カンナ局長のキヴォトス超常事件ファイル

  • 1二次元好きの匿名さん24/04/06(土) 20:42:44

    あの廃ビルには幽霊が出る。
    あの廃寺に入ると祟られる。

    そんな、わざわざ組織として動くまでもない与太話、あるいは妄言。
    けれどただの妄想として一笑に付してしまうにはリアリティがある、いわゆる噂、口コミ。

    そういったものが最近どうにも、ヴァルキューレへ届くようになったのだ。
    正確には、各所へ設置されたヴァルキューレ支所へ。

    今日もまた、そういった投書が──。

  • 2二次元好きの匿名さん24/04/06(土) 20:43:31

    怪奇スレか!

  • 3二次元好きの匿名さん24/04/06(土) 20:43:34

    「夜な夜な見かけるんです―――桃色髪の、全裸の女の幽霊を…」

  • 4二次元好きの匿名さん24/04/06(土) 20:44:00

    みたいな、xファイルみたいなのに襲われたり調査したりするカンナ局長の二次創作だったりSSだったりはありませんかね???

  • 5二次元好きの匿名さん24/04/06(土) 20:44:23

    先生がタブレットと話してたんです、なにかに取り憑かれてるんじゃ…

  • 6二次元好きの匿名さん24/04/06(土) 20:44:23

    どんとこい 超常現象!

  • 7二次元好きの匿名さん24/04/06(土) 20:44:49

    >>4

    世の中には言い出しっぺの法則ってのがあってだな……

  • 8二次元好きの匿名さん24/04/06(土) 20:45:11

    >>4

    ちょっとよくわからないな

    お手本見せてくれないかい?

  • 9二次元好きの匿名さん24/04/06(土) 20:45:41

    “カンナ、君は疲れてるんだよ”

  • 10二次元好きの匿名さん24/04/06(土) 20:46:00

    >>4

    私も文才がないので書いてみてください

  • 11二次元好きの匿名さん24/04/06(土) 21:29:26

    うわぁん!やっぱり誰も続きを書いてくれないし紹介もしてくれません!

    こうなったら……安価で続きを書くしかないじゃないですか!


    キーワード安価

    >>12>>16で出たものからダイス

  • 12二次元好きの匿名さん24/04/06(土) 21:30:21

    連邦生徒会長がいた

  • 13二次元好きの匿名さん24/04/06(土) 21:30:32

    廃教室

  • 14二次元好きの匿名さん24/04/06(土) 21:30:38

    ゲヘナ

  • 15二次元好きの匿名さん24/04/06(土) 21:30:57

    異次元

  • 16二次元好きの匿名さん24/04/06(土) 21:31:14

    大量の人形

  • 17二次元好きの匿名さん24/04/06(土) 21:31:50

    ってやっぱりお前かい久しぶりだな
    じーちゃんばーちゃんは元気か?

  • 18二次元好きの匿名さん24/04/06(土) 21:34:45

    ヴァルキューレのイベントに特殊科学捜査研究所やXファイル課みたいな部署が出てきてもいい。特異現象調査部とはまた違った事件性のあるものを扱うような

  • 19二次元好きの匿名さん24/04/06(土) 21:34:55

    オレ、前々カラアッタメテタ長編、アル。丁度コノてーまニ合ウヤツ。
    デモ、他ノ人ノすれ二長編貼リ付ケル、ヨクナイオレ習ッタ。
    ダカラ、書イタラすれ立テテ、ココニURL貼ル。
    ソレデモイイ?

  • 20二次元好きの匿名さん24/04/06(土) 21:36:34

    ンアー!安価が埋まるのが早すぎます!!
    1.連邦生徒会長がいた
    2.廃教室
    3.ゲヘナ
    4.異次元
    5.大量の人形

  • 21二次元好きの匿名さん24/04/06(土) 21:37:35

    うわぁん!ダイス入力忘れました!

    dice1d5=3 (3)



    >>19

    ありがたい供給です!是非お願いします!

  • 22二次元好きの匿名さん24/04/06(土) 21:37:37

    これ全部で一つの話に出来ない?

  • 23二次元好きの匿名さん24/04/06(土) 21:44:34

    >>22

    ゲヘナをメインにしつつ取り込めるところは取り込んでみましょうか……


    >>17

    あっはい!おかげさまでおじいちゃんは弱弱しくも何とか生きてます!

    おばあちゃんは……なんか明日のアニメ?に向けて怨嗟を吐いてます……なにか気に食わないものが映りそうだだとかなんとか……

  • 24二次元好きの匿名さん24/04/06(土) 21:48:24

    カンナ局長×スレタイで百物語ヒヨリの人かと思ったら案の定だった!?
    ってことはやたら怪異に詳しい上にカンナと緊縛プレイしちゃう先生が見られちゃうんですか!!?

  • 25二次元好きの匿名さん24/04/06(土) 21:49:43

    >>19

    最近テレグラフがまた張れるようになったらしいからそれ使うのもいいかも?

  • 26二次元好きの匿名さん24/04/06(土) 22:16:25

    1じゃないけど場繋ぎにちょっとした小ネタでもどうぞ…


    「た、大変ですカンナ局長! 実は、とある建物から夜な夜なうめき声が聞こえてくるという匿名の投書がありまして……」
    「……またその類の話か。どうせイタズラか聞き間違いだろうが……一応、内容を聞かせてみろ。キリノ」
    「あっはい! それでは読み上げますね!」


    「えっと……投書の内容によると、場所は深夜のシャーレのオフィスだそうで」
    「……ふむ?」
    「ドア越しに聞き耳を立てていると……何かをロープみたいなものでぎゅうぎゅうと締め上げるような音と、誰かのくぐもった苦しげな声が……」
    「………………」
    「そ、それでですね! 恐る恐るドアの隙間から中を覗き込むと、そこには首元をはだけたシャーレの先生がいて、その首筋には信じられないような跡が──」
    「…………中務キリノ」
    「はいっ! なんでしょうか、カンナ公安局長! 捜査でしたらぜひとも本官にもお手伝いを……」


    「聞くに堪えない法螺話だ。先ほどの話は誰にも口外せず、直ちに忘れるように」
    「はい!? で、ですが、現にこうして投書が……」
    「……貴官。世の中には『知る必要のないこと』というものがある。──分かるな?」
    「ひぃっ!? か、カンナ局長がそう仰るのでしたら! し、失礼しましたっ!」


    ~~~~~~


    「ううっ、あんなに怖い顔したカンナ局長、初めて見ましたぁ……でも。確かに考えてみれば眉唾な話ですよね!」

    「先生の首元に、まるで『蛇に締め付けられた』みたいな跡があった、なんて話」

  • 27二次元好きの匿名さん24/04/06(土) 22:37:36

    そういえば前回の怪異で先生蛇神の呪いを受けてたな…

  • 28124/04/06(土) 23:21:20

    「──ゲヘナの廃教室で連邦生徒会長を見た?」

    「ええ。勿論ただの噂ではありますが。証言がある以上確かめない訳にも行かず」
    念の為、行方不明者の捜索を。
    こんな要請でゲヘナ自治区内での捜査要請が通るとも思えないが、それでも。

    ダメで元々と、ゲヘナ学園の風紀委員長、空崎ヒナへ。話を通しに来たのが午後三時。

    そもそものきっかけは、今日の昼時まで遡る。

  • 29124/04/06(土) 23:22:43

    ───
    ──

    連邦生徒会長を見た。

    そんな噂が生活安全局へ届いた、正確には中務キリノから伝え聞いたのが本日の昼食時。なんでもパトロールの最中、ゲヘナの生徒から縋り付くように一方的に捕まえられて捲し立てられたのだとか。
    食堂でたまたま食事の時間が被った際の手慰みのような雑談のつもり、だったのだろうけれど。どうにも意識の端に引っかかり詳しく聞いてみれば。
    「又聞きにはなってしまうんですが」
    そんな前置きと共に聴取の内容を教えてくれた。

    曰く。

    夜中の廃校舎、その奥まった一室にあるピアノ室。
    そこへ近づくだに流れる調子はずれの、ピアノの旋律。
    誰がイタズラをしているのかと部屋を覗いてみればそこには、間違ってもゲヘナの制服ではあり得ない白の制服姿に身を包んだ、印象的な青い長髪の連邦生徒会長が月の光に照らされて。調律がズレたピアノを鍵盤を叩いていたという。

    自分が立てた物音で気づいたのか、ぐりんと……顎を真上に上げて、そこから真後ろへ、──きっかり百八十度真後ろの自分へ、あり得ない角度へ首を回して。
    にやりと微笑んだ──。

  • 30124/04/06(土) 23:23:24

    自分が立てた物音で気づいたのか、ぐりんと……顎を真上に上げて、そこから真後ろへ、──きっかり百八十度真後ろの自分へ、あり得ない角度へ首を回して。
    にやりと微笑んだ──。

    どうやら詳しく聞けたのはそこまでで、なぜ夜中に廃校舎へ近づいたのか、とキリノが突っ込んでみたらすぐに退散してしまったらしい。
    ……どうやらあまり褒められるような行動で近づいたの訳では無いのは確かなようだったがそれはともかく。

    そもゲヘナの生徒からの証言、重ねて夜中に校舎に入り込んで何かをしようとする不良生徒の言い分であり、信用には値しないと考えて然るべきではあるのだが。
    思考に過るのは去年からにわかに湧き始めた、奇妙な、それでいて真に迫るような与太話の数々。

    どこぞの廃ビルには幽霊が居る。
    肝試しで踏み込んだ神社に行ったきり眠り込んだ友人がいる。
    たった一人だけなのに、一心不乱に、まるで誰かと遊んでいるかのようにふるまう姿を見た。

    そんな話が次々と。
    一考にするにも値しない筈の、けれど細々と消える事なく耳に届いた与太話。
    それが今脳内に閃いて。
    一つ一つに関連は無く。なのにどうしても無関係とも思えない。新人の時であればともかく、仮にも局長という立場になって他人に言うのには恥ずかしい、いわゆる刑事の『勘』。
    それが耳元で囁く。放っておいてはいけないと。

    少し前の私であれば無視出来たであろうそれに、今はどうしてか逆らう気がおこらず。むしろそんな不確かなものに従って調査を行おう。そんな反骨心めいた感情も相まって、調査しようと。そう決断した。

  • 31二次元好きの匿名さん24/04/06(土) 23:29:07

    はじまった!
    都市伝説に挑むカンナ…これは期待するしかねぇ!

  • 32二次元好きの匿名さん24/04/06(土) 23:30:43

    ここの1の過去作教えて。特に緊縛プレイカンナ。

  • 33二次元好きの匿名さん24/04/06(土) 23:33:04
  • 34二次元好きの匿名さん24/04/06(土) 23:41:50

    主に深夜のシャーレに遊びに行ったらシリーズとか先生とインモラルな恋人関係になったカンナとか書いてる方だねきっと

    正直スレ立つたびに追っかけてるファンです


    インモラルな先生×カンナシリーズ

    初めは|あにまん掲示板ただの偶然だった。お互いの連勤や徹夜、気の緩みによって生まれた、ただのほんの偶然。でも、その初めの一回で嫌だと。そう思えなかった時点で、きっと遅かれ早かれこの関係に陥っていたのだ。照れも。恥も。気恥ず…bbs.animanch.com
    トリック・オア・トリートですよ、|あにまん掲示板先生。頭に魔女らしき安物の帽子を乗せただけの、仮装とも言えない仮装。そんなある種ありきたりとも言える恰好をしながら、私は今先生の目の前にいる。”……何を?”「先生は大人ですから。今日はお菓子を配る側だ…bbs.animanch.com
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    キヴォトス百物語シリーズ時々飯テロ

    深夜のシャーレに遊びに行ったら|あにまん掲示板”ああ、お疲れ””ごめんね、大したもてなしも出来なくて””え、もう帰る?……””うーん、あんまりオススメしないけど……ほら、深夜に一人歩きってのは危ないし””もし本当に帰るなら。「〇〇通りの裏路地」に…bbs.animanch.com
    深夜のシャーレに遊びに行ったら|あにまん掲示板bbs.animanch.com
    深夜のシャーレに遊びに行ったら|あにまん掲示板ど、どうも……ようこそキヴォトス怪談蒐集スレへ……はい、「また」なんです……すみません!https://bbs.animanch.com/img/2406199/1仏の顔もと言いますので、謝った所で許…bbs.animanch.com
  • 35二次元好きの匿名さん24/04/06(土) 23:58:15

    このレスは削除されています

  • 36二次元好きの匿名さん24/04/07(日) 00:23:09

    >>33

    >>34

    ありがとう。怪談スレは知ってたけどここら辺のカンナのやつも同じ人だったんだ。

    読んだことないけど読んでみるわ。

  • 37124/04/07(日) 00:35:18

    ───
    ──


    「──ええ。話は分かったわ。構わないわよ」

    意気込みはありつつも直ぐに捜査へ赴けるかと言うとそういう事も無く。様々な手続きを踏まないとならない訳で。特に区を跨ぐ場合は猶更だった。……シャーレのような特別権限があればまた別なのだが、ないものをねだっていても仕方がない。

    基本的に各学校の自治区にはヴァルキューレは立ち入れない規則になっており、それでも一度申請は通してみようと思って話をしに来たら、思いのほかあっさりと話が通ってしまった。

    「よろしいのですか?」

    「来週には修学旅行が控えていてね。それに対する手続きや浮かれた生徒達への対処、そしてこれ幸いにと無理難題を課してくるどこかの誰かの相手をしないと行けなくて廃校舎へは手が回らない、と言うのが正直なところなの」


    そういう彼女──空崎委員長の顔色には疲労が濃く、……組織は違えど規律を取り締まる側のトップへ座す者として若干の同情も抱くような、苦労を伺わせるものだった。

    「それに、他の人員が来るならともかく、貴方が調査するんでしょ?なら大丈夫そうだわ」
    「……ええ、まあ。直接的に危害を加えられたりした場合はそれ相応の力の行使が必要にはなりますが」

    と、一応の注釈を付け加えておく。……私へ向ける視線にはなぜか、初対面のはずなのに気苦労と共にした仲間を見るかのような、そんな感情が籠っていた。

  • 38124/04/07(日) 00:35:50

    ともあれ許可は取れたのだ。
    調査のための準備をしないと、と一礼と共に執務室の外へと扉を開けて出ていくと同時、背後から声を投げられた。

    「ああそれと。呼ぶのは名前で構わないし敬語もいらないわ、カンナ」

    その声が届くときにはもう扉を閉め始めてしまっていたので確証はないが。


    「同い年なのに敬語で、しかもフルネームに役職付きで呼び合うだなんて面倒くさいじゃない」


    そんなため息のような呟きが聞こえた気がした。

  • 39二次元好きの匿名さん24/04/07(日) 00:40:38

    >>38

    アコ……

  • 40二次元好きの匿名さん24/04/07(日) 00:41:37

    >>39

    アコはほら……いくら言われても「ヒナ委員長を呼び捨てだなんてあり得ません!」とか言いそうじゃない……?

