- 11◆ifPRYIRKeo25/10/19(日) 15:40:26
昼が長くなった事で、季節の変わり目を如実に感じる。少し前まで夕日に照らされていた放課後の通りも、頭上高くに煌々と輝く陽光に照らされている所を見ると印象が変わるというものだ。
影に隠れて見えなかった猫の隠れ路。誰かが残したやけにハイレベルな落書き。そんなものものを横目に、マカロンの入ったビニール袋を提げ、のんびりと足を進めていた時だった。
「────?!」
びゅう、と風の吹く錯覚。頭上を、大きな影が通り抜ける。
右手側の高い塀を乗り越え、縁を蹴って反対の塀もひとっ飛び。逆光でよく見えなかったが────特徴的な猫耳と大きな銃身を肩から提げているシルエットは、すっかり見慣れた物だった。
「……カズサ?」
身軽だとは常々思っていたが、あんなパルクールの様な真似が出来るとまでは知らなかった。他人の空似という事もあるかもしれないけれど、その身のこなしがカズサの物であると言われれば驚きはあっても不思議には思わない。
なにせついこの間、肩を並べて“鬼ごっこ”をした仲だ。 - 21◆ifPRYIRKeo25/10/19(日) 15:42:33
「何をあんなに急いで……」
はてと首を傾げながら漏らした問い。その答えが先程、推定カズサがやってきた方の塀の裏からよじ登って声を上げる。
「────ふ、ぐぐぅ~~っ…!!怪、猫っ!『キャスパっ、リ~~グ』ぅう゛~~!!」
……ゲームのキャラクターみたいな『異名』を掛け声代わりに、顔を真っ赤にしながら。綿あめみたいな色の髪を揺らす少女が───
「ふ゛ぎゃっ!」
「うっわ……」
塀の上でバランスを崩し、私の前に顔面から転倒。若干舗装の荒いデコボコなアスファルトの上に、鼻から。痛そうが過ぎて思わず顔を顰めてしまう。……というか、無事だろうか。
「……あの。大丈夫……?」
駅前で貰った未開封のポケットティッシュを片手に差し伸べた手を握り、真っ赤になった鼻を擦りながら起き上がる彼女。滲んでいた涙を拭い、立ち上がった制服はトリニティの物。……覚えのない顔だが、後輩だろうか。
「う゛ぅ~~……す゛びま゛ぜん、あり゛がとうござい゛まず……」
「……あんな塀を登ったりしたら危ないよ?何してたのさ」
背格好から判断して、勝手に先輩面。そうでなくても正論。文句は言わせない。目に付く土埃を軽く払ってやりながらそう問いかける。
「何を……あ゛っ!!」
壁に反響して声が響き、向こうの木から鳥が数羽飛び立った。思わず後退りをした私に掴みかかる様に───そっと両手を肩に沿え、まだ赤みの引かない鼻を思い切り近づけて、彼女は問う。
「そうです、すみません!!キャスパ、───杏山カズサ、どっちに行ったか見てませんか!!?」
───後方から僅かに、その声に驚いた野良猫が飛び退く悲鳴が聞こえた。 - 3二次元好きの匿名さん25/10/19(日) 15:45:09
お帰りなさい、復活ありがてえぜ…
甘い秘密と銃撃戦編開始、楽しみ
スレ主もマジカルレイサ引かれるんですかね - 4二次元好きの匿名さん25/10/19(日) 15:53:43
おぉ!?スイーツ部シグレの人!?帰ってきたんかおかえり!
