【あにまん】星辰に願いを【青空文庫】

  • 1二次元好きの匿名さん21/09/15(水) 16:08:22

    「星に願い事をする事を軽く考え出ないで。お願い事は実現するの、例えどんな願い事であっても」
                                             ──オノ・ヨーコ

     人々は皆何かしらの"願い"を持つ。この世界にいる人間の殆どはその"願い"を叶えるために様々な努力を、もしくは星々や神々に祈りを捧げたりすることで安易に"願い"が成就せやしないかと夢想する。だが、その"願い"がまかり間違って、本人の意に沿わない形で叶ってしまったらどうするのであろうか? "願い"が叶ってしまった後に訪れるであろう、空白と未知に溢れた残りの人生を如何にして歩むのやら──後はもう叶えたい"願い"が皆無であり、叶えた後の人生が既に無意味で無価値と化していると気づいた時、その者は如何なる状況に陥るのであろうか? ギルバートの様に狂死するのか?それともルシアの様に最愛の人物に殺されてしまうのか?またはアーヴィンの様な最期を遂げてしまうのか?──それとも今の私の様に──

     私がこの奇妙な偶像に出くわしたのは、ちょうどエジプトでの発掘調査を行っている時であった。かの有名なミスカトニック大学において考古学部の教鞭をとっていた私"クライド・ウィンウッド"は、学部の優秀な生徒と現地の人間及び両国間の政府から成る調査チームを結成し、かつて古代都市テーベがあったエジプトのアルアサシーフの墓地遺跡(ネクロポリス)にて、30個の木棺を発見した。棺は約3000年ほど前に司祭や子供達のために作られたものと見られ、棺の繊細な彫刻からこれらのミイラは、多くの尊敬を集めた人物か古代エジプトにおける重要人物かその血族であ
    ったと推測される。だが、それ以上に重要なのは棺の一つから私の知る限りでは、"エジプト神話の如何なる神格や生物に似ても似つかない奇妙な形象の彫刻"が同時に発見され、この代物は未だ知られていない歴史上における重要な古代遺物であることが大いに期待できた。

  • 2二次元好きの匿名さん21/09/15(水) 16:09:05

     現地の協力者であった考古学者イザビ・ハワードとエジプト考古省のカリード・アル・アニムは、これは「全くの偶然であり、これだけ多くの人間の棺が見つかったのは、19世紀末以来初めてだ。」とやや興奮気味に語り、ミスカトニック大学の名誉をかけた私達の現地調査は無事成功を収めた──だが、今思えばこれは世紀に残る最悪の失敗であり、この発掘によって見つかったあの"名状しがたい彫刻"は、我々を昏き陰府の地へと堕とした。"アレ"はこの世に解き放ってはならぬ物だったのだ・・・!!
     調査委員会や政府と協議した結果、発掘されたこの未知の彫刻は、念入りかつ徹底的に調査・研究する必要があるため、ミスカトニック大学にある私の研究室に丁重に運び込まれる事となった。エジプトから帰還後、私は調査の疲れなどどこ吹く風といった面持ちで、すぐさま少数精鋭から成る研究チームを立ち上げ、学内にある研究室で様々な調査を起こった。校内にある様々な精密機械や最先端の科学技術で一通り調べてみたが、この彫刻の正体が判明するどころか却って謎が深まるばかりであった。

  • 3二次元好きの匿名さん21/09/15(水) 16:09:27

     まず1つ目としてはこの彫刻の素材である。どうやら花崗岩(もしくはそれに酷似した石材)で構成されているようなのだが、エジプトを筆頭としたアフリカ大陸に"この石材と一致する物が存在しない"。2つ目はこの彫刻の頭部。一見すると不気味な笑みを浮かべたリスのようにも見えるのだが、私が知る限りアフリカに現生しているのは樹上性リスの「ナンベイマメリス」のみであり、その分布図もフランス領ギアナ、スリナム共和国、ブラジル中央部、ペルー北部、コロンビア南部に限られる。古代に絶滅したヴァルカニシュラス(Vulcanisciurus リスの古代種)の可能性も頭をよぎったが、どうにも違う。調査チームの一人から「もしや、コイツの頭部はビーバーでは?」というジョークを耳にした時は思わず和んだが、ナイル河にビーバーが生息していたなど見たことも聞いたことも無い──だが、仮に事実であればそれはそれで、歴史的大発見なのだが。
     3つ目はこの彫刻の衣装とポーズだ。古代エジプトの神々たるアヌビスやバステトを筆頭とした、エジプトの芸術作品や遺物に見られる漆喰を下地とした表現方法、鉱物性の粉末を元にした顔料や神々やファラオなどが纏う様な衣装・装飾具が一切施されていない。代わりに胸の中央にアルファベットで堂々と「A」の字が刻まれているが、これは恐らく「Ankh」(古代エジプト語で"生命"を意味)を暗示しており、この存在が生命的宗教的象徴と見做されていた何よりの証だろう。加えて、どうやらこの生物または神格は"両性具有"のようであり、ご丁寧に彫刻には男性器が完璧に再現されている──即ち、この存在は原始の世界において"男女"に性が別れる前の"完璧"な生命体であり、全体性回復への願望や性の超越と解放を表しているのは言うまでもない。

  • 4二次元好きの匿名さん21/09/15(水) 16:09:47

    またよく分からないものが始まってる…

  • 5二次元好きの匿名さん21/09/15(水) 16:10:08

     ある程度の仮説は思いついたのだが、チーム一同そこから先への進展が全く進まない。様々な議論と意見を戦わせていた研究員らも今や、その殆どが沈黙を保っている。やがて、痺れを切らしたように研究員チームの一人であり、私の助手を務める一人である"ギルバート・インブリー"が疲れ果てたように口を開いた。

    「一体何なんですかね? コレ?」 ミスカトニック大学における期待の新星である彼にもどうやら"コレ"が何なのかさっぱり分からず、お手上げ状態のようだ。

    呆れた様に同研究チームの"ルシア・ハーレット"がこう呟いた。「それが分からないからこうやって、チームを立ち上げて懸命に調査してるんでしょ? ギル。」

    「だが、一つだけハッキリしている事がある。"コイツ"の正体が判明すればそれは歴史に残る大発見になる。そうすれば俺達は一気に成功者だ。ですよね?教授?」 ギラついた笑みを浮かべながらドイツ生まれの彼、"アーヴィン・ライオヴァルト"は自信満々に述べた。

    「そうだな、アーヴィン君。それだけは確かに言える事だ。だが、この業界において成功だけを求めては、致命的な失態を犯すことになる。何故なら、私は過去に似たような教授や優秀な生徒を数えきれないほど見たのだから。」そう野心に満ちた彼を嗜めながら、私はメンバー全員に改めて訪ねた。「さて、そろそろ時間も大分過ぎた。最後にもう一度だけ君達3人の見解を聞いて、今日は調査を終えたい。何か意見はあるかね?」

  • 6二次元好きの匿名さん21/09/15(水) 16:11:34

    ミスカトニック大学への熱い風評被害

  • 7二次元好きの匿名さん21/09/15(水) 16:11:46

     するとアーヴィンが最初に口火を切った「ではまず俺から失礼します。まず自分が考えたのはこの彫刻自体が、アフリカ大陸由来の産物であると推測します。教授もご存知かと思われますが、この頭部はリスに酷似しており、リスの古代種・ヴァルカニシュラスはナミビア、ケニアにしか生息していません──恐らく紀元前1540年の新王国時代に、パレスチナやシリア地方の小国群の支配権を巡ってミタンニやヒッタイト、バビロニアなどの諸国と抗争を拡げた際、何れかの国から奪ったアフリカ古代先住民の崇拝した土着の精霊か祖霊の一種──自分はそのような考えが浮かびました。」

     なるほどと思いながら話を傾聴していると次にギルバートが意見を述べた。「アーヴィンの言う説も一理あり、ある程度同意しますが、敢えて僕はこれが、第2中間期頃に下エジプトのアヴァリスに拠点を置いていた第15王朝時のものであり、インド洋沿海諸国との交易によって流れ着いたものだと考えたいです。何故なら、下エジプト東端からパレスチナ方面には"ホルスの道"と呼ばれた交易路が地中海沿いに伸びていましたし、あの場所は当時において陸路の交易路の中心です。紅海沿いには中王国期以降エジプトの支配する港が存在し、上エジプトのナイル屈曲部から東へ砂漠の中を延びるルートによって結ばれていたし、この紅海の港を通じてヒンドゥー教の前身となった、バラモン教の忘れされられた土着神が流れ着いたと考えると個人的にロマンもあります。」

  • 8二次元好きの匿名さん21/09/15(水) 16:12:00

    「ホント困っちゃう。言いたいことの殆どを二人に言われてしまったわ。」苦笑いを浮かべながらルシアが口を開き、続けてこう述べた。「私も他の2名に殆ど同意します。けど、私個人としてはこの彫刻がエジプト最初の繁栄期である古王国時代の産物であると提唱したいです。あの頃には中央政権が安定し、強力な王権が成立していましたし、それを示すように紀元前2650年頃に第3王朝第2代の王であるジョセル王が建設した階段ピラミッドの存在もあります。これ自体は古代リビュア由来の物であり、当時のエジプトの西側を指す"マレ・リビュクム"(クレタ島とキュレネ、アレクサンドリアの間の地中海の海域の一部を指した)から交易か抗争を通じて掠奪したかと私は考えます。」

    「有難う。皆どれも素晴らしい意見だ。だが、私個人としては多少、いやかなり非現実的になるが以下の仮説を提唱したい。それは──」

                                               ──ネタが浮かびづらいので多分続かない

  • 9二次元好きの匿名さん21/09/15(水) 16:13:00

    続いてくれ
    ここまで読んで続きがないなんて酷いじゃないか
    気になってしょうがない

  • 10二次元好きの匿名さん21/09/15(水) 16:16:12

    ラブクラフトエミュが上手い人だ!

    5000兆円欲しいって言ってホントに5000兆円貰ったら困るよねって話をなんか思い出した

  • 11二次元好きの匿名さん21/09/15(水) 16:18:14

    その圧倒的教養でつくるのがなんであにまんまんとあねちんちんなんだよ!

