【オリキャラ注意】「ドジって前世を思い出しちまったぜ」外伝その6

  • 1123/01/08(日) 02:37:22

    ナギナギの実を食べてすっ転んだら前世の記憶を思い出しちゃったコラさんの話、の続編。


    SS+ダイス+安価スレになると思います。ただしダイスと安価は要所要所。

    思いついちゃったボスがボスなのでボリュームが広がっていくかもしれない。

    書き溜めゼロなのでライブ感で行くのをご了承ください。

    転載は禁止とさせていただきます。


    【注意事項】

    ・このスレの時系列はごちゃごちゃです。劇場版時系列と思ってください。

    ・ワノ国後っぽい雰囲気が見られたりするかも知れませんが、時系列はパラレル。

    ・ローはK・ROOM、R・ROOM使えるローなのか現状定めていませんが、『凪(サイレント)』は使う事はないと思います。



    前スレ

    【オリキャラ注意】「ドジって前世を思い出しちまったぜ」外伝その5|あにまん掲示板ナギナギの実を食べてすっ転んだら前世の記憶を思い出しちゃったコラさんの話、の続編。SS+ダイス+安価スレになると思います。ただしダイスと安価は要所要所。思いついちゃったボスがボスなのでボリュームが広が…bbs.animanch.com

    最初のスレ

    【オリキャラ注意】「ドジって前世を思い出しちまったぜ」外伝|あにまん掲示板前スレhttps://bbs.animanch.com/board/1079485/の続編です。ナギナギの実を食べてすっ転んだら前世の記憶を思い出しちゃったコラさんの話。SS+ダイス+安価スレになると…bbs.animanch.com

    前作

    「ドジって前世を思い出しちまったぜ」|あにまん掲示板ひっくり返って呆然と青空を仰ぎながら、おれは手に持った一口分齧られた跡があるその実をまじまじと見つめていた。一気に頭の中に起こった記憶の濁流はひどい頭痛と吐き気と倦怠感と悪寒と等々重たい風邪症状をタイ…bbs.animanch.com
  • 2123/01/08(日) 02:38:12

    【このスレだけのオリジナル設定・オリジナルキャラ】

    ・コラさん
    一応色々あって今世の名前をロシーと自称しているが、ローもとい他の船員からはコラさん呼びされています。
    身長166㎝の伸び盛り。将来的には288㎝(ダイスで決定)
    治安悪めのスラムみたいなとこ生まれだけど特別な血統とか病気とかはないまま育った(安価で決定)
    現在落ち込み中。

    ・クオル
    オリキャラ
    安価で悪い医者と出たせいで徹底的にローと対比を取られつつ、神絵師のネコチャンイラストによって野良猫要素が継ぎ足された属性過多男。悪魔の実の能力者。
    不治の病の治療法を見つけるために勉強中の医者。
    ハートの海賊団に居候中。
    ホーキンスと馬が合っているかもしれない。
    現在ペンギンの看病で船に残っている。

  • 3123/01/08(日) 02:40:00

    このスレからの新オリキャラ

    ・マリー
    色付き眼鏡、腕には入れ墨、屋台で威勢のいい掛け声をするファンキーなシスター。
    面倒見のいい姐さんタイプ。
    過去神様にあったことがあるらしい……?
    現在失踪中。

    ・クリストファー
    ギャンブル好きの生臭神父。人当たりはいいけれど結構適当でろくでなし。
    マリーのお父さん。
    右腕は義手。
    元兵士。

    ・レミ
    本名レミリオ。優しそうな丸眼鏡のお兄さん。
    頬から首を渡って大きな傷がある。死んだ兄がいるらしい。
    過去失踪したことがあるらしい……?
    現在何かに乗っ取られている可能性有。

    ・ラミ
    レミのお兄さん。すでに故人。元神父。
    レミ曰く、『海賊に殺された』。
    コクレア様を蘇らせようとしていた?
    そのためにクリスたちを島に呼びよせた?
    豹変した姿で登場。何かに乗っ取られている……?

  • 4123/01/08(日) 02:51:46

    「……ところで」

    ローはおれの方を向く。

    「コラさんはいったいどうしたんだ」
    「おれを殴ってくれ……」
    「殴らねェ。だからどうした」

    役立たずのおれを殴らねェなんて優しいなあローは!
    ……なんて言っているのは、まあ、ほぼ八つ当たりとか、情けない自分をおれ自身がぶん殴りたいとか、いろいろあるけど。
    ほんっとう! あまりにもおれ自身がダメダメすぎて! 殴ってもらいたいっていうそんなんだけど!
    まあ、ローはしないよなあ。優しいやつだもんな。

    「……なんだろう、こう……悔しいんだよ。おれが子どもなこととか。そういうこと全部」

    前世のおれが出来ていたことが今できない。
    あの時のおれだったら崖も力づくで登ったし、ローを抱えて走ることだって出来た。木だって力いっぱい蹴れば折れたし、木のつるだって引きちぎれる。
    今のおれは多少路地裏の時よりは身体も出来て強くなったとはいえ、まだまだ子どもで。出来ることは何もなくて。
    そのうえ、子どものように癇癪で喚き散らすなんてどうかしてる。

    「……ロー……」

  • 5123/01/08(日) 03:03:20

    「……さっきのことを気にしてるなら、今度は間違わないでくれ」
    「っ……」
    「まったく、コラさんは間違ってばかりだからな」

    その言葉が胸に突き刺さる。ぐ、と唇を噛み締め、手のひらを握る。
    責められるのは覚悟していたけれど……思っていたより、きついなこれ。
    思わず俯くおれのもとへとローが歩いてくる。
    そして、地面に膝をついた。――視線が近くなる。

    怒られる、と思ったけれど。ローの口から出てきた言葉は、予想とは違うものだった。

    「潜入捜査中、ガキが自分を刺したことを黙っているのも間違いだったし」
    「……え」
    「そのうえそのガキを連れて潜入捜査していた場所を出ていくのもどう考えても間違いだし」
    「あの、ロー? 何を言って」
    「それで、そのガキの病気を治そうと至る所の病院に行って、それで追い返されたからってぶっ壊すのも間違いだろ」
    「……ええと」
    「しかも海軍が目的としていた悪魔の実を先に奪っちまおうだなんて、どう考えでも間違いそのものだ」
    「っロー!」

    たまらず顔を上げる。そうするとローの顔がよく見えた。
    まともに行動出来ないおれに対して怒っていると思っていたのに。
    ……仕方なさそうに笑っている顔は、とても優しい。

  • 6123/01/08(日) 03:05:53

    「さらには、そのガキを庇って死ぬなんて、間違ってるだろ?」
    「……間違ってねェ」
    「でも、そんな風にあんたが迷いなく行動したから、救われたガキがいる」

    ローの手がおれの頭を一度だけぽん、と叩いた。

    「あんたが飛び込んできたから、ぶっ飛びそうだった意識が戻ったし、海の中でコラさんがおれの名前呼びながら手を伸ばしてくれたの、少し嬉しかったよ」

    だから落ち込まないでくれ。
    そんなことを言われて。
    おれは。

    「ろ……」
    「コラさん」
    「ろ、ろ、ロ゛ォ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!」

    もう安堵とか嬉しさとか驚きとか衝撃とか諸々諸々諸々、ローが見つかったことと合わせてもう大爆発して、目から滂沱の涙を溢れさせながら飛びついた。
    ぎゅううううううっと強く抱き着くおれを、ローが仕方なさそうにしながら背中をたたいてくる。

    「鼻水つけるなよ」
    「わ゛る゛い゛手遅れ゛だああ゛あ゛あ゛……!!」
    「手遅れか……」

  • 7123/01/08(日) 03:21:28

    とんでもなく泣いて泣いて泣いて……泣き終わって、すっきりした。
    シャチが気まずそうな顔をしているが、おれって割と感情を出し切ったらすっきりするんだよ。
    怪我はしていたけれど、ローは無事だ。生きている。
    だから、大丈夫。
    ……まあ、自分の存在意義について考えたりするけれども、悩むのはあと! 今は目の前のこと!

    というわけで、気を取り直して森を進む。
    ずっと端っこで様子を見ていたクリスさんが、おれに小声で『よかったですね』と声をかけてくれた。
    ……マリーさんが見つかってない今、クリスには今の光景がどう映ったんだろうか。それでもよかった、と言ってくれるクリスは、まぎれもなく良い人なのだろう。

    「さっきの話の続きだが、“ROOM”を解いた瞬間に、強い光を感じたと思ったら意識を失っていた」
    「強い光?」
    「それがなんだったのかはわからねェが……。気付いた時には、身体が海に浸かっていて、目の前にやつがいた。神父服を着た男で……恐らくラミ、だろう」
    「あ、それおれたちも見た!」

    つい声をあげながらちらりとクリスを見る。
    眉間に皺を寄せながら複雑そうにしているクリスは、これまた複雑そうな声で言う。

    「あれは……ラミくんじゃありません」
    「だろうな」

    ローが納得する。まあ、そりゃ気付いているよな。

    「……一つ聞くが。そいつは、悪魔の実の能力者だったか」

    え?

  • 8123/01/08(日) 03:22:29

    というところで今日はここまでにさせていただきます。
    どうか保守のご協力をよろしくお願いします。
    ローに会えてよかったよかった。
    ハートの椅子やワノ国でのことを思い出しながら磔シーン書いてました。

  • 9二次元好きの匿名さん23/01/08(日) 04:20:02

    立て乙です!
    再会できて良かった~~~!!!

  • 10二次元好きの匿名さん23/01/08(日) 04:47:48

    >ハートの椅子やワノ国でのことを思い出しながら磔シーン書いてました。

    ローの描写が出た途端思い出したのは間違ってなかったのか…

    血濡れで捕まってる姿が容易に想像できる男トラファルガー・ロー…無事でよかった本当に

    再会できて良かった

  • 11二次元好きの匿名さん23/01/08(日) 15:07:41

    遅くなったけど
    前スレのざっとしたあらすじ
    ・移動中にクリスさんにレミさんの家で得た情報を聞く
    ・教会にて現場検証、マリーさんが連れ去られて覚悟キマったクリスさん
    ・森に入る前にラッキーアイテムの手鏡(コクレア様の意匠)を拾う
    ・甘い匂いが充満する森にて蔓の攻撃を受けるも被害はなし、クリスさんの新たな一面が垣間見える

    ・捜索隊全員にカームかけて探索を再開、コクレア様の神殿を見つける
    ・壊れた石像の間で隠し通路を発見、祭壇に続く道らしい
    ・道中クリスさんにラミさん含む事情を聞く、コクレア様や悪魔についての推測が飛び交う
    ・ラミさん視点の回想
    ・写真が撮られた当時より何かが欠けた祭壇を発見

    ・ローとマリーさんの捜索に戻ろうとした矢先にまたもや蔓の襲撃を受ける
    ・攻撃を受けつつも道を進めるとコクレア様とは別の祭壇にてラミさん(?)に遭遇
    ・ヤベー匂いしかしないラミさん(?)にクリスさんが発砲、奇襲するも逃げられた
    ・ベポがローの匂いを嗅ぎつける、匂いを辿った先は崖
    ・血痕を見つけた先の崖からコラさんがダイブ、シャチが追いつきながらも海へ
    ・シャチからお叱りを受けていたら、蔓で磔にされたローも会話に参加
    ・ローの指示によりコラさんを先に上げてからローを救出
    ・手当て中に手帳の分析結果による経緯と、豊穣神の力とテリトリーを教えられる

    (前スレ74からお正月🎍特別編、ローにお年玉をあげたいコラさんが旗揚げ年上組に相談する)

  • 12二次元好きの匿名さん23/01/08(日) 15:16:31

    本当に面白い
    ローとコラさんの会話が尊いし、クリスさんが魅力的な人物造形で最高
    ラミやレミ、コクレア様の謎も気になる

  • 13123/01/09(月) 01:16:09

    >>11

    あらすじありがとうございます!!おかげで前回の何書いたかがぱっとわかって助かる……。


    それでは今日も続きを書かせていただきます。

  • 14二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 01:18:24

    強い光…、目を隠せ?
    無力感に打ちひしがれてるコラさんに嬉しい言葉かけられるローいいな…
    手遅れの鼻水でくすっとなる

  • 15123/01/09(月) 01:50:34

    「悪魔の実の能力者……?」

    クリスは知らぬ言葉を聞いた、とでもいうかのように不思議な顔をする。

    「いえ、私が知る限りラミくんは能力者……のような、不思議な力を持っていた覚えはありません」
    「本当か?」
    「やけに疑ってきますが、どうしてそんな……?」

    疑問に思うのもわかる。ローは何がどうして、ラミが能力者だと思ったんだろうか。ローはしばらく考えたように指の節を顎に当てていた。
    『おれがあの場所に磔にされたとき、』というちょっと心臓に悪い言葉から始まったので、少しだけびくっと震えてしまった。

    「さっきも言ったとおり、おれの前にラミらしき男が出てきた」

    ――ロー曰く、崖から落とされ、木のつるで磔にされたとき。ラミは足をつるで固定しながら逆さ向きでローの目の前に垂れてきたらしい。
    何が楽しいのか、にこにこと人のよさそうな笑みを浮かべ(けれど邪悪さは隠しれるものではなく、漏れ出ていて)『ああ、ラミと同じなんだ』と言っていた。
    ――『お前も、海に浸かると動けなくなるんだね』。

    「……それって、ラミくんが、君と同じように海に落とされた、または浸けられたと?」
    「そうかもしれない。だが、あれがラミを乗っ取って、それで記憶を読むことが出来たのかもしれない」

    そこらへんはどうでもいい。そうローが言う。

    「問題なのが、あいつはおれを食べようとして、食べなかったことだ」
    「食べられそうになったのか!?」
    「恐らくは。……あまり覚えちゃいねェが」

    そこらへんの記憶が曖昧だ、とローは言う。

    「だが、能力者だから、食べれないと言っていた」
    「――どういうことだ?」

  • 16123/01/09(月) 02:01:01

    「それって……例えば、その化け物自体が悪魔の実の能力を持ってるとか……?」

    もしそれで、食べて相手の持つ力とか手に入れられたりするってのなら、想像はつく。悪魔の実の二個目を食べたら……どうなるんだっけ? 爆発するんだっけ?
    ……ともかく、食べたら駄目ってことは知っている。
    ただの妄想だけど、そういうのも取り込めちまうなら可能性があるかもしれない、と思ったが、ローが首を振る。

    「いや、そうとは思えない。おれの前に現れたラミにも幾分か波がかかっていたが、気にする気配はなかったし、かかっても何もなかった」
    「でも、それも、あれが本物じゃなかったかもしれないし。ローは知ってるか? えっと、おれたちの前に現れたラミにベポとシャチが攻撃したんだけどさ、確かに当たったんだよ。でも草とか葉っぱになってそのまま消えちまった」

    例えロギアでも、身体にかけられたら致命傷ではある。でもそれが本物ではなかったら?

