(SS)私はとある島の金持ち 第6幕(FilmGOLD if)

  • 122/11/24(木) 21:49:05

    かつて怪物と言われた男、投資王○○

    仲間と共に新たなエンターテイメントと金儲けを生み出さんと邁進する彼だったが、そのすべてを飲み込むかの如く世界のうねりはより大きくなっていく…


    第1幕

    フッフッフッ、私はとある島の金持ち|あにまん掲示板偶々街を散策していたら、道端で庶民がまぁまぁ悪くない歌を歌っておった私が見ていることに気がついたその庶民はすぐにその場を離れようとしたが、その日は気分が良かったので興が乗り、見物料に小銭を恵んでやった…bbs.animanch.com

    第2幕

    私はとある島の金持ち 第2幕|あにまん掲示板ある日街を散策していた私は、偶然ソコソコ良い歌を歌う庶民を見かけ、気まぐれに見物料をくれてやった思えば、この瞬間がすべての始まりだったテゾーロやステラ、タナカ、そして我が娘バカラ彼らとの出会いを経て、…bbs.animanch.com

    第3幕

    私はとある島の金持ち 第3幕|あにまん掲示板テゾーロとの出会いから数年電伝虫放送の拡大、テゾーロとステラの結婚・娘の誕生、そしてステージ船「グラン・セーニョ」の完成新たにできた私の夢、世界最大のエンターテイメント船製造に向けて、事業は着々と進ん…bbs.animanch.com

    第4幕

    (SS)私はとある島の金持ち 第4幕(FilmGOLD if)|あにまん掲示板テゾーロとの出会いから第2の人生を歩み始めた"投資王"怪物・○○四皇ビッグ・マムのお茶会や白ひげとの交渉など時代のうねりに巻き込まれながらも、新たな事業に着手するまずは児童向け舞台…bbs.animanch.com

    第5.5幕

    (SS)私はとある島の金持ち 第5.5幕(FilmGOLD if)|あにまん掲示板エンターテイメントの新時代を築くため、邁進し続ける"投資王"○○児童向け舞台も成功し、新たな作品"海の戦士 ソラ"の舞台化案を進める中、音楽の島エレジア崩壊の報…bbs.animanch.com

  • 222/11/24(木) 21:51:52

    主要人物
    ○○:かつて新世界の怪物と呼ばれた"投資王"
       現在はとある歓楽街のある島で歌劇団のオーナーをしている

    テゾーロ:○○が所有する歌劇団の花形スター
         最近は舞台にライブに子育てにと大忙し

    ステラ:テゾーロの妻で、元奴隷
        彼との間に第一子である娘のメテオリーテをもうける

    メテオリーテ:テゾーロとステラの娘
           最近のお気に入りはウタの歌

    タナカ:○○の秘書
        見た目に限らず仕事に忠実で有能

    バカラ:○○の義理の娘

    ダイス:○○が新たに雇ったボディガード兼劇団専属スタントマン
        打たれ強い真正のドM

    ゴードン:音楽の国エレジアの国王であり、自身も一流の音楽家
         ○○の古い友人

    ウタ:元赤髪海賊団の音楽家
       天才的な音楽の才能を持
       現在はゴードンと共に○○のもとに世話になっている

  • 322/11/24(木) 22:00:17

    いつもこのような駄文にお付き合いいただき、誠にありがとうございます
    申し訳ありません
    作者都合により本日の投稿は休止させていただきたく思いますが、前スレが完走間近だったため新スレを立てさせていただきました
    今後ともよろしくお願いいたします

  • 4二次元好きの匿名さん22/11/24(木) 22:10:36

    立て乙
    いつも楽しみにしてます

  • 5二次元好きの匿名さん22/11/24(木) 22:17:27

    保守

  • 6二次元好きの匿名さん22/11/24(木) 22:31:11

    たておつ

  • 7二次元好きの匿名さん22/11/24(木) 22:58:44

    保守

  • 8二次元好きの匿名さん22/11/24(木) 23:01:58

  • 9二次元好きの匿名さん22/11/24(木) 23:28:35

    ほしゅ

  • 10二次元好きの匿名さん22/11/24(木) 23:30:29

    保守

  • 11二次元好きの匿名さん22/11/25(金) 05:43:29

    10行ったな、よし

  • 12二次元好きの匿名さん22/11/25(金) 10:20:58

    落ちる前に次スレリンクありがとうございます

  • 13二次元好きの匿名さん22/11/25(金) 13:09:39

    立て乙です!
    保守

  • 14二次元好きの匿名さん22/11/25(金) 19:46:43

    Keep

  • 1522/11/25(金) 22:43:17

    ソラの公演日から2週間後
    部屋で仕事をしていた私のもとに、タナカが束になった資料を持ってきた
    例の事件に関する調査の途中報告書だ

    例の事件―一月前、ソラの舞台に出演する予定だった俳優たちの飲み物に薬物が混入された事件だ
    事件で被害にあった者たちは皆完全に回復しており後遺症も見られないが、極めて悪質かつこちらへの悪意に満ちた所業であった
    本当の所、この事件の実行犯は事件直後に捕まっている
    とは言えしょせんそいつは捨て駒、金で雇われただけのチンピラに過ぎなかった
    一応そいつに仕事を斡旋した仲介人も特定できているが、まぁ十中八九その後ろにも複数嚙ませてあるとみていいだろう
    というかあれだけのことをしておいてそういった対処をしていなければ、逆に驚きだ
    さすがに島外までは経由していないと思うが、それでもこの島は歓楽街を有している関係上そういった闇の世界も広く深いため、その手の業者はごまんといる
    いくつ噛んでいるかもわからない以上、最初の依頼元にたどり着くことは不可能…と、本来であれば特定を断念するところだ
    だが、これでも私は顔が広い
    島には知人も仕事の関係者も多くいる
    調査に必要な資金も潤沢だ
    向こうは辿り着かれることはないと踏んで安心しているだろうが、生憎私は自身の所有物に手を出されて泣き寝入りする性格でもないし、そのための力が二分けでもない

  • 1622/11/25(金) 22:47:09

    先ほど運び込まれた報告書によれば、多少難儀してはいるモノ順調に首謀者に近づいているとのことだ
    この調子であればあと1週間ほどでよい結果を聞くことが出来るだろう
    …あぁ、楽しみだ
    実に、楽しみだ

    実を言うと私は、この状況を少し楽しく思っている
    私が若いころはこういったことは日常茶飯事だったが、力をつけるにつれちょっかいを出されることも少なくなった
    平穏なのはいいことだが、やはり人生時折の刺激は必要だ
    突然のハプニングには頭を悩ませることが多いが、こういった犯人捜しのようにじわじわと相手を追い込んでいくのは、ギャンブルに似たスリルと楽しさがあって割と好きなのだ
    折角久しぶりに搦手で攻めてきてくれたのだ、今後の動きも含めて心行くまで楽しませてもらおう

  • 17二次元好きの匿名さん22/11/26(土) 02:06:55

    いいぞやったれー!
    お仕置きの時間が楽しみですなぁ

  • 18二次元好きの匿名さん22/11/26(土) 05:09:23

    昔取った杵柄か

  • 19二次元好きの匿名さん22/11/26(土) 13:42:07

    期待保守

  • 20二次元好きの匿名さん22/11/26(土) 17:26:14

    その高揚感、分かる気がする

  • 2122/11/26(土) 23:10:30

    それから1週間後、順当に調査は進みついに首謀者と思われるものの特定に成功した
    浮かび上がったのは島で食料品の輸入業を営んでいる男で、一昨年頃に移住してきた新参者だ
    商才があるのか島に来る前のコネが強いのか、この1年ほどで店は急成長し、食品関係に限ればすでに島内でも上位に食い込む規模を誇るほどになっている
    最近はその利益を元手に広告業や不動産等色々と手を付け始めているそうだ
    さらにこの男、かなりきな臭い
    海賊と密会していたという目撃情報や、もとは詐欺師で前の島で悪事が露見し逃げてきたなんていう話もあった
    まぁどれも噂の域を出ない与太話の類だし、この時代海賊との関係などごまんとある
    それこそ私も最強の海賊との繋がりがあるため、下手に突っ込みすぎるとこちらに返ってきてしまう

    と、いろいろ怪しい男ではあるが、エンタメ関係にはまだ進出しておらず、一度電伝虫放送での宣伝の依頼を引き受けたこともあるがそれ以外の接点はない
    その仕事の際もこれと言ったトラブルは起きていない
    つまり、事件を起こした動機が見当たらない
    本当にこの男が首謀者なのか、タナカと調査を担当したエージェントに確認したが、依頼を出したのはまず間違いなくこいつとのことだ
    複数ルートから行った裏付け調査の結果も黒
    少なくとも依頼を出したのはこの男で確定のようだ
    そのため最初はその後ろにさらに黒幕がいるのかとも思ったが、どうにもそうでもないらしい

  • 2222/11/26(土) 23:10:50

    というのもこの男、近くエンタメ業への進出を考えているらしく、最近は根回しや新事業の立ち上げのための準備に奔走しているそうだ
    となると今回の事件は、将来的な競合になりうる我が劇団をつぶすのが目的のようにも思えるが、それにしてはやることが中途半端だ
    起こした事件の規模がひどく小さい
    あんな悪質な嫌がらせ程度のものでは、潰す以前に警戒されて終わりだろう
    やる意味が分からない
    そこでふと気になり別の者に調査させたところ、案の定他の劇場でもいくつか騒ぎがあったようだ
    規模としてはボヤ騒ぎや異臭騒動程度だが、それが短期間に複数起こっている
    こうなると奴の目的はおそらく、小規模の嫌がらせを続発させることで業界内に不信感と疑心暗鬼を蔓延させ、我々が混乱している間に一気に食い込もうという腹積もりなのだろう
    そうだとすれば、なかなかのやり手だ
    事実、雇っている別のエージェントの報告では、騒ぎのあった他の興行主たちもそれぞれ密偵を放って首謀者探しに躍起になっているらしい
    こうなれば業界全体に不信感が広がるのは時間の問題だ

    おそらく向こうとしては、今後もいくつか騒ぎを起こしつつしばらくは様子見する算段なのだろう
    現時点で自身まで辿り着かれるとは微塵も思っていないはずだ
    実際のところ、私だからこそ奴まで辿り着けたわけで、普通であればまず無理だっただろう
    しかし、わかったからには手をこまねくような真似はしない
    と言っても、直接法に訴えたり裏から報復するような真似もしない
    ここはやはり、私ならではの方法で片を付けるとしよう