  • 12>>121/09/15(水) 16:22:07

    取り敢えず頑張って書くつもりですが、仕事とか色々やばいのでそんな期待しないでください。


    あとラリった勢いで書いたほのぼの系SSがあるのでよかったら見てやってください(盛大なステマ)

    【あにまん】幸せ新婚生活【青空文庫】|あにまん掲示板サムネは何の関係もありません。これからほのぼの系のSSを一気に投下します。時間が許す方はお付き合いください。bbs.animanch.com
  • 13二次元好きの匿名さん21/09/15(水) 17:57:24

    >>8

    「これが宇宙から齎された産物あるという説だ。」私の発言に言うまでもなく他のメンバーは、皆一応に驚愕の表情を見せた。「君らはこの彫刻から放出されている微量の放射能に対する、強い違和感と疑問を抱かなかったか?この放射能の数値とデータは微弱しているとは言え"滞在中の宇宙飛行士の被爆線量"とほぼ一致する。それに君らはこの学校を通じて古代エジプト文明に触れたのであれば、ある種の強い違和感を覚えなかったか?──エジプト文明の建築様式や遺跡の配置には、シリウスの天体位置の角度が意識されて取り込まれているという事実に──この学説は我が校の奇才たる"ラバン・シュリュズベリイ博士"も提唱している説であり、今やこの仮説は我が校の教授達を中心に絶大な支持を浴びつつある。」                             

     

    「「「・・・・・・・・・・・・!!! 」」」生徒達は馬鹿にする訳でも否定する訳でもなく、皆一応にして緊張した面持ちで私の話を聞いていた。そして、意を決したようにギルバートが発言した。


    「やはり、"あの噂"は本当だったんですか・・・? 我が校の設立の真の目的が、対宇宙由来の存在に対する調査と対策だという"あの噂"は・・・・!?」彼は眼を見開き声を潜める様に話す。その表情には明確な緊張と不安──そして未知への強い期待感が溢れている。

  • 14二次元好きの匿名さん21/09/15(水) 17:57:40

    「・・・いつか話さなければならないとは思っていたが、これも丁度良い機会だ。実を言えばこの研究調査チームが、"異常なまでに数が少ない"のもそれが最大の理由だ。我が校の設立にはアメリカ合衆国の軍部が深く関与しており、その本部はバージニア州に置かれた"あのペンタゴン"にある。
     下らない三流以下のゴシップ雑誌や都市伝説、または低俗なバラエティなどを用いてワザと嘘と真実を混ぜて情報公開を行っているが、あの中には確かな真実が流れている場合もある。この研究チームに君達を推薦したのは当大学において大変優秀な成績を収めているだけでなく、ある程度の非現実性と荒唐無稽さを排除せず許容する柔軟さ、人間性と信頼性、そして何よりもその知性と閃きだ。今後君達がこの研究調査を終えた暁には、"ラバン・シュリュズベリイ博士"から直々の研修を受けてもらう──が、今ならまだ間に合うだろう。沈黙と秘密を保ったままこのチームを抜けて一生徒として平穏に暮らすか。それとも危険と不可思議に満ちた領域に足を踏み込むか──今すぐ結論を出してくれ。無論、チームを抜けたとしても誰も責めないし、以降は決して追及や関与はしないことを、神と我が教授生命にかけて約束する。」そう発言を終えると、3人は沈黙を保ったままだったが、アーヴィンはあのギラついた笑みで元気よく発言を行った。

  • 15二次元好きの匿名さん21/09/15(水) 17:58:27

    「ハハッ・・・・夢みたいだ・・・こんなチャンス、生涯に一度あるか無いかも分からない。クライド教授、ぜひ参加させてください!! 」

    「僕もお願いします、クライド教授!! ぜひ期待に応えて見せますよ!!」

    「・・・今日ほど人生で神様に感謝した事なんてないわ・・・教授!私もお願いします!!」

    「・・・それらの言葉に嘘偽りは無いな。最後の機会をあげよう。本当にチームから降りないのだな!?」

    「「「ハイ!!!」」」

    彼らの決意と希望に満ちた発言を耳して、私も心なしか肩の荷が下りたように感じた。私はまるで憑き物が落ちたような笑みを浮かべながら、改めたこう述べた。

    「・・・では、改めてようこそ。我がミスカトニック大学の極秘研究チームへ。そしておめでとう。君達のような優秀な人材と共に、未知の世界を探求できることを光栄に思う。」

    私は彼ら一人一人と固い握手を交わした後、新たな希望の門出を祝うために、校内の売店で購入したジンジャーエールをビール代わりに乾杯を行い、本日の研究は無事解散となった──だが、今思えば大変後悔している。何故なら、私は将来と夢と希望に満ちた若者らを無間地獄に導いてしまったのだから──

                                               ──ネタが浮かびづらいので多分続かない

  • 16二次元好きの匿名さん21/09/15(水) 18:00:08

    仕事がやばいとこういうことしたくなるのわかる

  • 17二次元好きの匿名さん21/09/15(水) 18:04:43

    題材に対して構成力が高すぎる
    本職も物書きなのかが気になる

  • 18二次元好きの匿名さん21/09/15(水) 19:41:39

    >>15

     大学での活動を終えた後、私は速やかに自宅へと帰還してシャワーを浴び、帰り道で購入した有名店のチリコンカンとナチョスで夕食を終えると、寝酒としてオールドバーズタウンの12年物を飲みながら、一人で彼ら3人の今後を祝っていた。

     心地酔いが回り瞼が重くなるの感じると、時計の針は既に0時を回ろうとしている──もう寝床に就かなければ。明日も相応に早い。私は寝覚まし時計を朝6時にセットすると、今までの疲れと真実を話せたという妙な安心感もあってか、あっという間に眠りへと落ち──そこで奇妙な夢を見た。

     私は底知れぬ闇黒の中にいた。私の周囲はおろかその天と地も一寸の光も差さぬ完璧な闇に覆われており、その暗さたるや星間宇宙の闇黒と同じほどかそれ以上であり、想像を絶する重苦しい空気と不気味な沈黙に包まれていた。するとそこにあの"得体の知れない彫刻そのものの姿をしたナニカ"が、私の眼前に何処からともなく現れた──異常なまでの漆黒の闇の中だというのに、何故か"コイツのはっきりした姿と色合い"だけは完璧に認識でき、それがかえって異様な恐怖と不気味さを煽り立てるのだ── 

     人生で初めて経験する動揺と戸惑いと困惑、そして常軌を逸した不安感に襲われた私に向って、あろうことか目の前の"コイツ"は、美しい女性の声と壊れた機械などから流れる不快なノイズを黄金比で混ぜたような声と名状しがたい発音で、私にハッキリとこう述べた──

  • 19二次元好きの匿名さん21/09/15(水) 19:42:00

    御大で支援

  • 20二次元好きの匿名さん21/09/15(水) 19:42:36

    このレスは削除されています

  • 21二次元好きの匿名さん21/09/15(水) 19:47:49

    ちんちん生やすんじゃねーのかよ最低だなあねちんちん

  • 22二次元好きの匿名さん21/09/15(水) 19:48:49

    『ヨ苦祈リ、囁キ、強詡念ziナ🈬。あナ🈕㋨願イヲ叶ェて啞geル』
     
     無理やり言語として発声しているようなその声は、何を言っているのかいまいちよく分からなかった──なのに"私の脳と精神、いや私の中に宿る根源的な魂は、その発せられた言葉の意味を嫌でもハッキリと理解してしまった・・・!"

    「ね、願いを叶える・・・だとぉ・・・!?」 一体"コイツ"は何を言っている・・・!? "神"でも無いというのにそんな御業や奇蹟が起こせるはずが──否、かような異形の存在がそのような行為を起こせるはずが無い。そんな事ができるとすればまさしく神への冒涜であり、さすれば"コイツ"はかの地に封じられていた忌むべき悪霊の一種に違いない。そう確信した瞬間、敬虔なるプロテスタントとしての怒りがこの身に沸き上がり、私は眼前の不遜なる悪霊に対し臆面もなく堂々と述べた。

    「去れ、悪霊よ!天にまします我らが父たる『Jehovah』の御名において、不浄なる闇黒の地へと還れ!!」 その瞬間、眼前の奴は──勢いよく目を見開き、地獄の業火の如き激しい怒りと憎悪を剝き出しにしながら血走った眼をでこちらを凝視すると、威厳に満ちた美しい女性の声でハッキリとこう述べた。

    『我が悪霊だと? 不敬な輩め。それに加え、よりにもよって忌まわしき"ヤツ"の名を出すとは・・・身の程を知れ!下郎!!』

    そう言い放つや否や、私の左腕は圧倒的な何かによって勢いよく拉げ、それと同時に得体の知れぬ力によって遥かへと突き飛ばされると──私は凄まじい悲鳴を上げながら、目を覚ました。

    「いっ、一体今の夢は何だ・・・・・!!?」 上半身を勢いよく起こした私の全身には、今までの人生で掻いたことも無いほどの大量の汗が流れており、心臓は異常なまでの早鐘を打つ。少しでも気を落ち着けるために起きて一杯の水を飲もうとした瞬間、ある違和感と異常に気付く──左腕が痛みも無く完璧に拉げている・・・!!。
     私は手負いの猿の如き雄叫びに近い悲鳴を上げながら、確信した──あの一連の出来事は決して夢では無い。そして、"ヤツ"は今も尚、この地球上の"何処か"に確実に存在し続けていると・・・。

                                                ──ネタが浮かびづらいので多分続かない

  • 23二次元好きの匿名さん21/09/15(水) 22:55:22

    >>22

     今までの人生において最悪の朝を迎えた私は、地元アーカムにある大病院に緊急搬送され、そのまま入院を受ける運びとなった。診察をした医師曰く「左腕全体の骨が折れているばかりか、完璧に砕けており、粉砕骨折の状態にある。この症状は最早、数回程度の治療ではつなぎ合わせる事が困難であり、金属のプレートを入れて骨を固定するだけでなく、手術とリハビリを何度も行う事になる。」との指摘を受け、私は"最低でも"数ヶ月ほどの入院を余儀なくされた。

     全く予期せぬ私の入院を聞きつけた、研究チームのメンバー達は皆一様に私の病室を訪ねて来てくれたが、その顔には言いようのない不安と恐怖が浮かべていた。最初は私の不可解な骨折の状態に関する心配をしているのかと思ったが、何やら違う。

    思い切って私が口火を切ると何と私を含む全員が、"全く同じような不可解な夢を見ていたのだ"──しかも、あろうことかギルバートに到っては不安、それを僅かに上回る「願いが本当に成就するのか?」という好奇心と期待に負けて、あの異形の存在に願い事をしてしまったそうだ。

  • 24二次元好きの匿名さん21/09/15(水) 22:55:43

    「一体、アンタは何を考えているのよ!? あんな得体の知れない存在に願い事をするなんて正気の沙汰じゃないわ!!」ルシアは病室内で大声を上げて怒鳴る。

    「少し落ち着けよ、ルシア。ここは研究室じゃなくて病院内だぞ?他の人の目もあるし、何より教授にご迷惑が掛かる。」 アーヴィンが軽く咎めるが、それでも彼女の性格からいって収まりそうにない。

    「私は全然落ちついているわ、アーヴ。ただ、どう考えてもギルの"しでかし"は洒落になっていないわよ!! 夢の中で出くわした"アイツ"は、教授の腕を何の躊躇いも無くグシャグシャに壊すような存在なのよ!?願いを叶えてくれたとしても、一体何
    をしでかすか分かったもんじゃないわ!?」

    「まぁまぁ。いい加減落ち着き給えルシア。私は大丈夫だ。腕はこんな状態だが、不思議な事に痛みを全く感じない。恐らく"ヤツ"はこれでも相当手加減をしたのだろう。」 なぜか私は本能的にそう確信する──やろうと思えば腕どころかこの全身を、車に引かれた蛙のようにする事もできたはずだ──だが何故か奴はそうしなかった。私が"ヤツ"に関する個人的な疑念と興味を浮かべていると──

