- 1二次元好きの匿名さん22/03/02(水) 17:00:54
- 2二次元好きの匿名さん22/03/02(水) 17:02:52よう|あにまん掲示板捨てられた仔犬みたいな顔してんな……そんな顔されちゃイジメたくなるだろ。御主人サマを見つけたからって尻尾振ってで、どうしたんだ? 何、傘を盗まれたって?……ハハハッ! どんなイジメにあったのかと思えば…bbs.animanch.com
雨がざあざあと降る。軒下から出ることもできず、俺は立ち尽くしていた。傘は用意していた筈なのだが、傘立ての中には見当たらない。どうやら誰かに取られたらしい。
「そんなところで震えてるから、誰かと思えばトレーナーじゃないか」
聞き慣れた声がしたので振り返ると、ちょうど帰るところだったのだろう、シリウスが立っていた。
「どうしたんだ、捨て犬みたいに立ち尽くして」
「……傘を盗まれてな」
「そいつはご愁傷さまだな」
シリウスは自分のビニール傘を用意している。今日は朝の天気予報でも雨が降ると言っていたし、ちゃんと用意していたようだ。
「この傘と、私は折りたたみ傘を持っているんだが、アンタ、どうする?」
「どうする、ってなあ」
雨の中突っ切って風邪なんて引いたら馬鹿みたいだ。
「すまないが傘を貸してくれないか」
「人に物を頼む態度としては物足りないな」
「……シリウスシンボリ様申し訳ございませんが慈悲を恵んではくださらないでしょうか」
「……ハハハッ! 何処でそんな芸覚えてきたんだ? 流石の私も予想してなかったぞ」
「……もういい」
くだらないやり取りをするくらいなら最初から走って帰れば良かった。鞄を笠にして飛び出そうとすると、シリウスが襟をつまんで止めた。
「待てっての。躾がなってないな。別に貸さないとは言ってないだろ? 折りたたみ使うのは勿体無いからな。私が濡れないようにちゃんと持っておきな」
ビニール傘一つを押し付けられる。それじゃ俺が濡れるのは変わらない。だけどまあ、無いよりはマシか。同じ傘の下、シリウスと雨の中を歩き出した。
- 3二次元好きの匿名さん22/03/02(水) 17:08:41
視点変更からしか摂取できない栄養がある
- 4二次元好きの匿名さん22/03/02(水) 17:17:36よう|あにまん掲示板こんな夜遅くまでデータまとめか。御苦労なことだなアンタの家になんで私が居るのかって? 愚問だな、私は居たい時に居たい場所に居る。誰にも文句は言わせないさそれに、私が来て嬉しかっただろ?顔を見りゃ分かる…bbs.animanch.com
あくびを噛み殺す。次のレースに参加するウマ娘達のデータを表計算でまとめているのだが、もう時刻も午前三時すぎ、眠気で思考がまとまらなくなってきている。
「こんな時間までデータまとめとはご苦労なことだな」
疲れでついに幻聴まで聞こえてきたらしい。
「後そこも間違ってるんじゃないか?」
「……今何時だと思ってる。というか、いつの間に入ってきた」
幻聴ではないようだ。シリウスに視線を向ける。ここは俺の家なんだが、当たり前のように居るなお前。合鍵を渡してはいるから不可能ではないが、それでもこんな夜中に居るのはおかしいだろう。
「私は私の居たいところに居るさ。それで十分だろ?」
「だからってこんな時間だと明日ってか今日に支障が……ああいや、今日は休みか……」
「だいぶ参ってんな。アンタが頑張るのは勝手だが……私の所有物が自分で壊れるのは見過ごせないな」
シリウスはむりやり俺をデスクの前から引き剥がすと、そのままベッドまで投げ飛ばした。
「ほら、寝ろ。せめてその目の隈くらいは取りな」
「おいっ、終わったら寝るから気にするなって……」
「強情だなアンタ。まったく反抗する奴は」
ベッドから降りようとする俺を押さえつけて、シリウスも一緒にベッドに潜り込む。何やってんだ。
「添い寝してやるよ子猫ちゃん。子守唄も必要か? アンタが寝るまで出しはしないから、観念して休みな」