  • 41124/04/07(日) 02:09:24

    (原作では絡みの無いキャラクター同士の呼び方を考えてる時が二次創作してて一番楽しい、そんな現象があると思います)

    どうあれゲヘナで自由に動ける許可は取れた。
    キリノからの又聞きの聴取によれば、件(くだん)の噂が姿を表すのは深夜とのこと。具体的な時間までは分析できなかったのが少々痛いが、それは足で潰そう。
    そんな考えと共に準備を整え、目標であるピアノ室から念の為教室二つ分ほど距離を開け、適当な教室へ入り込み廊下の様子を伺える位置へ腰を下ろしてサンドイッチを頬張りつつ、ピアノ室を見張る。

    時刻は生徒も軒並み帰宅し、人の影一つなくなった二十二時。

    ……あまり張り込みの最中にモノを食べるのは趣味ではないのだが。長丁場になりそうなことを思えば、心強い差し入れであることには間違いない。

    夜に備えて現場の下見をしている時、給食部の部長である愛清フウカに促されて(流されて)栄養たっぷりの食事を取らされ、夜に食べる用のサンドイッチを持たされたのは、自身の健康だけを鑑みれば僥倖ではあったのだろう。

    曰く、
    「そんな不健康そうな顔色しててほっとける訳ないじゃない。どうせ珈琲しか飲んでないんでしょ?ほら、ここで食べていきなさいよ。味は……まあちょっとしょうがないかもしれないけど、栄養に関しては保証するわ。夜も動くならこれも持って行きなさい」
    との事だった。座った瞳からはなぜだか有無を言わせない様子があったのでおとなしく従い。

    ……ともかく、張り込みを開始する。

    果たして本当に連邦生徒会長は現れるのか。はたまたただの妄言だったのか。

    どちらに揺れれば満足いくのだろう。
    なぜ自分がここまでこの調査に注力するのか。その正体を掴めないまま、長時間の勝負が始まった。

  • 42124/04/07(日) 02:14:39

    ───
    ──



    一時間が経過した。特に変化はない。


    ───
    ──



    二時間が経過した。特に変化はない。


    ───
    ──



    三時間が経過した。特に変化はない。周りに人影や物音が無い事を確認した上で周囲を歩き回ってみたが、やはり変わった様子は見受けられない。
    キリノに話をした不良のような、そういう生徒の影すら見えない。やはり噂は噂だったのだろうか。それであれば喜ばしい事ではある。


    ───
    ──

  • 43124/04/07(日) 03:30:03

    四時間が経過しようとしている。流石に集中力も切れてきた自覚があり、残りのサンドイッチを食み、合わせて持たされたポットへ口を付け、珈琲をすする。
    オフィスで淹れる珈琲とは少し違う、それでも嗅ぎ慣れた香りが鼻孔を突いて、少しだけ気分が落ち着く。そのまま左手首に巻いた腕時計を見やる。
    時刻は「1:59」。

    時刻を見てこれは長丁場だと、改めて覚悟を決めてもう一口と手元のポットへ口を付けようと──した動作と同時、時刻が2:00を回った。

    瞬間。
    一帯の空気が変わる。何かが居る。そんな、聴取への聞き取りならば落第も良いところの間抜けな直感が最初の感想だった。

    それでも重く、ねばつくような空気に変わった事だけはまぎれもない事実。
    自嘲を抱きつつも、周囲を見回す。自身の周囲には重苦しくなった雰囲気以外の変化は見受けられない。ただ、わずかに露出した肌の部分、例えば手袋と袖の切れ目の手首であり、また多いの無い顔の部分の肌に感じる刺々しさ。
    それは紛れもなく、今の私が覚えている不快感であり、気味悪さと同義だ。

    その気味悪さを辿るように感覚を尖らせれば、やはりと言うべきか。大本の感覚はピアノ室から感じるように見受けられた。
    長らく使う事の無かったヴァルキューレ制式拳銃のマガジンを確認し、遊底(スライド)を引く。引き金に指を乗せれば、いつでも応戦可能な準備が整う。……実戦から離れてた割には動作だけは身に沁みついているものだとまた、自嘲がこぼれるがそれを気にしてはいられない。

    一応の武装を整えて自分の居た教室から出るころには既に、この四時間で聞くことの無かった自ら以外の発する音を耳にする。

    仮に不良達がたむろしているだけであればどれだけよかったか。それなら注意して家に帰すだけで済むのに。そんな的外れなことを考えて気を紛らわせることも難しく耳に届く音を分析すればそれは、話に聞いた通りの。ピアノの音だった。

    ♪~♬♬~♪

    気味悪さをいっそう引き立たせる調子はずれのピアノの音。
    誰かが奏でているのであれば即刻止めて、調律を頼みたくなるような。例えるのならそう、黒板に爪を立てて引っ掻いたような。
    無駄に耳朶を刺激して、ただただ不快感を煽る事だけを目的としたようなそんな音。

    それでもどうにか耐えて音を辿り、件のピアノ室の前へとたどり着く。

  • 44124/04/07(日) 03:33:00

    (今日はもう寝ます……!明日とりあえずこの話を書ききることを目標にします……!)

  • 45二次元好きの匿名さん24/04/07(日) 08:49:02

    期待
    これまでの怪談とは切り口の違った話になりそうで楽しみ

  • 46二次元好きの匿名さん24/04/07(日) 09:10:20

    やはり怪奇物に関してはヒヨリさんに勝てないわ

  • 47二次元好きの匿名さん24/04/07(日) 14:38:00

    なんかこう、折角刑事モノのテイストが乗ってることだし
    実は怪奇現象じゃなくて人間の悪意によって引き起こされた犯罪で、それをカンナによって暴かれて犯人は逮捕されるけど
    事件全体を突き詰めていくとどうしても犯人が仕掛けたトリックだけでは説明がつかない不可思議な現象が一つだけあって……みたいな変化球も面白いかもしれない

    「……今回もまた、謎が一つ残ってしまったな」

  • 48二次元好きの匿名さん24/04/07(日) 14:54:23

    金田一するのはやめろんだ、背筋が凍る

  • 49124/04/07(日) 22:20:15

    夜中の廃校舎、その奥まった一室にあるピアノ室。

    そこへ近づくだに流れる調子はずれの、ピアノの旋律。

    誰がイタズラをしているのかと部屋を覗いてみればそこには、間違ってもゲヘナの制服ではあり得ない白の制服姿に身を包んだ、印象的な青い長髪の連邦生徒会長が月の光に照らされて。調律がズレたピアノを鍵盤を叩いていたという。



    耳に障るピアノの音に顔を顰めながら、ピアノ室の扉の先に視線を送る。同時に、すぐにでも射撃に移行できるように拳銃を構えて。

    ライトも不要なほどの月明かりの下、長い青髪に真白な連邦生徒会制服……の後ろ姿が目に入った。
    声を発しておらず顔も見えていないから断定はできないものの、その姿は確かに連邦生徒会長を連想させる。

    その連邦生徒会長に似た人物は椅子には腰掛けることなく、立ったままの状態で鍵盤を叩き続けている。


    物音を消すことなく距離を詰め、向こうも私の存在に気付くであろう距離まで歩を進めて、声を投げた。

    「ヴァルキューレ──ッ!?」
    公安局だ、と。いつもの通りに続けようとした言葉は私自身の喉の奥へ消える。

  • 50124/04/07(日) 22:20:41

    なぜなら。鍵盤を叩く手を止めないまま、ぐりんと。
    顎を真上に上げて、そこから真後ろへ。きっかり百八十度真後ろに居る私へ。首を回して。
    人体の構造上あり得ない首の動き。ピアノの音に混じる、木の枝を折ったような音と、人体を無視した動きに嫌悪感を刺激される。けれど問題はそれだけじゃない。


    笑ってしまう。一体「これ」に遭遇したゲヘナの生徒は何を思って微笑んだ、などと判断したのだろうか。


      ・・・・
    ──顔が無い相手の笑み、だなんて。



    こちらへ向けられた、歪な角度の首の上。そこにある筈の顔には。見覚えのある顔なんて無く。顔どころか目も鼻も口も、肌すらも無く。


    真っ黒な、くらやみが渦巻いているだけだった。

  • 51二次元好きの匿名さん24/04/07(日) 22:52:34

    ひぃ…

  • 52二次元好きの匿名さん24/04/07(日) 22:57:39

    連邦捜査部先生のなぜベストを尽くさないのか

  • 53124/04/08(月) 02:24:01

    判断は一瞬。
    銃を構えた右手へ力を込め、トリガを引く。射出された弾丸は想定通りの軌道で着弾し、しかしその結果は想定外。

    普通であれば額のあたりを狙った弾丸は、傷を残すことも跳ね返ることも無くただ、くらやみへと吸い込まれて消えた。

    銃は効かない。次の対策を、と思考を回そうとして。
    視界の端に映ったのは。殊更に強く鍵盤を叩いた連邦生徒会長の、いや、正体不明の何かの動き。

    「~~~ッ!」

    直後。

    ピアノから発せられていた不協和音が更に拡大して耳をつんざく。平衡感覚を失う程に滅茶苦茶な音程と音量。もはや楽器から発せられてるだけとは言えない様々な種類の「音」がこの部屋へ鳴り響いた。

    耳から入り込み脳髄をミキサーにかけたような、今までの人生の中で不快だと感じた音を全て詰め込んだような。そんな「音」。


    理性ではダメだと分かっている。正体不明の相手の前で銃を取り落とすなど言語道断。それが分かっていて尚、耳を塞ぐ動作を止められない。

    一刻も早くこの音を遮断しないと気が狂う。本能の部分で耳を抑える動作を止められない。どうしてもこの音から逃れたい欲求から逃れられず、半ば無意識で銃を取り落としてしまい、膝をついて耳を塞ぐ。衝動に任せて鼓膜を破りたくなる感情を強く強く唇を噛み締めて誤魔化す。切れた端から流れた血を拭う暇もない。

    手元から零れた銃が床を撥ね、転がる雑音さえもこの脳を切り刻む刃のような騒音に比べたら上等なオーケストラの様だった。


    その動作のまま思わず目を力強く瞑り、視界が黒に染まる。後悔と共に、気休め程度にでも音を弱められた事に安堵を抱く。
    同時にまるで、今までの拷問のごとき不協和音が何事もなかったかのような静寂があたりに満ちた。

  • 54124/04/08(月) 03:11:29

    その緩急に驚いて、思わず目を開く。開いた視界の先には既に連邦生徒会長の姿に似た、くらやみの顔の何者かは跡形も無く消えていて。

    代わりといわんばかりに。


    二頭身ほどの連邦生徒会長の姿に似せた無数の人形が、四方八方から私を射すくめていた。


    一体は床に置かれていた。胸には銃痕と赤色のパッチワークがある。
    一体はピアノ演奏者用の椅子に座らされていた。首には絞め痕があり縄が巻かれている。
    一体はロッカーの上から私を見ていた。目の位置は「×」のボタンが縫い合わされて顔色は緑に染められている。
    一体は教卓の上に据えられていた。頭頂部には顔と同じ大きさのたんこぶが表されている。
    一体は背後から私の背を睨んでいた。胴体と首が分かたれ、ひっくり返った首が私を見つめている。

    その他。その他。その他。

    まるで死に様をデフォルメしたかのような趣味の悪いマスコット。フェルトで作られたそれはまともな出来なら愛嬌にでもなったのだろうが、今この場においては無機質な「可愛さ」がより一層の不気味さを生み出していた。

    そうして、その悪趣味な人形の視線に一瞬だけ怯んでしまい、瞬きをする。表現するならコンマ数秒といった、文字通りの瞬く間。


    また眼を開いたその先には。


    一体の人形さえも、存在しなかった。

  • 55124/04/08(月) 03:13:19

    (続きは明日書きます、すみません……!明日は本当にこの話を終わらせます……! いつからこんなに筆が遅くなったんでしょうか……)

  • 56二次元好きの匿名さん24/04/08(月) 03:17:05


    全く解決する糸口が見えない…恐ろしい…

  • 57二次元好きの匿名さん24/04/08(月) 08:59:03

    人形の死に方にも何か意味があるんだろうか

  • 58二次元好きの匿名さん24/04/08(月) 09:13:13

    >>3

    >>4

    今更だけど順番のせいでとんでもない事になってて草

  • 59二次元好きの匿名さん24/04/08(月) 16:31:36

    夜まで待つぜ

  • 60124/04/08(月) 19:52:22

    心臓が早鐘を打ち、体の内側で鼓動が暴れまわっている。呼吸は浅く、不規則に刻まれて口から漏れた。吸い込む空気は相変わらず喉へ張り付くような気持ちの悪さはあるが呆けてばかりはいられない。取り落とした銃を拾い、周囲へ視線を走らせる。