    「・・・どうしても僕には叶えたい"願い"──難病にかかった最愛の母をどうしても治したかったんだ──。」遂にギルバートが重い口を開けた。

  • 25二次元好きの匿名さん21/09/15(水) 22:56:53

    「"クロイツフェルト・ヤコブ病"って知ってるかい?。脳に異常なプリオン蛋白が沈着し、脳神経細胞の機能が障害される一群の病気で、別名"プリオン病"とも呼ばれてる。今まで黙っていたけど母さんがこの病を発症したのは、教授たちがエジプトへと旅立つ4か月前の頃──僕が今回の調査旅行への同行を拒否した理由はまさにそれだったんだ──。今現在も、この病の原因と正確な治療は分かっていない・・・。だが一つだけ確実に言えるのは、このままいけば、母さんは発症から約2年以内に全身衰弱や肺炎などで亡くなってしまうという事だけさ・・・。」 私達はギルバートの悲痛な本音を聞き、ただ、黙ることしかできなかった。

    「・・・そうだったのか。しかし、アーヴィン君、何故私に一言でも相談をしてくれなかったのかね? そんなに私が頼りにならないと思ったのか?言ってくれれば学校側に相談して、何らかの対応と処遇してもらうよう少しでも働きかけたというのに。」

    「申し訳ありません教授。全くもって想定していない事態に直面──よりにもよって自分では無く、最愛の母がそのような不幸に見舞われるとは、正に夢にも思わなかったんです・・・。浪人生時代、多少医学に触れてこの難病を治す手立てが無いのは、自分でも分かりきっていましたし、あの時は混乱と絶望と不安の余り、自分でもどうしていいか分からなくなっていたんです。」

    「・・・だから、藁にも縋る思いで夢の中の"アイツ"に、縋ったしまったと。俺もその気持ちは分からなくも無いが、やはり不味かったかもしれんな、ギル。再度冷静に考えてみて、やはり俺達が巻き込まれた状況はただ事では無い。ただのシンクロニシティにしては余りにもタチが悪すぎる。」 苦々しそうにアーヴィンが語る。

    「だが、"ヤツ"に願ってしまった以上、恐らくはもう如何にもならないだろう。この手の民話や民間伝承は仕事柄よく耳にしたが、神格や精霊じみた存在に対して"願い"を言ってしまった以上、取り下げることはまずできないし、それから逃れたという話もあまり聞いたことが無い。」

    「では、一体どうすればいいんですか、教授!? このままじゃ、ギルは・・・!?」ルシアが動揺したように喋ると私は思わず口を挟んだ。

  • 26二次元好きの匿名さん21/09/15(水) 22:58:15

    「・・・今更ジタバタしても仕方がない。確信的な情報なしに下手に動いても、無駄に体力を浪費するだけで終わるのは明らかだ。あえて、このまま本当に"ヤツ"がギルバート君の必死な"願い"を聞き届けてくれるのか、正々堂々と様子を見ようじゃないか。もしかしたら、"ヤツ"は私のように人を害することはできても"救う"事はできない可能性がある。 それに"ヤツ"の発言は只のはったりであり、結局は何も起こらない可能性も決してゼロでは無い。」

    「そうよ・・・。その可能性は決してゼロじゃないわ。もしかしたら、結局はこのまま取り越し苦労終わるかもしれない。それに落ち着いて時間が経つのは待っていれば、きっと何らかの切欠がつかめるかもしれないわ。」

    「俺も教授の意見に賛同します。とにかく俺達には情報が少なすぎる。取り敢えず俺はこれから、病院を出て大学内の図書館に籠り、今回の事件と似たような怪異譚や事例を徹底的に知らべます。この手の逸話には必ず何かしらの抜け道があるはずです。」アーヴィンは持ち前の気の強さを取り戻したかのように私に語った。

    「私も一緒に手伝うわ。アーヴ。いい解決策か抜け道が見つかったら今度出くわした時に、教授の腕を治してもらうついでに"アイツ"自身に消えてもらうよう、上手く願ってみるわ。」いつもの明るさを取り戻したルシアは、笑顔を浮かべながら私達を元気づけるかのように軽快なジョークを飛ばしてくれた。

    「・・・ご迷惑をかけて申し訳ありません教授。それにごめん皆。手立てがないとはいえ、よりにもよってあんな化け物に縋るべきでは無かった。」

    「俺達の事よりも、お前は自分の身の心配をしろ、ギル。取り敢えずお前は、今後、約一週間ほど学校を休んで、自宅か病院にいるお袋さんの傍にいてやるべきだ──何、学校側には母親の難病を素直に打ち明けて、それによる看病を理由付けすればいいだけだし、仮に都合よく行かなかったとしても教授がきっと電話で何とかしてくるさ──ですよね?教授?。」

    「全く・・・お前はそういう所は相変わらずだな。入院中の身とは言え、利き腕は動くし、他の体の自由は利く。勿論最善を尽くしてやるさ。」

  • 27二次元好きの匿名さん21/09/15(水) 22:58:47

    「でも、何で"一週間"なの?。もうちょっと休む期間を長くして様子を見た方がいいじゃ?」

    「教授の話を聞いただろう、ルーシー?"アイツ"はどうやらこの国はおろか世界で"最も崇拝を集めているであろう『主なる神』と浅からぬ因縁"があるのさ。つまり、『主なる神』がなさった天地創造の7日目──即ち、一週間という法則に対し、何らかのこだわりを示す可能性が高い。」

    「ギルバート君とアーヴィン君の言うとおりだ。"ヤツ"のあの怒り狂いようはどう見ても尋常では無かった。つまり、あの手の悪魔的存在は敵対しているであろう『主なる神』の法則にある程度縛られているか、不遜にも"ヤツ"の方が『主なる神』よりも優れていることを示すために"一週間"の間に何かしでかす可能性が極めて強い。そうする事で"ヤツ"の欝憤じみたものが吐き出されるのか、それとも何か別の目的があるのかは分からないが、民間伝承の類いから見てもこの手の存在は、特定のパターンで機械的に動く傾向にある。私達はそれに素直に従って様子を伺い、この間に何かしらの抜け道を探す・・・。これが今の私達に出来得る最大最善の手段だ・・・!!」
                                              ──疲れたし、ネタが浮かばないので多分続かない

  • 28二次元好きの匿名さん21/09/16(木) 13:25:47

    理想的B級ホラーのような展開が俺を狂わせる!!

  • 29二次元好きの匿名さん21/09/16(木) 20:33:45

    >>27

     彼らとの作戦会議を終えた後、私は個室の鍵を閉めて携帯を取り出し、密かな声でミスカトニック大学に一報を入れた。「もしもし、私です。はい、本日アーカム総合病院へ緊急入院したクライド・ウィンウッドです。今日はご迷惑をおかけして大変申し訳ありません。はい、実は・・・」 私は学校側に急な入院の非礼を詫び、私達の研究チームに起こった超常的な出来事を手短に説明すると、こう発言した──「はい、そうです。今回の事例は"脅威度C"の案件です」──



    "脅威度"


     洋の東西を問わず優れた生徒や人材が入学し、様々な知識や歴史重要物を集まることから、「智のエルサレム」と称される"ミスカトニック大学"──だが、それは世間一般に向けられた"表の顔"に過ぎない。この大学の"裏の顔"──即ち、その本質の部分はアメリカ合衆国の軍部により、米国および世界の脅かす可能性がある対宇宙由来の存在(この中には地球由来の超常的存在も含む)、様々な異常性を及ぼす物品や場所、未確認危険生物を認識し、それらに対する対策を講じるために世界各国を調査することを真の目的とした一種の秘密結社である。特に禁断の闇黒神話において今も尚、密かに語り継がれる大いなる存在"Great Old One"とその眷属達に関する案件を最重要課題として取り扱っており、仮にまかり間違って派遣された調査員や軍関係者らが"Great Old One"そのものと遭遇してしまった場合、そのカテゴリーを最大脅威度"A"──即ち、"アメリカ合衆国はおろか地球上人類全ての敗北宣言"そのものであり、"滅亡"以外の道は無し──と認定する。


     通常の研究施設と同様、上記の要因と遭遇した場合又は踏み入れてしまった場合、如何にして対応すべきかというマニュアルが個々に決められているものの、大学の調査員らが相対するこれらの存在は、未だ未知数かつ不確定要素が余りに多く、未だ万全とは到底言い難いのが現状である。尚、"脅威度C"は「大学側の人員と設備と物資と人脈、および州政府及びその関係協力者で"現在"は対応できる可能性があるが、正直予断を許さない」ものとする。

  • 30二次元好きの匿名さん21/09/16(木) 20:34:47

    このレスは削除されています

  • 31二次元好きの匿名さん21/09/16(木) 20:35:33

    学校側に全ての報告を終えた私は、直ぐに研究調査チームの一人である"ギルバート・インブリー"とその母である"アリシア・インブリー"の保護と警備、そして本案件の対策となりうるであろう、私が提示した必要物品全ての準備とその設置を要求し、大学側はそれらを了承した。その後、私は携帯を通じてミスカトニック大学の図書館へと向かったであろうアーヴィンとルシアに連絡を入れ、今回の事件と似たような怪異譚や事例をまとめた資料や文献だけでは無く、古代ユダヤ教からグノーシス主義、ジェームズ・ジョージ・フレイザーの『金枝篇』やアレイスター・クロウリーの『法の書』といったオカルトを含む様々な文献や重要書物を掻き集めるよう指示し、その中から『魔除け』に関する物に焦点を当てるよう助言した。
     何故なら、例の"ヤツ"は『主なる神』と敵対する存在である可能性が極めて高く、それは即ち"ヤツ"が魔性の存在であることを雄弁に物語っている。そのような魔性であれば、斯様な存在を近づけないまたは、そのために用いる呪(まじな)い物の類いは相応に効果を発揮する可能性が高い。次の日、図書館での調査を終え、私の下へ再度訪れたアーヴィンとルシアが、パセリ、セージ、ローズマリー、タイムが入った小瓶を持ってきたのを見た時、私はその真意を悟った──。

    「なるほど、君達は"ヤツ"を邪妖精と認識したか──」

                                                   ──多分続く

  • 32二次元好きの匿名さん21/09/16(木) 20:37:31

    どうしてここで「終わる」のよォオオオ~~ッ!!!
    あっ乙です

  • 33二次元好きの匿名さん21/09/16(木) 20:40:44

    教養が強すぎる

  • 34二次元好きの匿名さん21/09/16(木) 21:07:37

    >>31

     "パセリ、セージ、ローズマリー、タイム"これらは全て"死や妖精を退ける効果"──即ち『魔除け』の効果があると信じられる薬草であり、この期限は英国の伝統的バラッド"スカボロー・フェア(Scarborough Fair)"へと遡る。


     この歌の舞台は中世末期まで遡り、その頃ヨークシャー地方(現ノース・ヨークシャー州)の北海沿岸の行楽地スカボローは、英国中の商人の重要な交易場だった。そこには道化師や手品師が集い、8月15日には45日間の巨大な長期間の市が始まる。これがタイトルの元になっている"Scarborough Fair(スカボローの市)"である。

