【SS】タキオンが怪奇事件の相談を受ける話【ウマ娘×ミステリ】

  • 11◆cBeSfn59lQ22/02/11(金) 20:24:52

    ※やや長めですが、よろしければお付き合いください。

    ※オリウマ、オリヒトが出てきます。ミステリなので、不要なときに代名詞で叙述トリックを疑わせたくない。というのが主な理由です。ご容赦ください。


  • 21◆cBeSfn59lQ22/02/11(金) 20:25:08

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     昼休憩中にも関わらず、忘れ去られたようにしんと静まり返った、校舎の隅の廊下を制服姿のウマ娘が2人、その静寂を破るのを怖がるようにゆっくりと歩みを進めていた。

     「……ドーベルちゃん、どう?」
     「どう?って言われても……」

     暗い鹿毛を長く伸ばしたウマ娘、メジロドーベルは芦毛の友人、メルシープティングに押しやられるように歩きながら、規則正しく並んだ教室のプレートを数えた。
     ――階段を上って左に4つ目。突き当りの手前の教室。

     「……ここだ」
     振り返ると、メルシーはすっかり耳を絞ってしまい、ドーベルの背中に張り付いたような格好になっている。

     かつては「理科準備室」のプレートが掲げられていたはずの、今は空っぽになったフレームに一瞥をくれてから、ドーベルは扉を4度、ノックした。

  • 31◆cBeSfn59lQ22/02/11(金) 20:25:21

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     「開いているよ」

     緊張感のない返事だったが、確かに無人ではないらしい。思わず安堵のため息を漏らすと、努めて顔を強張らせ、扉に手をかける。

     「おじゃまします」

     「おや、誰かと思えばドーベル君じゃないか。ようこそ、私のラボラトリーへ」

     すみれ色のトレセン学園制服の上に白衣という出で立ちのウマ娘、アグネスタキオンは手にしていた何かの容器を机に戻すと、白衣の匂いを嗅ぐような仕草を見せてから2人をソファに案内した。


     「……劇薬でも使っていたの?」

     「フフ……まあ、そんなところさ……お茶はいかがかな?」

     「あの……」
     先程から、ドーベルの影に隠れるようにしていたウマ娘が声を絞り出す。
     「マンハッタンカフェさん……居ますか?」

     「見てわからないかい?」

     「タキオン、言い方!怖がってるでしょう?」

     一瞬不服そうに眉を吊り上げたタキオンだったが、相手が耳を絞っているのに気づいて「悪かった」と短く非礼を詫びる。彼女のように萎縮しきった様子でここを訪れるウマ娘は案外多かった。(原因はカフェの方にあると、タキオンは信じてやまない。)

     「あいにく、カフェは学園の外を走っているよ。放課後には戻るハズだけど」

  • 41◆cBeSfn59lQ22/02/11(金) 20:25:35

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     このラボラトリー、もとい旧理科準備室を共有する青鹿毛のウマ娘、マンハッタンカフェは3年間のトゥインクルシリーズで勇名を馳せ、後輩ウマ娘たちからアドバイスを求められる立場になっていた。彼女らもそんな噂を聞きつけて訪ねてきたのだろう。

     「そうなの……じゃあ、出直そうかしら」

     「察するに、何か相談事だね?私で良ければ聴くが」

     「タキオンが……?」

     そう露骨に怪訝そうな顔をしないで欲しい。

     「あのう……わたし、メルシープティングといいます。ドーベルちゃんとは、その、シェダルで一緒に走ってます」
     メルシーがペコペコと頭を下げる。それに合わせて左耳のリボンがひらひらと揺れていた。

     チーム:シェダルはティアラ路線で結果を残す強豪チームだ。スタッフも合わせると50人を超える大所帯で、所属ウマ娘だけでなく、トレーナーの育成の場にもなっていると聞いたことがある。

     「カフェほど聞き上手ではないが、私だってURAファイナルズを戦い抜いた身だよ?力になれるはずだ」

     「あのー、タキオン?それがね?」

  • 51◆cBeSfn59lQ22/02/11(金) 20:25:47

    4 / 14

     ――その年、チーム:シェダルはドーベルの紹介もあり、メジロ家所有の島を貸し切って合宿を行っていた。
     島には屋内トレーニングジム、整備されたターフの運動場、島の外周をめぐるランニングコースなど一通りの施設が揃っている。