    「偽物だった……そうかもしれないな」
    「だろ?」
    「だがしかし、あいつの下半身が常に海に浸かっている状態だったとしたらどうだ?」
    「下半身?」
    「“ROOM”でわかったことだ――――島から広がった根は、海中にまで到達している」

    それは。
    それは―――能力者が、出来る領域、なのか?
    あいつがこの島全域に根を伸ばしていたとして、それが能力だとして、または化け物であるあいつの本来の力だとして。
    もし能力者の力を持っていたとして――そんな風に伸ばすことなど。

  • 17123/01/09(月) 02:27:14

    「……さっきから気になってたんだけどさ」


    シャチが恐る恐る、といった風に言う。


    「結局、そのラミの姿をした化け物の正体ってなんなんだ?」

    「それは……」


    流石にそれはローもわかっていないようで、無言で首を振る。

    やっぱりわかんないか……。

    今出てる情報を合わせると

    ・森を操る力がある。

    ・人を乗っ取ることが出来る。

    ・人の記憶をいじることが出来る。

    ・洗脳のようなことが出来る。

    くらいだもんな。それだけでも十分驚異的だが。


    そんな風に話をしながら歩いていると、先ほどの神殿前まで来た。

    あいつの気配は……ない。襲撃も特にないようだ。



    神殿の探索行動

    >>18>>19

  • 18二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 02:55:17

    とりあえず神殿の上を登ってみる

  • 19二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 03:08:05

    COC風味なら目星とか出来る?

  • 20123/01/09(月) 03:44:14

    ――ひとまず、ピラミッド状になった神殿の上まで登ることにした。
    周囲の警戒を欠かさず、一段一段登っていく。
    先ほどやつがこれ見よがしに降りてきた場所ではあるが、特に何か仕掛けや秘密があるわけではなく、本当にただの建造物に近いようだ。

    「こういう状況じゃなければ古代遺跡だ、ロマンだ、って思えたんですけどね」
    「あ~…わかるな、それ」

    おれはシャチと一緒に階段を上っていた。後ろをローがついてきている。
    下の方ではベポが周囲の警戒、クリスがそれに同伴。ホーキンスはカードをめくっている。

    「……島全体に根を伸ばしているってことは、ほぼこの森そのものがあいつってことなのかな」
    「にしては、攻撃をあまりしてこないですよね」
    「つるとか切ってるの効いてるとか……?」
    「そうとは思えねェな。これだけの森が広がってるなかで、つるの一本に二本は誤差だ」
    「燃やしちまいてえ……」
    「……」

    おれはしみじみと言うと、シャチが急に立ち止まる。
    どうしたんだ?と問いかけると、真面目な顔で『あの、』と口を開く。

    「その時キャプテンはいなくなってたんで、知らないと思うんですけど。確かホーキンスの野郎がこの街の代表から話を聞いていたみたいで」
    「……どうした」
    「――昔、この島で大火災があったって話なんですけど」

  • 21123/01/09(月) 03:46:14

    【ホーキンスの証言】


    「この島は古い歴史があるようだが、きちんと書き記されたり、口伝で後の世に伝えられ始めたのは途中からだろう。だから、唐突ではあるが、とある神が凡そ数百年前、存在していたという事実から始まる」

    「当時、神と人間は実際に対話をしていたという。対話の内容は記されてはいなかった。恐らく、何かしらのやり取りを行うのがその時は当たり前だったのだろう」

    「だが、一度この島に大火災が起きた。その時以降神との対話を行ったような記録や、存在したような伝えは残っていないらしい」

    「何か恐ろしいものに襲われたという記述があった。幸いにも人死には出なかった。神が最後の力で守ったのだろう、という形で終わっている」

  • 22123/01/09(月) 04:10:55

    「火災が起きたって……もしかして、この森を燃やそうとしてたんじゃないかって思ったんですけど」
    「………」

    確かに。もし相手が森そのものとか、そういうものに限りなく近い存在だとしたら、燃やすことはかなり有効打に思える。おれも何度か燃やしちまいたいって思ったもん。
    けれど、大火災が起きて、森が燃えて、でも現状見事に復活している。
    ……いったいどのくらい昔の話なんだ? ここまで森が復興するほどの年月って。

    「………」

    ホーキンスの話をそっくりそのまま聞いたローは、難しそうな顔で黙り込んでいる。

    「つまり、逆か?」
    「ロー?」
    「……ああ、いや。もし火災が起きたのが、この森を――つまり、やつを殺すためなのだとしたら、この島に最初に居たのは、豊穣の神と名乗る、ラミを乗っ取った化け物じゃねェかっていう可能性だ」
    「え……」

    ホーキンスの話で、頭の中で勝手に決めていた立ち位置を逆にしてみる。
    大火災が起きたのは、やつを倒すため。何か恐ろしいものに襲われたのは、もし逆で考えるとしたら――その恐ろしいものとやらは、森に潜むやつをどうにかするため?

    「つまり、最初にこの島に居たのがその……ええと、悪魔で。後から来たのがコクレア様だって……?」
    「おれはそう考えた」

    そうローが頷く。
    ……そうこうしている間に、おれたちはピラミッド型の神殿の一番上まで来ていた。

  • 23123/01/09(月) 04:11:26

    というところで今日はここまでにさせていただきます。
    どうかまた保守の方をよろしくお願いします。

  • 24二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 10:29:53

    ラミくんはクリスさん達の記憶の奪い方から恐らくメモメモっぽい悪魔の実の能力者だったけど
    ペンギンを催眠状態にしたり、レミくんに「ラミは海賊に殺された」と思い込ませたり、この島の住人からコクレア様のことを忘れさせたりっていうのは豊穣神が元々持ってた力なんだろうか
    記憶とか精神に干渉する系の事例が多くてじっとりしてていいな……

  • 25二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 19:22:08

    あくまで記憶を弄れるのは能力者だったラミさんの体があるから?
    そうだとするとラミさんは豊穣神の方の依代的な存在になった?弱点を作ることがラミさんの狙い?

  • 26123/01/09(月) 23:12:10

    感想ありがとうございました! いろいろ想像を膨らませてくれて嬉しいです!
    それでは続きを書いていきます!

  • 27123/01/09(月) 23:21:50

    ピラミッドの上に何かしらあるかと思ったけれど、そこは平らになっていて、コクレア様みたいな祭壇とかがあるわけでもなかった。
    そこそこの広さがあって軽く走り回れそうだ。一番上に登ってから少し歩くと、真ん中の部分が少々おかしいことに気付く。
    何故かそこは四角く切り取られているようで、土が詰まっている。シャチと顔を見合わせてから掘ってみるが、中に何かがあるわけでもなく、しばらく掘ったら底が見えたぐらい。
    ……何の意味があるんだ、これ。
    隅々まで調べたが本当に何も出てくることもなく終わった。意味もない飾りなのだろうか? たまたま凹みがあって、土が溜まったのか。

    「うーん……意味がありそうな建物なのに、何も出てこないな……」
    「こう、見るからに、って感じなんですけど」

    二人でうーん、と悩みながら調べまわるが、どう調べても何もない。
    例えばこう、何かしらの壁画が彫られているとか! そこに悪魔を倒す方法が乗っているとか……そんな都合のいいようなやつ……。
    でも、この場所にはそういうの、なさそうだよな。

    「ところで、この建物って、コクレア様のじゃない……だよな」
    「それ、おれも思いました」
    「……おれもだ」

    無言で黙々と調べていたローも会話に参加する。やっぱりそうだよなあ。

    「じゃあやっぱり悪魔のか」
    「形的に墓所……とは違いそうだな。これも祭壇か?」
    「うーん……」

  • 28123/01/09(月) 23:36:38

    結局わからない、という結論に至ったおれたちは、すごすごとそのピラミッドから降りる。

    ちなみにローが“スキャン”で確認したが、中に部屋とか空洞があるわけでもないようだ。

    元々何かしらあったけれど、風化して壊れちまったのだろうか?

    難しいな……。


    おれたちは降りてから、下に残っているものたちのもとへと向かう。


    「ベポ! 敵はいなかったか?」

    「うん。見られている感覚はあったけれど、襲撃はしてこないみたいだ」

    「場所は捕捉されている、か。思っていたけれど、あんまりこう、攻撃はしてくるけどすぐに撤退するよな」


    まるで観察されているみたいだ、と気分が悪くなる。

    辺りは森。相手が攻撃する手段なんて、ひょいと指を伸ばせたすぐに見つかる。

    敵対していないわけじゃない。相手はおれたちを喰おうとしている。けれど、どこか狙いが不明瞭だ。


    「うーん……」


    森を歩き回ってきたけれど、結局あまり本拠地のようなものや、マリーさんが見つかるわけでもなく。

    ……辺りに何かないものかと目線をやった。



    目星ダイス 50以下で成功


    コラさん dice1d100=28 (28)

    ロー dice1d100=66 (66)

    ベポ dice1d100=94 (94)

    シャチ dice1d100=70 (70)

    ホーキンス dice1d100=43 (43)

    クリス dice1d100=45 (45)

  • 29123/01/09(月) 23:54:33

    「――――ん?」

    おれはピラミッドとは反対側の鬱蒼と茂る森。
    そこにぽつんと小さく咲く、可愛らしい白い花を見つけた。

    何故かそれがこの森では異質なほど美しく見えて、目が離せなくなる。

    「あれは……」
    「花?」

    隣でホーキンスもクリスも同じように花を見た。二人の声に反応して、ローやベポ、シャチも同じように視線をやったらしい。

    花が、咲いている。

    花が、

  • 30二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 23:55:32

    え、なに怖い!

  • 31123/01/09(月) 23:55:48



    昔々、小さな■がありました
    美しい■でした
    人々は■を崇めました
    だから■は思いました
    ああ、なるほど
    自分は■■れ、■■れ、■■れる存在なのだと

  • 32二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 23:55:52

    ゾクッとした

  • 33二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 23:56:42

    伏字来たな
    怖い怖い怖いよ……
    続きが気になる

  • 34123/01/09(月) 23:57:12


    縺ェ繧峨?縲∫・槭↓縺ェ繧九?繧ゅ&繧ゅ≠繧翫↑繧

    縺昴%縺ォ逍代>縺ッ縺ェ縺

    逾槭?蜈ィ縺ヲ繧呈懇縺偵i繧後k縺ケ縺阪〒縺ゅj

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    蟠?享縺輔l繧九?縺ッ縲∝ス鍋┯縺ョ縺薙→縺ェ縺ョ縺ァ縺


  • 35123/01/09(月) 23:57:31



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    逶ョ縺ョ蜑阪↓縺ゅk縺ョ縺ッ逾槭↑繧九◇
    縺輔b縺ェ縺上?縺雁燕縺ォ繧よが螟「繧定ヲ九○縺ヲ繧?m縺
    邨カ譛帙?蜻ウ縺ッ縺イ縺溘☆繧芽干縺ョ陷懊?螯ゅ¥

  • 36123/01/09(月) 23:58:41



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  • 37二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 23:59:01

    目を隠せ!!!

  • 38123/01/09(月) 23:59:25




    その瞬間。


    眩しい光が、目を焼いた。


  • 39123/01/10(火) 00:01:56



  • 40123/01/10(火) 00:09:03

    「……ここ、どこだ」

    おれは、むくりと身体を起こす。なんだかひどく頭が重い。
    なにを、してたんだっけ。
    わからない。思い出せない。
    ―――身体中が痛い。傷だらけで、ぼろぼろ。

    「ああ、そうだ」

    そう、そうだった。

    「母上に、ご飯を届けないと」

    軋む身体を持ち上げて、ゴミ箱の中でまだましだった食料を腕に抱える。
    それから家へと戻ろうとしたとき――――

    「おい、いたぞ! 天竜人のガキだ!」
    「追いかけろ!」
    「ぁっ……」

    “ぼく”は慌てて駆け出す。膝は擦りむいたばかりだから、ずっとズキズキ痛くて、それに“ぼく”はドジだから、地面に転がった石に躓いて転んでしまった。
    すぐに大人たちは追いついて、“ぼく”を取り囲む。そして手に持った棒で“ぼく”を打ったり、蹴ったり……。

    「このクズ! 消えろ! 消えちまえ! 死 ね、死 ね、死 ね!!」
    「おい殺すなよ、もっと苦しめろ! おれたちが苦しんだ分まで!」
    「お前のせいで」「お前たちのせいで」「お前ら天竜人のせいで!!!!」

    「ごめん、なさ、」

    ―――あれ?

  • 41二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 00:12:55

    その人にとっての悪夢を見せる力、みたいなものがあの花(豊穣神?)にはある……?

  • 42二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 00:15:04

    成功しちゃダメな方の目星だこれー!!?

  • 43二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 00:16:54

    め、目星付いてない方の3人にワンチャン…?

  • 44123/01/10(火) 00:18:20

    >>42

    >>43

    すみません、全員に対しての強制イベントです……。

  • 45二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 00:19:14

    強制SANチェックかよ…

  • 46二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 00:19:59

    そっ、かぁー……
    腹はくくった

  • 47123/01/10(火) 00:23:58

    いや、違う。違う。今一瞬で脳内が塗りつぶされそうになったが――、そうじゃない!
    おれは確か森の中のピラミッドの前に居た。そこで花を見た。そしたら眩しい光を感じて……そこからの記憶はない。
    だから、これは違う。おれの過去の記憶なはずだ。だって今おれは天竜人でも、ドンキホーテ・ロシナンテでもない。ただの路地裏生まれの薄汚いガキ!

    だから、これは記憶で。夢で。幻覚で。
    なのに、そのはずなのに。

    「っぐ、は……!」

    なんで、痛みを感じるのだろう。

    「お前らのせいで、おれの弟は射撃の的にされて、遊びのように殺された!」
    「娘を返して! 返して! 返してよお!」
    「おれの片足はなあ! 試し切りだなんて言われて斬られたんだ! どうしてくれるんだよ、仕事も出来ねえ……!」

    悲痛な声は、ただのおれへの攻撃意志ではなく、彼らの痛みで、嘆きだ。子どもの頃すべて理解しきれなかったその叫びが、今となっては痛いほど胸に突き刺さる。
    そうだ、彼らは天竜人の被害者だ。
    おれは何もしていなくても、それは彼らの憎悪には関係ない。そう、天竜人が一緒くたに人間を下々民と呼んでいるように、人々はおれたちのすべてを天竜人と言って憎む。

    リプレイされている。“おれ”の意識を持ったまま、““ぼく”として。

    「ッ……!」

    こうしちゃいられない、と地面を転がって逃げ出した。
    後ろから『待て!!』と言いながら追いかけてくる声がある。
    それに確かな恐怖心と罪悪感を覚えながらも、ここから逃げ出す。

  • 48二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 00:28:16

    これ他の人もトラウマほじくり返されているのか……
    フレバンスのトラウマがあるローや過去が過酷そうなクリスさんは心配になるなぁ……

  • 49123/01/10(火) 00:28:32

    胸を押さえながら、ボロボロの状態で走り出す。
    追いかけられるのってこんなに怖かったっけな。そりゃそうだ。確か、毎日が怖くて怖くてたまらなかったよな。
    息が荒くなる。身体が固まりそうになるのを、歯を食いしばって、腕も足も振って、叱咤する。
    今は動かないといけない。敵の攻撃を喰らったんだ。どうにかしてこの夢から覚めないと……!