     市の期間中は、英国中や大陸からさえも人々スカボローへ商売をしに集まった。この歌は16~17世紀に、『エルフィンナイト』(チャイルド・バラッドNo.2)という、古いバラッドを作り変えたものであると言われているが、吟遊詩人が町から町へ歌を伝え歩く内にそれは変わっていき、何十もの詩が出来上がった。しかし、典型的に歌われたものは少なかった。


     1960年代に活躍した、ユダヤ系アメリカ人の"ポール・サイモン"と"アート・ガーファンクル"によるフォーク・デュオ・『サイモン&ガーファンクル』によって有名になった編曲自体は、19世紀末に生まれたものである。この歌は恋人に捨てられた若い男が、冗談げに彼女に縫い目なしで彼のシャツを縫ったり、それを乾いた井戸で洗うような一連の不可能な仕事を成し遂げれば、彼女を取り戻すだろうと、聞き手に言う話をしている。しばしばデュエットで歌われ、男性が一旦歌い終わった後、女性が恋人へ同様にできない仕事を成し遂げられれば、縫い目の無いシャツを与えることを約束する。


    「パセリ、セージ、ローズマリー、タイム」の繰り返し句は、現代人にはよく理解できないが、これは全て象徴的意味に満ちている。

  • 35二次元好きの匿名さん21/09/16(木) 21:09:05

    パセリは今日まで消化の助けになり、苦味を消すと言われており、そして中世の医者は、これを霊的な意味としても捉えた。
    セージは何千年もの耐久力の象徴として知られている。
    ローズマリーは貞節、愛、思い出を表し、現在でも英国や他のヨーロッパの国々では、花嫁の髪にローズマリーの小枝を挿す慣習がある。
    タイムは度胸の象徴であり、歌が書かれた時代、騎士達は戦いに赴く際に楯にタイムの像を付けた。

    歌での話し手は、4種のハーブに言及することで、二人の間の苦味を取り除く温和さ、互いの隔たった時間を辛抱強く待つ強さ、孤独の間彼を待つ貞節、出来ない仕事を果たす矛盾した度胸を具えた真の恋人、そして、彼女がそれらをできた時に、彼の元に戻ってくることを望んでいる──だが、歌に登場する男性が話す歌詞には裏が存在する。

  • 36二次元好きの匿名さん21/09/16(木) 21:10:10

    『私のために薄い綿のシャツを作るよう彼女に頼んでください。縫い目も針の跡も残さずに』
    『私のために土地を1エーカー見つけるよう彼女に頼んでください。海水と波打ち際の間に』
    『皮でできた鎌で刈り入れるように伝えてください。ヒース(ヒース荒地の植生を構成するエリカ属の植物 ハーブ類として使われるのは、ジャノメエリカやエリカ自体を指すことが多く、秋に花を咲かせる野草)の束の中に収めてくれたら』


     貴方は"針を使わずにシャツを縫えるだろうか?" "海水と波打ち際の間に1エーカー(約 4046.8564224㎡。東京ドームの約 11分の1 の大きさ)の土地を見つけられるのか?" "全てが"皮”で構成された鎌など見たことがあるか?そして、それで刈り入れなど出来るか?"──即ち、これらの問いかけは全て「実現不可能な願い」であり、それに対して、女性は質問とは無関係なハーブの名前をひたすら繰り返す。
     実はこの男性の正体は人間ではなく異界に住む妖精であり、本場イギリスでは人間に仇を成す危険な存在もいるため、ある意味"悪魔"と何ら変わらないのである。伝承によれば夏になると妖精の力が増し、人間界と妖精界の扉が開く──そして、妖精達は人間を異界に引きずり込もうとするのである──それを知っている女性は、うっかり問いに答えて異界へ連れ去られないよう、「パセリ、セージ、ローズマリー、タイム」と呟くのだ。何故なら、"中世で猛威をふるったペストの予防薬にもなったこれらのハーブ類は、今も尚、魔除けの呪文としても信じられているから。"

                                                ──疲れたし、ネタが浮かばないので多分続かない

  • 37二次元好きの匿名さん21/09/16(木) 21:16:51

    やだ…この怪文書読んでてすごく勉強なる…

  • 38二次元好きの匿名さん21/09/16(木) 21:27:48

    クオリティの高い文章と圧倒的教養による暴力があにまん民を襲う!!

  • 39二次元好きの匿名さん21/09/17(金) 22:52:13

    >>36

    「流石です、教授。俺達二人は今回の案件を"妖精"もしくはそれに関連する存在の仕業と定義したんです。」


    「教授もご存知かと思われますが、これら4つのハーブは死や妖精といった超常や怪異を退けると信じられてきたものです。しかも、これらの伝承は口伝によって今日まで絶えずに伝えられてきたものですから、その効果の信憑性は高いと考えます。加えて、イギリス民話の「三つの願い」や『千夜一夜物語』の艶笑譚においても願いを叶えるとされるのは、ほぼ高確率で"妖精"またはそれに類する存在です。それに──」


    「奴の"両性具有"という性質がギリシャ神話の『ヘルマプロディートス』と一致することから、その起源となったニュンペー(ギリシア神話などに登場する下級精霊。山や川、森や谷に宿り、一般に歌と踊りを好む若くて美しい女性の姿をしている。)の性質を宿していると解釈し、これらの品々を集めた──そういうことだね?」


    「はい。如何でしょうか、教授?」ルシアは不安そうに述べ、アーヴィンは真剣な表情でこちらを見ている。


    「素晴らしい・・・!!理想的な模範解答であり、やはり私の目に狂いはなかった。」 その発言を聞いた途端、二人が笑顔を浮かべながら、景気よくハイタッチを行ったの見た、私も自然と笑みがこぼれた。


    「これでも充分『魔除け』には成り得るが、何には念を入れて対策を取る必要がある。実は君達二人が大学図書館で賢明に調べものをしてくれている間、私は大学側と掛け合って、ギルバート君の現在の住処とその実家の玄関に"ある物"を用意してもらったんだ。」


    「「"ある物"・・・?」」


    「古代ユダヤ教の過越祭(ペサハ)にて行う伝統行事の一つだ。傷のない雄の子羊を屠殺し、その血を家の2本の戸柱と戸口の上部に掛けることで、"ヤツ"の存在を『過ぎ越す』のさ。」

  • 40二次元好きの匿名さん21/09/17(金) 22:52:49

    過越祭【すぎこしのまつり・Passover】──それは今日も続くユダヤ教の宗教的記念日であり、聖書の『出エジプト記12章』に記述されている。 

     古代エジプトでアビブ(ニサン)の月に起こったとされる出来事に起源を持ち、エジプトの地で奴隷になっていたイスラエルの民が、モーゼの先導でパレスチナの地に脱出した故事を記念する。『主なる神』は、当時80歳になっていたモーセを民の指導者に任命して"約束の地・カナン"へと向かわせようとするが、ファラオがこれを妨害する。そこで『主なる神』は、エジプトに対して"十の災い"を臨ませる(これはエジプト神話の神々を盛大に皮肉っている。※例)ナイル川の水を血に変える災い:ナイル川の神ハピ 大量の蛙の災い:蛙の頭をした多産の女神へケット、全ての初子を撃つ災い:生殖の神ミンなど)。
     その中でも特に"十番目の災い"は有名であり、その内容は"人間から家畜に至るまで、エジプトの「全ての初子を撃つ」"というものであった。対策として『主なる神』は選び分けた傷のない雄の子羊(または山羊)を屠殺し、その血を家の2本の戸柱と戸口の上部に付けるよう命じ、条件を満たしていない家にその災いを臨ませることをモーセに伝え、その条件を知らないエジプト人やそれを信じなかったユダヤ人の全ての初子は謎の病死を遂げる。(出エジプト記12:1~14) 故にこの名称は二本の門柱と戸口の上部に、子羊か山羊の血のついている家にはその災厄が臨まなかった(過ぎ越された)ことに由来している。

  • 41二次元好きの匿名さん21/09/17(金) 22:53:58

    「それに君達も知っての通り、"ヤツ"の元となるあの彫刻は"エジプト"の地で発掘された。つまり、その効果は充分に期待ができるという訳だ。」

    「・・・感服いたしました、教授。さすがに俺達二人ではそこまで考えが及びませんでした。でも、これなら・・・!!」

    「夢の中の"アイツ"を退けることができます!!」

  • 42二次元好きの匿名さん21/09/17(金) 22:54:41

    「一応、現段階で可能な限りの対策を思いつき、それを実行したが、まだ決して油断をしてはならない。ギルバート君とその母君だけでなく、我々も今週の"一週間"は最大の警戒をすべきだ。念のため、私達の近辺に対する警護を学校側と関係協力者に依頼し、これらのハーブは彼らを通してギルバート君とその母君のいる病院に渡すつもりだ。そうしたら、今日から来週の月曜日までの間、私も含めて君達は彼との接触を完全に断ち、彼の母君の病院へも絶対に行ってはならない。」

    「どうしてですか?」

    「"ヤツ"の狙いは間違いなくギルバート君とその"願い"の対象となった母君だ。"ヤツ"に夢の中で干渉された者同士が、不用意に近づいたり接触するのはリスクが高い──私が"ヤツ"なら自分の獲物に余計な干渉をしてきたと捉え、何らかの妨害を働くか、私の様に直接的な危害を加えようとするだろう。気持ちはよく分かるが、今は決して関わるべきでは無い。
     私は今からこれまでにおける皆の発言と情報を手紙に纏め、それをハーブを渡す関係者を通じて彼に送ってもらう。然るべき時が過ぎてギルバート君の方から電話などを通して、私か君達に何らかのアクションを起こすまでここはじっと耐えるんだ。」

  • 43二次元好きの匿名さん21/09/17(金) 22:54:53

    「・・・分かりました。私達二人も日常の活動を必要最低限に減らし、互いの接触を減らして見ます。どうか教授もご無事で・・・!」

    「無事この厄介毎を『過ぎ越したら』、このメンバーで盛大に祝いましょう──勿論、その会計は教授負担ですがね?」

    「アーヴィン、お前は言葉だけでは無く、行動を通して私をもう少し敬ってくれ・・・私の貯金や財産は無限じゃないんだぞ!?」

    そう言い終えるや否や、皆盛大に笑った──もし失敗すれば、取り返しのつかない事態になるやもしれないが、決して悲壮感は感じられなかった。ここにいないギルバート君も含め、皆そう簡単に殺されるつもりは無い。私達は皆の再会を約束して別れた。
     様々な関係機関から成る多くの協力を得た私達は、蛇のように賢く狼のように慎重に日々の生活を慎重に過ごした──やがて、今週"一週間"を何事も無く過ごし、無事に次の週の月曜日を迎えた──ように思えた。

     私は──否、私達はあの異形の存在を甘く見過ぎていた──"ヤツ"の"願い"を叶える力が──嘆願したギルバート君を"汚染する力"が如何ほどのものか──。

     私達はこの週の月曜日に嫌というほど思い知らされる羽目となった。

  • 44二次元好きの匿名さん21/09/17(金) 22:57:11

    はぁーエジプトの伏線をここで解消するとか…

  • 45二次元好きの匿名さん21/09/17(金) 22:57:58

     次の週の月曜日、私は言いようのない不安と胸騒ぎを覚えて、通常よりも早く目を覚ました。ちょうど病室の窓の隙間から日の光が差し込め始める頃であり、時間を確認しようと個室の小さなテーブルに放置していた携帯を確認すると無数のメールと着信履歴が残されており、その相手はどうやらギルバート君の母君を監視・警護していた州警察関係者からのものだった──病院内であったため、携帯を常時サイレントモードにしたままだったのだ。

    「しまった・・・! 。」私が急ぎ電話をかけると電話に出た関係者は、想像を絶する驚愕と同様が混ざった様子でこの述べるのであった。

    「あっ!!? ようやく繋がりましたか!! 深夜早朝から何度も大変申し訳ありません。私は今回の件を担当していた州警察のハリス・マクマホンというものです。今でも大変信じがたいのですが、実は──!!!」彼からの発言を耳にした時、早朝に拘わらず私は、思わず大きな声を上げてしまった。

    『何っ!!? ギルバート君の母君が突然、昏睡状態から目覚めただと!!!?』

     州警察関係者のこの発言は、にわかには信じ難いものであった──あの"クロイツフェルト・ヤコブ病"による昏睡状態から目覚めただと!?──有り得ない!!? 一体何後起きればそんな状態になる!? あの病は原因はおろか正確な治療方法すら未だ確立されていないんだぞ!!!? 
     まさか、まさか"ヤツ"が"願い"を叶え、"奇蹟"を実現したとでもいうのか──あの『イエス・キリスト』の様に!!?──そんな馬鹿な事があってたまるか!!!!! あんな名状しがたい異形の化物である"ヤツ"が、『主なる神』や『メシア』に仇成す『偽キリスト』か『黙示録の獣』ならばともかく、正真正銘の『神』であるはずが無い!!!!!!!!