  • 23二次元好きの匿名さん22/11/27(日) 01:04:54

    頭のいい人の復讐ほど恐ろしいものはない……

  • 24二次元好きの匿名さん22/11/27(日) 08:34:58

    お金持ちさんの昔の血が騒いでいる

  • 25二次元好きの匿名さん22/11/27(日) 17:15:08

    勝ったな、風呂入ってくる(フラグ

  • 26二次元好きの匿名さん22/11/27(日) 22:32:17

    やるんなら徹底的にやりそうだな…

  • 2722/11/27(日) 22:39:15

    数日後、私はとあるパーティーに出席していた
    主催者は私の友人であり、代々島で輸送業を営んでいる一族の現当主
    今回は彼の友人であると同時に、彼の事業に投資していることもあって呼ばれたのだ
    そしてこのパーティーには、例のあの男、薬物混入事件の首謀者である男も呼ばれている
    奴が営んでいるのは輸入食料品、その関係で島の輸送業で最大手である友人の企業とは業務提供を結んでいるらしく、その関係だそうだ
    まぁそのことに関しては何の驚きもない
    というよりむしろ、それを知ったためにこのパーティーへの参加を決めたのだ
    というのも、向こうは自身のことが私にバレているとは思っていないだろうが、さすがに私が直接会おうとすれば警戒するだろう
    気取られることなく近づけるのは、この場しかない
    そう考えたためだ

    パーティーも終盤に差し掛かったころ、私はついにその男との接触を試みた
    試みたといっても、友人たちとの会話の流れで偶然―という体で―あいさつしただけだが
    当たり前だが、奴は私を見ても何ら慌てた様子も見せずごく自然体で、当然こちらも警戒するようなそぶりは一切見せず、そこからは終始和やかな雰囲気のまま談笑した
    そろそろパーティーもお開きという頃、奴は明日早くに仕事があるとかで一足先に帰ろうとしたため、今後のお互いの繁栄と躍進を願って握手し、その場は流れた
    あぁ当然、握手の際は相手への礼をもって素手でしたとも

    正直この方法を使うかは直前まで迷っていた
    昔はよくこの手法を用いていたが、私も業界歴が長くなると横のつながりというのも多くなり、使うと自分でも事態がどう転ぶかわからなくなるこの力を面倒に思うようになった
    下手なことをして知り合いに悪影響が出れば、さすがに夢見が悪いし後始末に追われることになる
    それにこの力の使用は自分では制御できないため、不用意に使うと自身の周囲の人間にも使ってしまう可能性がある
    ゆえに最近は、以前海賊に襲われた時のように私や周囲の身に危険が及んだ場合にのみ、自身に言い聞かせるように細心の注意を払ったうえで使うことに決めているのだ
    そのため最近はこの力を使う機会もめっきり減った
    思い返せば、この使い方をするのもおよそ20年ぶりくらいか…

    さて、奴はどのように転がってくれるのか
    あぁ、楽しみだ

  • 2822/11/27(日) 22:40:47

    本日は1レス分のみになります、申し訳ありません

  • 29二次元好きの匿名さん22/11/27(日) 22:57:23

    いつも身に着けていた手袋を外して素手で握手をしましたか

  • 30二次元好きの匿名さん22/11/28(月) 05:18:16

    ほしゅ

  • 31二次元好きの匿名さん22/11/28(月) 06:22:09

    あー、ラキラキ……

  • 32二次元好きの匿名さん22/11/28(月) 18:05:02

    帰り道で死んでも驚かないぞ

  • 3322/11/28(月) 22:28:01

    申し訳ございません
    作者都合により、本日の掲載は休止させていただきます

  • 34二次元好きの匿名さん22/11/28(月) 23:48:54

    保守!
    どんな不幸に見舞われるかな〜?

  • 35二次元好きの匿名さん22/11/29(火) 07:02:10

    Keep

  • 36二次元好きの匿名さん22/11/29(火) 17:43:10

    保守

  • 37二次元好きの匿名さん22/11/29(火) 22:20:56

    ラキラキの素手握手……本気度合いが高いですわー

    保守ー

  • 38二次元好きの匿名さん22/11/29(火) 23:06:33

    このレスは削除されています

  • 3922/11/29(火) 23:07:38

    パーティーの次の日、件の男にさっそく動きがあったようだ
    いや、正確に言えば昨日の時点ですでに起こっていたというべきか
    念のためにと監視させていたエージェントの報告によると、昨夜他の客よりも一足先に会場を後にした件の男はまっすぐ自宅へと戻ったどうだが、途中突如降りだした大雨によって乗っていた馬車が転倒、本人も負傷したそうだ
    といってもせいぜい打撲数か所と擦り傷程度、大きな怪我とは言えない

    だが、奴の不幸はこれで終わらない
    翌日、変わらず降り続ける大雨の中、奴の言っていた仕事、とある商船との大口取引が行われたそうだ
    だが、船への荷物の積み込み作業中に、一際大きな雷が船に落ちたらしい
    作業していた港にいる知り合いによると、その雷により船は半壊、積み込み中だった荷物も大半が焼けてしまったそうだ
    詳しい被害は分からないが、積み込んでいた荷物の量をからしてかなりのものだったらしく、仮に中身が相応の高級食品であったならその被害額はどれほどのものになるか
    事実件の男はだいぶ焦っているらしく、今も埋め合わせのための資金繰りに島中を駆け回っているようだ
    ふむ、これがどこまで昨日の効果によるものかはわからないが、仮にそうだとしたら商船の人間には悪いことをしてしまったな
    まぁ、ハレダスのいるウェザリアやリンリンのやつでもない限り、天気ばかりはどうしようもないし、この偉大なる航路で突然の悪天候など日常茶飯事にすらならない、当然のものだ
    運が悪かったと、諦めてもらうほかないだろう

    さて、ここから奴はどう動くか
    ここから持ち直すか、さらに転がっていくか
    どちらにせよ、この悲劇から立ち上がろうとする気概があるのであれば、少しは手を貸してやるのもやぶさかではないかもしれない
    やる気をなくして落ちぶれるのであれば、それまでのことだ
    …だが、責任を周囲に転嫁し自棄になるようなことがあれば、そのときは…
    まぁ、私もとどめを刺すつもりはない
    そうならないことを祈っていよう

  • 4022/11/29(火) 23:08:26

    本日は1レス分のみになります
    休止や短文が多く申し訳ありません

  • 41二次元好きの匿名さん22/11/29(火) 23:40:29

    お忙しい中更新ありがとうございます!
    リアル大事に

  • 42二次元好きの匿名さん22/11/30(水) 05:48:03

    ラキラキ関係ない厄災の可能性もあるわけで

    うーん天網恢々疎にして漏らさず

  • 43二次元好きの匿名さん22/11/30(水) 14:08:24

    保守

  • 4422/11/30(水) 22:35:21

    さて、件の男に関しては要経過観察、というところだろう
    まぁそうすぐに動きがあるとも限らないが、人間一度転がり始めたら加速するのはあっという間だ
    そこでなりふり構わず踏ん張って留まれるかどうかで奴の器が知れる
    どちらになっても面白いことになるだろうが、個人的には踏ん張って成長してくれた方がいいかもしれないと考えている
    今回の一件で見せた奴の手腕はなかなかのものだった
    直接手を下さず、目に見える大きな動きもせず、無関係を装って最後にすべてを掠め取ろうとする
    実に狡猾で、私好みだ
    実際、私にさえ手を出さず、かつ騒ぎが必要以上に大きくならないよう立ち回っていれば、将来的にいくつかの既存の劇団を内部崩壊まで持っていった末その後釜を奪えた可能性も無くはない
    それだけに、この危機を乗り越え、危険に対する嗅覚と今以上の慎重さと用意周到さを身に着けることが出来れば、今後永きにわたってやっていける良い商売相手になることだろう
    出来るなら、そうなってくれる方がいいのだが、それは奴次第ということだ

  • 4522/11/30(水) 22:35:42

    さて、話は変わるが、ここ直近のウタに関して
    島に越してきて早数ヵ月、彼女は以前にも増してよく笑うようになった
    未だ時折陰のある表情をすることもあるが、少なくとも島に来た直後よりは明るくなったと断言できる
    現時点で彼女と接しているのは、ステラとリーテ、バカラ、ゴードン殿―陛下呼びは国が滅んでいるのに王も何もないだろうと断られた―、ステラ経由でテゾーロ、後は屋敷の使用人と私、私の側近たるタナカとダイスくらいか
    だが、その誰の目に見ても彼女の精神は安定しているのが分かる
    やはり話し相手として年が近かったり安心できる年上の同性を近くに置いたのが功を奏したか
    リーテに対して楽しそうに姉としてふるまう様は、彼女の歌を気に入りここ最近べったりなリーテの様子も相まってとても微笑ましい

    それに加え、理知的かつ知識の豊富なバカラと優しく包容力のあるステラの二人のことも、今まで身近にいなかった年上の同性としてかなり慕っているらしい
    特にステラのことは、彼女の性格もあって母親のよう、とはいかないまでも悩みや心の内を少しづつ吐露するくらいには信頼してきているようだ
    話を聞く限りでは、かなりいい兆候と言える
    後は話を聞きつつ彼女の中にあるシャンクスたちへの不信感を徐々に取り除いていく
    本当であれば専門の心理カウンセラーにやらせるべきかもしれないが、生憎そちら方面の伝手は少ないうえ、さすがに状況が状況だ、可能であれば身内の中だけで完結させたい
    ステラには大変な役回りをさせることになるが、彼女自身ウタのことを放っておけないとかなりやる気を出してくれている
    まぁ私も彼女の持つ不信感、というより赤髪海賊団への恨みを全て晴らせるとは思っていない
    それをするにはシャンクスたちの力が必要だ、我々だけで解決できる問題ではない
    だが、より円滑にそれをなすための土台作りはできる
    今はその段階だ

  • 46二次元好きの匿名さん22/11/30(水) 23:35:02

    ただ報復するだけじゃなくてその先も見据えているとは…器が大きいなぁ

  • 47二次元好きの匿名さん22/12/01(木) 06:21:26

    ウタちゃんメンタルケアは順調かな?

