スレッタ・マーキュリーの朝は早い

  • 1二次元好きの匿名さん23/02/01(水) 05:24:46

    それは水星で暮らしていた頃からの習慣である。
    いつ事故が発生するか分からない。その時に備えて早くに起床し体を鍛えるのが日課だ。
    地球寮の周りを何周かするとミオリネ・レンブランに連絡を入れる。
    「ミオリネさん!朝ですよ、おはようございます!」
    ミオリネ・レンブランの朝は遅い。
    グループ総裁の娘として育てられてきた彼女には生活力というものがない。部屋は汚く、食事はレトルトのものばかり。当然朝にも弱い。
    スレッタ・マーキュリーはそれを知っている。
    電話をかけてもミオリネはうんとかああとかしか言わず二度寝することを見越している。
    ランニングを終えた足でそのままミオリネの部屋に向かう。カーテンを開け、朝の人工の明かりを部屋に差し込ませるのがここ数ヶ月の新しい日課だ。
    「ミオリネさん朝ですよ!朝ご飯ちゃんと食べないと体に悪いです!あ〜昨日また夜中にカップラーメン食べましたね!ほら食堂に行きますよ!」
    「う〜ん私が何を食べようと勝手でしょぉ…まだ寝るからどっか行ってよぉ……」

  • 2二次元好きの匿名さん23/02/01(水) 05:25:48

    おはようございます!

  • 3二次元好きの匿名さん23/02/01(水) 05:28:29

    朝はスレッタがお母さんみたいになるのいいよね…

  • 4二次元好きの匿名さん23/02/01(水) 06:48:21

    アリヤ・マフヴァーシュの朝も早い。
    地球から連れてきた家畜たちは家族からの信頼の証である。家畜の面倒を見ることは、彼女にとっては使命だ。
    誰よりも早く起きるとまずティコのもとへ向かう。
    「おはようティコ。今日もよろしくな」
    餌を与えるとモシャモシャと口を動かしはじめる。他の動物たちの世話に取り掛かろうとするとティルが起きてくる。
    ティル・ネイスの朝も早い。
    多彩な才能を持つ彼は規則正しい生活習慣も身につけている。そして学園にやってきてからはアリヤの動物たちに興味を持ち、さらに早起きをするようになった。
    「おはようアリヤ。手伝うよ」
    「おはよう、いつもすまないな」
    世話を終えると2人はキッチンに向かう。他寮と比べて決して裕福とはいえない寮生たちは自炊することが多い。朝は早起きをした2人が他の寮生の分まで用意している。時にはティコのミルクや鶏たちの卵を使うこともある。
    マルタン・アップモントの朝も早い。
    キッチンからいい香りが漂いだすとそれに釣られたように起きてくる。十分に早起きなのだがアリヤとティルには敵わない。
    「また2人に作らせちゃった……いつもごめん」
    「おはようマルタン。いいんだ、好きでやっていることだからね」
    あくびをしながらマルタンは男子たちを起こしに戻る。それを見てアリヤも女子を起こしに向かう。廊下でランニングに向かうスレッタとすれ違うことが多い。
    「アリヤさんおはようございます!」
    「おはようスレッタ、いってらっしゃい」

  • 5二次元好きの匿名さん23/02/01(水) 06:57:15

    >>1

    早起きの理由が悲しすぎる

    ミオリネがスレッタの過去を聞くだけで、問題の3割は解決しそうな気がする……けどスレッタ美化しそうだからなぁ……

  • 6二次元好きの匿名さん23/02/01(水) 07:27:57

    ニカ・ナナウラの朝はそこそこ早い。
    アリヤが起こしにやってくると大抵目を覚まして着替えている。
    「おはようございます」
    「おはようニカ、2人を起こしてくれるかな」
    チュアチュリー・パンランチの寝起きは悪い。
    ニカのことを慕っている彼女だが朝の態度はすこぶる悪い。
    「う〜ニカねぇまだ早いよ!もうちょっと寝かしといて!」
    ニカとアリヤは苦笑いしつつどうにかチュチュを起こす。そうして騒いでいるとリリッケが目を覚ます。
    リリッケ・カドカ・リパティの朝もそこそこ早い。
    元々そこまで朝が得意ではないが、賑やかな地球寮生活と頼りになる先輩のおかげで起きられている。
    「おはようリリッケ」
    「ふぁ〜、おはようございます皆さん……チュチュ先輩、起きないと2人に迷惑ですよ〜」
    こうしてどうにかチュチュを洗面台に連れて行く。
    部屋に残ったニカは端末を確認する。シャディクからなんの指示もないことが分かると少し安心する。きっと楽しい一日になるという願いにも似た思いを抱きながら、朝食を食べに向かう。

  • 7二次元好きの匿名さん23/02/01(水) 07:50:09

    オジェロ・ギャベルとヌーノ・カルガンの朝は早くない。
    大抵の場合この2人が地球寮で最も寝るのが遅い。何かくだらない動画を見ているかギャンブルをしているかで、その間にティルとマルタンは寝ている。
    ベッドから落ちそうになっているオジェロをマルタンが起こす。
    「ちょっとオジェロ!どうしてそんな寝相になるんだよ!?危ないでしょ!?」
    「うー……おはようございます……」
    一方ヌーノは元々低いテンションがさらに低い。声をかけても首を下げる程度で何も言わずに洗面所に言ってしまう。
    寮長はそんな2人を見つつ、ため息をついて先に朝食を食べに行く。そろそろティルが用意し終わってくれている頃だろう。

  • 8二次元好きの匿名さん23/02/01(水) 09:01:49

    オジェロとヌーノが男子高校生してるの好き

  • 9二次元好きの匿名さん23/02/01(水) 09:25:46

    本編で断然不足してる地球寮共同生活描写いいね…各々の様子がそうだよなぁ感がすごくて好き

  • 10二次元好きの匿名さん23/02/01(水) 11:16:40

    保守

  • 11二次元好きの匿名さん23/02/01(水) 11:17:40

    オカンみたいなマルタン好き。割烹着似合いそう

  • 12二次元好きの匿名さん23/02/01(水) 11:18:03

    ティル先輩とアリヤ先輩に朝ごはん作ってもらいたい人生だった…

  • 13二次元好きの匿名さん23/02/01(水) 13:11:05

    新鮮な卵とミルクとか、その辺のスペーシアンより良い物食べてそう
    お金はなくても食生活は結構よさそう

  • 14二次元好きの匿名さん23/02/01(水) 15:54:26

    リリッケ・カドカ・リパティはついつい食べすぎる。
    昼食はとったがもう小腹が空いてしまった。購買で小さなスナック菓子を買って授業の合間に摘む。
    レネ・コスタはあまり食べない。
    多くのキープ君を抱える彼女はその分自らの美貌に責任があると考えている。男たちに恥をかかせないために毎日の食事はバランスを考え、プロポーションを維持している。
    それだけに好きな時に好きなだけ食べるリリッケのことが許せないのである。
    「リリッケ・カドカ・リパティ!今度はキープ君8号に手出しやがって!」
    「わ、私から誘ったわけじゃありませんよ〜!しっかり断りました〜!」
    「だからなんで断るんだよ!私の男なんだから優良物件だって言ってんの!全く、みんなこのぷにぷにお腹のどこがいいのよ〜!!」
    リリッケがお腹をつつかれているとチュチュがやってくる。地球寮生の危機にはどこからともなく聞きつけて飛んでくるのだ。
    「おうおうおう!!ウチのリリッケに喧嘩売るとはいい度胸してんなぁクソスペ!!リリッケをいじめんからあーしが相手になんぞ!!」
    「あぁ!?うるさいボンボン女!!決闘なら受けてやるけど?」
    チュチュに遅れてマルタンとニカが歩いてくる。マルタンは主にチュチュのおかげで人を宥めることが随分上手くなった。どうにかレネを追い返しチュチュを押さえる。
    「リリッケ大丈夫?」
    「ありがとうございます……うぅ、やっぱり私食べ過ぎでしょうか〜」
    年頃の女の子として体型を気にしていないわけではない。普段はなんとも思わないが、いざ指摘されると存外傷つく。
    「うーん、僕はそんなことないと思うけど……その自然な感じがリリッケの魅力なんじゃないかな?」
    マルタン・アップモントには観察眼がある。
    個性の強い地球寮をまとめる寮長としての生活はマルタンの人を見る才能を成長させた。彼の飾らない性格からくる言葉は、単純でありながら的を射ている。
    「えへへ、ありがとうございますマルタン先輩」
    スナック菓子を分け合う。4人で食べると、さっきよりも美味しく感じた。

