アドマイヤベガ「不思議な小劇場」【SS】

  • 1怪奇譚シリーズ21/09/07(火) 00:37:48

     夏休みが始まる前、私とドトウは秋のファン感謝祭の演し物としてオペラオーにオペレッタに参加させられる事になった。前回同様断ろうともしたが今回も流されるままに関わる事になってしまった。

     合宿中も練習は行われて、合宿所近くの小さな劇場を借りて練習する事になった。最初こそ乗り気じゃなかったけどやるからにはしっかりとしたものにしたい。別にあの人の為なんかじゃないけど。

     主役はオペラオー。そして私とドトウの3人の劇。あの人はオペラと言い張るがどちらかと言うと寸劇、レヴューの方が形は近いだろう。


     ハーハッハ。今日もよろしく頼むよ二人とも

     私は合宿でのトレーニングの方に力をいれたいんだけど

     勿論そちらも全力さ。しかしこちらも全力にならない道理はないだろう。ボクはどちらにも全力さ

     はわわぁ。お二人ともすごいやる気ですぅ


     そう言われて私たちは貸してもらった劇場に入る。重厚な扉の先には100席に満たない程度の小ささだった。少し古くなってはいるが劇場自体は上品な造りで趣きがある感じだ。中に入った私たちをぼんやりとしたオレンジ色のライトが照らす。

  • 2怪奇譚シリーズ21/09/07(火) 00:38:50

     支度をして舞台に上がる。既にスポットライトがつけられており雰囲気がある。……私はわざわざ合宿所の外に行くのは嫌だったのだけれど、この幻想的な感じの中で練習するなら来て良かったのかなと感じる。

     時間がもったいないので劇の練習を始める。だんだんと二人とも息が合うようになってきた気がする。セリフも覚えているし立ち位置や動きも動きやすい。やっぱり気持ちが入るからなんだろうか?それはドトウも同じようで噛んだり、立ち位置を間違えたりする事が極端に少ない気がする。オペラオーはいつも通りだった。

     私達は短い時間で充実した練習をして合宿所に戻った。ドトウも私も手応えを感じており、また何かが上手くいくということは他の事にも好転することが多い。

     翌日のトレーニングも身が入って充実した成果をあげられた。移動に時間がかかることに難色を示したいがむしろ上手くいってるならいいのではないかとその日も劇の練習に小劇場に行った。

  • 3怪奇譚シリーズ21/09/07(火) 00:39:41

     何かがおかしいと感じたのは3日目だった。この劇場ではすらすらとセリフや演技ができるのだが合宿所で軽く自主練をしてみると全く上手くいかないのだ。レースだったらコンディションやレース場での得意不得意はあるけれどこれはそんなレベルではなかった。

     あわててドトウに話を持ちかける。二人のシーンを練習してみようとするとこれがまた上手くいかない。どういう事なのだろうか?疑念を持ちながら私たちは次の日劇場を訪れていた。

  • 4怪奇譚シリーズ21/09/07(火) 00:52:13

     劇場に入る。異変に気づいてから外は暑いのに暗く涼しい劇場の中はうすら寒いものを感じる。しかしまだ何も異常はない。奇妙な感じのままに舞台袖に上がり支度をする。

     まず舞台にはオペラオーが出る。そして幕をあげて劇を始める。オペラオーはいつもと変わらないように演技を始める。……セリフをよく聴いていると何かがおかしい。まるで相手役がいるようなセリフだ。
     オペラオーがそんなことをするだろうか?考えられない。ならどういう事なのだろう。
     疑問を解決できないままでいるとスポットライトの真ん中に居たオペラオーが少し端に位置をとり二人がスポットライトの中に入れるようにする。

     舞台袖からは変化が確認できない。そう思うと舞台袖からでて客席の方に向かった。客席から見るとスポットライトの下、オペラオーの隣に一人の少女の姿を見つけた。

  • 5怪奇譚シリーズ21/09/07(火) 01:06:03

     やあアヤベさん。いかにこの町一番の女優のボクの演技に目が眩んだからといって降りてしまうには勿体ないよ


     オペラオーは劇の役割を崩さないまま私にそう告げる。隣の少女はスポットライトの下にはいない。捌けたのだろうか?