     チーム内でさらにAとB、2つのチームに分かれ、交互に屋内外の施設を利用するスケジュールとなり、ドーベルとメルシーは若手女性サブトレーナー「トワちゃん」こと十和田の率いるAチームに振り分けられた。

     奇妙な話を耳にしたのは最終日、慰労も兼ねた浜辺のバーベキュー大会の席でのことだ。

     Bチームの子で、ランニング中、港で十和田の姿を見かけた子が居たのだ。

     しかし、十和田はずっとドーベルたちの前に居て、練習の時間を共にしている。島の外周をぐるっと回るランニング中は別行動だが、その時間にはBチームは屋内だ。

     ドーベルの背中にぞくりとくるものがあった。
     気持ちを落ち着かせるよう自分に言い聞かせながら、話の整理をしようとした。

     そして、その試みは失敗に終わった。

     何度考えても、2箇所同時に十和田が存在していたことになる。

     トーチが照らすオレンジ色の光の中でも判るほど青ざめた顔を見合わせながら、ドーベルたちはこの話をそれぞれの胸の内にしまっておくことにしたのだった。

  • 61◆cBeSfn59lQ22/02/11(金) 20:26:01

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     「ふむ……それが何故、今になって相談を?」

     話し終えたドーベルの顔は、その最後に語られた様子と同じく青ざめていた。メルシーに至っては涙すら滲ませている。
     タキオンは立ち上がると、今は主の出払っている戸棚からカップを取り出し、ラボスペースから持ち出したティーポットの中から、湯気の立ち上る琥珀色の液体を注ぐ。

     まずは落ち着いて、安心してもらうべきだろう。カフェなら平時、そうやって相談者に対応している気がする。
     「どうぞ。粗茶だけどね」

     「ええ……ありがとう……それがね、今年また、同じ島を合宿に使おうって、話が来てて……心配で」

     「ドッペルゲンガーって、本人が見たら死んじゃうんでしょう?トワちゃん、結婚が決まったばかりなのに……」

     「なるほど、ね……」
     腕を組んで注意力が飛び散らないように抑え込む。

     カフェの元に舞い込む相談のうち、1割くらいは今回のような心霊絡みだ。そして、そういった相談に対して、カフェは必要以上に気負いすぎるきらいがある。
     自分にしか対処できない、と。

     カフェの使っている小さな卓上カレンダーに目を遣って、ため息をついた。

     「わかった。カフェが戻ったら話しておくよ。その前に、2.3いいかな?」

  • 71◆cBeSfn59lQ22/02/11(金) 20:26:14

    6 / 14
     
     1メニューにつき、定められた時間は1時間。
     50分の練習の後、5分の休憩と5分の移動時間を1コマとし、順繰りに4種2度ずつ繰り返す。

     内容は
    ○ジム設備を使っての「重量トレーニング」
    ○芝の運動場を使っての「技術練習」
    ○屋内に戻って「座学」
    ○島の外周を回る「ラン」
     と続く。

  • 81◆cBeSfn59lQ22/02/11(金) 20:26:31

    7 / 14

     「私達は重量トレーニングからだったけど、Bチームは技術練習からスタートしてるわ」

     「つまり、ドーベル君の1つ前のメニューをこなしていたわけか……Bチームの子が、ランニング中にドッペルゲンガーを目撃した時には……君たちは座学だね」

     「ええ、座学は特にトワちゃ……トレーナーから目を離せないから」

     「最後のほうは疲れてて、居眠りしてる子も多かったけどねー」

     それにしたって全員がそろって眠りこけるような事は無いはずだ。と、横からドーベルが付け加える。少し頬を染めているところを見るに、彼女も身に覚えがあるのだろう。少し意外だ。

     「その裏で、もうひとりの彼女が目撃された……島の地図はあるかい?」

     「えと……簡単に描くだけなら」

     「お願いするよ」

     2人のウマ娘が相談しながら、紙の上を文字や記号で埋めていく。
     ビーチを除いては、ほとんど練習施設しか存在しない島。なるほど、合宿するにはもってこいだ。

     「座学はここの宿舎の会議室。ドッペルゲンガーが目撃された港はここ……」
     その他の施設も含めて島の片側に集中しており、距離にするとあまり離れていない。ウマ娘の足でなくとも5分とかからないだろう。