  • 15二次元好きの匿名さん23/02/01(水) 18:52:35

    リリッケ、美味しいスイーツ情報詳しそう
    新しい店ができたら皆でキャッキャ食べに行って欲しい~

  • 16二次元好きの匿名さん23/02/01(水) 19:03:15

    学園は今冬である。
    居住フロントでは健康のために年間を通して気温を調整し、季節を演出していることが多い。もちろん雨も雪も普通は降らないし、大した気温変化ではない。
    それでもフロント暮らしに慣れると少しの変化が暑く感じたり寒く感じたりするのである。
    地球寮は常に予算不足である。
    御三家のような豪華な寮とは違い空調設備が整っておらず、仮にあっても電気代が馬鹿にならない。
    「やはり少し寒いな。そろそろ恒例行事をする時期かもしれない」
    「アリヤさん、恒例行事ってなんですか?」
    編入してきてから日の浅いスレッタは知らない事が多い。
    「寒さに耐えられなくなった時にやるお泊まり会だよ。寮生みんなで大部屋に集まって寝るんだ。一つの部屋にまとまれば電気代の節約にもなるからな」
    「お泊まり会!す、すごいです!またやりたい事リスト埋まっちゃいます!」
    「今日は少し豪勢にいこうか。スレッタ、一緒に買い出しについてきてくれるかな?」
    「もちろん、です!」

  • 17二次元好きの匿名さん23/02/01(水) 20:04:35

    ミオリネ・レンブランは孤独である。
    どこの寮にも所属していない彼女は元理事長室で生活している。特に友達がいなくて困ったりしたこともないのでなんとも思っていない。
    しかし地球寮の面々と関わるなかで人と話したいと思うことが増えたような気がする。
    「……暇ね」
    一人パソコンに向かっていると扉を叩く音がする。
    「ミオリネさーん!ミオリネさーん!」
    スレッタ・マーキュリーの突然の訪問に驚きつつも扉を開けると、アリヤとリリッケもいた。
    「どうしたのよアンタたち」
    「今日は地球寮でお泊まり会です!ミオリネさんも良かったらどうかなと思って!」
    どうやら食料を買った後ミオリネを誘いにきたらしい。
    「別にいいわよ。私は地球寮のメンバーじゃないし。みんなで楽しくやりなさい、それじゃ」
    「そう固くなるなミオリネ。君は地球寮のメンバーでなくとも会社の仲間じゃないか。私からもお願いしたいな」
    ミオリネ・レンブランは一人で溜め込みがちである。
    嬉しいことも嫌なことも自分だけで完結させようとする。仲間とか人を頼るとかいうことを彼女は知らない。
    内心では仲間と言われて相当心が揺れているのだが、それを表に出すことはない。
    「わ、分かったわよ……行けばいいんでしょ行けば」

  • 18二次元好きの匿名さん23/02/01(水) 20:17:03

    文章好き

  • 19二次元好きの匿名さん23/02/01(水) 20:27:15

    ミオリネは温室の管理があるから生活リズムはある程度整ってそうだが
    温室や水耕栽培に関わる人の起床時間はどれくらいなのだろう

  • 20二次元好きの匿名さん23/02/01(水) 20:56:10

    スレッタ・マーキュリーはよく食べる。
    水星で食べられるものはあまり多くない。学園に来てからの食事は彩りに溢れていてどれも美味しい。
    「お、美味しいです!」
    「良かった。ティコのミルクから作るチーズは独特でな。嫌いな人もいるんだ」
    リリッケもよく食べる。チュチュもよく食べる。オジェロもよく食べる。ヌーノもよく食べる。
    高校生の胃袋は無尽蔵である。
    「マルタン、手伝ってくれてありがとう」
    「気にしないで!朝はいつも作らせてばっかりだから」
    一堂に会して食事をすると会話も弾む。会社のことやエアリアルのこと、誰かの噂やちょっとした愚痴。
    スレッタとミオリネにとっては今までで最も賑やかな食事だった。ミオリネは自分が自然と笑顔になっていることに気づいていない。

  • 21二次元好きの匿名さん23/02/01(水) 21:40:00

    オジェロ・ギャベルはギャンブルが好きだ。
    生活費までギャンブルに注ぎ込んでいる。正直将来を思うとマルタンは心配で仕方がない。
    「最後の一個をかけてババ抜きで勝負だ!」
    苺なんて正直どうでもいいとミオリネなどは思ったのだが、オジェロとスレッタに押されて参加させられた。
    スレッタ・マーキュリーは顔に出る。
    配られた手札にババがあり、露骨に嫌な顔をした。各々の手札が減っていく。一抜けしたのはミオリネだった。
    「じゃ、苺はいただくわね」
    特別喜ぶわけでもなく、最後の一個はミオリネの胃袋に消えた。
    ティル、リリッケ、ニカ、アリヤと続々と上がっていく。最後まで残ったのはスレッタとオジェロだった。
    ギャブルが好きなくせにオジェロは顔に出やすい。その上緊張すると冷静な判断が出来なくなるのでスレッタの表情を見ていない。
    スレッタからババを引くと、そのままオジェロが負けた。
    「ぐぁぁぁぁぁ!!!!やられたぁぁぁぁ!!!!」
    「や、やりました!ミオリネさん!ビリじゃないです!」
    苺を賭けていたということを忘れるくらい二人は熱中していた。

  • 22二次元好きの匿名さん23/02/01(水) 23:22:24

    スレッタ・マーキュリーが寝るのは早い。
    朝早く起きるのだから、寝るのも早いのが当然というものである。しかし今日は楽しくて、ついみんなと夜更かししてしまった。
    誰かとお泊まり。やりたいことリストに書いた内容よりも大きな規模でその願いは叶った。
    オジェロとチュチュのいびきが響いている以外は静まり返っている。地球のように自然の音もなく、商業プラントのように夜も忙しく動いてる人はいない。
    「ねぇスレッタ」
    ミオリネは隣に寝ている。
    「今日はさ、ありがとね。誘ってくれたの、感謝してるわ」
    スレッタは半分だけその声を聞いている。瞼は重く今にも閉じそうだ。
    右手に体温を感じる。ミオリネが手を握っていた。
    「おやすみ、スレッタ」
    「おやすみ、なさい……ミオリネさん」

  • 23二次元好きの匿名さん23/02/02(木) 07:37:04

    エラン・ケレスの朝はとても遅い。
    彼は本物である。学校に行くわけでもないので、遅くまで寝ていられる。彼の立場からして文句をいう人間も多くはない。
    よだれを垂らして寝ているとベルメリアが訊ねてくる。
    ベルメリア・ウィンストンの朝は早い。
    朝は元から得意なほうである。最近は若い頃よりも眠りが浅くなったと思っている。
    起床するとメールを確認し、簡単な朝食をとって仕事に取り掛かる。強化人士の調整という仕事が彼女の眠りを浅くしている一因であるかもしれない。
    今日の予定には、強化人士へ伝える情報を得るためのエラン・ケレスとの面談が入っていた。
    「エラン様、まだ寝ていらっしゃいますか?」
    何度かブザーを鳴らすと心底機嫌が悪そうにエランは起きてくる。
    「なんだよベルメリア。まだ眠いから帰れよ」
    「面談、お忘れですか」
    「別にこの前伝えた情報と何も変わってないだろ」
    「規則ですので、どうか。お食事がまだでしたらその時でもかまいません」
    「はぁ……分かったよ、準備するよ……」
    ボサボサになっている頭をかきながら本物は部屋の奥に消えた。

  • 24二次元好きの匿名さん23/02/02(木) 12:40:26

    マルタン・アップモントは親切だ。
    アーシアンだからというだけで嫌がらせを受けているのに、彼自身は誰に対しても優しさを忘れることはない。臆病であるはずなのに人を助けようとする姿勢が寮長に選ばれた一因であった。
    「あれ?これ……」
    「どうしたんですかマルタン先輩?」
    道を歩いていると生徒手帳を見つけた。手帳と言っても実際は電話であり、身分証であり、財布でもある。学園生活ではなくてはならないものだ。
    学籍番号はLP013。誰のものだろうか。
    「それ拾ってくれたんだ!……げっ、リリッケ・カドカ・リパティ!」
    どうやら持ち主はレネのようだ。拾ったのが地球寮の人間であると分かると面倒そうな顔をする。
    「はぁ……とりあえずお礼は言っとく。ありがと」
    バツが悪そうに目を背けながら手を差し出して手帳を返すよう示した。
    「どうぞ。気をつけなよ?あっそうだ、返す代わりにリリッケにあんまり無茶なことをお願いしないであげてほしいな」
    にっこりと笑いながらマルタンは手帳をレネに渡す。
    「へぇ……田舎者のくせになかなかいい男じゃん、自信なさげなところもなかなか可愛くて面白いね。どう?あたしのキープ君になってみる?」
    レネは軽い冗談を飛ばしてみた。真面目なマルタンは真に受けてしまう。
    「うぇ!?こ、こんなの別に普通だから!そんな大袈裟な!だだだ、大体一応僕は三年生なんだからそんな言葉遣いは……」
    「じゃあ先輩、あたしのキープ君になってみませんか?」
    地球寮以外の女子とあまり会話しないマルタンはタジタジである。

