔々あるところに、お爺さんとお婆さんが山の中で夫婦仲睦まじく幸せに暮らしていました。ある日お婆さんが川で洗濯をしていると、山の方から大きな桃がドンブラコドンブラコと流れてきました。お爺さん dice1…bbs.animanch.comウマ娘昔ばなし『さるかに合戦』|あにまん掲示板昔々あるところに1匹の蟹さんが居ました。蟹さんは道にそれはそれは大きくて美味しそうなおにぎりが落ちているのに気付き、「ごちそうだごちそうだ」と嬉しそうに持ち帰りました。蟹さん dice1d114=@5…bbs.animanch.comウマ娘昔ばなし『かちかち山』|あにまん掲示板昔々あるところにお爺さんとお婆さんが畑仕事をしながら日々を過ごしておりました。そんな老夫婦の畑には、毎日のように悪いタヌキがやって来ていました。タヌキは2人の畑に向かって不作を願う歌を歌ったり、植えた…bbs.animanch.comウマ娘昔ばなし『ツルの恩返し』|あにまん掲示板昔々、とある山奥で猟師の青年が貧しいながらも一人で暮らしていました。ある朝、自分が仕掛けた罠を青年が確認してみると、それはそれは綺麗な一羽のツルが罠に脚を挟まれていたのでした。青年 dice1d114…bbs.animanch.comウマ娘昔ばなし『大きなカブ』|あにまん掲示板ある日のこと、お爺さんがカブの種を植えました。「大きくなあれ、大きくなあれ」お爺さんはカブにそう言い聞かせました。翌朝、お爺さんが畑の様子を見て見ると、それはそれは大きなカブが成っていました。お爺さん…bbs.animanch.com - 39二次元好きの匿名さん24/03/13(水) 00:23:50
お疲れ様!
桃太郎の時と同様にどうなるか心配だったけど完走GJ
初っ端で笑いすぎたけどあとはシンミリ良い感じで終わったのはナイスだった - 40二次元好きの匿名さん24/03/13(水) 00:31:51
読み手さんお疲れ様でした!とても面白くてとても切なくてとても良いお話でした!
最後の曲の演出もSSやダイススレであまり見ない手法で画期的でした!
しばらくでも大丈夫なので、ご自愛くださいませ…! - 41二次元好きの匿名さん24/03/13(水) 00:50:27
本当にお疲れ様でした… 楽しいSSありがとうございました
- 42二次元好きの匿名さん24/03/13(水) 01:03:50
ギムレットには早すぎる
がかっこいいキレイな落ちだった
ブラーヴァ! - 43二次元好きの匿名さん24/03/13(水) 08:10:02
今更読了。お疲れ様でした!
気が向いたらで良いんでザックリとした日本語訳も欲しいかもw - 44二次元好きの匿名さん24/03/13(水) 08:17:49
ギムレットのカクテル言葉は「長いお別れ」、「遠い人を想う」らしいですね……。
- 45二次元好きの匿名さん24/03/13(水) 08:27:19
お疲れ様でした
- 46二次元好きの匿名さん24/03/13(水) 17:33:17
予定調和のごとく安価でネオユニヴァースが来たのもむしろここまで来たら完璧な采配なんだよなぁ……逆に月の使者がヘリオスだったら、それはそれでひどいことになる気がする
- 47読み手24/03/13(水) 17:43:24
ご要望がありましたので、エミュの難しい4人が喋っている内容を分かりやすく日本語に直した文を、まとめ読み用も込みで残りのレスに書いていこうと思います。
再度よろしくお願い致します。 - 48二次元好きの匿名さん24/03/13(水) 17:46:48
優しすぎだろ
- 49読み手24/03/13(水) 17:52:53
昔々、竹林の多い山の中で、竹を切ってはそれを加工して生計を立てていたサウンズオブアースお爺さんと、タニノギムレットお婆さんが2人で暮らしておりました。
お爺さんがいつものように竹を切りに向かうと、一つだけ金色に光る不思議な竹を発見し、お爺さんは興味本位で試しに切ってみることにしました。
「これは驚いた!何ということだろう!私が毎日のように見ている竹が、今日ばかりは火の揺らめきのように煌々と光っているじゃないか!」
お爺さんが光る竹を切ってみると、その中には可愛らしい女の子の赤ちゃんが居ました。
「愛らしい…。なんと愛らしい赤子だろうか!お婆さんに知らせなくては!!!」
お爺さんはすやすや眠った赤ちゃんを起こさぬよう、慎重に家に持って帰りました。 - 50読み手24/03/13(水) 17:57:27
「ただいまお婆さん!!!突然だが申し訳ない、先ほど竹を取りに行っていたら、愛らしい赤子が居てね!可哀想に…どうやら独り身のようだ…。」
「ほう…まるで美の女神のような美しさ、それでいて可愛らしい。可愛くて胸がドキドキしているぞ…。ただ、一人ぼっちは寂しいだろう。いい提案がある。俺とお爺さんの2人でこの赤ちゃんを立派な大人にするというものだ…。」
