【閲覧注意】 あにさまといっしょ その2 【囚人尾形 SS】

  • 1あんこうなべ22/06/15(水) 20:25:09
  • 2あんこうなべ22/06/15(水) 20:25:59
  • 3あんこうなべ22/06/15(水) 20:27:59

    タッタッタッ………

    勇作(兄様、兄様。どこに行ってしまったのですか)

    勇作(屋敷の近所を一通り回ったのに、どこにもいらっしゃらない……!)

  • 4あんこうなべ22/06/15(水) 20:31:11

    勇作(だめだ、落ち着け。考えろ。私はずっと兄様と話していただろう)

    勇作(兄様が行くとすれば、どこだ)

    勇作(きっと、これまでの会話の中に、答えがあったはず……)

  • 5あんこうなべ22/06/15(水) 20:34:39

    ザッザッザッ………

    尾形「…………」

    ??「なあ、一体どこへ行く気だ?希望も救いも捨てて、お前にどんな居場所がある?」



    ??「お前、何をする気だ?」

  • 6あんこうなべ22/06/15(水) 20:38:55

    尾形「お前、『俺』の癖に本当に何も分からんのか」

    尾形「まあ、そうか。お前は、自分の願いしか見ていなかった『俺』だからな」

    尾形「………居場所が欲しいんじゃない。もう言っただろう」


    尾形「ママゴトを、終わらせると」

  • 7あんこうなべ22/06/15(水) 20:45:08

    尾形「この話も、勇作さんにはしたんだったかな。村の子どもたちはみんな、どれだけ遊びに夢中になっていても、親に呼ばれれば必ず家に帰っていく」

    尾形「まるで、夢から覚めたみたいに……」

    尾形「いつまでも、ごっこ遊びに浸っているわけにはいかねえんだ」

    尾形「あの人には、帰る『家』があるからな」

  • 8あんこうなべ22/06/15(水) 20:47:47

    尾形「俺は、あの人の兄にはなれない」

    尾形「だからせめて」


    尾形「俺があの人をちゃんと『家に帰して』やらなくちゃな」

  • 9あんこうなべ22/06/15(水) 20:53:29

    勇作(……昔、兄様は言っておられた。子供の頃、村の子どもたちは家族に呼ばれてやっと家に戻ったって……)


    勇作(兄様は、本当は待っておられるんじゃないか)

    勇作(いつか、自分を迎えに来てくれる家族が来るのを)

  • 10あんこうなべ22/06/15(水) 21:02:58

    『……兄様、この先一緒に出掛けるなら、どこへ行きたいですか』

    『勇作さんの行きたいところなら、どこへでも行きますよ』

    『もう。そうではなくて、兄様の行きたい場所をお聞きしているのです』

    『……どうでしょう。俺はそもそも出不精ですし、この辺の地理にも別に詳しくはない』

    『ああ、でも。あそこだけは分かります。この町で、一番目立つ場所………』

  • 11あんこうなべ22/06/15(水) 21:05:37

    勇作「この町で一番古い桜の木が植わっている高台……」


    勇作「…………まさか」

  • 12あんこうなべ22/06/15(水) 21:10:52

    『ああ!あの桜が見事な高台ですか?』

    『兄様も、花見はお好きなのですね?』

    『いえ……花見が好きというか』

    『あそこは、この町のみんなが春になれば集うでしょう。家族はみんな、あそこで花見をしたがる』

    『思い上がりかもしれませんが、ずっと考えていたのです』

  • 13あんこうなべ22/06/15(水) 21:12:25

    『いつか貴方と、家族として花見がしたいって』

  • 14あんこうなべ22/06/15(水) 21:16:57

    尾形「ああ………」

    尾形「我ながら、未練だなあ」



    尾形「勇作さんと行こうと言ってた桜の高台を選ぶなんて」

  • 15あんこうなべ22/06/15(水) 21:25:25

    尾形の目の前には、桜の老木がある。

    この高台の桜は、春になれば一斉に花を咲かせ、ここの住民の目を楽しませている町の名所である。

    しかし今では花もとうに散り、真っ暗な空に向かって太い枝をただ伸ばしているだけだ。


    尾形は、その木に向かってゆっくりと歩を進める

  • 16あんこうなべ22/06/15(水) 21:32:25

    尾形(願わくは………)

