拙者はフラワーの飛び級で脳を焼かれるウマ娘がいるはずだと考えている侍と申す者

  • 1122/05/06(金) 17:38:07

    義によってSSを投げ散らかす ご照覧あれ 書き溜めはない 今回は特に色々と不確定事項が多いので喚起もしておく

    過去に投げた概念なども置いておく ここに10作品を並べるまで書きたい所存、残り3作


    拙者は元気だがおそろしくドライでもあるチケゾーが見たい侍と申す者|あにまん掲示板義によってSSを投げ散らかす ご照覧あれ 書き溜めはない過去に投げた概念なども置いておく ここに10作品を並べるまで書きたい所存、残り4作https://bbs.animanch.com/board/…bbs.animanch.com
    拙者は所有権を主張されるデジたん推せる〜〜〜〜!!!!侍と申す者|あにまん掲示板義によってSSを投げ散らかす ご照覧あれ 書き溜めはない過去に投げた概念なども置いておくhttps://bbs.animanch.com/board/588988/https://bbs.animan…bbs.animanch.com
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  • 2二次元好きの匿名さん22/05/06(金) 17:40:03

    話を聞こう

  • 3122/05/06(金) 17:51:51

     とんでもない天才がいる。トレセン学園入学を目指す歳若きウマ娘達の間で、彼女は最も有名なウマ娘の1人となった。
     マイルにおいても小学生内では最強の一角に列せられるが、得意距離は短距離だという。全国大会で2連覇、しかも恐ろしいことにあと1年残っている。もし次も1着だったなら、いかなる距離においても現在未達成の全国大会3連覇となる。過去の2連覇でさえ、僅かに数名を数えるのみ。
     タイムは既にオープン戦の掲示板を争える。今年の全国大会も優勝の最有力候補だ。評判を聞きつけて、そのレースを実際に見た者は、口を揃えてこう言った。

    『怪物サクラバクシンオーの再来だ』と。

  • 4122/05/06(金) 18:39:46

    「うわー、凄いじゃんフラワー。あのサクラバクシンオーさんのサイライだって! ……サイライってなに?」
    「みたいだってこと。サクラバクシンオーさんみたいに強いってことだよ」
    「へー……それって凄くない!?」
     雑誌をばしばし叩きながら、興奮気味に話す友人。当の本人より嬉しそうなものだから、意外なほどに冷静になってしまった。
     ウマ娘に関する情報が沢山載った雑誌は、小学生の間でも人気を博している。特に男子達にとっては半ばバイブルと化しているようで、こっそり雑誌を持ち寄っては見つかって怒られるのが恒例になっている。
     ただ、ウマ娘の走りに興味を持つこと自体は何も悪いことではなく、雑誌の没収などもされたことはない。……噂ではこの学校の校長が大のレースファンだから、その辺りが甘いとかなんとか。
    「次の全国大会まで3ヵ月くらいかー。どうなのフラワー、勝てそう?」
    「分かんないけど、頑張るよ」
     その雑誌では、毎回1人のウマ娘に焦点を当てた記事が載る。大抵は現役で活躍するウマ娘なのだが、今回はデビューどころかトレセン学園入学さえまだのウマ娘が選ばれた。彼女の名はニシノフラワー、周りの同級生達と比べても一回り以上小さな体の少女である。
    「私達、絶対応援行くからね! 1着だよ1着!」
    「う、うん。ありがとう」
     熱の入った激励に、やや引き気味になりながらも感謝する。応援してくれる友達の存在は、フラワーにとって大きな原動力となる。

  • 5122/05/06(金) 18:54:04

     海外からの留学生でもない限り、レース志望のウマ娘は専用のクラブに所属する。そのクラブの代表として国内のレースに登録され、そこで走る。結果が良ければ都道府県、地方、果ては全国レベルの大会へ駒を進めることもあるだろう。
     つまり、結果を出さなければ上には進めない。必然的に、全国大会に出場するウマ娘は、将来の活躍が期待されるダイヤの原石となる。ましてやそこで優勝したともなれば、注目の集まり方も普通ではなくなる。
     2連覇達成のフラワーは、地元では名前を知らない人の方が少ないという程の有名人になった。彼女をさらなる高みへ連れていこうと、有名なクラブから移籍の勧誘もあった。しかしフラワーにとって、今のクラブはとても居心地がいい。だから移籍の話は全て断った。それもまた、普通のクラブから現れた天才として彼女の知名度を上げることにはなっているが。