     どういう事よこれは。全く違う内容じゃない。どうして一人増えているの

     んーどういう事と言われても、アヤベさん達もここ3日その演目で動いていたじゃないか。ボクはとうに気づいていると思ったのだけど

     そんなわけ……それにその子は

     新しいメンバーさ。Nさんって事にしておこうか。さあ時間が勿体ないし、続けようか


     そう言うとオペラオーは劇に戻った。とりあえず私もそうしなければいけないと思い再び舞台袖に戻り出番を待つことにした。。

  • 6怪奇譚シリーズ21/09/07(火) 01:17:07

     そのまま劇は進行していく。私たちの出番になると知らない筈の劇のセリフをペラペラとしゃべり、しっかりと演技ができる。そして舞台袖からは見えなかった件のNさんは舞台上ではその姿を見ることができた。スポットライトの下に居るときに限り。

     Nさんは黒髪のロングヘアでけっこう大きめの身長。表情は近くによらないと確認出来ないが私が彼女に近づくシーンがないためわからない。声はよく通る声で迫力がある。しかし演技は非常に上手く、ほぼ素人の私たちなんかは敵うレベルではなく、オペラオーよりも上手いかもしれないと思うほどだ。

     明らかに普通の存在じゃない、たぶん幽霊だと思うがその演技に引き込まれて私は何も言えずにそのまま練習は進行していた。

  • 7怪奇譚シリーズ21/09/07(火) 01:26:59

    ……で、これはどういう事か説明して貰えるわよね

     そんなにカリカリしないでくれアヤベさん。現にボクも君もドトウも何も異変はないだろう。

     それで済む話じゃないのはわかるでしょう

     あ、アヤベさんも落ち着いてー


     合宿所への帰り道、私はオペラオーに問い詰める。あの様子だとあらかじめ知っていた、もしくは初日に気づいていたはず。なんであそこで練習を続けたのか。


     わかっているさ。ただ、だからこそ途中で降りる事は出来ないんだ。これはその方がいいってマンハッタンカフェさんから聞いてるからね。安心したまえ。明日にはすべて上手くいくはずだ。……できればNさんに4人目になって欲しい気持ちがない訳じゃないんだけどね。

  • 8怪奇譚シリーズ21/09/07(火) 01:39:47

     翌日、気は進まないがまた小劇場に足を運ぶ。オペラオーはああ言っていたけど何か手だてがあるのかしら?
     そう思いながら重々しい劇場の扉を開ける。中に入るとこんな状況なのに劇に対して前向きになるのもなんとなく気持ちが悪い。

     そしていつものように支度をする。オペラオーは舞台に上がり、私たちは舞台袖に待機する。

     ブーーーー

     開演のブザーが鳴り幕が開ける。……ブザー?今までの練習ではなかったはず。すると幕が上がるのに沿って拍手が鳴る。多くはない。だけどしっかりと拍手の音が響いた。

     ついに耳までおかしくなったのかと頭わ抱えそうになるもなんと客席が少し埋まっている。

  • 9怪奇譚シリーズ21/09/07(火) 01:47:25

     アグネスデジタルさん、マンハッタンカフェさん、カレンチャンにビワハヤヒデさん、エアシャカールさんにアグネスタキオンさん。ナリタタイシンさんにウイニングチケットさん。

     少ないながらも見知った顔が客席を埋めて拍手をしていた。


     お集まりいただきありがとう。それでは開演といこう。

  • 10怪奇譚シリーズ21/09/07(火) 02:04:14

     さあ君の居場所はここだ。スポットライトの下まで来たまえ。その苦しい鎖から解き放ってみせよう。

     オペラオーはあいも変わらずの調子で続ける。観客入れるなんて聴いてないわよ。……ホンットに調子が狂う。


     さあ孤独なプリマドンナ。永遠のプリマドンナ。誰も知らないプリマドンナ。その願い、叶えてしんぜよう。


     劇は進行していく。私たちも身体と口が動くままに演技をする。スポットライトの下の二人の剣幕は凄まじい。ライトの熱量とともに、入ってきた時の涼しい感じなど吹き飛ばしていた。
     オペラオーは汗を流しながらNさんに応えるように演技を続ける。Nさんの表情は伺いしれないがオペラオーの満足そうな顔を見るときっと満更でもないんだと感じる。