    顔のない人間も、趣味の悪い人形も全て消え去り。廃れた教室とその真ん中へ鎮座するピアノがあるだけ。差し込む月の明かりだけが唯一、先程と変わらない。
    数舜前までの事が幻でもあったかのような。少なくとも今この瞬間を誰かが見たところで、何かがあったとは微塵も思わないであろうそんな景色。自分自身でさえ白昼夢でも見ていたのではないかと考えてしまうような光景。

    けれど嚙み切った唇の痛みと、拭った右の手袋に付いた血がまぎれもなく現実であったと思い知らせてくる。


    腕時計に目をやると、時刻は2:03を指していた。
    あれだけの事があったのに、たったの三分しか経っていない。

    先程の異変の唐突さを思えば、また次の瞬きの合間に何が起きてもおかしくない。
    目に見える脅威が消えても周囲への警戒を強く、人や、その他の気配を探る。

    だからだろうか。背後から聞こえる物音はすぐに耳に付いた。コツコツと硬質な音。リズムからして足音なのだろうと想像がつくそれは、私がピアノ室へ入って来たその方角から。

    反射的に拳銃を構え振り向こうとして、私の後ろまでは月明かりが届かない事に気が付く。
    そして私の目も、直前まで明かりを視界に入れていたせいで暗順応が働いていない。

    舌打ちと共に左手でライトを逆手持ちし、左手首に重ねる様にして右手で拳銃を構え。

    「何者だ!」

    短く発した警告と共に背後へ向き直る。
    ──拳銃を構えたところでどうする?連邦生徒会長の姿を模した「なにか」は銃弾を意に介しているようには見えなかった。近接戦に持ち込んで拘束する?考えるまでも無く却下だ。万が一、正体不明の顔に触れた時の結果が未知数すぎる。この場は離脱を狙うしか。

    明確に対応策を思いつかないまま、けれど振り返らない訳には行かず。自然光とはまた違う、人工の光に照らされた先へ目を凝らして。

    そこにいたのは──。

  • 61二次元好きの匿名さん24/04/08(月) 19:53:36

    来るか…

  • 62二次元好きの匿名さん24/04/08(月) 20:00:34

    これが本家のヒヨリスレ…やはり本物は違う!!

  • 63二次元好きの匿名さん24/04/08(月) 20:30:23

    というかここヒナちゃんがピアノ練習していた彼処なんだよな

  • 64124/04/08(月) 22:25:26

    視線の先には誰の姿も見受けられない。いや、視線の位置が交わっていないだけ。手首を傾けて光を下げると、眩しそうに手で庇を作る人影だと認識できた。
    私より頭一つ分ほど低い位置にある顔は、丁度十二時間ほど前に見たばかり。

    目があり、鼻があり、口があり、肌がある。──きちんと「顔」がある。

    その当たり前の事実に小さく安堵の息が漏れそうになり、誤魔化すように言葉を紡いだ。

    「空崎、風紀委員長……?」

    「お疲れ様、カンナ」

    ゲヘナ学園風紀委員会、委員長。
    空崎ヒナが目を細めながらこちらを見つめていた。

  • 65124/04/08(月) 22:26:34

    なぜここへ。そう問う前に。

    「仮にもゲヘナで起きた問題を人任せにするのもどうかと思って。それに、「なにか」あったんでしょ?」

    足元へ転がる薬莢。切れて血が流れる唇。そんな私の姿と周囲を確認し、彼女はそう述べた。

    「心当たりがあるのですか?」

    「……心当たりと呼べるほどはっきりしたものじゃないんだけど。思い当たる節を思い出した、というか。それを確認したくて来たというのもある」

    いつの間にか手にしたライトで周囲を確認しながら、彼女が話す。動作を見るに、ここが自身の学園だという事以上に、この場所について精通しているようだった。

    敬語、要らないって言ったのに。
    言葉尻に小さくそう呟いて、さらに続ける。

    「少し前にゲヘナで大規模なパーティをやったでしょ?その時に二、三度変なイタズラ? 現象?があったの。……昼間の時にはすっかり忘れていて。ごめんね、思い出せていれば警告くらいにはなったかもしれないのに」

    その言葉を受けて少しだけ逡巡し。すぐさま首を横に振る。仮に警告を貰えていたとして、昼間の私が出来たのはせいぜいイタズラを仕掛けてくる不良をどう取り締まれば角が立たないかを考える程度だったろう。このような以上に対する備えが出来たとは思えない。

    「……いや。謝る必要は無い。それで、その現象というのは?」

    流石に二回も言われてしまえば、私だけが敬語を使うのも申し訳ない。今は厳密には仕事中、という訳でも無い。言葉にするなら個人的な興味と意地。そんなもので動いているだけなのだから。

    それに、緊張を緩めたかったというのもある。誰かと会話してみて実感したが、私はどうやらいつも以上に気を張り詰めていたようだった。
    過度な緊張は動きを固くさせてしまう。ある程度は解しておく必要があった。

  • 66二次元好きの匿名さん24/04/08(月) 22:27:36

    あっ、足跡のアレか……

  • 67二次元好きの匿名さん24/04/09(火) 00:12:07

    このレスは削除されています

  • 68124/04/09(火) 00:19:24

    「委員会室前の廊下で、誰も歩いていないのに足跡が出来てて。それで追ってみたら突然真っ暗闇に覆われたこと。照明も外からの光もあったのにも関わらず」

    誰もいない筈の所で、まるで人が何かをしたような痕跡がある。
    確かに、私が目撃した事象と似通う点はあるかもしれない。

    「あとは誰も捨てない筈のイブキのクレヨンがゴミ箱に入っていたり」

    「……」

    「あとはパンケーキが動いたり」

    「……?」

    「あ、ただ動いたんじゃなくて、大きくなったの。話を聞くと地下の温泉の力だとか……」

    「……??」

    似通う点がある、というのはただの勘違いだった。
    そう結論付けて話を遮ろうとした時、ヒナの口から語られた言葉は、私の興味を引くのにあまりある内容。


    「──あとは、それこそこのピアノ室。放置されて久しい筈なのに、調律の整ったグランドピアノ」


    彼女の右手は鍵盤へ添えられていて、手慣れた様子で白鍵を叩く。
    先程まで私の耳と脳をかき回した、ノイズという言葉さえ生温い不快な音はどこへ消えたのか。そんな疑問もかき消すような、透き通る音色が響いた。

  • 69二次元好きの匿名さん24/04/09(火) 00:59:02

    そもそもなぜ連邦生徒会長なんだ…ゲヘナのこの場所となんの関わりが?

  • 70二次元好きの匿名さん24/04/09(火) 02:03:41

    「次は、今ここで起こったことを聞かせて」

    話しながら彼女は白鍵、黒鍵、白鍵と無造作に鍵盤を叩いていく。
    法則性は無いその音たちは、やはり先程まで私の脳髄をかき回したノイズとは比べ物にならない程に綺麗なものだった。

    ピアノの音色とヒナの言葉に促され、私は先程までの、脳裏にこびり付いた恐怖染みた体験を掻い摘んで話す。

    午前二時を回ると同時、連邦生徒会長の後姿がピアノ室に現れたこと。
    調子はずれの不快な音を奏でていたこと。
    その連邦生徒会長の姿の何者かには顔が無く、ただくらやみが広がっていたこと。
    目を閉じた一瞬の隙に何者かの姿は消え、代わりに悪趣味な人形が無数に私を見ていたこと。
    それさえも瞬きの合間に消え去ったこと。

    「……そうして次は何が来るのかと警戒していた矢先に、委員長……ヒナが来たという訳だ」

    口に出せば自分でも信じがたい数々に、彼女は否定するでもなく緩く頷いた。

    「成程。そうだったのね……」

    こくりこくりと首を縦に揺らし、何事かを思考している様子。
    彼女はピアノから手を離し、ライトを床、書棚、天井へ、あちらこちらへと彷徨わせた。まるで、何かを探すような動き。

  • 71124/04/09(火) 02:03:55

    「どうやら私が経験したものとは随分と毛色が異なるみたいだから、あまり参考になることは言えそうにない。けれど」

    そこで一度言葉を切って視線を私に固定し、瞳を覗き込むようにして言葉を繋いだ。

    「多分私がここを使っていた時には無くて、今は存在する「何か」があると思う。それを探してみよう。……私の時にあったから、そういうのが」

    私の顔の位置より一段低い場所から注がれる視線。
    参考になることは言えそうにない、との言葉とは裏腹に。彼女の瞳にはある種の確信が垣間見え。私は視線を逸らさないまま頷きを返す。


    ──かくして、深夜の物探しが始まった。

  • 72124/04/09(火) 02:16:15

    (続きは明日書きます、すみません……!本当に明日には終わらせますので……!終わらなかったらリーダーが何でもしますから!)

  • 73二次元好きの匿名さん24/04/09(火) 02:17:47

    おつ
    たのしみおやすみ

  • 74二次元好きの匿名さん24/04/09(火) 02:49:09

    乙です
    思い入れのあるところを穢されるようなのは
    ヒナちゃんにとってもノーサンキューよね

  • 75二次元好きの匿名さん24/04/09(火) 08:12:44

    今夜が楽しみ
    ちなみに自分もなにか書きたいって人は完結まで待った方がいい?

  • 76二次元好きの匿名さん24/04/09(火) 08:18:15

    >>75

    まぁ待ってあげるのが優しさですかねぇ。



    ん?今リーダーがなんでもするって?

  • 77二次元好きの匿名さん24/04/09(火) 14:57:19

    >>76

    おちつけ

  • 78124/04/09(火) 18:12:47

    改めて室内を見回してみると、どうやらピアノ室というよりは物置部屋にピアノを放り込んだ、という表現がしっくりくるような様相だった。

    うず高く積まれた机と椅子。備品でも仕舞われているのだろう段ポールの箱の群れ。床には本と紙が無造作に散らばり、どこかしらから外れて放置されたような窓と割れたガラスが散乱している。

    中でも目を引くのは室内だというのに立派に育っている木。廃校舎であることを差し引いても、ここまで大きくなる前に誰か切ろうとは思わなかったのだろうか。

    ともあれ、二手に分かれてヒナの言うところの「何か」を探す。彼女は机と椅子の山から見るようだった。私はというと、床に広がる紙と本を手当たり次第見る事にした。

    ライトで足元を照らしながら紙を拾い上げて内容を見る。
    が、ここにあるもの全てに馴染みの無い私は手当たり次第、といった形での捜索になる。……気になるものがあればピックアップしてヒナへ見せてみよう。

    そう考えて探す事しばし、見つかるのは何年も前のテストの答案や楽譜、あるいは何かの手続きに使う書類などで、統一感はかけらもない。より一層ここがただの物置として使われていたのだろうとの推察が強まる。

    また、今回の現象に関係ありそうなものも特には見つからず、その後も段ボールの群れからも同じようなものが出てくるばかりで、手がかりが出てくることは無かった。


    額に浮かんだ汗を拭い、今しがた開けた段ボールを閉じる。
    あと見ていないところは、と室内を見回したところで、どうやら机の椅子の山の探索を終えたヒナと目が合った。

    「見つかった?」

    「いや特には。そちらも……手ごたえはなさそうだな」

    「ええ。後見ていないのは……」

    言葉と共に、自然と視線が同じ方向へ向く。遅れてライトを向けた先には白の胴体に紫色の蓋が付いた、ゴミ箱。

  • 79二次元好きの匿名さん24/04/09(火) 18:48:52

    どちらからともなく顔を見合わせて、つばを飲み込む。「何か」あるとすれば後はここだけ。
    意を決してゴミ箱に近づく。ライトをヒナに頼み、まずは外の部分を軽く叩く。コン、と軽く響く音から察するに、あまり中身は入ってはなさそうだ。
    蓋に手を添えて力を込める。軽い抵抗と共に蓋が外れ、すかさずヒナが中を照らした。

    ──先程ヒナが言っていたことを思い出す。イブキという生徒のクレヨンがなぜかゴミ箱で見つかったと。


    予想通り、ゴミ箱の中はほぼ空だった。ただしその底に一つだけ。

    視界に留めた時間は文字通り瞬きの間。それでも、衝撃を深く私の脳裏に刻んだ、「何か」が。ヒナの指摘通り見つかる。
    平時であれば可愛くデフォルメされていると思えるだろう、けれど私にはもう不気味にしか感じられない、それ。


    フェルトで作られた、連邦生徒会長似の人形が転がっていた。
    ──ただし、目も鼻も口も無い、のっぺらぼうの状態で。

  • 80二次元好きの匿名さん24/04/09(火) 18:53:42

    >>57

    ループ世界前提だけど今まで"そう"なった原因とか…?