    尾形(花の下にて、春死なん)

    尾形(その如月の、望月の頃)

    尾形(もう、如月でも望月でもないが)

    尾形(願いは同じか)

  • 17あんこうなべ22/06/15(水) 21:47:06

    尾形は、その大木に足をかけて、慎重に登り始めた。

    そして木の中ほど、一番太い枝のところまで登ったところで枝の根本に腰を掛け、しばらく高台から見える町の灯りを見つめていた。

  • 18あんこうなべ22/06/15(水) 21:55:39

    尾形(勇作さんなら、きっと大丈夫だ)

    尾形(あの人には、愛する家族がいる。慕う使用人たちがいる。これからも、あの人を支える人がいる)

    尾形(家のない俺とは、まるで違う)


    尾形(だから、大丈夫。もう未練はない)

  • 19あんこうなべ22/06/15(水) 21:58:34

    尾形はおもむろに着物の帯を解き、一方の端を枝にくくりつけて、もう一方を首に巻きつけ始めた。

  • 20あんこうなべ22/06/15(水) 22:02:30

    尾形(……約速を守れず、申し訳ありません。勇作さん)


    尾形(せめて、生まれ変われたら)

    尾形(本当の形で、貴方の兄に―――)

  • 21あんこうなべ22/06/15(水) 22:04:11

    尾形は少しの間祈るように目を瞑っていたが、やがて目を見開き、


    はずみを付けて、枝から飛び降りた

  • 22あんこうなべ22/06/15(水) 22:08:11

    グンッ………

    ギシッ………!


    尾形「ぐっ………」


    尾形「…………………」



    尾形「……………ぁ…………?」

  • 23二次元好きの匿名さん22/06/15(水) 22:35:09

    このレスは削除されています

  • 24二次元好きの匿名さん22/06/15(水) 22:35:28

    始末の付け方が自殺なの本当兄様…

  • 25あんこうなべ22/06/15(水) 22:49:18

    確かに、尾形は帯を枝に結びつけ、首も万が一にも解けたりすることのないように、しっかりと結んでいた。

    なのに、息がまだできている。


    いや、足が、何かに支えられるようにして、固定されている………?

  • 26あんこうなべ22/06/15(水) 22:52:02

    勇作「ひぐっ……うっ………」



    勇作「あ゛に゛さ゛ま゛ぁっ………!」

  • 27あんこうなべ22/06/15(水) 22:54:43

    尾形は、ようやく自分の足を支えている『何か』を理解した。


    勇作の腕がしっかりと自分の足を支え、決して首を締めさせまいとしているのだ

  • 28二次元好きの匿名さん22/06/15(水) 22:56:50

    勇作さん…

  • 29あんこうなべ22/06/15(水) 22:57:53

    尾形「ゆう、さくさ……ん?どうし、て」

    勇作「どうしては……っ、う゛っ…。こっちの、台詞です……!」

  • 30あんこうなべ22/06/15(水) 23:02:35

    勇作「どんな思いで……兄様を探していたか分かりますか!」

    勇作「兄様の言葉を思い出しながら、一人ぼっちで、必死に兄様の行きそうな場所を考えて……」

    勇作「思い浮かんだのが、一緒に行こうと約束した場所しかなくって……!」

    勇作「そこで、あ、兄様が……。死んでしまっていたらって……」

    勇作「考えてた私の気持ちがっ……どれほど辛いか、考えたんですか……!?」

  • 31あんこうなべ22/06/15(水) 23:04:42

    勇作「なんでっ……!なんで……」


    勇作「一緒に、生きてくれないんですか……」

  • 32あんこうなべ22/06/15(水) 23:06:39

    勇作「ひとりに、しないで」

    勇作「置いて行かないで……。兄様ぁ……っ!」

  • 33あんこうなべ22/06/15(水) 23:13:25

    尾形「………そんな」

    尾形「貴方には、家族がいるでしょう」

    尾形「貴方を愛する人は、たくさんいて」

    尾形「どうして、俺を」

  • 34あんこうなべ22/06/15(水) 23:19:03

    勇作「兄様が、言っていたでしょう!」

    勇作「私の、『家』になりたいって、言ってくれたでしょう……!」

    勇作「もう、兄様が私の『家』なんです。貴方が私のよすがなんです!」

    勇作「それも、忘れたんですか、?」

  • 35あんこうなべ22/06/15(水) 23:24:05

    尾形(……ずっと、考えていた)