  • 25二次元好きの匿名さん23/02/02(木) 12:53:01

    リリッケ・カドカ・リパティは優しい。
    マルタンと同じく彼女も誰にでも優しくすることができる。とはいえ、地球寮の仲間がからかわれては別である。あまり怒ることはないが、その時があるとすればそれは自分のためでなく人のためなのが彼女だ。
    「ダメです〜〜!マルタン先輩は地球寮の寮長なんですから!そんな変な関係に首を突っ込んじゃいけません!」
    リリッケがマルタンの腕を引っ張りレネから引き離す。
    「失礼な!あたしはキープ君全員に平等に愛を与えてんの!それにしても……へぇ、ふぅん、ほぉん……なるほどね、リリッケ・カドカ・リパティ!そういうことなら最初からそう言えばいいのに!それなら誘いを断るのも仕方ないか!」
    「は、はぁ!?そんなんじゃないですから〜!も〜、早くどっか行ってください!」
    遠くからピンクの毛玉が近づいてくるのが見える。一体どこから聞きつけているのだろうか、レネは驚きつつ退散することにした。
    「じゃあねリリッケ!頑張んなよ!」
    「おらぁ!待てクソスペェ!!」
    レネとチュチュはどこかへ消えてしまった。
    「ねぇリリッケ、レネさんが言ってたそういうことってどういうことなの?」
    「知りません!」

  • 26二次元好きの匿名さん23/02/02(木) 13:43:30

    レネはやっぱ最高

  • 27二次元好きの匿名さん23/02/02(木) 20:32:59

    ベルメリア・ウィンストンは仕事ができる。
    ヴァナディース時代から手際の良さは評判だ。テストパイロットとして働くエルノラに対して、ベルメリアは裏方から組織を支えていた。
    だが今ではその手際の良さは人を傷つける冷徹な仕事に利用されている。眉ひとつ動かさず強化人士の生体情報に目を通していく。
    GUND技術に関わっていたい。その一心だけでここまで生きてきた。気づけば今の自分は理想とは真逆の行為に手を染めている。
    別の道もあったのだろうか。エルノラ……プロスペラ・マーキュリーを探し出してシンセーに勤める道、あるいは気高く若い力に溢れるミオリネたちのように起業する道。
    もういくら考えたところで遅い。現実としてベルメリアは人を騙し、傷つけ、かつての自分に蓋をした。もう後戻りなどできないのだ。
    パソコンをシャットダウンすると、一本の電話がかかってきた。スレッタからだ。
    「もしもし、ベルメリアさんですか?明日のことで相談したいことが……うぅ、私もよく分かってないんですけど、ミオリネさんが会社の技術には精通しておきなさいって……」
    パイロットとして優秀なスレッタにもできないことはある。技術的な知識はメカニック科のニカや一度読んだら覚えてしまうミオリネには劣る。
    「そうね。それじゃあ打ち合わせついでに復習してみましょうか」
    電話越しに教師の真似事をしてみる。二度と叶わないと諦めかけていた理想が目の前にあった。
    しかしもう汚れてしまったベルメリアにはその理想はただ眩しいだけの太陽でしかない。近づきすぎればいずれ焼きつくされてしまう。
    だがそれでも心地よかった。今だけはもうしばらく木漏れ日を浴びながら夢を見ていたいと、自分勝手な思いに駆られる。
    「ありがとうございました、ベルメリアさん!えっと、いつも頼りにしてます、です!それじゃあ、また明日!」
    「えぇ、おやすみなさいスレッタ」
    電話が切れる。
    ベルメリア・ウィンストンには二つの顔がある。
    子供たちに希望を分け与える顔と、子供たちから希望を奪っていく顔。どちらもGUNDという鎖に繋がれている。

  • 28二次元好きの匿名さん23/02/02(木) 20:42:50

    ベルメリアさんマジで好き…
    本編でもなんか上手いこと救われて………

  • 29二次元好きの匿名さん23/02/02(木) 23:22:48

    ちなみに時系列的には会社設立以降、11話以前ぐらいのつもりです
    季節の設定とか色々ガバガバだろうけどね!

  • 30二次元好きの匿名さん23/02/03(金) 02:26:04

    こういう日常もっと見たかった

  • 31二次元好きの匿名さん23/02/03(金) 06:16:02

    ミオリネ・レンブランの朝もたまには早い。
    朝が得意でないのに早起きしているのはトマトのためである。日照パターンや水やりなど、機械か業者に任せることもできる。
    だがミオリネにとっては、あの温室の中だけが母親との繋がりを今も感じられる唯一の場所なのだ。自分のためにも母のためにも、時には頑張って世話しに行かなくてはならない。
    「あっ、おはようございますミオリネさん!今日は早起きですね!感心感心、です!」
    「うっさい。ウザいわよ」
    二人で並んで温室に向かう。ミオリネはまだ半分寝ているようなものだが、スレッタは喋り続ける。雑な相槌ぐらいしか打たなくても、スレッタにとっては友達と並んで歩くというのはそれだけでやりたいことリストが埋まるぐらい大きなことなので止まらない。
    「スレッタも手伝って。こっちの水やりよろしく」
    温室で手伝いを始めるとやっとスレッタの口が閉じた。
    スレッタは人工でないものに触れるという経験がない。もっともここは人工のフロントの中ではあるが、それでも土から伸びた野菜をその場でいただくというのはミオリネからトマトを貰った時が初めてだった。
    貴重な経験であると同時に、大切な人の手伝いをしているというのが嬉しい。水星にいては絶対に経験できないこと。それが出来ることがたまらなく嬉しく、心の中で母に感謝した。
    そんなスレッタをミオリネは横目に見る。今まで誰も入れなかった温室。それをスレッタがいつの間にか敷居を跨いだ。
    あっという間の数ヶ月だった。スレッタがやってきてからミオリネには温室の外に居場所と仲間が出来た。決して表には出さなくとも、そして自分自身認めることもないが、ミオリネはスレッタに感謝している。
    この子のためなら私の身が削れてもいい。ミオリネは人生で初めて誰かにそう思った。

  • 32二次元好きの匿名さん23/02/03(金) 13:16:12

    ニカ・ナナウラは株式会社ガンダムの仲間である。
    今日は試験中のGUND義足の調整を行なっている。突然転がり込んできた株式会社ガンダムの仕事。今まで触れたことのない技術を、仲間と共に形にしていくという作業がニカにはたまらなく楽しい。勢いのままミオリネに乗せられてみて良かったと思えた。
    生徒手帳が震える。ニカはポケットから手帳を取り出しメールボックスを確認する。
    シャディクからの定期報告の要請だ。
    ニカ・ナナウラは裏切り者である。
    それを忘れたことはない。チュチュが知ったらどう思うだろうか。血管を破裂させながら殴りかかってくるかもしれない。あるいは誰とも話さず塞ぎ込んでしまうかもしれない。
    それでもそれが自分で選んだ道だった。自分のため、地球のため、それが最善だと信じた。
    なのにここのところは定期報告が遅れがちだった。会社が忙しいからというのは言い訳でしかないのはニカ自身が一番分かっていた。後ろめたさを感じている。
    仮にどんなに崇高な目的であっても、仲間たちを騙し続けていることに変わりはないのだから。

  • 33二次元好きの匿名さん23/02/03(金) 13:28:22

    ベルメリア・ウィンストンは裏切り者である。
    それは強化人士たちに対してであり、株式会社ガンダムの社員に対してであり、自らの理想に対してである。
    なのに学園にやってくると心が弾んでしまう。夢を追う若者たちを見るとかつての自分を思いだす。
    「ナナウラさん」
    作業中のニカに声をかける。まだまだ未熟だが一人で作業できるぐらいにはニカは知識を吸収していた。そんなニカにベルメリアがしてやれるのは弁当でも奢りながら見守ってやることだ。
    「ありがとうございます、ベルメリアさん」
    「お魚、大丈夫かしら?」
    ニカの好物は焼き魚弁当だ。伝えたことはなかったが、おそらく名前から地元を推察し選んでくれたのだろう。
    「大丈夫どころか好物です。お金は……」
    「いいのよこのくらい。子供に弁当代をたかるなんて恥ずかしいじゃない。ここは大人の顔を立てて?」
    「すみません、いただきます」
    学園では箸などわざわざ置いてくれない。一部のアーシアンか物好きぐらいしか使わないからだ。付属していたフォークで魚を切り分ける。どうにも慣れない光景でニカにはなんとなく気持ち悪い。
    食事の時というのは誰でも警戒心が薄れる。頼れる大人というものに久しく会っていなかったニカは、同じ技術屋としてもベルメリアを頼りにしている。ついつい話さなくていいことまで話してしまった。
    「……ベルメリアさんは、もし誰にも言えない秘密があったとして、しかもそれが自分や友達を裏切ることだとしたら……それを守れますか?もし耐えられなくなったら、生きていられますか?」
    言葉を発してからニカは口を押さえた。何を言ってしまったのか。誰かに疑われるような行動は絶対にしてはいけないのに。