     私は想像を絶する動揺と混乱、そして言いようのない恐怖と忌避感を感じた。"アレ"が『神』であるはずが──否、『神』であって欲しくない──思わず、我らの『主なる神』に対してそんな切なる祈りと"願い"を捧げてしまった。

  • 46二次元好きの匿名さん21/09/17(金) 22:58:49

     私は朝早くにも拘らず、この事態を学校側に報告し終えた後、続けざまに二人に連絡を入れた。そして、私と同じように驚愕と同様を見せた彼らは、病院の面会時間となったら朝一番で駆け付けると述べ、私は彼らが到着し次第、新たな対応を直ぐに練られるよう今一度情報整理を始めた。
     そして、面会可能時間となった午前10時頃、私のいる個室から勢いよく廊下を走る音が聞こえた。一瞬、他の病室にいる患者の急変か緊急対応かと思われたが、どうも違う。急いているこの誰かはどうやら、私に用があるらしく、その相手はノックも無しに勢いよく個室のドアを開けた──その相手は何とあのギルバート君であった。私は胸を撫で下ろして久しぶりに会う彼の顔を確認したが、直ぐに彼に対して強い警戒と危機感を覚えた──何故なら、私はこの様な状態の相手を"過去に一度見たことがあるから──

  • 47二次元好きの匿名さん21/09/17(金) 22:59:32

    このレスは削除されています

  • 48二次元好きの匿名さん21/09/17(金) 23:00:52

     そして、時折痙攣したような笑みや反応を見せる彼は、私に対して捲し立てる様にこう述べた。

    「教授・・・! 教授・・・!! 教授ゥ・・・!!! 母が・・・私の最愛の母が昏睡状態から甦ったんです!!!!! 担当の先生も看護師も付き添っていた関係者の人々も、皆一応に戸惑いと驚愕を見せてましたッ!!
    !!!しかも、簡単な精密検査をしてみたら脳の機能が正常になっていたうえに、肺や筋力の低下や異常すらも全く見られない状態だったんです!!! "奇蹟"が起きたのはちょうど今日の月曜日に日付が変わったと同時で、その時が訪れた瞬間、母はいきなり覚醒して起き上がり、久しぶりに私の名前を呼んでくれたんです!!・・・あの時の感動と興奮と喜びはもう一生忘れられません!母も凄く喜んでくれている!!もう、私は求めて叶えるべき"願い"の全てを今日という栄光の日をもって、全て達成してしまったんですッ!!!!!!!!!!」

    「分かった、分かったから落ち着き給え、ギルバート君!! 嬉しいのは分かるが今の君は強い興奮状態にある。もう少し落ち着き給え! ここは病院内だぞ!? 今の君は私から見て余りに常軌を逸している!」

    「私は落ち着いていますよ!? 教授!!今の私は過去に例を見ないくらい冷静であり、その心は大変に穏やかで大いなる安心感と無上の幸福に包まれています! 今日、私はこの日を以って真の『神』とそれによって齎される"奇蹟"を目の当たりにしたんです!! エジプトの遥か大地の奥底で闇黒の眠りについていた我が『神』は今や解き放たれ、確かなるその実在と恩寵を僕と母に授けて下さったのですッ!!!!!!」叫びに近い大声で私に話していると、アーヴィン君達が急ぎ足で私の病室へと踏み入れた。

  • 49二次元好きの匿名さん21/09/17(金) 23:02:26

    「一体お前は何を言っているんだ!? ギルバート!!! 正気に戻れ!!!」そう発言するアーヴィン君は動揺と怒りに燃えていた。

    「最愛のお母さまが元に戻って嬉しいのはよく分かるけど、落ち着いてギル!! 確かに"アイツ"は"願い"を叶えて、"奇蹟"を起こしたかもしれない──けど、夢の中で私達が出会った"アイツ"はどう考えても普通じゃないわ! それに私は"アイツ"が無償で何かをしてくれるとは決して思えない! きっと、いつか最悪のタイミングで──」ルシア君がそう言おうとしたその瞬間──

    「ルーシー!!!!!!!!!!君は我が『神』が僕と母を害するとでも言うのかぁッッッ!!!!!!!!!!そんなはずが無い!!そんな事を成されるはずが無いッ!!!!それ以上言うのであれば、僕を君を・・・!」

    「待て、落ち着け!!ギルバート!!!! それ以上の不快な言動と不適切な態度をするというのであれば、如何に君と言えども容赦は出来んぞ!! ハッキリ言って今の君は、我が校の栄誉ある研究チームに相応しいとは到底言い難い!しばらくチームから離れ、謹慎でもして頭を冷やせ!! これは教授兼チーム責任者としての命令だ!!!!」私がギルバートをそう怒鳴りつけると彼は、急に白けた様にこう吐き捨てた.

  • 50二次元好きの匿名さん21/09/17(金) 23:02:48

    「・・・・・もう研究チーム何て、あんな閉鎖的かつ旧世代じみた学校なんてもう如何でもいいですよ・・・・。好きにして下さい、教授。今までお世話になりました。」

    「本気で言っていやがるのか、ギル!? ミスカトニック大学期待の新星して呼ばれた、あの"ギルバート・インブリー"ともあろう男が本気でそうほざいていやがるのか!!!」彼の態度と発言に激高し、今にも殴りかからんとするアーヴィン君をルシア君と私が必死に止める。だが、そんな状況に追い込まれても、彼"ギルバート・インブリー"は、最早決して動じることもなく続けてこう言い放った。

    「本気さ、アーヴ、いや──"アーヴィン・ライオヴァルト" 僕と、僕を含めた偽りの知識と虚飾に満ちた"この世界"とそこに住まう全ての存在が間違っていたんだ・・・・!だが、僕はもう迷いから脱して真実を得た。僕は真の人生と為すべき天命を悟ったんだ。僕はもう止まる気はないよ・・・。これから僕と母と"奇蹟"を目の当たりにした同胞達で、"来るべき世界"へ向けた"福音"を届けるんだ。」

    「・・・一体何をする気だ、ギルバート・インブリー?」私は明確な敵意を持って"かつての生徒"に問うた。

    「だから、さっき述べたでしょう? "来るべき世界"へ向けた"福音"を届けると。僕は"奇蹟"を目の当たりにした時、我が『神』から啓示を受けた──『我が御名において迷える者達を導き、"願い"を捧げよ。我はそれに"奇蹟"をもって答えん』とね・・・。その際、我が『神』はその為の然るべき教団を設けよとも仰せになられた。だから設立するんです栄光ある救いの教団──『"Wish to constellation 星辰に願いを"』を──」

                                             ──明日から忙しくなるので多分続かない

  • 51二次元好きの匿名さん21/09/17(金) 23:04:46

    ここでタイトル回収するとか鳥肌立つわ―――――!!スレ主―――――!!!

  • 52二次元好きの匿名さん21/09/17(金) 23:06:59

    ちょっと待ってここからしばらくお預けくらうの?やめてくれよ・・・(震え

  • 53二次元好きの匿名さん21/09/19(日) 17:11:19

    >>50

    言いたいことを全て言い終えたかのような彼"ギルバート・インブリー"は、そのまま私達の静止や問いかけを無視して、急ぎ足で病室から去った。時間に換算すれば僅かな間の出来事であったが、私達からすれば余りに長く衝撃的な時間であり、残したその傷はハリケーンの様に根深かった。


    「・・・"ヤツ"の力がまさかこれほどとは・・・・!! 私の見通しが余りにも甘く、杜撰すぎた・・・・!!二人とも、本当に済まない・・・これは私の完全な失態だ・・・」私は病室内で彼らに深く頭を下げた。


    「そんな、頭を上げて下さい・・・!クライド教授!!俺達の対策が余りに甘すぎたんです!もう少し、大学図書館で情報を精査していれば、こんな事には・・・」


    「・・・・・教授、一体ギルはこれからどうなってしまうのでしょうか・・・?もう、彼は手遅れなのですか・・・・!?」


    「・・・・・私は"過去に一度に似たような人間を見たことがある"・・・・。その時の記憶や経験から見ても、彼──"ギルバート・インブリー"は──もはや手遅れだ。あの手の狂気に染まってしまった輩が、元の状態に戻ったところを私は今まで見たことが無い。

     それに彼の発言からして、"ヤツ"に汚染されてしまった犠牲者の数は、彼の母親を含めどうやら相応にいると見える。彼が本当に"ヤツ"を崇拝するカルト──『"Wish to constellation 星辰に願いを"』(以下"WtC")──を設立するというのであれば、どう考えてもそれは我が国はおろか人類にとっての脅威と成り得る・・・・。このままいけば、彼とそのカルトは軍から"脅威度認定"を受けるのは、ほぼ時間の問題だ。」

  • 54二次元好きの匿名さん21/09/19(日) 17:11:31

    「そんな・・・・・!!?」ルシアは今にも泣きそうな表情を見せた。

    「・・・・・・もし、アイツとそのカルトが"脅威度認定"を受けたのであれば、その時は俺が引導を渡します。それが・・・親友であった俺のせめてもの償いです。」

    「気持ちは分かるが、そう早まるなアーヴィン。まだ、全てが終わった訳ではない。"ヤツ"が"願い"を叶えた以上、相応の"対価"──啓示と称して"ヤツ"を崇めるカルトの設立とその信者を要求した事で、無事に済んだように見えるが、私は"まだ終わっていない"と考えている。」