  • 6122/05/06(金) 20:25:33

    「フラワー!」
     学校終わりに数時間クラブで練習。それを週に5日ペースでこなすのが、フラワーの基本的なルーティンである。今日もランドセルと手提げの鞄をお供に、クラブへと向かう。建物に入って、指導してくれる先生達に挨拶をしていると、友達の栗毛のウマ娘に声をかけられた。
    「雑誌見たわ。流石アタシのライバル! でも次はアタシが勝つから、それでみんなメロメロにしてやるの!」
    「メロメロはちょっと違うんじゃないかな……?」
    「そうなの?」
     大間違いとは言わないが、それでもやっぱりメロメロではないと思う。フラワーのイメージでは、それだと見に来てくれた人達がみんな彼女に告白してしまう。まるで少女漫画みたいな展開になって、果たして彼女は今みたいに自信満々でいられるのだろうか。
    「って、なんでもいいの! 今年はアタシが優勝するわ、覚悟してなさい!」
     フラワーより背も大きくて、力も強い。同じクラブに所属しているのだから、彼女の速さもよく分かっている。強力なライバルの出現に、しっかりと頷き返した。

  • 7122/05/06(金) 20:43:31

    「フラワーちゃん。ちょっと来て」
     アップを終えて、これから本格的な練習というところで、フロントスタッフがフラワーを呼びに来た。コーチに断って一旦練習を抜ける。彼女は1通の封筒を手に持っていた。そこから紙を取り出して、フラワーに渡す。
    「トレセン学園から、体験レース参加の案内が来たよ」
    「体験レース……?」
    「強い子達を実際に学園のターフで走らせてくれるの。あなたの実績で去年案内が来なかったのが不思議なくらいだけど……どうする? レース後には各距離のスペシャリストからアドバイスも貰えるから、とても良い経験ができるよ」
     将来的には学園に入学したいのだから、この場で行きますと返事をしたいくらいだった。しかし、遥々東京まで小学生が一人旅をするのは不可能。親に連れていってもらうしかないが、親にも予定というものがある。
     親に聞いてから決める。そう答えると、スタッフの女性は承諾をくれた。返答期限は来週の金曜日、まだ時間はたっぷりとある。もし行けるなら、憧れのウマ娘に会えるかもしれない。まだ決まったわけでもないのに、そのウマ娘の顔が思い浮かぶ。
     いつでも自信に満ち溢れて、真っ向勝負で相手を打ち負かす猛者。彼女のようにレースを走ってみたい、そんな願いを叶えるためのヒントを掴むチャンスになるだろう。都合がつけば良いなぁ、期待を胸に練習へと戻った。

  • 8122/05/06(金) 21:26:19

     想像していたよりも、ずっと会場の雰囲気が重い。体験レースに参加したウマ娘達は、予想外の緊張を味わうこととなった。
     観客も入れて開催するとは聞いていた。それでも精々親と他数名くらいだろうと思っていたのだ。……まさか普段の大会より遥かに多い人入りがあるなんて、想像できるはずがない。見渡す限り人、人、人。実況もついて、本番と遜色のない環境になった。
     フラワーの走る短距離部門は、マイル部門の後となった。走者の殆ど……いや、全員がフラワーよりも恵まれた体格の持ち主だ。彼女の目には、繰り広げられるレースがとてもパワフルなものに見えた。
    「フラワー、頑張れよ」
    「いっぱい応援するからね!」
     両親に見守られて、いよいよゲートへ向かう。この体験レースに出たいと話したところ、二つ返事で快諾してくれて、新しいシューズまで買ってくれた。そんな2人に少しでも報いたいという思いを持って、ターフへと降り立つ。
     やはりというか、フラワーは目立った。実績でも小柄さでも、周囲とは一線を画している。2番目に小さなウマ娘でも、フラワーより優に10cm以上は大きいだろう。
    「さぁいきなり白熱の様相を呈しました体験レース、続きましては短距離部門。出走ウマ娘は16名となります!」
     実況はかなり本格的で、人気順の紹介もあった。2番人気のウマ娘はフラワーも知っている、前の大会でハナ差の大接戦になった相手だ。彼女もまた、短距離界の新星として名を知られる強者である。