    尾形(帰る場所が、欲しかった)


    尾形(帰ってもいいんだと、信じられる場所が欲しかった)


    尾形(でも、そんな場所があると信じられなくて、許される訳がないと、ずっと思い込んで、勇作さんから、目を背けて……)

  • 36あんこうなべ22/06/15(水) 23:28:18

    尾形「……いいんですか」

    尾形「俺なんかが、貴方の兄で」

    尾形「俺が、貴方の居場所になって、いいんですか」

  • 37あんこうなべ22/06/15(水) 23:31:06

    勇作「いいとか悪いとかの話なんてしてません!」

    勇作「私の居場所に、もう『なってる』んです!!」

    勇作「分かったら、早く帯を解いて!」

    勇作「兄様の、馬鹿ぁ……!」

  • 38あんこうなべ22/06/15(水) 23:35:28

    尾形は、しばらく目を見開いて、躊躇うように何度か口を開けようとした。


    しかしやがて、震える指で首元に巻きつけていた帯を解き

    自分を支えている『弟』に、しがみついた。

  • 39あんこうなべ22/06/15(水) 23:40:41

    ………………

    幸吉(大雨の後の騒動から、およそ一月が経ちました)

  • 40あんこうなべ22/06/15(水) 23:45:40

    幸吉(あの日は、本当に色々ありました)

    幸吉(百之助さんはいきなり屋敷から消えてしまうし、それを追いかけて勇作様までどこかに行ってしまうし)

    幸吉(数時間も帰ってこなくて、屋敷中大騒ぎになるし)

    幸吉(そうしたら二人ともいきなり帰ってきて、百之助さんは泣いてるし、勇作様はもっと泣いてるし)

  • 41あんこうなべ22/06/16(木) 00:02:55

    幸吉(………結局、もしかしたらもうすぐ座敷牢から出られるかもと言う話も今回の一件でなくなってしまいました)


    幸吉(幸次郎様も、一連の騒動に大変お怒りで、悲しいことに、前途は多難だと言わざるを得ません)


    幸吉(…………ですが)


    幸吉(勇作様は、俺が思っていた以上に豪胆と言うか、図太い方であったのです)

