- 1二次元好きの匿名さん23/02/05(日) 18:02:25
ウチがお嬢＿ダイイチルビーに初めて会った時の事はよく覚えている。その姿を見た瞬間、全身に雷に撃たれた様な衝撃が走った。はっきり言って一目惚れだった。何故惚れたのかと問われば理由は説明できない。強いて言えば、運命的な何かを感じたといった所か。
何にせよ、以降のウチはお嬢に対し積極的にアピールを続けた。一緒に走れば、レースで強さを示せばれ、いつかお嬢の笑顔を見れるのではないかと期待して。自分がアガる走りを体現しつつがむしゃらに勝ち続けた。でも、その期待は脆くも崩れ去った。あの有馬記念。ケイエスミラクルに再起を焚きつける為のレースで、確かにお嬢は笑った。しかし、それはウチとは違うもの。お嬢はウチの様に笑わない。『私と貴女では見ている世界が全く違う』。以前言われた言葉が頭をよぎった。その後もウチは自分のスタイルを変えることは無かったけれど、心の何処かであの時の事が燻っていたのだ。
「御機嫌よう、少しよろしいですか？」
「お嬢！？」
そんなある日、お嬢が寮のウチの部屋を訪ねてきた。このまま放置するわけにもいかないのと同室の子が留守なのもあって、ウチはお嬢を部屋に招き入れた。同時にこれは非常に稀な事であると感じていた。今までのお嬢はウチに対して塩対応を繰り返していて、こちらのノリに乗ってくれたことなど無い。ましてや、寮が同じとはいえ向こうから接触してくるなど、想定外の事態であった。自分のベッドに腰かけて着席を促すと、お嬢はウチの隣に腰かけた。これもまた距離感が近い。何かあったのか
「…どしたん？とりま話する？」
「そうですね…貴女に話したいことがあります」
話を促すと、お嬢は頷いた。公の場で言うのは控えてきたと前置きしてだ。何かを決心した様な表情が、これから話す内容の重要性を示している。お嬢が語り始めたのは、思いもよらぬ事柄だった。
「率直に言うと、私は貴女に少々憧れていたのです。その在り方が羨ましいと」
「へ？」 - 2二次元好きの匿名さん23/02/05(日) 18:03:09
一瞬何を言っているのか分からなかった。いや、理解しても尚驚きを隠せなかった。初耳だったからだ。だって、お嬢は今までそぶりすら見せなかったから。呆けているウチを見つめながらお嬢は話を続けた。あまり共感出来なかった概念だけど、お嬢にとって『華麗なる一族』は世界の全てだった。逃げることなど選択肢に無い。一族のウマ娘として勝利を捧げることこそが最重要事項だった。でも、外に出てそれが全てでないことを知った。特にウチとの関わりは新鮮だったと。お嬢は意外でしょうねと呟いた。無論、意外も意外である。
「以前、住んでいる世界が違うと言いましたね」
「い、いぇあ」
「でも、それはこうとも言える。貴女は私に無いものを持っていた」
その自分にないものに感化され考えが変わっていった。表に出ていないだけで、お嬢の心は変わっていった。加えて、近年の状況もそれを後押ししたという。ウチが短距離マイルの主要GⅠをあらかた制覇したせいで、お嬢は勝ち星を挙げられなかった。一族の期待に応えられなかった。故にお嬢の権威は失墜し、歓声は落胆に取って代わった。それは、お嬢にとって余りにも不甲斐ない結果。ウチとレースを走っていたあの時から、お嬢の心は軋んでいたのだ。なら、今のお嬢にはどれだけの負担がかかっているというのか。この告白に対し、ウチはただただ硬直し驚くしかなかった。
「だから、私はいっそのこと……逃げてしまえば」
お嬢が零す吐露はとまらない。この会話でお嬢の全てを理解できたわけじゃない。でも、この思いが全て吐き出された時は、何か致命的なことが変わってしまう気がした。だから―――――
「お嬢！それなしよりのなし！」
ウチはお嬢の言葉を遮った。以前ならお嬢の変化を歓迎していただろう。でも、今は違う。ウチとお嬢は違うんだ。同じになっちゃったら、それはウチが惚れた『お嬢』じゃない。いつの間にか硬直は解けている。ウチはすぐさま隣のお嬢の両肩を掴んで想いを伝えようとした。ちょっと力が籠ったかもしれないけど、これは大事なことだから。