「私も同じ考えだよお婆さん!ゆっくりと、それでいてゆっくりしすぎる事もない程度に、この赤子を育てていこうじゃないか!」
お爺さんとお婆さんは、2人で協力して赤ちゃんを育てることにしました。 - 51読み手24/03/13(水) 17:58:56
それから3ヶ月も経たない頃、赤ちゃんはすくすく成長し、既に学生ほどの大きさの立派な少女になりました。
2人はそろそろ名前をつけてあげようと色々と案を出しあいましたが、感性が独特な2人の案を少女は嫌がりました。
やがて、普段から世話になっていたお坊さんのヒシアケボノさんに名前を付けてもらうことにしました。
お坊さんは『光り輝いて見えるように美しい姫』という意味である『かぐや姫』と言う名前を少女に付けました。 - 52読み手24/03/13(水) 18:05:30
すっかり大人になったかぐや姫の美しさは、貴族の耳に届き、かぐや姫は毎日のように執拗に貴族たちから婚姻を迫られるようになりました。
「お爺様…お婆様…。かぐやは疲れました。毎日毎日落ち着かないですし、とっても忙しい日々…。お二人がお選びになられた5名のみをお呼び下さいませ。それ以外の方々はご縁がなかったとお伝えください。そして、その5名の中からお一人様がまるでそう…とてもかぐやの事を大切に思ってくれるような優しい方であらせれば、かぐやは甘んじてその方の妻となりましょう…。」
「分かった…。かぐやがそう言うのならば仕方ない。選んだ5人以外にはハッキリと諦めてくれと伝えておこう。」
「これは彼女の意思だ。毎日のように結婚を迫られたらこうなるのも仕方はない。ワタシとお爺さんも認めるしかない…。」
かぐや姫の望み通り、お爺さんとお婆さんは婚姻相手を選びに選び、その結果それはそれは公明な若い貴族5名を呼ぶことになりました。 - 53読み手24/03/13(水) 18:11:25
次の日、お爺さんとお婆さんが選んだ1人目の貴族がかぐや姫の家にやってきました。
「押忍!私はヤエノムテキと申します!」
「初めまして、熱量のすごいお方…。かぐや姫と申します…。」
「な、なんと…噂には聞いておりましたが、想像以上に美麗で可愛らしい…。と、とても守護りたくなってきてしまいました…。」
「近衛兵を雇うつもりは無いのだが…。」
「して、姫よ。私は今し方、あなたのその美貌に深く惚れ込みました!どうか…御婚姻を申し出たい!!!」
「最初は熱い心の持ち主かと思いましたが、突拍子の無いお方なのですね。では、かぐやの出す問いにお答え下さいませ。」
「問い…?クイズでしょうか…?」
「いえ、この国のどこかに存在するとされる『仏の御石の鉢』をここに持ってきて下さいまし。」
「し、しかしそれはあくまで伝説上のもの…!」
「ですが、かぐやは見たいのです…。例えとても強い風に吹かれたとしても火を絶やすことなく燃やし続けるかの鉢を…。でなければ婚姻は認められません。」
「……わ、分かりました…!その『仏の御石の鉢』、必ずやお持ちいたしましょう…!」
ヤエノムテキ皇子は難しい顔をしながら帰って行きました。
「おぉ…大丈夫だろうか…。」
「かなりの無理難題を出すつもりなのか?かぐや姫よ。」
かぐや姫の驚きの提案に、お爺さんとお婆さんは苦笑いをするしかありませんでした。 - 54読み手24/03/13(水) 18:14:01
次の日、2人目の貴族がかぐや姫の家にやってきました。
「こんにちはー!私、ロイスアンドロイス!きゃーっ☆かぐや姫ちゃんかわいーーーっ!」
「………。」
「………。」
「随分と元気な皇子だ…。」
「……コホン。なるほど、お姫様はノリが軽いと嫌がるのね…。ちゃんと覚えておかなくちゃ…。」
「…こんにちは。」
「あら、すみません。こんにちは。私、かぐや姫の求婚にやって来たロイスアンドロイスと申します。以後、お見知り置きを。」
「コイツもワタシのようなキャラ付けなのか…?俺の特権が…。」
「そうでは無いと思うがね…。」
「えーっと、その…ロイスさん。昨日、お手紙が送られたかと思われますが、あなた様にも私の問いに答えていただきます。」
「ええどうぞ。どのようなものかしら。」
「ロイスさんにはかの有名な『蓬莱の玉の枝』を持ってきて欲しいのです…。」
「根が銀、茎が金、実が真珠の木の枝のことね。分かったわ、結婚のためだもの。頑張るしか無いわね。」
「かなり飲み込むのが早いね!」
「ええ!なんと言っても、このお姫様と結婚したらとーっても有名になれるのは確実だもの!ロイスアンドロイス、手段は選ばないわ!」
「嫌な予感…。」 - 55読み手24/03/13(水) 18:18:00
そのまた次の日、3人目の貴族がかぐや姫の家にやってきました。
「やっほー。アタシ、ミスターシービー。あっ、裸足で上がっても良い?この方が楽でさ、ごめんね。」
「…気持ちの良いお方ですね…。」
「自由だね!とても良い!」
「へーっ、かぐや姫さん、噂以上に可愛いじゃん。アタシのモノになってよ。ダメ?」