  • 42あんこうなべ22/06/16(木) 00:08:50

    勇作「兄様、今日は改めてお話があります」

    尾形「……どうなさったんですか、勇作さん」

    勇作「……兄様。私は本当に傷ついています」

    勇作「もちろん私にも至らないところは多くありました」

    勇作「それでも、兄様は弟である私にちっとも相談をしてくださらないし、勝手にどこかに行こうとしてしまうし」


    尾形「………本当に、すみませんでした」

  • 43あんこうなべ22/06/16(木) 00:12:13

    勇作「……本当に、辛かったのです」

    尾形「………」

    勇作「なので、私にはなんとしても静養が必要になりました」

    尾形「…………?」

  • 44あんこうなべ22/06/16(木) 00:15:52

    勇作「先生に多くのことを相談して、話し合って、しばらく長野にある静養地に行くべきであるという診断書を貰ってきました」

    尾形「………ということは、その」

    尾形「勇作さんは、しばらくその保養地へ行かれるということですか?」

    勇作「はい」

  • 45あんこうなべ22/06/16(木) 00:16:38

    尾形「…………」

    尾形「それは、よか」

    勇作「兄様と共に、静養地に向かいます」

  • 46あんこうなべ22/06/16(木) 00:19:30

    尾形「…………えっ」

    勇作「兄様と共に、しばらくの間静養するのです」

  • 47あんこうなべ22/06/16(木) 00:25:18

    尾形「勇作さん、それは、どういう……」

    勇作「先生にお会いして、数時間かけてお話した結果、私の精神的苦痛は、兄様の身の安全が本当の意味で保障されない限り癒えないものであるという結論に至りました」

    勇作「そこで、先生が言うには」

    勇作「先生が管理していらっしゃる長野の静養地で、先生が責任をもって私たちを見ていてくださるということなのです」

  • 48あんこうなべ22/06/16(木) 00:27:57

    勇作「ですから、来月には共に長野へ向かうことになりますよ。兄様も、荷造りをなさってくださいね」

    尾形「ゆ、勇作さん。待ってください、それは父上の許可は」

    勇作「先生からの『正式な』診断書を頂いております。父上もそれを前にしては何も言えますまい」

  • 49あんこうなべ22/06/16(木) 00:32:43

    勇作「………兄様。どうか忘れないでくださいね」

    勇作「私たちは、兄弟ですよ。兄様も私も、お互いに支えあうのです」

    勇作「父上の仰る通り、世間の目が決して優しくはないことも知っております」


    勇作「それでも私は、兄様とともにいるためなら、戦えるのです」

  • 50あんこうなべ22/06/16(木) 00:35:54

    勇作「これから、二人で私たちの『居場所』を作るのですよ。兄様」


    尾形「…………」


    尾形「……本当に、貴方には一生敵いませんね」

  • 51あんこうなべ22/06/16(木) 00:38:21

    尾形(……本当は、まだ恐ろしくなることがある)

    尾形(俺はきっと、この人の足枷になる)

    尾形(きっと、俺の罪悪感はこれからも俺の足を掴み、泥濘に引きずり込もうとするだろう)


    尾形(それでも今は)

    尾形(この居場所を、守りたい)

  • 52あんこうなべ22/06/16(木) 00:41:24

    尾形「……勇作さん」

    勇作「はい、どうなさいましたか?」

    尾形「その、ものすごく今さらですが、あの日はちゃんと、言えませんでしたから」

    勇作「?」

  • 53あんこうなべ22/06/16(木) 00:42:39

    尾形「……ただいま、勇作さん」

    勇作「!」

    勇作「はい」

    勇作「お帰りなさい、兄様!」



  • 54あんこうなべ22/06/16(木) 00:46:28

    (長い間お付き合いくださり、本当にありがとうございました。これで、今回のSSは終了となります)

    (たくさんのコメントや、ファンアートまで頂き、本当に嬉しかったです)

    (自分でも色々迷いながらここまで来ましたが、楽しんでいただけたら幸いです)

    (明日、オリキャラのちょっとした解説などを書きたいと思っています)

    (また、新しいSSも書くかもしれません。その時はどうかお願いいたします)

  • 55二次元好きの匿名さん22/06/16(木) 00:50:19

    お疲れ様でした!泣いちゃった…とても泣いちゃった…
    この兄弟の行く先にどうか少しでも多くの祝福がありますように
    (兄様の助け方で30巻のミニポスターを思い出してもっとヒンッ!となってしまった)

  • 56二次元好きの匿名さん22/06/16(木) 00:59:02

    何はともあれお疲れ様です
    この兄弟のこれからに幸多からんことを!
    (幸吉やお医者さんも好きだから明日の解説も楽しみ…)

  • 57二次元好きの匿名さん22/06/16(木) 01:48:27

    お疲れ様です!めちゃくちゃ良いものを読ませて頂いた…
    スレ立った時からずっとドキドキしながらリアルタイムで追っていて本当に毎日楽しかった
    勇作さんが兄様の足支えてくれたところでウワーッポスターのポーズ!!!ってめちゃくちゃ転げ回ってしまった
    勇作さんが本当に意志強くて豪胆でもう本当に格好良いよ…
    兄様もこれから先も精神面で苦しむだろうけど共に居る覚悟ができたの格好良いよ…
    沢山のことを乗り越えたここの異母兄弟にぜひ祝福多からんことを

    あんこうなべ氏のSS大好きなのでこれから先 囚人本スレが落ちててもまた気が向いた時にこうやってSS投下してくれたらぜひ追わせてもらいたい

  • 58二次元好きの匿名さん22/06/16(木) 07:47:36

    良かった…やっぱり兄弟一緒が1番だよ!罪悪感に向き合うのは辛いけどそれが救いの道なんだよね…
    ゆっくり静養して兄弟でバカやってくれ!

  • 59二次元好きの匿名さん22/06/16(木) 10:09:40

    よかった…よかったよー!!
    正直言って尾形自害ルートに行くんじゃないかって覚悟してましたけど無事未来に向かって歩き始めてくれて嬉しいです!