  • 34二次元好きの匿名さん23/02/03(金) 13:35:02

    ベルメリア・ウィンストンは悩んでいる。
    そしてニカの悩みはベルメリアの悩みでもあった。もちろん何について悩んでいるのかは分からないし、自分がそれに解答を示すことも許されない。
    それでも大人として、同じ悩みを抱える者として、何か助け舟を出してやりたい。もしかするとこれも教師ごっこの延長でしかないのかもしれない。しかしニカの思い詰めた顔を見ると、助けてあげたいと純粋な心が応えた。
    「私には……きっとあなたにアドバイスする資格はないわ。あなたより少し長く生きているけど、分からないことばかりだもの。
    でもね、それでも何か助言するなら、たくさん悩むことよ。あなたはまだ若い。今ならどんな道にも進むことが出来る。秘密を守り通すのも打ち明けるのもあなたの自由だけど、出来るだけ後悔のないようにしなさい。手遅れになってから悩んでも遅いの。私にはもう……」
    ニカはじっとベルメリアを見つめていた。その時二人はお互いが抱える闇の深さを垣間見たような気がした。
    「ごめんなさい、答えになってないわね」
    「いえ、えっと……嬉しいです、真剣に聞いてもらえて。私こそいきなりこんな話してごめんなさい」
    ニカから弁当の容器を受け取り、ゴミ箱に向かう。
    「ああ、それとナナウラさん」
    まだ伝えていないことがあった。時と同じく、ベルメリアになくてニカにはあるもの。
    「あなたには仲間がいるわ。あの子たちならきっと、どんな秘密でも、受け入れる努力をするはずよ。本当に耐えられない時がきたら、それを思い出して」
    ベルメリア・ウィンストンには仲間がいない。
    何を勘違いしていたのだろう。こんな時に力になれない大人が仲間であろうなどおこがましい。もうニカたちの仲間になるには遅すぎるとベルメリアは思った。
    だがニカはまだ、進むことも迷うことも戻ることも出来る。自分と同じ轍を踏んで欲しくない。ベルメリアの「仲間」になっては欲しくないのだ。
    「そう、ですね。ありがとう、ベルメリアさん」
    ニカの心は揺れた。悩みはさらに深まったが、話してよかったと思えた。

  • 35二次元好きの匿名さん23/02/03(金) 13:41:15

    日常をピックアップした感じでこのシリーズめっちゃ好き

  • 36二次元好きの匿名さん23/02/03(金) 21:52:13

    ラウダ・ニールは兄思いだ。
    それを当然として行動しているのだが、グエルはそれに気づいていない。
    ここ最近は兄のためと思って行動しても、兄自身にそれを余計なことと扱われてしまう。あの水星女が来てから兄さんは変わってしまった。ラウダの目にはそう映る。
    夜も更けるころ、グエルのテントを訪ねる。グエルは寮を追い出されテント生活を強いられていた。といっても、父の意図はとっととくだらない学園生活というものへの執着を捨てさせ、次期CEOとしての自覚を持たせるため退学させ会社にでも入れることだったはずだ。野宿はグエルのささやかなわがままだった。
    「兄さん、いつまでもこんなところで生活してちゃ駄目だ。父さんと話そう。きっと分かってくれる、寮にも戻れるよ」
    父の言い分も分かる。だがラウダは兄が父の期待に応えるためにずっと学園で努力してきたことを知っている。その頑張りを他ならぬ父から否定されるのはあまりにも屈辱的だ。
    だから話し合わなくてはならない。最後に親子で集まったのはいつだろうか。片や御三家のCEO、片や寮長。それぞれが負う役目は重く、自由な時間を奪っていた。そしてグエルも心配させまいと積極的には父に会おうとしない。呼び出されても一方的な叱責が飛ぶだけだった。
    もどかしい。なぜもう少し素直に話し合わないのか。ラウダは父と兄の間を何度も取り持とうとしてきた。水星女に敗北した時も兄のために精一杯父を宥めた。それなのに兄はまた感情任せに突っ走った。父もその理由を聞こうともしない。
    このままではいずれ取り返しのつかないことになる。
    「俺は父さんから追い出されたんだ。今更話して何になる」
    「これ以上こんなことを続けても父さんを怒らせるだけだ!父さんはこんなこと望んでない!その気になれば兄さんを退学にだって……」
    「ハッ!なんだ、結局父さんに言われてきたんだな。俺に、また謝らせようと……お前も父さんも、俺の気持ちは誰も聞いちゃくれない!!」
    失言だった。退学など持ち出せば今のグエルは脅しと捉える。「兄さんのことを思って」、そんな心からの言葉を言ってももう響かない。日を改める必要がある。
    「……父さんには僕から話しておく。学園には通えるように話をつけるよ」

  • 37二次元好きの匿名さん23/02/03(金) 21:57:04

    グエル・ジェタークは意地を張った。
    また弟に声を荒げてしまった。それでもプライドを曲げることはできない。ちっぽけで父や弟には理解できないのかもしれない。だがそこを曲げたら、最後の砦を失って自分というものが消えてしまう気がする。
    学園にいる限り、グエルは「グエル・ジェターク」なのだ。会社に縛られ、期待に応えるために走り続けるしかない。
    もし退学を言い渡されたらどうすればいいのだろう?父のために築いてきたプライドを踏み躙られたら、グエルには何も残らない。いくら曲げたくないことでも父の権力には結局敵わないのだ。もしそうなったら「俺」は誰なのか。
    とにかく今はラウダが妥協案を持ってくることに期待するしかなかった。
    「プライドを守るのにも誰かを頼らないといけないなんて、俺は情けない」
    自分の力で生きてみたい。そんな思いがグエルに芽生え始めていた。

  • 38二次元好きの匿名さん23/02/03(金) 22:32:09

    ニカ姉とベルメリアさんはもっと絡んでいいと思う
    実は同質なんだよね…

  • 39二次元好きの匿名さん23/02/04(土) 08:20:54

    フェルシー・ロロの朝は早い。
    ペトラ・イッタの朝も早い。
    寮長を任されたラウダは忙しそうに飛び回っている。これまで兄弟でこなしてきたことを一人でやらなくてはならない。ラウダもやはり兄に似て、誰にも頼りたがらない。
    そんな彼を見ているとフェルシーとペトラも早起きせざるを得なかった。少しでも手伝って負担を軽減させたい。出来ることは少ないが、ラウダが気兼ねなく関われる相手は自分達ぐらいしかいないのだから。
    「グエル先輩、戻ってこないのかな……」
    顔を洗って鏡を見ると快活だったフェルシーの顔は不安に塗りつぶされていた。
    「フェルシー……」

  • 40二次元好きの匿名さん23/02/04(土) 13:23:37

    不安を紛らわす為に早起きして仕事手伝ってるって感じだな

  • 41二次元好きの匿名さん23/02/04(土) 14:22:25

    フェルシーとペトラはいつも一緒だ。
    グエルとラウダにひっつき四人で行動することが多かった。最初は御曹司とその弟に媚を売るという下心がなかったわけではない。しかし関わるうちに、兄弟が不器用ながら優しい人間であることが分かると次第に信頼が生まれた。
    尊敬する人が困っていたら助けなければならない。素朴な思いで二人はグエルのもとに向かった。
    「グエル先輩ー!」
    さすがのグエルも無下にはできない。ラウダのような込み入った関係でもない、純粋に自分を慕ってくれている二人だからだ。
    「お弁当買ってきたっす!一緒に食べましょうよ!」
    「お前らに奢らせるわけには……」
    「もう買ってきてるんですよ?食べないなら捨てるだけです!もったいないじゃないですか!」
    渋々グエルは弁当を受け取る。久しぶりに誰かと食事をする。思えば寮にいる間はいつも四人で食べていた。
    食べすすめながらフェルシーが質問する。
    「あの……グエル先輩はもう寮には戻らないんですか?」
    「戻るとか戻らないとか、俺が決められることじゃない。父さんが決めたことだ、逆らっても無駄だ」
    グエルのプライドは父に従うことで出来てきた。今の状況は父に従えばプライドは崩れ去るという矛盾を抱えていて、グエルはどうすることもできなかった。
    「寮にはラウダがいる。俺がいなくてもどうにかなるだろ。あいつは俺なんかよりもよっぽどしっかりしてるから」