「…突然のことでつい驚いてしまいました。申し訳ございません。事前に通達した事はお読みになられましたか?」
「んー?あぁ…なんかおねだりするけど大丈夫?的なこと書いてあったね。それで?何が欲しいの?」
「シービー様、あなた様には『火鼠の裘(かわごろも)』をお願いしたく思います。」
「それってどんなやつ?」
「燃やしても燃え尽きる事は無いとされる、不思議な衣服だ。」
「うーん難しくて分かんないや。まぁ…とりあえずプレゼント持ってくればいいんでしょ?じゃ。楽しみにしといてねかぐや姫さん。」
ミスターシービー皇子はかぐや姫の耳横でそう呟くと手を振って帰って行きました。 - 56読み手24/03/13(水) 18:19:01
そしてまた次の日、4人目の貴族がかぐや姫の家にやってきました。
「ご機嫌よう、かぐや姫様。私ヴィルシーナと申しますわ。」
ヴィルシーナ皇子はかぐや姫とお爺さんお婆さんに顔を合わせるなり、三つ指をついて挨拶をしました。
「御丁寧にありがとうございます。」
「…さて、早速本題なのですけれど…この便りに書いてあった『問い』とは何でしょうか?」
「それは、かぐやの望む物をここへ持って来ることです。」
「なるほど。では、その物とは?」
「ヴィルシーナ様には『龍の首の珠』を望みます。」
「りゅ、龍でございますか?」
「はい…竜巻の象徴ともされる生き物の一部…。是非ともお目にかかりたいのです。」
「な、なるほど…かなり難しそうですが、頑張りたいと思います…!いずれ女王…いや、姫様を勝ち取るのは私であると、そう覚えておいて下さいませ。」
ヴィルシーナ皇子は少し汗をかきつつも、凛とした表情で家を後にした。 - 57読み手24/03/13(水) 18:21:11
またまた次の日、最後である5人目の貴族がかぐや姫の家にやってきました。
「ご機嫌よう!私、ファインモーションって言うの!異国の地、アイルランドからはるばるお姫様の噂を聞いて結婚の約束してもらう為に来ちゃったんだ〜!」
「…どちらかと言うとお姫様の雰囲気を纏っているように俺は見えたが…気のせいか?」
「言葉は軽いように感じさせますが、他の方とも違うどこか本当に貴族らしい煌びやかさを感じます…。ファイン様、よろしくお願い致します。早速ですが、かぐやが望む物をお持ちいただけますでしょうか?」
「何?ラーメンとかかなぁ?」
「えっと…ファイン様には『燕の産んだ子安貝』を持ってきてほしいのです。燕が卵の代わりに産むとされるそれはそれは綺麗な貝殻と聞いております。」
「へーっ!そう言うのがあるんだね!任せて!御付きのみんなにも協力してもらうから!じゃあねー!」
「協力…なるほど!数人で頑張るつもりのようだね!」
「おや…?黒い衣の方がファイン様の後を…。」
ファインモーション皇子は謎の黒服たちと共ににこやかに帰って行きました。 - 58読み手24/03/13(水) 18:24:59
やがて、貴族5人との約束の日になりました。
ヤエノムテキ皇子は大きな鉢を持って帰って来ました。
「どうです姫!ご覧の通り、これがかの有名な『仏の御石の鉢』でございます!」
「では、鉢の中で炎を灯しまして、かぐやが全力で息を吹きかけましょう。本物であれば消えずに燃え続けるはずです。」
「え、ええ!是非是非…!」
「さぁ、かぐや姫が息を吹きかけるぞ。」
鉢に火を着けると、かぐや姫はその火に向かってフーッと軽く、それでいて強く、息を吹きかけました。
すると火はフッと消えてしまったのでした。
「…本物では、ありませんね?」
「………!すっ、すみませぬ!!!そのような伝説上のもの…一度は血眼になり探しましたが、やはり見つからず…!苦悩の果て、実家の道場に置いてあった鉢を持ってきてしまいました…!」
「…お婆様。」
「ハーッハッハ!心中察するところあれど、嘘つきを彼女の夫にすることは出来ぬ!おお…!これを蹴り壊したいという気持ちは止められん!」
かぐや姫が促すと、お婆さんが鉢を思い切り蹴り飛ばし、木っ端微塵に砕いてしまいました。
意気消沈したヤエノムテキ皇子はとぼとぼと帰って行きました。 - 59読み手24/03/13(水) 18:29:27
ロイスアンドロイス皇子は煌びやかな木の枝を持って帰って来ました。
「どうかしら!間違い無く、これが本物の『蓬莱の玉の枝』よ!」
「…根が銀、茎が金、実が真珠…!間違いない!確かにこれは、本物の蓬莱の玉の枝だ!」
「なんと…。」
「さぁ!挙式の準備をするわよお姫様!これで私にも大量のファンが出来るわ…!」
「…本当に本物を持ってこられたのであれば、仕方ありません…。甘んじて婚姻を…。」
「ちょう待てやー!」
「ちょっと待ったー!」
すると、かぐや姫の家に2人の職人らしき人物が鬼の形相で駆け込んで来ました。
「邪魔すんでぇ!」
「邪魔するんなら帰って〜。」
「あいよー…ってアホ!そんな事しとる場合ちゃうやろスカイ!」
「あ、そうでしたね。」