    「つまり、それは・・・!?」

    「"ヤツ"の"願い"を叶えた"対価"の本格的な支払いと要求はこれから来るはずだ。先ほど、ルシア君が述べた様に"ヤツ"が"愛"や"慈悲"といった高尚な精神でもって"願い"を叶えてくれたとも、無償で何かをしてくれたとも決して思えない。
     今後、私達はこの件を学校側に伝え、"ギルバート・インブリー"と"WtC"を要警戒対象として監視を強めてもらう。その後、私達は一度"ヤツ"の彫刻に関する調査から完全に手を引き、"WtC"の魔の手に善良な市民が毒牙にならぬ様、密かに活動を行いつつ学校側から流れてくる情報を静観する──"ヤツ"の"神様ごっこ"の化けの皮が剥がれるのを辛抱強く待つんだ。」

  • 55二次元好きの匿名さん21/09/19(日) 17:12:32

     その後、私達は学校側に報告を終え、"ギルバート・インブリー"及び"WtC"を要警戒対象に認定した後、"考古品A"に関する研究調査チームを解散し、様々な想いを胸に秘めつつそれぞれの日常へ戻った。私は腕の治療とリハビリに精を出しつつ、学校側から送られる情報を精査しながら日々を過ごし、アーヴィン君は『ルルイエ異本を基にした後期原始人の神話の型の研究』、『ネクロノミコンにおけるクトゥルフ(未完)』といった"ラバン・シュリュズベリイ博士"が記した闇黒神話に関する情報や学問を貪欲に漁り、ルシア君は私達二人と少し距離を置くような形でオカルトや神秘学に傾倒していった──彼女のこの一連の動きは、"ヤツ"に関する淡い期待と希望を見いだしているかのような動きであり、私は彼女に対し言いようのない不安を抱いていたが、決してそれを口にすることは無かった。
     私の張りつめた神経とストレスによる勘違いであって欲しいと"願っていたのだ"。彼女が私の病室を最後に出る際に、小声で無意識に口にしてしまったであろう"あの言葉"──「もし、もし本当に"アイツ"が『神様』で、ホントに"願い"を叶えてくれるのだとすれば・・・私は・・・・」

     あれから一年ほど経過したが、"ギルバート・インブリー"とその母"アリシア・インブリー"の身に大きな変化や出来事は一切起きなかった。それどころか、"WtC"は私達の必死の活動にも拘らず、その信者の数を徐々にしかし確実に増やしつつあり、遂に軍部は"WtC"を"要警戒対象"から"脅威度D(目標が人類と友好的、覚醒または機動すると大惨事になるが勝手に動き出すことはない(または封じられている)、活動しても被害が"軽度"で済む。)"へと格上げし、その警戒をさらに強めた。そして、それとほぼ同時期にルシア・ハーレットは突如としてミスカトニック大学を辞め、"WtC"の信者として入信した──我が国にとって最大の悪夢であった、あの"9・11"で死亡したはずの元婚約相手・エドワード・ハービィーを共に引き連れて・・・!!

                                                    ──続く

  • 56二次元好きの匿名さん21/09/19(日) 21:36:02

    >>55

     腕の手術をほぼ全て終え、学校と自宅の往復、リハビリによる通院で日々を過ごしていた私は、アーヴィン君と全ての始まりである"あの研究室"で二人きりとなった。最早、私達には言葉も無かった。私達は学校を辞める一週間前に書かれたと思われる、ルシア君から宛てられた手紙をただ黙って目を通していた。



     クライド教授、そしてアーヴ。この手紙がそちらに届いている頃、私はもうこの学校にはいないでしょう。本当にごめんなさい。私の心は私が思う以上に弱かったことを、この一件で悟りました。正直に言えば、私──ルシア・ハーレット──は、夢の中で出会った"アイツ"の誘惑に屈しかけた愚かな人間の一人に過ぎなかったのです。あの時、"アイツ"が"気品のある美しい少年の声"で、私の心の奥底に眠る誰も知らないはずの"願い"──『"9・11"で亡くなった、私の婚約相手に一目でもいいから会いたい』──を見抜いた時、私が存在していた今までの日常が壊れてしまうかのような強いショックと恐怖、そして言いようのない期待感と希望を愚かしくも抱いてしまいました。

    「もし、本当にあの同時多発テロで亡くなってしまったあの人が、本当に帰ってくるならば・・・」「もし、本当にあの時に得られるはずだった、女性としての幸せが取り戻せるなら・・・・」「もし、もう一度、彼に抱きしめてもらえて、私の名前を呼んでもらえるのなら、私は・・・」 今まで心の奥に押し込めていた、未練や想いの数々が洪水のように溢れ出て、止まることがありませんでした。

     あの時、病室で私はどんな顔で、何様の立場でギルを責めていたんでしょうね?──私も"アイツ"の非現実的な要求に屈しかけた、正気の沙汰とは到底言えない酷い女だったというのに。本当に、我ながら嫌気がさしてしまいます。でも、あの時点ではギリギリ崖の縁に落ちる一歩手前で踏みとどまれていたと思います──ギルのお母様が難病から奇跡の生還を果たすまでは。

  • 57二次元好きの匿名さん21/09/19(日) 21:37:02

     私も"クロイツフェルト・ヤコブ病"について学ぶ機会はありましたから、あの難病の悲惨さと深刻さは知識として大変よく知っていました──それが治る手段が無いことも充分に。実は、私は教授との約束を破って、ギルのお母様のいる病室を丁度訪ねてしまったのです。"奇蹟"何て起こるはずが無い。けどもし、本当に起きたのなら──私の心の奥底にあった"願い"を見抜いたあの存在なら、もしや──そんな微かな期待に私はとうとう負けてしまった。
     私が「クライド教授の密命を受けて、訪ねて来た」といったら関係者の方々は、皆素直に私を病室に通してくれました。その後、病室について暫くして、私の眼前でギルのお母様は突如として覚醒し、何事も無かったかの様にベッドから起き上がり、私に尋ねたのです──「ここは一体どこの病院なのでしょうか?」と──。私は直ぐにギルに連絡を入れ、彼は深夜だというのにすぐに病院へ駆けつけて、そこでお母様と感動の再開を果たしました。 私は目の前で起きたこの"奇蹟"を、自分の事にように喜び、気が付けば涙が溢れて止まりませんでした──そして、徐々に私の中に眠る"願い"を叶える事ができるなら、叶えて欲しいという欲望や未知なる"奇蹟"への渇望は、もう自分でも制御不可能なほどに燃え上がっていました。

  • 58二次元好きの匿名さん21/09/19(日) 21:37:12

     でも、私は如何にか必死で抑えに抑えがたいこの想いを、胸に押し殺しながら只ひたすらに耐えて、日々を過ごしていました。ある最終的な不安がどうしても拭えなかったのです──"願い"が叶った後、最悪の破局が訪れるのでは無いかという不安が。でも、この最後のブレーキの限界はおよそ一年ほどでした。一年ほど過ぎても変わり果てたギルと彼のお母様は、何の報いや裁きも無しに平穏無事に過ごしているではありませんか。この事実を知ってしまったあの日の夜、狙いすましたかのように"アイツ"が現れ、私はとうとう"願ってしまいました"。恐らく、ギルと同じく一週間後にこの"願い"が成就するか否かが嫌でも判明するでしょう。
     本当に御免なさい、皆。私はもう限界です。"アイツ"に縋ってしまった以上、私はもうこの学校にも居られないし、この手紙がお二人と最後に交わすやり取りとなることでしょう。今まで本当にお世話になりました。どうか、どうかお二人は私の様に道を踏み外さないでください。それが今の私の最後の"願い"です。有難う──そして、さようなら。

                                                       ──ルシア・ハーレット

  • 59二次元好きの匿名さん21/09/19(日) 21:38:08

     こうして彼女"ルシア・ハーレット"は"願い"を叶え、私達の下を去った。あの事件に巻き込まれてから早一年、今やこうして残っているのは私とアーヴィンのみだ。

    「・・・・・一体どうすれば良かったのだろうな、私は? もっと・・・もっと早く、彼女の心の闇を把握しておくべきだった・・・・。」 手紙を全て読み終えた私は、ただ茫然と話すことしかできなかった。

    「・・・・・教授、御自分を責めないでください。貴方は最善を尽くされている。俺は・・・俺だけは最後まで貴方についていきます。それに、俺達にはまだまだやるべき事があるはずです──もう二度とこんな犠牲者を──ギルバートやルシアのような人間を増やさぬように、これからの人生を責任をもって歩まなかればならない。・・・・貴方ならばこう仰るはずです。」 アーヴィンの発したこの言葉は、私の心に再度火を灯すには充分過ぎた。

    「・・・フッ。まさか、お前に説教を食らう日が来るとはな・・・・。明日はどうやら全米で大雪のようだ。」思わず私は普段の日常からは、言わないようなジョークを返し、思わず二人で笑ってしまった。

  • 60二次元好きの匿名さん21/09/19(日) 21:38:24

     この日以降、私達はミスカトニック大学の秘密調査員として、本格的な道を歩み始めた──それはもう日の当たる日常とは無縁になることを意味する。私とアーヴィンは秘密調査員として、それに必要とされる"研修"全てに三年ほど費やし、"研修"を終えた後は、アメリカ合衆国の国旗を背負う者として、洋の東西を問わず指定を受けた場所へ"フィールドワーク"と称して、忙しく飛び回る日々を過ごした。
    『現代に蘇った"テカムセの呪い" 』、『再度、活性化し始めたモスマンやジャージー・デヴィルなどの"UMA"』、『フランスのアヴェロワーニュに眠っていた遺物を巡る、"Great Old One"カルトとの抗争』等々、その全てがとても名状しがたく筆舌に尽くしがたい濃厚な事件と怪異譚の数々であり、時に生死の境を彷徨いながらを長い年月と日々が過ぎ──あっという間に四年間が過ぎた。生命と精神を削る日々を過ごしていた私達は、"あの日の苦い思い出"を記憶の片隅へと追いやっていた──そんな時だ。私"クライド・ウィンウッド"の人生における最大の凶報が、同時に"三つ"も降りかかってきたのは。

                                                         ──続く 

  • 61二次元好きの匿名さん21/09/19(日) 21:45:02

    > 『現代に蘇った"テカムセの呪い" 』、『再度、活性化し始めたモスマンやジャージー・デヴィルなどの"UMA"』、『フランスのアヴェロワーニュに眠っていた遺物を巡る、"Great Old One"カルトとの抗争』


    やだ・・・すごく気になるんだけど・・・

  • 62二次元好きの匿名さん21/09/19(日) 21:48:32

    軽い気持ちで開いたら思ったより文豪で文量すごいな
    明日腰を据えて読むか...