  • 9122/05/06(金) 21:41:03

    「1番人気、ニシノフラワーちゃん! ご存知の方も多いでしょう、小学生の全国大会で短距離部門を2連覇! 今最も注目されるルーキーが堂々の1番人気です!」
     フラワーの紹介と同時に、観客が一際大きく盛り上がった。恵まれない体格でなお強い彼女は、応援される才能に長けている。やや不利な外側の枠にはなったが、期待に応えられるよう頑張らなければ。ぐっと気合を入れなおす。
     続いてゲストが発表される。先程のマイル部門にはタイキシャトルがゲストとして実況に参加していた。各距離のトップクラスが自分の走りを見てくれる機会なんて滅多にない、それだけでやる気が満ちていくようだった。
    「短距離部門のゲストはサクラバクシンオーさんです。圧倒的なスプリントを武器にデビューより今に至るまで無敗! 短距離史上最強とも謳われる怪物が、この体験レースを視察しにやってきました!」
    「みなさんこんにちは! 今日はみなさんのバクシンが見られると聞いて来ました!」
    「ば、バクシン……? えーっと、よく分かりませんが検討を祈ってくれているみたいです! 本日はよろしくお願いします!」
     名前を聞いた瞬間に、フラワーは思わず実況席の方を見た。憧れのウマ娘がほんの100mもない距離にいる。見てくれている彼女を退屈させない走りを。緊張も増したが、それ以上に活力が漲ってくる。

  • 10122/05/06(金) 22:36:20

    「速い速い! 僅かな隙間を縫って飛び出したニシノフラワーちゃん、見事1着です!」
     スタート直後からかなり苦しい展開となった。拮抗した数名が前に固まり、抜け出すスペースを見つけるのに予定以上の時間をかけてしまった。最終直線に入った時点で4番手、しかしそこで前が動いた。結果、フラワーでなければ突破口とは捉えられないだろう小さな隙間ができた。咄嗟の判断で飛び込んで、そこからは上位とのスピード勝負。
     鍔迫り合いを制したフラワーと2着の差は、アタマ。差の生まれにくい短距離とはいえ、これは文句なしに接戦である。
    「みなさん良い走りでした! ここから何人がこのサクラバクシンオーに挑んでくるか、楽しみに待ってますよ!」
    「現チャンピオンからの挑戦状も叩きつけられました。来年以降彼女のライバルとして、是非切磋琢磨してくださいね!」
     席で立ち上がって拍手を送る両親に、呼吸を整えて手を振る。歓声が一層大きくなった。自分の走りで喜んでくれる人が、こんなにいるなんて。嬉しくて頬が緩んでしまう。
    「……」
     視線を感じて振り返る。大接戦の相手となった2番人気のウマ娘が、フラワーを睨んでいた。負けた悔しさの滲む目に、彼女から視線が逸れる。
     きっと彼女は、誰よりも本気でこのレースに臨んでいた。だからあそこまで悔しがれるんだ。その闘志の残滓が自分に向けられていると知った途端に、ぞくりと鳥肌が立った。一緒に走ったウマ娘を『怖い』と感じたのは、フラワーにとって初めてのことだった。

  • 11122/05/07(土) 00:27:44

     昼食休憩を挟んで、アドバイスの時間になった。1人ずつ個室に呼ばれて、各担当から助言を貰う。フラワーにとってはこれが今日のメインイベントと言っていいかもしれない。順番が来るまでは周囲の散策をしていていいとのことで、練習コースを走る学園のウマ娘を見学していた。
     そしてついに自分の番がやってきた。早鐘を打つ心臓に落ち着いてくれ、と手を当てて、ひとつ深呼吸をしてから部屋に入る。
    「むむっ! 来ましたね、ニシノフラワーさん。個人的に貴方を待っていましたよ」
    「こんにちは。あの、待っていたって……」
     向かいの椅子に座っていたバクシンオーは、フラワーを見て初めにそう言った。彼女の目に留まることができたのだろうか、そうだとすれば嬉しい。
    「短距離の天才が現れたと聞いて、気になっていました。今日の走りを見せてもらって、よく分かりました。フラワーさん、貴方は……」
    「は、はい」
    「まだまだ甘いッ!」
     あのレースで合格点はあげられない。流石は史上最強スプリンター、そう簡単に褒め言葉は出てこない。フラワー自身、あのレースが100点満点かと聞かれたら首を横に振る。前が塞がれると分かった時点で、それを躱して前に出なければならなかった。今回勝てたから良いものの、この判断ミスが大会で出たらと思うとぞっとする。
    「レース展開については中々センスがあります。私以外のウマ娘にはそうそう劣らないでしょう。しかし足りないものもあります」
    「やっぱり身長ですか……?」
    「身長? いや、どんな身長でもバクシンすればレースは勝てるでしょう。貴方に足りないのは『気持ち』です」
     貴方は才能で1着になって、あの子は気持ちで2着になった。バクシンオーの言葉を、フラワーは上手く理解できなかった。勝ちたくないなんて思っていなかった、そんな態度を取ったわけでもないはず。なのにどうして、気持ちが足りないと言われたのか。
    「考えてみてください。フラワーさんが私を追うのなら、絶対に理解しなければならないことですから」