  • 81124/04/09(火) 23:43:35

    「これ、貴方が話してた……」

    「……ああ、間違いない、と思う」

    人形を見た瞬間、またかという気分と、やはりこれかという気分が同時に胸の内に押し寄せた。
    ヒナが語った「何か」。それがどのような形をしているのかと考えた時、今回ならこの形ではないのかと。そういう考えは少なからずあった。

    手を伸ばし、人形を拾う。同時に確信。
    今回の元凶はこの人形だったのだと。そう思わざるを得ない雰囲気があった。
    人形から発せられる不気味さ。この部屋に満ちる、粘ついたような、ひりつくような空気はこの人形から発せられていた。

    また早鐘を打ち始める鼓動を意図的に無視。わざとらしい程に大げさに一つ、息を吸って吐き、形だけでも平常心を取り繕う。

    気を取り直してよくよく人形を観察するのであれば、どうやら人形の顔はただ単に未完成、という印象を受けた。
    少なくともピアノを弾いていたあの、顔の位置にくらやみが広がっていた人型のような、未知の空間とは思えない。

    持ち上げ、試しに逆さにしたり振ってみたりして見たものの、再度異常現象に襲われるというようなことは無いらしい。
     
    「どうやら予想通り「何か」はあったみたいだけど、どうする?」

  • 82124/04/09(火) 23:44:31

    ヒナがこちらへ疑問を投げてきて、それを受けてしばし目を閉じて逡巡する。
    判断は私に任せると、言外の態度が告げていた。

    これが通常通りの調査であるなら、持ち帰って証拠として提出するべきだ。だが今の状況はどうだ?事件や事故が起きた訳では無い。事実だけを述べるなら、私が一人で夢や幻覚を見て騒いだだけ。
    人形が原因と言うのも、刑事としてはとても口に出来ない「勘」のみ。

    ヒナが私の言を信じてくれているのも、以前に似たような事象を経験しているからに過ぎない。

    全てを無視して証拠を提出するとして、一体どこにどうやって。

    それよりこれを保存したとして、万が一今日と同じような事が起こる可能性は?
    今回は偶然何ともなかったが、次はどうか分からない。次に遭遇するのが多少なりとも事情を知っている私やヒナである可能性は限りなく低く、なによりこれを放置していく、という結論は最初から論外だ。

    それに、この人形をどうにかすれば今回の事象は起こらなくなる。そんな漠然とした確信があった。

    「……処分しよう」

    私の言にヒナは頷きだけを返し。
    合意を確認して、私達はピアノ室を後にする。

    部屋を出がてらふと腕時計に目をやると、時刻は2:31を指していた。

  • 83124/04/10(水) 00:11:50

    その後、廃校舎を後にした私達は途中委員長室によってライターを調達。再び外に出て人形に火を付けた。
    仮にも見知った人の似姿が燃えていく様は気分が良いものでは無かったが、燃えるにつれ粘つくような異質な空気感が霧散していくのを肌で感じた。

    燃えカスは適当にゴミ箱にでも入れておけばいい、とのヒナの言に従ってその辺のゴミ箱に捨てる。

    手に付いた炭を払い、夜風を思いっきり吸い込む。
    これでもうあの異質な現象は再発しない。形はどうあれ、一応の決着は付けることができたのだと。そう実感が湧いた。

    ゲヘナ学園への用はこれで終わり。後はまた何かあれば、とヒナと連絡先を交換し帰路に付く。
    タクシーを使い寮へ帰り、シャワーだけ軽く済ませてベッドへ潜る。

    ようやく実感する疲労は、私の意識を容易に狩り取ることだろうことは想像に安い。抗う必要も無く目を閉じる。

    意識を失う直前に脳裏を過ったのは、別れる直前のヒナとの会話。

  • 84124/04/10(水) 00:16:22

    .




    「ねえ。そもそもカンナは、いいえ、貴方へ噂を伝えた人は、「誰」から噂を聞いたの?」

    「本当にウチの──ゲヘナの生徒だった?」



    .

  • 85二次元好きの匿名さん24/04/10(水) 00:34:21

    このレスは削除されています

  • 86124/04/10(水) 00:39:08

    翌日。
    キリノを捕まえ、発端になった証言を行ったゲヘナの生徒の特長をなるべく詳しく聞きだす。
    髪色、身長、制服、部活、銃種。その他何かしらの手がかりを。

    ……キリノ自身もあまり覚えていない様で。一言二言言葉を交わしただけの間柄。無理もないと思う反面、昨日の今日の出来事を尋ねた割には、まるではるか昔の事を思い出すかのように話す彼女の様子がいやに印象的だった。

    ともかく、出来る限り手に入れた情報をそのままヒナへ伝え、該当生徒を洗い出して貰うように依頼する。
    他の仕事の合間になるからあまり優先は出来ないけど、との言通り、結果報告は三日後だった。

    挨拶を交わし、軽い雑談。その中にはあれ以来ピアノ室では何も起きていないとの言葉があり、とりあえず一安心。

    本命の、調査結果については。
    データが少ない以上追い切れていない可能性はある、との前置きの上で。



    ──該当生徒ゼロ名。


    それが結果の全て。


    ねばつく空気がまた。薄く、けれど確かに纏わりつくような予感があった。



    Case1.ゲヘナ学園_廃校舎/人形
    正常終了。

  • 87二次元好きの匿名さん24/04/10(水) 00:42:39

    正常終了ってのが引っかかるな…何かあるだろうな

  • 88124/04/10(水) 00:47:28

    はい、という訳でこれでゲヘナ学園_廃校舎/人形、終わりです!

    今回は専門家不在で行くのでこんな感じで進めていこうかと!


    終始局長が見た視点のみで話を進めて終わらせたので謎ばっかり残っていますが、その気持ち悪さがXファイル感になっていればいいなと思ってます!



    あと>>60での局長の構えのイメージは↓です!

    カッコいいですよね、この構え……ハリエス・テクニック(ホールド)と言うらしいです、是非局長にはやっていただきたくて……

  • 89124/04/10(水) 00:55:02

    あと安価だけ投げて今日は終わりです……筆が遅くてすみません……やはり文章を書くのは辛くて苦しいものですね……


    ※キーワード安価

    >>90->>95で出たものからダイス、もしくは組み合わせられそうなら組み合わせ

  • 90二次元好きの匿名さん24/04/10(水) 01:02:06

    雨音

  • 91二次元好きの匿名さん24/04/10(水) 01:09:45

  • 92二次元好きの匿名さん24/04/10(水) 01:10:16

    不発弾

  • 93二次元好きの匿名さん24/04/10(水) 02:00:41

    タバコ

  • 94二次元好きの匿名さん24/04/10(水) 02:01:56

    砂漠

  • 95二次元好きの匿名さん24/04/10(水) 02:14:34

    連邦生徒会捜査部先生のどんと来い、超常現象

  • 96二次元好きの匿名さん24/04/10(水) 08:51:10

    おつ 理解できない恐怖
    これは……まだ続きがありそう

  • 97二次元好きの匿名さん24/04/10(水) 09:06:15

    おい一つ変なもん混じってるぞ

  • 98二次元好きの匿名さん24/04/10(水) 09:14:58

    >>97

    安心しろ、この人の先生編は言うなれば解明編だ

  • 99124/04/10(水) 11:53:40

    こっそりダイスだけ振っておきますね......せ、先生はもしかしてゴムゴムの実の......!?

    1.雨音

    2.駅

    3.不発弾

    4.タバコ

    5.砂漠

    6.連邦生徒会捜査部先生のどんと来い、超常現象

    dice1d6=3 (3)


  • 100二次元好きの匿名さん24/04/10(水) 12:18:57

    なぜベストを尽くさないのか
    もうスレも半分終わってしまったし続きお待ちしております

  • 101124/04/10(水) 18:51:01

    すみません......今日は任務(仕事)のため書きに来れそうにありません......スレ落ちしないようにちょくちょく様子見には来るのでそれまでは雑談やSS投下にスレを使って貰えればと思います......

  • 102二次元好きの匿名さん24/04/10(水) 22:45:26

    保守

  • 103二次元好きの匿名さん24/04/11(木) 04:06:23

    ヒヨリニキネキのSSにはいつもお世話になってるし、なんなら自分でも何か寄稿したいなと思いはすれど
    1話にスレの半分消費してる現状あまりレス増やさない方がいいのかなと思わないでもなく…ジレンマ

  • 104二次元好きの匿名さん24/04/11(木) 12:19:26

    理解できないものが怪異…

  • 105二次元好きの匿名さん24/04/11(木) 21:45:49

    続きを期待
    体の一部が大きい先生か……

  • 106124/04/11(木) 22:58:35

    (うわぁん!更新分読んでたらもうこんな時間です!……先生、痛いですよね、苦しいですよね……なんせ爆破されてしまいましたもんね……えへへ……)


    ───

    ───



    アビドス自治区、カイザーPMC駐屯地……元駐屯地と言うべきか。

    カイザーがアビドスから手を引いて以来、ヘルメット団やその他集団が一時的拠点にすることは前からあった。

    多少人口が栄えている場所からは距離があるものの、ブラックマーケットなりの根城からあぶれた者たちが居つくにはむしろその距離が丁度良く。

    また、多少人口が栄えている場所からは距離があるせいで本格的な拠点にはし難い。そんな場所。


    その元駐屯地から、人が消えた。人が倒れている。


    そういう通報がここしばらく頻発して入ってきている。

    通報者は数は少ないものの決して一人ではないし、一種類でも無かった。

    例えばヘルメット団の一人が青い顔をして駆け込んで来たり。また、一般市民から恐々と連絡を貰ったりと。


    ただ単に人が居ないだけであれば根城にする者が居なくなった、という喜ばしい状況なのだが。どうやらそう単純な話でもないらしい。


    曰く。

    夕方ごろに数人で駐屯地に入っていき、翌朝にはその集団が丸ごと消え、キヴォトス内の各地で発見された。


    曰く。

    駐屯地に入っていった数人が何日も出てこないから足を運んでみると、昏倒するようにその場に倒れていた。


    などなど。

  • 107124/04/11(木) 23:00:50

    他にも、つじつまの合わないような、または何かがおかしいような証言が複数。けれども。


    そもそも砂漠化して久しいアビドス自治区の、しかも企業が撤退したと公言している場所での話。

    ヴァルキューレとして対応が難しい他自治区内での出来事であり、そして他の発生する事件に比べれば対応の優先度はどうしても下がる為、耳に届きながらも対処されることは無かった。

    ただしそれも組織として。私個人であれば多少の融通は効く。


    ……どうにも、先日のゲヘナ学園での一件と同じ匂いがする。前回と同じく勘でしかないが。


    ここしばらくの間で薄れていた粘つく空気がまた、肌にまとわりつく感覚。

    それを覚えて私は、この件の調査を行う事に決めた。


    しかしどうしたものか。

    仮にまた先日の「何か」のようなものが出てくると仮定した場合、通常の装備では如何とも対応し難い。

    なにせ顔面に弾丸が当たって怯みもしないどころか、弾自体が吸い込まれるようにして消えてしまったのだから。


    何か、眉唾でもいいから対策を。

    そう考えて私は──。


    1.ダメ元で良い、ネットで調査を行ってから現地へ赴いた。

    2.しかし具体的な対応策など調べる当てもない。とりあえず現場へ赴くことにした。


    >>108>>112で多数決の方針に局長は決定するようです……!

  • 108二次元好きの匿名さん24/04/12(金) 00:04:01
  • 109二次元好きの匿名さん24/04/12(金) 00:05:30

    1

  • 110二次元好きの匿名さん24/04/12(金) 00:14:12

    1

  • 111二次元好きの匿名さん24/04/12(金) 00:39:27

    1

  • 112二次元好きの匿名さん24/04/12(金) 00:56:42
  • 113二次元好きの匿名さん24/04/12(金) 01:27:35

    カンナ局長…

  • 114二次元好きの匿名さん24/04/12(金) 06:53:36

    事前に感染してしまうリスクはあるが
    今の局長は既に感染しているようなものだからな

  • 115124/04/12(金) 16:29:51

    あまり期待せず、ネットの海を彷徨う。……ある意味期待通り、大して有益な情報は出てこない。そのまましばらく役に立たない情報を瞳に映すだけの作業を続け、手ごたえの無さに辟易してパソコンを閉じようとし……ページネーションが普段では到底遷移しえない様なページ数の先。たった一つだけ気にかかる検索結果を発見。


    ──タイトルが「連邦生徒会捜査部先生のどんと来い、超常現象」。


    「何やってるんですか……先生……」


    溜息と共に、思わず独り言が漏れた。

  • 116124/04/12(金) 16:34:02

    ───
    ──


    ”いや……何それ知らない……怖……”
     
    時刻は十七時頃。今日の仕事を全て片付け、シャーレの執務室へ赴いて先生へ話を聞いてみた。
    私の手の内に握られている端末に表示されているのは、今時作成することの方が難しいんじゃないかとさえ思えるような骨董品じみたHP。でかでかとトップに表示される「連邦生徒会捜査部先生のどんと来い、超常現象」の文字と、先生の自画像。

    ……やけに高速表示されるので少し面白かったのは内緒だが、それはともかく。
    連邦捜査部、などと堂々と銘打っているから先生が作成したのではないかと思ったものの、どうやらそういう訳でも無いらしかった。

    「であれば……先生以外の誰かがあのサイトを作成したと?」

    ”うーん、どうだろう……。ねえカンナ、手が空いた時で良いから調べて貰える?サーバーとか、後はアクセス解析とか”

    「構いませんが、心当たりでも?」

    ”まあ、ちょっとだけ。それより”
    ”私のところへ来たの、それが本題じゃないんでしょ?……今日は誰にも当番お願いしてないし、聞くだけならモモトークでも構わないもんね”

    眼鏡の奥、細められた視線が私を射抜く。話が本題に移る。

  • 117124/04/12(金) 16:34:21

    いつもの様に目の下にあるクマのせいか、やけに視線が鋭く刺さる。そう感じるのは私自身の思惑を、僅かな期待を込めてここを訪れたのは既に見破られていたことを見破られたせいだろうか。

    ……ある意味想定通りではあったが、ネットで軽く調べた程度では先日遭遇した手合いに対する有効手段は見つけることが出来なかった。
    そんな折見かけた、先生の名を冠したウェブサイトと超常現象の文字。

    信憑性には著しく欠ける。あまりにも怪しい。一考するまでもない。けれど万が一、もしかしたら。先生が何か知っているのではないか?

    そう思ってしまうのはやはり、先日の経験があってこそだろう。
    あれが無ければ、別にこんなサイトなどそれこそ当番の時の雑談のネタにでもすればいいのだから。

    意を決して口を開く。この人なら悪い夢のような出来事を話したとして、一笑に付すようなことはしないだろう。

    「ええ。実は──」

  • 118二次元好きの匿名さん24/04/12(金) 22:04:51

    先生はこれ蛇神の呪いは残ったままなのか?