- 5二次元好きの匿名さん25/10/19(日) 15:59:11
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- 61◆ifPRYIRKeo25/10/19(日) 16:01:01
前スレ
https://bbs.animanch.com/board/4409007
https://bbs.animanch.com/board/4487376
https://bbs.animanch.com/board/4823867
あらすじ
遡ること1年前、『育ての親』の紹介状を通じてトリニティへの入学を果たしたノドカとシグレの立ち上げた「天文部」は、ノドカの熱意やシグレの人柄に惹かれた生徒達の間で人が人を呼ぶ形で急激な成長を遂げた。しかし、ノドカの「覗き癖」が問題となり廃部となってしまった事が、トリニティ内でも過去に類を見ない程の巨大なデモの引き金を引く。 シグレの尽力の末に事態は収拾へ向かい、ノドカはナギサの”温情”により補習授業部へ。シグレはヨシミに勧誘を受けて放課後スイーツ部に入部。先生やスイーツ部の言葉を受け、シグレは徐々に考えを改めていく。
アリウスによるナギサの襲撃、そしてエデン条約調印式を襲った未曽有のテロ。トリニティを取り巻く事件に巻き込まれ、或いは盤上を搔き乱しながら取り戻した日常。カズサとシグレの怪我が完治して暫く経った、ある夏の日。シグレの下へ、新たな出会いが舞い込んでくる───。
- 71◆ifPRYIRKeo25/10/19(日) 16:07:22
……ご無沙汰しております。マジカル自警団実装確定に際してホスト規制も解けたのでこいつぁ好機と勢いで立てました。昨日の今日で冒頭だけ書いてみたのであんまり先が見えていないのが正直なところですが、頑張って書きます。どうぞよしなに……
夜にがっつり書いて即投げるつもりでいるので10まで取り敢えず埋めちゃいますね - 81◆ifPRYIRKeo25/10/19(日) 16:12:55
- 91◆ifPRYIRKeo25/10/19(日) 16:20:58
間宵シグレ
トリニティ総合学園二年生、放課後スイーツ部所属。一年生の頃はハナコに次ぐ“優等生”として、当代のティーパーティーからも一目置かれていた。天文部の副部長を務めていたが、ノドカの度重なる問題行為により廃部、本人は退学処分一歩手前。それを助けるべく駆け回っていた。
天見ノドカ
トリニティ総合学園二年生、補習授業部所属。入学当初に天文部を設立し、偶然が重なり規模を拡大するも、本人の“覗き癖”により廃部に。部員たちの煽りに押される形で、ティーパーティーに対し暴動を起こすも、正実に鎮圧される。一時期は退学処分も見えていたが、シグレの尽力とナギサの温情により、「二年次から補習授業部への強制転部」で済まされ、今に至る。
桐藤さん
シグレとノドカの育ての親。シグレも苗字しか覚えていないらしい。レッドウィンター自治区の、山奥の小屋で二人を育てていたが、ある時を境に、後に二人の愛銃となる二丁と、トリニティ総合学園への「紹介状」を残し、姿を消す。二人との血縁関係の有無やナギサとの関係性、現在の所在・安否は不明。 - 101◆ifPRYIRKeo25/10/19(日) 16:33:32
杏山カズサ
トリニティ総合学園一年生、放課後スイーツ部所属。聖園ミカとの“鬼ごっこ”の末、シグレと揃って全治数週間。入院中、無断で布団を持ち出した件で叱られた際、とある部員にチェンソーを向けられたと怯えていたらしい。団長はむしろ肯定派だったという。
栗村アイリ
トリニティ総合学園一年生、放課後スイーツ部所属。お見舞いの悪戯の時よく他3人に盾にされる。シグレに逆ドッキリと題してシグレのお酒を飲むふりをしたら、調印式の時の事を真面目に謝られて申し訳なくなった。
伊原木ヨシミ
トリニティ総合学園一年生、放課後スイーツ部所属。ナツの悪戯第三弾である「お見舞いのメロンの中身がスイカドッキリ」を提案した。微妙な顔をされてあまり盛り上がらなかったのをシグレのせいにしている。
柚鳥ナツ
トリニティ総合学園一年生、放課後スイーツ部所属。お見舞い時の悪戯を画策しようとした張本人。第一弾は某たべっこなんとかの中身を全部一緒の形にして持って行った。ジャブだからと地味なのにしたら「日和ってんの?」と言われて火がついたらしい。 - 111◆ifPRYIRKeo25/10/19(日) 19:00:22