  • 12122/05/07(土) 12:00:18

     結局あの後考えてみたけれど、気持ちが足りないという結論にはどうしても至れなかった。コーチや友達に聞いて回ったりしても、『そんなことはない』『フラワーちゃんは頑張ってる』と言われるばかり。自分も他の人もそう思っているのに、バクシンオーだけはなぜ不足を指摘するのか。
     あのレースの後で、ぎろりと鋭い目を向けてきた2着のウマ娘。彼女のような闘争心を持てということなのか、とも思った。しかしフラワーは彼女のように大柄でもなければ、斬れ味鋭い目をしているわけでもない。同じようなことをしたってただの劣化コピーだ。

     そうして思い悩む日々が続く中、フラワーの人生を変える1通の封筒が届く。差出人はトレセン学園、封を開けたフラワーよりも周囲の方が驚いていたかもしれない。
    「嘘……推薦入学の案内よ、これ!」
     まだ幼いフラワーに、その言葉の理解は難しかった。興奮を隠しきれないコーチに意味を尋ねると、それで何とか落ち着きを取り戻したらしい元競走ウマ娘は、この封筒の有する意味を教えてくれた。

  • 13122/05/07(土) 19:13:35

     普通なら来年の4月から学園生となる──無論合格すればの話だ。入学時期については通常の学校と異なるところはなく、これまでに所謂『飛び級』がなされた例などないにも等しい。
     もしこの誘いを受ければ、途轍もない快挙であることは言うまでもない。急転直下、短距離界のホープは来月からトレセン学園の生徒としてレースに邁進するのだ。
    「フラワーちゃん。私、推薦を受けるべきだと思う。貴方の才能は、日本で1番凄いところに認められたの。勿論4月から学園生扱いだから、全国大会には出られなくなるわ。でもそれ以上のものを絶対に得られる」
     学園に所属する生徒は、その殆どが全国大会優勝クラスを上回る実力の持ち主だ。もとより才覚に溢れたウマ娘が、国内最高の機関で最新鋭の器具と理論を用いてトレーニングをするのだから、小学生のチャンピオン級でさえ最下層に甘んじることになる。
     フラワーがこのままクラブに残って全国大会3連覇を達成したとして、1年早く学園生となる以上のメリットがあるのだろうか。フラワーを何年も見続けてきたコーチには、史上初の名誉よりも、より早い段階での能力の底上げが大事だと感じられた。

  • 14122/05/07(土) 19:28:04

     凄いことになった。自分の判断次第で、人生は大きく変わるだろう。幼いフラワーにも、そのくらいのことは分かった。人生の岐路、というものを明確には認識できていないので、ふわふわとした漠然な不安を抱いてもいた。
     コーチの言うことは尤もだ、早いうちから強者に揉まれておいた方がより高くまで成長できる。しかし、自分は折れずについていけるのだろうか。フラワーを悩ませる唯一にして最大の心配は、『実力差』の一言に尽きる。
     小学生より体格の大きい中等部、高等部を相手取って、負け続けたうえで技術を習得。そして成長し、いずれは強者の側へと回る。これがどれだけ難しいことなのか、フラワーには想像もつかない。賢い彼女は、多少の努力で差は埋まらないと理解できる。だって他のウマ娘は、それと同等かそれ以上に努力を重ねているのだから。
     短距離の重賞レースを見に行ったことがある。例えば自分があの中に放り込まれたとして、誰かひとりでも抜かせるのだろうか。全員に完膚なきまでに置いていかれて、酷く惨めな思いをするだけではないのか。