     ああ、とても楽しい時間だったよプリマドンナ。でも劇には終わりがなければいけないんだ。それがわからない君ではないだろう。さあフィナーレだ。最高のレクイエムを君に贈ろう。世紀末覇王の名に懸けて。

  • 11怪奇譚シリーズ21/09/07(火) 02:16:59

     フィナーレ。いつの間にかNさんは捌けて……いや違う。スポットライトの真ん中、オペラオーに重なるようにNさんを感じる。そして一挙手一投足が鬼気迫るものになる。
     今までなかった演出に私たちは焦るが私たちにそれを止める術はない。

    「喝采こそがレクイエム。さあ、退場の時間だ」


     そう言ってオペラオーは奈落に飛び込んだ。

     ……って嘘でしょ、なんてむちゃくちゃを。

     スポットライトが消えて幕が降りる。少ない観客が拍手を送る。疲労感が襲って来るがそれを無視して私たちは急いでオペラオーのもとへ向かった。

  • 12怪奇譚シリーズ21/09/07(火) 02:26:45

     やあアヤベさん、ドトウ。聞きたまえこの拍手の音を。


     奈落の底に向かうとそこにはいつの間にかしかれたマットの上に身体を投げ出しているオペラオーが笑っていた。

     どんなむちゃするのよ貴女は。生きた心地がしなかったわよ。

     無事で良かったですオペラオーさぁん

     すまない。だけどプリマドンナを納得させるには他に方法が思いつかなかった。

     それで貴女は大丈夫なの?最期のアレ……

     ああ、満足したみたいだよ。……さてこの件はこれでおしまい。されど舞台は続くだ。これからまた感謝祭に向けて頑張っていこうじゃないか。ハーハッハ。


     私たちの心配を他所にオペラオーは高らかに笑ってみせた。

     ep.小劇場の孤独なプリマドンナ fin

  • 13怪奇譚シリーズ21/09/07(火) 02:44:54

     あとがたり

     ……お疲れ様でした。見事でしたよ。皆さん。

     ハーハッハ。マンハッタンカフェさんもありがとう。君のおかげでプリマドンナは無事呪縛から解き放たれたよ。

     合宿所に帰るとマンハッタンカフェさんが私たちに感想を言いに来た。正直なところ今日はもう勘弁して欲しいという気持ちもあったが無下にするのも具合が悪いために受け入れた。

     ……皆さん、特にオペラオーさんはおかわりないですか?霊を憑けるなんて荒業をしたんですから、しばらくはご自身の様子に充分に気をつけてください。

     私は問題ない

     私も問題ないですぅ

     ボクも問題はない。むしろ来るものは拒まないぐらいのつもりだが……その意見を尊重しよう。

     マンハッタンカフェさんは珈琲を口につけながらオペラオーの様子をじっと見つめる。その黄色い瞳と圧力に私は少し驚くがオペラオーは泰然としていた。

     オペラオーさんの性格なら多少低級霊がついていても跳ね返せるでしょうが……本当に気をつけてくださいね。

     そうだマンハッタンカフェさん、もしよかったら4人目の演者にならないかい?

     ……遠慮しておきます。貴女を倒すのは、ターフの上で

     少し苦笑いしたあとにマンハッタンカフェさんはそう挑戦状を覇王に叩きつけていった。

  • 14怪奇譚シリーズ21/09/07(火) 02:50:14

     閲覧ありがとうございます。オペちゃんの語りなんて難易度高すぎて厳しいので語りはアヤベさんで。なんだかんだプリティー要素でハッピーエンドに持ってかなきゃいけない気分になる。

    参考資料
    楽曲
    『劇場のゴースト』 スタァライト99組

  • 15怪奇譚シリーズ21/09/07(火) 02:52:22
  • 16二次元好きの匿名さん21/09/07(火) 03:01:48

    ウワーッ良いものを見た しゅき……

  • 17二次元好きの匿名さん21/09/07(火) 07:25:50

    最高です…ありがとうございます…

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