  • 119二次元好きの匿名さん24/04/12(金) 22:07:36

    阿〇寛のページじゃねえか! ……いや合ってるけど!

  • 120二次元好きの匿名さん24/04/13(土) 00:20:18

    支援SS

    虚ろの死、その墜落最近よく通報される事例に、「突然事件現場が発生する」というのがある。

    発端は数週間前に遡る。「テレビでよく見る人型に貼られたテープが道端に残っている」という通報を聞き、現場にやってきたところ、たしかにそれがあった。

    殺人事件や事故があり、死体がすでに別の場所に移された場合、このように死体があった場所をテープで囲う、というのは昔の話で、現在においてこうした現場保存を行うことはない。


    「つまりただのイタズラですね」


    過去にここで事件が発生したことがないことを確認し、通報者に事件性はないことを報告、テープは回収し業務を終えた。


    異常に気付いたのは、その次の日以降である。別の場所、別の人物から同じ内容の通報を受けたのだ。それも2件。部下に該当箇所での事件の有無を調べさせ自分は現場に赴く。案の定そこに、テープは貼られていた。こんなことなら昨日のテープをどこかに保管しておけばよかった、と念の為証拠品扱いで押収した2枚のテープを鑑識に回し、部下からの報告を受ける。やはりあの場所で事件は起きていない。

    ネットに明るい部下に何かこの事件がらみの流行があるのかを聞いてみる。


    「ハッキングに目を瞑って貰えば今回通報してき…
    telegra.ph
  • 121124/04/13(土) 03:33:21

    ゲヘナ学園で遭遇した一件について。
    それから、調査予定であるアビドス自治区の、カイザーPMC駐屯地における不可解な噂について。

    それらをまとめて、先生へ語る。あまりにも荒唐無稽な経験、飛躍した発想に基づく調査。自身すらそう思う内容に、しかし先生は真剣に首を縦に二度三度と揺らし。私が語り終える前に引き出しに手を伸ばす。

    ”なるほど......。事情は分かったよ。つまり、アビドスでの調査を行う「何か」への対策が欲しいってことで良いかな?”

    ならタイミングが良かったね。ごそごそと引き出しを漁りつつ、先生は続ける。

    ”私のその噂については気になっていてね。ちょうど調べに行くところだったんだ。ホシノ......アビドスの生徒会相当の組織へは私から連絡を入れておくから、カンナも一緒にどう?”

    引き出しから取り出した──一目で分かる、明らかに未流通品の拳銃を私へ差し出しつつ、先生は私にそう言葉を投げた。

    万が一に賭けた私の直感は正しかった。先生は何かを知っている。

    私の言葉を疑わず、驚かず、当然の物として受け入れているその態度が。言葉にせずとも雄弁に語っていた。

    聞きたいことは沢山ある。知りたいことは山程ある。
    けれど今はまず、目的の調査へ。

    「先生が何を知っておられるのか、私が何に遭遇したのか。......後でご説明願えますか?」

    ”もちろん。けれど私もなんでも知っているって訳じゃない。分かる範囲で、になるけどね。それでも良ければ”

    十分だ。正直今ここで問いたい気持ちでいっぱいだが、それ以上に。先生がアポイントメントまでを一足飛びに済ませてくれた絶好のチャンスを逃す訳には行かない。これを逃せば、事情に詳しい人物とともに調査へ赴ける機会はいつになるか分からない。

    次々に浮かぶ疑問を胸の内にとどめ、差し出された拳銃を受け取った。

  • 122124/04/13(土) 03:39:12

    (すみません、リアルがちょっと色々不規則になってまして、バラバラな時間帯にちょこちょこ投下していく形になりそうです......一気読みが出来ない形になってしまうのですが、思い出した時にでもちょろっとスレ覗いて貰えると嬉しいです......)

  • 123二次元好きの匿名さん24/04/13(土) 06:37:43

    保守

  • 124二次元好きの匿名さん24/04/13(土) 06:42:05

    (前話、あのフェルト人形に顔を与えて完成させるとどうなってたんだろうなぁ……なんてことに思いを馳せている)

  • 125二次元好きの匿名さん24/04/13(土) 15:53:11

    保守

  • 126二次元好きの匿名さん24/04/14(日) 00:37:07

    少しずつでも進めてくれるなら楽しみに待ってます

  • 127124/04/14(日) 02:59:08

    シャーレを出て、目的地であるカイザーPMC駐屯地へ到着した時にはもうとっぷりと日が暮れており。
    太陽の代わりに月が私達の足元を照らしていた。

    まだ駐屯地へは距離がある位置で、渡された拳銃についての説明を聞く。
    純銀の弾を射出可能な、ミレニアム謹製のハンドガン。

    ”詳しい説明は省くけど、要は魔除けだよ。聞いたことあるでしょ? 吸血鬼には銀の十字架とか、人狼には銀の弾丸が弱点だとか。それと同じ”

    だからそういうのと似た、「なにか一般的でないもの」には総じて一定の効果が見込める、らしい。

    ”逆にこれで効果がない場合には「なにか一般的でないもの」から更に一段と普通でないことが多いから。十分に注意して。燈籠祭以降、どうにもそういうのが増えているみたいで......っと、準備は大丈夫?”

    足を踏み入れる直前、掌の内でマガジンやスライドなどの機構を一通り改める。
    装備品であるヴァルキューレ制式拳銃とは多少使い勝手が異なるものの、扱えないことはない。

    「ええ。行きましょう」

    頷きを返し、視線は件の目的地へ。
    寂れて砂にまみれた駐屯地が、月明かりを怪しく照らし返していた。

  • 128124/04/14(日) 11:29:17

    駐屯地へ足を踏み入れ、まず注目したのは砂に残る足跡。
    内部には砂が入り込んでいる、というより砂に埋もれていて、もはや靴裏で砂を踏む、ではなく足で砂をかき分け歩く。そんな表現がしっくりくる有様。

    そのため足跡はしっかりと残っており、それは私達の他にも人が居ることを示していた。


    しかし、人の気配が一切感じられない。
    まるで私達二人以外、誰もここに存在しないかのように。


    念の為足跡を詳しく確認してみたが、外から内へ数人分が残っているものの、内から外へ、つまり敷地外へ出ていったものは見当たらない。

    特に姿を隠してきたわけではないので、仮にここを根城にしている不良達が見張りでも立てていればすぐに発見される。

    そうすれば物音がするし、抵抗されれば不法侵入等の取り締まりという業務が発生するが、少なくとも誰かが昏倒するような事象は発生していない。常通りの仕事を済ませればいいだけ。
    何もないパターンであればそれが一番良い。

    そう考えていたのだが、やはりそう簡単に事は運ばないようだった。

    ここへ入り込んだ誰かは果たして、倒れているのか。キヴォトスのどこかで発見されているのか。
    はたまた、全く別の何かが起きているのか。

    確かめるべく、更に内部へ足を進める。

  • 129124/04/14(日) 15:22:01

    「そういえばここは、アビドス砂漠の地下を発掘調査する為の拠点なのでしたか」

    ”そうだね。ま、カイザーは既に手を引いたし、手引きしていた奴ももう手を出すつもりはないんじゃないかなと思うよ”

    駐屯地内部を、足跡を辿るようにして捜索していく。
    幾分か大きめの声で雑談を交わす。
    それを聞きつけて誰かが出てくれば、との思いからだが、やはり効果は薄い。

    そうして調べていくことしばし。

    駐屯地の丁度中央、おそらくは発掘調査の司令室なのか、大小様々なディスプレイが複数かけられた部屋を発見した。

    頑丈なガラスで部屋の内外が仕切られていて、駐屯地内の通路などから室内が見通せる作り。

    一方外界へ面している窓は一つもなく、司令室へ砂が入り込むことを避けるための構造なのだろうと想像がついた。

    私達は司令室の中を、通路からガラスの壁を通して覗く形。

    一見して分かる。異常であるのはこの部屋だと。


    「──先生、これはっ」

    ”ああ、すぐに助け出そう。......触れることが出来れば、の話だけど”

  • 130124/04/14(日) 15:22:25

    司令室内部、ガラス越しに見える腰の辺りの高さまで。......たった今踏みしめている足元の砂とは明らかに異なる極彩色の砂で、満ちている。

    明らかに、放棄された建物内に風で砂が運ばれたという量を超えていて。
    まるで容器の半分まで道具を用いて砂を入れたような、そんな様相。

    なぜ室内が砂に埋もれていたのか、これも一目で理解できた。
    砂に見えていたものが、極彩色である理由も。

    密室のはずのその空間へ。煌めく粒子が延々と降り注いでいる。

    青色の粒子が。赤色の粒子が。黄色の粒子が。
    橙色の粒子が。その他様々な色の粒子が。
    無から生まれ、中を漂い、落下した粒子が砂に見えて。

    そして室内に広がる極彩色の砂漠へ、埋(うず)もれている人の姿──制服を着ていることからおそらく生徒──が複数人分。おそらく私達が辿ってきた足跡の主達。ヘイローは消えており、意識を失っていることは間違いなく。

    ──更には半透明になっていて。ありていに言うなら「消えかかっている」。そう直感できる状態だった。

  • 131二次元好きの匿名さん24/04/14(日) 22:42:57

    色彩……? それとももっと別の何か……

  • 132二次元好きの匿名さん24/04/15(月) 05:59:53

  • 133二次元好きの匿名さん24/04/15(月) 15:26:35

    結末やいかに

  • 134124/04/15(月) 18:01:29

    サイケデリックな粒子を目にしているだけで気分が悪くなる。だがそれが沸き上がる吐き気を堪えて、扉を探す。
    少し視線を走らせればすぐに扉が見つかった。急いでドアノブを回して──。

    「開かっ……!?」

    ガチャガチャと音を立ててドアノブを弄るが、一向に開かない。中の人間がどれだけの時間をかけ「消えかかってしまって」いるのか判断が付かない以上、鍵を探してくる暇は無く。本来の、手に馴染む拳銃をホルスターから引き抜く。
    動かないものに対しての照準など片目を瞑っていたって合わせられる。引き金に指をかけ、三発分をトリガ。激音と共にドアノブごと鍵を破壊する。

    壊した穴から強引に扉を開こうとして、僅かに違和感。向こうの部屋からすれば既に砂に埋まっている位置に穴が開いて、なぜ漏れ出てこない?

    自らの内に鳴った警鐘と同時、

    ”待った! ……私が開ける”

    後から制止の声。振り返ると先生がこちらへ駆けてくるのが見えた。

    「しかし……いえ」

    ”対策があるかもって信頼して私を頼ってくれたでしょ? だから、私に任せて”

    そう言われれば、そうだ。私より詳しい誰かに力を借りたくて、そして実際に先生は私より知識を持っていた。
    専用の拳銃などもその一つ。ならば詳しい人の意見は聞くべきだ。
    しかし同時に、何でも知っている訳では無いとも自ら言っていた。あの砂、粒子について対策を打てているのだろうか?

    ……ダメだ。逡巡している時間が惜しい。せめて少し考える時間があれば。
    迷いを断ち切る意味も込め、頷きで答えを示す。

  • 135124/04/15(月) 20:28:26

    一歩引いて、扉の前を譲る。
    先生はポケットから手袋を取り出して身に着け、空けた穴へ手を差し込む。力を込めた様子が背中から伝わる。地面を踏みしめて、一気に扉を開けた。

    遮る壁が無くなったのだから砂が流れ込んでくるだろう。その予想は裏切られた。

    扉が開いた先、おおよそ腰の高さまで積もった極彩色の砂……粒子の山。それが。
    まるで未だに仕切られているかのように、崩れることはない。かといって見えない壁があるのかと言えばそういう事でもないようで。

    先生は扉の奥へ足を進め、室内へ踏み入る。しかし、砂の山へ乗り上げるようなこと動作は取らず。言うなれば砂の山を素通りするかのような。

    仕切りも無く崩れ落ちない極彩色の砂の山。
    質量のあるそれを物ともしない、いや、そこに存在していないかのように通っていく先生。
    その光景に一瞬思考が停止し、思わず棒立ちで呆けてしまっていた。

    ”カンナ。多少気持ちが悪くなったり、眩暈がするかもしれないけど、少しの間触れているだけなら問題はなさそう。……あまり長い時間触らないに越したことは無いから、急いで全員を外へ運び出そう”

    声を掛けられ、意識を戻す。
    そうだ。あっけにとられている場合じゃない。迅速に中に倒れている人を回収しなければ。

    返事の代わりに行動を。躊躇いはあるが頭(かぶり)を振って振り払う。先生の後へ続いて室内へ。

    砂を乗り越えようと足を大きく上げ、振り下ろす。目に映る、極彩色の砂へ足が触れる。が、靴裏は砂へ触れる感触を捕らえず、床を叩く硬質な反射だけが体に伝わってきた。

    試しに腰の高さにある砂の山を一掴みしようと左手を伸ばす。私の眼は砂の山に埋まる左手が映っているが、肝心の左手には空を掴む感触だけが残る。

    ・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・
    目に映る光景と。干渉する現実が噛み合っていない。

    その違和感に脳が悲鳴を上げる。

  • 136124/04/15(月) 20:29:34

    しかもそれだけではなく。

    砂がある場所へ足が入ると同時、かすかに耳の奥がかき乱されるような感覚。
    もう一歩足を進めると,今度は耳の奥の感覚は消える代わりに僅かばかりの腐臭が鼻に付く。
    さらに足を進めると悪臭は立ち消え、その代わりといわんばかりに肌の上を虫が這いまわるような感覚が。