  • 48二次元好きの匿名さん22/12/01(木) 17:36:43

    保守

  • 49二次元好きの匿名さん22/12/01(木) 21:45:14

    早くルフィとシャンクス達に会ってほしいけど、急いては事を仕損じるというからな…

  • 5022/12/01(木) 22:58:45

    ウタに関して言えばもう一つ
    近々彼女の本格的な音楽レッスンを始めようと考えている
    現時点でも彼女の歌唱力は大人顔負けだが、技術はまだまだ年相応に拙い部分も多い
    ここに来てからも簡単なボイトレなどは行っているが、あくまで喉を鈍らせないための簡単なもの
    これまでは彼女のメンタルの不安定さを理由に先延ばしにしてきたが、ここ直近の彼女の様子を見る限り、このまま今の環境で過ごさせていれば問題はないだろうと判断した

    レッスンの講師を務めるのは、当然ゴードン殿だ
    ゴードン殿には現在我が劇団の非常勤ボイストレーナーとして働いてもらっている
    仮にも一国の王を雇うのは気が引けたが、食客の立場にいるのだから何か仕事をさせてほしいと彼が食い下がったため頼んだ形だ
    さすがに音楽の国エレジアの国王だけあってその技術も指導術も一流を越えたもの、本人の人柄も相まって団員たちの評判はすこぶるいい
    今後はウタのレッスンを主軸にしつつ、時折こちらでも働いてもらうつもりだ

    とは言えその頻度はかなり激変することだろう
    というのも、ウタに学ばせるのは歌だけに限らず、作詞作曲はもちろん、楽器やダンス等音楽に関する事柄はすべて教え込むつもりであるからだ
    ゴードン陛下はそのすべてに通じているし、必要であればサブのトレーナーや講師も随時手配するが、レッスンにかかる時間は相当なものになるだろう
    そのための特設スタジオや音響設備も屋敷に用意した
    一切の抜かりはない

  • 51二次元好きの匿名さん22/12/01(木) 22:59:07

    このレスは削除されています

  • 5222/12/01(木) 23:00:05

    後は座学、こちらはレッスンの合間を見て私やバカラが担当することになっている
    音楽史は当然として、音の調和を理解するための数学、歌詞作りのための語学、情勢を知るための社会学、そしてこの海で生きていくなら必要最低限の気象・航海術なども教えておくべきだろう
    ついでに、この座学のタイミングを利用して彼女の価値観にも手を加えるつもりだ
    今後ウタに本当のことを、エレジアの悲劇の真実を話す際、必要以上に罪悪感を感じ己を責めることが無いよう、事象を客観的に見て勘定によらず自身の責任の有無を判断できるだけの論理的思考能力を備えさせる
    実際、あの一件はTotMusicaを歌ったウタに全くの非がないと言い切れないかもしれないが、少なくとも事件の責任という意味では彼女が負うべきものではない
    ある意味であれは天災に近いだろう
    なにせ楽譜に宿る意思によって引き起こされたのだ、そんなものどうやって止めろというのか
    そして、この思考に彼女自身が至れるように価値観、というか考え方を植え付ける
    それが、我々の指導の大きな目的だ

    ここまで聞いて、少々ウタにやらせることが多すぎるように思えるかもしれない
    しかし、シャンクスたちとの約束、「ウタを世界を幸せにできる、最高の歌い手に育てる」という約束のためには、ここまでする必要があるのだ
    この大海賊時代、多くの人が傷つき涙する時代
    そんな世の中を幸せにすることが出来るほどの歌い手にしたいというならば、並みの一流ではだめ
    そのなかでもトップに立てるほどの実力がなければならない
    そして、ウタにはその器が、ポテンシャルがある
    ならば、我々がやるべきはその器を可能な限り満たすこと
    我々の用いるすべてをもってして、彼女という才能を完成させる
    そのためには、やれることはすべてやらなければならないのだ

  • 53二次元好きの匿名さん22/12/02(金) 05:58:30

    頼むぞウタを幸せにする土壌を作ってやってくれ……!!

  • 54二次元好きの匿名さん22/12/02(金) 12:19:29

    hs

  • 55二次元好きの匿名さん22/12/02(金) 18:03:22

    保守

  • 5622/12/02(金) 22:09:18

    申し訳ございません
    作者都合により、本日の掲載は休止させていただきます

  • 57二次元好きの匿名さん22/12/02(金) 23:05:18

    了解です!
    金持ちさんがいると本当心強いな…

  • 58二次元好きの匿名さん22/12/03(土) 03:45:33

    Keep

  • 59二次元好きの匿名さん22/12/03(土) 13:34:55

    保守

  • 6022/12/03(土) 22:50:03

    このように準備は滞りなく、しかし重要なのは本人の意志だ
    世界を幸せにする最高の歌姫に、などと何かにつけて言ってはいるが、それは我々の望みだ
    実際に当の本人、ウタにその意思を聞いたことはない
    たとえどんなに才能と環境に恵まれ、コンディションを最高のものに整えたとしても、本人に意志がなければ何の意味もない
    そしてこういったことは回りくどい手を使おうとすれば話がこじれるだけ、ストレートに聞くのが一番だ
    そこでさっそくゴードン陛下と共にウタを私の書斎に呼び、彼女の意思確認、そして我々の願いの共有を行った

    ウタに世界最高の歌い手になってほしいという事、我々はウタにそうなれる才能を見出しておりその気があるならその手助けをさせてほしいこと、これはあくまで我々の考えであり当然断ってくれて構わないこと、など
    当然、これがシャンクスとの約束であることは口にしておらず、すでに各種レッスンのための準備も進めていることも話していない
    前者は言わずもがな、後者は人間自身のためにと場が設けられていると、その気がなくとも押し切られて肯定的な返事をしてしまうものだ
    接待などでは利用できる手だが、今は逆効果になってしまう
    とは言えウタもこの屋敷に住んでいて、工事していたことは知っている
    この話を聞いて、改めて工事の内容がこれのための準備であると気付くことも考えられたが、そこはしょうがない
    気付いたならば、それも判断要素の一つとして考えてもらうしかない

  • 6122/12/03(土) 22:50:49

    最初私はこの話に対して、ウタの反応は拒否とまではいかなくても、悩んで保留くらいになるだろうと考えていた
    何せ最高の歌姫になってほしいなどという願いだ、普通であれば突然そのようなことを言われても混乱するだけだろう
    だが、意外なことにウタはこの提案を二つ返事で了承
    むしろ食い気味に話に乗ってきている
    想定していた反応と異なったため多少面を食らったが、彼女自身にやる気があるのならそれは歓迎すべきことだ
    だが、この必死さというか、その目にこもる異様なほどの熱気の根源は気になるところだ
    その疑問を直接ぶつけてみたところ、彼女は少し悩むように数舜の閉口の後、答えてくれた

    「私は、私の歌で新しい時代を作りたい」
    「世界中のみんなが幸せでいる、新時代を」
    「最高の歌い手になって、必ずその夢をかなえてみせる」

    だ、そうだ
    なるほど、歌で作る新時代、か
    これが、赤髪海賊団にいたころから持っていたのか、彼らに(表面上)おいて行かれた後に持ったものなのかは分からない
    だが、実に壮大で正善、かつ幼稚な夢だ
    …しかし、悪くはない
    モチベーションになりうる夢という物は、壮大なものに越したことはないのだから
    なにより、本人の夢と我々の目的がある程度一致しているのはありがたい
    目指す場所は一致している方が、足並みもそろえやすいという物だ

    かくして、ウタの意志確認もできた
    すでに用意も万全、問題はない
    いよいよ決行の時は来た
    いずれ世界最高の歌い手となる少女のための計画、「ウタ育成プロジェクト」の始動である

  • 62二次元好きの匿名さん22/12/04(日) 00:41:08

    ウタは本当に良い子だな…
    でもそんな重い責任負わなくていいんやで…

  • 63二次元好きの匿名さん22/12/04(日) 06:43:40

    保護者頑張れ

  • 64二次元好きの匿名さん22/12/04(日) 07:33:10

    (´∀`∩)↑age↑

  • 65二次元好きの匿名さん22/12/04(日) 12:16:22

    保守

  • 66二次元好きの匿名さん22/12/04(日) 16:56:28

    手綱をうまく握れるかなぁ?

  • 6722/12/04(日) 22:33:09

    そんなこんなで始まったウタ育成プロジェクトは、今日で1週間目を迎えている
    今はまだ様子見、比較的簡単な指導でウタの現在のポテンシャルを見極めている段階だが、それでも想定より大幅に計画は前倒しになっている
    というのも、ウタの呑み込みが相乗以上に速いのだ
    歌に関しては言わずもがな、楽器も少し教えただけすぐにコツを掴んでいるし、ダンスも元々の身体能力が高いためにこれといった問題もない
    知識の必要な作詞はまだまだだが、作曲に関してはすでにこちらが舌を巻くほどだ
    転生の感覚というのか、教えたばかりのギターを用いて即興で一曲作って見せたのにはゴードン殿ともども度肝を抜かれた

    …やはり彼女は、音楽の天才、神の愛し子だ
    この調子であれば、我々の想定しているレベルに達するのは計画よりだいぶ早くなるだろう
    それはつまり、そのさらに向こうの領域まで、ウタは届きうる可能性を秘めているという事だ
    今後の成長具合によっては、計画の大幅な修正をする必要もあるだろう

  • 6822/12/04(日) 22:33:43

    対して座学の方は、悪くはないが良くもないといところか
    決して知能が低いなんてことはなく、むしろ自力は高いのだが、いかんせん授業と言った形での学びが生まれて初めてのためか、受講しているのが自分だけのためかは分からないが、すぐに飽きてしまうようだ
    そのため集中力が続かず、音楽のレッスンと違って計画にやや遅れが出始めている
    とは言えまだ無視できる程度の遅れだ、むしろここで慌ててアクションを起こすことの方が悪手だろう
    かと言ってこのまま何の対策もしないのは、いずれ致命的な遅れにつながる可能性もある
    授業のスタイルを変えるか、もしくは一般の学校に通わせ他の同世代の子供らと共に学ばせるか
    今のところ考えているのは後者だ
    授業だけでなく、同世代の人間とより多くコミュニケーションをとらせるにも学校という場は都合がいい
    とは言え、先日も言ったようにウタのこれまでの交友関係は非常に狭く、今の時点で入学させても彼女の成長には逆に悪手になるだけであろうことは目に見えている

    今考えうる最良の案は、こちらで最低限学校の授業についていけるだけの教育を施したのち、学校外で生徒と友人関係を築かせたうえで入学させるという物
    ウタが学校内で孤独になる可能性を極力減らそうという事だ
    そしてこの案の最大の難関は、ウタに学校の生徒と友人関係を築かせる、という点
    別にできないとは思っていないが、今のところその場を設ける案がない
    我々のような富裕層であればパーティーでも開けばいいのだが、子供ではそんなわけにはいくまい
    どうにかして学校の生徒とウタを接触させ、友人になれる場を作る必要がある
    まぁ、この案を実行に移すのはだいぶ先になる
    他の者たち、とくに幼子を抱えるステラや学校に通っていたバカラの案も聞きつつ、ゆっくり考えればいいだろう

  • 69二次元好きの匿名さん22/12/05(月) 01:48:46

    実力で世界の歌姫になったからな…トットムジカさえなければ…

  • 70二次元好きの匿名さん22/12/05(月) 07:20:05

    楽譜の行方が不安よなぁ

  • 71二次元好きの匿名さん22/12/05(月) 13:08:36

    ほしゅ

  • 7222/12/05(月) 22:05:07

    申し訳ありません
    作者都合により今日明日の投稿を休止させていただきます

  • 73二次元好きの匿名さん22/12/06(火) 02:31:11

    了解です!
    保守

  • 74二次元好きの匿名さん22/12/06(火) 12:13:48

    保守

  • 75二次元好きの匿名さん22/12/06(火) 13:36:20

    保守保守

  • 76二次元好きの匿名さん22/12/06(火) 22:05:51

    保守

  • 77二次元好きの匿名さん22/12/07(水) 03:17:06

    待機

  • 78二次元好きの匿名さん22/12/07(水) 10:18:45

    保守

  • 79二次元好きの匿名さん22/12/07(水) 12:30:14

    ほしゅ

  • 80二次元好きの匿名さん22/12/07(水) 22:15:44

    保守

  • 8122/12/07(水) 22:37:13

    ウタの教育に関しては、このまま続けていこう
    このまま続けるにしろ、学校へ編入させるにしろ、ある程度の学力は必要になる
    それを身に着けるまではどの道我々が教育するしかないのだ
    ウタには退屈かもしれないが、我慢してもらうほかない
    …少し授業にゲーム性を持たせるとか、音楽に絡ませるとか考えるのもありかもしれないな