    尾形はいつかおっ母を殺したことを告げる日が来るかもしれないけど勇作殿ならきっと受け止めてくれるでしょう!兄弟2人で長野県の名産品ヒンナしてくれ!

  • 60あんこうなべ22/06/16(木) 12:55:06

    オリジナルキャラの解説①

    幸吉

    ・花沢家の奉公人の1人。実家は栃木。まだ幼い弟の学費のために働いている。
    ・年齢は20代前半。尾形よりは年下だが、変なちょっかい掛けてくるし、精神的に脆い所の在る尾形には弟みを感じて いた。実は母を早くに失くしており、そういう点でも尾形に同情的。
    ・勇作様のことはあまりにもいい人なので慕っている。幸次郎様は立派な旦那様だと思っているが、もう少し尾形に優しくしてやって欲しいと思ってる。

    ・今後は、長野県の静養地に移る兄弟に世話係としてついていくつもりでいる。……ただし彼は善人だがおっちょこちょいなので、医者には色々と叱られそう。

  • 61あんこうなべ22/06/16(木) 13:17:51

    オリジナルキャラの解説②

    医者

    ・一応、『森本清則』という名前を用意していたけど出すタイミングがなかった。
    ・当時ではまだまだ新しい学問だった精神医学を熱心に学んだ珍しい医者。50代前半。
    ・精神病がまだ『狐憑き』と解釈され、座敷牢に閉じ込めたり、寺の僧侶へお祓いを依頼するのが精々である日本の現状を嘆き、当時としては先進的なカウンセリングや投薬治療による治療をしている。
    ・尾形が『父上の回し者』だと思っていたのは完全に誤解。むしろこの人が最初から脳病院にいれるつもりだった幸次郎に反対していた。
    ・家の事情を分かっているため、今回の結構強引な『兄弟2人とも静養地に向かわせる』という策を考え出した。こうしなければ幸次郎が本当に尾形を脳病院に閉じ込めかねないと察しているので。

    ・長野県では尾形の診療を続けるつもりでいる。

  • 62二次元好きの匿名さん22/06/16(木) 14:52:51

    使用人とお医者さんどっちも良いキャラしてたなあ
    良い人の縁に恵まれて良かった…ってホッとする

  • 63あんこうなべ22/06/16(木) 17:58:31

    (蛇足になるかもしれませんが、折角なので今晩ボツ案も載せたいと思っています)

  • 64二次元好きの匿名さん22/06/16(木) 18:23:39

    >>63

    ぜひ読みたいです!!!!!

  • 65二次元好きの匿名さん22/06/16(木) 20:30:49

    尾形が「家」に帰れて本当によかった…それだけで今は充分だ…二人で泣いて屋敷に帰ってくるところジンとしてしまった
    勇作さんと森本医師がやんわりと意志を押し通しまくっていてピュウッてなったし幸吉くんの家族観すごくいいなと思ってたのでお世話係続行してくれるようで嬉しい
    静養地でまたコメディパートをやるのかな…時々シリアスがぶり返したりもするのかな…素敵な異母兄弟を読ませて頂きました感謝!!

  • 66あんこうなべ22/06/16(木) 20:38:22

    ボツ案

    尾形が暇なときに「まさかなー」くらいのノリで鍵をいじっているうちに座敷牢の鍵を開けてしまったルート

    そこで「大丈夫かこの屋敷は……」となりつつ、折角出られたし運良く人もいないしで、こっそり勇作さんの部屋に入ってある物を発見し、闇落ち分岐点に……

    ボツ理由: 兄様が最初に想定していた以上にヤンデレ風になったこと。このままだと展開が前作の安価SSと被るなと思ったため

  • 67あんこうなべ22/06/16(木) 20:43:55

    尾形(………暇だな)

    尾形(今日は、なんとか言う陸軍の重鎮のパーティーとやらに出席するらしく、勇作さんや父上も出払っている)

    尾形(幸吉はどうしたんだと思ってたら、腹を下して部屋で唸ってると女中の婆さんが言ってた。……よくあれで奉公人が務まるな…)

    尾形(さて………)

  • 68あんこうなべ22/06/16(木) 20:47:45

    尾形(前々から思ってたんだがここの鍵……。古すぎやしないか?)

    尾形(確か、ここの鍵穴をこう弄れば開くとか噂で聞いたような……)

    (こっそり拾っておいた、女中が落とした髪留めを鍵穴に差し入れて、しばらくカチャカチャと弄る)

    カチャン!