  • 42二次元好きの匿名さん23/02/04(土) 14:27:45

    グエル・ジェタークは父に逆らえない。
    「そんなの……そんなの勝手じゃないっすか!」
    「ちょっ、フェルシー!?」
    フェルシーはグエルに怒った。こんなに弱々しいことを言うグエルを見たのは始めてだった。
    「ラウダ先輩だけでどうにかなるわけないじゃないっすか!一人でめちゃくちゃ頑張って、それでも追いついてないです!そもそもグエル先輩の代わりはいません!ラウダ先輩がどんなに優秀だって、グエル先輩はグエル先輩じゃないっすか!なんでそんな勝手なこと言うんですか!
    私が一緒にいたいのはめちゃくちゃ強くて頼りになるグエル先輩っす!もう……もう知りません!!」
    そう言い残してペトラを置いて走って行ってしまった。
    「フェルシー!!ごめんなさいグエル先輩。怒らないであげてください。えっと……みんなグエル先輩がいなくて寂しいんです。それじゃ」
    後輩を泣かせてしまった。情けない。父さんの許しさえあれば今すぐにでも寮に戻ってフェルシーに謝りたいのに、それも出来ない。結局自分の意思で何も決められない。
    どうすればいいのか全く分からない。何もかも投げ出してしまいたい気持ちもあるが、ラウダやフェルシーたちを見捨てるのも嫌だ。少なくとも学園にいる間は気にかけていたい。
    もし退学を言い渡されれば逃げ出してしまおう。どのみちもう面倒は見てやれないのだから。プライドも粉々になって、弱くなった自分といつまでも一緒にいさせるのは申し訳ない。
    グエルはそう考えながら、二人の残していった弁当を食べた。

  • 43二次元好きの匿名さん23/02/04(土) 14:29:53

    書いてて気づいたけどやっぱり話し合いもせずに学園から消えちゃったのってヴィムには絶対逆らえないっていう考えが底にあるから強硬手段として逃げる以外の選択肢がなかったのかね。ラウダたちを置いていくような男ではないので、退学を言い渡された以上何をしても最終的に退学になるって思考になってないと逃げ出さないよな。逆らってるように見えて、「父親の考えを変えることはできない」ってところからは抜け出せてない気がする。最後の最後まで直接ヴィムに逆えたのはダリルバルデ戦ぐらいでしたね……あそこでもっと自分から主張するように変われてればなぁ…
    それと自分を過小評価して自分がいなくても大丈夫って考えになってない?1話時点での自信は全部親に言われて守ってきた立場の上にあるし、それが失われたら価値がないってなっちゃうのかね。お労しい…

  • 44二次元好きの匿名さん23/02/04(土) 16:47:33

    ジェターク寮つらい……

  • 45二次元好きの匿名さん23/02/04(土) 18:28:17

    みんなそれぞれが頑張っててすごい人間が出来てたりいろんなものを背負ってたりするけど、十何年しか生きてない子供なんだよね。幸せになって欲しいよね。ささやかでもいい幸せを見つけて日々を生きてほしい。

  • 46二次元好きの匿名さん23/02/04(土) 22:22:53

    フェルシーとペトラは同室である。
    「フェルシー、いい加減元気出しなよ」
    「うっ、えぅ……私、先輩に、酷いこと言っちゃった……一番困ってるのは先輩なのに、勝手だったのは私の方だよ」
    あの時なぜ「頼ってください」と言えなかったのか。フェルシーにはそれが心残りだった。だが今もう一度行っても言えないだろう。グエルに頼られるほどの能力はない。いつも守られてばかりだ。
    「ペトラ……私もっと頑張る。操縦も超練習して、勉強もやる。グエル先輩に頼ってもらえるようになって、寮まで引っ張ってくるよ」
    「そうだね。落ち着いたらさ、お昼のこと謝りに行こうよ。グエル先輩、怒ってなかったから」
    「うん、うん……ちゃんと謝るよ」
    涙を拭いて、布団に潜り込む。ペトラが電気を消した。
    「おやすみフェルシー」
    「ペトラもね」

  • 47二次元好きの匿名さん23/02/04(土) 22:24:34

    フェルペトの笑ってるとこもっと見たい!
    書いてて思った、フェルシーが出てこないのはグエルがいなくなったことで力になれなかった自分を責めて塞ぎ込んでるんじゃないかと!
    グエルは早く帰ってきて寮生に笑顔いっぱいで迎えられろ!

  • 48二次元好きの匿名さん23/02/05(日) 06:40:10

    ノレア・デュノクの朝は早い。
    というよりはあまり眠れない。寝床は固いし、窓にはガラスもはまっていないし、ろくな環境ではない。
    上半身を起こし、腕をぐーっと伸ばす。体の動きにつられて自然と欠伸が出た。寝床にしている教室を出て外に向かう。
    朝のしっとりとした空気が肌に触れる。この辺りは地球の中でも最も荒廃した地域だが、裏を返せば人の手が入っていない、正確には手を引いたわけだが、自然が広がっている。
    ノレア・デュノクは地球が好きだ。
    同時に自分の生まれが憎い。
    これほどまでに偉大な星に生まれながらも、人の作った枠組みの中で搾取され、差別され、抵抗を強いられる。叶うものなら普通に幸せに暮らしてみたい。だがそれは周囲の環境と自らの行いが許さない。一度闘争に踏み入れれば死ぬまでそれがつきまとう。
    特別不幸だと思ったことはないが、だからといって幸福ではない。ただ生きているだけで憎しみが溜まっていくような毎日である。
    足元を蟻の行列が過ぎ去っていく。遅れた一匹をノレアは足で踏み潰した。
    しゃがみ込みメモ帳を開く。いつからか、死を予感させるものを描くのが趣味になった。
    いつか自分もこんなふうにあっけなく殺されるのだろうか。その時この世に未練を残せるのだろうか。なんとなくそんなことを考えた。

  • 49二次元好きの匿名さん23/02/05(日) 15:34:34

    アリヤ・マフヴァーシュの占いは当たる。
    アーシアンながら意外にも彼女のことを慕う人間が多いのは、その特技のせいかもしれない。
    どうして占いが当たるのか。もちろん何か超常的な力が働いている可能性もなくはないが、最も大きいのは彼女の人柄だろう。
    占い道具、彼女の場合は石を使うことが多いが、極論すればそういった類のものは雰囲気作りの物でしかない。と、本人に言ってもおそらく否定するだろう。なぜなら彼女にとってこの占い道具は先祖から伝わる大事な文化の一つだからだ。それは人類が宇宙に出てから随分影響の薄くなった信仰というものとも心の深いところで繋がっているのかもしれない。
    とはいえ石が伝えた予兆をどう読み取り、どう伝えるかというのがアリヤ自身の能力であることは否定しようがない。たとえ神というものが存在して石を動かしていても、直接その意志を代弁することはない。
    「うん、悪くない。良い感情や成長が見える。きっと今の努力は身を結ぶだろう。とはいえ慢心は禁物だな、最近何か諦めるようなことがあったんじゃないか?もう一度チャレンジしてみることだ」
    女子というのは古今東西占いが好きなものであるのか、様々な寮の生徒が噂を聞きつけてはぽつぽつと占ってもらいにやってくる。最初アーシアンであることを馬鹿にしていたペイル寮の女子二人も、アリヤの洞察力にすっかり魅入られていた。
    「は、はい……」
    「すごい、どうしてこんなに当たるの?」
    占われた者は大抵こんなことを言ってくる。アリヤはお決まりのように笑いながら返答する。
    「私はこの石が伝えたことを翻訳しているだけだ。拡大解釈してそれっぽいことを言っているだけのことだってある。だが、そうやって背中を押せば占いはきっといい方向で現実になってくれるんだ」
    正面に座っていた二人は感銘を受けたように顔を見合わせている。さっきまで占われていた生徒がもう一人の肩をバシッと叩くと、おずおずと叩かれた方が話しだした。
    「えっと、その、れ、恋愛運とかもいけます……?」