    と、実のところウタのことにかまけている余裕は私にはない
    というのも、ウタ育成プロジェクトのほかに、同時進行でもう一つ違うプロジェクトを進めているのだ
    それが『グラン・セーニョプロジェクト』
    目下ドッキング作業中の世界最大(予定)のエンターテイメント船『グラン・セーニョ号』、その本格的な運営に関わるプロジェクトだ
    その完成にはもうしばらくかかるだろうが、とは言え数年もかからない
    そのため船の運営、船内で働くスタッフや載せる機材・家具類の確保、食材調達のためのルートの構築、船の登録申請等々、やらなければならないことは山のようにある
    何せ船の規模が規模だ、客も従業員も相応の数になる
    特に従業員に関しては、世界最大のエンターテイメント船を謳うのだ、数だけでなくその質や見た目も相応の者でなければならない
    とはいえ獅子身中の虫、それだけの数の船員をそろえようとすれば、自然と面倒な物、厄介なものを入れてしまう可能性が高まるものだ
    慎重にかつ大規模に、そんなある種矛盾した采配が求められる
    全くをもって面倒な話だが、これも人生最後の夢のためと思えば自然とやる気は出る
    どうせやらなければならないのだ、せっかくならとことんこだわってやろう

  • 8222/12/07(水) 22:37:35

    と、そういった風にプロジェクトの概算を考えているところだった
    執務室の電伝虫が着信を告げる鳴き声を上げた
    受話器取ったタナカは、相手の話を聞くごとに険しい顔になっていく
    …嫌な予感がする
    数分の後、受話器を置いたタナカは険しい表情のまま私の方に向き直った

    「○○様、ご報告が…」

    ・・・やはり、またトラブルか
    前もなかったわけではないが、それにつけてもここ数年は起こりすぎのようにも思える
    とは言えタナカの様子を見る限り、とてつもない大事件というわけではなさそうだ
    私は持っていた筆記具を机に置き、聞くための姿勢をとる
    出来れば、簡単に解決できる問題であってほしいが

    「…聞こう」
    「ハッ!海軍より、○○様所有の客船『オービット号』が海賊『赫足のゼフ』率いる『クック海賊団』からの襲撃を受けるも、同時に発生した大嵐により両船ともが大破、死傷者・行方不明者多数、ゼフの安否も不明とのことです!」

  • 83二次元好きの匿名さん22/12/08(木) 02:50:35

    ゼフ!?
    まさかここで繋がりが生まれるとは…

  • 84二次元好きの匿名さん22/12/08(木) 06:14:29

    あの船の持ち主かよ!?

  • 85二次元好きの匿名さん22/12/08(木) 13:26:04

    保守

  • 8622/12/08(木) 22:55:37

    「…オービット号?あぁ、そういえば航海中だったな」

    『オービット号』
    私の所有する船舶の一つで、ワインボトルを模した船首が特徴的なクルーズ客船だ
    特に食堂の料理が人気で、これ目当てに乗船する客もいるほど
    まぁ私はあくまでオーナーであり、オペレーターをしているのは別の島にある旅行会社なのだが
    主に東の海の観光地を回るように走っており、毎年なかなかの利益を出しているようだ
    とは言え船のサイズ的には客船の中でも平均程度、船体自体若干古くなってきている
    すでに船としては寿命を迎えつつあり、近いうちにオペレーターをしている旅行会社に格安で譲ろうかとも考えていたところだ

    それが海賊に襲われた上に嵐にも遭い、客もろとも大破したとのことらしい
    襲撃してきたのは『クック海賊団』、船長の名は『赫足のゼフ』
    元はイーストブルーでも名の通った海賊で、その足技は岩を砕き、鋼鉄に足形を付けるほどらしい
    異名の『赫足』も、その靴が敵の返り血で真っ赤に染まったことからきたのだそうだ
    そして珍しいことに本人は船長でありながら船のコックも務めている
    そのため海上での飢えの辛さを知っているせいか、奴らは財宝は容赦なく奪う一方食料は一切奪わず、少しでも手を付けたものはゼフ自ら半殺しにしていたと聞く
    1年と少し前に偉大なる航路に進出したと聞いたが、いつの間に東の海に帰っていたのか…
    まぁその本人も生死不明の状態のようだが

  • 8722/12/08(木) 22:55:58

    と、一通り報告を受けた私の心中はと言えば
    …正直、そんなことかという程度だった
    確かに多くの命が失われたのは悲しむべきことだろう
    しかし、この海においては海賊による襲撃も天候による事故も日常茶飯事、あって当たり前と言える
    そんなことをいちいち気にしていては、海を跨いで商売などできないのだ
    …とはいった者の、一応船のオーナーとして何もしないわけにもいかないか

    「被害に遭った場所は?」
    「はい、少々お待ちください」

    そういってタナカが本棚から東の海の海図を取り出し、その一部に印をつける
    どうやらその印の位置が事故の起こった場所らしい

    「しかし、よくそんな状況で詳しい経緯が分かったな」
    「えぇ、襲撃の第一報を受けた海軍が現地へ向かい、漂流していた船員と乗客数名を保護できたことで発覚したとのことで
    今のところ、その保護された数名以外、生存者は発見されておりません」
    「…そうか」

    なかなかの惨事だったようだな
    しかし、この地点は…

    「タナカ、確かこの島にはこっちの島から定期補給船が通っていたな?」
    「はい、――商会の所有する船ですね」
    「あぁ、ちょうど航路と重なる部分がある、運が良ければ行方不明者の遺体でも見つけられるだろう
    あの商会の筆頭株主は私だ、多少の無理も効く
    何か発見した場合は私に知らせるよう連絡しておいてくれ」
    「かしこまりました」
    「あとの詳しい被害状況は文書で構わん、わかったら私の元まで上げるように」
    「ハッ!」

  • 8822/12/08(木) 22:56:45

    タナカに一通り指示を出し、私は『グラン・セーニョプロジェクト』の概算を再開した
    正直これ位以上取る手は、というか取るべき手はない
    報告を聞くにこれ以上の生存者は見込めないだろう、行方不明者が見つかれば御の字というところだ
    そしてこの海には、実質的にオーナーに対して船の事故や襲撃に対して責任を問う法はない
    正確に言えば国単位で言えばあるところもあるが、少なくとも世界政府の定める法では、あったとしても簡単な事後報告義務と捜索・救助支援の努力義務を記した程度だ
    これは、海賊も異常な天災も多いこの海で必要以上に責任を問うては、商業の消極化を招きかねないという観点からこうなった
    昔はもう少し厳しめの罰則がなされていたそうだが、まぁ今そこはどうでもいい
    そのため今回私も、件の商会の船に捜索の協力を要請したのだ
    これで一応努力義務は果たしたことになる、どこからも文句を付けられることはないだろう

    しかし、なぜだろうか
    今回の一件は、この大海賊時代にあってありふれた事件・自己の一つに過ぎない
    しかし、私にはここ数年の大きな事件―フレバンス、ルーベック、そしてエレジアと、大海賊時代に合っても大事件と言えるこれらの時と同じように、時代を動かす運命の歯車の音が、また一つ聞こえた気がした

  • 89二次元好きの匿名さん22/12/08(木) 23:57:52

    この捜索でサンジとゼフが早く見つかるのだろうか?

  • 90二次元好きの匿名さん22/12/09(金) 02:33:54

    ゼフの足が無くなる前に見つかってほしいけど、さすがに駄目かな…

  • 91二次元好きの匿名さん22/12/09(金) 06:48:38

    サンジの過去が少し軽くなるか?

  • 92二次元好きの匿名さん22/12/09(金) 11:56:26

    でも受けた恩は返そうとはするだろうな

  • 93二次元好きの匿名さん22/12/09(金) 13:38:05

    ほしゅ

  • 9422/12/09(金) 22:25:52

    「…そうか、生存者は発見できず、か」
    「えぇ、もともと事故から1週間以上経過していますし、途中に降った大雨も考慮すれば、確率は絶望的かと…」
    「…そうだな」

    先日嵐により転覆したオービット号、その探索を依頼していた定期補給船から報告があった
    その報告によると、事故現場の周辺海域を見張りの人数を平時より増やして探索するも、見つかるのはオービット号、もしくはともに沈んだと思われるクック海賊団の船の残骸、もしくは被害者のものと思われる遺留品ばかり
    一応数人の行方不明者の遺体は見つかったらしいが、どれも損傷が酷く船には死体安置のための設備もなかったため、船乗りの慣例に従いすべて水葬したそうだ
    なお、生存者は発見できず、ある種当然と言えるが

    …そういえば近くにごく小さな無人島があったな
    動物どころか草木一本生えておらず、岸壁は波の浸食により天然のネズミ返しのようになっている島だ
    その島はどうだったのか確認したが、ちょうどその島の周辺を通りかかった際結構な大雨に遭い、船の操縦と積み荷の保護に気を取られちゃんと確認していないらしい
    まぁ、もとより探索は通常運行の片手間程度でいいと連絡していたのはこちらだ、向こうが本来の業務を優先するのは当然のこと
    それに、事故現場近辺の島で計測された当時の嵐の規模を考えれば、海軍に保護された者たち以外の生き残りがいるとも考えづらい

    …万が一生き残りがいたとしたら、悪いが運がなかったと諦めてもらうほかあるまい
    この海ではよくあること
    船が沈むことも、助けが目の前で遠ざかるのも、よくあることだ
    とは言え、助かる確率のある命が消えるのが気持ちいいわけではない
    次に定期補給船が件の海域を通るのは3ヶ月後
    その時に、可能であれば島の様子を確認するよう私からも連絡しておこう
    万一生き残りが居て、その時まで生きていれば、それで助かるかもしれない
    …ほとんど奇跡のような賭けだが、悪夢ばかりのこの海にも、気まぐれな幸運の女神という者はいる
    願わくば、そのいるかもしれない生き残りが、女神も惚れて思わず手を差し伸べるような色男であらんことを

  • 9522/12/09(金) 22:26:42

    と、なにやら似合わぬポエムのようなものを読んでしまったが、記憶から消すことにする
    報告書にざっと目を通し、タナカを下がらせた私は、それまでしていた仕事の続きに取り掛かった
    今現在取り組んでいるのは、グラン・セーニョの食料関係の概算だ
    食料補給ルートの構築、船内レストランの内装、年間の必要経費、配備する人員等々…
    中でも得に悩んでいるのは、レストランのメニューに関してだ
    これまでグラン・セーニョのレストラン艦では、私が自らスカウトした一流のシェフたちがその腕を振るっていた
    訪れる客の満足度は皆高く、売り上げも上々
    複数ある連結艦の中でも、上位の人気を誇っていた
    だが、今後本格的にグラン・セーニョを一隻の巨大船舶として運行するにあたり、レストラン艦改めレストランエリアもその規模を一部拡大、それに合わせメニューのレパートリーも増やしたいと思っているのだが、これがどうにも難しい
    シェフたちにもアイデアは募っているが、どれも既存のメニューと似たものが多い
    可能であれば少し毛色の違うものを用意したい
    しかし、私の伝手で用意できる料理人たちでは、みな経歴は似たようなもの
    目新しい情報は得られないだろう