「離せって」
「嫌だね」
ウマ娘のパワーからは抜け出すことも出来ず、意識は底に沈んでいった。
- 5二次元好きの匿名さん22/03/02(水) 18:06:49よう|あにまん掲示板やっとお目覚めか。もう昼過ぎだってのに、ぐっすり眠りこけちまってまあ。髪はボサボサだし、よだれのあとまで。そんなに無防備にされると、食っちまいたくなるハハハッ! 冗談だって、そんな縮こまるなよ。冗談じ…bbs.animanch.com
目覚ましもなく、カーテンから漏れる日の光で目を覚ます。昨日の記憶が曖昧だ。いつの間に眠ってしまったのだろうか。
「よう、やっとお目覚めか。ぐっすりだったな」
「いま……何時……だ……」
「十二時二十分ってとこだな。たまには休みになったろ」
十二時、仕事には遅刻じゃ……いや、今日は休みか。シリウスの声が聞こえるからうたた寝でもしていたのかと。……シリウス? さっと血の気が引いた。眠気などさっぱり飛んでしまい飛び起きると共に部屋の隅に逃げ込む。
「ハハハッ! なんだよその生娘みたいな反応」
シリウスはトレセンのジャージを着たままけらけらと笑っていた。これが下着なり俺のシャツなり、そういう匂わせるような格好でもしていたら、この場で自分の首を掻き切っていた自信がある。
「おまっ、なんでここに」
「そりゃアンタをむりやり寝かしつけたからに決まってんだろ。まだ寝ぼけてんのか」
シリウスに指摘されて思い出す。夜遅くまで仕事をしていて、シリウスにベッドに叩き込まれて。睡魔には勝てず眠ってしまったのだ。いや深夜に男の部屋に入ってくるなというツッコミもあるが、やらかしなんかは無いはずだ。そうだろう。
「ほらよ、目覚めのコーヒーだ」
渡されたマグカップは、ぬるくなっていて、しかも中身が半分しか入っていない。誰がどう見ても飲みかけだ。
「悪いな。あんまり起きるのが遅いもんだから手を付けちまった」
「お前な……」
好意を無駄にするわけにも行かず、間接キスにならないよう、口をつけてなさそうな箇所からコーヒーを流し込む。何の変哲もないインスタントコーヒー、俺が普段から飲んでる奴を勝手に淹れたのだろう。
「こいつですっかり目が覚めたな」
礼を言うのも癪だが、昨日より体が軽いのは、疑いようもなかった。
- 6二次元好きの匿名さん22/03/02(水) 18:13:55
その辺の壁になった気分で見れていいね
- 7二次元好きの匿名さん22/03/02(水) 19:41:11よう|あにまん掲示板また派手にやったな。瞼の辺りなんか腫れきってるじゃねえか生徒会の連中から聞いたよ。トレーナー同士で取っ組み合いの喧嘩したんだって? ひ弱っ子のくせに喧嘩っ早いのは長生きしないぜ?……ん、喧嘩の理由も聞…bbs.animanch.com
「また派手にやったみたいだな」
ウマ娘の為の保健室に寝かされているのは、シリウスではなく俺の方だった。瞼は腫れ上がってちゃんと開かないし、体の節々が痛い。
「生徒会の連中から聞いた。トレーナー同士で取っ組み合いの喧嘩したんだって?」
「……悪かったな」
ついでに言えば、先に手を出したのは俺の方だ。喧嘩を売ってきたのは相手だったから、それを買ったに過ぎないが。そして生徒会のウマ娘に止められるまでやりあってこのザマだ。相手の方はそれ程大きな怪我をしていないようで、良かったような、自分の不甲斐なさに涙が出るような気持ちになる。
「喧嘩の理由も聞いたぜ。私をバカにされたんだってな」
言葉ばかりの弱虫、吠える負け犬。罵倒ならいくらでも飛んできた。
「私がそんなの気にするタマに見えるか? ほっときゃ良かったのに」
「……俺が許せなかったんだよ」
シリウスはワガママで傍若無人で俺様系で気分屋で。それでもレースに真摯に取り組む姿は間違いなく俺が見惚れた相手だ。そんなこいつをバカにされ続けて黙ってられる程、俺は大人じゃなかった。
「それで私のトゥインクルシリーズも危うくなるような行動に出たと」