    そう思っていたら。
    そう、思いながら、走っていたら。
    ―――場面が転換する。

    「……え?」

    気付けばおれは古びた小さな家の中にいた。
    近くには兄上と父上がいて、母上がベッドに横になっている。
    青ざめた顔。それでも気丈に笑う顔……が、どんどん色を失っていく。
    閉じられていく瞼。“ぼく”は必死に母上の名前を呼ぶ。

    「母上っ、母上、母上……! 死なないでえ……!」

    悲しみが心の奥底から沸き起こって、ただただ心が痛みを発する。お腹が減ってることなんてどうでもよかったし、身体の傷なんてちっとも感じないのに、母上が死んでしまった悲しみだけ、つよく、つよく……。

    いや、ちがう。ちがうのに。

  • 50二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 00:30:27

    これ他のメンバーもキッツイぞ…

  • 51二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 00:32:36

    ローが言ってた強烈な光ってこれのことか?
    しかも記憶失う系じゃんやばい

  • 52123/01/10(火) 00:35:43

    正気に戻ったおれは、ベッドから離れて部屋から出ようとする。
    後ろから父上と兄上の声が聞こえたが、気にしていられない。
    違う。そうじゃない。おれはこの世界から出ないといけないのに……!
    そう、思って。
    扉を開けて。

    ―――身体が、焼ける感覚がした。

    「あ゛ぐッ……!」

    背中が酷く熱い。身体が、腕が、足が。そう、確かまるで高温で熱せられたように、壁が熱くて。
    目の前が火の海で、舐めるように足元に迫る。
    ちがう、やだ、こわい、こわい、こわい! なんで、こわい! 
    人の憎悪が、怒りが、悲しみが。すべてが自分に向けられる。
    兄上の悲鳴! 矢が刺さった! “ぼく”にも向けられる! 苦しめようとしてくる!

    「あいつらのせいで!」「おれの娘が」「息子が」「夫が」「妻が」
    「同じ思いを味合わせてやる」「苦しめてやる」「楽に殺してやるものか!」「お前らが憎い!」

    「やだ! ころして、もう死にたいよォ……!」

    本当は辛いのだ。あんなに平和に暮らしていたのに、それが急にぶち壊されていく。
    腐った料理を食べるのも、たくさんの人に追いかけられ、囲まれてボロボロにされるのも、憎まれるのも、誰も助けてくれないのも、母上が死んだのも、こうして、父上も、兄上も傷つくことも、
    世界のすべてが、怖い……!

    (―――いや、ちがう、ちがう、ちがう! 正気に戻れ! 飲み込まれるな、そうじゃない!)

  • 53123/01/10(火) 00:44:15

    頭の中がぐちゃぐちゃになる。“おれ”と“ぼく”の記憶が混ざり合って、正気と狂気の間をさ迷うような混迷した思考回路。
    過去をほじくりだされてリプレイされる。しかも、正確に。痛みすら感じさせて。
    休ませることなく、立て続けに。

    (これが、あいつののうりょくだってのか)


    そして今、目の前に、父上へ銃を向ける兄上が、そこにいる。
    もう兄上が、ドフラミンゴが後戻りできなくなった、最初の一歩。
    おれはそれを防げることなく、兄を悪の道へと進ませてしまった。そして――おれはそこから、逃げて……。

    「私が父親で、ごめんな」

    “ぼく”が止める間もなく、兄は父への恨みを吐きながら、引き金を引き――父の頭が爆ぜる。それを目の前で見せられ、呆然として、


    ――――――そして、また最初の場面に戻される。

    「え、」

    おれの手の中には、ゴミ箱の中で見つけた、まだましな食料。
    そしておれは家に戻ろうとする。そうするのが当然のように。

    「おい、いたぞ! 天竜人のガキだ!」
    「追いかけろ!」
    「―――――ああ」

    なるほど。

    「悪夢だ」

  • 54二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 00:45:42

    ループすんのかよ…

  • 55二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 00:46:04

    改めてドンキホーテ一家のダイジェスト過酷過ぎる……
    “ぼく”の時6歳~8歳かぁ……

  • 56二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 00:47:19

    ローが心配になるな
    故郷壊滅とコラさん死亡をループで見せられてるでしょ

  • 57二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 00:48:07

    コラさんの「悪夢だ」でゾワッとした、絶望感が半端ない
    相変わらずすごい文章力だ

  • 58123/01/10(火) 00:50:22



    「おい、だからこれ何がどうしたんだよ!」
    「わからん。調べている」

    何が起こったか到底わからないが。どうにもこうにも、何かが起こったらしい。
    おれは急に倒れてしまったキャプテンやコラさん、ベポにクリス。そいつらの身体を揺さぶったり、意識の有無を確認したりしながら、――襲撃してくるつるに対して対処しているホーキンスに、半ば八つ当たりのように問いかける。

    「意識の混濁が続いている。覚醒の兆しはまったく無い!」
    「やつの催眠か。……少なくとも全滅はしなくてよかっただろう」
    「良くねえよ! なんでお前なんかと! ……あーくそ、助かってるのがむかつく!」
    「今はお互い様だ」

    ああくそ、腹が立つ!
    ……にしても、認めたくないものだ。
    いや、正直助かってるのはマジだけど。

    「おれとお前がサングラスかけてたから助かったってマジかよ……ヘンテコなサングラスかけてるやつと同じって……」
    「占いでそう出たからな」

    ―――そう、あの花から眩しい光が出た。多分、あれが敵の力なのだ。
    そして、その光を軽減するサングラスをかけていたから、おれたちは無事だった。
    ……そんなのありかよ!

  • 59二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 00:51:42

    >>56

    両親死亡にシスターと友達死亡に病院が燃える光景、ホワイトモンスターと怖がられる日々とコラさん死亡のループとかキツすぎんだろ…


    あとサングラス掛けてたら無効ってマジで!?

  • 60二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 00:52:07

    ホーキンスのトンチキサングラスがしっかり仕事してる…!
    ラッキーアイテムすげぇ……

  • 61二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 00:53:35

    帽子を目深くかぶっても防げないのだろうか

  • 62二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 00:56:35

    ホーキンスの占いすげぇなマジでwww
    見聞色の未来予知並みに便利で草

  • 63123/01/10(火) 00:59:16

    「にしても、サングラスで催眠が防げるって可能なのか?」
    「催眠に関しては、一定の手順が必要だ。それをあれは眩しい光を介して行っていた。そこに多少の不備が出れば、不完全になる。不完全な催眠は破りやすいものだ」
    「……となると、完全な催眠にかかったであろうキャプテンたちは?」
    「まともにかかったなら、まず解くのは難しいだろうな」

    ううう~~!!とおれは歯噛みする。ひとまず、全滅は避けられたけど、それでもこの状況はよろしくねェ!
    全員が全員、苦しそうな顔をして、苦し気な声をあげている。どうみたって何かしら悪いものを見せられている。
    ペンギンにはそういう様子はなかったことから、恐らくあいつは普通に意識が混濁しているだけで、四人のようにはなっていないのだろう。それだけは幸いだけど……この現状は幸いじゃねェな。

    花は明滅をずっと繰り返している。不完全であるおかげでおれたちはかかっていないが、隙あらば催眠をかけるつもり満々だあのクソ花。
    おれが叩っ斬ろうとしたら、ずぼっと地中に潜って、また違う場所に生えやがった。……自由に動けるのかよ!

    最悪だ。すべてにおいて最悪だ。残っているのがホーキンスなのも、みんなが催眠にかかったのも、その催眠を解く方法がわからねェのも!
    大ピンチじゃねェか、これ……!

    くそっ、と吐き捨てながら、ベポに迫りくる木のつるを薙ぎ払った時だった。

  • 64123/01/10(火) 01:26:00

    ―――すぐそこにおれたちではない、誰かがいる。
    いや、そうじゃない。神父服をきっちりと着た、丸眼鏡はかけておらず、傷もない、先ほどの―――、

    「ッてめェ……!」

    いつの間にかコラさんの傍に男がしゃがみ込んでいて。そいつ――紛れもないラミは、困った顔でおれを見ていた。

    「おい、コラさんから離れろ!」

    おれは激高しながら叫ぶ。……すると、やつはハルバードを振るう前に、素直に離れる。
    手にはコラさんが持っていた例の手帳。……あいつ、何を!

    「おい、それを返せ!」

    まさか奪うつもりか!と再度ハルバードを振るうために構えると、ラミはコラさんのすぐ近くに手帳を置いて、そのまま文字通り消えていった。
    まさかコラさんに何かしたのか……!?と慌てて駆け寄る。
    ……特に外傷はなし。何か細工でもしたのだろうか?

    「おい、一人でどうしたんだ」
    「は!? 今ラミがそこにいたんだよ!」
    「……? おれには、お前が一人で騒いでいたようにしか見えなかった」
    「はあ……?」

  • 65二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 01:32:42

    んん……?ホーキンスには見えなかったのか

  • 66二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 01:32:57

    ラミくんのオバケ…!?

  • 67123/01/10(火) 01:37:03

    なんだそれ。ホーキンスがくだらないことでも言っているかのように思えたが……どうにも、嘘をついているようにはみえない。
    おれにはラミがコラさんに危害を加えようとしていたのだと思ったのだが、やつが触っていたのは手帳。
    ……。
    その手帳を手に取る。
    そして、再びその内容を読もうとして――目を見開く。

    「……読めるように、なっている?」

    一部分だけだが、消えかけたり、掠れたりしていたところが見えるようになっていた。
    何度も確認したが間違いない。
    ――修復されているのだ。不思議なことに。

    「まさか、あいつがやった……とか」

    罠なのかもしれない、と思ったが。でも、そうじゃないかもしれない、とも思った。
    あの困った顔にどうしても悪意のようなものがあるなんて見えなくて。でも、もしそうだとしたら。あいつは。
    ……いや、今は良い。
    とりあえず、この情報をホーキンスに共有する。
    まことに悔しいが。……あいつの方が、頭がいい。

  • 68二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 01:42:08

    私情をぐっと飲み込むシャチえらい
    物体(手帳)に干渉できてるあたりただの幻覚の類いではなかったのかな、本物のラミくん幽霊…?

  • 69123/01/10(火) 01:49:51

    「……てなわけで読めるようになってたんだよ!」
    「にわかに信じがたい話だが、そうもいってられまい。なんて書いてあったんだ?」
    「一言余計なんだよ!」

    でもおれも信じがたい話ってんのは正直わかる。今だに意味がわからねェし……。

    「読めるようになっていたのは、この部分だ。

    “その■■は■の■■に他者を無理やり引きずり込む”、“■■するために引きずり込んだものを■の■■でその人にとっての■■を見せ。弱らせるのだ”
    “ただし、双子であればその精神の繋がりによって片方の■の■■に入り込むことが出来る”

    これが、

    “その植物は夢の世界に他者を無理やり引きずり込む”、“捕食するために引きずり込んだものを夢の世界でその人にとっての悪夢を見せ。弱らせるのだ”
    “ただし、双子であればその精神の繋がりによって片方の夢の世界に入り込むことが出来る”

    ……こうなった。

    「つまり夢の世界、って……」
    「なるほど、悪夢か。今こいつらが見せられているのはそういうことだな」

    ホーキンスは容易く納得する。……するしかねェか。この限りなく情報がない中で、意味不明な何かによって齎されたそれに、賭けるしかない。
    ……けれど、意味不明なのも確かだ。

    「双子ならば入ることが出来るって……」

    レミとラミみたいな……?

  • 70123/01/10(火) 02:04:37

    「……………………………」

    ホーキンスが何かを考え込んでいるが、おれはそれどころではない。

    ――“双子だけは助かる理由は精神の繋がりがあるためである”

    これ、つまり、今の状況で助かる理由だってことだよな?
    双子なら夢の中に入って連れ戻せたり、どうにか出来るかもしれない。……だが生憎自分は誰とも血が繋がっていないし、双子だった覚えもない!
    ギリ兄弟同然に育ったペンギンなら……、いや同然なだけで、双子じゃないし血の繋がりもない。無茶だこれ。

    「どうすんだよこれ……!」

    いやでも、手帳に書かれたことだけがどうにかするために方法というわけじゃないかも知れない。
    他にも何か、助ける方法が見つかるはずだ。そうじゃなければ……!

    「……繋がりを、」

    その時、ホーキンスの声が――どこか遠慮がちに響く。
    デリカシーの欠片もないこのマイペースな男がそんな風に気を使ったように話しかけてきて、少し面食らう。

    「繋がりを作ることなら、可能かもしれない」
    「っ!? どういうことだよ、それ」

    何、双子になれんの? ……エッ、キャプテンと双子になれるんだったら嬉しいかもしれねえ……!

  • 71二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 02:07:09

    こんな状況なのにキャプテンと双子になれる可能性に喜んでるシャチ笑う

  • 72123/01/10(火) 02:12:45

    「双子にはなれない」
    「あっさいですか……ならどうするんだよ!」
    「おれの能力だ」
    「……はあ?」

    お前の能力でどうやって!と叫びながら、まとまって襲い掛かってくる木のつるを切り捨てる。
    話している最中だってのに、こいつらうぜェなあ!
    半ばキレながら戦っているうちに、おれの背中とホーキンスの背中がぶち当たる。けっ、こいつと背中合わせに戦うなんて、ついてない話だ。

    「藁人形(ストローマン)……おれの悪魔の実の能力で、お前たちの藁人形を作る。この藁人形を使えば、おれに対する攻撃は、藁人形――つまりお前たちに降りかかることになる」
    「はぁ!? 急にそんな話をするってェとなんだ!? おれたちを身代わりにするって!?」
    「話を最後まで聞け。その能力を発動した状態で、おれが催眠にかかりに行く」
    「……」

    その催眠を、身代わりに。
    ホーキンスがかかった催眠を、“全員分に”。
    繋がりが出来ると言っちゃ……出来るかも、知れない。
    何が言いたいのかわかったもんで黙り込んだおれに、ホーキンスは満足そうにする。

    「理解が速いな。流石トラファルガーの船員だ」
    「当たり前だ。……でも、そんなの可能なのか?」
    「……わからない。現に、黄猿の攻撃、…目つぶしのような光を防げなかった覚えはある」
    「おいそれって」
    「だが、他に方法が思いつかない」

  • 73123/01/10(火) 02:28:06

    それは……確かに、そうだ。
    おれたちは双子ではないし、血の繋がりもない。家族よりも深い絆はあるぜ!……と言いたいところではあるけれど。

    「一か八か。もし、無駄だったらおれが催眠にかかるだけ。……お前に判断を委ねる。ほぼお前の船員だ」
    「ま、クリスは違うけどな。……はあ、最悪だ」

    信用ならないホーキンスの能力に委ねないと、光明の一手もないとは。全く最悪な話だ。とんでもなく不幸な話だ。
    はー…と大きく息を吐く。息を吐いて、吸う。それを繰り返す。
    ホーキンスがしくじったら、おれはおれ以外の全員を守りながらどうにかしなきゃならねェってか。腕が鳴る話ってやつだな。
    にやり、と笑って見せる。笑うくらいしなきゃやってられねェ!