    …どこかに、異色の経歴の料理人でもいないものだろうか
    腕が立てばなお良いのだが
    まぁ、あまり一つのことに悩みすぎても仕方がない
    この件はいったん保留にしておこう
    もしかしたら、今後そういった料理人にどこかで出会える幸運があるかもしれないからな

  • 9622/12/09(金) 22:33:07

    いつもこのような駄文をご閲覧いただき、またご感想のレスなどいただき誠にありがとうございます
    当SSの方針に関しまして、基本的に流れは原作に準拠、キャラの改変等はパラレルと明言されている劇場版、film系列の作品に限定されており、基本原作キャラのたどる過程は変えないものとさせていただいております
    原作キャラの救済を希望されていた方々には申し訳ありませんが、ご理解のほどよろしくお願いいたします

  • 97二次元好きの匿名さん22/12/09(金) 23:24:28

    あららサンジとゼフは原作通りか
    カマバッカ王国に行けば異色な料理人はゲットできそうだが・・・

  • 98二次元好きの匿名さん22/12/10(土) 03:08:38

    まああまり原作の展開を変えちゃうのもね…
    テゾーロとステラが幸せに暮らしてるだけで充分ですわ

  • 99二次元好きの匿名さん22/12/10(土) 06:01:03

    手が届く範囲、仕方ない

  • 100二次元好きの匿名さん22/12/10(土) 16:25:49

    映画以外は原作の流れということはゼフとサンジがグラン・セーニョで働くこともないってことか
    バラティエは消滅を回避できた

  • 10122/12/10(土) 23:13:58

    申し訳ありませんが
    作者都合により、本日の掲載は休止させていただきます

  • 102二次元好きの匿名さん22/12/11(日) 01:40:16

    保守!

  • 103二次元好きの匿名さん22/12/11(日) 05:04:56

    Keep

  • 104二次元好きの匿名さん22/12/11(日) 15:13:05

    待機

  • 105二次元好きの匿名さん22/12/11(日) 20:29:01

    保守保守

  • 106二次元好きの匿名さん22/12/11(日) 22:04:30

    保守!

  • 10722/12/11(日) 22:48:04

    あれからおよそ3ヶ月が経った
    ウタのレッスンは相変わらず続いている
    音楽の方は当然として、意外なのは問題だった座学の方だ
    あの後試しに歴史を音楽史と、地理を各地の音楽の特色と絡めて説明したり、教えた文法や単語を用いて速攻で作詞をさせてみたところ、それまでが嘘のように劇的な向上が見られた

    数学に関しては知識ではなく数学的思考力が重要なため多少難航しているが、それも三か月前に比べれば格段に良くなっている
    この数学的思考力、特に情報を整理し複数の視点から物事を考える力はな、以前言った通り今後ウタにエレジアの真実を話す際、かなり重要になってくる
    TotMusicaを歌い魔王を解き放ったのは彼女である、その事実は覆しようがない
    それでエレジアが崩壊し、国民が全滅したのもまた真実だ
    しかし、その伝承・危険性を知らず、ただ近くにあった楽譜に記された歌を歌っただけの彼女に、どこまで責任を問えるのか
    どれだけ被害が大きかろうと、不測かつ突発的な事故と悪意のもとに起こされた事件を同列に語ることはできない
    不要な罪悪感に流されることなく、その判断をウタ自身が付けられる程度には数学的思考力を意に付けてもらわねばならない
    授業の進み具合にも改善が見られたことだし、今後も根気強く教えていくことにする

  • 10822/12/11(日) 22:50:25

    そうそう、直接関係ある話ではないが例の男、ソラの舞台に妨害工作を仕掛けてきた輸入食品業の男に関して
    どうやらあの時の雷による被害が相当大きかったらしく、奴の商店は倒産こそ回避したもののその規模を大幅に縮小した
    当然、進出しだした、もしくはその準備をしていた他業種はすべて撤退
    実際の、本業も最悪を回避できただけでだいぶ危ない所らしい
    それが相当に答えたらしく、最近は街の酒場で飲んだくれる毎日なのだとか
    そして酔うと必ず、「あいつのせいだ」「あいつが何かしたに違いない」とこぼしているらしい
    …まぁ、そういう思考になるのも頷ける状態だ
    ソレまで順風満帆、追い風が吹いていると言える状況だったのが、突如として崩壊したのだ
    そう考えてしまうのも仕方のない状況だろう
    そこに思考を補強する情報でもあれば、なおのことだ
    …私の希望としては、これで一通り落ちた後這い上がってくれることを期待したいところだが
    それはすべて奴次第
    このまま落ちつつ踊らされるだけなら、それまでだったという事
    後に残るものを、有効に使わせてもらうだけのことだ

  • 109二次元好きの匿名さん22/12/12(月) 05:15:53

    金持ちさんにちょっかいかけたのが運の尽きだったな…

  • 110二次元好きの匿名さん22/12/12(月) 05:19:41

    ラキラキは知らなきゃ防げないし証拠は残らないヤバい実だよなあ

  • 111二次元好きの匿名さん22/12/12(月) 14:51:45

    保守

  • 11222/12/12(月) 22:22:53

    「なに、生き残り?あの事故のか」

    その知らせがもたらされたのはある日の午後
    いつものように自室で書類仕事をしていた時のことだった

    「えぇ、○○様が注視するようにと伝えておられた例の孤島―いえ、あれはもはや島ではなく岩ですね―にて発見されました
    それも二人」
    「…本当にいたのか、というよりまだ生きているのか
    仮に嵐を乗り越えても食料なんてほとんどないだろう」
    「おっしゃる通りで
    発見された2名―初老の男と少年なのですが―二人とも重度の栄養失調と脱水症状を引き起こしており、正直生きているのが奇跡と言える状態だそうで
    現在は応急処置を取りつつ、十分な医療設備のある近場の島へと運んでいるとのことです」

    まぁ当然だ
    どれだけの食料を持ち出せたかは分からないが、あれから三ヵ月も経っている
    塩漬け肉など日持ちする食材ばかりあったとしても、片方が子供とは言え人間二人では量が圧倒的に足りないだろう
    島には草木一本生えておらず、仮に魚を取ろうにもあの岸壁では一度海に潜れば人力で戻ることは不可能
    実質、食料の調達はできない状態と言っていい
    そんな環境下だ、栄養失調など当たり前
    むしろ、生きている方が異常なのだ

  • 11322/12/12(月) 22:24:01

    「それで、その奇跡的に生き残ったという豪運の持ち主はどんな奴だ?
    船の船員か?」
    「ハッ、それが…」

    タナカが言いよどむ
    言いにくい、というより、どういったらいいかわからない、と言った風だ
    …まさか

    「…海賊、か?」
    「…こちらが、救出された際の写真になります
    電伝虫で撮影したものを送らせました」

    そう言いながら、タナカが写真を手渡してくる
    それを見た私の顔には、自然と苦笑が漏れた

    「フン、なるほどな
    運という者は、誰に味方するかわからないものだ」

    そこに写っていたのは、担架に乗せられ船内へと運ばれる少年と男の姿
    少年の方は長い金髪で左目を隠し、眉がやけにカールしている
    見たところ10歳ほどだろうか、この年でよくもまぁ生き残れたものだ
    食料がない以前に、よく絶望し自死を選ばなかった、という意味でだが
    問題は男の方だ
    鋭い眼光に、先端でまとめた二本の口髭
    間違いない
    この男こそ誰あろう、三か月前の事故の際にオービット号を襲撃した張本人
    クック海賊団船長、”赫足”のゼフその人だ

  • 114二次元好きの匿名さん22/12/12(月) 23:42:04

    おぉ、サンジとゼフ救出されたか
    直接助けた訳じゃないけど、これで繋がりができたかな?

  • 115二次元好きの匿名さん22/12/13(火) 05:39:46

    バラティエ開業のアレコレでスポンサーやるとしたら縁ができるがはてさて……

  • 116二次元好きの匿名さん22/12/13(火) 17:09:59

    保守

  • 117二次元好きの匿名さん22/12/13(火) 21:17:52

    保守

  • 11822/12/13(火) 23:37:54

    「これでは事故で死んだ者たちも報われないな
    ある種の生き地獄を見たであろうとは言え、襲撃者本人が生き残るとは」
    「スルルルル、えぇまったく
    神も仏もないとはこのことですな」

    実際、クック海賊団の襲撃を受けずに嵐に全力をもって対応できていれば、被害0とは言わずとも全滅は避けられただろう、それだけの自力はオービット号にもあった
    ゆえにクック海賊団、ひいてはゼフがオービット号壊滅の原因と言っても過言ではないだろう
    その本人が生き残ったのだ、死んだ者たちはさぞ無念に思う事だろう
    まぁ、死後の魂、などというものが実在すればの話だが

    「…ところで、一緒に救出されたという少年は何だ?海賊団の見習いか?」
    「あぁいえ、身元確認のため着ていた服とオービット号の過去の航海日誌を照らし合わせたところ、どうやらあの船に乗っていたコック見習の少年らしく…」
    「…よく殺されなかったな」

    食料がどれだけあったのか―そもそもあったのかもわからないが、少なくとも二人で分けるよりは独り占めするものだろう
    その場合、生かしておいてはいくら子供と言え寝首を掻かれる可能性はある
    殺しておくのが最適解だろう
    場合によっては、その少年の亡骸を食べることで生きながらえることも視野に入る
    漂流した船乗りが仲間の亡骸食べて生き残るというのは、この海ではそこそこ聞く話だ
    家畜のように生かしておいたが食べる機会を失ったのか、さすがに海賊と言えど良心が咎めたのか
    いや、それを言うならそもそも子供と二人だけで嵐から生還したという状況が異様だ
    これではまるで、ゼフがその少年を助けたかのような…

  • 11922/12/13(火) 23:38:16

    「…」
    「…?○○様、どうかなさいましたか?」
    「…いや、何でもない
    それより、他に変わったことは?」
    「変わったこと、と言いますか
    発見されたとき、ゼフの傍らには袋いっぱいの貴金属類があったとか
    おそらく、オービット号を襲撃した時の戦利品と思われ、現在は件の商船にて厳重に保管されているとのことです」

    …宝、か
    正直、興味はない
    どうせ持ち主不明、あるいは死亡した者の遺品だ
    状況も状況、遺族への返還は不可能に近いだろう
    私が今、最も興味があるのは…

