【SS】ラン・ラララン・ランラララン・ランラン・ランチ・ランチキ・チェキ

  • 1二次元好きの匿名さん22/07/24(日) 20:43:39
  • 2二次元好きの匿名さん22/07/24(日) 20:44:24

     ゴルシがお弁当を作ってきてくれることになった。
    「どーせロクなもん食ってねーんだろ?」
     カップラーメンとは醤油とマヨネーズその他諸々の調味料の組み合わせで無限のヴァリエーションが得られるもので、甚だ心外ではあったが、せっかくの担当の厚意だ。これをむげに断ることもない。

  • 3二次元好きの匿名さん22/07/24(日) 20:44:52

     月曜日。
    「よっ、トレーナー。約束通り弁当作ってきたぜ。うんうん、みなまで言うまい。先週から絶食して、今日を楽しみにしてたんだろ?」
     さて一昨日はともに鰻に舌鼓を打ったのだが、そんなことを口にするのは野暮だろう。口にするのはゴルシ謹製の手弁当だけでいい。
     錨のマークがかわいらしい布巾をほどくとそこには二段積み、長方形の弁当箱が鎮座している。おそるおそる蓋を開ければどうだ、つやつやと白く輝く白米が出迎えた。いったいどのような魔法を使ったのだろう、すっかり冷めたご飯はねばつかず乾かずその魅力を保ち目を惹き付けてやむことがない。隅に添えられた漬け物は口に含む前からその爽やかさをこれでもかと主張し、暑い夏の昼下がりに嬉しく存在感を放っている。
     しっかり焼かれた卵焼き、ほうれん草のおひたし、ごぼうのきんぴら、にんじんしりしり、メインとなる塩鮭。物珍しい逸品はないが、だからこそ安心感に満ちており、ふんだんに敷き詰められた弁当箱の縁から魅力が溢れだしては食欲を強く刺激する。
    「へっへー」ゴルシは得意げに笑う。「やっぱさ、食べ慣れたもんが一番だろ? 今日はいつもより早起きしてがんばったんだぜ。さあさあ、しっかり食べて昼からもよろしく頼むよトレピッピ」
     感涙にむせぶとはこのことか。
     箸は止まらなかった。米を、漬け物を、おかずを口に運ぶほどに、とめどなく涙がこみ上げてくる。ゴルシの姿がなければ泣き出してしまっていたかもしれない。それほどまでに懐かしく、勇気づけられる味付けだった。昼からも頑張ろう。自然とそう思えた。

  • 4二次元好きの匿名さん22/07/24(日) 20:45:24

     火曜日。
    「ピスピース。なんだよなんだよ。今日もシケたツラしてんなあ。これから毎日ゴルシちゃんのお手製弁当が食べられるんだから、もっと嬉しそうにしろよな」
     包みは小さい。
     はて、昨日とはどうも趣が違う。淡い緑に白を彩った包みに手を伸ばすと、ゴルシはそれを制する。
    「待った待った。おいおい、ちゃんと見てくれよ。今日は弁当箱の包み方にも気を遣ったんだぜ?」
     よくよく観察してみると、結び目は花を模したように見えなくもない。
    「じゃ、一枚」
     パシャリ。
     ゴルシはウマホで自撮りを撮影する。弁当も映ってはいるがメインはむしろ彼女のようで、花のような結び目は自分を際立たせる飾りつけの一つだとでも言わんばかりに隅に追いやられているようだ。
     許可をもらったので蓋を開ける。
    「じゃじゃーん!」ゴルシが叫ぶ。「名付けて『ミニゴルシちゃん弁当』! どうよ、カワイイだろ?」
     そこにはいったいどのような食材をどのように切り貼りしたのか、勝負服姿のゴルシがデフォルメされて表現されている。キャラ弁というやつだろう。いかにも女の子が喜びそうな、写真映えする一品だった。
    「まだ食べるなよ。……よし、次はトレピッピも映ってな。はい、ピスピース」
     パシャリ。
     旬の食材を彩りよくふんだんに使った弁当は美味だったが、どこか釈然としなくもない。