     「コースはここの堤防をスタートして、島の外周をぐるりと……最後に芝のグラウンドで軽く流してから次のメニューに行くようになってたわ」
     精一杯走った後、芝で一休みするのは合宿中の楽しみの1つであったという。

  • 91◆cBeSfn59lQ22/02/11(金) 20:26:45

    8 / 14

     ドーベルたちにとって、最終日の最後のメニューもランだったそうだ。
     「でも、最後の日はゴールがビーチで……トワちゃんは先にゴールで待ってたから、姿を見ていないのはこの期間だけね」

     「そうだったそうだった!最後はビーチでクイズ大会だったねー」

     「ほとんど座学の復習だったけどね」

     「そのままビーチでバーベキュー、そこでドッペルゲンガーが出たことを知った、と……」
     タキオンは地図を持ち上げると、目線の高さまで持ち上げてしげしげと眺めた。

     「あの……」
     気づけばそのまま数分固まっていたらしい。心配そうな声に、思考の深層から引き揚げられる。
     「それで、ドーベルちゃんとも話して、カフェさんに合宿に同行してもらおうかな、って……」

     「……まあ、現地調査は大事だ」
     しかし、これはそうなる前に解決するべき案件だ。
     できるのなら……そう、カフェの手を煩わせる前に。

     タキオンはもう一度卓上カレンダーに目を移した。
     ひと月先の日付。カフェの可愛らしい丸文字で、トゥインクルシリーズを離れて初めての公式戦、「サマー・ドリームトロフィー」の名が刻まれていた。

  • 101◆cBeSfn59lQ22/02/11(金) 20:26:59

    9 / 14

     「――では、君は迷った結果として、港に?」

     「え、ええ……」
     目を泳がせながら頷く栗毛のウマ娘は、ドーベルと同じチーム:シェダルに所属し、去年の夏にもうひとりの十和田トレーナーを目撃した人物だ。タキオンとは同い年になるが、今は指導者を目指してスタッフとしてチームに所属している。

     時刻は放課後。ドーベルに頼んで彼女を呼び出し、理科準備室まで来てもらったが、選手であるドーベル自身はどうしても練習から抜けられないとのことで、彼女もまたおっかなびっくりの様相を呈していた。

     「目撃したのは君一人なんだね?」

     「はい……あの……」

     「なんだい?」
     タキオンが顔を上げる。その顔に、白衣に、2人が座っているテーブル周辺を除いた部屋中に蛍光色に輝く液体が付着していた。

     「それは?」

     「体に害はないよ。水性だからウェットティッシュなんかで拭き取れるし」

     「聞いているのは理由もだ」とでも言いたげな表情を無視して、地図を開く。
     「ゴールはここ……コースは一本道で、ゴール前を通過しないと港には行けないと思うんだが……本当は何をしに港へ?」

     「うっ……あの、実は……」

  • 111◆cBeSfn59lQ22/02/11(金) 20:27:11

    10 / 14

     チームBのサブトレーナーの男性は、その夏を最後にチームを去る予定だった。といっても、破門や不祥事などではなく、独立して自身の担当を持つための門出だ。
     しかし、引き継ぎがうまく行かず、任期が合宿まで延びた上に最終日の終盤という土壇場で一足先に空港へ向かうハードスケジュールとなったのだという。

     ランニングコースをオーバーランして、最後にひと目会おうと考えたのは淡い恋心からだったが、その想いは意外な形で打ち砕かれることになる。

     港にはすでに見送りの先客が居たのだ。

     「それが十和田サブトレーナーだったわけだね?」

     栗毛のウマ娘が頷く。まだ胸が痛むのか、言葉にできない憤りがあるのか、瞳には水気が見て取れた。
     「抜け出して何してんだー!って思いましたよ。それで、それとなく聞き出そうとドーベルちゃんたちに話を振ったんです」