「ロイス!あんた、折角こない綺麗な枝ウチらに作らせといて給料未払いとはどないな根性しとんねん!」
「セイちゃんも、おこになりますよ。先輩と頑張って作ったのになぁ〜…。」
「そ、それは言わない約束だったでしょう…!どうしてこんな時に…!」
「知らんわ!兎に角、耳揃えて払ってもらうまで、今日は返さへんで!」
「お金の恨みじゃ〜恨みなのじゃ〜!」
「や、やめて…!やめなさーい…!!!」
ロイスアンドロイス皇子は職人たちに追いかけられて逃げて行ってしまいました。
「危うく、そのまま騙されて結婚してしまうところでした…。」
かぐや姫は、ホッと胸を撫で下ろしました。 - 60読み手24/03/13(水) 18:32:23
ミスターシービー皇子が帰ってくる事はありませんでした。
「伝え聞いた話によると、特に何かを探す様子も無く毎日毎日ただただ走っているのが目撃されているのだとか…。」
「…本当に自由だな。結婚を急くことも、そもそもかぐや姫を追うことも無いのは最初からかぐや姫にはさほど興味が無さそうだったから分かってはいたが。」
「本当に、気まぐれな皇子だね!」
その頃、ミスターシービー皇子は求婚などとうに忘れ、友人とキャンプに出かけていました。
「ね!ね!なんかこのさっきこの辺で拾った布、燃やしても燃え尽きないんだけど、燃料無くならなくて便利だねエース!」
「いや普通に考えておかしいだろうが!」
ミスターシービー皇子が帰ってくる事は、やはりそのまま無いのでした。 - 61読み手24/03/13(水) 18:34:22
ヴィルシーナ皇子は何も持たず、沈みながらも帰って来ました。
「申し訳ございません、かぐや姫様…。私、『龍の首の珠』は見つけられませんでした…。」
ヴィルシーナ皇子は3人に対し、素直にそう告白しました。
どうやら龍を探す為にも長らく船旅に出ていた様子で、身体の節々が傷だらけで憔悴しきった様子でした。
「分かりました。しかし…ご苦労様、と言わせて下さい。」
「本当に持ってくるのか楽しみだったけどね!」
「あ、そうだ。一応持って来たものがあるのですけれど、お近づきの印も兼ねて皆さんに差し上げてもよろしいでしょうか…?」
そう言うとヴィルシーナ皇子は珍妙な龍の絵が描かれた衣服を取り出しました。
「龍と言えば、妹2人がたまに着てたこの服しか思い浮かばなくて…。一応持って来たんです…すみません。」
「恥じる事はありません。竜巻のような荒々しさを感じる良い服だと、かぐやは感じますよ。」
「この服に描かれたイラスト、気に入った。名付けるなら、福永ジャージとしよう…。」
ヴィルシーナ皇子は少しだけ晴れやかな気持ちで帰って行ったのでした。 - 62読み手24/03/13(水) 18:35:34
ファインモーション皇子が帰ってくる事はありませんでした。
しかし、ミスターシービー皇子とは違い、しばらくしてファインモーション皇子から直接お手紙が来ました。
『かぐや姫さんご機嫌よう!ファインモーションだよ。約束の日だったのに来れなくてごめんね!お姫様が欲しがってた『燕の産んだ子安貝』を見つける為に、私の御付きのみんなと手分けして燕さんの巣を覗き込んだりして探してみたんだけど…
「お嬢様!危ないですよ!ハシゴにお1人で登られては…!」
「へーきへーき!私だって年頃の…って、キャッ!」
「お嬢様!!!」
って感じで、アハハ。無理したら足滑らせて落ちちゃって…。御付きのみんながなんとかキャッチしてくれて私は無事だったんだけど、お父様がその事知っちゃってね。あんまり無理するな、帰って来なさいって釘刺されちゃったや。だから今はアイルランドに帰国中!あーあ、でもかぐや姫ちゃんと結婚したかったなぁ。私はしばらく公務が忙しいだろうけど、いつかまた日本に来る事があったらまた会おうね!』
「………お手紙をしたためるとしましょうか。」
ファインモーション皇子は帰ってくる事は叶いませんでしたが、その後はかぐや姫との文通をしばらく楽しまれたのでした。 - 63読み手24/03/13(水) 18:37:45
5人への無理難題も終わり、喧騒の日々もひと段落ついた頃、いつしかかぐや姫の美貌は帝にも伝わっていました。
帝は先日の5人のように、かぐや姫に求婚を迫りにやって来ました。
お爺さんとお婆さんは帝の求婚に大喜びでしたが、最初から誰とも結婚はしたくなかったかぐや姫は帝と布越しで対面する事に決めたのでした。
「アタシは帝。おやおや、お姫様は影だけかい?」
「このような格好での対面に関しては申し訳ございません帝様。しかし、かぐやは殿方との結婚はしたくありません…。」
「そりゃ何でだい?アタシ、帝をしてるけどこう見えて料理や家事が得意でね!結婚したらアタシが全部やってあげるから、お姫様は何もしなくて良いよ!」
「……いえ、結構です。良い匂いがする、南米っぽい帝様。」
求婚を断られた帝でしたがやはり諦めきれず、その姿を一目見ようと思い立ち、アポ無しでかぐや姫の家へやって来ました。 - 64読み手24/03/13(水) 18:38:58