    「しくじるなよ、バジル・ホーキンス。てめェは大嫌いだが、キャプテンと同じ最悪の世代の一員だ」

    ―――賭けに乗ってやるよ、魔術師。

    「絶対に成功させろ。……おれが、みんなを助けに行く」

    そんなおれの啖呵に、ホーキンスはわずかに笑った。

    「ああ、頼んだ。おれも仲間に会いに――生きて帰らねばならないからな」

  • 74123/01/10(火) 02:30:52

    主 人 公 交 代
    というわけでしばらくシャチが主人公です。
    こういうの好き侍。

    ……といったところで今日はここまでにさせていただきます。
    感想いつも助かってます。ありがとう。
    また明日投下するので、保守のご協力お願いします。

  • 75二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 10:07:28

    オワアアホーちゃんとシャチがカッケェ…!!!
    2人ともガンバレー!!(ペンラフリフリ)

  • 76二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 17:02:16

    ロシナンテくん視点の幼少期パートお辛すぎるし他のメンバーも辛い過去の在庫には困らんだろうな…って思ったくらいでクオルくんが船に留守電で本当に良かったなになりました
    ロー並の激重過去をつい最近飲み込み始めたばっかだもんなお前さん…

  • 77二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 18:07:40

    手鏡は!?手鏡て催眠反射ワンチャンない!?

  • 78二次元好きの匿名さん23/01/11(水) 00:38:37

    クオル達の方どうしてるかな~と思ったけどそうだな今一番こういう精神攻撃に晒しちゃいけない奴すぎてお留守番で良かった本当に…
    ギスってたシャチとスルー気味のホーキンスの一時的な相棒関係みたいなのグッときちゃったホーキンスはずっと頼りになるしシャチはずっとかっこいいよ頑張れ…

  • 79123/01/11(水) 00:39:24

    感想保守ありがとうございました。
    好きな展開自由にやってるなあ!とのびのびやりつつ、安価のことを時折忘れてます。
    まぁコクレア様が出来たのは安価のおかげだし……と思いながら開き直ります。

  • 80123/01/11(水) 01:00:07

    ホーキンスが能力の発動のための準備を行う。
    まったくもってあいつの能力にかかるなんて不本意! 極まり! ねェけど!
    四の五の言ってられねえ状況だってのはわかるし、猫の手でも、藁の手でも掴みたいところだ。
    ――あいつらを、助けるためなら。
    おれの好き嫌いも、プライドも、どうだっていい。なんだって捨ててやるさ。

    「……能力発動の準備は出来た。いつでも出来る」
    「了解。あとはお前が花の光を浴びる。それで、おれも催眠に落ちる」
    「その先はどうなっているかはわからない。後はお前に任せるしかない」
    「……おれが催眠にかかった後も、おれらの身体の無事はてめェにかかってる。……催眠は仕方ねえけど他の攻撃は身代わりにさせるなよ!?」
    「手間のかかることを言う。ほどほどに努力しよう」
    「ほどほどってなんだ手を抜くんじゃねーよ!」

    ああ、この妙にマイペースな具合が腹立たしいな! ただおれが嫌いなだけだけど!
    息を、吸って、吐く。
    失敗した後のことなんて言わなかった。
    無謀な試みだとわかっていても、それしかないと知っていたからだ。
    ――この化け物の腹の中。死相とやらが全員に浮かぶ、死が差し迫った状況の中。

    それでも、笑う。苦し紛れに。自分を鼓舞するように。

    「頼む、ホーキンス」
    「ああ、任された」

  • 81二次元好きの匿名さん23/01/11(水) 01:04:00

    うおおお!胸アツだな

  • 82123/01/11(水) 01:55:17

    ホーキンスが悪趣味なサングラスを外す。そして、今だ変わらず光を放出し続ける花をその目で直視する。

    「――――藁人形(ストローマン)」

    ――瞬間、身体が傾く。
    けれど、キャプテンたちのようにすぐに意識を失うのではなく、若干のラグが自分にはあるような気がする、のだ。
    ホーキンスから、おれに伝わるまでの間。その誤差。倒れる瞬間――ホーキンスに支えられて、なんとも言い難い気持ちになるけれど。

    (成功、した。ホーキンスと全員が繋がった状態で)

    だから、行ける。例え双子だとかの精神の繋がりはないとしても。傷を押し付けられるようなくそったれの繋がりがホーキンスを介してあるはずだから。

    (助けに行く、キャプテンも、ベポも、コラさんも、あとクリスも)

    (――――ペンギンも)


    そう思いながら、おれの瞼はそのまま閉じる。
    地面に横たえさせられるような感覚を最後に。
    おれの意識は―――夢の中へ、落ちていく。

  • 83二次元好きの匿名さん23/01/11(水) 02:07:56

    シャチ〜!頑張れ〜!!!!

  • 84二次元好きの匿名さん23/01/11(水) 02:11:24

    シャチかっけえよ…お前が主人公だ

  • 85123/01/11(水) 02:15:48



    「適材適所、だ」

    シャチの身体を丁寧に地面に横たえさせ、――同じく、寝転がっている五人を守るように、森から迫りくる木のつるや、先ほど出てきた草の蜘蛛、または植物を纏った、昆虫を象ったような異形など、森からいくつも湧いて出てくるそれらに、ホーキンスは対峙する。
    鬱蒼と茂る森の中。自分以外は夢の中。つまり孤立無援。相手は恐らく、神に似た何か。
    全く、本当に厄介なことになったものだ、と彼は思う。思えばうっかり船を離れとある島に漂着してしまったせいだが……。

    まあ、何。
    今ここに倒れているものは、本来敵同士ではあるが、それでも今はこの島から生きて出るための手駒。情などなく、自分が仲間のもとに戻るために勝手に協力関係を結んだまでのこと。
    向こうこそホーキンスを嫌っているだろう。信頼などもなく、本来守るような義理はない、が。

    ―――『頼む、ホーキンス』

    ……まあ、何分。いくらマイペースだと言われようが。
    彼は、律儀な性格であったので。

    「……“降魔の相”」

    ホーキンスの身体が変化していく。手が、足が、ほどけ、まとまり、藁へと変質していく。身体が変化していくに応じて、どんどんと巨大になっていく。
    何、海賊が神にくらい勝てずしてどうする。
    我らは海のならずもの。世界に敵を売る存在なのだ。

    「さて、我らを喰わんとする悪魔よ。お相手願おうか」

    「少なくとも、この場にいる誰にも―――傷ひとつ、つけさせまいさ」

  • 86二次元好きの匿名さん23/01/11(水) 02:21:31

    あかんホーキンスかっこいい(何もあかんくない)

  • 87123/01/11(水) 02:39:50

    おれの身体は沈んでいく。まるでどんどん深海へと向かっていくように身体が重くなる。それをおれは確かに知覚する。
    ……それが、なんだってんだ。おれは極寒の北の海、荒波と共に育ってきた。
    巻ける理由がどこにある。
    おれは動かない身体を、無理やり動かす。まるで夢の中のように、身体を一つ動かすだけでも重く―――いいや、違う。夢の中なのだから、自由に動けてしかるべき。

    この先、沈み切ったらいけない気がする。それこそ、おれ自身が悪夢の世界に閉じ込められちまうような予感。
    忘れちゃいけないんだ。おれは、みんなを助けに来た。

    繋がれ。
    繋がれ、繋がれ、繋がれ!

    必死に頭の中で念じる。腕で、水を掻く。そうするとわずかに浮上した気がする。
    おれはハートの海賊団のシャチ。海の中はおれたちの独壇場。ここで波に乗りきらずして誇れるかよ!
    歯を食いしばる。腕の骨が軋むような感覚がする。けどんなもんは錯覚だ。ここは海の中。おれが泳げないはずがない。

    だんだんとひと掻きで進む距離が長くなる。だんだん前へ進んでいく。ただただ沈む自分の世界より、違う世界へ。みんなの場所へ。誰かの悪夢へ。
    届け。繋がれ。頼むから、どうか。

  • 88123/01/11(水) 02:40:11

    ―――――そして、その手が。


    扉のようなものに、触れた。

  • 89123/01/11(水) 02:41:12

    今回は短めですがここまでにさせてください。
    シャチとホーキンスを絡ませるのは二次創作での醍醐味。
    なおこの時空はワノ国通ってるかどうかあやふやです。あやふやったらあやふや。
    またどうか保守のご協力をお願いします。

  • 90二次元好きの匿名さん23/01/11(水) 12:20:31

    お疲れ様ですー!
    ホーキンスとシャチがカッコ良すぎてあわあわしっぱなしです

  • 91二次元好きの匿名さん23/01/11(水) 13:05:27

    すごく面白い……!
    頑張るシャチも律儀なホーキンスもカッコいい!

  • 92二次元好きの匿名さん23/01/11(水) 23:02:43

    シャチもホーキンスもカッコよすぎる。
    シャチ頑張れー‼︎

  • 93123/01/11(水) 23:48:57

    保守兼感想ありがとうございます!ホーキンスとシャチが応援されていて嬉しい。

    今日は更新できても少し、または遅くになりそうなので、今からちょっと安価を出させていただきます。


    これからシャチはそれぞれの夢の中に潜り込みますが、それぞれの夢の中のモチーフをいくつか安価で決めたいと思います。

    例:ローなら雪 など

    モチーフによってはこれからの描写の中でイベントが減ったり増えたりすると思います。

    ちなみに既に入れることが決定しているモチーフもあるのでご了承を。

    なおクリスも安価で募集していますが、彼に関してはお好きなモチーフを入れてもらえると、こねくり回します。


    コラさん >>94 >>95

    ロー >>96 >>97

    ベポ >>98 >>99

    クリス >>100 >>101

    シャチ >>102 >>103

  • 94二次元好きの匿名さん23/01/11(水) 23:57:31

    痛み

  • 95二次元好きの匿名さん23/01/11(水) 23:58:58

  • 96二次元好きの匿名さん23/01/12(木) 00:02:20

    白(珀鉛病や雪)

  • 97二次元好きの匿名さん23/01/12(木) 00:03:44

    銃声

  • 98二次元好きの匿名さん23/01/12(木) 00:06:07

    孤独

  • 99二次元好きの匿名さん23/01/12(木) 00:15:33

    小舟

  • 100二次元好きの匿名さん23/01/12(木) 00:16:42

    虐待

  • 101二次元好きの匿名さん23/01/12(木) 00:17:27

    少年兵

  • 102二次元好きの匿名さん23/01/12(木) 00:17:28

    オルゴール

  • 103二次元好きの匿名さん23/01/12(木) 00:17:57

    虐待

  • 104二次元好きの匿名さん23/01/12(木) 01:15:18

  • 105123/01/12(木) 01:16:58

    その扉に触れた瞬間、おれはその扉に激しい異質さと違和感を覚えた。
    押し付けられるように湧き起こってきたそれに一瞬混乱したが――それは、当然だ。
    今おれは自分自身の悪夢の中に落ちようとしているんだと思う。催眠によって自分の意識を漂いながら、やつによって操作された悪夢の世界に運び込まれようとしている。でも、つまりそれは、全部自分の中で起こることだ。
    だから、この扉に触れた瞬間の異質さとか、違和感とか。そういうのって――別のところに繋がっているから、じゃねェのか。

    まあ、いい。やることは決まっている。怖気づく暇なんてない。今おれの肩には全員の命が被せられてるんだ。
    開けた先に何があるかわからないし、どうなっているのか皆目見当もつかない。
    それでも――やるしかないんだ。
    おれはその扉を開ける。けれど、少し開いたと思ったら、まるで拒絶するように閉められる。
    ……そりゃそうだ。誰かの心の中に入ろうって話だろ、これ。嫌がられるよな。

    「……でも悪いな。何がどうあれ、お邪魔させてもらうぜ」

    誰の世界かわからねェが、夢から覚ましてやる!
    扉は重たい。重たくてたまらねェけど、そんなの知ったこっちゃねェ。
    おれは力いっぱいその扉を押し開ける。そしてそのまま――中へと、飛び込んだ。

  • 106123/01/12(木) 01:29:56

    そして気付いたら――――おれは、海の中にいた。
    元の場所に戻ったのか、と思ったけれど、さっきまでいた海はだいぶ荒れていて、重苦しくて、水も冷たかった。
    けれどこの海はだいぶ穏やかで、静かだ。
    魚もいない。ましてや海王類さえも。そりゃいねェ方がいいけど。さっきまでいた海にもいなかったし。
    けど、何故か。この海にいると、ずっと心が冷える。なんだか空っぽになったように思える。

    海中をしばらく泳いでいたけれど、特に何もない。海の上を見上げると月の光が注いでいるようで、だいぶ穏やかな海面の模様が揺蕩っている。
    ここが誰の夢なのか――悪夢なのかもわからねェし。ともかく、浮上してみるか、とおれは上に向かって泳ぐ。
    泳いでいたら、上に何かあるのがわかった。陰になっていて見えにくいが、あれは小舟だ。
    ぎしり、ぎしりと揺れ動いているそれは、その場で動くだけで進むことも戻ることもしない。
    ……誰か、いると思った。だからおれは、その小舟に向かっていく。

    そのまま海面から顔を出すと……小舟に乗っている、小さなシロクマが、そこにいた。

    「……ベポ?」

    ベポ…ベポだな! シロクマなのお前だけだし!
    案外あっさり会えたことにほっとしつつ、おれは小舟の上に乗り込む。
    ……にしても小さいな。腕に抱え込めるほど小さい。この小ささはおれ自身が子どもの頃に見覚えがあるが……いや、その時よりも小さい気がする。

  • 107123/01/12(木) 01:36:54

    「おい、ベポ! 大丈夫か? にしても可愛い姿になったな」

    おれは半ばからかうようにそう言ってみる。言ってから『シロクマですみません……』って落ち込むだろうか、と思ったけれど、予想に反してベポは動かない。
    ずっと蹲って、顔を膝の間に押し込んで、手で耳を押さえている。

    「……おい、大丈夫か?」

    何度声をかけてもその状態のまま動かないから、おれは不安になってベポを揺さぶる。
    意識がないわけじゃないようで、そうするとさらに縮こまる。
    ……まるで自分を守るようだ。
    そんな姿を見て、かつてベポをいじめていた時のことを思い出して罪悪感に苛まれる。
    い、いやあれ許してもらったし! ……許してもらっても、しちゃいけないことだったけど……。
    でも、その時のことを思い出しているのだろうか? 悪夢ってことは。
    そりゃ、いじめられるの嫌だったろうしなあ、とどうしたもんか悩んでいると……、近くで、ぼちゃん!と何か大きいものが落ちてくる音がした。

    そして、その音が聞こえた瞬間ベポの身体がびくん!と震え、さらに縮こまる。

    「お、おい、ベポ、どうしたんだ?」

    ていうか今落ちた音ってなんだ……?と辺りを見渡す。
    すると、海の上にぷかりと浮かんでいるものを見つけた。

    あれはいったい、と目を凝らして、―――そして、大きく見開く。

    「……死体?」

    身を投げ出し弛緩した身体。血まみれで傷だらけのそいつは、シロクマの姿をしていたけれど、ベポではない。

  • 108123/01/12(木) 01:47:28

    ぼちゃん、ぼちゃん、ぼちゃん!
    上から何かが降ってくる音が延々と続く。
    嫌な予感がして辺りを見渡すと……、そこには、同じ死体が、いくつも、いくつも浮かんでいる。