    「ねぇ、フラワー」

  • 15122/05/07(土) 19:45:48

     いきなり声をかけられて、びくりとしながら振り返る。友人の栗毛のウマ娘が、いつになく怖い顔をして立っていた。
    「アンタ、トレセン学園行くの?」
    「えっ……分かんない。まだ考えてるよ」
    「行かないで」
     3月の未だ寒い帰り道に、ぽつりと一言が溶けて消える。咄嗟に返事をできなかったフラワーに、栗毛のウマ娘はなおも淡々と想いを告げる。まるで真摯な告白のように、静かながら感情を揺り動かす言葉が、フラワーを動揺させる。
    「アタシ言ったでしょ。フラワーを倒してやるって、全国大会で1着になるのはアタシだって。トレセン学園に行ったら全国大会に出られないなら、行かないで」
     勝負すらさせてもらえないなんて、納得できるわけがない。昔からのライバルとして、最後に1番大きな舞台で戦いたい。少女の願いを我儘だと断じる程に、フラワーの精神は成熟していない。普段感じることのない圧迫感に気圧されて、喉が潰されてしまったかのように錯覚する。
    「アタシは絶対全国に出る。だからアンタはあそこで待ってて。……約束だからね」
     栗毛のウマ娘は、最後に重い枷をフラワーに嵌めた。約束されれば、破った際にはどうなるか。想像するだけで背中を嫌な汗がじっとりと濡らす。踵を返して去っていく友人をまともに見ることもできず、呆然と道に立ち尽くした。

  • 16122/05/07(土) 20:53:37

     1日経っても進路を決めることはできなかった。両親に相談もしたが、結局はフラワーの意思が未来を決める。当然だ、コーチや両親にフラワーの進路を選ぶ権利はない。
     天秤は交互に揺れ続けている。その日の授業は全く身に入らなかった。珍しく惚けていたフラワーに、教師は怒ることなく心配した。体調面に問題はないのだ、心ここに在らずという状態を脱することができないだけで。フラワーが自らの意思で進む道を決められない限り、彼女はシャボン玉のように浮つき続ける。
     放課後にクラブへ向かう足が重い。当然友人はいる。彼女と顔を合わせるのを、今はどうしようもなく避けたい気持ちでいっぱいだった。そんな自分に嫌気がさして、メンタルはさらに落ち込んでいく。最悪の循環だった。
    「あっ、フラワーちゃん! 来たばっかりでごめんね、お客さんが──」
    「ハーハッハー! 私の出身クラブと似てますね……良いクラブです!」
     ドアをくぐる。すぐに慌てた様子のコーチが駆け寄ってきた。その後ろで高笑いするウマ娘。心臓が跳ねた、なぜ彼女がここに。
    「聞きましたよ、フラワーさん。トレセン学園に来られるそうですね。学級委員長として貴方を歓迎させていただきますともッ!」
    「あ、ありがとうございます。でもまだ行くと決めたわけではなくて……」
    「……ふむ?」
     取らぬ狸の何とやら、になってはいけない。訂正を加えたフラワーに、バクシンオーは何か考えるように腕を組んだ。そのまま目を閉じること10秒、やるべきことは決まったと言わんばかりの迷いのなさで、バクシンオーは口を開く。
    「なるほど、分かりました。では1本併走しましょうか」

  • 17122/05/07(土) 21:10:47

     短距離の皇帝と天才少女が、思いがけず激突する。空いたコースを使っての併走には、練習を中断した他のウマ娘達も観客としてやってきていた。
    「さて、フラワーさん。今からの併走、貴方にハンデを差し上げましょう。私は貴方の1秒後に走り出します」
     大きく出たな、と皆が思った。そのまま走ればバクシンオーがちぎって勝つ。それは確定事項であり、接戦を演じるならハンデは必要となる。しかし短距離勝負で1秒とは、随分思いきったものだ。この時点で勝負の行方が不透明になったが、皇帝は笑みを崩すことなく更に続けた。
    「そして宣言しておきます。貴方より1秒早くゴールする、と」
     周囲からどよめきが上がった。これは単純に2秒差を埋める、という話ではない。僅かなミスの取り返しが難しい短距離で、相手が1秒分前にいることがどれだけのプレッシャーになるか。バ身にして幾つの差になることか、普通なら焦りでペースを乱されて大敗を喫する羽目になる。
     それを覆した上で、1秒差をつけて勝つと言ったのだ。幾ら史上最強の怪物スプリンターとはいえ、フラワーを相手に達成できるものではない。他の誰もがそう思う中で、フラワーだけはぞくり、と身を震わせた。
    「距離は1200mで良いでしょう。ささ、スタート位置にどうぞ」
     バクシンオーは本気だ。心の底からこの条件で問題はないと信じている。決して自信過剰ではなく、彼女はまさに宣言通りの結果を出すだろう。勝てるわけがない──憧れていた大きな背中が、今は残酷な悪魔に見える。