     そこで、自分が見たはずの十和田サブトレーナーが、その時間、ドーベルたちに教鞭を振るっていたと言われたのである。
     「なるほど……」

     「実は生霊とかだった!……なんて、あったりするのかな……」

     「どうだろうね」
     タキオンはティーカップの側面にも蛍光色がついている事に気づいて、指で拭ってから口元に運んだ。
     「私は、そうでない可能性を見ているよ」

  • 121◆cBeSfn59lQ22/02/11(金) 20:27:26

    intermission:タキオンの音声メモ

     「(ザッピング)……記録開始、――さて、今回の記録は……後で詳細を訊かれた時用かな?
     ドッペルゲンガー。なんというか……メモを取りながらなら、すごく簡単な事件だったよ……このファイルと同じ場所に保存しておこう。(クリック音)これさえ見ればカフェでも一目瞭然なんじゃないかな?
     ……さあ、少しラボを掃除しておこうか(手を叩く音)

  • 131◆cBeSfn59lQ22/02/11(金) 20:29:18

    以降解決編になります。
    (ここでタキオンのメモを画像で貼る予定だったのを忘れていた事に今気づいたので、今から作ります。)

    解決編は21時半ごろ投下します。

  • 14二次元好きの匿名さん22/02/11(金) 20:31:19

    待ってました!

  • 15二次元好きの匿名さん22/02/11(金) 20:36:26

    蛍光塗料…なんだろ…?

  • 161◆cBeSfn59lQ22/02/11(金) 20:50:30

    タキオンの添付資料_1
    スケジュール表

  • 171◆cBeSfn59lQ22/02/11(金) 20:51:11

    タキオンの添付資料_2
    地図

  • 18二次元好きの匿名さん22/02/11(金) 20:54:44

    なんか見覚えがある気がするんだけど以前ここで同じ感じのを書いてたり?

  • 19二次元好きの匿名さん22/02/11(金) 20:55:26

    時間の感覚がずれたって訳でもないよな…

  • 201◆cBeSfn59lQ22/02/11(金) 20:57:32

    >>18

    シリーズは6本目だけど、重複して投稿はしてないです。

    トリックは自作だけど、探せば被ってるのあるかも……

  • 21二次元好きの匿名さん22/02/11(金) 21:02:27

    ははーん、さては双子だな?(十戒を即座に破りに行く

  • 22二次元好きの匿名さん22/02/11(金) 21:03:53

    時間か場所かを勘違いする要素……うーん

  • 23二次元好きの匿名さん22/02/11(金) 21:07:18

    んー……あるとすれば座学の部屋にある時計がずれてた、かなぁ
    これ本来のスケジュールだとトワちゃん見送りに行けないし

  • 24二次元好きの匿名さん22/02/11(金) 21:14:12

    トレーナーは休憩の間に港に行ったんだろうけどそれを45分頃と思い込む理由とヒントっぽい蛍光塗料との関連…?

  • 251◆cBeSfn59lQ22/02/11(金) 21:30:11

    解決編

  • 261◆cBeSfn59lQ22/02/11(金) 21:31:22

    11 / 14

     「なんですか、この部屋は?!」

     「……気にしないでくれたまえ」
     肩を空かしてみせる。
     時計は門限まであと30分を指している。掃除のためにトレーナーを呼び出してはいるが、肝心なときに遠出しているのが彼の性質というか、生まれ持った星だった。
     そんなわけで、タキオンの隣にはソファにより掛かるようにしてモップが置かれている。

     「さて、本当は君に話すのは……相談内容からすればご法度のような気もするんだが……そうした方がきっと、相互理解につながると信じているよ。十和田トレーナー」

     「まだサブです」
     少したじろぎながらも、しっかりと言葉を返すのは、さすがは指導者といったところだろうか。生徒に優位を取られまいとする意思を感じる。

     「ドーベルさんから、ここに来るようにと聞いたのですが」

     「なに、君のチームの子から悩み相談を受けたから、解決手段を模索しているだけだよ……もちろん、協力してくれるだろう?」

     嘘はいっていないし、断る理由もない。
     十和田はまだ警戒した様子ではあったが、首を縦に振るとソファに腰掛けた。

  • 271◆cBeSfn59lQ22/02/11(金) 21:32:09

    12 / 14

     「さて、今回の事件……というか勘違いの鍵は、それぞれの視点では全体像が見えていないことにある。……そのうえで原因はというと、やはり君という事になってしまうのだけれど……」