    ぼちゃん、ぼちゃん、ぼちゃん
    ぼちゃん、ぼちゃん、ぼちゃん
    ぼちゃん、ぼちゃん、ぼちゃん

    その音は止まることなく、ずっと、ずっと、死体を海に落とし続けていた。
    同じ顔のシロクマの死体が、ただただ増えていく。

    「な、なんだこれ……」

    思わず動揺の声を漏らす。いや、仕方ないだろ、これ。
    シロクマだけれども、それはベポではなくて、でも少しだけベポに似ていて、でもベポより歳を重ねている男で。
    だから、それが誰だかわかった。いつかの日、ベポの口から教えてくれたから。

    「……ベポの、兄ちゃん……」

    そうだ、名前はゼポ。ベポが大好きだった兄貴だ。
    そんな、ベポが大好きだった兄貴が……ただただ何体も、海面に浮かんでいる。

    「なんつー……悪趣味な……!」

    ああ、わかる。わかったさ!
    まさしく、正しく、これは悪夢だ。思い知った。あの悪魔は、人に悪夢を見させてマジで心をぶっ壊そうとしてきやがる!
    この行動になんの意味があるのかわからない。どう考えても、悪意があるとしか思えない所業。
    舌打ちをしながら、ゼポが降り続く空を見上げる。
    やけに月が奇麗なのが、ひどく腹立たしかった。

  • 109123/01/12(木) 02:03:43

    というところで今日はここまででお願いします。
    安価のご協力、ありがとうございました。そのモチーフを持って書いていきます。
    ちなみに悪夢だけど過去のことをリピートし続けるのではなくて、アレンジも対応している様子。
    また保守のご協力をお願いします。

    ちなみにもしここにクオルがいたら、自分だけ無事な場所で故郷の街で延々と街の人や先生が燃やされ続ける光景を見たりするし、森の奥に逃げてきた、先生に見つかる寸前の自分を延々と殺し続けることを繰り返します。殺したらもう先生には会えないのに、衝動が止められず、その度絶望するだろな。
    だけど、もしアレンジ加えて先生が『お前のせいでおれは死んだ』なんて言わせようものなら『先生はそんなこと言わない』って対抗可能です。疑いようもない弟属性甘えた野郎は受けた愛は疑わないので……。

  • 110二次元好きの匿名さん23/01/12(木) 02:08:27

    アレンジに対応してくる悪夢とか最悪過ぎる…

  • 111二次元好きの匿名さん23/01/12(木) 07:25:15

    うわぁ悪夢がお辛い…

  • 112二次元好きの匿名さん23/01/12(木) 12:14:45

    コラさんの実体験リピートに比べてベポの悪夢が非現実的でこういうのもあるのかって慄く…
    クオルはロシェさんに愛されてる事だけは深層心理でもずっと疑ってなかったもんねそうだよな…下手なアレンジは逆効果になる事もあるの設定が面白い

  • 113二次元好きの匿名さん23/01/12(木) 15:20:06

    これもしかしてシャチは最悪5人分の悪夢を見ることになる……? 
    きつそうで一刻も早く催眠というか悪夢から抜け出さなきゃいけないんだけど無理もしないでほしくなる

  • 114二次元好きの匿名さん23/01/12(木) 16:31:09

    このレスは削除されています

  • 115二次元好きの匿名さん23/01/12(木) 16:47:49

    >>113

    ベポ助けたらベポが仲間に加わるかもだし…

  • 116二次元好きの匿名さん23/01/12(木) 21:24:47

    スレ主のお辛い展開容赦の無いとこ好きです!!でもつらいです・・・まあ辛い展開は原作でもあるあるだから(震え声)

  • 117123/01/12(木) 23:44:13

    保守兼感想ありがとうございます!
    記録再生じゃなくて悪夢なので、割と変幻自在です。
    シャチには大変な目に合ってもらいつつ格好よくさせたい。
    あと思いついたのでこの場の空気を軽くするワン学パロ小ネタなんですけど、アフロミンゴの部活(?)の顧問はコザーです。勝手に名前とハンコを使われました。
    それでは続きを書いていきます!

  • 118二次元好きの匿名さん23/01/12(木) 23:53:33

    顧問コザーなのか…
    そうか海兵だから先生枠なんだな可哀想に…

  • 119123/01/12(木) 23:59:55

    「おい、ベポ! ベポ、しっかりしろよ!」

    おれはベポを揺さぶる。こんな場所にベポを居させたくない。こんな、ベポの大好きだった人の死体が溢れかえる世界に。
    ここは、海も穏やかで、月も綺麗だ。なのにこんなにうすら寒くて、寂しさを感じる理由がわかった。
    ベポ以外、ここには何もない。
    ……いや、正しくは、ベポとゼポの死体以外、ここにはない。
    まさしく悪夢だ。ベポはそんなに孤独が好きじゃない。好きじゃないからこそ、ゼポを探しに行こうとした。大好きな人と離れるのが寂しかったから。
    なのに、今ここにいるのが、その会いたかったゼポの死体ってどういうことだ。
    ただでさえ、死んだことを認めたくなかっただろう。それなのにこうして、否応なしに溢れかえらせて、直視させようとする。

    ――そうか、だからベポはここで蹲って、見ないようにして、ぼちゃんと海に死体が落ちる音も聞かないように耳をふさいでいたのか。

    「ベポ……」

    小さくなった、子どもの身体は頑なだ。自分を守るために蹲って殻に閉じこもっている。こんな光景を延々と見させられ続けたとするなら……当然だ。
    おれは悔しくて、悲しくて、腹立たしくて。小さいベポの身体を抱きしめる。
    どうやったら、この悪夢を覚まさせてやれるんだ。

  • 120123/01/13(金) 00:15:29

    ――“かなしい”、“かなしい”、“かなしい”

    ふと、幼い声が聞こえてくる。
    まるで頭の中に響く声だ。
    それは確か昔聞いたことがある……ベポの子どもの頃の声。
    思わずベポを見る。見る、けれど、声を発しているようには思えない。
    ……というか、頭の中に響く声だと思ったのなら違うだろ。
    ここが……ベポの夢でもあるのなら。ベポの記憶が、意識が、直接反映されているのかもしれない。

    ――“おいていかれる”、“しらないところでみんなしぬ”、“みたくない”、“ききたくない”、“おいていかないで”

    ぼちゃん、と激しい音が聞こえる。
    近くで聞こえたその音に思わず反応して、息を呑む。

    キャプテンが、そこに死んでいる。

    ――“ひとりになりたくない”、“なかまはずれはいやだ”、“おいていかないで”

    死体が増えていく。キャプテン。ペンギン。ジャンバール。イッカク。クリオネ。ハクガン……元からいた仲間たちの他に、コラさんや、クオルまで。
    折り重なるように死んでいる幾つもの『おれ』が、波間に漂う。いつの間にか船の周りは死体で溢れて、どこにも行けそうにない。

    「……とんでもねェ、光景だな」

    おれの気が滅入っちまいそうだよ。

  • 121123/01/13(金) 00:37:53

    いつの間にか海が見えなくなるくらいまでぎゅうぎゅうに死体が浮かんでいる。
    見たくもねえ光景がこんなにも広がっているし、いまだに上から死体が降り続けている。
    どうにかしないといけないと思うのに、どうすればいいのかわからなかった。ホーキンスにあんだけ堂々と啖呵を切ってここまで来たってのに、おれってやつは。

    小さいベポを抱きかかえながら、おれはどうすればいいか途方に暮れる。
    言葉で伝えても、ベポはきっと聞いてくれない気がした。
    だって、ここまで頑なに耳を塞いでいる。抱きかかえても反応なしだ。

    「ベポ……」

    あるのは深い悲しみと、恐怖と、孤独感。辺り一面に広がる、恐ろしい悪夢。
    どこにも行けない。閉塞感で喉が詰まる。言うべき言葉も見つけられず、何もできないおれは無力だ。
    ……ダメだ、おれが落ちこんだり暗くなったりしてどうする。今つらいのはベポだろう。

    ここから脱出しないといけない。少なくとも、こんな海にベポを居させられない。

    何か、何か、方法はないのかよ!

    「……いっそ、おれが泳いで、」

    遠くまでベポを連れて行ってやろうか、と思った瞬間。

    ――何かに導かれるように顔を上げる。
    船の舳先。しかも小舟だからそんな場所に立ったら、バランスを崩してあっという間に船はひっくり返りそうなものを、びくともせず、微動だにせず、そこに立つ神父服を着た、青年がいる。

  • 122二次元好きの匿名さん23/01/13(金) 00:43:31

    神父服…?

  • 123二次元好きの匿名さん23/01/13(金) 00:51:28

    ラミさん?

  • 124123/01/13(金) 00:56:12

    さっきも見た、と思った。正確に言うなら、木のつるに襲われているなら、コラさんの傍に立って、手帳を持っていた男に。
    神父服が棚引いている。海を見つめていたその男は、おれの方を向いた。
    ――醜悪に嗤う顔ではない。
    悲しそうに、目を伏せる男に。

    「お、まえ、……お前は、ラミ、だよな」

    多分、本物の。
    正直おれが初っ端見たラミは化け物の方のラミだから、なんとも言い難いけれど。でも、今目の前にいる男はどうしても邪悪なものには思えない。
    きっちりと首元まで閉めた神父服。それが誰よりも似合っているような気がした。

    「……お前がなんでここにいるとかは、いい」

    おれは真っすぐラミを睨むように見つめた。
    もういい、破れかぶれでも構わない。
    ここにラミがいることとか、もうすべてが非現実的で頭がおかしくなりそうだが――、まあ、でも許容範囲だ。
    何せ、うちの船には、ドジって前世の記憶を思い出しちまったキャプテンの恩人が一人、いるわけなんでね、

    「ベポを助けたい。……この海から出たい。どうすればいい」
    「 、」

    柔らかく、優しい声が聞こえた気がした。

    ―――“きみは、もう、それをもってる”

    え、と声を漏らす。ラミは、微笑んでいた。

    “おもいだす それだけで いい”
    “ここは きみたちの ゆめ なのだから”

  • 125二次元好きの匿名さん23/01/13(金) 01:03:21

    すげぇ面白い……続き待機

  • 126123/01/13(金) 01:07:22

    そして、瞬きほどの瞬間の間に、ラミは消えていた。
    おれはぽかん、とそのラミがいた場所を見つめるばかり。

    ……言っている意味が、よくわからなかった。
    持っているって言ってるけれど、ここにあるのは小舟とおれとベポのみ。でも海面には死体がたくさん浮かんでいるし、さっきからこの小舟にごんごんとぶつかってきている。やや転覆しそうなほどの頼りなさ。
    なのに、持ってる、とは。思い出す、とは。

    「……夢の、世界」

    ここは悪夢の中ではあるけれど、一応おれたちの見ている夢みたいなもの……っていう認識でいいんだよな。
    だからどうだって話だけれど。
    辺りにはもう恐ろしいほどの死体の山。いや、死体の海か。
    腕の中で縮こまるベポ。外の様子を、おれすらも見ようともしていない。おれも、もしおれが一人でいる中、こんなものを延々と見せられたらと思うと。……まあ、そりゃ嫌だよな。

    ここではない、どこかに行けたら。
    ――――そう思って、おれはハッとする。

    「……おれも、おれも、思ってたよ」

    ベポとは違う。ベポは、大切な人がいる場所に行きたかった。一人が嫌だった。
    でも、おれは違う。おれは、おれ“たち”は、誰も知らないところに行きたかった。広い世界に行きたかった。虐げられ続けるくそったれな毎日を抜けて、

    ここではない、どこかへ。

    そして、おれたちは、

    「――――あ、」

  • 127123/01/13(金) 01:14:14

    身体にぶわあっと熱が広がる。ばちばち、と目の前に火花みたいな光が散った。
    出来るのか、と思ったけれど、出来るに決まってら、と強い思いを抱く。
    こういうのは迷いがない方がいいんだよ。
    だって、夢の中だ。例え悪夢だろうが、夢は夢。んなもん、人の意志の方が強いに決まっている。

    「……ベポ、行くぞ」

    おれは小さな子どものベポを抱き上げる。
    この、ベポが嫌いそうな景色が満遍なく、どこへかしこも広がる、どこも行き場も逃げ場もない悪夢。
    でも、おれたちは違うだろ。なあ、おれたちの自慢の航海士殿。
    おれたちが逃げる時ァ、いつもどこだった?

    「旗を揚げるぞ、ベポ。おれたちが海に出るときの船は、こんな小舟じゃなかっただろ」

    辺り一面、どこにも逃げ場がない。……そうじゃないだろ。
    おれは強い意志を持って、それを思い描く。輪郭を、質感を。多少曖昧でも、強い思いがあればいい。その程度のものでいいはずだ。
    だっておれたちは、すでにそれを持っている。

    「……しゃち?」

    おれに反応してか、ゆっくりとベポが顔をあげた。これまた可愛いシロクマの顔だ。正直子どものお前、めっちゃ可愛いな。シロクマやべェ。
    そんな可愛いガキであるベポに、おれは不敵に笑って見せる。

    「しっかり捕まってろよ」

    そう言いながらおれは、死体が浮かぶ海に向かって、―――一気に跳んだ。

  • 128二次元好きの匿名さん23/01/13(金) 01:15:53

    そうだよな…
    今はどこにだって行けるんだ

  • 129123/01/13(金) 01:19:22

    一気に跳んだ。そして、ただただ信じた。
    答えてくれと。答えてくれ。応えてくれ。いや、応答してくれる―――はずだ!
    今までずっと共にしてきた大事な相棒。
    初めて旗揚げをした日から、ともに航海を続けてきただろう?

    だから、答えてくれる。

    おれたちの――――、

    「来てくれ、ポーラータング号ォォォォォォォォォ!!!!」

    その声に応えるように。
    海中から、海を割って、一気に急浮上してくる、我らが黄色い潜水艦。
    おれは口元に笑みがこぼれるのを実感した。これは強がりでもなんでもねェ!

    いくら死体が海の上に敷き詰められようとも、海中は静かなままだ。
    なら行ける。おれたちなら、どこまでだって!

    「ベポ!! 出港準備だ!」

    そう叫べば、はっと、ベポが顔を上げて―――そして、おれの顔を正確に認識した。
    そして泣きそうな顔で、小さく、口を開く。

    「あ、あいあい、」

    ……十分だ、ベポ!

  • 130二次元好きの匿名さん23/01/13(金) 01:20:39

    うおおおおおお!!
    ポーラータング号!!ポーラータング号!!!

  • 131123/01/13(金) 01:54:44

    流石に浮上してきたポーラータングの上にいくつかの死体が乗ったが、中に入って出港準備を進めればあとはこっちのもんだ。
    ハクガンほどの腕はないけれど、これでも船員みんな多少の心得はあるから操縦できるのだ。
    ……ハクガンほどの腕は無いけど!