  • 18122/05/08(日) 08:41:43

    「フー……中々の走りでしたね。すいません、タイムはどうでしょう!」
     異次元のスプリントに、全員が言葉を失った。これが無敗の怪物か。スタート直後からぐんぐんとフラワーとの距離を縮め、抜かしてからもスピードは衰えなかった。
     対してフラワーは精細を欠いた。有利な状態に、寧ろ緊張を覚えているようでもあった。結果、2人のタイム差は1.1秒。勝者はサクラバクシンオー、不可能にも近い条件を圧倒的なスピードで達成してみせた。
    「私の勝ちですね! さて……フラワーさん」
     足が前に出ない。いくら力を込めて踏み込んでも、たった5cmしか進んでいないような感覚。それなのに息は切れ、ゴールしたときには倒れ込みそうなのを堪えていた程だった。
     自分の体に何が起きたのか。経験したことのない絶不調にただただ困惑するフラワーへ、早くも呼吸を整えたバクシンオーが向き直る。絶対の自信に裏打ちされたいつもの笑顔は鳴りを潜めて、ほとんど見たことのない真顔が自分を見据えてくる。
    「私の伝えたいことは、まだ分かりませんか」
    「っ……私だって、勝ちたいと思ってます」
    「それは当たり前です。まあ今回の貴方から気迫は感じませんでしたが、置いておきましょう」
     体験レースの後で、宿題のように課されたものを忘れてはいない。忘れられない、という方が正しいだろう。今回は突然決まった併走だし、メンタル面でもそもそも不安を抱えていたから仕方ないにせよ、普段ならもっと強い気持ちをもって併走に臨んでいた。
     それでもバクシンオーはフラワーに『気持ち』が足りないと考える。自分が小さくておどおどしているからそう見られているだけなのではないか。今まで一瞬たりとも出なかった邪な思考が、頭の片隅でむくりと鎌首をもたげてきた。善性はそれを否定するが、しかし否定しなければならない程度にその邪念は大きかった。

  • 19122/05/08(日) 08:43:32

    「お尋ねします、フラワーさん。貴方はなぜ勝ちたいと思うのですか? そこには必ず理由があるはずです。私が学級委員長として皆の模範になりたいと思っているように」
     どうしてこんなに怒られるのだろう。レースも勉強も頑張っているのに。何も悪いことなんてしていないのに。バクシンオーとの会話中なのに、考え始めると止まらない。それはきっと彼女にも伝わっていたのだろう。まだ何か話そうとしていた彼女は、首を振って打ち切った。フラワーにはその仕草が、『お前には失望した』という言葉代わりに感じられた。
    「次に会うのはトレセン学園で。それが今年になるか来年になるかは、貴方が決めることです」

  • 20122/05/08(日) 09:11:37

     暫く休みたい。クラブへ休会の連絡をして、久々にトレーニングをしない平日を迎えた。厳しいトレーニングがなくて嬉しいとも思わないし、やっぱり走りたいとも感じない。ただ学校の宿題をこなして、残った時間は机に向かって惚けているだけだ。
     ご飯を食べるためにリビングへ降りて、食べ終わったら部屋へ戻る。何度か両親が部屋へ来たが、今は大好きなはずの人達とさえも話す気が起きなかった。悲しそうに去っていく2人の足音に、一層自己嫌悪が募った。
     推薦を受けるかどうか、返答期限は明後日だ。書類が届くまでの時間を考慮すれば、明日には返信を送らなければならない。どちらを選んでも自分は後悔するだろう、優柔不断で一方を切り捨てられない以上は絶対に。ではどちらが小さな後悔で済むのだろうか、そう考えたときに推薦の受諾は難しい。
     意思が不確定なうちに、『行くな』と約束を取り付けられた。あと1年を小学生として過ごし、他のウマ娘と同じように飛び級なんてしないで学園に入学すれば、誰にも迷惑をかけないし誰の期待も裏切らない。……明日コーチに伝えに行こう。『推薦入学はやめておきます』と。
     ベッドの上で影も形もない眠気を待ちながら、フラワーは漫ろに心に決めた。それで思い悩む日々から解放されるなら、明日からはきっと元通りの生活を営めるようになる。両親も自分もきらきらと笑って、汗を流すトレーニングも楽しくなるんだ。そして帰り道は友達と笑いあって歩いて、また明日と手を振りながら別れる。