  • 5二次元好きの匿名さん22/07/24(日) 20:45:52

     水曜日。
     警戒しつつトレーナー室で待っているとゴルシが扉を蹴破ってきた。蹴破ってくるのはいつものことなので特に驚く必要もない。驚いたのは、右手に弁当箱の包みを突き出しつつ、左脇腹にライスシャワーを抱えていたことだった。
    「これっくらいの♪」ゴルシが歌う。
    「こ、これくらいの……?」ライスシャワーは動揺を隠せない。
    「あのさあ、お米よぉ」ゴルシはテンションを急降下させて肩をすくめる。歴戦の航空部隊でもこうは急角度に降下できないだろう。「オマエの歌なんだぜ! オマエが歌わないで、いったい誰が歌うってんだ!」
    「え、えぇ……?」困惑したライスシャワーと視線がぶつかる。ご愁傷さま、謝罪とフォローはあとでいくらでもさせていただきます。「ら、ライスのお歌なの……?」
    「そうだ! さあ、覚悟が決まったら行くぜ! スリーツーワン、ハイ!」
    「こ、これっくらいの!?」
     つまりお弁当の歌だ。
     ライスシャワーはライスだがライスではなく、むろんライスボールではないのだが、そんな常識的な説得がゴルシに通用するはずもない。
    「ご、ゴールドシップさんのトレーナーさん……こ、こんにちは」
     はいこんにちは。
     歌詞の通り地味ではあるが米の進む弁当を食べながら、奇妙な水曜日は終わる。

  • 6二次元好きの匿名さん22/07/24(日) 20:46:24

     木曜日。
     そろそろネタ切れだろうと思ってトレーナー室の扉を開くと、そこは寿司屋だった。
    「……どうぞ、掛けてください」
     鋭い眼差しのゴルシが言う。
     執務机は片付けられ、代わりにカウンター席が設けられている。ショーケースには宝石のような輝きを放つネタの数々が並んでいる。そのどれもが丁寧な職人仕事を感じさせる仕上がりで、面倒な下処理やひと手間を惜しまなかったことがありありと伝わってくる。
    「なんにしやしょう」
     とりあえずタマゴで。
    「……お客さん、通ですねぇ」
     果たしてゴルシは包丁を振るい、厚焼きタマゴを慣れた手つきで切り分けていく。
     あ、おいしかったよ。タダでいいのか、ほんとに申し訳なるくらい。

  • 7二次元好きの匿名さん22/07/24(日) 20:46:54

     今日は金曜日のはずだが、気がつけば野山に連れ出されている。
     ベッドごと。
    「いい朝だな!」ゴルシがきらきらとした笑顔で叫ぶ。「さあ、弁当の材料をとりにいこうぜ!」
     それは獲りにいくという意味であり。
     採りにいくという意味でもある。
     むろん狩猟採集の経験などあるはずはなく、釣りでいうところの坊主のまま太陽は高く正午を告げようとしていた。
    「ったく、しょうがねぇなあトレピッピは」なんだか嬉しそうでもあるゴルシは籠いっぱいにきのこを積め、野鹿を担いで茂みから姿をあらわした。「アタシがいなけりゃ今ごろ飢え死にだぜ。感謝してくれよな!」
     そもそも連れ出したのは誰なのか。
     塩を振っただけの鹿肉のソテーは滋味にあふれ、噛めば噛むほど力がわいてくるようだった。脂身で炒めたきのこの豊潤な味わいはどうだろう、これが山の懐の深さかとその奥行きにただただ感じ入る。都会での生活では決して得ることのない満足感がそこにはあった。余った鹿肉はもちろん持ち帰り、オグリキャップをはじめとして旺盛な食欲のウマ娘に楽しんでもらった。

  • 8二次元好きの匿名さん22/07/24(日) 20:47:32

     土曜日。
     まさか休みの日にまで弁当を作ってくるはずはないだろうと思っていたところ、家に押しかけてきたゴルシは照れくさそうに「ん」と弁当箱を突きつけた。
     やけに軽い。
     気になって昼前に蓋を開けてみると、そこには一枚の食券が入っている。ああちくしょうやりやがったなと車を飛ばしトレセンに向かい、食堂に足を運ぶとそこにはコックコートを着たゴルシが立っていた。
    「ようトレーナー! おっ、なんだよなんだよゴルシちゃんスペシャルフードチケットを持ってるじゃねーか。いやーラッキーですぜシャッチョさん、今日はそれを使わない手はないってなもんで。じゃ、ちょっと待ってな。腕によりをかけて作るからさ!」
     食券を渡すとそんなことをまくし立てながら、忙しない空気の厨房の奥へと消えていく。
    「はい、お待ちどぉ!」
     配膳してくれたのはいつものおばちゃんであり、トレーには周りのみんなが食べてるなんの変哲もない日替わり定食が載っており、のちのち聞いた話によると、なんならゴルシが料理をしたわけでもない。