「ぐ……トレーナー失格だな……」
「ま、安心しろ。トレーナー同士だし、あっちも大事にゃしたくないってんで双方たいしたお咎めはなしだとよ。減給くらいはあるのかもしれねえが私には関係ないしな」
「そりゃ安心した」
「それより次のレース、相手のウマ娘も出るんだろ」
「そうだが……それがどうした」
「いや、たいしたことじゃないさ」
シリウスの表情は影になって見えない。
「私のモノに手を出した報いを受けてもらう、それだけだ」
- 8二次元好きの匿名さん22/03/02(水) 21:01:46よう|あにまん掲示板どうした、鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔してああ、この格好か? 聖蹄祭だよ、聖蹄祭。男装執事喫茶、って奴さ。スーツ姿も案外悪くないだろう?おいおい、私だってイベントくらい楽しむさ。くだらない規則も、こう…bbs.animanch.com
部屋の外は騒がしい。普段からウマ娘達で姦しいトレセン学園だが、今日はいつにもまして賑やかだ。理由は単純で、今日が聖蹄祭だから。春のファン感謝祭と並んでトレセン学園が外部の人間に自由開放されるお祭りだ。生徒達の家族関係者はもちろん、単純にトゥインクルシリーズのファン、顔の良いウマ娘目当てのチンピラ。そんなものまで入ってきて一学園祭と言うには無秩序なまでの繁栄をしている。
「よっ、探したぜ。何処に居るのかと思えば、こんな日にもキーボード叩いて仕事三昧か?」
「シリウスか。お前こそなんでこん……な……」
いつも通りの軽口が途中で止まる。シリウスの格好が予想外で、そちらに意識を取られてしまった。
「おいおいどうした。ああ、この格好か?」
シリウスがからかうように自分のネクタイを締め直す。ぴしっと決まった燕尾服。フジキセキの勝負服のような(無論あのように胸部分をさらけ出してはいないが)衣服を身に纏っていた。
「聖蹄祭の出し物だよ。いわゆる執事喫茶、って奴さ」
「ああ……そういや名物であったな」
トレセンのウマ娘達がやる執事喫茶は、特に女性の客達に好評だ。宝塚のような魅力があるのだろうか。シリウスもどちらかといえば同性にきゃーきゃー言われる方だから、キャスティングとしては正解だろう。
「シフト外だが着替えるのも面倒でな。さ、お前もさっさとそのパソコン落とせ。行くぞ」
「行くぞって何処にだよ」
「そんなの、言われなくても分かるだろ。ああ、それともこうやってちゃんと言い直した方が良いか?」
シリウスは恭しく一礼し、右手をこちらに差し出した。
「お手をこちらに、我が御主人。このシリウスシンボリがあなたを完璧にエスコートしてご覧にいれましょう」
断るつもりだったのに。誘われるままに手を取ってしまった。
- 9二次元好きの匿名さん22/03/02(水) 22:24:51【SS】よう|あにまん掲示板随分暖かそうなコート来てるな。昨日と比べて急に寒くなったからな、急いで引っ張り出してきたって顔してるぜ私の方は上着着てなくて大丈夫なのか、だって?ああ、ちょっとカラスに持ってかれちまってな。まあ、寮ま…bbs.animanch.com
「さっむ……」
白い吐息と共に愚痴が漏れた。昨日まではまだ比較的暖かったというのに、今日だけで10℃近く気温が下がったらしい。天気予報に従って厚手のコートを引っ張り出してきたのは正解だったようだ。今日はトレーニングの予定も無い。提出予定の書類を出し終わったら、さっさと家に帰って暖房をつけようと決意する。
「おい、シリウス」
トレセンの昇降口を目指す途中、こちら側に歩いてくるシリウスと出会う。こんな寒い日だというのに、シリウスは上着も羽織らず冬服のままだ。僅かに肩が震えている。いくらこいつでもこの寒さは堪えるのだろう。それでも平気なふりしていつもの不敵な笑みを浮かべた。
「よう、トレーナー。トレーニングは無いんじゃなかったのか?」