「う～～～～うまく言えねー。でも、サゲるのはウチがキュンキュンしたお嬢らしくないっしょ！うちもバイブスアゲてくから、お嬢もいつものムーブしてこーぜ！！」
「――――――――」 - 3二次元好きの匿名さん23/02/05(日) 18:04:25
どこまで伝わったかは分からないけど、言いたいことは全部言った。これはウチの我儘だ。酷な事を言ってるかもしれないが、精一杯のエールだった。最初は目を見開いて固まってたお嬢は、ウチに向かってミラクルに向けるような柔和な笑みを浮かべた。そのままこちらに近づいてくるお嬢の上半身。それが綺麗で動くことを忘れてしまった。
「…まったく、我儘ですね。貴女はそうやっていつも太陽のようで―――」
「ちょ」
ウチの身体は難なくベッドに押し倒される。気がつけばお嬢の顔が視界一杯に広がり、唇に柔らかい感触が広がった。目前のお嬢の瞳は揺れ動き、頬は紅潮している。そういうのに疎いウチでも分かる。これって紛れもなく。何の誤解のしようもなく。『キス』という奴なのではないのか？
「あ、お、おじょう……いまのって」
「言質は取りましたよ、ヘリオスさん。責任取ってくださいね」
「ぴえ……」
見たことのない笑顔で告げるお嬢。その言葉の内容よりも興奮で頭に血が上ってしまい、何も考えられなかった。想定外の事に思考が混乱している。処理落ちした脳内をシャットダウンするためか、数秒ののちウチは意識を手放した。その後暫くの間ウチは気絶していて、同室の子に起こされる頃にはお嬢の姿は消えていた。あれは果たして現実だったのかは分からないけれど、その後のお嬢のウチへの塩対応はほんのり甘くなったのだった。 - 4二次元好きの匿名さん23/02/05(日) 18:04:57
以上。ヘリオスエミュは難しいなぁ
- 5二次元好きの匿名さん23/02/05(日) 18:07:40
よき、ちょうど供給切らしてたから助かる
- 6二次元好きの匿名さん23/02/05(日) 18:08:45
良い……ただその一言に尽きる……
- 7二次元好きの匿名さん23/02/05(日) 18:09:58
素晴らしいSSをありがとう。尊みでちょっと心臓が止
- 8二次元好きの匿名さん23/02/05(日) 18:11:05
- 9二次元好きの匿名さん23/02/05(日) 18:11:11
お嬢からとは意表を突かれた…良い！
- 10二次元好きの匿名さん23/02/05(日) 18:19:59
ヘリオスこの後暫く夜悶々として枕に顔埋めたりしてそう…よき……
- 11二次元好きの匿名さん23/02/05(日) 18:26:30
実は地の文までギャル語入れるべきかと思ったけど、クソ難解になるし執筆難易度高いんで止めました
- 12二次元好きの匿名さん23/02/05(日) 19:26:26
心のデジたんがしんでしまった
- 13二次元好きの匿名さん23/02/05(日) 20:51:30
- 14二次元好きの匿名さん23/02/05(日) 21:14:19
(時折塩と砂糖を間違える私…)
- 15二次元好きの匿名さん23/02/05(日) 21:36:29
ルビーからヘリオスにキスするのよすぎる
- 16二次元好きの匿名さん23/02/06(月) 09:04:41
ありがとうございます
- 17二次元好きの匿名さん23/02/06(月) 17:20:23
思ったけど、ヘリオスは声に出力したらギャルなだけで思考自体は「」外の語り部みたいな感じだったら面白いなと妄想
表に出ない内心考えている時の感じと口に出した時の言葉のギャップというか - 18二次元好きの匿名さん23/02/06(月) 17:55:55
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- 19二次元好きの匿名さん23/02/06(月) 17:56:40
- 20二次元好きの匿名さん23/02/06(月) 19:43:17