    また一歩。また一歩と足を進めるごとに。それほど強くは無い、しかし種類の異なる不快感が入れ代わり立ち代わり襲ってくる。

    五感を刺激する何もかもが不快で、すぐにでも部屋から飛び出していきたくなるが。意識不明者たちを助けるという目的を強く意識して、どうにか気を取り直す。

    「正直、この不快感の中で余裕をもって人ひとりを運べる気がしません。ですので」

    ”うん。私も同じ。二人で一人を順番に運んでいこう”

    言葉少なに合意を取って、砂に埋もれた生徒達の救出作業が始まった。

  • 137124/04/16(火) 02:33:28

    先生と私は視覚上腰近くまで砂に埋もれているが、それは言ってしまえば見かけだけ。砂で動きが制限されるようなことは無い。逆に言えば、私達では砂に対して物理的な干渉が出来ない。
    例えばもし今この場で転んだならば、倒れ込む先は砂では無く床。

    一方で意識不明になっている生徒たちは、文字通り砂の中に倒れ込んでいて。それはつまり砂から物理的な影響を受けている、という事だった。


    目に映る光景と事象の噛み合わなさに辟易としながらも、あたりを見回して人数を数える。全部で四人ほどがこの場で意識を失っているようだ。

    一人へ近づき、消えかかっている体に触る。どうやら物理的に掴むことは「まだ」出来そうだった。しかしこれは。
    なんというか、手ごたえが薄い。触れているという現実感が無い。掴んでいることは間違いないのに、今にもすり抜けてしまいそう。……おそらく、このままならその懸念は実現してしまう。しかもそう遠くない時間で。

    悠長に一人ずつ運ぶような猶予はもはや無い。そう直感する。
    思わず先生の方に視線をやれば、どうやら同じ結論に至ったようだった。

  • 138124/04/16(火) 02:34:09

    そこからはひどい有様だった。

    砂の上に突き出している体の一部分から居場所の見当を付けて近づく。昏睡している生徒達からまず運搬の邪魔になるヘルメットをもぎ取り投げ捨て、腕を両肩を通して腕を首へ回す。尻の下へ私自身の両手を差し込み体重を支え、扉へ歩く。

    その行動の間にも神経を苛む感覚は相変わらず襲って来ていて、一動作を行うごとに正常な五感をはぎ取られていく。
    しかも先程までとは違い、その感覚を無視して強引に進んでいるせいか、「多少気持ち悪くなる」レベルを超えてしまったようで。

    いつ、どのタイミングで三半規管が揺らされたのかさえ覚束ないまま、吐き気を堪え切れずに戻してしまった。反動で倒れそうになる体を両足で無理やり支え、正常な空間へ、入って来た扉の先へと体を投げ出す。

    砂から体が脱した瞬間、五感が正常に戻った。思わず倒れ込んで咳き込む。
    肺から息を吐き出し切り、また咳き込んで、ようやくまた酸素を取り込めた。

    その間に、先生も一人を背負いながらこちらへ倒れ込んでくるのが見え。堪え切れなかったのか俯いて嘔吐。

    お互いにゲホゲホと咳き込み、万全とは真逆の状態ながらもどうにか立ち上がる。
    あの空間の中に後二人、まだ意識を失っている生徒が倒れている。

    言葉を交わす余裕はなく、視線を合わせてお互いに頷き。私達は再度、極彩色の砂漠へと入り込んだ。

  • 139二次元好きの匿名さん24/04/16(火) 08:02:56

    ヘルメット団の本体が…

  • 140二次元好きの匿名さん24/04/16(火) 10:51:21

    保守

  • 141二次元好きの匿名さん24/04/16(火) 18:30:50

    保守

  • 142二次元好きの匿名さん24/04/16(火) 22:35:14

    一体この砂は何なのか

  • 143124/04/17(水) 00:54:23

    もう一人を背負って扉を潜(くぐ)る頃には、指一本動かすのさえ億劫になる程疲労困憊していた。
    息も絶え絶えに再び地面へ倒れ込む直前、背負っていた生徒も落とすようにして先程救出した二人の横に並べる。
    同じように先生も、背負ってきた生徒を先に救出した二人の横へ寝かせていた。そのまま地面へ腰を落とし、横へ倒れる。

    疲労具合でいえば私も先生も大差なく。

    「これで……あの……砂の中に居た……人間は……全部ですか……?」

    ”うん……そうだと……思うよ……”

    地面に転がって天井を見ながら、視線だけは扉の向こうへ向けて問いかける。

    同時に思考を回す。ここからどうすべきか。幸いあの砂はこちらへ流れ込んでくる様子は無い。ならこの場を離れても問題は無いが、今の私達では移動さえままならない。
    扉へ向けていた視線を、あの部屋から連れ出した四人へ向ける。見れば、胸はゆっくりとだが規則正しく上下していて、命に別状はなさそうだった。

    また、未だに「消えかかって」いる状態ではあるものの、部屋の中で感じていたような、症状が進行する様子は無い。……現実感が増している、というか。

    ──さっきまでは余裕が無くて意識を割けなかったが、改めて観察すると「何か」の気配を纏っていると感じられた。
    以前、ゲヘナ学園の廃校舎にて。連邦生徒会長に似た人型と相対した時と同じ気配。比べるべくもない程幽かだが確かに。

  • 144124/04/17(水) 00:55:02

    仮にあのまま消えるに任せていたら一体、どうなっていたのだろうか?
    そもそもあの砂、いや、「粒子」のようなものは何なのだろうか?

    深刻な状況を脱したからこそ次々に浮かぶ疑問の群れ。
    その辺りも先生に確認を取りたいが、とりあえず今はここから移動する算段を付けることが先決だ。


    少しだけの時間経過の後、しばらく深呼吸を繰り返してようやく息を整えた先生が声を掛けてきた。

    ”ヘリを呼ぼう……。アヤネに連絡すれば多分回してくれるから……”

    そう言いながら先生は寝そべったまま、スマホを操作して電話をかける体制に入る。
    漏れ聞こえるコール音と、数舜後に耳に届く慌てたような声。

    僅かな応答と共に、了承の意が聞こえて通話が切れる。

    これで帰りの足もどうにか。

    問題は山ほどあるが。それでも致命的な事態は脱することが出来たのだと、その実感が追い付いてきた。

  • 145124/04/17(水) 02:23:40

    それから一時間程して。駐屯地内外に大きく響くプロペラの駆動音。先生が呼んだ、アヤネと言う生徒が駆るヘリが到着したことを知らせるような音。

    気を失ったままの、少しずつ回復してきているとはいえ通常であればあり得ない、「消えかかっている」生徒を見ても軽く驚きを露わにしただけでヘリへの積み込みを手伝ってくれたあたり、彼女も多少は事情を知っているだろうか。
    ……お世辞にも綺麗とはいえない私達の様子にも苦笑いを浮かべてタオルを差し出してくれたので、おそらく間違いない。

    その後は回されたヘリに乗り込んで、一路シャーレへ。

    意識不明の彼女達をどうするかを相談した結果、これ以上の悪化も無いとは思うが万が一の保険として、目の届く所で様子を見ておくとの事。
    流石にあの疲労の後に一人では辛いだろうと見て、私も協力を申し出た。

    近くのヘリポートで意識不明の彼女らを降ろし、シャーレへ運び込む。

    運び込みまで協力して貰ったところで奥空アヤネとは別れることに。いきなり巻き込んだことに対する謝罪とここまで運んでくれた礼を述べ、それを受けた彼女は微笑みを浮かべて。ヘリへと再び乗り込むのを見届けた。


    奥空アヤネと別れてしばらく。シャーレの執務室内。人工の光と、それに照らされた穏やかな色調の家具たち。

    人の生活圏に帰ってきた気がして、ようやく気が抜けた。
    緊張が解けると今度は、自分の汚さが気に障る。先程タオルで多少は拭ったものの、洗い流したい。

    ”とりあえず……体綺麗にしなきゃだね。先シャワー使っていいよ。私は彼女達をベッドへ寝かせておくから”

    「すみません、お言葉に甘えさせていただきます」

    まずは私から身を整えることになった。

  • 146124/04/17(水) 02:37:44

    (ようやく解説編までたどり着きました……!明日でこの編終わります!長くかかってすみません!)

  • 147二次元好きの匿名さん24/04/17(水) 02:39:03

    ワッ、ワア…(語彙消失)

  • 148二次元好きの匿名さん24/04/17(水) 07:37:42

    なんかこう……現実感が云々の話が出てくると、途端にレッドなリアリティを想像してしまうな……

  • 149二次元好きの匿名さん24/04/17(水) 16:57:44

    完結まで保守

  • 150二次元好きの匿名さん24/04/17(水) 22:02:31

    本家ヒヨリSSすげぇわ

  • 151124/04/17(水) 22:30:49

    時刻は二十三時頃。
    未だに昏睡している彼女達が目を覚ますそぶりは無く、先生が珈琲を淹れる音だけが室内に響く。
    お湯がフィルターへ流れる音に、珈琲がカップへ落ちる音。
    香ばしい豆の香りが鼻孔を擽って、ソファへ座った私へ珈琲の入ったマグカップを差し出した。
    礼を告げ、一口啜る。公安局とは味が違うが、シャーレで飲む特有の豆の味と香り。それが口内に広がって、どことなく落ち着いた気分になる。

    先生は普段使いしているチェアに腰掛け、同じように珈琲を飲んで頷きを一つ。そして、口火を切った。


    ”さて、何から話そうか……といっても改めて言っておきたいんだけど。私も全てを知っているって訳じゃないし、特に今回は調査も検証も不十分な状態での推察を話す形になる。だから、実態とは異なる可能性が高いけど、それでもいい?”

    その言葉にうなずきを返す。
    例え考察材料が少なかろうと、私が一人で延々と頭をひねり続けるよりは建設的な筈だ。何より、多少なりとも答えのようなものを聞けないと、文字通り夜も眠れない。

    「説明を欲しいことは数多くありますが、まずはあの「砂」について」

    聞きたい事、知りたいことは数多くあるが。結局のところはそれに帰結する。
    今回の噂の大元にして、不良達が昏睡する原因。そして私達が文字通り反吐にまみれて救出作業を行うことになった元凶。

    先生はまた一口珈琲を含み飲み下し、一呼吸おいてから言葉を紡いだ。

    ”あの「砂」について、ね。あれは、”

    ”例えば幽霊”
    ”例えば呪(まじな)い”
    ”あるいは超常現象”
    ”そういった、誰かから誰かへ言葉を介して紡がれる、噂や怪談など……になれなかったもの。手慰みの、場を繋ぐような会話のネタにすら至れなかった、人の興味を引けなかった「何か」の、なり損ない”
    ”けれど一度(たび)何かを引き金に、一斉に力を持つような。そんなひどく不安定な「きっかけ」が寄り集まって、淀んでいた”

  • 152124/04/17(水) 22:32:42

    ”──言うなれば、「何か」の、不発弾”

    その場にあるだけでは影響を及ぼさず。しかしてほんの僅かな衝撃で起爆してしまう。

    ”それが、あの砂。……粒子の正体”

    だと思うよ。多分だけどね。

    そう言って先生はまた一口、珈琲を啜った。

  • 153二次元好きの匿名さん24/04/17(水) 22:33:52

    お題がここで来るか…!すごいな

  • 154124/04/18(木) 00:00:31

    ”あの砂に足を踏み入れた瞬間、感覚がおかしくなったでしょ?それも次々に刺激が入れ替わるように。基本的にああいう場所へ足を踏み込む時って寒気を感じたり変な音を聞いたり……いわゆる霊障に見舞われたりするんだけど。そういうのって大体一種類か二種類なんだよね。それを感じさせてくる大元の原因によって。でも”

    「あの場には数多の原因があって、私達はそれに自ら次々と触れた。だから、効果の小さい霊障が連続して襲ってきた。……そういう事でしょうか?」

    ”うん。合ってると思う。それで最終的には許容量みたいなのを超えて耐えきれずに”

    「嘔吐という形で現れたと」

    ”多分ね”

    霊障だのなんだのと、業務時間内に部下からそんな事を言われたなら説教では済まないが。私自身が遭遇した経験から不思議と受け入れさせた。

    「ではあの、砂の中で昏睡していた不良達は?……あれは明らかに私達とは違う形で「砂」へ、先生の言う「きっかけ」の粒子へと干渉していました」

    そして現実感が薄れるというか、気迫というか。消えかかるというのは、私達への症状とはまた違う症状。

    ”そちらに関してはまた別の理由だね。あれは多分、長く粒子に触れた結果、存在が「何か」に寄り始めてた……影響を受け始めていたんだと思う。朱に交われば赤くなる、じゃないけど。”
    ”ほら、駐屯地に流れた噂があったでしょ。人が消えたりとか、倒れてたりとか。あれこそが多分、長く粒子に触れた結果だと思う。長時間触れて、「きっかけ」を揺り動かした。そして、その時触れていた粒子の、「怪談」の影響を受けた”

    それは例えば。気が付いたら別の場所に居た、とか。気づけば気を失っていた、とか。
    そういう類の怪談、噂。
    確かにそんな話は、雑談のネタに事欠かない。

    「では、今回消えかかっていた不良達は」

    より正確に表現するなら、「消えかかっていた」というより。「成りかかっていた」。
    という事なのだろうか。

  • 155二次元好きの匿名さん24/04/18(木) 00:01:03

    このレスは削除されています

  • 156124/04/18(木) 00:03:22

    ……いや。一瞬のちに、脳裏に走った思考に背筋が凍る。
    怪談でなくたって。推理小説にだって出てくる。普遍的な〆の一文。



    「その後、姿を見た者はいなかった」



    そう〆られるような怪談や超常現象の「きっかけ」が。あの場にあったとしたなら。それに長く触れて、影響を受け切ったとしたなら。


    冬も終わり、肌寒さも無くなったこの季節なのに。歯の根が音を鳴らす。
    温かさを求める様に、マグカップから珈琲を啜った。

  • 157二次元好きの匿名さん24/04/18(木) 08:13:28

    あわわ…

  • 158二次元好きの匿名さん24/04/18(木) 13:31:30

    おおう……

  • 159124/04/18(木) 19:15:24

    とにかくあの砂の正体は分かった。なら次は。あの場所に、「きっかけ」が淀んだ理由。

    「なぜ砂は、あの部屋へ溜まっていたのですか?」

    ”基本的に噂とああいった現象の関係性は鶏と卵に近いからねえ……噂が立ったから「きっかけ」が集まったのか、「きっかけ」が集まったから噂が広まったのか。特に今回は断言できないかな。碌に調べられてないから、情報が少なすぎる”

