ナグサ「夏の日のことでした。」

  • 1二次元好きの匿名さん24/03/13(水) 23:40:56

    2年ほど前の夏の日のことでした。
    太陽の光が刺すように私たちを照らしていたのをよく覚えています。
    私とアヤメは、その年、百鬼夜行連合学院に入学し、百花繚乱紛争調停委員会に入ったばかりでした。
    新人がやらされる仕事なんて街中のくだらない諍いの鎮圧や仲裁でしたが、アヤメと一緒に活動していることが当時の私のアイデンティティでしたから、特に苦には思っていませんでした。
    そんな時です。"その日"が来たのは。

  • 2二次元好きの匿名さん24/03/13(水) 23:41:57

    その日の仕事は廃神社に巣食った不良たちの追い出し。廃墟を不良が溜まり場代わりにするのはよくあることです。廃墟の劣化した設備が崩れてケガをしてしまう危険性があるので、度々百花繚乱に不良たちを立ち退きさせて欲しい旨の依頼は来ます。
    私とアヤメも似たような仕事は何回もこなしていたので、特に疑問を持たずに先輩から回ってきたその仕事を引き受けました。
    思えば、そこで詳細を見ずに引き受けてしまったのが間違いだったのだと思います。
    溜まり場が廃神社になっていたこと。これは明確に今までの依頼と違いました。
    今までは居住者のいなくなった民家や、都市開発で廃れてしまった一昔前のショッピングモールなどが溜まり場になっていました。
    そんな中、廃神社です。珍しい。調べても特に神社の詳細は出てきませんでした。きっと何十年も前に廃社になってしまった社だったのでしょう。

  • 3二次元好きの匿名さん24/03/13(水) 23:44:05

    怪談スレかな?

  • 4二次元好きの匿名さん24/03/13(水) 23:45:17

    「問題ないよ!行こう行こう!」

    あっけらかんと言い放つアヤメの明るい声をよく覚えています。彼女がそう言うと確かに問題ないと思えてきて…。早速私とアヤメはその神社に向かいました。

    結論から申し上げますと、仕事自体はつつがなく終了いたしました。居着いていた不良たち100人近くを私とアヤメで制圧して、巡回していた勾留担当の先輩方に引き継ぎました。

    「意外と早く終わったね。せっかくだしこの神社探検しない?」

    好奇心だったのでしょう。存外、早く制圧が終了しましたのでアヤメからそんな提案を受けました。私ですか?もちろん行きたくはありません。怖いですから。でもアヤメと一緒にいれば大丈夫、そう思っていたのもあって最終的には折れました。
    …折れて、しまいました。

  • 5二次元好きの匿名さん24/03/13(水) 23:49:35

    境内は荒れ放題でした。管理されていないのですから当然のことです。至る所に雑草が生え、カビや苔、埃が建物の部材に堆積し、木製の鳥居の根元はシロアリに食べられ今にも崩れそうでした。

    うるさい蝉の声を全身に浴びながらアヤメはずんずんと進んでいきます。私はといえばどんどんと心細くなっていきました。

    「もう帰ろうよ」

    その一言がアヤメに言えなくて、途中からは泣きそうになりながらアヤメについていきました。

    本社らしきものを見つけ、近くに2人で寄ってみます。御神体が置かれているであろう社の戸は半開きになっていました。まるで私達を誘っているように。吸い込まれるようにアヤメが歩を踏み出します。これ以上はいけない。直感的にそう思いました。

  • 6二次元好きの匿名さん24/03/13(水) 23:54:16

    「アヤメ、帰ろうよ」

    ようやく出せた私の声は自分でも恥ずかしくなるほど震えていました。アヤメは私の方を振り返りニコッと笑うと

    「じゃあこれだけ見たら帰ろう」

    そう言って社の戸を開いたのです。

    中にあったのは鏡でした。装飾の一切ない。質素な汚れた鏡でした。私もアヤメも、なぜかその鏡から目が離せません。何か惹きつけるものがその鏡にあったのです。いつの間にか、蝉の声は止んでいました。

    しゃーん…

    後ろから金属が鳴る音がしました。
    ハッと我に返り、私もアヤメも後ろを振り向きます。
    後ろには人が立っていました。袈裟を着て、笠を目深に被り、錫杖を持った、修行僧のような人物が。

  • 7二次元好きの匿名さん24/03/14(木) 00:00:16

    動けませんでした。あまりに異様でしたから。泣きそうでした。全くの未知でしたから。

    しばらくの間沈黙と睨み合いが続きます。
    その修行僧のような人物はしばらく私たちと睨み合った後、踵を返してどこかへ去っていきました。
    しゃーん…しゃーん…と錫杖をつく音を鳴らしながら。