     「事件?」

     「ああ、そうか……君の視点からでは何も綻ばず、何も露見せずなんだったね。これも“見えていない全体像”だ」

     机の上に手書きの地図を広げる。当事者ならば端々に書かれたメモも合わせれば、去年の合宿の舞台だということは明白だろう。
     港には目立つように「ドッペルゲンガー」と書かれていた。

     「見られていたんだよ。君は単に見送りに間に合うよう、それが露呈しないよう、動いただけのつもりだった。しかし、目撃者が居たことで、ドッペルゲンガーの怪異と成り果ててしまったんだ」

  • 281◆cBeSfn59lQ22/02/11(金) 21:32:30

    13 / 14

     「実に簡単な話だ。ランニングコースは島一周といえど、スタート地点は堤防。ゴール地点は芝のグラウンドで、同じではない。早めにAチームを屋外に出してしまってもBチームと鉢合わせることはないんだ」

     しかし、タイムスケジュール表の上では座学の最中である。

     「“居眠りの多い”座学のね。たぶん、君が時間だと言えば、それが十数分早いなんて気づかず、みんな喜んで起き出したんじゃないかな?しかも、君はランニングのあとで復習の時間を設けて、失われた座学の時間を補てんしている――」
     それが、最終日にだけ行われたクイズ大会の正体だ。もちろん、全体の終了時刻に帳尻を合わせる意味もあっただろう。
     「――指導者として、責任は果たした。といったところだろうか。手放しでは褒められないけど、立派だと言っておこう」

     こうして、ドーベルを含むAチームのメンバーは全員が現在時刻を誤認したまま、屋外へ出た。十和田が港で目撃されるまで、まだあと数分ある。

     「君は同僚を見送るため、港に向かった。彼には飛行機の時間があったからね。そうするほか無かったんだろう……そこを、同じく彼に思いを寄せて見送りに行こうとする生徒に見られたわけだ」

     「ごほっ!」
     目撃者が恋するウマ娘と知ったのはなかなかの衝撃だったのだろう。十和田がむせ返るので、自分のティーカップを少し避難させる。

     「……こうして、その時間には座学の途中だと思っているドーベル君と、港の目撃証言とで、君の存在が2人になってしまった。これが、このドッペルゲンガー事件の正体さ」

  • 291◆cBeSfn59lQ22/02/11(金) 21:33:27

    14 / 14

     十和田がなにか言おうと口をぱくぱくさせている間に、ガラっと音を立てて勢いよく扉が開かれた。
     「聞こえちゃった」
     「聞いてたよー」

     そこに立っていたのは、ドーベルとメルシーだった。
     とはいっても、事後処理のために2人を呼びつけたのは他ならぬタキオン自身である。こちらの話に聞き耳をそばだてているというのも、まあ、計算の内だ。

     「どうして初めから一言断って港に行かなかったんですか!」
     「私たち、それならそうと喜んで見送ったのにー……いつからですか?」

     この詰め寄り方も原因の一端ではないかと思いつつ、2人のために場所を譲る。

     「そういえば、結婚相手って!去年独立した!」
     「えー?じゃあ、チーム内恋愛?きゃー!」
     「い、いえ、彼が行ってしまうときにですね……見送りだけのつもりだったんですが、なんというか、つい……」

     より沸き立つ悲鳴に似たきゃあきゃあという声に耳を塞ぎながら、スマートフォンに届いたメッセージを確認する。カフェからだった。
     『絶対に明日までに掃除しておいてください』

     また何か可愛らしい発言が飛び出したのか、旧理科準備室がいっそう賑やかになる。

     「ま、無事カフェの手を煩わせる前に解決できたんだ。ラボを散らかしてまで追い返した意味はあったかな……」
     タキオンはスマートフォンと一緒に左手を白衣のポケットに突っ込んでひとりごちると、虚空と乾杯を交わすように静かにティーカップを傾けた。


    ――part.6「ダブル・アンド・オンリー」おわり

  • 301◆cBeSfn59lQ22/02/11(金) 21:36:52

    副題と似た名前のダービー馬が居たことには書ききった後で気づいた。
    お付き合いありがとうございました。

    レス返ししたいのだけれど、折悪しくWindowsのアップデートが始まってガックガクなので、少しお時間いただきます

  • 31二次元好きの匿名さん22/02/11(金) 21:41:40

    part6?part1~5までもあるの?