    ”それでも理屈をつけるのであれば、ひとつは自然に、だと思う。そもそも「砂漠」って浪漫があるじゃない? それにアビドスさ──”

    流暢に説明を続けていた先生が、一度そこで流れを切った。まるで、言葉を探すかのように。

    ”──砂漠からはほら、ウトナピシュティムの本船が出たからさ”

    結局続いた言葉が、当初意図した考えなのかは私には判断が付かないが、それはともかく。

    遺跡、発掘、ミイラ、ピラミッド。ざっと思いつくだけでも、映画や小説のフックになる要素には事欠かない。それがアドビス捌くに実在するかは問題ではない。「実は」という枕詞さえあれば、いくらでも想像を広げられるのだから。
    それに加えて巨大な舟が発掘された事実があれば、そこに尾ひれがついた噂の一つや二つ。流れてもおかしくないだろう。

    ”後は、何者かが意図的に細工をした、とかかな。何をどうやって、とかは全然見当もつかないけどね”

    ふと思い出す。そういえば、私が先生に相談するきっかけになったふざけたサイト。……「連邦生徒会捜査部先生のどんと来い、超常現象」。
    あれも、心当たりがあるような雰囲気だった。

    「そういえば、あのサイトにも何か思うところがあるようでしたが。そちらとも関係が?」

    ”確証は無い。けれど「何か」を、怪談、都市伝説を。本来まことしやかに、ひそやかに語られていくべき、無意味な御伽噺を。「押し上げよう」とする、あるいは公に晒そうとする組織に心当たりはある。……私の名前を使ってサイトを作るのは完全に私への嫌がらせだろうけど”

    ”──ゲマトリア。あるいは、花鳥風月部”

    それらが、何某かの実験をしていたとしても不思議じゃない。
    先生はそう言って、ぬるくなり始めた珈琲を口へ運んだ。

  • 160二次元好きの匿名さん24/04/18(木) 20:49:05

    阿〇寛の仕業ではなかったのか…

  • 161二次元好きの匿名さん24/04/18(木) 22:41:43

    ゲマトリアからの先生への印象的にそんな嫌がらせやらないと思うから
    花鳥風月部あたりかな

  • 162124/04/19(金) 00:31:45

    その後。珈琲を飲み干した私達は交代で仮眠を取ることに。
    先に私が休み、続いて先生。

    私が休む前、起きた後でも意識不明の生徒達は起きることなく。
    実際に目を覚ましたのは、先生の仮眠が終わる時とほぼ同じタイミングだった。

    その頃にはもう消えかかっている様なことは無く、しっかりとした現実味を帯びていて。……幽かに感じていた、連邦生徒会長の似姿のような気配も完全に消え去っていた。

    また、彼女たちはPMC駐屯地へ踏み込んだ時から記憶が無いようで、知らない天井に上質なベッドにと随分と驚いた様子だった。

    特に異変も起きなかった彼女たちから軽く事情を聞き、すぐに開放した。仮にも公安局長とシャーレの先生が出張っていた事からして何かしらがあったことは察したらしく。普段の不良共の様子とは打って変わって借りてきた猫のように大人しかった。……ヘルメットが無い事には随分と不満げだったが。

  • 163124/04/19(金) 00:32:08

    彼女らを解放した後は、それぞれ日常の業務に戻り。仕事を終えてから再度、PMC駐屯地へと赴く。が。

    件の、砂に埋まった部屋まで行きついてみれば。


    ──極彩色の粒子の一粒も残っていなかった。


    自然に発生していたからこそ、何の予兆も無くそこにあって、また何の予兆もなく消え去って行ったのか。
    あるいは、異変に明確に対応した私達が足を踏み入れたから、何者かが手を引いたのか。

    どちらが正しいのかなど分かるはずも無く。けれど思いを馳せる。

    この部屋を半分ほど埋めていた、幾百幾千幾万幾億の、極彩色の砂。先生の言葉を借りるなら、何かの「きっかけ」。何かに至れなかった不発弾でさえ無数にあるというのなら。
    果たして何かへと、明確に何かへと至った「きっかけ」は。どれ程の量、キヴォトスへ渦巻いているのか。

    それを想像して思わず手元の、正式装備品でない拳銃を弄びながら、窓の外へを目をやる。

    遥か彼方まで広がる砂漠の向こうに、得体の知れない影が見えたような気がした。





    Case2.アビドス砂漠_PMC駐屯地/不発弾
    正常終了。

  • 164二次元好きの匿名さん24/04/19(金) 00:33:51

    おつ
    分かってないことの方が多いが…このキヴォトス思いのほか怪異の種が渦巻いてるな!

  • 165124/04/19(金) 00:54:49

    はい、という訳でこれでアビドス砂漠_PMC駐屯地/不発弾、終わりです!


    ちなみに序盤(>>107)の選択肢は同行キャラの違いが反映される形になっており、もう一方の選択肢を選んだ場合は

    アビドス砂漠を調査する許可をホシノさんへ取る→(過去の事もあって)一人では行かせられないと同行

    の形で小鳥遊ホシノさんが先生の代わりに今回の異変に遭遇することになっていました!


    あと>>145でシャワーを浴びた際は汚れた衣服は洗っていて、かつ他に着るものも無い筈なのですが一体何を着ていたんですかね……?先生のYシャツでも借りてたんでしょうか……?


    >>161

    イメージとしては恐らくシュロさんが嫌がらせも込めてホームページを作ったのではないかと……


    もう一つ分書くかどうか悩むくらいの残りレス……短めなのであれば大丈夫……?

    とりあえずキーワードだけでも募集しましょうか……ちょっと少なめで


    ※キーワード安価

    >>166>>168で募集して、その後ダイスで選択

  • 166二次元好きの匿名さん24/04/19(金) 00:56:45

    もう一人の自分

  • 167二次元好きの匿名さん24/04/19(金) 07:19:23

    無知

  • 168二次元好きの匿名さん24/04/19(金) 07:19:25

    卒業式

  • 169124/04/19(金) 11:06:41

    キーワード安価ありがとうございます!

    ダイスだけ振っておきますね……

    あと今日の夜は多分書きに来れないと思うので明日からになるかと……

    dice1d3=2 (2)

  • 170二次元好きの匿名さん24/04/19(金) 20:22:33

    保守

  • 171二次元好きの匿名さん24/04/19(金) 22:07:20

    キーワードは『無知』かどんな話になるかな

  • 172二次元好きの匿名さん24/04/20(土) 07:40:54

    このレスは削除されています

  • 173二次元好きの匿名さん24/04/20(土) 17:46:27

    無知とは最大の恐怖…

  • 174124/04/20(土) 23:25:24

    最近部下の一人が良く働く。いや、勘働きが良いというべきか。
    珈琲を淹れようとした時に丁度良く差し出されたり。
    欲しい資料を先回りして準備されたり。

    それだけであれば単に気が利くだけで良い。けれどどうにも、それ以上である、と感じ始めたのが本日。

    ──

  • 175124/04/20(土) 23:28:17

    今日もある種いつもの通り。DU地区に店を構える、あるレストランにて爆破騒ぎが発生。案の定引き起こしたのはゲヘナの美食研究会。
    やれやれという気持ちを抱えつつ、奴らを追う為に公安局を出ようとした直後、その部下からの進言が。

    マップを出し、ある地点を指さす。曰く。
    この場所を通るから、ここに網を張っておけば一網打尽に出来ると。

    今しがた発生した事件にも関わらず、当てずっぽうや適当を述べている様子ではなく。必ずという確信に満ちていた。

    「……根拠は?」

    仮に今の話が本当だとしても、間違っていたとしても。早く現場へ向かわねばならない事には違いない。建物を出て、歩きながら疑問を投げる。例えば行きつけのレストランだから地理に詳しいとか。その周辺に住んでいるとか。そういった、何かしらの理由があればまだ納得できる。

    だが、本当に欲しかったのは明確な返答では無く。ただ自分の内にあった予感が疑問の形を取っただけ。過去の経験に基づく予想。きっと人形と砂に遭遇しなかった私であれば、気にも留めなかった虫の知らせのような。


    これは、また「何か」の予兆だと。


    私の質問に対して部下は足を止めた。釣られて足を止めて振り返ると、部下は声を低めて笑い声を一つ漏らし。
    愛おしむ様に自らの右手首を撫でる。動きを目で追ってみれば、そこには部下が普段付けていなかった腕時計──いや、腕時計型端末か──が巻かれていて。


    私、何でも知っているんです。


    とだけ呟き、また歩き始める。
    私の横を過ぎる瞬間見えた口元は、笑みの形に歪んでいた。

  • 176二次元好きの匿名さん24/04/21(日) 08:06:02

    何でも知ってるよ。知らないことなんてない。

  • 177二次元好きの匿名さん24/04/21(日) 16:21:25

    このカンナの部下のヴァルキューレ何者だ…?

  • 178124/04/21(日) 16:46:08

    示された地点に人員を配置させれば、あっけなく全員を捕らえることが出来た。……これもまたいつもの通り給食部の愛清フウカも誘拐されていたようで。彼女はすぐに開放したが、それはともかく。

    美食研の連中を牢に詰め込んで一息入れる。
    どうせ二、三日もすれば脱獄を図るのだろうが。私が四六時中見張っていれば防げるかもしれないが現実的ではない。
    監視体制に改善が必要である、と考える一方、他の不良連中や逮捕した奴らは概ね定められた日数で解放するまでは大人しくしている。やはり美食研や、矯正局からでさえ脱獄してみせる一部の奴らが異常なのだろう。
    ともあれ、通報された事件は片付いた。であれば次の懸念点である、部下の事。……何でも知っているとまで宣った、彼女の事。


    いくら「何か」が関わっているかもしれないと言えど。流石に個人が付けている腕時計までをどうにかできるような権限は私には無い。
    また、例の地点を示した部下に話を聞こうとしてみても、巡回や別の事件に当たっていたり。時間が空いたと思えば既に勤務時間が終わっていて、既に公安局内に居なかったりと。
    掴もうとした手の隙間をするすると逃げられているような感覚。

    本人の言う通り、「何でも知っている」のであれば、私の動きを察知することもたやすいのかもしれない。

    思うように動けないまま日常が進み、二日後。
    公安局内がざわめき立ち、また脱獄騒ぎかと腰を上げたところ、続けて次の一報が入る。

    騒ぎを起こしたのは──起こそうとしたのは、想像通り美食研究会。しかし既に鎮圧され、再度牢に収監されていると。

    報を知らせてきた一人を捕まえて話を聞いてみれば、その鎮圧に一役買った人物はやはりと言うべきか。

    件の部下だった。

  • 179124/04/21(日) 17:36:48

    このまま彼女を捕まえようとしても業務や任務を盾に、何かにつけ避けられるだけだろう。ならばアプローチを変えよう。
    つまりは今しがた脱獄を試み、かつそれを阻止された美食研の連中へ話を聞くべきだ。
    そう決めた私は、彼女達が収監されている牢へと足を運んだ。

    ───
    ──


    「あらごきげんよう、カンナさん」

    鉄格子越しに私へ、今さっき脱獄を企み、阻止されて再収監されたとは思えない程の余裕を見せながら、まるで旧知の仲にでも話しかけてくるのは、美食研究会のリーダー。黒舘ハルナ。

    この形で話をするのは一度や二度では無く。過去に話したことがある、という一点では旧知と言うのも間違っていないのは確かなものの。決して気軽に挨拶を投げられるような関係ではない。そう思うと口をつくのは返しの挨拶では無く溜息。

    ああ、今こそ珈琲が欲しい。それも濃いめに入れた、特別に苦く熱い珈琲が。脳裏に浮かんだ逃避に近い誘惑を振り払って彼女に声を掛ける。

    「……聞きたいことがあって来た」

    「ふむ。珍しい事もあるものですわね。公安局長が自ら足を運んでだなんて。別に構いませんわよ? ちょうど今外出のプランも潰えましたので」

    そう言って彼女は、悪びれる様子を無いまま優雅に目を細めた。

  • 180124/04/21(日) 21:19:51

    「それにしても、随分と優秀な部下が付いたようですのね。カンナさん」

    「……どういう意味だ」

    「? だってそれについて聞きに来たのでしょう?」

    「……」

    そう言われればその通り。しかし言から察するに、普段と違う点があった、というのは他ならぬ追われる立場であった彼女達だからこそ実感できた点でもあるのかもしれない。

    「今回私達は、予め仕込んで置いた爆弾を使って脱出というプランでの脱獄を目論んでいたのですよ。ああ、もう封じられたのですから隠す必要もないという訳で」

    「しかし解せないのが、爆弾の隠し場所です。これを使おうと思った時、貴方の部下がまるで、そう、最初から知っていた、とでも言わんばかりに。私たちの目の前で隠し場所を暴いたのです。全くもって驚きでした。今まさに使おうとした脱獄手段を私達に見せつけるかのように持ち去っていったのですから」

    「カンナさんも知っているとは思いますが。真に美味しいものを口にする、という志が一致している以上、我々からのリークはあり得ません。かつ、爆弾の隠し場所は『知らなければ知っている筈がない』所でした。もしや貴方が全て見抜いて手をまわしていたのでは、との予測も。貴方の表情をみれば分かるというもの」

    それもまた、違うのでしょう?