    ようやくおれがいることを認識したベポは、きょとんとした顔のままおれに抱っこされている。
    相手はベポだが、ベポだとしてもシロクマの子どもは可愛い。これはしょうがねェよな。うん。

    「あの、……シャチだよ、ね?」
    「そうだぜ、ベポ。助けに来てやったぞ」

    小さな頭をくしゃくしゃと撫でれば、呆然とされるがままになったあと。
    目から一気に大量の涙を溢れさせながら抱き着いてきた。
    ……この泣き方覚えがあるぞ。お前コラさんとちょっと似てきたな。

    「しゃ、シャチ~~~~~~! お、おれ、怖かったよ~~~~!!!!!」
    「おれも怖いわあんなん! なんだあの死体の山! 夢に出てきたらどうしてくれるんだっての!」
    「おれの夢だよ!!!」
    「お前の夢だなこれ……」

    可哀想に……とベポを撫でながら様子を伺う。
    どうやら急に死体が意志を持って海の中まで追いかけてくる……みたいなことはないようで、脱出してしまえば案外簡単なもんだった。
    でも、あとはどうこの悪夢から脱出するかだ。
    精神が繋がって、そんで相手を助けられるような文脈が手帳から感じ取れたけど、こっからどうすればいいんだ?

  • 132123/01/13(金) 02:16:38

    今日はここまでにさせていただきます!
    また保守のご協力もお願いします!
    ワン学パロもまたいつか書きたい。

  • 133二次元好きの匿名さん23/01/13(金) 02:24:58

    今だけかもだけどコラさんと泣き方似てきちゃったのかベポそうか~(可愛いね)コラさんも前作より子供っぽく年相応かもってレスがあったけどお互い含めて色んな環境要因があるんだろうな…
    死体の中にコラさんとクオルもいるのがベポにとってもうクルーの一部みたいな存在なんだなって嬉しかったしおれも怖いわ!って飾らずに言うシャチが好き
    あとコザー先生はなんやかんやアフロミンゴ卒業する時けっこう寂しくなるやつじゃんって確信しました好き

  • 134二次元好きの匿名さん23/01/13(金) 12:46:34

    保守
    もしこの精神攻撃を本編のキャラ(アフロミンゴやコザー)がうけたらどうなるんだろうなー
    アフロミンゴは多分効かなさそう(グラサン装備)

  • 135二次元好きの匿名さん23/01/13(金) 23:05:40

    保守
    仲間の死体が降ってくる夢とか誰だってこわいわな…

  • 136二次元好きの匿名さん23/01/13(金) 23:59:38

    前回の敵キャラ組だとアフロとクオルは案外自力で突破できそうなんだよね(特にアフロ) コザーは無理

  • 137二次元好きの匿名さん23/01/14(土) 01:01:53

    百獣にいたフラムちゃんやデコくんも辛い過去いくらでもありそうなのがこの世界のイヤになっちゃうとこ…

  • 138123/01/14(土) 01:23:15

    今日は低気圧による頭痛で書けそうにないため、もし前作のキャラが悪夢を見たらどうなるか書きます。

    アフロミンゴ
    ドフラミンゴの前で踊りますが、『つまらねェ舞台だったな』と吐き捨てて出ていきます。
    その後誰も観客のいない舞台に立ち続けます。承認欲求馬鹿強いので、前述のドフラミンゴと、観客がいない舞台に普通に心折れます。
    けど、もし観客が罵声を浴びせてくる系統の悪夢だったなら、観客が一人でもいたら認めさせてやらァ!という意思が強いので、心折れることにはなりません。

    コザー
    子どもの姿の状態で無人島に放り込まれます。えらく酷い飢餓が絶えず続くし、船が島に着いてもその船は空っぽです。
    なおもし精神が大人の状態だったら常時心折れることはありません。
    弱いけど精神力だけはばか高いキャラなので……。
    けれど恩人に天竜人だとバレる悪夢を見せられるとデバフが永続でつきます。

    フラムちゃんお腹ぺこぺこでずっと蹲っているし、デコくんは暗がりでずっと隠れています。

    という小ネタを残しつつ、これで失礼します。
    どうか保守のご協力をお願いします。

  • 139二次元好きの匿名さん23/01/14(土) 01:31:13

    このレスは削除されています

  • 140二次元好きの匿名さん23/01/14(土) 06:20:33

    アフロミンゴの意外とちゃんと人間なとこ大好き「対人」で折れることはそうそうないけど外的要因で情熱の行き場を失った時も普通に病んでたし「無人」「虚無」系とは相性良くないんだな
    大人コザーの精神が簡単に壊れないのは逆に労しい気持ちになるけど分かる…発狂できないタイプの狂人みたいな凄味があるもんな(?)

  • 141二次元好きの匿名さん23/01/14(土) 16:08:01

    保守ネタ拾ってくれてありがたい

    アフロミンゴとコザーは心折れないパターンがあるのはいいな・・・前作での強さを感じる・・・

    フラムちゃんの悪夢は空腹もだけどにハナちゃん連れてこれないのキツいな
    能力的にはハズレかもしれないけど本人めちゃくちゃ可愛がってたし
    デコくんもお労しい過去がありそうでな・・・

  • 142二次元好きの匿名さん23/01/14(土) 16:09:47

    ポーラータングが来てにっこりしちゃうシャチも出航準備の言葉で返事返すベポも尊い…
    ところでこれ順番によってはコラさんの悪夢を目の当たりにするローかローの悪夢を見るコラさんがいるかもしれないってことでFA?
    個人的にはクリスさんの不穏そうな過去もシャチの悪夢も見る可能性なきにしもあらず?

  • 143二次元好きの匿名さん23/01/14(土) 20:20:04

    痛いのはお前の方だったよなって泣くような人に悪夢として実際にローの過去観賞させたら相当効いちゃうだろうな…
    逆にローはコラさんが6歳そこそこでどんな目に遭って何を目撃してしまったのかほとんど知らない?爆弾すぎる…どっちのパターンでも怖い

  • 144二次元好きの匿名さん23/01/15(日) 01:51:31

    スレ主さん大丈夫だろうか…
    体調第一に、無理だけはしないでくださいね

  • 145123/01/15(日) 02:30:40

    保守ありがとうございました!


    >>144

    既に低気圧から解放され、ずっとCoCやっていたので元気です。ありがとう!

  • 146123/01/15(日) 03:00:20

    多分、ここは悪夢の中だから、ずっと海中を進んでいても、また別の悪夢が襲い掛かってくるような気がしてならない。
    あんな邪悪なやつが見せている夢だ。……もっとひどい改変とかされるかもしれない、
    ただでさえあんな死体まみれの海だなんて悪趣味なものを見せられたのだ。今度は海の中まで浸食してきたら、逃げ場などなくなってしまう。

    おれの夢から、違う夢に飛び込むことが出来た。
    なら、ひとまず違う夢への扉を探すか……と思っていた時。
    あれ、とベポが声をあげた。

    「あれ、ホーキンス……?」

    は!? ホーキンス!?
    ベポから漏れた言葉におれはすぐさま反応する。
    あいつは今、現実で敵と戦っているはずだ。この夢の中に入ってくるはずが……まさかあいつも隙をついて眠らされたとか!?
    そう思っておれは焦りながらベポが見ている方角を見て……ぱかり、と口を開ける。

    「……ステンドグラス?」
    「うん。透けた向こうにホーキンスが見える」

    ――何故か、潜水艦の天井が色とりどりのステンドグラスになっていた。
    そこにはガラスによってシロクマが象られている……ベポか? これ。
    そしてその向こうには、海ではなく、確かにホーキンスが……現実世界が見える。

  • 147二次元好きの匿名さん23/01/15(日) 03:05:29

    ステンドグラスかぁ
    ちょっと綺麗かも

  • 148123/01/15(日) 03:25:09

    「………」

    もしかして、と。キャプテンほど頭がいいわけじゃないおれでも、どうしてこんな光景が見えるか考えたら簡単に予想をつけることが出来る。

    「……ベポ、このステンドグラスに飛び込め」
    「えっ!? なんで!?」
    「ここはお前の夢の世界だ。んなのに現実の世界が見えてるってことは、もしかしたら繋がってる……起きられるかも知れない」

    理屈を考えるならば、このステンドグラス越しの向こうは、ベポの見ている視界。ステンドグラスなんていうお綺麗なものでそこに蓋をして、出られないようにしている……まあ、なんでステンドグラスなんだっていうけど、夢に整合性求めるものじゃないだろう。
    それに、ステンドグラスなんてもんは綺麗なお飾りみたいなもんで、所詮ガラス。力いっぱい飛び込めば割れるものだ。

    ステンドグラス越しのホーキンスは、身体を藁にしながら敵と戦っている――が、その敵の数が問題だ。
    根こけているおれたちの身体を襲うためか、おれがいた時とは比じゃないほど敵が増えている。
    そして、あいつは、律儀にも全員の身体を守って――それで、自分の身体を傷つけていると来た。
    本当腹立つ野郎だな。すげェむかつく。
    ―――ああ、おれ起きたらあいつに感謝の言葉言わねえとだめかなァ!!!

    「……ともかく! ベポ、お前は起きたらホーキンスと一緒におれたちの身体を守ってくれ」
    「え、ええ…? おれは何が何だか」
    「起きたら説明する! とりあえずベポは起きる。それで戦う。頼んだぜ」
    「わ、かった。よくわからないけど! ……でも、シャチは?」
    「おれはまだ迎えに行かないといけないやつらがいるからな」

  • 149123/01/15(日) 04:02:39

    本当にここに飛びこめば起きれるのかなんてわからないけれど。
    それでも――ステンドグラスは、確か教会で、でかでかとコクレア様を映しどっていたのを思い出して、――そして、ここにいた、ラミの姿も思い出して。
    悪いものじゃないと、思ったのだ。直感だけれど。

    「……わかった。おれ、行ってみる。シャチ、頑張ってね」
    「おう。大丈夫だぜ、これでもおれはキャプテンほどじゃねェけど強いからな」
    「知ってるよ!」

    ベポが笑って、潜水艦の中、上へ向かって高く飛び上がる。
    そのままステンドグラスが割れたと思ったら、――導かれるように、重力に逆らうようにどんどん上へ上へとベポは飛んで行った。
    そしてその向こう、ホーキンスが映っていた視界がわずかに動き――そのまま見えなくなる。
    ……恐らく、勘は間違っていなかった、らしい。多分向こうの世界でベポは起きた。……起きたよな? 確認できないのがつらいところだ。

    「まったく、とんでもねェことばっかり起こるぜ……」

    けれど、ひとまずベポを助けることが出来た。
    ……助けられることを知れた。これだけでもだいぶ大収穫だ。

    「次も、扉を開けたら誰かの夢に入れるのか?」

    だとするなら早く見つけねェと。敵の攻撃は激化するばかりだ。

  • 150123/01/15(日) 04:30:14

    けれど、海中を漂っているうちに、いつの間にか潜水艦の中、おれの背中側に見慣れない扉があることに気が付いた。
    ――ベポがいる夢に入ったときは無我夢中だったからあまり確認していなかったけれど、どうにも重厚であまり人を寄せつけるような雰囲気じゃない扉だ。
    改めてまじまじと様子を眺めてみる。この扉は、いったい誰の扉なのだろうか。

    「……行くか」

    少し躊躇してしまった自分がいたけれど、でもそんな時間はないはず。
    両頬をパチンと叩いてから、扉を開けようとドアノブを掴んで、

    ―――あまりの熱さに悲鳴を上げつつ離れた。

    「あっつ!!!!!!! なんでだよ!!!!!!!!」

    夢なのにマジで熱いってどういう了見だ!と文句を叫ぶ。
    手を見ればばっちり火傷している。あまりにも最悪だ。ドアを開けるだけでこれってどうよ。
    恐る恐る指先でドアノブを軽くつつく。それだけでも、肌の薄皮が焼けたような感覚がする。

    「……なんだよ……まるで入るなって言われてるみたいだ」

    一見熱そうに見えないのに、触れれば火傷するほど熱い。手のひらに残った熱を思い出しながら、ぽつり、と呟いて――首をぶんぶんと振る。
    だから! 時間がないってのに!

    「……くそ!」

    おれは怖気づきながらも、半ばやけくそな気持ちでドアノブを掴み、肌が焼ける感覚を味わいながら一気に開いて飛び込む。
    ちくしょう! 次はどんな悪夢なんだよ!

  • 151123/01/15(日) 04:57:39

    開けて、中に入って。――燃え盛る火の海が出迎えた。

    「ぐっ……」

    火が舐めるように肌を焦がしていく。息を吸うだけで熱が臓腑が焼いていく。この熱さはなんなんだ。燃えはしないくせに、何故か熱だけ異常に肌を渡る痛みとなる。
    辺りからはひたすら泣き声が聞こえた。なんて言っているかはわからないけれど、ただただこの世の全てを嘆き、苦しみ、怨嗟にまみれたような、そんなひどく重苦しい声だ。

    「ッ……キャプテン! コラさん! クリス!」

    誰かが、いるはずだ。いるはずなのだ。叫びながら、呼びかけながら、人を探す。いるであろう誰かを探す。
    その間もずっと、火がおれの肌を焼いていく。けれど、焼かれたはずの肌は、火傷した状態にはならず、何故か打撲痕のようなものが残っているだけだ。

    燃え盛るどこか――恐らく、街の中をひたすら駆け回る。
    人間らしきものもいたけれど、動かないそれらはただ手を組んでずっと空に向かって祈りをささげたようなポーズをして泣いてばかり。
    この夢は何だ、誰の夢なんだ。
    焦りを覚えながら、足を止めず。走っているうちに。
    おれは視界の端で……金髪の子どもを見つけた。

    「……!」

    コラさんか!? クリスか!? おれはようやく見つけた喜びに笑顔になりながら、そちらに向かおうとして、

    ―――その子どもが、自分の額に拳銃を突き付けるのを見た。

  • 152123/01/15(日) 05:00:27

    「……え」

    そのまま子どもは躊躇なく引き金を引く。弾は出ない。
    引き金を引く。弾は出ない。
    それを繰り返す。そして“最後まで撃ち終えると”その銃を取り出して、また新たな銃を手に取り、額に突き付ける。
    また、引き金を引く。
    弾が出ない拳銃を、ずっと、まるで弾が出るのを待ちわびるように。

    ――クリス、ではない。
    教会でこめかみに銃を突きつけた「クリスのことを思い出したけれど、違う、と断言できる。
    あれは途方もなく狂信染みた想いが故の行為。クリスが自ら拳銃を突き付けて撃ったのは、ただの“証明”だ。
    ならばこれは、なんなのか。
    ……単なる、自殺じゃないのか?