「今日は別件だ。それよりお前、上着は着てこなかったのか?」
「ん……ああ、ちょっとカラスに持ってかれてな」
「カラス、ね……」
いったい何処に人が来ている上着を剥いでいくカラスが居るのか。大方、寒さを甘く見て震えていた取り巻きか後輩にくれてやったんだろう。こいつは俺様系に見えてそういうタイプだ。だが、それで風邪でも引かれたらたまったものじゃない。
コートのボタンを外して袖から腕を抜く。サイズは一回りでかいがコートだし問題無いだろう。シリウスにそのまま投げ渡す。
「ほらよ、無いよりはマシだろう」
「私は別に寒いとも言ってないぜ。躾がなってるのは結構だが、アンタはどうすんだ」
「別に、寒いのは平気なんでね」
まあ、嘘なんだが。寒いのはむしろ苦手だし、シリウスもそれを知っている。だから突っ返される前に足早にその場を立ち去る。
「返すのは明日で良いぞ」
その言葉に返事は無かったが、それだけで十分だ。
くしゃみを必死に我慢しながら、俺は校舎への道を急いだ。
- 10二次元好きの匿名さん22/03/03(木) 00:16:45
保守
- 11二次元好きの匿名さん22/03/03(木) 08:56:32【SS】よう|あにまん掲示板こんな夜更けに空なんか見上げてどうしたんだ?どうしてここに居るのかって……ちょっと寮を抜け出して走ってただけさ。珍しいことでもねえ。そしたらぼけっと立ち尽くしてるアンタが見えたもんだからそれよりアンタ…bbs.animanch.com
急に酒が飲みたくなって真冬の夜をコンビニへ。厚手のコートとマフラーをつけて、夜空を見上げながら歩く。今日は珍しく星がよく見えた。田舎のような満点の星空には程遠いが、俺にはそれで十分だ。些細なことが気になって、スマホの検索アプリを起動する。
「こんな夜更けに何ほっつき歩いてるんだ?」
白い息を吐いたシリウスが横に居た。夜だというのにジャージを着て、大方寮を抜け出してランニングといったところだろう。この道はトレセン学園とは一本で繋がっているから、そういうウマ娘に会ってもおかしくはない。偶然にも、それが自分の担当だったというだけの話だ。
「オーバーワークは禁止だぞ」
「言われなくても自己管理はするさ。それより、アンタはこんな寒い夜にぼけっと空見上げてどうしたんだ」
「コンビニ行くついでに星を見てたんだよ」
「星?」
一層光る星を指差していく。有名な冬の大三角。あれがベテルギウス。あれがプロキオン、そして
「あれがシリウス」
「なんだアンタ。私の名前をした星に見惚れてたのか?」
「まさか……お前の方がよっぽど輝いてるさ」
首を振って答えると、シリウスは一瞬だけキョトンとした表情を浮かべ、それからおかしそうに笑った。
「そんな気障ったらしい台詞、いつの間に言えるようになったんだか」
「さあな、誰かさんのせいだろうよ」
星を見ながら歩き出す。シリウスも横に並んできた。
「コンビニ行くなら肉まんくらい奢れよ」
「そりゃ構わんがお前、そのジャージでついてくるのか。学園にバレたら大目玉だぞ」
「なら私は外で待ってるさ。あまり待たせると風邪引くかもな」
「はいはい、出来るだけ早く終わるようにしますよ」
静かな夜は、今日は少しだけにぎやかだった。
- 12二次元好きの匿名さん22/03/03(木) 20:04:35【SS】よう|あにまん掲示板備品の買い出しなんて、貧乏くじ引かされてるな。ていうかわざわざショッピングモールに買いに行くもんなのかトレセン学園と提携してるとこだと消耗品は割高だから、ボールペンやら買い続けたらお金がいくらあっても…bbs.animanch.com
「買い物に付き合えって言うから何かと思えば……備品の買い出しか」
「悪いな。一人で買うには手に余るもんで」
「私を荷物持ちに使うとは良い度胸だ。ま、目も見る限り確かにアンタ一人じゃ骨が折れそうな量だったが」
学園近くのショッピングモール。自分が参加しているトレーナーグループの備品を買う為に、シリウスに荷物持ちを依頼していた。