帝が人目を避けつつかぐや姫の元へ向かうと、かぐや姫は縁側で1人、物思いに耽っていました。
その姿を見た帝は、あまりの美しさに見惚れる他ありません。
帝が見惚れているとかぐや姫が帝の来訪に気付き、帝を見るなりサッと逃げ出してしまいました。
「あ!ちょっと…!ね、ねぇ!顔を見て、ますます気に入ったんだ!アタシの妃に…!」
帝が強引にもかぐや姫の服を掴むと、服だけを残してかぐや姫の姿は冷風と共にたちまちにして消えてしまったのでした。
『強引な人は嫌いです…。』
辺りからそう言うかぐや姫の声が聞こえましたが、姿形は相変わらず見えません。
「アンタまさか…人じゃ無いのかい…?」
『…………。』
「あ、えっと…コホン。」
帝は驚きつつも襟を正すと、そのまま続けました。
「…言わないよ。誰にも。アタシら2人だけの秘密さ。」
『…!気味悪がらないのですか…?』
「んー…まぁ割と"出る"からねぇウチの宮殿。いや、まぁお姫様はお化けとかじゃ無さそうだけど。」
『はぁ…。』
「でもさ、やっぱり諦めきれないね。お姫様、こんなに綺麗なんだからさ。たとえ人じゃなくてもね。」
『帝様…。』
「えっと…じゃあ、文通のやり取りぐらいからなら大丈夫かい?そこから始めていくのは…。」
『…それなら構いません。よろしくお願い致します。』
かぐや姫がそう言うと、帝の周りを少し暖かな風が包んだのでした。 - 65読み手24/03/13(水) 18:41:02
最近になって、かぐや姫はふと空を見上げる事が多くなっていました。無意識なようで、周りが指摘をすると少し悲しげな顔をして改めます。
思えば、先日の帝の強引な求婚をなんとか退けた時も、かぐや姫は1人で縁側で物思いに耽っていて油断をしてしまっていました。
不思議に思ったお爺さんとお婆さんは名付け親でもあるお坊さんに心当たりがあるか聞くことにしました。 - 66読み手24/03/13(水) 18:43:28
お坊さんは深く考え込んだ後、こう言いました。
「言うのか迷ってたんだけど、やっぱりあの子は…帰りたがってるのかもねっ。」
「ほう…?帰りたがっているとは…竹林へか?」
「違うよーっ。ほら、今日も綺麗に見えるでしょ〜?」
お坊さんは夜を煌々と照らす月を指差しました。
「とても壮大な事を言うね!かぐやの故郷は、あの月だと言うのかい?」
「うんっ。だってね、あたしはお月様から来た人に、あの子の名前を『かぐや姫』にするよう言われたんだよっ。」
「驚いた…。月の住人に会ったと、貴様は言うのか…?」
「ボーノなお団子置いてお月見してたらね〜美味しそうだったから食べに来たらしいよっ。」
「随分と軽いノリだね!」 - 67読み手24/03/13(水) 18:46:20
お坊さんは月の民との交流をまるで昨日のことのようにそれはそれは鮮明に語り始めました。
「あたしがお月見をしながらお団子を食べてたらね〜、可愛いオオカミさんが横でこっそりお団子をつまみ食いしてたの。」
「あ〜っ!勝手に食べちゃダメだよ〜!それはお月様で頑張ってる人たちの物なんだから〜!」
「モガモガ…そう言うお前も…モグモグ……お団子、食べてるのだ!というか、ゴクン……それなら、ウインディちゃんには食べる権利がちゃーんとあるのだっ!」
「え〜っ!?君、お月様で働いてるの?」
「うむ!ウインディちゃんはお月様でお祭りの企画提案をする重要な役職に就いているのだ。恐れ多いのだ!ひれ伏すのだ!」
「は、はは〜っ!ごめんなさ〜い!」
お坊さんが首を垂れるとオオカミは満足したようで、顔を上げるように言うとそのまま続けました。 - 68読み手24/03/13(水) 18:47:11
「この前、月のお姫様が病気で死んじゃったのだ…。そこで、新しいお姫様をお出迎えする為に、ウインディちゃんはお祭りをすることを提案したのだ。なんと言っても、新しいお姫様だからな!それはそれは盛大にお出迎えしてあげないといけないのだ!」
オオカミは団子をつまみながら続けます。
「ただ、今のお月様にお姫様の跡を継げるようなヤツは居ないのだ…。みーんな、お姫様とは違うカタチだからな…。」
「違うって?」
「お姫様はお前たちみたいな"ヒト"のカタチをしているのだ!オオカミのウインディちゃんも、働いてるウサギもカニも、お姫様とはほど遠いカタチなのだ。じゃあどうするのだと困ってたら、なんとお姫様の生まれ変わりがこの地球で産まれたらしいのだ!」 - 69読み手24/03/13(水) 18:47:53
「お姫様は生まれ変わって新しいお姫様になるルールらしいのだ!お姫様はずーっとお姫様だったから、ウインディちゃん含めてほとんどみんな知らなかったのだ…。ただ、学者は知ってたらしいのだ。学者は、お月様で1番頭が良いヤツなのだ。地球でお姫様の生まれ変わりが出たのを見つけたのも学者だったのだ。」
オオカミはお坊さんが出してくれたお茶をお礼を言いながら一口飲んで、そのまま続けました。