  • 21122/05/08(日) 19:00:53

    「あっ、フラワーちゃん。体調は大丈夫?」
     自分勝手な理由で休んだって、みんなは優しく接してくれる。なんで私はこんな我儘に振舞っているんだろう。それでまた気分が落ち込んでしまいそうになる。体にはなんの問題もないのに。
    「丁度良かった。今ね、あなたに会いたいって子が来てるの。どうかな、会える?」
     かなり逡巡したが、これ以上我儘は言いたくないと思った。承諾して、その子の待っている部屋へ向かった。ドアを開けた先にいたのは、あまりに意外な来客であった。
    「……ニシノフラワー。私のこと知ってる?」
    「うん。この前の体験レースでも一緒に走ったよね」
     体験レースだけではない。昨年の全国大会や他の大きな大会でも、何度か顔を合わせている。そんな彼女が、一体何の用でこっちまで来たのか。フラワーとは都道府県どころか地区が別だったはず、ここまではかなり遠い道のりになったはずだが。
    「そう。……トレセン学園、行くんだって?」
     進学の話は存外広く知れ渡っていた。別に隠しているわけでもないけど、今その話をされると嫌でも変な反応をしてしまう。そしてそれは、芦毛のウマ娘にも筒抜けだったようで。
    「何で嫌そうな顔をするの?」
    「え、嫌ってわけじゃ……」
    「喜んでる人はそんな顔しないよ」
     自覚はなかったが、顔に出てしまったらしい。それを咎めたりはせず、芦毛のウマ娘は淡々と話を始める。

  • 22122/05/08(日) 21:08:26

    「私、貴方に『おめでとう』って言いに来たの。トレセンに入学するものだと思ってたから」
    「……私、推薦は受けない」
     初めて伝える相手が彼女になるとは予想外だった。芦毛のウマ娘はさほど驚いた様子も見せなかった。
    「貴方が決めることだって分かってるけど……私は貴方に、トレセン学園に行ってほしいよ。今年の4月から、ね」
    「……どうして?」
    「ライバルは強い方が良いでしょ」
     あっけらかんとした答えに、そんなの当たり前だろうという思いが込められていた。彼女はトレセンへの飛び級入学でより強くなったフラワーと戦いたい。当の本人にとっては、馴染みのない考え方でもあった。
    「バクシンオーさんと併走したって聞いた。ほんとに羨ましいよ」
    「でも私、全然良い走りもできなかった。きっとバクシンオーさん、怒ってるよ」
    「そんなことないよ。昨日のレースのインタビューで、貴方のこと凄く褒めてたもん。そもそも大事なレース直前に来てくれて、併走までしてくれる時点で期待されてないわけないでしょ」
     その言葉に、はっと思い至った。バクシンオーは3月のとある重賞レースに出走予定だった。彼女がフラワーと併走したのは、まさにそのレースの前日だ。多くの選手が現地で最後の調整をしているはずの時間に、なぜ彼女はわざわざ多大な時間をかけて会いに来たのか。

  • 23122/05/08(日) 21:56:55

    「私さ、貴方の才能が欲しい」
     ぽつりと零された一言に、あなたにもあるよ、なんて安易な返答はできなかった。フラワーは目の前で寂しそうに笑う芦毛のウマ娘に負けたことがない。同年代で最も警戒すべき相手であり、彼女が同じレースにいれば知らずのうちに意識していた。その適度な緊張が力を生み、目を見張るようなパフォーマンスに繋がっていた。
    「体験レースのときに、バクシンオーさんに言われたんだ。『気持ちなら貴方、才能はフラワーさん』って。なんでだろうね……私が必死に頑張っても手に入らないものを持ってる子は、あと1歩踏み出せば届くものを持ってない」
     彼女とて、決して凡庸な才能の持ち主ではない。素晴らしい才能と恵まれた体格で、全国の頂点に迫るウマ娘だ。
     そんな彼女だからこそ、フラワーが如何に天才であるかを理解できる。小突けば簡単に転ばしてしまえる小さな『女の子』は、他を寄せつけないスピードと集団を躱すセンスで『王者』として同世代を捩じ伏せる。
     体はこれから大きくなっていく。幾らかパワーもついてくるはず。あとは『気持ち』さえあれば、一体どれだけ強くなるのだろう。空恐ろしいし、それでこそ倒すべき相手だとも思う。自分の武器を鍛えて、いつかG1レースという最高の舞台で最高の勝負を。数年後の未来設計は彼女を強く、強く奮い立たせる。
    「色々言ったけどさ、私が決めることじゃないよね。ごめんね、訳わかんない話ばっかりしてて。でもこれだけは言わせて。貴方は強いんだよ……フラワー」
     お互いの全力同士でぶつかれば、今はまだ敵わない。フラワーがトレセン学園へ行けば、差は更に広がる。それでいい、それでこそ倒し甲斐がある。
    「バクシンオーさんのインタビュー、動画出てるから。見ても良いかもね」
     思いの丈は伝えた。芦毛のウマ娘は立ち上がって、出口へ歩いていく。