「ボールペンにコピー用紙に……これ業者に頼んだ方が良いんじゃないのか?」
「トレセンが提携してるとこは割高でな。ほんとにがっつり仕入れるならともかく、トレーナー程度の狭い繋がりならこういうとこの方が安上がりなんだよ」
そもそもトレーナーが使う消耗品は、補助金が出るとはいえ経費では落ちない。少しでも安く済ませようと考えるのは当然だ。
「ま、私にはどうでもいいな」
「そうだろうな」
「だけど、タダで私を使えるとは、アンタも当然思っちゃいないよな?」
降参とばかりに肩をすくめる。うちの担当は、トレーナーが困っているからと滅私奉公してくれるようなタマじゃない。むしろ、ここぞとばかりに無理難題を押し付けてくるタイプだ。
「それでご要望は?」
「なに、たいしたことじゃないさ。私も買いたいもんが幾つかあるから、先にそっちに付き合えってだけだ」
「あんまり時間は使わないでくれよ」
シリウスはその言葉に、からかうように返した。
「アンタにとっちゃ一瞬さ。私と一緒に居られるんだからな」
- 13二次元好きの匿名さん22/03/04(金) 07:24:42
保守
- 14二次元好きの匿名さん22/03/04(金) 18:47:06
保守
- 15二次元好きの匿名さん22/03/05(土) 06:05:13
保守
- 16二次元好きの匿名さん22/03/05(土) 17:36:39
保守
- 17二次元好きの匿名さん22/03/06(日) 03:27:04【SS】よう|あにまん掲示板これはどうだ? じゃあこっちはうーん……アンタ、似合う服少ねえな。何着せても着られてる感が拭えないっていうかだから普段着で良いって? いいや、それは駄目だね。私の横に立とうってトレーナーがみすぼらしい…bbs.animanch.com
「うーん……」
俺の体をじろじろと見ながら、シリウスは唸っていた。
「似合わねえな、やっぱり」
「ほっとけ」
もう何着目かも分からなくなった試着のジャケットを脱ぐ。シリウスが買いたいものがあるというから、何かと思えば俺の服なようだった。
ファッションに気を使うタイプじゃない自覚はあるが、まさかむりやり服屋まで連れてこられるとは思わなかった。しかも、疎い俺ですら聞いたことがあるようなハイブランドの店だ。服を買いに行く服がない、なんて笑い話を実感することになるとは思わなかった。こんなとこに連れてこられると思わなかったから、明らかに場違いな安物のシャツで恥ずかしさすらある。
「メンズは私も詳しくはないからな。アンタもなんでも似合う素体ってわけじゃないし」
「俺は5000円くらいのやっすい服で良いんだよ。金だってねえし」
「いーや、私が許さないさ。この私の隣に立つのに、みすぼらしい様を見せられちゃたまったもんじゃない。金の心配より見栄の心配を先にした方が良いな」
それを言われると返す言葉が無い。ダービーを勝ったウマ娘のトレーナーという肩書きは、きっと嫌でもそれなりの格を要求してくるのだろうから。
「メジロのトレーナーも、ルドルフのところも、マスコミの前に出る時はしゃんとした服着てるだろ。そこにアンタがよれよれのシャツ着てみろ。週刊誌の表紙になるぜ」
「と言ってもなあ……」
「安心しろっての。私がやるからには、アンタでも着こなしてそこそこに見えるようコーディネートしてやるよ。私好みのな」
「お前の趣味じゃねえか」
「アンタが一人で選べるってんならそれでも良いけどな?」
そりゃ無理だ。降参するように両手をあげた。
- 18二次元好きの匿名さん22/03/06(日) 08:28:57【SS】よう|あにまん掲示板膝の上に先客が居るな。理事長が連れ歩いてる猫とはまた違うか。なんでまたこんなところに迷い込んできたって? そんなこともあるんだな。アンタの膝の上で丸まって、随分呑気なもんだ。なあ、ちょっと触ってみても…bbs.animanch.com