  • 9二次元好きの匿名さん22/07/24(日) 20:48:05

     夜になって、電話をかける。
    「おっす、トレーナー。こんな時間にどうしたんだ? いやいや、当ててやろっか。寂しくなってゴルシちゃんの声が聞きたかったんだろ?」
     明日の昼は空けておけ。
    「……はあ?」いぶかしげな様子の声が受話器越しに届く。「なに言ってんだ? どういうことだよ、それ」
     いっしょにランチを食べないか、ということだ。
    「……まあ、いいけど。でもさー、こう見えてゴルシちゃん、忙しいんだかんな? 付き合ってもらって感謝しろよ、このこのー」
     感謝しろだなんて、そんなことは言うまでもない。
     言うまでもないが、言う。
    「わかった。寮の正門前にいりゃいいんだな?」
     待ち合わせの約束をして、電話を切る。
     さて、明日は早起きだ。

  • 10二次元好きの匿名さん22/07/24(日) 20:48:37

     日曜日はよく晴れ渡っていた。暑いが湿度は低く、いかにも夏らしい空と空気で心地よい。
    「……よっ」
     寮の正門ではゴルシが待っている。いつもの姿。制服とヘッドギア。特に何を言うでもなく歩きはじめる。
    「どこに行くんだ?」
     ちょっとそこまで。
     事実、さほど遠くはない。比較的緑が多いだろう近隣のある自然公園が、今日の目的地だ。
    「ンだよ、トレーナー。言いたいことがあるならハッキリ言えよ。あっ。ひょっとして、アタシが魅力的すぎて言葉が見つかんないのか? いやー、罪作りなのも考えもんだな!」
     軽口にいつものキレはない。
     公園に入って、少し歩いてから、開けた芝生の上に、レジャーシートを広げる。もちろん木陰。爽やかな風がさやさやと吹く。よく冷えたハーブティー。それから、サンドイッチを詰めたランチボックス。
    「いっしょに食べよう」
     そう告げると、ゴルシは一瞬沈黙した。
     この一週間のこと。作ってもらってばかりで、与えてもらってばかりで、昼食の喜びを分かち合うことはできてなかった。だから、これはせめてもの恩返しだ。いつも楽しい時間を過ごさせてくれる、最愛の担当に向けた、ささやかな感謝の形。
    「そういうことならさっさと言えよなー!」ゴルシの表情が、ぱっと明るく輝いた。「ホテルでフレンチでも食わされるんじゃないかって、内心ヒヤヒヤしたぜ! トレピッピの手作り弁当なら、いつもの制服でも気にしなくていいもんな。じゃ、食おうぜ。先に言っとくけどなー、ゴルシちゃんの批評は容赦ねーぞ?」
     白い頬が、ほんのりと色づいている。
     猛々しい青草の香りに鼻をくすぐられ、木陰のすき間に流れる入道雲を見ていると──それはきっと、夏の暑さがそうさせているのだろう。あるいは二人で熱っぽく、夏の昼下がりを楽しめたなら、上気した頬のことなど、なんら気にすることはない。
     チェキ、と。
     ランチボックスを挟んで、二人で写真を撮る。

  • 11二次元好きの匿名さん22/07/24(日) 20:50:14

    以上です
    かわいいゴルシちゃんもいいと思います

  • 12二次元好きの匿名さん22/07/24(日) 20:52:48

    めちゃめちゃかわいいしトレーナーに実質尽くしてるの良い

  • 13二次元好きの匿名さん22/07/24(日) 21:14:41

    >>12

    ありがとうございます

    見切り発車で一気に書いたので

    そんな風に感じてもらえて嬉しい限りです

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