    「…タナカ、ゼフとその少年が運ばれた島というのは?」
    「はっ?あ、はい、少々お待ちを」

    そう言ってタナカは海図をデスクに広げ、一つの島に目印を付ける
    東の海でも比較的大きい島だ、海流も安定していた比較的行きやすそうだ

    「よし、タナカ、私もこの島へと向かう
    出航の準備をさせておけ」
    「ハッ!?今から、でございましょうか…?」
    「あぁ、ちと、ゼフとこの少年に興味があってな」
    「お言葉ですが、予定が3か月先まで決まっておりますが…」
    「おおよそキャンセルの利くものと書類仕事程度だっただろう?
    船上でできる分は電伝虫を使ってやるが、細かな部分はバカラに一任したい、連れてきてくれ」
    「か、かしこまりました!」

  • 12022/12/13(火) 23:38:30

    慌てて出ていくタナカを送り出し、改めてゼフの救出時の写真を見る
    海賊団の船長にしてコックという異色の男
    ともすれば、あの案件の突破口になりうるかもしれない
    そうでなくても、会面白い話を聞けそうだ
    会うのが今から楽しみになってくる

    そこでふと、ともに救出された少年の方に目をやる
    先ほどのなんとも思わなかったが、この少年の顔、どこかで見たことがある気がする
    いや、正確に言えば、よく似た別の顔を知っている気がする
    そう、あれはもうずいぶん昔の話
    ル・フェルドに「お前も一口乗らないか」と、奴の出資するあの研究所を案内されたときに…

    …いや、これ以上はやめておこう
    あそこが絡んでいる可能性があるという時点で、すでに面倒な厄ネタである可能性は非常に高くなったと言える
    関わるだけ危険、ここは知らぬ存ぜぬを通すべきだ
    私自身のためにも、おそらくこの少年にしても、な
    私はそう考え頭に浮かんだ疑問を打ち消し、旅の支度を始めるのだった

  • 121二次元好きの匿名さん22/12/14(水) 03:43:15

    サンジの過去に感付いてる……さすがの注意力だな

  • 122二次元好きの匿名さん22/12/14(水) 10:24:54

    さてどう動くかだな

  • 123二次元好きの匿名さん22/12/14(水) 19:52:09

    ジェルマのことも知ってたのか…
    バラティエのスポンサーになってくれないかなぁ

  • 124122/12/14(水) 21:55:33

    申し訳ありません
    作者都合により今日明日の投稿を休止させていただきます

  • 125二次元好きの匿名さん22/12/15(木) 03:41:31

    おまちしてます

  • 126二次元好きの匿名さん22/12/15(木) 08:12:58

    保守

  • 127二次元好きの匿名さん22/12/15(木) 10:27:10

    待機

  • 128二次元好きの匿名さん22/12/15(木) 20:02:40

  • 12922/12/15(木) 22:01:34

    大きな問題もなく、ゼフと少年が運び込まれた島まで到着した
    彼らが運び込まれた病院で治療を担当した医師曰く、我々が航海中に二人ともだいぶ回復したようで、すでに命の危機は脱しているとこと
    また、意識もしっかりしており、こちらも大きな問題はないらしい
    ただゼフの方は栄養失調と脱水症状以外にもう一つ、大きな問題があった
    それは奴の右足だ
    事故の際か、遭難中か、どのタイミングで失ったのかは分からないが、右の足を膝下からほとんど失っているそう
    しかもまともな治療もせず最低でも2か月以上放置されていたせいか傷口はふさがってはいたものの化膿していたらしく、だいぶひどい状態だったそうだ
    まぁ実際精密検査を行ったところ細胞の壊死は見られなかったため、最低限の処置だけで済んだとのことだが
    それ以外には二人とも大きな問題は見られず、あと数日も経過観察のため入院していればそのまま退院できるそうだ
    …戦闘力からして強靭な身体を持つであろうゼフはともかく、少年の方は後遺症の一つでもあっていいようにも思えるが、随分頑丈らしい

    さて、身体面でも精神面でも問題がないなら、さっそくゼフに話をさせてもらおう、とも考えたのだが、予定を変更
    先に少年の方に話を聞くことにした
    というのも、ゼフは曲がりなりにも海賊だ
    それも彼の逸話を聞く限り、己の信念は曲げないタイプ
    ああいった手合いは先にどれだけ向こうの情報を、弱みを掴んで話を有利に持っていけるかがカギになる
    なら、遭難している間だけとはいえ、三ヵ月も共に過ごした少年の方から先に情報を引き出すのが堅実だろう

  • 13022/12/15(木) 22:01:57

    少年のいる病室の前に立つ
    扉を数度ノックすると、中から控えめな声で「…どうぞ」と返答があった
    入室の許可を得、さっそく扉を開ける
    ベットに腰かけ何かの本―どうやらレシピ本らしい―を読んでいた少年だったが、私の姿を見て驚いたような顔をしていた
    どうやら来たのは医師か看護師だと思っていたようだ

    「…誰だ、アンタ」

    驚いた顔から警戒の眼差しを向け、そう問いかけてくる少年
    だいぶ生意気そうだが、この状況で初対面の男にも一切ひるまずこの目ができるあたりなかなか根性があるようだ

    「驚かせてすまないな
    私の名は○○、君が載っていた客船『オービット号』のオーナーだ」

    私の名乗りを聞いた少年は、先ほど折も驚いた顔をしている
    まぁ、遭難から助かったと思ったらいきなり乗船していた船のオーナーが面会に来れば驚くか

    「オービット号の、オーナー…」
    「あぁ、今回は実に災難だったね
    色々と話を聞かせてほしいのだが、その前に君の名前を聞いてもいいかな?」

    なかなかに肝は座っているようだが、言ってもまだ子供、内心は分からない
    必要以上に警戒されないよう、勤めて穏やかで優し気な口調で話す
    少年は相変わらず私を警戒しているが、少し悩んだ末に意を決したのか重々しく口を開いた

    「…サンジ」

  • 131二次元好きの匿名さん22/12/15(木) 22:37:35

    サンジきた!
    あんな極限状態で体に問題なしなのは、やっぱりジェルマだからか…

  • 132二次元好きの匿名さん22/12/16(金) 03:51:00

    この頃はまだ子供、さてどうなるか

  • 133二次元好きの匿名さん22/12/16(金) 10:22:23

    先にサンジと会う理由がじつにしたたか

  • 134二次元好きの匿名さん22/12/16(金) 21:27:35

    保守

  • 13522/12/16(金) 22:36:21

    申し訳ありません
    作者都合により今日明日の投稿を休止させていただきます

  • 136二次元好きの匿名さん22/12/17(土) 01:34:09

    保守!

  • 137二次元好きの匿名さん22/12/17(土) 06:05:07

    待ってます

  • 138二次元好きの匿名さん22/12/17(土) 13:41:30

    保守

  • 13922/12/17(土) 22:28:17

    「…サンジ君か、けっこう
    さて、病み上がりの君をいつまでも話に付き合わせるのも忍びない
    さっそく本題に入らせてもらおう」

    部屋の隅に置いてあった椅子に腰かけ、改めて少年―サンジ君と向き合う
    さきに航海日誌から得られていた名前とも一致する、どうやら身元は間違いないようだ
    向こうは未だこちらを警戒しているようだが、それでもこちら怪しげな素性の者ではないとわかってくれたようでこちらに向き直り姿勢を正してくれた

    「…それで、話しってなんだよ、おっさん」

    …だいぶ生意気な子供だ
    まぁ、見知らぬ男を前にして縮こまらず話が出来るだけ良しとしよう
    本当は彼の情報も事前に集めておきたかったのだが、唯一それが載っているであろうオービット号の航海日誌を読み切ることが出来なかった
    当時の船長はだいぶまじめな男だったらしく、毎日の客の様子から清掃状況に至るまで事細かに航海日誌に書き記していた
    そのため日誌の数自体膨大なものになっており、ただ読むだけでもかなりの時間を要するのが目に見えている
    さらにその中から船員とは言え見習いの子供一人の情報を吸い出そうと思えばさらに時間がかかるだろう
    そのため、現時点で分かっているのはサンジという名前と厨房で働いていたということだけ
    それ以外の情報は殆ど得られていない

    「そうだな、まずは君に関してだ」
    「…おれの?」
    「あぁ、サンジ君、君はどうしてオービット号に乗っていたのかね?
    船員の誰かの家族だったのかな?」

    そう問いかけると、サンジは露骨に渋い顔をして俯いてしまう
    …この反応、地雷を踏んだかな?
    だが、感覚的に家族が件の事故で死んだとかそういった風ではない
    そもそも、家族の話題を出すこと自体がNGだったという感じだ
    …やはり厄ネタ濃厚か

  • 14022/12/17(土) 22:28:57

    「…すまない、気に障ったのなら謝ろう
    不躾な質問だった」
    「え?あぁ、いや…、そんな、気にしてねぇし…」

    非礼を詫びつつ頭を下げる
    さすがに私のような大人が頭を下げてきたのが意外だったのか、サンジは少し慌てたように取り繕う
    …これで、少しは警戒心を削げたかな?
    子どもというものは案外こちらを注意深く観察しているもので、下手なおべっかや表面を取り繕っただけの態度ではすぐに見抜かれて逆に不信感を持たせてしまう
    逆に真摯に向き合えば、それだけである程度心を開いてくれるのも子供ながらの素直さ、ともいえるが

    「ふむ、ならよかった、では話を変えよう
    君から見てあの男、ゼフという海賊はどう映ったかね?」
    「…!?」

    サンジの顔が驚愕に染まる
    このタイミングでこのような質問が来るとは考えていなかったようだ
    こちらとしては都合がいい
    人間、驚いた時に一番心が揺さぶられ、情報を引き出しやすくなる
    ここでサンジから可能な限りの情報を引き出せれば、それをさらにゼフとの話し合いに有効活用できる
    どのような小さなことでも、初対面の相手が自身のことを知っているというのは少なくない驚きを与えられるものだからだ

  • 14122/12/17(土) 22:29:43

    数分の沈黙ののち、サンジが重々しく口を開く

    「…なぁ、おっさん
    傷が治ったら、あのジジイを海軍に突き出すのか?」
    「…当然だとも
    私は彼によって実際に被害を被っているし、そうでなくても奴はお尋ね者
    一般市民として、海賊は海軍に通報する、当然のことだ」

    私のこの返答を聞いたサンジは再び口を閉じて俯いたが、1分もしないうちに顔を上げる
    その眼には、病み上がりの子供とは思えぬほどの強い覚悟の光が灯っていた

    何をするつもりかと思っていると、サンジは床につま先と膝、頭頂部と両手を床に付けた姿勢―いわゆる土下座の姿勢を取った
    私が突然の行動に驚いていると、サンジはその姿勢のままでさらに口を開いた

    「頼むおっさん!!おれ、何でもするからさ…!!
    あのジジイを、見逃してくれないか…!!」

  • 142二次元好きの匿名さん22/12/18(日) 00:43:10

    サンジは本当に優しいな…

  • 143二次元好きの匿名さん22/12/18(日) 01:35:16

    素晴らしいssと言うかもうs、小説のような文章力、一気読みしてしまった。

  • 144二次元好きの匿名さん22/12/18(日) 06:07:33

    サンジにとって命の恩人だもんな
    海軍に引き渡されたら寝覚めが悪い

    さて、しかし通報を止める対価に出せるようなものはないし話はどう転ぶのか

  • 145二次元好きの匿名さん22/12/18(日) 15:17:35

    保守!