    ギイッ………

  • 69あんこうなべ22/06/16(木) 20:49:11

    尾形(…………)

    尾形(本当に開いた………)


    尾形(大丈夫かこの屋敷)

  • 70二次元好きの匿名さん22/06/16(木) 20:54:03

    おまけも読める!やったー!

  • 71あんこうなべ22/06/16(木) 20:55:34

    尾形(開けたはいいものの、どうしようかは何も考えてなかったなぁ……)

    尾形(………今なら勇作さんの部屋を見られるのか?)

    尾形(いや、流石にそれは失礼か)

    尾形(だが、屋敷の人間がほぼ出払っているなんてまず無い状況だ。これを逃すと、俺は普段の勇作さんの様子をほぼ知らないままになるんじゃないのか)

    尾形(…………)

  • 72あんこうなべ22/06/16(木) 20:56:52

    尾形(………少し様子を伺うだけだ。すぐに戻ろう……)

  • 73あんこうなべ22/06/16(木) 21:03:10

    【勇作さんの部屋】

    尾形(綺麗に片付けてあるなぁ。流石は勇作さんだ)

    尾形(まあ女中も掃除をしてるんだろうが……ん?)

  • 74あんこうなべ22/06/16(木) 21:07:11

    尾形はふと、机の上に一輪の赤い薔薇が花瓶に挿してあることに気づく。しかしその薔薇はほとんど枯れかけている。

    清潔に整えられているこの部屋において、それは特に目を引いた。

    そして、花瓶のすぐ側には一枚の手紙らしきものが広げられている。

  • 75あんこうなべ22/06/16(木) 21:11:30

    尾形(出ていく寸前までこの手紙を読んでいたのか?)

    尾形(差出人は……。名前が書いてない)

    尾形(なんだこれは、名前も住所も書いてないなら、勇作さんも返事が出せないだろう)

    尾形(筆跡からして、女らしいが……)

  • 76あんこうなべ22/06/16(木) 21:15:26

    『勇作様へ

    突然お手紙をお送りする無礼をお許しください。きっと勇作様は、こうして手紙を送る私のことは何もご存じないでしょうし、顔も思い浮かばれないでしょう。

    お気味は悪うございましょうが、どうか憐れんで、最後までお読みください。

    これは、私にとって最後の、命懸けの手紙なのです』

  • 77あんこうなべ22/06/16(木) 21:19:00

    『昔、平野子爵の園遊会に来られた日のことを、覚えておいででしょうか。

    私は、そこに出席しておりました。今でも、輝くようにお美しい貴方様をはっきりと思い出すことができます。

    はしたないと分かっていながら、私はずっと貴方様に見惚れておりました。それでいて、声をお掛けする勇気もございませんでした。

    貴方様が、旗手兵であられることを、知っていたからです』

  • 78二次元好きの匿名さん22/06/16(木) 21:23:59

    勇作さんに一目惚れてしまうおなごは絶対いたよなぁ…あの容姿と物腰…

  • 79あんこうなべ22/06/16(木) 22:18:22

    『旗手兵は、純潔であることが条件であると知っておりました。私が軽率にお声を掛けては、あらぬ噂を立てて貴方様の名に傷がつくのを恐れたのです。

    ……それからすぐ、私は結婚いたしました。当然、親が選んでくださったお相手です。

    私は、その人の妻として添い遂げ、貴方様への想いは、忘れてしまおうと心に決めておりました』

  • 80あんこうなべ22/06/16(木) 22:21:40

    『……しかし、貴方様があの死地から戻って来られたと風の噂に聞いたときは、涙が止まらなくなりました。

    我ながら、余りにも身勝手な思いだと承知しておりますが、それでも、貴方様にお手紙を送らずにはいられなかったのです。

    たった一瞬の夢でしかなかった貴方様が、わたしにとっては生きるための心の支えであったことだけを、どうか知って頂きたかった』

  • 81あんこうなべ22/06/16(木) 22:24:52

    『この手紙も、添えました花も、すぐにお捨てになって構いません。

    しかし、どうか、どうか、こうして貴方様を心からお慕い申し上げた、名も知らぬ女が居りましたことだけは、どうかお忘れにならないでくださいませ』

  • 82あんこうなべ22/06/16(木) 22:26:57

    尾形(…………)