    彼女は笑ってそう言った。

    「……まあ、その通りだ」

    ここに来て、彼女の言を否定をする必要は無い。予想外の事態でも無ければ私はここへ、ハルナへ話を聞きに来ようなどとはしないのだから。

  • 181124/04/21(日) 21:20:03

    「ともあれ、私に分かるのはこれくらいかと。他に聞きたい事でも?」

    との問いに、しばし逡巡。時間はいくらでもあるが、同時に無駄な事を聞いても仕方が無いという思い。そして、この疑問を尋ねるという行為が意味すること。

    「……お前達を捕らえた、その例の爆弾の隠し場所を暴いたという部下の様子。それが聞きたい。何か、いつもと異なる違和感は無かっただろうか」

    部下の手綱を取り切れていないという、弱みを自ら晒すような選択は、おそらく以前の自分には取れなかったのではと思う。
    しかし今の私は知っている。覚えている予感を放置することに比べたら、些細なプライドなど捨ててしかるべきだと。

    「そうですね……。私達を捕らえる動きをする割には、私達自体は眼中になかったかと思いますわ。ずっと──」

    ──自らの手元へ注意を向けていましたもの。おそらく、右手首へ。何かを注視するように。

    ハルナは頤(おとがい)へ指を当て、何かを思い出すそぶりをしながら私へそう告げた。

  • 182124/04/22(月) 07:35:34

    (今日の夜で完結まで行きます……!)

  • 183二次元好きの匿名さん24/04/22(月) 09:30:48

    ほしゅ

  • 184二次元好きの匿名さん24/04/22(月) 19:14:42

    無知の知とむちむちって似てるよね
    スレ残り少ないけど完結期待してます

  • 185124/04/23(火) 00:05:06

    やはりそうか。
    懸念が一つ当たり、深く息を付く。とにかく、これで確認は取れた。私以外の目にも「そう」映ったのであれば、確定とみて動いていいだろう。

    つまり、右手首へ巻いた腕時計型端末。それが恐らく、今回の「何か」の正体。

    次に来るときはかつ丼の差し入れをお願いしたいですわね。尋問は怖くてもかつ丼は美味しい、と評判ですのに。
    などという別れ際の戯言を聞き流して、特別牢を後にする。

    どのように話を聞こう。地下から地上へと向かう階段を上りながら、その方法に思考を割く。

    とはいえ。向こうが推定「なんでも知れる」相手である以上、碌な対策は取れない。むしろ確実に罠に嵌められる策を思いついたとして、それに対して対策を打たれてしまえばどうしようもない。

    であるならばいっその事、無策で挑んでしまおうか。
    私に対策が無い事を知れば、油断して私の前に出てきてくれるのではないか。などと考えていたら。

    ピリリリ。

    つらつらと現実的でない考えが満ちていくのを遮断する、聞きなれた電子音が突如、私の耳朶を揺らす。

    発信源はジャケットの内ポケット、仕事用の連絡端末。階段の中腹で足を止め、ディスプレイを見れば音声通信の呼出。……番号は公安局から。

    今日は一体どこで、誰が事件を起こしたのか。二日前が美食研究会なら次は温泉開発部あたりかなどと、先程まで脳裏に流れていた、役に立たない思考よりは幾分か建設的な予想を組み立てながら応答をタップ。

    ……温泉開発部だろうがヘルメット団だろうが、ましてや仮に、厄災の狐がどこぞで大規模テロをかましたとしても。そうであればどれだけ日常であったか。

  • 186124/04/23(火) 00:06:20

    「もしも──「局長! すぐに戻ってきてください!!」──何?」

    「【──】が、いきなり局内で暴れ始めて! 局長に会わせてくれと! とにかく早く! 私達じゃ鎮圧できなくて、動きが全部読ま──」

    鼓膜を破らんばかりの焦燥に満ちた声が示した名前は、件の部下。聞き返す間もなく、銃声と悲鳴。
    それきり通信は切れ。後に残るのはビジートーンのみ。

    「ッ……!」

    思わず漏れた舌打ちを合図代わりに、階段を駆け上がる。
    「何か」はいつも、まともに考える間など与えてこないなと。場違いな思考が一瞬だけ過った。

  • 187124/04/23(火) 01:46:40

    何が起きた?私を避けながらも業務には通常通り当たっていた筈。それこそつい先程、美食研究会の脱走を阻止していた。それなのになぜ、一転して私を?

    全力を脚に傾けている為、考えは纏まらない。纏める為の酸素が全て速度へ変換されている。しかしそのおかげで、迅速に公安局へ辿り着く。

    私の眼の前に広がる光景は。
    公安局外壁一部に大きく残る爆破痕。おそらく美食研が脱出用に使おうとしていた物だろう。その近くに伸びている、鎮圧に動いたのだろう部下達が数人。
    それを遠巻きに囲む、まだ動けそうな幾人かの部下達の背。そして。

    公安局外壁の爆破痕の奥、随分と風通しの良くなった廊下に当たる部分に。
    背を曲げ息を切らして、アサルトライフルを構え。時折右手首を掻き毟っては頭を大きく振り乱す。件の部下の姿。

    「私にも当てて構わない!三秒後に一斉に──撃て!」

    「局長!? はっ、はい!」

    この場にいる誰の耳にも届くように、短く指示を飛ばす。鎮圧に動く部下達は突然の声に一瞬だけ混乱するも、即座に指示に従い射撃体勢へ。

    そして、その銃口の先にいる彼女は声を辿り私を視認。一瞬だけ右手首へ目をやろうとして、拒む様に手首をまた掻き毟る。
    同時にライフルを私へ向け、躊躇いなく引き金を引いた。──私を見て、逃げない。であれば、制圧は容易い。

  • 188124/04/23(火) 01:48:37

    ライフルからの射撃と同時、私は一秒を使って大きく息を吸いこみ。前方へ駆け出しながら身を極端に大きく屈めて射線を躱す。

    数発は当たって構わない。今大事なのは視界。


    それさえ守れればどこに当たろうと些事と片付け。体に叩き込んだ動作をなぞって拳銃を取り出すのに一秒。


    最後の一秒で照準を合わせ。張られた弾幕に射撃を重ねる。射線の先は、右手首。……腕時計型の、「何か」。


    反射的に彼女は躱そうとして、動きの先に置かれた弾幕により硬直。どこに躱せば良いのか。仮になんでも知れるとして──知ったところで避けられなくすればいい。


    単純だが効果的な、物量にモノをいわせ強引に思考を縛る。思考が固まれば体も付随して動きが止まり。硬直が解けた時には既に、私が肉薄する。

    ライフルを構えた手を捻って、足をかけながら肩を押し体勢を無理やり崩せば。


    彼女が暴れる振動を受けつつも、驚くほどあっけなく制圧は完了した。



    だがこれは、あくまで前提条件に過ぎない。つまり。騒動を引き起こした原因にどう対処するかが一番の問題なのだから。


    暴れ続ける部下を拘束し、私は──。


    1.腕時計型端末を、彼女の右手首から抜き取った。

    2.腕時計型端末を、拳銃で撃ち抜いた。


    (※最終安価 カンナさんは>>189~>>193で多い方の選択肢を選ぶ様です……!)

  • 189二次元好きの匿名さん24/04/23(火) 02:49:38
  • 190二次元好きの匿名さん24/04/23(火) 07:35:46

    1

  • 191二次元好きの匿名さん24/04/23(火) 07:46:54

    1

  • 192二次元好きの匿名さん24/04/23(火) 13:03:19

    2

  • 193二次元好きの匿名さん24/04/23(火) 13:33:12
  • 194二次元好きの匿名さん24/04/23(火) 22:56:48

    さあ結末はどうなるのか

  • 195124/04/24(水) 01:05:33

    曰く。
    最初はディスプレイを見れば、知りたいと思ったことが表示されるだけだった。その日の天気や、無くした文房具の場所とか。その程度。
    けれど段々、知れる範囲が増大していったらしい。
    他人が何を考えているのか。今日の事件はどこで、誰が、何を使って起こすのか。そんなことまでディスプレイに表示され。
    自分がほんの少しだけでも知りたいと思えば、それはすぐに手に入る。

    知った情報を使って、自由に立ち回ることに優越感を覚えていたのだという。
    それでも十分、何でも知れると表現していい。美食研究会の逃走ルートを即座に潰して見せたこと。脱獄計画を未遂に終わらせたこと。
    他にも、私が強引にコトを進めようとしない範囲で色々遊んでいたらしく。

    私から距離を取っていたのも、「私がそれを外させよう」と考えていることを知ったから。そして、そういった「何か」に少なからず触れていることを知ったから、警戒した。


    そしてつい先程、突如。「知れる範囲」が、更に拡張された。ディスプレイを見て情報を得る、と言う、いわば能動的な伝達手段だったそれは彼女の意志を介さず。まるで、頭蓋骨を切り開いて脳に直接文字を記していくかのように変貌した。

    いつだったか私に対して、「何でも知っている」と。そう宣った彼女は。文字通りの意味で、一言一句違えず、「なんでも知っている」とはどういう意味か。それを脳裏に刻むことになったのだ。

    百メートル先の誰かの会話を。道行く人すべての頭の中を。手引きしている人間を。目に映った人の名前を。木の葉の落ちる場所を。過去に起きる事件を。明日の天気を。未来に起きた事故を。キヴォトスに訪れた終焉の意味を。幼少期に食べたクッキーの味を。阻止に動く人間を。

    大も小も関係なく、目に映ることの全てと目に映っていないことの全て。永遠とこの世の全ての始まりから終わりまでを脳裏に刻み込まれ続けて。


    そうして彼女は、耐えきれなくなって。助けを求めたのだ。事情を知っていて、かつ、一番近くにいた私へ。

    対処法も。私以上に事情に詳しい人物も。原因も。何もかもが分かっても、自ら「何か」を引きはがす事だけは出来なかったのだという。

    ……特にこの「何か」が、例えば以上に吸着したりだとか、超常的な力で取れなくなったとか。そういう事では無いらしい。事実、私はいとも簡単にこれを取り外せた。

  • 196124/04/24(水) 01:05:49

    ただ単に「何も知らない」。──無知へ戻る事を恐れた。それだけ。与えられる情報に耐えきれなくて手放そうと思って尚。一度知ってしまった後では。「何も知らない」暗闇に戻る最後の一歩を踏み切れなかったのだと。


    ──何も分からないんです。怖いんです。一秒先が、一分先が何も分からなくて。局長は今、何を考えているんですか? 教えてください。何も分からないのです。怖いのです。教えて下さい。教えてください。おしえてください。


    医務室の、ベッドの上。彼女は布団の中へ頭まで潜って。私の問いに震えながらもどうにか答えていた彼女は。……私の部下は。
    最早今までの様子など見る影もなく、別人になってしまったかのように。

    おしえてください。

    とだけ繰り返した。

  • 197124/04/24(水) 01:49:51

    元々は、拳銃で破壊しようと考えていた。けれどそれをしなかったのは、この「何か」が対抗策になるのではないか?と考えたから。
    ゲヘナで遭遇した人形や、アビドスで見た極彩色の砂……不発弾。そこで判明した数えきれない程キヴォトスへ満ち溢れる「何か」へ。

    明確に私を上回り続けたこの腕時計型の「何か」であれば明確に対処や、場合によっては消滅させるような手段が分かるのではないかと。利用できるかもしれない。

    そんな甘い考えは、目の前の部下を見て吹き飛んだ。これは、自由に扱える手合いではない。確信を持つにはあまりある、豹変した彼女の姿。一刻も早く、破棄するべきだ。

    今すぐに内ポケットから取り出して、拳銃で打ち抜けばいい。踵で踏み潰したっていい。どうにでも壊せると。頭では分かっている。

    けれど、動けない。
    既に私も知ってしまった。何でもとは言えないが。いつか仮に、万が一の時。取り返しのつかない時。そんな時が来てしまったのなら、最終手段に出来る。使える。来ないで欲しいと切に願う。でも私の想像を超える何かへ、私の能力以上の対処が可能になる。
    図らずも部下の言を聞いて、見て、むしろ強固な確信へと至り。

    ああ、と。先程の部下の言葉に納得を得る。だから彼女は私へ助けを求めたのだ。最期の一歩が踏み出せないから。今の私と同じように。


    結局私は形だけの逡巡を終えて、内ポケットから手を離す。


    ──未だに、腕時計型の「何か」は。その形を保ったまま、私のポケットに眠っていた。

    無知である私なら選べた選択肢は最早、手の届かない場所にある。





    Case3. D.U._ヴァルキューレ警察学校公安局/無知
    中断。

  • 198124/04/24(水) 02:00:42

    はい!昨日終わるとか言ってすみませんでした!これで三話、キーワード「無知」も終わりです!

    ゲーム的に表現するなら局長は現在SAN値上限削れて、かつ神話技能とAF手に入れちゃった、みたいな状態かと思われます……
    ちなみに最終安価で破壊を選ぶと……えへへ、選ばれなかった選択肢の話は無しにしましょうか……今回のコンセプトらしきところでもありますし……

    今回は前回とテイストを変えた怪談、というよりは都市伝説とか超常現象、を考えられて面白かったですね……

    ともあれぶつ切りぶつ切りの進みの遅いスレ進行にお付き合いいただきありがとうございました!
    また何かしら書くと思うので、見かけたら読んでいただけると嬉しいです!あと書いてもください!私も書いたので!

  • 199二次元好きの匿名さん24/04/24(水) 02:07:00

    >>1〜198

    かんしゃぁ〜

  • 200二次元好きの匿名さん24/04/24(水) 08:07:57

    おつ! 普段とは一味違った感じで楽しかったです。
    またどっかで会おうぜ!

オススメ

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