  • 32二次元好きの匿名さん22/02/11(金) 21:51:37

    あ、シンプルに早めに切り上げたのか
    時計もずらしてたのかとおもった

  • 33二次元好きの匿名さん22/02/11(金) 21:52:27

    まだ読んでないけど岸辺露伴は動かないっぽくて面白そう お気に入り登録ポチー

  • 341◆cBeSfn59lQ22/02/11(金) 22:51:27

    と、いうわけで今回は原点回帰を目指してシンプルにした回でした。

    各々推理していただけたみたいで嬉しいです。


    >​>23

    ほぼ正解です。お見事でした!


    >​>15,24

    蛍光色の薬品は>​>3(2/14)で「放課後には戻る」と言われていたカフェが、放課後のシーンである>​>10(9/14)でも姿を見せない理由付け、動機は最後の最後に語られる、という地味に平行して起こっていたもう一つの事件(?)でした。

  • 351◆cBeSfn59lQ22/02/11(金) 22:53:42

    >​>31

    新規読者様だ!囲め!!


    part.1~5はこちらです!

    (2/11現在「怪奇事件」で過去スレ検索するときれいに抽出できます)


    「カフェとタキオンが怪奇事件の相談を受ける話」シリーズ

    【SS】カフェとタキオンが怪奇事件の相談を受ける話|あにまん掲示板※長いですが、書き溜めてあるので一気に投下します。bbs.animanch.com
    【SS】カフェとタキオンが怪奇事件の相談を受けて最終的にタキオンが泣く話|あにまん掲示板※すごい長いですが、書き溜めはしてあります。よろしければお付き合いください。bbs.animanch.com
    【SS】カフェが怪奇事件の相談を受ける話|あにまん掲示板少し長いですが、よろしければお付き合いください。https://bbs.animanch.com/img/148443/865bbs.animanch.com
    【SS】カフェとタキオンが怪奇事件の相談を受けて温泉に入る話【ウマ娘×ミステリ】|あにまん掲示板※ 事件編 / 解決編 に分けて時間差投稿します。※ 9,000字 / 6000字 くらいありますがよろしければお付き合い下さい。https://bbs.animanch.com/img/243226…bbs.animanch.com
    【SS】カフェとタキオンが怪奇事件の相談を受けた裏で頑張る話【ウマ娘×ミステリ】|あにまん掲示板※事件編 / 解決編 に分けて時間差投稿します。※今回から行間を空けるようにした結果、これまでより分割数が多いですがご容赦ください。bbs.animanch.com
  • 36二次元好きの匿名さん22/02/11(金) 23:59:07

    >>35

    わざわざリンクまでありがとう

    今日はもう遅いから明日読んでみるよ!

    ところでスレ主が安価出来てないのはバグなのか何なのか

  • 37二次元好きの匿名さん22/02/12(土) 10:52:33

    >>36

    読んでいただきありがとうございます!


    アンカーからネタバレにならないよう、不等号の間に見えない文字を挟んで意図的に切ってます。

  • 38二次元好きの匿名さん22/02/12(土) 10:57:58

    続き来てたか
    完全に考えすぎてドツボにはまりましたね…

  • 39二次元好きの匿名さん22/02/12(土) 21:37:28
  • 40二次元好きの匿名さん22/02/12(土) 21:38:20

    すっげ………

  • 41二次元好きの匿名さん22/02/12(土) 21:40:13

    >>38

    推理しながら読んでいただき、ありがとうございます!

    シリーズ通して見ると今回急に易しくなりますからね……

  • 42二次元好きの匿名さん22/02/12(土) 21:49:04

    このシリーズはいいぞ
    みんなも読むんだ

  • 43二次元好きの匿名さん22/02/13(日) 03:13:36

    >>21

    これすき

  • 44二次元好きの匿名さん22/02/13(日) 11:29:56
  • 45二次元好きの匿名さん22/02/13(日) 20:31:58

オススメ

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