    「―――コラさん?」

    思わず声をかける。おれの声に反応してか、子どもは、力なく振り返った。
    薄汚くなっていて、身体中泥だらけ、傷だらけ。今のコラさんよりもずっと小さく、細く、弱弱しくて、生命力を感じられない。
    その子どもは、おれを見て、何を思ったか、よたよたとした緩慢な動きで、両手を地面につけ、そのまま額を擦り付けるように下げた。

    「ごめんな、さい」

    何故か、おれに向かって謝り始める。

  • 153123/01/15(日) 05:04:04

    というところで今日はここまでにさせていただきます!
    いつも感想ありがとうございます、コメントいただけるたびに喜んでます!
    また明日も投稿するので、保守のご協力をお願いします。
    あとついでに何かこの話に合いそうな曲とかあったら教えてほしいです。がんがん活力の糧にしたい。

  • 154二次元好きの匿名さん23/01/15(日) 05:10:22

    スレ主様遅くまで本当にお疲れ様です!!!
    めちゃくちゃ面白くて言葉になりませぬ…ッ(語彙死亡)

  • 155二次元好きの匿名さん23/01/15(日) 05:55:20

    このレスは削除されています

  • 156二次元好きの匿名さん23/01/15(日) 05:57:16

    サントラの曲で申し訳ないけど

    シャチがベポを抱き上げてポーラータング呼ぶ辺りでこの曲が思い浮かんで鼻がツンとした

    夢と希望


  • 157二次元好きの匿名さん23/01/15(日) 07:27:54

    ポーラータンク号が来たときのテンション爆上がりでした!!
    スレ主は絶望描写も希望描写も上手くて残りのみんなの悪夢も待ってます・・・すでにコラさんお辛いよぉ

  • 158二次元好きの匿名さん23/01/15(日) 08:15:30

    主さんおつかれ様です!このスレが更新されるのが毎日の楽しみです!

    似合う曲でEveさんの アウトサイダー を思いついたんですが、(自分が好きな曲っていうのもあるけど)

    1Aメロ・1Bメロ→ラミさん、レミさん、(花?)

    2Aメロ・2Bメロ・Cメロ→コラさんたち(悪夢の中に囚われてる人たち)

    全サビ→シャチ

    でイメージしました!

    アウトサイダー - Eve MV

    『その小さな勇気が僕の胸を焦がすから』

  • 159二次元好きの匿名さん23/01/15(日) 18:57:17

    コラさん…どうしちゃったんだ…

  • 160123/01/15(日) 20:33:04

    保守と曲をあげてくださりありがとうございました! 聞きながら続き考える!

    ゆっくりちょくちょく書いていきます。


    >>156

    スレ主が幾度か泣いた曲だ!

    延々と聞き続けながらなんとかいい感じなハピエン目指せるように頑張る活力にする


    >>158

    好きな曲!改めてこの曲聞きながらこの後の展開とかもにゃもにゃしてみる

    全サビシャチイメージに燃えた。今回えらく主人公してます。

  • 161123/01/15(日) 21:00:51

    「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」

    額を地面に擦り付けながら、何度もおれに向かって謝り続ける。
    おれが知っているよりもずっと小さい子どもが、泣くことも喚くこともせず、ただただ静かに跪いて頭を下げ続ける現状があまりにも異常すぎて、そのまま固まってしまった。
    ……いや、違う。見たことがある。
    例えば天竜人が通るようなどうしようもない理不尽に苛まれる時。飢餓か救難か、とにかく誰かに助けてほしいと縋るとき。そして――虐げられ、ただただ許しを乞うしかできない時。
    覚えが、ある。おれも。けれど……こんな異常な状況下で、ひたすら自分の頭を銃で撃ち抜こうとするさまを見ていると、眩暈がしそうだ。

    何を言えばいいかわからず、小さなガキに頭を下げさせ続ける現状に、数秒置いてようやく自覚する。
    とも…かく! 今はコラさんをどうにかしないと、――そう思ったとき。

    背後から、何かが飛んできた。
    それはおれに当たることなく、むしろすり抜けながら的確に、コラさんに当たる。

    「……!?」

    背後を向けば、黒い人影がいくつもある。
    顔自体は塗りつぶされて何も見えない。けれどそのどれもが、血の涙を流しながら悲痛な金切り声を上げていて……そしてそれを聞いた瞬間、まるで心臓が切り裂かれたように痛んだ。

    「ッぐ……!」

  • 162二次元好きの匿名さん23/01/15(日) 21:03:51

    >>158

    アウトサイダーだー!!!

    改めて見るとMVの1:06あたりに何重もの円が浮かび上がってる目があるのお話の内容に合いすぎてヒエッ…ってなった

  • 163123/01/15(日) 21:15:05

    心臓を押さえながら、どうすればいいかわからなくなる。
    大小関わらず投げつけられる石は、地面に蹲って、ずっと頭を下げ続けているコラさんに容赦なく降り注ぐ。
    がん!とひときわ大きい石がコラさんの頭に当たって――そして、その金髪に血が滲んだ瞬間、ようやくおれの身体は動いた。……馬鹿! 遅すぎるだろうおれ!

    「やめろ!」

    おれは叫びながらコラさんに覆いかぶさる。
    そうしたら、今までおれの身体をすり抜けていた石は、今度はおれにぶち当たるようになった。
    身体に降り注ぐ石。コラさんを守れるのはいいけど、普通に痛いぜ! がん、ごん、と頭に背中に腕に万遍なく降り注ぐそれらに耐える。……いや耐える必要ねェな。どこかに逃げるか。
    そう決意して立ち上がろうとした瞬間、弱弱しい声が響いた。

    「だ、だめだよ、お兄さん、にげて」

    ……おれのことわからないのか? お兄さん、とおれのことを呼ぶコラさんは、ひどく幼い顔でおれを見ている。
    恐怖の中におれに対する心配が見られるけれど、今は自分のことだけを考えた方がいいだろ。
    何せ今とんでもない悪夢に苛まれている当事者はコラさんなのだ。
    ――おれが動かないでいるのを見ると、意を決したように、コラさんはおれに告げてくる。

    「ぼ、ぼくは、てんりゅうびと、だから、だから、いい、いいから」

    ……なんだって?

    「だから、そんなこと、しなくていいッ……!」

    そう言いながら、泣きそうな顔でおれを見る。
    そうやって、我慢して、――けれど、耐えきれない、というかのように、目元から涙がこぼれ出た。

    「だから、だから、だから、もう、ぼくのこと、ころして、いいからぁ……!」

  • 164二次元好きの匿名さん23/01/15(日) 21:16:07

    あぁ…

  • 165123/01/15(日) 21:25:57

    ころして、ころして、とおれの腕の中でずっと泣く声がする。
    ……背後には悪意。憎悪。怨嗟。それから、心臓を切り裂いてしまうくらい、悲痛な叫び。
    それをずっと受け取り続けたら、優しいこの人はそりゃ……死にたくなるよなあ。
    それを恨みとかに変換することは出来ないみたいらしいこの子どもには、ただただそれを受け止めて、受け止めて、受け止めて、受け止め続けることしか出来なくて。
    ――おれはずずっと鼻を鳴らした。泣きそうになっちまったけれど、ここで泣くわけにはいかない。

    にしても、天竜人か。
    ……キャプテン、初耳なんですけど。

    昔、まだ海に出る前。キャプテンの話を聞いた時、コラさんのことも一緒に教えてもらった。
    恩人だとか、オペオペの実を手に入れてくれたとか、実の兄に殺されたとか。そりゃ聞いてて号泣ものな話をしてくれた時から、ずっと覚えていた、けれど。
    本当に天竜人ってことはその……聞いた覚えねェなあ!

    「……まあ、いいけどさ」

    そりゃ天竜人はおれも嫌いだし、もともとジャンバールも天竜人の奴隷だったことから、仲間にそういう扱いしてくれちゃってたくそ貴族みたいな感じで、かなり嫌いランキング上位だ。だからコラさんが元々天竜人だって知って普通にショックだし、やべーな、って思ったけれど。まあ、そのくらい。
    おれ自身に被害がなかったから言えることかも知れないけれど、でも、かつてコラさんが天竜人だからって、それでキャプテンを助けてくれた事実は変わらないし。
    ただ、よく天竜人なのに今のコラさんが出来たな…??と普通に疑問ではあるけれど、それは、今おれが身をもって実感している、こういう事態が確かに降りかかったからなのかな、と少しだけ納得した。

  • 166二次元好きの匿名さん23/01/15(日) 21:30:12

    コラさんは家系も育ちも変則だからなぁ…

  • 167二次元好きの匿名さん23/01/15(日) 21:48:26

    キャプテンもドレスローザまで知らなかったから(めそらし)

  • 168123/01/15(日) 22:03:49

    「コラさん、さっさと行きますよ」

    まだまだちびのコラさんは。おれの膝まであるかないかってくらい小さい。
    これ幾つだ? 13歳でそこそこ身長あるみたいだし、キャプテン曰く3メートル近い身長あったとか聞いたことあるし、こっから3メートル……すげェな……と感心しながら、抱き上げてさっさと移動する。
    石はおれに向かって投げつけられるばかり。でも、痛みはあるけれど、衝撃はそんなにない。夢だからなのか、脳震盪みたいに意識混濁するようなことはなさそうだ。

    なんか、反撃する気にはなれなかった。
    黒い影がみんな泣いているからだろうか。それに、おれが攻撃したら、コラさんが悲しむ気がした。
    だって、黒い影はみんな泣いている。ただただ辛そうに、苦しそうに。これがコラさんのイメージだとするなら、悲しんでいる人に手をあげるのは、違う気がするのだ。

    「お、おにいさ、ちが、」
    「血?」

    おれの顔を見ながら顔を青ざめているコラさん。なんだなんだ、と顔に触れれば、額が切れたのか血がだらだら流れている。
    ……まあ小さい子どもにはショッキングだわな! うん!

    「お、おろして、いたいよ、……ぼくは、いいから、ぼく、ぼく、父上と、兄上をさがさないと、」
    「コラさん」
    「こ、こらさんって、だれ、ちが、ぼく、ぼくは、ごめんなさ、ぼく、ぼく……」
    「いいから」

    ぽん、と背中をたたく。びくり、と震えた身体は、戸惑うようにおれを見た。

    「さっさと帰りましょう。こんな痛いところより、仲間のところへ」

  • 169123/01/15(日) 22:48:15

    ぽかん、とした顔をしたコラさんは、かえる?と、その言葉の意味がわからない、といった風に首を傾げる。
    痛々しいなあ、とか可哀想だなあ、とか。まあ、そういうのあんまり思っちゃダメなんだけれども、つい思ってしまう。きっと、コラさんはそう思われるのあんまり好きじゃなさそうなのに。

    おれが歩くたびに、そんなものは駄目だ、というように火の勢いが強くなる。
    まるで地獄みたいだ。どこもかしこも火が出ているし、おれの歩く道もその火は広がっている。
    夢だからと、燃えないからと、それをいいことにおれはコラさんが燃えないように、抱き上げながら歩く。そうしていれば、さらにコラさんの困惑が強くなった。

    「あ、あついよ?」
    「はい」
    「いたいよ……?」
    「そうっすね」
    「……も、もう、いいよ、いいから」
    「なんで?」

    なんで、と問われ、小さな子どもは言葉を失う。
    天竜人だったから、甘やかされて育てられてきたんじゃねェかな、と思う。多少の教育を受けてきても、それでも平和で、食べ物とかに困ることとかなくて、恵まれた生活が出来ていたはずだ。
    それなのに虐げられて、天竜人だから恨まれてしょうがない、みたいに受け入れて。助けてもらいたかったに違いねェのに。

    「コラさん。あんたはおれたちの大事な仲間だから。だからこんなところに居てほしくない」
    「……で、でも、」
    「もちろん悪くない、なんて言えない。おれが何を言おうにも、天竜人って言葉にあんたが罪を感じてるってのなら、それを悪くないって無責任に軽く言えねェ。あんたの苦悩が無駄になる。でも、それでも」

    軽くサングラスを持ち上げて、目と目をちゃんと合わせて、にかっと笑う。

    「おれは、あんたが許されればいいって思うよ。あんたの罪の意識から」

  • 170二次元好きの匿名さん23/01/15(日) 22:56:34

    シャチ…
    ほんとカッコイイな…!

  • 171二次元好きの匿名さん23/01/15(日) 22:59:49

    たぶんローが言ってもコラさんを慕っているからって受け止められる可能性あるもんな
    シャチの言葉でコラさんの傷が少しは癒えるといいな

  • 172123/01/15(日) 23:15:17

    おれの言葉に、コラさんが信じられない、という顔をしてから、それからゆるゆると強張っていた身体から力が抜けているのを感じる。
    少しは届いたらいいな。そりゃ今のコラさんは小さいコラさんではあるけれど、それでもコラさんはコラさん。きっと、おれの知っているコラさんも、どこかにいるはずなのだ。

    ……さて。今はマジで子どもの時分に逆戻りしていると思うが、どうにかして元の意識を取り戻させたうえで、元の世界に向かわせないと。
    かといって、どうすればいいのかわからない。
    なんかこう……無理やり記憶を戻そうと躍起になるのも、こう、こうさあ、罪悪感あるっていうか……いや悩んでいる時間もそうないんだけども!
    どうすればいいかな~~~~!!と悩んでいると、『あ、』と、腕の中で小さな声が漏れる。

    その声に反応して、顔をあげる。
    そうしたら――、燃え盛る道の真ん中に、誰かがいる。

    短い金髪に、大きなサングラスをつけた、コラさんより幾分か大きい誰か。なんとなく見覚えがあるというか。どこぞの誰かに面影があるというか。
    その小さな子どもは、子どもとも思えないような妙な気迫を携えて、こちらに向かって歩いてくる。
    そして、子どもの片手が、何かを引きずっていることに気付く。

    「……っ」

    それは、人の頭だ。長い金髪を掴みながら頭を引きずるその子どもは、まっすぐにコラさんを見つめている。

  • 173二次元好きの匿名さん23/01/15(日) 23:21:46

    ア…ワァ……少しだけ心がゆるんだタイミングで…これは大人(シャチ)でもかなりの衝撃くるよな…

  • 174123/01/16(月) 00:03:13

    「逃げるのか」
    「……ッ」

    びくり、と腕の中でコラさんが震える。その小さな子どもは、憎々しげにコラさんを見ている。

    「逃げるのか、ロシィ。置いて行くのか。おれたちを置いて。お前だけ、楽になろうとしているのか?」
    「ちがっ、」
    「いい御身分だな。逃げた先で海軍大将に拾われて、何不自由なく育つとは。おれたちがどんな思いをしていたかも知らないで」

    一歩、一歩。子どもが近づくだけで、その場の空気が重くなる。

    「フッフッフ……なァ、ロシィ。許してやるから、おれたちのところに戻ってこい。おれが守ってやる。誰にも傷つけられないように。――おれたちを傷つけようとしたやつらに、一緒に地獄を見せてやろう」
    「ぁ……」

    膝をつきそうな威圧感が、たった一人の子どもから齎される。
    ……そいつが誰なのか、わかっていた。
    誰なのかわかっていたからこそ、おれ自身にも恐怖心みたいなのが湧き起こる。
    業火が激しく燃え上がる。身体中が熱い。熱気が口の中すらも傷つける。それでもおれはコラさんを守るために強く抱きしめた。

    「……悪いけど、先約があるからさァ」

    コラさんはもう、とっくにキャプテンと大事な約束をしているのだ。
    だから何を言おうともコラさんはおれたちの船員なのだ。もう予約済み!