「ふーー……撒いた撒いた。あーしんど……」
念には念を入れた逃走経路。わざわざ普段通らない道まで使って逃げていたら、部室のある校舎と全くの反対方向まで来てしまった事を地図アプリで確認し、げんなりしながらため息を漏らす。
「ったく、しつこいんだから……はぁ。部室いこ」
耳に残るうるさい声。何も考えていなさそうな顔。初手の不意打ちで一発貰った背中がまだ少しだけひりひりする。幸いなのは、スイーツ部の他のメンバーが一緒に居なかった事ぐらいだ。
「……ホント、空気読めないヤツ」
彼女が脳裏に残す情報の全てが、「あの頃」の自分を思い出させてくる。堪え切れず漏れ出た愚痴を、誰の共感も無い虚空へ独り言つ。
自分を大きく見せる丈の長いスカート。字面で脅かす為の漢字の当て字の刺繡。あっちこっちから釘を撃ち込んだ木製バット。柄を揃えたマスクを着けて、群れの長を気取ったあの頃。
思い出したくもない黒歴史。それを掘り起こして、叩きつけて───あの、汚れた挑戦状の封筒みたいに。ようやく塗りつぶせそうだったものを。アイリとナツと、ヨシミとシグレが───、
「────」 - 121◆ifPRYIRKeo25/10/19(日) 19:03:19
シグレ。
一つ上の先輩で、スイーツ部の後輩。どっちの序列もあんまり気にしたことは無いけれど、───1年。シグレが私よりもこの学園で多く過ごしたそれだけの時間は、確かに存在している。
中学生の私が伝説の怪猫として名を馳せていた頃。名を馳せているのが格好良いとか勘違いしていた恥ずかしい頃。シグレが何をしていたのか、私は知らない。
けれど、おそらく、きっと。
「何か、あったんだろうな」
似ている、と思った。あの日の画面越しに見た気味の悪い化け物に、千人以上のトリニティ生を率いて立ち向かう姿を。そして、その事を他三人から詰められても、いつもの下手くそな誤魔化し方で乗り切ろうとする姿を見て。
気にならない訳ではない。というか気にならないはずがない。あんな顔して舎弟が1000人居ます、なんてのを目の前で見せつけられていや待てと言わない方が難しい。難しかった。
『誰にだって、話したくない過去はあるでしょ』
───でも、それが全てだから。
「────ふう」
……などと。頭の中の「宇沢」を振り払う様に、別の事を考えてながら歩き続けて数分。視界に広がる見慣れた通り。あっちはこの間ヨシミと行ったお店、こっちは前に勉強会をしたお店。
帰郷、というと大げさすぎるけれど、この辺りを歩く時は少しだけ安心する。
昔の私とは一番遠い場所。今の私と一番近い場所。 - 131◆ifPRYIRKeo25/10/19(日) 19:04:37
「折角だし、あそこのロールケーキでも…………」
と、視界の端に映った店の方へ。ふらりと爪先を向け、寄り道を企てたその瞬間。
からんからん、とドアベルが鳴って、血の気が引くのを感じた。
「───ふう。美味しかったね、ここのお店」
「はいっ!!……お、奢って貰っちゃって、ありがとうございます!!お礼と言っては何ですが、お困りの事があればいつでも───」
───即座に地面を蹴って、真横に跳ぶ。お店の間、路地に体を潜り込ませるように。同時に、片手で握ったフードを深く被り、壁に背を預けて俯き、スマホに目を落とすフリ。
店を出て、爪先をこちらに向けるのが見えた瞬間からこの間、1秒足らず。我ながら人生で一番早く身体を動かした気がする。ぐねったかも。足痛い。
どうだこうだと話しながらすぐ横を通り過ぎていく二人組を見送って、そっと壁から顔だけを覗かせ、背中を見て見間違いでない事を確認。
……桃色と紫の入り交じったような大きなツインテール。淡い空色の髪と同じ、毛先が焦茶の大きな尻尾。
何度瞬きしても、蜃気楼のように消えたりはしない。そこで私が見た物は、
「────なんで、シグレと宇沢が一緒に……っ!?」
ある種、「昔の私」と「今の私」の、交差とも言えるような邂逅だった。 - 14二次元好きの匿名さん25/10/19(日) 20:38:39
- 15二次元好きの匿名さん25/10/19(日) 20:41:58
懐かしい……!!!