    私とアヤメは顔を見合わせ、走り出しました。よくわからない体験をした。でも普通ではない。不思議な感情でした。恐怖はあったのでしょう。でもそれ以上に、触れてはならないものに触れてしまった感覚が心臓にへばりついて離れませんでした。

    無事詰所に帰って、廃神社の詳細を聞こうと仕事を回してくれた先輩を探しました。しかし、その先輩は存在していなかったのです。

    狐に摘まれたような、狸に化かされたような、セピア色の感情が私たちを支配していました。

  • 8二次元好きの匿名さん24/03/14(木) 00:05:17

    その日の夜、夢を見ました。
    私が修行僧のような格好をして、錫杖をつきながら歩いている夢です。

    しゃーん…しゃーん…

    頭にモヤがかかったようにぼーっとしながら、私はどこかに向かって歩いています。

    しゃーん…しゃーん…

    錫杖の音を聞くたび、頭がクリアになっていく感覚がしました。

    しゃーん…しゃーん…

    私は、私とアヤメが生活している学生寮の近くを歩いていました。

    しゃーん…しゃーん…

    いえ、むしろその学生寮に向かっていました。

    しゃーん…しゃーん…

    学生寮、私達の部屋の前で歩けなくなりました。腕が勝手にドアノブに伸びます。そして手がドアノブを掴んだ時、扉を軸に視点が180度ゆっくりと回転していきました。

  • 9二次元好きの匿名さん24/03/14(木) 00:10:12

    私の視界には袈裟を着て、笠を被り、錫杖を持った、修行僧のような人物。間違いなく、あの廃神社で見た修行僧でした。
    そして、僧侶は笠をゆっくりと外し…大きく穴が空いた顔でこちらを覗き込んで……

    「はあっ……はぁっ……」

    そこで飛び起きました。周り真っ暗、まだ深夜だったのでしょう。あんな夢を見た後です。当然ですが玄関の前にあの化け物がいるんじゃないかと気が気じゃありません。

    ふと前を見ると、アヤメが立って私を見ていました。虚な目をして空っぽな表情をして、私をゆっくりと指差します

    「アヤメ?」

    「ナグサ、うしろ」

    ぞあっと、全身の毛が逆立つ感覚に見舞われました。急いで後ろを振り向こうとした時、

    しゃーん…。

    あの錫杖の音が聞こえました。
    全身の緊張した体から一気に力が抜け、私は意識を手放しました。

    気がつくと朝の8時、アヤメも隣で寝ていました。後でアヤメにあの夜のことを聞いても覚えてないの一点張り。
    アレはなんだったのでしょうか。今でもわかっていません。わかりたくも…ありません

  • 10二次元好きの匿名さん24/03/14(木) 00:11:13

    いやっ……普通に怖い!!!

  • 11二次元好きの匿名さん24/03/14(木) 00:13:23

    シュロの怪談家としてのプライドを本気でへし折りに行ってる…

  • 12二次元好きの匿名さん24/03/14(木) 00:17:19

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    「ど、どう?先生、ちゃんと怖いかな?」

    "うん、良い感じだと思う。これなら今度の怪談コンテストでも良い感じなんじゃないかな"

    「そ、そうかな。実際にあったことだから脚色とかはしてないけど、まぁこれでいいなら…」

    "それにしてもナグサが怪談話の賞レースに出るなんて意外だね"

    「う、うん。私としてもあんまり出たくなかったんだけど、ユカリが目を輝かせて頼んできたから、断れなくて…」
    「とにかく、今日はありがとう。先生もよかったら本番は聞きにきて」

    "うん、絶対行くね!"
    "………あぁ、そうそう"

    「どうしたの?」

    "寄ってきてるから、送っていくよ"

    「……え?」

    しゃーん…

    どこかで錫杖の音がした。

    (終) お目汚し失礼いたしました。

  • 13二次元好きの匿名さん24/03/14(木) 00:18:12

    先生!?

  • 14二次元好きの匿名さん24/03/14(木) 00:18:46

    寺生まれのT先生だったか…

  • 15二次元好きの匿名さん24/03/14(木) 00:19:18

    面白かった。実際怖い話すると寄ってくるとは言うよね…

  • 16二次元好きの匿名さん24/03/14(木) 00:30:24

    夜中に悪夢見て飛び起きる話を夜中の0時を跨いで投稿するのは結構センスが良いと思う。
    まあ怖い話投稿するなら内容関係なく夜だろとか言われちゃうとそれはそうなんだけど。

  • 17二次元好きの匿名さん24/03/14(木) 00:34:42

    途中で読むのをやめたらモヤモヤして眠れない
    最後まで読んだら怖すぎて眠れない

  • 18二次元好きの匿名さん24/03/14(木) 06:01:06

    ホラースレもっと増えろ

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