  • 63二次元好きの匿名さん21/09/19(日) 23:24:25

    >>60

     その日はあいにくの大雨であった。私が次の調査に関する打ち合わせのため、自室にてアーヴィンの到着を待っていたのだが、約束の時間を過ぎても彼は来なかった。痺れを切らして、彼の携帯に連絡を入れようとしたその時──私の扉を勢いよく開けながら、大学関係者の一人が自室に飛び込んできた。私は怪訝な顔を浮かべながら"一体何事か"を彼に問い、その口から発せられた話を聞いた瞬間──私は二度と立ち直れないほどの強いショックと絶望を受けた。


    「嘘だ・・・・嘘だと言ってくれ!!?ア、アーヴィンが・・・・・・あの"アーヴィン・ライオヴァルト"が・・・!!死・・・死んだッ・・・・・!!!??」僅かな気力でそのような言葉を漏らした瞬間、私は目の前が闇に包まれ、その場で意識を失ってしまった。

  • 64二次元好きの匿名さん21/09/19(日) 23:25:00

     次に目を覚ましたのは以前世話になった、アーカムの病院だった。私が病室のベッドで目を覚ますと、激しい喪失感と苦痛が襲う。"先ほどの話が只の悪い夢であれば"、"アーヴィンによる質の悪すぎる悪戯で在ってくれ"、そう何度も"願ったが"、私の眼前にいる調査員の悲痛に満ちた表情と雰囲気が全てを雄弁に物語っていた。
     彼の話によれば"アーヴィン・ライオヴァルト"は、彼の住むアパートのベッドで死体で発見されたという。現場に駆け付けた検察官や刑事曰く、その遺体の損壊具合が余りに酷く──まるでその全身が"車に引かれた蛙"のように圧縮された状態であった──と聞いた時、私の脳裏にあの忌々しい"ヤツ"の姿が浮かんだと同時に、想像を絶する激しい怒りと憎悪が込み上げてきた。

    「一体・・・一体"キサマ”はどれだけ、私を弄び、苦しめれば気が済むんだ!!!!!!!!」そう怒鳴りつつ私は、ベッド前においてあったサイドテーブルを勢いよく叩くと、怯える調査員から訃報の数々が続けて述べられた。驚天動地のその報せを聞いた瞬間、私の心は更に抉られるような激痛に襲われるだけでなく、最早言葉を失うより他が無かった──彼から語られた内容は何と『ギルバート・インブリーと彼の母親を含む"WtC"の信者らが、教会の本部で集団自殺を遂げ』、『ルシア・ハーレットが、蘇ったとされるエドワード・ハービィーによって突如として喰い殺された』というものであったから。

  • 65二次元好きの匿名さん21/09/19(日) 23:25:40

     ギルバートの主な死因とその原因は不明だが、報告によると狂った信者による盛大な流血を伴う儀式の末による出血死によるものと思われ、教祖たるギルバートの遺体が浮かべていたその表情は、深い絶望と苦悩に満ちていたとされ、どうやら最愛の母親"アリシア・インブリー"は、その外傷状況からいって実の息子に殺害されたものと推測される。
     ギルバートが死亡したとほぼ同じ時刻、ルシア・ハーレットは人気の多い大通りにて、突如として豹変したエドワード・ハービィーによって喉元と顔の一部などを喰いちぎられたのを、現場にいた人々から目撃されており、その後エドワードは"人間の身体能力を無視した動作でビルの壁をよじ登った"後、何処かへ行方を晦ませたとされ、今のその所在地は判明していない。
     聞きたくもない膨大かつ有害な情報の洪水に晒された私の精神状態は、今や限界に達していた。狂ったように怒鳴り散らして、調査員を病室から追い出すと私は個室の鍵をかけ、只閉じこもってしまった。最早、私はベッドの上で赤子の様に泣き喚くしかなかった──それ以外に何をすれば、どうすればいいのか完璧に分からなくなっていたのだ。

     気が付けば、私は泣き疲れてそのままベッドで眠りこけてしまい──あの闇黒の夢の中で"ヤツ"と二度目の邂逅を果たした。

                                                        ──多分そろそろ終わる

  • 66二次元好きの匿名さん21/09/19(日) 23:31:02

    あーん!アーヴ様が死んだ!

    アーヴさまよいしょ本&アーヴさまF.Cつくろー!って思ってたのに…

    くすん…美形薄命だ… あーん


    うっうっう…ひどいよお…ふえーん!!

    この間「今、時代はアーヴィン・ライオヴァルトだ!」の葉書きを出してまだ2週間じゃないですか!

    どーして、どーして!?あれで おわり!?嘘でしょ!?

    信じられないよおっ あんなあねちんちんごときに殺られるなんてっ!! あにまんまんと差がありすぎるわっ!!生き還りますよね?ね?ね? ……泣いてやるぅ

    私はあのおそろしく鈍い彼が(たとえ口が悪くてもさ!ヘン!)大好きだったんですよおっ!!

    アーヴさまあっ!死んじゃ嫌だああああああっ!!

    >>1のカバッ!!え~ん


    P.S '>>31>>39はルシアとくっつきすぎだ!!

  • 67二次元好きの匿名さん21/09/20(月) 15:31:25

    >>65

     私はこの底知れぬ闇黒の地にて、"ヤツ"との望まぬ再開を果たしたが、それは今の私にとってある意味好都合であった。"ヤツ"のあの忌まわしい姿を一目見た瞬間、私の大切な生徒達の人生を踏みにじり、その生命を奪った事実に対する憤怒の炎が、瞬く間に燃え広がった。


    「よくも、のこのことその面を表しやがったな!!呪われた化け物めッ!!!!」 普段の私からは考えもつかないような暴言を放ちながら、無謀にも"ヤツ"に殴りかかろうとした瞬間、私の体は瞬時に硬直し、一歩も動けなくなった。そして、身動きが取れなくなった私に向かって"ヤツ"は、少年と女性が混ざったような美しい声で臆面もなくこう言い放った。


    『何をほざくかと思えば、"そんな取るに足らぬことか。" 私は約束通り、彼奴等の"願い"を叶え、"奇蹟"を起こしてやったではないか。何も違えてなどおらぬ。それに私は"救い"を齎すとは一言も述べてはいない。

     全ては身の程を知らぬ彼奴等が、勝手に"救い"を得らえると都合よく解釈したが故の結末。信心の浅い今の人間風情には、何もかもお似合いの末路よ。』 そんなふざけた発言を聞いた瞬間、私の怒りは最高潮に達した。


    「一体ギルバートが、ルシアが如何なる断腸の思いで貴様に縋ってやったと思っていやがる!!!!それに貴様に対して何の"願い"を請うていないはずのアーヴィンを、惨たらしく殺しやがって・・・・!!!! 殺してやる・・・・・!!殺してやるぞ、クソ化け物ッ!!!!!!!!」

  • 68二次元好きの匿名さん21/09/20(月) 15:32:09

    『・・・あの小僧と似たような罵声だな、クライド・ウィンウッド。あの小僧は不遜にもこの私に対して、聞くに堪えぬ罵詈雑言と狼藉の数々を働いた挙句、"俺を殺せるものなら殺してみろ"と"願った"──だから、叶えてやった──その結末が"アレ"だ。それにお前の心の奥底にも"願い"があるではないか──』 "ヤツ"がそう述べ、次の発言をしようとした瞬間、"ヤツ"と重なるように全く異なる美しい女性の声が同時に響き渡った。

    『『──"貴様の母親"タニア・ウィンウッド"が、フェデラル・ヒルの教会で一体何に魅入られ、何を崇拝していたのか"という、貴様の人生の根幹にかかわる最大の謎が──』』

    「『!?』」 私と"ヤツ"は声の発せられた方向を同時に向き、驚愕していた──特に"ヤツ"の表情には今までに見たことが無い、明らかな同様と困惑が感じられ、それが私を一掃震え上がらせた。

     ──この人外じみた美貌を誇る少女は一体、誰だ──

  • 69二次元好きの匿名さん21/09/20(月) 15:33:53

     予期せぬ第三者の登場による沈黙を最初に破ったのは、"ヤツ"だった。

    『・・・この男から、奇妙な残滓を感じるかと思えば、貴方でしたか、Nャ㋐روら𓉻𓉿☞ッפופו。一体、貴方は何時からこの男に目を付けていたのです?』 一瞬、理解できぬ名状しがたい発音をした"ヤツ"のその発言には、遥か格上の存在に対する明確な敬意、そして強い警戒感が込められていた。 だが、それ以上に"ヤツ"は、今理解しがたい言葉を吐いた──"私がこの少女に目を付けられていただと?"──

    『フフッ、それは今から私が説明するさ。何、君に変わって彼の"願い"を叶えてあげようと思ってね? 別に問題無いだろう? "アネ=チン・チン"?──それとも、"ン・カイで微睡しツァトゥグァの大いなる息子にして大いなる娘"としては、せっかく苦労して狙った獲物を、むざむざ手放したくは無いのかな?』 "彼女"のその発言には、あからさまな皮肉と嘲笑が籠っていた。

    『・・・別に構いませんよ。それに貴方がわざわざこの場に出てきたという事は、私に"その男から手を引け"と述べているようなものです。今まで通り、ご自由に為されればいい。』 そう言い述べるや否や、"ヤツ"──"アネ=チン・チン"──は音も無く、闇の中へと消え去り、今この場に残ったのは、私と"彼女"だけとなった。

  • 70二次元好きの匿名さん21/09/20(月) 15:34:08

    『・・・さて、お邪魔虫は去ってくれた。でも、その前にせっかくだから君の"願い"の前に、抱いているであろう疑問に答えてあげるよ。"あの子"が何なのか知りたいだろう?』 私の心の奥底を見通すかのように、 "彼女"は一方的に喋り始めた。

    『"あの子"は"アネ=チン・チン"。 "願い・二面性・矛盾を司るグレート・オールド・ワンであり、ン・カイで微睡しツァトゥグァの大いなる息子にして大いなる娘"。"あの子"自体は、父親たるグレート・オールド・ワン"ツァトゥグァ"を現世に覚醒させるため、健気に働いているだけの親孝行な子供に過ぎないのさ。』

    『王家の谷から永久にその名を抹消された古代エジプトの王"ネフレン=カ"の時代、ツァトゥグァの代理としてかの地に顕現した彼女は、古代エジプト人から"願い叶えたる者"として崇拝された。』

    『そこで彼らは、"あの子"を自分達でも理解できるように「"A"nkh」(古代エジプト語で"生命"を意味)、女神ハトホルやイシスと同一視された女神ネイトを暗喩する「"Ne"」を組み合わせ、"あの子"の男性的形象に生殖の神ミ
    ンの勃起したファルス(陰茎)を見いだした彼らは、「"Tin"」の文字を同時に重ねる事でこの存在の願いを叶える神としての力強さを讃える事でこう名付けた──"アネ=チン・チン"とね。』

                                                     ──多分もうちょっとで終わる

  • 71二次元好きの匿名さん21/09/20(月) 16:02:11

    乙。あねちん、ツァトゥグァの娘かよ…

  • 72二次元好きの匿名さん21/09/20(月) 21:22:30

    >>70

    『だが、"ネフレン=カ"の闇黒時代において崇拝されたのは、"あの子"だけじゃない。──『夜の蛇"デンダー"』、『混沌の猟犬"ケゼフ"』、『死して生まれし世界"アトロパス"』、『昇天者"ルラモーレック"』、『苦き炎"ゼリシュカー"』、『歩く長虫"キュス"』、『ゾレサの巨象群』、『夢で三度待つ者"アニ=マン・マン"』、『爆ぜし荒野の大公"シス=ヴィサグ"』、『狼蜘蛛"ミスカ"』そして──ルルイエにて眠りし『大いなる"クトゥルフ"』──今述べたこれらは、かつてあり、今もあり、これからもあり続ける"グレート・オールド・ワン"達のほんの一端に過ぎない。』