それと生きててよかったワレ - 161◆ifPRYIRKeo25/10/19(日) 21:26:59
続きもちょっと書けてるけど朝に投げて延命を試みます
物書くの久々でリハビリも兼ねてるのでご容赦を...1レスずつでも毎日更新を目標に
ナツにはいろいろと気に入られてそう、ヨシミとはお互い隙を伺ってイジり合ってそうだな、という印象
カズサアイリとは勿論仲は良いし信頼感もあるんだけど、他二人と比べると若干距離感があるかな......と思いながら書いてます。解釈としてはどうかな...... - 17二次元好きの匿名さん25/10/20(月) 00:20:48
ナツ、ヨシミは性格的にもイジったりイジられたりで波長が合いそうだとは感じる
カズサはレイサイベント、アイリはシュガライベント通過しないとどこか引け目みたいなものが残っちゃうとか? - 181◆ifPRYIRKeo25/10/20(月) 07:40:11
「...............」
「...............」
その日の放課後スイーツ部は、普段と全く違う様相を呈していた。
張り詰めた空気。一触即発の雰囲気。主に一名に集中して注がれる、突き刺す様な眼光。
「......ねぇ、ナツ。ちょっといい?」
「.....奇遇だねヨシミ。私も聞きたい事が」
目線は"そちら"を向いたまま、手に持ったスマホで口元を隠し、声を抑えて隣に座るナツに訪ねかけるヨシミ。牛乳パックのストローを口に咥えたナツも、肩身狭げに小声で尋ね返す。
「「シグレ、何したの...?」」
机を挟んで向かい合うように座ったシグレとカズサ。後者が頬杖を突いて机に置いたフラペチーノに口を隠したまま、前者を斜め下から無言で睨めつける構図。
黒い強調線を幻視する程のプレッシャーが傍から見ているだけのナツとヨシミにまで届く位なのだから、睨まれている張本人の感じる重圧は計り知れない。
蛇睨みの被害者、シグレはというと。ぴん、と真っ直ぐ背筋を伸ばし膝の上に手を置いたまま硬直。買ってきて広げたままのお菓子に手を伸ばす事も許されず、汗を垂らして見合ったまま。
二人が膠着状態に陥って、15分が経過しようとしていた────。 - 19二次元好きの匿名さん25/10/20(月) 15:22:26
ナツとヨシミもいるから話が始められずに圧だけかかってるのかわいそ…
- 20二次元好きの匿名さん25/10/20(月) 21:29:23
シグレとしても心当たりないからどうすればわからず固まっちゃうやーつ
- 211◆ifPRYIRKeo25/10/20(月) 23:56:10
そんな冷え切った空気を、切り裂いたのは。
「お待たせ~……!今日までの提出物出しに行ってたら遅れちゃっ───」
部室の外から状況が飲み込めるわけもなく、いつも通りの調子で戸を開ける。走って来たのか少し息を切らし、頬を赤く染めたアイリの姿。
刹那。言葉もなければ目配せもなく、部室に踏み込んだ彼女をほぼ同時に視界に収めた二人の脳裏に浮かぶ“”“好機”““の二文字。
((シグレには悪いけど、一刻も早くここを抜け出すべき───!!))
暗黙の了解。シンクロする思考。何時炸裂するやも分からない爆弾の隣に15分、神経の研ぎ澄まされた二人の行動は早かった。
「────へ?」
同時に椅子を引き、同時に立ち上がり、部室外へ追いやる様にアイリに詰め寄るナツとヨシミ。奥の修羅場を目にするまでもなく、アイリは目を点にして硬直する。
「───さて。これにて我ら放課後スイーツ部、本日も晴れて全員集合という訳だが。何か足りないとは思わないかね皆の衆!そう!わかるだろうヨシミ君!」
「……は!?私に振ん゛っ……え、えと、そう!紅茶ね!切らしてたわよね!!」
「(……カズサがフラペチーノ買ってきてるけど)」
「(うっっさい!!文句言うならあんたが言い訳見繕えば良かったじゃない!!)」
呆気にとられるアイリを二人で揃って押しだすように。流石にディテールまで以心伝心とはいかなかった作戦を、ごり押しで決行。
「と……とにかく、私ら買い出し行ってくるから!留守番よろしく、二人とも!!」
言いながら、逃げる様にアイリもろとも飛び出していくヨシミに続く直前、ナツは捨てられた仔犬の様な表情をしているシグレの姿を一瞥する。
「……っちょ、待っ────」
「(すまない、シグレ……骨は拾うよ────!)」
絞り出す様な救援要請に胸に手を当てて返答。曰く「無理」と。……ばたんと、ナツの姿を隠す様に扉は閉じた。 - 221◆ifPRYIRKeo25/10/20(月) 23:57:15
(ウルトラ牛歩更新でごめんなさい……今週中はこの調子かもです……)
- 23二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 08:20:19
ごゆっくり
- 24二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 13:32:36
カズサからも切り出しにくい状況だよね、「知られたくないことをそもそも知っているかどうか」という状況なので
だから圧をかけてシグレから思い当たることを話させる…(これでゲロったら口封じ、知らないなら釈放させられる)