    尾形(忘れないで、か。………)

  • 83あんこうなべ22/06/16(木) 22:29:12

    尾形(きっと、こんな風に勇作さんを愛した女は、数えきれんほど居たんだろうな)

    尾形(涙を呑んで引き下がった女も、今でも諦めきれぬ女も……)

    尾形(でも今は違う)

  • 84あんこうなべ22/06/16(木) 22:31:30

    尾形(勇作さんは、戦場から戻ってこられた)

    尾形(そして、嫡男だ。もういずれ、正式な婚姻の話が持ち上がるだろう)


    尾形(その時、俺は…………)

  • 85あんこうなべ22/06/16(木) 22:36:06

    尾形(あの方は、例え親が決めた相手でも、ちゃんと妻として愛して、大切にするだろうな)

    尾形(妻だって、あんなに立派な方に嫁げるなら、きっと幸せだろう)

    尾形(そんな二人の間に生まれた子供は、間違いなく祝福された人間だ)


    尾形(…………俺を取り残したまま)

  • 86あんこうなべ22/06/16(木) 22:39:15

    尾形(俺は、どうなる。座敷牢に閉じ込められ、父親から狂人と疎まれる俺は)

    尾形(いずれ、勇作さんの幸せに影を差すだけの疫病神になるのか)

    尾形(本当の家族ができてしまえば、俺のことなど、見えなくなるのか)



    尾形(おっ母が、そうだったように)

  • 87あんこうなべ22/06/16(木) 22:42:50

    尾形(……………)

    尾形「……安心しろよ」

    尾形「あんたのことを覚えていなかろうと、あの人はきっとあんたを覚え続けてくれるさ」



    尾形「だからもう、十分だろ」

  • 88あんこうなべ22/06/16(木) 22:45:38

    (花瓶から花を引き抜き、両手でゆっくりと引き千切っていく)

    (何度も、執拗に、花がひと塊の粉末になってしまうまで)

  • 89あんこうなべ22/06/16(木) 22:47:43

    尾形「あんたはずっと、勇作さんの記憶に居られるんだ」






    尾形「だから、この家にいつまでも居座らないでくれ」

  • 90あんこうなべ22/06/16(木) 22:52:14

    【数時間後】

    勇作「ただいま帰りました、兄様。お変わりはございませんでしたか?」

    尾形「………ええ、何も」

    勇作「それを聞いて安心しました」

    尾形「……………」

  • 91あんこうなべ22/06/16(木) 22:59:04

    尾形「そのパーティーとやら、人は大勢来ていましたか」

    勇作「ええ。父上のご友人もたくさん来られていて、私もお酒の相手などをさせられました。こういう行事の常とはいえ、少し疲れますね」

    尾形「……縁談を持ち込まれたりはしませんでしたか」

  • 92あんこうなべ22/06/16(木) 23:02:21

    勇作「え、縁談?いいえ、今日はそういった会ではありませんでしたから」

    勇作「それに、当分はそういったお話はお断りしようと思っているのです」

    勇作「この通り、私はまだ未熟者ですし……」

    尾形「……そう、ですか」

  • 93あんこうなべ22/06/16(木) 23:04:36

    尾形(今はまだ、な)

    尾形(父上のことだ、できるならすぐにでも身を固めさせてやりたいなどと考えているだろう)


    尾形(そうなる前に、いっそ………)

  • 94あんこうなべ22/06/16(木) 23:08:51

    (………といった流れで、不安定になってしまった尾形が隙を突いて脱走し、勇作さんをまた攫おうとする展開を最初に思いつきました)

    (そこからなんだかんだで勇作さんが脱獄し、あとの流れは同様に『家』問答をして尾形を落ち着かせる流れで考えていたのですが、結局本スレの展開に落ち着きました)

  • 95二次元好きの匿名さん22/06/16(木) 23:14:54

    ボツネタありがたい!
    おお…この座敷牢兄様にも闇堕ち分岐があったのか…
    取り残されるかもしれない未来への恐れと切なさと、そして沸々と泥が湧き上がってくるような狂気が本当に囚人尾形〜!って感じで流石です