「病死だったから『ざひょー』?ってヤツがズレたのかもしれないって、学者が言ってたのだ。そこで、ウインディちゃんが今日来たのだ。学者から、お姫様の生まれ変わりを見つけて月に連れて帰るよう言われたのだ!」 - 70読み手24/03/13(水) 18:49:05
「でも、まだ見つからないのだ…。光る竹の中で寝てるだろうって学者は言ってたのだけど…。」
「光る竹?じゃああの子かなぁ…。」
「心当たりあるのだ!?」
「うん!近くのお爺さんとお婆さんがあたしにご挨拶した時に連れて来てたの〜!」
「も、もうヒトの手に渡っているのだ…?」
「元気に育ってるよ〜様子だけでも見て来たら良いんじゃないかなぁ〜。」
お坊さんとオオカミが生まれ変わりの少女の様子を見に行ってみると、少女はお爺さんお婆さんと楽しく遊んでいました。
「おお可愛い我が娘よ…!貴様はあの空高く浮かぶ月よりも美しく、輝いて見えるなぁ!あーっはっはっは!(柵を壊す音)」
「(♪ヴァイオリンの演奏)」
「アハハ!おじーさま、おばーさま!」
「…あれ、楽しめてるのだ?」
「楽しそーだし大丈夫だと思うよ!」 - 71読み手24/03/13(水) 18:50:15
「まぁ…楽しくやってるようならそれで良いのだ…。でも、お姫様が大人になったら、ウインディちゃんはまた来るのだ。いつまでもお姫様の居ない月はダメだからな!」
「あ、帰る前に一つだけ聞いても良いかなぁ?」
「何なのだ?」
「あの子、名前とかもう決まってるの?この前ご挨拶に来た時名前決めに2人が困ってたからねっ。もうお月様で決まってるならその名前にしたら良いんじゃないかなぁ?」
「えーっと、"輝"くに"夜"って書いて、『輝夜(かぐや)』様って名前になる予定なのだ!これで満足か?」
「うんっ!色々とお話しありがと〜。」
「って事があったんだぁ。」
「なかなか興味深い話だった…。」
「摩訶不思議なお話しだったが…お坊さんが嘘をつく意味も無いからね…!信じられない!」
お爺さんとお婆さんはあまり信じられない話を耳にし、少し放心した様子でした。 - 72読み手24/03/13(水) 18:53:58
2人が放心していると、いつの間にか後ろでかぐや姫が立っていました。
悲しい顔をしながら近寄って来ます。
「…お坊様から全て聞かれましたか?申し訳ございませんでした、お爺様お婆様…。そうです。かぐやは地球の人間ではありません…。かぐやは…風の無いあの…月の姫なのです。」
かぐや姫の周りを、冷たいよそ風が通りました。
まるでかぐや姫の感情と呼応するかのように。 - 73読み手24/03/13(水) 18:59:27
「かぐやは、明日で大人になるそうです。伝えるように吹いた風と、私には痛いほど輝いて見えるあの満月の前夜の月の光が伝えてくれました…。」
「かぐや姫よ、やはりそのことは…嘘偽り無いようだな…。運命は…猶予を与えてはくれないのか…?」
「突然別れを告げられるとは…。まだ上手くは飲み込めていないが、その様子だとかぐや…。君は月の人たちと帰ってしまうんだね…。」
「………はい、お爺様。明日、かぐやは月へ渡ります。月からの使者たちがいきなり私を迎えに来るそうです。ですが…、ですが……。」
かぐや姫の目から涙が滴り落ちました。
「お2人と…別れたくない…!例え故郷と言われても、頭では帰る場所であるとそう分かっていても…身体が帰りたがるのを拒絶するのです…。家族との別れを、他人に決められたくは無いのです……。」 - 74読み手24/03/13(水) 19:04:08
「悲しまないでくれかぐや、顔を上げておくれよ。まだ離れ離れになってしまったワケではないじゃないか…!」
「お爺さんの言う通りだ。明日、月からの使者が来るまでの間は思う存分、家族として過ごそう…。何が食べたい?早速準備をしよう。」
お爺さんとお婆さんはかぐや姫の涙を拭うと、娘との最後の時間を過ごす準備をしてくれました。 - 75読み手24/03/13(水) 19:08:19
「一度、お爺様とバイオリンのデュオをしてみたかったのです。持ち方はこれでよろしかったでしょうか?」
「初めてにしては良い筋だね!しかし、バイオリンはもう少し下の位置で頼むよ。束の間の休息だ!思う存分楽しもう!」
慣れない手つきでバイオリンを弾くかぐや姫をお爺さんが丁寧にアシストします。
楽しげで、それでいてどこか寂しげな二つの音色が晴れ渡った日の朝を包みました。
「成人おめでとう、かぐや姫よ。その見た目であれば、カクテルも飲める頃合いだろう。初めてだからな、ワタシが選んでやろう。」
「ありがとうございますお婆様。フフッ…良い匂いがもう既に…。」
「ドライシェリーにシュガーシロップ、そして卵黄を…。」
お婆さんが慣れた手つきでシェイカーを振ります。
かぐや姫はただただ見惚れているのでした。
「出来たぞ。俺特製のシェリー・フリップだ。味わって飲むがいい…。」
「…美味しいです…!もっと早く、召し上がりたかった…。」