  • 14622/12/18(日) 22:37:56

    申し訳ありません
    作者都合により今日明日の投稿を休止させていただきます
    ここ最近休止が多く誠に申し訳ありません

  • 147二次元好きの匿名さん22/12/19(月) 01:13:44

    了解です〜
    リアル大事に!

  • 148二次元好きの匿名さん22/12/19(月) 06:31:21

    気長に待ってます

  • 149二次元好きの匿名さん22/12/19(月) 13:10:52

    保守

  • 150二次元好きの匿名さん22/12/19(月) 18:37:55

    Keep

  • 15122/12/19(月) 22:18:39

    サンジとの会話を終え、改めてゼフのいる病室へと向かう
    病院の別棟に設置された隔離病室、そこにゼフは収容されている
    入り口には銃を持った二人の兵士、他にも建物内に数人、常に十人以上は常駐するようにしてある
    いくら生死の境をさまよい右足も失っているとはいえ、ゼフは偉大なる航路を生き延びた強大な海賊
    万が一を考え一般の病室からは離れたここに、緊急時の警備兵を配備したうえで入院させているのだ
    まぁ、こうでもしないと病院側も入院を受け入れられなかっただろう、必要な処置だ

    建物の三階、二人の兵士が守るゼフの病室の前に立ち、入室の許可をもらうため扉をノックをする

    一度目――反応なし
    二度目、三度目――反応なし
    四度目―

    『…誰だ』

    ようやく反応アリ
    まぁ、食事など含めて外とのやり取りはすべて扉の小窓からの一方通行
    入院してからノックどころか部屋に入ろうとする人間すらいなかったのだ、警戒するのも無理はない
    その返事を入室の許可と捉えた私は、控えている兵士によって複数のカギのついた分厚い扉を開けてもらい、室内へと入る
    後ろで扉の閉まる重い音を聞きながら室内を見渡す
    トイレと小さな机、一脚の椅子とベッドがあるだけのひどく簡素な部屋
    その部屋の今の主は、ベッドに腰かけ格子のついた小さな窓越しに海を見つめている
    両の腕と残っている左足には鎖が嵌められ、壁に繋がれている
    その瞳はひどく懐かしそうに、しかし悲しそうにも見えた

  • 15222/12/19(月) 22:19:08

    「突然の訪問、誠に失礼
    クック海賊団船長、『赫足のゼフ』殿とお見受けするが?」
    「…フン、船も沈んでクルーも行方知れず、そんな状態で船長名乗ってどうすんだ」
    「なるほど、一理ある
    では、単にゼフと呼ばせて頂こう」

    そう言いながら彼のベッドに近づく

    「…もう一度だけ聞いてやる、誰だテメェは」

    そう言いながら海からこちらに移したその眼は、入院患者とは思えない力強さと破棄に満ちている
    意志の弱い人間であればその眼光を浴びただけで射竦められるだろう
    なるほど、足を失えど『赫足』は健在、というところか

    「申し訳ない、挨拶が遅れたな
    私の名は○○、君が最後に襲った客船『オービット号』のオーナーだ」

    私の名乗りにより一層その眼光が鋭さを増す
    そんな人間が何でこんなところに、といった疑問が強まったのだろう

    「…それで?そのオーナー様が何の用だ?
    わざわざ船を襲った文句でも言いに来たか?」
    「ふむ、それもある
    が、今話したいのは別の用事だ」

  • 15322/12/19(月) 22:19:23

    そう言いながら私はこの部屋唯一の椅子に腰かける
    ゼフは私の言葉に訝し気にしていたが、話しはちゃんと聞いてくれるらしくベットの縁に腰かけ、お互いに向き合う形になる
    …この位置だと、ひざから下の部分が力なく垂れさがるズボンがよく見える

    「…フフッ」
    「…何がおかしい」
    「いや、なに、随分とよくできた話だと思ってな
    あの泣く子も黙る海賊『赫足のゼフ』が、見ず知らずの子供を己が足を食らってまで助けるとは
    聞く人間によっては、嘘つきノーランドもびっくりの大ボラと言われるだろう」

    ゼフの目つきが厳しくなる
    が、逆上するようなこともなく静かに受け入れている
    …いや、単純にノーランドを引き合いに出したことへの「何言ってるんだ?」という疑問の目かもしれない
    北の海以外では知名度が低いのを忘れていた

    「…フン、あのチビナスか
    余計なこと言いやがって」
    「まぁそういうな、なかなかの美談じゃないか
    といっても、そもそもの話君たちが船を襲いさえしなければこうはならなかったんだ
    ある意味、自業自得ともいえるかな?」

    ゼフの目つきがさらに鋭くなる
    それでも反論ひとつ言わない、本人も分かっているのだろう
    これがこちらのペースに引き込むための誘いだということを

    「…で、そんなくだらねぇ話をしに来たのか」
    「…ふむ、そうだな、そろそろ本題に入るとしよう」

    そう言いながら少姿勢を崩す
    ここからの話は少し長くなりそうだ、少し気合を入れるとするか

  • 154二次元好きの匿名さん22/12/20(火) 02:42:11

    今更だけど金持ちさんの度胸すごすぎだろ…
    それだけ修羅場をくぐってきたってことなんかな?

  • 155二次元好きの匿名さん22/12/20(火) 06:37:27

    隻脚とはいえ偉大なる航路に通用する海賊相手にこの胆力よ

  • 156二次元好きの匿名さん22/12/20(火) 13:57:28

    保守!

  • 157二次元好きの匿名さん22/12/20(火) 18:34:25

    待機

  • 15822/12/20(火) 23:02:45

    申し訳ありません
    作者都合により今日明日の投稿を休止させていただきます

  • 159二次元好きの匿名さん22/12/21(水) 00:14:32

    ごゆるりと

  • 160二次元好きの匿名さん22/12/21(水) 02:30:40

    保守!

  • 161二次元好きの匿名さん22/12/21(水) 05:26:50

    Keep

  • 162二次元好きの匿名さん22/12/21(水) 11:16:59

  • 163二次元好きの匿名さん22/12/21(水) 13:35:58

  • 164二次元好きの匿名さん22/12/21(水) 22:24:16

    待機

  • 16522/12/21(水) 22:45:15

    「…さて、わかっているとは思うがね、ゼフ
    私は善良な一般市民として、君の身柄を海軍に引き渡す義務がある」
    「…」

    ゼフは目つきこそ鋭いものの、その顔に諦めの色がかすかに浮かぶ
    さすがに歴戦の海賊と言えど、利き足を失った状態でこの建物からの脱出はかなり難しい
    私を人質にでもすれば可能性は生まれるが、この部屋に護衛もつけず一人で入ってきた時点で何らかの対抗策があるのは目に見えているだろう
    下手に行動したところで、死期が早まる可能性が高まるため
    実質詰み、彼ほどの男でも諦めて当たり前だ
    しかし…

    「だが、君が私のだす条件をのんでくれるというなら、その義務を放棄しよう」
    「…何?」

    ゼフの顔から諦めの色が消え、今まで以上に疑惑の色が濃くなる

    「…どういうことだ」
    「言葉の通りだとも
    君が私の条件をのんでくれるなら、君を海軍に引き渡すようなことはせず、むしろ君は事故の後遺症で死亡したと報告しておこうじゃないか」
    「…そんなことして、テメェに何のメリットがある」

    ふむ、当然の疑問だな
    だが、ここでは言えない
    別に隠すほどのことでもないが、我ながらこの条件、なかなかに馬鹿々々しいとも思う
    そのため、今ここで言うと最悪コケにされたと思われて話が拗れかねない
    ここは意味深に頷きつつ、答えのみを引き出す
    とはいえ、彼も誇り高い海賊だ、こんなお情けで生き残るような道はまず選ばないだろう
    だが、こちらには切り札がある

  • 16622/12/21(水) 22:45:47

    「悪いが、それは君が応じてくれたら、話すとしよう」
    「…ハンッ、そんな怪しさしかねぇような取引に応じるようなボケナスは…」
    「海上レストラン」
    「…!!」

    ゼフがここに来て初めて、目に見えるほどの驚きを顔に出す
    やはり、これが切り札になりえたか

    「…あのチビナス、なんでもかんでもペチャクチャしゃべりやがって…!!」
    「いい夢じゃないか、海上レストランとは
    船上での飢えの恐ろしさを知る、海のコックならではの発想だな
    だが、大海賊時代のこの海で、それだけのものを作るには相応の強さとカリスマ、そして何より料理の腕がいる」
    「…何が言いたい」
    「…このままでは未練ではないか、と思ったまでだ
    その目標を叶えられず、命を落とすのはな」

    ゼフが一瞬視線を落とす
    が、すぐにこちらに向けなおした

    「…ハッ、そんな未練が何だってんだ
    この世には死にきれねぇほどの未練もって死んだ奴なんざごまんといる
    それにおれは、まだ同情やお情けで救われるほど落ちぶれちゃ…」
    「まぁ君はそうだろう
    だが、彼はどう思うかな?」
    「何…?」

    ゼフからの再びの疑問の声
    それを聞いて、私は椅子から立ち上がり窓の外―遠く広がる海原を見る

  • 16722/12/21(水) 22:46:57

    「…なかなかどうして、あの年頃で随分責任感の強い子ではないか
    いや、あれはどちらかと言えば自己肯定感が低いというべきかな?」
    「…なんでここであのチビナスの話が出てくる
    関係ねぇだろ」
    「ふむ、そうだな
    だが、この話を彼から聞いたとき、随分と頼まれたものでね」
    「…何をだ?」
    「君の助命だよ、なにせ土下座して泣きながら頼んでくるんだからな」

    ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
    『あのジジイ、おれなんかを助けるために、力も夢も、全部投げ出しやがって…』
    『だから、最後に残った生きがいだけは、どうしても叶えさせたいんだ!!』
    『そうじゃなきゃ、おれは助けてもらった恩返しもできねぇ!』
    ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

    「…そういっていたよ」
    「…」

    ゼフが再び目線を下げる
    今度はすぐに上げることなく、考えこむように身じろぎ一つしない

    「…君が君の命にどう結末を付けさせようと、それは君の自由
    だが、それで君が処刑されればサンジは今以上に自身を責めることになるだろう」
    「…」

    実際、想像には難くない
    一種のストックホルム症候群のようなものかもしれないが、それでも自身が死にかけた理由を作った男に対し、あれほどの責任感を感じるのははっきり言うと度を越している
    彼の過去に何があったかは知らないが、これで奴が海軍に捕まり処刑などということになれば、それが加速する恐れは十分にある

  • 16822/12/21(水) 22:47:09

    「もちろん、君が断ってくれても、サンジのことは安心して良い
    私が責任をもって後の世話はしようじゃないか」

    と、言ったものの、先の可能性を挙げられれば、そう簡単に安心はできないだろう
    自身の足を犠牲にしてまで助けたのだ、ここで自身の死がサンジの今後の人生に重荷になるようなことは彼も望まないだろう
    …ここまではシナリオ通り
    あらかじめサンジから得られた情報と彼の存在自体を掛け金に、ゼフへの揺さぶりをかける
    さて、この選択が丁と出るか半と出るか