「なんだ、先客か」
トレーナー室に来るなり、シリウスは耳をぴこんと跳ねさせた。その視線は、座っている俺の膝、の上で丸くなっている黒猫に向けられている。
「どっから入ってきたのか知らんが人馴れしてるみたいでな、ふてぶてしく乗ってきた」
「懐かれて良いじゃねえか。嫌われるよりは」
まあ、何事もそうかもしれない。好かれて困ることはあっても、嫌われて喜ぶことはそうそう無い。
「それより、少し撫でてみても良いか?」
シリウスの声はちょっとだけ上擦っていた。ウマ娘も猫好きは多いが、シリウスがそうだとは知らなかったので、意外な一面を見た気分になる。
「うちの猫でもないしな。怪我でもさせなきゃ問題ないだろ」
「それもそうだ。アンタに許可取るのもおかしいな」
シリウスの手が猫の頭に伸びる。二回、三回は猫もされるがままになっていたが、撫で方が気に食わなかったのだろう。突然シリウスの手の甲をひっぱたいた。
「いってぇ!? この猫、やってくれるじゃねえか」
それこそ攻撃された猫みたいに跳ね上がって毛を逆立ててそうなシリウスの姿がおかしくて、つい笑いが漏れた。
「ほう、アンタもこの猫と一緒に躾が必要みたいだな」
必死に取り繕おうとするが、それが余計に滑稽で。猫はにゃあとひと鳴きするとシリウスに興味など無いかのようにまた丸くなる。
「だから笑うなっての!」
ツボに入ってしまいひとしきり笑い終わるまで数分、そこからシリウスの機嫌を直すのに数時間を費やした。その間に猫は、気ままに何処かへと言ってしまったとさ。
- 19二次元好きの匿名さん22/03/06(日) 19:45:47【SS】よう|あにまん掲示板何の写真見てるんだ……こりゃ赤ん坊か? それもウマ娘だなアンタの子、なわけ無いか。アンタにそんな甲斐性あったら、もう少しマシになってらふーん、従兄の子なのか。義理の姉がウマ娘で、子もウマ娘だったと。ま…bbs.animanch.com
「何の写真見てるんだ?」
従兄から送られてきた写真を眺めていると、いつの間にか背後からシリウスが覗き込んできた。
「人の勝手に見るなよ」
「良いじゃねえか、減るもんでもないだろ。それで、ウマ娘の赤ん坊か?」
写真には従兄と奥さん、そして奥さんに抱かれてすやすやと眠っている赤ん坊が写っている。奥さんと赤ん坊には耳と尻尾もあった。ウマ娘がウマ娘を産んだ。珍しくもないことだ。
「良い顔してるじゃねえか。きっと良いウマ娘になる。私が言うからには間違いない」
シリウスの声は普段よりもずっと優しそうで、こいつにこんな声が出せたのかと少し意外に思う。
「赤ん坊は別に嫌いじゃない。面倒を見るのは御免だがな」
「お前らしいな」
「当たり前だろ。あれやったりこれやったり、やってられるか」
「お前は良い親になるだろうな」
「おいおい、今の言葉を聞いて出てくるのがそれって大丈夫か」
母親というものの大変さを知っているのだろうと、素直な感想を告げたら呆れられてしまった。まあでも、とシリウスは意地悪く笑う。
「アンタよりはマシかもな。落ち着きないしズボラだし、鏡になるってよりは反面教師だ」
「へーへー、どうせ俺は半人前ですよ」
「ハハハッ、図星だからって拗ねるなよ。それにそういう話は相手が出来てからするもんだろ。私が現役で走っている内はそんな機会は来ないだろうさ」
「そんなに俺はモテないように見えるか」
「そういうわけじゃないさ。ただ、アンタ──私から目を離せないだろ?」
自信満々に言い放たれると、納得するしか無かった。
- 20二次元好きの匿名さん22/03/06(日) 19:51:34【主にトレウマ】SSまとめ|あにまん掲示板カフェトレとシリウストレを中心に雑多に書いていたのをまとめます。bbs.animanch.com
だいたい書きたかった奴のリメイクは書き終わりました。ネタ切れの時は焼き直しに限る(?)
- 21二次元好きの匿名さん22/03/07(月) 07:54:23
オツカーレ