「嬉しい事を言う最高のお客様だ…。」 - 76読み手24/03/13(水) 19:09:00
いよいよ満月の夜を迎えました。
かぐや姫が別れの場所に選んだのは、もちろん3人で住んでいた家族の家です。
家の辺りにはかぐや姫を見送るかのように、冷たい風が滞留していました。
「うぅ…今日は冷えるな…。」
「おい引き締めろ!帝からの命であるぞ!」
また、話を聞きつけた帝が家の周りを兵で囲うよう指示したようで、涼風に震える兵士たちの姿も家の中から見えました。 - 77読み手24/03/13(水) 19:13:25
「いよいよ、お別れの時間だね。楽しい生活だったよかぐや。では良い旅を…。」
「楽しい時の終わりは目前だ。勿論、お別れもな。」
「……かぐや、行ってまいります…!」
3人が庭に出てみると、満月からまるで雫のように誰かが落ちて来たのが見えました。
空から落ちて来た黄色いウサギは、フワリと宙を浮遊すると、3人の前に着地しました。
「…ちょっとズレちゃった。目的地に着陸したよ。目の前には3人居る。かぐや姫と、お爺さんとお婆さん。こんにちは。わたしはネオユニヴァース。かぐや姫、帰る時間だよ。」
「分かりました…。」 - 78読み手24/03/13(水) 19:18:41
かぐや姫は月の使者の元へ歩み始めた。
「対話は成功したよ。任せて、1人でも大丈夫。脳内シミュレーションは今のところ完璧。かぐや姫も協力的だよ。」
「流石は宇宙人だな。今のところワタシはあのウサギの言葉は理解出来ない。」 - 79読み手24/03/13(水) 19:21:20
パン!
「きゃっ…!」
かぐや姫が一歩一歩、力強く月の使者の元へ向かっていると、突如として発砲音が聞こえました。
帝の兵士の1人が、月の使者に向かって発砲したようです。
「……敵対はしたくない。ネオユニヴァースは敵対をしたくない。反撃するのはミッションの失敗を意味する。」
「効いてませんよ…!何ですかあの生き物…。というか、生き物なんですか…!?」
「構いません!帝様の命です!くれぐれも姫様には注意し、対象へ一斉射!」
そのまま帝の兵士による狙撃は続けられましたが、月の使者に当たっている様子はありません。
狙撃を受け続けている月の使者は、少し焦った様子で言葉を紡ぎます。
「やめて… やめて…。シンコウウインディが来る…。」
月の使者がそう呟くと、満月から何かが走って来たと思えば、兵士たちに向かって飛びかかりました。
「ガオーッ!ウサギを虐めるのはやめるのだーっ!」
「オオカミが襲撃してきました!退避!退避しなさい…!」
「わわわっ!痛いべ痛いべ!」
兵士たちを襲ったオオカミは、あの時にお坊さんの話に出て来たあのオオカミでした。オオカミは抵抗する兵士たちに向かって噛みつきを大喜びで行いました。 - 80読み手24/03/13(水) 19:27:49
「噛まれたぐらいで何ですか…!動ける者はあのオオカミの対応を!」
「がおーっ!!!」
「……話の腰が折れちゃったね。ごめんなさい。シンコウウインディはわたしの言う事を聞かないんだ。誤差は嫌だな…。今更加減は難しいかもしれないけど、噛みつくのは甘めの設定でお願いするよ。
家の外の喧騒に呆れているのか、月の使者も少し困った様子でした。
「覚悟は出来た?もう一度確認するね。この前連絡した通り、この服を着てもらうよ。でも、これを着ると記憶は無くなる。ネオユニヴァースもその事は容認出来ないけど、それが今日の仕事。命令違反はクビだから、仕方が無い。」
「………。」 - 81読み手24/03/13(水) 20:08:18
「使者さん。少し時間をいただいてもよろしいでしょうか。」
「いいよ。休憩は大切。お爺さんとお婆さんも心配している。ちゃんと伝えてきてあげて。」
「温情、感謝致します。」
かぐや姫はお爺さんとお婆さんの元へ振り返ると、目に涙を浮かべながら語りかけた。
「お爺様お婆様。かぐやはこの地を去る際にあの衣服を纏い、風のように迅速に月へ向かいます。ですが…あの衣服を着ては最後、お二人と過ごした時間、いや…この地の記憶そのものが全て無くなってしまうのです…。」
「本当かい…!?」
「だからかぐや姫はやりたい事をしていたのか。あれはなんと、バラの花のように残酷な衣服だ。」 - 82読み手24/03/13(水) 20:18:55
「………かぐやは、あれを着たくはありません。お二人の記憶が無くなってしまうのは…。」
「確かにそれは悲しいが…しかしそれでは、月の人々が…。」
別れを惜しみ、泣きじゃくるかぐや姫でしたが、その時、お婆さんが口を開きました。
「…かぐや姫よ、運命は受け止めなければならない。」
「…!」
「竹林でお前がワタシたちの前に現れたのも、こうして別れるのも全ては運命である。俺はもう、ここに立った時点で受け入れた。記憶が無くなることも驚いたが、そう言うことならば仕方が無いと受け入れた。お爺さんを見てみろ。俺と同じで運命を受け入れた顔だ。」