  • 50二次元好きの匿名さん23/02/05(日) 15:35:34

    アリヤ・マフヴァーシュは占いが好きだ。
    自分の特技を活かすのが楽しいし、普段見えない誰かの一面を見られることも多い。
    もちろん、と言い終わる前に石をかき集める。相談者と相手の名前と誕生日、その他気になることを聞いたら、胸の前でぐっと石を握り、盤の上に投げる。
    「ふむ……あまりいい兆候があるとは言えないな。これが彼。心の距離が君とは離れているのが分かる。うーんこれは…嫌われているというよりは興味がない、関心がないという類な気がするな」
    相談者はそれを聞いて深く項垂れた。隣の生徒も額に手を当てて天を仰いでいる。
    「……希望がないわけじゃない。こっちの石は…おそらく隣の彼女。これが君の石の方を向いているということは心強い味方になってくれるということだろう。そうだな、俗っぽい言い方をするなら、ダブルデート?とかそういうのをしてみてはどうだろう。とにかく彼女の力を借りてみることだな」
    希望を取り戻し相談者は少し元気になった。
    「ありがとう、アリヤ…さん。ねぇ、その……お、お礼とか」
    「必要ないよ。だけど、そうだな…よかったら、もうアーシアンというだけで私の仲間を悪くいうのはやめてあげてほしい。私にとってはこのオンボロな寮も大事な場所なんだ。これは占うまでもなく分かる」
    占い道具を片付けながらアリヤは言った。
    「うん、分かった。約束するよ。少なくとも私たち二人は考えを改めました!」
    「ありがとう。どうかな、一杯お茶でも。私の地元のお茶は美味しいんだ」
    茶葉とポットを取りに行く。今は地球寮の狂犬は不在だ。チュチュが戻ってくるまでは、もう少し相談に乗ってあげてもいいだろう。

  • 51二次元好きの匿名さん23/02/05(日) 22:38:14

    夜のネタが思いつかないので保守だけさせてくれ
    明日でとりあえず思いついたネタは全部使い切ります

  • 52二次元好きの匿名さん23/02/05(日) 23:17:15

    思わぬ人物に焦点が当たったりして凄く楽しみにしてるシリーズ
    アリヤに占ってもらう女の子たちかわいい

  • 53二次元好きの匿名さん23/02/06(月) 11:02:51

    ソフィ・プロネの朝は遅い。
    夜中まで外の世界の動画を見たりゲームをしたりして過ごしている。加えてこのテロ組織の構成員としては最年少で眠りも深い。
    もちろんガンダムの部品として調整されてきた彼女であるので起こされればすぐに目覚める。
    「ソフィ、早く起きて。畑を手伝うって話だったでしょ」
    目を開くとノレアがいた。腕を組んで呆れた様子でソフィを見下している。
    「うゅ〜ん、もうちょっと寝てたいんだけど」
    「駄目。ナジが待ってるから早く」
    雇い主が待っているとあっては行かないわけにはいかない。仕方なくソフィは起き上がり伸びをして教室を出た。

  • 54二次元好きの匿名さん23/02/06(月) 11:05:39

    ソフィもノレアもガンダムの部品に過ぎない。
    データストームの負荷に耐えるよう調整され暴力性を植え付けられた。きっと大して長くは生きられないだろう。
    二人にとってはそれが定められた運命であったので、それを変えようとは思わない。
    畑に降りるとナジが野菜を収穫していた。
    「ソフィ、ノレア、土を払って籠に入れてくれ」
    ナジは二人を見ることもなく淡々と指示した。小走りに近づき、野菜を受け取る。
    今の生活は案外楽しかった。ガンダムがどうとか身体検査がどうとかばかりだった派遣元の生活よりはよっぽど人間味がある。残された数少ない時間の中でこれだけ楽しい時間があればそこそこ充実していたと言えるのかもしれないとノレアは思った。ソフィは難しいことは分からないが、とりあえず土をいじるのが楽しいのは分かった。
    二人から見てナジは自分達を道具として扱っているように思える。だが自分の道具として大事に扱ってくれている。この星には手駒のことを安い使い捨て爆弾ぐらいにしか思っていない悪党が大勢いるのだから、十分すぎるぐらいの待遇だ。
    時々聞かせられるこの地域のこと、野菜の成長のこと、アーシアンが差別されるにいたった歴史のことは全て新鮮だった。時々こうして土を触らせてくれることも考えると、もしかしたら人間として扱おうとしているのではないかと思うこともある。
    だがそんな馬鹿な期待はすぐに消える。もしそうならガンダムになんて乗せずここで腐らせておけばいいのだ。仮に人間と思っていたとしても、それならそれでナジがひどく矛盾した人間であることはソフィにもノレアにも分かった。
    あるいは先が短い自分達に知識なんて無駄なものを教えるナジは、想像以上に残酷で悪趣味な奴かもしれない。そう考えると、もしかしたらガンダムのコックピットのなかでデータストームに蝕まれながら何も知らずに死んだ方が幸せな気もした。
    だから今は、目の前にある楽しみだけを目一杯味わうことにした。自分を人間だと思い込める時間をもうちょっと楽しもう。

  • 55二次元好きの匿名さん23/02/06(月) 14:57:53

    チュアチュリー・パンランチは狂犬である。
    元々持っていたスペーシアンへの対抗心と学園に来てから実際に受けた差別が彼女の元からの性格をさらに凶暴にしていた。
    「てめぇら!!地球寮生に嫌がらせなんていい度胸じゃねぇか!!懲りねぇスペーシアンどもが!!あーしが相手になってやんよ!!」
    嫌がらせがない日の方が少ないくらいかもしれない。今回はアリヤの落とした生徒手帳を踏みつけられたことが発端だった。
    「黙れよ泥くせぇアーシアンが!汚ねぇ靴でこの辺を歩くんじゃねぇ!床が汚れんだろうが!」
    「んだとぉ!!」
    「やめろチュチュ!私は平気だから!」
    困ったことにいつもどうにか丸く収めるマルタンとニカはいない。いくら狂犬のチュチュといえど相手は男数人。殴り合いになれば怪我をするのはどちらか目に見えている。
    アリヤがそんなことを思っていると懸念通り相手の一人がチュチュの腕を掴んだ。
    「チュチュ!」
    「おい離せっ!!離せよクソスペェ!!」
    じりじりと男たちは近づいてくる。右腕を大きく振りかぶってチュチュに振り下ろそうという時、意外な人物が助けに来た。
    「何やってんだよアンタら!」
    アリヤが声の方を見ると昨日占った二人だった。
    「なんだよお前ら、黙ってろよ。コイツらはアーシアンだぞ?」
    「アーシアンだから何?大体その人にはアリヤさんって名前があんの!分かったら散れ!私達を殴るんなら先生だって黙ってないよ!」
    素行は悪くても結局子供である。大人に問題に介入されたら勝ち目はない。しかも最悪の場合推薦企業にまで迷惑をかけ退学させられるだろう。
    男子たちは舌打ちをしながらどこかへ行った。

  • 56二次元好きの匿名さん23/02/06(月) 15:00:06

    チュアチュリー・パンランチはスペーシアン嫌いである。
    「アリヤさん大丈夫?アイツら野蛮人ってんで有名だから……」
    アリヤとそこに近づく二人の間にチュチュが割り込み睨みつける。
    「何の用だスペーシアン!なんでアリヤの名前知ってんだよ!」
    「ひぃっ!!」
    「チュチュやめるんだ。この子達は私達を助けてくれたじゃないか」
    そうは言ってもチュチュには信用できなかった。アーシアンというだけで虐められるなら、スペーシアンというだけで敵視する理由にもなる。
    「信用できねーよ!大体コイツら『私達を殴ったら』って言ってたじゃんか!あーしらが殴られても誰も動かねぇって言いやがったんだ!」
    「うっ……」
    そこを突かれると、確かに女子二人には言い訳のしようがなかった。なにしろ事実としてアーシアンの訴えなどまともに取り合われないのである。
    「チュチュ。二人に悪気がなかったのは分かってるはずだぞ。言葉のあやだ。私たちが殴られてもいいとは一言も言ってなかっただろう」
    「けど!!」
    「もし助けに来たのがスレッタやミオリネでも、同じことを言ったか?」
    「それは……」
    現状チュチュとまともに会話ができるスペーシアンの生徒はスレッタとミオリネだけだ。その二人を引き合いに出されるとチュチュは弱い。
    スペーシアンというだけで差別するなんてクソスペーシアンと一緒。いつかミオリネに言われた言葉を思い出す。頭では分かっていても頭に血が上ると忘れてしまう。
    スレッタ達を思い出すとチュチュは少し穏やかになれた。存在しないと思っていた「話の分かるスペーシアン」が実在したのだから、チュチュも態度を改めなければならない。
    「…悪かったよ。あーしは喧嘩っ早くってさ。みんなにもいつも言われてんだけどな……」
    「う、ううん、大丈夫!私も前はアイツらと同じようなもんだったし……」
    とりあえず友人達が仲直りしてくれてアリヤは安心した。チュチュはしょんぼりしながら新しい知り合いに道を開けた。
    「二人とも助かったよ。まさか昨日の今日でこんなことになるとはな」
    「有言実行ってやつ!アイツらのことは一応ちゃんと報告しとくから!それじゃ、また占うことがあったらよろしくね!」
    手を振りながら2人は去っていった。