  • 175二次元好きの匿名さん23/01/16(月) 00:14:08

    おう!コラさん本人からの提案による約束だぞ!

  • 176123/01/16(月) 00:48:07

    目の前の子ども――恐らく、幼少期のドフラミンゴは、おれの顔を一瞥するが、興味がなさそうにすぐに視線を戻す。
    こ、こいつ……!
    ごうごうと燃え盛る日の中に立つこの子どもには、間違いなく王の気質とやらがあるのかもしれない。そう思えるくらいにおれは怖気づいている。
    ――これは、コラさんにとって恐怖の象徴なのだろうか。
    そう考えて、違う、と首を振る。何はともあれ、コラさんはドフラミンゴに立ち向かったはずだ。キャプテンの話曰く潜入捜査とかいう度胸がないと出来ないくらいのことだってしている。
    やっぱり、悪夢だからそういう……幼い時の記憶とか無理やり思い出させて、その時の感情も搔き乱しているのだろうか。
    あ~~~! わからねェ!
    そこに悪意があるのは確かだ。悪夢の世界なんぞを作り上げて、こうして心を弄ぶ。本ッ当に悪趣味……!

    そう思っていた時。ふと、そのドフラミンゴの身体がジジ…と揺れた。
    何故か直感する。本当にどうしてかわからないし、理由なんてこれっぽっちも言えない。

    ――けれど、まるで何かの干渉を受けた、ような。

    そう思った瞬間、目の前に小さな子どもはいない。
    おれを覆うほどのでかい体格――腕も足もひょろりと長く、短髪だった髪形を、オールバックのように逆立て、特徴的なサングラスをつけたその男は、身なりのいいスーツを着ている。

    「ロシナンテ」

    低く甘くまるで深淵に誘う声。まるで、人を堕落させる悪魔に似ていた。

    「今更お前のような役立たずが戻って何が出来る。お前は――子ども一人に入れ込んだせいで、結局無駄死にしたような負け犬だろうが」

  • 177二次元好きの匿名さん23/01/16(月) 01:01:31

    アレンジの入れ方が本当に悪質じゃん植物くん!!
    どうかな〜大人コラさんだったらローが自由になったんだ無駄じゃないって言えそうだけどちびロシーくんだからなぁ
    夢の主が違和感を感じたら思考が明瞭になるタイプの夢ならいけるのかな?どうなんだろう
    続きが気になる〜!!!

  • 178123/01/16(月) 01:10:52

    子ども一人って、

    「――――てめェ!!」

    思わずおれの方が切れちまう。キャプテンの過去を知っているなら、それが誰がなんて容易くわかる。
    キャプテンは、命をもらったと言いながら、いつもどこかに『おれのせいで死んだ』というような罪の意識を抱えていた。確かに、きっかけはそうかも知れない。それを否定するつもりはない――でも! それだけじゃないはずだ!
    しかもそれを無駄死に!? 殺した本人が何を言いやがる……!

    おれは怒りのままに飛びかかろうかと思った。
    いったい夢の中のやつがどれほど強かろうと、この悪夢のように、例え理不尽なまでの痛みが襲い掛かろうとも構わない。
    だってこいつ、キャプテンも、コラさんも馬鹿にしているんだ!

    おれにはわかる。これは、さっきまでのものとは違う。そうだ、悪意がある。
    これまでの悪夢の中に憎悪や怨嗟はあれど、そこにある根源は悲しみだ。
    そう、『罪の意識』。自分を痛めつけられるのを仕方ないと思うのも、地面に額を擦りつけながら謝るのも、全部自罰的故だ。この悪夢は……きっとそんなもので出来ている。
    でも、でも、目の前のドフラミンゴは違う。悪意だ。ただ人の精神を逆なでし、刃を切り込み、ずたずたにすることを願うような―――!

    ただ怒りのままに飛びかかる前。
    ふと、気付く。
    ……コラさんの、震えが止まっている。

  • 179二次元好きの匿名さん23/01/16(月) 01:19:26

    このレスは削除されています

  • 180123/01/16(月) 01:20:29

    「――――ちがう」

    その言葉は、やけにはっきりしていた。
    あれ、と思う前に、コラさんが身じろぎをして、おれの腕から飛び降りる。
    おれは止める間もなく、一連の動きを見ることしか出来ない。

    「ちがう、……ちがうよ、ドフィ」

    怯えがない。幼さがない。何かに気付いたような、何かを思い出したような達観。
    やけにしっかりとした声で――そして、瞬きの間に、コラさんの姿は変わっている。
    それは、おれが見慣れた姿。先ほどよりも成長したような……。

    「こ、コラさん?」
    「ありがとな、シャチ。大丈夫」

    大丈夫ってどういうこと!?
    ……けれど、おれの名前を呼んだことで、記憶を取り戻したということがわかる。わかるけど、今いったい何があって記憶を取り戻したというのだ。ずっと怯えるだけの子どもだったのに。
    コラさんは、落ち着いた様子だ。背中だけしか見えないけれど、笑っているような余裕さすら伺える。

    「確かにおれはちょ~ッと役立たずだったりするけれどさ、でも、無駄死にじゃねェよ」
    「ロシナンテ……?」
    「―――おれの、誇りだ。すべて、何もかも」

    それは、多分
    多分だけれど、ドフラミンゴ嗤った、コラさんの最期の時までの全てに対する、違うことなき、キャプテンへの優しい祝福みたいな愛だった。

  • 181123/01/16(月) 01:38:27

    そう言い切った瞬間、舌打ちの音だけ残して、ドフラミンゴが消える。
    ごうごうぱちぱち、と火だけが燃える中、じっとドフラミンゴが消え去った方向を見て、……もう戻ってこないと知ると、肩を落としてふう、とため息を吐いた。

    「コラさん」
    「………」

    あれ、……反応がない?と思ったら、バッと勢いよく振り返ったと思ったら、そのまま勢いよくおれへと飛びついてきた。
    おわっ!?とたたらを踏みつつも、とりあえず受け止めたら、シ゛ャ゛チ゛~~~~~~~!!!とえらい勢いでおれの名前を半泣きで叫ばれた。おうおう賑やかだ……。というか半泣きどころか、ボロッボロに泣いている。

    「や、やばかった~~~~~~!! あれやべェよ!! ひたすら昔のこと延々とループしてくるんだぜ!? なんかもう、30回越えた辺りから記憶ねェもん」
    「やば……」
    「もうなんか最後の方思考放棄してたし! 滅茶苦茶しんどかった~~~~~~!!」
    「……しんどいって素直に言えるの、健全ですよ。よくもまあ、こんな地獄絵図の状況を経験しておいて……」

    いまだに燃え盛る火は肌を焼くし、遠くの方からのろのろと黒い人間が迫ってくるのがわかる。
    コラさんは辺りの状況を再度確認して、『やべェな……』という顔をする。うん。やばいんすよ。

    「……ところでなんでシャチいんの!?」
    「今更?!」

  • 182123/01/16(月) 02:02:02

    ひとまず、今までの経緯とか諸々伝える。コラさんは理解しているのか理解できていないのかよくわからないけれど、とにかく感心したような顔で『お前すげェな!』と言っていたのでよし、としよう。
    コラさんの記憶は戻った。なんか精神も安定している。ベポの時にあったなら、もしかして…、と辺りをきょろきょろすれば、だんだんと道の真ん中に光が集まってきていることに気付く。

    「コラさん」
    「ん? ……うおっ、なんだあれ!」

    気付けばそこにはまるでピエロを象ったようなステンドグラスが出来ていた。……よかった。とりあえずなんとかコラさんを外に出すことが出来そうだ。
    ステンドグラス越しに、ホーキンスとベポが共に戦っていることがわかる。よし、ベポもちゃんと向こうにいるみたいだな!

    「というわけでコラさん、このステンドグラスを突き破って向こうへ行ってください!」
    「どういうこと?」
    「どうもこうもありませんって。このステンドグラスを突き破れば、起きることができます」
    「エッまじで!? なんで!?」
    「おれもわかりません!」

    原理はわからないけど、そうなるものはそうなるのだ!
    ……まあ、説明は出来なかったけれど、なんとなくコラさんもなんとなく理解したようだ。
    けれど、とコラさんは眉を下げる。

    「……おれも行きたい。ダメか、シャチ」
    「……駄目です」

    まあ、気持ちはわかるけども。けど、ベポの悪夢はみんなの死体が上から落ちて、海面を敷き詰めた。コラさんの悪夢は、知っている通り火にまみれたひたすら熱さと痛みを生じる世界で、延々と憎悪を投げかけられた。
    きっと、他の世界も悪夢で満ちている。
    ―――それを見るのは、おれだけでいい。この優しい人を、傷つけさせるわけにはいかない。

  • 183123/01/16(月) 02:29:48

    「……シャチ、大丈夫か?」
    「え?」

    心配そうにコラさんがおれを見上げている。……深刻そうな顔をしてしまっただろうか。
    おれはへら、といつものように笑いながら、コラさんの背中をぐいぐい押した。

    「おれは大丈夫ですって! おれはいいんで、とりあえず外に出ちゃってください!」
    「しゃ、シャチ、お前なあ……!」
    「大丈夫! おれを信じてくださいって! これでもおれ、結構やるんですよ?」
    「んなこと知ってるよ!」

    知っていてくれるならなにより! ハートの海賊団ってキャプテンが目立ちがちだけど、おれたちだって結構やれるのだ。
    コラさんは口元をむにゃむにゃさせながら何度もおれの顔とステンドグラスを見ていたけれど……。
    あーもう! と叫びながら、ステンドグラスへと向かう。

    「シャチ、待ってるからな!」
    「もちろん! みーんな連れて帰りますからね!」

  • 184123/01/16(月) 02:31:09

    コラさんはステンドグラスの中へと飛び込んでいく。

    おれは、その背中が見えなくなるまで見届ける。

    ―――……さて。


    【次は誰の悪夢か、ローかクリスをお選びください】

    >>185

  • 185二次元好きの匿名さん23/01/16(月) 02:38:50

    過去が分からないクリスさんを楽しみにとっておきたいので、ローからがいいです!

  • 186123/01/16(月) 02:48:28

    ――コラさんを見送ったおれは、振り返る。
    そこには、いつの間にか扉が鎮座していた。……親切だな、すぐ近くに出してくれるなんて。
    おれは、深呼吸をする。
    うん、ここまでで、結構きつい。二人分の悪夢を渡ったせいもあるけれど、結構ダイレクトに、その悪夢の中――悪夢を見ているベポや、コラさんの苦しみみたいなのがダイレクトに伝わるのだ。
    正直、すっっっげェ辛い。まあ、そんなこと言ってられねェけど!
    別に苦しくても、辛くても。それでみんなを助けることが出来るなら、頑張れる。

    よし、と気合を入れてから、扉の前に立ってドアノブを握る。
    そして、離す。

    「……今度は滅茶苦茶冷たい……」

    まるで氷を触っているかのようだ。というか、触ったのは手だけなのに、体温が一気に冷えるのを感じた。
    まるでさっきと真逆だ。
    まるで腹の底から冷えるような感覚に身震いをする。
    なんでこうも、入る前から悪い予感をさせてくるのかなあ!

    「……大丈夫、行ける」

    おれは意を決して、扉を開けて、そこに飛び込む。
    そうして――おれは、真っ白な雪を見た。

  • 187123/01/16(月) 02:52:35
  • 188二次元好きの匿名さん23/01/16(月) 02:57:44

    シャチかっこいいぞ!がんばれ!!
    質問です!
    コラさんの夢の中でシャチは石を投げられて負傷していましたが、この怪我はコラさんの夢の中だけで出来ているものでほかの人の夢に行く時(今とか)は治ってるんですか?まだ怪我してるんでしょうか?

  • 189123/01/16(月) 03:04:53

    >>188

    他の夢に行くときは治ってます! 血も綺麗になる親切設計です。

    削れてるのは精神だけですね。

  • 190二次元好きの匿名さん23/01/16(月) 12:42:24

    行方不明になった人たちってどうなってるんだろ
    ここまで悪夢の悪質なパターン展開あるってことはそれだけ人間について解析されてるってことで…
    そりゃもう生きてないだろうけど、植物だから養分にされたとか?

  • 191二次元好きの匿名さん23/01/16(月) 18:42:29

    >>189

    親切かなぁそれ心折じゃないかなぁ

    シャチ視点の黒い影ってコラさん視点だと違う感じで見えてたりしますか?

  • 192123/01/16(月) 23:00:29

    >>190

    行方不明になった人たちもしっかりばっちり吸収されてるでしょう。栄養も記録も『情報』もまるごと。

    にしてはなんか微妙に足りてないし、理解が足りないようにも見える。

    そのせいでかあと一押しが逆にコラさんを正気に戻らせたりしてます。


    >>191

    コラさんからも黒い影になってます。記憶を再現したものなので、あの頃のコラさんが人の顔をまともに見れたとは思えないので黒い影。炎が明るすぎて人の顔が見えなかったのもあるかもしれない。

    多分ここが兄上の悪夢だったなら鮮明に顔も映ってる気がする。

  • 193二次元好きの匿名さん23/01/16(月) 23:11:32

    人の心……

  • 194二次元好きの匿名さん23/01/17(火) 00:59:48

    文字化けテスターに突っ込んでみたんですがこれあのマジでその…?
    悪夢もそうだけど神と称されるものの傲慢さが垣間見えてゾクッとしました
    あと最後の36も悪魔と呼ばれている方の言葉ですか…?

  • 195123/01/17(火) 01:45:11

    >>194

    誰かが文字化けテスターに突っ込んでくれるかなって思ってたので嬉しい

    36は誰かの抵抗かな

  • 196123/01/17(火) 01:48:26

    【小ネタ】
    ステンドグラスはF.a.t.eのa.t.a.raxiaとK.Hの影響を少し受けてる。
    あとは教会と言えばステンドグラスだからってのも安直だけどある。

  • 197123/01/17(火) 02:00:46

    【小ネタ】
    基本的にクオルは誰にでもドライだし、関わり合いになりたがらないが、それでも一番対応が甘いのはコラさん、
    ……ではなくベポである
    実は落ち込まれると内心狼狽えてる

    アフロミンゴがベポを見るととりあえず捕まえにかかるし、コザーがベポを見るとうっかり見逃します

  • 198二次元好きの匿名さん23/01/17(火) 02:23:33

    うっかりかー、そっかーー
    うっかりなら仕方ないな、うん
    やはりもふもふは最強

  • 199二次元好きの匿名さん23/01/17(火) 02:24:40

    ベポとコラさん現実世界に戻ったけど、目を隠すようにサングラスとかしてるんですか?それとも悪夢から覚めたらもう催眠かからない感じですか?

    ホーキンスと一緒に頑張ってほしい。

  • 200123/01/17(火) 02:26:33

    >>199

    ホーちゃんのラッキーアイテムには予備があります。そういうことだ(なおデザインはまともな模様)

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