「お婆さん…。」
「だが、お前は何だ小娘…!その涙を、自分で拭ってみせろ。大人になったんだ。1人になる時なんだ。だが、孤独では無い。記憶は無くなるかもしれないが、俺たちが育てたその肉体と心は忘れないだろうよ。だから、泣くな。前を向け、愛しき娘よ。」
「お婆様…!」
かぐや姫は涙を自らの手で拭い、月の使者の方へもう一度向きました。 - 83読み手24/03/13(水) 20:24:17
「気持ちの整理は大丈夫?」
「はい…!かぐやも運命を受け入れます…!」
「…いい顔。じゃあ、さようなら…。」
月の使者が月での正装をかぐや姫に着せました。
「………さようなら!2人とも…!」
着る直前、かぐや姫は再度お爺さんとお婆さんの方へ振り返り、笑顔で別れを告げました。
「………ご機嫌よう、そこのご夫婦さん。ワタシは輝夜と申します。」
「…………かぐや…。」
「……さようなら…。」
記憶が無くなったかぐや姫を見て、お爺さんとお婆さんは、堪えていた涙をただ流す他ありませんでした。
「使者さん、何故お二人は泣かれているのでしょうか?」
「一緒。」
「はい?」
「かぐや姫もお爺さんとお婆さんと同じことになっている。」
月の使者が言うように、かぐや姫も涙を流していたのでした。
「あら…?これは……?」
「肉体と心は忘れていない。記憶が無くなっても。それはまさしく愛だね。」 - 84読み手24/03/13(水) 20:27:42
かぐや姫は使者とオオカミを連れて、月へ帰って行きました。
しきりに地球を見つめては涙を流していましたが、本人にも理由は分かりませんでした。
「さようなら…優しい2人…。」
そう1人でに呟くとまた、疑問を残しながらも涙が止まりませんでした。
お婆さんはギムレットを二つのグラスに注ぐと、1人でグラスを叩き合わせ、乾杯をしました。
それを一気に飲み干し、空に向かって呟きました。
「………ギムレットには、早すぎる。」
お爺さんはすでに旅立った娘の方を見やりつつ、バイオリンを手にしました。
「とても濃密な生活だったよかぐや!心を込めて、愛しい娘の門出にこの曲を送ろう…。」
(♪〜『月の光』 ドビュッシー) - 85読み手24/03/13(水) 20:29:15
……しばらくして。
- 86読み手24/03/13(水) 20:37:28
- 87読み手24/03/13(水) 20:41:28
- 88読み手24/03/13(水) 20:46:32
- 89二次元好きの匿名さん24/03/13(水) 20:50:25
- 90読み手24/03/13(水) 20:50:37
- 91読み手24/03/13(水) 21:23:09
- 92読み手24/03/13(水) 21:26:30
- 93読み手24/03/13(水) 21:31:37
- 94読み手24/03/13(水) 21:40:25
- 95読み手24/03/13(水) 21:46:57
- 96読み手24/03/13(水) 21:54:15
- 97読み手24/03/13(水) 22:09:33
「………。」
「セレーネ?」
「あぁ、ユニヴァースさん。申し訳ございません。少しボーッとしてしまっていて…。」
「そろそろ"リフトオフ"。セレーネの初ミッション。MTR、みんなの前で『お披露目』の用意。準備は、万端だよ。」
「では、行きましょうか。」
「ふふっ、次はセレーネが『わたし』の"リレー"?」
かぐや姫が月の使者について行っていると、髪をフワッと撫でるように風が吹いたような気がしました。
「風………?」
「…?セレーネ、静止?」
「今…風が……。」
「…ここはMOON。"ウインド"は『存在する』をしていないよ。」
「……………そうですよね!申し訳ございませんでした。」
「……でも、」
月の使者が微笑みながら続けました。
「"リレー"の想いが、『流れる』をしたのかも。」
「フフッ…相変わらず難しい言葉を使いますね。」
かぐや姫がそう微笑み返すと、いつしか民衆の歓声が聞こえてきたのでした。
「………かぐや姫、烈風となりましょう。」
おしまい - 98二次元好きの匿名さん24/03/13(水) 22:14:50
ブラボー……ブラボー……!
- 99読み手24/03/13(水) 22:15:36
ついつい筆が乗ってしまいました。蛇足だったかもしれませんが、これで本当におしまいです。
改めまして、本当にありがとうございました。 - 100二次元好きの匿名さん24/03/13(水) 22:17:10
笑えるのもしっとりするのもどっちもよかった
翻訳版も後日談もありがとう - 101二次元好きの匿名さん24/03/13(水) 22:24:02
ちゃんと各キャラの声で脳内再生されてもほぼ違和感が無いのが凄いわ
本当にお疲れ様でした - 102二次元好きの匿名さん24/03/13(水) 22:55:45
いや超大作だったな
とんでもない作り手殺しな演者ラインナップ