  • 57二次元好きの匿名さん23/02/06(月) 15:02:10

    それにしてもアリヤは案外顔が広いとチュチュは実感した。さすがは頼りになる先輩だ。
    「……アリヤ姐」
    「んん???」
    「これからアリヤ姐のこと、アリヤ姐って呼んでいいかな!?」
    それから数日の間、ニカがアリヤに言われてチュチュを叱るまで、アリヤは「アリヤ姐」だった。

  • 58二次元好きの匿名さん23/02/06(月) 23:24:57

    チュアチュリー・パンランチには家族がいる。
    地球に残してきた肉親。それと同じくらい大事な推薦企業の従業員達。彼らと通話するのが何よりの楽しみだ。
    「チュチュ!どうした、元気だったか!」
    ガヤガヤと画面の向こうにみんなが集まり始める。騒がしくて荒っぽい連中だがチュチュは誰よりも彼らの優しさを知っている。
    「学校はどうだ?楽しくやれてるか?」
    他の生徒は会社や親のためと思って重いものを背負い込んでくる者が多い。チュチュも学園に入学する前はそうだったが、それを見かねた家族達は、存分に学校を楽しむよう言ってくれた。周りのスペーシアンが持っていないものを持っているような気がしてチュチュには誇らしかった。

  • 59二次元好きの匿名さん23/02/06(月) 23:25:45

    「相変わらず懲りねぇスペーシアンどもはいるけど、地球寮のみんなは優しいよ。あっ、そういやさ……地球寮にスペーシアンの生徒が入ったんだ。スレッタってんだけど」
    「チュチュにスペーシアンの友達!?ど、どうしたんだお前、熱でもあるんじゃないか…?」
    「みんなあーしのこと何だと思ってんだよ!スレッタは他の連中とは違うんだ。年上のくせにいつもビビってっけど、決める時は決める奴なんだよ。あーしらのことを見下したりしないし……」
    話していて、これでいいのだろうかとチュチュは思った。家族は地球でスペーシアンの搾取に苦しんでいるのに、自分だけが宇宙に出てスペーシアンと仲良くなろうとしている。家族はそれを許してくれるだろうか。
    「……みんなはさ、あーしがスペーシアンと友達になったら、変だと思う?」
    「ん?なんだチュアチュリー、突然?」
    「今日もまたスペーシアンと知り合いになったんだ。話してるとアイツらの中にも話が分かる奴がいんだよね。けど、みんなは地球にいてスペーシアンにいじめられてんじゃん?あーしはこれでいいのかなって……」
    「なんだ、何を言い出すかと思えば!俺達のことは気にすんなよ!」
    「え?」
    「チュチュが宇宙に行く前、学校を楽しんでこいって言ったろ?スペーシアンとかアーシアンとか関係ねぇ。お前が大切って思える友達を見つけて、無事に帰ってくれば俺達はそれでいいんだ。お前が選んだ友達なら悪い奴じゃねぇに決まってるしな」
    「みんな……」
    最初に言われたことのはずなのにうっかりしていた。苦しい懐事情のなか送り出してくれたのに、そんなちっぽけなことで文句を言う彼らではない。チュチュは家族の優しさの深さに触れて目頭が熱くなった。これ以上話しているとダサいところを見せてしまう。
    「えっと、みんなあんがと!今日はもう寝る!」
    「おう、しっかりやれよチュチュ!おやすみ」
    通話を切ると、頬に涙が流れるのを感じた。誰かに見られたら絶対からかわれる。笑いながら涙を拭うと、幸せを独り占めするために毛布をかぶった。

  • 60二次元好きの匿名さん23/02/06(月) 23:25:58

    どのキャラの描写もすごく好きです

  • 61二次元好きの匿名さん23/02/06(月) 23:27:39

    リアルタイム縛りでやってきたけどそこまではもう思いつかないので思いついた時に書き込もうと思います

  • 62二次元好きの匿名さん23/02/06(月) 23:30:14

    チュチュとアリヤとかは学園では珍しく家族に恵まれてるからいいよね
    家族が悲しむから絶対生き残れよ

  • 63二次元好きの匿名さん23/02/07(火) 08:47:56

    12話以降のをちょっと思いついたんだけど投下しても平気?当然重いし設定も食い違う可能性がある
    2つだけ投下したい

  • 64二次元好きの匿名さん23/02/07(火) 09:19:17

    ぜひ読みたい

  • 65二次元好きの匿名さん23/02/07(火) 09:34:09

    >>64

    了解、ちょっと待っててね

  • 66二次元好きの匿名さん23/02/07(火) 11:13:17

    (ちょっと時間が飛んで12話以降)
    人というのは脆いものだ。
    プラント・クエタがテロリストの襲撃にあってから数週間。甚大な被害を出しながらも少しずつ修復が進んでいた。今日はテロで亡くなった人々の追悼式典が行われている。
    「我々は彼らに恥じぬよう進み続けなければなりません。テロリズムという文明社会への攻撃に決して屈してはならない。いかなる理由があろうと暴力による主張は正当化されないのです。代償を払わせなければならない。ここで生産されるモビルスーツは報復を支える一手となるでしょう」
    並べられたパイプ椅子に座る女性。彼女の婚約者は守備隊のパイロットとして当時任務に就いていた。ニュースを聞いてプラント・クエタに彼の安否を確認すると、返ってきたのはMIA、作戦中行方不明の知らせだった。宇宙空間における戦闘で行方不明というのはほぼ確実に死だ。
    もう危ない仕事はやめるよう彼女は婚約者に何度も言ったが、給料がいいから、夢だったから、実戦なんかありはしないからと何度も断られてきた。
    ついに懸念が現実となった今、彼女には怒りは湧かなかった。ただ彼を止められなかった自分への自責の念が増幅していく。
    襲撃に使われたというガンダムは21年前に禁止されたはずの悪魔の兵器だ。なぜそんなものをテロリストが持っているのか。しかも最近ではベネリットグループ内でもガンダムを開発する動きがあるという。
    彼女から見れば、グループもテロリストも同じ穴の狢に見えた。力によって誰かより上に立っていないと安心できないような奴ばかりだ。一人の兵士が死んだのに、その命の対価は多少の補償金と紋切り型のお悔やみの言葉だけだ。
    グループ企業の役員たちが次々と演説文を読み上げていく。彼女には彼らの声は全く聞こえていなかった。

  • 67二次元好きの匿名さん23/02/07(火) 11:14:40

    ミオリネ・レンブランの元に抗議文が届いた。
    テロ以来何通ものメールや手紙が株式会社ガンダムには届いた。社長は総裁の娘、従業員のほとんどがアーシアンで、抹消同然だったGUND技術の研究を行なっているとなれば風当たりは当然強くなった。
    手紙の封を切り読む。どうやら送り主は女性のようでガンダムに婚約者を殺されたと書いてあった。
    「私にはなぜガンダムにこだわるのかが分かりません。医療用と言いながら実際にはモビルスーツ研究に手を染めているのは、かつてのヴァナディースと同じではありませんか。私の目にはあなた方とテロリストとは何の差もないように見えます。即刻研究を中止し会社を畳んでください」
    後半を要約すればこのようなものだった。
    ガンダムの呪いは重いという父の言葉が今のミオリネには痛いほど分かった。ただ友達を助けたいという思いで走ってきたのに気づけばとんでもないところに足を踏み入れていた。今更後悔しても遅い。誰も助けてくれる人はいないのだ。今のミオリネ・レンブランは社長で、会社の責任は彼女にあるからである。頼れるはずのスレッタにはあの日から近寄れなくなってしまった。
    「あっ、あぁ……ごめんなさい…ごめん、なさい……」
    今はそう言いながら泣くことしか出来なかった。

  • 68二次元好きの匿名さん23/02/07(火) 11:16:14

    っていう展開もあり得ると思うんだけど、こっからどうするのかはマジで分からん……
    少なくともスレッタとミオリネを最後まですれ違わせることはないと信じたいが…
    それからこういう展開だとデリングが自らの行いで巡り巡ってミオリネを絶望させてることになるからより罪の重さが増しちゃうね

  • 69二次元好きの匿名さん23/02/07(火) 11:20:03

    我ながら読み返すとどの話も文章構成が似てて嫌になっちゃうわね
    すまぬ

  • 70二次元好きの匿名さん23/02/07(火) 19:49:30

    いいのよ、それを楽しむスレだもの

  • 71二次元好きの匿名さん23/02/08(水) 00:48:28

    正直こういう文好き
    また気が向いたら書いて欲しい

  • 72二次元好きの匿名さん23/02/08(水) 01:27:49

    同一な構成で違う視点を見る。
    好きですよ、そういうの。

  • 73二次元好きの匿名さん23/02/08(水) 11:41:01

    めちゃくちゃ面白いんだが?