  • 96二次元好きの匿名さん22/06/16(木) 23:21:30

    没案もめちゃくちゃ良~~~~…………不安定な仄暗さを描くのが上手すぎる………

  • 97二次元好きの匿名さん22/06/16(木) 23:29:33

    送られた花をずっと捨てずに飾ってた勇作さん……ああ…(語彙) きっと勇作さんもこの女性も尾形も…ああ~~…(語彙)
    尾形は座敷牢のこちら側とむこう側の明暗を強く意識してしまっただろうな…陰鬱な空気が苦しいけどこのルートも好です

  • 98あんこうなべ22/06/16(木) 23:47:36

    おまけ①

    気分転換も兼ねて、湿原の付近を散歩する尾形と勇作さん、幸吉たち

    幸吉「は〜……。ここは空気が綺麗ですねえ。眺めもいいし」
    勇作「そうだねえ。人も少ないから、のんびり見て回れるのは嬉しいですね。兄様」
    尾形「ええ。鳥も多い。1羽くらい撃てたらいいんだが……」
    幸吉「百之助さん、療養に来てるんですよ?もうちょっと自然を眺めて楽しむっていう、文化的なことをしましょうよ〜」
    尾形「…………」

    幸吉「あっ!あんな所に鬼百合が咲いてますよ。あそこなら摘みに行けるかな」
    尾形「……知ってるか、幸吉。湿地には大概、近くに沼がある」
    尾形「何にも知らないで、あそこは湿ってないから平気だろうと近づいて草に隠れた沼に足をとられ、そのまま……って奴が戦地にもいたぞ」
    幸吉「ひえっ……」
    尾形「だが、勇作さんを楽しませるためならお前の犠牲くらいは仕方ないな。さあ摘んでこい」
    幸吉「嫌ですよお!?」
    勇作「もう、兄様ったら意地悪がすぎますよ……」

  • 99あんこうなべ22/06/17(金) 00:08:36

    おまけ②

    星空を眺める異母兄弟

    尾形「……勇作さん、そろそろ部屋に戻られては?夜は冷えますよ」
    勇作「はい、兄様。でももう少しだけ……今日は、流星が見られるそうなのです」
    尾形「へえ……。それなら、俺も一緒に待ちましょうか」
    勇作「兄様も、流れ星が気になりますか?」
    尾形「ええ。……子供の頃、一度見たことがあります。でも、その時は却って怖い気持ちになりました」
    勇作「怖い?」
    尾形「星が、何にも知らない土地に一人ぼっちで落ちていく可哀想な眺めに見えたから」

    尾形「でも今は、俺が落ちようと受け止めてくれる人が隣にいますから、怖くありません」
    勇作「……だからって、もうあんなこと二度となさっては駄目ですよ?」
    尾形「肝に命じております」
    勇作「ふふっ……。あっ!兄様、今光りました!」
    尾形「おや」
    勇作「わあ、凄い!一緒に見られてよかった!」
    尾形「……ええ。本当に」

  • 100あんこうなべ22/06/17(金) 00:13:17

    (このSSは、以上となります。長い間お付き合いいただき、本当にありがとうございました。書いている間、すごく楽しかったです)

    (また、別のSSを書かせていただくかもしれません。その時はまたよろしくお願いします!)

  • 101二次元好きの匿名さん22/06/17(金) 00:29:13

    本当にお疲れ様でした!
    異母兄弟が幸せになれてよかった…おまけに癒されました😌

  • 102二次元好きの匿名さん22/06/17(金) 09:50:53

    お疲れ様でした!
    オマケまでありがとうございます!
    穏やかに過ごす兄弟を見ることができて嬉しい…

  • 103二次元好きの匿名さん22/06/17(金) 20:05:37

    おまけまで読み終わってしまった寂しい…!
    最後一緒に星を見るシーン頭の中に勝手に映像とともに「END」の文字が浮かんできた
    ほんとによかったね

  • 104二次元好きの匿名さん22/06/18(土) 06:17:46

    遅ればせながら執筆お疲れ様でした
    大団円で終わってホッとしました
    困難な道のりでも今の彼らなら
    手を取り合って歩んで行けるでしょう
    個人的に幸吉さん結構いいキャラしてたので
    勇作さん攫う時邪魔になるからと
    尾形に始末されなくて良かった

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