  • 24122/05/08(日) 22:21:28

    【おやっ! 勝者インタビューですね、さぁどうぞ。この学級委員長がビシッ! とお答えしますともっ!】
    【今日のレース? いつも通りバクシンしましたとも! いやー、中々良い走りができて満足ですねぇ】
    【昨日ですか。いえ、怪我とかはしてませんよ。ニシノフラワーさんに会いに行っておりまして……調整時間中のバクシンを皆さんにお見せできなかったのは残念でしたが、良い時間を過ごせましたよ!】
    【フラワーさんは素晴らしい才能の持ち主です。この学級委員長が驚かされてしまうくらいには。あのまま強くなってくれれば、将来的には私の王座を脅かしてくるかも知れませんね! 勿論そのときは全力をもってお相手させていただきますとも!】

  • 25122/05/08(日) 23:16:11

    「さぁ模擬レース、距離は1200m、短距離戦となります。出走ウマ娘は12名、注目はなんといっても彼女でしょう」
     天気は快晴、気温は4月の下旬にしてはやや低いか。しかし会場に満ちる熱気は、寒さも吹き飛ばさんばかりだ。
    「小学生大会で圧倒的な実績を残し、飛び級で入学した天才少女。早くもトレーナーからの熱視線を浴びながら、今日堂々の3番人気で走ります!」
     とんとん、と軽くジャンプ。感触は悪くない。集団に飲み込まれないよう気をつけて、最後はスピードで。頭の中で勝つための展開を思い浮かべる。あとはどれだけその通りに動けるかで、結果は決まる。

    「3番人気ニシノフラワー、気合い充分です!」

  • 26122/05/09(月) 09:43:39

    「聞いた!? フラワーが今度のオープン戦に出るって!」
    「えっ、早くない? もう未勝利戦クリアしたってこと?」
    「そうみたい。凄いよね、全然連絡くれないから知らなかったよ!」
     友人はトレセン学園で早くもデビューを果たしたらしい。つまりこれからトゥインクル・シリーズを走るわけだ。オープンレースで勝てば重賞レースへ、いずれはG1という最高の舞台で戦うことにもなる。
     ライバルは強大だ。いずれも学園への入学を認められたエリート達、その中でも頂点に君臨する怪物──短距離であればサクラバクシンオー、マイルであればタイキシャトルのような王者と戦っていかなければならない。
     ……彼女が進学すると決めたとき、栗毛のウマ娘は怒るつもりだった。全国大会で勝負しようと約束したじゃあないか。そんな言葉を用意して、いざ彼女の前に立ったら、昂っていたはずの感情は萎んでしまった。大きな挑戦を始めるウマ娘を相手に、約束がどうだなんて詰るのが下らなくなった。
    「やるじゃない。流石アタシのライバル!」
     栗毛のウマ娘は、全国大会には出られなかった。地区大会で惜しくも姿を消すこととなった。勿論悔しくてたまらない、あのトロフィーを掲げてやるんだという思いでトレーニングを積んできたから。
     でも、まだ終わったわけじゃない。寧ろここからだ、自分もトゥインクル・シリーズ出走を目指していく。そのためにはまず、トレセン学園に合格しなければ。今となっては晴れやかな気持ちで、決意を新たに心に刻んだ。

  • 27122/05/09(月) 09:49:05

    以上である 小さくて可愛いフラワーが、己の才能ゆえに苦しみながらも打ち勝っていく話が読みたくて書いた ではさらばだ

  • 28二次元好きの匿名さん22/05/09(月) 21:23:24

    栗毛の子がトレセン来るのを祈る

  • 29二次元好きの匿名さん22/05/10(火) 09:06:29

    いいssでした!

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