  • 74二次元好きの匿名さん23/02/08(水) 12:54:28

    SSは良いね、人が生み出した文化の極みだよ

  • 75二次元好きの匿名さん23/02/08(水) 21:07:29

    (時系列戻ります)
    ケナンジ・アベリーは勘がいい。
    「異常ないな」
    「はい」
    ドミニコス隊は補給のためフロントへ移動していた。不正を正すのが仕事といっても常に戦うほど不正が蔓延っていてはたまったものではない。こうした暇な時間こそドミニコス隊が存在している意味である。
    「あの…艦長がエースパイロットだったって噂、本当ですか?」
    航海士が計器から目を離さずにケナンジに質問した。
    「お前なぁ、仕事に集中しろよ。…ちなみに噂は本当だぞ」
    「どうしてやめたんです?」
    「知らんのか?昇進すると給料は上がるんだぞ。それに言いたかないが、この腹じゃね……」
    ヴァナディース事変の現場にいたことは言わなかった。隠すつもりはないがわざわざ話すことでもない。
    「……ん?レーダーに映ってるこれ、何だ?」
    「民間の輸送船ですね。珍しいですね、こんなところに船なんて。どこに行くんだか」
    普段と違うことというのは何かしら理由がある。多くの場合はたまたまという理由で一括りにされるが、ケナンジの勘はそう感じていなかった。
    そういう時、ケナンジは勘を信じてみる。今は一刻を争う任務はないので多少上陸が遅れても隊員たちの愚痴の対象になるだけで済む。
    針路を変更し、民間船のいる宙域へ向かった。

  • 76二次元好きの匿名さん23/02/08(水) 21:12:09

    ドミニコス隊はエリートである。
    様々な出自の優れた能力を持った者が集まる。個人としていくら強力でも集団には勝てない。優秀な者達はそれを理解しているので、連携を乱すことはない。
    臨検を行う旨を艦内に伝えると場の空気が変わった。格納庫のメカニックたちは談笑をやめ、パイロットたちがぽつぽつと集まり始める。
    「前方の輸送船、停船せよ。こちらはベネリットグループ、カテドラル所属、ドミニコス隊。航行の安全のため現在無作為の臨検を実施している。停船の上登録番号の開示を求む。繰り返す、直ちに停船せよ」
    呼びかけへの反応はない。どうやら勘は当たっていたようだ。
    「第1モビルスーツ小隊は出撃、臨検隊もだ」
    命令のある頃には既に準備を終えている。ハインドリーシュトルムがカタパルトから射出された。
    ドミニコス隊が輸送船に近づくと、輸送船後部のハッチが開きモビルスーツが姿を現した。
    旧式の民間機を無理やり武装させているそれは、どうにか銃を撃てる程度のものだ。数も1機しかいない。
    スラスター制御にもたつきながら飛び出してきてあらぬ方向に弾をばら撒いている。
    第1モビルスーツ小隊のパイロット達は呆れた様子で回避する。
    「アイツら正気かよ?正規の部隊に抵抗しようなんて自殺行為だぜ」
    そんな無駄口を叩いていると通信にケナンジが割り込む。
    「その通りだが本当に殺すなよ。あの程度なら武装解除できる。訓練通りやればいい」
    「コピー」

  • 77二次元好きの匿名さん23/02/08(水) 21:12:50

    敵機は動いてはいるが、直線的な動きを繰り返しているという方が正確だ。これではこちらを撃ってくるだけの移動標的にすぎない。アスティカシアのパイロット科の学生の方が何倍もいい動きをするだろう。
    対してこちらは曲線的かつ三次元的に機動することで的を絞らせない。まともな射撃管制ソフトも積んでいないような民間機もどきでは追尾は不可能だ。
    命令通りにライフルを持つ右腕を狙撃するとバラバラになった部品が飛んでいった。武装を失った敵は逃げ帰ろうとするも、輸送船の方は待ってやる気は全くないようである。
    当然逃げ切れるわけもなく、別働隊が進路を塞いでいる。銃口を向ければ諦めたように減速を始めた。臨検隊の乗ったシャトルが横付けされる。
    臨検隊の報告によれば違法薬物の密輸船だったようだ。いつの時代も現実逃避したい輩が消えることはなく、地球で栽培したものを宇宙まで運ぶとかなりの身入りになるらしい。わざわざ地球産を欲しがるのは犯人曰く「香りが違う」のだそうだ。地球の豊かな自然のろくでもない活用方法である。
    「身元は分かったのか?」
    「それが……主犯格以外は市民ナンバーもない貧困層です。今回の仕事も単発で、何を運ばされてるのかすら知らなかったみたいですね」
    報告を聞いてケナンジはため息をついた。宇宙まで出てきたというのに人は度し難い生き物だ。どうやら暇な時間というのはドミニコス隊が享受するにはまだまだ贅沢品であるらしい。
    本部への報告書作成のためケナンジは艦長室へ向かった。

  • 78二次元好きの匿名さん23/02/08(水) 21:25:19

    どこかでこのケナンジさんとボブが巡り合えますように…

  • 79二次元好きの匿名さん23/02/09(木) 04:59:01

    保守る

  • 80二次元好きの匿名さん23/02/09(木) 07:28:23

    この世界って民間MSっているんだろうか?
    モビルポッドに武装させてオッゴモドキを出した方が良かった気がしてきた

  • 81二次元好きの匿名さん23/02/09(木) 07:31:52

    このレスは削除されています

  • 82二次元好きの匿名さん23/02/09(木) 07:32:12

    間違えたモビルクラフトか
    モビル○○多すぎ!

  • 83二次元好きの匿名さん23/02/09(木) 15:51:54

    キャタピラタイプの工業用レイバーとかなら地球でありそう

  • 84二次元好きの匿名さん23/02/09(木) 21:59:06

    モビルスーツは1人で動かせない。
    どんなに優れた技量を持ったパイロットでも整備されていない機体では戦えない。何人ものメカニックと、さらにそれを支える部品メーカーの助けがあって、はじめて動かすことができる。
    ペイル社の所有する格納庫ではガンダムファラクトの整備が行われていた。エアリアルとの決闘でバラバラにされた本機は、どうにか元の姿を取り戻しつつあった。
    「全く!冗談じゃねぇよ!なんだって負けるんだ、整備が面倒だろうが!」
    1人のメカニックがコックピットの点検を行なっている。ペイル社に入社してから何十年と経つベテランの彼は手早くも正確に不良を探していた。
    「ごめんなさい、今いいかしら」
    後ろを振り返るとベルメリア・ウィンストンがいた。エラン・ケレスも一緒だ。
    「何か御用ですか?あいにくまだ動かせませんが……」
    「いえ、いいのよ。ちょっとした調整をしておきたいだけなの。少し席を外してもらえるかしら」
    「はぁ…分かりました」
    コックピットから出るとエラン・ケレスがこちらに微笑んだ。
    微笑んだ?今までエランが整備班に笑いかけたことなどなかった。学園では氷の君とか呼ばれていたらしいいが、その名の通りエランはほとんど誰とも会話せず淡々と整備に必要な情報だけを伝えていた。それが随分と柔らかい笑顔が出来るようになったものだ。
    以前一度だけ、彼はエランと会話したことがあった。何かきっかけがあったわけでもなく、なんとなく故郷の話をしてみた。
    「僕はもう帰れないよ」
    その時エランはそれだけ言って以降は何も言わなかった。
    一体どういう風の吹き回しで笑ったりしたのだろうか。コックピットに入っていくエランに声をかけてみる。

  • 85二次元好きの匿名さん23/02/09(木) 21:59:34

    「なぁお前さん……何かいい事でもあったかい?」
    「そうだねぇ、ま、そうなのかもしれないな」
    エランはまた笑った。
    やはりおかしい。こんな口調で今まで話しかけたことはない。ペイル社の擁立パイロットとしてそれなりに立場のあるエランに対して、彼はいつも敬語だった。
    それなのにエランはなんの反応も示さない。それだけならいつもの氷の君かもしれない。だが今目の前にいるエラン・ケレスは、今までの自分というものを忘れてしまったかのように見えた。
    メカニックとしてこの機体がどういうものなのか知らないわけではない。ペイルの最高機密であるファラクモを整備するメンバーは皆腕利きで口も堅い。だからこれが呪われた兵器であることも教えられたし、教えられなくても触れば分かっただろう。
    それでも知らされていないこともある。なぜデータストームを受けているのにパイロットは無事なのか。なぜエラン・ケレスに直接連絡を取ることが禁止されているのか。なぜエラン・ケレスは笑ったのか。
    事実からそれなりの考察をすることは出来る。だが彼はそれ以上考えるのはやめておくことにした。
    「触らぬ神に祟りなしだな」

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