     私は"彼女"の口から開示された最悪の真実の数々に只々戦慄し、立ち竦むより他が無かった。


    『おっと、話が少しそれてしまった。そろそろ、本題に入ろうか?──"貴様の母親"タニア・ウィンウッド"が、フェデラル・ヒルの教会で一体何に魅入られ、何を崇拝していたのか"──その謎に関する全ての答えを、この私が直々に話してやろう。』 私の眼前に立つ"彼女"は、身の毛のよだつような邪悪な笑みを浮かべながら、話を始めた。

  • 73二次元好きの匿名さん21/09/20(月) 21:22:54

    『貴様の母親"タニア・ウィンウッド"が、ロードアイランド州プロビデンスにて生活していたのがそもそもの始まりであり、貴様ら親子の運の尽きでもあった。あの頃、地元フェデラル・ヒルの教会では"星の智慧派"と称される宗教団体が丁度活動していた。創立者は、考古学者にして神秘学者であった"イノック・ボウアン"──貴様の父親である"トーマス・ウィンウッド"の最大の親友でもあり、病んだ母親が依存して、そのまま不義密通の関係を結んでしまった男だ。』そう"彼女"が述べた時、私は脳天に落雷を落とされたかのような強い衝撃を受けてしまった。

     そうだ・・・私は"あの時"の事を忘れていたのではない──"思い出したくなかっただけなのだ"──幼い私が母に連れられて行ったあの教会にて、実の母の手で生贄にされてかけたというあの呪わしい事実を。

  • 74二次元好きの匿名さん21/09/20(月) 21:24:40

     事の発端は、父親の浮気であった。父の浮気──しかも、その相手が母の実の妹であった事実が明らかとなった時、母は烈火のごとく怒り狂い、半ばヒステリー状態となった。だが、反省して詫びるどころか寧ろ逆上した父は、家の財産の一部を勝手に持ち去った挙句、母の妹と共に何処かへと姿を晦まし、荒れ果てた家に残されたのは憔悴しきった母と私の二人だけとなった。
     その日以降、母は完璧に壊れた。耐え難い精神的苦痛と不条理な現実から逃れるべく、母は日に日に薬物やアルコール、宗教やスピリチュアルじみた思想・価値観へと傾倒し、その隙を突くかのように父の親友であった"イノック・ボウアン"は、母に"星の智慧派"への入信を進め、母はあの教団の熱心な信徒と化した。
     信者となって以来、母の目は狂気と狂喜を宿し、あの教団の色に完璧に染まっていた──それは今や亡き"ギルバート・インブリー"と全く同じ目の輝きであった。ある時、私は母の手によって半ば強制的に、フェデラル・ヒルの教会へと連れていかれ、そこで母達が祭壇と思わしき場所にあった"箱に張った不気味な宝石"を熱心に崇めていた。しばらくすると、祭壇のあった一室は突如として明かりが消され、それと同時に母を含む信者達は、私が聞いたことも想像したことも無いような不可解な言語を唱え始めた──今思えば、あれはまるでチベット仏教の読経のような不気味な雰囲気であり、言いようのない不安感を駆り立てる代物であった。


    「「「「「にゃる・しゅたん! にゃる・がしゃんな! にゃる・しゅたん!! にゃる・がしゃんな!!」」」」」


     信者達がそう唱え続けていると、祭壇に会ったあの宝石が赤黒い不気味な光を放ち始めた瞬間、私は闇の中で明確に浮かび上がる"ソレ"を見てしまった──部屋を覆い尽す闇よりも遥かに濃い漆黒の翼、そして火のように燃え上がる三つの眼を持った"悪魔"そのものの姿をした存在の姿を──

  • 75二次元好きの匿名さん21/09/20(月) 21:25:31

     彼らの崇める"神"と思われる存在──当時はおろか今思い出しても、私には"アレ"が"悪魔"にしか見えなかった──が顕現した時、私は信者達に無理やり抑えられ、"アレ"のほぼ眼前へと連れていかれてしまった。そこで"イノック・ボウアン"が微かな闇の中で母に刃物を手渡して、ハッキリとこう述べたのだ「信仰と帰依の証として、我らの神にこの子を捧げよ」と。
     私は思わず、母の顔を伺った──その表情には明らかな戸惑いが見えたが、母は意を決した様にその場で私を押し倒し、手にした刃物を勢いよく振り下ろした。私は恐怖の余り、目を閉じてしまったが、刃物が体に突き刺さる感触も、何の痛みも感じなかった──私が恐る恐る目を開けると、紙一重の所で刃は止まっており、同時に母の瞳から大粒の涙がこぼれ始めた。

    「・・・・・怖い思いをさせてごめんね、クライド・・・・。やっぱり、私にはできない・・・・・・!!!」 泣きながらそう述べた母の目は、かつての穏やかな母と同じであった。

     その後、何らかの覚悟を決めたような母は、怒鳴り散らす"イノック・ボウアン"を手にした刃物で勢いよく突き刺し、その瞬間、闇に包まれたあの部屋の一室は大きな混乱に包まれた──それからの記憶は殆ど無い。僅かながらに覚えているのは、母が私を逃すのと引き換えに"ヤツ"によって無惨にも引き裂かれた事、あの教会に何処からともなく火の手が上がり、勢いよく燃えていた事、そして、私がマサチューセッツ州アーカムにいる親戚によって、引き取られたという事だけである。
                                                ──多分あとちょっとで終わる
                                                   

  • 76二次元好きの匿名さん21/09/20(月) 21:59:26

    > 『夜の蛇"デンダー"』、『混沌の猟犬"ケゼフ"』、『死して生まれし世界"アトロパス"』、『昇天者"ルラモーレック"』、『苦き炎"ゼリシュカー"』、『歩く長虫"キュス"』、『ゾレサの巨象群』、『夢で三度待つ者"アニ=マン・マン"』、『爆ぜし荒野の大公"シス=ヴィサグ"』、『狼蜘蛛"ミスカ"』


    イッチさあ…寝る前に厨ニ病を刺激すんのやめてくんないマジで

    どんな奴らか気になってしょうがないんですけどぉ!?

  • 77二次元好きの匿名さん21/09/21(火) 20:36:47

    >>75


    『フフッ、思い出しただろう? 貴様が矮小な我が身を守るために、記憶の奥底へと封じていた"あの日"の出来事を。』


    「・・・・・な、何故、お前がそれを知っているのだ・・・・!? 私ですらその殆ど全てを忘れていた"あの日"の出来事を何故、見ず知らずの他人であるお前が、完璧に覚えている!!??」最早、私の震えと恐怖は止めようがなかった。


    『フフフ・・・フハハハハハハハハハハハハッ!! "既に貴様とはあの教会で出会っているではないか"・・・!! 私の"この姿"に見覚えがあるだろう!?』 そう言い放つや否や私の目の前にいた"彼女"は、瞬く間に姿形を変え──恐怖そのものの姿をした"あの悪魔"が、その目の前に顕現した。フェデラルヒルの教会で私の母を八つ裂きにした"あの悪魔"が・・・・・!!



    『・・・最早、怯えて声すら出せぬか。貴様の目の前に実の母の仇がいるというのに・・・。 フフフ、今頃貴様の母も草葉の陰で泣いているだろうなぁ。 だが、まだ終わりではないぞ? 貴様の母親が崇拝せし神たる我が名、直々に教えてやろう。光栄に思え。』



    『我が名は這い寄る混沌"ニャルラトテップ" 遍くグレート・オールド・ワンの中で最も古く、最も強大たる一柱にして、魔王"Aℨبابーחומץ"の意を代行する者なり!!』




    『さぁ、貴様の欲していた"願い"は、全て叶えられたぞ?クライド・ウィンウッド!! 次は、慈悲深き我が"救い"を──矮小なるその身で永劫の探求へと踏み出した貴様に、窮極の"真理"を授けてやろう!!』 "ヤツ"──"ニャルラトテップ"がそう述べた瞬間、私達はこの闇黒の空間から姿を消した。

  • 78二次元好きの匿名さん21/09/21(火) 20:37:43

     
     一刹那にも満たない僅かな出来事であった。気が付けば私達はあの閉ざされた闇黒の世界から、"言語はおろか思考を持ってすら表現することも理解することもできない領域"へと辿り着いており、今や私の本能と魂が全身全霊を持って叫び荒れ狂っていた──ここは、定命の存在如きが決して足を踏み入れてはならぬ"セカイ"だと──
     そして、同時に私は窮極の渾沌と虚無の彼方へと辿り着いたしまった自身の運命を悟り、その切欠となった"今までの全て"を只々呪っていた。 そんな時だ──あの"少女"の姿へと何時の間にか戻っていたニャルラトテップが私に向かって、拍手をしながらこう述べた。


    『Fools! Welcome to your doom!(愚か者よ!滅びへようこそ!)』"ヤツ"の邪悪な笑みと悪意は今や最高潮に達していた。

    『ここは"マウス・オブ・マッドネス" 我等が"盲目白痴の神"が座す、無限無窮の宇宙の最奥、沸騰し湧き立つ原始の渾沌の中心であり、ここに到達できた定命の存在など、僅か片手で足りる。』


    『しかも、シャンタクではなく私直々に連れてこられたとなれば、探求者としての冥利に尽きるだろう──大いに啼いて悦んでくれて構わないんだよ? クライド・ウィンウッド?』



    『・・・もう壊れてしまったか? だが、まだ早い。ここからが"本番"だ。』そう言い終えた途端、何処からともなく"ぐぐもったフルートとオーボエ、そして野蛮な太鼓の連打"が聞コえ始めタ

  • 79二次元好きの匿名さん21/09/21(火) 20:38:12

     

     音ガ・・・か細イフルートの魔笛と下劣naオーボェ・・・狂ッタ太鼓のおト・・・・・!!!!!! 


     ソレ2合waセ手踊り狂宇・・・・バ⒦物℃も・・・・・!!!!!!!!!!


     そ死テ・・・・・!!!!!!!!!!ソ盧中sinニzaすnオ🅆ァ──────

  • 80二次元好きの匿名さん21/09/21(火) 20:39:23

    『おやおや、"完全に消し飛んでしまったか" まだまだ見どころは沢山あったというのに。』



    『・・・・フン、相も変わらず下らん乱痴気騒ぎだ。』

    『精々、微睡んでいればいい──私としても下手に覚醒されては困るのだから。』私はぐぐもったフルートとオーボエ、野蛮な太鼓の連打に合わせて踊り続ける蕃神と"その中心に座す存在"に向けて、小声で嫌味を放つと、私は無意識の内に子守歌のようなものを口ずさんでいた。


     ──見ている夢はどんな夢

        盲目白痴の魔王様

       蠢き悶えて宇宙を壊す
     
     起こしちゃいけない "Aℨبابーחומץ"

      微睡め 微睡め 永久に──
       

     私の歌はいつもの皮肉と嘲笑か──それとも私の切なる"願い"か──

     私はおろか"Aℨبابーחומץ"ですら分かるまい。

     気が付けば私は、いつもの"笑み"を浮かべていた。


                                                     ──END

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