    窓から視線をゼフに戻す
    ゼフは未だ動かない
    虚空を見つめるその瞳は、だがしかし先ほどよりも力強い光が灯っているようにも見える
    あとは、奴の選択次第だ

    「…なにも今すぐ決めろとは言うわけではない
    三日後、君の退院の日にまた来る、その時に決めてくれればいい」

    それだけ言い残し、私は思考に沈む彼を尻目に、病室を後にした

  • 169二次元好きの匿名さん22/12/22(木) 00:38:21

    サンジの過去はなぁ…
    まあそれを抜いても度を越して優しい男なんだよな

  • 170二次元好きの匿名さん22/12/22(木) 06:54:38

    話術のスキルがやっぱ高いわこの人

  • 171二次元好きの匿名さん22/12/22(木) 12:36:41

    保守

  • 17222/12/22(木) 22:05:47

    申し訳ございません
    作者都合により本日の更新は休止させていただきます
    ここの所スレ主のリアル仕事の繁忙期で更新が2日に1度程度になってしまい、誠に申し訳ございません

  • 173二次元好きの匿名さん22/12/23(金) 00:28:55

    この時期はどこも忙しいですよね…
    リアル大事に!ゆっくりで大丈夫ですよ〜

  • 174二次元好きの匿名さん22/12/23(金) 05:37:23

    師走の『走』の字は伊達じゃないよねぇ

  • 175二次元好きの匿名さん22/12/23(金) 13:32:24

    保守

  • 176二次元好きの匿名さん22/12/23(金) 17:22:53

    保守

  • 17722/12/23(金) 22:21:11

    二日連続で申し訳ありません
    本日分の更新も、作者都合により休止させていただきます

  • 178二次元好きの匿名さん22/12/24(土) 06:33:23

    いつまででも待つのでリアルを優先してください

  • 179二次元好きの匿名さん22/12/24(土) 06:37:38

  • 180二次元好きの匿名さん22/12/24(土) 12:32:47

    保守

  • 181二次元好きの匿名さん22/12/24(土) 20:44:51

    Keep

  • 18222/12/24(土) 23:25:25

    「さて、今日が期日
    答えを聞かせてもらおうか、ゼフ」

    あれから3日後、私は再びゼフの病室を訪れていた
    今日はゼフとサンジの退院の日、そして彼らの運命が決する日でもある

    ゼフの右足は以前と同じまま、本来であれば義足の一つでも取り付けるところだが、万が一彼が私の提案を突っぱねた場合、非常に心苦しいが彼の身柄を海軍に引き渡す必要がある
    その場合、彼の足技も考えれば義足と言えど足はない方がいいだろう
    無論、無事受け入れてくれればこちらで用意した義足を装着させるつもりだ
    そのための用意もすでに整っている

    ゼフは先日と変わらない鋭い眼光をこちらに向けている
    そこからはしばらくお互い無言のままの状態が続いた
    しかし、このままでは埒が明かないと考えたのか、ゼフが重々しく口を開いた

    「…返事をする前に、一つ聞かせろ」
    「…何だろうか?」
    「なぜおれだった…?」
    「…どういうことかね?」
    「てめェほど男なら、おれでなくとも使える駒なんざいくらでもいるだろうによ
    なんで俺を選んだ?」

    …ふむ、まぁ当然の疑問だな
    だが、答えるのは難しい、というかおそらく答えると確実に呆れられる
    なにせ単純に海賊船長兼コックという異色の経歴の持ち主なら、私の雇っているコックたちとは違った視点の話を聞けるだろうという、完全な興味本位で近づいただけなのだから
    それにこの口調からすると、おそらく彼は何か勘違いしている

  • 183二次元好きの匿名さん22/12/24(土) 23:26:17

    このレスは削除されています

  • 18422/12/24(土) 23:26:51

    確証はないが、ゼフは私がどういう存在か知っているのだろう
    自慢ではないが、これでも世界の海で50年近く活動してきた
    相応に世界を知る者なら、私の名や経歴を知っていていてもおかしくはない
    が、それが逆に作用しているのだろう、完全になにか後ろ暗いことをさせようと思っているようだ
    …本当ならこの場で誤解を解くべきだが、ここで下手に出ればせっかくの精神的優位性が崩れてしまう
    ここはうまく話をはぐらかし、現状維持に努めるべきだろう

    「…悪いが、それも今は話す気はない
    君が私の誘いに乗ってくれるなら、喜んですべてを話すんだがね?」
    「…フン、そっちから話振っといて肝心なことは全部内緒たぁ、さすがに誠意ってもんがないんじゃないか?
    怪物さんよ」
    「勘違いしてもらっては困るな、ゼフ
    君が取れる選択肢は私の話に乗るか乗らないか、二者択一だ
    契約内容に口出しする権利も、それを確認する権利も君は持ち合わせていない」
    「…確かにな」

    ゼフが自嘲気味に薄く笑う
    そうだ、いい機会だ、私が気になっていたことも聞いておこう

    「私からも質問させてもらおう
    サンジが言っていた君が捨てた夢、というのはなんだったのかね?」
    「…」

    今の時代の海賊が夢見るといいえば、大概はロジャーの残した一つなぎの大秘宝「ONE PIECE」だが、ゼフは奴の少し後の世代の海賊、ロジャーがワンピースを残す前から海賊だった
    とすれば、次点で人気のある偉大なる航路の制覇、世界の一周か
    そう考えていると、ゼフがおもむろに口を開いた

    「…なぁ、○○さんよぉ」
    「…なんだ?」
    「…オールブルーは、あると思うか?」

  • 185二次元好きの匿名さん22/12/25(日) 00:20:22

    オールブルー…
    強い海賊が子どもみたいな夢を見てるのいいよね…

  • 186二次元好きの匿名さん22/12/25(日) 06:27:32

    怪物さんもわりとロマンチストなんだよなぁ

  • 187二次元好きの匿名さん22/12/25(日) 17:10:23

    ほっしゅ✨

  • 188二次元好きの匿名さん22/12/25(日) 17:50:29

    (´∀`∩)↑age↑

  • 189二次元好きの匿名さん22/12/25(日) 21:51:48

    保守

  • 19022/12/25(日) 22:59:56

    「オールブルー?四つの海の魚がすべて集うというあの海か?」

    赤い大陸と偉大なる航路によって分け隔てられた東西南北四つの海
    それらは当然気候もバラバラな上物理的な距離もあり、回遊魚が海流に流されでもしない限り他の海の魚が別の海に入り込むことはまずない
    しかし、この世界のどこかに文字通り、それらの海に住まう種々様々な魚がすべて集う海があるという
    それこそがオールブルー
    海に行きるコックは皆一度はその海に憧れるそうだ
    だが、その存在を実証した者は歴史上一人もいない、そもそもすべての魚が集うという時点でおとぎ話じみている
    大抵の者はただの伝説と片付け、信じているのは子供かよほどの酔狂か…
    …または、確固たる信念のもとそれを目指している者だけだ

    「…あぁ、そうだ、それをあると思てるかって聞いてんだ」
    「…なるほど、それが君の夢か、合点がいった
    とすると、君がサンジを助けたのは…」
    「ぐだぐだいってねぇでとっとと答えやがれ」

    そう急かすゼフに対し、私は備え付けの椅子に腰かけ向き直った

    「…ふむ、そうだな、常識で考えればありえないと言えるだろう」
    「…そいつは」
    「まぁまて早合点するな
    信じているかどうかよりも先に、これだけは言っておこう
    真に偉大なる航路を、そして新世界を知る者は夢や希望を笑わない」
    「…!」
    「あそこは人の命をたやすく飲み込む魔の海であると同時に、あらゆる可能性を秘めた神秘の海だ
    何が起きてもおかしくない、何があっても不思議じゃない
    他の海での常識は、あの海では枷にしかならない」
    「…要するに、有るかもしれねぇし無ぇかもしれねぇ、と言いてぇのか」
    「平たく言えばな、少なくとも存在する証拠も存在しない証拠もない」

  • 19122/12/25(日) 23:02:18

    一度椅子から立ち上がり、鉄格子の嵌った窓辺へと歩み寄る
    今日は快晴、海も穏やかな凪だ

    「そしてかの物理学者ウイリー=ガロンは、『人が空想できる全ての出来事は、起こりうる現実である』といっている
    君たちが憧れ夢想し続けている限り、その存在は否定されるものではない」

    そう言いながら、窓の向こうの海から目線をそらしゼフへと向く

    「この返答では、不満か?」

    …本当のことを言えば、私はどちらかと言えばあると考えている
    偉大なる航路はふしぎの海、どのような奇跡も存在する
    その筆頭こそ悪魔の実、あの男の考えが真実なら、あれこそ人の夢想の到達点
    であれば、彼らが信じるオールブルーが存在しない理由はない
    その道理は、皆目見当もつかないがな

    私の返答を聞いたゼフは、しばらく強張った表情で私をにらんでいたが、不意に皮肉気に笑うとこう言った

    「…ハッ、新世界の怪物と恐れられた男が、随分とロマンチストじゃねぇか」
    「この海でロマンを介さずに海に出る者はそうはいない
    みな、形は違えど何らかのロマンを求めて船出するものだ
    …それは、君もそうだろう?」
    「…そうだな」

  • 19222/12/25(日) 23:02:29

    そういうとゼフは腰かけていたベッドの手すりにつかまりながら、残った左足のみで立ち上がる
    そのままか足飛びで器用に私に歩み寄ると、右手を差し出してきた

    「…もともと、選べるほど自由な身でもねぇ
    せっかくここまで生かされたんだ、とことんまでてめェの口車に乗ってやる」
    「…結構」

    私は薄く笑みを浮かべながら、出されたゼフの手を取った

  • 193二次元好きの匿名さん22/12/26(月) 05:05:33

    うーん、どっちも強い


    >ウイリー=ガロン

    確か空から船が落ちてきたときに言葉が引用された物理学者でしたっけ、懐かしい

  • 194二次元好きの匿名さん22/12/26(月) 12:41:44

    これで料理人関係は強いコネができるな

  • 19522/12/26(月) 22:13:59

    完走が近くなったため、新スレを立てさせていただきました

    今後ともよろしくお願いいたします


    https://bbs.animanch.com/board/1412092/?res=4

  • 196二次元好きの匿名さん22/12/26(月) 22:33:54

    新スレありがとうございます!
    ウタ・サンジと関わってきたから、いつかルフィとも会うことがあるのかな…?

  • 197二次元好きの匿名さん22/12/27(火) 05:08:50

    新スレ建立乙です

  • 198二次元好きの匿名さん22/12/27(火) 10:14:36

    こっちは埋める?

  • 199二次元好きの匿名さん22/12/27(火) 14:54:38

    このレスは削除されています

  • 200二次元好きの匿名さん22/12/27(火) 14:54:51

    このレスは削除されています

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