その日のGⅠレースは私＿メジロパーマーとダイタクヘリオスのフェスりによって大盛況の内に幕を閉じた。歓声を受けながら地下バ道に入った後、私はヘリオスを探した。今日のアゲアゲだった盛り上がりについて感想を言い合うためだ。しかし、既にヘリオスの姿は無い。先に控室に戻っているのかと思い、私はヘリオスの部屋に向かった。そして、ヘリオスの控室のある通路に差し掛かった所で、一人のウマ娘がヘリオスの控室に入っていくのを目撃した。その名はダイイチルビー。『華麗なる一族』の令嬢で、ヘリオスの好きぴである。
「ルビーが？」
それは意外な状況だった。確かにヘリオスはルビーに積極的なアプローチをしていたものの、ルビーの対応は見事なまでの塩。ヘリオスに対しては脈があるとは思えない関係だった筈だ。ましてや、彼女からヘリオスに接触するなどありえない。気になった私は、よせばいいのに僅かにドアを空けて中の様子を覗き見る事にしたのだ。
「…………………え」
そこにあったのは驚愕の光景だった。ヘリオスとルビーが話している。それはいい。問題なのは、会話の内容がとても和やかだったこと。ルビーがヘリオスを褒め称えていたこと。普段の刺々しさはまるでない。あんなルビーはそれこそミラクル相手ぐらいでしか見たことは無い。今までの常識とかけ離れた、あまりにも想定外な現場だった。いや、それは本題じゃない。ここで重要なのは――――
「ん、ありがとお嬢…」
「ふふ……」
ヘリオスとルビーの双方が頬を紅潮させ、柔らかな笑みを浮かべていたこと。あんな顔は見たことが無い。あり得ない。だってそれは。まるで恋人のようで。あまりの衝撃に動けない私に見せつけるかのようにルビーがヘリオスに近づく。足りない背をつま先で補い、同じ背丈になったヘリオスの顔に至近距離まで近づける。そして、二人の影が重なって、その唇同士が―――――
「――――――――――ッ」
瞬間、私は転がるようにしてドアから遠ざかった。気付かれたかと思ったが、微弱な音しかでなかったせいか二人が出てくることは無かった。ドクンドクンと、ついさっきまで落ち着いていた心臓が早鐘を打っている。状況が理解できない。いや、頭が理解を拒んでいるのだ。ヘリオスがルビーとそこまで深い関係になっていたことを。 - 21二次元好きの匿名さん23/02/06(月) 19:43:43
「うそ」
ヘリオスの控室から見えない通路まで移動して、壁にもたれかかるように座り込む。高をくくっていた。侮っていた。今まで何を見ていたんだ。考えれば分かる事じゃないか。あのヘリオスが。私の太陽が、他の誰かを照らすようにならない保障なんて何処にもないことなんて。
「へり…おす」
いくら深呼吸したところで、鼓動も汗も止まらない。さっきの光景が目に焼きついて消えてくれない。私は外界から逃げるように身体を抱え、縮こまる事しかできなかった。一秒が無限に引き延ばされているように感じていた。
「パーマー？」
「―――――ッ！？」
唐突に声を掛けられて飛び上がった。数秒の混乱の後、相手が誰なのか把握する。
「ミラクル…」
「どうしたの？凄く顔色が悪いようだったから」
ケイエスミラクル。ルビーのルームメイトだ。今日のレースでも上位で好走していた。わざわざ声を掛けたということは、私の様子が余程おかしかったのだろう。不甲斐ない。そういう覚悟はとっくにしておくべきだったのに。私はミラクルの手を借りて立ち上がる。
「何かあったの？なんなら話をーーーー」
「いや、何でもないから」
心配するミラクルを制して、私はその場を後にした。ミラクルの顔がもの憂いげだったからには、今の私は酷い顔をしているに違いない。これは遅かれ早かれあり得たこと。今まで目を背けてきた問題に向き合う時が来たのだと、そう思った。 - 22二次元好きの匿名さん23/02/06(月) 19:44:07
ちょっとしたおまけを書きました
- 23二次元好きの匿名さん23/02/06(月) 20:58:40
パーマーが曇っちゃった……
- 24二次元好きの匿名さん23/02/06(月) 21:42:09